第 24 回 高齢者見守り講座 実施のポイント 取材協力:公益社団法人 全国消費生活相談員協会 消費生活相談員 鈴木 伸子 山本加代子 このコーナーでは、消費者教育の実践事例を紹介します。 判断力が不十分な高齢者等を消費者トラブル 合、利用する高齢者の要介護度とともに提供し から守るため、地域に見守りネットワークを構 ているサービスはデイサービスか在宅支援か、 築し関係機関との連携を図ることが求められて また、ホームヘルパーが対象の講座であれば、 います。消費生活センターはこのネットワーク 利用者に提供する介護サービスは家事支援か身 機関の1つであり、消費者教育の拠点としての 体介護かまで聞き取ります。ここまで入念に情 役割を担っています*1。民生委員、介護事業者 報収集を行う理由は、講座で紹介する消費者ト など見守りの活動に従事する関係者 (以下、見 ラブルの事例や、 見守る人が高齢者の被害に「気 守り関係者)のみならず、地域の元気な高齢者 づき」 消費生活センター等の関係機関に 「つなぐ」 にも見守りに参加してもらう取り組みが始まり、 までのポイントがまったく違ってくるからです。 消費者教育はますます重要性を増しています。 また、見守りネットワークの中核である地域 包括支援センターが主催する場合は、 民生委員、 高齢者等の見守り関係者向けの講座を担当し ている消費生活相談員に、相談員ならではの視 介護事業所、元気な高齢者、高齢者の家族など 点を生かした、講座の準備から展開方法などの 受講者が多様なケースもあります。内容につい ポイントを伺いました。 ては、 どこに対象を絞るかを主催者に尋ねます。 自治体により組織のしくみや名称が違うので、 成否の鍵を握る事前準備 自治体のホームページやパンフレットなどを見 ● 受講者についての情報収集 て、講座の趣旨や対象など募集内容を確認しま 講師を依頼されるとまず、時間、会場、設備・ す。それが分かれば講座の組み立てや用いる手 機器等のほか受講者の特性、講座のテーマなど 法も決まります。単発でなくシリーズのなかの を主催者から聞き取ります。主催者はどのよう 講座であれば、重ならないように内容の棲み分 な団体か、どのような人たちを対象にどのよう けを考え、毎年開催しているところでは、内容 なテーマで行うのか、 綿密に情報を収集します。 をアレンジし飽きさせないように工夫します。 す ● 受講者の疑問や関心を知る 元気な高齢者や高齢者の家族が講座を受講す るのであれば、見守りの対象になる高齢者の要 講座でどのようなことを知りたいのか主催者 介護度や、住まいは戸建てと集合住宅のどちら を通して受講者に聞き、実際にトラブルにあっ が多いかなど地域の特性を調べます。 た高齢者がいれば、講座の中で体験を話しても 受講者が介護事業所に勤務する人たちの場 らうように打ち合わせておきます。そうするこ とで身近にあるトラブルを知り、高齢者が消費 *1 改正消費者安全法11条の3〜6、消費者教育推進法13 条 ウェブ版 「国民生活」2014 年5月号 http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201405_06.pdf 者トラブルにあったときに見守る人が適切に関 われるように講座で考えてもらうのです。 2016.1 国民生活 27 講座を組み立てる 講座実施のポイント ● 講座を楽しむ ● 体験型・参加型に まず、クイズやゲームで受講者の興味を引き 講師が楽しめないと受講者も楽しめないので ます。事前に聞き取った質問などをもとに、 ロー 準備段階から楽しく進めています。受講者が飽 ルプレイングやワークショップを組み込んで、 きないように講座の流れに緩急をつけ、固い内 トラブルにあった状況をイメージし、どう対処 容でも楽しめるような工夫をします。 するかを話し合ってもらいます。講師が一方的 ● 分かりやすい講座をめざす に話すのではなく受講者が参加する双方向の関 何をどう分かりやすく伝えるかプランニング わりのなかで、消費者問題に関する知識と判断 シートなどを作成し、実演の演目とねらいが 力が養われます。ロールプレイングの演者は事 マッチしているか内容を練り、例え話を交える 前に決めておき、グループワークの場合はグ など、 できるだけ具体的な説明を入れています。 ループ別に着席してもらうなど主催者と事前に ● 終了時刻は必ず守る 打ち合わせておくとスムーズに進みます。 時間切れにならないように最初に消費生活セ ● 事例は実際に受けた相談をヒントに ンターを紹介し、最後に時間があればもう一度 センターに触れます。受講者の質問等が長く 講座のなかで取り上げる事例は、日頃受けて いる相談がヒントになります。どういう相談が なったら、 講師や進行役がいったん終わりにし、 多いかはつぶさに知っているので、公表された 終了後に個別に対応するように努めています。 パンフレットや注意喚起されている事例を織り ● 講座を振り返る 交ぜながら、受講者が関心を持てるようにしま 企画、レジュメを入念に準備していると自分 す。契約までの経緯や問題点を念頭に置き、相談 の足りない点が分かり、 毎回反省点があります。 を受けたらどのように解決に結び付けるか解決 また、主催者の取ったアンケートを見ると改め 方法を紹介すると、受講者の表情が真剣になり て気づかされるところがあり、 次に生かせます。 ます。最近はマイナンバー、国勢調査などの時事 どこで講座を行っても、消費生活センターを ネタ、自然災害にまつわるリフォーム工事の点 知らない人はほとんどいなくなりました。ただ、 検商法や損害保険などの関心が高いようです。 何をしているところなのか具体的に知っている 人は少なく、なかには消費者トラブ 導 入 展 開 まとめ 表 ルの相談を有料だと思っている人も 講義の内容 留意点 あいさつ、テーマを説明、配布資 料を確認、消費生活センターの役 割や消費生活相談員の仕事、電話 番号などを紹介 講座の目的を明確にし、テーマや全体の流 れを説明 ゲームやクイズ、ロールプレイを 通して高齢者被害が潜在化しない ように見守ることの必要性やトラ ブル事例を分かりやすく紹介 冷静に判断できない状況に陥り、被害にあ う場合があることを感じてもらう。高齢者 の被害を身近に感じてもらう。参加型・体 験型にする。クーリング・オフの説明 ワークショップなどの参加型で 「気づき」 「 声かけ」 「 つなぎ方」を 説明 チェックシートやフローチャートの資料*2 を利用し 「気づき」 「 つなぐ」ことの重要性を 伝える。 「声かけ」のポイント、関係機関へ のつなぎ方を説明 講座内容を振り返り、ポイントを 強調。消費生活センターの連絡先 を再確認 「声かけ」につながるように消費生活セン ターの場所や連絡先だけでなく、どのよう な相談ができるのか、相談することで助言 やあっせんによるトラブル解決に結び付く ことなどセンターの役割を具体的に説明 高齢者見守り講座の組み立て例 います。 高齢者等の消費者トラブルを防ぐ ために地域の住民、行政、福祉、事業 所等の連携が求められていますが、 まだ始まったばかりです。相談員が 講師を務めることにより消費生活セ ンターの認知度を上げ、関係機関へ のつなぎ方を具体的に伝えることで 連携を進める一助になればと、日々 講座に取り組んでいます。 (文責:国民生活センター広報部) *2 公益社団法人 全国消費生活相談員協会 ブックレット 「みんなで見守り 気づいてつなごう!」 2016.1 国民生活 28
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