線形のクールノー=モデルのナッシュ均衡 1 モデルの説明 x1 , x2 , . . . , xn : 各企業の産出量 すべての企業 i = 1, 2, . . . , n は、産出量 xi ≥ 0 を選ぶ。産出量は、0 または正である。 C(x) = c · x: 費用関数 産出量 x に対する費用をあらわす。 各企業が同じ費用関数に直面し、費用は産出量に比例するというのが、ここでの想定で ある。 P (X) = max{a − bX, 0}: 逆需要関数 市場全体の供給量 X をちょうど売り切る価格をあら わす。 供給量 X は各企業の産出量の和、X = x1 + x2 + · · · + xn で決まる。 max{a − bX, 0} は、a − bX と 0 を比べたときの大きい方の値を意味する。たとえば、X が十分大きければ、a − bX < 0 となるがこのとき P (X) = 0 であり、P (X) ̸= a − bX である。 a > c, b > 0, c > 0 b > 0 は、ある範囲では、供給量が多くなるほど市場価格が下がることを意味する。 c > 0 は産出量が多くなるほど費用が増大することを意味する。 a > c は、十分に産出量が少なければ、市場価格はコストを上回る事を意味している。 xi (P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c) : 第 i 企業の利潤 収入から費用を引いた差である。 産出量を 0 にしたときには、利潤は 0 になる。 P (x1 + x2 + · · · + xn ) < c かつ xi > 0 のときは利潤はマイナスになる。 1 ここでの方針 2 2.1 省略の少ない議論 論証とは「分かっていること」を積み重ねて結論を得る行為である。では、 「分かっているこ と」とは、何か。それをはっきりさせることは、公理化と呼ばれる手段で一応はできる。し かし、ここではそれは行わない。論証を追うとは、論証の一歩一歩が、確かに「分かってい ること」で構成されていることを確認することである。 ここでは、できるだけ論証を省略をせずに Nash 均衡を求めることにする。多くのテキス トには省略した求め方が掲載されている。読み手と書き手の了解事項が多い場合、簡単な部 分について相手を信頼出来る場合、数学の議論は省略可能である。省略できることは数学に とっては本質的なものであるが、意識せずに「分かったふり」をしてしまい間違った論証を 行うという落とし穴がある。省略の少ない議論の良い所は、正確な理解が得られることであ るが、欠点は議論が長くなることである。 2.2 コツ 以下の議論を読むための第一のコツは、「場合わけ」に注意することである。議論の全体は、 (x1 , x2 , . . . , x2 ) の様々な場合を考えて、特定の場合をのぞいて (x1 , x2 , . . . , x2 ) がナッシュ均 衡にならないことを論証していく。常に、いま「どの場合」を考えているのかについて、意 識を向ける必要がある。 第二のコツは、 (a) 少なくとも一つの企業について成立していることと、 (b) 全ての企業について成立していることとを 意識して、区別することである。どちらの場合も「企業 i」が登場するが、 (a) 少なくとも一つの企業 i について、 (b) 全ての企業 i = 1, 2, . . . , n について、 などという表現で、区別できるであろう。 2 3 P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c ≤ 0 の場合 P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c ≤ 0 だとしよう。このとき、少なくとも一つの企業 i について、 xi > 0 である。なぜなら、x1 = 0, x2 = 0, . . . , xn = 0 ならば、 P (x1 + x2 + · · · + xn ) =P (0) = max{a − b · 0, 0} =a >c となるからである。最後の不等式はあらかじめ与えた仮定 a > c である。 3.1 P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c < 0 の場合 P (x1 +x2 +· · ·+xn )−c < 0 だとしよう。上の議論より、このとき、少なくとも一つの企業 i につ いて、xi > 0 である。このとき、xi > 0 となる企業 i の利潤は xi (P (x1 +x2 +· · ·+xn )−c) < 0 となって、マイナスである。しかし、生産量を自分だけ xi から 0 に変化させれば、利潤を マイナスから 0 へ増加させることができる。 したがって、P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c < 0 であるとき、(x1 , x2 , . . . , xn ) は Nash 均衡では ない。 3.2 P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c = 0 の場合 P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c = 0 であるとしよう。 P (x1 + x2 + · · · + xn ) = a − b(x1 + x2 + · · · + xn ) であることがわかる。なぜなら、P (x1 + x2 + · · · + xn ) = c > 0 であるから、P (x1 + x2 + · · · + xn ) = 0 となる可能性がのぞかれるのである。上の議論より、このとき、少なくとも一 つの企業 i について、xi > 0 である。この企業 i の利潤はゼロである。自分だけ生産量を xi から yi > 0 に下げることで、価格を増加させることができる。このとき利潤はプラスに転じ る。 したがって、P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c = 0 のとき、(x1 , x2 , . . . , xn ) は Nash 均衡ではない。 3 4 P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c > 0 の場合 P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c > 0 であるとしよう。このとき、P (x1 + x2 + · · · + xn ) ≥ c > 0 で あるから、P (x1 + x2 + · · · + xn ) = 0 となる可能性がのぞかれる。したがって、すべての企 業 i = 1, 2, . . . , n の利潤は、 xi (P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c) = xi (a − c − b(x1 + x2 + · · · + xn )) = xi (a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn ) − bxi ) である。 4.1 少なくとも一つの企業 i について xi = 0 の場合 さらに、少なくとも一つの企業 i について、xi = 0 であるとしよう。この企業の利潤は 0 で ある。しかし、P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c = a − b(x1 + x2 + · · · + xn ) > 0 であることより十 分小さな数 yi > 0 に生産量を変化させると、 P (x1 + x2 + · · · + xi−1 + yi + xi+1 + · · · + xn ) − c = a − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + yi + xi+1 + · · · + xn ) − c > 0 となって、利潤を yi (P (x1 + x2 + · · · + xi−1 + yi + xi+1 + · · · + xn ) − c) > 0 とすることが できる。したがって、P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c > 0 かつ少なくとも一つの企業 i について xi = 0 のとき Nash 均衡ではない。 4.2 すべての企業 i = 1, 2, . . . , n について、xi > 0 の場合 すべての企業 i = 1, 2, . . . , n について、xi > 0 であるとするならば利潤は正である。利潤は xi (P (x1 + x2 + · · · + xn ) − c) = xi (a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn ) − bxi ) = −bx2i + xi (a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn )) > 0 である。xi を x におきかえて、x を変数とする関数 y を考えよう。 y = x(a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn ) − bx) 4 この関数は 2 次関数である。そのグラフは、放物線の一部である。x に 0 を代入すると、y の 値は 0 である。したがって、この放物線は原点 (0, 0) を通る。また、x2 の係数 −b は、負の 数であるから、この放物線は上に凸となることがわかる。したがって、このことから次の 3 つの可能性が存在する。 (1) (3) (2) x = xi > 0 において正になることから、(3) の場合に限られることがわかる。このとき、 放物線は x = (a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn ))/b で、x 軸と交わることが わかる。 少なくとも一つの企業 i について、x = xi > 0 においてこの放物線の頂点になっていな ければ、頂点をとるような生産量に変更することによって、利潤を増加させることができる。 したがって、少なくとも一つの企業 i について、x = xi > 0 においてこの放物線の頂点になっ ていなければ、Nash 均衡ではない。 すべての企業 i = 1, 2, . . . , n について、x = xi > 0 においてこの放物線の頂点になって いるとしよう。この放物線は、その軸に対して、対象な図形であるから、 x = a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn ) と x = 0 の中点 x = (a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn )) /2 において頂点とることがわかる。 したがって、すべての企業 i = 1, 2, . . . , n について、 bxi = (a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn )) /2 2bxi = a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi+1 + · · · + xn ) bxi = a − c − b(x1 + x2 + · · · + xi−1 + xi + xi+1 + · · · + xn ) 5 が成立する。すなわち、 bx1 = a − c − b(x1 + x2 + · · · + xn ) bx2 = a − c − b(x1 + x2 + · · · + xn ) ... bxn = a − c − b(x1 + x2 + · · · + xn ) 右辺はすべて等しいから左辺もすべて等しい。b > 0 であるから、x1 = x2 = · · · = xn で ある。 bx1 = a − c − b(x1 + x1 + · · · + x1 + · · · + x1 ) bx1 = a − c − nbx1 (n + 1)bx1 = a − c x1 = a−c (n + 1)b 整理のため X = x1 + x2 + · · · + xk + · · · + xn とおくと、 X= n(a − c) n a−c = · (n + 1)b n+1 b 一方、市場価格は、 P (X) − c = max{a − bX, 0} − c = max{a − = max{ = n · (a − c) − c, −c} n+1 1 · (a − c), −c} n+1 1 · (a − c) > 0 n+1 となる。 a−c 最後に、すべての企業の生産量が、 (n+1)b であるとき、これが Nash 均衡であることを 示す。 他の企業の生産量がそれぞれ a−c (n + 1)b であり自分の生産量が x であるとき、利潤は、 x(P (x + (n − 1)(a − c) ) − c) (n + 1)b 6 である。市場価格が 0 にならないように x を選ぶと利潤は、 x(P (x + 2(a − c) (n − 1)(a − c) ) − c) = x( − bx) (n + 1)b (n + 1) である。グラフは、(3) のようになる。したがって、この範囲では x = a−c (n+1)b のとき最大値 (a − c)2 >0 (n + 1)2 b をとる。したがって、市場価格が 0 にならない範囲に自分だけ生産量を変化させて自分の利 潤を大きくすることは出来ない。 一方、市場価格が 0 になるように x を選ぶと利潤は正にはならないから、市場価格が 0 になる範囲に自分だけ生産量を変化させて自分の利潤を大きくすることは出来ない。 a−c したがって、すべての企業の生産量が、 (n+1)b であるとき、これが Nash 均衡である。 7
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