Title JA全国監査機構への期待 Author(s) - Barrel

Title
JA全国監査機構への期待
Author(s)
Citation
月刊JA (2013), 59(8): 30-35
Issue Date
URL
多木, 誠一郎
2013-08
http://hdl.handle.net/10252/5183
Rights
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Barrel - Otaru University of Commerce Academic Collections
JA全国監査機構への
期待
たき・せいいちろう
昭和4
4
年兵庫県生まれ。平成
3年東北大学法学部卒業後、
多木誠一郎
J A全 中 入 会 (
7年退職)。
12
年神戸市外国語大学大学院
外国語学研究科博士課程修了。
21年から現職。専門は日独韓
の協同組合法。近著に『農業
協同組合法j(JA全中)。連
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(小樽商科大学教授)
はじめに
やもしれないが一一一中央会監査について普段
考えていることを本稿で記してみる。テーマ
平成 14年 4月 ] A全国監査機構(以下、
に即していうと、中央会監査に期待するがゆ
「監査機構」と略称する 0
)が全国農業協同
えに改善の余地があると考える事項につい
組合中央会(以下、「全国中央会」と略称す
て、より一層充実させるための方向性を提示
1年が経過した。農業協
る。)に設置されて 1
する (2章 '
"
'
'
4章)。その前提として、中央
同組合法に中央会監査についての定めが設け
会監査の存在意義について確認することから
られたのが昭和 29年であり、それから数える
)
。
まず始めよう(1章
と、中央会監査は来年還暦を迎える。
私的な話であるが、筆者は平成 3年から平
成 6年まで中央会監査に従事した。このよう
中央会厳査の存在意義
な経験も手伝い、私は大学で研究を始めた当
初中央会監査を研究対象にした。その際の問
わが国におけるように協同組合(の一部)
題意識は、中央会監査には存在意義は認めら
に中央会監査が法律によって強制されている
れるのか、中央会監査を外部監査と位置付け
のは、主要国ではドイツ・韓国注 1のみではな
た上で、その充実を図るためには、どのよう
条、韓農協 146
条)。それ
かろうか(ド協 53
な方向性が望ましいのかという点にあった。
以外の国では、他の事業組織におけるのと異
監査機構の設置を機に、中央会監査は質・量
なるところはなく、公認会計士・監査法人が
ともに絶えず充実しているようであり、上記
外部監査を担っていると推測される。このよ
問題意識のもとで研究を始めた筆者としては
うな状況にあるゆえ、公認会計士監査とは別
一一具体的な充実方策については私見と異な
に中央会監査が農業協同組合(以下では、読
るところがあるものの一一喜ばしいことと
者の皆さんがよりイメージしやすいように
思っている。
]AJ
「農業協同組合」に代え、愛称である r
このところ筆者は、中央会監査の研究から
を用いる 0
)において必要とされる理由が
遠ざ、かっている。この度監査機構ないし中央
明らかにされなければならないであろう
会監査への期待というテーマをいただいたの
央会監査の充実の方向性も、当然のことなが
を機に、一一「浦島太郎」との誹りを受ける
ら中央会監査の存在意義に合致するものでな
30
│叫
O
中
ければならない。
2 外見的独立性
私見によると JA内部の監督には、一般に
種々の問題点を指摘しえ、そこに「監督の真
監査主体である全国中央会が監査対象 JA
空状態」ないし「監督の空白」とでもいうべ
から外見的独立性(以下、たんに「独立性」
き状態が生じうる。そこで JAが社会的に信
という。)を維持していることが公認会計士
頼できない団体になるのを防ぐべく JA内部
監査におけるのと同様、中央会監査でも要求
の監督の不備を補完し、監督の真空状態を埋
される。
め合わせる必要性が生じる。このような必要
監査機構設置前には、監査に従事する農業
性は、 JAの外部に位置する者による監査に
協同組合監査士(以下、「監査士」と略称す
よって充たしうる。その際に行政庁検査によ
る0
)の独立性については議論されていた
る埋め合わせも考えられる。しかし行政庁検
が、監査主体である中央会の独立性について
査に全面的に委ねるのは、 JAの自治という
はほとんど議論されていなかった。中央会役
観点から疑問が呈せられる。外部監査の主要
員がその役員を兼職する
な形態である公認会計士監査による埋め合わ
は独立性を本来的に喪失しているという考え
せも考えられる。公認会計士監査は会計監査
方があったからであろう
である(会計士 2条 1項・ 34条の 5柱書)。
は監査機構の設置によって完全に過去のもの
埋め合わせが必要とされるのは、会計監査の
になった。この点は、監査機構設置の目的の
みならず業務監査についてもである。それゆ
一つが、中央会監査の独立性の維持・強化に
え公認会計士監査には全面的に委ねることは
ある点からも窺える注3。公認会計士監査で
できない。これに対し JAの連合組織たる中
も、公認会計士・監査法人が監査対象企業か
央会による監査は、 JAの特質に配慮した自
ら監査報酬を受けているという関係が独立性
治監査である。会計のみならず組織・運営に
に否定的影響を与えているのは否めないが、
まで及ぶ広範な監査を(全面監査)、相関関
同関係を前提にして独立性の強化が模索され
係にあるその他の助言・指導事業と連携しな
続けている。つまり独立性については、完全
がら適切に行いうる。この点に中央会監査の
性を要求しえず、適切性を要求できるにすぎ
存在意義を認めうるのである(注1)。
ない。この点を踏まえた上で中央会監査につ
JA~こ対する監査で
O
このような考え方
いても、独立性の維持・強化が要求されるの
注 韓 国 で は 、 資 産 総 額 500
億ウォン以上の組合は、
中央会監査とは別に監査法人等による会計監査
条の 2第 1
項
)
。
も受けなければならない(韓農協 65
詳しくは、拙稿「韓国農業協同組合法についての
号 32-33
覚書」神戸市外国語大学外国学研究第 80
頁(平成 24
年)参照。
注 2 :拙著『協同組合における外部監査の研究~ (全国協
7
年) 59
頁
。
同出版、平成 1
である。
一般的にいうと、監査機構の設置によって
全国中央会が統一的に監査主体になることで
独立性が高まったといえよう
O
この点のみで
も大きな前進であるが、もう一歩先を考えて
問
31
みよう。監査対象 ]Aの役員が全国中央会の
照)注4、すなわち監査から排除されるのであ
役員を兼職している場合については、独立性
る。この規定は、 2006年協同組合法改正に
に対する疑念は解消されず、に残っているので
よって削除されたものの、削除理由や削除後
はなかろうか。このようにいうと、次のよう
の法的状況について詳細に検討することは、
な反論がなされるやもしれない。監査事業に
わが中央会監査の独立性について一層深く吟
ついては、監査対象 ] Aと利害関係のない監
味する契機にもなるであろう O
査委員長(全国中央会理事)が業務を掌理
し、対外的にも全国中央会を代表する制度設
計になっているので(全国中央会定款 20条 3
項・ 24条 3項)、監査対象]Aの役員が全国
中央会役員であったとしても監査事業に影響
注 3 :森田松太郎監修1JA の監査60問 60答~ (全国協
9年) 5
1頁、全国中央会編『監査の
同出版、平成 1
理論と JA の監査実務~ (同会、第8
版、平成 25
年)
158
頁
。
注 4:拙稿「農業協同組合中央会監査についての若干の
考察」協同組合奨励研究報告第 24輯 1
3
1頁(平成
10
年
)
。
力を行使するおそれはない、と。しかし農業
協同組合法によると、会長の代表権は包括的
7
3条の 3
5
)。また会長・副会長・理
である (
3 一般監査
事の代表権を定款の定めによって制限したと
7
3
条
しても、善意の第三者に対抗できない (
監査機構が設置された平成 1
4年 4月はペイ
→72条の 12の 4)。少なくとも社会一般
の37
オフ制度が導入された時期である。このよう
からみると、会長・副会長・理事が監査事業
な状況で監査機構に当初から期待されている
に影響力を及ぼ、しうると思っても無理からぬ
のは、金融機関としての ] Aに対する決算証
ところもある。独立性に対するこのようなマ
明監査、つまり会計を対象とする財務諸表等
イナスイメージは自治法規で如何に定めても
監査(全国中央会監査規程 2条 1項)であろ
軽減し難いのではなかろうか。してみれば現
う。時代の要請ゆえ無理からぬところもある
行定款の内容に沿って農業協同組合法上も、
が、会計のみならず業務(組織・運営)をも
監査事業についての代表権をその業務を掌理
対象にする一般監査(同監査規程 2条 2項)
する理事(監査委員長)に集中させるという
をより充実させるべきではなかろうか。
方向性も考えられよう O
とりわけ ] Aの金融機関としての側面に照
独立性について考えるに際しては、中央会
条 l項)に信頼性を
らせば、決算書類(則 37
監査の源流であるドイツ協同組合法上の中央
付与すべく行われる財務諸表等監査の重要性
会監査も示唆を与えてくれよう。わが国に即
は今後も否定しえないが、さりとて一般監査
して述べると、全国中央会の理事が監査対象
は中央会監査の存在意義に関わる重要性を有
] Aの理事又は監事である場合には、全国中
しているといえる(キ 1章)。すなわちその
条 1項参
央会の監査権は休止する(ド協旧 56
他の助言・指導事業と連携した一般監査注5を
32
│叩
通じて ]Aの健全な発達を図ることは、中央
以上の点に鑑みると、財務諸表等監査のみ
会監査の存在意義に、ひいては中央会の目
ならず一般監査の充実もより一層考慮されて
的にも合致する (
7
3条の 1
5
)。より直裁にい
もよいのではないか。そうすると全国中央会
うと、一般監査を重視しないのであれば、中
が引き続き ] Aの外部監査を担っていくべき
央会監査の存在意義は著しく低下するであろ
であるという考え方も、説得性が増すであろ
う。財務諸表等監査のみであれば、公認会計
つ
。
士・監査法人を監査主体とすることも私見に
よると十分に説得的である。公認会計士は会
計監査の専門家であり、会計監査については
監査士より専門的能力が高い。 ]Aとともに
協同組織金融機関と称される信用組合・信用
注 5 :助言事業と監査事業者E同時提供すると、いわゆる
自己監査となり、独立性が維持できないのではな
いかという疑問も生じうる。このような疑問につ
いてドイツでは判例・学説で既に議論されており、
わが国にとっても示唆的である (
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即時)。
金庫・労働金庫の外部監査の対象は、決算書
類のうち会計に関する部分のみであり、現行
法では公認会計士・監査法人が監査主体であ
4 品質管理
る(協組金融 5条の 8 ・5条の 9、信金38条
条の 3、労金41条の 2 ・41条の 3)。
の 2 ・38
監査に対する社会からの信頼在確保するに
素直に考えると ] Aの財務諸表等監査の監査
は、監査について適切な品質官理が行われる
主体も公認会計士・監査法人でよいというこ
ことにより、一定水準以上の監査の質が監査
とにもなるであろう。確かに全国中央会によ
主体において常に確保されていることが必要
る財務諸表等監査では決算書類に記載される
である。わが公認会計士監査では、一定水準
べき範囲で、限定的であるにせよ業務も監査
以上の監査の質を確保すべく監査事務所内部
対象とされている点で(則 148条 1項 4号
)
、
で品質管理が行われ、その状況を、日本公認
公認会計士・監査法人が他の協同組織金融機
会計士協会に加えて公認会計士・監査審査会
関について行う監査と異なる。しかし近時公
6
条の 9の
が更に二重に監督する(会計士 4
認会計士監査でも期待ギャップを埋め合わせ
2・49条の 4第 1項・ 2項、同協会会則 122
るべく、会計のみならず、その背後にある実
条 1項
)
。
態たる業務そのものにもより一層関わるよう
監査の質の確保は、 ] Aの外部監査を担う
になってきている。そうすると会計のみなら
中央会監査でも求められる。中央会監査にお
ず業務も一部監査対象であるため、中央会監
いても、監査事務所に相当する監査機構の内
査は公認会計士監査に取って代わることはで
部における品質管理は、公認会計士監査に準
きないといっても、説得性を持ちうるであろ
拠して定められている「監査基準」・「監査
うか。
に関する品質管理基準 J (全国中央会平成
T13l33
1
8年 8月 8日)によっており、少なくとも公
終わりに
認会計士監査と同等性の観点からは問題とす
べき点はないように思われる。
本稿では中央会監査をより一層充実させる
次の段階として中央会監査に求められるの
ために普段考えている方向性を、紙幅の許す
は、監査機構(全国中央会)の外部に位置す
範囲で提示した。本文の執筆を終えて見返し
る者による「品質管理に対する監督」ではな
てみると、既稿で提示したことの焼直しの感
かろうか。品質管理に対する外部者による監
も否めなく注7、読者の皆さんを失望させるや
督は、
公認会計士監査における議論に鑑
もしれない。これまで提示してきたことが実
みても一一監査の質を一定水準以上に確保す
務的にみて①奇想天外で、一笑に付されるべ
るのに有用であろう O
きことなのか、②検討の余地があるが、その
ドイツ協同組合法では外部者による監督と
実現が容易ではないゆえに、検討がなされて
して、品質管理審査が義務付けられている
こなかったのか、そのいずれであるのかは筆
3e条 -63g条)。審査システム設計
(ド、協 6
者には判断できない。ただ一つ確かなこと
に際しての基本的な観点は、協同組合監査制
は、政府主催の規制改革関連の会議の場で近
度の特殊性を考慮しながらも、公認会計士監
時継続的になされてきている中央会監査に対
査におけるのと同等のものにするということ
する批判は、今後とも再燃しうるということ
である。このような観点から、公認会計士会
である。してみれば中央会監査の存在意義に
議所が運営する品質管理審査システムに、中
立ち返り、それに合致した充実の方向性老絶
央会も組み込まれている。これにより公認会
えず、探っていくことが要求されよう
計士監査と同じ枠組みで審査がなされ、協同
記した内容がその際の一助になれば幸いであ
組合独自の品質管理審査システムを設置する
る
。
O
本稿で
場合に比べて、社会に対する透明性もより増
最後にいわば事務的レベルで実際界に望む
している。わが中央会監査においても、公認
ことを記して、本稿を締めくくることにしよ
会計士監査におけるのと同等の水準を確保す
うO 本稿を執筆するに際して参考になる情報
るための枠組みを設計するのに際し、「特殊
を求めようとしたが、一般の学術情報入手
性に配慮しつつ同等性を確保する」という観
ルートを通じてはほとんど手に入れることが
点からなされているドイツにおける品質管理
できなかった。実際界に直接アクセスして話
審査は示唆に富む断。
を伺ったり、実務上の情報を手に入れること
ができたに過ぎない。仮に「公認会計士監査
注 6 :拙稿「ドイツ協同組合監査団体に対する品質管理
審査についての覚書」神戸市外国語大学外国学研
究第 70
号1
9頁(平成 20
年
)
。
への期待」というテーマであれば、目を通し
きれないほどの情報に容易に接することに
なったであろう O 主要な外部監査が公認会計
.
"
34
月刊 )A
2013/08
士監査であり、専門の研究者が数多くいるた
研究のためのプラットホームの役割をも果た
め、もっともなことである。この点在差し引
7
3条の 22第 1項 5号)、大学研究者・実
し(
いたとしても中央会監査についての情報が少
務家が集う研究会を組織しては如何であろう
なすぎるのではなかろうか。二つの側面から
か。その成果については、監査機構のこれか
充実が望まれる。
0
年、すなわち設置 20
年を記念して論文
らの 1
一つは実務情報についてである。中央会監
査が社会からより一層信頼される存在になる
集を編んで、それに結実させるというのは期
待し過ぎであろうか。
ためには、中央会監査について社会が知って
いることが前提となる。そのためには誰でも
容易にアクセスできる情報が豊富に提供され
ている必要がある。そうでなければ、社会一
般の手の届かないところで中央会監査がいわ
ばこそこそとなされているという印象を社会
に与えかねないであろう
O
それゆえこのよう
な必要性に応えて監査機構は、一一守秘義務
注 7 :前掲拙稿に加え、とりわけ拙稿 IJA監査のあり
方について」農業と経済第 68
巻第5号 107
頁(平成
1
4年
)
。
<法令名略語>
※法令名を示さずに記した条文は、農業協同組合法の条
文を表す。
※下記以外のものは、有斐関版『六法全書』巻末の「法令
名略語」に掲げられた表示方法による。
則農業協同組合法施行規則/韓農協韓国農業協同
組合法/ド協 ドイツ協同組合法/ド会計士 ドイツ
公認会計士法
)一 一 紙 媒 体
に反しない範囲で(101条の 3
やインターネットで社会一般に向けて中央会
監査を紹介する情報発信を強化すべきではな
かろうか。
他の一つは学術研究についてである。実務
が発展していくと、それが研究の対象になり
そじよう
分析の姐上に載せられるのは洋の東西を問わ
ないはずである。本稿でも度々登場したドイ
ツでは、
公認会計士監査に関する文献に
は遠く及ばないが
大学研究者・実務家が
執筆した中央会監査についての研究成果が着
実に公表され続けている。中央会監査の充実
を図る上で、中央会監査独自の理論的裏付け
が必要になる場合も少なからずあろう O 残念
ながら学術研究の府である大学で、中央会監
査を本格的に研究する何らかの組織を立ち上
げるのは現実的でない。それゆえ監査機構が
う
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