テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在ゲート編 ID

テンプレ…まじで?
(リメイクしてみた) ※現在ゲート編
onekou
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
気づけばゲームで使用していた自キャラになっていた俺は、神様転生なんていうテン
プレでチートを貰ってしまった。
チートだけど幼女じゃなきゃダメだったの
?
ただし貰うだけでは済まないのもまたテンプレ。
え、これホントにチート
※注意事項
あのあの⋮、幼女のマスターも幼女なんですけど⋮。
ともかく俺はよくわからないまま召喚されてしまう。
?
1:この作品は多数の地雷がありますので、苦手な方はご注意のほどよろしくお願い
いたします。
2:この作品は某二次小説サイトの方でもkouという名で書かせていただいていた
作品のリメイクで、
﹃PSPo2︵ファンタシースターポータブル2︶﹄というPSP用
ゲームソフトの設定をベースにプラスアルファで能力をもらって世界を回るというの
が主軸のチート物語となっています。
現在元作品は﹃Over The Rainbow∼虹の彼方∼﹄様に置かせていた
だいています。URLはhttp://nijikana.net/index.ph
p/page/kou︳novel01 です。少しでも成長できていれば良いなと
思います。
3:原作名に関して助言を頂きましたので変更しました。
このSSは世界を渡るという設定で書いていますので、ややこしいですが元ネタであ
るPSPo2を使わせて頂いております。渡る世界に関しては規約にあるようにクロ
スオーバー等という括りでタグの方に追加しました。
4:Fate編完結しました。現在ゲート編執筆中です。
5:入れたイラストは﹃stage0:おかえりなさい︵行ってらっしゃい︶﹄の後書
きにあります。
目 次 ﹃s t a g e 5:ち ー と ぱ う あ ー﹄ ﹃stage6:できること、やりたい
﹄ ││
﹄ ﹃s t a g e 1 0:月 下 の 邂 逅﹄ あ、お菓子の話です﹄ │││││
﹃s t a g e 9:ブ ラ ウ ニ ー も 好 き。
市﹄ │││││││││││││
﹃stage8:やぁってきました冬木
!?
﹃Fate/stay night﹄の世
:孔明の罠だった⋮
こと﹄ ││││││││││││
﹃
﹃s t a g e 7:一 気 に 本 編
?
界
﹃s t a g e 1:召 喚 さ れ ま し た﹄ ﹃stage0:チートな転生物語﹄ ﹃stage2:Fate/stay nightの世界﹄ ││││││
﹃stage3:主とサーヴァント﹄ ﹃stage4:アインツベルン城﹄ 60
???
82
93
112
133
29
101
151
1
9
41
52
│
﹃s t a g e 1 8:跳 べ
コ ウ ジ ュ
﹄ │││││││││││││
!
﹄ │││││││││││││
﹃stage19:バーサーカーは見た
!
﹃stage11:白の主従﹄ │
﹃stage12:コウジュのパーフェ
クトチート教室﹄ │││││││
﹃stage13:O☆SHI☆O☆K
I﹄ │││││││││││││
バー
﹃s t a g e 1 4:幼 女 逃 走 中﹄ ﹄ │││││││││
313
ft﹄ │││││││││││
c h t, w o a l l e s s c h l
﹃stage20:In der Na
325
﹄ │││││││││││││
﹃stage21:敵のマスターを発見
344
いどわーくす﹄ ││││││││
﹃stage23:あんりみてっどぶれ
ぶまいそーど﹄ ││││││││
﹃stage22:あいあむざぼーんお
366
﹃s t a g e 1 5:や っ ち ゃ う
サーカー
︵開き直り﹄ │
﹄ ││││││││
﹃stage17:プランB プラン
うがないだろう
﹃stage16:戦争なんさ しょ
!
?
ä
!
176
198
214
244
263
289
381
407
!!
Bはなんだ
?
?
!
!
233
│
﹃s t a g e 2 4:目 指 す モ ノ﹄ ﹄ │││││││││
﹃stage29:狙い撃つぜと言って
ほしくて
るっとゴリッとお見通しだ
﹄ │
!
対 あ と で 後 悔 す る フ ラ グ だ よ ね﹄ ﹃stage33:〝後でやる〟って絶
ないで﹄ │││││││││││
﹃stage32:宝の持ち腐れと言わ
│││││││││││││││
﹃stage31:厨二病は不治の病﹄
582
610
643
﹃s t a g e 2 5:繋 が り︵意 味 深﹄ ﹃s t a g e 2 6:折 り 返 し 地 点﹄ ﹄ │││││││││││
﹃stage27:歓迎しよう 盛大
にな
﹃s t a g e 2 8:衛 宮 家 の 憂 鬱﹄ 503
552
﹃stage34:めでぃあ☆マギカ﹄
│││││││││││││││
﹃stage36:
[゜д゜]ハコモアイ
位でいけるかな⋮あれ⋮﹄ │││
﹃stage35:5000円/グラム
693
721
!
﹃stage30:全部全てスリッとま
?
669
440
467
484
!
528
│
シテ﹄ ││││││││││││
﹃stage37:ジュディス姐さんは
色々とすごかったですね﹄ │││
﹄ │││││
﹃stage38:聖杯って大体ちゃん
と使われないよね
たね
﹄ │││││││││││
﹄ │││││││││
初っからクライマックスだぜ
﹄
﹂だな﹄ ﹃s t a g e 4 5:や っ ぱ こ こ は、﹁最
│││││││││││││││
﹃stage44:思い⋮出した⋮
だろうか
﹃stage43:おわかりいただけた
?
﹃stage48:ハッピーエンド
ター﹄ ││││││││││││
﹃s t a g e 4 7:劇 的 ○ フ ォ ー ○ フ
てなきゃぁダメなんだ﹄ ││││
﹃stage46:なんというか救われ
!!!
﹃stage39:デート・ア・ライブ
的な⋮﹄ │││││││││││
﹃stage40:本来の意味で壁ドン
し た い。突 き 抜 け ち ゃ う だ ろ う け ど﹄ ﹄ ││││││
﹃stage41:なせば大抵なんとか
なる‼ らしい
982
1016
!!
1049
?
761
802
838
868
949
1093
?
﹃stage42:昨日はお楽しみでし
!!
1121
﹄
1146
?
900
│
の世界
ンしました﹄ │││││││││
もいらっしゃるようです﹄ │││
﹃stage8:一狩り行こうぜ
﹃stage9:炎龍は居なかった。良
﹄ ぱり胡麻らしい﹄ │││││││
﹄ │││││││││││
いね
﹃stage2:開けゴマのごまはやっ
﹃stage1:夏の祭典前﹄ │
てらっしゃい︶﹄ ││││││││
﹃stage7:ゴスロリ様は異世界に
﹃stage6:ドラゴンさんがログイ
⋮⋮﹄ ││││││││││││
﹃s t a g e 5:門 を 越 え る と そ こ は
﹄ ││││││││││││
る前に俺が食べられかけた﹄ ││
: i f...﹄ う
│││││││││││││││
﹃s t a g e 5 0
ド‼‼﹄ │││││││││││
﹃stage4:そうだ、異世界へ行こ
1278
1290
1309
1354
﹃stage3:ざぎんでしーすー食べ
1368
!!
﹃stage0:おかえりなさい︵行っ
﹃ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり﹄
?
!
﹃stage49:うん、ハッピーエン
1168
1206
12541241
1265
1336
1222
?
1388
│
﹃stage10:この世全ての食材に
︵ガ タ﹄ 感謝して⋮⋮﹄ ││││││││
﹃s t a g e 1 1:夜 戦
﹃s t a g e 1 6:○ ○ ホ イ ホ イ﹄ 1541
﹃stage18:遅かったな、言葉は
﹃s t a g e 1 5:ハ ナ シ ア イ﹄ ﹃stage14:地球へ﹄ ││
﹃stage21:いやぁ壮絶な戦いで
﹃stage20:俺は悪くねぇ
ド服って⋮⋮
﹄ │││││││
﹃stage15.5:
︵某掲示板での︶
したね。まさに紙一重﹄ ││││
﹄ ハ ナ シ ア イ﹄ ※ 注 掲 示 板 形 式 !!
﹃stage19:メイド服って⋮メイ
1669
1708
1745
1725
!!!
ぜ。ちょろ甘ですね﹄ │││││
んはたいへんでしたね﹄ ││││
│││││││││││││││
﹃stage17:報われない男たち﹄
1627
不要か⋮⋮﹄ │││││││││
﹃stage12:いたりかこうぼうせ
!?
﹃s t a g e 1 3:ち ょ ろ い ぜ。甘 い
1648
1417
14991481
1460
1439
1520
│
﹃stage25:穏やかじゃないです
ね﹄ │││││││││││││
1836
1876
﹃s t a g e 2 6:狂 化 の 行 方﹄ ﹃stage27:一条さん﹄ │
!
﹄ │││
1895
﹃s t a g e 2 8:己 の タ ー ン っ
て、もう終わりかよぅ
!!
﹃stage29:それぞれの行方﹄ 1918
﹃s t a g e 2 2:幼 女 の 正 体﹄ ﹃stage23:俺の女子力は53万
です。いや嘘ですけどね﹄ │││
﹃s t a g e 2 4:悪 所 と 前 兆﹄ 1792
1765
1814
1855
│
﹃Fate/stay night﹄の世界
﹃stage1:召喚されました﹄
と運ぶだけでも容易にはいかなかった。
常人ではとうてい持ち上げることすら不可能であろう重量を誇っている。この場所へ
岩をそのまま切り出したような無骨な大剣。斧剣と言い変えても良いだろうそれは
その最たる物が眼前の、今回の儀式において要となる大剣だろう。
行ったはずだ。
場所も時間も自らのスペックも、全てを最高の状態で用意した。出きる限りの準備は
集中させていく。
丁寧に、正確に、そして迅速に、陣の中央に置かれた大剣へと目をやりながら意識を
されない。するつもりもない。
自らの内に眠る魔力を喚起させ、予め用意していた魔術陣へと流していく。失敗は許
﹁時間ね・・・﹂
『stage1:召喚されました』
1
2
〝剣〟と呼ばれるものであるのに持ち上げることすら困難とはどういうことかと疑
問が浮かぶだろうがそれは仕方がない。答えは簡単、常人ではないものが使っていたか
らだ。
これの本来の主は英雄ヘラクレス。
ギリシャ神話に登場する半神半人の英雄で、数多くの伝説を残す英雄の中の英雄だ。
その英雄を、私は今から召喚する。
それは私が、聖杯戦争と呼ばれる文字通り聖杯を掛けて争う大規模儀式に参加するた
めだ。
﹃聖杯戦争﹄│││。
﹃聖杯﹄と呼ばれるあらゆる願いをかなえる願望器を賭けて、7人の魔術師がそれぞれ
サーヴァントを召喚して殺しあうデスゲーム。サーヴァントにはクラスが存在し、セイ
バー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの7ク
ラス。そしてクラスに応じて過去、現在、未来において英雄と呼ばれ、死後英霊となっ
た者が召喚される。
どのクラス、どの英雄が召喚されるかは基本的にはランダム。だけど、例外はある。
その英雄に関係する物を召喚の儀式の際に媒体として使うこと。それが召喚したい
英雄になじみ深いものならそれだけ召喚の確率は上がる。アーサー王ならエクスカリ
『stage1:召喚されました』
3
バー、クーフーリンならゲイボルグといった感じだ。
もちろん英雄にも強さの位はある。強さの基準は、英雄そのものの力と、知名度。召
喚した時点で聖杯戦争に勝てるかどうかが決まると言っても過言ではない。故に、この
媒体として用意するものはとても慎重に選ばなければならない。
その点ヘラクレスは実力、知名度共に最高位と言える。
・・・
私は・・・、私のためにも、何よりも母のためにも聖杯を手に入れる。そして冬木市
に行き、あの子を見極める。
│││アイリスフィールは失敗だった│││
│││おまえの父は我々を裏切ったんだ。聖杯も得ず、ここに帰って来なかった
のが何よりの証拠だ│││
│││お主は捨てられたのだ。養子をとってのうのうと奴は生きておるぞ│││
│││アインツベルンの本懐を遂げよ│││
│││お主まで失敗すれば、まさしくアイリスフィールの生は無意味になるな││
│
違う
裏切られたなんて信じない
!!
違う違う違う
!!!
言ったことなんて、今は忘れないと⋮⋮。
人が
いや、ダメよ弱気になっては⋮。自らの力で決着をつけるって決めたじゃない。あの
でも⋮⋮。
そんなことがある訳が無い
!!!
!
術式を再構成、魔力の流れも綺麗に整えていく。
大丈夫。少しずれただけ。この程度ならすぐに立て直せる。
ズキリと頭の中で痛みが走る。しまった、意識がそれたせいで術式に乱れが生じた。
﹁⋮っ﹂
4
内心でため息をついてしまう。何をやっているんだろう私は。
しかし一度考えてしまうと、なかなかその思考のループからは抜け出せない。これで
はダメだ。振り切ってしまおう。
場は整った。多少の寄り道はしてしまったが、あとは実行する所まで来た。だから歌
うように、願うように、言葉を紡いでいく。
﹁素に銀と鉄。礎に石と契約の大公│││﹂
正直に言えば、アインツベルンの悲願など二の次だ。ただただ私は〝イリヤスフィー
ル〟としてこの聖杯戦争に参加したい。
ベルンの道具でもない。ただ私は、私を、私として見てくれる誰かを│││。
私は私だ。ホムンクルスと人間の間に生まれた半端ものなんかじゃない。アインツ
よ︵みたせ︶。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する│││﹂
﹁│││閉じよ︵みたせ︶。閉じよ︵みたせ︶。閉じよ︵みたせ︶。閉じよ︵みたせ︶。閉じ
『stage1:召喚されました』
5
﹁誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者│││﹂
﹂
よし、あとほんの少しだ。手ごたえはある。あと少し詠唱を続ければ良いだけ。
﹁汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ
成功した
これで目的を達成させることが出来る
!
私は、私は
!!
私は物なんかじゃない
!!!
│││お前は最高傑作だ。聖杯たる役目を果たせ│││
を思い出してしまう。
同時に、先ほど洗い流したつもりでいた、以前に剣のごとく自らを抉った言葉の続き
詠唱を終えたからといって、儀式が終わったわけではないのに。
そこで私はミスを犯してしまったことに気付く。気を抜いてしまったのだ。全ての
!!
召喚陣から漏れる光が増えていき、目を開けていられないほどになっていく。
!!!
6
『stage1:召喚されました』
7
⋮ズキリ。再び頭の中で痛みが走る。
全く私は何をやってるんだろうか。大事な儀式なのに、失敗するわけにはいかないの
に⋮。
そもそも魔術を行使する上で気を他にやるなど⋮⋮。
しかし今更遅い。
何を願っていた
初心者でもあるまいに、苦手分野とはいえ力任せに魔力をつぎ込んでしまうなんて。
しかもあの時私は何を思っていた
?
極光とも言える眩さが消えていく。細めた視界の中に人影が映る。
たかどうか。
どうやら良くも悪くも召喚には成功したようだ。問題は目的通りの相手を召喚でき
で、ナニかと繋がった感覚が生まれる。
術式陣から生れ出る光が、目も開けられないほどに強くなった。そして魂のどこか
てしまった。
うとしていたのに、私は押さえきれない気持ちのままに、
﹃全てをブチ壊す何か﹄を願っ
英雄の中の英雄たるヘラクレスを、更に強化するためにバーサーカーのクラスで呼ぼ
小聖杯たる私が召喚される者に対して何かを願っては術式が歪んでしまう。
?
結果は│││
│││現実は非常であったようだ。
﹂
﹂
﹁いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌
﹁え
﹁あれ、外した
﹂
だって目の前に居るの、私と変わらない幼女なんだもの⋮。
天国に居るであろうお母様、申し訳ありません。この戦い、われわれの敗北です。
これ、駄目なやつだ⋮。
?
?
!!
8
﹃stage0:チートな転生物語﹄
ふにふにふにふに│││。
ふぁっさふぁっさふぁっさ│││。
いか。
?
かもしれないし││目線を下にやると大きな双子山が邪魔をして状況を確認できない。
触覚だけでなく視覚においてもその状況を確認するため││ひょっとしたら勘違い
﹁無い。というか見えない﹂
次は手を腰の辺りに持っていき⋮、そこで嫌な予感がして手を前に持っていく。
﹁つまり、どういうことだってばよ
﹂
自己主張してる髪を触る。なんか耳がもぞもぞする。垂れ下る長い髪を見れば仕方な
自らの二の腕を摘み、続いて視界の端でふぁっさふぁっさと自分が動くのに合わせて
﹁やわらかい⋮。それにふっさふさやし⋮﹂
『stage0:チートな転生物語』
9
ただ、その双子山が別の証拠として俺の目の前に立ちはだかってる訳だが。文字通り。
そこそこにアニメやらのオタク文化に手を染めている20歳大学生な俺。もちろん
﹁なん⋮だと⋮﹂
男。しかし明らかに、なにゆえにか女の子なう。いや、よく見ると手や足が短いし、元
の身長から考えて130センチ有るか無しか。つまり幼女
﹁というか、何か見覚えがあるなこの服﹂
の
?
﹁ふむふむ、いやーな予感がする件⋮。お
﹂
は膝まであるレザー系のブーツで、それによって無駄に絶対領域が作られている。
いる。立っていても身長が低いため垂れたリボンが地面で擦れそうになっている。靴
下衣は、白のミニスカートを大きなリボンで結んでおり結び目が腰に来るようにして
縦筋がアクセント程度についているインナーが臍より上までの丈であるのみ。
の紐によってぶら下げられ、後はそれとは別にピッチリ体に張り付くようなゴム製
上衣は、着物のように前腕部に対して大きく開いている袖口、それが胸の高さで前後
?
?
いや、これはある意味心折設計だ。だって幼女化した自分が確定してしまったわけだ
﹁⋮⋮﹂
計。
視 界 の 端 で 何 か が 光 る。鏡 お お、全 体 の 確 認 に は 丁 度 良 い な。何 と い う 親 切 設
?
10
から。くそう、泣きそうになった顔がかわいいじゃねぇか。あ、これナルシストになる
のか⋮
もやはり画面越しにだが見覚えがあるものだ。うん、この無駄にでかくした胸部も⋮⋮
ロリで銀髪、そして紅目。見覚えのある大きな丸い帽子も確かにかぶってるし⋮。服
﹁これは⋮Koujuになってるってことか⋮﹂
さておき││。
?
が、本来人間の耳がある場所に垂れた犬耳⋮狐耳 みたいな獣耳がついている。これ
そして、さっきからなんでか耳もとでふぁっさふぁっさしてるなぁっと思ってたんだ
︵汗︶
『stage0:チートな転生物語』
11
レア武器を出すためにゲーム仲間と何時間も遊んだものだ。
バ ト ル が な か な か に 熱 い。か く 言 う 俺 も か な り は ま っ て て 家 に 帰 っ て は や っ て い る。
はまるんだ。シナリオモードもあるんだが、ネット経由でのonlineミッションや
あるエミリアと共に世界を襲う陰謀に巻き込まれていく話なんだが、これがなかなかに
PSPo2は自分でキャラクターを作ることができ、そのキャラと物語のヒロインで
ル2︵PSPo2︶というSFファンタジーのアクションゲーム内で作った自キャラだ。
﹃Kouju﹄は、携帯ゲーム機PSPにて発売された、ファンタシースターポータブ
はKoujuがゲーム内でビースト種という種族をベースに作られたからだ。
?
12
そ れ で ま ぁ、P S P o 2 で の 自 キ ャ ラ 作 製 に お い て ま ず 最 初 に 選 ぶ も の が 種 族 だ。
ヒューマン︵人間︶、ビースト︵獣人︶、ニューマン︵エルフっぽい︶、キャスト︵機械族︶、
の四種族。俺が選んだのはビーストで耳を垂れた犬耳みたいなのに設定した。
見た目に関してあれなのはまぁ理由がある。無印︵PSPo︶の時から俺はやり始め
たんだが、元々動物好きなのもあって獣人にすると決めた訳だ。しかし
獣人の男と言うのが個人的にこうしっくりくるものが無かったんだ。毛むくじゃら
でむさくて、なんか顔の輪郭と自分のイメージが合わない。それで性別を女にした訳だ
ホントですよ
普通に大人のお姉さんが好きですよ
いやまぁ、幼女がでか
が、大人の女もなんか微妙で、その結果獣幼女になったんだなこれが。言いわけちゃう
よ
?
?
?
にした。
ま ず 今 い る こ こ。宇 宙
で も 地 面 は あ る ん だ よ な。鑑 置 い て あ る し。ま ぁ よ く わ
しばらくorzな姿勢を続けていたら少し落ち着いてきたんで情報を整理すること
なう。俺は思わず地面に手を着いて、うなだれてしまったね。
とはいえ、自分が幼女になりたいとか思ったことなど一度たりともない。なのに幼女
げふんげふん⋮。
⋮。
い武器振りまわして実は強キャラとかいうのは結構ロマンあるなぁとは思うけどさぁ
?
『stage0:チートな転生物語』
13
からんので次。
なんでこんな体になったかだけど、転生or憑依と言えば転生トラックに轢かれるや
ら、通り魔に襲われるやらと何かがあって死ぬのがテンプレなわけだ。つまりは自分に
なくね
も何かがあったかもしれない││││
│││あれ
?
とってのを考えると原因はPSP⋮
ハハッ⋮。乾いた笑いしか出ねぇよ⋮。まったく意味が分からないよ。
︻速報︼PSP持って寝たら幼女ったww
?
Koujuになってることと、最後の記憶がPSPo2やりながら布団の中に居たこ
をして⋮ってそこからの記憶が無い。いつも通りの寝落ちな一日だよな。うーん⋮。
きて、何やかんやして、布団に入って、ファンタシースターポータブル2︵PSPo2︶
朝起床、日中は大学、終わって夜までバイト、家︵両親と妹の4人暮らし︶に帰って
昨日の一日を振り返ってみる。
?
﹁いやいやいやいやでもホントどうせぇと言うんですか⋮﹂
orz
さっきからこの体勢しかしてない。神様ヘルプミー。テンプレ的にもここらで出て
﹂
きてください、まじで。
﹁よびましたカ
驚き半分wktk半分で振り向く。
声が突然背後から聞こえた。ま、さ、か。呼びかけたのは脳内だけどホントに神様が
!?!?
?
﹁って、ちょっと待て
﹂
?
﹂
ああ、かわいく首を傾げるな。
エミリア⋮
?
﹁
﹁えっと⋮誰です
﹂
つまり、エミリア︵PSPo2のヒロイン︶だった。
赤い瞳、そして赤と黒を基調としたセーラー服に似たものを着た少女。
そこに居たのは、肩に掛からない程度の金髪を片方だけ頭の上で小さくくくった髪に
!?
???
!!?
14
﹁いエ、神デす﹂
﹁紙︵ザ・ペーパー︶
﹁GOD
﹂
﹂
﹂
﹁読書狂いデハありませン。神でス﹂
?
﹁私は神ダ
ハッ
﹂
!?
という﹂
!
あ、そうだ。
普通にかわいいなおい。というかノリが良い。
片足を後ろに上げながらウィンクと共にグッジョブをしてくれるエミリア︵仮︶さん。
﹁Yes,I am god
!
?
?
ただちょっと不器用な子と言うか、うん。エミリアは
?
もっと天真爛漫ってキャラで、よくいる天才系のゴーイングマイウェイな子だ。あと働
ディスってる訳じゃないよ
に乗ってくれるなんて事をしてくれる訳が無いんだ。いや、優しい良い子なんだよ
は決してないということか。まずエミリアは基本的に気配り出来る子じゃない。ネタ
ふむ、とりあえずわかったのは目の前にいるエミリアがゲームで知ってるエミリアで
﹁イエイエ⋮﹂
﹁ありがとうございます﹂
!
﹁次にあんたは私は神だ
『stage0:チートな転生物語』
15
﹂
かない。ニート過ぎて親代わりの人にダンジョンみたいなところに無理やり放り込ま
れるほど働かない。
さ、最後にはデレてくれるけどね︵震え声
﹁失礼ナことヲ考エてくレまスネ﹂
﹁ナチュラルに人の心を読まないでくれませんかねぇ
﹁おヤ⋮、う、うウンっ
これでいい
﹂
?
すい﹂
﹁あ、流石にあれが地じゃなかったんすね⋮﹂
痛い人を装ってた人に何バカなこと言ってんのって目で見られた
﹁そんなわけないじゃない。何その痛い人﹂
﹁それじゃあ、まず何があなたに起こっているかを言うわね。あ、別に敬語は無理に使わ
!?
﹁いやぁ、私も声を変えるの面倒だったので丁度よかったわ。こっちの方が断然やりや
﹁おおぉ⋮エミリアっぽい﹂
!!
動きと声質がエミリアである分、余計に違和感が強いのだろう。
﹁まあ確かに好きなキャラではあるけれどもさ⋮。そのしゃべり方で台無し⋮﹂
心を読んだことはスルーですか。あ、ここまでテンプレ⋮。
﹁ちナみに、コノ姿はあナたの心ノ中かラ適当に嫌悪ヲ抱かない相手ヲ選びマシた﹂
!!?
16
なくてもいいわよ
当然偽名だけど﹂
それと私の事はとりあえずエミリアって呼んでくれると良いわ。
気が重くなる。なんだこのプレッシャーは
そして彼女の口はゆっくりと開かれていき│││。
!?
そうして自らに言い訳してる間にも、背景にゴゴゴゴゴ⋮と文字が浮かぶかの如く空
も恥ずかしいし神妙に聞くことにする。もう遅いとか言っちゃだめです。
ここまでだけでも向こうのペースに巻き込まれてるんだ。これ以上醜態をさらすの
何か、いきなりエミリア︵神︶が話し始めた。
﹁ぎこちないけどまぁ良いわ。じゃ、今から説明するから心して聞くように﹂
﹁え、あ、はい、うん⋮﹂
?
﹂
!!?
ど。
﹁なんで
死因は
﹂
!!?
﹁え、あ∼うん、やっちゃったZE☆﹂
!?
驚愕の事実を突きつけられてしまった⋮。神は死んだ。いや死んだのは俺らしいけ
﹁な、なんだってー
﹁││あんたは死んだわ﹂
『stage0:チートな転生物語』
17
﹁は
﹂
A,まさかそんなことあるわけないよね
⋮⋮ね
?
まさか、よくある書類ミスとかそんなしょうもないことってオチじゃ⋮。HAHAH
?
?
﹂
で本来死ぬはずじゃなかったのがめでたくお亡くなりに⋮⋮﹂
﹁な、なんだってー
テンプレ乙⋮。
俺はあんたらに殺されたと
!?
﹁さっきからそればっかりね。実は結構余裕あるでしょ﹂
じゃあつまり何か
﹁あるわけないっての
!
﹂
?
﹂
!?
!?
!?
!?
基本的なシステムの情報処理は自動設定なんだけど、その設定自体を管理者になった神
﹁なんていうか⋮最近の冥界や天国での魂管理でもIT化が進んでて⋮、それでもって
!?
!?
がするんだけど
﹂
﹁PSP 死因PSP あれのバッテリーって確か数ボルトしかなかったような気
﹁感電死。PSPからの漏電で⋮⋮﹂
死因は
﹁なにゆえに疑問系 あと可愛いから首かしげないでくださいますか それで結局
!?
!!?
﹁そうなっちゃう⋮ね
﹂
﹁えっとこういうのって確かテンプレって言うと思うんだけど、ちょっとした書類ミス
18
がミスっちゃった﹂
﹁その自動設定とやらで末代までの恥ですよ
っていうかIT革命があったのか
﹁あはははっ、やっちゃった︵笑︶﹂
﹂
!!?
ほど焦ってはいないかな
まぁでも逆にそれらが変に現実感を俺の前に叩きつけてる訳で、面白いことにさっき
出ちゃう。女の子になっちゃったもの。
揺れてものすっごい違和感。元の身体じゃなくなった証でもあるし、なんだろう、涙が
また項垂れてしまう。けどその度に、さっきから胸部に付属してる塊二つがゆさって
﹁絶望した⋮ずさんな神社会の情報処理に絶望した⋮﹂
!!?
さっきからネタばっかしだし﹂
この妙に頭の中がすっきりしてるってのも要因だろうけど。
?
?
モノやぷるぷるモノが現実だと証明してくる。
けどほんと残念ながら、自身の各所でふぁっさふぁっさしてるモノやぷにぷにしてる
﹁ああ、5度分まだ焦ってはいるのね﹂
現実感が無いというか。ついネタを言ってしまう﹂
﹁いや、まぁ、365度回って落ち着いてきたというか⋮。なんだかいきなり言われても
﹁ねぇ、やっぱり結構余裕あるでしょ
『stage0:チートな転生物語』
19
﹁というかバカテスネタ
﹁おっと、ご存知で﹂
居るんだな。漫画の神様
﹂
いや、ラノベの神様
どんな知り合いなのか気になって仕方が無い件⋮。サブカルチャーに詳しい神様も
﹁まぁ知り合いに勧められて、ね⋮﹂
?
?
次回の俺の人生にご期待ください
﹁って、おしまいにしないでくださいませんかねぇ
﹂
﹁いやー、そもそもなんだけど、人の一人や千人が間違って死んだところで、世界は揺ら
たらないんですが⋮﹂
﹁あれ、でも間違って死んだ人間をわざわざ転生させるって部分に合理性が欠片も見当
情なんて仕事するのには不必要ってね﹂
でしかないから、感情を持ってるのは少ないんだ。どこまでも合理性を求めるから、感
﹁うーん、それがそうでもないんだよね。基本的に神ってのは世界を管理するシステム
﹁芸人じゃないし普通な掛け合いな気がするんだけど⋮﹂
﹁ふふっ、いいツッコミね。神界では居ないから新鮮だわ﹂
!?
!?
好きそうなシチュエーションで転生させてあげることになりましたとさ、おしまい﹂
﹁それでまあ、あなたの死は確定しちゃったんで生き返らせるのは無理だからあなたが
?
20
ぐほど軟じゃないのよ﹂
単位が跳んだ件について。地球で言えば約六十億とか居るんだから端数ってことな
のかね
?
そして最終的にその世界に神様の力が満ちれば目出度くその神様の支配地域になる
いのだとか。
が広がれば神様への見返りも増えるのだそうだ。転生者って基本やらかすから丁度い
あればあるほど力は増す。眷属が有名となってもそれは同じで、良くも悪くも眷属の名
様は基本的に担当する世界の数に比例して力が強くなる。更にその世界の中で有名で
神様に力を与えられた転生者というのは、その神の眷属扱いになるそうだ。そして神
中で整理したのがこれだ。
しかし目の前のエミリア︵神︶様は話を続けていく。なんとかそれを全て聞いて頭の
ほどヒートしちゃってるので認識が追いつきません。
軽く語られてるが、流しちゃいけないことをバンバン続けて言われて頭が燃え尽きる
のこと﹂
理性を無くして感情を持った神のことね。子供みたいに言うこと聞かないやつら全般
るって方法を違う形で利用していこうかと。あ、ちなみに邪神ってのはさっき言った合
﹁け ど、時 代 は リ サ イ ク ル な わ け な の よ。そ れ で ど っ か の 邪 神 が 始 め た 人 を 転 生 さ せ
『stage0:チートな転生物語』
21
と。
あれ、でもそうなると俺もそのパターン
﹁お、おう⋮﹂
細かい部分は違うけどそういうことね﹂
!
うのは
﹂
﹁よくある転生ものだと願いを何個か叶えて転生とかでしょ
﹂
何で男じゃ駄目だったの
﹂
!?
した
ねぇ待ってくださいませんかねぇ
!
!
﹁待って
﹁え﹂
﹁え﹂
!
﹁けど今回は眷属じゃなくて〝大元〟が欲しかったの。だからこちらで身体を用意しま
?
?
﹁まぁそうっすね﹂
﹂
﹁あー、つまりは、楔として俺は違う世界に送られるわけだ。でも細かい部分が違うとい
﹁こんぐらっちゅれいしょーん
?
にゃるちゃんもたまにはいいことを思いつくわよねー﹂
﹁この事業を始めてからはがっぽがっぽと信仰が集まって良い感じなのよ。ロキっちと
﹁おお⋮、そんなカラクリが⋮﹂
22
﹁まぁさておき﹂
﹁置かないで下さいませんかねぇ
﹂
﹁ちなみに、あんたの職業はこの度めでたく神みならい︵笑︶になりました﹂
﹁ぐぬぬ⋮﹂
傷さま﹂
﹁しょうがないでしょ。用意したの私じゃないんだから。もう決定事項らしいわ。ご愁
!?
﹂
﹁だ か ら 過 程 が 飛 ん で る よ ね と い う か か っ こ わ ら い と か 何 で 態 々 声 に 出 し て ま で
言っちゃった
!?
!?
﹂
?
﹂
?
﹁簡単に死んでもらったら困るし、何よりもその身体は│││﹂
えー⋮、幼女どころか神様見習いって、えー⋮。
なってもらったわけ。種族ビースト、職業神見習いみたいな
ち ょ っ と 若 い 子 粛 清 し す ぎ て 大 変 な の よ ね ⋮。ま ぁ そ ん な わ け で 人 間 で は な い 者 に
い。そ の 上 で 眷 属 を 作 る 側 に な っ て 貰 わ な い と い け な い の よ。最 近 人 手 不 足 で ⋮。
﹁さっきも言ったように色々な世界で今から与える力をぶっ放してもらわないといけな
﹁色々と⋮
色々と役立ってもらわないといけないからね﹂
﹁かっこわらいはさておき、神見習いってのはほんとだよ。なにせあんたにはこれから
『stage0:チートな転生物語』
23
﹁身体は
﹂
?
﹁な、なるほど
﹂
﹁とりあえず納得はできなくても意味は理解した
﹁まぁ一応⋮﹂
スケープドール︵持っていたら自動復活する使い捨てアイテム︶まであるのか。おい
といたげるわ﹂
事にって感じのを詰め合わせておくわ。防具は⋮面倒だから一番強い奴に全属性付け
︵自分以外対象の復活アイテム︶はさすがに無しね。あとはアビリティか⋮これは命大
ツを完全習得、アイテムはすべて保持で使っても補充される。あ、ムーンアトマイザー
Sランク化済み⋮、面倒だから強化具合は任意にしておくわ。それから全フォトンアー
でもちろんLV200状態のステータス。道具の所持限界解除、全武器所持でもちろん
﹁とりあえずそこに書かれてるのがあなたに与えるチートよ。身体の成長限界のMAX
れてあった。
クリーンみたいなのが出現する。空中に浮かんでいるそれには幾つかの箇条書きがさ
そう言いながら、エミリアはパチンと指を鳴らした。すると俺の目の前に半透明のス
?
?
﹁じゃあお待ちかねのチート内容に行くわよ﹂
﹂
﹁いや、これはこっちの事情だから関係ないわね。ともかくチートで暴れて欲しいわけ﹂
24
おい、どんだけチートなんだよ。
﹂
﹁│││ここまでがPSPo2からの分ね。﹂
まだあるの
あ、ちなみにラスボスはLVが100もあればいけたりする。
ここまでだけでもラスボスを片手間で殺せるくらいにチートなのにまだあると
﹁え
?
んでしまうマゾ使用だった。 はどれだけ自キャラを育ててもブースト︵強化︶状態のやつとか群れで来ると速攻で死
なにせBOSSって基本一匹だからパターンさえ読めば何とでもできる。逆に雑魚
?
?
になるっていう⋮﹂
チートここに極まれり
﹁それそれ﹂
﹂
﹁それで最後に⋮﹂
﹁まだあるのかよ
!!
﹁ふっふっふ、聞いて驚きなさい。神様見習いの特典として、
﹃幻想を現実に変える程度
!?
﹁ラーニング機能って技を食らったりしたらなぜかその技を理解して自分も使えるよう
制限とかが無い上にラーニング機能を備えてるわ﹂
﹁なんとその身体は、基本的な技能もチートだし、不老不死、様々な技能を覚えるための
『stage0:チートな転生物語』
25
﹂
っじゃなくて、﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄って何さ
﹁ひ、卑怯くせぇ⋮⋮﹂
きがかかるとか
﹂
目を反らしながら言われた
﹁そうだと良いわね﹂
ついて
!?
?
かな。頑張って
すよね
ね
﹂
﹂
?
﹃チートだといつから錯覚していた⋮
﹂
﹄的な展開ないで
?
!
﹁ねぇこれホントにチート
﹁⋮⋮﹂
?
?
﹁想像しちゃったものが具現化されちゃうわけだから、向き不向きはあるけど使いよう
!!
さっきから端々に不安要素が見え隠れして居る件に
﹁じゃあ、俺の方の能力も最初はザコみたいなものだけど、使い慣れていくとチートに磨
もあるわ。そして使えば使うほど強くなる。その力の強さで神の位が決まるの﹂
るからなわけ。けどこの能力にも強弱があるし、心理状態に左右されたりっていう欠点
﹁詳しく説明すると、あなたたち人類が全知全能の神様って言うのはこの能力を持って
?
の能力﹄をプレゼント
﹁程度って東方かよ
!!!
﹁簡単に言えば、心で思った事を実際に起こしたり、具現化する能力﹂
!!
26
終わったらご褒美もあるし
!!!!!
﹂
!!
﹁⋮⋮﹂
﹁とにかく異世界で頑張って
明らかに誤魔化しやがった
!!
⋮そう思っとこう。
﹁と、とにかく次の世界で頑張ればいい訳だな﹂
﹂
﹂
ってことはつまり多次元世界
﹁あ、ちなみに一つの世界じゃないわよ
﹁はい
﹂
?
?
﹂
上の人の考えることなんて分かんないし﹂
﹁部長﹂
﹁あんた下の人
?
うわ、ごっさ中間管理職。色々と苦労してそうだ︵偏見
!?
﹁さあ
IT関係に強い人が必要だからこんなことをしたとかいう話と矛盾するよな。
るの
﹁若い子が足りないとか言ってなかったっけ そんなほいほいと世界を渡る状況にな
?
?
?
﹁そうよ。そしていろんな世界を回り神様としての力を蓄えて来てね
﹂
けどまぁ、異世界で俺が力をぶっぱするのが目的ならしょぼい能力って訳は無いか。
誤魔化しやがった
!!
?
『stage0:チートな転生物語』
27
﹁まあ、わかった。とりあえずやらなきゃ始まらないしな﹂
﹂
?
そして意識が遠のいていく。
?
え、ってか、まじでFateの世界
救いは無いんですか
!?
!
るようになってるからやってみてね﹂
﹂
﹁それってアカシックレコー﹁それじゃ、まずはFateの世界ね
﹂ちょ、ま
!?
足元に魔法陣的なものが現れる。続けての浮遊感。
!
行ってらっしゃい
メールしてきてね。あ、あと訪れた世界の情報とかをその世界経由である程度引き出せ
テ ム の 取 り 出 し も そ れ か ら で き る よ。私 の メ ー ル ア ド レ ス も 入 っ て る か ら 緊 急 時 は
﹁ふっふっふ、それはただの携帯とは比べ物にならない位高機能なんだから。所持アイ
﹁携帯
そう言い、うれしそうにしながらポケットから何かを取り出す。
﹁その意気その意気っ﹂
28
﹃stage2:Fate/stay nightの世
界﹄
場を和ませようとしてニャル子さんのセリフを借りて召喚に応じたんだけど、失敗し
たようだ。色合いは似てるし、いけると思ったんだけどなぁ⋮。でもよく考えればこの
ネタがこの世界で知られているわけ無いか⋮。
とりあえずは召喚完了だ。俺は目の前の少女、いや幼女へと目を向ける。
﹂
?
︶b
´
てやっていけるのだろうか。
そもそもFate世界でやっていけるかも謎だけどね
さておき、こちらへと召喚された際に、ある程度の情報が脳内に入ってきていた。
!!
ふむ、それにしてもイリヤかー⋮。好きなキャラだけど、イリヤのサーヴァントとし
うん、美幼女です︵`・ω・
な髪に、ルビーのような紅い瞳、状況から言ってこの子はイリヤだろう。
なんだろう、すごく残念そうな表情で幼女がこちらを見ている。雪を思わせる真っ白
﹁あなたが⋮⋮、私のサーヴァント
『stage2:Fate/stay nightの世界』
29
たしかサーヴァントは召喚される際にその時代において過ごす上で必要な知識を聖
杯から渡されるんだったかな。
本来は魔力供給も聖杯からあるはずだけど、目の前にイリヤが居るってことはまだ冬
木市じゃないんだろうし、なんか身体に流れてくるものがイリヤと繋がってる気がする
からこれがパスってやつなのかね。
ちなみに流れてきた情報ってのは、聖杯戦争の情報︵原作知識で知ってる︶、現代の情
報︵元から現代人ですしおすし︶、自らのクラス︵バーサーカー︶、といった感じ。思っ
たより少ない。
聖杯役にたたねぇなおい
まぁ他のク
?
信じたい。
不可能か⋮。あれ、でもさっき這い寄る混沌がどうとかいってたような⋮、あれ
﹁ねぇ、聞いてる
﹂
あ、でもバーサーカーとして召喚したんだから口頭での意思伝達は
⋮⋮ゲーム内で俺が近接武器持って敵によく突っ込んでたからって理由ではないと
ラスよりは、Koujuが持ってるある種族特性的にお似合いだろうけどもさ。
・・・・
唯一役立つ情報は自らのクラスがバーサーカーだってことくらいか
!!?
俺が一人で自問自答していると、目の前のイリヤ︵仮︶もなんか自問自答していた。
?
?
30
でも確かに本来のバーサーカーとして召喚されたのであれば、会話は成り立たないは
ず。でも俺は普通に話せる。というかニャル子さんのセリフ言ったし。
バーサーカーのクラスではあるけど、イレギュラーってことかな。
本来バーサーカーのクラスは、理性を失わせ魔力消費が膨大になる代わりに基礎ス
テータスのランクを上昇させることができる。
;
けど俺の場合は、元々﹃狂化﹄に当たるであろうスキルを持ってるからバーサーカー
のクラス特性を得られない代わりに理性を保っている。メイビー⋮。
とりま返事をしておこう。
そう言うや否や少女はビクッと驚く。思わず俺もビクッとする。ごめんなしあ︵
は、話せるなら早く言葉にしてよ。心臓に悪いわね⋮﹂
ω;`︶
﹁っ
ン・アインツベルン。あなたの真名を教えて貰えるかしら
﹂
﹁あなたバーサーカーのクラスなのに話せるのね。私の名前はイリヤスフィール・フォ
ておくにこしたことは無い。俺も悪い部分あったし。
素直に謝っておく。これからパートーナーになるであろう少女なのだ。仲良くなっ
﹁ごめんなさい﹂
!?
´
﹁大丈夫、話せるよ﹂
『stage2:Fate/stay nightの世界』
31
?
﹁俺は⋮﹂
ひょっとして反英霊
﹂
待て、俺はなんて名乗ればいいんだろう。中の人の名前 この身体の元になった
キャラの名前
﹁⋮名前を言えないの
どう説明しよう。
?
﹂
?
﹁そうそう﹂
﹁えっと携帯電話
﹂
だ。どうやらさっきもらった携帯電話に着信があったようだ。
そう決めた途端、ポケットから軽快な音が鳴り響いた。某最終幻想に使われる音楽
﹁おう⋮
テテテテーテーテッテッテテー♪
この外見で日本名は変だから、コウジュって名乗っておくかな。
ソフトは樹里 庵︵元俺︶、ハードはKouju︵今の俺︶。
作バーサーカーよりも上だろうけど、中の人はただの元大学生。見た目はただの幼女。
本来召喚しようとしていたヘラクレスと違い、出てきたのは俺。スペックで言えば原
?
?
﹁いや、そういう訳じゃないんだけど⋮⋮﹂
?
32
?
﹁英霊が携帯⋮何かがおかしい⋮﹂
﹁気のせい気のせい。スマートホンではないからセーフ﹂
何がセーフかわからないが﹃常識にとらわれてはいけないのです﹄ってみどりの人が
言ってた気がするし、流しておこうよ。何せ俺もこの現状がまだ受け入れ切れてないん
だし。
そう頭の中で先送りにしつつ、携帯を取り出す。中折れ式の、昔ながらの携帯電話だ。
≪バーサーカー≫
真名:コウジュ/
属性 混沌・善
筋力: A
魔力: C 宝具: EX
敏捷: A
幸運: E︵
︶ 耐久: C︵D∼A︶
???
﹁メール、か。何々│││﹂
『stage2:Fate/stay nightの世界』
33
?
○クラススキル
獣化︵凶化︶: B∼A+
○保有スキル
獣の本能: A+
幻想を現実にする程度の能力: EX
︶宝具
頭が刺々してなくてもそう言いたくなるレベ
?
○宝具
チーターや
ポケットの中の幻想︵ファンタシースターポータブル︶:対人︵
こんなんチートや
!!
?
というかハテナが多い。あと何さこの幸運の低さ。
﹂
﹂
﹄って口元押さえながら言えばいいの
画面を見て固まってるけどどうしたの
﹃うわ、私の幸運低すぎ
﹁⋮
?
﹁なんというか、ナンデサーって感じで⋮﹂
﹁
?
﹂
ルのひどさを見た。あ、いや、生き残れる確率が上がるならチートでいいんだけどもさ。
!!
﹁ともかく、俺のことはコウジュって呼んでくれ﹂
???
﹁コウジュ、ね。聞いたことがない名前だけど、何を為した英雄なの
?
?
34
ただの大学生なので歴史に残るようなことは何もしてないんですがそれは⋮。
とはいえ普通に中身の話をするわけにはいかないし⋮、とりあえすKoujuの話を
するかね
?
﹂
?
?
﹂
﹁なんで疑問形
?
﹂
﹂
?
﹁えっと、現代に生きる人々の⋮あぁ、俺の元の世界のね⋮。その始まりの祖であり、古
?
﹁古代神
﹁じゃあ質問を変えるわ。何から宇宙を救ったの
一応嘘は言ってない。ゲームの中でという注約はつくが。
﹁でも、確かにこの身は宇宙を救ったんだ⋮⋮﹂
﹁宇宙って⋮⋮いくらなんでも⋮⋮﹂
﹁いや、本当だって﹂
﹁⋮⋮⋮本当は
﹂
﹁宇宙を⋮救いました⋮⋮﹂
﹁う
﹁えっとですね、う⋮﹂
『stage2:Fate/stay nightの世界』
35
代を統べた王であり、神みたいなの。1度肉体が滅んだのに、再び現代に生きる人々を
乗っ取って支配しようとした往生際の悪い奴﹂
あ、痛い子を見る目だ。痛いこと言ってる自覚はあるのでやめてください死んでしま
います。主に羞恥心的なダメージで。
ちなみにこれはPSPo2のラスボスの話ね。ぶっちゃけラスボスは割と簡単だっ
た。パターンさえ読めば割とちょろい。むしろラスボスがいるところまでの、雑魚敵に
って言葉の意味がよくわかる。
群 が ら れ た 時 の 方 が 面 倒 だ っ た と い う 謎 よ く あ る パ タ ー ン︵笑︶ 戦 い は 数 だ よ 兄 貴
まっ
けど改めて考えると、よくある転生オリ主チートものの主人公たちってすごいよね。
面での能力チェックをしないとだな。生存率に大きくかかわるから最優先事項だろう。
でも中が中だから戦闘経験なんて当然無いし、怪しいのは当然だろう。どこかで戦闘
さいお願いします。
何回もぬっ殺しに行ってるくらいだから嘘ではない。そういうことにしておいてくだ
さらに胡散臭いものを見る目に⋮。でもゲームの中でKoujuとしてBOSSを
﹁へぇ⋮⋮。とりあえずは異世界の英雄ということで良いのね﹂
﹁ほ、ほんとだって、確かにこの身は宇宙を救ったんだって﹂
!
死んで、チート貰って、転生して、そしたらもうそのチートを感覚で使うんだぜ
?
36
たく訳が分からないよ。
実際に今俺がチートをもらって転生︵憑依
でも言うのか⋮
厨二病恐るべし⋮。
︶してきたわけだけども、全く使える気
ほんとなんで世のオリ主たちはチートを⋮⋮、まさか、脳内修行︵妄想︶の賜物だと
ねぇ⋮。
がしない。もう少し転生初心者に優しいチュートリアルとかは貰えなかったんですか
?
│││
!!
でもそう言いつつブンっと手を振り下ろしてみる俺。
それくらい簡単なら苦労はしないか︵笑︶
しいやつ。
それにしても、ふむ、こう手を振ったら武器出てこないかな。こう宝具チックな神々
いな︵遠い目
最近の子は感受性豊かだっていうからな。頭の中で何と戦っていても不思議ではな
?
│││ッズパァ
﹂
﹂
!? !?
﹁ファッ
﹁キャッ
『stage2:Fate/stay nightの世界』
37
えー⋮⋮。
﹂
出たよ。宝具チックなの。ただし禍々しいやつ⋮。あと床が斬れた⋮orz
﹁それが⋮あなたの宝具なの⋮
たりしないよね
ら作られたという設定のものだ。
刃がある武器カテゴリーに入る物の一つで、ゲーム内エネミーのキャリガインの両腕か
俺がPSPo2で愛用していたレア武装の一つになる。両剣という、持ち手の両側に
キャリガインルゥカ。通称ルカ。
く脈動した気がした。
俺が思わずそうつぶやくと、手に適度な重さを与えてくれている目の前の武器が怪し
﹁ルカ⋮⋮﹂
さ、さておき、俺はこの武器に見覚えがある。現実逃避言うなし。
?
て直すのに御幾ら万円要るんだろうか。あ、ここ日本じゃないか。あとで請求書回され
だってこの床をどうするかで頭がいっぱいなんです。こんな古そうな建築様式の床っ
イ リ ヤ が 恐 る 恐 る 俺 に 聞 い て く る。そ れ に 対 し て 投 げ や り に し か 答 え ら れ な い 俺。
﹁ソッスネ﹂
?
38
見た目は鎌のように内側に反った刃が両側に付いていて、持ち手はどこか生物的な曲
線を描いている。
同種の武器の中で言ってもレア度・攻撃力ともにさらに上回るものがあったにも関わ
らず俺はこれを愛用していた。
それが今、実際に腕の中にある。
え、これどうしたらいいの 床のこと置いといてこっちについて考えたけどこっち
もどうしたらいいかわからない。教えて偉い人
!
?
﹁わ、わかった﹂
﹁そろそろそれを収めてくれないかしら⋮
﹂
まぁ持ち主が持ってる武器に圧倒されてちゃ世話がないか。
れているようだ。俺は全然感じないけど︵震え声 イリヤの額に汗が滲んでいくのが見える。確かにルカからのプレッシャーに当てら
こにあるだけでこんなにもプレッシャーを感じるのに⋮⋮﹂
﹁あなたが、確かに英霊なのはわかったわ。そんなものを平然と持てるんだもの⋮。そ
『stage2:Fate/stay nightの世界』
39
?
40
これのなおし方がわかりません
!!!
先生大変です
この際EROい人でもいいから教えて
!!!
!!
﹃stage3:主とサーヴァント﹄
ところ変わって、イリヤの部屋なう。
あ れ は
テ ッ ○
テ ○ ド
ありゃ、あっ
おおぅ、ファンシーなぬいぐるみがいっぱいだな。かわいらしい少女チックな部屋
だ。
﹁いや、あなた自身女の子でしょうに﹂
!
?
クマのぬいぐるみ抱えてるのが似合いそうな容姿だけどおt︵ry
!!!
﹁アッハイ﹂
﹁そうよね⋮。英雄になるほどだもの。年齢通りの生活なんて送れたわけないわね﹂
んですが
中身は20歳間近な男なんですが。無駄に美幼女なうってな状況だけど男の精神な
﹁俺は、えっと⋮﹂
!!
って、あれ、あのぬいぐるみ内臓出てない あれって可愛いのか
下ネタはさすがに言わないよな
!?
?
﹁あ、ごめん。どうにも女の子らしい部屋って入ったことなくて﹂
?
ち の は 懐 か し い な、ゴ リ ラ が シ ン バ ル 持 っ て る。な
じゃないか
!!
﹁あまり見られると恥ずかしいのだけれど⋮⋮﹂
『stage3:主とサーヴァント』
41
なんか訂正しづらい勘違いされた。そんな慈しむように見ないでください浄化され
てしまいます。今のイリヤの瞳は俺には眩しすぎるぜ⋮。
﹁尻尾は無いの
﹂
﹁無いなぁ⋮﹂
﹁なんで
﹂
?
ん
どしたん
﹂
?
在するのね﹂
﹁ちょっと気になったのだけど、ニューマンって言葉があるのにエルフという単語も存
話の途中で軽く首を傾げたイリヤ。気になったので問うてみる。
?
ルフっぽいニューマンが居たりする。
﹁ちなみに他の種族は、文字通りのヒューマン、機械生命のキャスト、魔法適性の高いエ
もしくは大人の事情です。ゲームの設定なんだから仕方ない。
?
?
﹁そういうものなんじゃないかな
﹂
が混ざっている。元の世界ではビーストって言われる種だな﹂
﹁そうだなぁ、まずは種族か。この獣耳見ればわかると思うけど、俺の体には動物の因子
とを教えてほしいの﹂
﹁さてコウジュ。さっきの続きと行きましょう。いえる範囲で構わないからあなたのこ
42
﹁い、いや、それはあれだよ。元の世界にはないけど、一応この身はサーヴァントとして
呼ばれたわけだし、聖杯から現代情報のバックアップ位は受けてるさ﹂
変な知識まで一緒に与えるのね。いや、現実として必要になる可能性があるという事か
﹁それもそうよね。いくらイレギュラーな英霊でもそれ位は⋮⋮。それにしても聖杯も
しら・・・・・・﹂
変なところに気づくイリヤさんぱない。俺の現代知識やらゲーム知識やらが混じっ
た所為で起きた矛盾にすぐ気付くとは。
うっかり変なことを言わないように気を付けないとな。
あと、現代においてエルフの知識が使われるのってきっとサブカルチャー的なものだ
と思うよ。そっちの知識を与えてくる聖杯なんて嫌すぐる。
﹂
?
﹁なるほど、確かにバーサーカーね。見た目からは想像できないけど、うん、とりあえず
くなる感じ﹂
﹁敵味方関係なしとか、ダメージを受けないから幾らか時間が経つまでどうしようもな
﹁暴走って⋮、また物騒な能力ね。どんな風になるの
で暴走しちゃうわけなんよ。それが、俺がバーサーカーのクラスたる由縁らしいよ﹂
﹁話を戻すよ。ビースト種にはナノブラストっていう獣化するスキルがあって特定条件
『stage3:主とサーヴァント』
43
獣化禁止ね﹂
﹁クラス要素が否定された
・︶
×
﹂
﹂
?
﹂
﹁えっと、獣化には何パターンかあってだな、猫、狐のような狼のようなやつ
?
﹂
だけど、後者にならなければ大丈夫なはずだ﹂
﹁猫⋮苦手なんだけど⋮﹂
﹁どないせぇと⋮﹂
﹁獣化は私の居ないところで⋮とか⋮
﹁⋮⋮﹂
そんな殺生な⋮。
?
があるん
?
しいわ。その方法は簡単にできるものなの
﹁あら、なら大丈夫じゃない。バーサーカーとしてのデメリットを無視できるのはうれ
﹁あ、でも獣化しても暴走しない方法はあるんよ﹂
かといって試すわけにはいかないからなぁ。
思わず棒読みになる。まぁ多分でしかないんだけど。
﹁ムリダナ﹂︵・
ど、令呪で縛ったり出来そう
﹁本来のバーサーカーのクラススキルである狂化ならある程度操作できる自信はあるけ
!?
44
ナノブラスト
ま、まぁ、積極的に獣化したいわけではないから良いけどさ。
ゲーム内では獣 化 使用時は専用ゲージを貯める必要があった。だが、現実にはそん
なものあるわけない。
おそらくだけど、俺の能力がゲーム準拠であるならば獣化の条件は一定以上の戦闘行
ボルテージを上げる
為か、一定以上のダメージ、当然死ぬとリセットということだろう。
言うなれば戦闘行為によって興 奮 す る 必要があるということ。死んでリセットの件
は確かめ様が無いというか確かめたくないから置いておくしかない。
よし、獣化は一旦放置だな︵キリ
いやだって、一般的な日本人な中の人に戦闘行為に興奮する感性ないし、ダメージ受
けてボルテージを上げるマゾでもないし、仕方ないやん
ブツハショウドクダー
して向かっていく今の自分。ヒャッハー
サーヴァントが何ぼのもんじゃい オ
ちょっと想像してみる。俺がゲームでやってたように、近接武器を持って敵に嬉々と
・・
ただ、スキルにあった﹃獣の本能﹄ってのが怪しい。ものっそい怪しい。
?
!
﹁え、えっと、そんなに落ち込まないで⋮
﹂
れないとだけど、弾けないように気を付けないといけないな。
うわぁ、バーサーカーだわ。これバーサーカー。あかんあかん。ある程度は戦闘に慣
!
!
?
『stage3:主とサーヴァント』
45
獣化を否定されたことより、自分の想像が微妙だったからこんな感
さっきから俯いてしまっていたからか、イリヤが俺の顔を覗き込みながらそんなこと
を言ってきた。
でもごめんね
じになってるだけなんだ
心配させたままではいけないので顔を上げる。
!
!
さっきの宝具は近接戦闘用武器に見えたけど、実は苦手とか
?
使うとしたら外なのだけど│││﹂
そう言いながら窓の方へと目を向けるイリヤ。
﹁あ、夜やん﹂
まだ深夜だ。こんな時間からあまりうるさくするとご近所さんに迷惑だな。
﹂
この体は夜目が利くからか外の景色がよく見えるが、近くにあった時計も見てみると
﹁そういうこと﹂
?
安があってね﹂
﹁戦闘そのもの
初戦闘すら済ませていませんが何か
なんて言えるわけもない。
﹁あ、そうだ。どこか広い所ないかな
?
ちょっと調子を確認したいし﹂
﹁ええ。でも明日でも構わないかしら
?
﹁なんというか⋮⋮﹂
?
﹁いやいや、獣化のことだけで落ち込んだわけじゃないよ。ちょっと戦闘そのものに不
46
﹁それに、申し訳ないけど大量に魔力を使ったからかそろそろ限界なの⋮﹂
﹁っと、ごめんな﹂
いえ、その御陰であなたを召還出来たのだけどね﹂
﹁いえ、私のミスよ。感情のままに魔力を垂れ流してしまったのだもの。その所為で⋮、
俺に気を使ってか、態々言い方を変えてくれるイリヤ。
何この子可愛すぎるんですけど。
思わずによによしてしまう。
﹁な、なによ⋮﹂
﹂
!
﹂
!!!
る。
ほんとに限界だったのか投げてる途中でふらついたイリヤ。勿論すかさず受け止め
﹁おっと⋮﹂
﹁あ⋮﹂
からかい過ぎたのかイリヤが周りにあるぬいぐるみを投げてくる。いたい︵笑︶
﹁っ
﹁かわいいにゃぁ⋮﹂
﹁う、うるさい⋮
﹁イリヤは可愛いなぁって⋮﹂
『stage3:主とサーヴァント』
47
身長はあまり変わらないのに、軽いなぁ。ちゃんと食べてるのかね
この体の筋力が上がっていたとしても、今にも折れて砕け散りそうだ・・・。
?
っ⋮⋮﹂
!?
ドに移す。
﹂
﹁コウジュ⋮﹂
﹁ん
し、アニメは見たけどあれも全てが語られたわけではない。
俺は、実のところ原作におけるイリヤの内情に詳しい訳ではない。原作も一部だけだ
た。
掛け布団をかけていると、目をうつらうつらとさせながらもイリヤがそう聞いてき
?
?
﹁あなたは⋮どこにも行かない⋮
﹂
寄りかかってきていたイリヤを抱きかかえ︵※幼女が幼女を御姫様抱っこの図︶、ベッ
﹁ほらほら言わんこっちゃない﹂
﹁あなたに言われたくないんだけど
﹁そうそう、小さいんだから無理しちゃいけないって。寝る子は育つっていうし﹂
﹁言いたいことはあるけど⋮、そうね、わかったわ﹂
﹁⋮何でもない。とりあえずベッドで横になりな﹂
﹁⋮なによ﹂
48
だから知識のほとんどが二次作品に頼っていることになる。
だがそれら数多ある二次作品でも共通するのが家族に対する複雑な感情だ。
目の前に居るイリヤもまた、そういった人との繋がりに色々と思うところがあるのだ
ろう。それが先の言葉ににじみ出ているのが分かった。わかってしまった。
パスで繋がっているからだろうか
﹂
﹁俺はサーヴァントらしいからな。俺とイリヤはセットだ﹂
んな彼女を見ていたら、考えるまでもなく言葉が出てくる。
どう返事するか考えていたらイリヤが瞳に不安を隠しながらこちらを見ていた。そ
?
し殺される世界に混ざりこんだわけだ。はいそうですかと馴染めるわけがない。
正直に言うと未だに現状を理解できていない。平和に暮らしていた一学生が、突然殺
﹁Fate⋮か⋮。でも、来ちゃったもんはしょうがないよな﹂
けど。けど、待ち受けているのは血で血を洗う無慈悲な戦いだ。
こうして見るとほんとにただの女の子にしか見えないよな。美少女度はさておき、だ
安らかに見える。
返事がない。どうやら寝てしまったようだな。でもその寝顔は先程までとは違って
﹁さぁ、な。どう思う
?
﹁ふふ、なにそれ⋮﹂
『stage3:主とサーヴァント』
49
けど、この目の前にいる少女が本物だと、2次元の中のフィクションではなく現実と
いうのは確か。
どこまでできるかわからないが、原作のような結末をこの子が辿るなんてことを許容
できるわけがない。
ここで何もしなかったら、男が廃るしな⋮。
!!
否定できねぇのが辛い。
?
誓いの内容に嘘はないけど、全力は尽くすけど、恥ずかしい⋮。くそう⋮//
のか
何すらすらと俺の口は勝手に言ってくれちゃったんだよ。そういう願望でもあった
は、恥ずかしいいいい
ああ、顔が赤くなるのが自分でわかる。
の獣として貴女を勝利へ導こう﹂
﹁サーヴァントバーサーカー。この身尽き果てようとも、主の剣として、盾として、一匹
項。
何をどうするかなんてのは決まっていない。それでも、どうにかする。これ確定事
﹁うし、がんばるか﹂
50
これどうしよう
表情が悲しげになる。
何これすっごい罪悪感あるんですけど
肉痛になってそうだぜぃ⋮。
はぁ、一緒のベッドで寝るわけにもいかないし、ベッドにもたれて寝るか⋮。明日筋
!?
うー、握っている指を放せないものかチャレンジするも、放されそうになるとイリヤの
何 と か 放 し て も ら え な い か と 起 こ さ な い よ う に 気 を 付 け な が ら 四 苦 八 苦 し て み る。
?
イリヤさんがなんか服の裾を摘まんでいて放してくれない。
﹁って、ありゃ⋮﹂
『stage3:主とサーヴァント』
51
﹃stage4:アインツベルン城﹄
さっきも﹃いただきます﹄とか言ってたけど﹂
﹁なにそれ
?
﹁そうなの
あんなに美味しいのに勿体ない﹂
﹁私も、というより作った方もビックリでしょうね。基本的に残すものだから﹂
ど、思わず全部食べちゃったぜ﹂
﹁そ れ に し て も 美 味 し か っ た よ。朝 か ら 大 変 な 量 が 並 べ ら れ て る か ら ビ ッ ク リ し た け
ないよな。うん、ほんと気を付けよう。
普通、異世界から来て宇宙社会がどうたらとか言ってたのに、日本がどうたらは言わ
またもや当たり前のように言ってたから気づかなかった。
﹁そ、そういうことにしといて⋮﹂
ソンナコトモオシエテクレルノネ﹂
﹁⋮⋮何で知ってるかとかは聞いたら負けなんでしょうね。とりあえず、セイハイッテ
日本流の食事時の挨拶﹂
﹁知らない
?
﹁ごちそうさまでした﹂
52
?
﹁そう。後で料理長に伝えておくわ﹂
いつもこんな感じなのかな
ね
やめて、そんな目で見ないで
!
席に着く。マジで恥ずぃ。
そんななかイリヤは、クスクスと小さく笑いながら席に着く。俺は慌てて追っかけて
!
無表情だったメイドさん達から、こころなしか暖かい目で見られている気がしたから
見た瞬間にお腹が鳴ってしまった。顔は真っ赤だったろう。
││クゥ⋮││
ない︶まで、ズラーッと絢爛にならんでたわけだ。
なサラダetc etc⋮メジャーなのからよくわからんの︵美味しかったから気にし
そんな所に、アルプスのgirl的な白いパンとか、スクランブルエッグ、色鮮やか
?
少人数で使っている感じだ。壁際にはメイドさんがズラーっと控えてる。
食事はすでに並べられていて、すごい量の食事があった。何て言うかゼロ魔の食堂を
り得ない長さの机がある︶に訪れた。
朝ごはんを食べることになって、イリヤと共に食堂︵あり得ないくらい広い部屋に、あ
本当に美味しかった。
﹁よろしく﹂
『stage4:アインツベルン城』
53
54
そしてすぐに食事開始。
さ す が に バ ク バ ク と は 食 べ る 訳 に は い か な い か ら モ ク モ ク と 食 べ 続 け た。い や モ
キュモキュ
料理たちは、食堂に入った瞬間に出来上がったかのような状態。
しかもあの量だ。どのタイミングで作り始めたら良いとか分からないはず。なのに
ない。
俺とイリヤが食堂に行ったのって俺の腹が鳴ったからであって、定時だからとかじゃ
気がたっていたことだ。パンも焼きたてだった。
それにしても不思議だったのは、今作られたかのように、スープやらなんやらから湯
域を越えてるとかは突っ込まないでほしい。
料理を追加するか聞かれたが空腹感は無くなったので一応遠慮した。すでに遠慮の
はならなかったこの身体に改めてビックリ。
そんなこんなでいつの間にか大量にあった朝食達は居なくなったとさ。結局満腹に
どこのピンクの悪魔だ⋮。
べた。
び続ける。明らかに現在の、いや、前の平均的な成人男子の体積すら軽く越えた量を食
どうやらこのチートボディの胃袋は某腹ペコ王とタメを張れるようで永遠と口に運
?
しかも、イリヤがどこかに連絡したりもしてないのに二人分⋮。
今は考えないようにしよう。うん。
アインツベルン城の従者達は化け物か
いや、偶然だよな
!!?
﹁飲まないの
﹂
でもわかるくらいにこれは良いものです。
それで今は食後の一服中。なんかすごい良い匂いの紅茶を出してくれた。元一般人
?
りお嬢様だな∼。
いや、おぜうさま
か。ごほん、カリスマ崩壊なんてなかった。いいね
?
ちょっとイリヤのマネをしながら飲む。作法とか知らんしな。
││コクッ││
これいかに。まぁ獣化のことを考えると単純なイヌ科ネコ科なんて分類で区切られる
俺、猫舌だった。今の身体もそうみたいで、舌がピリピリする。犬耳だけど猫舌とは
﹁熱い⋮﹂
?
イリヤがやたらと絵になる感じで、優雅に紅茶を飲みながら話しかけてくる。やっぱ
?
﹁いや、もちろんいただくよ﹂
『stage4:アインツベルン城』
55
種族じゃなさそうだしいいか。誰だ今、ケモノ目ヒト科ロリ属あざとい種とか言ったや
つ。⋮幻聴か⋮。
それにしても││
から高いんだろうけどさ。
﹂
﹁なぁイリヤ、この後俺の力を見るって言ってたじゃんか
﹁えぇ、そのつもりよ。それがどうかしたの
?
﹂
私からしたら見慣れた景色なんだけどね﹂
さっき窓から外を見たんだけど、えらく雪が積もっててさ。外に
﹁構わないわよ。そんなに雪が珍しいの
行きたいんだよね∼⋮だめ
?
転生前に俺が住んでた所は日本でも特に寒くもないし、暑くもない、気候的に年中安
い光景なんだけどな。住んでたところじゃ降らなかったし﹂
﹁へぇ∼、やっぱり雪国の人の感覚ってそういうもんなんだ。俺からすればスゴイ珍し
?
?
﹁どこでやるんだ
?
﹂
かったけど、高いだけのことはあるよ。まぁ高いから美味しいんじゃなくて、美味しい
俺 が 飲 ん だ こ と あ る の っ て 午 ○ の 紅 茶 位 だ か ら さ。高 級 な や つ っ て 飲 ん だ こ と な
﹁フフッ、お気に召したようでなにより﹂
﹁││うん、おいしい。こんなに美味しいものなんだな、紅茶って﹂
56
定したところだった。冬場もあんまり寒くならないから雪は降るけど積もらない。だ
から視界いっぱいの銀世界は心を躍らせる。
後で外に出たときに、初雪だるまを作ってみたい等としょうもないことを考えていた
﹁ねぇ﹂
﹂
らイリヤが話しかけてきた。
﹁なに
いたんだけど、今現在も寒くないの
﹂
﹁外に行くのは構わないけど、その格好で行くの それ以前に、ずっと言おうと思って
?
?
?
布の薄さ的にも。
最後に、俺の服装⋮。ずっと気にしないようにしてきたが、やっぱり守備力が低い。
厚い、暖かそうな服装だ。
周りにいるメイドさんもよくテレビとかで紹介されてるメイド服よりももう少し分
い。しかも、広いから暖房なんてものも、効果は薄い。
今いるここはお城で、日本のお城と違って基本的に石で構成されているから冷えやす
こそこ厚着だ。
そういえば、と改めてイリヤの服装を見る。イリヤの服装は屋内にもかかわらず、そ
﹁いや、特に⋮⋮﹂
『stage4:アインツベルン城』
57
それとも、もともとのゲームは宇宙を舞台にしてい
見えている肌はスカート下くらいの太ももくらいだが、全体的に薄く動きやすい様に
なっている。
ふむ、イヌ科パワーなのかな
たわけだし超科学で薄くても寒くないとか
?
?
?
物のきぐるみだったりするわけだ。
テイルズシリーズなんてその筆頭じゃないか
ネタ服で来られたボスの心境は計
ではない美少女だったり、海パンのおっさんだったり、しまいにはよくわからない生き
を支配するとか真剣に言ってるラスボスの前にいるのがもうコスプレといっても過言
PSPo2の面白衣装達の中にはきぐるみやら水着なんてのもあるわけだけど、世界
のじゃないだろうな。
けど、ゲームを現実に置き換えて考えると、何というかラスボスからしたらたまったも
それにしても、Koujuはこの格好でラスボスを倒しに行ってたことになるわけだ
らのスペックを把握しないとやばい。
納得してくれたようで何よりだ。俺にも分からないので答えようがない。マジで自
﹁お、おう﹂
﹁ふーん、獣人って言う位だしそういうものなのね﹂
58
り知れない。
まあ、俺もそれを良くしてたんだけどね︵笑︶
と、話がそれたな。何にしてもこのままで外に行っても大丈夫だろう。
﹁さて、そろそろ行きましょうか﹂
残っていた紅茶を飲み干す。まだ少し熱かった⋮。
﹁了解﹂
『stage4:アインツベルン城』
59
﹃stage5:ちーとぱうあー﹄
やあやあ皆さん。外にやって参りましたよっと。
やっふぅー
見たことな
!!
テンションが高い
仕方ないじゃないですか、だって雪ですよ雪 見渡す限りの銀世界
い位の幻想的な世界が、そこにあるわけですよ
﹂
﹁はあ⋮、早くしてね﹂
﹁てやや∼﹂
そこを今雪玉を転がしながら、走り回っております︵笑︶
!! !
?
!!
景色の話をしてたんだから、趣きとか風情は無いのかって
て、俺は即行で突っ込んでいってしまいました。
無いわけじゃ無いけ
最初、イリヤと共にエントランスホールを抜けて、外に出た瞬間に広がる雪景色を見
皆さんもうお分かりだと思いますが、雪だるまを作ってるわけですよ。
﹁了解っす
!
ど、やっぱりこれだけの量の雪を実際に触れるというのがうれしくてついつい⋮。Ko
?
60
ujuになる前ははしゃぐ程ではなかった筈なんだけど今は超楽しい
素が俺をそうするのだろうか
﹂
まぁいいや。とりあえず今は超エキサイティィング
﹁ふう⋮それでこれを⋮ぃよいっしょおぉぉ
いn⋮狼要
!
と音をさせつつ乗せると次は形を整えていく。
﹁ぺたぺたぺたっと⋮⋮﹂
﹂
﹂
││ぺたぺた、ぺたぺた⋮││
﹂
﹁そうだよ
大小二つの雪玉が縦に二つ⋮雪だるまじゃん﹂
﹁スノーマンを作ってるのよね
﹁なに
││ぺた⋮││
?
﹁今まで言わなかった私も私だけど、大小二つどころか⋮超特大と特大じゃない
?
︵土下座︶
てへぺろしながら親指を立ててみる。イリヤさんから殺気を感じた。ごめんなさい
!!
?
﹁やっちゃったZE☆﹂
﹂
今まで転がしていたものを先に作っておいた雪玉の上へと乗せる。ドスゥゥゥンっ
!!
!!
?
?
﹁⋮ねえ
『stage5:ちーとぱうあー』
61
いやはや、あまりにも楽しすぎて雪玉を押しながら走り回ってたらいつの間にかこん
なことに︵笑︶ 後悔も反省もしないがな
ちなみにサイズは⋮多分下の球は直径が10mくらいはあるかな⋮上は7m位
?
!!
⋮﹂
﹁仮にもサーヴァントに常識も何もないと思うけど
﹂
と い う か 釣 り と か サ ッ カ ー と か す る 英 霊 も い る ん だ よ
きっと。メイビー。
﹁そうね、もう私が悪いのよ、うん⋮⋮﹂
おっとっと、イリヤが何か影をまといだした。
?
?
!
ちの方が身長低いから、客観的に見たらお姉ちゃんを励ます妹の図になってるからだ
ふむ、撫で撫で⋮っと。これ、何でかこっちが恥ずかしくなるな。多分あれだ。こっ
になってやらなくなったっけ。
さい時もこんな風にしたっけか。いつからか﹁恥ずかしいから嫌 ﹂って言われるよう
な感じだ。でもイリヤの髪の毛ってサラサラで撫でてて気持良いんだよなぁ。妹が小
そう言いながら、近づいてイリヤの頭を撫でる。ありゃ、俺の方が若干小さいから変
﹁ごめんごめんイリヤ﹂
雪 だ る ま 位 普 通 だ っ て
﹁ま っ た く ⋮ 非 常 識 だ わ。サ ー ヴ ァ ン ト と し て の ス ペ ッ ク を こ ん な こ と に 使 う な ん て
62
な。
﹁って、コウジュっ、恥ずかしいからやめて
﹂
始めるわよ﹂
赤になりつつも、どこか嬉しそうだ。かわええー。
さっきまでイリヤが纏っていた影がなくなる。今は、恥ずかしかったのか、顔が真っ
﹁本当にもう⋮﹂
少し呆けていたイリヤだが思い出したように離れた。
﹁おお、元気になった﹂
!!
まあ、全部俺のせいなんだけどもね。
よほど恥ずかしかったのか急な話題転換だし。
だな。
まだ顔が少し赤いイリヤ。雛見沢のレナ嬢でなくともお持ち帰りしたくなるレベル
﹁コホン、ほら、もういいでしょ
?
閑話休題。
顔とかまだ作ってないけど、まぁいっか。また暇な時にでも続きをしよう。
﹁了解だ、マスター﹂
『stage5:ちーとぱうあー』
63
﹁さて、何からしようか﹂
﹂
?
?
﹂
!
︵震え声︶
?
動き方が分かる。
と言っても動きのイメージがゲームを通してあるからだろうか
両剣︵ダブルセイバー︶の特性は回転を利用した連続斬り。
?
ふむふむ、よく手に馴染む。これもなんとなくだけど、武器が邪魔にならないような
身体ごと回しつつ横薙ぎ2連。
さっきは室内で出来なかったが、慎重にルカを振る。斬りおろし、逆袈裟、そこから
でもまぁ、なんとなく出す時の感覚が分かってきた。
た。と、トラウマになんてなってませんよ⋮
呼ぶと同時に手の中に重さを感じる。今回は外だけど、ちゃんと手を振らずに出し
﹁おーらい。ルカ
﹁ふ∼ん、じゃあ一先ずそのルカを使ってみましょうか﹂
敵を倒してたら、運が関わるけどドロップするし。
ちゃ高いけど、持ってる人は持ってたし﹂
﹁宝具か。俺しか持ってないようなっていうのは無いかなぁ⋮。ルカも希少度が高いっ
そう
﹁あなたって、何か象徴する宝具とかはないの それともあのルカって呼んでた物が
64
ゲーム内では手で回すだけでなく、身体ごと回ることで全方位攻撃したり、両剣自体
を蹴ることで回転を増したり、色々とアクロバティックな部分がある武器だった。
現在の身長に対してルカはおおよそ2倍弱。けど地面を擦ることなく、振るうことが
できている。
あえて言おう。俺は
ルカは大体2メートル。対するKoujuの身長は1番小さい設定の130cmだ。
身体に対して巨大な武器ってなんか夢があると思わないか
大好きだ。
らしい。
ちなみに、イリヤはどっかで読んだ二次で書いてたんだけど、公式設定で133cm
?
大正解なんですけど
﹂
あのあの、イリヤって俺の心読めてるとかないよね
﹂
もっと褒めてくれてもいいんだぜ
るとかないよね
﹁だ、だろ
?
!?
﹁はいはい。それで、他にできることは
?
?
﹂
?
なんとか俺の動揺は気づかれていないみたいようで助かった。
?
?
もしくは全部知ってて言って
と思っていたけど、英雄の名に違い無しといったところかしら
﹁さすがね。今のあなたを見るまで間違って一般人が召喚されてしまったんじゃないか
『stage5:ちーとぱうあー』
65
66
一先ずルカを直し、次に試すことを考える。
やはり近接武器の次は法撃武器だろうか
こほん。
砲撃じゃないよ
そんなものはどこぞの白い悪魔か紅い姐さんに任しときなさい。
性が存在する。PSPo2では火、土、雷、氷、光、闇だな。
そしてその法撃︵テクニック︶には、どのゲームでもそうであるようにいくつかの属
クニック︶だ。ちなみに近接攻撃はスキル、射撃ならバレット。
A︵フォトンアーツ︶と称している訳だが、その中でも所謂魔法に当たるのが法撃︵テ
前作品などでは呼び方が違うが、これら戦闘のプロに当たる人物が扱う戦闘技能をP
傭兵としてクエストを行っていく。
PSPo2ではプレイヤーを含め様々な人々が民間軍事会社﹁リトルウィング﹂社の
?
るにこしたことはないだろう。
というわけで、法撃武器を出そう。何がいいかな
あれ、そういえば武器は携帯から出せる的なことをエミリア︵神︶が言ってたよな
カタログみたいに見れるかな⋮。でもなんでルカは出せたんだろうか⋮。 よく使
?
?
中にはHP回復や状態回復、ステータス上昇といった効果を持つものもあるので使え
さておきそれら属性ごとにもいくつかのテクニックが存在する。
?
う武器だから
テテテテッテテー
む
﹃圏外﹄
﹂
ケータイデンワー
!
︵だみ声︶ !
便利アイテムを忘れていたのか⋮。
と、とりあえず携帯を出してっと⋮。アカシックレコード疑惑もあるし、なんでこの
?
と、つい関西弁で言いながら携帯を地面に叩きつけた。
!!
なんという耐久力。こんなところにまでチート性能かよ⋮。
どころかその下の地面を抉ってやがる。
憎々しいことに携帯はチートボディの力で投げたのに地面が負けて、雪を掘り起こす
ベシッ
!!!!
?
﹁なんでやねんっ
『stage5:ちーとぱうあー』
67
﹁さっきはメール来たくせに⋮⋮﹂
﹂
ちょっとだけ敗けた気分になりながらも携帯を拾う。
﹁ん
画面の下の方にちっさくヘルプが出てることに気付く。こんなのあったっけ
りあえず開いてみる。
﹄
?
と
な ん で ヘ ル プ な ん て も の が あ る っ て こ と を 前 も っ て 教 え て く れ な
ね ぇ な ん で
?
?
どうですかね
今見れてます
見るのを忘れてたとかだと大層なうっかりさん
?
な訳ですが、今後は気を付けてくださいね﹄
?
すから、そこから忘れるなんて無いだろうと思って。
初に見るだろうと思って言いませんでした。メールが来た時点でも一度見てるわけで
﹃あ、なんで言わなかったかというと、普通目に見えてこんな便利アイテムがあったら最
から。
だが、我慢して続きを読む。短気は損気だ。使い方が分かるに越したことはないんだ
かな
かったのかな
?
思わず再び放り投げたくなった。
すね
﹃ついにこのヘルプが見つかってしまいましたか。ということは力を使う時が来たので
?
?
68
﹂
﹁どうしたのコウジュ
携帯電話がみしみしと音を立ててるわよ
﹂
!?
ともかく続きだ。続き。 い訳ではないし、忘れてた訳でもない。ただ意識の外にあっただけだ。
ぐぬぬ、いやだめだ。ここで投げたら負けを認めることになる。見るタイミングも遅
﹁そ、そう⋮﹂
﹁くぅっ。いや、な、なんでもない。ナンデモナイヨ﹂
!?
﹁っ
!!!!
と
!
最終的には金ぴか王も目じゃないかも
す。とりあえず技名を叫んでください。使えます︵笑︶ これも体に馴染めば自然に出
続いて、フォトンアーツですが武器に設定とかしなくても大丈夫なようにしてありま
?
出るので。ちなみに慣れてくると設定も必要無く、思うだけでできるようになります。
出せると思います。というか出やすくなってるので気を付けてください。PON
に入れておきました。特別縁が強くなっているので、戦闘に慣れていない今でも簡単に
と出し入れがしやすいです。ゲーム内でよく使っていた武器は事前にその6スロット
ように設定してください。武器は最大6スロットあるウェポンパレットに入れておく
まず武器についてですが、MENUでPSPo2という画面があるのでゲームと同じ
﹃ではでは説明しましょう。
『stage5:ちーとぱうあー』
69
70
るようになるでしょう﹄
一応初心者用の設定みたいなのはあるのか。慣れたら金ぴか王みたいにって、王の財
宝みたいにってことだよな。すげぇ。
しかし、しかしだ。技名叫べって、身も蓋もない言い方だな。ヒーローものみたいな
感じになってるじゃないか。せめて真名解放とかあるじゃん⋮。
でもまぁ武器にセットしなくて良いのは良いことだ。ゲームでは武器を使うために、
パレットと呼ばれる簡易MENUにセットする必要があった。
パレットには、武器、アイテム、防具がそれぞれ6個づつ設定できて、戦闘中に換装
できるようになっており、攻撃する際は通常攻撃とは別にフォトンアーツと呼ばれる技
を設定する必要があったんだ。
技は基本的に一つの武器に一つの技しか設定できず、魔法系に関しては長杖には最大
8つ、片手杖には最大4つ設定できるがそれ以外の武器は基本的に一つずつしか設定で
きないようになっていた。
でも改めて考えると、魔法なら分からんでもないが近接格闘スキルが武器依存っての
は現実的に変だもんな。
だから、多彩な攻撃が可能になってるのはうれしい。
さてさて続きはっと⋮。
﹄
?
アルスマグナ
アルスマグナ
でもこれってどこの﹃錬金術﹄
のだ。
アルスマグナ
実際に原作ではそれが原因でアウレオルスは主人公に負けている。
え、あの、
﹃錬金術﹄におけるこのデメリット部分まで似てるとかってないですよね
あと、注意で書いてある武器の概念が反映って部分に嫌な予感しかしないんだが⋮。
ですが⋮。
中身一般人の俺に、戦闘中ずっと内心を冷静に保つなんて芸当普通に無理だと思うの
?
自分がちょっとでも負けるイメージを持ってしまうとそれすらも具現化してしまう
どんなチートだよって感じだが、これにも弱点がある。
だった。
師が使っていたもので、思ったことを現実に変えるという俺がもらった能力に似た術式
﹃錬金術﹄は、とある魔術○禁書目録に出てくるアウレウルス・イザードという錬金術
?
強く思うことで⋮ね。だからその時の心理状態に左右されるって言ってたのか。
付加してしまうので気を付けてくださいね
あ、この能力はPSPo2の武器にも反映されて、ゲーム内での説明文が概念として
とです。自分はそれできるんだと、自分の可能性を信じることです。
﹃続いて﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄についてですが、使用方法はただ強く思うこ
『stage5:ちーとぱうあー』
71
武器によったら、エグイ説明の奴とかある件について⋮。
例えば、魔剣レーヴァテインだと﹃万物を滅ぼす力を持つ﹄とかかいってあったよう
なきがするんですけど
を⋮﹄とか﹃時間を⋮﹄とか書いてあってもそんなことはできません。
あ、ちなみにゲーム内では武器の説明と実際の効果には関連性がありません。﹃万物
武器の選択には気をつけよう、うん。
?
思い浮かべたものを形にしやすいと思いますよ。
?
by エミリア︵神︶﹄
携帯の電波は力を流し込めば使えます。
P.S.
では、健闘を祈ります。
あ、某弓兵さんが言うには、常に思い浮かべるのは、最強の自分だそうです。
格闘に関しても同様です。行うだけのスペックもその体ならありますから。
試してみてはいかがでしょうか
﹃最後に、能力の使用に関してのアドバイスですが、最初はアニメで見たようなものから
72
大体わかった。でもとりあえず次あったら覚えてろ⋮。
胸の中で渦巻く感情を無理やり押さえて、携帯を操作していく。ちょっと狂化とか黒
化とかしちゃいそうだけど、我慢だ。
﹂
﹁はぁ⋮、まずは携帯でMENUを開き設定⋮と。武器は⋮あまり強いのだといけない
えこえこステッキくん
しこれでいいかな
来い
!
?
でも無駄に威圧感がある﹂
いやまぁ変なものだけどもさ。
だか変なものを見る目だ。
そんなものをお試しで出せるわけがないのでこれにしたんだけど、イリヤの目がなん
のだ。それも説明文も中々に凶悪。
縁が強いっていう、ウェポンパレットにも法撃武器は入っているが当然効果の強いも
ぶっちゃけ魔法少女的な杖だ。
ツールというものに似ている。
ラッキースケベを巻き起こしまくるマンガとのキャンペーンアイテムで、見た目は万能
俺が取り出したのは、ジャンプで連載していた宇宙のプリンセスと一級フラグ並びに
!
﹁それも宝具⋮なのよね
?
『stage5:ちーとぱうあー』
73
それを使
よしっと、集中
﹁まあ、見た目は気にするな。それじゃあ魔法⋮いや、この世界では魔術か
うんでちょっと離れててくれ﹂
イリヤから離れていくのを確認する。これだけ離れればいいかな
集中。
イメージは空中から発生する落雷。
?
あとは術式に燃料を投下するだけのようだ。
が技を使うということなのだろう。
イメージが固定された瞬間に頭の中でカチリと何かがはまる感覚が生まれる。これ
?
﹂
自らの身体の中から何かが抜け出て杖を通して現象へと転換される。
﹂
ッガアアアァァンっ
﹁⋮⋮は
?
!!!
テクニック名を言いながら杖を振り下ろす。
﹁ラ・ゾンデ
!!!
74
これはメ
この技は雷系統のゾンデ系の中でも基本技の一つだ。
まばゆい光と轟音と共に何かが落ちた。
いやいや、おかしいでしょ
ただ前方に雷を落とすっていう技の筈なのに⋮。
なんだろう⋮、電気ショックのつもりが100万ボルトになってた的な
ラゾーマでは無い、余のメラだ︵誤射
恐る恐るその惨状の中心地に近づいていく。
これが現実とゲームの違いなんだろうか
しかし実際に目の前にあるのはこの惨状である。 問題もあるんだろうが、いちいち地面がめくれはしなかった。
ゲームで使った際には当然こんなエフェクトなんてなかった。処理やらなにやらの
?
面なんて熱で溶けてガラス状になってやがる。
雷が落ちた跡にはクレーターができていた。まるで隕石が墜ちたかのようにだ。地
?
!?
き込むわよ⋮⋮﹂
﹁適当って、敵を殲滅でもするつもり それにこんなのを冬木市で使ったら辺りを巻
﹁あ、あはは⋮、すまん。適当にやったらこうなっちまった﹂
イリヤが声を震わせながら聞いてくる。
﹁な、なに⋮これ⋮⋮﹂
『stage5:ちーとぱうあー』
75
?
﹁確かに⋮。練習をしないとだな﹂
そこでふと思い付いたことがある。
﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄は想像したことを現実にするための能力で、自分は
できると思うことが大事だとあった。
それを聞いたときに脳裏に浮かんだのはとある﹃魔砲﹄だ。
それと同時に、6つあるウェポンスロットの一つに入っていたとある武器を思い出
す。
﹂
あなたの知り合いはどんなのよ
﹂
思い付いたらやらずにはいられなかった。
あ、これ行けるんじゃね
﹂
魔王なの
実際に会ったことはないけど、普通に美少女だと思うよ
﹁人なの
!?
﹁だって魔王って呼ばれてる人の技だし⋮⋮﹂
﹁ちょっと
﹁お、おう⋮﹂
﹁構わないけど、冬木市で使えるやつにしてね
﹂
﹁イリヤ、もう一発いいか
?
!?
まあ、白い悪魔ともよばれてるけどね⋮。
? !!
?
!?
?
76
﹂
﹂
ここでやる分には周りに人もいないし、魔王だろうがなんだ
ここまで言ったらもう分かるか。そう、あれだ。
﹁だめ
﹁ああもうわかったわよ
やるからには全力全開でやってみなさい
ろうが好きにしなさい
ただし
今好きにして︵ry
﹄をしてもいいってことだと理解するぜマスター。それ以前
﹂
にマスターの命には従わないとね
!
そしてその説明文には﹃大気中のフォトンを銃身に収束させ撃ち出す。その威力は空
後方から3つの羽のようにも見えるフォトン射出部からなる構造をしている。
こいつはフォトンで生成された二つの銃身と、持ち手からなる本体部分、そしてその
ライフル系☆16ランク、﹃アストラルライザー﹄。
武器名を呼び、手を横に出す。同時に右手の中に重量が生まれる。
!!
?
﹃これが私の全力全壊
さておき試すだけのつもりが全力全壊と来ましたか。
!!
!!
おっと、唐突な先輩ネタはNGかなw ん
!!
!
?
?
﹁来い、アストラルライザー
『stage5:ちーとぱうあー』
77
間を歪ませる﹄とあった。
例の魔砲は、厳密には光そのものを集めてるわけではなかったと思う。
でもフォトン︵光︶を収束して、撃ち出して、砲撃なのに空間ごと破壊するような威
力を誇るって言えば、あの白い魔王を思い浮かべずにはいられるだろうか
目を瞑り、イメージを補強していく。
魔法を思い浮かべればイメージしやすい。
⋮例えばナイトウィザードのガンナーズブルームや棺姫のチャイカに出てくるような
元ネタのように杖ではないけど大砲系の武器から砲撃してるキャラも居たし、他作品
?
思い浮かべるのは全てを貫く星の光。周囲から集めて、固めて、ぶっ放す
目を開けて、詠唱を開始する。
ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ。うん、わかりやすい。
!!
光を吸収するように集めていく。
銃口には光球が、銃身の周りに魔法陣が現れ、後方にある3つのフォトン部は辺りの
全てを撃ち抜く光となれ﹂
星よ、集え。
﹁咎人達に、滅びの光を。
78
あ、魔法陣の意味が分かるのかとかは聞いてはいけない。
こほん⋮。
それにしても、やっぱりコピーの方の魔砲だけど、個人的に詠唱があるこっちの方が
すきだな。
だからこそ詠唱は一字一句覚えているわけだが。
閃光
﹂
光球が人よりも大きくなったところまで貯める事ができたので続きを詠唱する。
﹁貫け
あとはぶっ放すだけだ
!
これ、やばくない
?
﹂
ながら視界のすべてを光で埋め尽くしていく。
それはどんどんと、際限なく太さを増し、柱どころか壁と言えるほどの太さへと至り
光球が一度収縮し、次の瞬間には前方へと膨らみ、弾け、そして光の奔流となる。
!!!!!!
!!!!!
!
﹁スタァーライト・ブレイカァァァー
『stage5:ちーとぱうあー』
79
80
ィィィッン
耳がおかしくなるほどの音が辺りを支配し、目を開けていられないほどの閃光を生み
出した。
ドオォォォッン
結果だけ言おう。
!!!!!!
81
『stage5:ちーとぱうあー』
地形が変わりました。
を壊しながら突き進んだ。正直な話、大気圏突破したんではなかろうか⋮
山とか消し飛んだんで地図を書き換えなければならないレベルらしい。
ここまでならまだよかった︵本当はよくないが︶。
すいません、俺のせいです。
イリヤが訳を聞いたら、結界が壊れたから何事かと出てきたらしい。
ドさん達が城からぞろぞろと出てきたんだよ。
お城のガラスでも割れたのかな∼なんて考えてたんだけどさ、いきなり武装したメイ
確かに撃った後でパリーンッと何かが割れた音はしてた。
一番問題なのは、アインツベルンの地を守る結界もぶっ壊してしまったことだ。
?
俺が撃ったスターライトブレイカーは、かなり遠くまで威力が落ちることなく、地形
あの後は色々と大変だったぜ。
﹃stage6:できること、やりたいこと﹄
82
しかもだ。詳しい話を聞くと、結界を維持するために使っていた龍脈も一緒にダメー
ジを受けていて、アインツベルンの魔術的防御とかがズタズタなんだって⋮⋮。
思わず土下座をした。
謝り続けた。
それはもうひぐらし的な感じに⋮。
﹁ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい││││
│﹂
﹁あれだけの術が使えたんだから、直せるわよね
鬼だ⋮。
﹂
口は笑ってるんだけど、目が笑ってませんよイリヤさん
?
?
﹁えっと、直せなi⋮⋮﹂
でも、イリヤも了解してくれたじゃんとかきっと言ってはいけない。
だかイリヤからの風当たりが冷たい。
俺のせいだけどさ、なん
許してくれるのかな⋮。なんて、嬉しくなりながら顔を上げると││。
さっきまで黙ってたイリヤが優しく話しかけてきてくれた。
﹁顔をあげなさいコウジュ﹂
『stage6:できること、やりたいこと』
83
﹁できるのよね
﹂
﹂
?
マム
!!
やらなきゃ
殺︵や︶られる
!!
あなたを煽った私の責任でもあるから、手伝いはできないけど一緒に居
?
・
・
・
?
メイドさんたちが城内に全員入ったのを確認したイリヤは、腕を組みながらそう聞い
﹁それで、私もさっきはあんなことを言ったけど、できるのよね
﹂
そう言って、イリヤはメイドたちに持ち場へと戻るように言った。
るわ﹂
コウジュ
﹁はあ⋮ため息ばかりついてる気がするわ。
!!
自分を信じるがどうとか言ってられねぇ⋮。
﹁イエス
!
84
てきた。
﹁できる⋮かな
﹂
﹂
でもまぁ、スペック的にはできると思う。問題は俺の心しだい。
でもしゃーないやん。中の人はチート歴まだ数時間なんやから⋮。
呆れたように言われてしまう。
﹁なんで私に聞くのよ⋮
?
?
﹁どうして、言いきれるんだ
﹂
ちょっと、声が震えてしまう。それでも聞かずには居られなかった。
?
がまた上がり始める。
気がしたからか、それとも別な理由なのかわからないが、下がり気味だったテンション
何の疑いもなくそう言ってくれたことが嬉しかったのか、内心を見抜かれてしまった
その笑顔についドキリとしてしまう。
﹁あなたならできるわ﹂
ながら微笑んだ。
そんな風に思っていることがイリヤに伝わってしまっていたのか、彼女はこちらを見
それでもつい言い訳じみた言い方をしてしまう。やっべ、ビビってきた。
﹁能力的には十分可能だとは思うけど⋮、やったことないからさ⋮﹂
『stage6:できること、やりたいこと』
85
俺が召喚されてからまだそれほど経った訳ではないのに、
俺の問いに、イリヤはまた一段と笑みを深くし答えてくれる。
そしてそれが心強い。
?
﹁あのさ⋮⋮﹂
だ。
どうやら俺が何も続きを言えなかったことで、一人我に返って恥ずかしくなったよう
いた。真っ赤になってた。やっぱ可愛いw
そんな風に心の中に熱いものを感じていたが、ふとイリヤが何も話さないことに気付
パスを通じて流れ込んでいるのだろうか
出会ってそんなに時間が経った訳ではないが、本当に信じてくれているのが分かる。
でも、うれしい。
た。
こほん、ごめんなさい。急なシリアス展開に素直に身を任せることができませんでし
︵/ω\ *︶
さっきまで超かわいいと思ってたけど、今はかっこよすぎる。攻略されそうですぜ⋮
何このイケメン。
﹁⋮⋮﹂
﹁だってあなたは私が召喚したんだもの。だからできてもらわないと困るわ﹂
86
﹁⋮なに
﹂
!!
い、いきなりどうしたのよ大きな声をあげて﹂
!?
き、気になるぜ続きが。でも聞かない方が俺のためのような気がする。
﹁ふふ、ごめんなさい。あまりにも⋮いえ、何でもないわ﹂
俺がむすっとするのを見て、今度は笑みを漏らす。なんだよぅ⋮。
等閑な返事をしながら、呆れたような表情をするイリヤ。なんだよぅ⋮。
﹁はいはい⋮﹂
﹁ちゃっちゃとやってしまうためにも、気合を入れないとな﹂
﹁っ
﹂
頬をパチンっと一叩きして気合を入れる。
おかげで出来る気がしてきた。
な﹂
﹁あ り が と う な。で き る 気 が し て き た ぜ。な ん た っ て イ リ ヤ の サ ー ヴ ァ ー ン ト だ か ら
でも⋮。
顔を少し紅く染めながらそっぽを向くイリヤ。
﹁⋮うるさい﹂
﹁恥ずかしいなら言わなければよかったんじゃ⋮⋮﹂
?
﹁よっしゃ
『stage6:できること、やりたいこと』
87
﹂
そんなことを考えていると、イリヤがそう言えばと話を切り出す。
﹁あなたって龍脈を感じることはできるの
﹁たぶん可能﹂
うん、イケルイケル
そう仮定し、ある武器を思い浮かべる。
そして、こじ付けかもしれないが、命とは未来だ。未来を創るために必要なもの。
まず、龍脈はヒトの体で言うところの血管だ。つまり、大地の命の源が流れている。
というわけでさっそく武器選び⋮なんだけど実はもう決まってたりする。
!
龍脈の方も流れを調整してほしいだけだってことらしいし⋮。
れて失敗しそうだ。
むしろ詳しいことを知ってしまうと変に難しく考えて苦手意識みたいなものが生ま
じゃなかろうか。
でもまぁいずれかの武器に込められたチート概念を利用してしまえば何とかなるん
には龍脈の異常から直す必要があるとのことだ。ヒエー⋮。
細かい仕組みをイリヤが教えてくれたがよく解らないのでさて置き、結界を直すため
構成されているらしいのだ。
ああ、龍脈が何故関係あるのかっていうと、アインツベルンの結界は龍脈を利用して
?
88
﹂
よく使った武器の一つで、破格の概念を持つ物の一つ。
﹁来い。聖剣エルシディオン
イメージ
この剣を使って、龍脈が正常で、結界も復活しているという未来を描く。
内包された概念は、未来を創る力を持つという、聖なる心の宿る究極の片手剣。
ているかのような透き通った輝きを放つ刃を持っている。
一応片手剣にカテゴライズされるが結構な大きさがあり、黄金の柄に、光で形成され
現れたのは、聖剣の名にふさわしい聖なるオーラをまとった一本の剣。
!
いや、これが龍脈を流れる命の本流なのだろう。今の俺はなぜかわかる。
?
このままだと自分がアボンしちゃうので、その荒れ狂っているものが清流のように穏
やばい、なんか、こう、漏るってこれ⋮。弾けそう⋮。うえっぷ⋮。
だす。
けど、龍脈が荒れ狂っているからか、溢れ出てきた何かは俺の中にも入ってきて暴れ
何か
て身体の内側へと何かが流れ込む。
カチリと、何かが自らとつながる感覚が生まれる。地面から、エルシディオンを通し
﹁龍脈よ、連なる結界よ⋮元に戻れ⋮⋮戻れ⋮⋮﹂
エルシディオンを地面に刺す。
﹁創造開始│││││﹂
『stage6:できること、やりたいこと』
89
やかになるよう改めてイメージ⋮。
次第に、体に来ていたものが穏やかになる。
﹁再度イメージ⋮、元に戻った大地⋮﹂
外へ出てきたときに見た、幻想的な白銀の世界。
集中していた俺の意識を、イリヤの声が浮上させる。
﹁すごい⋮﹂
集中するために目をつぶっていたが、イリヤが何を見てそう言ったのか気になり目を
開ける。
小並感と言われるかもしれないが、たしかにこれはすごいとしか言いようがない景色
が目の前に広がっていた。
﹁これは⋮すげぇな⋮﹂
辺りを埋め尽くす光の粒子が、空へ昇っていく幻想的な風景。
雪だけで彩られていた山も大地も、浮き上がる光を反射して視界のすべてが輝いて見
える。
﹂
﹂
そしてその光たちは、時に集い、形を構成していく。
?
こんなこともできるなんて
!!
﹁直って⋮いってる⋮
﹁コウジュスゴイわ
!!
90
イリヤがクルクルと光の中で踊っている。
その足元の地面から溢れ出す光は留まるところを見せず、まだまだ空へと昇ってい
く。
時折イリヤへもその光は触れるがそのまま透過するように、イリヤ自身やその綺麗な
プラチナブロンドをうっすらと照らす。
くさいセリフだが、まるでその姿は妖精のようだ。
まるで魔法だわ﹂
?
けど、この世界にいる以上は自らに関わってくる事柄だろう。正直勘弁してほしいけ
だから俺は、原作を知った時からこの世界の魔術も魔法も嫌いだった。
魔法は、至ったその結果か、至るための手段であるそうだ。
犠牲にしてでも目指す者達だ。
そして魔術師ってのは﹃根源の渦﹄を目指して、自らを、その血筋を、様々なものを
並行世界の運営や魂の物質化がこれに当たる。
かない、真理の欠片。
それはこの世界で特別な意味を持つ言葉。人の手では決してと言ってもいいほど届
魔法⋮か⋮。
﹁よくわからないけど、これはあなたが起こしたのでしょう
﹁いや、これは俺も予想外だわ。まさかこんな風になるとはな⋮﹂
『stage6:できること、やりたいこと』
91
ど。
︵セルフ︶
!!
素直になれないお年頃なんだよ、ほっとけ。
﹁⋮むぅ﹂
﹁ふふ、何それ。素直じゃないんだから﹂
そんな俺を下から楽しそうにイリヤが覗き込んでくる。 恥ずかしいセリフ禁止
あかん、この身体になってからポロポロと恥ずかしいセリフが漏れ出す。
口に出してから恥ずかしいことを言ったと自覚し、照れて視線を少し下げる。
﹁うん、でもまぁこれが魔法だってんなら、嫌いじゃないな﹂
92
:孔明の罠だった⋮
???
本名
﹄
?
た場所です。
口調⋮ですか
変装です。
いおり
まぁエミリアの姿も可愛いですが、あれは悪魔でも⋮あ、間違いました、あくまでも
姿だって本当は、長い黒髪に着物を着た、ほんわかお姉さん系です。
私だって女ですからね。あんな変な話し方本当はイヤです。
変装のためです。
ああ、実は庵さん││もうコウジュさんでいっか││にお会いしたときの口調とかは
?
ここは、最初に庵さん││今はコウジュさんですが││にお会いした宇宙空間を模し
いいです。
天てらs⋮⋮いえ、言いにくいし、ほとんどそう呼んでくれないのでのでエミリアで
?
しがない中間管理職な神です。
皆さんこんにちわ。
﹃
『???:孔明の罠だった…?』
93
94
いやぁ、ダメですね。仕事以外の時間はお勧めされたアニメとかを見るのにはまって
しまって⋮。
人類が作るサブカルチャーってほんとに面白いんですよ
持っていったり、色々とよくもまぁ出てくるものです。一応、褒めてるんですよ
ほんと、馬鹿みたいに戦争してるよりよほど生産的ですよ。
っと、脱線しましたね。
え、変装をしていた理由ですか
│││ブワァ⋮│││
っと、丁度来られたみたいですね。
いてたり、裂け目の内側で沢山の目がギョロギョロしてるのは何ででしょうか
どうせまた何かの漫画か何かで影響を受けたんでしょうけどね。
?
それにしても、空間を裂いて来られるのは構いませんが、裂け目の両端にリボンが付
?
何でもかんでも擬人化したり、掛け算したり、歴史の過ちをそのままにせず笑い話に
?
ああ、そうそう、丁度今日はその方が来られるんですよ。
簡単に言うと、ある方に頼まれたからです。
?
紹介されて同じように影響を受けている私が言えることではありませんが。
﹂
これも何かのキャラの影響ですかね
?
知らない子ですね⋮。何のアニメでしょうか⋮。 ?
着てらっしゃいます。
今日は日傘に、ナイトキャップ それから和服と中華服の中間みたいなお召し物を
そして何故かいつも服装が一定しない方でもあります。
巻くように纏めています。モデル体形で雰囲気は妖艶の一言に尽きる感じですね。
蒼銀とでも言えばいい色の、地面に着きそうなほどの長髪をリボン状の封印符で軽く
いしてきた方です。
そう言いながら裂け目から出てきたこの方が、つい先日、コウジュさんについてお願
﹁あーちゃん、居るかの
?
﹁でもせめて他の神の前ではやめて下さい
﹂
わかりましたか神姫様
﹁む、努力はするからそんな他人行儀に役職名でよばんでくれ
?
!
﹂
﹁そうは言ってものぅ、我からすれば、あーちゃんはあーちゃんじゃよ﹂
いですから﹂
﹁はい居ますよ。それと、いつも言ってますがあーちゃんは止めてください。恥ずかし
『???:孔明の罠だった…?』
95
?
﹁はぁ、分かりましたよ光夜様。 これでいいですか
﹂
﹁うむ。本当は様も付けて欲しくないんじゃが、まあ良いか⋮⋮﹂
?
﹁それで、今日はお話があるとお聞きしましたが、やっぱりこの間の件ですか
﹂
﹁うむ、件の際は世話になったのう﹂
﹂
﹁いえいえ、でも良かったんですか
﹁何がじゃ
?
﹂
?
ものなのじゃよ⋮﹂
﹂
あえて言うとじゃのう、あやつは、我と同じ存在だったモノの欠片であり、受け継ぐ
﹁今はあまり詳しく言えぬ⋮。
﹁理由をお聞きしても
﹁ふふん、そうじゃの﹂
しまうようなずさんな事するわけないじゃないですか﹂
確かに、天界も人間界のように情報化は進んでいますが、そんな簡単に人を死なせて
﹁しかも、私にさせた説明もほぼでたらめですし⋮。
﹁まあそうじゃの﹂
ては能力値的におかしいですし⋮﹂
﹁転生させるためにあの身体を使ったことを始め、神見習いにしたこととか、見習いにし
?
?
96
何かを懐かしむように、目を細めながら微笑む光夜様。
その姿は、同じ女の私が見ても見惚れてしまうような美しさと儚さを醸し出していま
した。
ただ、一言言わせて下さい。
詳しく言えないとか言いながら、ちゃっかり言ってますよ
?
だから厳密には、神とはまた違う存在だとか。
ものらしいです。
光夜様が言うには、シンキの方々は、世界そのものに近く、所詮はシステムみたいな
を創るための知識だとかはお三方が教えて下さったものです。
でも、俗に言う創世神と呼ばれる神々が生まれる前からいらっしゃった方々で、世界
人間界に伝わっている創世神話だとかもあながち間違いではありません。
シンキとはすなわち、神樹、神姫、神忌を表し、世界の創世に関わった方々です。
﹃始まりのシンキ﹄。これは光夜様を含めてある御三方のことを言い表わす言葉です。
⋮﹂
﹁それにしても、光夜様と同じ存在だったということは、始まりのシンキのお三方ですか
『???:孔明の罠だった…?』
97
えっと、器と、接続と、バックアップ⋮
光夜様以外のシンキの方々ですか
?
?
それはまあ、今はいらっしゃらないとだけ言っておきましょう。
﹂
?
﹂
?
あと仕事多いんで﹂
?
﹂
?
﹂
?
﹁ほう⋮、やはり素質があるのう﹂
力を使っていきなり大地の創造とかしてましたよ
中々危ないことをしたものです﹂
﹁あ、そういえばコウジュさんに関してなんですが⋮説明をしっかりしなかったからか、
﹁うむ﹂
﹁約束ですからね
﹁う∼む、ならば、コウジュがしっかりとした神になった際には考えてみようかの⋮﹂
﹁他のみんなも帰ってきて欲しそうにしてますよ
まで汝らでなくてはならぬ。それに、最初だけという約束だったであろう
﹁前にも言ったが、我はただ在るだけじゃ。多次元世界や並行世界を運営するのはあく
﹁お仕事してくれないんですか
﹁新しい世界ができたのでのう。少し様子を見に行くのじゃよ﹂
﹁御用事ですか
﹁さて、我はもう行こうかの⋮﹂
98
?
﹁びっくりしました。
﹂
いきなり龍脈の再構築とか、そのために武器の概念の強化とかを感覚で行ってました
し、しかも、本人は気付いてませんが、もう能力が拡大してますよ
の他の補佐も引き続きよろしくのぅ﹂
﹁はあ、また仕事が増えた⋮。今度何かお願いを聞いてもらいますからね
?
話は終わったので、光夜様は帰るためだろうか、後ろを向き、どこからか出した扇を
﹁うむうむ。では⋮﹂
﹂
﹁そう言うでないよ。完成すれば何よりも助かるのは汝たちなのじゃからのぅ。まぁそ
・・
﹁まったく、笑い事じゃないですよ⋮。かなりヒヤヒヤしたんですから﹂
﹁くくっ、将来有望じゃのう。土台は確実に出来つつあるということか﹂
?
縦にスゥっと一閃。来たときにあったようなリボン付きの次元の裂け目ができた。
﹂
?
﹂
?
﹁ゆかりんじゃ﹂
﹁ずっと気になってたんですがその格好って一体⋮﹂
﹁うむ
﹁あの、最後に一つ聞いていいですか
そう言って、中に入っていく光夜様。
﹁また何かあったら来るからのぅ﹂
『???:孔明の罠だった…?』
99
﹂
それだけ言い残して帰っていった。
だれ
?
?
ぐぐれってことですか。はい⋮。
﹁ゆかりん
100
それは普段やらない子だって
は伊達じゃない。
何
ほっとけ
?
﹄
!?
﹃ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン﹄
あの日、俺が修復を終わった後にある人からお呼びがかかった。
た日にさかのぼる。
なんでこんなことをしているかと言うと、話はチートパワーを使って、あれこれあっ
だ。
今は荷物を積めてる最中だ。言っておくが俺のじゃねぇからな。もちろんイリヤの
実は、あれから数日がたっている。
!!
?
俺って昔から、小学校とかの成績簿に﹃やればできる子﹄っていう評価を頂いてたの
いやぁ、やればできるもんだね。
﹃stage7:一気に本編
『stage7:一気に本編!?』
101
102
アインツベルンの現当主にして、八代目、故にアハト公ともよばれている。
すでに二世紀近くも生きており、ここ数何百年かの支配者。
アインツベルンの宿願である、第三魔法:魂の物質化に固執し続ける男。
この人がまた厄介だったんだよ。
いきなりイリヤと共に地下の神殿みたいなところに呼び出されてさ、アハト候が俺に
向かってあれこれ言うんだよ。
やれ、これで宿願が叶う⋮⋮。
やれ、今度の聖杯戦争こそ⋮⋮。
思わず、ハリセンで叩きそうになった。
それからイリヤも色々言われていた。
イリヤのお母さ
よくわからないが、あいりすふぃーるがどうとか切嗣がどうとか⋮。
切嗣は主人公の士郎のオヤジさんだろ あいりすふぃーる⋮
んだよな
?
?
を担いで部屋を出た。
でもまあ、イリヤをその場に居させるのは、駄目な気がしたんで話の途中で、イリヤ
なんでその話をしている時のイリヤが悔しげだったのかがわからん。
駄目だ、うろ覚えだ。
?
『stage7:一気に本編!?』
103
後ろがまだうるさかったが知らん。
今までどこにいたのか知らんが、悪影響しかもたらさないであろうことは分かった。
なノリで、冬木の地に行くことにした。
だから、ここにいるとまた同じことが起こるかもしれない。
だったら⋮だ⋮。
そうだ冬木市に行こう
あのじいさん。生涯現役か
どこの会長だ。
それでも諦めずに、あれこれしようとしてしてくるんだから困った。元気すぎるだろ
単なお仕事でした。
造られた存在故の魔術的支配権とかあったみたいだけど、ラインぶった切るだけの簡
だがしかし、悪いなぁじーさん。既に屋敷のメイドさんはすべて味方だ。
な手段を使いながら妨害をした。
もちろん大急ぎでやったし、あの爺さんがちょっかいを掛けてこようとしたら、色々
けはした方が良いって言ってくれたから、少しだけ言葉に甘えた。
俺はイリヤのためにもすぐにこの地を離れようと思ったんだが、イリヤが力の練習だ
数日時間が空いているのは、俺の力を制御できるようにするために使った時間だ。
そして話は冒頭に戻る。
!
そのあたりの話をしているとそれだけでラノベ一冊分くらいの物語ができてしまう
?
104
のでさて置くが、その数日間で得たものは多かった。
まず初めに、基本技能を使った戦闘をメイドさん相手に試させてもらった。
ジャストアタック︵JA︶とかジャストガードとか︵JG︶の便利なゲーム内スキル
が使えるかどうかだな。
でもこれは割と簡単にできた。
どちらも俺の中にあるエネルギー、ゲーム内で言えばP.P.︵フォトンポイント︶と
してゲージで表現されていたものを瞬間的に凝縮することで発動するようだ。
それによって元々馬鹿力なところへさらに攻撃力を高めたり、ガードの瞬間にはダ
メージを相殺するなんてことができるようだ。盾を使った場合はシールドバッシュの
ようにダメージ反射なんてこともできる。
でも結局フォトンエネルギーそのものについてはよくわからなかったなぁ⋮。
素人考えで、フォトンっていう位だから光が関係するのかと思ったが、そんなことは
なかった。夜になったら力が弱くなるなんてことが無いことは確認した。
光粒子だとかこう光子力とかそういうのかと思ったけど違うッぽい。ビームは撃て
るけど。
結局のところ色々試して解ったのは、ゲーム内でフォトンアーツやガード使用時に消
費していたフォトンエネルギーは魔力︵マナ︶に近い未知のエネルギーってところまで。
『stage7:一気に本編!?』
105
俺の中でどうなっているのか、龍脈から得ることができたマナで流用するなんてことも
できた。
ゲーム内ではP.P.ゲージはMAXで200だったが、その分回復速度が速かっ
た。ああ、敵に通常攻撃することでもゲームでは回復したが、当然のごとくなのかそこ
はゲームみたいにはいかなかった。
さえおきそのP.P.ゲージがフォトンエネルギーに対する体内の器にあたるよう
で、それが周囲のマナか何かを吸収して常時回復していくんだが、龍脈に一度接続して
アボンしかけたおかげでその器が広がったようだ。しかもまだ龍脈上に居ればライン
を繋げられる状態。
・ω・`︶
普段でも回復速度が速くて、龍脈接続状態だとエネルギー汲み上げ放題
よほどの激しい戦闘じゃない限り半永久機関だこれ⋮︵
似ているし、JG・JAとかはH
Hのオーラ操作における応用編〝流〟に似た運用方
テクニックとか使用する際の属性変換はリリなので言う魔力変換資質による攻撃に
漫画のオーラに似た運用が適しているってところか。
あと分かったことと言えば、概念的にはリリカル的な魔力に対する概念と、某狩り人
´
いや、マジで何なのこのエネルギー。
法だ。基本の4大行とかも一応それっぽいことができた。 ×
106
けど、考えても調べても所詮中身は一般人なので、そのうち俺は考えるのやめた。
まぁテレビやらエアコンやら精密機械の構造やら原理を分かって使ってるわけじゃ
ない現代一般人故の境地かなww
次に試したのはフォトンブラスト︵獣化︶についてだ。
ゲームの時みたいにバッジみたいなもので予め何になるかを決めるのでもなく、ゲー
ジのようなものがあるでもなく、こう、なんか身体の中でテンション的なものが上がっ
たら何となくなれそうな感じが出てくるので、その時にどの種になるかを頭の中で決め
たらなれるっぽい。ぽいぽい。
某戦果がはっきりしないぽいぽいさんになるくらいには大体でしか未だ解っていな
い。だってメイドさん相手に必殺技放つわけにもいかないじゃん
とか。
ンエネルギーをH
Hの〝堅〟のように高密度にして纏っているからのようだってこ
とりあえず分かったのは、ナノブラスト中無敵状態なのはそのままで、それはフォト
?
暴走状態は、ゲームでは強力な力を得る代わりにフレンドリーファイアが発生すると
間や攻撃力が変わる。ま、道理だな。
獣化の種類により防御以外に回すフォトンエネルギーの使用法が違うために変身時
×
いう設定だったが、現状では体内のフォトンエネルギーを文字通り暴走させて、荒れ狂
わせた状態故に身体能力が大幅に上がり余波だけで周囲に被害が出てしまう。しかも
ほんとに狂化っぽく意識を保ちずらくなっていた。
また、ゲームみたいに一定条件後に低確率でなるとかではなく、感情に左右されて
るッぽいことがわかった。だから理屈で言えばいきなり暴走状態にもなれるみたいだ
な。
圧倒的な身体能力って意味では使いこなせるようになりたいけど、意識を保ち辛いの
がなぁ⋮。
的な感じに。
というか単純な戦闘でも﹃獣の本能﹄とやらの所為か、変にテンションが上がって体
が勝手に動き出す。こう、ヒャッハー
その御陰で中身が一般人の俺でも戦闘行動が可能なんだけど、ちょっと気を抜くと
!
これなぁ⋮。
そ、そして最後に、﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄についてだな。
あのイリヤさん、もう城を半壊させたりしないのでそのジト目勘弁してください。
最初のころは大変だった⋮。練習してほんと良かった。
﹃変なPA出ちゃう⋮//﹄状態になったりケモっちゃうんだ。
『stage7:一気に本編!?』
107
108
アルスマグナ
一番チートなんだけど、でもデメリットが大きすぎるんだよ⋮。
﹃錬金術﹄に似ていると前に言ったけど、あれより能力としては発展性があるし、強力
だった。
ただ、その分マイナス面へも振れ幅が大きすぎる。
例えばマリ○カートをやるとする。
あれはただのレースゲームではなく他キャラを攻撃するアイテムがあるわけだが、あ
のゲームを俺がやると画面の前に居るのに追跡機能付き甲羅だったり雷だったりが当
たったかのようにダメージを受けたりしびれたりする。
カートが曲がるのと一緒に体も傾く俺だとそうなる訳だ。
例えば格闘ゲームをやるとする。
タダのパンチやキックだけでなく、格闘しろよってレベルの超能力やら魔法やらよく
解らんものまで飛び交う昨今だが、それらを自キャラが食らうと画面前の俺もそのよく
﹂って言っちゃう俺はそうなっちゃう訳だ。
わからんものまでダメージを再現してしまう。
攻撃食らったら﹁痛ぁっ
み出してはある。
ま、まぁ一応、このままではいけないと思って戦闘に生かせそうな方法をいくつか編
最近の子は感受性豊かだって言われるし、仕方ないのかもね☆
!?
『stage7:一気に本編!?』
109
例えば﹃スペルカード﹄方式。
スペルカードと言えば東方だが、弾幕ごっこ用のように美しさなどに重点を置くので
はなく、技の宣言や前もってどういう技かをカードという形で明確にしておけるのでイ
メージしやすく相性が良かった。咄嗟の時に規模や威力でやらかさないようにもでき
るしね。
東方内で出てくるスペルを再現しようとしたけど、やはり印象に強く残ってるものは
Hにおける制約と誓約。
BOSSクラスのものばかりで危なくて使えないものばかりができたのは余談かな。
もうひとつが、H
やったねイリヤちゃん手数が︵ry
たわけだ。
だからアストラルライザーを使ってSLBの再現をしたのは偶然にも良い方法だっ
すくしてみた。
えて制限を掛けることで効果を研ぎ澄まし﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄を使いや
それを参考に、代償を払うことや理由付けすることで自らに言い訳し、技と能力にあ
関わるから。
上させるためのものだ。それができるのも念能力というものが術者の心理面に大きく
あれは念能力者が自らの念能力に対し制約と誓約を課すことでその威力と精度を向
×
110
防御面でまだまだ問題いっぱいだけどね
そんなわけで、冬木市に行く準備は整った。整った
どうせなら動くようにでもしようかな
ww
うん、整った。
せいぜい雪だるま位かな。折角作ったやつだし、というか邪魔って言われたし。
俺自身の荷物なんてほぼないからなぁ⋮。
そのほとんどが戦争のための準備ってのは悲しいが。
?
!
ホカのものが食べられる感動⋮。
デザートなんてあるだけ入れておいたら、いつでも食べ放題だぜ
!?
分かるかな⋮。作り立ての料理をアイテムボックスに入れておいたらいつでもホカ
チートだよな。
よくある転生やらトリップ物の小説でも言われるけど、アイテムボックスってホント
だからこそ雪ちゃん︵雪だるま︶も持っていけるわけだし。
念が無いようで、物が劣化しないようだ。
そういえばアイテムボックスの中がやっぱりというかテンプレ的というか時間の概
?
た、食べ物ばかりで悪いのかよ なんかこの身体になってから燃費悪いし甘いもの
!
『stage7:一気に本編!?』
111
がかなり好きになったんだから仕方ないだろ
こほん⋮。
!!
とりあえず、向こうにはすでに従者さんが行ってて、受け入れの準備も整っているら
しい。
うん、行こうか。冬木市へ
!!
あれは嘘だ
だから物を投げないで
ちゃんと行きますって
冬木市へ行くと言ったな
こほん⋮。
ちょっと寄り道するだけですって
ごめんなさい
?
やって来ました日本の地。
改めましてちわっす、コウジュです。
!
!
雪山も良かったけど、魂の故郷でもある日本に居ると心が落ち着くのは文字通りのそ
なかったよ。鼻がよくなった俺だから間違いない。でも味噌スープは食べたい。
久しぶりに帰国した日本人は味噌の匂いを空港で感じるっていうけどそんなことは
いや∼、やっぱり日本って良いね。空気を感じるだけでも懐かしさが溢れてくる。
!
!! !!
﹃stage8:やぁってきました冬木市﹄
112
うるぷれいす的なものだからなのかな
w 俺初めてファーストクラスに乗ったんだけど、なにアレ。あんなサービスまであるの
さておき現在は、空港である。
あ、ごめん、あめりか語は不器用なんだ⋮。
?
仕方ないじゃん⋮。
もう機内に住めばいいんじゃないかな
たぶん今の俺はすんごいふわふわした笑顔をしていることだろう。
ちょっと前までお城に居た訳だけど、セレブ気分を味わえたので大満足。
!!
一般家庭の一般人なめんなし。
部屋タイプもある
?
でもいい経験になったわ。
︵発狂
だって今まで飛行機に乗った経験って2回ほどしかないし、当然エコノミーでしたよ
た。解せぬ。
し、なんかそわそわしてしまってイリヤに怒られた。あと周りから暖かい目で見られ
一席一席がベッドみたいになるし、マッサージ機能付いてたりとか、食事もおいしい
?
?
﹁ういうい﹂
﹁ちょっとコウジュ。しっかりしてよね﹂
『stage8:やぁってきました冬木市』
113
﹁はぁ、ほんとさっきのは恥ずかしかったんだから﹂
﹁いや、悪かったって﹂
﹁まったくもう⋮﹂
呆れたようにため息をつくイリヤにちょっと文句を言いたくなったが、言い経験をさ
せてもらった俺は大人しくする。
ほら、精神年齢的には年上だし、年上の余裕ってやつをだな・・・。
﹂
﹂
断じて財布を握ってるイリヤにお小遣いをもらえなくなるのがいやだからではない。
﹁おや
﹁どうしたの
だと思うけど、誰か有名人でも居るのかな
荷物を回収した後歩いていると、少し離れた場所に人だかりを見つける。別の搭乗口
﹁いや、なにか騒がしい感じが・・・﹂
?
?
なるなぁ。
おや、皆してこっち来た。しかもすごい勢いで
!?
結構な良い体格をした男達がこう内緒話をしてるのをリアルに見ると微妙な気分に
?
あ、そのうちの一人と目があった。何か周りとひそひそと話し始めたんだけど何さね
?
114
﹁お嬢さん
﹂
﹂
る訳でもない。私たちが有名人なわけでもない。
というか俺達を囲っているのは何と言うか大きいお友達
?
﹂
聞けば理由もわかるだろう。
!?
?
﹁写真撮らせてもらっていいですか
﹁キャリガイン⋮﹂
﹂
しかしまぁ態々声を掛けてくるのだ。何かあるのだろう。
何故ここに居る。
だった。
まさか日本に降り立った途端に敵の攻撃だってわけでもないだろうし、知りあいが居
それにしてもいったい何の用だというのだろうか。
しまった。恥ずい⋮。
一応サーヴァントとしてイリヤを後ろに庇うが、あまりの相手の勢いに変な声が出て
﹁はひゃい
!? !!
﹁えっと、なんですか
『stage8:やぁってきました冬木市』
115
﹂
!!!?
を持てなくもないけど、なんかこうヤらないとイケない気がするんだ
それでも手を離さないイリヤのおかげで少し冷静になった。
でもなんでいきなり写真なのか。
それも理由を考えているとオーディエンスの御陰で大体分かった。
って怒ったら、何故かイリヤも含めて俺を見るんで、よくよく
!!
ぜ
まだこれの方が最初から着てた分、心のライフは削られねぇよ。
だってさぁ、城にあった代わりの服なんて着れそうなのイリヤのフリフリのやつ位だ
そう、俺の格好は召喚された時のままだ。TS転生してここにいることを忘れてた。
考えたらコスプレ少女は俺だった。
誰がコスプレ少女だ
それから聞こえてきたのが、コスプレ外国少女だとか白い姉妹だって言葉。
で、その集団がそのままシフトしてこっちに来たわけだ。こっち来るな。囲うな。
にアイドルか声優だかが飛び立ったので、その見送りに来てたらしい。
周りから聞こえてきた話を繋ぎ会わせると、どうやら偶然にも俺達が空港に着く直前
!!
いきなり写真を撮ったわけじゃないし、まぁ了承を得ようとしているところには好感
ちゃ武器を出して振り下ろせないじゃないか。
おやおやイリヤさん何で俺の腕を掴んでいるのかな。はっはっは、そんなことして
﹁待ちなさいコウジュ
116
?
『stage8:やぁってきました冬木市』
117
あ、イリヤはアニメの時にも着てた服の白いバージョンだ。あのモコモコしてるや
つ。二人で並ぶとモノクロになって丁度いいんだ。
まぁ、そんなわけで、外国のレイヤーさんだと思ったらしい。
でも違います。
大声上げるぞこんにゃろう。
そんな寂しそうな眼をしても撮らせてやらないってば
というか本物のレイヤーさんはちゃんと着ていい場所でしかしないと思うんだ。
こら
というかいい大人達が少女二人を囲うな
これも大人役と一緒に来なかった所為なんだろうか
まったく⋮。
!!
この世界の自分については、前にネットとか見て前世と全然違うみたいだから居ない
らあまりイリヤ以外の目はあってほしくないんだ。だから断った。
うーん、でも冬木に行く前に観光とかしたかったし、この世界の自分とか気になるか
いけど合法幼女だし。まぁ殺傷能力半端ないけどなw
まぁ客観的に見ても結構な美少女だからなぁ俺たち。しかも双子︵設定上︶。言わな
かったかな。
設定だからいらないかなって思っんだけど、こんなことならやっぱり来てもらえばよ
書類上はイリヤの実年齢は大人に近いし、俺の用意してもらった戸籍もイリヤと双子
?
!
!
118
そ
可能性も高い⋮というか住んでいた町が無いんだけど転生者としては気になるじゃん
っておい、そこで勝手に写メ撮ろうとしてるお坊ちゃん、人生から退場するか
とりあえずにぱー☆としておこう。
あ、目があった。
元凶の一人だけど、マナーは守ってくれてるし、良い人だな。
を掛けた人だな。
おや、何とか事態を収拾させようと眼鏡のお兄さんががんばり始めた。最初に俺に声
力を使う訳にもいかないし⋮。
いっぱい居てそれもままならない様子。
俺が困ってることに気付いた前の方の人は避けようとしてくれてるんだけど、後ろに
というか日本人の奥ゆかしい、一歩引いた態度はどこに行った。
うーむ、どうしたものか。全然帰ってくれない⋮。
いや、だから、レイヤーじゃないって。一般人一般人。
ういうのイケないんだぞ。レイヤーさんに迷惑だし、一般的にもマナー違反だからな。
?
?
『stage8:やぁってきました冬木市』
119
⋮⋮おうふ。
辺りがとあるメイド長で言うところの忠誠心に当たるもので真っ赤になってしまっ
た。他の人も含めて鼻血ブシャァッ
いや俺悪くないし。
どこのスクデッドだよって感じなんですけど、どうしてこうなった。
!
え、何ですかイリヤさん。これをどうするのかって
とりあえず││││
逃げるんだよぉぉぉっ
さて、城に到着っと。
!!!
?
120
やはり日本はいいね。
とりあえず東京、大阪、京都と行ってきたけど、美味しいものも食べてきれいなとこ
ろも沢山まわれて満足だ。あと美味しいもの。
体感時間で言えばそんなに離れていたわけじゃないけど懐かしさが胸の内からあふ
れて仕方がない。
だから新たに荷物が増えて自分用のお土産がいっぱいあっても仕方がないのである。
うん、イリヤさんその冷たい目をやめてください変な扉開きそうになるから。
そんなことを考えていたら、目の前の扉が開いた。出迎えてくれたのは二人のメイド
さん。
もちろんお馴染みの、セラさんとリーゼリットさんの姉妹だ。俺が召喚された時点で
冬木入りしてからこれが初顔合わせになるな。
新たな原作登場人物にワクテカである。
二人ともパッと見た感じキリッとしてるから冗談を言う暇が無いけど、やっぱりセラ
さんはキチっとしてて、リズさんはプライベートではふわふわしてるんかな
気になるけど聞く訳にはいかないし、これから一緒に住むわけだからその内知る機会
るイメージなんだ⋮。セラさんはそのままできる家政婦なイメージだけど。
俺の中でリズさんってシャツにジーンズ履いて、リビングのソファーでポテチ食べて
?
『stage8:やぁってきました冬木市』
121
もあるか。
私気になります
ってしたいけどがまんがまんっと。
気づいてしまったけど、これってすごく大変なことなんじゃ
待て⋮。ここに住む⋮
はっ
俺って、見た目少女⋮ってか幼女だけど中は男ですよ
もとはエロゲか。いや、でもこれ大丈夫なのかな
?
美人なお姉さん︵メイドさん︶二人と一緒にだなんて⋮。どんなエロゲ展開だ
!?
?
!
イリヤ
うぅ、今更だけど、中身についてのことを言ってないことに罪悪感が⋮。
え
?
行っちゃうからゆっくり見る暇が無かった。残念。
あ、
なりテンション上がったが、セラリズさんもイリヤさんも真面目な顔をしてどんどん
道中にはアニメで見たアーチャーVSバーサーカーで使われた場所などがあってか
れていく。
一先ず考えるのを止めて、セラリズさん達と軽く挨拶しながら俺たちは中へと案内さ
うなし。大事なことなので何度でも︵ry
いつか本当のことを言うとして、とりあえずはなるようにしかならないか。ヘタレ言
!?
!?
!
いや、イリヤは妹みたいなもんだし、保護対象だから。
?
だがいいさ。今日からはここに住むんだ。いくらでも見る機会はあるだろうさ。
聖地に在住って最高にテンション上がるなw
﹁こちらになります﹂
﹁ご苦労様。コウジュはあっちらしいわよ﹂
一番後ろでニヨニヨしてるうちにどうやら部屋に着いてたらしい。
﹁あいよ﹂
本国のお
・ω・`︶
それにしても、部屋が隣なのはわかるけど扉と扉の間が広くないですか
城でも思ったけど、ここも広いのな。
元一般人の俺にはあまり広すぎる部屋は落ち着かないのです︵
?
﹂
?
﹁これからの行動について話をしようかと思ってな。最終確認さ﹂
﹁どうしたの
お疲れですね。俺が観光だって言って連れまわしたのが原因だけどw
しかしそこには見事な垂れイリヤが⋮。
コンコンコンとノックをし、了承を得てから中へと入る。
セラリズさん達は他の仕事へと向かったので、イリヤと二人での話だな。
られた部屋へと入って荷物を置き、お隣さんへと向かう。
とはいえそんなことを言ってても部屋が狭くなるわけでもないので、自分に割り当て
´
122
﹁⋮明日にしましょう﹂
あかん⋮、重傷や。
﹂
何その明日から頑張る的なの。
﹁あの、イリヤさん⋮
?
てるでしょ
﹂
ス
タ
﹁あなたと違って私は頭脳派なの、文系なの あれだけ歩き回ったら疲れるに決まっ
レ
﹂
!
﹂
﹁てへぺろ﹂︵・ω<︶
町に行ってきます
﹁令呪を以て命じるわ⋮﹂
﹁ごめんなさい
!!
でもこの身体になってからテンションの上下が激しくてついやっちゃうんだ☆
心の中で謝りながら廊下を歩いていく。
いだろう。
後ろから﹃まったくもう⋮﹄とため息まじりの声が聞こえるが、今は戻るべきじゃな
!!
!?
慌てて俺は部屋を出る。
﹂
﹁回 復 し な い と ダ メ な ほ ど 疲 れ た っ て 言 う 部 分 を も う 少 し 考 え 直 し て く れ な い か し ら
?
!!
﹁そこはほら、回復魔法使ってあげたじゃん
『stage8:やぁってきました冬木市』
123
124
まぁ大体の作戦に関してはイリヤに伝えてあるし、了承も得てある。問題はないだろ
う。
ぶっちゃけた話、俺は原作ブレイクがしたい。
原作は好きだが、話中で犠牲になっていた存在をそのままにしておけるほど俺は冷め
ているつもりはない。
特に、この世界に来てから一番縁が出来てしまっているイリヤを見殺しになんてでき
るはずがない。
せっかくのチートなんだ。自分の身を守るためだけに使うなんて男じゃないだろ
TSしてるじゃんってツッコミした奴は屋上。
先に言った、イリヤに伝えた作戦ってのもその為のものだ。
かったのですべて終わってから話すと伝えると言った。
当然どうしてそんなことを知っているのか聞かれたが、上手い言い訳は思いつかな
父、衛宮切嗣について知ってることや衛宮士郎についても。
であろうサーヴァント、居ないはずの8人目のサーヴァントについて教えた。イリヤの
それを除いた部分で確定している情報⋮、例えば聖杯が穢れていることや召喚される
識もあいまいな部分が多いし、すべてのルートを知ってるわけじゃないからな。
自分が転生者だとか、どうなるかが分かってるとかは言ってない。それ以前に俺の知
?
正直自分でも馬鹿だなぁと思う。会ってすぐの俺がそんなことを言っても誰が信じ
るというのか。
でも、イリヤは信じてくれた。
なんでも、
﹃あれだけ真剣な目をしたあなたの話を、マスターである私が信じないわけ
にはいかないじゃない﹄だってさ。ホレテマウヤロー
うん、その信頼に俺は絶対答えるよ。
あれ、これなんかプロポーズっぽい⋮
対イリヤを幸せにしてみせる。
﹃絶対なんて言葉は絶対無い﹄なんて誰だったかが言ってたかもしれないけど、俺は絶
!
思ってた以上にハイになってたのかねぇ
あ あ、で も 町 に 買 い に 行 か な い と だ な。何 故 こ こ に 来 る 前 に 買 わ な か っ た し 自 分。
う嫌だ。
とはいえこの服のままで外に行くわけにはいかないよなぁ。コスプレ少女扱いはも
聖地巡礼ではありませんのであしからず。
その第一段階として、冬木市の地理を把握しないといけない。
けど大体の目途は立ったわけだ。 こほん、というわけで、自分のチートと照らし合わせて、まだいくつか準備は必要だ
?
?
『stage8:やぁってきました冬木市』
125
126
まぁこの服がやけに体に馴染んで違和感無いのも原因の一つか。
ほんと、最近この身体が馴染んできて困っている。
他人だけど他人じゃない感じだ。転生してすぐはもう少し違和感が強かった。
でも最近は少しだけ違和感が付きまとうが、身体の動かし方や能力が意識せずとも湧
き上がる。汲み上がる。
誰かが言ってたっけ。魂は器の影響を受けるって。
それが本当なら、俺の未来はロリババアなわけだ。不老不死だし。
今もまだ残っている違和感が男としての最後の一線なのだろうか
死守しよう。うん。
でも、そこまで思うなら恰好だけでも男らしくすればいいと思うじゃん
だけどな⋮。
俺は男物が着れない
?
?
勿論男物も入ってんだぜ
そっちは大人しめのものが幾らかあるし試そうとした
衣装もコスプレっぽくなるんだ。
俺のアイテムボックスにはもちろんPSPo2内の全衣装も入っていた。けど、どの
!!
?
んだ。しかし、何故か着ようとしたらアイテムボックスに勝手に戻りやがる。
PSPo2内では違う性別用の服を着れなかったからその影響だろうか
世界の修正力とか言わないだろうな
きるようになっている中で何故ここだけ拒否られなければならないのか⋮。
殴り攻撃ができなかった杖が出来るようになってたりとシステムを越えた動きがで
?
かけたけどね
イリヤのはフリフリの可愛すぎるやつばかりだから選択肢には入らない。着せられ
まったく訳が分からないよ⋮。
ボックスになぜか入るか、無理やり着ようとしたら爆発四散した。
城にあった男物をイリヤに借りて着ようとしたこともあったけど、それもアイテム
故こんなことができないんだ。
もしそうなら、色々とチートになって概念を操ったり、幻想具現化とかできるのに何
?
安い店があることを願わないと。あと
?
メセタ︵ゲーム内通貨︶はいっぱいあるけど当然使えないし、貰ったお小遣いもあま
俺が着れる男物。
町のファッションセンターとかあるかな
これはやはり買いにいかないといけないかな。
!
り残ってないし大事に使わないとな
!
『stage8:やぁってきました冬木市』
127
が居た。
﹂
持ってない﹂
﹁リーゼリッ﹁リズで良い﹂⋮リズは、男物の服持ってたりしない
﹁男物
﹁必要なの
﹁あるんだ
﹂
﹂
﹂
!?
そう言い残してリズがどこかへ向かった。
﹁ちょっと待ってて⋮﹂
﹁なんですと
﹁ジーンズなら持ってる﹂
!?
﹁あるよ﹂
まあ、無いよねぇー⋮﹂
かったんだよ。上もひらひらしてないのが良いんだ。
﹁必 要 っ て わ け じ ゃ な い ん だ が、ス カ ー ト じ ゃ な く て ジ ー ン ズ と か の ズ ボ ン が 掃 き た
?
﹂
考え事をしながら歩いていたから気づけていなかったが、すぐそこにリーゼリット嬢
﹁どうかした
?
そりゃそうか。こんな美人が態々男物を持ってるわけないよな。
?
?
128
しばらく待つとリズは戻ってきた。その手にはジーンズと白のセーターがあって、そ
﹂
あ、俺のことはコウジュでいいよ。イリヤに仕えてるって意味では
これどう
してそのまま俺へと渡してくれた。
﹁コウジュ⋮⋮様
?
﹁おおおお
念願のズボン
ありがとうリズ
!
﹂
裾を折れば細身なのもあってピッタリになりそうだ。
タートルネックの白いセーターはモコモコとしていてあったかそうだし、ジーンズも
広げてみると、少し大きいが俺でも着れそうなサイズだった。
﹁うん、わかった﹂
同僚みたいなもんだろうし﹂
﹁Thanks
?
!
!
割としっかり表出できているようだ。
これはイリヤがそばに居たからなのかな
?
﹂
向こうの城に居たホムンクルスちゃん達は確かに感情の起伏が少なかったが、リズは
原作設定ではその出自から感情が希薄だなんてあったはずだが、何この天使。
うっすらと、そう言いながらもほほ笑むリズが超かわいい件について。
﹁よくわからないけど、よかった﹂
!!!
﹁それにしても男物持って無いって言ってなかったっけ
?
『stage8:やぁってきました冬木市』
129
まさか、彼氏のものとか 無いとは思うが俺の天使ちゃんを嫁に欲しかったら俺を
倒してからにするんだな。
!?
﹂
?
︶b
´
そんなものいらないよね
ね
?
では手慣れたものだ。
着替え描写
?
さて、着替え終わるのを態々待ってくれていたリズに挨拶だけして目的の街へと繰り
?
鼻が落ち着いたところで、パッと着替える。嫌なことに、元々着ていた複雑な服も今
︵`・ω・
とりあえずアハト公。お前のこと嫌いだったけど、今ならちょっと許せる気がする
し、変態あつかいされてしまう。
あかんあかん、鼻から忠誠心を吹きだすのは咲夜さんとか宮前 かなこの持ちネタだ
慌てて抑えるのを見てリズはまた首をかしげる。だから駄目ですって。
こてんと首をかしげるリズに、鼻の奥が熱くなってしまう。
﹁何か違った
﹁うぅ∼、で、でもズボンだ。それだけで大分よし。スースーしない。万事OK﹂
﹁どう見ても女の子﹂
﹁⋮⋮ま、まあ、男物にみえるから良いや﹂
﹁それ、女物﹂
130
出すか。
﹁どうかな、変なとことかないよな
﹁うん、かわいいとおもう﹂
﹂
﹁お、おう⋮。それじゃ、い、いってきます﹂
?
う。
思わずリア充爆発しろ
!!
たんだよなぁ。転生時点から。
ふむ、そういえば、リア充で思いついたけど俺ってある意味〝リアジュウ〟ではあっ
って言いたくなりそうだが。
とりあえずは、主人公でありイリヤの目的人物でもある士郎君でも探してみようと思
森の中を突き進み、目指すは一先ず人通りの多い商店街かな。
ワクテカが止まらんな。
すきっかけとなった原点。
そして目的地は、物騒な戦いが起こる場所とはいえ多くのファンや二次作品を生み出
可愛いメイドさんに見送られての外出とかなんてリア充なんだろう。
﹁行ってらっしゃい﹂
『stage8:やぁってきました冬木市』
131
132
お、俺上手いこと言った
?
ら誰にも気づかれずにビルの上を飛び跳ねたりもしてみた。何これ超楽しい。
獣って言う位だから狩猟本能的なもので気配を消すなんてことができたのかねぇ
!?
れてるだろたぶん。
﹃アイエェェェェ
﹄とか聞こえたりなんてしてない。うん。 何回か気を抜いて見つかりそうになりましたけどねw まぁ見間違いだと思ってく
?
︻獣の本能︼の御陰か、念で言うところの〝絶〟っぽく気配を消すなんてのもできたか
できるもんだね。
町に出た後は誰も居ないのを見計らってビルの壁面を走り上がったりしたけど案外
いました。
実は、身体能力チートのおかげで樹を飛び移ったりとか余裕できるようになってしま
どうも、おはこんばんちはコウジュです。
リーランニングしていたでござる。
森の中を歩いていたが一人なのもあってドンドンスピードが上がり、最終的にはフ
﹃stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です﹄
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
133
134
それにしても、気配を消す⋮というか気配遮断ってアサシンのお家芸だと思ってたん
だけど、思い付きでやったら出来たのでホントびっくり。
せっかくだから今度は︻幻想を現実に変える能力︼を使って何かしらの〟理由付け〟
﹄
﹃最初から居たさ﹄的な駆け引きとかやってみたくな
を考えて、ガチアサシン目指してみようかな。
ほら、
﹃いつからそこに居た
い
もしできたらアサシンさんごめんね
!?
今居るのはその中でもよく見た商店街だ。
そんなことより、ついに念願の原作アニメでも見た覚えのある街中へと到着しました
まぁいいか。
あ あ で も 第 五 次 聖 杯 戦 争 で 召 喚 さ れ る ア サ シ ン は ア サ シ ン や っ て な い ん だ っ け。
!
?
の女性が魚屋さんの前でメモとにらめっこしていたり、おや、パン屋さ
?
んから泣きながら走り出来てきたポニテ奥さんをパンを持ったイケメンの旦那さんが
物に皮ジャン
たちと歩いていたり、ツンツン頭の少年が女の子に追いかけられてたり、かと思えば着
眼鏡を掛けた学ランの少年が金髪美人と一緒に歩いていたり、わかめヘアーが女の子
見える。
まだまだ時間は昼下がり。主婦の方々や授業が早く終わったのか学生の姿が数多く
!
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
135
追いかけていく⋮。む、あっちには将来大変なことになりそうなほどオールバックにし
た金髪イケメンが⋮。
なんかこの町纏めて爆発させたくなってきたんですが⋮。
って駄目だ駄目だ⋮、冷静になれ俺。
今見た光景は全て忘れて、当初の目的を思い出せ。
ふぅ、なんだかあまりにもリア充してそうな光景に心が闇に蝕まれそうになったが踏
みとどまることができた。沈まれ俺の右腕
何やらこっちを見ている人が多い様な気がするが何故だろう。外国人が珍しいとか
商店街の中を進んでいき、店を見ていく。
じゃないか。
よし、折角だからここで一服入れよう。甘いものでも食べて心をリセットさせよう
!!
その視線の意味が解らず手を頭の上に持っていき││
を見て不思議がっているようだ。
視線がどういったものか伺っていると、どうも俺を見ているというより、俺の少し上
?
136
│││しまった帽子だ
じ
何を言ってるんだ俺は⋮orz
例えるならヲっきゅんが頭の上はそのままなのに下は普通の服着て街中歩いてる感
もするわな。
下は普通なのに帽子だけ現代社会に馴染みそうもないデカい帽子かぶってたら気に
どおりで目立ってるわけだぜ。
着替えるために一回脱いだというのにいつもの癖でついかぶってしまってたようだ。
てくるのなんで忘れたし⋮orz
下は普通の服なのに、これだけ大きい帽子をかぶってたらそら浮くわな⋮。帽子外し
!!
んにたどり着く。
スンスンと鼻を鳴らしながら出所を探ると、スーパーの前でやっているたい焼き屋さ
しばらく歩いていると、甘い匂いの混じった芳ばしい香りが鼻をくすぐってきた。
再び商店街の通りに戻り、店を物色していく。
がはねている程度にみえるだろう。
ケモミミがばれないか心配だが、幸いにも髪色と同色で、動かしでもしなければ、髪
改めて帽子を外す。
とにかく、人前でアイテムボックスに入れるわけにもいかないので、一旦路地に入り
?
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
137
これは買いだな。
昨日までは諭吉さんが何人か居た筈なのになぁ⋮。
財布を開けて中を見ると、1000円札が一枚と小銭が少々。
あれー
c⋮。
個人でやってる割にはレパートリー多いっすね
ど
恋するジュース味⋮
マヨ
!?
何が店主にそこまでさせるのか、というか端の方にキムチとか鯛みそとかあるんだけ
!?
粒あん、こしあん、白あん、バナナあん、クリーム、チョコ、抹茶│││etcet
しかしそうなると買える味が限られてしまう。
?
?
買えても10個とは、神はなんて過酷な試練を
4個。
残りは6個なわけだが、外れではないであろうクリームやチョコにするかな
ろう。
なわけだが、やはり比較的馴染のあるであろう洋菓子系の味なら合わないことはないだ
お土産だし3人に2個ずつ買えば良いと思うから、スタンダードなあんこともう一個
?
イリヤ、リズ、セラさんにもお土産に買うとして、粒あんこしあん2つずつ。これで
!!
全味一個ずつ頼んでも1000円じゃ到底足りない。一個100円なのに⋮。
!?
いや、待て。待つんだ。まだ焦る時間じゃない。
スタンダードは4つもあるんだ、残り6個くらい遊び心が出てもいいんじゃないか
出店の軒先に並べられたメニューを改めて見てみろ。
普通なメニューを考えられようか。いや考えられない、反語。
あの右端に寄せられている、誰が買うのか疑問に残るイロモノメニューを見て何故に
?
﹂
ああでも、たださえ無駄遣いしてるのに変なの買って帰ったらイリヤに怒られる⋮。
﹁むぅぅぅぅぅ∼⋮﹂
﹁えっと、何か困りごとか
俺が悩んでいると、後ろから声を掛けられた。
?
138
◆◆◆
学校からの帰りに、いつものたい焼き屋さんで桜たちへのお土産を買おうとしたら怪
しい子を見つけた。いや、どちらかというと変わった子
?
迷子
たい焼き屋さんの前でずっとうんうん唸りながら何かを迷っているようだ。
後姿での判断でしかないが、外国の子だろうか
店員さんもどうしようかと困り気味だ。
?
?
この子は周りから注目されていることに気付いていないみたいだし、少し声を掛けて
みよう。
﹂
ひょっとすると力になれるかもしれないし。
﹂
?
?
どこか儚げであるのにも関わらず力強さと快活さも見て取れる。
腰ほどにも長い白銀の髪にルビーのような瞳、透き通るような肌。小さく細い身体で
文字通り、美少女⋮というべきなのだろうか。
声を掛けた俺へと振り向く少女を見て、思わず息を飲んで見とれてしまった。
﹁ん
﹁えっと、何か困りごとか
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
139
対して服装は、仕立ては確かに高級そうではあるが白いセーターにジーンズという組
み合わせ。
氷でありながらも炎でもあるような、幻想が現実を着ているような、相容れない筈の
何かを内包しているように思える矛盾。
でもそこがまた彼女の魅力を引き出しているような気がする。
ただそう思った。
ああ、これは確かに人の目を集めるだろう。
人の容姿に頓着しないだとか朴念仁だとか不名誉な言われ方をする俺でも目を止め
てしまったのだ。
確かに穂村原にも美女・美少女と呼ばれる子たちは居る。クラスメイトを始め、各学
年から他校にまでもファンが居るほどの美しさを持つ子も居るほどだ
﹂
しかしこの子は何故か〝気になる〟のだ。そして一度気になってしまうと、引き込ま
れる。
﹁えっと、ぶらう⋮じゃなかった、おにーさん何か用かい
しまった。
﹁まさか、これは事案では
﹂
声を掛けたのに何も続きを言わないから訝しまれたようだ。
?
140
!?
﹁違う
﹂
しかし、そうなると何を悩んでいたんだろうか
?
とも日本語が通じなくて困ってるという訳ではないようだな。
ジトっとした目でそんなことを言ってくる少女は予想外に日本語が上手だ。少なく
﹁じゃぁ何なのさー⋮﹂
!!
﹂
?
目立ったら怒られるとは、どういうことなのだろうか。
複雑なご家庭なのかな
?
﹂
?
﹁なんというかどうでもいい悩みって言えば悩みなんだが⋮﹂
﹁それで、何を悩んでたんだ
第一そんな子が一人で歩き回る訳がない。
何馬鹿なことを考えてるんだか。自分の想像力に呆れる。
てしまうから大人しくしないといけない、とか│││。
例えばこの子は〝や〟とか〝マ〟とかが付く自由業の娘さんで、人目に付くと狙われ
?
⋮⋮
﹁おうふ、しまった。目立ったら怒られるのに⋮﹂
﹁あー⋮、周りを見てみるといいさ。かなり注目されてるぞ﹂
﹁おっとそれはThanks。でもそんなに悩んでたっけか
﹁ずっと何か悩んでるみたいだったからな。何か力になれないかと思って﹂
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
141
自分のバカらしい考えを吹き飛ばすためにも少女との会話に戻る。
そんな俺の考えを知らずに、少女は何故か目を泳がせながら悩みの内容を教えてくれ
た。
しかしその内容がまた可愛らしかった。
思わずクスリと笑ってしまった俺は悪くないと思う。
﹃なんだよぅ⋮﹄と不満げに俺を見るが、その姿もまた可愛らしくて再びクスリとして
しまった。
なにせ、〝食べたいものが多すぎて手持ちでは買えない〟なんていう悩みだ。
俺が見かけてからでも5分以上は店の前で唸っていたし、その時点で結構な人が集
まっていたことからそれなりの時間をその悩みの所為で立ち止まっていたはずだ。
さらに聞くと、家族の分を数えてから自分の食べたいものが食べられないなんて言う
んだから微笑ましくて仕方がない。
﹂
役に立つかはわからないが軽く助言してみるか。
﹂
﹁この辺りには今日来たのか
﹁ああそうだよ﹂
﹁滞在は短いとか
﹁いや、暫くは居るんじゃないかな。やらないといけないこともあるし﹂
?
?
142
﹂
﹁それじゃあまた買いに来ればいいんじゃないか
﹁少年は天才か
!!
﹂
?
た。
俺は帰ろうとしていた足を、嬉しそうに店員さんと話す少女の方へと向けるのであっ
⋮⋮いや、俺もたい焼きを買いに来たんだった。
よくわからない邂逅だったが、一段落といったところか。
かりもいつもの風景へと戻っていく。
自分の中で一人納得していると、少女は店員へと注文をしていた。同時に周りの人だ
なるほど、これが以前慎二が言っていたギャップというやつか。
る。また矛盾だ。
むしろそれが当然のような⋮、でもそれとは反対に可愛らしい一面も先ほどから見え
けど、不思議なことに流暢な日本語が少々男勝りなこともあってか違和感は無い。
それにまさか自分より小さな子に少年扱いされるとは思わなかった。
悪い。
まるで稀代の天才を見るかのようにキラキラした目で見てくるのでどこか居心地が
﹁いやまぁ色々とツッコミたいけど置いておくよ⋮﹂
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
143
﹂
﹁待った、お兄さん
﹁ん
﹁今、時間ある
﹂
﹂
お礼﹂
﹁えっと、この後は家に帰るだけだけど﹂
﹁じゃあさ、一緒に食べない
﹁いや、それはお土産も入ってるんだろ
﹂
そう言って少女が掲げるのはさっき買ったたい焼きの袋。
?
?
くふふと楽しそうに笑う彼女に、俺も笑みがこぼれる。
コウジュも自らの分を取り出したのを見て、俺もまずは一口かじる。
食べ歩きもなんなので、すぐ近くの公園に移動し二人して座る。
﹁なら⋮お言葉に甘えるよ﹂
そのままたい焼きの袋を俺へと向けてくれたので、言葉に甘えて一つもらった。
?
?
﹁だいじょぶだいじょぶ。それに、また買いに来ればいいんだろう
﹂
しかしそこへ先程の少女から声が掛かった。先程とは逆のシチュエーションだな。
少女に次いで目的の物を買い終えた俺は、改めて家路へと着こうとしていた。
?
!
144
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
145
うん、うまい。
焼きたてなのもあって表面はカリッとしており、中に入っている優し甘さの餡子を引
き立てる。
以前に聞いたのだがこの餡子は店の親父さんが手間を掛けて手作りしたものだそう
で、さすがに小豆は市販の物だそうだがそれでも手間を掛けたと分かるだけの味を感じ
させる。
餡を作るにはそれなりに手間がかかるものだ。
餡を柔らかくし、舌触りを滑らかにするために丁寧な作業と的確なタイミングが必要
となる。火の強さひとつをとっても味は変わってしまう。
でもだからこそあの人気なのだろう。
売り子をしている店員さんはお弟子さんなのだそうだが、それまでは親父さんと奥さ
んで店をやっていた。
しかしお客さんが増えてきて、需要と供給が釣り合わなくなってきてから親父さんは
餡づくりに掛かり切りなのだとか。
親父さんと奥さんは元和菓子屋さんで、お店をお子さんに譲って今の屋台をやるよう
になったそうだが、老後の道楽がまさかこうなるとはと嬉しい悲鳴を上げていたのを覚
えている。
﹁うっま、何これ想像以上に美味いんだけど
﹂
!!
分かっててその話し方なのか
?
﹁あのさ、お節介だとは思うんだけど、話し方が男の子みたいだ。
外国の子とは思えないくらい日本語が上手なんだけど、間違えて覚えたんだろうか。
それにしてもこの子、話し方が男の子みたいだ。
日本名のような響きだけど、容姿に合っているような気もするし。
コウジュ、か。少し不思議な名前だな。
﹁俺は、士郎。衛宮士郎だ﹂
﹁あ、そういえばまだ名前を言ってなかったね。俺の名前はコウジュだよ﹂
よかったよかった。
表現してくれている。
けど、それがまた見ているだけでこちらも幸せになる位に、表情の全てで美味しさを
で食べている。
話をしてはいるが、彼女の目線はたい焼き一直線だ。ずっとはむはむとたい焼きを隣
﹁へぇ∼お兄さんのお勧めの店ってわけだ﹂
買うんだ﹂
﹁それは良かった。あそこの親父さんも喜ぶよ。それに、俺もよくあそこでたい焼きを
146
可愛い見た目とすごいギャップがあるぞ
﹁か、かわいいって⋮⋮
﹂
?
まあ、分かっててならいいか。
ながら、言ってきた。
かわいいって言った辺りで何故か微妙に落ち込みがら赤くなるという器用な事をし
こ、これは分かっててだからいいんだ。これが俺の素だから﹂
!?
﹂
?
絵と何かが書いてある。
そう言って渡して来たのはカードだ。
﹁まあそうだろうねぇ⋮。あ、じゃあ、お人よしな士郎にこんなのをあげよう﹂
﹁む、無くは無い﹂
﹁お人よしって言われたことない
﹁困ってる人を見たらほっとけないだけさ﹂
﹁まあこれだけ色々してくれたらね﹂
﹁はは、すごい観察眼だな﹂
性格みたいだからさ﹂
﹁お礼のたい焼きのお礼を貰うのはおかしい気がするんだけど、良いか。それが士郎の
﹁さて俺はもう行くよ。コウジュ、たい焼きありがとうな﹂
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
147
﹂
﹁なんだこれ、えっと、九死に一生スケープド﹁読んじゃダメだって
分かったけど、なんなんだこれ
?
﹂おおぅ
!!!!
わ、
!?
あって、お礼にくれたとか
男の子っぽい性格だし、そっち方面の興味も
?
﹂
?
﹂
!!
物騒な話だが、ガス漏れ事故や強盗殺人と思われる事件が多発しているのだ。
席を立ち、向かおうとするが、そこで最近の話題になっていることを思い出す。
今日の夕食は俺が作る手筈だし、これ以上待たせるのは悪いな。少し走るか。
﹁そっか、じゃあ俺も帰るとするかな﹂
﹁や、やばい
予想以上に話し込んでしまっていたようだ。
宅時間を越えていた。
コウジュが携帯を見せてくれるがそこに表示されてある時間を見ると、桜に伝えた帰
﹁あ、そういえば結構時間経っちゃってるけど大丈夫
捨てる訳にもいかないし、あとで財布にでも入れようか。
?
カードゲーム⋮というやつなのかな
とりあえず、胸ポケットにしまっておくか。
﹁御守り⋮か。よくわからないがいただくよ﹂
﹁御守りみたいなものさ。肌身離さず持っといてね。あと絶対読んだらだめだから﹂
148
﹂
話によるとその全てが深夜遅くに起こっている事件とのことだが安心できる要素で
はない。
もう暗くなってきてるし、こんな女の子を一人返すわけにいかない。
﹁コウジュ、最近この辺りは暗くなると物騒みたいだし、送っていこうか
・・・
そう思って言うが、コウジュはフルフルと首を振る。
?
俺も急いで家へと向かった。
﹁おっと、のんびりしている場合じゃない﹂
不思議な子だったなぁ。
今度こそ彼女はそのまま帰っていった。
﹁ああ、こちらこそよろしく﹂
考えていると、コウジュは出口で1度振り返りそう言ってきた。
﹁またどこかで会うこともあるだろうし、よろしく﹂
だろう。
とはいえ嘘を言う子には思えないし、走るって言っても1分程度ならほんとに近いの
これは、気を遣わせてしまったのかな。
そう言いながら、コウジュは公園の出口に向かって走っていった。
﹁大丈夫大丈夫、ここからなら走れば1分もせずに帰れるし﹂
『stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です』
149
桜は怒ったりしないだろうが、幽かに悲しそうな目で見ることがある。
例えば、バイトが長引いたり少し厄介ごとに巻き込まれて帰る時間が遅くなった時に
だ。
あんな目を桜にさせるわけにはいかない。
ただでさえ桜の厚意に甘えてしまっているのだから
そう思い、帰る足をもう一つ速める。
あ、そういえばバイトの帰りに住宅街を歩いていると昼間会ったコウジュみたいに白
お兄ちゃん﹂
い髪︵こっちはクリーム色に近かった︶に紅い瞳の女の子が歩いてきて│││
﹁早く呼び出さないと死んじゃうよ
なんて言ってきた。
振り向くと居ないし⋮。
何だったんだろうか
?
?
150
なんかノリでキャスターさん︵ニュースの︶をやってみたけど、面白くなかった。
││うん、飽きた。
実況中継していきたいと思います│││
一体彼らに何があったのか。そしてこれから何が起こるのか。
赤い槍を持った男と黒白の双剣を持った赤い男が闘い、静寂を掻き乱しております。
私が今居るのは敷地内の樹の上なのですが、眼前にある校庭では今まさに蒼タイツで
いえ、包まれていたと言うべきでしょう。
生徒だけでなく、先生方も帰り、辺りは静寂に包まれています。
現在の時間は夜になったところといった感じでしょうか。
俺は今、主人公の通う穂群原学園に来ております。
みなさんこんばんは。現場のコウジュです。
﹃stage10:月下の邂逅﹄
『stage10:月下の邂逅』
151
152
聞くやつも居ないしね∼。まあ、声に出してたわけではないけどさ。見つかる訳には
いかないし。
今だって結構ギリギリに居るんだよね。
まあそんなこんなで、実は昨日士郎に会ってから丸一日経過している。
時間が飛ぶのはいつもの話だよ
あるんでここでのぞき中。
あとでイリヤに合流する予定だ。
ふむ、なんで見つからないか疑問って感じだな
一度見つかると効果が薄くなるが、隠れる能力として考えれば破格だろう。
なんと気配遮断と背景同化までついた優れもの。
んだが、ノリで出来ちゃった。
昨日︻獣の本能︼で気配を消せるっぽいことが分かってからしばらくして完成させた
きました。
俺が見つかってない理由はこれ。夢幻召喚﹃アサシン改﹄。スペル名はプリヤから頂
願いだから聞いて。
ふっふっふっ、ならば教えてやろう│││ああ、待って、ごめん調子に乗りました、お
?
原作ではバーサーカーはここに来る必要はないんだけど、俺はちょっと気になる事が
?
『stage10:月下の邂逅』
153
実際、割と近くにいるんだけど蒼いのも紅の主従も気づかんしな。
しかし、しかしだ。これには1つ多大な欠陥がある。
︵ ゜Д゜︶みたいな顔しないでください。
それは服装だ
いや、ハッ
!!!!!
じゃん
F a t e の ア サ シ ン を ち ゃ ん と ⋮ ち ゃ ん と や っ て る の っ て ハ サ ン 先 生 く ら い
?
?
ド。
それというのがスペルカードの完成した証らしくて、気づけば手の中には一枚のカー
したんだ。
んだが、その瞬間に頭の中で何かが解放されたような⋮、ロックが外れたような感じが
一先ず見た目だけはアサシンになったんで次に何をして完成に近づけるか悩んでた
て革ベルトだ。とりあえずそれらで体を纏えばアサシンっぽくなれる。
用意するものは革ベルト、黒い布、髑髏仮面︵別にカキタレ探すアレではない︶、そし
ど、そのやり方として思いついたのが形から入るって方法だったんだ。
んで、例の理由付けによってアサシンとしての能力を完成させようと思ったんだけ
?
154
確認の為に改めてカードを使用する。愛言葉はもちろんインストール
なんにしてもこの服は色んな意味で危な過ぎるんだ。
いやまぁ、大半は初期設定なんだけどもさ⋮。
・ω・`︶
まぁ結果はご存知、銀髪獣耳ロリ巨乳にベルト服だったわけですが⋮︵
!!
ド キ ド キ と 言 っ て も 興 奮 的 な ド キ ド キ じ ゃ な い で す よ
がら人前を歩くのは無茶苦茶ドキドキする。
あ れ で す よ
じゃないですよ
神の意思か
今もドキがムネムネしすぎて死にそうっす⋮。
どうして俺の能力は服装関係で欠陥があるんだ
?
これ以上の思考はアカン気がするのでやめておこう。
カットカットカットカットカットカットカット
待て待て、もしそうだったとして一体誰が望むんだ⋮︵震え声
補正か
?
!!
露 出 狂
勿論この本番までにも試しに何回か使ったが、見えないとはいえ通報物の格好をしな
ろんな意味で危ない幼女の姿が解放されるんですがね。
とはいえ気を抜いたり、何かしらの攻撃的行動を行ってしまうと能力は解除され、い
唯一の救いは能力を発動しちまえば、背景同化によって誰にも見られないことだ。
´
?
?
?
?
『stage10:月下の邂逅』
155
それにしても、すげぇな。これがサーヴァント同士の戦いか。
思考を本来の目的である、原作における第五次聖杯戦争の初戦へと向ける。
恥ずかしさを我慢しながらも校庭で行われてる戦闘をずっと見てるんだが、何がすご
いって一瞬一瞬の駆け引きが半端ないです。
問題は、今の身体になってから各段に動体視力もよくなり、ヤ○チャ視点じゃなくて
見えている。見えてはいるがただそれだけなのだ。
蒼い方、ランサーが繰り出す高速の槍による連撃。
ただ突くだけではなく、斬り、払いといった多種多様な連撃で、息もつかせない。
対する紅い男、アーチャーも負けていない。
手にする黒と白の双剣を使い、ランサーの多彩な技を全て受け流している。
俺は原作知識あるから赤い方がアーチャー︵弓兵︶のクラスでも普通に受け入れてい
るが、ランサーの方からしたら奇怪だろうな。
自分の槍を受け流す技量を弓兵が持ってるんだから。
しかも、相手の剣を弾き飛ばすことができても、いつの間にか手に戻っているという
不思議。
156
それでもランサーは隙をつくらず攻撃をしているわけですよ。
見ていてテンション上がるしカッコいいんだけど、俺、あの方たちと戦うんすか
膝がガクブルしてきちまうぜ⋮。
でもこれが本来のサーヴァントの戦闘というわけだ。
当然、俺の場合こうはいかないんだよ。あまりにも経験が足りない。
いや、実力がどうのって話じゃないぜ
負にならなかった。
本国のアインツベルン城に居た戦闘部隊メイドさん達と何度か模擬戦したんだが、勝
?
こっち木刀、向こう斧。斧折れる。What
s
'
技の応酬だからね。
まぁそんなわけで、眼前の2人の様にいかないのだ。あの2人が行っているのは技と
なんてマジで出来るんだね⋮。
かやってみたかったけど無駄なバカ力であわや大惨事だったからなぁ。風圧で服破く
目の前の戦闘の様にキンコンカンコン金属音を鳴らしながら鍔迫り合い、受け流しと
!?
要は上手く力加減が出来ないから模擬戦としてなりたたなかったわけだ。
しまう。
このチートボディとチートパワーはただの木刀なのにアーツ技を使うと切り裂いて
?
『stage10:月下の邂逅』
157
俺は、確かにバ火力はある訳だがフェイントとかされると避けられる自信が無い。
幸いにも下手なフェイント程度なら見て避けることも力付くでまるごとたたきつぶ
すこともできるほどのスペックがこの身体にはある訳だが、正真正銘の英霊たちを前に
それだけで勝ちを見るのは無謀ってもんだろう。
やばいなぁ⋮。確かこれってまだ二人とも手加減中なんでしょ
スの能力だったならどこぞの主人公よろしく戦闘中に才能が開花していくんだろうけ
書いてあった能力のどれにラーニングが当たるのか分からんけど、せめて見稽古クラ
もそれ其の物を理解している訳ではないことくらいか。
えた際は頭の中でロックが外れるような感覚があるだけで、スキルとして覚えたとして
時に使用されたものをスキルとして覚えること。スペルカード作成時と同じように、覚
現状分かっているのは、大なり小なりダメージもしくはその効果を受けることでその
は無かったから色々試してみたけど、結局全容はわかってない。
一応ラーニングって別チートもあるって言ってたけど、携帯に送られてきた能力表に
な差があるだろう。 やっぱり見に来ておいて正解だったな。これを知っているのと知らないのでは大き
できなくて、紅い兄貴も宝具とか全然使っていない。
青い兄貴はマスターから令呪使ってまで偵察に徹しろって言われてるから全力戦闘
?
どなぁ⋮。
けどさすがにそこまでは求めすぎであろう。
今は大人しく様子見様子見っと。
おっと、そうこうする内に士郎君が出てきたぜい。
って近い近い。俺から5メートルも離れてないんですけど。
しかもフェンス越しとはいえ普通に突っ立てるんじゃないよ。見つかっちゃうよ
﹂
俺の様に偽装工作しているならまだしも、さ。
﹁誰だ
?
少し遅れて紅の主従が士郎君を助けるために追いかけていき、グラウンドには誰も居
そしてそれを体育座りしながらやり過ごす俺。
故にランサーは目撃者を消すため、士郎の後を追う。
魔術というものは基本的に秘匿するものであり、この聖杯戦争も例外ではない。
それに対し士郎君が慌てて校舎へ向かって走り出す。
と士郎君が踏み直した音に気付き、こちらへと言葉と共に視線を放った。
今まさにアーチャ│に向かって宝具を解放しようとしていたランサーが、踵を返そう
ほら言わんこっちゃない。
!!!!
158
なくなった。
そこでやっと俺は一息つく。
ふはぁ、びっくりした。
知識として見つかるのが士郎君だって知っていたはずなのに、一瞬俺が見つかったか
と思った。
何あの目、視線で殺されそうだったんですが⋮。あれが目力ってやつなんですね。
よし、ここでずっと座っている訳にはいかないから俺も追いかけないと。
細心の注意を払いながら俺は、士郎が来るであろう校舎の外側まで来て様子をうかが
う。
ここから運命が始まる訳だ。
衛宮士郎は今から心臓を貫かれる。普通ならそこで死んでゲームオーバー。 だが、衛宮士郎にここで死ぬ運命は待ち受けていない。
それどころかここから物語は加速していく。
﹁お、来た来た﹂
士郎が廊下を走って来ているのが見えた。
しかし同時に、後ろにはランサーの姿が見えている。
志村後ろ後ろ
!
『stage10:月下の邂逅』
159
160
なんて思っている間にもランサーの凶刃は士郎の胸へと吸い込まれる。簡単に、容易
に、何の抵抗も見せず刃は心臓へと突き立った。
心臓を貫かれ崩れ落ちる士郎を一瞥し、つまらなそうにランサーは去って行った。
すまない士郎。
俺はこの場面を知っていても回避する方法を思いつかなかった。
いや、回避するだけなら簡単だろう。でも俺にはその選択肢を選べなかった。
これは士郎に必要な儀式の一つだと思ったから。
⋮⋮言い訳だな。
ただ単に、原作をこの時点で歪めることが後にどれほどの影響を及ぼすのかを予測で
きず、最終的に死にはしないのだからと受け入れただけだ。
罪悪感が俺の胸を締め付ける。
くそ、パンピーにはきつ過ぎるって。
予防線を張ったとはいえ、許してくれとは言えねぇな⋮。
兎も角カウント開始しないとだ。
59、58、57││
昨日俺はあるアイテムをカード化して士郎に渡していた。
それは士郎がここで一度殺されるのを見なかったことにすると決め、それでも何か策
『stage10:月下の邂逅』
161
は無いかと考えた結果生まれたもの。
よく転生ものの小説に使われるバタフライエフェクトというものを恐れ、もしもの為
に用意したものだ。
そのアイテムの名はスケープドール。
略してスケドなんて呼ばれているこれの効果は、持っている状態で戦闘不能状態、つ
まり死亡すると同時に回復してくれるという復活アイテムだ。
ただ、俺はこれをそのままカード化して士郎に渡したわけではない。
瞬時に回復なんてしてしまえばランサーにその場でもう一度殺し直されるだけだ。
だからこそ、士郎が刺されてもランサーが立ち去ってから復活させるというタイムラ
グが必要だった。
それを考えている際に思いついたのが例に倣って強欲島に出てくるカードの効果、宣
言せずに1分経つと勝手に具現化してしまうというもの。
これを応用した。
面倒だったのは、ただこれを応用しただけじゃカードを渡して1分で具現化なんてこ
とになってしまうから、スケープドール自体の概念も上手く利用した。
スケープド│ルって言うのは、持ち主が瀕死の状態にならないと発動しない。
ここから条件を満たすまで発動しないという概念を抽出。
そこに、某ハンター漫画のカードからカードの発動には宣言、もしくは1分間放置す
るという概念をお借りして合体させる。
そうやって作られたのが士郎に渡したあれだ。
自分でもめちゃくちゃな設定だとは思うけど、これはこれで今後のための実験にな
る。
もちろん士郎には悪いと思ってる。
そのために何か失敗したときのためにここで待機しているんだし⋮。
うあ∼⋮、考えたら改めて罪悪感で胃のあたりが痛くなってくる。
士郎だと仕方ないって許してくれるだろうことが余計に心をえぐる。
今度またお詫びに行かないとだ⋮。
っと、そろそろだな。
│││3、2、1、0
!!
﹂
カウント終了と同時に士郎の身体が光に包まれたのが見えた。
回復してる
!!
カードが光り輝く。
怪しい俺の言葉を素直に聞いてくれていたのか、ポケットに入っていたのであろう
﹁よし
!
162
光は士郎を包み込み、光に覆われた彼は時間を巻き戻すかのように胸部の傷が塞がれ
ていく。
が、それもすぐに止まってしまった。
ちっ失敗か、いや、無茶な設定したからエラーが出たのか
一応心臓の穴自体は塞がったみたいだけど⋮。
げ、紅いのが来た。
詳しく確認するために近づこうとするも、誰かが駆けてきた。続けてもう一人分
?
慌てて、窓の所にぶら下りながらできる気配を消せるように静かにする。
自分は背景の一部。自分は背景の一部⋮。
﹄
?
うが⋮﹄
?
だったら考えつくのは第3者が、小僧に媒体を渡したんだろうということだ﹄
はいえ、もう少し抵抗するはずだがそれも無い。
よっぽどの実力者で無い限りな。しかし実力があるならいくらサーヴァントが相手と
﹃今 ほ ど の 瞬 間 回 復 を 行 え る 力 を 持 つ も の が 同 じ 学 校 内 に 居 た ら 凛 が 気 づ く だ ろ う。
﹃だったら、衛宮君⋮彼は魔術師だってこと
﹄
﹃あぁ、一瞬だったがカードのようなものが光ったのも見えた。魔術の媒体か何かだろ
﹃ねぇ、アーチャー今の見た
『stage10:月下の邂逅』
163
﹃そう⋮よね⋮。それが一番妥当か⋮﹄
み、見られてたー
なにこのバーローみたいな推理力。
しかもあの程度のことから色々推察されてるし。
!?
こ、このタイミングここに居ると、確実にその第三者の疑いが掛けられる。
逃げないと
﹄
!
色んな意味で見つかるわけにはいか
!!
こんな所に居られるか
﹄
俺は帰らせてもらう
アーチャー追って
!!
!
!?
﹄
﹃まだランサーが居たの
﹃承知
!!
!!
とりあえずふっ付いていた壁を踏み台に、壁を壊さないように全力で飛ぶ。
もし見つかった場合、俺は羞恥心で死ぬ自身がある。
ない
こうなったら後ろに向かって前進あるのみ
これだけ近くなのに集中を乱したせいで隠形に乱れが生じた。 やべ、見つかった。
﹃誰だ
!?
!!
164
後ろからそんなやり取りが聞こえた。
追いかけてこないでぇえええ
!!!??
ちょっと遠くまで来すぎたぜぃ⋮。
そんな風に一人納得しながら道をトボトボと歩く。
﹁まあ、紅いのが居たし後は原作のように回復してくれるか﹂
っていうか、士郎を回復させずに置いてきてしまった。
から足場にしたいくつかのビルにヒビ入ったかも⋮。
チートパワーにモノを言わせて何とか撒けたけど、途中から恥も外聞もなく走ってた
大分離れてたのに追ってくる追ってくる。
﹁やばかった。マジでヤバかった⋮⋮﹂
『stage10:月下の邂逅』
165
早く戻らないとイリヤに怒られてしまう。
携帯の時刻を見ると合流予定時刻まであと10分程か。
けどまぁ疲れたしちょっと位休憩してもいいよね
﹄
最悪走ればいいんだし、一休み一休み。
丁度そこに自販機あるし、炭酸でも飲んでスカッとしたい。
?
﹄
﹄
﹃ハ、ハイ。コウジュデス﹄
﹃何焦ってるのよ
﹃怪しくない﹄
﹃怪しい﹄
﹃何でも無いっすよ
?
﹄
?
?
﹃また無駄遣いしてるんじゃないでしょうね
﹃⋮シテナイヨ
?
﹄
お財布から取り出し自販機に入れようとしていた100円玉を静かに戻す。
一気に心臓がバクバクと脈打ち始める。
イリヤからの念話だ。
﹃コウジュ聞こえる
?
166
﹃ふーん⋮、まぁあなたがそう言うならそうなんでしょうね。あなたの中ではね﹄
あのあの、イリヤさんが辛辣すぎる件について。なんでこうなったし⋮。
おかしいな。いとおかし⋮は意味が違うか。
ふむ、俺が召喚されてすぐの時はもっと天真爛漫が多かった筈なのに今は何故かツッ
︳ゝ`︶
コミ体質のサドっ気増し増しな気がする。
まったく何が原因だろうね︵
﹃ともかく、早く合流地点に来てね。あと7分よ﹄
´
⋮⋮うむ。
そんなに喉も乾いてないし、買わなくていいかな
!!
実はこんなカードを作っているなんてのはイリヤに教えてない。
一先ずアサシンモードを解除し、元の姿に戻る。
ふと手の中にあった財布に目をやる。続けて自販機へ。
な部分もあるのだ。
あんなに可愛いに、何かしたらご飯抜きなんて悪魔の所業を普通にしてくるオニチク
とりあえず行くとしますかね。御姫さんを怒らすと後が怖い。
プツンと繋がっていたものが切れる。念話を切ったようだ。
﹃うぃ﹄
『stage10:月下の邂逅』
167
168
だって仕返しとか言いながら俺を弄るのが最近の趣味だってこの間言ってたし。
アサシン状態の姿を見せた日には写真に撮られて何をさせられるかわかったもんで
はない。
きっと写真を口実に色々サセラレルンダ⋮。
少し憂鬱になりながら、俺は地面を蹴りイリヤのもとを目指した。
そんなこんなでイリヤと合流後、住宅街にて待ち人を待っている。
もちろんその相手は主人公たる士郎。
一緒に他にも居るんだろうが、用がある相手は士郎なんだよ。
イリヤにとって浅からぬ因縁がある相手だからな。
何故イリヤと士郎が関わりがあるとかというと、色々とあるんだが⋮⋮、端的に言う
と家族の問題になる。
第4次聖杯戦に置いて、衛宮切嗣は妻アイリスフィールと参戦した。子であるイリヤ
スフィールをアインツベルン城に置いて。
『stage10:月下の邂逅』
169
当然それは死地に子供を連れ行くわけにはいかないための措置だ。
その後なんやかんやあって第4次聖杯戦争は終わったが、アイリスフィールは死亡。
衛宮切嗣は生存するもアインツベルン城へ戻ることはなかった。
衛宮士郎とは、第4次最終戦にて起こった大火災の生き残りで、アインツベルン城に
戻らず冬木の地に留まった切嗣が養子にした子どもだ。
養子と本来の子ども。嫌な表現だろうが事実上はそうなる。
イリヤに思うところがあるのは当然という訳だ。
しかも、イリヤ自身も切嗣達と別れて以降にアハト翁から切嗣がアインツベルンを裏
切った等と聞かされている。詳しく聞けば当の本人は冬木の地で養子を取って生活を
しているとまでいう。
そして現在、切嗣がこの世を去り、再び会うことも叶わず居たイリヤは血の繋がりが
無いも〝衛宮〟を継ぐ士郎に会うことにした。
俺の横に居るイリヤが何を思っているのかは俺もわからない。
パスで繋がっているとはいえ、心が覗ける訳ではない。
イリヤの瞳をちらりと覗き見る。
悲しそうで、寂しそうで、悔しくて、やり切れない。そんな感情が見て取れる。
どうしたものかねぇ。
イリヤと切嗣が会えなかったのは、アハト爺の所為なんだよね。
切嗣にイリヤと会うことを許さず、アインツベルンの地に入ることを妨害した。
そしてイリヤに余計なことを吹き込んだ。
確かにそのことをイリヤに話していはいるが、だからと言ってそう簡単に割り切れる
ものではないだろう。
10年だ。
10年間イリヤはアハト爺に嘘を教え込まれた。
﹂
めい
文字にすれば簡単だが、そう簡単に済ませていい年月ではない。
﹁ねぇコウジュ。私ってどうすればいいのかな
﹁さぁ、な﹂
﹁冷たいのね﹂
﹁⋮⋮﹂
イリヤが目を見開いてこちらを見てくる。
﹁なんだよ﹂
?
﹁まるでサーヴァントみたいだったから﹂
﹁サーヴァントだっての⋮。それに、ホイホイと話すことでもないだろ
イリヤの家
﹁そんなことないさ。俺はサーヴァントだ。マスターの命ならば、ただ従う﹂
?
170
族のことなんだから﹂
﹁何故それを知っているのか、やっぱり気になるんだけど﹂
﹂
ジト目で見てくるイリヤに、俺は目を反らしながら答えることしかできない。
﹁アハハ⋮、それを言われると辛い⋮﹂
﹁まぁ良いわ。ちゃんと教えてくれるんでしょう
?
いっその事全てを話し楽になろうかとも考えてしまうが、そうなると俺の作戦は失敗
そんな表情を見せられると、罪悪感が半端ないです。
そんな俺を見てイリヤの表情が陰ってしまう。
だから、まだ言えない。
ここ数日でそれが分かってしまった。
イリヤはきっと、それを拒否すると思う。
い。
そしてそれを話すことで、イリヤに俺がしようとしていることを感づかれるのが怖
のが怖い。
俺が原作知識の全てをイリヤに教えることで起こるバタフライエフェクトというも
そう、まだ怖い。
﹁ああ、それは絶対だ。今言えないのは、俺の覚悟が足りてないだけだから﹂
『stage10:月下の邂逅』
171
する可能性があるというジレンマ。
﹁まったく⋮。ほんとにどこまで知っているのやら﹂
﹁知ってることしか知らないさ﹂
﹁ふふ、なによそれ﹂
某委員長の言葉を借りたんだが、少しイリヤの表情が解れた。
うん、やっぱりイリヤは笑ってる方がいいさね。
イリヤの笑みに釣られる様に、俺も笑う。
そのことに気付いたのか、恥ずかしがるように彼女は顔を背けた。
まったく、猫が嫌いだっていうくせに猫みたいな性格しちゃってさぁ。気づいてるの
かねぇ
﹁もしも、もしもよ
私が、誰かを殺せと命じたら⋮あなたはどうする
その問いに、俺はすぐ答えられることが出来なかった。
?
ジュ⋮、と震える声で話しかけてきた。
﹂
そのことに俺は一段と笑みを深くしていると、顔を背けたままイリヤは、ねぇコウ
?
﹁そう⋮﹂
﹁殺す⋮かもね﹂
けど、改めて自分がイリヤを救うと決めたことを思い出し、口を開いた。
?
172
俺の言葉に、少し悲しげにイリヤが返した。
それに、もしイリヤが命じてきても、つい手が滑っ
だけど俺は、でも⋮、と続ける。
くない。
イリヤと天秤に掛けられたらそんなことを言ってられないけど、出来る限りはやりた
で俺は殺すということを受け入れ切れていないんだ。
って言うか、テンション上がってくると歯止めが利かなくなること多いけど、どこか
て殺すことができないかもしれないなぁ⋮﹂
﹁イリヤはそんなこと命じるのか
?
﹂
!
﹂
!
原作通り、士郎に赤の主従、そして、黄色いカッパー⋮⋮じゃなくてカッパを被った
遠くに人が来るのが見える。目的の士郎達だ。
仕方なく、俺もイリヤが見ている方に目を向けた。
俺の反論には聞く耳を持ってくれないようだ。
﹁ちぇ⋮﹂
﹁却下よ却下。ほら、来たみたいだし準備準備
﹁ちょっと待て、誰がうっかりさんか。異議ありだ
俺の言葉を聞き、何故か満面の笑顔になったイリヤはそんなことを言ってきた。
﹁そっか⋮。そうだよね。コウジュってうっかりさんだから﹂
『stage10:月下の邂逅』
173
セイバー。
あちらもこちらに気付いたらしく、セイバーとアーチャーが前に出てきた。
士郎はそんな二人の間からこちらを見、訝しんでいる。
まぁそうだろうさ。
幼女二人が真夜中に二人で突っ立てるなんて、ただただおかしな光景だろう。
でも士郎、前の二人は気づいてるぞ
俺たちはお前の敵対者だ。
そんな彼らに、イリヤが口を開く。
?
戻れないし、戻るつもりもない。
なければならない。
俺はイリヤの目的の為、イリヤにも言ってない俺の目的の為にも、あんた達に敵対し
悪いが士郎、こっから先は一方通行ってやつだ。
イリヤを背に、俺は前に出る。
﹁よ、士郎。俺とも会うのは二度目だな﹂
﹁こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね﹂
174
『stage10:月下の邂逅』
175
士郎と食べたたい焼きは美味しかったけどさ、俺はご主人様を助けると決めたんだ。
怖いけど、やると決めた以上、突き進ませてもらう。
だから士郎、ごめんね
?
﹃stage11:白の主従﹄
教会で聖杯戦争へと参加することを決めたその帰り、俺は二人の少女と対峙した。
言うなれば真反対の少女たち、だけど、何故か噛みあっている。
対してもう一人の少女はその全てを白で包み、一層の白を目に焼き付かせる。
たせている。
ただ、今のコウジュは昨日と違って全体的に黒い服を着ており、その白銀の髪を際立
ち。
コウジュと、恐らくすれ違った時の少女。奇しくも、二人ともに白を思わせた少女た
坂の上から声を掛けてきたのは昨日会った二人だ。
﹁よ、士郎。俺とも会うのは二度目だな﹂
﹁こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね﹂
176
互いに白黒の色合いの中で唯一、ルビーの様に紅い瞳もまたそれを助長しているのだ
ろう。
こうしてみればただ幻想的な二人だ。
﹂
だが、何か嫌な予感がする。自分の中に生まれている不安感は何なのだろうか。
﹁士郎、知り合い
?
念のためと思い、少しでも情報を得るため遠坂に近づき声を掛けようとする。
何か関係するかもしれないし、詳しいことを聞いておいた方が良いか。
アレだろう。
奥の手どうこうはよくわからないが、カードと聞かれ思い出すのはコウジュに貰った
の手を言う訳ないか﹄と言って自分で納得するなんてことがあった。
ほんの先程のことだが遠坂が、カードがどうとか聞いてきたけど何故か﹃魔術師が奥
そういえば、と思い出す。
思ったほどに接点が無さすぎる。
コウジュとは少し話をしたが、それだけ。もう一人の少女に関しては見間違いかと
遠坂がそう聞いてくるが説明のしようがない。
﹁えっと、昨日知りあったというか⋮⋮﹂
『stage11:白の主従』
177
しかし、それは叶わなかった。
かるでしょ
﹂
というものを俺に理解させるがごとく。
?
﹂
﹁ふふ、これ以上の挨拶はもういいよね
﹁え
?
どうせここで死んじゃうかもしれないし﹂
そんな俺の心情を置き去りにして、事態はどんどん進んでいく。否応なく、聖杯戦争
んだっていうんだ。
イマイチ状況が掴めず場の成り行きに身を任せるしかないのがもどかしい。一体な
だが驚いていたのも一瞬、次の瞬間にはコウジュの方を忌々しげに見つめた。
どうやらセイバーも彼女を知っているらしい。
そしてセイバーもまた、何かに驚いていた。
関して、遠坂の警戒度が跳ねあがる何かを。
どうやら遠坂は何かを知っているようだ。それも、〝アインツベルン〟という単語に
イリヤと名乗った少女が先に口を開き、今度は遠坂に向かって言葉を掛けた。
?
?
﹁アインツベルン⋮ですって
﹂
﹁こんばんは凛。私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば分
178
イリヤが、天真爛漫と言うべき笑顔で言った。
俺はその意味を一瞬理解できず、抜けた声を出してしまう。
しかし俺の声など無かったかのように、イリヤはコウジュの後ろに下がりながら続け
た。
﹂
﹂
﹁やっちゃえ、バーサーカー
﹁来いキャリガインルゥカ
!!
せる。
コウジュはその武器をヒュンと軽く一度振り、構える。
﹂
そのまま姿勢を低くしていき⋮、一足にこちらへ突っ込んできた
﹂
!?
対してセイバーは、応戦するためにか前へと飛び出した。
遠坂が予想していたのか、ポケットから何か取り出しつつ後ろへ下がる。
﹁士郎、下がって
!
!?
無機質な、金属とはまた違う光沢を出しているにもかかわらず生物の骨格をそれは思わ
形状の、明らかに敵を斬るための武器だった。持ち手から先の柄が枝分かれしており、
それは持ち手のコウジュより自身より一回り大きく、両方に鎌の刃が付いた禍々しい
コウジュが虚空から何かを取り出した。
!!
﹁やっぱりあの子、サーヴァント
『stage11:白の主従』
179
﹁セイバー
﹂
﹂
﹁ううぅっりゃ
﹂
大きく振りかぶるコウジュに、セイバーも見えない剣を振った。
セイバーに声を掛けるも、既にコウジュは目の前。
!?
!!!
﹂
すかさず力を抜き、刃を流すために手を引く。
しかしセイバーもただ受けるだけではない。
だ。
驚くことに、コウジュの攻撃を受け、防いだセイバーの足元がクレーターの様に沈ん
音。
ガンッと、辺りに金属同士がぶつかるにしてはやや鈍い音を響かせる。続けて破砕
﹁くっ
!?
コウジュの攻撃はそこで終わるはずもなく、そのまま両方に刃がある形状を利用して
ことなくそのまま体を半身にして避けた。
だがセイバーも事前に力を抜いて刃を下げ始めていたこともあり、セイバーは慌てる
対の刃で切り上げる。
しかしコウジュは流される前に、振り下ろしていた刃を瞬時に逆回転へと移行させ、
﹁なら⋮こうっだ
!
180
クルクルと舞うように回りながら連撃を繰り出す。
セイバーも負けじとその攻撃を逸らし、時に避けていく。
﹂
が││││
﹁なっ
﹂
﹁嘘、あんな子があんなに大きい武器をおもちゃみたいに⋮、しかもセイバーを押してる
!?
﹂
徐々にコウジュの攻撃が届き始め、セイバーへ触れる軌跡が増えていく。
しかしそれも長くは続かない。
動かしコウジュの刃を防いでいく。
ランサーの槍を弾いていた時の様に刃先を反らすだけでは足りないようで、身体ごと
コウジュの力が想像以上なのか、徐々にセイバーの顔が苦しみをまじえていく。
!?
!
﹂
!!
﹂
!!!
昨日は、少し変わってはいても普通の少女にしか見えなかったコウジュ。
こうしている間にもコウジュとセイバーの戦闘は熱を帯びていく。
﹁ハァッ
﹁おらぁっ
そんなコウジュたちを見て、対面に居るイリヤは無邪気に声を上げている。
﹁やっちゃえやっちゃえー
『stage11:白の主従』
181
182
だが今の彼女は、セイバーと刃を交わすたびに笑みを深くし、徐々に歓喜へと染まっ
ていっている。
これが、サーヴァントの戦い。
こんなのが、聖杯戦争だっていうのか。
数時間前までは確かにいつも通りの日常だったのに、どこで何を間違えたんだ⋮。
最初は、学校でのこと。
友人の用事を代わりに引き受けて、弓道場で過ごす内に外は真っ暗になっていた。
急いで帰るべく外に出ると、聞こえてきた甲高い金属音。それが気になり、音の方向
へ向かうと校庭では殺し合いが行われていた。
本能がそこに居てはいけないと語り掛けてきた。だからその場を去ろうとしたが見
つかってしまった。
目撃したのを見つかった俺は校内に慌てて逃げ込んだが、殺し合いをしていた片方に
槍で心臓を貫かれて意識を失った。
次に目が覚めると、心臓に空いたはずの穴はきれいに塞がっていた。
自分も魔術を未熟ながらも扱う身だ。あれほどの傷が塞がっていても不思議ではな
い。
赤い宝石がその場に落ちていたし、誰かが治してくれたのかもしれない。そう無理矢
理その場は解釈し、その場を一刻も離れるために家に帰った。
しかし家に帰って一息つく暇もなく、学校で俺を刺殺した男が再び襲ってきた。
なんとか俺が扱える強化魔術を使って応戦するが、魔術も武術も未熟者の俺がかなう
はずもなく、すぐに追い込まれ、外の土蔵にまで吹っ飛ばされた。
終わったと思った。けど、終われないとも思った。
その瞬間土蔵を光が満たし、気づけば誰かが槍の男を吹き飛ばした。
﹂
?
戦いに行きそのまま撃退した。
そんな俺に、セイバーは矢継ぎ早に召喚について俺に告げたあとすぐに槍男の元へと
彼女から俺は目を離せなかった。
青いドレスの上に鎧を着けた騎士服の少女、セイバー。
それが、セイバーとの邂逅。
﹁サーヴァントセイバー、召喚に従い参上した。問おう、あなたが私のマスターか
『stage11:白の主従』
183
184
何が何だか分からないまま、自己紹介とかをしていると、突然セイバーが走り出した。
追いかけるとセイバーは誰かに斬りかかろうとしていたため、慌てて止めると、そこ
にいたのは同じ学校の人気高い美少女の遠坂だった。
遠坂は、親切にも俺がどういう状況にあるかを簡単に教えてくれた。
│││聖杯戦争│││
│││7人のサーヴァント│││
│││魔術師同士の殺し合い│││
それでも俺はまだよく分からなかった。
魔術という存在を知ってはいても、いきなり理解できるはずもない。
そんな俺を遠坂は聖杯戦争を監督している人物の所へ連れて行ってくれた。
そして到着したのが、隣町にある言峰教会だった。
そこで俺は、聖杯戦争について詳しく知ることになった。
教会の神父である言峰綺礼に教えられたのは10年前の災厄について。
未だ以て原因不明とされていた大火災が、俺を含めたありとあらゆる物を焼いたあの
出来事が、第4次聖杯戦争が原因で起こったという非情な真実だ。
だから俺は宣言した。
﹃正義の味方﹄を目指すことが俺の義務であり目標である以上、到底看過できるもので
はないからだ。
魔術師同士の殺し合いも、あの大火災が再び起こるようなことも、俺は絶対に防ぐ。
だから決めたんだ。聖杯戦争に参加することを。
まだよくわかってない部分も多いだろう。
﹂
それでもこれだけは分かる。こんなことは在っちゃいけないんだ。
◆◆◆
﹁ウラー
﹁ハハッ
﹂
﹂
セイバーに対して打ち込めば打ち込むほど、俺の中の何かが鎌首をもたげる。
己の中の熱が荒れ狂っているのが分かる。
身体が燃えるように昂ぶっている。
ああ、熱い。熱い熱い熱い。
﹁ぐぁっ
!? !
!!!!
『stage11:白の主従』
185
186
ミ ナ ギ ッ テ キ タ って、ああ、まただこれ。︻獣の本能︼さん仕事シスギィ
・
ることで反らしたりと俺には出来るわけがない動きをしている。
そうでもなければ俺がこんな英霊みたいな動きができるわけがない
テータスそのものも低くなってるんだったか⋮
て、表面上だけを取り繕ってる状態なんだっけ あとマスターとしても弱いからス
うーむ、今のセイバーってランサーの兄貴の一撃を士郎がへっぽこだから治せてなく
ここで勝つのはマズいんだけどもどうしよう。
なんせセイバーを少しずつでも打ち負かし始めている。
さておき、このままではまずい。
今、自分でも寒くなること言った気がする⋮。
の。
なにせ、反英霊ですらない半英霊ですから。それもハードだけが英霊並みって意味
!!
今も、セイバーが繰り出してくる連撃をグレイズしながら回避とかルゥカを軽く当て
どんどんどんどん思考が単純化されて、俺の中から無駄な動きを削いでいく。
!!
!!!
?
?
目標としてはイリヤのストレス発散をさせつつ、この戦闘はなし崩し的に終わらせた
いんだよね。
原作みたいに士郎をぶった切って終了はもちろん勘弁だ。
勢い余ってほんとに殺っちゃったら元も子もない。
俺たちの目的の為にも、士郎には勝ち残ってもらわないと。
だが、考えている間にも身体が勝手に動いてセイバーを攻撃している。
ここは一度落ち着こう。
﹂
吹き飛ばしたセイバーは士郎の前で着地し、正眼に剣を構えた。 自分でも飛んだみたいだ。
意識して大振りの一発をセイバーに当て、吹っ飛ばす。だが手応えが軽い。どうやら
﹁とぉりゃあ
!!
﹂
?
貯まっているのは勿論、獣化しそうな衝動。
﹁余裕⋮って言いたいけど、そろそろ貯まりそうだ。そろそろ終わらせないとな﹂
﹁バーサーカー、まだ行ける
昂ぶりを一旦抑え、単純化していた思考を取り戻していく。
俺はセイバーから目を離さないようにしながら一呼吸入れる。
﹁ふぅ⋮﹂
『stage11:白の主従』
187
戦闘らしい戦闘をしているせいかドンドン溢れそうになってる。
獣化なんぞしてしまえば、それこそ速攻で倒してしまう。
さて、どうしたものか。
﹂
ケモる前になんとかしないと⋮。
た。 !?
いや待てよ
ゲーム内でのことだが、一定以下のダメージは軒並み1と表示していた。
?
いつから俺はATフィールドなんぞを張れるようになったんだろう⋮。
いや、俺もびっくりなんですが。
凜が驚きの声を上げる。
﹁嘘、無傷だなんて⋮﹂
変な声が出てしまった。
﹁ぬぉ
﹂
何だろうかと振り向いた瞬間に、眼前で半透明の膜が一瞬だけ姿を現し何かを弾い
しかも徐々に近づいているようだ。
悩んでいると、幽かに風切り音が聞こえた。
﹁って、なんだ
?
188
『stage11:白の主従』
189
例えばレベルをカンストさせた状態で初期クエストなどに行き、敵から攻撃を受けた
ところでどれもダメージは1しか喰らわないということだ。
その際に、出ていたエフェクト似ている気がする。
ああ、でもこれで合点がいった。
俺の耐久はC︵D∼A︶という表記だった。
耐久Cなら確か平均的なもののはずなんだが、後ろについてるD∼Aの意味がよくわ
からなかった。
でも、まだ検証の余地はあるだろうけど予想がついた。
たぶん一定以下の攻撃に対してはAランク並みの耐性を持つけど一定以上の攻撃に
はDランクということなんだろう。
これはまた新たなチート発見ってことかな。
ま、まぁ、条件次第でDランクになるっていうのが怖いけど⋮。
俺が一人で納得していると、再びの風切り音。
しかも先程とは違い複数だ。
飛んできたものを目視し、ルゥカで切り払う。飛来物は、矢。
そういえばいつの間にか居なかったなアーチャー。
ってか、数が多すぎて落としきれない。
確かに落とせなかったやつはシールドっぽいもの││自動障壁︽オートガード︾とで
も名付けるか││に当たって弾けるが、精神的によろしくない。
鬱陶しい
﹂
それに、やはり1は食らっているのか肌がピリピリして気持ち悪い。
﹁ああもう
!!
それとも、こっちも弓で
俺がこのカードを選んだのは、グングニルの名を持つからだ。
宣言と同時、カードから炎が出て槍の形状を持つ。
﹁⋮⋮神槍﹃スピア・ザ・グングニル﹄﹂
思い浮かべるのは、幻想郷に住む吸血鬼なおぜうさまの技。
大事なのはイメージだ。
未だ当たる矢は一旦意識の外へ置く。
一旦ルゥカを収納し、スペルカードを取り出す。
それで行こう。
いや待てよ、丁度良いスペルをこの間造っていたな。
流石にそんな遠距離で当てられる自信は無いな。
?
こっちからも狙撃するかな。ライフルが装備の中にあるし。
あんまり戦闘に乗り気ではないって言っても流石にこれはイラっとくる。
!
190
元ネタであるスペルカードにその効果があるかはわからないが、元ネタの元ネタ、主
﹄なんて思いで創った
神オーディンが持つとされるグングニルは百発百中であるとされている。
だから﹃グングニルって言う位なんだから命中精度良いよね
?
このスペカ、絶対命中ではないけど命中補正が付いてます⋮︵震え声
つまりはこの距離でも当てられる
!
まぁ命中補正が付いている以外はAランクのグングナアタに魔力で炎を纏わせてる
だけだけどね
﹂
!!
!!
イリヤからの抗議が入る。
﹁や、やりすぎよ
﹂
ビルの屋上は原形を留めず、燃え上り、俺たちが居る所までもを明るく照らしている。
続く轟音。
撃していた。
アーチャーもまずいと思ったのか回避行動をとるが、その時には彼の居るビルへと直
槍は炎で尾を引きながら真っ直ぐ飛んでいく。
思い切り振りかぶって、うっすら見えるアーチャーへ投げた。
﹁せーの
!!
﹁あ、やっべ﹂
『stage11:白の主従』
191
いやほんとごめんなさい。やりすぎました。
屋上が崩壊っていうか無くなったけど、アーチャー生きてるよね
アー
?
?
ってかこれって、ビルの修理代とか幾らかかるの そもそも人居ないよね
?
チャーが居た位だし、人気ないよね 終電無いなら仕事まだ出来るねとかって言われ
るブラックな企業じゃないよね
いや、実はね
!!?
?
⋮⋮。
もう少し軽めでいこうと思ってたんだよ
本当だよ
?
できるかちょっと不安だったから焦ってたんで、威力の制御が手抜きになっちゃって
カラドボルグとか宝具級のものを射ってこられたら、いくらチートでもオートガード
?
方を見るがその心配はなかったようだ。
﹁あり得ない。グングニルって今言った
﹂
内心汗をだらだらにしながら居ると、そういえば戦闘中だったと思いだしセイバーの
?
馬鹿な、グングニルは主神オーディンの⋮﹂
?
あ、あのごめんなさい。ただの技なんです。
なんか凛とセイバーにかなり驚かれている。
﹁宝具⋮
?
192
今のはそういう技だから。技なだけ
そんな真剣に厨二技の名前について考えられると、居た堪れない。
﹁えっと、俺はオーディンでも神族でもないよ
だから﹂
というかほんとやめて
﹁圧倒的ね。バーサーカー﹂
厨二病を冷静に解説されると死にたくなるからそこらで止めておこうね
?
らドヤ顔でそんなことを言ってきた。
とりあえずマスターが喜んでるなら良いかな、うん。
そこでふと思い出すが、なんでさっきからバーサーカー呼び
けどもなんか分かりづらいんだよな。
なんか分かりにくい﹂
?
すっかり忘れてたっす。
めだっけか。
そういえばサーヴァントを真名で呼ばないのは敵にその正体をバレない様にするた
一瞬キョトンとするも、すぐにそう言ってくれた。
﹁そうね、コウジュの真名を知られたところで関係ないし﹂
?
いやバーサーカーだ
頭の中で悶えている俺など気にせず、と言うか一緒に取り乱していたのにイリヤった
!?
!?
﹁なぁイリヤ。名前で呼んでくれない
『stage11:白の主従』
193
!?
﹁異世界の英雄、それも神殺しですって
﹁そうよ、凜﹂
﹂
!?
あの、イリヤさん
紹介されるのは恥ずいんだけど
お前絶対わざとだろ
?
﹁アインツベルンはとんでもないものを寄越したわけね⋮﹂
しかもドヤ顔で⋮⋮ってイリヤ
一瞬こっちをニヤッと見たし。
!
?
﹁コウジュ⋮と言いましたね
﹂
今度はセイバーがこちらに話かけてきた。
?
!?
精神攻撃は基本って前に俺が教えたから それかさっきやりすぎたのを怒ってる
!!
﹁教えてあげるわ。コウジュはね、異世界の英雄よ。それも神殺しをなした⋮ね⋮﹂
ル吹っ飛ばすし。
見た目幼女だし、なのにセイバーと良い勝負するし、グングニルとか言い出すし、ビ
まぁ、そうなるな。
﹂
それに気付いたのか心なしかイリヤがジト目な気がするが気のせいだよね。
どこの英雄だってのよ
?
凛が軽くヒステリックに叫んでる。
﹁コウジュ、それが真名ってこと
194
!?
﹂
話している間もマスターである士郎を後ろに庇ったまま剣を構えて隙を見せないの
はさすがってところか。
﹁あなたのクラスはバーサーカーなんですよね
﹁うん、そだよ﹂
会話など到底不可能なはず⋮﹂
﹁なぜ、会話が可能なのですか バーサーカーのクラスは文字通り狂戦士のクラス。
?
な。だからクラス補正は必要なしと判断されたとか﹂
﹁そ の こ と な ら 簡 単 だ。俺 は 能 力 の 一 つ と し て 元 々 狂 化 に あ た る も の を 持 っ て る か ら
なるほどね。それが聞きたかったわけか。
?
もうあなたたちの負けよ﹂
?
ノリノリっすねイリヤさん。
イリヤが敗北という名の死刑宣告を言い渡す。
﹁さぁ、お祈りは済んだ
換できない︶な件について⋮。
おかしい、前哨戦のつもりだったんだけど既にクライマックスなふいんき︵何故か変
どうやら決死の覚悟でこちらへと挑むようだ。
ぎゅぅとセイバーが一段と剣を握りこむ。
﹁完全にイレギュラーサーヴァントというわけですか﹂
『stage11:白の主従』
195
忘れてない
ここで俺たちは勝っても負けてもダメなんだよ
これ、殺らなきゃ駄目な空気出てんじゃん。
イッタイダレノセイダ。
予定は未定だっていうけど、どうしてこうなったし。
?
仕方ないので再びルゥカを構える。
あーもう、誰かどうにかしてこの状況
?
﹁アーチャー
無事だったのね
﹂
!?
だがその姿はあちこちボロボロだ。
皮肉気に笑うアーチャー。
﹁勝手に殺されては困るな﹂
凛が現れたアーチャーへとうれしそうに声をかける。
!!
そしてこれが来たってことは│││
なるほど、やっぱり宝具はオートガードできないわけか。
飛んできたのは白と黒の夫婦剣。
何とか防ぐことはできたけど、若干掠ったのか服が破れた。
そんなことを考えてたからか、飛来するものに気付くのが少し遅れてしまう。
!!
﹁じゃあ、さよなら。やっちゃいなさいコウジュ﹂
196
﹂
それでも、その立ち姿は堂々としており、英雄であることを確かに思わせる。
この流れって、今度は俺がやられるパターン
?
あれ
?
﹁さてバーサーカー、よくもやってくれたな。この貸しは高いぞ
『stage11:白の主従』
197
?
﹂
﹃stage12:コウジュのパーフェクトチート教室﹄
﹁この貸しは高くつくぞ
アーチャー語録には俺も憧れたもんだよ。
仮面ライダーのほうの天道語録も良いよね
そんな凛にアーチャーは少し呆れたような表情を向ける。
凜がさっきまでのが嘘のように嬉しそうに笑っている。
﹁良かったわアーチャー。死んだと思ったんだから﹂
なに可愛いこと言っちゃてんのこの子レベルである。
かと言って、今の俺が言ったところでまったくと言っていいほど迫力がない。
まぁさすがにリアルでは言わなかったけどさ。
!
いいなぁ、かっこいいセリフがスゴイ似合う。
アーチャーがカッコよくセリフを決める。めっちゃダンディだわ。
?
198
﹁凛、君は私のマスターだろう
﹁うっ⋮⋮﹂
ってか、むしろ呪い⋮
だったら令呪の有無で気づいてくれ⋮⋮﹂
なるほど、これが遠坂家のお家芸﹃ウッカリ﹄か。
?
5:SATUGAIせよ
4:コマンド
3:ネタにはしる
2:逃走する
1:おちょくる
目の前のアーチャーをどうやって倒そうか。
そんなことは置いといて、だ。
?
3は保留。
2はもちろん不可。
1は後々仲良くしたいのだから不可。もう遅いってツッコミは無しで。
考えたのは俺だけど何この選択肢。
!
4⋮俺にそんな機能はねぇ。ない⋮はずだ。
5はどっからきた
!?
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
199
と、とりあえず3にしようか。
そろそろシリアスも脱出したい。
ツインドンパッ⋮じゃなかった⋮。ツインネギセイバー
キリも良いし、ここらで終いにしようじゃないか。
﹁来い
﹂
!!
もドンパッチソードの概念加えてみようかな。
原作を考えたら、効果はギャグ補正が発動しいつの間にか勝ってる⋮とか
なんか条件次第では出来そうな予感⋮。
検証はあとでするとして、手に取ったそれを慣らす為にも一度振る。
?
﹁なん⋮だと⋮﹂
いうものなんだから仕方ない。
見た目はどう考えてもネギなのにまるで刃が風を切るような音を出しているが、そう
うん、馴染む。
ついつい太陽っぽい何かが使う武器の名前で言ってしまったが、まじでそのうちにで
して再現したものだ。ちなみに類似品として片手剣型、片手杖型なんてのもある。
本来は緑の電子な歌姫が持っているものをコラボ武器として、PSPo2が双手剣と
俺の両手に現れたのは、見た目は文字通り一対のネギ。
!!
200
﹁おぅ
﹂
何に驚いてるんだ
おぅ
ネギが出てきたこと
アーチャーの目線も上がる。
試しに両手を上げてみる。
?
剣の干将・莫耶と同じ武器ランク扱いだったけどさ。
﹂
けどそうなると、俺が持つもっと低ランクの武器も一応宝具なのかな
けど。いや、まさかねぇ⋮
実となった今ではどうなんだろう
?
そういえば、このネギって初期値で言えば干将・莫耶より強かったりするんだけど、現
?
特に込められる概念も無いし、ゲーム脳で考えると壊れないくらいしか思いつかない
?
確かにPSPo2内では別コラボとして再現されてたアーチャーの持つ宝具、白黒双
っていうか、これも宝具扱いなんだな⋮。
あぁ、そっかアーチャーってその性質の関係で刀剣類の解析ができたっけ。 ?
?
いや、よく見るとその視線は俺の手の方、ネギセイバーを見ている。
そんな俺を見て、アーチャーの顔が驚きに包まれる。
?
?
﹁何故それはネギなのに武器として、宝具として成り立っている⋮⋮
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
201
ゲーム内でその効果の全てを再現してた訳でもないし、アーチャーが持つもの自体も
純粋な宝具ではないから比べるのは可笑しいかねぇ
﹂
とりあえず、話してるだけでは何も始まらないし始めようか
﹁確かに見た目はネギだ。紛うことなきネギだ。けど
﹂
地を蹴り、アーチャーへと駆ける。
﹁っるあぁ
!
?
しかも⋮⋮﹂
?
き、倒れる。
ズパッと軽い音と共に電柱の斬った部分に線が入り、スライドするようにずれてい
近くにあった電柱に一閃する。
﹁ちゃんと剣だろ
それを掴み、また距離を開ける。
悔しいので左のネギを手首のスナップで投げるが俺に返すように弾かれた。
れる。
そのまま体を回し、左後ろ回し蹴り⋮を行うも足が短いから軽く後ろに下がり避けら
流される。
右で袈裟掛けに斬り掛かるも、それに対してアーチャーは干将を寝かせて掲げ、刃を
﹁む⋮﹂
!
!
202
﹁切れ味が良いという謎﹂
コラボ武器だからか干将・莫耶等も含めてだけど大人の事情からか高ランク武器では
なくそこそこの武器としてしか導入されてはいなかった。
だが、同ランクの中では割と使える上に、強化すれば、ゲーム中盤まで使おうと思え
ば使える程度には⋮いやまぁそんなマゾいことするのはほぼ居ないけど。
それでも、装備条件レベルが低めだったこともあり、大抵の人がお世話になったであ
ろう武器だったりする。
何故かイリヤが謝りだした。
﹁なんていうか、ごめんなさい⋮﹂
それに何でイリヤまで同じ目をしてるのさ。
というか現実逃避をしたそうな感じ。
なんか素で皆に、何なのこいつみたいな目で見られてる俺。
﹁何してるのよコウジュ⋮﹂
﹁でたらめよ、色々と⋮﹂
﹁なんでさ﹂
﹁ありえません﹂
﹁ありえん﹂
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
203
﹁何でイリヤ謝ってんの
﹂
何でネギなのよ
今度は怒られた。解せぬ。
﹂
でも言われてばかりもあれだし、このネギの凄さを教えるとするか。
!!
!?
﹁コウジュが悪いんでしょ
!!
達に大半を占拠されてると言っても過言で
?
そういえばこっちの世界にもあるのかな
今度探してみるか。
﹂
?
一旦ツインネギセイバーを直し、再び両手にネギを出す。
﹁あ、こんなのもあるぜ
﹁ネギなのに、何故かすごいものに見えてきた⋮⋮﹂
?
野生の変態技術者の方々の本気を見たときはよくわからず感動したものだ。
MMDを含め、生前はよく聞いたものだ。
はないはずだ。
ニ○動なんて、その歌姫や、その親戚
しかもそうする内にこのネギは技を内包するまでに昇華したものなんだ﹂
いうだけで何千、何万もの人がノックアウト︵萌えた的な意味で︶されたんだからな。
なんたって、とある歌姫が持っていたものが原典なんだが、歌いながらネギを振ると
﹁こいつを馬鹿にしない方が良いぜ
?
204
﹁何も変わってないじゃない﹂
﹁全然違ーう
ゲームじゃないから杖で殴る事も出来たりもする。
ゆえに可能になった方法で俺は今使っている。
ここは現実。
本来のPSPo2内での設定では、片手剣と片手杖を同時に持つことはできないが、
そして左手にあるのがネギウォンド、片手杖だ。まったく違うじゃないか﹂
右手にあるのが片手剣のネギセイバー。別名、真打・ネギ雪。
!!
・ω・`︶ ´
﹂
?
﹂
!!!
た。
この理不尽に耐え切れず、俺はネギを振りかぶって無理やり戦闘行動に戻ることにし
﹁もう良い、全員みっくみくにしてやんよ
今現在敵であるアーチャーにフォローを入れられてしまった。
かね⋮
﹁私は解析できるおかげで分かるが、それの違いを肉眼で見分けるのは不可能ではない
ハモってまで言わなくてもいいじゃない︵
﹁﹁﹁一緒にしか見えない︵ぞ︶︵ません︶︵わ︶﹂﹂﹂﹂
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
205
再びアーチャーへと切り込む。
﹂
﹁こちらを忘れてもらっては困るぞバーサーカー
ながら、流れるように繰り返す。
﹂
斬り下ろし、袈裟斬り、突き、あらゆる方向からの攻撃を、ただ闇雲に回転を意識し
とりあえず、1番近くて目に付いたアーチャーを襲撃する。
﹁くっ⋮
!!
2対1とか勘弁してください
その位置取りはスカートの中身が見えてるんですが
かしいんだぞこっちは
きっつい
ることで俺へと振り下ろし始めている。
スパッツ履いてるけど恥ず
再びセイバーの剣が俺を真っ二つにしようと迫る。アーチャーも対側の刃を体を捻
だが、空中に浮いた状態にある俺は恰好の的だ。
仕方ないから軸足も無理やりに地を蹴ることで浮かし、アーチャーの刃を避ける。
!!
!?
チャーは斬り掛かる。
セイバーの斬り下ろしをその手を蹴ることで反らすが、俺の軸足へとすかさずアー
!
アーチャーと斬り合っていたらセイバーも合流してきた。
!!
206
!!
でもこのまま真っ二つにされるわけにも、ましてや一回殺したくらいじゃ意味が無い
なんてのはまだバラすには早い。
だから、俺は片方を剣ではなく杖に変えた本当の理由を教えることにした。
アーチャーの方は剣の方のネギ雪を投げることで躱し、もう片方をセイバーへと向け
﹂
!!
る。
﹂
!!?
それを見てセイバーは目を見開き驚いていた。
いや、これでも以前やらかしてるんで手加減してるんですよ
﹂
!!
砲撃と言ってもそれほどの威力も大きさも射程もないので、アーチャーには軽く避け
アーチャーへ向けて直射型の光系統の砲撃を放つ。
﹁ダム・グランツ
そんな風にほっとしている俺の背後からアーチャーが近寄ろうとするが││
?
彼女が居た場所には地面が抉られており、かなりの威力があったことが分かる。
れる。
セイバーの頭上に形成された光の矢が降り注ぐが、その前に大きく飛ぶことで避けら
ち、流石に直感Aは伊達じゃねぇか⋮。
﹁
﹁グランツ
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
207
られる。
しかも一工程であの威力って何
丁度俺を挟むようにアーチャーとセイバーが居る状態だ。
﹁あいつ魔術も使えるわけ
遠くで凛が叫んでいる。
﹂
!?
﹁本当に君はでたらめだな﹂
まぁ、持ってるネギ︵に見えるもの︶の所為でシリアス感も半減だろうけど⋮。
何そのムリゲー⋮。
別にあるみたいなことを臭わせていると来た。
長距離、中距離、近距離と、その全ての距離で対応して見せる狂戦士。しかも狂化は
うん、自分でも思うよ。
だがここに来てのあの技。想定が外れて驚かない方がおかしい。
力故に近くでは使えないと踏んだのだろう。
さっきの神槍に関しては、割と溜めが要るのがばれているんだろう。もしくはあの威
見の全員は驚いている。
今さっきまで力任せの攻撃が多かったのに、中距離でも有用な技を見せた訳だから初
しかし俺の今の法 撃に驚いているのは彼女だけではない。
テクニック
むしろ威力を落としてるなんて知ったら凜は発狂するんじゃなかろうか⋮。
?
208
﹁あはは、自分でも思うよ﹂
確かにチートだ。能力だけで言えば、全サーヴァント以上に破格のスペックだろう
さ。
でも中身が中身だし、色々と余計な感情が邪魔をしているせいでそのチートも宝の持
ち腐れ状態なんだよね。
上手く使えばもっとスマートにこの聖杯戦争を終わらせられるんだろうけど、少なく
とも今は無理なんだよ。
だから、聖杯戦争を無茶苦茶にするけど許してね☆
メギバース
﹂
俺はネギ︵片手杖︶を掲げて宣言する。
?
!!!
つまり避けられない。
しかも、これは範囲技。
収することができる技だ。
でいうところ魔力がなくなるまで︵このチートボディには関係ないが︶相手のHPを吸
これは闇属性のフォトンアーツで、効果は一定時間自身のP.P.つまりはこの世界
﹁こいつは反則だぜ
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
209
﹁何ッ
﹂
ぐっ⋮コレは⋮⋮﹂
﹁力が⋮
!?
はて
﹁衛宮⋮くん⋮大丈夫⋮⋮
﹂
と思ったところでその更に向こうに目が行き、気づいた。
目の前のアーチャーとセイバーはさすが英霊と言うべきか片膝着いてるだけだし⋮
?
バタバタと何かが倒れるような音が聞こえた。
最低限の目的は果たしたし、そろそろ帰ろうかとテクニックを切ろうとしたら、バタ
れているような気もするが、大丈夫だろう。うん。
ま、まぁ、違う理不尽さだとか、イリヤのストレス発散目的だとか、当初の目的とず
ないんだ。
士郎に聖杯戦争の理不尽さを知ってもらい、決意を一層固めて貰うための邂逅に過ぎ
あくまでこれは前哨戦。
ちょっと卑怯な気もするけど、今日のところはこの位で終わっとかないとね。
アーチャーとセイバーが膝を付く。
﹁あんた達の生命力を吸収してるんだよ﹂
!?
210
?
﹁ぐぅ⋮﹂
どうやら威力調整はしても範囲指定をミスっていたのかその向こうの士郎と凜まで
効果範囲に入ってしまっていたようだ。
おかげで魔力量の少ない士郎が虫の息になってしまってる。
俺は慌ててメギバースを切り、ネギを仕舞った。
え
﹁イリヤさん
﹂
なんでイリヤさんが倒れてるんでせうか
そんな俺の首もとを、イリヤはガッとつかんでシェイクしだした。
俺はすかさずイリヤのもとへ飛び、イリヤを抱き起した。
!?
!?
?
﹁なんで⋮私まで⋮⋮﹂
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
211
﹁な、なんで⋮私まで攻撃してるのよ
しまった⋮。
﹁えっと⋮⋮⋮やっちゃった
﹂
﹂
おおぅ⋮、気を失う寸前にめっちゃ睨まれたんだけど⋮。
そう言い残してイリヤは気絶してしまった。
﹁コ、コウジュ⋮退くわよ⋮⋮後で覚えてなさい⋮﹂
けどすぐに、イリヤは力尽きて倒れてくる
!?
だった
うおおおおお
﹂
﹂
やばいどうしよう、俺のゲーム脳のバカ野郎
ゲーム内でも暴走獣化した時くらいしか気にする必要なかったし、完全に意識の外
ていなかった。
威力ばかり気にしていたが、フレンドリーファイア︵同士討ち︶というものを気にし
?
﹁ひょっとして君は凛以上のウッカリなのか
!!!
﹁それって⋮私に喧嘩うってない⋮
?
!!!
﹁私はあんなのに敗れたのか⋮⋮﹂
?
!!
212
ぬああああああああああ
た。
べ、別に悲しくなんかないからな
っていうか、そのウッカリ認定はやめてくれ
ホントにウッカリ属性が付きそうだから
月夜ばかりと思うなよ
﹂
!!!!
言っておくがこれは戦略的撤退だからな
!!!!
俺はイリヤを抱えて屋敷に向かってその場を飛び去った。
!!
!!
!!
!?
アーチャーにウッカリ認定された上に、セイバーにはあんなの呼ばわりされてしまっ
!!!!??
﹁うぅ、きょ、今日のところはこれ位にしといてやる
『stage12:コウジュのパーフェクトチート教室』
213
﹂
﹃stage13:O☆SHI☆O☆KI﹄
﹁俺の⋮部屋⋮⋮
﹂
?
コウジュがネギを出した辺りからの記憶があやふやだ。
﹁昨日⋮、俺はあれから⋮どうなったんだ⋮
しかし、いくら考えても記憶が飛んでいてよくわからない。
入ってくる光から考えて、少なくとも夜は明けているのだろう。
なんとか身体を起こし、現状を理解するために回らない頭で考えだす。
布団を除けて体を起こすという、ただそれだけのことがとてつもなく億劫だ。
身体がやけに重い。
﹁うあ、なんだこれ・・・﹂
どうやら俺は布団の上に寝かされているようで、掛け布団を除け、体を起こす。
目を覚ました俺の視界に映ったのは、見慣れた自室の屋根だった。
?
214
何か魔術を使って⋮そこから⋮⋮、そこからどうなったんだっけ
駄目だ思い出せない。
このまま寝ていても答えが出るわけではないので、居間に行くため立ち上がる。
﹁どこかが痛い訳じゃないけど⋮ホントにダルいな⋮﹂
?
なんでここに
﹂
病み上がりのような脱力感が付き纏うが、どうも身体が栄養を欲しているようなので
何か口にしないと辛い。
なんだか今日は居間がやけに遠く感じる⋮。
﹁ああ、おはよう⋮って遠坂
!?
と言うかほんとなんでここに居るのだろう
ができる状態じゃなかったのよあなた達﹂
﹁あのねぇ⋮あなた昨日の自分がどんな状態だったか覚えてないの
どんな状態って⋮、いやどんな状態だったんだ
?
一人で帰ること
?
?
その先客はまぁ遠坂な訳だが、自分の家かの様に湯呑でお茶を飲みつつ寛いでいる。
なんとか居間に到着し障子扉を開けて中に入ると、何故か先客がいた。
!?
﹁おはよう、衛宮くん。もうお昼だけど﹂
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
215
少し考えるが、首をかしげるしかない。というか考えても仕方ないから俺はここに来
たんだった。
そんな俺を見抜いたのか遠坂は溜息一つ、説明してくれた。
?
﹂
しかしそうなると遠坂はどうだったんだろうか
﹁遠坂は⋮、大丈夫だったのか
﹁っ
﹂
というか話し方が⋮⋮﹂
悪い
うん﹂
⋮こっちが素なのよ
﹁悪くは無いと思うぞ⋮
!
?
﹁コホン、そんなわけで私はあなたを治療するためにここに来たってわけよ。⋮⋮実際
ことができて得した気分だ。
とりあえず俺の中で遠坂像が崩れたのは確かだけど、学校では見られない遠坂を見る
!?
!?
何故か怒られた。何でさ⋮。
?
!!
﹁へ、へっぽこ
がほとんど無いから極端にダメージがあったのよ﹂
﹁倒れはしたけど衛宮君ほどじゃないわ。あなたは素人のへっぽこでしょ 魔術耐性
?
?
良くわからないが、その所為で気怠いのか。多少合点がいった。
生命力が
﹁簡単に言えば、生命力だけが極端に引っこ抜かれた状態だったのよ。ギリギリまでね﹂
216
には治療は必要なかったけどね。何故か勝手に治ってたし⋮⋮﹂
後半の声が小さくて聞こえなかったんだが、何だったんだ
さておき、遠坂は無事だったわけだ。それならよかった。
いや、待て。
?
遠坂が俺の家に当たり前のように居ることに驚きすぎて気づけていなかったが、この
場にはセイバーが居ない。
﹂
そういえばさっきあなた達って言ってたような⋮。
セイバーは
!?
!?
危ない状態だったんじゃないか
いや、ともかく今はセイバーだ。
まったく、俺は一体何をしてるんだ⋮。正義の味方になると誓ったはずなのに⋮。
ようで⋮⋮。
駆け寄ろうとしたら遠坂に止められて、そうこうする内にネギが出てきて気を失った
?
コウジュ自体はアーチャーの攻撃に気を取られたのか気づいてない様だったが、実は
コウジュの攻撃を何度か防いだ後、胸の辺りを押さえているのが見えたんだ。
気づくことができた。
治ったと思っていたランサーから受けた槍傷、それが治っていないことは戦いの中で
﹁それであの後どうなったんだ
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
217
セイバーが強いのは分かったけど、女の子に守ってもらうどころか怪我人の後ろに居
るだけなんてのは駄目だ。
なんとかしないと。
﹂
?
しかし消耗
﹁ぐ⋮、確かに俺は回復とかの魔術は全然だけどそこまで言わなくてもいいじゃないか﹂
ちゃうんだか⋮。私なら回復なんてすぐなのに⋮⋮﹂
はあ、なんでこんなのがクラス中最強と言われるセイバーのサーヴァントを召喚し
を得られないセイバーはほほとんど回復していないわけ。
代わりとして魔力が間接的に吸収されたみたいなのよ。だから、あなたからの魔力供給
ど、アーチャーやセイバーは英霊、つまり現界を維持しているのは魔力だから生命力の
﹁バ ー サ ー カ ー が 最 後 に 使 っ た 魔 術 は 生 命 力 を 吸 収 す る と い う も の だ っ た み た い だ け
?
ひょっとしてさっき教えてくれた、俺が生命力を抜かれていたってのに関係するのか
?
セイバーも無事なのか。よかった⋮。
﹁消耗
けどね﹂
﹁落ち着きなさい。セイバーは無事よ。ただ、昨日のことで大分消耗はしてるみたいだ
218
﹁⋮ごめんなさい。言い過ぎたわ。私も動揺してるみたい。昨日のバーサーカーは規格
外すぎた﹂
﹁そうか バーサーカーなんてクラスが似合わない女の子に見えたけど⋮。まあ、英
ていた。
あの時アーチャーがあれを見て、宝具と、そう確かに言っていたはずだ。
宝具って確か、あのランサーの槍や、セイバーの見えない剣とかもそうなんだよな
名を聞いて正体を見破ったように。
となると、アレを宝具として使うコウジュって何なのだろう
宝具って一体何なんだ⋮。
くそ、真剣に考えたいのに思考がネギに侵食されてイマイチ脳が蕩けそうだ。
?
遠坂が昨日、宝具とはその英雄の代名詞だと言ってた。セイバーがランサーの槍の真
?
コウジュがルゥカと呼んでいたあの禍々しい武器と似たような雰囲気を確かに持っ
いだと理解できた。
でも不思議なことに、確かにあれはネギだったはずなのに、何故だかあれが刀剣の類
ネギ使ってたけど⋮。
霊なだけあって強かったのは確かだけどな﹂
?
﹁はぁ⋮。あのね衛宮君﹂
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
219
﹁お、おう﹂
考え込んでしまっていた俺を見て、再びため息をつきながら遠坂が口を開いた。
攻撃手段
戦をやってたっけ
ともかく宣言だけであれだけの威力があるのにはビックリした。
?
たよな
光を落とす方はクレーターが出来てたし、レーザーみたいなのは後ろの壁を簡単に貫
でも使ってた魔術は半端がないものだったな。
?
魔術の媒体みたいに使ってたし別のネギとか言ってけど⋮、やっぱりあれもネギだっ
で、次もネギ。
それが宝具⋮。
何故ネギ。でも剣。しかしどうあってもネギ。
その次が、ネギか⋮。
のか
それから次は⋮ああそうだ。槍だ。紅い炎でできた槍。カードから1工程⋮でいい
?
最初は、両端に湾曲した刃がついた妙に生物の骨格を思わせる武器でセイバーと接近
えっと、確か│││。
?
﹁よく考えてみなさい。昨日のあの子が使ってた攻撃手段﹂
220
通していた。
だったらわかるはずよ。あの子は、バーサーカーは弱点が見つか
次のやつはあまり覚えてないけど結構離れてたのに一気に何かが抜けたのは覚えて
る。
﹁どう思い出した
﹂
吸収ってことは、こっちがダメージを受ける一方で相手は
しかも特にひどいのがラストの魔術
!?
出鱈目にも程があるわよ
!!
生命力を吸収って何よ
回復するのよ
!!
を持った反撃の炎槍、光を落とすのも、撃つのも、生命力を吸収するのもそうね。
の攻撃もまったく気にも止めず障壁みたいなのでレジスト。そして、一工程であの威力
らない。近距離もケガをしてるとはいえ、セイバーとほぼ互角。遠距離からの不意討ち
?
識できていないんだよな。 でも俺はその前に町でコウジュを見ているからかイマイチ真剣に彼女を敵として認
確かに改めて言われてみると出鱈目だと俺も思う。
話してる内に怒りのボルテージが上がったのか、肩で息をしながら捲し立てる遠坂。
!?
その姿はかなり哀愁を漂わせている。
落ち着きを取り戻して、目の前のお茶を飲む遠坂。
﹁ふぅ⋮ごめんなさい。あなたに文句を言っても仕方ないわよね﹂
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
221
﹁いや、俺に言うことで楽になったんなら良いけど﹂
﹁そう、ありがとう﹂
﹁ああ﹂
間が、間が辛い。
何とか励ましてあげたいが何を話せばいいんだ。
同級生がマドンナで魔術師で敵だけどなんか親切でまったく訳が分からない。
ああでも、いま目の前に居る遠坂の方が自然って感じがして俺は好きだな。
うん、こっちの方が良い。
何を言えばいいか考えている内に頭の中で脱線していると、遠坂がコトンと湯呑を置
きこちらを向く。
﹂
少しビクッとしてしまったが気付かれてないよな⋮
﹂
﹁ところで、衛宮君はこれからどうするつもり
﹁これから
?
﹁俺は、10年前の大火災みたいになるようなら防ぎたい⋮。ただそれだけだ。聖杯な
﹁えぇ、聖杯戦争にどうかかわっていくつもりなのかってことよ﹂
?
?
222
んてものに興味は無い﹂
あの地獄のような大火災がまた起きるかもしれない。そんなことは到底許されない。
許しちゃいけない。
救われたい者も、救いたい者も、ただ燃えて朽ちていった。
俺はただ運が良かった。たまたま爺さんに見つけて貰えたから助かった。
だから、これは俺の義務だ。
?
セイバーの願いか。
﹁セイバーにも、叶えたい願いが⋮⋮﹂
死んでからもなお叶えたい事って一体何なのだろうか
バーが危なくなった時飛び込もうとしたわよね
﹂
﹁あともう一つ聞きたいことがあるのよ。昨日のバーサーカーとの戦闘時にあなたセイ
セイバーが回復したら、少し話をしてみないとな。
ゆっくりと話が出来ていない。
昨日の衝撃的な出会いからそれなりの時間が経っているけど、未だにセイバーとは
?
ら私たちマスターに従ってくれるのよ。あのセイバーだって例外ではないわ﹂
聖杯戦争で召喚される英霊たちにも叶えたい願いがあって聖杯を必要としてる、だか
﹁そう言うと思ったわ。言っておくけどあなたその内セイバーに殺されるわよ
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
223
?
﹁あ、あぁ。それがいったい⋮﹂
﹁けど、あんな殺し合いを黙ってみてるなんて⋮
﹂
殺し合いは認められない
﹂
﹁衛宮君、あなたがやられた時点でセイバーも消えるっていうことを分かってる
﹁それは⋮﹂
﹁それで、どうするの
﹁そう﹂
呆れさせてしまっただろうか
遠坂が突然席を立った。帰るのか、戸へと向かう。
?
﹁最後に忠告、英霊たちを現界させているのは魔力ってさっき言ったわよね だから
しかし、開ける前に立ち止まりこちらへと振り返った。
?
?
!
?
﹁あぁ、おれはやっぱり殺し合いは認められない﹂
?
﹂
﹁言っておくけど、前代未聞よ マスターがサーヴァントをかばおうとするなんて⋮﹂
224
﹁なんでそんな⋮
﹂
めにサーバントに無差別に人を襲わせる奴もいるわ﹂
英霊たちは魔力があればある程本来の力を発揮できるの。マスターによってはそのた
?
だから、殺し合いが認められないなんて悠長な事を言ってると無関係な人が死んでい
﹁魔術師じゃ無くても、人の魂は力を内包してるから喰わせるのよ、英霊にね。
!!?
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
225
く可能性だってあるし、相手は強くなっていく一方よ。
大災害は止めたい、けど、殺し合いは認められない。どう動くにしてもその矛盾を早
くどうにかしないと真っ先に殺されるわよ⋮﹂
そう言い残して、今度こそ遠坂は帰っていった。
分かってる。
確かに矛盾しているんだろう。
大火災みたいなことを起こしたくないから、聖杯戦争に参加する。けど、殺し合いは
認められない。
でも俺は誰にも傷ついてほしくない。死んでほしくないんだ。
あの時、俺が救われた時、救った側の爺さんが何よりも救われた顔をしていた。
俺はあの姿に憧れた。そして爺さんに誓ったんだ。
だから俺は、あんな理不尽な事を起こそうというやつがいるなら、絶対に許してはお
けない。
止めてみせる。
◆◆◆
﹁⋮⋮ハッ
﹂
そこには、白い鬼が居た。
ギギギと、俺は後ろへ振り向く。
その肩へポンと何かが置かれた。
肩も凝っているのか重たいのでぐるぐると回す。
正座のまま寝たからか、身体のあちこちが痛い。
﹁ふわぁ∼、正座しながら寝るとか俺も案外器用になったみたいだな⋮﹂
あ、正座待機してたのはせめてもの誠意を現すためだ。寝ちゃったけどさ⋮。
あるし。
いやだって、女の子の部屋に、しかもその主は意識が無いのに居座るってのは罪悪感
回復をしたとはいえ気を失ったままだったので、俺は自室に戻り正座待機した。
ドに寝かせた後にレスタ︵回復系光法撃︶を使って回復させた。
いやはや、倒れてしまったイリヤ︵俺が原因だけど︶をすぐさま屋敷へと連れ、ベッ
おっと、寝てたみたいだ。
!?
226
﹁私も驚いたわ。色んな意味で﹂
とても良い笑顔で白い鬼、もといイリヤはそう言った。
や、やべぇ、鳥肌が止まらねぇ。
そして動けない。
目覚めてたのでせうか
というかいつからそこに⋮
﹂
?
足が痺れてとかじゃなく、蛇に睨まれた蛙のような意味でだ。
﹁イ、イリヤさん⋮
?
﹂
していると思ったのに寝ていて少しびっくりしたわ﹂
見に来たのよ。ノックをしても返事がないから中を覗いたんだけど、正座をして反省を
﹁目覚めたのはついさっきよ。そして私がこうなった原因はどこで何をしているのかと
?
!!!
いえ、寝ていたことは良いわ。そんなことよ
?
アインツベルンの城ですら半袖でも過ごせたのに、氷点下程度無視出来るこのボディ
へへ、震えが止まらねぇ⋮。
イリヤの口は笑みの形を取ってはいるが、変わらず目が笑っていない。
顔を上げてイリヤを見る。
り昨日のことよ⋮﹂
﹁まったくどういうつもりなのかしら
頭を地に着けるように土下座をする。
﹁ご、ごめんなさいっ
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
227
!
﹂
おかしいわね、あなたへの罰を考えていてとても気分は高揚しているのに⋮﹂
あ、オワタ⋮。
﹁そう
ど、どSだ
どSがここにいる
﹂
﹁えっと、昨日のは⋮﹂
﹁昨日のは
再び土下座をして自分の非を認める。
部屋の中が氷点下なだけじゃ無くブリザードまで幻視できる。
や、やばい⋮。
﹁そう⋮﹂
誤魔化しなんてした日にはどうなるか分かったものじゃない。
!!
?
﹁ごめんなさいテンションが上がって術の制御に失敗しました
﹂
﹁まずは何で昨日の魔術が私にまで影響があったのかを聞きましょうか⋮﹂
!!
た。
何とかこの空気を払拭しようとお道化てみせるが、イリヤの笑みが深くなるだけだっ
?
止まらない
なのに、震えが
!
目が笑ってないですよー⋮
﹁マイマスター⋮
?
!!
?
228
どんな罰を下されるんだろう。
とりあえず分かっているのは、ただではすまないことだ。
あ、そうだわ﹂
俺、無事に明日を迎えられたら、あのたい焼き屋さん行くんだ⋮。
﹁さて、何がいいかしら
何されるんだろ俺。
﹂
﹁はは、何を言われるかと思えばそんなこと⋮って、なんだとぉ
イリヤは俺に死ねと
女らしく
!!?
いうやつか
というかこの幼女、ほんと幼女がしちゃいけない笑みを浮かべてるんですが
!
﹁仕方がないわね。手伝ってあげるわ﹂
!?
そうか、これがよくテンプレ的な言い方をされる笑みとは本来威嚇するためのものと
こ、怖いんですけど。
﹁くすくす、そんなに嫌なんだぁ⋮﹂
そう訴えかけた瞬間、ニヤァッと口が大きく三日月のようになる。
!!?
!?
あれ、おかしいな。イリヤの背中やら頭やらに小悪魔的な羽とか尻尾が見えてる。
どうやら決まったようだ。
?
﹁コウジュ、あなたの罰は﹃女らしくすること﹄よ﹂
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
229
突然部屋に魔力が満ちる。
﹂
同時にイリヤの全身に薄く刻印のようなものが浮かび上がる。令呪だ。
﹁イリヤさん
﹁うぃ、言いましたっす。はい。でもこんなことに使うためでは
﹂
いけないわんこに躾をするのってとっても大事だと思うのよ﹂
?
ればイリヤなら分かってくれるはず│││﹂ 令呪のもとに命じるわ
!
私が許可するまで﹃女の子らしく﹄しなさい
﹁バーサーカー
﹂
!!
!
!
﹁やっと収まったのですよ⋮⋮って、え
﹂
熱を感じさせたそれは徐々に治まっていき、やがて落ち着いた。
俺の中で何かがずれて、切り替わる。
それは強制的に俺を圧迫する。
ドクンと、ラインを通して何かが流れてきた。
﹁ぐ⋮
!?
﹂
﹁待て。早まるんじゃない。まだ慌てる時間じゃない そうだ、話をしよう。そうす
﹁そう
!!
ら、何かあったら遠慮なく令呪を使えって﹂
﹁あなた言ったわよね。あなたの作戦では私は最低限のマスター権限さえあれば良いか
!?
230
!?
く、口調が
しいのですよ
﹂
いやにぱー☆とかしませんけども
というかまるでひぐらしの梨花ちゃまの口調なのですよ
令呪のせいなのか考えまで変化しているのですよ
本当にこの口調は何なのですか
!?
うん、とっても有意義な使い方だわ﹂
有意義
これ有意義なのですか
﹂
﹁確かに作戦上、令呪の一つや二つ使っても⋮ってちょっと待ってください
﹁つ⋮﹂
満面の笑顔で返された。
﹁えぇ、とぉーっても有意義よ﹂
!?
!!?
!!
!!
!!?
?
!?
!?
﹁な、何なのですかこの口調は というかイリヤは吹き出してないでどうにかしてほ
!?
!?
﹁クスクス、えらく変わったわね。とても似合ってるわよ
『stage13:O☆SHI☆O☆KI』
231
﹁つ
﹂
窓を開けて城を飛び出す。
こんな家︵城︶に居られるか
このおにちくー
﹂
私は出て行かせてもらうのですよー
!!!
後ろでイリヤの声がかすかに聞こえた。
﹁何かあったら念話するわね。あとディナーまでには帰ってくるように﹂
!
けど止まらずに、私は城を後にした。
グレてやるのですよー
!!!!
!!!
!!!
?
﹁月夜ばかりと思うなよーなのですよ
232
けど⋮、けどすぐに呪い状態に戻ってしまうのですよ。
イテムを使ったのです。
もちろん城を出てすぐ、森の中で解除をしようと状態異常回復のフォトンアーツやア
可能ということなのですよ。
一応、自分で解除できないか試してみたのですが、分かったのは今の私では解除は不
これはもう、令呪という名の通り呪いなのですよ。
⋮。
くっ、自分ではいつもどうり話しているつもりなのに勝手に変換されてしまうのです
令呪のせいで女の子を強制されているコウジュなのですよ。
どうもコウジュなのです。
﹃stage14:幼女逃走中﹄
『stage14:幼女逃走中』
233
令呪はマスターが自身のサーヴァントの主である証であると同時に、たった3度だけ
可能な絶対命令権。
だからと言って、見習いとはいえ神様なチートパワーが令呪に負けるだなんて思えな
かったので、次は能力の方を使うことにしたのですよ。
結果は同じように一瞬解除できてもすぐに呪い状態へ戻ってしまうのです⋮⋮。
そこでふと思い出したのは携帯電話︵アカシックレコード︶、ついつい色々と癪に障る
ので使うのを控えていたのですが、今となってはそんな甘いことは言ってられません。
取り出して、使用方法を思い出す。
今回はヘルプを見るわけではないから、補足として言っていた〝力を流し込む〟とい
うものを試す。
しかし次はどうすれば
?
画面を見るとアンテナが立ったのです。
﹁むむむ⋮﹂
しょう。
サブカルチャーの知識があるからイメージがしやすいというのもそれなりにあるで
力の使い方はそれなりに練習したから割と容易なのです。
﹁とりあえず⋮要れるのですよ⋮﹂
234
﹁あ、ネット検索みたいなのはできるのですかね
のですよ。
はやく戻らないと︵使命感
﹂
?
れという意識誘導が行われており、コウジュ自身が自身に令呪からの命をかけている状
何々、﹃現在令呪によりお仕置き中。令呪の効果によりコウジュ自体に少女らしくあ
のです⋮。
ってうわ、まじで出た
この口調は可愛い子がやるから良いのであって、中身男の私がやってもキモイだけな
これでは梨香ちゃまやら某駆逐艦ちゃんとキャラ被るじゃないですか。
正直邪魔くさいのです。
ちょっとしたネタにも〝なのです〟が付くとかこの自動変換優秀過ぎなのですよ。
﹁Goog〇e検索⋮だと⋮、なのです﹂
そこに表示されていたのは││。
操作してそのページを呼び出す。
うで、それがアカシックレコードにつながっているようなのです。
ピコピコとあちこち調べているとどうやら普通の携帯のようにネット接続できるよ
?
﹁と、とりあえず検索項目は私の状態⋮で、でるのでしょうか
『stage14:幼女逃走中』
235
236
態のため解呪しても、自分で呪ってしまっている。また、コウジュ本人が令呪とはサー
ヴァントへの絶対命令権というイメージを持っていることも強制力を持たせている要
因である。現状能力は暴発に近い状態であるため、解呪を成功させるには自身の能力を
﹂
現在より展開させるか、マスター本人に再度令呪を使ってもらう必要がある。つまりド
Mですね﹄
って、ドMじゃないのですよ
なんでGoog〇e先生に馬鹿にされているのですか
と、また地面に携帯を叩き付ける。
本家本元とは違うのでしょうけど、何故にドM扱いされねばならんのですか
バシっ
!?
!?
!?
﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄は自分の心の在り様で効果が影響される能力。
それにしてもまさか解呪できないのが自分の所為だとは⋮。
大人しく、仕様がなく、携帯を仕舞ってこれからのことについて考える。
捨てたいのは山々なのですが、さすがにそうもいかないですからね。
腹立たしいのですが、現状が分かったのは確かなのです。
ふぅふぅと肩で息をしているのを落ち着かせ、携帯を拾いにいく。
相変わらず腹立たしい。
しかし、地面を抉るだけで形態は無駄に新品同様の光沢を変わらずに見せている。
!!
だから、私の心が少女であるようにと意識誘導されてしまっているから解呪は不可能
ということなのですか。
しかも私はこの能力を扱いきれていないのです。
つまり心のどこかで不可能であると思っているのです。
当然イリヤに解呪してもらうという選択肢はない。
これは女の意地なのです
いい加減にしやがれなのですこの呪い
!!
!
⋮⋮ちゃうのです、男の意地なのです
ぬぉぉぉぉぉ
!!
負けないのですよ
決意をしたは良いですが、気持ちに一区切りついたからかお腹が空いてしまいまし
音源は自身のお腹なのです。
そう心の中で誓った瞬間クゥ⋮、と音が鳴る。
!
少年マンガにありきたりな展開ですが、それもまた一つの真理。
私の敵は私自身。
ともかく、レベルアップしてこの補正を解呪するのです。
!!!
﹁ははは⋮、レベルアップするまではこのままというわけなのですか⋮﹂
『stage14:幼女逃走中』
237
238
た。
昨日から何も食べてないから余計なのですよ。
とりあえず町に行って何か食べましょうか。
もう慣れたもので、樹の上を飛び跳ねながら街へと至る。
何やらまた視線が⋮。
商店街へとたどり着いた私はとぼとぼと歩く。
呟くんじゃない
キョロキョロと周囲を見回し、人が居ないことを確認。
今です
そして服。
まずは帽子を外し収納。
すぐさま手を自らの服に手を掛け、脱ぎ捨てる。ただし、この服は複雑だ。
アイテムボックスからリズに貰った上下を瞬時に取り出し、上へ投げる。
!
!!
ぬ
写メを撮るななのですよ
!!
服が初期のコスプレ系のままなのを忘れていたのですよ
コラ
これはコスプレではありません
急いで、路地裏へと走る。
!!
あ
!! ?
恥ずかしいですが、ここで着替えるしかないのですよね⋮。 !!
!
まずは胸元の留め金を外し、両袖を外す。
インナーシャツも脱ぎ去り、下着はまだあるとはいえ冷えた外気に肌が触れブルリと
震えてしまうが躊躇している暇は無い。
知ったことではない。
腰ひもをほどき、スカートの留め金を外し脱ぎ去る。そのまま流れるようにスパッツ
も脱いでしまう。シュバルツシルト領域
人気は無し。
この間実に3秒
無駄にチート性能を持つこの身体の勝利なのです。
最後に脱ぎ散らかしたものを回収し、アイテムボックスへ。同時に周囲の再度警戒。
しホックを留め、チャックを上げる。
そこでタイミングよく落ちてきたセーターを被るように着て、ジーンズにも両足を通
?
これで街中を歩いても不振に思われはしないでしょう。
ともかく着替え終了。
す。いや面倒なので考えませんけどね。
見目の問題であるのは分かっているのですが、服というものの命題を考えさせるので
ふぅ、ゲームにある服というのは実際にあるとほんと不必要に複雑なのですよ。
!
えらく入り組んだ路地裏を歩く。
﹁はぁ、今日は厄日なのですよ⋮﹂
『stage14:幼女逃走中』
239
疲れた精神を、仄暗い路地の気配が余計に陰鬱にさせる。
こんな所はさっさと離れるべきなのですよ。
テクテクと、歩いていくが次第に冷や汗が出てくる。
あれ、こんな道を通ったですかね
はっ、これも少女補正のせいなのですか
︵※違います︶
自分では大通りに出ようと思っているのですが、どんどん奥に行っているような⋮。
?
!?
﹂
?
いや、あれって⋮⋮人
﹁だ、大丈夫なのですか
脈⋮はあるですね。
﹂
慌てて近寄り、倒れている女性を抱きかかえて声を掛けるも反応はない。
﹁⋮⋮﹂
!? !?
るい色の為かこの暗い路地で目についたようですね。
そちらへ目をやると、隅にあるゴミ山の中にマネキンみたいなのがある。その服が明
明るい色の何かが移る。
違うことを考えることで迷っていることを誤魔化そうとしていると、視界の端に突然
すし⋮むぅ
﹁そ、それにしても⋮今日はどこに泊まりましょうか⋮。出てきた手前、帰るのもなんで
240
呼吸も、浅くはあるがしているようです。
そこでふと気付いた。
はて、誰でしょう⋮
原作キャラ
レジェネ
﹂
﹂
!!
えっとえっと、レスタ
!
とりあえず回復+状態異常回復を使ってみる。
これなら、死んでない限りは大丈夫なはず
﹂
よかった起きたみたいなのですよ
﹁う⋮あ⋮⋮。私⋮一体⋮⋮
しかし、未だ活力というべきものが弱い。
!!
?
!!
?
﹁あ、あれ、この服って穂群原学園の⋮。というかこの人どこかで見たような⋮⋮﹂
!!
しかし開かれた目には力が無く、何かを吸い出されたような⋮⋮。
えっと、こういう時は何をすれば
心臓マッサージ
!?
﹁返事が無いただのしかばn⋮ってネタをしている場合じゃないのですよ
人工呼吸
!?
いやいやいや、どちらも必要ないですね。
!?
!!
?
﹁って、だから早く治療しないと
『stage14:幼女逃走中』
241
まるで、私がメギバースによって力を抜かれた士郎達の状態をもっとひどくしたよう
に⋮⋮。
ああ、なるほど。サーヴァントですか。
心の中で何か黒いものが芽生えるが、そんなことを気にしている場合ではない。
慎二と紫の、うぐ⋮﹂
ここは路地裏なのです、あなたはここに倒れていたのですよ﹂
目の前には今尚弱々しい彼女が居るのです。
﹁大丈夫なのですか
あいつらは
!?
?
ずなのです﹂
いや、それより君は⋮
?
﹂
?
を言いそうになったのですが修正します。
ついつい、怯えた彼女をどうにかしたいという思いと、あとはまぁ様式美としてネタ
少し訝しんだような眼でこちらを見てくるのですよ。
﹁魔法使い⋮
﹁私ですか、私は通りすがりのかめん⋮じゃなくて、あー、魔法使いなのですよ﹂
﹁回復
﹂
﹁急に立ってはだめなのですよ。体力は回復できても精神的な疲れはまだ残っているは
しかし、今回復した分だけでは何かが足りないのか、すぐに頭を押さえてふらつく。
改めて声を掛けるが、何かに怯えるように私に抱き付きながら周囲を警戒する彼女。
﹁倒れ⋮は
!
?
242
その後に出たのが魔法使いという単語もあれですけど、あながち間違いではないです
し良いですよね
﹂
?
﹁慎二
慎二って、間桐の
﹂
﹁ええっと⋮襲われたんだ。慎二っていう同級生と、あと、紫の髪の変な女に⋮﹂
﹁それよりあなたはどうしてこんな所に
私がお道化て見せれば、力なく笑いながら彼女はそう返した。
﹁ハハ⋮。今更魔法使いが出ても、おかしくは無いか⋮﹂
?
?
穂群原学園の生徒でもあるし、ひょっとしてこの方は⋮。
そしてこの色々抜かれた後っぽい状況。
間桐慎二。紫の髪の女。このタイミングで路地裏。
?
私の名前は美綴綾子だよ﹂
?
おおぅ⋮、やっぱ姉御っすか。
﹁私
﹁そういえばあなたの名前を聞いていなかったのです。私はコウジュなのです﹂
『stage14:幼女逃走中』
243
バーサーカー
!
﹄
!!
というか、室内のテレビでサッカーの中継を見ている。
とのことで宛がわれた部屋にコウジュと2人で居る。
そして今、外傷はないが精神的に衰弱が見られる私に、念のため一日入院するように
能性が高いから一緒にきてほしいと言われていた。
コウジュは救急車が着いたからどこかに行こうとしていだが、救急隊員から事件の可
をした後、救急車を呼んでくれたそうだ。
コウジュは私を発見してすぐに、治療︵意識が朦朧としていたからよく覚えていない︶
更に奥の方で私は倒れていたと教えてくれた。
るのは白いセーターにジーンズ姿なコウジュ。彼女が発見してくれたらしく、路地裏の
今隣で居る少女、きれいなプラチナブロンドに紅い眼の自称魔法使い、だけど着てい
らしいというのは、あまり記憶が無いからだ。
ほんのさっきまでは路地裏に居た⋮らしい。
私は今、病院に居る。
﹃stage15:やっちゃう
244
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
245
個室だから良いけど、かなり熱い応援の仕方だ。 ただ、行け、そこだという声にあわせて、ストレートパンチやフックを繰り出してい
るのが気になる。
競技が違うんじゃないか
何かと問題を起こすやつで、この間なんか新入部員をいびったりしていたいけすかな
間桐慎二。
やがてその部活も終わって、片付けをしていたらあいつが話しかけてきた。
そしていつも通りに学校が終われば再びの部活。
真面目と優等生が同時に突然休む⋮⋮。いや、考えすぎだな。
そういえば、遠坂も休んでたな。
確か、珍しく衛宮が休んでるなと考えたっけ。
ける。
いつも通りに朝から自分が部長をつとめる弓道部の朝練をし、学校が始まり授業をう
昨日の私も普段と別段変わり無い生活を送っていた。
だから私が覚えてる記憶は昨日のものということ。
話を聞くと、私は運良く家に帰れなかった次の日に発見されたらしい。
そんなコウジュをぼーっとみながら、どうして私がこうなっているのかを考える。
?
246
いやつだ。
妹の桜とは性格が天と地ほども違う。もちろん桜がいい方だからな
ともかく、その慎二が話しかけてきたんだ。
最近何かと迷惑を掛けたから、何か奢る⋮と。
あまりにも怪しい誘いにジト目になった私は何も悪くないはずだ。
それでも、私は奢らせることにした。
逢魔が時。夜と夕方が混じったあやふやな時間。
問題はその帰りだ。
てくれた。勿論色々奢らせたとも。
それで、普段から軽薄な行動が多いこともあるからだろうが中々に良い店へと案内し
は明るいし変なこともできないだろうってタカをくくってたんだ。
本当に怪しかったんだが、最近は物騒だからって部活も早く終わってたからまだ辺り
それでまぁ、奢らせることが決まったから慎二と一緒に町に出た。
コホン⋮。
食い意地が張ってるとか思った奴は前に出ろ。撃ち抜いてやる。
たりする。
弓道部といえども体力は結構使うから、部活が終わってすぐはかなりお腹が空いてい
?
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
247
歩いていたら、横からトンっと慎二が押してきて私は路地裏に入ってしまった。
もちろんすぐ戻ろうとした。
けど、大通りから軽く押されただけなのに、すでに私は路地裏のさらに奥、人気など
まったくない場所まで移動していた。
ケラケラ笑う慎二がまだそこに居たから、よく分からないがこいつの仕業だろうと問
い詰めようとしたんだが、とても長い紫髪の目隠しをした女が現れた。
手には杭のような短剣を鎖でつないだ明らかに人を害するのが目的の武器を持って
いる。
すぐに私は走って逃げた。
幸いにも、この辺りの路地裏はそこまで大通りまでの距離があるわけでもないし、陸
上部には負けるが走りもそれなりに自信がある。
けど、どれだけ走っても、出口が見えるたびに紫の髪の女は絶対に出口の手前に居る。
クスクスと笑いながら私を追いかけてくる。
完全に篭の鳥状態だった。
走って、走って、でもすぐに追い込まれて⋮⋮。
そして、最終的には首に噛みつかれて何かが一気に抜けていく感覚と共に私の意識は
途絶えた。
あの、思わず撫でちまったんですけどね⋮。
◆◆◆
震えは気づけば止まっていた。
でも、不思議と落ち着く。
ははは、友達から男まさりだって言われる私がだ。
なんで、と聞く必要はなかった。私は震えていたんだ。
コウジュがいつのまにか私を撫でていた。
﹁もう大丈夫なのですよ⋮﹂
248
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
249
この人お持ち帰りして良い
めちゃくちゃ可愛いのですよ
?
じなのですよ。
こ、これがギャップ萌えというものなのですね
ゲフンゲフン⋮。
あ、綾子、恐ろしい子
!
だからと言って撫でられるのが嫌なわけではなく嬉しそうにはしているといった感
つむいて、撫でられるのが恥ずかしいのか微妙に頬を赤くしているのです。
原作だと姉御肌な感じだったけど、今目の前で私に撫でられてる綾子は、ちょっとう
いや、不謹慎だとは思うんですけど、こう心の中からもどかしい気持ちが⋮。
?
というか、いつになったら私は帰れるのですかね。
呼び方だけであそこまでダメージを受けるとは⋮⋮綾子、恐ろし︵ry
綾子は最初、コウジュちゃんと呼んできたのですがそれだけは阻止したのです。
風な流れなのです。
普通に話をしてたらそれなりに仲良くなって、お互いがそう呼んで欲しい⋮っていう
特段何かがあったわけではないのですけどね。
ああ、そういえばお互いをコウジュ綾子で呼ぶようになりました。
!!
第一発見者ではあるけど、すべてを話すわけにはいかないのでそろそろお暇したいの
ですよ。
というか病院に居るとドキドキするので離れたいのです。
あ、ご存知ですか 病院に行くと血圧が上がるのは白衣症候群とか白衣高血圧とか
言うらしいです。
私
私がどうやって抜け出すか唸っていると、綾子がそう聞いてきた。
﹂
私は捕まったら解剖されそうなのでドキドキしているのです。ほら、実質UM
お医者さんに何か言われるかもって思ってしまうせいで血圧が上がるそうですね。
?
﹁あのさコウジュ、最初に会った時、魔法使いとか言ってたけど本当
Aですから。
?
?
じゃなくてウィザードでよろしくお願いします
﹂
﹁一応、マジなのです。厳密には魔法っぽいのをを使える⋮ですけどね。あ、ウィッチ
もう関わってしまった以上、どうにかしたいのですよ。
さすがにこのまま放置して、また襲われては後味が悪いどころの話ではないですし、
方が良いですかね
ふむ、すべてを話すわけにはいかないですが、当事者である綾子にはある程度話した
その表情は何をどうすればいいのかわからない迷子の小犬みたいなのです。
?
250
?
﹁え
﹂
いう意味で。
自分の能力に振り回されてますけどね。現在進行形で
そんな私を見て、なぜか納得したといった表情をする綾子。
あるんですけどね。
とりあえず、型月さんの作品だから自称魔法使いをやってみたかっただけというのも
!
悪魔でも⋮⋮間違いました。あくまでも魔法使いなのです。不可能を可能にすると
魔女っ娘ではないのです。
もする︶、やはりこの見た目なら魔法使いが一番なのです。
基本的に、チートボディな私にできないことはほとんどないのですが︵割りとある気
﹁いや、気にしないでください﹂
?
ね、吸精鬼
あ、でも吸うのは血じゃなくて生命力みたいなものだから吸生鬼
?
なんか違います
あー、ライダーさんの場合、確かに噛みつくことで吸うんでしたっけ。
﹁いや、私を襲った奴も吸血鬼みたいだったし⋮。居ても変じゃないかなぁ⋮と﹂
﹁えらく簡単に信じるのですね﹂
﹁そっか⋮﹂
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
251
?
﹂
?
おっと、この字面はなんか危ないのです。
﹂
!?
﹁でも、なんで⋮
﹂
?
﹂
?
﹁⋮⋮﹂
﹁だから⋮⋮﹂
思い浮かべるのは一本の長杖。
ロッ ド
られた場合、記憶を消すのではなく口封じに殺そうとする者も居るのですよ﹂
記憶を消すために、何故その必要があるかを知ってもらうためなのです。一般人に知
﹁綾子に話したか⋮ですか
?
﹁まぁ、そんなとこなのです﹂
﹁コウジュも関係者なのか⋮
聖杯戦争、サーヴァント、7人のマスター、その一人が間桐慎二と件の紫おねーさん。
それから今この町で何が起きようとしているかを簡単に説明した。
﹁えっと⋮何から説明しようかな⋮⋮﹂
でしょうね。当事者ですし。
いや、私雷電じゃないのでそんなに詳しくないんですが、ある程度は言わないとダメ
﹁知ってるのかコウジュ
﹁ひょっとして綾子がやられたのって紫の髪のボディコン目隠し
252
大鎌を思わせるフォルムを持ち命を刈り取る禍々しさを感じさせながらも清らかな
白い刃を持つそれを取り出す。
﹂
﹁来るのです。ホワイトディザスター﹂
﹁それ⋮は⋮
﹂
す。記憶を消しちゃうとどんな影響が出るかわかりませんから﹂
﹁こ い つ は 戒 め を 与 え る こ と が で き る も の で す。こ れ で 綾 子 の 記 憶 に ロ ッ ク を 掛 け ま
?
?
救いたい、とは思います。その為の力もあるのかもしれません。
物語の裏で、綾子のように被害にあっている人は居るのに、です。
だから、私はそれ以外を無視してやっている部分もあります。
イリヤを助ける、ただそれだけを思ってこの聖杯戦争に参加しました。
むしろ、加害者側である私が声を掛けてはいけないのかもしれません。
何かを考え込むように俯く綾子に、私は声を掛けられません。
﹁綾子⋮﹂
﹁そっか⋮⋮﹂
覚えてない、その程度まで記憶があやふやになると思います﹂
﹁私はただの第一発見者になるのです。何かがあったはずだけど、何があったかまでは
﹁コウジュに関する記憶もなくなるのか
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
253
しかしその結果イリヤを救えなくなるなんてことになってしまうかもしれない、そう
考えると怖いのです。
よくある問答です。
1の為に他を切り捨てるか、他を助けるために1を切り捨てるか。
私は1を選びました。
一度持てば分かりますよ。スペックが高くたって、中身が伴わなければ意
元一般人である私が出来ることなどそんなものだと、諦めているから。
チート
﹂
今は綾子のことを考えなければ⋮。
駄目ですね、今の私は何故か感情がむき出しになりやすい。
だから綾子を守ることはできない。無かったことにするしか⋮。
私は、その陰でイリヤを助けるだけ。それだけ。
私には主人公補正なんてないのです。主人公は士郎ですから。
味が無い。
?
止めた
!
﹂
﹁あーもう
﹁ぬぁ
!?
!!
254
俯いていた綾子は突然声を上げながら頭をガシガシと掻きました。
思わず変な声を上げてしまたのですよ。
そんな私を、手を留めた綾子は真っ直ぐ見る。
﹂
?
その性根を現すように、本当に真っ直ぐな瞳で。
﹂
﹁コウジュ。やっぱり記憶を消すのは無しって訳にはいかないかな
?
﹂
?
言い訳にしていたものが〝ソレ〟だっただけですね。
今まで言い訳して、自分の中にあるものを封じ込めて、自分に嘘をついて、イリヤを
いや、すこし違いますね。
でもどこかわかる気がします。
正直な話、綾子が何を言いたいのかよくわかりません。
私は何が言いたいんだか⋮﹂
にするのは何か違うというか、やられたままは性に合わないというか⋮、はぁまったく、
﹁えっと、口では言い表しにくいんだけど⋮。もう知ってしまったことを無かったこと
﹁違う⋮
気がするんだ﹂
﹁ああ。正直に言うと消したい記憶ではあるけどさ、無かったことにするのは何か違う
﹁無し⋮ですか
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
255
何を小利口に纏まっていたのでしょうか私は。
男であった時から、主人公に憧れはしませんでしたが誰かを助けるお助けキャラには
なりたいと思ってきたじゃないですか。
そうですよね
﹂
折角のチートなんですから、限界なんて自分で決めずに脇役がはっちゃけたって構い
ませんよね
そう
!!
﹁フフ、アハハハ
﹁な、なんだよ﹂
!
?
仮にも英霊として呼ばれたのなら、こんな情けないこと考えていないで原作ブレイク
男らしい⋮と言うと怒られそうですが、カッコいいとは言わせてください。
いや、男だとか女だとか、そんな問題じゃないですかね。
男であった俺よりもすごいよ。
・
あなたはすごいですね。とっても眩しいのです。
でも違うのですよ綾子。あなたを笑いはしません。
をしています。
自分のことが笑われていると思ったのか、照れながら拗ねるというような器用なこと
突然笑い始めた私に、訝しんだ眼を向ける綾子。
!
256
なりなんなりやっちゃいましょうか。
サーヴァント
なにせこの身は、神様見習い︵仮︶で、 英 霊で、宇宙を救ったガーディアンですから
﹁何故それを知っている
﹂
﹂
﹁まぁ、魔法使いですから﹂
ど、夢を壊す発言だからな﹂
﹁だから何故それを知っている
﹂
とが違うですね。夢を壊すですか﹂
﹁おや、さり気に少女趣味だけど周りの視線も合ってそれを前に出せない綾子は言うこ
!
!?
﹁そんな個人情報を知る魔法はなんか嫌だ
ファンタジーじゃないことは分かったけ
﹁綾子には負けました。完敗です完敗。さすが女の子にモテるだけはあるのですよ﹂
しれないなんて脅すようなことを言っておいて。
まぁ、さっきまでとは真逆のことを言っているようなものですからね。殺されるかも
拗ねていた綾子は、今度はきょとんとした顔をこちらに向けました。
?
なのです﹂
﹁ダメですよね。自分の気持ちを無かったことにしちゃダメですよね。綾子の言う通り
!
﹁あれ、解ってくれたのか
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
257
!?
﹁今度のはカマをかけただけですよ﹂
止めたものです。
かくいう私も、この杖も含めて各種武器を出すたびに目を奪われては確認作業の手を
希望をくれるというその説明文に嘘偽りない神聖さをこの杖は放っていますから。
しかしそれも仕方ないでしょう。
綾子はこの杖から目が離せない様ですね。
ゲームをやっている時は持っていなかったので覚えていました。
元 々 は 課 金 ア イ テ ム だ っ た の で す が、以 前 倉 庫 内 の 物 を 整 理 し て い た 時 に 見 つ け、
れると言われています。
長杖系の翼が生えた白いこの杖は、輝く光の力を増幅させて暗闇を撃ち抜く希望をく
ロッ ド
﹁今度のやつはきれいだな﹂
﹁来い、クラッドバストーネ﹂
私はホワイトディザスターを手から消し、違うものを呼び出します。
そんな綾子にお礼なのです。
綾子には申し訳ないですが、元気も調子も出てきました。
ああ、うん、これが私ですね。シリアスなんてごめんなのですよ。
﹁⋮⋮もうやだこの自称魔法使い﹂
258
﹂
﹁綾子、あなたの記憶を消すのは止めておきます﹂
﹁本当か
もし記憶を消していたら、私は綾子の矜持を傷つけていましたね。
その様子を見て、選択を間違えなかったことに私自身も嬉しくなります。
私の言葉に、飛び上るように喜ぶ綾子。
!?
﹂
?
る今でも私はくっさいことを考えてしまうようです。
そういえば男は夢見がちで女は現実主義なんて言われたりしますが、女の子化してい
それはきっと綾子の在り方で、そしてその魂の輝きなのでしょう。
先程私は綾子を見て眩しいと感じました。
ます。
そういうことにしておいて、私は杖を綾子に向けてやることをさっさとやることにし
どことなく顔が引きつっているような気がしますが気のせいですね。
﹁え﹂
﹁ぽいものです。やるのは初めてなので﹂
﹁ぽい
を持っておいてもらおうと思います﹂
﹁ええ。でも流石に何も対処無しという訳にはいかないので、あなたに加護っぽいもの
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
259
今コウジュが何かしたってことでいいのか
﹁魔法使いじゃなかったの
﹂
﹂
だから私は、綾子の魂が曇ることなく、この先困難にぶち当たっても乗り越えられる
ことを願います。
んん
!
﹂
!?
あ、どこぞの紅いのに他意がある訳ではありませんよ
とも。
綾子がボソッと﹃遠坂にも見習わせたいよ⋮﹄なんて呟いてるのなんて聞こえません
?
存在はファンタジーでも今の時代は機械位は扱えないといけないと思うのですよ。
﹁急に現実的になった
﹁あ、あとこれ私の電話番号とアドレスなのです﹂
だって残念ながらほぼそうなのですから仕方がないのです。
ジト目をする綾子に、私は笑みを向ける。
﹁ふふ、私自身も思うのですよ﹂
﹁何なのその滅茶苦茶な設定は⋮﹂
﹁実は神様見習いでもあるのですよ﹂
?
?
綾子の未来が輝きに満ちて希望が多からんことを
﹁ん
?
﹁はい、ちょっとしたお祈りなのですよ﹂
?
260
﹁さて、私はもう行くのです﹂
﹂
偉い人は言いました。やられたらやり返す、倍返しだ
被害者は私じゃありませんが、まぁ誤差ですよ。
!
あのわかめも被害者と言って良いのかもしれませんが、許してはおけないのです。
⋮、もとい処理しなければいけません。
綾子が無事だと知って、あのわかめが何かするかもしれませんからね。早めに調理
﹁もう行くのかい
?
﹂
?
聞くために振り向くと││。
扉に手を掛けた私に、綾子が思い出したというように声を掛けてきました。
﹁何ですか
﹁あ、そうだ﹂
綾子が少し寂しげにしますが、私は杖を倉庫に戻し出口へと向かいます。
﹁そっか﹂
し訳ないのですが、もうそのレベルではないのですよ﹂
﹁やることが出来ましたから。思い立ったが吉日とも言いますからね。警察の人には申
『stage15:やっちゃう!バーサーカー!!』
261
というかバレバレでしたか、綾子恐るべし。
うん、手を出す相手を間違えたのですよわかめ君。
とっっても良い笑顔で、綾子はそう言いました。
﹁私も一発殴りたいから、残しといてね﹂
262
﹃stage16:戦争なんさ しょうがないだろう
ハローハロー、みんな元気ですか
私は絶不調なのですよ。
!
散々なのです。
イリヤの弄り⋮ですか⋮
はあ⋮⋮。
!
私の場合も、自滅+イリヤのマスター適性の高さもあってか﹃女の子らしくすること﹄
ていましたがマスターとしての適性が高いゆえに成立していたのです。
原作で凜がアーチャーに向かって﹃私に従え﹄みたいな曖昧な令呪のつかいかたをし
そのせいか女の子らしい服を着せられる時、何故か身体が動かなくなったのですよ。
イリヤが令呪で私に命じたのは﹃女の子らしくすること﹄なのです。
着せ替えなのですよ、着せ替え。
?
少女補正は未だ解呪できず、お城に戻ったときはイリヤに弄られ⋮⋮。
?
︵開き直り﹄
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
263
264
という曖昧な命令である故に女の子らしくするためのあれやこれやをイリヤに無理矢
理⋮、無理矢理⋮⋮。
もうお嫁にいけないのです
行く気もありませんが。
日出かけるまでは止めないって言ってきました。
悪いのは私ですが根に持ち過ぎじゃないですかねぇ
よ。
令呪やら私の能力がどうたら以前に、世界そのものから弄られてる気がするのです
うか。いや、良いわけないのです。反語。
いくら令呪だからってここまで私の男としての尊厳を破壊しまくって良いのでしょ
もうね、わけが解らんのです。
私の目は死んでいることでしょう。
れてお開きとなりました。
と、とりあえず、色々試して満足したのかイリヤが来ている服の色違いの黒を着せら
!?
を止めてもらうためイリヤに謝りまくったのですがあのどエス⋮もといあの幼女は今
とりあえず今の状態だといつもの調子が出にくいので、本気を出すためにも女の子化
!
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
265
閑話休題。
そんなこんなでお城に帰ってきた私なのですが、現在は自室で新しい力について絶賛
修行中なのですよ。
実は今日は慎二君終了のお知らせの日なのです。
イリヤに今日の夜出かけるとも言われました。それが先に言ったお出かけですね。
丁度、綾子の為にもとっちめる予定でしたからある意味では丁度良かったのです。
現在正午過ぎだから大体10時間ほどすればライダーvsセイバー戦が始まるであ
・・・・
ろうというところなので、それまでに色々と準備をする必要があるのです。
とはいえ、ワカメをコウゲキするために必要なものの半分は既にあのお優しいイリヤ
が代わりに集めてくれてあるのです。
準備したいものを伝えた時にソレは私がやると言ってくれたのですが、まぁ暗示とか
は苦手だったので助かったわけですがその前に私の状態を戻してほしいと思うのは贅
沢なのですかね
その能力は﹃空中戦闘﹄と﹃空間移動﹄に関するもの。
ど得たいと思うのです。
さておき、攻撃に関しては何とかなると思うので、あとは汎用性が高い能力を二つほ
?
266
何故今それが必要かというと私が考えた原作ブレイク計画にも関係があるのですが、
対ライダー戦も含めて無いと困るのです。
名前は﹃サーヴァント補完計画﹄。計画名は適当なのです。
内容は│││いや、今言ったら面白くないのでその内にしましょう。
今は、能力習得が先なのです。
まず一つ目、空中戦闘に関してですが実はこっちはほぼ決めてあったりします。
考えた方法は箒で飛ぶか、翼で飛ぶか。
ただここで一つ考えてほしいのです。
魔法使いは箒で飛ばない。箒で飛ぶのは魔女なのです
ちなみに、箒の場合は長杖系のウィッチブルームという武器を使うつもりでしたが今
ロッ ド
カードキャプっちゃう桜ちゃん理論ですね。まぁあっちは杖ですが。
う面に関しては不利になると思うのです。
しかし箒で飛んだ場合だと箒の制御に手を使わないといけなさそうなので戦闘とい
べるイメージを掴めるかというと謎です。
確かに人間にはそもそも翼というものが存在せず翼が生えたからといってすぐに飛
も、勿論、それだけが理由ではありません。
というわけで、方法は翼で飛ぶという方法で可決ですね。
!!
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
267
回はそのまま倉庫に入れておきましょう。
というわけで翼なのですが、今まで使ってきませんでしたがPSPo2にはビジュア
ルユニットという通常防具とは別の、文字通り見た目にアクセサリーを加えることがで
きるものがあります。
この身体になって防具というものがどういう扱いなのか必要なくなりましたが、ビ
ジュアルユニットに関しては使用できることが分かっています。
その中で今回使用するのが﹃ホワイティルウィング﹄という名の、これまた文字通り
白く輝く光で形成されたような翼です。
同じ種類でダークネスウィングとかもあるんですけどちょっと見た目が禍々しくな
りそうなので白翼でいくことにしました。
そんなホワイティルウィング。使用方法は簡単です。
︵震え声
翼なんだから飛べるだろうと思い込んで飛ぶだけ。
ね、簡単でしょう
式なのです。
真っ先に思い付いた空間移動の方法は東方projectの八雲紫が使うゲート方
さて、次の空間移動ですがこっちがまだ悩み中なんですよね。
?
268
あの能力は空間の﹃境界﹄を操って別の場所につながるゲートを作ったり、異次元空
間へつなげたりとかなり汎用性が高いし、チート臭いのです。
しかし、今の私でできると思えてないので却下。
後々使えるようにはなりたいですし、出来ないこともないでしょうがイメージし辛い
のですよ。
ツインダガー
そもそもあれは能力の一部として空間移動を可能にしているだけで、今の私が求める
ものとは微妙に主旨が違うと思うのです。
なので却下。
次に思いついたのは、オンラインで使うのはやや敬遠され気味だった武器、双小剣系
のツミキリヒョウリなのです。
これには時間と空間を支配する的な概念があって、それを使えばいのでしょうけど、
そもそも空間支配ってどうするの
のもあって即死攻撃系の武器は敬遠されてた訳ですが、く、空間に対して即死効果発動
PSPo2では連続攻撃︵チェイン︶によってレア率が上がるというのが定説だった
けどあの武器、一定確率で即死効果が付いてるんですよね⋮。
をするとしたら空間を斬る必要がある思うんですよね。
とりあえず空間を移動する為にイメージしたのは裂け目を作ることなんですが、それ
?
とかってなりませんよね
ね
?
というわけで、他にゲートタイプの能力者は│││。
だから試すのは今度ですね。
を操り切れてない内は自重した方が良いかなーって思うのですよ。
当然BOSSとかに対しては発動しなかったし大丈夫だとは思うんですが、まだ能力
?
ティンと来た
﹁これなら⋮﹂
具。
﹁⋮⋮ッ
﹂
一気に概念と共に力をカードに込める。
!!!!
イメージするのは国民的人気アニメの青いたぬk⋮コホン⋮猫型ロボットが使う道
この概念を使用して、イメージ。
ドアとは違う空間と空間との隔たりであり出入口であるもの。
ここに概念を書き込むことで新たな技、能力にするのが私が編み出した技術。
取り出すのは真っ白なカード。
!
目についたのは部屋の入り口、ドア。
﹁ふむむ⋮⋮あ⋮⋮﹂
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
269
そうすると、カードが白く光りその中に絵柄や文字が書き込まれていく。
自らのイメージが求めていたものに近ければ、その求めたモノそのものを彷彿させる
﹂
って、なんなのですかこれ⋮怪奇移動﹃どこでもドア﹄⋮⋮。ふむ、とてつ
何かが描かれるのです。
﹁よし完成
もなくいやーな予感がするのですよ
怪奇移動
微妙に猫型を間違えそうになる雑念が入ったからなのですかね
でもまぁ試しに使ってみないとどうしようもないですし⋮。
ドアの方に向かい、正面に立つ。
日本の人気がないところ
﹂
!!
そして、宣言。
目標
!!
ドアをくぐり、つながった場所へと足を踏み出す。
と、とりあえず、ドアの先はどうなったですかね。
ただ、なんか光方が胡散臭い。とんでもなく嫌な予感がするのです。
のドアが同じように光ります。
ぺかぁぁ∼⋮⋮っと、手にしていたカードが光となって消えていき、代わりに目の前
﹁怪奇移動﹃どこでもドア﹄
!!
細心の注意は必要でしょうでしょうけど、とりあえず使いましょうか。
?
?
!
?
270
どうやら成功のようで、比較的周囲の建物が見えないことからどこかの屋上に出たよ
うです。
しかもやっべぇ
ただ、問題あるとしたら、そこかしこから噴煙のようなものが立ち上がっているのが
見えます。あ、どこかで爆発した。
これ、空間移動というか世界そのもを移動してやがりませんかね
世界に来たんじゃないですかね
?
に柵があり、下へ降りるためには端にある階段を使う必要がありそうですね。
どうやらここは屋上の中でも一段高い場所に建てられているようで、ドアを出てすぐ
る探索を始める。
ドアが閉じないようにストッパーをしてから、もう少し辺りを確認するために恐る恐
?
﹄﹃アァ⋮⋮﹄﹃ウゥアァ∼﹄⋮⋮⋮⋮
人気の無い所を指定したはずが何やら聞こえるため、角まで行き、そーっと覗くと│
││。
なんぞこれ
!!
なんかゾンビちっくな、色々と飛び出たり足りなかったりする方々がいらっしゃる。
?
﹃グゥア∼﹄﹃ガァーッ
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
271
いっぱい居るじゃないですか
というかかなりゾンビだよこれ
確かに人気は無いけど
いやでも今はこっちも日が出てるし違うですよね。
!?
!
いやいやいやいや、いつから日本はこんなことに
死徒とか
?
!
一体どこに来てしまったのですか
﹄﹄﹄﹄
しまったのです。
﹁あ﹂
﹃﹃﹃﹃グゥア
しまったのです
戦略的撤退
どこ
﹂
一斉にこちらへとゾンビが向いて殺到しはじめたのですよ
!!
?
﹁あれ、これって割と行けるパターンですかね﹂
ってあれ、割と遅いのですよ。
!
!!
見つからないようにしていたのに、脳の許容量がバーストしてしまって思わず叫んで
!?
?
周囲の建物とかを見るに確かに日本だし、ここは学校の屋上みたいなんだけど、私は
?
﹁確かに私が言った条件に当てはまりますけども何なのですかこれは
!?
272
ふむふむ、数は8ってところですか。
﹁ま、まさかねぇ⋮﹂
!!
﹃アシクビヲクジキマシター
﹄
HOTD、学園黙示録、スクデッドなんて呼ばれてるアレ。エログロ系のあれです。
﹁はっ、ひょっとしてここって⋮﹂
そこでふと、日本、ゾンビ、学校という単語から一つの作品が思い浮かびました。
屋上の安全、クリアなのです。
あ、終わりました。
﹃﹃﹃﹃ヴァァー・・・・﹄﹄﹄﹄
﹁ソォーイ﹂
ふと思いつきで回復してあげたら、地面に倒れ込んで動かなくなりました。
﹁あ、効いた﹂
﹃ヴァー⋮ア⋮アァ⋮⋮﹄
﹁あ、そうだ。レスタ﹂
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
273
﹁あああ
もう
﹂
!!!!
﹂
!
ほらあっち行け
当てるぞなの
!
す。
!
!
というかあの男子、逃げるのにそんなに本を持つなです
あと、そこの教師 今何しようとしやがった
です
!
!
私は早速リベリオンを構え、少年に近づこうとしていたゾンビを撃ちぬいていきま
した。
今回は威力は度外視で、対象を巻き込まないようにする必要があるためこれを選びま
丸が目標を確実に捉え射抜くとされているものです。
猟神と呼ばれた男が肌身離さず携えていたとされる長銃で、すさまじい殺傷能力の弾
呼び出すのは一丁のライフル、リベリオン。
リベリオン
から少し離れた場所に一人の少年が倒れ込んでいるのが見えました。
慌てて、屋上の中でも声が聞こえた側、運動場等が見える場所に走っていくと、玄関
に届いてしまったのです。
アニメでも、それ以外の作品でも一時期よく使われたワードが無駄に高性能なこの耳
嫌な予感というのは当たるものなのですね。
!!!
﹁来るのです
!
274
アーチャーの時とは違い目視でも対象を確認できるため、私は次々に周囲のゾンビを
撃ちぬいていきます。
時間があったら鍛えるといいのですよ
!
少年は何とか立ち上がって走り出すも何せ遅い。
見た目通りのがり勉君のようですね
図書館で戦争が起こらないとも限らないのです
!
!
だからといって放置するわけにもいかないので、引き続き少年が必死に走るところへ
﹂
と近づくゾンビどもを撃っていく。
なのですよ
!
!
﹂
!
ほぼ同時にバスが走りだし、門を突き破って視界の向こうへと消えていきました。
少年を見ると、他の人達と共にマイクロバスに乗ることができたようです。
力っぽいアレ︶を弾丸として飛ばしていた為に弾切れ状態のようですね。
ど う や ら 世 界 を 越 え て い る せ い か 龍 脈 と の 接 続 が 切 れ て お り、自 ら の P.P.︵魔
﹁しまった、龍脈と接続できてないから
トリガーを続けて引くもカチンカチンと音を鳴らすだけで弾は出ません。
そこでカチンっと、手元から高い音が鳴りました。
からゾンビは出てきます。
しかし、撃って撃って撃ちまくりますが数が全然減らないのです。次から次へと校舎
﹁私は一発の弾丸
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
275
ギリギリ行けましたか。
ふぅ、世話が焼けるのですよ。
ギィィ⋮⋮
一息ついていると、そんな音が横から響いてきました。
同時にいくつもの唸るような声が⋮。
そちらを見れば、やはりというか何体ものゾンビが扉を押しのけてこちらへと進んで
きます。
あー、ライフルの音が原因⋮、ですかね
﹂
?
うん、いつもの城内に戻っていますね。
一応軽くドアを開けて向こうを覗く。
周囲を確認すれば見慣れたアインツベルンの屋敷なのです。
﹁何なのですかあの地獄絵図⋮﹂
チートの限りを尽くし走って自分が通ってきたドアを通り、思いっきり閉めました。
﹁戦略的撤退
!!
276
まったく、怪奇にもほどがあるのですよ
﹂
?
易度は低いかもしれません。
このチートボディもあるし、不老不死だし、魔法も使えるし、銃もある。
けど、行きたくないのですよ
ゾンビは嫌なのです
んなこと考えたらフラグが⋮。
あ、でもちょっとだけ鞠川先生に癒されに行く位なら⋮⋮ってダメなのですよ
主に嗅覚とかSAN値的意味で
!!
﹃てててて∼て∼てってってて∼♪﹄
﹂
!
!!
!!
﹁このFFで聞いたことのある音楽⋮。あ、メールの着信音なのですか
?
そ
まぁ確かにバイオみたいに走るゾンビとか武器を持ってるゾンビとかに比べたら難
﹁いやいや、確かにあのマンガは好きですけどね⋮。勘弁してほしいのですよ⋮﹂
コミックの方も読んでいたし、雑誌もよく立ち読みしてたのですよ。
私が転生する直前にアニメ放送が開始されて、一話だけ見たから覚えているのです。
﹁それにしても、やっぱりはいすくーるおぶざでっど⋮なのですかね⋮
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
277
﹂
行ける世界が増えたよ
﹄
恐る恐る携帯を取り出し、画面に表示されていたメールを開く。
﹃やったねコウジュちゃん
なのですよ
!
ですよね
仕方ないので改めて本来の目的、空間移動の能力を得るため修行なのですよ。
よね。
とはいえ取り留めもないことを考えて現実逃避するも何かが変わる訳でもないです
とおもうのですけどどうなんですかね⋮﹂
﹁はぁ、溜息を付くと幸せが逃げると言いますが、溜息を付いた時点で幸せが逃げている
?
あのエミリア神が言っていた〝いくつかの世界〟にあの世界が入っているとかない
はぁ⋮、鬱なのです⋮⋮。
﹁うおぉ∼、立ってしまったのですよフラグ⋮﹂
とりあえず拾い上げ、直しておく。
いつものように携帯を床へと投げるも、忌々しいことに傷一つ付かない携帯電話。
おいやめろなのですよ
﹁くそーっ
!!
!
! !!
278
﹁さてさて、今度こそ成功させましょう﹂
再びカードの作成に入る。
立ち上がり、カードを生み出して集中。
今度こそ、雑念が入らないように力を込める
確認の為に目を開けると、うん、成功のようなのです。
目標は無難にこの城の玄関
!!
とりあえず試すとしましょうか。
!!
場所でした。
﹁やったのですよ
成功
﹂
!!
先程は準備を手伝ってくれはしましたが、綾子と出会い、私の勝手で計画に修正を加
そのためにも、イリヤとの作戦会議ですね。
ああ、これで作戦を進められる。
!!
さっきのことがあるのでそっと扉を覗くと、そこは見覚えのある景色でイメージした
りに目の前のドアも同じように光ります。
今度は、先程とは違ってきれいに光り輝き、手にしていたカードが消えていき、代わ
﹁空間移動﹃どこでもドア﹄
﹂
すると今度は、カチリと頭の中で鍵が開いたような感覚が生まれた。
!!
﹁空間移動﹃どこでもドア﹄、完成したみたいなのです﹂
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
279
えることをまだ伝えられてはいません。
だからイリヤに計画を話して協力を得る必要があります。
私が思い付いた計画は、当初の予定よりイリヤにかなりの負担をかけてしまうので
す。
ここまで来れば、できればサーヴァント達も救いたいのですよ。
そのためにも⋮⋮。
おや、またメールなのですか
模様換え様アイテムは元々お渡ししてあるのでそちらをお使いください。
特典としてマイルームを差し上げます。
容易になりました。
﹃空間操作に関する適正の一部を取得。これからは次元に関する技術の習得がある程度
したのです。
また嫌なメールかもしれないと一瞬躊躇しましたが、見ないのも怖いので開くことに
再び携帯を開きメールを確認する。
?
﹃てててて∼て∼てってってて∼♪﹄
280
部屋の設定は携帯でも行うことができます﹄
ほほーう。
これはこれは⋮。ふふっ、御誂え向きに丁度良いのですよ。
有効活用するとしましょう。
全てはハッピーエンドの為に。
◆◆◆
出掛けるにはまだ早いわ﹂
?
しげながら質問する。 お仕置きを継続をしているのとは別に、どこか元気のないコウジュを見て少し首をか
しかしその様子が少しいつもと違う。
自室で本を読みながら紅茶を飲んでいると、コウジュが訪ねてきた。
﹁どうしたのコウジュ
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
281
﹁話があるのですよイリヤ。これからについて﹂
前に話してくれた計画についてかしら
部話してくれる気になったのかしら
ては嬉しいし、コウジュが大丈夫だて言ってくれたから任せているのだけど、ついに全
いくつか不満はあるし情報として教えてくれていない部分はあるけども私自身とし
以前に教えてくれたのは、私をどうにかして死なせないというもの。
?
いや、言葉というか色々足りてない
秘密主義という訳ではないのだろうけど、この子は色々と言葉足らずなのよね。
?
﹁⋮
えらく楽しそうなのです。何か良いことでも
﹂
?
オチオチ子どもっぽい真似なんてしていられない。
なんというか、心配でたまに見ていられないのよね。
?
た拗ねるかしら
いつになく真剣なコウジュに、私も真剣に聞くことにした。
﹁とにかく、計画についてなのです﹂
くれたようだ。
とりあえず何でもないとコウジュに伝えると、首をかしげるも気にしないことにして
?
ふふ、まるで妹が出来たようだなんて思ってたんて伝えたら何て言うのかしらね。ま
?
282
・
・
・
なんだか声が冷たいような⋮﹂
?
い
﹂
重要なのはその後だと思うのですが
もより低くなりそんなことを言ってしまった。
何故か、もやもやするわ。
うーん、兄弟姉妹が盗られる感じというのがこれなのかしら
!
﹂
今まで感じてきたしがらみも、恨みも、死への恐怖も、コウジュが居れば何とかして
うーん、ほんとコウジュと居ると全てがどうでもよくなってくるから不思議だわ。
一人勝手に自爆しているコウジュを見ていると、不思議ともやもやも収まってきた。
!?
!
訳しているダメ亭主みたいなのですよ
﹂
﹁あーもう とにかく綾子とはなにもないのですよ って何ですかこれ不倫の言い
?
コウジュの話を聞き計画変更を了承しようと思ったのだが、何故か声のトーンがいつ
!?
?
﹁ちょ、ちょっと待つのです
!
﹁そんなことはないわよ。ただ、その綾子ってこと随分よろしくやってたみたいじゃな
﹁あの、イリヤさん
﹁ふーん、そんなことがあったんだ﹂
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
283
くれるような気がするのよね。
いつもは緊張感の欠片も無いのに、時々ドキリとさせられる。
てくれるなら構わないわ﹂
?
あ、今の無しで﹂
!
!
﹂
?
﹂
﹁その時点で怒られるとは思わなかったのかしら
?
ね
﹁優しいイリヤさんはそんなことしないですよね
?
﹁あ、いや、それは、ちょっとそれを言うと怒られそうだなーって思ってですね⋮﹂
﹁そういえば、変更後の計画でも最後の私を救う方法っていうのは教えてくれないのね﹂
むしろこの子と過ごす時間は楽しい。好きと言える。
でも嫌いじゃないのよね。
コウジュと居ると、殺し合いのさなかにあることを忘れそうで困るわ。
﹁まったくもう⋮﹂
﹁やっぱどエスなのですよ
﹁怒ってないわよ。ちょっといたずらしたくなっただけだから﹂
ジュに毒されてるわねこれは⋮。
ビクビクしながら聞いてくるコウジュが可愛い件⋮、じゃなくて あーもう、コウ
﹁お、おうなのですよ。というか、もう怒ってないのですか⋮
﹂
﹁ふふ、冗談よ。とにかく計画に関してはコウジュに一任してるんだから、ちゃんとやっ
284
﹁さぁどうかしら。私ってどエスらしいから﹂
﹂
!?
身も遠まわし過ぎるって分かってるけどもね。
﹂
けど、あなたも教えてくれないんだもの、これくらい解り辛くても良いわよね⋮
﹁どうしたのですかイリヤ
﹁な、なに
﹂
気づけば私の顔をじーっと見ていたコウジュがそんなことを聞いてきた。
?
何でそんなところだけ鋭いのよ
﹁昨日あなたが家出して、令呪があるから離れてる感覚はなかったんだけどやっぱりど
もう、わたしも反撃するんだから。
!
﹁いえ、何か寂しそうだったのですよ﹂
?
?
う意思表示のつもりだったのだけど、解る訳ないわよね⋮。だってコウジュだし。私自
けどあれは、令呪を無駄に使うことであなたから無理に聞き出すつもりはないってい
うね。
きっと私が令呪の無駄遣いをしたのも、そのままお仕置きの意味だと思ってるでしょ
まぁそれも込みでコウジュに任せているんだけど。
マスターたる私に言わないで、何を悪巧みしようとしているのやら。
﹁根に持ってる
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
285
こか寂しさがあったわ。だから帰ってきたときは嬉しかったのよ﹂
て本当に良かったわ﹂
﹂
いつもとキャラが違うのですよ
?
あ、耳まで真っ赤になった。
かってるのですか
﹁い、一 体 ど う し た の で す か
?
あれ
これもそうなの
﹁あのーイリヤ
﹁え
﹂
?
?
?
以前にコウジュから教えてもらった、ある一定の言動や行動を取ることで死を呼び込
?
今のは死亡フラグくさかったのですよ﹂
そう言うと今度は、何故か口元が引きつっているコウジュ。
﹁なんとなく今言わないといけない気がしたのよ。本当になんとなく⋮﹂
?
ひ ょ っ と し て か ら
あなたを召喚してからを思い返すと疲れることが大半だったけど、あなたを召喚でき
るとやっぱり友人感覚になってしまう。姉妹って感覚になる時もある。
最初、サーヴァントはサーヴァントって割り切るつもりだったけどね、あなたを見て
﹁だってね、よくよく考えたらあなたは初めての友達みたいなものだったのよ。
あ、照れてる照れてる。
﹁そ、そうなのですか⋮﹂
286
んでしまうという死亡フラグ。
しまったわ。
私の自慢のサーヴァントだもの﹂
何が悪かったのかわからないけど、一気にいつものコウジュの空間になってしまっ
た。
まぁいっか。
だから、本当に頼りにしているわ。私の自慢のサーヴァント。
うん、やっぱりあなたを召還できて本当に良かった。
あなたが全てを話してくれた時、それが知れると嬉しいな。
いうけど、私たちの場合はどうなのかな。やっぱりどこか似ているのかな。
サーヴァントは対象を指定しなかった場合マスターにどこか似た存在を召還すると
どこまでもサーヴァントらしくないサーヴァントよね。
?
﹂
!!
私の言葉にまた真っ赤になるコウジュ。
﹁恥ずかしいセリフ禁止
﹁どうせ、コウジュが助けてくれるんでしょ
『stage16:戦争なんさ! しょうがないだろう!(開き直り』
287
288
あなたの言うハッピーエンドを私にも見せてね。
やーやー、みんなお元気かな
俺は絶好調だぜ。
なんでかって
?
俺の少女補正がとれたからだよ
そんなものは決まっている。
?
プランBはなんだ
?
﹄
?
今俺は、ライダーとセイバーの戦いが行われるであろうビル群の屋上に居る。
さてさて、現状の話といこうか。
お仕置きなのは分かるけど、ひどい目にあった。
苦節⋮そんなにはないけど、それでも気分的に永かった⋮。
ふっふっふっ⋮。永かったぜ。
ろう単語だけど、ここまではた迷惑な補正は無いと思うよ。
主人公補正とかヒロイン補正とか、サブカルチャーに浸っていれば聞くこともあるだ
!!
﹃stage17:プランB
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
289
290
よく見たら近くに、俺が﹃スピア・ザ・グングニル﹄で吹っ飛ばしたビルの屋上も見
える。
ニュースでは最近噂になっているガス漏れ事故に連なってガス爆発事故で処理され
ていた。 アーチャーが陣取っていたし、人気がないだろうとは思っていたが実際に居
なくて良かった。
あ、ちなみに修理費はアインツベルン持ちになりました。というか俺なんだけど、当
然だよな⋮。
モノメイトっていうポーション的なものをアインツベルン経由で売ることになった
んだけど、使っても減らないから俺としては懐が痛むわけではないし助かった。
ただ、イリヤが俺のお小遣い分までは売ってくれなかったからイリヤからのお小遣い
制は継続だったりする。
買い食いがあまりできない⋮。
また反れたな。
現在の時間は夜になって久しく、辺りに人の影は無い。
ライダーが辺りに張っている人払いの結界の効果でもあるようだ。
そんな中、俺はいくつかのビルにとあるモノを設置している。
というのも、これからわかめ君をいじm⋮ゲフンゲフン、お仕置きする為に必要なも
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
291
のなのだ。
まぁあまり引っ張っても仕方ないので言うと、中継用カメラやスピーカー、集音器な
イリヤならマイルームだ。
んかの役割を持つイリヤの使い魔を設置したりしている。
あ、イリヤ
ドア﹄のカードを使ってならどこからでも行くことができる何かになっていた。
自分の部屋だったわけだが、俺が貰ったものはどこにあるかはわからないが﹃どこでも
マイルームというのはもともとの設定上だとコロニーの居住区域にある文字通りの
そのマイルームが、何故かチートツールの一つとして俺のもとに来たわけだ。
いまくってると覚えるインコみたいなやつとかを置いてた。
ちーずくんとか、小夜ちゃん人形だとか、モトゥブパパガイっていう同じセリフを使
かくいう俺も、和風の内装にいくつかのグッズを置いて楽しんだものだ。
て存在していた。
模様替えやルームグッズで内装を変えられて、プレイヤーのこだわり要素の一つとし
PSPo2ではゲーム内のお楽しみ要素の1つであるマイルーム。
それがまた汎用性の高い謎空間だったんですよ。
何故かっていうと、マイルームというと修行をしたら何故か貰えたあれなんだけど、
今は俺の目を通して現状を見てるんじゃないかな。
?
292
窓から見える景色はゲーム通りに宇宙空間だし、ほんと良くわからない。
ドレスルームや倉庫もちゃんとあって便利なのは便利なんだけどね。細かい所でト
イレやキッチン、バスルームなんかも追加されてたりするし。
で、話が長くなったけどその中に通信端末があったんだけど、それがまた便利でこれ
から使う予定のものだ。
ご丁寧にその通信端末内にもヘルプがあったため見てみれば、マイルームは俺の能力
の一部みたいなものらしく、俺の視覚を通して外を見ることもできるのだとか。
その応用で、パスが繋がっているイリヤを通してその使い魔の視覚をモニターに出す
なんてこともできるらしく、それを知ったから俺はイリヤの使い魔を設置している訳だ
ね。
モニターに映した映像をデータとして残せるし無駄に高性能なんだよ。
あとはパートナーマシーナリーも居れば完璧だったんだけど、流石にそこまでは贅沢
かな
といってもそれほど説明するほどのことも無かったりするんだけどね。
そういえば、空間移動﹃どこでもドア﹄についての説明がまだでしたね。
まぁそんなわけで、イリヤはマイルームで待機してもらってるって訳さ。
?
カードを作る際に、既に在るドアを媒介にして能力を作ったからかどこにでも移動で
きるドアを作るのではなく、自分がドアとして認識したドアをどこでもドアっぽいもの
に変えるっていう能力になったみたいだ。
だからドアからドアにしか移動できないという制限が意図せずして付いてしまった。
文字通りのどこでもって訳にはいかないし、微妙に使えない⋮。
けどまぁ今回の作戦には充分有用だから無問題だね。
誰に言い訳しているのか自分でもよくわからずに、作業を終えて俺は近くのドアを利
念話なのに噛むとか器用なことするわねなんて言われたことありませんとも。
ええ、全然声が高くなんてなってませんとも。
﹃りょ、了解であります﹄
りする。今もちょとビクッとしてしまった。
どうでも良いけど念話って着信音とかがある訳じゃないからいきなりで毎回びっく
た。
作業を黙々と続けていると、別視点からの映像で見たのかイリヤが念話を入れてくれ
﹃コウジュ。来たみたいよ﹄
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
293
用してマイルームへと移動した。
﹁そこに入れてあるわよ
食べる
﹂
?
道路できょろきょろしてるしライダーを探してるんだろうけど、傍から見れば不審者
ころのようだ。
モニターを覗けば、ライダーを探しに来た士郎とセイバーがビル街へと入ってきたと
○ップ抹茶味を取り出し、スプーンも持ってイリヤの座るモニターまで行く。
イリヤの好きな味ではなかった筈だし、態々入れておいてくれたのだろうスーパー
お、抹茶味あるじゃん。
とにする。 食べて良いようだし、俺も作業で気分的に疲れたから一つご相伴に与っていただくこ
冷蔵庫を指した。
聞けば部屋の端にある冷蔵庫にアイスを持ち込んだのかこちらを見もせず指だけで
てるのかと思いきや、覗き込んだらアイスを食べていたイリヤ。
部屋の構造上、入り口からだとイリヤの後ろ姿しか見れなかったため画面をじっと見
﹁⋮いただきます﹂
?
﹁ん、そっちこそ確認お疲れ⋮ってメッチャ寛いでますね。そのアイスはどうしたし﹂
﹁お疲れ様コウジュ﹂
294
だねまったく。
﹁今更だけど上手くいくかなぁ﹂
﹁あなたが不安になってどうするのよ⋮﹂
なると不安になったりするじゃん
﹂
﹁いやぁ、そんなこと言われてもさ。受験の時は落ち着いてできたのにいざ合格発表に
?
?
釘剣を構えて士郎を狙うがセイバーに見えない剣で弾かれ、相対している。
た。
画面を見れば、地上に居た士郎達をビルの上から奇襲するライダーの姿が映ってい
一先ず、これ以上藪をつついて蛇を出す気も無いので改めて画面に目を戻す。
さ。
まぁ原作イリヤのような天真爛漫さが無くなった原因の一部だって自覚はあるけど
ふと弱気になって零した言葉の結果、何故か最終的にジト目で見られた。解せぬ。
﹁誰の所為よ﹂
﹁たくましくなりましたねイリヤさん﹂
かならないわ﹂
﹁受験どうこうは私にはわからないけど、ケセラセラって言うでしょ なるようにし
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
295
しかし、真正面からセイバーのクラスと戦うのはさすがに不利だと思ったのか、蜘蛛
のようにビルの壁面を登っていった。
すかさずセイバーも壁面のでっぱり等を利用して追いかけていく。
﹁へ∼、ライダーって結構やるのね﹂
胸元丸見えだよ
イリヤは戦闘面に関して言っているのだろうけど、俺は違う部分に目を向けていた。
﹁うんうん。すごいよな、いろいろと⋮﹂
いや、服とかね、きわどすぎない
?
ライダーさん見えてますよ
そして、プロポーション抜群なうえ、全体的にパッツンパッツンだし。
しかも絶対領域まで形成されてるっていう念の入りよう。
あざとい、実にあざとい。
あ、重要な事をイリヤに言うの忘れてた。
そんな重要な事軽く暴露しないでよ
!?
ギリシャ神話の
!?
﹁ちなみにメデューサさんです﹂
﹁メデューサ
﹂
!!
!
スカート部分なんて今どきの子でもそこまで短くしないでしょって感じだし。
?
296
﹁て、てへぺろ﹂
﹁コウジュ、暫く買い食い禁止﹂
?
とか、どこのグラビアアイドルだよって感じのを攻撃の
?
しまうのだろうか。
計算しつくされた動きなのだろうか、それとも生まれもってああいう動き方になって
さりげなく、それも流れるように。
端々に入れてくるんだよ。
何だっけ、女豹のポーズ
服はさっきも言ったように勿論のこと、動きの一つ一つがマジでエロい。
ってかさ、改めて言うけどライダーがエロい。
俺がやると勢い余ってビルの壁面とかでっぱりを力任せに壊してしまいそうだ。
す。
それ美味しいの と言わんばかりに壁に立ったりしながら攻防を繰り返しておりま
セイバーは窓とかのちょっとした引っ掛かりを利用しながら、ライダーは重力とか何
ビルの側面を上に駆けながら互いの武器を何度も交わらせて激戦中。
ハードなバトルが繰り広げられてます。
ちなみに、俺らはこんなににのんびり会話してますけど、目の前の画面内ではすごい
﹁ひどい⋮﹂
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
297
﹂
変なところが気になって、ついつい画面を食い入るように見つめてしまう。
﹁コウジュ⋮⋮
底冷えのするような声でイリヤが話しかけてくる。
﹂
ライダーも、あなたも⋮﹂
いつから見ていたのか、俺に鋭い目を向けていた。
﹁な、なに
あ、そういうことか。
﹁イリヤ、ステータスだ希少価値だっていう言葉もあるし⋮ひぁ
﹂
いまいち要領を得ないんだけど⋮⋮﹂
﹁大きいことがそんなに偉いの⋮
?
﹁⋮⋮いいえ、なんでもないわ。忘れて﹂
﹁な、何の事を言ってるんだ
?
?
﹁コウジュ、ハウス﹂
﹁はい﹂
﹁コウジュ、忘れてって言ったわ﹂
思わず声を上げて後ろに飛び退く。
れた。
某貧乳少女の言葉を教えてあげようとしたら、言い切る前にすごい目でイリヤに見ら
!?
?
298
ライダーは上空から俺を狙いに来ていたのか、代わりに前に出たセイバーを上から刺
ライダーだ。 そう疑問に思ったと同時に、セイバーが俺の前へと飛び出た。
遅い時間とはいえ、人気が全く無いのはおかしい場所の筈なのだ。
かとビル街を歩いていると違和感に気付いた。
明るい内から行ったにもかかわらず、手がかりも掴めなかった為そろそろ打ち切ろう
を歩き回った。
学校での慎二とライダーの所業を見逃しておくことが出来ず、セイバーと共に冬木市
◆◆◆
よくわかりませんが出番まで黙ってることにします。
﹁わふ﹂
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
299
し貫こうと身体の全てを乗せて振り下ろしていた。
しかし1合剣を交えただけで、その後すぐにライダーは踵を返しビルを駆け上がって
行った。
セイバーも続くようにビルを駆け上がって行ったが、俺にはそんな真似は出来ないの
で慌てて階段を探しにビルへと入った。
入ってから気付いたが、人気の無いビルなのだから鍵が開いていないかと思ったが人
払いの結界が使われているのか人気が無いだけで中への侵入は容易だった。
エレベーターもあったが、回数表示ははるか上。
待っている時間も惜しいため階段を駆け上った。
そして今、漸く屋上への扉へと辿り着いた。
超高層ビルとまでは行かないまでもそれなりの高さだ。
何故来たのですか
﹂
息も絶え絶えに、ドアを開ける。
﹁士郎
!!
何か出来ることがあるかもしれないと俺は登って来たんだ。
確かにマスターとサーヴァントの関係とはいえ、任せきりにできるものでもない。
しかし放っておけるわけがないだろう。
入るなり、セイバーからそう言われる。
!?
300
だから、何かできることはないかと改めて屋上を見渡すが、おかしい。ライダーが居
ない
ライダーは翼が生えた白馬、いわゆるペガサスに跨り手綱を引いていた。
ソレがライダーだったようだ。
睥睨するように空中に止まり、こちらを見つめた。
何とかセイバーが避けて、その何かはすれ違うように再び空中へと戻ったが、ソレは
そう思うのも束の間、セイバーへと何かが空から落ちてきた。 !?
﹂
?
あのセイバーが手も足も出ないなんて⋮。
おそらく、あれがライダーの宝具なのだろう。
完全に弄ばれているような状態だ。
セイバーも負けじと回避や、見えない剣での攻撃を繰り返すが何せ早い。
今度は何度も、何度も⋮。
ようにこちらへと突っ込んでくる。
短くライダーとセイバーが言葉を交わすが、途切れてすぐに、またライダーは堕ちる
﹁何とでも﹂
﹁ふ、既に勝ったつもりかライダー。些か気が早いのではないか
﹁残念でしたねセイバー。これであなたの勝ち目も潰えましたよ﹂
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
301
なんとか、何か俺にできることはないのか
﹃あーあー、マイクテスマイクテス﹄
突如、声が辺りへと響いた。
!?
﹂
どこか幼い、けどしっかりと通るこの声には聞き覚えがある。
どこかに居るのか⋮
?
聞こえてるっぽいね。よかったよかった﹄
?
しているコウジュ。
どうやってかこちらを確認しているのか、こちらが何かを返すまでもなく自分で納得
﹃聞こえてるかな
しかし何かが起こるでも誰かが来るでもなく、声は続けて辺りに響くだけだった。
気づけば、セイバーと空中のライダーも止まって辺りを警戒していた。
﹁コウジュ⋮
?
302
﹃ああ、良い所を邪魔して悪いねー。けどさ、ライダーにはちょっと用があってね。邪魔
させてもらうよ﹄ ﹂
しかし、その声にもコウジュは飄々と返す。
る。
声からセイバーもコウジュであることが分かったのか、事の如何を聞こうと声を上げ
﹁何のつもりだバーサーカー
!
慎二に
コウジュが
?
ジュはそう言った。
何が始まるんだろうか
?
先程まで混ざっていた怒りは消え、今度は笑いを押さえきれないといった声でコウ
﹃というわけでだ、ちょいと今からは俺のターンだ。良かったら聞いてってくれ﹄
に見え隠れしていた。
今までコウジュと交わした言葉の中には決して無かった怒りが、飄々とした口調の中
短い間しか言葉を交わしていないが、だからこそなのかわかる。
詳しいことは分からないが、慎二は何かをしてしまったのだろう。
?
どさ。そこに居るのは分かってんだよ間桐慎二﹄
﹃だから用があるのさ。私的な用事なんだけどね。正確にはライダーのマスターにだけ
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
303
﹄
﹄
﹃コウジュと
﹃イリヤの
!
﹄﹄
﹁それはそうでしょう。というかほんとに私もやるの
﹁あ、驚いてる驚いてる﹂
◆◆◆
はっ
﹃﹃真夜中ラジオ
!
﹁ああ、そうだったわね﹂
﹂
﹁いやもう言ってるじゃん。というかこの声も入ってるから﹂
?
?
!!!
304
画面の中で驚きを隠せていない士郎達。
そりゃ戦ってる途中でこんな戯言が始まったら誰でも困るよね。
でも自重しない。自重なんぞする気はない。
とことんまでやるって決めたからな。
だから、隠れてるつもりのそこのワカメ。
覚悟しろ。
◆◆◆
﹄
!
!
﹃冗談言ってないで、早く進めなさいよ﹄
﹃辛辣だなぁ。でもそんなマスターが私は嫌いではありません
﹄
﹃あなたがやりたいって言い出したからやることになっただけの番組ですものね﹄
﹃まぁ今夜もなんて言っても今日が最初で最後なんですけどね﹄
﹃イリヤスフィール・フォン・アインツベルンでお送りするわ﹄
ジュと
﹃ごほん。さて、今夜も始まりました。真夜中ラジオ パーソナリティーは私、コウ
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
305
!
﹃おお怖い。じゃぁさっさと進めていきましょうかね
か
﹄
﹄
セイバーとライダーも警戒したまま動かないし、このままこれを聞く流れなのだろう
え、なんか始まったんだけど、俺はどうしたら良いんだろう。
!
﹃えぇー、それではさっそく、お便りコーナーに行きますね
とりあえず様子見をするしかないか⋮。
?
がんばればーさーかー﹄
﹃わーお、投げやりな応援ありがとう
でもがんばるよ
という訳で一人目の御便
!
﹄
?
れも法律に引っかかる方法で手を出そうとしたらしくて﹄
めたっていうその先輩の妹さんに手を出そうとしてそうなったらしいんですよー。そ
﹃いやいやーそれがですね、独自ルートで調べた結果なんですが、その一年生の子って苛
﹃そうね、死んだ方が良いんじゃないかしら
せん。教えてください⋮っと。うーん、悪いやつも居たものですねー﹄
のにしたりしてかわいそうです。怖い噂もある先輩なのでどうしたらいいかわかりま
えー、部活の先輩がいつも部活仲間の同級生の男子を苛めています。皆の前で笑いも
りです。H村原学園1年生、Aちゃんからのお便り。
!
﹃第一回と言いつつお便りが来ているという仕込まれ感がどうしようもないのだけど、
!
306
﹃あら、そうなの
中々妹思いじゃない﹄
﹃あ、そういうときは誰得
って略すのが良いですよ
﹄
!
後半を聞くと疑ってしまうが、慎二のことを言ってるのだろう。
慎二だ。多分慎二だ。
﹃分かった。覚えておくわ﹄
?
﹃誰が得するのか分からないツンデレだけどね﹄
﹃人目のあるところでは妹に対して強く当たったりするのにツンデレですねー﹄
?
﹃その男子、俗に言う財布ってやつなのかしら
﹄
ってことらしいです
?
﹃だ め で す よ ー イ リ ヤ さ ん。ほ ん と の こ と で も、一 応 お 嬢 様 な あ な た が そ ん な 言 葉 を
?
ねー﹄
が 好 き と い う 訳 で は あ り ま せ ん。ど う す れ ば い い で し ょ う か
とが一種のステータスになったりもしているようです。私は恋愛経験もないし、その人
習相手として付き合うなんてこともあるようです。校内では密かに声を掛けられるこ
直接手は出してこないらしいので、おごってもらったり、付き合った経験が無い子が練
んな女子に手を出してます。友人に聞けば、お金持ちだし結構顔も良いし付き合っても
とある男子に言い寄られて困ってます。その男子は同級生なんだけど、とにかくいろ
﹃さてさてー、次の御便りに行きましょう。H村原学園2年生、Bちゃんからのお便り。
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
307
使ったら﹄
﹃あはは、これは痛いところを突かれました さておき、その男子は相当女癖が悪いで
﹃あなたの所為なんだけどね﹄
308
!
﹃まぁそれはさておき、次の御便りに行ってみましょう 次の御便りはH村原学園1
慎二、ライダーに笑われてるぞ⋮。
﹁ブフっ⋮しつ、れいっ⋮⋮クフ⋮﹂
が⋮。
えっと、なんだか知り合いに似たようなことをしている奴が居たような気がするんだ
さそうな髪質なのにショックで抜けちゃう
﹄
﹃イリヤさんしーっ どこかで聞いてるかもしれないからしーっ せっかく髪によ
﹃ああ、都合のいい男ってやつなのね﹄
実際そういう方がたくさんいらっしゃるようですね﹄
暴力的な意味での手は出してくるかもしれませんが、上手く煽てると良いらしいです。
すが適当に誤魔化しておけば勝手に次のところへふらふらと行くので大丈夫ですよー。
!
!!
!
先輩は別に同じ部活という訳でもないし可哀そうです。どうすればいいでしょうか
﹄
た掃除とかをその先輩が友人と言い張る方によく押し付けています。押し付けられた
年生、Cちゃんからです。とある2年の先輩のことなんですが、自分が罰として言われ
!
?
﹃やっちゃえばーさーかー﹄
﹃いやいや、これにも実は裏があるんですよ﹄
﹃あ、そうなんだ﹄
﹃それがですね。これも独自のルートから得た情報なんですが、先輩君は普段その友達
って感
を良い様に利用しようとする輩がいると、裏で制裁を加えてるそうなんですよ﹄
﹃だからその先輩君はいつも助けてやってるんだからこれくらい良いだろう
だからな ただ頼むなら許してやらんこともない的なことを言っていたと目撃情報
じに用事を押し付けるわけですね。あと、こいつを良い様に使っていいのは俺だけなん
?
﹃へー、良いとこあるじゃない﹄
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
があったりします﹄
!
・
・
・
慎二⋮、お前ってやつは⋮。
﹃うわー⋮﹄
309
﹃さてさて、次の御便りはH村原学園女教師Tさんからです﹄
好きな子に意地悪する小学生みたいです とにかく許せない
?
取ってくれるんだぁ
﹃ぎるてぃ﹄
だってさ。イリヤ裁判長、判決は
﹃ということらしいので、お仕置きだ。﹄
うん、何だろう⋮。
慎二も苦労してるんだな⋮。
って、いやいやいや、そういうことではなくてだな
﹄
?
!
ここまで慎二の所業⋮でいいのか
それをどうやって調べ上げたのかがかなり謎
だが、慎二の近くに居た俺にはいくつか心当たりがある。
?
感じだ。
先程までと違い、今のコウジュはやけに晴れやかな声をしている。満足したといった
﹃まぁあれだ、精神攻撃は基本なんだ。恨むなら俺をやる気にさせた自分を恨むがいい﹄
しかし、困惑する俺たちを余所にコウジュは続ける。
!
!
のがこの前、士郎の手を傷つけたこと。美味しい料理が出来なくなったらどう責任を
ヤっていいですか
﹃ういうい。では行きますね。えー、うちの士郎に手を出す不逞の輩が居るのですが、
﹃これで最後なのね﹄
310
確かに最近は変な頼み事は無かったのだ。
物を直したり掃除したりというのは好きな方だから別に構わないんだが、やけに頼ま
れる時期があったのは確かだ。
しかしそれもすぐに無くなってしまった。
今の、コウジュが話していたことが真実ならそれは慎二が⋮
﹂
かに今のように煽れば慎二は必ず出てくるだろう。あいつプライドが高いからなぁ⋮。
さておき、コウジュが最初にそこに居るのは分かってると言っていたが、なるほど確
っと、思考がずれてる。
ていたってだけが原因ではないのは察することができるけどさ⋮。
だから断り切れず代行した。店員さんの目が痛かったことからかなり長期の延滞をし
いうものだったんだが、中身は絶対見ずにどうしても頼むと真剣な表情で言われたもの
この間は、営業時間中のレンタルビデオ店に借主の代わりに延滞料金を払いに行くと
まぁ今でも変な頼み事はあるんだけど、数はかなり減ったものだ。
?
!
僕が何したって言うんだ
!!
﹁あることないこと言うんじゃない
『stage17:プランB? プランBはなんだ?』
311
312
慎二⋮、見事に釣られたなお前⋮。
﹃stage18:跳べ
コウジュ
﹄
僕が何したって言うんだ
そう叫びながら、慎二は給水塔の裏から駆けだして来た。
﹁あることないこと言うんじゃない
!
﹂
慎二はどこに居るのか分からないコウジュを探しているのか、辺りを見回している。
その顔は怒りからか恥ずかしさからか、真っ赤に染まっている。
!
!
!!
俺には直接してなくても、色々やってんだろうがお前。インガオホーってや
?
しかしどうやって
居た。隣のビルだ。
声の元へと顔を向ける。
うかね﹂
﹁ああ、でも、お前のおかげで俺は全力を出す気になれた。そのことに関しては感謝しよ
そこへ、先程までとは違い何かを通したものではないコウジュの声が響いた。
つだ﹂
﹁何を
『stage18:跳べ! コウジュ!』
313
?
俺以外の全員もそう思っているのか驚愕を露わにしている。
隣のビルとはいえ、すぐ近くだ。それなのに、突如湧き出すかのようにコウジュは声
と共にそこに現れた。
﹁やぁやぁみなさんご機嫌麗しゅう﹂
カーテシーだったか、スカートの端を両手で掴みながらちょこんと頭を下げるコウ
ジュ。
﹂
だが、彼女の表情は獲物を見る獣のように、ギラギラとしている。
よくもあんなことを言ってくれたな
そしてその眼は完全に慎二を捉えていた。
﹁さっきのはお前か
!
と〟ないことって言ってるじゃん﹂
僕を生暖かい目で見るんじゃない
!
する。
目隠しをしているはずのライダーでさえも、どこか優しげな瞳で慎二を見ている気が
だ。
普段傍若無人でも、一つでも良いことをすると途端に憎めなくなるのはよくあること
!!
?
止めろお前ら
!!
そうは言われても仕方がないだろう。
﹁ち、違う
﹂
﹁けど嘘は言ってねぇぜ 実際に目撃情報がある訳だしな。というか自分で〝あるこ
!!
314
ただ、コウジュだけはニヤニヤと見ていた。
お前に何が分かる
﹂
﹂
﹁ねぇどんな気持ち 今どんな気持ち 自分の運命に抗えなくて精一杯悪ぶってい
?
たのに、なり切れなかったことを暴露された今の気持ちはどんな感じ
﹁うるさい
!?
自分に正直に生きているような慎二だと思っていた。でも今は何かが違った。
今までに聞いたことのないような、心の底から出たような声だった。
?
?
そう叫んだ慎二の声は、震えていた。
!
らない僕の気持なんか
﹂
!
あれだけのことで、慎二が作っていた外側をぶち壊した。
それを引きずり出したのはコウジュ。
今ここに居る慎二が、本当の慎二なのだろう。
けど、俺が思っていた慎二とは違うあいつの姿がここにはある。
俺は慎二を友人だと言える。だからこそ止めようとした。
俺には分からないが、二人の間で交わされた言葉には重要な意味があるのだろう。
コウジュもまた、慎二に対してふざけずに返す。
﹁多少⋮⋮、いや、俺には言う資格なんてないな。貰っただけの俺じゃぁさ﹂
!!!!
﹁お前に、お前らなんかに何が分かる こんな本に頼らなきゃ、あいつに頼らなきゃな
『stage18:跳べ! コウジュ!』
315
﹂
にらみ合いが続いていた中で、急に溜息一つ、コウジュはそう言った。
﹁うん、やっぱ憎み切れないな。殴る役目はあの子に渡すとするかね﹂
﹁なんのことだ
﹁まずは、やり直しから行ってみよう
光翼﹃ホワイティルウィング﹄
!
﹂
そのコウジュに慎二は意味が解らないと返すが、にやりとコウジュは笑うのみ。
!?
﹂
!?
﹂
着地をどうするかなど考えていない、ただ落ちるようにして、コウジュから逃げた。
驚愕を露わにする慎二は恐怖のあまり、給水塔から屋上へと飛び降りる。
﹁うわぁあああああああああああああああ
!!!??
そのコウジュが慎二の真後ろ、その空中に居ながら翼をはためかせる。
それが、コウジュの背中から吹き出すように翼として生えていた。
光り輝く翼。今まさにライダーが騎乗しているペガサスとは違う神聖さを思わせる
しかしコウジュの姿が先ほどと違う。
そう声に出したのは誰だったのか、消えたと思った瞬間には慎二の背後に居た。
﹁なっ
そこから姿を消していた。
コウジュがカードを片手にいつかのように宣言した。そして次の瞬間にコウジュは
!!
316
でも甘かったようだ。
!?
その慎二を、コウジュは抱えるようにして捕まえた。
﹂
﹂
!!?
やめろよあっちいけよ
ひゃ、やめろ
﹁離せ放せ離せ 僕をどうするつもりだ こんなことが許されると思ってるのか
!!!
!?
ってどこ触ってんだゴラァ
!?
!!!
た。
そう言い表すしかない方法で、差し迫るライダーを前にコウジュは慎二を投げつけ
全力投球。
﹂
ない。殺す気を伴ってコウジュへと差し迫る。
かっている。次々に起こる事態に一歩出遅れたようだがそれえでも英霊の名に偽りは
ただ、自らのマスターを助けるべくライダーはペガサスに乗ったまま慎二救出に向
その様は自らが獲った獲物を見せつけるかのようだ。
た。
何とか振りほどこうと暴れるが、ついにはコウジュに片腕で頭上へ掲げられてしまっ
堪ったものじゃない。
やっていることとは裏腹に可愛い声を上げるコウジュだが、やられている側の慎二は
﹁あ、こら、暴れるな
!!!
!!!!
﹁おっと、そうはいかない⋮ぜ
『stage18:跳べ! コウジュ!』
317
その方向は⋮⋮扉
俺が先ほど入ってきた扉へと投げつけたようだ。
?
﹂
!!!!!!!
◆◆◆
?
サーヴァントとしての契約が未だ残っていることを不審に思いながらも、警戒を露わ
﹁死んではいないさ。ただ、叩き直してもらおうと思ってね﹂
﹁マスターをどうしたのですか
﹂
扉の向こうへと消えていく慎二にそう告げながら、コウジュは扉を閉じた。
﹁逝ってらっしゃい、ハート○ン式トレーニングはよく効くそうだから﹂
ドを張り付けた後、開いた。
しかしその時には、コウジュはご丁寧にも慎二が飛ばされた先の扉に居り、扉にカー
舌打ち一つ。ライダーはコウジュから狙いを反らし、慎二へと方向転換。
﹁ちっ﹂
﹁助けろライダァアアアアアアアアアアアアアア
318
『stage18:跳べ! コウジュ!』
319
に上空でペガサスを駆るライダー。
対して、俺は背中にホワイティルウィングを装備したまま、給水塔の上でタイミング
を計っている。
というのも、空中戦を想定して作った光翼﹃ホワイティルウィング﹄だが未だ完成し
ていなかったりするのだ。
正確には、制御しきれていないというべきか。
翼を生やしたからといってすぐに鳥のように飛べるわけもなく、本番までに何回も練
習したんだが可能となったのは、空中での姿勢制御と、光が背中から吹き出しているよ
うな翼の形状からブースターのように加速することのみ。
それも、複雑な状況下では翼の制御に頭の処理が持っていかれるから、戦闘なんぞに
は全く使えないという代物。
それでも、派手な演出によってその弱点は未だ露呈していないはずだ。
最初に慎二の後ろへ回るために使ったのも、最初の一歩は足で跳んだだけだし、実際
光翼を使ったのは慎二後ろへの軌道修正と急停止のみ。
でもこれってぶっちゃけ、ネギまの瞬動術もどきをした後に足でブレーキせずに翼で
チート
急停止しているだけだから色々中途半端過ぎる。
完全に、 力 任せの脳筋戦法なのでその内どうにかしないとだ。
﹂
﹂
﹄って唱えるの
だから、現状不完全でしかないこの翼の土俵で戦うため、タイミングを計っている。
﹁あくまでも言う気は無いと
で忙しいのです。
それに俺は今、頭の中で﹃あいきゃんふらい あいきゃんふらい
主に俺の精神がもちませんもの。
﹁違うね、ふざけてないとやってられないんだ﹂
﹁ふざけてますね﹂
﹁無いね。けど、俺を倒したら取り戻せるかもよ
?
来た
それを待っていた
!
﹂
!?
現状一番戦闘能力が低く、そして一番効率の良い方法はセイバーのマスターである士
﹁士郎
つまり、
さらに言えば、この状況では必然的に狙われる対象は限られてくる。
この状況でライダーが獲れる選択肢はそれのみ。
!
﹁⋮予定は変わりましたが、セイバー含めてあなたも轢いてしまうとしましょう﹂
対してライダーは、俺やセイバー達を見回し少しの間思案した後こう告げた。
頭の中ではそんなことを考えながら、意識してにやりと不敵な笑みを浮かべ続ける。
!
?
!
320
郎を消すこと。
だがそれを、俺は待っていた。否、そうなるように誘導した。
セイバーが士郎を庇う為に前に立つが、俺はその更に前へと躍り出る。
﹁かかったなあほがぁってね。来いカザミノコテ﹂
﹂
﹂
すると瞬間的に表れた障壁がライダーを防いだ。
ライダーが俺へと接触する瞬間に、籠手を通して力を爆発させる。
!!?
!!
﹁ッな、ガっァァァア
﹂
しかし、これはあくまでも武器なのだ。
し使用する片手装備。
シールド系武器﹃カザミノコテ﹄は、見た目は文字通りの籠手だ。実際に腕へと装着
しかし俺も、やられるつもりで前に出た訳ではない。
何をしようと鎧袖一触に薙ぎ払わんとしているのが分かる。 ただ驚きはしてもその勢いを留めはしない。
そんな中、俺の耳がライダーの驚いた声を拾った。
一秒にも満たぬ間に、ライダーは流星にも似た勢いでこちらへと差し迫る。
﹁何を
!?
﹁ジャスガァっ
『stage18:跳べ! コウジュ!』
321
そしてただ防ぐだけではなく、騎乗するペガサスと共に発生した衝撃波で吹き飛ば
す。
ジャストガード。
それこそがシールドによる唯一の攻撃法。俗に言うシールドバッシュ。
どこぞの後の先へと因果を逆転させるではなく、純粋なカウンターとしての技。
ただし、ゲーム内ではシールドであるのに何故か持つ攻撃力が乗るジャスガ時の衝撃
波、成功による被ダメージの無効、そして条件さえ整えればBOSSにも普通に通用す
る盾。
防御は最大の攻撃なんだよ。
どこぞのダメットさんみたいにね
そしてもう一つ、シールドには特徴がある。
それがジャストカウンター。
﹂ ジャストガード成功後の追撃は、確実にクリティカルとなる
﹁まだ俺のターン
!!
!
そして取り出すのはいつかのネギ。その中でも片手杖に当たるネギウォンド。
空中でもなんとか体勢を整え始めているライダーへと肉薄する。
ライダーの手を離れたからか送喚されて溶けるように消えてゆくペガサスは放置し、
!!
322
﹁しばらくお休みだ、ライダー。ギ・バータ
﹂
だから慎二の時のように扉を使って、ライダーはマイルームへと放り込んでおく。
凍結効果は一時的なので、折角凍らせて捕獲したのに解除されては元も子もない。
一先ず凍った状態のライダーを掴んで、翼を使って屋上まで戻る。
に移せて良かった⋮。
氷結効果はレベルに合わせた確率発生だが、クリティカル確定だし焦ることなく実行
気分はエヴァちゃんの凍てつく氷棺。
うだが、有無を言わせず氷系統のテクニックでライダーを氷漬けにした。
ライダーも、すこしでも抵抗しようと釘剣を手に持ち俺へと攻撃しようとしていたよ
!!
だからこそ予想しやすい位置にライダーが来てくれるように誘導したわけだ。
ないと思うと中々手を出しづらいのだ。
当然と言えば当然なんだが、宝具を防御する際に少しのズレが命取りになるかもしれ
う弱点がある。
なにせ自信満々にシールドを使ってはいたが、シールドは前面からしか防げないとい
この数分の間に一年くらい寿命が縮んだ気がする。
思わず息が漏れた。
﹁ふぅ⋮﹂
『stage18:跳べ! コウジュ!』
323
﹁よーし、これで一件落着っと⋮﹂
﹁あ⋮⋮﹂
心の中で一段落ついていると、俺へとセイバーが声を掛けてきた。
﹁いいえバーサーカー、まだ終わっていません﹂
324
﹃stage19:バーサーカーは見た
くふ、と漏れ出るように笑みを漏らすコウジュ。
﹄
﹁おやおや、それは戦闘の意思有りと取っても良いってことかねぇ
さだめ
﹂
﹂
しかしその瞳は獰猛な肉食獣のようで、セイバーを見つめている。
?
?
足手纏いとは間違いなく俺の事だろう。
そのコウジュの問いに、セイバーは無言で剣を構え直す。
﹁はっ、タイトル回収どうもありがとさん。けど、足手纏いが居て俺と戦えるかい
?
﹂
コウジュが何故かこちらを見ていた。構えるセイバーを越えて、その後ろに居る俺を
﹁はぁ⋮、ったく、何を情けない顔してるんだか⋮﹂
今の俺では何の役には立たない。
覚えている魔術も初歩の初歩だ。
い。
情けないことにそれは事実。俺にはサーヴァントの様な本物の英雄達と戦う術は無
?
﹁おかしなことを言う⋮。戦うことが運命の筈だが
『stage19:バーサーカーは見た?』
325
だ。
その瞳には既に先程の獰猛さは無い。
あえて言うなら、大人が子供を見るような、そんな目。
﹂
?
﹁待てバーサーカー
何のつもりだ
﹂
!
﹂
﹁流石は騎士。いや王様
?
﹂
まぁどちらにしろその間が物語ってるじゃん。とりあえず
?
ど面倒そうだ。俺には無理だな、うん﹂
﹁騎士って言うのとは無縁だったからよく分かんないけど、そのあり方はカッコいいけ
こちらも見ずに答えるコウジュだが、おそらく苦笑しているのだろう。
駆け引きが苦手なのは分かった﹂
?
﹁⋮何のことですか
ね。だから、もう俺を挑発はしなくても良いぜ
﹁元 々 戦 う つ も り は 無 か っ た ん よ 俺 は。ち ょ っ と 昂 ぶ っ ち ゃ っ た け ど 冷 め ち ゃ っ た し
!
そのまま、背後にあった扉へと手を掛ける。
そう言うと、コウジュは踵を返した。
いでくれよ
ではなく動詞﹄なんだってさ。これを聞いたとき、俺もそう思ったよ。だから、折れな
﹁士郎、良いことを教えてやるよ。とある英雄が言っていた言葉なんだが﹃英雄とは名詞
326
『stage19:バーサーカーは見た?』
327
それだけ言うと、コウジュは扉を潜りその姿を消した。
不思議なことに扉が閉じた瞬間に気配が消えたことから何らかの魔術を使ったのか
もしれない。
それにしても、さっきの言葉は何だったのだろうか
はぁ駄目だ。分からない。
そう、あれは何かを期待している⋮
勿論見下して眼中にないという意味ではない。
それに先程の言葉も、俺たちを敵として見ていないような⋮。
だ。
容姿からして英雄らしからぬというのもあるだろうが、それとは別に何かが違うの
しかし、何故か俺は彼女を敵と認識できないで居た。
コウジュとは敵対しており、実際に戦闘に至ったこともある。
?
メンタリストでもあるまいに、歴戦の戦士であろう存在の内心を感じたつもりになる
いや、何を言ってるのだろうか俺は。
する。
おそらくだが、コウジュなら慎二たちを悪くは扱わないだろう。何故だかそんな気が
ともかく、助かったのは確かなのだろう。
?
だなんて。
さておき、俺たちも帰ろうかとセイバーに声を掛けるため近づいていく。
なんだろう。何か様子がおかしい。
取り乱すほどではないが、何かに驚き動揺しているようだ。あのセイバーが、だ。
﹂
﹂
?
﹂
﹁いや、そっちこそ大丈夫なのか
?
◆◆◆
?
﹁お待たせー。どんなかんじ
﹂
何だかかなり悩んでる様子だったけど﹂
しょう。少し気になることがあります﹂
﹁特に何も⋮⋮、いや、これはあなたに話しておくべきことですね。一度屋敷に戻りま
?
﹁士郎、無事ですか
そう呟くセイバーの声を何とか聞けたが、そこでセイバーがやっと気づいた。
﹁何故⋮知られてしまっている⋮
だが、俺の声に反応することもなく何かぶつぶつと思案しているようだ。
そっとしておくべきか悩むが、やはり気になり声を掛ける。
﹁どうしたんだ
?
328
持っていたネギをしまい込んだ後、氷塊を見つめているイリヤへと近付く。
ネギ持ってるのにシリアスするのは疲れた。
マイルームへと戻ってきたわけだが、なんだか最近イリヤが冷たい。
﹁遅いわよ。さっきからひびが入り始めてるわ﹂
氷属性は白レンなんだよ。カラーは似てるけど、イリヤは天真爛漫が似合うよ。
まぁ原因俺だけどもさ。
さておき、凍らせたライダーをマイルームへと先に送っていたんだがもうすぐ解除さ
れそうだ。
普通なら捕獲なんてリスクのあることをするべきじゃないんだろうが、これも俺たち
の目的のため。
そしてハッピーエンドの為だ。
﹂
﹁ちょっとあっちに行かない
﹂
?
自分の中で決意を新たにしていると、イリヤがニヤニヤしながら声を掛けてきた。
﹁はいな
?
﹁ねぇ﹂
『stage19:バーサーカーは見た?』
329
◆◆◆
﹁う、あ⋮⋮﹂
何かが砕ける音と共に、意識が覚醒する。
私は⋮﹂
アイマスク越しに、強い光が目に痛い。
﹁部屋
何故こんな場所に居る
バーサーカーとビルの上で戦っていたのではなかったか
まるで止まっていた時が突然動き始めたかのように記憶が飛んでいる。
?
?
﹂
この捉えようのなさはどこかあのバーサーカーを思わせる。
思われる像は無駄に威圧感を放ちながら壁際に安置されている。
のようなものが置いてあったり、鳥は放し飼いで、何かのモンスターを象ったものだと
抱えなければならないほど大きい人形のようなものがあると思えば、ただの段ボール
て良いほどに統一感が無い。
下は畳。壁紙なども日本らしい落ち着いた趣。ですが置いてあるものは乱雑と言っ
周囲を確認する。
?
﹁バーサーカー
!?
330
そうだ彼女だ。
彼女が現れてから全てが崩れた。
だが、彼女は一体どこに⋮
﹁イラッシャイ
﹂
反射的に釘剣を出して投擲⋮⋮出ない
突然響く声。
﹁
﹂
気を抜けるわけではないが、行動指標もなくどうするべきか。
どうやら自分は囚われているようだが、拘束は無く命の危険性は現状感じられない。
?
ユガミネェナ
﹂
!
﹁鳥
﹁っ
﹂
﹂
﹁鳥ちゃうし﹂
?
!?
しゃべった
虚しく投げ出された腕を降ろし、声の発生源へと目を向ける。
﹁ユガミネェナ
手を振り出したはいいが、何故か自らの武器がいつものように出てくる気配が無い。
!?
!?
!
!
!?
『stage19:バーサーカーは見た?』
331
後方へと跳躍⋮するも背中が壁へとぶつかる。
地味に痛いが、この鳥のようにしか見えない生物を警戒する。
置かれた木の上に止まっている青い色を基調とした九官鳥の様な生物。
首をキョロキョロと動かし、辺りを見ている。
しかしその場からは動かず、よく見れば生物としてはどこか不自然だ。
ゆっくりと近づき見てみればやはり、動物特有の無駄な多動など無く、決められてパ
﹂
ターンをなぞるだけの置物だと分かる。
﹁イラッシャイ
﹂
それから暫く聞いていると、やはり同じ言葉を繰り替えすばかり。
分かった。
とはいえ、これでこの鳥が聞いた言葉を真似する九官鳥に似せた置物だということが
思わず口に出ていた疑問を鳥に真似をされてしまう。
!?
﹂
﹁特定の言葉を繰り返しているだけ
﹂
﹁特定の言葉を繰り返しているだけ
?
﹁
?
だが、これはひょっとすると⋮、
また鳥がしゃべった。
!
332
最初のは偶々タイミングよく言っただけなのでしょう。
﹁⋮私は何を真剣に考えているのでしょうか﹂
馬鹿らしい。何を真剣に考察しているのでしょうか。 いくらあのバーサーカーが規格外で理解しがたいとはいえ現実逃避などしている場
合ではないというのに。
﹁私は何を真剣に考えているのでしょうか﹂
また言葉を真似される。
しかも変な言葉を覚えられてしまった。
チラリと、改めて周囲を確認する。
◆◆◆
となれば、何かを言って上書きしてしまいましょうか。
変な言葉を覚えられたままでは私の沽券に関わりますね。
﹁ふむ⋮﹂
『stage19:バーサーカーは見た?』
333
ちょっと性質悪くない
﹂
﹁ふ、ふふっ、くっ、み、見なさいコウジュ。ライダーが可愛すぎるわ⋮。隠れて正解だっ
たわね﹂
﹁いやまぁ可愛いとは思いますがね
?
﹂
?
ほほ笑むイリヤ︵眼は笑ってない︶から目を反らし、ライダーを再び見る。
﹁ナンデモアリマセン﹂
﹁何
﹁⋮昨日どこかの誰かもやってたような⋮﹂
﹁あ、見て見て。自分が覚えてほしい言葉を覚えてくれなくてちょっと拗ねてる﹂
妙な言葉を覚える。
大体は頻度の高い言葉なのだが、ちょくちょくそんなの関係ねぇと言わんばかりに微
繰り返す。
今のライダーのように暫く接すると簡単にわかるが、パパガイは聞いた言葉を覚えて
パパガイ﹄だ。
ライダーが今必死に話しかけている物の正体はマイルームグッズの一つ、﹃モトゥブ
していることを利用して気配を隠している。
態々﹃どこでもドア﹄で扉を別の場所に繋げ、その外から覗くことで空間として断絶
イリヤの提案により、ドアの向こうからライダーを見ている俺たち。
?
334
ライダーは徐々に楽しくなってきたのか、慎二の悪口だとか、どこぞの爺に対する愚
痴だとか言い始めた。
色々溜まってるんすねライダーさん。
うん、でもなんだか懐かしいなぁ⋮。
ゲームの時はオンラインで部屋に集まって馬鹿話をしたりしたなぁ。
アウトな言葉は発言できないようになってたけどすり抜ける言葉が生まれていった
りしてたし、パパガイテロも今となっては良い思い出だな。
﹁ん
今何か言った
﹂
?
﹂
!
入ってくる気配がした瞬間に離れたためバレてはいないと思うが、あとはこの鳥が余
突如ノックと共に入ってきたバーサーカーとそのマスター。
◆◆◆
﹁あ、こら
﹁いーや、ほらほらこのまま見てても仕方ないから入るよ。ノックノーック﹂
?
﹁はぁ、センチメンタルになるのは合わねぇよな⋮﹂
『stage19:バーサーカーは見た?』
335
計なことをしゃべらなければ⋮。 一先ずは下手に出て様子見をするしかないのだろう。
おそらく、先程の釘剣が出せなかったのもその原因の一つ。
いるのだろう。
私を拘束していないことから、もし私が何かをしても鎮圧できるということを現して
しかし全くの無名でありながらあれだけの力を行使するこの少女は計り知れない。
サーヴァントは本来その著名度によって力が増減する。
さ、その根底は同じなのかもしれないが油断できないことは確かだ。
私の騎英の手綱を真正面から防ぐ宝具、底を見せない多彩さ、魔法をも思わせる強力
ベ ル レ フォー ン
れるが││、私を拉致した。
バーサーカーは慎二をどこかへやり││未だ令呪があることから命は無事だと思わ
しかし油断してはいけない。
的に握手を求めてきた。
イリヤと名乗った少女は何故か不満気だが、バーサーカーは笑みを浮かべながら好意
微妙に情けないことを考えていると、二人が自己紹介をしてきた。
﹁イリヤよ﹂
﹁そういや、自己紹介まだだったね、俺はコウジュ。んで、こっちが俺のマスターの⋮﹂
336
﹁私は││﹂
﹁メデューサだろ﹂
どうして私の真名を
﹂
!?
?
私の正体を知るための情報は何処にも無い筈。
何故知られた
ニヤリとした笑みを浮かべながら私の真名を言うバーサーカー。
﹁⋮
!?
﹂
?
﹁ね
﹂
見えない壁に当たるかのように剣は弾かれ床へと転がる。
愛剣が出せないため左手を犠牲に防ごうとするがその前に、私に当たる寸前でまるで
徐にバーサーカーが剣を取り出しこちらへと投げてくる。
﹁こんな感じで⋮﹂
だから隙を伺っていたのだが、その内心すらもさらりと読まれてしまった。
がある。
だが、絶望的なこの状況とはいえ私にはやらなければならないことが、やりたいこと
手玉に取られている。
えなくてもいいよ
﹁内緒∼。あ、それからさ。この部屋ではあらゆる攻撃が許されないからそんなに身構
『stage19:バーサーカーは見た?』
337
?
﹁⋮⋮﹂
そう切り出したのはバーサーカーのマスター。
﹁はぁ、ライダー。何故かとかどうやってとか考えてるのなら無駄よ﹂
事。
バーサーカーが事も無げにまた言うが、それこそ最も知られるわけにはいかなかった
唐突に切り出された言葉は、私が守るべき秘密。
﹁馬鹿な⋮﹂
﹁まず、俺はライダーの本来のマスターが間桐桜であることを知っている﹂
むしろその姿は戦闘などとは縁もない普通の少女のようだ。
その姿には先ほどまで私を手玉に取っていた雰囲気は無い。
たはは、と苦笑しながらそういうバーサーカー。
いんだ﹂
﹁えっと、その、なんというか、だからここは物騒な話を抜きにして、腹を割って話した
﹁⋮分かりました﹂
そうな場合は勝手にレジストされる。今みたいに﹂
志があれば武器の取り出しすらできなくなったりします。そのほかでダメージを受け
﹁ちなみに、攻撃の意思が無いのなら武器を出したり振ったりできるけど、明確な攻撃意
338
やや疲れた表情で続ける。
﹁コウジュについて深く考えるのは建設的じゃないわ。あなたについて何故知ってるの
かっていうのもね。疲れるだけよ﹂
﹁失敬な﹂
自らのマスターに対し心外ですと反論するが、ギロリと睨まれすぐに縮こまってし
まった。 なんだろう、この二人のやり取りを見ていると警戒している自分がとても滑稽に思え
てきます。
そんなわたしの雰囲気を察したのか、バーサーカーのマスターは続けた。
﹂
?
何故
訳が分からない。
桜を救う
?
しかしその理由が思い浮かばない。故に信じられない。
それが本当なら確かに警戒する必要もなく、むしろこちらから手伝う。
?
恥も外聞もなく動揺してしまう。
﹁桜⋮の⋮
く方が良いわ。端的に言えばコウジュの目的は間桐桜の救出よ﹂
﹁はぁ⋮ってまた溜息が出ちゃった。さておき、警戒するのも馬鹿らしいから止めてお
『stage19:バーサーカーは見た?』
339
偽臣の書。
あれの所為で私は慎二に従っては居ましたが、確かに私を召還したのは桜です。
そして私は個人的に桜へと好意を抱いている。
あの子は私にどこか似ているのもあって放って置けないというのもありますが、私は
あの子の運命を認めたくはない。あの子を取り巻く環境を許容することができない。
しかし今の私はサーヴァントであり、桜との直接的なつながりを奪われている状態。
生前からの儘ならない運命に憎しみすら覚えるが、抗うことすらできなかった。
﹂
だから、聖杯など関係なく、ただただ願い続けたことを眼の前に提示され揺らいでし
まった。
うあ⋮、ひゃんじゃったじゃん⋮⋮﹂
﹁それで、私の本来のマスターを救うというのは本当ですか
﹁モチのロン﹂
﹁古い﹂
﹁う、うるしゃい
﹁ああ、ごめんなさい。私もこの子に聞いただけなんだけど、あなたの本来のマスターは
自分ながらとても不安げな言葉が出てしまった。
﹁あの⋮﹂
何とか自分を取り戻し聞くも、真剣な表情でふざけるから事の真偽が掴めない。
!
?
340
間桐桜っていう子なんでしょ
﹂
今はいっか⋮。とりあえず、問題は爺だな
とになる。今見ている限りではそこに嘘は無いのであろう。偽る理由も思いつかない。
しかもそのマスターの言い草では、バーサーカー本人がその情報を得ていたというこ
だから本来ここまでの情報を持っているバーサーカーは異常だ。
勿論、それは一般人に対してだけではなく、同じ魔術師たちに対してもそうだ。
魔術師とは基本的にその成果を秘匿する。
今なら彼女が未来から来たと言っても信じられる。
本当にどこまで彼女は知っているのだろうか。
﹁確かに、それはそうですが⋮﹂
てまで命を永らえている老害。あいつをどうにかしないと、桜を救えない﹂
間桐臓硯、300年前のまとう家がまきり家で在った時から生きていて、虫と融合し
?
﹁ひぇど、コホン⋮⋮けど聖杯戦争自体には偽臣の書を使って慎二が参加。まあ、それは
?
遠い目をしたバーサーカーのマスターに気圧されてしまい、そんな言葉しか出なかっ
﹁そ、そうですか⋮⋮﹂
﹁あきらめなさい﹂
﹁全て知っているのですね⋮。一段と何故知っているのかを知りたくなりました﹂
『stage19:バーサーカーは見た?』
341
た。
あれは悟った目だった。
確かに一つの境地だった。
﹁ライダーはどうしても桜を助けたいんだよな
その問いには即答できる。
﹁はい、勿論です﹂
﹂
﹁じゃあ、桜を助けたら⋮仲間になってくれる ああ、ちなみに桜が真のマスターのま
?
342
える。
桜を救う自信があり、恐らく私がいなくてもことを成し遂げるであろう気概がうかが
カーの瞳は本気だ。
何を以て仲間とするのか、どこまで求められるのか、全くわかりませんがバーサー
これはまた私に似合わない言葉ですね。
仲間。
まってのはできないけど、事が終われば近くに居られるようにするから﹂
?
﹂
﹁それなら⋮構いません。私は命を賭してでも桜を助けたい﹂
﹁どんなこともする
﹁勿論です﹂
?
﹂
本当に桜を助けてくれるなら、私は私の全てを掛けてあなたに協力しましょう。
良いんすか
?
そこに否やはありません。
﹁え、まじで
﹁自重﹂
?
だ、大丈夫なのでしょうか。少し不安になってきました。
﹁あい﹂
『stage19:バーサーカーは見た?』
343
ft﹄
﹃stage20:In der Nacht, wo alles schl
﹁﹁どうしたの
︵ですか
︶﹂﹂
?
二人して声をかけてきてくれた。
?
﹁どうしよっかな⋮﹂
つまり、爺の命と桜の命はつながってしまっている。
それは、爺の本体がその虫だから。
そしてその虫を殺さないと爺は死なない。
分かってるのは、桜の中に虫がいて、虫は心臓とほぼ融合している。
俺の知識ではよく知らない部分が多いんだ。
だ数だけ違う。
俺自身がやったゲームのルートじゃ全然関わってこないし、二次では結末なんて読ん
実は、桜の助け方は決めかねている。
﹁さて、桜ちゃんをいつ助けに行こうか⋮。出来るだけ早く行きたいんだけどねー⋮﹂
ä
344
﹁え、考えてあったんじゃないの
﹂
?
﹂
ヒョウリシリーズ⋮出てこい﹂
﹁契約を持掛けるのですから、普通は考えておくのでは⋮⋮
?
﹂﹂
?
て反則技が使える筈だ﹂
﹁こいつらが持つ概念を利用すれば、桜ちゃんの中にある虫に関する時間を斬り離すっ
って冗談言ってる場合じゃないか。
さっきから仲が良いね。焼けちゃう。
﹁﹁⋮は
ぶっちゃけこれあったら、今すぐに救えます﹂
御し、時空の法則をも乱す絶大な支配力を持つ、ツミキリ・ヒョウリ。
絡まりし事象の鎖から、その姿を表すとされる連鎖の双小剣。空間と時間の亀裂を制
配し、表裏一体の運命を覆すほどの力を持つ、サイカ・ヒョウリ。
﹁絡まりし事象の鎖から、その姿を表すとされる連鎖の双小剣。過去と未来の過ちを支
2対とも見た目は一緒だが、能力が違う。
逆手に持つ巨大なナイフのような剣達︵ツインダガ│︶。
そう言い、俺が出したのは2対で一つの剣が2種。
﹁いやいや、一応考えてるよ
?
﹁いや、桜の助け方を考えててさ⋮⋮﹂
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
345
﹁じゃあ使えばいいじゃない﹂
﹂
いたら話が進まないわね。どうせあなたの事だから、何かあるってことなんでしょう
﹁うん、待って。何かがおかしい。そもそも使える時点でおかしい。⋮って、ツッコんで
じゃないんだよ﹂
﹁いやぁ、それがね、俺って概念を使うことはできるけど概念そのものを操ってるわけ
346
おいて
って言いたいところだけど、ほんとにそうなんだよ。俺が能力を使う際
﹁だったら、こう、ちょっとだけ斬るとか出来ないのかしら
﹂
ただし、前にも空間制御の方で使おうとして止めた最大の障害が残っている。
らイリヤの提案は的を得ている。
確かに、斬ることさえできれば直接干渉するっていうイメージを俺ができるはずだか
指先でもう片方の指をチョンチョンとつつくジェスチャーをするイリヤ。
?
る必要がある﹂
はイメージがとても大切になる。そしてこれは剣だ。だから斬るうえで能力を行使す
﹁異議あり
!
!
というか俺に何か問題があるのを前提に話さないで頂きたい。あるかどうかはさて
もう慣れ始めたイリヤのジト目。
?
﹂
﹁さて、どうやって桜を助けようかな
﹁無かったことにした
?
一応打開策は用意してある﹂
!
またしてもジト目なイリヤ。
﹁⋮あるなら先に言いなさいよ﹂
﹁タイム
俺も失敗してばかりではないのだ。
ただ、少し待ってほしい。
まだライダーはオロオロしてるって言うのに。
付きそうなくらいあっさりと思考放棄されてしまった。
考えても意味が無いので、そのうちイリヤは考えるのを止めた⋮なんてモノローグが
!?
﹂
チクタクチクタクと設置してある柱時計が時間を刻む音だけが場に響く。
応待ちの俺も動けない。
二人とも真顔││ライダーはアイマスクで解り辛いが││で止まっているせいで、反
じ、時間が止まってしまった。
﹁こ、この剣、当たると一定確率で即死なんだ﹂
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
347
凶器
その横でライダーがほっと胸をなでおろしているのが微妙に可愛い。その撫で下ろ
された胸をジト目のままチラッと見るイリヤも。
いって感じでですね││﹂
﹂
﹁さて、どうやって桜を助けようかな
﹁なんでさ
解せぬ。
?
言うのに。
﹁ほ、ほら
前にイリヤに渡したカードあるじゃん
﹂
?
s right あれを桜ちゃんに渡したうえでヒョウリシリーズを使
'
!
﹁で
﹂
﹁でって
﹁まだ何かあるんでしょう
?
?
﹁うぐ⋮﹂
﹂
?
﹂
う。それならもしも即死効果が発動しちゃっても生き返ることができるって寸法さ﹂
﹁That
﹁あの人型が描かれたカードの事よね﹂
!
数ある武器を一個一個確認して桜をどうにか助けられないか考えての苦肉の策だと
!?
﹂
﹁簡単に言えばだな、死ぬ可能性があるなら死んでも大丈夫なようにすればいいじゃな
348
完全にバレてる⋮。
そう、どうして最初から言わずにこんな遠回りな説明をしているのかっていう部分。
怒らないで聞いてくれよ
﹂
あ、あってですね﹂
俺がこの方法で不安が残っている部分についてイリヤは感づいているようだ。
﹁内容によるわ﹂
?
幼女がしちゃいけない目でニランデル
﹁えーっとですね、前に士郎で試したことが⋮にょあ
﹂
メッチャニランデル
﹁で
!!
?
!
﹂
⋮。だからちゃんと使ったことが無いというか⋮ひぃあ
でそんな睨んでるんでせう⋮
あの、イリヤさん
なん
?
﹁⋮⋮はぁ、それを言われると仕方がないわ。後で詳しく説明しなさいよ﹂
﹁ほ、ほら、あの時は悩んでる時だったしあんまり別件で煩わせるのもって思ってさ⋮﹂
だが鋭い眼光で棒読みの為、可愛らしさは成りを潜めてしまっている。
少女らしい声音でそう言うイリヤ。
から様子見だけしたって聞いたと思うんだけどなー﹂
﹁その辺りの事を私知らないなー。なんでだろうなー。教えてもらってないなー。遠く
?
!?
﹁その時に、ちょっと弄って使ったら命は助かったけどどうやら不完全だったみたいで
?
!?
﹁あー、あのね
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
349
﹁ういっす﹂
何とかイリヤの追及は逃れられたようだ。いや先送りにしただけだから、逃れきれて
はいないのか
ま、まぁ、今考えても仕方ないよね
いった感じで口を開いた。
﹁あの、あなたは命のストックを誰かに譲渡することができるのですか
﹁まだ検証する部分はあるけどね﹂
﹂
﹂
ふふん、俺も失敗ばかりじゃないのさ。失敗は成功の友って言うしね。
?
?
﹁話が戻るんですが、経験した時間を抜き出すという魔法を行えるのですか
﹁たぶん﹂
﹁そういえば、空間移動していたような﹂
すごくない
!?
なんだか褒められた気がしてついつい嬉しくなってドヤ顔しちゃう俺。
﹁あれ昨日出来るようになったんだ
!
﹂
どうしたのだろうかと声を掛けてみると、ハッと再起動したライダーは恐る恐ると
やら固まっていた。
そういえばさっきから全然ライダーが話していないことに気付いて目を向けると、何
﹂
ライダーどうしたの
!
﹁って、あれ
?
?
?
350
あれ、何故かライダーが頭を抱えだした。なにゆえ
﹂
?
あれー⋮
?
ライダーは項垂れた。
﹁っ⋮⋮﹂
イリヤは諦めるように首を振った。
﹁⋮⋮﹂
微妙に涙目になりながらライダーがイリヤにアイコンタクトをする。
﹁⋮⋮﹂
でも何がダメだったのかよくわからん。
たぶん、俺が悪いのだろう。
﹁えっと、俺なんかした⋮
こう、ナカーマと言わんばかりに。
すごくいい笑みだ。
そのライダーの肩にトンと手を置きながら慰めるイリヤ。
﹁大丈夫、慣れるわ⋮﹂
?
﹁頭が痛い⋮﹂
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
351
352
◆◆◆
ありえないなんてことはありえない。
そうコウジュは言っていた。ドヤ顔で。とりあえず魔術で攻撃しておいた。
確か、それが冬木に来る前だ。
けどありえないと言いたい。ライダーも言いたいだろう。
コウジュが言うには、根本のルールが違うからそう感じるだけなそうだけど、全く別
のゲームでルールを混ぜてプレイしても成り立つわけがないし、無理矢理行っても混沌
とした何かになるだけだと思う。
って。
コウジュに会ってからずっと考えていた。
魔法って何なのだろう
なぜなら私は至ろうなどとは考えていないから。
私は魔術を使える。だけど、本当の意味では魔術師ではない。
だが、目の前のこの子はそれができる。
うにかなるものではない。
根源へ至った結果が魔法とも言えるそうだが、どちらにせよ目指したからといってど
魔術師は﹃根源﹄へ至るため魔法を目指す。
?
そんな私がコウジュのマスターだなんて何の皮肉でしょうね。
ともかく、コウジュはおそらくこの世界で一番根源に近くて、一番根源を理解してい
ない。その内側についてもそうだけど、その外側に群がるモノについても。
それはある意味仕方ないのだろう。だって彼女は異世界の存在だ。色々知ってはい
ても。
でもコウジュはここに居る。この世界に居る。
英霊が封印指定を受けるだなんて聞いたことは無いけど、受肉している以上コウジュ
は実験材料としては破格の存在だろう。
そもそもおかしいのよ。
スペックで言えば神霊の類いだし本人も神様見習いだと言っている。けど、英霊とい
う枠にはまっている。
それはきっとコウジュの力が安定しないことに関係するんじゃないかと思ってる。
ただ、コウジュが言うには使えば使うほど安定するらしく、実際に普段はコウジュの
好きなようにさせているんだけど、テンションが上がってしまうと何をしでかすのか分
おーい、マスターどのー﹂
からないのが玉に瑕だけど。
イリヤー
?
﹁イリヤ
?
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
353
﹁⋮なに
ようだ。
﹂
コウジュの呼ぶ声に意識が引き上げられる。どうやら一人考え込んでしまっていた
?
﹂
!?
﹂
?
﹁とりあえずライダーにも軽く現状の説明をして、俺たちの目的のために協力してもら
言葉にしないがそう考えているのを見て取ったのかコウジュが目を反らす。
誰の所為だと思ってるのよ。
﹁うあー、イリヤがどんどんドSになる⋮﹂
﹁それで、話はどこまで進んだの
って、コウジュで遊んでいる場合じゃないわね。
私の一言で、一転して顔を真っ赤にしながらあたふたするコウジュがかわいい。
﹁にゃ、にゃにを
﹁コウジュが私のサーヴァントでほんとよかったなぁーって﹂
﹁ほむ、それなら良いんだけど﹂
﹁ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたのよ﹂
可愛く首をかしげながらも、その表情から私を心配してくれているのが分かる。
そう言いながら私を見るコウジュ。
﹁なんだかぼーっとしてたみたいだから﹂
354
えることになった。報酬は桜ちゃんの救出とラブラブ生活﹂
﹂
!?
﹁違うの
﹂
﹁違い⋮ます
﹁桜ちゃんと一緒は嫌なの
!
?
﹁嫌ではありませんが⋮﹂
﹂
?
﹂
びりと後ろで聞こえてくる声に耳を傾けてみた。
お湯を沸かすのもすぐであるため、湧いたお湯で手順を守りながら準備をしつつのん
現代よりも進んだ電子機器があるため楽しくもあったりする。
まだ使い始めてそれほど経っていないが、このマイルームは本当に居心地がいい。
お茶を入れるために席を立ち、勝手知ったるなんとやらで手際よく準備をする。
今現在も脱線しているしね。
内容は脱線してばかりだけど、話してばかりで喉が渇いてきているし。
一先ず、気持ちを入れ替えるためにもお茶でも入れようかしら。
頬を真っ赤にしながら全力で否定しているところを見ると怪しいものだ。
コウジュがさらっと言った言葉に、飛び跳ねるように慌てるライダー。
﹁そんなこと言ってませんよ
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
355
﹁じゃあ好きなんだね
﹂
﹁確かに好きではありますが⋮﹂
﹂
ライク
﹂
﹁やっぱりラブラブしたいんじゃない
﹂
﹁ラっ⋮イクです
﹁ライブ
﹁何故ライブ
﹂
!
﹂
ベ ル レ フォー ン
﹂
﹂
だからストップストップ
騎英の手綱
﹂
せめてラブかライクに
﹁あ、ラブライブ
﹁悪化した
﹁じゃぁラブで﹂
﹂
﹂
﹁だから
﹁ラヴ
﹁違うそうじゃない
﹂
﹁あ、桜ちゃん﹂
﹁#$%&
ベ ル レ フォー ン
﹁⋮のことなんだけど﹂
﹁騎英の手綱
!!
﹁ちょ、悪かったって
﹂
!
!
?
!?
?
!!
?
!
!
!!
!?
!?
!
?
!
356
でも聖杯戦争ってこんなので良かったっけ
◆◆◆
﹁一回⋮と言うことは、さっきコウジュが言ってた桜に使うっていうスケープドールを
﹁説明は後でするとして、簡潔に言うとライダーには一回死んでもらうことになる﹂
ちょっと目を反らしつつ、イリヤが容れてくれたお茶をフーフーと冷ましながら飲む。
攻撃できないからと無言で睨んでくる︵アイマスクで見えないけど︶ライダーから
﹁⋮⋮﹂
あるんだ﹂
﹁さておき、だ。桜ちゃんを助ける交換条件としてライダーにやってもらいたいことが
?
﹁平和ねー⋮﹂
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
357
ライダーに使うってことよね
﹂
?
﹂
?
それに、何かを詫びるってのはやっぱり生きてするものだと思うから。
でも、誰かをここまで思いやれる人を見捨てるなんてことは俺には出来ないや。
ライダーが学校でしたことは決して許されてはいけないことだろう。
うん、やっぱり助けたいなぁ。
た。
そんなことを若干の申し訳なさと共に考えていたら、ライダーさんがそう言ってき
はあなた方に囚われているのですから、強制的にして頂いても構いません﹂
﹁桜を助けてくれるのであれば、私の命など使っていただいて構いません。そもそも私
実験になってしまうが、もし想像通りに働いてくれれば、色々と仕事が楽になる。
・・・・・
への参加権はどうなるのか、その辺りをはっきりさせておきたい。 くが、霊体でもあるサーヴァント相手ではどうなるのか、スケドで甦った場合聖杯戦争
俺は受肉している訳だし、恐らくゲームの時と敗北条件は一緒なのだろうと想像が付
知るためってのがあった。
俺たちの目的としては、スケドをサーヴァントに使った際にどういう変化が起こるか
ちゃんでやる前に経験しておきたいでしょ
﹁そ の 通 り。こ れ は 俺 た ち の 為 に っ て の が 最 初 の 目 的 だ け ど、ま ぁ ラ イ ダ ー 的 に も 桜
358
うだ﹂
?
思ってしまうのだ。
﹁そういや、ライダーは桜ちゃんが本来遠坂家の人間だって知ってるかい
?
いえ、何かあるとは思っていましたがそういうことだったのですね⋮﹂
!?
せぇ仕来りやら柵やらもあって間桐の人間になった。魔術師の家系は魔術刻印のこと
﹁桜ちゃんは本来遠坂家の人間で、現当主遠坂凜の実の妹。けど魔術師の家系故に古く
それをライダーは目撃したんだろうな。
細かい描写は忘れたが、アニメでも凜が桜を気遣うシーンはいくつかあったはずだ。
﹁っ
﹂
傲慢な考えかもしれないが、すれ違いだって知っている以上どうにかしてあげたいと
桜を助けるならば、当然凜との仲も取り持つ必要があるだろう。
それは凜との関係だ。
そこでふと思いだす。
こうや。
誰かを助けても助けた側が助かってないなんてよくあるパターンはこの際無しで行
﹁ま、簡単に言えば契約した以上、桜ちゃんには幸せになってもらうさってことさ﹂
﹁どういうことですか
﹂
﹁その意気や良しってか。でもそれじゃあ本当に桜ちゃんを助けたことにはならなさそ
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
359
もあって引き継ぐ存在は一人しか無理だ。だけど桜ちゃんは才能があった。だからこ
そ前当主は他家に養子にやりその才能がつぶれるのを防いだ。問題は、その他家っての
が間桐なわけだが桜ちゃんを母体としてしか見ていなかったってこと﹂
そこまで言うと、ライダーは鎮痛な面持ちになり、対してイリヤは怒りを露わにして
いた。
男としての人生しか知らない俺では分からないが、それでもそれがひどいことだって
のは分かる。いや、ひどいなんて言葉で片付けていいものではないのだろう。
イリヤは特にその産まれが少し特殊だから余計になのだろうな。アハトの爺に何か
言われた時と同じ表情だから何かを思い出しているのかもしれない。
﹁危険ではありませんか 仮にも御三家のひとつ。桜に対する外部からの接触に対し
﹁まぁ、その辺りの間桐の爺がした細工は俺が切り取る﹂
360
﹁問題は人質として桜ちゃんが扱われた場合なんだよ。集中すれば兎も角、とっさに精
なんだかいきなり蔑ろな返事をされたような気がする。
﹁アッハイ﹂
と切り取る方がイメージしやすい﹂
﹁いや、むしろそんな細々したものを慎重になんて俺には出来んさね。それならまるっ
て防衛機能を混ぜ込んでいても不思議ではありません﹂
?
密作業が出来るとは思えん。ぶっぱは得意なんだけどさ﹂
・
・
﹁というわけで、一回逝ってみようか﹂
有言実行。成せば大体何とかなるって最近言うらしいし。
する際にも助かる。
ちょっと表に出過ぎて隠したいものまで出るのが難点だが、昂ぶりやすいのは戦闘を
出てこなかった内心も、やたらと素直に表に出てくる。
普通に考えれば恥ずかしいセリフも、本当に思っていても別の感情が邪魔をして表に
Koujuになる前では決してなかった心の動き。
やる。いや、できる。出来ると信じているなら出来るはずだ。
ダーも死なせはしない﹂
にして、そこからは桜ちゃんの自由だ。ただし、俺が目指すのはハッピーエンド。ライ
﹁けどまぁ切り取った後は桜ちゃんの内側に居る寄生虫とその周りもちょちょいと綺麗
﹁ソウデスネ⋮﹂
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
361
・
所変わってアインツベルンの屋敷。その周囲に広がる森の中に来ました。
﹂
﹂
マイルームの中でヤる訳にもいかないのでイリヤとライダーを連れてここへ来たわ
けだ。
﹁さぁじっけ⋮実践してみようか
﹁いま実験って言いそうになっていませんでしたか
﹁ソンナワケナイジャナイカ﹂
﹁おk﹂
たいので﹂
﹁私としてもその方がありがたい。断頭台に上がったまま居続けるのは中々に受容しが
﹁ふーむ、夜更かしは美容の天敵らしいからな。イリヤの為にもささっと終わらせるか﹂
気にするのを忘れてしまっていた。
この身体になってからは睡眠欲が減ったし、ライダーもサーヴァントだからすっかり
欠伸を噛み殺しながら言うイリヤは本当に眠そうだ。
現時刻は既にてっぺん越えして2時に差し掛かろうってところか。
﹁はいはい、漫才はもう良いから早くしましょうよ。いい加減眠たくなってきたわ﹂
!?
!
362
懐からカードを出し、読まないようにだけ伝えてから少し離れる。イリヤは既に巻き
込まれない位置だ。
ひょっとしたら外に出た時点でライダーは逃げるかもなんて思ったりもしたが、そん
な様子もなくただ俺の行動を待っている。
まぁ、わかめがどこに居るのかもわからないし偽臣の書も行方不明︵実は回収済み︶だ
からどうしようもないってのもあるかもしれないけど。
とは言えどうやろうか。
生き返ると分かっていても、誰かを殺すのは初めてになる訳だ。
殺しそうになったことはあってもあれはテンションがかっ飛びんぐしている戦闘中
のことだから躊躇わずにぶっ放すことができた訳で、素面でさぁヤるぞとは行かない。
中身一般人ですからね、自分の血がプシャーと出るだけで卒倒物ですよ。
的なものを模索中でしてですね﹂
一瞬で終わらせてあげないとライダーが苦しんじゃうじゃん だからこう一撃必殺
﹁えっとどうやろうかと思って。ほら、血をぶしゃーってまき散らすなんてし辛いし。
その眼は眠気からか半目だ。ジト目ではないと思う。
またしてもまごまごしている俺に声を掛けてくるイリヤ。
﹁⋮今度は何を悩んでるのよコウジュ﹂
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
363
?
﹁なんだそんなことか﹂
割と真剣に悩んでるのに⋮。
﹁そんなことかって、軽いっすねイリヤさん﹂
だかを使えばいいじゃない﹂
?
﹂
﹁だったらあの桜色の魔砲⋮
﹂
﹁冬木市を吹っ飛ばす気か
﹁吹っ飛ぶのですか
!?
﹂
!
冬木市は大丈夫ですか
﹂
何せかなり物騒だからね。というか使ったらスケドの能力越えて殺してしまいそう
ちなみに概念は今回使わない。
俺が取り出したのは大剣に分類される長刀。
﹁うし、コクイントウホオズキ
まぁでもイリヤの御陰でイメージは掴めた。
一体誰の所為なんでしょうねぇ⋮。
というか突っ込んだ俺に突っ込むなんてライダーもこの短い間に馴染みましたね。
おかげでついツッコんでしまったぜぃ。
やっぱり眠たいのですねイリヤさん。その選択肢を挙げてくるとは思わなんだ。
!?
?
だし。
﹁決まったのですか
?
364
ゆ゛る゛さ゛ん゛
﹁そいじゃぁ行くぞー﹂
﹁待ってください。もうすこし│││﹂
﹁げつがてんしょおおおおおおおおおおおおお
﹂
けどなんかライダーがロリっこになりました。
ジュッて何かが蒸発するような音がしたかもしれませんが勿論キノセイデス。
うん、魔力をぶっ放しただけです。
!!!!!!!!!!!!!
!!
せっかくライダーに気を使ったというのにひどい扱いだ。
これは俗に言う風評被害ではなかろうか。
﹁でもあなたの事だから⋮⋮いえ、なんでもありません﹂
﹁いや大丈夫だから﹂
『stage20:In der Nacht, wo alles schläf
365
︶│││
﹃stage21:敵のマスターを発見
│││士郎捕獲なう︵`・ω・
´
﹄
!
﹄
!
あえて言うならば、アインツベルンの本家の城から扉を使ってかっぱらって来た魔眼
何事もなく日は過ぎていた。
ライダーロリ化事件から早数日、よくわからんロリ同盟が結成されてしまったが特に
さておき、士郎の捕獲任務完了でございます。
イリヤはツンデレ。反論は許さない。
﹃誰がお母さんか
﹃はーいお母さん﹄
﹃⋮早く帰ってきなさい﹄
﹃でも見てくれてるじゃん﹄
﹃念話使いなさいよ﹄
そんな感じに某SNSで呟くと、イリヤから念話が来た。
﹁ポチっとな⋮﹂
366
『stage21:敵のマスターを発見!』
367
殺しである眼鏡をライダーに上げた結果、俺のマイルームで端末を前に引きこもる幼女
が出来上がってしまったということ位だろうか。
最近ハンドルネームを使ってチャットをするのにはまっているらしい。
これで良いのかサーヴァントと思わなくもないが、殺伐とした殺し合いをするくらい
ならこっちの方が良いよね。
そもそもの話、なんでライダーがロリ化したかっていう部分なんだがその辺りは未だ
推測の域を出ていなかったりする。
スケープドールというのは蘇生アイテムなわけだが、ゲーム内の挙動で言えば死んだ
直後にスケドを消費することで光に包まれ生き返るというもの。
その時に、ゲーム的表現だからだろうかHPやPPなどは回復されるがブラストゲー
ジはリセットされる。つまり戦闘状態がリセットされる。
ただ、経験値はリセットされるわけではないんだよ。
だからスケドって純粋な意味での復活じゃなくて、転生に近いんじゃないかと思う。
通りで不老不死とは別に渡されたはずだ。
不死殺しなんてものがある理不尽な世界だもんな。例え死んでも新たに身体を作る
なら、少なくとも生存はできる。
隙を生じさせぬ2段構えとは恐れ入る。
368
⋮⋮話がそれてしまったが、重要なのはこの転生に近いという部分。
ライダーにこれを使った際にライダーも転生したようで、完全に受肉していたのだ。
例えば、聖杯の中身を飲むことで受肉できるらしいが、イリヤに聞いたら受肉という
のは現界をするのに聖杯のバックアップを必要としないようになることなのだそうだ。
だが、スケドを使うと一個の生命体として〝受肉〟する。
原作設定では倒されたサーヴァントの魂は魔力となって聖杯に溜まるようになって
いたのに、だ。
勿論ちゃんと確認してみたが、聖杯の中に一騎分貯まっているらしかった。
じゃあ受肉したライダーは何処から来たのか⋮という疑問が残る訳だが、たぶんスケ
ドは魂ごと再生というか転生させてしまったのだろうという結論に至った。 恐らくとかたぶんとかばっかりだが、つまりはロリライダーは完全に聖杯から切り離
された一個の生命として生還したわけだ。まぁ﹃座﹄の中にはまた別に大元のライダー
が居るのかもしれんが。
ちなみに、何故死ぬ前の状態からの再構成が受肉になるのかは思考放棄しました。
可能性が一番高いのは俺が望んだからってことらしいが⋮⋮いや、ちゃいますよ
ロリっ子になることを望んだとかじゃなくて、完全な受肉をすることをですからね
うん、まぁ、ここまで長々と述べたけど、イリヤが最後に﹃コウジュがライダ│に第
!!? ?
二の人生を望んでいたから起きたご都合主義じゃない ﹄とか﹃余計なことを考えて
カードの効果にエラーが起きたんじゃない
な気がしてきた。
﹄なんて言うもんだからそれが正解なよう
?
﹄と。
その辺の検証が終わった辺りでイリヤが言いだしたのだ。﹃そろそろ良いんじゃない
で、だ。
とりまそんなわけで、ライダーはルーテシア⋮ゲフンゲフン、幼女になったのでした。
?
﹂
になるのが士郎の誘拐になる訳です。
?
﹁そう、なら良いわ﹂
﹁上々。後は結果を御覧じろってね。準備も万端さ﹂
?
そのキークエスト
だから、次の目標は打倒アーチャー。
沿うルートは〝Fate〟ルート。別名セイバールートだな。
ぶっちゃけて言えば、筋書きが予測しやすい原作添いなんだけどな。
ていたのだ。
というのも、俺が事前に話していた計画では次に攻める相手を士郎・凜チームに決め
?
﹁おかえりなさいコウジュ。首尾は
『stage21:敵のマスターを発見!』
369
士郎を連れアインツベルンの城に戻ってきたわけだが、玄関扉を潜るなりイリヤが
立っていた。
色々心配したり、目の前の士郎に思うところがあるのは分かるが、労いの言葉とか欲
しかった。いやまぁ良いけどさ。
﹂
ほんと、跡を残すためわざと歩いて帰ってきたのだから釣れないと困るぜ。
﹁イリヤ、調子はどうだ
だけど、それを行うと何騎か内包してもらう必要がある。
我ながら想像力が無いと思うが、それしか思いつかなかったのだ。
俺が思いついたシナリオはFateルートに沿ったものだ。
﹁そりゃな﹂
﹁ふふ、心配性ね﹂
﹁それまでに、終わらせないとな⋮﹂
そしてその性質は徐々にイリヤの人間性を圧迫し、最後には塗りつぶしてしまう。
それが、小聖杯たるイリヤの使命であり機能として与えられた性質だ。
イリヤは今、体内にライダー分の魔力を内包している。
考えていても仕方ないし、気になっていたことを聞くことにした。
﹁問題無いわ。今の感じだと、後2騎分は大丈夫だと思う﹂
?
370
﹂
勿論確認したが、イリヤは任せると言ってくれた。 ﹁でも、あなたは助けてくれるんでしょう
﹂
﹁⋮⋮絶対にな﹂
﹁なら大丈夫ね
?
﹁イリヤ⋮﹂
﹁コウジュ、あなたが何をどこまで知っているのか知らないけれど、考え過ぎよ﹂
そういえば確認した時もこんな感じだったな。
!
﹁じゃあ始めましょうか﹂
﹁士郎が起きそうだな﹂
ふむ、さっさと準備しますかね。
俺たちの話声に士郎が目を覚ましそうになっているようだ。
﹁うぅん⋮﹂
でもだからこそこの少女を助けたいと思ったのだ。
中身は成人してるってのに、何を年下に励まされてるんだか。情けない。
﹁そうそう﹂
﹁そか﹂
﹁あなたは私が召喚したのだから、絶対できるわ﹂
『stage21:敵のマスターを発見!』
371
﹁だな⋮﹂
◆◆◆
﹁ぐ⋮﹂
﹁あ、起きた
﹂
﹂
?
﹂
?
﹁不満なの 捕まえた敵は本当なら地下牢に入れるんだけど、士郎は特別だから私の
すると今度はイリヤが話しかけてくる。
大人げないとは思うが少し皮肉を込めて返す。
﹁ああ、頭の方も自分が捕まってるってことが理解できるくらいにはハッキリしてる﹂
コウジュが目の前で何故か嬉しそうにしながら俺に話しかけてきた。
﹁士郎、声は出せるかい
何がどうなったんだっけ⋮。イリヤに身動きを封じられて⋮そのまま⋮⋮。
﹁はぁ、やっと
?
372
でも確かに、とても牢獄には思えない可愛らしい部屋に俺は居る。
いや、そんなむしろ喜んでほしいみたいなことを言われても⋮。
部屋に入れてあげたんだからね﹂
?
これで椅子に縛られていなければとても微笑ましいんだけどな。ってこれ、縛られて
るだけじゃなくて魔術でも拘束されてるじゃないか。
れはしない所にあるからゆっくりしていきな﹂
﹁それでまぁ、士郎君が捕まったここは樹海の中のお城、誰かが助けに来ようにも早々こ
実際に俺はあっさりと捕まっている。
﹁どうして俺をそんな所に連れてきた。俺を殺すならあの公園でもできた筈だ﹂
他のマスターは殺すがお前を殺す気はないん
わざわざこんな所に連れてくる意味が分からない。
だよ⋮⋮︵ウソだけど︶⋮﹂
俺だけは殺さない
?
﹁ねえ士郎。私のサーヴァントにならない
そうすれば殺さなくて済むわ﹂
最後にぼそっと何かを言ったみたいだが、どういうことだ
?
?
﹂
!
そう言うと、コウジュは呆れたように一つ溜息をついた。
﹁当たり前だ
﹁ふむふむ、士郎は嫌だ⋮と﹂
恐らく執事という意味で言ってるんだと思うが、どっちにしろお断りだ。
﹁そんなの無茶苦茶だ﹂
?
﹁俺たちは士郎を殺す気なんてないぜ
『stage21:敵のマスターを発見!』
373
そのことを考えてもう一回考えてみろ﹂
﹁はぁ⋮、とりあえず言っとくと今の士朗はかごの鳥状態だ。生かすも殺すも俺達次第
なんだぜ
?
セイバーも遠坂も関係ない
俺をどうにかするのならまだいい。
﹁待て
俺がイリヤと居られないのは俺の都合で⋮﹂
!
だが俺の所為で誰かを犠牲にするなんて許しておけるはずがない
!!
!
そしてそれは、俺には放ってはおけないものだ。
しかしその光景に反して内容は似つかわしくない。
あまりにも軽いやり取りだ。まるで近くに買い物へ行くかのように。
﹁そーなのかー⋮っていうわけで、殺しに行ってくるわ士郎﹂
くいのよ﹂
バー達を殺しに行きましょうコウジュ。たぶん、士郎はセイバー達が居るから了承しに
﹁せっかく十年も待ったんだものすぐに殺すのももったいないし⋮。あ、そうだ。セイ
﹁だってよイリヤ﹂
俺にはまだやることがあるんだから。
何とかしてここを脱出して、セイバー達のもとに帰らないといけないんだ。
俺の意思は変わらない。
﹁それでも嫌なのは変わらない﹂
374
﹁残念、どっちにしろ他のマスターを殺す必要はあるから殺すのは変わらないぜ
﹂
!!
﹂
?
縦に割れたコウジュの瞳が、俺を貫くように見ている。
足が震える。氷柱を入れられたように背筋が凍る。冷や汗が止まらない。
圧力。それが目の前のコウジュから放たれている。
でも今の俺にはその余裕が無かった。
とても可愛らしい顔立ちだ。いつもの俺なら恥ずかしさに顔を背けているだろう。
コウジュが俺へと顔を近づけてくる。瞳の奥が見えそうなほど近くだ。
だけど現実は非常なものらしく、その願いは届かないようだ。 だからそんなことは言わないでほしい。
ることが悲しかった。
でも、そんなことはすっかり頭から抜けて、ただただ彼女たちが人の命を軽く見てい
状態だ。
さっきコウジュが言ったように今の俺は籠の鳥で、いつでも殺すことができるような
ふと気づけば人は居なくなっていく。
命はもろい。とてももろいんだ。
なんでそんなにも簡単に殺すなんて言えるんだ。
﹁さっきから殺す殺すって⋮簡単に人を殺すなんて言うんじゃない
『stage21:敵のマスターを発見!』
375
それも、コウジュが殺した
﹁残念、今更一人も二人も一緒だよ。お前の知っている間桐慎二はもう居ない﹂
慎二が死んだ
?
﹂
いやそれ以前に殺されて良い人間なんて居るわけがないのに
﹁じゃぁ行ってくるぜ士郎。そこでおとなしくしてなよ﹂
﹁行ってくるわ。士郎﹂
そう言って二人はこの部屋を出て行った。
くそっ、早く何とかしないと。
セイバーはまだまともに戦えない。 無理をすればセイバーも戦えるだろうが、あのコウジュに全力を出せないセイバーが
つまり今、コウジュと戦えるのはアーチャーだけだ。
言っていた。
遠坂が言うには、コウジュがセイバーの魔力を吸ったから魔力が少なくなっていると
!
確かにあいつはひねくれた部分はあるが殺されて良いような奴じゃない。
どうしてこんなことに⋮。
﹁慎二⋮が⋮⋮
頭をガツンと叩かれたように、その言葉は俺へと突き刺さった。
?
?
376
立ち向かえばどうなるかなんて明白だ。
あのいけすかないアーチャーだけではコウジュに対抗できないのも前回で分かって
る。
﹂
ライダーもあっさり捕まえていたし、早くしないと⋮⋮。
トレース
オ
ン
少し荒っぽいが身体に魔力で洗い流す。
仕方がない。
魔術的にも縛られているからか、自分の身体の筈なのに思うように動かない。
﹁ぐっ、早くセイバー達の所に行かないといけないのに
!
珍しく緊張しているのだろう。
けどその表情はいつもより固い。
いつも通り安定しない口調で軽口を聞いてくるコウジュ。
﹁よくもまぁ、あれだけ悪役になりきれるもんさね﹂
﹁さて、これで士郎達は頑張ってくれるかしら﹂
◆◆◆
﹁同調、開始⋮⋮﹂
『stage21:敵のマスターを発見!』
377
とは言えそれも仕方ない。
今日これから、コウジュの作戦上では初の本格戦闘だ。
それもサーヴァントを一騎確実に仕留める必要がある。
そんなコウジュに、私まで不安気にしてしまう訳にはいかない。
この妹みたいな、姉みたいな、でも兄の様なこの子を支えると私は密かに誓ったんだ。
だから私は、コウジュに何も心配いらないと、あなたはできるからと、安心できるよ
うに笑みを作る。
あのわかめが無事じゃないのは確かでしょうけど﹂
?
矛盾している。
力を使うことは楽しんでいるようだが、それを使って誰かを殺すことを恐れている。
るのはすぐに気付いた。
コウジュがその圧倒的な力を持つに反して、人の命を奪うことに強い忌避感を持って
でも、そこがコウジュの良い所なのかしらね。
本当にこの子は甘いというかなんというか⋮。敵まで救う対象だなんて。
﹁まあねー、殺すの嫌だし⋮。自分とか大切な人の命が掛ったらどうか知んないけど﹂
が確実な所に送ったんでしょ
かめみたいな髪型のマスターのことなんて出鱈目にもほどがあるじゃない。命の保証
﹁そう言うあなたもじゃない。普段あれだけ殺さないように気をつけておいて。あのわ
378
この子は英雄としての力を持っていても、英雄になってはいけなかったのだと思う。
だけどコウジュは、その力を使って私を助けると言ってくれた。
本当にうれしかった。
諦めていたのに、受け止めたと思っていたのに、コウジュは私に希望をくれた。
私も矛盾しているわね。
コウジュに力を使ってほしくないと思いつつも、救って欲しいと望んでしまった。
感化された⋮のでしょうね。毒されたとも言えるかしら
どうやらお客様のようね。
﹁出ていったふりをするんだっけ
﹂
そんなことを考えてるとコウジュが突然何かに気づいたように振り向いた。
?
希望を見せておいて失敗なんて許さないんだから。
まったく⋮、コウジュには責任を取ってもらわないといけないわ。
そう言いながらもどこか楽しくなっている自分に気づき、苦笑する。
﹁これほど緊張感のない聖杯戦争なんて史上初なんじゃないかしら⋮⋮﹂
そう言って、コウジュが嬉しそうに外へ向かう。
﹁そうそう。マスターほいほいさね﹂
?
﹁んじゃ、行きますか﹂
『stage21:敵のマスターを発見!』
379
380
失敗した時はどんなお仕置きをしてあげようかな
そんなことを考えつつ、私はコウジュの後を追った。
?
﹃stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど﹄
魔力を身体に無理矢理流す。
だが⋮、よし
見回りか
1度部屋に戻り、何か武器を探す。
!?
しかし、数人の足音が聞こえてくる。それもこちらへと近づいてきている。
扉の方へ向かい、部屋の外の様子を窺う。
早く、屋敷を出ないと⋮⋮。
縄もほどけたし、身体の調子もほとんど戻った。
!!
生まれる。その結果か、血が口元から一筋垂れた。
身体から何かが抜け出る感覚と共に、やすりで体内を削られるかのような感覚が少し
やっぱり負担はあるな⋮。
﹁っ⋮⋮﹂
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
381
暖炉の近くに鉄の棒を見つけた。
未だ本調子ではないから強化はできない。少し心許ないがひとまずこれで対応する
しかない。
気づけば足音はすぐそこまで来ている。
このまま通り過ぎることを願うが、何故か、その誰かのうちの一人は必ずここに来る
ような予感がした。
その予感が何を示すものなのかよくわからないが、警戒を怠る訳にはいかない。
﹂
と蹴破る勢いで扉を押し開けると同時に入って来たのはなんとセイバー
無事ですか
棒を強く握りしめ、いつでも振り下ろせるように構える。
﹁士郎
バ ァ ン
だった。
!?
﹁セイバー⋮
﹂
どうしてセイバーがここに居るのだろうか
?
ならば宝具の解放は厳しいとセイバー自身から聞いたから少しでも回復してもらうた
というのも、コウジュに生命力を吸収されたせいで通常戦闘はまだしも今後を考える
セイバー自身の魔力を温存させるために寝てもらっているはずだった。
?
振り下ろしそうになっていた鉄棒を気合で押しとどめ、静かに下ろす。
!
!
382
めだ。
気休め程度らしいが、食事で魔力を回復することも可能だと聞いていたからセイバー
に寝てもらっている間に食事の材料を買いに行ったのだが、そこで捕まってしまった。
何かあった場合は令呪を使うように言われていたが、それをする暇もなく連れて来ら
﹂
れてしまったわけだ。 ?
アーチャーならば皮肉気に放って置けと言いそうなものだが⋮。
同盟を組んでるとはいえこの二人までいるとは素直に驚いた。
アーチャーだ。
どうすればいいものかなどと悩んでいると、セイバーの後ろから人影が二つ。遠坂と
﹁遠坂にアーチャーまで。どうして⋮﹂
﹁だからそう言っただろう。衛宮士郎は放っておけと﹂
﹁思ったより元気そうね。これなら私たちが出向くこともなかったでしょう。﹂
である以上言い訳にしかならない。 本当はセイバーが起きてから一緒に行くはずであったが、手間を惜しんだ結果がこれ
淡々と話すセイバーだが、かなり怒っているのが分かってしまう。
﹁それは私のセリフです﹂
﹁どうしてここに
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
383
疑問を持った俺に気付いたのか、セイバーが答えてくれた。
こんなときでなければ楽しめたかもしれないが、今そんな余裕はない。
周囲には高価そうな置き物や絵が置いてある。
お城というだけはあるようで、既にかなり走った筈だが出口は見えてこない。
城の中を走る俺達。
・
・
・
今は脱出をしないとだな。
礼を⋮いや、礼は帰ってからにしよう。
そう言って早足に部屋を出ていく遠坂。
くわよ﹂
﹁ま、一応協力関係にあるわけだしね。さぁイリヤスフィールが戻ってくる前に早く行
イリヤ達が外出したのでその隙に侵入しました﹂
﹁私が協力を要請したのです。士郎がイリヤスフィールに拉致されたと⋮。そして丁度
384
そんな風に思考が横道に逸れている内に出口が見えた。
丸見えだぞ﹂
しかし、出口に至るまでに少々問題がありそうだ。
﹁正面入り口⋮。こんな所通って大丈夫なのか
大胆と言うか何と言うか⋮。
そう言いまた走り出す遠坂。
よ﹂
﹁相手が留守にしてるんだから最短距離を一気に行った方がいいでしょ さ、行くわ
?
てのはおかしくないか
でも、だからってお客様を迎え入れるように何も妨害なく明かりだけが付いているっ
もない。
確かに俺の感覚は未だ未熟で、多少なりとも心得を持つ人間が居たのならどうしよう
隠れて出てこないのならまだしも、気配が無いのはおかしくないか
待て、気配はない⋮
そんな所を走る俺たちの靴音は当然のように響くが、誰も出てくる気配はない。
ちょっとしたスポーツ程度なら出来そうである。
出口まででもおよそ50mほどか。
だが、考えている間にもイリヤが戻ってくる可能性は増すので俺も追いかける。
?
?
?
?
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
385
だが俺は今思いついたことが頭から離れず、周囲を見回していた。
﹁どうやら凜、我々はまんまと嵌められたようだ﹂
たようで口汚く舌打ちをする。
目で確
遠坂は首をかしげるだけだったが、アーチャーは俺の様子を見て途中で何かに気付い
俺を見て同じように足を止めていたアーチャーと遠坂。
﹁どうしたのよアーチャー﹂
﹁ちっ⋮。なるほどそういうことか﹂
無いが、どうしても何かが引っ掛かる。
だがやはり不審な点は無い。
し続けていたとしたら
気のせいなら良いが、もしも、もしも最初からコウジュ達はこちらをどこかから監視
?
そしてこの状況の中で一つ思い出したことがある。
あのライダーとの戦闘時も、コウジュは何処からともなく表れなかったか
﹂
認するまで、気配もなく突如現れなかったか
﹁どうしたのですか士郎
?
そんな俺を怪訝に思い、同じく止まったセイバーが声を掛けてくる。
気づけば俺の脚は止まっていた。
?
?
386
﹁どういうことよ。あの子たちは出て行ってるし、罠じゃないことが簡単に分かるくら
﹂
いに無防備じゃない。結構念入りに調べたけど罠っぽい魔術や仕掛けなんて見つけら
れなかったわよ
た何かに気付いたようで、剣を構えた。
その様子を見て遠坂の額に血管が浮き出たような気がするがさておき、セイバーもま
遠坂の答えに溜息をつくアーチャー。
﹁しまった⋮。そういうことですか﹂
?
同時に、俺も合点が行った。
俺を拘束するために魔術を使っていたのに、それ以降この屋敷では魔術的な気配が無
?
どこか焦っているように見えた。
﹂
﹁ここは魔術師の拠点だと言ってるんだぞ
﹂
にさらけ出している
﹁まさかっ
?
驚きの声を上げる遠坂。
!?
なぜ工房であるはずのこの場所を無防備
どこか拗ねるように答える遠坂だが、対するアーチャーは皮肉気な態度はそのままに
﹁それがどうしたってのよ﹂
﹁良いかね凜。ここはアインツベルンの拠点だ﹂
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
387
かった。
言うなれば学校の時とは逆のパターン。
在る筈のものが無い違和感。
せっかく色々用意したのに台無しじゃない﹂
それを、やっと認識することができた。
﹁な∼んだ、もうばれちゃったの
イリヤ達は外出したんじゃ⋮なのにどうして後ろから
﹁こんばんわ。あなたの方から来てくれてうれしいわ、凛﹂
だが、心の中でやっぱりという気持ちも出てきていた。
?
信じられないといった感じで二人の名を口に出す遠坂。
﹁イリヤ⋮スフィール。バーサーカーまで⋮﹂
うにドアから出てきた。
後ろを振り向くと、外に居るハズのイリヤとコウジュがあらかじめそこに居たかのよ
る。
今一番聴きたくない声が辺りに響く。同時に、ただでさえ重かった空気が更に重くな
﹁ぶぶ漬けを出しはしないしさ。ゆっくりしていきなよ﹂
?
388
﹁⋮⋮﹂
微笑みながら、話しかけるイリヤは、天真爛漫という言葉が良く似合う。
だが、そのイリヤが放つ言葉はあまりにも残酷なものだった。
﹂
﹁黙っていてはつまらないわ。せっかく時間をあげてるんだから、遺言位は残した方が
いいと思うわよ
そんな中でも遠坂が話しかけた。
杯だ。
正直、色々と言いたくなる言葉だが場の空気に押し潰されないようにするだけで精一
遺言、つまり今から俺たちを殺すってわけか。
?
﹂
るのはどうしてかしら
?
それは事も無げに空間転移なんていう大魔術を行使するコウジュの規格外さにか、そ
コウジュの答えに頬を引きつらせる遠坂。
﹁なるほどね、最初から私たちを待っていたのね﹂
﹁答えは単純、空間転移はキャスターだけの専売特許というわけじゃないってことさ﹂
その問いに、コウジュがクフフと楽しげに笑う。
?
気配も確かに外に行った。なのに何故、今そこに現れたの
﹁じゃあ、一つ聞いてあげる。あんた達が屋敷を出たから入ってきたのに後ろから表れ
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
389
れとも罠にまざまざと嵌められてしまった所為か。
﹂
?
イリヤの宣言がいやに頭に響いた。
﹁誓うわ今日は一人も逃がさない﹂
それを軽々と無造作にコウジュは構える。
になるだろう。
その一撃を受けてしまったとしたら、斬れるとかそれ以前に圧倒的な圧力で粉みじん
だ。
刃であろう部分も、長い持ち手につけた鋼鉄を無理矢理に刃形にしたといった感じ
コウジュの身長の二倍はあるんじゃなかろうか。
しては異形。あまりにもな巨大さ。
トマホークと言った所から、斧なんだとは思うが、コウジュの手に表れたものは斧と
コウジュが頭の上に片手を掲げるとそこに何かが現れる。
い、スヴァルティアトマホーク﹂
﹁も う ど う で も 良 い さ。さ ぁ や ろ う。は や く や ろ う。こ の 瞬 間 を 待 っ て い た ん だ。来
﹁もう話すことはないかしら
その瞬間コウジュがイリヤの横から飛び、俺達の前方まで降りてきた。
﹁さて、私はこの城の主だからおもてなししてあげないとね﹂
390
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
391
◆◆◆
まずい。まずいぞ。
どうしてセイバーが戦闘しようとしているのか
この時点でフラフラになってませんでしたかね
かね
魔力ギリギリじゃなかったです
!!
!?
だけど俺が構えるのに合わせて、アーチャーだけでなくセイバーも前に出てきて戦闘
それにやりたいことがあるからアーチャーとの戦闘は経ておきたかった。
と言っても、ライダーみたいに一旦だけどね。
だから、この場でアーチャーには死んでもらわないといけなかった。
うっていう感じがベスト。
くれることを望んでた。そして俺がアーチャーを倒して、その後士郎達を追っかけて戦
俺としては原作通り、アーチャーを残して、士郎、セイバー、凛がこの場を脱出して
ど、どうしよう。 !?
392
態勢へ。
タイム
イリヤ
しかし審判見ていない
試合続行
!
俺の計画詰んだ⋮。
詰んだ。
るってことだろう。
メギバースでどれだけ削れたかはわからんが、少なくとも原作時よりは魔力が余って
けど現状ではおそらく俺のメギバース分くらいしか大きな消費は無い筈だ。
士郎・凜と一緒に一時退却する。
その状態で宝具を使うもんだからバーサーカー戦ではアーチャーを残しセイバーは
原作ではセイバーの魔力は士郎からの供給が無い所為でカツカツだった。
いやいやうっかりじゃありませんとも。ええ。
為だ。
うん、そういえばライダー戦の時にセイバーって宝具開放してなかったな。あれの所
グナルに気付いてほしかった。
ちょっとSっ気のある笑みで士郎達を見ているイリヤさん素敵です。だけど俺のシ
!
そんな気持ちでチラリとイリヤの方を向く。
!
﹁未来⋮、変わっちまったな⋮﹂
諦めと、気を引き締め直すためにそう呟く。
確かに俺の計画は詰んだけど、やると決めたことはやり通さなきゃ男が廃る。
そう改めて決意し、武器を持つ手に力を一層込める。
﹂
どういうことですか
!?
﹁下がれ、セイバー﹂
﹁な、アーチャー
﹁アーチャー、どういうつもり
!?
﹁良いわアーチャー、少しの間一人で足止めして﹂
そのアーチャーの発言に凜が少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。
とが目標だったはずだ﹂
﹁忘れたのか。我々の目標はバーサーカーを打倒することではなく、小僧を救出するこ
その発言はアーチャーの独断だったようで、凜も訝しげにアーチャーへと問う。
何か得心がいった様子のアーチャーが突然セイバーにそう言った。
?
﹂
独り言のつもりだったのに反応されると恥ずかしいよね。なのでちょい恥ずい⋮。
独り言だったんだが、どうも聞かれたようだ。
アーチャーが突然そう呟いた。
﹁未来⋮。なるほどそういうことか﹂
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
393
﹁遠坂
ます
﹂
﹂
﹁馬鹿な、正気ですか凛
﹂
アーチャー一人でバーサーカーの相手など。私はまだ戦え
﹁私たちはその隙に逃げる。良い
?
?
!
﹁そんな誰とも知れないサーヴァントでバーサーカーに立ち向かうっていうんだ。案外
底から今のアーチャーを見て湧き出す何かが止まらない。
偶然にも俺が求めていたシチュエーションになりそうだが、そんな事とは別に、心の
心が逸る。熱くなる。今にも走り出しそうになる。
あぁ、なんだろうな。
俺には無い過去がその姿の向こうに見える気がするほどだ。
その姿は確かに英霊だった。
そう雰囲気で語るアーチャーが、セイバー達の前に立つ。
心得た。
得意分野だ﹂
﹁賢明な判断だな。凛が先に逃げてくれれば私も逃げられる。それに単独行動は弓兵の
令する凜。 士郎・セイバー組の言葉を聞かず、もう決定したと言わんばかりにアーチャーへと命
?
394
可愛い所があるのね、凛﹂
俺とは別の意味で興が乗っている様子のイリヤさん。
イリヤがそんなこと言うから、アーチャーがこっちを睨んでいる。
鷹の目とはよく言ったもんだ。怖い。怖いなぁ⋮。
﹂
!
﹁ふん、そんな生意気な奴、バラバラにして構わないんだから。やりなさいバーサーカ
やばいなぁ、スイッチ入っちゃったっぽい。
その彼と対峙できるってのはある意味すごい幸運なのかな。
幾人もの厨二病患者を生み出しただけはある。
それこそが彼が彼たる所以。
言葉は違えど、やはりアーチャーはアーチャーってことなんだろう
くは、カッコいいなぁアーチャーは。
﹁では、期待にこたえるとしよう﹂
﹁アーチャー⋮⋮。えぇ、遠慮はいらないわ
﹁わかっているさ。だが、早く離れなければ私が倒してしまうかもしれんぞ﹂
なさい﹂
﹁そうね。バーサーカーの雰囲気が変わった。あれは確かにバーサーカーよ。気をつけ
﹁早く行け、凜﹂
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
395
﹂
その言葉を待っていた。
﹁Yes,my Lord
﹂
セイバー
﹁アーチャー⋮⋮﹂
る。
﹂
そう士郎に背を向けたま言い、いつもの黒白双剣、干将・莫耶を投影して出し、構え
るな。お前に出来ることは1つ。その1つを極めてみろ﹂
﹁衛宮士郎。いいか、おまえは戦う者ではない、生み出す者にすぎん。余計なことは考え
その士郎にアーチャーが声を掛ける。
だが割りきったのか、歯をかみしめ、セイバーと共に出口に向かった。
まだアーチャーを残して行くことに納得しきれないのか、足が中々動かない。
少し逡巡する士郎。
﹁士郎、それしかありません﹂
﹁でも⋮﹂
そう言って凛が出口へ走っていく。
!
さぁ、素敵なパーティーをしようじゃないか。
!!
!!
﹁行くわよ士郎
!
396
﹁忘れるな⋮。イメージするのは常に最強の自分だ。外敵などいらぬ、お前にとって戦
う相手とは自身のイメージにほかならない﹂
そして、持っていた干将・莫耶も内の片方を天井に投げる。
刺さった剣が天井を崩した。
丁度アーチャーの後ろで、逃げた士郎達と俺達を分かつように。
ま、とりあえずは予定通りになったか。
色々な理由で高揚する俺は今か今かと、飛び出しそうになっている。
﹂
﹂
だが、アーチャーは戦う前に俺へと言いたいことがあるのか、さて⋮と切り出した。
﹁ん、戦うんじゃないん
﹁少し⋮、気になることがあるんでね﹂
これは予想外だね、話ってなんだろ
いや待てよ。
﹁凛達がいない方が好都合な話しだったり
ってことは⋮。
さっき未来って言葉に反応していたな。
?
?
﹁ふむ、君は私が何の話をしたいのか気づいているのか﹂
?
﹁戦う前に一つお聞かせ願おうか﹂
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
397
﹂
﹁い や、大 体 の 想 像 だ よ 未 来 の 英 霊 さ ん。本 来 バ ー サ ー カ ー と し て 召 喚 さ れ る の は 俺
﹂
じゃないって言いたいんだろ
﹁コウジュどういうこと
?
姿なんさ﹂
﹁私も知ってる⋮
﹂
﹁私の真名まで知っているとはね⋮恐れ入る﹂
アーチャーが俺を見る目が更に鋭くなる。
だから怖いですって。
﹁私が良く知る人間で英霊に至りそうな人なんて、思いつかないわ﹂
うそ、本当に
﹂
﹁ま、そうだろうね。現在の姿からは思い浮かばないだろうさ。な、エミヤシロウ
﹁シロウ
!?
イリヤに答えてすぐに再び俺の方を向く。
﹁それにしても、なぜ君は私の真名まで知っているのかね 異世界から召喚されたと
?
?
﹁肯定だよ、イリヤスフィール﹂
!?
﹂
﹁イリヤ、アーチャーはね。イリヤもよく知る人が今現在から見て未来で英霊になった
そっか、この辺の話はイリヤに言ってなかったっけ。
?
398
言っていたが、それなら私の真名など知る筈がないと思うんだがね﹂
?
そう思うのは当然だな。
本当のことを言う訳にはいかないからいつもの嘘を使わせてもらうか。
⋮そうか。それなら納得できるというものだ。まさか根源に至っているとは。個
﹁それなら簡単だ。俺はアカシックレコードに接続する方法を持っている﹂
﹁
って言うか馬鹿にされてる。
ないんだ。
アカシックレコードに繋げる携帯を確かに持ってるけど何でか言うこと聞いてくれ
実際は原作知識なんですけどね。
人的には納得したくないが﹂
!?
﹂
?
?
﹁規格外にも⋮程があるな⋮﹂
軽々だし⋮⋮﹂
インツベルンの大結界は一発で破壊するし、龍脈の制御もやっちゃうし、空間転移も
﹁私もコウジュを召喚してしばらくは驚いてばかりだったわ。山一つ吹き飛ばすし、ア
﹁⋮⋮。本当に規格外だな⋮。ヘラクレスの方がまだ勝てる可能性は高かったよ﹂
﹁使えるぜ
かったとしても十二分に脅威だが﹂
﹁さて、どうしたものか⋮根源に至っているのであらば魔法も使えるのかね 使えな
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
399
汗をかきつつ口元がヒクついているアーチャー。
待って。ねぇ待って。
イリヤさんあなた俺のマスターですよね。
なんか言い方に棘があるんですけど
ってか俺ってそんなに規格外
?
スゼロですよ
って、そんなことより
﹂
チート持ってるから何とか聖杯戦争に参加できてるけど、中身の所為でプラスマイナ
?
﹁あのさ、バトルするんじゃなかったっけ
!
?
﹁うぉ
﹂
そう言うや否や干将・莫耶を振りかぶるように斬りかかってくる。
﹁ふむ、そうだったな。勝ち目はないが1秒でも多く時間を稼がせてもらおう﹂
煮え切らない気持ちがまた湧き出してしまいそうだ。
なら、さっさと済ませてしまいたい。
それに、理想通りの状況になったし、やはり闘うことは避け得ない。
ない。
なんかちょっとさっきまでの高ぶりが覚めてきたけど、未だに戦闘意欲は消えちゃい
?
400
!?
とりあえず、スヴァルティアトマホーク│││長いからスヴァルでいっか│││の持
ち手で防ぐ。
辺りに甲高い金属音が響いた。
ほむ、やられてばかりじゃいられないかな。
レッ
パー
リー
sparty
ってね。
!
ツ
次は俺が行かせてもらうかね。
Let
﹂
!! '
﹂
!
さっすがビースト。
この身体の筋力だけでも、十分チートだな。
いや、犯人俺だけどさ。
力。
スヴァルには何の概念も付与してないから、ただ馬鹿でかい斧でしかないのにこの威
うわ、すんごい威力。
鎌鼬が発生し、アーチャーを軽く切り裂く。
アーチャーは難なく避けたように見えたが、俺が思い切りスヴァルを振るったからか
﹁くっ
受けているのを弾くように横薙ぎにスヴァルを振るう。
﹁でりゃぁ
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
401
過酷な環境でも生きていけるようにって設定なだけはあるね。
そこにカンストしたステータスが乗ってるわけだし尚更か。
﹁完全に避けた筈なんだがな﹂
﹂
投影していた双剣はどこかにいったのか再びアーチャーは干将・莫耶を投影する。
てりゃぁあ
﹁良い調子よバーサーカー﹂
﹁声援ありがとよ
!
がんばらなくっちゃなぁ
﹂
!!
どうせなら拳でやるべきだったかな
だから挙動の大きい斧を選んだ。
でもまぁすぐにこの勝負を決めるつもりはない。
?
連続ででたらめにアーチャーに斬りかかる。
!!
!!
オラオラオラオラオラ
﹂
﹁何の オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
上段から斬りかかったが、横に身体を移動させ避けられる。
﹁ッ
!!!!!
美少女の応援があるんだ。
再びアーチャーに俺は斬りかかる。
!!
402
・・
セイバー達に逃げてもらう時間を作るのと、アーチャーにあれを使ってもらわないと
いけないからな。
逃げに徹せられると負ける可能性がある。
遠距離からの宝具連発は今の俺だと対応しきれない。
﹂
だから、ぎりぎりまで追い込んで最後に畳みかける。理想は中・近距離戦だ。
!
﹂
!
﹂
!!!
﹂
!!
一瞬拮抗したが、すぐにアーチャーは吹っ飛び、壁にめり込む。
﹁ぐあっ⋮
﹁っらぁぁぁ
だから力を込めると⋮。
だが、俺の筋力はチートだ。
を受け止める。
今度は避けられないと思ったのかアーチャーはとっさに双剣をクロスさせ、俺の斬撃
アーチャーにスヴァルを横薙ぎに振るう。
﹁隙有りだぜ
だが今度は、先ほどの鎌鼬すら避けるように幾分か動きが大きくなっている。
アーチャーは俺の斬撃を全てかわしていく。
﹁流石に良く避けるなぁ
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
403
そしてすぐに、壁が砕け、アーチャーは落ちてくる。
﹂
?
﹂
士郎もそうだけどたらし属性でもあんのか
な、なな、何言ってやがる
﹁美しょ⋮
!?
!!
つ。
﹁って、あ
﹂
そんな風にちょっと動揺していると、アーチャーは突然上へ飛び、二階の手すりに立
!?
!?
﹁いやなに、見た目は美少女なのに攻撃はえげつないなと思ってね﹂
﹁あんたこそ、何が楽しいんだい
薄く笑いながら、アーチャーは再びしっかりと地に足をつけ構えた。
﹁まったく、何が不満なのかね﹂
そんなことを考えていると、ゆっくりとアーチャーが立ち上がり始めた。
受け流せないほどの威力で叩き潰せばいいからな。
そういう意味ではアーチャーとは相性が良い。
ごり押しも良いけど、剣と剣での応酬とかやってみたいな。
なかなか、きれいには行かないものだ。
﹁ありゃりゃ⋮。やっぱり俺じゃぁスマートな戦い方は無理か﹂
404
﹁│ │ │ │ I a m t h e b o n e o f m y s w o r d.︵体 は 剣 で 出 来 て
いる︶﹂
﹂
!!?
﹂
!!
あの士郎がこんなレベルまでなるなんて⋮⋮﹂
いや、それはさすがにひどくないっすかイリヤさん
!?
確かに今の士朗はへっぽ子だけどさ。
?
﹁コウジュに攻撃が通ったの
﹁いてて⋮。うわ、服が若干破けてる⋮﹂
グの余波を喰らい、地面に叩きつけられる。
空中だったのもあってかわせなかった俺は、咄嗟にスヴァルを盾にするもカラドボル
﹁うぉわ
﹁│││〝偽・螺旋剣〟︵カラドボルグ︶
しかし、アーチャーの攻撃の完成の方が早かった。
俺は慌ててアーチャーの方に向かって跳び上がる。
らうぜ
││を突破される可能性があるんで潰させても
そうアーチャーが詠唱すると、手には鉄製の黒いハンドガードが付いた弓と、刃が螺
﹂
旋状になった剣が現れた。
おらぁ
!!
それは自動防御││というか障壁
!!
!
?
﹁やっべ
『stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど』
405
﹁並みのサーヴァントなら即死だが、服が少し破けた程度とは⋮⋮﹂
アーチャーは冷や汗を掻きながらまた口元をヒクつかせている。
﹁あ、ここは擦りむいてるし⋮。ヒリヒリする。来いウォンド。んでもって、レスタ
スヴァルは片手に持ったまま、片手杖︵普通の短杖︶を使い回復する。
俺の身体は一瞬光に包まれ、傷を修復する。服も。
服まで修復してくれるからほんと便利だね。
アーチャーはそう言って先ほど開けた天上の穴から外へ飛び出る。
﹁生半可な攻撃ではすぐに回復される⋮か⋮﹂
﹁中々に順調だね。よし、第2ラウンドといこうか﹂
俺は背中に羽を出し、追いかける。
﹂
!
406
あの近距離で射ったにもかかわらず、あの子はとっさにあの馬鹿でかい武器で防いで
先ほどカラドボルグを射った時もそうだ。
あの子の動きはあまりにも不自然だったのだ。
の経験が少ない。
前回と今回戦って分かったことなのだが、あの子は英雄でありながら恐らく対人戦闘
だが⋮、勝機はある。
神殺しをなしたというだけはある。
反則的な能力が大安売りだ。
あれがチートというものなのだろうか。
あのバーサーカーは圧倒的に私より強い。
テラスの端に立ち、追いかけてくるであろうバーサーカーを名乗る少女を待つ。
自分で開けた穴を抜け、テラスに出る。
﹃stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす﹄
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
407
408
いた。
だが、あの子が見せるスピードと体の小ささがあれば空中とはいえ本来なら避けられ
たはずだ。
さらに言えば、私の正体を知っていて、更に私が何をしようとしたか気づいている様
子だった。
なのに、その対応がお粗末すぎる。
予め知っているのにやることは全て反射的なもののように思える。
前回剣を交えた際もおかしな点があった。
私やセイバーと打ち合ってはいたが、あの子の武器の軌道に洗練した動きはあまり見
られなかった。
技のキレや物理的な重さはある。なのに年月や積み重ねた深さがほとんど感じられ
ない。
完全にスペックにモノを言わせて、反射神経や筋力で押し切る形だった。
まるで、自身の能力を把握しきれていないような⋮⋮。
そして最後に、あの子は私を殺そうとしていない。
いや、確かにあの子の攻撃は私を殺そうとする軌道を描いてはいるが、当たりそうに
なると刃が鈍る。
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
409
これも無意識なのだろうか。
そういえばイリヤもだ。
あれだけこちらを殺すようなことをほのめかしておいて、この間に比べて本気で殺そ
うとしているようには感じられない。
私の衛宮士郎としての記憶の中で、聖杯戦争時代のイリヤと言っていることはほとん
ど変わらないのに⋮だ。
何かを企んでいるのは確実。
全力を出せばこちらは一溜りもないのに、遊ぶかのように出し惜しみする姿に何も感
じない筈がない。
だが、今それを考えている余裕はない。
お粗末でありながらも、スペックが高いからそれを補えている現状。
剣筋を予測するのではなく、見てから回避しているそのやり方は獣を思わせる彼女に
合っていると言えば合っているのだろうか。
やはり規格外。
だが、悪いがそこをつかせてもらおう。
単純なフェイントではそれごと食いつぶされてしまうだろうが、ならばそれすらも
引っかけとしようじゃないか。
素直に過ぎるその動きは、君の力となることもあれば、それが仇にもなるということ
を教えてやろう。
あの様な小さい子に対して使うのは忍びないが私の切り札を切り、全力で行く。
せいぜい手を抜け、それだけ時間は稼げる。
ブラボー脚ぅぅ
﹂
思考の最中に居ると、上空から気配を感じた。
﹁流星
!!!
﹁うわっは
今の避けちゃうか
﹂
﹂
﹂
!
﹁あれだけ派手に登場すれば当然だ
﹁そう、かい
!!
!
!?
するとそのまま、彼女はテラスの床に突き刺さった。
後方へ跳び下がる。 だが、あれだけ大声で場所を教えてくれれば避けることは容易い。
落下速度も加え、先程までは無かった翼で加速したのであろうその速さは脅威だ。
迫る。
その場から飛び、回避すると、今まさに自分がいた所を蹴りの体勢でバーサーカーが
!!
410
バーサーカーは背中の羽を一振りして地面に叩き付け、その反動で抜け出す。
干将莫耶
﹂
そしてその勢いを殺さず、こちらへと迫った。
﹂
﹁次はこいつだ
﹁なに
!
!
!!
干将・莫耶〟。
比べ合いと行こうじゃないか
!!
﹂
!!
﹂
!!
斬り下ろし、勢いを殺さずに体側の剣でさらに斬り下ろし、身体のバネを生かし切り
﹁気が向きゃぁ教えるさ
﹁何故それを君が持っているのかな
逆を言えば、スペックでその欠点を覆えているということでもある。
先程は技術が拙いとは言ったが侮って良い相手ではない。
しかし考えている暇はない。
なぜ彼女がそれを持っているのだろうか。疑問は潰えない。
どちらも遜色のない、否、全く同じに見える双剣だ。
そして、それを受ける私の中にある物も〝干将・莫耶〟。
﹁っ⋮﹂
﹂
バーサーカーが私に手を振りかぶりながら手の中に呼んだものは白と黒の夫婦剣〝
!?
﹁はっはぁ
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
411
上げ、そのまま体を回転させての横薙ぎ。
前回もそうだったが、彼女はその体の小ささを生かしてか、身体そのものを回転させ
て連続させた動きを主体とした攻撃を得意としているだろう。
普通であるなら隙が大きい。
身体を回転させるということは、視界も常にこちらを見ている訳ではない。
だが、恐ろしく早い。
﹂
そしてその一撃一撃に恐ろしいほどの力が乗っている。
﹁っ
﹂
!!
そして金属製故にその冷たさが手にまで届き、若干の運動阻害を齎し始めている。
彼女と交わした刃、その触れた部分が徐々にだが凍り始めていた。
氷だ。
冷静に考察しながら彼女の猛攻を捌いていると腕に違和感を感じ始めた。
ント相手じゃ効きが悪いなぁ⋮っと
﹁やっと効きはじめたか。対魔力はそんなに高くなかったはずだけど、やっぱサーヴァ
私が持つ物と遜色無いのに内包するものは全く別と言うことか。
らしい。
類い稀な怪力ばかりを警戒していたが、あの〝干将・莫耶〟はそれだけではなかった
!?
412
﹁厄介な﹂
﹁そういう強化をしたもんでね
﹂
正しくは自らの腕と言うべきか。
どちらにせよこの状況はマズい。
﹂
!! !!
防戦一方も趣味ではないのでね
﹂ ﹂
!?
投影して改めて思うのは、不思議なことに彼女が持つそれと私の中に登録されている
当然凍結効果もある。
私がしたのは、彼女が持っている〝干将・莫耶〟の投影だ。
﹁馴染みある武器だからな、比較的やりやすかったよ﹂
﹁マジかよ
だがすぐさまもう一度〝干将・莫耶〟を投影する。
横薙ぎの一撃を反らした瞬間に、一度干将・莫耶を破棄。
﹁ふっ
!!!
!
しかしながら彼女はその脱出方法を示してくれた。
﹁生憎と氷像になる趣味は無くてね
﹂
段々と重くなっていく彼女の攻撃。
!!
﹁あははっ、こういうのは苦手かい
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
413
それはほぼ同じものだった。
・・・・・・・・・
唯一違うのがもたらす効果位だろうか。
原典と似ているのではなく私が投影したものと似ているという理解しがたい状況だ。
だが、そんなことは後回しだ。
おかげでこの短時間で投影に至れた。
﹂
﹂
そして、これの厄介さは既に彼女自身が示してくれている。
﹁厄介な
﹁だからそう言っただろう
﹁うるぁっ
﹂
反らした。それも膝関節部を狙ってだ。
それを私の胴に向けて放ってきたが、私は軽く刃を添えるようにして彼女の足の力を
時折混ぜられていた足刀。
!
!
﹁ソレは悪手だ
﹂
どうやら担い手であっても、耐性はそれほど高くないようだ。
しかし先に限界に来たのはバーサーカーだった。
我慢比べ。
互いの腕が少しずつ凍っていく。
?
!
414
﹂
恐ろしく早く恐ろしく重かろうと、来ることが分かっていれば対処はし易い
﹁げ⋮﹂
幾
た
び
の
戦
場
を
越
え
て
無事な腕を使って飛び起きようとするが、その数旬がアレば私には充分
不
!!
!
敗
狙ってやったのは私だが、片足の動きを阻害された彼女はバランスを崩し倒れ込む。
﹁女の子が言うべきセリフではないな
!
﹂
!!
だ
﹂
の
!!?
だ
の
一
一
度
度
や
も
も
ま
を
敗
理
ぬ
走
解
き
は
さ
な
れ
つるぎ
く
な
い
み ず を わ か つ
﹂
!!
夫婦剣の引かれあうという性質はバーサーカーから投影したものにも適応されてい
﹁│││心技、泰山ニ至リ、心技、黄河ヲ渡ル
ちから
剣の強化、並びに刻まれた詩を読み、技へと昇華させる。
そう詠唱しながら、新たに投影。
﹁Nor known to Life.﹂
た
いない。
凍結が解除されたバーサーカーだが、計4本の剣たちに翻弄されこちらへと近づけて
﹁Unknown to Death.﹂
た
﹁ノーー
干将莫耶を投げ、更に投影し投擲。
はぁ
﹁I have created over a thousand blades.
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
415
るようで、彼女は凍結効果を持った夫婦剣の対応に掛かり切りになっている。
そこへ、翼のように広がり大剣と化した剣で斬り掛かる。
オーバーエッジ。
﹂
﹂
私が編み出した一つの答えだ。その身で味わえ。
﹁くあっ
﹁悪く思うな
﹁これもか
﹂
くっ
﹂
!!
?
こんなものまで持っているのかこの子は。
すぐさま飛び退いたが、手足をやられてしまった。
ただし爆発するのではなく、捕縛を目的とした氷結効果をもたらす物。
恐らく地雷か。
り始める。
締めの二振り、それを避けられるだけでなく、地面に置かれた何かによって身体が凍
!
﹁なんて、ね
獲物を狩る瞬間が一番油断しているとは誰が言ったのだろうか。
だが、この瞬間してはいけない油断を刹那とはいえしてしまったのだろう。
獲った。そう思った。
!
!?
416
﹁悪いね。防御は並みなんで避けさせてもらったよ。まぁ弱い攻撃はレジストしちゃう
﹂
から、最後のさえ気を付けてればよかったんだよねぇ。ま、その防御力も上がってるっ
ちゃ上がってるんだけどさ﹂
﹁態々教えてくれるのは勝者の余裕かね
?
恐悦至極だよ﹂
?
と意識がもどされた。
現実逃避気味そんなことを考えてしまう自分に些か苦笑してしまうが、すぐに現実へ
成人男性の平均以上の体重はあると思うんだが、軽々か。恐れ入る。
彼女は徐に私へと手を伸ばし、持ち上げた。
行動を阻害され、片膝を着きながら居る私の目の前まで来たバーサーカー。
﹁お褒めに預かり
﹁なるほど、 地 雷まで持っているとは、最狂︵バーサーカー︶のクラスなだけはある﹂
あんなもの
﹁あはは、他にもいっぱいあるんだけどさ。使う場所が無くって﹂
﹁知らずに使ったのかね⋮﹂
てさ。というかあんな風になっちゃうんだね途中で避けちゃうと。ふむふむ﹂
﹁さすがだねアーチャー。最後のやつは全身を凍らせるはずだったのに避けちゃうなん
何が嬉しいのか、笑みを漏らしながらこちらへと近づいてくるバーサーカー。
﹁いやいや、ただ口が滑っただけさね﹂
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
417
﹁さて、下に行こうか﹂
持ち上げるのはいいが、バーサーカーの身長は正直に言って低い。少女と言うよりは
幼女と言って良いレベルだ。
﹂
もう少しだ。
ている。
幸いにも意識もそうだが、凍った部分の感覚や阻害されていた動作も徐々に戻ってき
何をするのかは分からんが、ゆっくりとしてくれ。
下には降りてきたということだろう。
バーサーカーは私を地面に降ろして離れた感覚を幽かに感じる。
まずは体制を立て直さなければいけない。
頭が軽度の脳震盪を起こしているのか、意識がふわりと揺らいでしまっている。
謝る声が聞こえた気がするが、今はそれどころじゃない。
!!
だから私を持ち上げても引きずってしまっている。
がぁ
待て、その状態で下へ行こうとするんじゃない
﹁ぐ
﹂
!! !!
まともに顔面や足をぶつけられてしまった。
﹁あ、ごめん
!
418
﹁ごめんなさい未来の士郎。私たちの計画のためにはあなたにここで1度死んでもらう
必要があるのよ﹂
ん﹂
﹁そうだな。最低限の目的は遂げれそうだし、欲張るのはいけないよな。だから、ごめ
未だ戻らない視界の中、悔恨の念を含んだ声がイリヤとバーサーカーから聞こえた。
何だ。どういうことだ。
一度
揺れる視界の中で見えたのは⋮カード
⋮それに⋮計画⋮⋮
﹂
﹂
?
ああ、だが│││
それをゆっくりと振りかぶり、苦々しい顔で、私へと振り下ろそうとしている。
彼女は私の問いに答えず、その手の中に再びあの巨大の斧を呼び出した。
近づいてきていたのはバーサーカーだったのか。
﹁その内わかるさ。スヴァル
!
?
どこかで見た覚えのあるそれが、私の中へ消えていく。
?
そして、私の胸に何かを押し付ける感覚。
もう少し。あともう少しで回復するという所で、どちらかが近づいてきた。
?
﹁今⋮何をした
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
419
﹁これで終いだ⋮﹂
│││間に合った。
狙いはこの場を照らす照明。
何の変哲もない短剣をいくつか投影し、それを投げる。
ならば、この身の全てを以て相対しよう。
現状、次は無いようだ。
先を見るのならば使わずに置きたかったのだがな。
そう、私は私の全てを未だ出し切っていない。
﹁切り札をまだ切っていないものでね﹂
﹁まだそんなに動けたのか、耐久力がすごいな﹂
だが、それでも、私は私であるために、成そう。
甘いともいうかもしれない。
根は優しいのだろう。
うだな。
意識が完全に回復したのもあるが、やはり面と向かって命を奪うことに抵抗があるよ
一瞬の隙を突き、横へと飛び退くことができた。
﹁こちらの敗北は動かないだろうが、終わらせるのは手間だぞ。バーサーカー﹂
420
それらは願い違わず、辺りを暗闇に染めてくれた。
すぐさまその場から移動すると、破砕音。
バーサーカーが寸前まで私が居た所を攻撃したのだろう。
だが、見失ったのか追撃は無い。
の
者
は
常
に
独
り
剣
の
丘
幸いにも、私が明けた穴から見える空も雲が掛かっている。
彼
やるならば今だろう。
唱えるは自己暗示にも近い詠唱。
故
に、
生
涯
に
自分の、自分の為だけの、意味あるもの。
﹂
味
﹁どうやら、月の女神の加護は貰えなかったようね。コウジュ
﹁おうさ
そ
の
体
は、
きっ
と
無
限
の
剣
で
出
来
だがイリヤ、月の女神は確かに私に微笑んでくれていたよ。
恐らく雲間から月が出てきてしまったのだろう。
不意に明るくなった。
!
﹂
て
!
詠唱は終わった。
で
は
勝
た
利
な
﹁So as I pray, unlimited blade works﹂
い
に
酔
く
う
﹁Yet, those hands will never hold anything.﹂
意
﹁Have withstood pain to create many weapons.
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
421
!
そして同時に、辺りに炎が満ちていく。
しかし、その炎は私たちの身を焼きはせず、辺りを炎で満たし、世界を塗りつぶして
いく。
やがて炎が消え、変革した景色を映し出した。
辺りは先ほどまでに居た城の中ではなく、無数の剣が地面に刺さり、歯車が宙に浮か
び、赤銅の空が満たす世界に変わっていた。
これこそが私の世界。
これこそが私の生きる意味。
これこそが私そのものだ。
の物を作りかえる業。
わざ
魔術の到達点の一つとされ、使い手の心象風景を形にして現実を塗りつぶし、世界そ
もされる魔術。
魔術師の世界で、目標とされる魔法に1番近く、最大級の奥義であり、同時に禁忌と
固有結界。別名リアリティ・マーブル。
イリヤは信じられないものを見たといったように、驚きを隠せずに居る。
﹁そう、固有結界。私の切り札だよ﹂
﹁固有⋮結界⋮﹂
422
みらい
過去の私が封印指定にされた要因だ。
改めてバーサーカーを見据える。
彼女はどうしたわけか顔を俯かせ、その表情が見えない。
だが、やることは変わらない。
どういうものかを、感覚的に学ぶ。
カチリ、と頭の中で何かが解かれた音がする。
ああ、この瞬間を待っていた。
◆◆◆
私の宣言に、何故か、彼女が笑った気がした。
﹁御覧の通り、君が挑むのは無限の剣。剣戟の極致だ。全身全霊を以て君を打倒しよう﹂
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
423
・・・・・・
理解⋮とまではいかない。
ただ、そういうものとして捉えるだけ。
けどそれで良い。それが欲しかった。
﹂
これで、第二の目的も果たすことができた。
﹁どういうことかな
﹂
もう何も怖くない。
!
﹁イリヤ
﹂
とりあえず、本気を出していくためにも一つ確認することにしよう。
うしようもないから気を引き締めよう。そうしよう。
流石に俺が何を以てそうなってるかは分からんだろうが、最後の締めを失敗したらど
やっべ、そんなに嬉しそうにしてたかな。
﹁あー、まぁそうかな﹂
﹁やけに嬉しそうだ﹂
ってな感じにテンション上げている所にアーチャーが訝しげな表情で質問してきた。
て
戦いにより高揚している所に、思うように行った喜びが重なって、こんな気持ち初め
﹁ん
?
?
424
!
アーチャーから目を離さずにイリヤへと声を掛ける。
アーチャーも又、こちらを静観している。
たぶん、こちらの出方を伺っているのだろう。
原作バーサーカーの様な存在も居る訳だし、少しでも俺へとダメージを残すためにも
俺がどうするのか見てるって感じかな。
戦闘のアマチュアが何言ってるんだって思うかもしれんが、そう感じるんだ。
これも獣の本能ってことかな。
何故かそれすらも楽しく感じてる俺が分かったのか、はぁ⋮と後方から溜息の後にイ
リヤが口を開いた。
るのは想定内。
というのも、アーチャーの固有結界﹃無限の剣製﹄へとイリヤが俺と共に飲み込まれ
認するためだ。
さておきイリヤに確認したのはとあるプレゼントをちゃんと付けているかどうか確
なんか呆れたような声に釈然としない思いもあるが、まぁ今は置いておこう。
﹁はいはい。負けたら承知しないわよ﹂
﹁一応巻き込まんようにはするけど注意な﹂
﹁分かってるわ。ちゃんと付けてる﹂
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
425
だけどイリヤの存在は俺にとって弱点になる。
イリヤに何かされそうになったら俺はどうしても彼女を守る方向で確実に動いてし
まう。
ブルーリングー
︵だみ声
そこであるものをプレゼントしたわけだ。
テテテッテテー
!
てるからイリヤはかなり防御力が上がってるわけだ。
これでイリヤは大丈夫だ。
﹁さーてアーチャー。お待たせしたね﹂
﹁そのままずっとゆっくりしてもらっても構わないが
﹂
メイドさんに渡してあるのは劣化コピーだからすぐに壊れると思うけど、パスは通っ
ゲームと違って装備者人数に上限なんてないからかなりチートな具合に。
方々にも付けてもらっている。
物なんだが、俺とイリヤだけでつけていてもあまり意味が無いので、本家メイド部隊の
ゲーム内では仲間と一緒に付けたらその人数に合わせて防御力が上がるっていう代
見た目はただの薄青い透明な腕輪だが、大盾としての性能を持っている。
﹃ブルーリング﹄とは、盾の種類に分類されるものだ。
!
﹁あー、最初の目的は足止めだったか﹂
?
426
すっかり忘れていた。
けどまぁ今更関係ないさ。
﹁あんたを倒して空間を飛んだら良いだけの話だな﹂
﹁チートめ⋮﹂
﹂
ヴァントではなくなる﹂
﹁それを信じろと
﹂
﹁信じる信じないは自由だけどさ。でも、ヘラクレスに比べれば希望が持てるっしょ
﹁⋮⋮﹂
﹁何か言って
﹁う、うん⋮﹂
ヘラクレスよりは俺の方が倒しやすくはあると思うんだけどなぁ。
たぶんこれは、ゲームでスケドを持てるのが一個だったことからきてると思う。
それが一度の戦闘で2回死ぬこと。
いることが実は初期の方で分かった。
俺はスケドを無限に持ってはいるが、それとは別に聖杯戦争への参加権が設定されて
?
?
﹁⋮⋮頑張るとしよう﹂
!?
﹂
﹁じ ゃ ぁ 俺 を 倒 す た め の ヒ ン ト だ。俺 の 命 の ス ト ッ ク は 一 個 だ。そ う す れ ば 俺 は サ ー
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
427
だから自前の命+スケド一個分で2回の死亡。
俺の手に巨大な、1m位はあるフライパンが現れる。
◆◆◆
誰だ、節子おばさん。
いや、そんなことを考えている場合じゃないな。
だ。
料理には使いそうにないサイズではあるが、確かにあれはフライパンなのに剣なの
今バーサーカーが持っているフライパンもそうだ。
た。
どうやってそこに神秘が生まれたのかは不明だが、いくつか見て宝具だと私は認識し
立っている。
以前のネギもそうだが、アレな見た目でも彼女の出す物は全て確かに宝具として成り
﹂
来い
13回殺さないといけない原作バーサーカーに比べれば楽勝だよね
!
﹁とりあえずやろうか。まずは、節子おばさんのフライパン
!
!
428
﹁ターンオーバー
ダァン
﹂
ダァン
ダァァン
!!
先ほどからのことが脳裏をよぎったのだ。
び退く。
それを受けるため手にしていた剣を上げる。が、そこで嫌な予感がして、後方へと飛
それをバーサーカーは私へと叩き付けようと振りかぶる。
!!
!
否定できないことが恐ろしい。
このバーサーカーならやりかねないのだ。
!!
一旦フライパンが消えて、出てきたのはまたしても同じフライパン⋮と、お玉
武器変更、節子おばさんの料理セット
﹂
そして何故か、想像の中の自分がデフォルメされたように縮んでいるのだ。
もしも自分が受けていたらと思うと、背筋が凍る。
今のでもクレーターが⋮⋮。
がたい。
見た目だけで言えば可愛いものだが、その威力は、目の前にある結果はやはり納得し
1撃2撃、自身すらも空中で1回転しての合計3連撃の打ち下ろし。
!
!
出てきたお玉も1mはある。
?
﹁さて次だ
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
429
何でそんなものを作ったんだ節子おばさん。
あれだろうか、相手を料理するとか
・
﹂
一先ず、今度は何かをされる前にこちらから行かせてもらおう
﹁これでもくらっておけ
﹁数が多すぎるんだけど
くっ、エルロン家奥義
死者の目覚め
そういってバーサーカーはフライパンにお玉を叩きつけ│││
!!
﹂
自身の周りにある剣をバーサーカーに向かって何本も投げつけていく。
!
気に食わないが、奴がセイバーとのパスを強固に出来れば勝機はある。
が今の私の使命だ。
だとしても、一分一秒でも時間を稼ぎ、凜達の元へこの子達が行くのを遅らせること
それがある以上、足止めなど気休め程度にしかならないのかもしれない。
確かにバーサーカーは空間を跳躍する技術があるのだろう。
ただ、こちらもやられてばかりでは居られない。
少しずつ溜まっていく心の疲労を狙っていたのだとしたらもう賞賛に値するよ。
それに、理解しがたいがあれらを剣として認識してしまう自分が嫌になってくる。
駄目だ。どうしても思考がズレてしまう。
?
近づくのは危険と感じ、今度は離れたところから攻撃する。
!!
!?
!!
430
﹂
ガンガンガンガンッ⋮
﹁何っ⋮
!!!!
それほどの濃密な音。
確かに死者すら目覚めそうだ。
恐るべきはエルロン家か⋮。
というか、バーサーカーの家名はエルロンだったのか
⋮
いや、バーサーカーのことだ。どこかで覚えたとか言いそうだ。
?
音が衝撃波となっているのか、バーサーカーを起点に大地すらも捲れ上がっている。
発生した音の壁によって、私が放った剣達を弾くとは⋮。
また非常識なことをやってくれたものだな。
慌てて耳を塞ぐ。
!?
まさか、節子おばさんの家名がエルロン
!?
!?
あと、離れたところにいるイリヤがきゅ∼っと目を回しているのだが⋮⋮、いいのか
自分も食らってしまったようで、微妙にふらついている。
﹁あはは、誉め言葉として受け取っておくよ。っつか頭が痛ぇ⋮。この技は封印だな﹂
﹁何だその技は⋮。相変わらずの君の不条理さには冷や汗が止まらないよ﹂
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
431
?
!
そしてだから、と続け│││
そろそろ終いと行こう
!
だが、終わりにすると言っている以上終わりにする気なのだろう。
不条理だ。
そして、やはりあれも宝具⋮⋮。
私の解析ではなぜかアレは斧と出ている。
その手に出てきたのは、巨大でカラフルな棒付き飴。
﹁来いよロリポップ
﹂
そう言いながらバーサーカーが手を上に掲げる。
の俺の種族は射撃が下手なんだよ﹂
﹁あれは裏技を使ってるからね。ぶっちゃけ初見殺しだからこそできる技なのさ。本来
あれほど的確に私を狙えるのに遠距離戦を苦手とは笑えてくるよ。
初回の戦闘で放ったあの炎槍は死を覚悟するほどだった。
﹁君に遠距離戦を苦手と言われては、アーチャーとしては泣きたくなるんだがね﹂
から消した。
自滅攻撃から持ち直したバーサーカーは、そう呟きながらフライパンとお玉をその手
﹁遠距離戦は負けるの必至だし、近距離戦も誘われるときついか⋮﹂
432
﹁アンガ・ジャブロッガ
﹂
﹂
!!
﹂
!?
﹂
!!
連続して振り下ろされる斧︵飴︶。
﹁くっ
﹁まだまだぁああああああ
至近で受けた時の威力は想像もしたくない。
これだけ離れていても散弾のごとく飛んでくる石に手一杯だ。
余分に避けていて正解だったな。
直後に地が爆発、大音量と共に打ち付けた場所を中心に辺りを吹き飛ばす。
﹁⋮そういうことか
!
﹂
彼女はにやりと笑い、避けたにもかかわらずそのまま地へ打ち付けた。
しかしそれすらも予測していたのだろうか。
そう判断していつも以上に大きく回避する。
余裕をもって回避するべきだな。
だが近づくのは恐らく危険。
隙だらけ。
斧︵飴︶を肩に担いで力を溜め、飛び上がり振り下ろしてきた。
!!
﹁言ったろ、終わらすってさぁ
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
433
見た目に反してその強大な威力は私の身を徐々に追いつめる。
2回、3回と振り下ろされる斧は、その度に大地を掘り返し、その爪跡を残していく。
そして回数を重ねるごとに、何故か彼女の動きが鋭くなっていく。
﹂
﹂
なんだそれは。この状況で学習しているとでも言うのか⋮。何がヘラクレスより容
易いだ。
隙あらば倒せるかと思ったが、どうやら私はここまでのようだな。
もうそろそろ捌き切れなくなるだろう。
だが、その命。一つ分位は貰っていくぞ
﹂
!!
その命の片方は貰い受けていくぞバーサーカー
行け
!!
﹁もうちょい
﹁悪いがその前に
◆◆◆
﹁この全てをかわせるか
!!
アーチャーが告げた瞬間、辺りに刺さっていた剣達が一斉に宙に浮かび、俺に向かっ
?
!!
!!
434
て飛んでくる。
﹁ちっ、ついに来たって訳か
﹂
やっぱこいつは厳しかったか⋮。
数が圧倒的すぎる。
咄嗟にロリポップを振り回し、叩き落とすも間に合わない。
!!
ず⋮﹂
痛いイタイいたい⋮⋮。
﹁あぁ、当たってるよ。全部、ぐフッ⋮﹂
頭がおかしくなりそうだ。
テンプレものでよく不老不死になる奴がいるが、最初は皆こんなものなんだろうか
初めての死ぬ程の痛みが、俺の中を駆け巡る。
?
それに、俺の身体能力とビーストとしての力がどこまで行けるかも気になっていた。
かなと思った次第です。
けど、俺も不老不死になったそうだし、1度は死んでおいた方がいざという時に良い
確かになりふり構わずチートを使えばさっきの剣群は防ぐことができただろう。
自分が自分であることをやめたくなるこの感覚を、この儀式を、通過するのだろうか。
?
﹁これなら少しはダメージが通った⋮か⋮ 反射的に動いた所でこの量だ。当たるは
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
435
チート便りだと、俺自身の成長につながらなさそうだし。 いわば実験ですたい。
でもその御陰で、いくら身体能力が高くてもやっぱり中の経験が少ないとダメだって
のは分かった。
それにしても、うあ∼、ウニになった気分ってのはこういうものなのか。
メダカ箱の超絶生徒会長の元に居るツンデレ気味な庶務︵男︶││まぁ善吉君のこと
なんだけど││の気持ちが分かったよ。
こっちの方がエグイけどね。
刺さって無いとこ探すほうが難しいぜよ。
そうこうしている間に、身体が光に包まれ、剣もなくなり身体が元の状態に戻る。
ボロボロだった、か。
でも俺も大概ボロボロだから許してほしい。
いや犯人俺だけども。
そう言い表すのが的確な程にボロボロなアーチャー。
満身創痍。
﹁これで一回とはな⋮﹂
﹁ふぃ、痛かった。痛いのはもう勘弁願いたいぜ﹂
436
今の俺は考えるかぎり最高の状態に持ってこれている。
完全回復し、ゲームとは違い戦意は潰えず最高にハイな状態。
て来いってとこかな
だけど逃げれる状態じゃないから覚悟を決めたとか
まぁどちらにしろここで仕留めさせてもらうよ。
◆◆◆
空気が変わった。
赤い瞳が私を見ている。
そして蒸気するように頬を染め、明らかに今までの楽しむような姿とは別の、何か。
バーサーカーから立ち上っていた高揚するような雰囲気が極限まで高められていく。
?
?
それがどういった内容なのかは分からないが、十分に距離は取ったから隙を見て逃げ
恐らく、念話でも来たのだろう。
そうこちらに良いつつ、仁王立ちになる。
時間は稼げた﹂
﹁クク、少しは勝てるかと淡い期待を抱いていたが意味はなかったな。まぁ良い、十分に
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
437
紅く、朱く、赫い、獣のごとく瞳孔の割れた瞳。
そして、彼女の身体は光を放ちながら姿を変えていった。
ああ、私は勘違いをしていたらしい。
獣のごとく⋮ではなく、獣そのものだったのか。
そしてこれが、本当の狂戦士たる所以。
その姿は青き大猫。今の彼女を言い表すならばそれが正しいだろう。
徐々に近づく彼女。
だが、私にはそれがひどくゆっくりとしたものに感じる。
これが死の直前に感じるというあれか。
全力は尽くした。使命は遂げた。ただ、目的は果たせなかったか。
しかしそれも仕方がない。
あとは凜がこの聖杯戦争を生き残ってくれるように願うだけか。
いつしかバーサーカーは目の前に居る。そしてその腕を振り上げ│││
﹃またね﹄
438
『stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす』
439
││また
そこで私の意識は途絶えた。
振り下ろされる巨大な獣の腕。
?
な感じだ。
!!
修行したら変わるのかな
速くなっていた息を整えながら、マグマのように巡っていた身体の中の熱を落ち着け
とりあえずは昂ぶっていた心を落ち着けよう。
?
変な所でゲームに準じてるんだよなぁ⋮。
に戻っている。
俺はというと、蒼猫化の変身時間はゲーム設定通り30秒だったみたいで既に元の姿
あえて言うなら、モザイクが必要でR│18Gな状態だな。
いや元ネタは結局潰れなかったからこっちの方がひどいか。
アーチャーの身体は何故かまだメメタァッ
そして元のアインツベルン城の景色に戻った。
そう一息入れると同時にアーチャーの固有結界が溶けていく。
ふむ。アーチャー戦終了っと。
﹃stage24:目指すモノ﹄
440
ていく。
ふぅー⋮。もう、大丈夫かな
心を落ち着けたことで視野が広くなり、大事なことを思い出す。
あ、そういやイリヤ忘れてた。
?
辺りを見ると、イリヤが目を回して倒れていた。
誰がやった
またお仕置きかな⋮。
ハイ、俺ですよね。
!?
﹂
?
﹂
﹂
!! ?
何度目かも分からない位にしている気がするよ。
すかさずジャンピング土下座をする。
﹁ごめんなさい
﹁コウ⋮ジュ⋮
そのまま目を瞬かせながら、現状を理解するためにか俺の顔を見た。
を開ける。
イリヤの身体を優しく揺らすと、すぐに目が覚めたのかうなる様に声を出しつつも目
﹁あ、起きた
﹁う、うぅん⋮﹂
『stage24:目指すモノ』
441
あれ、そういえば何でだろ
何でなのコウジュ
﹂
﹂
ほら、コラテラルダメージ的な
﹂
猫⋮あぁ、さっき獣化してたから⋮って、イリヤが気絶してた理由聞かないの
﹁猫臭い⋮﹂
﹂
﹁ふぇ
﹁気絶してた理由⋮⋮
どうするよ
墓穴ったぁぁーー
どうする
と、とりあえず誤魔化すか。
﹁覚えてんのかよ⋮﹂
最近この幼女が容赦ない件について。
引っかけてくるとかひどい。
ものすごいジト目でこちらを見てくる。
﹁そっか。でも変ね。私はフライパンとお玉の音でやられた気がするんだけど
﹁いや、あの、まぁ戦闘が激しかったし⋮ね
?
?
ジーっ⋮。
?
!?
?
?
決して幼女のジト目に負け
!
を下げる。
悪いことしたら謝らないとね 世界の常識だよね
!
まさしくそう現すべき様相でこちらを見るイリヤに、耐えられなくなった俺は再び頭
?
?
!!?
!!? ?
442
た訳ではない。
﹁ごめんなさい⋮﹂
﹂
そんな俺にクスクスと、こらえきれないといった風に微笑んでくるイリヤ。
﹁ふふ⋮﹂
﹁弄ばれた
﹂
﹁ホント面白いわねコウジュは。からかい甲斐があるわ﹂
﹁怒って⋮ない⋮
﹂
﹁それはそれで悲しいっす﹂
﹁そんなことないです
とりあえずごめんなさい
﹂
勝ったの
ちゃんと気をつけます
﹂
イリヤの方に意識を向けていたおかげで思考のどこかに行方不明になっていたアー
まだ、復活してないのかね
イリヤに言われて思い出した。
﹁それでアーチャーは
やた、神様イリヤ様ありがとう
﹁うん、許す﹂
?
!
?
!!
﹁ええ。だって言っても意味はないと理解したもの﹂
?
?
!!
?
!!
!?
﹁じゃあ、罰が欲しいの
『stage24:目指すモノ』
443
チャー。
﹂
そういえばと思って彼の方を見ると、丁度その体が光に包まれたところだった。
﹁イリヤ立てる
って、あ⋮。
﹁コウジュ⋮。また⋮
﹂
﹁予想通りっちゃ予想通りかな⋮。いや、そう思ってたからこそ⋮なのかな
まぁね、そんな気はしてなかったって言ったら嘘だけどさ。
アチャ男さんが、アチャ男さんが⋮⋮
?
笑する。 ﹁バーサーカーに⋮イリヤ⋮
何故私は⋮﹂
二人して覗き込んでいた為、訝しみながら俺たちを交互に見るアーチャーに思わず苦
上がる。
どうしたものかと悩んでいると件のアーチャーが目を覚ましたのかゆっくりと起き
?
?
﹁うぅん⋮。私は⋮、負けた筈⋮⋮﹂
!!
﹂
念のためイリヤを回復させて、二人してアーチャーが復活した方に向かう。
見た感じでもイリヤに傷とかはなさそうだな。
﹁えぇ、無事よ﹂
?
444
覚醒してすぐの為か頭が回転していなかったようだが、やっと正常時に戻ってきたよ
うだ。
元凶である俺をジト目で見ながら、早く先を言えと、言外に訴える。 ﹁アーチャー、それには色々と訳があるんだよ⋮。えと、その、もちついて聞いてくれ﹂
失礼、噛みました。
﹁いや君が落ち着きたまえ﹂
私が生きている理由もだ﹂
しかしながら、自ら罪の告白をするというのは緊張するものだ。
先程までと違う意味で早鐘を打つ心臓。
これが、不整脈
⋮⋮なんて冗談はさておき、息を整え話を進める。
﹁ふむ、では何を言いたかったのか言ってくれないか
そして、イリヤに言われるままに自身を確認し、当然固まるアーチャー。
﹁まったく何がどうなって⋮⋮﹂
俺がまごまごしている間にイリヤがアーチャーにニヤニヤしながら言った。
﹁それなら簡単よ、アーチャー。立って自分をよく見たら良いの﹂
﹁その、なんだ、まずは⋮だな。俺が言いたかったのは⋮﹂
?
!?
﹁お、おう。スーハー⋮。おっけー。大丈夫﹂
『stage24:目指すモノ』
445
﹂
しかしすぐに再起動し⋮。
太陽に吼〇ろ
﹁なんじゃこりゃぁ
いやいや、そこは伝家の宝刀﹃なんでさ﹄だろ
!?
あれ
そんなアーチャーにイリヤはとどめ⋮っていうか滅びの呪文
痛恨の一撃。
﹁⋮⋮馬鹿な﹂
うわ、見てられない。
を唱えた。
ほとんど俺の所為な気もするけど、気のせいだよな。うん。
ってか、キャラ壊れてますよアーチャーさん。
声も子供っぽくなってるからワイルド感はないけど⋮。
!?
!?
﹁えらく可愛くなったわね。アーチャー君♪ ぷ、くくく⋮⋮﹂
?
﹁あ、ちなみにそんなふうになってる原因は全てコウジュだから﹂
それより、どう誤魔化すか│││
いや、原因究明は後だ。
ライダーの時みたいにならないように頑張ってイメージを加えた筈なんだけど⋮⋮。
どうしよう。俺がミスったからこうなった訳だけど、どうやって誤魔化そう。
?
446
﹁⋮何
﹂
悪魔
イリヤめ、チクリやがったな
うぅ、鬼
!!
いじめっ子だ
いじめっ子がここに居るよ
﹁バーサーカー、どういうことかね
説明を願いたいのだが
﹂
ひょっとしてさっきのをまだ根に持ってるんじゃないだろうな
!
?
何が言いたいのか自分でも分からんがとにかくプレッシャーを感じる。
怖くはないけど、なんか怖い⋮。
うわ、戦闘中とは違う意味で口元がヒクついているアーチャー。
?
!?
!!
思わず俺がイリヤを睨みつけると、またもニヤニヤしながらこちらを見てくる。
!
!?
?
たの覚えてる
すぐに消えたやつ﹂
﹁覚えている。待てよ⋮。私はあれに似たのをどこかで⋮﹂
?
?
そうか、あれは君が⋮。しかし何故それを私に使う必要があるのかね
!?
﹁うん、見たことあるはずだよ。士郎が1回目に死んだ時に。学校の時だね﹂
﹁っ
﹂
それから、今の状況なんだけど⋮あのさ、さっき俺が戦闘中に心臓の所にカード置い
感あるし。
﹁えっと、とりあえず俺のことはコウジュで良いよ。バーサーカーって呼ばれると違和
『stage24:目指すモノ』
447
﹂
﹁それが重要な点だね。アーチャーはさ、エミヤシロウなわけだけど、この聖杯戦争がど
ういう結末になるか覚えてる
?
﹂
?
﹁コウジュがギルガメッシュと戦うと、町ごと全部吹っ飛ばす可能性があるのよ﹂
﹁でも⋮
ないでしょうね。でも⋮﹂
﹁言い方が悪かったわね。この子の場合勝つことは可能よ確かに。負けることも確実に
﹁いや、それはないだろう。あれほどの力や宝具を持っておいて⋮﹂
またしてもイリヤのフォローが入る。
﹁それはねこの子がギルガメッシュに勝てない可能性があるからよ﹂
ちょっと言いにくい。
﹁それは⋮⋮﹂
私にどう関わるのかが分からん﹂
﹁⋮⋮。確かにイリヤは器にされる。君がそれを防ぎたいのも分かる。しかし、それが
﹁じゃあさ、イリヤの最後は分かるよね。端的に言えば俺はそれを防ぎたい﹂
この聖杯戦争の終わりだ﹂
とギルガメッシュを下し聖杯を砕いて、セイバーと黄金の決別。これが私が覚えている
﹁結末か⋮。衛宮士郎、セイバーの主従が勝ち残り、第四次聖杯戦争の業である言峰綺礼
448
﹁は⋮
えっと、つまりどういうことかね⋮﹂
うん、まぁ、そんな反応になるのも分かるよ。
﹁アーチャーが俺と戦ってる時にさ、違和感感じなかった
た。結果は御想像にお任せします⋮﹂
﹂
に陥った時に俺は冷静に対処できるのかと考えてみた。そして、イリヤにも聞いてみ
の力でちゃちゃっと終わらせようと思ったこともありました。だがしかし、不測の事態
﹁そうそう、それそれ。実を言うと、俺に出来るのは力押しだけなんよ。俺も最初は自分
﹁ふむ、確かに感じたな。動き方に統一性が無いといった感じでだが⋮﹂
?
?
そうなるとコウジュの場合、飛んでくるも
?
でもまぁ、備えあれば嬉しいなってどこぞの大王も言ってたらしいじゃないか。
なんか視界が霞んできた気がする。おかしいな、目から汗が⋮。
﹁そ、そうだな。そんなことになる可能性があるのなら私が戦おう﹂
けなんすよ﹂
﹁だから、俺がギルガメッシュと戦うのは危険なので代わりに戦ってくれる人が要るわ
のすべて吹き飛ばそうとすると思うの﹂
爆撃みたいなことをしてくるんでしょう
全部吹き飛ばしちゃう可能性があるのよ。対人戦ならともかく、ギルガメッシュは絨毯
﹁つまりコウジュは手加減がものすっっっごく、下手なの。だから、とっさの時に力技で
『stage24:目指すモノ』
449
もしも、もしもの話だけど、確かに咄嗟の時に色々フルバーストしちゃうとどうなる
かわからないからさ。仲間は居るだけ居てくれた方が良い。
﹂
﹁で、それが一つ目の理由﹂
﹁まだあるのか
ルー
ル
ブ
レ
イ
カー
﹁キャスターの宝具は知ってるかな
﹂
でもその原因も自分なので何とも言えない。
次は何を言われるのかと身構えるアーチャーに少しむっとしてしまう。
!?
﹁あー、何と説明していいものか⋮﹂
?
﹂
?
﹂
!?
濁す方向に考えた瞬間イリヤから横やりが入る。
﹁ちょっとなんでばらしちゃったの
﹁コウジュは特定条件をクリアすれば敵の力をコピーできるのよ﹂
ものではないだろうし、ここは一旦濁そう。
いや、さすがに自分の心象風景をまるっとコピーされるってのは決して気持ちの良い
ラーニングのことを素直に教えてしまうか
﹁待て。剣とは私の固有結界の事だと予想できるが、理解とはどういう意味だ
﹁そうそれ。それを手に入れるために〝剣〟というものを理解したかったんだよ﹂
﹁破戒すべき全ての符だな。魔術を無効化するのだったか⋮﹂
?
450
もうやだこの幼女。
そんなことを考えていると、顔に出てしまっていたのかどこぞの紅茶みたいにやれや
れってな表情で諭すようにイリヤが口を開く。
﹁コウジュ、こういうことは先に言っておくべきよ。協力してもらうなら出来る限り説
明しておいた方が良いわ﹂
﹁はいお母さん﹂
﹁⋮⋮あなたみたいな娘が居るとしたら心労で倒れそうだわ﹂
﹂
隠し事になれちゃぁいけねぇよな⋮。
俺をここまで信頼してくれているイリヤが特別なのだ。
確かに隠し事ばかりしている奴を信用できるかと言えば否であろう。
でもイリヤの言うことも分からないではない。
﹁そこまで
!?
話の断片を頭の中で整理してくれていたのか、アーチャーは理解を示してくれた。
﹁そっか﹂
かった﹂
となろう。コウジュがどこまでチートかはさておき、イリヤを助けたいというのは分
﹁ふむ⋮、概要は理解した。確かにあの魔女が持つ短剣ならばイリヤを助ける為の一助
『stage24:目指すモノ』
451
あの士郎君がここまでなるんだからイリヤも鼻高々だろう。
いやまじで横の幼女が嬉しそうだ。この姉ブラコンだ
﹁シロー
﹂
離れろ
﹂
!!
!!
﹁うわっ、なにをするイリヤ
!!
﹁その、なんだ。仮にも姉だからな。できれば救いたいと思っていたのだ﹂
きを話す。
そこまで言うとアーチャーはこちらから顔を逸らして言いにくそうにしながらも続
に││﹂
﹁私は救えるものは救う主義でな。君の力があればそれも可能だと思っただけだ。それ
がら言ってきた。
俺の疑問を予想できていたのか、アーチャーは全てを言い終わる前に皮肉気に笑いな
?
俺はまだ何をするかしか言ってないし、対価を渡した訳でもない。
ま、まぁさておき、アーチャーが協力的なのが気になる。
!
どうしてこの展開で助けてくれるって言ってくれてるのだろう
私が手伝うことが﹂
?
﹁あ、うん⋮﹂
﹁疑問か
﹁なぁアーチャー。なんで││﹂
452
ちょっとこのシローさん小さくなったせいで感情が出やすくなってるんですかねぇ
俺もかなりイリヤに入れ込んじまってるしな。
って、とりあえずそこのショタとロリいちゃつくのやめろ
飲みたくなる
!!
︶アーチャーは身だしなみを整えながら立ちなおした。
?
なんだろう
?
それが終わった後、何故か俺の方をじっと見る。
腕やら足やら順番に見ながら何かを確認しているようだ。
しかしそこで、何故かアーチャーは改めて自分の小さくなった姿を見直す。
襲われていた︵
リヤがアーチャーから離れた。
そんな俺の思いが伝わったのか、アーチャーにダイブして髪をわさわさ撫でていたイ
!!
コーヒーをブラックで
イリヤを助けようとしてくれる人が多いのは純粋にうれしい。
ま、嫌いじゃないけどな。
おかげでイリヤの何かが吹っ切れてアーチャーを押し倒してるじゃないか。
でっかいアーチャーの時は絶対言わなさそうなセリフなんですが。
?
﹁ちょっと待て﹂
『stage24:目指すモノ』
453
﹁どったの
﹂
﹂
俺は思わず明後日の方向を見る。
﹁何故、目をそらす
﹁That
しよう﹂
﹂
s righ││嘘ですごめんなさい
﹂
﹂
﹁はぁ、もう良い。この身体もマイナスばかりではなさそうだ。納得はできないが理解
今ではほとんど同じ身長なのに、目が前と同じように鋭くて怖いよ。
!!
!?
ギロッと俺を射殺さんばかりに睨んでくる。
'
﹁私は実験体か何かか
し、一応今度こそ成功したと思ったんだけどなぁ⋮﹂
小さいままなのは修正できなかったんだよ。まぁ実際に使わないと結果は分からない
なかったから弄って⋮。その結果完全な受肉が出来るようになったけど、何故か身体が
ム、スケープドールっていうんだけど、これをそのまま使っても聖杯との繋がりを切れ
﹁うぅ∼、ごめんなさい。失敗したんです。俺が持ってる死の淵から生還させるアイテ
﹁訳がわからにことを言うな。というか、それはどこの政治家だ﹂
﹁き、記憶にございません⋮﹂
?
?
?
﹁今の説明のどこかに、私がこの姿になる必要性があったか
454
アーチャーは、いきなりため息をつきながらそんなことを言った。
どこぞの幼女と違って、優しい。
一先ず俺への言及は止めてくれたアーチャーはそのまま目を瞑り、トレース・オンと
おなじみの言葉を言った。
ならば身体が縮んで問題となりそうなのはリーチ面くらいか。凛とのパスは⋮やはり
﹁魔力量、魔術回路共に異常はない。筋力等の基本ステータスも変わってないのか⋮。
完全に切れているな。だが受肉している分、身体維持に魔力は不要となったか。不思議
﹂
なのは私の幼少時の姿になるのではなく、アーチャーとしての私をそのまま小さくした
ような姿だということか。これも君のスケープドールとやらの力なのかな
?
﹂
!
やっぱり失礼な奴だ。
﹁し、してねぇよ
ら、泣きそうな顔は止めてくれんかね
私がいじめてるような気になる﹂
﹁君がやはりチートだということはよく分かった。まぁとりあえずは協力しよう。だか
そんな俺にアーチャー諦めも混ざってがいるのだろうが優しい表情で笑ってくれた。
負い目もあってついどもってしまう。
のままになってるみたい、です﹂
﹁う、うん。どうも復活と言うよりは転生に近いみたいなんだ。だから肌の色とかはそ
『stage24:目指すモノ』
455
?
﹂
さっきから俺の視界を霞ませているのは汗だ。そうじゃないと俺の何かが崩れる。
﹂
?
?
あ、でもうっかりスキルが⋮﹂
んでね。構わないのならいくつか言っておきたい﹂
﹁そうだねぇ⋮ま、いんじゃない
?
イリヤがつまらなそうにそう言ってきた。
﹁ねぇ、こんな所で立ったままというのもなんだしマイルームに行かない
だけど確かにそうだな。
長い話になりそうだし。
﹁それもそだね。アーチャー、場所変えよっか﹂
﹁分かった﹂
◆◆◆
?
?
しかし、中に入ると面白い光景があったので入り口で止まってしまった。
いつものごとく、その辺のドアから力を使ってマイルームに移動してきた。
﹂
﹁凛のことなんだが、連絡を取ると今後の作戦に支障をきたすのかな 元マスターな
﹁何
﹁そういえば、一ついいかね
456
その止まってしまった原因はまだこちらには気づいていないようだ。
改めて現状を確認する。
﹁さーくーら﹂
﹃さーくーら﹄
﹁さくら﹂
﹃さくら﹄
えっとつまり、ライダーさんが可愛いことをしているわけだ。
チーズ君人形︵マイルームグッズの一つでピザ好きな王の力をくれる魔女さんがたま
に抱えてるやつ︶をその手に抱えて、モトゥブパパガイ︵オウムみたいに言葉を覚える
鳥でマイルームグッズの一つ︶に向かって自分の主の名前を覚えさせて嬉しそうに笑っ
ている。
﹂
?
前も見たけど、またやってるとは⋮。
たら、すぐに顔を真っ赤に染めるという器用な事をしだした。
その瞬間ライダーがこちらにバッと顔︵ちなみに眼鏡︶を向け、顔を青くしたと思っ
見ての通りの状況なのだが、聞かずにはいられなかった。
﹁何⋮してんの⋮
『stage24:目指すモノ』
457
﹂
しかも今回は普通に入ってきちゃったからなぁ。知らんぷりし辛い。
﹂
どうなんですか
﹁お、おかえりなさい。いつ⋮お帰りに⋮
絶対に見ましたよね
﹁たった今⋮なんだけど⋮﹂
﹁見ましたか
﹂
?
?
﹂││イリヤさん
?
﹂
!!
﹁今のは⋮、ライダーか
捕獲とは失礼な。
彼女も私のように捕獲されたわけか﹂
あくまでも協力者ですよ
﹁とりあえず、あっちに行こうか。どうせならライダーにも聞いてもらわないとだから﹂
?
後ろから最後に入ってきたアーチャーがちょろっと失礼な事を言う。
?
き布団にもぐった。
ライダーは耐えられなくなったようで、チーズ君は抱えたままベッドの方に走ってい
﹁∼∼∼
この小悪魔幼女め。
前回は反応が少なかったから今回は思いっきり言うことにしたに違いない。
にも滅びの呪文を唱えた。
見てしまったがライダーの為にも見ていないと言おうとしたのに、イリヤはライダー
!
?
﹁何も見てな││﹁ばっちり見たわ
!?
458
俺は入り口からライダーが潜り込んだベッドのある方に行く。
ゲーム内では無いが、そこそこ立派な椅子とか机をアインツベルン城から持ってきて
あるのでそこに座った。
同じようにアーチャーも座り、イリヤは慣れた様子でお茶を淹れに行ってくれた。
しばらくするとイリヤが同じようにテーブルに着いたので貰ったお茶にお礼を言っ
てから話を続けることにした。
ふむ、今日も緑茶が美味い。
別にコウジュから聞いた作戦内容だと影響はないんじゃないか
﹁さてさっきの続きなんだけど⋮﹂
﹁まず凛のことよね
しら﹂
?
﹂
?
うへぇ、もうそっちも言わないといけなのか⋮。
何のためだ
﹁ふむ、連絡を取れるなら少しくらい遅れてもかまわんが、今後の事を考えてのくだりは
う﹂
いでに、その後のことも考えてアーチャーは力がほとんど使えないということにしよ
の余裕を持たせたくはないんだよね。だから、セイバー戦の後でってことにしよう。つ
﹁う∼ん、良いっちゃ良いんだけど、でも俺と戦っても生き残ることは可能なんていう心
『stage24:目指すモノ』
459
やっぱ説明めんどくさいな。
いや、するけどもさ。
﹁それは、士郎の成長をこの戦争中にしておいてほしいからだよ。
確かに、俺はアカシックレコードに接続できるけど、それは限定的でさ。
正直この戦争以降のことはほとんど知らない。
でも、一つ確実に分かっているのが衛宮士郎の固有結界が異端視される可能性が高い
ということ﹂
もちろんこれはアカシックレコードから知ったものではなく、いわゆる原作知識の一
部だ。
あんま覚えてないけど⋮。
確か、脳と魔術回路を引っ張り出されて、そのまま考えることもできずに無理矢理生
かされるんだよな
するのは⋮魔術協会だっけ
確認すればいいじゃんアカシックレコードがあるんだからって思うだろ
?
?
最近だ。
クーリングオフが利くのならしたいよ。不良品渡されたんじゃないだろうかと思う
そして疲れだけ残る。精神的に⋮。
でもな、アカシックレコードを何回使っても何故か中途半端にしか使えないんだよ。
?
460
継承等が不可能と判断されたために保護という名目の元に
﹁確かに固有結界は異端視されやすい、実際私は封印指定候補となっていた﹂
﹁封印指定ってあれよね
たくない﹂
介事に首を突っ込んでいくから力は必要になる。それに個人的にあまりそんなことし
記憶やらなんやら全部消して一般人になってもらうことも考えたけど、士郎は絶対厄
方なしだ。
﹁それもあるから俺は士郎が力をつける機会を潰したくない。若干八百長が入るのは仕
﹁その通り。私の無限の剣製も私個人の物である以上分かっていた事ではあるがね﹂
幽閉されたり、奪われるという﹂
?
﹂
?
?
﹁私は士郎がどうなっていくのかまで聞いてないけど、その考え方がひねくれたものな
が。
イリヤとかぶってしまった。まぁ、ここに凛とかがいても同じことになるとは思う
﹁﹁ひねくれもの﹂﹂
﹁なにかね
﹁﹁・・・﹂﹂
が無ければあれこれ考える必要もなくなる﹂
﹁私個人としては衛宮士郎を殺したいわけなんだが そもそも、衛宮士郎という存在
『stage24:目指すモノ』
461
のは分かるわ﹂
﹁それは何故かね
﹂
かったことにはならないと思うけどね﹂
で も そ れ 以 前 に ア ー チ ャ が こ の 時 代 の 士 郎 を 殺 し て も ア ー チ ャ ー と 言 う 存 在 が な
たってのもあるわけで⋮⋮おっと、今はそれは置いといて。
衛宮士郎の命題だから結局は自分で答えを出して欲しいし、そのために受肉してもらっ
分からないでもないってのも内心あるけどさ。まぁその辺はアーチャー⋮というか
﹁ある程度知っている俺もやっぱりひねくれてると思うよ
?
ひょっとして、あんたもうっかりか⋮。伝染病なのかな⋮
横の繋がり︵並行世界としての︶はあっても縦の繋がり︵時間軸的な︶はない。
すでにアーチャーが士郎として過ごした時代とは乖離しているんだ。
今気づいたようだ。
﹁む⋮﹂
﹁俺がいるじゃん﹂
?
よ
﹂
?
?
﹁それもあなたの思い描くハッピーエンドってなわけ
﹂
﹁せっかく受肉したんだからさ、後ろ向きな方法じゃなくて前向きな方法を探してくれ
?
462
仲間で事に当たるとかさ。
﹁直接的なものじゃないけどさ、余計なお世話かもしんないけど選択肢くらいはあって
も良いじゃん
そう言いつつもどこか嬉しそうなアーチャー。
﹁ふん、たしかに余計なお節介だな﹂
良い案があったら誰かに教えてもらいたい位だね。
程度しか思いつかなかった。
俺は他の二次小説オリ主みたいに器用なことはできないし、知識も微妙なんでこんな
あとは今の内から士郎を魔改造するとか﹂
?
﹁ふふ﹂
﹁くくく⋮﹂
﹁⋮くす﹂
﹁な、なんだよ
?
﹁んな
﹂
﹁いや、何。今の君のセリフだとプロポーズのようだったものでね﹂
しよ﹂
何でみんな笑ってんだよ。ライダーも布団の中でちゃっかり笑ってる
は︶アーチャーが必要なんだよ﹂
﹁まぁ、グダグダになったけど、そんなわけで俺には︵目指してるハッピーエンドの為に
『stage24:目指すモノ』
463
!?
﹂
?
﹂
﹁えっと⋮﹃俺にはアーチャーが必要なんだ﹄だっけ
言葉のあやに決まってんだろ
イリヤが俺のマネをして茶化す。
﹁う、うるしゃい
くそ、噛んじまったじゃねぇか⋮。
相変わらずイリヤは俺をすぐに苛めようとする。
!!
!!
とにかく、手伝ってもらえるんだよな
ちくせう⋮。いつかはこっちからしかけちゃる
﹁今のは忘れろ
!!
﹁このキザ野郎っ
﹂
やっぱりやな奴だ。
でもまぁ、これでまた仲間が一人増えた。
あれこれあったが一先ずは順調かねぇ。
﹂
?
﹁もちろん仲間にする。アサシンは微妙だけど⋮﹂
﹁他のサーヴァントはどうするんだ
かな。そして最後に全面戦争をする﹂
﹂
﹁とりあえずは、士郎には勝ち進んでもらって、裏で俺たちがイレギュラーに備える感じ
?
!!
﹁それで、これからどう動くのかを教えてくれないか
﹂
﹁レディーに誘われて断るのは野暮というものだ。手伝わせてもらおう﹂
?!
!!
464
﹁アサシン⋮佐々木小次郎か。何故微妙と
こと言ってたんだよ、確か⋮。
﹂
﹁確かアサ⋮もう小次郎でいいや。小次郎は強い奴と戦えたらそれだけで満足みたいな
?
﹂
だから、アサシンは保留。キャスター、ランサーはとりあえず接触して交渉かな﹂
﹁交渉材料はあるの
?
じゃあ交渉は難しい
だよね。
あ、それ以前にマスターが綺礼じゃん。
マスター居るじゃんホントのマスター若干忘れてた。
交渉できるわ⋮け⋮。
ああ
でもどこに居んの
ランサーのホントのマスターであるダメットさん⋮じゃないや、ダゼットさん
!!
いや、それはランサーから聞けばいいか。
?
?
でも、アニメでランサーの兄貴は槍一本で剣軍を弾いてたし、いてくれると心強いん
?
あれ、ランサーも強い奴と戦うのが目的だったっけ⋮。
⋮⋮﹂
﹁キ ャ ス タ ー は 受 肉 さ え で き た ら 良 い し、す ぐ に で も 交 渉 成 立 す る は ず。ラ ン サ ー は
『stage24:目指すモノ』
465
﹁ランサーは何か問題があるの
﹂
?
なら良いけど﹂
?
がんばろうじゃないか。
全てはハッピーエンドの為に
!
次はお待ちかねのセイバー戦だ。
さて大体は話したかな。
あって、それなりに充実したものになった。
そ の 後 も い く つ か 話 し た。大 半 は セ イ バ ー 戦 の 流 れ に つ い て だ が 他 愛 も な い 話 も
﹁⋮
﹁いや、何でもない。いけると思う﹂
466
﹃stage25:繋がり︵意味深﹄
アインツベルン城から逃げている途中、前を走っていた遠坂が急に立ち止まって自ら
の令呪を見た。
何を、と声をかけようと思った瞬間にはその令呪の存在は消えていた。
元々何もなかったように、ほんの少し前まで赤くその存在を示していたものが、無く
なってしまった。
その役目を失ったのだ。
それが表すことは1つだけ。
アーチャーが死んだ。
隣を走っていたセイバーもその事に気づいたのか、苦々しい表情をしている。
俺も似た表情をしているだろう。
遠坂にどう声をかけようか悩んでいると⋮、
﹁遠坂⋮
﹂
﹁イリヤスフィールがすぐに追ってくるわ、急ぎましょう⋮﹂
『stage25:繋がり(意味深』
467
!
何かを言おうとしたわけではないが、つい声をかけた。
絞り出すような彼女の声に掛けずにはいられなかったのだ。
﹂
?
﹁ええ。でもイリヤスフィールが追ってくるにしてももう少し時間がかかるはずよ。多
﹁しかし凛。あちらもめぼしい場所は探すはず﹂
﹁来るときにね、アーチャーが見つけておいたの。万が一の時の隠れ家にしようってね﹂
しかし、隙間風さえ我慢すれば少し休憩する分には良いだろう。
やはりというか、中も荒れていた。
自分も慌てて中へと続く。
ここが目的だったのか、遠坂は中に入っていく。
窓は割れ、壁がめくれてはいたがちょっとしたものだった。
﹁廃墟⋮
しばらく走り続けると建物が見えてきた。
何かをこらえる彼女に、俺は何をすればよかったのだろう。
それだけを言うと、遠坂は再び走り出した。
﹁早く⋮。あいつらに殺されるようなことがあったら許さないからね⋮﹂
468
少の偽装はしたし、探すのに戸惑えば朝方までかかるでしょうね﹂
遠坂が窓から外を窺いながら、セイバーにそう返す。
しかし、その表情はどうしても暗いものに感じた。
﹁遠坂、アーチャーは⋮﹂
思わず口に出してしまった。
しまったと思った瞬間には、遠坂は顔をうつむかせる。
﹁足止めだけで良いって言ったのにさ⋮。あいつ、最後までキザだったな⋮﹂
馬鹿か俺は。
﹁⋮⋮﹂
励ますつもりが傷つけてどうする。
その失態に自分の事ながら呆れていると、遠坂は先ほどまでの暗い表情をやめてこち
らを見た。
﹂
暇があったら行動するのが私の信条。だから、あなた達にも覚悟を決めてもらうからね
﹁無駄になんかしない。アーチャーを失った以上バーサーカーはここで倒す。悩んでる
『stage25:繋がり(意味深』
﹂
遠坂は気合を入れるように、掌を反対の拳で撃った。
?
﹁覚悟⋮、ですか
469
?
﹁いくらあのバーサーカーが規格外だからって、アーチャーが全力でいったのなら何か
しらの傷を負っているはず。私だってとっておきの宝石は全部持ってきてるし、まだ手
はある﹂
遠坂はセイバーの質問に答えずジッと見つめながら、ポケットから大粒の宝石を一つ
取り出した。
確か、遠坂は宝石魔術を使うって言ってたからそれか。
魔力をずっと貯め込んできたとも言ってたな。
しかし覚悟って一体
﹁でも回復する方法はどうするんだ
﹂
そう言った彼女自身も覚悟を決めた表情をしていた。
﹁セイバーの魔力を回復させるわ﹂
?
﹂
!?
それ以外のまともな方法があるなら遠坂は教えてくれていたはず。
いつだったか教えてもらった魔力を得る方法は人の魂を喰らうこととかい言ってた。
だがちょっと待てよ。
﹁回復する方法があるのか
どおりの能力を発揮してくれるはず﹂
﹁セイバーは単に魔力が切れて弱っているだけ。一定以上の魔力さえ回復できれば以前
?
470
それが無かったということはまともではない方法ということか。
だからこその覚悟。
移植
そうすることでセイバーが回復するのか
﹁セイバーに衛宮君の魔術回路を移植する﹂
?
?
﹁凛、ちょっと待ってください﹂
﹁セイバーの言いたいことは分かるけど一応聞くわ。何
﹂
そう遠坂に言おうと口を開くが、先にセイバーが待ったをかけた。
その程度なら、俺は構わない。
?
﹁本当にいいの
﹂
﹁お前も言ったろ。あいつの為にも俺たちは勝たなきゃいけない﹂
?
﹁やろう﹂
それでも俺の意思は変わらない。
なんだそんなことか。
﹁それはあまりにも酷です﹂
をしないといけないわ。そしてその負担は士郎へ⋮﹂
﹁そうね、魔術回路を移植させるためには、張り巡らされた神経を引きちぎるの同じこと
﹁魔術師にとって魔術回路は己の寿命より大切なものです。それに││﹂
『stage25:繋がり(意味深』
471
﹁いいわ、それなら⋮﹂
そう言って遠坂がこちらに近づいてきた
んむ
﹂
セイバーにも頑張ってもらわないといけないん
自らの口に宝石を放り込み、続いて俺の顔を徐にその手で固定し││、
﹁え
﹂
だし⋮⋮﹂
﹁儀式の前のちょっとした下準備よ
遠坂から慌てて離れる。
﹁うわっ
き、きき、キス
!?
いや、えっと、そんなことよりキス
え
?
移植の前段階として少しでも接触を多くしないといけないの
!
!!
しつこくセイバーを脱がそうとする。
﹁あーもう
﹂
手加減しているとはいえそこはサーヴァント、遠坂の手をうまく避けていくが遠坂は
服に手を掛け脱がそうとする。
そんな俺は放っておいて、遠坂はセイバーに強く突き放すことができないセイバーの
完全に俺の脳はフリーズしてしまっていた。
?
遠坂が何か言ってるが、耳に入ってこない。
!
!?
!?
?
472
﹁士郎
凛を⋮
止めてください⋮
!
﹂
!!
﹂
慌ててしまう。
一瞬何を言われたのか分からなかったが、我に返り内容が頭の中に入ってきた時点で
え
﹁何事も儀式の成功率を上げるためよ。さぁ、士郎も﹂
遠坂はそんな俺にお構いなしに続ける。
だが、止めろって言われても⋮。
未だ混乱していた俺だが、助けを求めるセイバーの声で何とか立ち直った。
!
?
!?
﹂
!? !
!
魔力が足りない現状では確かに勝ちの目を見ることは叶わないだろう。
それも相手が相手だ。
見ている限りでは普通に動けているが、戦闘となっては怪しいと確か言っていた。
図星だったのだろう。
遠坂の言葉に、セイバーは弱々しく俯くことしかできなかった。
﹁それは⋮﹂
のは自分で分かってるしょう
﹁二人とも覚悟を決めなさい もうこれしかないの セイバーも魔力残量が微妙な
﹁お、俺も
『stage25:繋がり(意味深』
473
﹁あ、凜
﹂
!
・
・
そんな俺達を置いてきぼりに、遠坂が詠唱を始めた。
か分かっていないようだ。
セイバーもまたこの状況を受け入れつつも、やはり恥ずかしいのかどうすればいいの
互いの吐息が掛かる。
セイバーを押し倒すような形になってしまった。
その姿に束の間見惚れていた俺は、後ろから遠坂に押されて先程までの遠坂のように
ベッドにはいつもとは違ってどこか弱々しい姿のセイバーが恥ずかしげに居る。
すると遠坂がセイバーの上から避け、俺と代わるよう促す。
に、俺は頭が真っ白になってしまう。
窓から差し込む月明かりが二人を照らし幻想的で、そして官能的で背徳的なその姿
セイバーを遠坂がベッドへと押し倒していた。
セイバーの隙をついて肌をさらけ出させることに成功したのか、先程より肌色の多い
﹁あとは衛宮君だけよ﹂
474
・
ふと、気づくと俺はひたすら暗闇の中を落ちていた。
そしてしばらくすると光が見え始める。
光を越えると、そこには広い空間が広がっていた。
灼熱の溶岩が支配する荒々しくも力強い脈動を感じさせる世界。
ここは、セイバーの中⋮なのか
そうか。ここで、よりセイバーの本質に近いここで魔術回路を分け与えれば⋮。
何故かはわからないが、そう感じた。
?
﹁っ
﹂
﹄
辺りを見回すと、大きな、それこそ山のような竜がこちらを見ていた。
﹃GRRRRUAAAAA
!!!!!
いや、そんなもんじゃない、これはまるで咆哮⋮。
どこからか、大きな音が確かに鳴り響く。
だが違う。
はじめは聞き違いかと思った。
﹃GRRRRR⋮﹄
『stage25:繋がり(意味深』
475
!?
意図せず息をのみこむ。
鼓動は早打ち、汗が背中を濡らして行く。
な、何なんだこれ⋮。
だが、そんなことを考える暇を俺にくれなかった。
竜は翼を広げ、刃のような鋭い牙の隙間から炎の吐息を漏らし、こちらに向かってき
たのだ。
その羽ばたき一つですら轟音をまき散らしながら、こちらへ突っ込んでくる。
いつの間にか空中に止まるようにして居た俺は、がむしゃらにドラゴンを避ける。
どういう理屈か、俺は空中を滑るように何とかドラゴンを避けた。
﹄
しかし│││、
﹃GRUAAA
﹂
だが、その激痛のせいで意識が覚醒する。
あまりにもな痛みに、意識が飛びそうになる。
言い表しようが無い痛みが身体を駆け巡る。
今度も俺は避けようとしたが間に合わず、片腕を食われてしまった。
﹁がぁぁぁぁぁ
ドラゴンはすぐに折り返し、こちらへ再び向かってきた。
!!!!
!!!
476
『stage25:繋がり(意味深』
477
そんな中、俺の中からグチリと何かが千切れる音と共に自分の中の物抜けて行く感覚
があった。
それに代わり、セイバーとどこかで強く結びついた感覚がする。
その繋がりに心まで近くなったような気がして、気づけば俺はセイバーに心の中で呼
びかけていた。
││シロウ⋮。
確かにセイバーがそう俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
そうする内に、俺の意識は再び飛んだ。
◆◆◆
未だ日の上らない森の中を、俺はイリヤと共に歩いていく。
結局、俺たちはマイルームでの話し合いを朝まで続けた。
色々と打ち合わせしないといけないこともあったしね。
まぁライダーは途中で寝てたが⋮。
というか中身まで幼女化してないか、あれ⋮。
いや、気にしないでおこうか。
とりあえず││、
﹁さぁ、シマっていこう﹂
某部長の様に威厳が欲しくて言ってみたけど痛い子を見る目で見られただけだった。
﹁⋮⋮﹂
そんな目で見ないで
﹂
最近この目で見られることが多い気がする。
﹁やめて
!?
﹂
?
突然、歩みを止めてそう聞いてくるイリヤ。
﹁それで⋮、ホントに良いの
セイバー戦をするために例の廃墟へ行く所だからな。
ちなみにアーチャーとライダーはもちろんのことお留守番。
いつも通りになりつつあるやり取りをイリヤとしながら朝の森を歩いている。
﹁無理だ。これが俺クオリティ﹂
﹁まったく⋮、真剣にはできないのかしら⋮﹂
!?
478
何を聞きたいのかはわかる。
俺も歩みを止め、振り返る。
未だ日は登り切っていない森の中だからか、少し離れただけでその表情は見えない。
でも、その声音からは少しの躊躇いを感じる。
その躊躇いの意味も分かる。
だけど俺はやる。やり切る。そう誓った。
﹂
﹁俺 は 別 に 構 わ な い よ。俺 自 身 に 叶 え た い 夢 は 無 い さ。だ け ど、最 後 は 士 郎 次 第 だ
ね。ってか、俺が言うのもなんだけどイリヤこそ良いのか
おかしなものだね。
イリヤが躊躇っているのは、俺の事。
そして、俺もまたイリヤについて未だ迷いがある。
だけど││、
決めた。
互いが互いを心配して、頼って、迷って、でもやりたいことができた。だからやると
?
その表情には言葉通りの諦めが含まれている。
歩みを止めていたイリヤが、俺の横まで来てそう言った。
﹁別に構わないわ。一度諦めたことだもの﹂
『stage25:繋がり(意味深』
479
思わずギリッと奥歯を噛んだ。
まったくなんて表情してやがるんだか。そしてこの顔を何度見たことか。
こんな少女がこんな表情をして良い筈が無ぇよな。
イリヤは一度了承してくれた。
だけど、彼女は未だ悩んでる。
元々先の無い自分が犠牲になれば、俺が余計に苦しむ必要はないって。
ああ、でも駄目だ。やっぱ駄目だ。
スペックがどうとか、やるだけの力を持ってるとか、そんなことは関係なく。
魔法
知ったことじゃない。
こんな顔をさせる、イリヤを取り巻く環境がどうしても許せない。
魔術
?
ただ彼女を助けるだけでは我慢できなくなった。
どうも今の俺は強欲みたいでね。
だけど俺の今の願いは違う。
最初の俺の願いは彼女を助けることだった。
狂戦士だからな。やっぱり好き勝手させてもらう。
いつだか言ったがルールが違うんだ。
?
﹁駄目だ。それだけは許さない﹂
480
サーヴァント
﹁まったく、あなたは⋮﹂
強く、 従 者でありながら強くイリヤに告げる。
その言葉に若干の呆れと嬉しさを込めて返してくれるイリヤ。
﹂
﹁言っただろ、イリヤを助ける。ハッピーエンドだ。俺はハッピーエンドが好きなんだ﹂
﹁でもあなたを犠牲にしては意味が無いでしょう
﹂
﹂
﹁⋮⋮デレ期って何
﹂
﹁その容姿でおにーさんって言われてもねぇ⋮。でも、死なないとはいえ痛いんでしょ
﹁なに、ちょっと頑張るだけだ。おにーさんに任しときなさいって﹂
?
?
ようとするなんてさ。
血は繋がっていなくても姉弟は似るものなのかねぇ。自分を犠牲にして他人を助け
まったくうちのマスターは心配性だ。
顔を少し背けながら言うイリヤ。
﹁そう﹂
るとかはなさそうだし﹂
﹁いやいやこっちの話。うんと、大丈夫だとは思うよ 昨日一回死んだけど、心が壊れ
?
?
?
﹁⋮デレ期
『stage25:繋がり(意味深』
481
ポンと、イリヤの頭に手を置いて一撫でした後、再び歩き出す。
﹂
?
﹁全然うるわしくないわね。気分は最悪よ﹂
だから、出来る限り陽気に、何でもないように挨拶をする。
でも俺の力は感情に左右される。
自分ながら場違いな声だ。
﹁やほ、皆さんごきげんうるわしゅう∼﹂
眼の前には、弓を構えた士郎、回復したセイバー、そして凛が居る。
目標の廃屋まではまだしばらくあったが、目的は達せられたために足を止めた。
二人して歩く内に広けた場所へ出た。
・
・
・
﹁いや独り言。何でもないさ﹂
﹁なんのこと
﹁ハードがアレだけどさ、助けたいと思っちまったんだ。だから頑張るさ﹂
482
﹁つれないなぁー﹂
俺の言葉に、どこか緊張した面持ちながらも笑みを浮かべる凜へ、俺もにぱっと笑い
ながら話す。
真剣な面持ちの相手方なんぞほっといて、俺はシリアルをするさ。
﹁でもまぁ、当然か。かたき討ちなわけだもんな﹂
﹁そうよ、だから今日は負けてもらうわ﹂
不敵に笑う凜。
同時に残り2人が臨戦体勢に入った。
﹁ではでは、〝しょーたいむ〟といこうじゃねぇか﹂
逆に俺は前へと出た。
イリヤが後ろに下がる。
﹁まぁ、話しはこんなものにしとくか﹂
その空気に俺の意識も徐々に昂ぶっていく。
一触即発。
俺が宣言すると共に、場の空気が一気に張り詰める。
﹁悪いけど、そう簡単にはやられないぜ﹂
『stage25:繋がり(意味深』
483
﹃stage26:折り返し地点﹄
なんで
なにゆえにそのような表情をなさるのか。さっきまで臨戦態勢だったじゃないです
?
しかし、その刃︵ギター︶を向けた先に居る3人は何とも微妙な表情だ。
さぁ始めようかと、剣︵ギター︶を凜達に向けてそう宣言する。
﹁墓にはこう書くといい。死因はギターですってな﹂
汚れた大人にゃ分からない、アツいエレキがほとばしるんだそうだ。
エフェクトとして何故か電気を纏っていて、振る度にギターサウンドが鳴る。
類。
だがこいつは、見た目に反して片手剣の中では高ランクのSランクで、割りと強い部
セ イ バー
俺が呼び出したのは、見た目で言えば見紛うことのないエレキギター。
﹁来い、エレキディストーション﹂
俺は片手を上へと掲げ、武器を呼び出す。
﹁ではでは、〝しょーたいむ〟といこうじゃねぇか﹂
484
か。
﹁せ、セイバー、士郎、相手のペースに乗っちゃダメよ。
﹂
﹂
こ れ は き っ と あ の 子 の 作 戦 よ。こ ち ら の ペ ー ス を 崩 し て そ の 隙 に ⋮ う ん、た ぶ ん、
きっとそうだから﹂
﹁お、おう﹂
﹁は、はい⋮﹂
俺が疑問に頭をかしげていると3人はそんなやり取りを始めた。
何でギターなの
これでも剣だし強いんだぞこれ
!!
?
あれ、もしかして俺ディスられてる
ギターの何がわりぃんだよ
!!
?
!?
いや泣いてない。泣いて無いッたら泣いてない。
なのに俺がエレキギターを持つとそんな目で見られないといけないのか。
てる人って結構強いしかっこいいじゃん。
ヴァイオリンとかフルートとかピアノとかトランペットとか、そういうのを武器にし
何故だ。
でそんなことを言って来る。
イリヤは俺が〝こういうの〟を使う理由を知っているはずなのに、何故か微妙な表情
﹁な、なんだよ
!
﹁コウジュ⋮、もうちょっと、その、なかったの
『stage26:折り返し地点』
485
というかこっちはそれなりに真剣に闘おうとしてるのに何だこの不当な扱いは。
改善を要求する。
あーあー良いですよ。
﹂
そんなにこの武器のことを馬鹿にするなら、なんでこの武器を選んだかその体に教え
てやる。
﹁っるぁ
いてしまう。
それを俺はギターで防ごうと逆袈裟に振り上げるが鍔競合う前にセイバーは剣を引
の見えない剣を振るってくる。
俺が持つこれの厄介さが分かったのか、セイバーは未だ振り下ろした姿勢の俺に、そ
うへぇ、今ので気づくかセイバーさん。
﹁厄介なっ⋮﹂
同時に地面へと走る電流と、砕かれるのではなく粉々になる土。
響かせた。
地に降ろしたギターは小さいクレーターを作りつつ、エレキギター特有の甲高い音を
大きい挙動でやったから、セイバーは勿論、士郎と凜も難なく避けた。
俺は大きく飛び上り、3人の真ん中へとギターを振り下ろす。
!!
486
﹁はっはぁ悪いね
﹂
剣士と剣を競えるほど俺は強くないもんでね
﹁だからそれですか
!
﹂
!
セイバーもまた正眼に構えた状態ですぐそこに居た。
弾かれるままに身体を回し、再び地に立つ。
俺の脚は固い何かを蹴っただけに終わり、弾かれる。
だがセイバーも既に追撃に移っていたのだろう。
る。
すかさずギターを持っていない方の手を地に着き、カポエイラの様に足で蹴り掛か
頭上を風が抜ける。
舌打ち一つ、咄嗟に振り下ろした手の勢いを殺さぬように前転して回避。ほぼ同時に
﹁ちっ﹂
そのままセイバーは身体を回し、その勢いで俺の脇腹へと剣を振るう。
して避けられてしまう。
追撃に、振り上げていたギターをセイバーに近づきながら振り下ろすが身体を半身に
!
中々に物騒なことを言ってくれるセイバー。
﹁鞘に収まったままじゃぁ無理なんじゃないかな﹂
﹁その障壁も厄介ですね。斬り落とすつもりでしたが﹂
『stage26:折り返し地点』
487
対する俺も、内心ヒヤヒヤしながらも表だけは笑みながら返す。
いやまじで足落とされなくてよかった。
確か小次郎がセイバーに言ってたんだっけか。鞘のままではってやつ。
だから俺の障壁は抜けなかった。
恐らく風の鞘に包まれてる状態じゃない本当の刃ならスパンと斬られてただろう。
ほぼ身体が動くままに蹴り上げてたけど、ちょっと間違えば大惨事だったわけだ。俺
が。
とは言え油断は大敵だろう。
あの鞘となっている風は刃にもなる。
障壁ばかりに頼ってはいられないな。
スになっただけだと思うよ﹂
﹁ははっ、そいつは自分でも思うさ。だけど、他のクラスに当てはまらないからこのクラ
﹁本当にバーサーカーというクラスか疑います﹂
﹁まぁね。悪いけど、調べる方法があってね﹂
ばれないように心の中で冷や汗を掻いていると、そんな風にセイバーが問うてきた。
﹁やはり、私の真名を知っているのですね﹂
488
改めて考えてみると現状の俺じゃぁ、剣士も槍兵も弓兵も、当然魔術師も暗殺者も騎
兵も俺には合わんだろう。
できないこともないけど、力押ししかできない俺ではやはり狂った戦士が妥当だろ
う。
色々ずれてるのは自覚しているさ。
﹁それにしてもその武器は厄介ですね。剣士殺しとでも言うべきか﹂
﹁そっちこそやっぱ気づいてたか。電撃と音撃の効果﹂
の剣の本質。
それが常に纏う電流と接触時に発生する音による振動。
ないが、その少しが事の趨勢に関わっていたかもしれない。
衝
撃 のよう
セイバーの対魔力は高いからひょっとすれば多少手がしびれる程度だったかもしれ
もしも剣で受けていたならば、たちまちにその二つの効果で手は痺れていただろう。
に対象に音による衝撃を加える。
電流は当然として、音の方も某マフィア漫画の鮫の人が使ってた 鮫
アタッコー・ディ・スクアーロ
エフェクトでしかなかったゲーム内の演出が現実に作用していることを利用したこ
そう、何故俺がこれを使ったのか。その理由がこの雷撃と音撃のコンボ。
﹁あの地面を見れば受けてはいけないのは一目瞭然です﹂
『stage26:折り返し地点』
489
そ個まで瞬時に思い至ったのか、ギターに全然触れようとしないセイバーの直感もま
た一流のそれだろう。
さすがは俺と違って本物のサーヴァントってことか。
え、卑怯
精神攻撃は基本って言うしね。 という訳でここいらで精神にダイレクトアタックもさせてもらおう。
一流の剣士にペーペーのにわかサーヴァントが真正面から叶う訳ないじゃない。
だから今回は小細工を弄させてもらった。
けだったのだろう。
前のは俺の滅茶苦茶な動きとスピードにパワーってチートスペックに惑わされただ
実際に、以前交わした刃に比べ今のセイバーの太刀筋はさらに鋭くなっている。
その上で士郎とあれこれしてセイバーの状態は良くなっている。
以前ならともかく、向こうは確実にこっちの首を落としに掛かってる。
そんなことは無い。
?
﹁回復しましたので﹂
るようだ﹂
﹁それにしてもセイバーさん。この間とは動きが違うね。魔力もそれなりに充実してい
490
油断なく、剣を構えたまま簡潔にそう答えるセイバー。
だけど俺の敏感な鼻と原作知識は、そんな単純な言葉で終わらせてはいけないことを
知っている。
﹁そっかぁ、どんな方法だったのか気になるなぁ﹂
﹁敵たるあなたに教える訳が無いでしょう﹂
﹁そっかー。でも仕方ないか。3人の匂いがなんか混ざってるのが気になったから聞い
てみたんだけど⋮﹂
ピシリっ。
そんな風に空気が凍ったのが分かった。
俺の言葉に、ザ・ワールドを食らったかのごとく動けないでいるセイバー、そして凛
と士郎。
﹂
ちなみにイリヤさんはその言葉の意味が分かったのか後ろでニヤニヤしてます。こ
の幼女怖い。
?
﹁俺って獣人だから匂いに敏感なんだよ﹂
それに対し俺は自らのケモミミをピコピコと見えるように動かしてあげながら言う。
いち早く復帰した凜がそう問うてきた。
﹁な、何のことを言ってるの
『stage26:折り返し地点』
491
﹂
何とか誤魔化そうとしていたんだろうが実際に匂いが混ざってるんだから仕方ない。
何で何で
?
?
﹂
?
セイバー
!!
の気持ちが分かってきた気がする。
﹂
﹁うるさいのよもうっ
﹁はいっ
!!
﹂
ってそんな場合じゃなかった
﹁ぜぁ
!!
!
聞くセイバーもセイバーだけどさ。
というか凜さんや、何故にセイバーに指示を出したし。
ようだ。
しかしどうやら弄りすぎたようで、凜ちゃんとセイバーが沸点を通り越してしまった
!!
﹂
魔力供給︵意味深 な部分を弄ってちょっとだけ挑発するつもりだったんだけど、S
その微笑ましさにニヤニヤが止まらない。
﹁なんでかにゃぁ
戦闘そっちのけでいじるのが楽しくなってきた。
皆して顔真っ赤にするんだもの。
ふむ、どうやら俺も後ろで離れて見てる幼女を馬鹿に出来ないな。
﹁というか何を動揺してるのやら。ねぇ何で
492
﹁うおっと
﹂
これはやばいね。
だけどその程度は想定済み
﹂
﹂
!!
・・・・
﹂
ぐっと押し込むように右で鍔競合ったまま、左手を横に出す。
!
しかしこれもまたボディを避けるようにして防がれる。
弾かれた右手を再び、無理矢理に逆袈裟で振る。
間合いを掴まれてしまったか。
かそこは避けて、持ち手にしているネックの部分へと丁寧に当ててくる。
激おこに見せかけておいて、音と雷の効果があるのはボディ部分であると気づいたの
流石は最優のサーヴァントというべきか。
これはやばい。
撃を入れられない。
横薙ぎ、斬り上げ、下ろし、突き⋮と、連続して斬り込んでくるセイバーに上手く一
すんません。馬鹿なこと考えてほんとサーセン。でも正直ぎりぎりです。
!!?
﹁ツインディストーション
﹁っ
!?
﹁俺は言ったぜ。そう簡単にはやられないってな
!
『stage26:折り返し地点』
493
純粋な剣技では絶対に勝てないことは分かっているので、ギターを二本に増やして対
応する。
ネックの部分で受けられていたがそのままもう片方で横薙ぎに振る。
だが、抑え込んでいたと思っていたのに頭一つ分姿勢を低くすることで避けられる。
これだからサーヴァントってやつは
﹁まだ終わらんよ
﹂
﹂ ・・
駄菓子菓子、そのまま決めさせるわけがない。
がら空きの俺の脇腹は実に斬りやすいだろう。
既にセイバーは斬り掛かる体勢だ。対して自分は両手を振り切った形。
にセイバーを見る。
そう心の中で罵倒しながら、結果的にハサミの様にクロスしてしまっている両手越し
!
産み出されるのは、見る分には華やかな剣の舞。
転した。
手から離れた刃︵ギター︶は俺を中心に、残像を残すほどの速さで円を描くように回
普通なら意味の解らない行動だろう。だが俺にとっては意味がある。
俺はあえて両手のギターを放す。
﹁くっ
!?
!
494
だが受け手に回っているセイバーは防ぐので手いっぱいだ。
││双剣系フォトンアーツ:ブレードデストラクション││
使用者を中心に回転する剣の乱舞は敵を寄せ付けず切り裂く。
・・・・・・・
手を離れた刃を何故操れるのかはわからないが出来るものは仕方ない。
﹂
むしろ、PSPo2のステータスを持っているんだから出来るのは当然だろう。
!
ター︶を受け流していく。
!?
先程までの様にボディを避けるように弾いたのではなく、完全に本体に当たってい
けど剣で防いだということはそれしか手が無かったということでもあるのだろう。
ということだろうか。
剣技では敵わない故に小手先の技で攻めてるというのに、騎士王の名は伊達じゃない
何でそんなことができるんだよ
そう心の中で叫ばずには居られない。
だがこれもセイバーは卓越した剣技で、刃を下に構えた剣で連続して走る俺の刃︵ギ
今度は下から斬り上げるように、俺を中心に回転する刃達。
剣の間合いより一歩中へ、そのままもう一度放つ。
く。
俺を軸として横に回転していたギターを一度掴み、そのまま一足にセイバーへと近づ
﹁続きだ
『stage26:折り返し地点』
495
た。
ジャストアタック
つまり雷撃と音撃の両方を食らっているはず。
﹁くぅっ﹂
それでもセイバーは動いた。
俺のこの技は連続切りとはいえ力を入れてして行った技じゃない。咄嗟に出した技
だ。
だからだろう、思った以上にセイバーへの状態異常付与は行えていない。
彼女は反らすために使っている剣の柄をこちらに向け、剣先から魔力を放出したのか
そのまま柄を俺の腹に叩き込んできた。
﹂
互いに吹き飛んだ俺たちは、地面を滑りながら着地する。
自身が吹き飛ぶ前になんとかできた俺の攻撃に、同じく後ろへと吹き飛ぶセイバー。
そう思った俺は咄嗟にセイバーへと攻撃を仕掛ける。
吹き飛ばされる。
その衝撃に肺から空気が抜けた。
る。
一定以上のダメージだったのか、レジストできずに俺の腹へとそのまま叩き込まれ
﹁うぐぁっ
!?
496
とはいえ大きなダメージには至っていないのか、片膝を着きつつセイバーは時折頭を
振りながらもこちらを睨みつけている。
その睨まれている俺はというと、腹からは激痛、両手の至る所が弾けたように内側の
肉を見せ血を流していた。
つい、ぼやくようにそう言ってしまう。
﹁あー、痛ぇ⋮﹂
しかしそれも仕方ない。自業自得だ。
セイバーの追撃を防ぐために、両手のギター同士をぶつけて音を爆発させたのだ。
その際の衝撃も電撃も、自分に返ってきた。
片方だけでも多大な威力だ。
それを二つ力を入れずにとはいえぶつけてしまった。
それ故の手の損傷だ。
る。
至近で受けたセイバーは、未だ三半規管辺りでもやられているのか未だに立てずに居
だが効果はあった。
﹁死ぬよりはマシさね﹂
﹁無茶をしますね﹂
『stage26:折り返し地点』
497
見た目で言えば俺の方がぼろぼろだが│││、
まぁ当然俺は回復します。
﹁ディメイト﹂
飲料水型の回復薬をごくごくと飲み、負った傷を癒していく。
念のため中回復薬にしたが今の戦闘で負った傷は全て癒えた。
そんな俺の姿を見て、驚愕するセイバー達。
ふふん、剣技では勝てない分小細工しまくってるがどんなもんだい。
﹂
肉も骨も断たせといてそれでも勝つなんていうチート任せのごり押しだが効果は絶
大だ。
ある人も言ってた。
勝てばよかろうなのだぁ
!!!
勿論目的があるからなのだが、さて何と答えよう。
今まさに隙だらけの自分を何故襲わないのか。
確かに彼女からすれば不思議だろうな。
流石に回復したのか、やや危うい足取りながらも地に立っているセイバー。
むふふと一人得意気にしていると、そんな質問をセイバーにされた。
﹁何故、とどめを刺さないのですか
?
498
そのまま言う訳にはいかないからな。
﹂
﹁うーん、何というか⋮﹂
﹁ホントに何のつもり
﹂
﹁えと、違うんだけどなぁ。⋮⋮もういいやそれで。お情けお情け﹂
どう説明するか考えていると、俺の言葉に凛が突っかかってきた。
﹁ふん、お情けのつもり
?
俺は仰々しく指を一本立てる。
倒したいのならあと一度俺を倒すといい﹂
﹁いいじゃんいいじゃん。あ、そうだ。お情けついでに良いことを教えたげるよ。俺を
?
﹂
!?
凛と士郎が何か思い出したように驚愕する。
﹁カード⋮⋮、カード
﹁そんなこと信じられるわけ⋮ってまさか、あの時の衛宮くんのカードって⋮﹂
書かれているのは白い人形のカード。
今度はカードを出し、ヒラヒラとしながら凜たちに見せる。
俺を一回殺したから後一回﹂
命で1回死んだら終わりだったんだよ。そんで、昨日アーチャーが文字通り命を掛けて
﹁1回。たった1回俺を殺したらそっちの勝ち。俺は元々、蘇生アイテムで1回、自身の
『stage26:折り返し地点』
499
﹁そうそう大正解。というかむしろなんで今まで気づかなかったのかね 士郎に直接
あのカードをあげたのは俺なのにさ﹂
成果をひけらかす痛い子じゃないか
これじゃ﹃お前を生かしてやったのは私なのだ ︵ババーン﹄みたいな感じに自らの
で想像が付いてると思ってこんな説明してるのに。
士郎の復活時に見られてるしグングニルした時にも見られてるから、命のストックま
⋮。
あの、なんだか受けなかったネタの説明をさせられてるような微妙な気分なんですが
何でその辺りの言及がないのか不思議だったんだけど、素で覚えてなかったのかよ。
?
まぁ言った後だし今更考えても仕方ないか。
ケセラセラだよねケセラセラ。
﹂
いや考え方によれば勇者に真実を告げる魔王っぽい演出だし有りは有りか
!
﹁そんなことをして⋮あなたに得があるとは思えないのですが
?
!
その程度は俺でも予想できる。
言ってみればこの会話は向こうの時間稼ぎ。
だけど向こうもそう簡単に俺が答えるとは思ってないだろう。
ようやく動けるようになったのか、見えない剣を構えながらそういうセイバー。
?
500
でもあえて乗るよ。
俺の勝手な期待に応えてもらうためにも。
自分で言ってて思うけど今の俺って嫌な奴だね。
﹁そうさねぇ、勝ったら教えてあげるよ﹂
まぁそう演じてるわけだけどもさ。
答え合わせは一番最後って相場が決まってるし。
﹁さぁ、仕切り直そうか。俺のオート防御を抜けてさらに俺を殺せるだけの攻撃をして
みな﹂
俺はギターを直し、新たに武器を出す。
﹁覚悟しなさい﹂
﹁後悔しても⋮知りませんよ
﹂
と言っても、この武器自体の攻撃力が半端無いんだけどね。
は概念付加としては使わずにおこうと思ってる。
ことなく泉のように溢れ、輝き続ける﹄といった説明がゲーム内で書いてはいるが今回
この武器も﹃真に強き者が手にした時黄金色に輝く﹄とか、
﹃手にした者の力は枯れる
呼びだしたのは光り輝く幅広の片刃の大剣。
﹁来いライトニングエスパーダ⋮﹂
『stage26:折り返し地点』
501
?
502
セイバーと凜の言葉に俺はニヤリと返した。
﹃stage27:歓迎しよう
盛大にな
あの時助けてくれたのはコウジュだったのか⋮。
確かにカードもあの時から無い。あれ、ならあの宝石は
いや、それは今は置いておこう。
﹄
!
壊力が生まれるのか⋮。
コウジュ自身を覆い隠しそうな幅の、輝くオーラを纏ったあの刃からはどれだけの破
剣がこの場の圧力を増している。
しかしそれ以上に、あの子がさっき出したライトニングエスパーダと呼ばれていた大
かる。
先程まで持っていたギターも、セイバーの様子から理不尽な効果を持っていたのは分
けど、今は戦闘に集中しないといけない。
なんでわざわざ生かした相手を今殺すのかとかいろいろ疑問はある。
?
!
﹂
掠るだけで、致命傷となるのは想像に難くない。
﹁行くぜ
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
503
?
コウジュは大剣を持ったまま飛び上がり、回転しながらセイバーに斬りかかる。
﹂
﹂
受けようものなら諸共に潰されそうだ。
力比べでは不利だろう。
それはコウジュの剣によって産みだされた地面の亀裂ともに辺りへと降り注いだ。
直後響く轟音。
だがセイバーは、迎撃を選ばず先程までよりも余分に大きく後方へと回避した。
先程までギターを持っていた時よりも隙が多い様に見える。
コウジュをしてもそれなりに重たいのだろう。
﹁っ
!!
﹁せやぁ
﹂
コウジュの身体が小さいために、セイバーも手をこまねているようだ。
広い刃の陰に隠れながら攻撃してくる。
セイバーもなんとかコウジュ本人へと攻撃しようとするが、コウジュは巧みにその幅
思うと、そのまま再び剣を引き抜き遠心力を利用してセイバーへと連撃を加えていく。
コウジュは、今度はその大剣でもって棒高跳びの様に身体を空中へと持ってきたかと
当然それだけで終わらない。
﹁っらぁ
!!
!!
504
セイバーが斬りかかる。
だがやはりコウジュは大剣を盾にそれを防いだ。
少しでも気をそらさないと⋮。
俺に出来ることは⋮。
俺に出来ることなど⋮所詮⋮。
だ﹄
﹃お前に出来ることは1つ。その1つを極めてみろ。イメージするのは常に最強の自分
!
│││トレース・オン。
自身の胸の内で詠唱し、持っている木の枝を矢に作り替え、放つ
﹂
くそ、俺には何もできないのか
しかし、障壁ではじかれる。
?
セイバーを助けることも、共に戦うことも⋮。
?
﹁おろ
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
505
何故か、アーチャーのあの言葉が心の中で強く想起された。
﹂
﹂
イメージする
﹁ぐぁ
﹁セイバー
?
剣だ
いや、勝利を創るんだ。
・・
それに今は、何故か出来ると思えるこれを優先させる方が勝率は上がるはず。
無手で飛び込んでも意味は無い。
眼を開いてすぐに飛び出そう取るも、すぐに思い直す。
セイバーの苦しげな声と共に何かが砕ける音がする。
﹁くっ⋮﹂
目を瞑りイメージする。
コウジュを倒せる無敵の剣。
!
武器が欲しい。弓じゃだめだ。
早く何とかしないと⋮。
でも、ただ飛ばされただけなようですぐに立て直した。
いつの間にかセイバーが吹き飛ばされている。
!?
!!
506
集中しろ
﹂
セイバーを信じて今は集中するんだ
セイバー
!!
!
!
それを、コウジュは全て剣で斬りはらう。
宝石をぶつける。
とっておきと言った宝石を出し惜しみせず使ったのか、コウジュにいくつも色取りの
遠坂が詠唱らした後、何かを投げる。
再び集中しようとする前に、遠坂も仕掛けてくれた。
﹁引いて
!
﹂
!!
﹂
?
完全にコウジュの全身が凍った。
﹁ふう﹂
﹁勝ったのか
今度はコウジュが凍っていく。
その隙に遠坂が近づき、ほぼゼロ距離で最後であろう宝石をコウジュに放った。
と押しつぶしていく。
遠坂の魔術はどうやったのかコウジュを中心に重力が何倍にも増したように地面ご
﹁とった
﹁やっべ﹂
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
507
遠坂が息を抜く。
最後はあっけなかったな⋮。
ふと、イリヤに視線を向けた。
﹂
ニヤリと笑っているのに気づく。
離れろ
まさか⋮。
﹁遠坂
!
﹂
!!
﹁そいじゃ、一人めっと⋮﹂
ただ、俺なんかとは込められた魔力の量が違う。 俺がイリヤの暗示を抜けるために使ったあれをコウジュはやったんだ。
魔力だ。
どうやってコウジュがあの魔術を打ち破ったのか、それは素人の俺でも分かった。
﹁残念だな⋮。途中までは良かったんだけどな﹂
﹁う⋮そ⋮﹂
コウジュは身体の氷をすべて弾き飛ばし、中から出てきた。
﹁っらあぁ
だがその瞬間││、
慌てて未だ近くに居た遠坂に声を掛ける。
!!
508
コウジュは今されたことなど無かったかのように、軽く剣を持ち上げすぐ近くに居た
遠坂へと振り下ろそうとする。
放心してしまっている遠坂は動けない。
そこへと無慈悲にも振り下ろされていく大剣。
!?
すぐに駆け出すが、距離が離れている。
間に合わない
﹂
!!
﹁くぅっ﹂
!
﹂
!?
だが、俺の力では勢いを殺しきれず、諸共に後ろに在った気へと叩き付けられた。
飛ばされてきたセイバーへと手を伸ばし、なんとか抱きかかえる。
﹁セイバー
その結果セイバーは再び弾き飛ばされる。
鍔迫り合っていた剣を、コウジュが力任せに振った。
﹁来ることが分かってれば、俺でも容易に防げるさ
﹂
だがそれも予想されていたのか、コウジュはすぐさま大剣を盾にして防いだ。
る。
飛び出す俺を抜いて、すかさずセイバーが遠坂を助けるためにコウジュへと斬りかか
﹁させません
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
509
コフっと、肺から息が漏れる。頭もジンジンと痛む。
何を無茶な⋮﹂
﹁無事⋮か⋮⋮
﹂
気づいたセイバーはすぐに飛び起き、今度は俺を抱き起す。
﹁士郎
!?
﹂
!
﹁拒否⋮する⋮⋮﹂
ちゃんだけは助けてやるって言ったらどうする
﹂
﹁な ぁ 士 郎、も し も 俺 が セ イ バ ー を 差 し 出 し て マ ス タ ー 権 限 を 破 棄 す る な ら 士 郎 と 凜
決めたようでまっすぐ俺を見ながら口を開いた。
そのままコウジュは何かを言い淀むように何度か口を開いては閉じ、最後には覚悟を
いつの間にか近づいていたコウジュがそんなことを言いながらこちらを見ていた。
﹁このあんぽんたんめ⋮﹂
そのことに気付いたのか、俺の内心を察したのか、更に難しい表情となるセイバー。
そう口にしようとするも、声にはならなかった。
そんなことを言われても仕方ない。勝手に身体が動いてしまったのだから。
﹁私はサーヴァントです。この程度何ともありません
しかしそれを聴いたセイバーは、苦虫を噛み潰したような表情になってしまった。
なんとかそうとだけ声にすることができた。
?
510
?
何とか整い始めた息で、考えるまでもなく俺はそう答えた。
当然だろう。
無茶だ
﹂
誰かを犠牲にして助かるなんてのは間違ってる。
﹁士郎もうやめてください
!!
!
そして、目を反らさずにもう一度コウジュに答える。
俺が言うと同時にコウジュが俺へと大剣を向ける。
俺の命を容易く奪うであろう剣だ。
近づいた分、圧倒されるほどの存在感が更にわかる。
それを突きつけられている現状。 ﹂
でも、俺の心は変わらない。
﹁でも士郎は負けそうだよ
﹂
﹁それでもどうにかする﹂
﹁どうやって
?
勝つ算段なんて正直言って無い。
﹁さぁどうしようかな。でも、負けられないなら勝つしかない﹂
?
﹂
セイバーの制止を振り切り、俺はフラフラになりながらも立ち上がる。
!
﹁誰かを犠牲にして生き残るなんて選択肢は、俺には無い
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
511
無いけど、ここで諦めたらその先は無いんだ。
だったら自分にだけは負けちゃいけない。
勝つと信じなければ、何も始まらない
﹁そっか。それが士郎の答えか﹂
実際に俺たちは追い込まれている。
突如コウジュが笑い声をあげた。
﹁ふふ、あはは、アハハハハッハハハハハハハハハ
﹂
しかしその裏側には、狂戦士となりうる何かを秘めているのだろう。
こうして見れば、やはりただの少女だ。
少し俯いてその表情は見えないが、先程まで見せていた苛烈さはそこには無い。
俺の言葉に、何かを噛み締めるようにつぶやくコウジュ。
!!
しばらく笑い続けたコウジュが、未だ肩で息をしながらもなんとか持ち直し始めた。
バカみたいじゃないか﹂
﹁なんだよ何とかって、この状況で、敵を前にして何とかって、くく、色々考えてる俺が
剣から手を離してまでお腹を押さえ、息も絶え絶えに笑い続ける。
!!!
512
・・・
﹁あー、笑った笑った。うん、参った。まさかそんな選択肢が出てくるとはね﹂
﹂
涙目になるほど笑ったコウジュだったが、漸くその息を整えた。
﹁そこまで笑うことか
先程までの緊迫した緊迫した空気は何処へ行ったのやら。
いのもんさ﹂
﹁勿論さ。この状況でそこまでのことを言えるなんて、よっぽどのバカかヒーローくら
?
思わず拗ねるように言ってしまった俺に笑顔でコウジュがそう答えた。
﹂
?
それが終わると再びこちらを向き、無手のまま構えた。
き上げ近くの木へともたれ掛からせる。
そしてその場から下がり、先程の応酬の間に気絶してしまっていたのだろう遠坂を抱
言いながらコウジュは何故か、大剣を消して無手になる。
ら、やっぱりやろうか﹂
﹁駄目だ。士郎がそれを選んだのなら尚更駄目だよ。途中で止まっちゃいけない。だか
だけどすぐに笑みを消し、真剣な表情になった。
その俺の言葉に、コウジュは朗らかに笑う。
つい、そう聞いてしまった。
﹁もうやめないか
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
513
あえて違う場所を言うならば、本来の狐のような愛らしい姿ではなく触れるだけで切
だが、それ以外は全て狐の様相を呈している。
人の形はしている。
そう言い表すのが一番早いだろう。
黄金の狐。
なるほど、これは確かにセイバーが言うように狂戦士の名が相応しい姿だろう。
そうしてやっと見ることができた姿に驚く。
収まった。
荒れ狂う嵐の様に起こっていた風が止まる。同時にコウジュから生まれていた光も
﹁⋮⋮なるほど、それがバーサーカーたる所以ですか﹂
セイバーが俺の前に出て壁になってくれたのも大きいだろう。
それは物理的な力を持って俺を吹き飛ばそうとするが何とか踏みとどまる。
瞬間、コウジュから魔力と光があふれた。
﹁さぁ、最終ラウンドと行こうか。俺を倒せば士郎達の勝ち。単純な話だ﹂
514
断してしまいそうな爪や両前腕に刃のようなものが生えている所が、狩りをするための
物ではなく全てを切り裂くために存在しているのではないかと思わせる所だろうか。
そして何よりも、2メートルを超えるであろうその巨体。
少女の姿であった時ですら恐ろしい力を発揮していたのだ。今のその太い腕からは
どれだけの破壊力が生まれるかは考えたくもない。 ﹄
?
﹁士郎
下がって
﹂
!!
﹃っるぁ
﹁せやぁ
﹂
そして、前に出ていたセイバーの目の前には既にコウジュの姿があった。
それだけで彼女の姿が消える。
違う、踏み込んだんだ。
ドンッとコウジュが居た場所の土が爆ぜた。
!
同時に、彼女が姿勢を低くした。
先程までよりも重く響いてくる彼女の声。
﹃当たるなよ⋮
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
515
﹄
!! !!
セイバーの剣と横薙ぎに振るわれるコウジュの爪がぶつかる。
﹂
!?
い。
隙を見てコウジュへと斬り掛かるも、それほどのダメージを与えることはできていな
それらの攻撃を巧みに剣一つで防ぎ、弾き、受け流すセイバー。
それでもその怪力だけでこちらにとっては恐るべきものだ。
力は無いようだ。
ただ、幸いなことにと言って良いのかはわからないが、あのギターの時の様な特殊な
先程までよりも速度は上がり、一撃一撃の重さも上がっているようだ。
爪、腕の刃、足、牙、尾││。
先程までと同じように、いやそれ以上に全身を武器に攻撃するコウジュ。
そのまま樹を踏み台に、今度はセイバーが飛び出す。
し、背後の樹に着地した。
尾を剣を盾に防ぎ自ら後ろに飛んだセイバーは、空中を飛ばされる中で身体を一度翻
ぐ。
しかしそれを、コウジュは体を捻ることで尾を振りセイバーに叩き付けることで防
何とか爪を受け流したセイバーはコウジュの懐へと入る。
﹁くぅっ
516
徐々に、徐々にだがセイバーは押され始めている。
何かしないと⋮。
理由は分からない。
でも、それが、ひどく自分に浸み込んだ気がする。
何故こんなにもあいつの言葉は心に引っかかるのだろう
その際にセイバーからどこまで聞いたことだが、現状のセイバーは通常戦闘はできて
コウジュと戦う前の作戦会議。
負けられないのなら勝つしかないと。
ああそうだ、さっき自分で言ったじゃないか。
そして同時に、いつしか夢で見た一本の剣が頭に浮かんだ。
?
ふと何故か、本当に何故か、再びあのキザな紅い弓兵の言葉が脳裏をよぎった。
﹃現実で叶わぬ相手なら、想像の中で勝てるものを幻想しろ﹄
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
517
も宝具の使用はまだ出来ない。
正確に言うならば出来ないわけではないが、宝具を使用した後の余裕が未だない。
俺とのパスが強くなったとはいえ、パスが強くなっただけで貯蔵された魔力がそこま
で増えた訳ではないのだ。
それに、使用には若干の溜が要ると言っていた。
だから当初の予定では何とか俺と遠坂で隙を作り、セイバーに止めを刺してもらう予
定だった。
だが、遠坂は気絶している。そして俺の弓は通用しなかった。
つまり、セイバーが今のコウジュに当てられる状況を作るか、コウジュの障壁を突き
破る武器が必要だ。
だったら、俺が創る。
﹂
今勝つために必要な剣を、勝利をもたらしてくれるであろうあの剣を、俺が創る
﹁っ
!!
手には剣が現れる。
思い浮かべるのは、エクスカリバーと似て非なる黄金の剣。
理矢理顕現させる。
魔力が身体をうねる。魔術回路を荒れ狂い、自身の限界を、いや、さらにその先を無
!!!
518
﹁それは
﹂
﹄
﹂
!!
した。
﹁士郎
﹃させねぇよ
私が隙を作ります
俺の手から漏れ出した黄金に、セイバーとコウジュが剣と爪を交わらせながらも反応
﹃⋮⋮さっすが﹄
!?
すかさず飛び出す。
しばらくして、セイバーが刹那の間こちらを見た気がした。
手の中の黄金を握る手に力を入れたまま、その時を待つ。
セイバーは隙を作ると言ってくれた。なら信じよう。信じて待つ。
だがその気持ちを無理やり押さえる。
つい飛び出しそうになる。
時折セイバーの身体をコウジュの攻撃が掠り、血が舞っている。
しかし先ほどまでとは違うのはセイバーの被弾が多いような気がすることだ。
再び二人が苛烈な応酬を始める。
!!
!
コウジュが舌打ちをした。
﹃ちぃっ﹄
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
519
セイバーが自身の防御をある程度捨てて懐に飛び込んだのだ。
そしてその時、セイバーの合図の御陰で既に俺はコウジュの後方に居た。
俺たちは挟む形で、コウジュへと同時に斬り掛かる。
だがコウジュもやられっぱなしではない。
セイバーへと腕を振り下ろしつつ、反対側の腕を後ろ手に俺へと振ってきていた。
それを俺は避けずに、正面から今俺が創りだした剣で斬りかかる。
コウジュが一番に警戒しているのはやはりセイバーだからか、目線は前を向いたまま
だ。
視野が広くなっているだろうから、ある程度は見えているのだろうが、やはり散漫に
なっているのだろう。
﹄
なんとか俺が先に斬ることができた。
けど、ダメだ。
そう、俺が出した黄金の剣は障壁ごとコウジュの肩口を切り裂いていた。
﹃まさか、防御抜いてくるとはねぇ⋮﹄
それは何故か
コウジュが慌てて尻尾を地面に叩き付けて、逃げた。
﹃こんにゃろうっ
!
?
520
コウジュを斬ったと同時に剣が砕けてしまった。
足りない。
始⋮﹂
﹄
﹁もう一度だ。砕けないはずの剣が砕けたのは、想定に綻びがあったからだ。投影⋮開
再び、先ほどの剣を思い浮かべる。
それをセイバーが押しとどめてくれる。
なら俺がすべきは再度の構成。
俺が挑むべきなのは自分自身。
﹄
ただ一つの狂いも妥協も許されない。
﹃りゃぁ
﹂
!?
それが分かった俺は、まだ作っている途中の剣で、何とか受け流す。
﹁っつ
コウジュがセイバーの隙をついて斬りかかってくる。
!
!?
今度はさらに完全を目指して。
﹂
!
コウジュが今度はこちらへと迫る。
﹁させません
﹃戦ってる最中に目を瞑るなんて、余裕だな
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
521
522
だが、創っている途中の剣は再び砕ける。
もう一度最初からだ。
大体の感覚はつかめた。
今度は、コウジュから離れながら。完成を目指す。
│││基本となる骨子を想定し│││
│││構成された材質を複製し│││
│││蓄積された年月を再現し│││
│││あらゆる工程を凌駕し尽くし│││
剣と成す
!!
│││ここに幻想を結び
再び俺の手に、黄金の剣が現れる。
!
﹁士郎
﹁ああ
﹃っ
﹂
﹂
﹄
﹄
一瞬たりとも見逃さないように、いつでも振るえる様に剣に力を入れて待つ。
だから基本はセイバーに任せる。
しかしやはり、俺の剣技ではサーヴァントの戦いに混ざることはできない。
それに対し、再び挟むような位置を取る。
構えるコウジュ。
俺とセイバーは同時に駆けだす。
﹃諸共にぶっ潰す
!!
!! !
今だ
﹂
その時にはコウジュの尻尾が視界の端まで迫っていた。
既に斬り掛かろうとしていた俺にセイバーが叫ぶ。
﹂
﹁駄目だ
!
セイバーが足の爪と爪の隙間を斬り、コウジュが姿勢を崩す。
!?
!
﹁ぐぅぅぅっ
!
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
523
しかも今度は砕けてもいない
咄嗟に剣を振りかぶり、何とか当てる。
弾けた
﹄
逆にコウジュの尻尾には血が流れている
﹃なめんなぁぁぁぁ
!
!
!
そこへ、俺とセイバーは同時に駆けだした。
元には結構な血が流れ落ちている。
セイバーが自身が傷つくのも厭わず少しずつ攻撃してくれたおかげか、コウジュの足
いや、動けないのだろう。
コウジュはその場から動かずに魔力を込めた拳を構えたまま迎え入れる姿勢だ。
その光は辺りを黄金に染め上げる。
輝き始める剣。
そして二人同時にうなずき、持っている剣にそれぞれ魔力を流す。
俺はセイバーと目を合わせた。
これで決めるつもりなのだろう。
それは次第に帯電したように火花を散らし、莫大な力を感じさせ始める。
そしてその拳に魔力が集中させた。
コウジュは足を始め、所々から血を流しつつも、気丈に吼える。
!!!!
524
﹄
﹁﹁はぁぁぁぁぁぁぁ
﹃らぁぁぁぁ
﹂﹂
今度は俺が先に斬り掛かる。
コウジュの初動がさっきより遅い
!!!!
ストライク・エア
﹄
当然俺に振り下ろそうとする拳。
﹂
!
!!!!
﹃本命はこっちか
!!!!
そこへ、俺もコウジュへと剣を振り抜いた。
拮抗し、込められた力同士が反発しあい、辺りを閃光と音で埋め尽くす。
コウジュが慌ててセイバーの方へと拳の向かう先を変えた。
だがそれでも、その力は宝具ゆえの高い威力を持っている。
恐らくあれが聞いていた比較的使いやすい方の宝具だろう。
俺に気を取られたコウジュに、セイバーが宝具の一つを解放した。
!!
﹁風王鉄槌
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
525
││やるじゃん││
そうどこかから聞こえたと思った瞬間、拮抗は崩れ、セイバーが持っている剣がコウ
ジュを貫いた。
終わった⋮のか⋮
﹁コウジュ⋮﹂
イリヤはコウジュの血に濡れることもかまわず、横に座る。
﹁負けちゃったね⋮﹂
イリヤがコウジュの元に歩いて行く。
?
そして、その姿が少女の姿へと戻った。
そのままコウジュは倒れて、大量の血と共に地面に倒れた。
﹁これで⋮あんたらの⋮勝ちだ⋮﹂
526
﹁イリヤスフィール⋮﹂
セイバーが横でイリヤに剣を向けていた。
そして、いつまでも地面がこないなんて考えながら、俺の意識は途絶えた。
頭でそんな風に妙な冷静な事を考えながら、身体が倒れていくのが分かる。
そっか限界まで力を使ったからか⋮。
突然目が霞む。
﹁セイバー、もうイリヤを殺す必要はない。コウジュは倒したんだ。俺達の勝ち⋮だ⋮﹂
『stage27:歓迎しよう! 盛大にな!』
527
そして、去る者をどこか悲しげな色を宿した瞳で見る│││
〝王は人の心が分からない〟
王の元から、配下の者が立ち去る夢│││
夢の主はセイバー、アーサー王だ│││
その続き│││
最近よく見る夢││
夢を見ている│││
俺は│││
﹃stage28:衛宮家の憂鬱﹄
528
目が覚める。
﹁ん⋮⋮﹂
ここ⋮は⋮⋮、家か
﹁目覚めましたか士郎﹂
朝からそんな辛気臭い顔をして﹂
?
﹂
?
﹁うぅ⋮ん﹂
あれ、でもサーヴァントは夢を││、
﹁夢⋮
﹁いえ、夢を見たものですから⋮﹂
﹁どうした
その姿はどこか、今の今まで見ていた夢でのようにどこか悲しげだ。
考え事をしていると、セイバーがそう聞いてきた。
?
何だろう、違和感が⋮。
﹂
正座したままこちらを気づかわしげに見る彼女に首をかしげる。
声がした方に目を向けると、部屋の入り口近くにセイバーが居た。
?
﹁身体の具合はどうですか
『stage28:衛宮家の憂鬱』
529
はい⋮
﹂
!?
どうしたんだろう。やけに不機嫌だ。
そしてピシャリと襖を閉めて、セイバーは行ってしまった。
﹁士郎、居間でお待ちしています﹂
俺が驚いている間にセイバーは無言で立ちあがり、部屋を出る所だった。
﹁⋮⋮﹂
﹁いやなんでさ
通りで暖かい筈だ。
というかイリヤだった。
そこには白い少女が寝ていた。
﹁もぅ⋮うるさいなぁ⋮﹂
とりあえずめくる
いやいや、俺に掛ってる布団下から⋮なような⋮。
どこか
た。
少し疑問に思った事を整理しようとしたら、どこからか少女の可愛らしい声が聞こえ
?
?
そんなに夢見が悪かったんだろうか
?
530
って、そんな場合じゃなかった
﹁士郎、ご飯の支度をしましょう﹂
居間の方へ行くと、台所にセイバーは立っていた。
セイバーならこの状況の理由を知っているかもしれない。
出して居間へ向かう。
何故ここに居るのか分からないイリヤを起こさないように、とりあえず布団から抜け
!!
なんだろう⋮。ただ料理を作っているだけなのにすごく嬉しい。
焼いて煮てと、作っていく。
メインに和風ハンバーグで、後はサラダに汁物はコンソメスープにでもしようか。
昨日は大変だったし⋮よし、朝からだけど豪勢に行こう。
何にしようか⋮。
話は一段落した後にゆっくりしても良いだろう。
る。
まぁ、なんにせよ朝食を作らなければならないことは事実なので、朝食の準備を始め
なんだか怖い⋮。
いつにも増して感情を見せないセイバー。
﹁あ、ああ⋮﹂
『stage28:衛宮家の憂鬱』
531
平穏は素晴らしいな。
じーさんが縁側でよくお茶を啜っていた気持ちがよくわかる。
﹂
しみじみとそんなことを考えながらも身体は勝手に動いていく。
﹁器はこれで
どうしたのだろうか
思考を中断し、丁度出来上がった料理を皿に盛り付け始める。
まあ良いか。考えても分からないものは分からないしな。
がイリヤに好意を持っていないとしてもあこまで露骨に機嫌を悪くはしないだろう。
考えて思いつくのはイリヤの事だが、イリヤとの接点なんて無いだろうし、セイバー
?
それもあって器に気が回らず雑になってしまっているようだった。
しかしその眼は器を見るのではなく、何か考え事をしているように見える。
チラッと見ると、目つきを鋭くしながら皿の準備をセイバーはしている。
あのセイバーには珍しく、器を置く際に少し雑に置いたようだ。
そんなセイバーの方から、時折ガシャンッと器が高い音を上げる。
もちろん料理そのものではなく、準備とかの方だ。
俺がコンロに向かう後ろでは、セイバーが手伝ってくれている。
﹁あぁ、悪いな﹂
?
532
よし、我ながら中々な出来だ。
﹂
といった感じのその様子に苦笑しながらコップに一杯牛
丁度一通りの料理が出来て並べている所に遠坂が入ってきた。
﹁ふわぁ、おはよー⋮。あれ、朝からずいぶん豪華ね﹂
いつものごとくザ・低血圧
乳を入れて渡す。
﹁おはようございます。凛﹂
﹁おはよう。昨日のご褒美というかお祝いみたいな感じだな。朝からは嫌だったか
﹁全然♪﹂
渡した牛乳をごくごくと一気飲みした後に、満面の笑みでそう答えてくれた。
作った甲斐があるってもんだ。
いつもは後2人、桜と藤姉も一緒にご飯にするんだが、今は居ない。
昨日の内に今日の朝は来ないようにうまく言い包めてある。
?
!
準備を終え、3人で卓につく。
﹁﹁﹁いただきます﹂﹂﹂
『stage28:衛宮家の憂鬱』
533
桜には悪いことをしたが、その分夜には来てくれるはずなのでその時に何か美味しい
ものでもご馳走しよう。
﹂
?
⋮⋮ふーん﹂
?
この誤解を放っておけば俺は社会的に死んでしまう気がする。
よく解らんが、お前は勘違いしていると思う。
待て、待つんだ遠坂。
何故か犯罪者を見るような眼でこちらを見てくる遠坂。
﹁へ
なんだろう、心なしかセイバーが冷たい。
食事の手をほとんど休めることなく⋮、というかいつもより早い気がする。
遠坂の言葉に返そうとする前に、セイバーが棘のある言い方でそう付け加えてきた。
﹁正確には和室ではなく、士郎の部屋ですが﹂
かった。
自 分 も そ の こ と に つ い て 詳 し い 話 を し よ う と 思 っ て い た と こ ろ だ っ た の で 丁 度 良
食事中、当然遠坂がそんなことを聞いてきた。
﹁和室に寝てる物騒なお子ちゃまの事よ﹂
﹁どうするって
﹁それで士郎、これからどうする気よ﹂
534
だが何を否定すればいいのか分からない。
とりあえず違うんだ遠坂。
よくわからない焦燥に冷や汗を流していると、遠坂はジトっとした目でこちらを見
る。
る
﹂
﹁士郎、イリヤスフィールを保護するってことがデメリットばかりだってこと分かって
﹂
てしまったから遠坂はやっぱり納得してくれていなかったようだ。
バーサーカー戦の前ではしっかり話す事が出来なくて、しかも戦った後は俺が気絶し
それが、イリヤを保護すること。
実はバーサーカー戦の前に俺は二人にある事を言っていた。
﹁けど、放ってはおけないじゃないか﹂
?
?
天真爛漫な行動とは裏腹にその瞳には確かな理性が垣間見えた。
どうしてそう思えたかっていう根拠を上げることはできないんだが、あえて言うなら
ないって。
彼女は確かに俺たちを襲ってきたが、話をしていて思ったんだ。この子は約束は破ら
﹁ちゃんと言いつけてやる奴がいれば、イリヤはもうあんなことはしない﹂
﹁あんな目にあっておいてまだそんな事を言うわけ
『stage28:衛宮家の憂鬱』
535
その瞳を、俺は信じたいと思った。
あれ、そういえば⋮⋮。
今、セイバーが何か続きを言おうとしなかったか
そう思って目を向けるが食事に戻っていた。
⋮気のせいか
できるわけないだろ
﹂
﹁けど、イリヤはバーサーカーさえ居なければただの子どもなんだ。なのに殺すなんて
でも、だからイリヤを殺すっていうのは何か違う気がする。
確かに死ぬ思いはした。
﹁だから、あなたは許すのかってきいてるの。イリヤスフィールがした事を全部﹂
はぁ、とため息を1つついて遠坂が話を続けた。
﹂
﹁士郎、聞いてる
?
﹁あ、ごめん﹂
?
?
﹁私はここに帰ってくるまでは気絶してたから違うわよ﹂
﹁マスターの意に反する事はできません。それに││﹂
りがとうな﹂
﹁そういえば、反対してたのにちゃんとイリヤを連れてきてくれたんだな。二人ともあ
536
?
上手く説明できない自分が嫌になる。
結局は俺の勘だし、デメリットもあるだろう。
だが、あんな小さな子を戦争だからと捨て置くこと自体俺には出来ない。
そんなことを一人思っていると、遠坂が何かを思い出すように口を開いた。
﹁私はアーチャーが殺されたことを許す気はないわ﹂
﹁⋮⋮﹂
そう⋮だよな⋮。
遠坂はアーチャーをやられてる。
イリヤを憎むなってのは難しい話かもしれないな。
そこへ││、
﹂
!?
す﹂
﹁礼を言います、セイバーのマスター。敵であったわが身への気遣い、心より感謝しま
お願いだから遠坂を刺激するようなことを言わないでくれ⋮。
入ってきたのは、先ほどから話題に上っているイリヤ。
﹁なんですって
るなんて当たり前じゃない﹂
﹁なによ、聖杯戦争なんてものに参加してるんだからサーヴァントがいつかは居なくな
『stage28:衛宮家の憂鬱』
537
今にも噛みつかんとする遠坂を華麗に無視し、俺の前に来たイリヤはスカートの端を
両手でつまみ、お嬢様然とした礼を述べた。
﹁あ、えーと⋮﹂
はは、どうかえしたものか⋮。
次の瞬間には天真爛漫といった笑みを浮かべながら、俺の横に置いてあった和風ハン
﹁なーんてね﹂
バーグの置いてある席につく。
﹂
もちろんイリヤが起きて来た時用に用意してあったものだ。
﹂
﹁ああ良いにおい、これ、私の分
﹁ああ﹂
﹁うれしい
さっきから話にあまり入ってこなかったセイバーがいきなりだったから余計に驚い
箸をおき、セイバーが突然イリヤにそう鋭く言った。
﹁離れなさいイリヤスフィール﹂
やっぱりこうしてみるとただの女の子だな。
えらく喜んでくれるもんだ。
そう言ってイリヤが抱きついてきた。
!!
?
538
た。
﹁はいはい仕方ないなぁ﹂
僅かに緊迫した空気が流れる。
セイバーには突っかからないんだ⋮。
しかしそれも一瞬で、イリヤも俺から離れて自分の皿の前に座った。
あれ
まぁ、セイバーは突っかかってるけど。
それにしても、またしても珍しいセイバーが見れた気がする。
なんて言うか⋮、少し柔軟性が出たというか感情が前に出てる
留にしよう。
今はともかく遠坂を納得させるのが先決かな。
﹂
戦闘後に否定的な意見は出してないし、俺に合わせるって言ってくれたからひとまず保
結局のところはよく分からないが、セイバーは一応イリヤがこの家に居ること自体は
何言ってんだろ⋮。
いうか⋮合理的じゃないというか⋮。
けど、今はマシ⋮いや、朝も今も怒ってるんだけど拒否ではなく、ただ怒っていると
戦闘前はかなりイリヤに対して状況や色々な事を交えながら否定的だった。
?
?
﹁士郎、イリヤスフィールを匿っても百害あって一利無しよ
?
『stage28:衛宮家の憂鬱』
539
﹁害なんて⋮﹂
マスターの資格はまだ消えてないの。そ
?
﹁し な い わ。コ ウ ジ ュ が 言 っ た で し ょ
?
空気が、空気が重い⋮⋮。
を続けている。
コ ウ ジ ュ が 負 け た 時 点 で 私 た ち の 負 け だ っ
遠坂はイリヤを睨みつけ、イリヤは飄々としている。セイバーは再びもくもくと食事
だがその答えでは遠坂は納得できないようだ。
﹁アインツベルン家の言葉とは思えないわね﹂
それだけコウジュのことを大事に思っていたわけだ。
イリヤが言うことは本当の事なのだろう。
その瞳にはやはり確固とした意志が見える。
遠坂が全てを言いきる前にイリヤが強く否定した。
んかもう無いわ﹂
て。それに、コウジュ以外をサーヴァントなんかにする気は無いし、聖杯戦争に興味な
?
││﹂
て言ったでしょ もしイリヤスフィールがそんな野良サーヴァントと再契約したら
れはサーヴァントも一緒で、マスターが死んでも自身の魔力でいくらかは現界できるっ
﹁あるわよ。その子はまだマスターなのよ
540
誰か助けてくれ。
││ガタガタっ││
そんなことを思ったからか、何故か突然押入れの襖から音がした。
な、なんなんだ
しかしその答えはすぐにわかった。
スパンと勢いよく開けられた襖からその元凶が出てきたからだ。
﹂﹂
その襖から出てきたのは何故か昨日倒したはずのコウジュだった。
◆◆◆
﹁﹁な、なんで生きてるんだ︵のよ︶
凛と士郎がかなりびっくりしながら言ってくる。
!?
﹂
?
?
﹁おじゃましまーす。イリヤには悪いんだけど宝物庫のやつ結構もってきたぜ
『stage28:衛宮家の憂鬱』
541
﹁﹁なんで
倒したはずじゃ
!?
﹂﹂
!?
ほんでもって俺は召喚された時点で受肉っていうか生身だったわけさね。結果、俺
﹁何で俺がまだ居るかっていうと。俺がセイバーと戦う前に不老不死って言ったっしょ
この2人は気絶してたし。
さておき、説明せんとダメなだよな。
でも思わず後ずさりした俺は悪くないはず。
いや解らんでもないけどさ。
幕だ。
台本でもあるんじゃなかろうかという位に声を綺麗に合わせて言う二人は、すごい剣
﹁おおぅ、息ぴったりだな。え∼っと、何でかだったな⋮⋮﹂
542
まぁでももし士郎が勝ち抜けなさそうだったら、俺がやるつもりだったけどね。
これを知ったときは自分のことながらなんだそれはって言ってしまった。
だから聖杯戦争の参加資格は無くなったけど、俺は居続ける。
いる。
ゲーム内設定でスケドを持てるのは一個までだったわけだが、今の俺は無限に持って
訳﹂
が倒されて敗けを認めたからサーヴァントではなくなったが、俺は存在し続けてるって
?
﹁ありえない⋮﹂
凛が頭を押さえる。
⋮⋮
﹂
それに対し、士郎は││、
﹁⋮
しばらくしてやっと自分なりに解釈できたようだ。
﹁そうそう﹂
﹁えっと⋮つまり、俺たちがちゃんと勝てた事には変わりないんだよな
いや、今の分かりにくかったか
??
まだ若干頭ひねってはいるけど、深く考えたら負けなんだZE☆
﹂
?
?
?
﹂
?
﹂
?
いって事を説明した上でね﹂
﹁だから、俺が能力使って運んだんだよ。セイバーに俺はもう聖杯戦争の参加者じゃな
ませんでした﹂
﹁士郎、私はあの時点で意識を失いまではしていませんでしたが満身創痍に変わりあり
﹁セイバーじゃないのか
﹁ってかさ、戦い終わった後、2人を運んだの誰だと思ってんのさ
ことができたわね。セイバーはイリヤスフィール一人でもかなり反対していたのに﹂
﹁まぁいいわ、良くは無いけど今は置いとくとして⋮。それにしてもよくこの家に入る
『stage28:衛宮家の憂鬱』
543
﹁あの時は本当に死を覚悟しました。士郎と凛は気絶。その次の瞬間にはバーサーカー
が無傷で復活していたのですから﹂
?
﹁ま、とりあえず交渉といこうや﹂
セイバーとしたんじゃないの
?
﹁そゆこと。ってなわけで、俺とイリヤをここに置いてくんない
﹂
士郎︵家主︶が許可を出そうとしたのに凛︵居候︶が却下した。
﹁それくらいかまわな﹁できないわ﹂い⋮﹂
ふふふ、ここからが本当の俺の戦いだ︵キリ
それにドアさえあればすぐに向こうには行けるし。
が色々としやすい。
屋敷の方に居ても良いんだけど、士郎達の動向を知るためにはやはりこっちに居た方
?
判断を下すべきかと⋮﹂
ことや、私に対して出して来た条件は一考に値するものでしたが、マスターが最終的に
﹁凛、私はあくまでサーヴァントです。確かにバーサーカーが既にサーヴァントで無い
﹁交渉
﹂
うん、俺がそっちの立場だとして考えたら悪夢だと思うわ。
﹁言いたくないけど気絶して良かったわ⋮﹂
﹁それは⋮⋮﹂
544
士郎弱っ。
というか士郎が︵
セイバーも言ってたみたいに交換条件としてこちら
・ω・`︶な顔になっちまった。
も交渉材料を用意してる﹂
﹁言っとくけどただじゃないぜ
ちなみにセイバーの場合は
?
だからこその交渉だ。
﹁交渉材料
﹂
まぁ、そう容易くお願いが通るとは思ってない。
?
´
﹂﹂
そだっけ
ごめんごめん﹂
それは言わない約束では
!! !?
私には何があるの
﹂
?
くる聞いてくる凛。本当におぜうさまだねぇ、今更取り繕ってもカリスマブレイクは覆
笑ってしまったのを誤魔かす為に咳払いまでしてさっきまでの表情に戻して聞いて
﹁ぷっくく⋮ご、ごほん⋮それで
?
今の顔を真っ赤にした状態で睨まれても可愛いだけですので。
だからそんなに睨まないでくださいセイバーさん。
!?
﹁﹁美味しいモノ
﹁ありゃ
?
﹂
﹁とある情報と、魔力の回復、おまけで美味しいもの﹂
?
うっかり口が滑ったんだから仕方ない。
?
﹁バーサーカー
『stage28:衛宮家の憂鬱』
545
せないっての。
まぁ俺が険悪なムードが嫌だったからブレイクした訳だけどもさ。
セイバーさんもさっきまでの今にも吠えそうな様子が嘘のように真っ赤になって縮
こまっとります。
この人ヒロイン力高いわやっぱり。
ってセイバーに萌えてる場合じゃなかった。
﹂
﹁これ全部本物なのか
!!
﹁遠坂
﹂
声が震えすぎじゃないか
?
﹂
﹁こ、この程度じゃ、み、認めないわよっ﹂
巡した後結局手をひっこめた。
凛はその俺が持ってきた宝石に手を伸ばそうとしては戻しを繰り返して、いくらか逡
﹁それをたった今とってきたわけさね。俺の能力使えば一瞬だしね﹂
﹁ふふん、その宝石たちは我がアインツベルン城にあったものよ﹂
!?
﹁こ、こんなに⋮
ちょっとした山にはなる程度の量だ。
そう言って、俺は宝石を机の上にばらまく。
﹁凛に用意したのはこれ、宝石﹂
546
?
﹂
士郎が冷静に突っ込みをしてしまうほどには凛が面白いことになっている。
﹁じゃぁ、これならどうだ
いのを取り出す。
カードを出し、襖の方に歩いていってマイルームに繋げる。そして手を突っ込んで赤
本当はもう少し後の予定だったんだが、まぁいいか。
?
って、まさか⋮﹂
コウジュ、私は料理の途中なのだが⋮﹂
出てきたのは││、
﹁む
﹁子どもか
﹁馬鹿な⋮﹂
?
?
﹁﹁﹁アーチャー
◆◆◆
﹂﹂﹂
どういうこと⋮⋮
!!?
だから、死んだと思ってたのになんで⋮⋮。
アーチャーが消えた瞬間は見てないけど、確かに私の令呪は消えた。
?
﹁嘘、小さくなってるけどまさか⋮﹂
『stage28:衛宮家の憂鬱』
547
私が戻るのはもう少し後では
?
﹂
?
しかも⋮ショt⋮ゲフンゲフン⋮⋮こんな無残な姿に⋮⋮。
戻るのはもう少し後
﹁コウジュ、これはどういうことかね
どういうこと
?
うだよそうですよ
悪い
そうですよね
!?
ごめんなさいね
!
﹂
﹁いや∼それがさ、交渉材料のため﹁つまりは行き当たりばったりというわけかね
?
!!
﹂
?
﹂﹂﹂
???
﹁え∼っと、つまり何
どういうこと﹂
士郎とセイバーも分からないみたい。
意味が分からないわ。
﹁﹁﹁
無いから﹂
﹂そ
よ。あ、ちなみにアーチャーも俺と同じで現界はしてるけど聖杯戦争の参加資格はもう
構成したんだ。⋮若干失敗したけど。その時に交渉してこちら側に来てもらったんだ
死亡、けど最終的に俺がアーチャーを倒したんだよ。そして俺がすぐにアーチャーを再
?
?
﹁うんにゃ、あのアインツベルンの城での戦闘は本物だぜ
ちゃんと闘って、俺は一回
﹁ねぇ、さっきからどういうこと アーチャーはバーサーカー達とグルだったって事
!
?
548
?
﹁アチャ男ゲットだぜ
﹂
サプライズという目的が無かったって言ったら嘘にな
つい、手元にあった湯のみ︵中身はない︶をコウジュに投げつけた。
﹁・・・﹂
そう言いながら満面の笑みでサムズアップするコウジュ。
!
!!
て事をしたんだ﹂
﹂
るけど、俺はアーチャーという存在を消したくはなかったんだよ。だから、再構成なん
﹁はぐっ じょ、冗談だよ
!?
しまった私は悪くないはずだ。
めっさ熱
!!
それにしても、この子の本当の目的は何なんだろうか
!!
悪くないったら悪くない。
ってか熱っ
!?
まったく⋮。
﹁はぐ
﹂
近くにあった湯のみ︵士郎が飲んでたやつで中身がまだ残ってる︶をついつい投げて
﹁⋮⋮﹂
﹁禁則事項です﹂
そう聞くとバーサーカーは、片目を瞑り、立てた人差し指を口元に持ってきて⋮⋮。
﹁じゃあその存在を消したくなかったっていうのは何で
?
?
『stage28:衛宮家の憂鬱』
549
やることなすことに法則性が無いというか、適当というか⋮ともかく分かりづらい。
でも、私が挙げた理由であるアーチャーがアレな姿ではあるけど生きている。
あの見た目でも、皮肉気に笑うあの感じは確かにアーチャーだ。
なら、ここの持ち主である私が拒否し続けるのはおかしいわね。
あとは、コウジュがなぜ態々そんなことをするのかも気になる。
冬木の地を管理するものとして、野放しには出来ない。
なら近くに居た方が監視しやすいか。
よ
﹂
・
・
・
﹁まぁ大体分かったわ﹂
﹁そいつはよかったよ﹂
?
?
﹁で、結局根本的な理由は話す気は無いと
﹂
﹁まぁいいわ⋮。あなた達がここに居るのは認めるわ。けど、もう少し話してもらうわ
550
あんたらのマイナスになることはしない⋮⋮may be⋮﹂
﹁あはは、ごめんごめん。そっちは話しちゃうと予定が狂っちゃうからさ。でも安心し
てくれていいぜ
﹂﹂
!!
?
決して│││。
言っておくけど、宝石に目がくらんだとかでは決してない。
できない事ばかりだが仕方ない。
目的は聞けなかったがまあこちらのメリットは大きい。アーチャーの事なども納得
結局、2人が衛宮家にお世話になることが決定した。
というかそこの物騒な幼女はこっちを仲間を見るような目で見るな。
ああぁ、頭が痛い。
ついツッコんでしまう。
﹁﹁多分かよ
『stage28:衛宮家の憂鬱』
551
﹄
?
内にある道場に来た。
どんだけ金持ちなんだよって感じだな。この敷地の所有者が高校生なんだぜ
士郎は剣に関してチートな能力をその身に秘めている。
そこで出てくるのが俺の所有する剣達だ。
ないのに教えるなんて烏滸がましい。
とはいえ、強くする⋮なんて偉そうなこと言っちゃあいるが俺自身は技量もまともに
ていたからだ。
それはこの家に置いてもらうための取引の一つに士郎を強くするというものを入れ
まぁそんなことは置いといて⋮と、俺が一緒にここに来たのには理由がある。
?
凛から衛宮家の滞在許可︵あくまで凛から︶をもぎ取った俺は、士郎達と共に衛宮家
おっと、メタ発言はこの辺で置いておこうか。
って言っても話的には全然時間経ってないけどね。
どもどもコウジュです。
﹃stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて
552
俺の剣達はこの世界の物ではないがここでは全部が宝具扱いらしいし、特に俺が良く
使うような高レベルの物を士郎に渡すと勝手にレベルが上がってくれるだろう。
なにせ士郎は剣の解析の後、自分の世界に加える事が出来るんだし。
まぁ、ただ剣を渡してもほとんど意味が無いだろう。
切れ味や威力は剣の物だけど、空間転移や音からの振動操作とかは俺の能力があって
こそのものだから、概念を込めた奴を士郎に渡さないといけない。
⋮⋮ひょっとして、俺よりうまく使えたりしないよな、士郎。
俺もチートだけど、士郎も大概チートだよな。剣だけとはいえ⋮⋮。
アーチャーレベルに至るまでの人生あってこその能力か、士郎の生き様あってこそか
は分からんけど、転生した時に貰う能力としてよく上げられるだけの事はある。
それをさらにチートにしようってんだから、笑いが止まらない。
さてさて│││。
﹂
!
はぁっ
!
現在は士郎がセイバーと打ち合いをしている。
﹁⋮⋮﹂
﹁せいっ
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
553
道場の端では俺とイリヤが見ている。
打ちあい打ちあい⋮、何合も打ち合い一本取る度に最初の位置に戻りやり直し。
とはいえ、一回一回は非常に短い。
セイバーはかなり加減をしてるんだろうが、すぐに1撃が士郎に入る。
それでも、俺からしたらすごいんだけどねぇ。
まだ力を制御しきれていない俺じゃあ絶対に打ちあいが続かない自信がある
言ってて悲しい⋮。
それにしても、な∼んか違和感が付きまとう。
なんだろ
!!
んだっけ⋮。 それかな
うなんだからよっぽどなんだろうね。
うむ、確かにセイバーが士郎との接触を避けるに避けてるね。素人の俺から見てもこ
そういう建前で見てみる。
?
アニメでは確かセイバーが士郎に対しての心の在り方を変化させていて遠慮してる
?
﹂
よくわかんないけど乙女心というやつなんだろう。よくわかんないけど。
﹁やぁっ
﹁っぐぅ
﹂
!!? !!
554
またひとつ終わった。
セイバーの横一閃が士郎の腹にスパッと入って士郎ダウン。
﹂
打ちこまれた所を押さえながら士郎が立ち上がろうするが、かなり傷むのかすぐには
﹁痛つ⋮﹂
立てないようだ。
そこへイリヤが口を開く。
﹁え
﹂
いやいやイリヤさん、単刀直入すぎませんか
?
イリヤの言葉に焦るセイバー。
﹁そ、そんなことはありませんっ﹂
だけど⋮﹂
﹁セイバー遠慮してるっていうか、ワザと見逃してるっていうか、本気に見えなかったん
ともかく優しい言い回しをしてあげようよせめて。
か。むしろ地球人じゃない。
ここは俺のように日本人伝統の奥ゆかしさをだな⋮⋮って今の俺は日本人じゃない
ほら、士郎も呆けちゃってるじゃん。
?
?
﹁ねぇ、これって本当に鍛錬なの
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
555
目は口程に物を言うとは言うが、今のセイバーはまさにそれだろう。
戦闘時のセイバーとは比べ物にならないほど視線が揺らいでいる。
口も開いては閉じ、開いては閉じ、イリヤに返そうとするも言葉が出てこない様子。
うむ、これぞまさに正ヒロイン。
がんばれ凜ちゃん。
﹁そりゃ打ち合ってるんだ当然だろ
﹁む⋮﹂
ほんと何この可愛い生き物。
バー。
﹂
な に 当 然 な 事 を と い っ た 風 に 言 う 士 郎 を、横 眼 で 頬 を 染 め な が ら 睨 み つ け る セ イ
?
まうというか⋮⋮﹂
﹁しょ、正面からですか⋮。で、ですが、そうなると展開によっては⋮体がぶつかってし
﹁もっとこう⋮ガツンっと正面から打ち合ってくれないとタメにならないってば﹂
頬も徐々に赤みを帯び、ニヤニヤしたくなるレベルです。
その言葉に言い返せなくなるセイバー。
﹁っ⋮﹂
﹁でも確かに⋮。言われてみればいつもより消極的だった様な⋮﹂
556
俺を萌え殺す気か
﹁もうお昼です﹂
チだ。
昼食は、朝のハンバーグの残りを照り焼き系のタレで絡めたものを使ったサンドイッ
あれ、俺まだ何もしてないんだけど⋮。
ました。
え∼とりあえず、セイバーの恥ずかし紛れの一言により、お昼休憩をすることになり
?
うーまーいーぞー
今の身体になって食べることへの楽しさが何倍にも膨れ上がっているからか、口や目
!!
さておき、俺も一口⋮。
って何だこの電波。
まぐ、まぐ、にゃん、にゃん♪
イリヤがマグマグといった感じにサンドイッチを食べている。
﹁うわぁ、うんうん美味しい∼。士郎はお料理上手よね∼﹂
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
557
から光が出るんじゃないかというほどに身体へと多幸感が染み渡る。
具を挟むパンの味を殺してしまわないようにか比較的薄味にしてる照り焼きタレ。
そのタレが肉の味をうまく引き立て、噛むほどに溢れてくる肉汁は口の中でその芳醇
な香りを撒き散らす。
レタスも良い。シャキッとした食感が、柔らかいパンと肉とは違う舌触りを生み出
し、炭水化物のしつこさを和らげている。
いや待て、それだけじゃない。
この仄かに香る柑橘系の匂いは⋮⋮柚子か
タレの中に柚子を混ぜているんだ。
そんな感じに俺も食事を堪能しているとセイバーがイリヤの方をじっと見ていた。
あ、おかわりください。
やるな士郎⋮⋮。
だから口の中で後を引かずに、もう一口もう一口と食を進ませる。
!?
ふむ、なんとも和む光景だ。
のか。
そう言ってセイバーがハンカチでイリヤの顔を拭く。ああ、頬に食べカスがついてた
﹁待ちなさいイリヤスフィール﹂
558
ってちょっと待てイリヤ
今ついてたのほぼ目の下だったけどどんな喰い方したらそうなるんだよ。
いや、良いや。
偶にはイリヤもおちゃめな食べ方をしたくなる時もあるだろう。
﹂
?
﹂
?
﹂
﹂むぅ⋮なに⋮あ、そっか⋮﹂
﹂
気にしたら負けだ
﹁俺の未来の⋮何だ
﹁まぁ気にするな
﹁あ、あぁ、分かった⋮﹂
セイバーはまだ士郎を意識し始めただけだろう。士郎もまだ自分の気持ちに踏ん切
思わずナイスセーブしてしまったが、今はまだ早い。
ふぅ⋮、イリヤさんってば気が早いっての。
!
!
!
?
のおよ﹁イリヤ
﹁ふふ、そんなに嫌われてるわけじゃなかったんだ。仲良くしたかったんだ、未来の士郎
スイマセン、思わずセイバーの頭を撫でていました。
﹁あ⋮つい⋮﹂
さねばなりません。それでバーサーカー、いえ、コウジュは何をしているのですか
﹁あなたに敵意は無く、士郎は客人として迎えました。ですから私も最低限な礼は尽く
﹁ん⋮ありがとうセイバー。でも、セイバーは私の事嫌ってたんじゃないの
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
559
りがついて無い筈。
だから待つんだイリヤ。
もっと場を温めてから、最後に背中を押してあげるんだ。
さておき、食事終了したんで閑話休題。
午後からは俺との練習の時間だ。
﹂
ちなみにイリヤとセイバーは道場の壁側で見てる。
﹁なぁ、コウジュは何を教えてくれるんだ
そう言って俺はとりあえず剣を一本出す。
﹁う∼んとな、俺が教えるというより剣が教えてくれる感じかな
﹂
長さは1m20cm位はあるが剣先が丸く、宝具という扱いに一応なってはいるみた
名前もそのままソードという。
﹁来いソード﹂
出すのは長剣で、初期の長剣だ。ゲーム設定の使用者レベル制限も1となっている。
?
?
560
いだが威圧感なんて全くない。
だって大量生産品っていう設定だもの。
﹂
手に現れた剣を士郎に手渡す。
﹁士郎、これ持ってみ
?
?
え∼っと次は何が良いかね﹂
?
﹁来いブレイカー﹂
レベル制限をとりあえず10位上げてみるかね。
剣を受け取り、直して、次を出す。
﹁んじゃ、一旦それ返して
ま、まぁ、大丈夫だとしておこう⋮。
?
いや、無いよな 今まで壊れなかったのはそう俺が思ってからって落ちは無いよな
ゲーム内では武器が壊れるという概念は無いし、大丈夫だろ。
﹁十分すごいぞ⋮それ⋮⋮﹂
﹁その剣に特別な効果はないけど、たぶん刃こぼれとか壊れることは無いかな﹂
剣の大きさに比べ、その振り様は結構軽く見える。
そう言って士郎はソードを軽く振る。
﹁これ結構大きいけど⋮⋮おぉ、持てた﹂
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
561
﹂
次に出したのはさっきのソードの色違い。
だけど攻撃力はほぼ倍くらいになる。
﹂
必要レベルは10。
﹁今度はこれ持って
っておぉ
!!?
﹂
?
重さとか﹂
して2本とも渡す。
﹁どう違いある
﹁いえ、まったくと言っていいほど。あえて言うならブレイカ│と言いましたか
ちらの方が少し切れ味がよさそうな感じがする位でしょうか⋮﹂
﹂
﹁なるほどね∼。サンクス。悪いね、実験みたいになって﹂
﹁それは構いませんが、これが一体
?
?
﹁俺も知りたい。俺からしたらあんなに差があったのにセイバーだと違いが無いとかど
?
そ
今度はセイバーに、今士郎が持てなかったブレイカ│と、先ほどのソードを改めて出
﹁はぁ、わかりましたが⋮﹂
﹁んじゃ、今度はセイバーこれ持ってくんない
﹁な、なんでさ⋮。見た目はあんまり変わらないのに今度は持てないなんて﹂
今度は渡しても持てず、床に落としてしまいガランッと鈍い音を上げる。
﹁あれ、さっきの色違いか
?
?
562
ういうことなんだ
﹂
やっぱり、魔術使ってブースとしてるからこそのあのスペックなのかね
は。
現時点で
?
の方は簡単に レベルを上げられるから、10以下は大変だ。マジで。
PSPo2でのレベル換算になるけどかなりの初心者レベルだ。ゲーム内では初期
ベルが低い。
これで何が分かるかというと⋮うん、皆さんお気付きかと思うんだけど、士郎君のレ
?
﹂﹂
?
﹂
?
﹁身体強化
えっと、分かった。トレース・オン⋮⋮﹂
士郎がいつものキーワードと共に魔術を行使する。
?
るから﹂
﹁う∼んと、実践した方が早いかな。士郎身体強化出来るだけ全開で頼む。回復はでき
﹁なるほど⋮しかし、それが一体
﹁だから俺が使えなくて、セイバーが使えるって状況が出来上がるのか⋮⋮﹂
ていないと使えないって制限がある﹂
﹁そ、俺の武器達にはそれぞれ使用者を選ぶって言えばいいのかな、一定の強さに到達し
﹁﹁レベル
﹁今のは武器に設定されてる、使い手に求められるレベル制限によるものなんだよ﹂
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
563
俺の頼み道理にギリギリまで行ってくれているのか、皮膚が裂け、少し血が出たりし
ている部分がある。
レスタ
﹂
言った俺が言うのもなんだけど、見ていて痛い。
﹂
すかさず、俺は回復を掛ける。
﹂
まだ痛む
﹁これで⋮良いか⋮
﹁ごめんな
﹁大丈夫。それで、どうするんだ
?
なんで⋮﹂
?
メージも出る。
当然縛りが無い訳ではないし、先程のように扱いきれている訳ではないから身体にダ
ごと強化する。
本来なら身の丈に合っていない強化をすれば器がもたないんだろうが、士郎はその器
常に思い浮かべるのは最強の自分。そこまで持っていく士郎の特性。
原作知識として憑依経験やらってのがあったはずだし予想はしてたけどすげぇな。
やっぱり、士郎の強化魔術は自分のレベルもブーストしてたってわけか。
﹁分かった、けど⋮え、持てた
そう言って渡すのは先ほどのブレイカ│、士郎が持てなかった方だ。
﹁うん、その状態でこれを持ってほしい﹂
?
?
?
564
けど、流石は主人公とでも言うべきなのかな。
これが分かったのはかなり大きい。
これが士郎の内面世界の現象から零れ落ちたものだってんだから半端ねぇな。
未来で封印指定を受ける理由が分かる気がするよ。
だからと言って納得しちゃいないが⋮。
っと、また思考がそれた。
赤〇字は関係ない。
?
﹂
!?
﹁10﹂
じゃあこれはさっきの6倍
魔術を使ったから
﹂
?
?
﹁10
!?
﹁お、持てた。そういえばなんだけどコウジュ、ちなみにさっきのブレイカ│のレベルは
ホイっと士郎に渡す。士郎は恐る恐るだが受け取り│││。
﹁こいつは必要レベル60、いけるかな
﹂
辺りに赤い羽根が舞い散るエフェクトが好きでよく使っていた。
の片刃。 俺が良く使っていた武装の一つで攻撃力は別に高くないんだが、剣を振ると
出したのは必要レベル60、ゲーム内レアランクはAの大剣。赤い羽根を模した幅広
﹁士郎、次だ。来い、ブラッディ・フリューゲ﹂
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
565
﹁そういうことだな。ま、それが士郎の可能性ってなわけさね。士郎の魔術はいくらで
も天元突破出来ちゃうわけですねぇ。誰得だよ。あ、士郎か﹂
しかも、まだ士郎達には言わないけど士郎の中にはエクスカリバーの鞘がある。持ち
主を不老不死にするというチートなもので、そのおかげで超回復と言って良いほどの回
外敵などいらない。士郎の敵は士郎自身だって﹂
復力が士郎にはあるから魔術によるフィードバックも極端に少ない。何このコンボ。
﹁アーチャーが言ってたろ
これで士郎の中にブレイカ│が登録された。
﹁よ、よし、成功した﹂
強化をした状態の士郎ならブレイカ│位なら出来る筈。
﹁今度は投影か⋮⋮。トレース・オン⋮﹂
﹁次は投影をしてくれ。対象は⋮ブレイカ│で﹂
らうべきだろう。
それにその辺はアーチャーに折り合いをつけていってもらって自分で向き合っても
には早い。
本当はアーチャーから直接アドバイスをしてもらうべきなんだけど、まだネタばらし
自分のことだから的確な助言ができるのは当たり前さね。
﹁あぁ、確かに言ってたな⋮。何でか妙にしっくりとくる言葉だったから覚えてる﹂
?
566
ここからが疑問だったんだ。
強化での士郎のレベルの底上げは予想ができたけど、投影によってどれだけ世界を越
えられる︵侵食できる︶か⋮⋮。
そんな風に考え事しているとパキンっとガラスが砕け散るような音が鳴り響く。
ました。
パスも繋がってないからかなり効率悪いけど、俺の中には無駄にあるからそれを使い
体力はトリメイト。魔力は俺の魔力を譲渡しました。
カード化していた回復アイテムを使ってほぼ元の士郎に戻ってもらった。
くそ、士郎の魔力量とかを忘れてた。
﹁ありがとう士郎。そんでごめん急ぎ過ぎた。今回復するから﹂
ちょっと無茶させちまったか。
おう、ジーザス。
士郎が膝をついている。
﹁ハァ⋮コウジュ⋮も、無理だ⋮グ⋮⋮﹂
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
567
﹁ごめんな、士郎﹂
立ちあがり力こぶを出すように無事だと言ってくれる。
﹁大丈夫だ、問題無い。ほら回復もしてもらったし﹂
その言い方だと大丈夫じゃなそうに見えるから止めて。
それにしても、俺もどうかしてる。
興味と焦りで急ぎ過ぎた。
よくある言葉だが、ここはアニメの世界じゃないんだ。
あくまでも現実世界。
知識としてはともかく、充てにし過ぎると後で痛い目を見てしまうだろう。
気を付けないとな⋮。
﹂
そんな風に反省しながらちょっと落ち込んでいる俺に士郎が聞いてくる。
﹁そういえば、結局コウジュがやったのは何の確認だったんだ
あぁ∼。ま、確かにインパクトはあっただろうな。
﹁ああ確かに、色々すごかったもんな。⋮⋮一番インパクトがあったのはネギだけど⋮﹂
﹁それは確かに心強いですね﹂
だったら色々上げるか解析させてあげようと思ったんだよ﹂
﹁い や ね、士 郎 が 俺 の 武 器 を 使 え た ら 最 強 だ な ∼ っ て 思 っ て ね。レ ベ ル 無 視 で き る ん
?
568
例えば、星をも砕くと言われるアックスとか、大気を操作す
だけど、あえて言おう。あんなのは序の口であると。
﹁もっと凄いのがあるぜ
るダガ│﹂
﹁そんな物まであるのですか
き、キングクリムゾン
あー⋮止まっちゃった。
﹁﹁﹁・・・﹂﹂﹂
﹂
﹂
ただ全力では無かっただけでな。俺の全力↓最強武器達を
使う↓冬木ってか地球アボン・・・みたいな
?
!!!
?
﹁いやいや、本気だったぜ
﹁昨日のコウジュって本気じゃなかったんだな⋮﹂
!?
になって欲しかったんだよ﹂
中には使用者の力を増幅するタイプの奴があるから士郎には特にそれを使えるよう
?
イリヤが付け加えてくれる。サイカヒョウリとツミキリヒョウリの事だな。
﹁私が前に見せてもらったものは運命の操作だとか、空間の操作だとか言ってたわね﹂
?
﹁その辺りを士郎が使えたらな│っって思うっしょ
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
569
アレの効果が力
?
代わりに戦う位はするから安心しな﹂
﹁﹁それが一番安心できないって︵ません︶
!!!
というわけで、一気に本日のメーンイベント
!
エンドレスエイト並みの繰り返しがお望みか⋮
︵震え声
して、俺が直しての繰り返ししかしてないんだもんさ。
いやだってさ、あの後は、セイバーが士郎ぼこって俺が直して、士郎が魔術でアボン
そんなこんなで修業を続け、いつの間にか夜。
﹂﹂
﹁少しでも強くなってもらわんとな。もし修行が間に合わなくてピンチになっても俺が
﹁こ、心強いですね﹂
﹁あ、あぁ。⋮分かった﹂
チパチ﹂
の増幅だからそれを使えるようになってもらうのが俺との修行での目標です。ワーパ
げてもらって、ライトニングエスパーダ⋮昨日俺が使ってた大剣な
﹁えーまぁ、そんなわけで、士郎君にはとりあえずレベルではなく魔術の方のレベルを上
570
?
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
571
龍⋮ナントカ寺⋮。
ナントカ寺に行こう
名前
!!
◆◆◆
あ、ありのまま体験した事を話すぜ
⋮⋮これで良い
あぁ、いや、今のはコウジュが言えって⋮。
?
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
じゃあ断じてねぇ。
頭がどうにかなりそうだった⋮催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもん
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった⋮
してた﹄。
﹃セイバー、コウジュ達と修業をしていたと思ったら、いつの間にか晩御飯の片づけを
!
そんなわけでさっそく行くとしますかね。
やっぱいいや。ナントカ寺で。
?
572
えっと、とりあえず今日の事なんだが⋮驚く事ばかりだ。
昨日命を掛けて戦った二人が今日から同居人になる上に、コウジュは俺の師匠
︶にコウジュが見せてくれた武器達がまたすごかった。
人になってくれるっていうんだからさ。
その修業中︵
の一
?
かるものがいくつかあったけど⋮あれは何だったんだ
コウジュは登録がどうとか丘がどうとか言っていたけど⋮。
コウジュはたまに変な事を突然言い出すから気にしない方がいいんだろうか
本人もよく気にしたら負けだとか言ってるし⋮。
気にしない事にしよう。
剣術はセイバーとたまにコウジュ、目を慣らすためにってセイバーとコウジュの試合
とで、セイバーとコウジュからバシバシしごかれた。
その後は、コウジュが魔力込みで回復ができるから限界までやっても大丈夫だってこ
?
?
そういえば少し不思議だったのはコウジュの武器を見た瞬間に何故かその特性の分
かのようなものまであった。
出てきた瞬間の威圧感、神聖さ、逆に邪悪なものもあったし、脈動して、生きている
後々俺に使えるようになってもらうっていうので見せてくれたのはすごかった。
最初に渡された剣は宝具ではあってもあまりすごくは感じなかったんだが、その後に
?
を見せてもらったりもした。魔術に関しても、コウジュの言う実験︵現在の俺のギリギ
リを探す︶というのもやった。
そうこうしたらいつの間にか夜で、セイバーのお腹の音でお開きになった。
中々に充実した時間だったな。ただ、かなりぼこぼこにされたけど⋮。
ま、そんなわけで汗だくだ。
セイバーの事もあるし、先にご飯を先に済ませてしまったから、遅いお風呂になるが
そろそろ入りに行こうかな。
?
風呂場の方に向かうとコウジュを見つける。
玄関に向かうみたいだが出かけるのだろうか
﹂
?
﹂
?
く。
靴を履き終えたコウジュがトトンと軽い身のこなしで立ち上がりこちらへと振り向
﹁事実その通りだからな。仕方ない。そう言う士郎は風呂
﹁ものすごい組み合わせだな⋮。というかスゴイ言い草だな﹂
何でもないように言う彼女に、俺は思わず苦笑する。
靴を履きながらそう言うコウジュ。
﹁おう。ちょいとイケメンと美女と仏頂面見てくる﹂
﹁出かけるのか
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
573
そして俺が持つ着替え等に気付いたのかそう聞いてきた。
﹁ああ。大分汗かいたからな﹂
﹁⋮⋮ふぅ∼ん﹂
﹂
﹂
突然口元を押さえながらニヤニヤするコウジュ。
﹁⋮なんでニヤついてるんだ
﹁じゃあ、入るよ。コウジュも気をつけてな﹂
といっても分からないから仕方ないか。
⋮⋮怪しすぎる。
﹁いえいえ、何でもございませんですの事よ∼
?
扉を越えて中に入ると先客が居た。
﹁一体コウジュは何でニヤニヤしてたん⋮だ⋮ろ⋮⋮﹂
一旦考えるのを止め、風邪をひく前に温もろうと、少し急いで中へと入った。
家の中とはいえ季節は冬だからそこそこに冷えている。
服を脱いで浴室への扉を開く。
入る。
結局ニヤニヤしたまま玄関を出ていくコウジュを見送り、当初の目標である風呂場に
﹁おう﹂
?
574
セイバーだ。
目が合い、互いに固まる。
まさかまさかまさか、コウジュの奴知ってたな
だからニヤニヤと
!?
そう身体を手で隠すようにしながら顔を背けるセイバー。
﹁申し訳ありません。今は遠慮していただけないでしょうか
﹁わ、悪いセイバー入ってるなんて思わなくて⋮﹂
!?
これがわざとならば一言言わないと気が済まない。
それにしてもコウジュだ。
まさかセイバーが入ってるなんて。
﹁び、びっくりしたぁ⋮﹂
そして急いで着替えて風呂場を出た。
俺は慌てて脱衣場へと戻る。
そこまで見てしまって、もう限界だった。
上げている。
﹂
頬を染め、湯船に浸かっているのもあり身体を上気させてうっすらと肌を桃色に染め
?
﹁あ、あの⋮﹂
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
575
イリヤもそうだが、あの主従は今日一日だけでも俺を弄ろうとしてきた。
見た目は二人ともお嬢様然とした少女なのに、子どもらしいしさを見せたかと思うと
大人の様な、まるでお姉さんのように振る舞う。
コウジュに至っては遠坂やセイバーにもそんな扱いをする時があるし、扱いに困った
ものだ。
真剣な話をしている時は頼もしいんだがなぁ⋮⋮。
﹁くっふっふ⋮このラッキースケベ﹂
お前分かってて言わなかっただろ
バッと後ろを振り向くとコウジュがさっきのようなニヤニヤ顔で玄関に居た。
﹂
﹂
﹁まだ出かけてなかったのか って、コウジュ
﹂
﹁なはは、はてさてなんのことかにゃー
!?
は身を乗り出した。
思わずとっちめてやろうと手を伸ばすがスルリと俺の腕を避け、戸を開けてコウジュ
﹁この
!!
?
!!
!!
576
﹂
!!
正直言うと見たかったが、少女の身とはいえ中身男の俺がやっちゃうと犯罪だかん
そういや、原作では風呂の中ではセイバーがやたらとかわいい事になってたなぁ。
くっふっふ、また弄ってやろう︵ゲス顔
いやー、それにしてもさっきの士郎は面白かったな。
とりあえず階段を登っていく俺。
名前忘れたんだから仕方ない。
なんとか寺。
さぁさぁやってきましたよっと。
◆◆◆
時間つぶしに、遠坂の所に行ってまた魔術についてでも教えてもらうかな。
風呂は後でいいか。
はぁ⋮。
絶対アレ確信犯だろ⋮。
問いただすだけでもと思うも、そのままコウジュは走って出ていってしまう。
﹁くふふっ、あぁ良いもん見れた。あばよーぅとっつぁん
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
577
な。
しゃーない。
ってか長いなおい、この階段。
この身体になってからは疲れというものを感じなくなっているとは言え、流石にこの
距離は精神的にちょっと疲れる
トントンと何段か飛ばしながら登ること数分、漸く山門が見えた。
辺りに人気は無い。
﹂
時間も遅く、一般人はそろそろ寝る時間だ。
一般人は、な。
﹁この様な時間に何用か
メン度を上げている。
ア
サ
シ
ン
会いたかったぞガンダ⋮じゃなかった、佐々木小次郎
普通ならイケメン爆発しろと言いたいとこだがあんたは許す。
!!
女性が嫉妬するのではという程の艶を見せる長髪をポニテにしているのがまたイケ
その方向を見ると、かなり長い日本刀を持った青い着物姿のイケメンが居た。
上方から声を掛けられる。
?
578
ってか握手、いや、狙い撃つぜって言ってほしい。
あー、でも持ってるの刀だし無理があるか。
ケフン⋮すまん。思考がそれた。
﹁ちょいと所用で⋮ね﹂
いものだ﹂
︶も
﹁ほう。夜も遅くに大量の魔力を纏ったものがこの寺にとは。如何様かお聞かせ願いた
﹂
?
?
そう言って佐々木小次郎、アサシンは長刀を構える。
物干し竿⋮佐々木小次郎の代名詞とも言っていい、五尺余り︵えーと大体2M位
ある刀。
俺のコクイントウと同じ位あるかね
この山門の守護を任されていて、本人も強者との戦いを求めている。
でもまぁそれも仕方ない。
用件を聞くと言いながらこの対応、どこぞの庭師かあんたは。
それを正眼に構え、いつでも斬り掛かる準備は万端と言ったところか。
?
そこへ飛び込んだのが怪しげな俺だ。
﹁ふむ⋮私に用か﹂
﹁あんただって言ったらどうする
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
579
﹁そ、俺と一勝負やらねぇかい
こちらも長刀を出す。
来い、コクイントウ・ホオヅキ﹂
﹁娘よ。お前はサーヴァント⋮いや、何だ
まぁ概念は使いませんけどもね。
﹂
ちなみに特殊効果としてダメージを与えた際のHP吸収なんてのもある。
る。
そして、よく見れば刀身に霊魂のような物がうっすらまとわりついているのが見え
と、覚醒し真の力を発揮するという﹄なんてテキストが書かれている物騒な代物だ。
﹃死者の国に渡る際の渡航証になるという、封印されし長剣。使用者が死の淵に立つ
ソード系Sランク☆11。
俺の背丈よりも大きく、ライトニングエスパーダよりもなお長い刀。
?
小次郎と向かい合い、俺もコクイントウを同じように構える。
﹁くく、いいねぇ。痛いのは嫌いだけど、そういいうのは大好きだ﹂
﹁まぁどうでもよい。そのような事は所詮は些事にすぎん。構えよ﹂
種族的にはヒト属ビースト種ってところかな。
﹁サーヴァントはこの間やめたよ。今はただのヒトだ。人間ではないのがミソだね﹂
?
580
581
『stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて?』
それじゃぁまぁ││、
いただきます♪
﹄
﹃stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお
見通しだ
⋮分からん。
だけど、異世界の英雄だっていうコウジュをイリヤはどうやって召還したんだろうか
接点⋮、容姿とか性格
?
?
そういえば、サーヴァントを召還する際は何かしらの接点が無いと召喚できないそう
でもあれでサーヴァントとその主なんだもんなぁ。
姉妹じゃないのかと思いたくなる。容姿も似てるし。
イリヤと揃って天真爛漫で、何か悪巧みを思いついた時の表情なんかを見ると本当の
けで何回有っただろうか。甚だ遺憾である。
たらしだとかむっつりだとか、不名誉なことを捨て台詞のように言われたのは今日だ
何故か彼女はことあるごとに俺を弄ろうとする。
まったくコウジュは⋮。
いた。 風呂場からそそくさと撤退した俺は、先程のことを改めて思い出し少し考えに耽って
!
582
?
これもまた考えても仕方ないことか。
﹂
﹂
とりあえず、なんとか俺の扱いを改めてもらえないだろうか
ご、ごめん
聞いてるの
⋮⋮無理だろうなぁ。
﹁うお
!!?
﹁エクスカリバーなんていう聖剣のカテゴリーの中で頂点を投影しようものなら、魔力
あの時も、確かに魔力がごっそりと持って行かれた上、最初は容易く壊れてたっけ。
そうして思い出すのはコウジュとの一戦だ。
改めて思考を遠坂の話へと傾ける。
は大きいの﹂
らけだから本物通りになんて複製できない半端な魔術なのよ。しかも魔力の消費だけ
かを自身の魔力でイメージとして再現するの。けど、人間のイメージなんて所詮は穴だ
﹁まったくもう⋮。もう一度言うけど、投影魔術というのは実在する美術品とか名剣と
今は遠坂に教えてもらってるっていうのに、考え事をしてしまっていた。
!
!!
やってしまった⋮。
?!
﹁ちょっと士郎
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
583
が足りないどころか投影しきる前に回路や脳が焼き切れて死んでもおかしくない。つ
まり、士郎のキャパシティーを軽く超えているはずなの﹂
⋮⋮﹂
縁か繋がり
俺とセイバーの⋮⋮
俺が思いつく中には無いな。
?
召還することが出来たのだろうか
﹁今の時点では何も分からない⋮か。とりあえず言っておくけど、投影魔術の多様はし
熟考する俺に、遠坂は溜息を一つ。
つまりは何かしらの繋がりは在る筈。さすがに偶々ということは無いだろう。
見つけられなかった。
召喚陣は予めあの土蔵に書かれていたみたいなんだが、どこにも召喚する際の媒介は
?
先程はコウジュとイリヤの事を考えたが、改めて言われれば俺はどうしてセイバーを
?
ひょっとして、士郎にはアーサー王に対する並々ならない繋がり、縁があるのかしら
は分からないけど、でも、1度は既に成功しているわ。
﹁そう、そこがおかしいの。バーサーカー⋮、コウジュが回復してしまったから本当の所
正確にはエクスカリバーではないそうだが、それでも高ランクなのは変わりない。
﹁けど、俺は一瞬とはいえ成功してた⋮﹂
584
⋮⋮一体、あの子は何か知ってるのかしら
いえ、いまさら何を知って
ないようにしなさい。あれだけの事が出来るんだもの、分かってないだけで代償が無い
とも限らない﹂
﹁あの子が
いても驚かないけど⋮﹂
た、たしかに⋮。
今の俺の中でのイメージは何でもできる、だ。
昼間に見せてもらった宝具たちだけで世界征服できるんじゃないか⋮
?
﹁ああ。中々に充実した一日だったよ﹂
﹁ねぇ、士郎。昼間はコウジュも一緒に訓練したのよね
﹂
楽観的かもしれないが最悪な事態にはならないだろう。
る、とか⋮。
セイバーも言っていたが、殺す能力なら十分に持っているがただ楽しんでいる節があ
さておき、どっちにしても俺も大丈夫だとは思っている。
遠坂がそれを言うのか││いえ、何でもないですはい。なので睨まないでください。
いだし、何というか大丈夫な気がするわ﹂
﹁ま、いいわ。ひとまずはこちら側に不利になる事はしなさそうだし、案外うっかりみた
?
?
﹁けど、コウジュはどんどん使えって⋮﹂
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
585
?
﹂
みたいのとか、魔術を使った効果を見たりとか、あ、そういやこ
﹁ふ∼ん。で、どんなことしたの
んなのもらった﹂
﹁宝具を使った実験
?
書かれているのは、真力﹃エクスキャリバー﹄という文字と、セイバーが持つのとは
だ。
絵柄は違うが、絶対に倒したい敵が現れた時に助けてくれるって言って渡されたもの
前ももらったカード。
?
えっと、真りょk﹁うわっ 読んだらダメだってば
﹂わ、分かったわよ
違い、あまり剣らしくない形をした儀式剣を思わせる黄金の剣の絵。
﹁何なの
⋮﹂ ?
!!
⋮⋮とりあえず持ち歩くように位はしておこう。
よくわからなかったんだが、﹃その時になったらわかる⋮はず⋮﹄と言われた。
て思った時に、これともう一本剣があると真価を発揮するらしい⋮。
それからもう1つ言われたのが、これはあくまで最終手段で、自分の力が足りないっ
読むべき時に読めと言われた。一回きりの使い捨てらしい。
前に俺を助けてくれた︵らしい︶カードをもらった時は読むなと言われたが、今回は
横から覗き込む遠坂から思わずカードを守るように抱き込む。
!!
586
﹂
﹁あ、ねぇ士郎。今更なんだけどあんたってエクスカリバーがどういうものか知ってる
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
?
そういえばコウジュも鞘がどうとか言ってたような⋮。
気のせいか
?
?
﹁なぁ、ならどうしてアーサー王は死んだんだ
﹂
?
⋮⋮あれ
セイバーの剣技に宝具、そこに不死身の力があれば向かう所敵なしじゃないか。
それはすごいな⋮。
﹁鞘を身につけている限りアーサー王は血を流すことはない。つまり不死身なのよ﹂
?
鞘
﹁まぁそんなとこだと思ったわ。あのね、本当に重要なのは剣ではなく、鞘の方なのよ﹂
ぼれもしない名剣だって⋮﹂
﹁エクスカリバーって言ったら、アーサー王の代名詞だろ 斬れないものはなく、刃こ
?
うん、でも慣れてきた。
うっかりか⋮。
﹁っ⋮⋮、そうだった⋮。伝説じゃ、エクスカリバーの鞘は盗まれたんだ⋮﹂
587
﹁なら意味無いじゃないか⋮。どうしてそんなこと気にしたんだ
﹂
?
﹁う、うるさいわね 鞘もあったら無敵だなーって思っただけじゃない私だってたま
588
!
には間違える事あるわよ⋮﹂
﹂
﹁たまにか
?
◆◆◆
﹂
﹁どうした娘。その程度か
﹁こんの
?
うってことないと付け加えた上で名乗り返して⋮⋮。
名乗られて、名乗り返そうとしたら拒否られて、でも、コウジュの名前知られてもど
はい、現在戦闘中です。
﹂
そう言いながら顔を逸らすことしか俺には出来なかった。
何でも無いです⋮。
﹂
﹁なによっ
?
!!
﹂
こんちくしょー
そんでもって動きにくい
そしていつの間にか斬りあってます。
力任せが通じない
ってか、そんなことより
流される
はぁ
何で階段であんなに優雅に動けんだよ
とりゃ
!!
恐らく向こうは本気じゃない。遊ばれているんだろう。
受けていないがそれだけだ。
致命傷は受けていない。
こちらが剛に対し向こうは柔。不利過ぎる。
れるといった戦い方だ。
様に大剣を振るっているのに対し、向こうは余分な力は刀で受け流しその隙に太刀を入
そもそも、俺も小次郎も持っているのは似たような長刀だが、俺は西洋式の叩き割る
というか相性が悪すぎる。
だけどそんなものは容易く避けられる。
気分はマーべラ〇コンビネーション。
!!
!!
!!
!!
!
!!
!
せいっ
!!
!
斬り下ろしからの流れの四連撃。
﹁ふっ
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
589
﹁そら、どうした
﹁っるぁ
﹂
﹂
俺は斬られているだろうな。
しかし、武器の強度に頼っているから防げているだけで、普通の刀なら既にそれごと
それをまた、コクイントウを盾にして防ぐ。
その程度は分かっているのだろう。すぐさま次の場所へと振るわれる物干し竿。
それをコクイントウを盾にすることで防ぐ。
首を狙った小次郎の一閃。
﹁ちっ﹂
!
確かステータスで言えばアサシン︵小次郎︶の方が敏捷は上だったか。そして技量も
しかしそれも横にずれることで避けられる。
だからそのまま俺は一歩踏み込み、柄頭ごと突き込む。
俺の剣を反らすために小次郎もまた剣先を上に向けている。
が、それは想定済みだ。
それを小次郎は冷静に、剣先でコクイントウを微妙に反らすことで避ける。
今度はこちらから力任せの斬り上げ。
﹁ふむ﹂
!!
590
当然上だ。だが逆に紙装甲だったはず⋮。
なら何とか一発あてりゃぁこっちの勝ちだ
る要領で手を地につけ足払いを仕掛ける。
俺は柄から手を離し、突き込むために乗り出していた勢いを利用してそのまま前転す
る。
突き込んだ柄頭は、避けられはしたが小次郎は避けるために重心を後ろへと下げてい
!!
あんた侍だろう
軽業師みたいに避けないでくれますかねぇ
﹁やっぱり、技じゃ到底追いつけないな﹂
勿論泣いてない。泣いて無いッたら泣いてない。
少なくなっている痛みを堪え、体勢を立て直す。
プニプニの身体になったとはいえサーヴァントでもあるこの身体だから普通よりは
だがすぐさま手で無理矢理回転を止め、腕をバネにして飛び起きる。
し、ゴロゴロと数段階段を転げ落ちる。
対する俺は階段なんてスペースに余裕のない場所で無茶な動きをしたから体勢を崩
!?
!?
そう言葉では感嘆の声を上げながらも、軽々と飛び上り避けられた。
﹁ほう﹂
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
591
﹁いやいや、それなりに胆は冷えた﹂
﹁なればどうする
あきらめるか
﹂
?
﹂
﹁何を言うやらうさぎさん。そんなわけないじゃんよ。予定通り押し通らせてもらうぜ
?
﹁このままじゃ、やっぱ勝てないか。侍に刀で勝負を挑むのはやっぱ割に合わねぇや﹂
で手元に戻す。
そんな会話をしながら、手放していたコクイントウを一度消し、そして呼び出すこと
﹁なに、ただ楽しくてな﹂
﹁笑みを絶やさずによく言うよ﹂
592
さーて、常に思い浮かべるのは最強の自分⋮はちょっと危ないので︵火力的意味で︶、
だからまぁ、今度は自分自身の戦い方をさせて貰おう。
それに、このままじゃアレを使ってもらえなさそうだ。
命にかかわりそうだ。生き返るけど。
態々相手の土俵で戦いを挑んだのは、見て、そして味わう為だったんだがこれ以上は
弄しながらの攻撃が現状では一番合っている。
他の武器に関してもそうだが、筋力と動体視力に物を言わせてトリッキーな動きで翻
そもそも刀を握ってはいても俺は結局刀を扱うことはできていない。
?
このチートボディの身体能力を信じて押してダメなら引いてみろじゃないけど、技量で
ダメならスピードで勝負だ。
当てるために必要なのは技量か速度。
だが技量は経験が物を言うものだ。今の俺では瞬時に得ることなどできない。
だから速度で以てあなたを打倒させてもらうよ。
見本はあの校庭で見たランサーのしなやかな、そしてどこか獣を思わせる動き、速度。
この身はビースト。
ハー ド
ソ
フ
ト
身体のスペックも十分。
なら後は思い込みの問題だ。
﹂
?
﹁っ
い
﹂
!
双小剣のスキル﹃レンガチュウジンショウ﹄とか顕著だ。
かかるような技もある。
ゲームスキルの中には明らかに重力を無視した、空中でステップを踏んで何度も斬り
!!
階段がダメなら、周りを囲む木々を使う それでもダメなら重力など無視すればい
!!!!
﹁空気が変わったな。面白い﹂
﹁ふい⋮⋮。さて、行くよ
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
593
それを元に自身のイメージを強める。
虚空瞬動。
某セクハラ魔法教師物語に出てきた、文字通り虚空を使って瞬時に動く技術。
魔力を収束させる術はいくつか身に着けた。
それを足場にするため一瞬だけ足元に作り出し、それを足場にまた飛ぶ。
﹂
﹂
とにかく、俺は跳んで跳んでトンデ│││。
﹁ほう、速いな。だが⋮その程度か
﹂
!!
自分は獣
﹁っく。ま、まだまだ
自分は獣
﹁これならどうだ
!!
自分は獣だ
!!
ているのが手の感触で分かる。
正直自分もこのスピードに振り回されてる感はあるが、少しづつダメージが通り始め
跳ぶ││いや、跳ねるように四方八方から小次郎に斬りかかる。
!!
!
?
594
⋮面白い
︵﹁`・ω・︶﹁ガオー
﹁これほどとは⋮っ
⋮
﹂
受け流すのをやめて避けに徹してる
でもなんで⋮
いや、そんなことより今こそ大ダメージを
?
!
!!!
だが││、
﹂
﹁秘剣⋮燕返しっ
﹁っ
﹂
﹂
・・・
くそっ、回避
なら大人しくこれを受けるとするか
﹁ぐうぅぅっ
⋮は無理
!!
と言わんばかりに斬りつけられたが、この身体自
そして地面にぶつかり、止まる。
オートガード何それ美味しいの
!
!!!
予想外のタイミング
!!?
血を流しながら後ろに吹き飛ぶ俺。
!!
!!
!?
そう思い、俺は木を蹴りつけ大きく斬りかかるために飛びかかる。
!!
?
?
!!
?
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
595
身の防御力のおかげかまだ体は五体満足だ。
流石にすべてを受けることは出来ないから、致命傷を避けるために首を獲る一閃上に
コクイントウを放り投げて全身は腕を交叉してガード。同時に後ろへと飛んだ。
確か原作でも階段である故に小次郎の踏み込みが足りないんだっけか。
恐らく俺の時も、階段という場所と溜めが少なかったのだろう。
おかげで何とか生きている。
とはいえ何とか生きているだけで両腕の感覚は無いし、思いっきり後方へ跳んだ御陰
でまた階段をごろごろと落ちて軽く脳震盪を起こしている。
この程度で、驚かれても⋮困るぜ
道具﹃完全回復トリメイト﹄⋮﹂
?
で幻肢痛みたいな感じに斬られた所がずきずきしてるんですが
﹂
﹁いよっと、まったくもって痛いったらありゃしねぇ。正直泣きそうだぜ。現在進行形
やがて光が消え去り、俺の身体は一気に元の状態まで回復する。
てあったから宣言すれば発動し、身体を光がつつみながら回復する。
本来ならボトル状になっている中身を飲まなければならないが、念のためカード化し
のまま宣言する。
揺れる頭に喝を入れながら、念のために胸元に仕込んでいたカードを口で取りだしそ
﹁んぐっ
!
﹁本来であるなら泣き別れる筈であったが⋮、まだ生きているとはな﹂
596
?
﹁⋮⋮喧嘩を売ってきたのはそちらであろう
﹂
?
少しは楽しめたが、まだ発展途上といったところ。
?
は大気の流れを感じ取り飛ぶ方向を変える。ならば逃げ道を囲えば良い。壱の太刀で
﹁最初はただ、空を自由に飛ぶ燕を斬るだけのつもりであった。だが、奴らは素早い。燕
言いながら、再びコクイントウを先程の要領で手元へと戻す。
﹁秘剣燕返し、すごい技だね﹂
だから、押しとおる。
あと一つはまだ先だ。
一つは集まった。
ここでの目標は二つ。
その為には集めないといけないものがある。
俺には目標がある。
だがしかし、そうは問屋が下ろさんのですよ。
正直な話、今すぐ帰って炬燵にでも潜ってみかんを食べながらのんびりとしたいよ。
その回復力に驚きはするが、⋮正直どうでも良い。来るならば斬り伏せるのみよ﹂
﹁それで、まだ通る気はあるのか
なんかジト目で見られている気がするが気のせいだろう。
﹁⋮⋮そうでした⋮ごめんなさい﹂
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
597
燕を襲い、避ける燕を弐の太刀で囲う。そして最後の一閃で斬り裂く。そうすることで
やっと斬る事が出来る﹂
﹁けど、残念ながらごちになります﹂
それを使って俺はあの技を覚えた。
そう、ラーニング。
俺がしているのは、先程小次郎がした燕返しの構えだ。
コクイントウを顔の高さまで持ってきて、小次郎に背を向ける形で構える。
そこに痺れる憧れるってね⋮﹂
﹁多重次元屈折現象、またはキシュア・ゼルレッチだったな。さっすがは佐々木小次郎。
確か⋮。
識が無かったらわからなんだ。
ごめんなさい正直言うと、しっかり見えたわけじゃ無くぼんやりと程度です。原作知
﹁ほう、そこまで見られていたか﹂
いって。その技の真髄は速さを通り越して、3つの太刀筋が同時にその場にある事﹂
たようにするだけなら、さっきのスピードが出てた俺ならここまでダメージは受けな
﹁えらく簡単に言ってくれるけどさ、そんな簡単なものじゃなかろうに。あんたが言っ
598
その瞬間辺りの気温が下がったかのように寒く感じる。
小次郎の殺気が俺に刺さる。
﹂
だが、伊達や酔狂でそんなことをしてるわけじゃねぇ。
?
﹁そうか⋮⋮、ならばっ
﹂
!!
く刃。
﹁秘剣
燕返し
﹂
!!
﹂
!!
﹂
﹁ひけん、つばめがえしっ
﹂
!!
!
踏み出すのは同時、向かい合い正反対の軌道を描きながらも同じように振るわれてい
﹁あぁ
﹁やってみるがいい
小次郎もまた燕返しの構えを取る。
!!
向けた。
それに何かを感じたのか、小次郎は笑みを浮かべた後に改めてこちらへと鋭い視線を
俺は当然と言ったように返す。
﹁秘剣燕返しをやるつもり﹂
﹁娘⋮何のつもりだ⋮
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
599
一の太刀で頭上から股下までを断つ縦軸に│││。
二の太刀は一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡を描き│││。
そして三の太刀で左右への離脱を阻む払いを│││。
ラーニングっていう能力は便利だけど不便だ。
1度受ければ覚えられるが、理解はできてない。
繰り返して取っ掛かりを掴めば話は別だが、一回目ではどうしようもない。
﹂
だから、本能のままに叩き込む。
﹁どうだ
﹂
?
嬉しくて舞い上がっていた心が急降下する。
そのとーり、ザッツライ⋮。
勝てぬぞ
﹁⋮まさしく、燕返し。よもや、そこまで完全に使われるとはな。しかしそれだけでは、
できた。俺にもできたっ。
は3つあった。
ふむ、互いに3つとなった刃が同時に衝突したために一つに聞こえたが、確かに軌道
そして、互いに弾かれた俺たちはその勢いのままに距離を取った。
甲高い音が一つ、辺りへと響く。
!!
600
小次郎の言う通り、現状では出来たからなんだというのかってレベルでしかない。
けどまぁ膠着状態、かな
ここいらで次の段階に入りたいんだが││、
さて、どうするべきか⋮。
やっぱり経験不足が俺には痛い。
が分かった。
とは言え小次郎の恐るべき技量の前では、ただ速いだけでは燕返しの餌食になること
あふれるんだよな。
対する俺は回復したおかげでまだまだいける。それどころか、何故かさっきから力が
今ので小次郎にも相応のダメージを与えることはできた。
?
う。そして俺が放つのは小次郎の知っている軌道でしかない。
本家本元の小次郎ならば、ある程度違う軌道を描きながらも燕返しを打てるのだろ
つまり応用が利かない。
ラーニングのデメリット、覚えたものは覚えた時点のものをそのまま覚える。
﹁ま、そうですよねー。まったく同じ技じゃ、勝てるわけないですよねぇ⋮﹂
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
601
﹁そろそろ良いかしら
はて
﹂
ま、まさか⋮。
すかさず俺は後ろへと後退していく。
今失礼なこと考えなかったかしら
キャスターが突っ込みを入れてくる。
﹁こらそこ
﹂
﹂
貞操の危機
成されたローブで顔の下半分以外すべてを隠した女性がそこに居た。
あんたはスキマ妖怪か
はっ
興味とな
﹁その子に興味があってね﹂
その声に振り向くことなく、キャスターは答える。
小次郎が訝しみながら声を掛ける。
﹁こちらまで出向くとは珍しいな、キャスター﹂
いやいやそんなことより、これはいいタイミング。
!!
確かキャスターは少女趣味⋮だったはず。俺狙われてる
!!
﹁さらっと心を読むな
!?
?
!!
!!?
念のため周囲を警戒していると、小次郎と俺が居る間の空間歪み、中から黒と紫で構
虚空から、突然女性の声が響いた。
?
?
!!
!!?
602
心を読むとは⋮、スキマ妖怪ではなくさとりんだったか。
しかもナイスなタイミングとツッコミ⋮。
さすがは古き魔女。
っと、これは禁句なんだっけか。
をしに来た﹂
・
・
・
?
﹁それで、あなたは何の取引を
﹂
﹁そういや、さっきは言わなかったね。改めまして、元バーサーカーのコウジュだ。取引
﹁ほう、お前が今回のバーサーカーであったのか﹂
﹁あらら、やっぱり見てたんだ﹂
元バーサーカー﹂
﹁それはよかった。お客様ですから、しっかりと御持て成しをしようと思ってきたのよ。
﹁さておき、そっちから出向いてくれるとはね。正直手間が省けた﹂
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
603
﹂
今はさっきの階段ではなく、神殿︵おそらくこれが、キャスターのスキル陣地構築で
作られたものだろう︶に招かれた。
小次郎はというと、その後ろで寡黙に立っている。
よし、何パターンか考えた内で一番良い邂逅だ。
これなら目的が達成できる。
一先ずは、こちから取引材料を出そうか。
﹂
﹁聖杯戦争からの解放、そして新たな人生に興味はないか
﹁
こっからは俺のターン
!!!
俺に関わったのが運の尽きだ。
だがキャスターよ。
何を言われるのかと警戒しているのだろう。
俺が溜める言葉に、キャスターがこちらへと視線を鋭くする。
けじゃない事は知ってるんだ。簡単にあんたの願いを言うと│││﹂
﹁とある方法で︵まぁ原作知識からだが︶あんたが別に聖杯そのものに興味を持ってるわ
!!?
?
604
﹁ぶっちゃけすぎよ
﹂
って、そ、そそ、それが願いなわけないでしょ
小次郎のクールなツッコミ。
新しいジャンルだな、おい。
違うって言ってるでしょ
﹂
!!
振り回しながら否定してくるキャスター。
何この可愛い生き物⋮。
サーヴァントってこんな萌えキャラばっかだったっけ
?
?
めくるめくラブラブ生活が待ってるんだぜ
﹂
﹂
﹁はいはい、でもいいのかにゃあ∼ 認めてしまえば葛木宗一郎との甘∼い、甘∼∼い
どうしてこうなった⋮︵目反らし
なったし、キャスターはこうか。
ライダーはあれになったし、セイバーも素だとあれだし、アーチャーもあんなのに
?
顔を真っ赤にしながら︵フードから覗いてる部分だけで十分に分かる︶、手をワタワタ
﹁だ、だから
!!
!!?
?
﹁キャスターよ、それだけ動揺しては答えを言っているようなものだ﹂
!!
﹁ぶっちゃけ葛木宗一郎と平和にいちゃいちゃすることだろ
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
605
﹁ら、ラブラブ生活⋮⋮﹂
俺はキャスターに近づき、耳元で囁く。
キャスターの後ろでよくある効果の様に雷がピシャーンってなるのが幻視できてし
まう。
というか、今の俺はかなりあくどい笑い方をしてるんじゃなかろうか
?
まぁでも、キャスターの後ろで小次郎が笑いをこらえようとして結局吹き出している
くらいだし、良いよね
?
ろ
私が⋮、宗一郎様と⋮
けじゃなく、受肉も出来る事も分かってるんだろ イチャイチャラブラブしたいんだ
﹁ほら、楽になっちまえよ。認めてしまえって。俺の事見てたんなら、聖杯からの解放だ
どこぞの軍師のようにあわわはわわと言いながら悩んでるキャスター。
?
てきますのチューとかしちゃったりなんかしたりして。キャー﹂
せ、接吻のことよね⋮
?
﹁そ∼んでもって、あ∼んなことやこ∼んなことが⋮⋮﹂
ごくりと、キャスターが唾を飲む。
﹁ちゅ、チュー⋮
?
﹁あ、あんなことやこんなこ⋮と⋮⋮﹂
﹂
﹁そう⋮ラブラブ生活。朝起こしに行ったり、手料理を振舞ったり、正に新婚生活。行っ
606
?
ほらほらさあさあ。楽になっちまえって。ちょっと頷くだけで、そこにはふたっ
?
りきりのあまーい生活が待ってるぜぃ
俺は最後に、一気に畳みかけた。
キャスターまじちょろ。
﹁何
聞こえなかったよ
﹂
これはもう勝ち確定ですわ。
﹂
俺の言葉に覚悟を決めたのか、力を抜くキャスター。
?
ら
﹂
﹁イチャイチャラブラブの新婚生活がしたいですって言ったのよ
?
﹂
勝ったよイリヤ。この戦い、我々の勝利だ
対価は
?
何か文句あるかし
﹁そんな難しいこっちゃないよ。ちょっと俺の手伝いをしてもらうのと、お芝居をして
原因は俺とはいえ、もう何も言うまい。
る。
何だか吹っ切れた感があるキャスターは頬を染め、明後日の方向を見ながら聞いてく
﹁それで
?
!!
自分で煽っておきながら、最後の剣幕に内心ビビりながら勝った事を喜ぶ。
﹁ふ、ふふん、やっと素直になったか﹂
!!?
!!!
?
﹁⋮⋮⋮です﹂
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
607
もらおうかと思ってね﹂
﹂
?
と演技。ついでにとある少年のレベルアップをしたいんだ﹂
聖杯の器として目星付けてただろ
まあいいわ。ひとまず契約成立ってことね﹂
途中で葛木氏も来ての話し合いになったんだが、怖い。マジ怖いよあの人。
う名の意識誘導をしてくれるはずだ。
実はイリヤにも芝居の事は前もって話してあるので、時を見て士郎達に情報提供と言
?
﹁姉妹⋮﹂
﹁あんたが知ってる事を俺は知ってるんだぜ
﹁褒めてないわよ
﹁いや、それほどでも⋮﹂
﹁⋮ええそうよ知ってるわ。まったく、反則の塊よ。あなたのその情報能力﹂
?
そのあと、キャスターに原作通りのことを芝居してもらうことをお願いした。
!
﹂
﹁話せば長くなるんで簡単に言うけど、とある姉妹を腐った虫爺から救うための手伝い
﹁内容を言いなさい
608
『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』
609
何て言えばいいのかね⋮⋮。
どんなボケをかましても無反応に﹃そうか⋮﹄で済まされてしまうし、しかも寡黙だ
いや実際先生だっけか。
けど静かなオーラを感じて圧迫感がある。なんていうか、何もしてないのに生活指導の
先生に呼ばれて眼の前にしたような感覚
うーん、デカい壁の前に立っているような感じ
あーもう良く分からん。
あんたは蓮たんか
刹那を楽しむのに無用の長物だとかなんとか。
あ、小次郎は拒否られたよ。
いやつ︶を渡しといた。
とにかく、キャスター勢は揃ったんでスケープドールカード︵ちゃんと何も弄ってな
?
?
続きはまた明日ってことで
!
そんなわけで、俺の今日の目的は終了ってことで、帰って寝るとしよう。
ま、まぁ、俺としてはそれが佐々木小次郎としての幸せなら何も言うまい。
!
︶してみることにした。
?
の監督頼んで速攻出てきたのです。
?
とオフ会がどうのと言ってたし、ほんと何とかしないと⋮。
この間はチャット仲間らしいメイさん、ふじのんさん、あとぶろっさむさんって人達
らいだーとか引きこもり化してきてるから何とかしないとなんだけどね。
まだないけどさ。
アチャ夫さんとライダー︵むしろ〝らいだー〟︶にも勿論話したとも。2人の出番は
一応イリヤには昨日の事は話してある。元々計画の一部だしね。
鍛錬
昨日衛宮家に帰って次の日、イリヤに回復アイテム渡して、士郎の投影の鍛練ってか
そのために、キャスターから神殿を借りた。
前々からやってみようと思ってたやつだな。
突然だが、今日はちょっと修行︵実験
やーやー皆さんごきげんうるわしゅー。
﹃stage31:厨二病は不治の病﹄
610
『stage31:厨二病は不治の病』
611
さておき、実験だ。
というのも、これからの作戦ではどうしても俺自身の能力をランクアップさせる必要
があるのだ。厳密には使い慣れる、かな。
ただ、想定していた最悪の状況よりも良い流れである為、やらないといけないことが
減っていたりはする。
最悪の状況とは、キャスターの助力を得られない場合だ。
ルー
ル
ブ
レ
イ
カー
キシュア・ゼルレッチ
ぶっちゃけた話、ライダーとの契約でもある桜ちゃんを助ける為に必要だと考えたの
が〝破戒すべき全ての符〟と〝キャスターの技術〟、そして小次郎の〝秘剣燕返し〟の
三つ。
中でもルールブレイカーは桜ちゃんを助けた後でも必要になるから、アーチャーの無
限の剣製を得たうえで、最悪はルールブレイカーを強奪⋮⋮ゲフンゲフン⋮、コピーし
ようかと思っていた。
しかしながら、予想外にキャスターとの交渉がうまくいったので無限の剣製を使って
ルールブレイカーを手に入れる必要がなくなった。追加の交渉材料も用意してたんだ
キシュア・ゼルレッチ
けど、まぁ安くついたのならいいよね。同時に無限の剣製がいらない子になったけど、
ふむ、何か考えるかな。
まぁそんなわけで、一先ずは秘剣燕返しを扱えるようになるのが目標だ。
キシュア・ゼルレッチ
ではでは早速いってみよう。
実験1:秘剣燕返しを応用する。
これは単純に、他武器に対してやや早さに劣る大剣を態々使わなくても良い様にする
ためだ。
大剣はどうしても、威力はあるんだけど隙が大きい。
あと大きい分、範囲が広いためフレンドリーファイアの可能性が高い。
バーサーカーだけど味方攻撃しちゃダメだと思うの。イリヤに怒られるし。
だから、扱いやすい武器でキシュア・ゼルレッチを使っちゃおうって思う訳ですよ。
﹂
!
そして昨日の一戦を思い出しながらネギを振るった。
気合を入れ、構える。
﹁ふぅー⋮、せぇのっ
あえずネギにしてみた。なんだかんだで使いなれてるしね。
高位ランク武器を出してもよかったんだけど、失敗した時に周りの被害を考えてとり
まず呼び出したのは、片手剣のミクのネギセイバー。
﹁来い、ネギセイバー﹂
612
結果、生み出されるのは三閃の軌道を描く斬撃。
﹁うし、これはいけるな﹂
小次郎からラーニングした燕返しは問題なく使用できる。
けど、昨日の小次郎みたいに構える時間を待ってくれる相手なんてそうそう居る訳無
いし、このままじゃ剣の技でしかないから、ここからが本番。
ネギを持つ手はだらんと下げ、とある技を思い浮かべる。
﹂
!!
るかが最初の実験。
さておき今度はこの、それぞれの三連撃を燕返しと同じように同時に出るようにでき
とPAと認識してくれたのか一安心だ。
PAの動きを再現する時は自然に身体がそうすべきだと教えてくれるのだが、ちゃん
ゲームの中と違ってその程度の変更は出来るようだな。
ら両手持ちをするんだが、普通に戦闘するなら邪魔なので省いてみた。
本来ならば2回目の三連撃前に、左手に保持する武器︵もしくは盾︶を放り投げてか
片手剣︵セイバー︶系PA、インフィニットストーム。
け、斬り下ろし、逆袈裟に高速の三連撃。
大きく三連撃。身体を回しての横薙ぎ。そして決め手に、ネギを両手で持って袈裟掛
﹁っ
『stage31:厨二病は不治の病』
613
再びネギを構える。
燕返しの感覚を反芻し、同時にインフィニットストームの感覚を思い出す。
思い浮かべるのは超高速の連撃だ。
そして早く、何より早く││
﹂
三連撃、横薙ぎ後すぐに、決め手の三連撃。
﹁っるぁ
時を置き去りにするほどの超高速に至る様に叩き込む
しまった、根本的なところで間違ってしまっていた。
そこではたと気付いてしまった。
﹁って、あ⋮。これじゃダメだ﹂
思わず蓮たんの様に光となって破壊しちゃいそうな位に速さを求めたのに。
だよなぁ。
ただただ速く、燕返しの様に一閃一閃の間がなくなる様に頑張ったが、何かが違うん
そう、どこか違和感が付き纏う。
﹁⋮⋮なんか違う﹂
けど││、
自身に出せる最速で振るい、その速さの所為で3度なる筈の音は一つになる。
!!
!!
614
秘剣燕返しであるキシュア・ゼルレッチの本質は、平行世界から可能性を持ち出すこ
と。
蓮たんだと時間止めるだけじゃないか。
あ、いや、〝だけ〟って言うにはチート具合がおかしいけどね。それに止められたら
それはそれで嬉しいけど。
ともかく、いま大事なのは同じような存在を持ってきて重複させることだ。
﹁ふむ⋮﹂
ぶらりと下げていたネギを先程と同じ軌道で振るう。
勿論意識するのは今考えたように〝重複〟だ。
そのうえで再びのインフィニットストーム。
ついつい某無限の空を掛けるハーレム小説を思い浮かべそうになるが、そんなものは
思考の端にポイしてトライアゲイン。
うん、できてしまった。どうやらこれで良いようだ。
﹁⋮って、ええんかい﹂
今更だが、自分が渡された能力の制限がよくわからない。
﹁なんだろう、この釈然としない気持ち⋮﹂
自分で納得できたからってこう簡単に出来て良いのだろうか
?
『stage31:厨二病は不治の病』
615
出来るようにならないと困るけど、なんだろう、もにょる⋮。
き、気を取り直して次に行こうか⋮。
ツインダガー
ネギを直し、次の実験に必要な武器を思い浮かべる。
双小剣系、☆15、Sランク武器、
﹃過去と未来の過ちを支配し、表裏一体の運命をく
つがえす程の力を持つ﹄とされる、チートテキストを持つもの。
﹁さて、頑張ろうか。〝運命〟を変えるお前には大分頑張ってもらわなきゃいけないか
れてしまったものだな。
つい今さっき自身の能力について訳が分からないと零したくせに、なんだかんだで慣
剣に意志があるかはさておき、思わず笑みが漏れてしまう。
すると同時、鍔の辺りにあるフォトンラインが少し輝いたように見えた。
そう、話しかけるように口にする。
﹁これで、お前を使えるよ。おまたせ⋮﹂
上はある対の剣。
現れたのはハンドガードが付いたダガーをそのまま大きくしたような刃渡り1m以
手の中にズシリとした重みが生まれる。
﹁来い、サイカ・ヒョウリ﹂
616
『stage31:厨二病は不治の病』
617
らな﹂
・
・
・
めっさ疲れた。めがっさ疲れちまったよ。
今は地面に座り休憩なうです。
いやまぁ調子に乗って色々した俺が悪いんだけどもね。
この世界の魔術師達
魔力やらなんやらは無限に有ったとしてもそれを操る俺の精神が疲れるのはどうし
ようもない。
けど疲れただけの成果はあった。
むしろ疲れるだけで済んでることをありがたがるべきかね
が聞けば卒倒するようなことをしてるわけだし。
でもまぁ、これで救う手立てがそろったわけだ。
厳密には準備が整っただけではあるけどね。
それでも、これで光明が見えた。 ?
運命を覆すサイカ・ヒョウリ。ifを手繰り寄せるキシュア・ゼルレッチ。
ファンブル
この組み合わせこそが、俺がイリヤに内緒でやろうとしてる最後の締めに必要なの
だ。
それにこれさえあれば、もしも失 敗しても大丈夫だ。
ってそうじゃない。ゲーム脳やめい自分。
いや待てよ、悪くはないか。
上手くいけば〝幻想舞踏〟が出来る訳だし、もっと高度な、例えば⋮〝陀羅尼摩利支
天〟とか使えたり⋮⋮。
俺は立ち上がり、再び開けたな所まで来る。
ここでテンション上がらなくて何がオタクだというのだろうか。
まだまだ俄かではあるだろうが、それでもオタク道をそこそこ歩んだのだ。
行動に移さざるを得なかった。
先程までの疲れはどこへやら、好きな技を再現できるかもしれないと思ってしまえば
実験2:運命操作︵幻想舞踏︶
﹁物は試しか﹂
618
﹂
そして再びサイカ・ヒョウリを呼び出し、両手に持つ。
﹁よしやるか
さぁ夢の幻想舞踏だ
クリティカル
!
ないのでこれも思考の片隅にポイする。
運命を操ると言うとどこぞの吸血鬼なおぜうさまを思い浮かべてしまうが、今は関係
それを思い浮かべ、それを再現するために運命を操作をする。
る。
アニメ版ではあかりんがそれを使ってスタイリッシュ回避をしていたのを覚えてい
効果は失 敗を強制的に成 功にする、回数制限はあるがかなりチートな技だ。
ファンブル
これは某夜闇の魔法使いに出てくる強化人間が使えるスキルの一つだ。
まずは幻想舞踏かな。
気合十分に叫ぶ。
!!
思わず、orzな姿勢で項垂れてしまった。
これ、カウンター技やん。
﹁⋮⋮﹂
『stage31:厨二病は不治の病』
619
620
活き込んだのは良いが、攻撃を受けてからじゃないと意味が無い技だった。
かと言って俺はMじゃないから、自分から攻撃されに行くような趣味もないのでこの
アイデアはお蔵入りかな。
実験3:運命操作︵陀羅尼摩利支天︶
では、もう一個の方の〝陀羅尼摩利支天〟はどうだろうか
まぁそれなりに欠点は確かにある。
攻撃が当たる自分を持ってくることもできる。
例えば、致命傷を負っても無傷の自分を手繰り寄せて回避したりもできる。勿論逆に
の行動を起こすことが出来るという、解りやすく言えばチートな分身技だ。
その効果はかなり汎用性が高く、平行世界の自分を手繰り寄せ、その結果一度に複数
くすぐるゲームに出てくるヒロインの一人のスキルだ。
こちらは﹃神咒神威神楽﹄という18禁PCゲーでありながら燃えゲーという厨二心
?
でも俺はあのゲームをやっていて、この技が一番好きだった。
というわけで、再現だ
!!
﹁活き込んだは良いけど、そもそも分身ってどうやるの
結果:今回もダメだったよ⋮。
実験4:螺旋丸+一方通行アクセラレータ。
これはただ単に、やってみたいだけの技だね。
えーっと、確かチャクラを乱回転させてだったよな
﹂
思い付き技が今の所駄目だったので、もうやけになって色々やることにしたのだ。 ?
?
とりあえずチャクラって言われてもよくわからんので魔力で代用することにする。
﹂
!!
何せ俺の場合はそのものを操作するだけでなく、頭の中で想像することでその形に寄
乱回転のイメージも、思ったより難しくない。
オドとかマナとか俺には関係ないから、とりあえず集めてみたら出来ちまったよ。
おお∼、成功成功。
﹁魔力を手に集めて∼乱回転
『stage31:厨二病は不治の病』
621
せることが出来るのだから。
これもオタクのなせる妄想力ゆえにか⋮。
どこかの忍者たちがこれを知ったら涙もんだろうな。
最初はゆっくり、そしてどんどん風の量を増やしていく。
縮していくのを忘れない。圧縮して圧縮してと繰り返す。
あ、ただ乱回転に風を加えても体積が増えちゃうだけなので、内側に内側に向けて圧
すぐにはできなかったが、繰り返すうちに何とかわかり始めた。
を変更する。
た球体の回転を、今度は風を吸い込んでいくようにイメージさせながら魔力の回転方向
念のため風を操作するという概念を持つディスカサイクロン持ちながら手元にでき
きでしかないけど、どうなるのか興味があるのだ。
厳密には螺旋丸に属性を付けるのではなく物理的な風を起こしてるだけだからもど
﹁螺旋丸に属性をつけるのは超難しいって話だったけど、もどきだから行けそうだな﹂
だ。
それはアクセラレータが使っていた風を集めて圧縮しプラズマ化させるというアレ
右手に螺旋丸︵もどき︶を作ったまま、続きのイメージをする。
﹁おっと、ここで終了したらダメじゃん。えー、続いて⋮﹂
622
それをちょっとの間、いや、風王結界余裕で出来ちゃうんじゃないかっていう位やっ
ていると、螺旋丸︵もどき︶からバチッ、バチバチッと音がし始める。
まだ終わらんよ
バチバチと、俺の手の中の螺旋丸がもう雷球になり始めた。
﹁お、良い感じ良い感じ﹂
まだだ
!
なんだか何もかもを吸い込んでいっちゃいそうな⋮。
ちょっと怖くなった⋮。
せている。
途中から自重せずに風を送り込んだからか、取り込まれていく風が服やらをはためか
今やバリバリガリガリと煩いほどの轟音を生み出し始めた。
やがて、球体を直視できないほどの光と熱量を生み出し、バチバチとなっていた音は
ぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんと、更に風を加えて内側に乱回転させつつ、圧縮していく。
!
あ、ちょ、これなに
なんでか、風が勝手に吸い込まれていく。
?
あのあの、止まらないんすけど⋮。
﹁よ、よーし、とりあえずこの辺で止めてっと⋮⋮﹂
『stage31:厨二病は不治の病』
623
624
ディスカサイクロンで制御しようとしても、何故か出来ない。焦っているからか言う
ことを聞かない。
もう服がバタバタ言うレベルじゃなくてもう小型の台風位の風が俺の周りに発生し
ている。
なんかいやーな予感がするんすけど
螺旋丸がもうまるで掌大のブラックホールです。
あれー
?
まっている。
どうしてこうなった⋮。
真っ黒な球体を見ながらそう独り言ちる。
そこでふと思いだす。
そういや⋮、さっき俺は何を想像した⋮
?
〝何もかもを吸い込んでいっちゃいそうな〟
〝まるで拳大のブラックホール〟
うん、とりあえず投げようか。
?
?
光も吸い込んでるのか、光り輝いていた球体は今や何も見えない真っ黒になってし
になってきた。
さっきまでぎゅんぎゅん言ってたのに、まるで音まで吸っていってるのかやけに静か
?
﹂
!!
カッ
あ、俺は寸前に神殿のある空間を脱出したので無事でした、まる。
悪いキャスターやっちゃった︵笑︶
結果:神殿がある空間が消滅しちゃいました。
とりあえず結果だけ言おうじゃないか。
!!!!!!
これだけ遠くなら│││。
キャスターには大分広くしてもらったので、キロ単位で遠くに投げる。
どういう物理法則が適応されているのか、ヒュゥンと遠くに飛んでいく黒い球体。
近くだと嫌な予感しかしないので出来るだけ遠くに投げる。
﹁ううぅりゃっ
『stage31:厨二病は不治の病』
625
626
マギア・エレベア
実験5:闇の魔法+SLB
気を取り直して、次に行こう。
もう一度、キャスターに神殿を作ってもらう。
俺には
申し訳ないんで、俺の魔力を好きに使って良いって言ったら、また作ってくれた。
なんか、さめざめと泣いてた気がするが、目にゴミでも入ったのかな
そういえば、キャスターによると、限界まで結界を固くしたらしい。
内側で核が爆発しようが負けないって言ってた。
それを言う時は何でか泣きながら怒るように言ってたけど、なんだろうね
分かんないや。
とりあえず良さ気なペアグッズとか送っておくか。
さておき、キャスターが頑張ってくれたわけだしやるか。
?
?
白い魔王の方は前にやった事あるから良いとして、闇の〇法はやったことないし、
﹃幻
想を現実にする程度の能力﹄で代用だな。
できるかな
?
いや疑問を持っちゃだめだ。俺はできる子。
まずはネギウォンドを取り出し、SLBを生み出す感覚を思い出す。
今回アストラルライザーを使わないのは、〝掌握〟を出来ないからだ。
︵涙目
いやだって、銃口までの距離と、幼女な俺の手の長さを考えてほしい。
な、無理だろ
?
えてしまったからだろうか。
少し光球が小さい気もするが、それはアストラルライザーを使って無い所為だって考
出来た。
やがて、杖の先に周囲の光を吸収しながら拡大していく光球が出来る。
そう、〝考える〟。
冷静に集中し、感覚を思い出すだけの作業だ。
一度やったことだ。
杖を掲げ、周囲の光を集める。
始める。
自虐して無駄に自分の精神力を疲れさせてる場合じゃなかったのを思い出し、詠唱を
﹁咎人達に、滅びの光を。星よ、集え。全てを撃ち抜く光となれ﹂
『stage31:厨二病は不治の病』
627
まぁでも出来たのだからそれでいい。
ふむ、先程の光球とは違い静かなものだ。
掌握
﹂
それをもう片方の手のところへ持っていく。
﹁術式固定
カッ
!
元ネタ主人公だって、某バグキャラだって最初から上手くいったわけじゃないし。
まぁそりゃそうだよね。
結果:神殿を巻き込んで自爆。
さて、また結果を言おう。
!!!!!!
!
628
『stage31:厨二病は不治の病』
629
ちなみに、キャスターさんに怒られました。涙目で怒られました。
過労死させたいの
﹄なんていわれましたが、そんな
再び俺の魔力を使って、さらに強化して作ってもらった。
私を苛めたいの
ビックバンでも何でもこいや│だそうです。
﹃何なの
大切な仲間ですもの。
!?
しかし俺の場合﹃闇の〇法﹄でSLBを取り込んだ結果、なんと、常時光粒子化に成
果になっていたわけだ。
う効果を得、雷であるために攻撃をほぼ無効、さらに雷並みのスピードを得るという結
原作では薬味小僧が﹃闇の魔法﹄により﹃千の雷﹄を取り込み、身体が雷化するとい
では皆さんお楽しみの効果です。
だけどね。
その内何か良いのが思い浮かんだら名前を変えようと思う。無かったらそのまんま
まあ名付けたって言っても暫定なんだけどね。
名前の元ネタはお察しでお願いします。
ちなみに﹃星光魔王﹄って名付けたよ。
とりあえずは、だけどね。
さておき、その後も何回かやったら成功しました。
わけないじゃないですか。ねぇ
?
?
?
630
功
つまりあれだ、俺がガンダ〇だ
攻撃何それ美味しいの
しかもだ。
わるとどうなるか│││。
みたいなチート状態になっちゃうわけだ。
時間を置き去りに出来るんです⋮。
あぁ、そんなアホの子を見るような眼をしないで⋮
ものすごい欠点がある。
!!
次に、使用中は俺の認識が追いつかないから予め移動するところを決めておかないと
まず詠唱と集中にかなり時間がかかる。
ただし
いや、そう思ったからそうなったのかもしれないけどさ。
たぶんそれだね。
どうとかをテレビかなんかで言ってたんだよ。
俺もうろ覚えだし、よく理解できなかったけど確か相対性理論がどうとか浦島効果が
!!
さらにさらに、デフォルトのスピードが光の速さなもんで、そこに俺自身の速さが加
間に地球を7周半できる速さになるわけだ。
身体は光と化しているわけだから、スピードは三十万km/毎秒つまり俗に言う1秒
?
!!
!!
『stage31:厨二病は不治の病』
631
自己る可能性が高い。
最後に、かなり疲れる。
結論、お蔵入りかな
おいこらキャスター肩をポンとかやめろ
マジで泣きたく⋮ふえ⋮⋮。
ネタ技として割り切ろう
ごほん
よし
!
俺の努力︵度重なる自爆︶は何だったんだろうか⋮。
!
ハイハイキャスターさんなんですか
んじゃ、次は⋮と。
ん
!!
!!
もう神殿を壊さないでほしいから、派手なのはやめてほしい
?
!
昨日の小次郎との戦いでも、セイバー戦でも思ったが、スペックで何とか勝てている
よくよく考えたら俺にとって武術って死活問題なんだよね。
というわけで、魔法関係はやめて﹃武術﹄関連の練習をしよう。
仕方が無い。
まぁ、成功or自爆︵=神殿破壊︶だったし、言いたいことは分かるけどもさ。
?
?
632
部分があるだけで、技量や経験が圧倒的に俺には足りない。
セイバー、アーチャーはマスターの所為で制限受けてたり、ダメージ受けてるっぽ
かったりで身体能力で勝つことできたけど、小次郎戦じゃあ身体能力だけじゃ中々勝て
なかったし⋮ってか、結局勝敗決まってないし⋮。
つまり、この先ランサー戦をするにあたり武術関連をどうにかしないといけないの
だ。
一応プランはある。
あと、やりたいこともある。
この身体になる以前も武術の武の字も知らん男だった。
と思ったわけですよ。
でも、武術も﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄で良いとこまでもっていけるんじゃ
ないか
俺がここまでの戦闘でラーニングによって得た技術は確かにすごいが、まだ俺の中で
﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄でどこまで再現できるかってのもあるか。
あとは、これらを自分にどう適応させるかが問題だ。
それに自身の動きだけでなく、相対した相手の動きも目に焼き付いている。
いると思う。
冬木に来て、いくつかの戦いを見たり実際に行ったことで多少の戦闘感覚は生まれて
?
『stage31:厨二病は不治の病』
633
バラバラだし理解できていない。ただのサルマネ状態なわけだ。
これを何とか形にしたい。
やっぱりさ、バトルマニアとまでは行かないだろうが、俺も男の子だ。
悲しきかな身体は女の子状態だが心は男だ。
闘いというものに憧れがあるし、熱い攻防ってのをしてみたい。
それに、〝獣の本能〟ってのも俺を掻きたてる。
とはいえ、俺が思いつける武術なんてアニメやゲームのものだ。
合理性を求める実践の中でどれだけ使えるものがあるかわからないが、何かは上手く
あてはまるかもしれない。
無かったら無かったで最初からやるだけだ。
だから、とりあえずやってみよう。
実験6:二槍流
武術部門エントリーナンバー1番は戦国BAS〇RAより真田幸村の槍の二刀流︵二
槍流︶だ。
﹂
いや別に、BASA〇RAに詳しいわけじゃないんだけど、アニメ見ててかっこよ
かったんだよねぇ。
スピア、スピナアタ
そんなわけで。
﹁来い
!!
それを両手で持ち、真田を思い出して構える。
ウオオオオォォォうわぷっ
ぎりぎりまで真田をトレースする。
我が魂ィィィィっ
いくでござる
﹁燃えよぉ
HAHAHA
!!
これは予想してなかったぞコンチクショウ
!!?
そうだよ
槍二本扱うのに身長足んなかったんだよ
始めたと思った瞬間にこれとか⋮神は俺に恨みでもあるのか
あ、一応俺もか⋮。
!!?
!!
!!
まぁ、いつものごとく結果を言うとだな。槍が⋮槍が引っ掛かったんだ⋮地面に⋮。
!!
!!
!!
!!
﹂
今回は武器の強さは必要ないので、初期レベル武器の内の2槍を呼び出す。
!
634
ちくせう⋮。
俺はあきらめねぇ
こんな所でやめたらただの負け犬ではないか
実験6:6爪流
勝ち犬になるんだ
!
アル・セバラ
﹂
さて気を取り直してもう一度⋮︵ガシャン︶⋮おかしいなぁ⋮疲れてるのかな
これを両手にっと⋮︵ガシャン︶⋮おっと手が滑っちまったぜ。
!
リョウサベラ
!
呼び出すのは初期レベル武器の双手剣3セット。
!
ほら俺ってビーストだからさ、案外これって合うんじゃないかなって思ってさ。
これは、片手に3本、計6本の刀を指で挟んで爪に見立てるというものです。
同じく、BAS〇RAより伊達正宗の6爪流いきます。
!!
!
よし、もう一度だ。
?
﹁来いツインセイバー
『stage31:厨二病は不治の病』
635
636
何でだろう前が見にくいよ。
こうやって指の間に⋮︵ガシャン︶⋮指の⋮間⋮に⋮⋮。
うぅ⋮⋮。
おかしいな
まぁ、なんだ。結果報告。
あれは目から汗が出ただけだ
ねぇ
この身体になってから、やっぱり精神が引っ張られてるのか涙もろk⋮って泣いて
すまんとりみだした。
・
・
・
ぼやけて見えるよ。
?
どうしよう、他にも何個かあるけどもう心のHPが限界だ。
始まる前に終わってしまった⋮。
手が小さくて持てませんでした。以上。
!!
!!
やる気が起きない。
ついついそこらに放り出してしまっていた武器を直し、俺は地面に三角座りをする。
そして、アイテムボックスからたい焼きを取り出し咥える。
うまー⋮。
餡子味の筈なのにしょっぱいのは何でかなぁ⋮。
⋮おう
?
小次郎だった。
門で見張りじゃなかったっけ
?
﹂
?
鼻を押さえながら、地面で悶えてるキャスターさんが居ました。
﹁へ
すると、少し離れた所にある建物の影、そこに⋮。
そう言い、小次郎が俺の後ろの方に目線を送ったのでそちらを俺も見る。
﹁いや、なに、そこに居るキャスターに呼ばれてな﹂
﹁どうしたん
﹂
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、そこに居たの長髪の着流しを着たイケメン、
?
﹁稽古中に失礼するぞ﹂
『stage31:厨二病は不治の病』
637
って、キャスターさん何してんの
﹂
? !?
わ﹂
あんた見てただろ
!!?
しかも録ってたのか
録ってたんだろ
!?
!?
﹁アサシン命令よ。あの子に武術関係の事を教えてあげなさい。私は魔術関連を教える
まさか│││、
何故かキャスターさんの手にはビデオカメラがあるのだ。
ただ、一つ気になる点がある。
それを裾で、ごしごしとふき取るキャスターさん。
あ、鼻血を押さえてたのか。
そうしてやっと起きるキャスター。
それどころかまだ再起動できないキャスターを刀の柄でつつく。
﹁⋮起きろ﹂
この状況で話しかけるとか、あんた勇者や。
そんなキャスターさんを意にも留めずに話しかける小次郎。
﹁キャスター、新たな命令とはなんだ
638
録ってたんだな
﹁って、ちょっと待った
﹁ふむ、確かに⋮﹂
ダメージは大きいよ
キャスターが見てたのはこの際置いておくとして、なんで教
﹂
!!
!?
俺のライフはもうゼロだよ
﹂
﹁おい今不憫っていいそうになったよな てか、かわいそうって言い直したところで
﹁あまりにも⋮⋮ふびn⋮かわいそうだったから⋮⋮﹂
えるって話しになんのさ
!
?
!?
横で神妙に頷きながら同意する小次郎。
!!
⋮⋮
勿体ない
どゆこと
?
﹂
!?
思わず縮地レベルで小次郎に詰め寄ってしまう。
﹁ほ、ほんとに
はそれなりのものであった。それ以前のものも悪くはない﹂
﹁天才とまではいかぬが才がないわけでは無かろう。門前での一勝負の際の最後の動き
?
?
﹁勘違いするな。不憫だと思ったのは勿体ないと思った故にだ﹂
う﹂
﹁あ ん た は あ ん た で 何 同 意 し て ん だ よ。そ の 真 剣 に 頷 い て る 感 じ の せ い で マ ジ 泣 き そ
『stage31:厨二病は不治の病』
639
だがそれなりの勢いで行ったにかかわらず、小次郎は真剣な目でこちらを見ている。
自分で来ておいてなんだけど、真剣な顔でガン見されると流石に恥ずかしいな。
俺はそっと離れた。
そんな俺を気にせず、小次郎は次にキャスターの方を向く。
う
武の土台程度なら見ないこともない﹂
いや、それはあんたもだろ。
﹁あら、断られると思っていたのに。どういう風の吹き回し
とてつもなく。
それと、俺の意見は聞かないんですね。
いや嬉しいよ
?
?
き
あれま。小次郎が微妙に性格変わってる
いを求める感じだった気がする。
いや、俺を強くして勝負したいってなら一緒か
でも、これっていい流れ
?
?
前向き⋮って言うのとは少し違うけど、原作で知ってる小次郎はただ強いものとの戦
?
﹁いやなに、未来というものに少し興味が湧いてな。ただの戯れだ﹂
さ
ただ、ちょっとは聞いて欲しかったなって思ったりしなかったり。
?
﹂
﹁キャスターよ。良かろう。貴様の事だ、門前の警護の件も何かしらの策はあるのだろ
640
ひょっとしてここからは俺の頑張り次第で小次郎も
ともかくこれはかなり嬉しいぜ。
﹁やった。ありがとうな﹂
﹁ええ﹂
﹁うむ﹂
﹁えっと、ホントに稽古つけてくれるのか
﹂
あ、別に小次郎ルート開拓って訳じゃないんで座ってて下さいね。
?
でも、喜ぶ分にはいいか。
やはり感情がすぐに出てしまうな。
おそらく今の自分は満面の笑みをしているだろう。
その小次郎から土台とはいえ教えてもらえるのだ。喜ばないわけがない。
俺にとって恐らく一番相性が悪いのは小次郎だった。
?
だ﹂
﹁勘 違 い し て も ら っ て は 困 る。娘 が 強 く な る こ と は 私 に と っ て も 得 が あ る だ け の こ と
うからよ﹂
﹁か、勘違いしないで。ギブアンドテイク。あくまでも私も利益を得ることをしてもら
『stage31:厨二病は不治の病』
641
なにこの同じタイミングでのツンデレ発言。
え、俺変な顔してた
?
何故に二人してそっぽ向くし。
﹁む、うむ﹂
﹁⋮ええ﹂
だから、精一杯の感謝をする。
予想外のことだが、これで俺はまた一歩ハッピーエンドへ近づけるだろう。
感謝を。
﹁そっか。でも、それでもありがとうな﹂
642
﹂
﹃stage32:宝の持ち腐れと言わないで﹄
﹁待って。もっかい言って
今明かされる驚愕の真実ぅ
って、俺40歳になってないよ
30歳だっけ
サブミッション
もしくは虚無とかあの辺ですか
そうかわかったぞ。シャバドゥビタッチヘンシーン
違うか。
!
でもあれは魔導士だよな⋮。
!?
!
SLB使ったから魔法使い
くぎゅううううううううう
って使えないよ
ど、どどどど、どうていちゃうわ
いやどっちにしろなってないよ
?
!?
?
まさか王者の技か
!!
!!
?
!!!
?
?
﹁だから、あなたは魔法使いになれるわ﹂
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
643
ふむ、となると術式解体か だけど妹は居るとはいえシスコンでは無いしなぁ。う
ん、違う。
のかわけワカメでござる。
俺の頭ではそこへ至る理屈がわからない。
﹁はぁ、宝の持ち腐れね⋮。よく聞きなさい
﹂
さておきその途中であなたは魔法使いにどうのってなったわけだが、なぜそうなった
りした。若干 弄られたので電撃流した。
まさぐ
たり、逆にキャスターに抱えてもらってだけど浮遊や転移の魔術を体験させてもらった
そのあと、キャスターに何故か魔術爆撃されたり、この間覚えた投影魔術を見て貰っ
披露した。
まず初めに、キャスターに俺のスペックを見せた後、テクニックと練習中の技なども
キャスターから教わってるんだけども、その途中で言われたのが冒頭の言葉だった。
先程キャスターと小次郎の双方から修行つけてやる的なことを言われてすぐ、早速
よくわからない電波を拾ってしまっていたようだ。
﹁はっ、俺は何を⋮﹂
﹁⋮何を一人で百面相しているのかしら﹂
?
何故かすごく残念な子を見る目で溜息をつかれたんだが⋮。
?
644
解せぬ。
まず初めに言うけど、あなた自身も言った様にあなたはルールがずれている
でもまぁ教えてくれるなら一先ず静かに聞こうじゃないか。
わ﹂
﹁良い
そういう設定だからねこの身体は
﹁まぁ異世界の英雄だし⋮一応⋮﹂
!
?
りえない﹂
じ
ありえないってナンデデスカ
ま
あのあの、真剣な顔でディスるの止めてくれませんかねぇ
俺は霞む視界を気にせずキャスターの話に集中する。
死にたくなるので。
﹁あのねぇ。霊地との契約はその場所だから出来るのよ 世界中の龍脈が繋がってい
?
?
﹁違うわ。あなたの能力には色々不可解な点があるの。例えば龍脈への接続だけど、あ
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
るとはいえ、霊地と呼ばれる龍穴のある場所、つまりマナが吹き出す場所の上に居るか
?
らこそ高純度のマナを利用することが出来る。なのにあなたは龍穴の上ではない場所
﹂
でも魔力を自身に供給できると言う。不思議ね﹂
?
確かに、俺が繋がった場所はアインツベルンの城でだ。
﹁⋮マジで
645
でも俺はこっちに来てからもマナを使用していた。
でもそれは本来の法則とは違っている。
つまり使っていると思っていた
﹂
﹁やっぱりね﹂
﹁え、あれ
まさしくその通りだ。
﹂
そう考えた瞬間、何かが切れた感覚があった。
?
﹁たった今、魔力の供給が切れたんじゃない
?
れる感覚が無くなった。
﹁って何してくれてんのぉぉっ
ほんとこの人何しくれてんの
﹂
まだラスボスまで行ってないんだよ
﹂
それなのにここへきてスペックダウンとかやばいよね
いやヤバいどころじゃないよね
﹁落ち着きなさい。計算通りよ﹂
﹁いや、ちょ、おま、落ち着けって、どうすんのさ
!?
!?
!?
!?
!!!???
!?
初めからあった魔力が回復する感覚とは別に存在していた、何処からともなく供給さ
?
646
﹂
﹂
﹁だから落ち着きなさいって言ってるでしょうこの獣娘
﹂
﹁落ち着ける訳無いでしょうよ
﹁伏せ
﹁ぐふぅっ
!?
﹂
!!
もう泣いていいかな
あ、視界が霞んでいるのは汗です汗。汗ったら汗。
?
そんな俺を見て、再び溜息をつくキャスター。
理不尽だ。
ている。
立ち上がりながらもキャスターに無言の訴えを送るがしれっとした顔でこちらを見
上がる。
身体の上から伸し掛かっていた重力が切れたので、服についた汚れを払いながら立ち
あと犬扱いすんなし。人だ人。
確かに落ち着いたけど、これは無いと思うんだ。
なんか重力っぽいものでキャスターに押しつぶされた。
!?
!!
かない﹂
﹁あのねぇ、正直に言ってその無限の魔力は現状あなたには不要なの。むしろ邪魔でし
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
647
﹁どういうこと
﹂
?
﹂
?
﹁えっと⋮⋮、ワカリマセン⋮﹂
結果だけを持って来ているの。その危険性がわかるかしら
﹂
なのにあなたは最初の供給の時点から間違っているから課程をすべて間違った状態で
﹁魔術を使うならばマナかオドか、それだけじゃなく様々な指定が必要になって来る。
﹁ほむ⋮﹂
とになる。実際には自分の物を使っているのにね﹂
なったままなわけだから、魔力を使う際にも外部の物を使うという余計な過程を挟むこ
﹁け ど、勘 違 い の ま ま だ と あ な た は そ の 魔 力 の 供 給 元 を 外 部 に 依 存 し て い る つ も り に
つまりあれだろ、無限の魔力を作れるとさえ思えればできる訳だ。
その勘違いでって部分に哀しみしか生まれないが、理論は分かる。
お、おう⋮。
けでの潜在性があるってことよ﹂
﹁つまり、あなたの能力は勘違いではなく使い方によっては自ら無限の魔力を作れるだ
﹁うん、まぁ⋮﹂
ここまでは良い
﹁今のことでわかったと思うけど、あなたは無限の魔力を勘違いによって生成していた。
648
?
﹂
﹁今にも爆発しそうな火薬庫に大量の爆薬を叩き込むってことよ
殿でしょうが
その結果があの神
!!
ければあなたはいつか自身を滅ぼすことになる﹂
れは所謂魔法の領域よ。それをいつの間にか使っている状態ではなく扱うようにしな
﹁⋮コホン。最初の話に戻るけど、あなたは魔力を無限に生成するスペックがある。そ
平身低頭覇。
すかさず土下座の体勢に入る俺。
!!
何番目だったっけ
﹂
カードをキャプターする小学生が出すと可愛い声だけど、中身が男の俺が出してもキ
思わず気の抜けた声が出る。
?
?
﹁ほえ
﹂
﹁コウジュ、一つ言っておくけどあなたが使っている魔法はその一つだけではないわよ
?
原作でも確か無限の魔力についての魔法があったな。
しかし、なるほどそれが魔法使いに繋がる訳か。
頭を低くして礼を言う。
﹁忠告痛み入ります﹂
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
649
モイだけだな。
だが、それほどにキャスターの言葉を理解できなかったのだ。
﹂
!?
らゆる代償は無しでよ﹂
それってもろに﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄じゃないっすか
いや、だからこそ魔力を何も無い所から精製できる
﹁そうよ、次に第二魔法﹃並行世界の運営・干渉﹄⋮。あのカードを使って場所を移動す
﹁第一魔法が﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄に値するわけだ﹂
あ、でも、神様なら強弱はあるけど持ってるって話しだったし⋮。
?
?
無の否定つまりは有の肯定、おそらく創生の事を言っているのでしょうね。それもあ
の詳細は既に失われているけど予想は立てられる。
﹁引かないで欲しいのだけど⋮⋮。ふう⋮、話を戻すわ。まず第一魔法﹃無の否定﹄これ
その瞬間俺は引いた。二つの意味で。
﹁ち、近いわよ。役得だけども⋮﹂
淡々と語り始めるキャスターについ詰め寄る。
﹁ど、どういうこと
第一魔法に相当するでしょう﹂
﹁まず無限の魔力については第二魔法に思えるけどその実、無から作り出しているから
650
るやつがそれなのよね、話を聞く限り。﹂
﹂
﹁おおぅ⋮。というか一回違う世界行っちゃったし⋮。あれ
く多次元世界か
キャスターが頭を押さえつつ、続きを話す。
﹁うわ、投げやりになってきた﹂
﹂
並行世界どころじゃな
わさってるのでしょうけど、すでに無い肉体を魂から再構成⋮。はい第三魔法﹂
?
﹁あ、第二魔法か﹂
第一魔法も組み合
﹁それと、ラーニングだったかしら⋮。それでアサシンの技も覚えたのでしょう
?
第 四 魔 法 ⋮ は 詳 細 不 明 だ か ら 置 い て お い て。
!
が有力よ時間旅行というほどでもないけど、時間⋮操れるのでしょう
うん、ツミキリ・ヒョウリさえあればたぶんできるだろうな⋮。
﹁た、たぶん⋮﹂
﹂
?
?
﹁﹃破壊﹄⋮は違うけど⋮でも、さっき聞いた武器の中にそんなのがあったわよね
﹂
﹁そして第五魔法﹃青﹄。これも詳しくは詳細が分からないけど﹃破壊﹄や﹃時間旅行﹄説
もしもーし、俺ビーストなんで聞こえてますよー。
⋮⋮この子なら知らない内に使ってそうだけどね︵ボソ︶﹂
﹁誰 の せ い だ と 思 っ て る の よ ⋮。次
?
?
﹁続いて第三魔法﹃魂の物質化﹄。これはあのスケープドールよね
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
651
﹁あります、はい﹂
﹂
﹂
新しい魔法の概念をあなたは作り出しているわ﹂
﹁⋮はい
﹁魔法というもの自体については分かる
﹂
?
通りよ﹂
?
一人だけ違うルールを基にして動いているのよ。
﹁あなたが元居た世界の法則⋮なのかはわからないけど、あなたはこの世界に居るのに
﹁つまりどういうことだってばよ
﹂
あなた、前に言ったわよね。自分は違うルールの下で動いているって。まさしくその
いる。でも私たち魔術師は歴としたルール、現象に沿って魔術を行使している。
さっきも言ったけど、あなたはこの世界の現象を利用するくせにその過程を無視して
﹁言い換えるならばルール変更ね。
﹁﹃矛盾﹄⋮
名前を付けるなら⋮﹃矛盾﹄かしら﹂
﹁ええ、そして今の時点であげられている魔法に該当しないから新しい魔法よ。あえて
?
?
?
﹁えっと、あらゆる技術を使っても再現できない現象⋮だっけ
﹂
﹁最後に、これはあなたの﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄が原因だとは思うのだけど、
652
恐らくあなたの﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄というものが影響しているのだろ
うけど、単純に第一魔法の様に作り出しているだけではなく、手順から生み出されるは
ずの結果を捻じ曲げている所を何回か見たわ。例えるなら化学も魔術も火を起こせば
その結果何かが燃えるわけだけど、あなたの場合は凍らせることが出来るのよ。
ルー
ル
ひょっとすると、さっきの魔力供給の件も、私が見る限りではコウジュ自らが生成し
﹂
ているように見えたけど、〝龍脈からの供給〟というあなたの勘違いの所為でどこかで
この理不尽娘
実際には繋がっていたのかもしれないわね。﹂
﹁あなたはそれくらいの事をしているのよ
!!
じゃあ今の話いらないじゃん﹂
?
者質な人だけですよーだ⋮﹂
はぁ、⋮どうせこのすごさが分かるのは結果ではなくそこに至る事を目的とした研究
いいじゃない。態々余計な手順を踏まなくても。
﹁だって、さっきの火の話を交えて言うと、凍らせることが目的なら初めから凍らせれば
﹁え
﹁ま、まぁいいわ。今のあなたでは宝の持ち腐れでしかないし﹂
キャスターさんがしてくれた講義の半分以上が理解できません。
﹁⋮⋮解せぬ﹂
!!
﹁うっそだー﹂
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
653
キャスターさんがついに拗ねてしまいました。
﹂
実際にしてるわけではないけど、地面に﹃の﹄の字を書いてるキャスターさんが幻視
できる。
こ、これは俺が悪いのかな
﹂
﹁あ、そ、そうだ。これって何か応用とかできないかな
とりあえず話を変えよう⋮。
?
﹂
?
だがそれも仕方ない。
驚愕に彩られるキャスターの表情。 ﹁嘘、どうしてあなたがそれを持っているの⋮
﹂
それは辺りへと眩い輝きを放ちながら俺に握られている。
俺はそう言いながら一本の剣を取り出した。
﹁これとかどうかな
それはさておき、先程の話を聞きふと思いついたものがあったのだ。
でもやっぱり目は残念な子を見る目なので俺の精神が死にそうです。
フードを取っているから、不貞腐れていても綺麗なのがよくわかる。
キャスターさんが不貞腐れた顔のままこちらを見る。
﹁⋮例えば
?
?
654
?
俺が取り出したのは、黄金の剣。
セ イ バー
騎士王の象徴にして、最強最大の武器でもある長剣。星々によって鍛えられた神造兵
装といわれる片手剣。
つまり、エクスカリバーだ。
﹂
?
しかし、だ。
ク
ス
カ
リ
バー
憶の片隅から出さないようにしてきた。
それが分かった瞬間、俺はあまりにもがっくりときたからすぐにしまい込んで以来記
然真名解放たる約束された勝利の剣も使えやしなかった。
エ
た。つまり使用時には風の効果で剣の姿が見えなくなるがそれだけ。 風 王 結 界も、当
インビジブル・エア
だが、残念なことに俺が出したエクスカリバーはあくまでもゲームと同じ仕様だっ
誰もがする筈だ。
当然俺はエクスカリバーを実際に手に取り色々試してみたさ。Fateファンなら
つけていた。
召喚されてすぐ、俺は一通りの武器に目を通した訳だがその時にエクスカリバーも見
らこれをセイバーが使うエクスカリバーみたいにすることもできるかな
バーみたいに色々出来るわけじゃないんだよね。だから、ルールを変えるっていうのな
﹁何 故 持 っ て い る か は さ て お き、こ れ っ て 本 物 だ け ど セ イ バ ー が 持 っ て る エ ク ス カ リ
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
655
今の話からすれば俺が持つエクスカリバーはこの世界のエクスカリバーと同じもの
だって矛盾を生みだせすことが出来れば、俺のエクスカリバーをセイバーが持つエクス
カリバーの様にエクスカリバーを放てるかもしれない。
何だかエクスカリバーという単語がゲシュタルト崩壊してきた⋮。
﹂
﹁恐らく、出来るでしょうね﹂
﹁うっし来た
み な ぎ っ て き た これはwktkせざるを得ない。
それも憧れのエクスカリバーだ。
ふはは。これはまた一つチート技が増えそうじゃないか。
!!
絶望した。
つまり、コウジュの場合は一発喰らってくるでもしない
といけないんじゃないかしら﹂
?
え、あの対城宝具を受けろと
?
れば意味が無いんじゃない
﹁エクスカリバーのルール変更をするのは良いけど、セイバーが持つ方を理解できなけ
突然キャスターさんが素になってそう言ってきた。
﹁あ、でも、1つ残念なお知らせがあるわ﹂
!!
656
ジュッていって蒸発するじゃん
るだろう。
ふらふら∼⋮と歩き出す俺。
・
・
私が悪かったから
他にも出来ることはたくさんあるから
は終了しました。
!
そんな俺をガシッと。
﹁ま、待ちなさい
!!
まぁハプニングはありましたが、キャスターさんの授業
!!
ついでに頼んでた物を受け取り、今度は小次郎の方へ∼。
?
﹂
ぬとねの区別がつかないような、FXで有り金全部溶かした人の顔みたいになってい
たぶん今の俺の顔は相当ひどいだろうな。
い。
うへぇ、先程まで上がっていたテンションがまた下がった。むしろ先ほどよりもひど
!
﹁俺⋮ちょっとどこかで紐なしバンジーしてくるわ﹂
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
657
・
﹁やはり筋は良いが、どこかぎこちないな﹂
軽く避けられる。
こっちが上だから俺は小次郎を押し返し、そのまま追撃を掛ける。横一閃、だがそれは
まずは互いに袈裟切り。当然のごとくつばぜり合いになる。だが、基礎ステータスは
に仕掛ける。
小次郎はいつもの物干し竿を、俺はコクイントウをかまえる。そしてほぼ同時、相手
﹁うい﹂
﹁ならば早速始めよう。手合わせを交えて行くぞ﹂
精々体育で軽く剣道に触れたくらいだ。
武術って習ったこともないので。
﹁いやむしろ今の俺にはその道標がものすごくありがたいですぜ﹂
故に道標程度にしかならぬであろうよ﹂
人々の幻想より生れた身よ。内包する武もまたしかり。
﹁そうかしこまらずともよい。私が教えるのは基礎にも入らぬ部分だ。それにこの身は
﹁よろしくお願いします﹂
658
﹁そりゃどう⋮も
﹂
それを何度か続ける。
打ちあい打ちあい⋮。
これなんか楽しい。
考えて打ちこむ事をしている。
小次郎はあまり打って来ず、そのおかげもあり俺はガムシャラにではなく、ある程度
う。 互いに殺し合いではなくあくまで稽古である事を理解しての打ちあいをいくらか行
横一閃からの斬り上げを再び小次郎に向かって打ちこむが再び避けられる。
!!
舞を制したものが武を制す⋮だっけ
﹁流れやリズム⋮ねぇ⋮⋮﹂
だから全部受け流し、避けられされてたのか。
﹁故に武を形成するは舞と同じく流れ・拍子。おまえのそれはひどく読み易い﹂
?
そういや、どっかで聞いたことあるなー。
打ち合いの途中、アサシンが突如そう言ってきた。
舞の中に武を隠し継承させることもある﹂
﹁武とは舞。双方の起源は同じであり古くから2つの関係は変わらぬ。流派によっては
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
659
口に出して言いはするが、よくわからん。
その言葉の意味は分かる。
だが、それをどう武術に加えていくのかが分からない。
﹁ふむ⋮﹂
﹂
ふむふむ。
くれてる感じ
小次郎の動きが変わった
いや、動きそのものは変わってないけど⋮俺に合わせて
突然、何か違和感が生まれる。
﹁
?
?
なるほど、わからん。
いや、分かるけど分からん
そんな感じ。
小次郎って案外教える側向きなのかね
?
それもこれも、小次郎がえらく手加減とかしてくれてるからなんだろうな。
取っ掛かりは掴めた。
結局は感覚的なものだね。最初よりは何かが分かった気がする。
?
そっかこれが流れか。どう動けばいいか。次はどうか。そしてリズム。
?
660
﹂
﹁小次郎って案外教えるの上手いね﹂
﹁⋮⋮なんのことだ
?
お 前 が 上 手 く 動 け る よ う に な っ て き て い る だ け で あ ろ う
作の所々にフェイント入れたりは勿論だけど、俺に打ち込みやすい場所とかわざと作っ
﹁いや、なんとなくだけど、小次郎が俺の動きを誘導してくれてるのが分かってきた。動
てくれてるよな
⋮たぶんだけど﹂
よ﹂
ツンデレだ
ツンデレが居る
!
﹂
?
﹂
とりあえず、合わせて俺も静かにする。
何かを考えてるみたいだけど、何だろう。
会話をしながら打ち合っていたが、そこで小次郎は黙り込んでしまった。
﹁心持ち次第⋮か⋮﹂
第って言ってたよ
﹁そ っ か な ー。ど こ か で 聞 い た こ と な ん だ け ど、殺 人 剣 も 活 人 剣 も 使 い 手 の 心 持 ち 次
﹁ふ、この殺人剣で師範はできんよ﹂
﹁道場の師範とか案外合うかもよ
? !!
?
?
﹁⋮ 気 の せ い で は な い か
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
661
662
勿論剣劇は続けたままだ。 そこからはただ黙々と打ちあった。
とは言っても、先ほどより速度等はレベルアップしてきてるけどね。
小次郎がギリギリ俺が流れを掴めるレベルでの打ちあいをしてくれている。
俺は物覚えが悪いんでゆっくりなのがチョイ申し訳ないな。
某ハンター漫画で出てきたやつで、互いの力が拮抗する
そういえばこれってあれに似てる。
えっと流々舞⋮だったか
っとかちょっと調子に乗ってみたりし
!
俺も慌てて刀を振るうのを止める。
そんな中、小次郎が突如動きを止めた。
大分スピードが上がってる。
それからどれ位しただろうか。何千では済まない位には斬り結んだはずだ。今では
ちゃったりしてー。
武 術 レ ベ ル が 上 が っ て き て る 気 が す る ぜ
俺の場合小次郎が俺に合わせてくれてるんだろうけど、マジで流々舞みたいだ。
ように組み手をすることで観察眼やら技の流れやらを修練するって奴だったはず。
?
﹁私が教えるのはここまでだ﹂
﹁え、あ、ありがとうございました
でもすぐに礼を言う。
うん、これは何かが掴めたね。
﹂
かなり贅沢な修行だったのではないかな
そんな感じで俺が満足していると、小次郎が俺をじっと見ていることに気付いた。
?
いきなりだったんで一瞬固まってしまったぜ。
!!
でも手や足だけってことは獣化じゃない
半分だけ獣化
理想的⋮理想的ねぇ⋮⋮。
﹁一つ問おう。理想的な一撃とはなんだ
﹂
首を一人で捻っている俺に小次郎は続ける。
?
?
あれま、俺ってば無意識に獣化してたのか⋮。
ただ、そこに無理矢理武術を取り込もうとするからか動きが分かりやすくなる﹂
いや、よくは見えなかったが手や足は獣のようになっていたか。
獣そのものと言って良い程に近かった。
﹁これはあくまで助言だがお前の動きは獣に近い。門前で最後に見せたあの動きは特に
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
663
?
そこでピンっと思いつく。悲しいかなマンガ脳からだけど││、
﹂
?
重かろうと当たらねば意味はない﹂
た、確かに⋮。
チョイ待った。
速くて重いけど当たらないから意味はない⋮、それって俺じゃねぇか
﹁自分だけの動きを見つけよ。流れを見よ﹂
そういって小次郎は去っていった。
やばい、カッコよすぎね
ほれてまうやろ│︵古い
また打ちあいしたいな│。
さておき、小次郎の教えはこれ終わりのようだ。
おい、今は幼女じゃねぇかって言った奴出てこい。直々にみくみくにしてやる。
冗談抜きにしても男として憧れる。
?
!?
﹁それもある。だが、極論ではあるが最も重要なのは当たる事だ。どれだけ速かろうと
俺の言葉に、小次郎は静かに首を振る。
﹁速くて、重い⋮
664
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
665
◆◆◆
コウジュ⋮か⋮。
あの娘を見ていると何か面白い。
かのうせい
虚ろであるこの身がその何かを求める。
いや何かなどではなく未 来を求めているのだろうな。
現界した際はサーヴァントであるが故に未来はないと諦めていた。
サーヴァントに成長はない。それも、私のこれは与えられたものだ。
まだ見ぬ武に立ち会えることは面白いであろう。剣を交わすことは心ふるえるであ
ろう。
しかし、その次は何に楽しみを見出すというのだ。
だからこそ自分の存在意義と割り切り、その少ない時間を出来うる限り楽しもうとし
た。
さ
き
あの娘に会うまでは⋮。
今は思う。
新たな命を得、未来を見るのもよいかもしれぬ。
666
そして私自身の力でこの世を楽しめたらと⋮な⋮。
道場か、それも悪くない。
◆◆◆
ホントに何なのかしらあの子。
能力だけで言えば世界征服も片手間で出来そうなものを持ってるくせに全然扱えて
いないし⋮。
と思ったら、魔法に当たる能力を容易く使っている。
行使できる能力の基準を知った時は思わず笑ってしまったわ。
あの子の妄想やらなんやらが基準なんですもの。
コウジュが簡単だと思えば魔法レベルも容易く行えてしまうし、難しいと思えばそこ
らの魔術師でもできるようなことをできなかったり⋮。
そういえば、あの子の依頼なんだけど、どうしようかしら。
使えそうなアイテムももらったし、あくまで作るのは器であって中身ではないから難
『stage32:宝の持ち腐れと言わないで』
667
易度は低い。
ただ、どうでなら報酬を吹っかけてみるのもありよね。
色々壊されているし、それくらいの役得があっても良い筈。
撮影会とかどうかしら
フフ、なんでかしら。
てもらおうと思うわ。
とにかく、アーチャーみたいにちびっこになるのは困るけど10代後半位の年齢にし
っと、いけないいけない。
してみたいと思ったのよ。デートであちこちに⋮うふふ⋮。
確かに今の年齢でも構いわしないのだけれど、どうせなら結婚の前の恋人からも体験
あ、欲しい報酬は私と宗一郎さまの次の命を生み出すカードの年齢設定よ。
たから早速実践してみようかしら。
するのだけれど、この前テレビで見たら主婦とは貰えるものは貰っておくものだとあっ
そっちも別に何ら難しくもないし、私たちの新たな人生に比べたらもらい過ぎな気も
そういえば、あの子からの依頼はもう一つ。
可愛い服とか着せると恥ずかしがるだろうけど、それはそれでいいと思うの。
可愛い容姿をしているのに、言葉遣いや動作が粗野で勿体ないのよね。
?
668
あの子は私の嫌いな神族になろうという子なのに、あの子だけは嫌いになりそうもな
いわ。
手のかかる子を見ている感じと言えば良いのかしら⋮。
いいわね、子ども。
いずれ私も⋮ウフフ⋮。
ハッ
子と関わっていると、不思議と未来を見たくなってしまう。
異世界法則。
いえむしろ、コウジュの法則
まぁどちらでも一緒ね。
そう切に願ってしまう。 その法則へと、どうかこの殺伐とした世界を塗り替えて欲しい。
?
コウジュが私にくれるっていうハッピーエンドはどんなものになるのかしら
?
サーヴァントである私がそんな未来を求めるだなんて自分ながら不思議だけど、あの
まあとにかく、新たな人生というものが楽しみだわ。
また横道にそれてしまったわ。
!!
ほかにも理由はあったけど、何よりもそれが気に入らなかった。
だから、殺した。殺してしまった。
〝裏切りの魔女〟と言われた事が。
殺した理由なんて大層なものではない。ただ、気に入らなかった。真名を教えた際に
その日私は、私を召喚したマスターを殺し、彷徨っていた。
らく経った日。
私が現世にキャスターとして召喚され、第五次聖杯戦争に参加が決まっってからしば
あの時と言っても少し前のこと。
この空はあの時に似ている。
私は今、柳洞寺の境内で雨空を見てる。
フラグだよね﹄
﹃stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔する
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
669
けど、マスターの居ないサーヴァント。
しかも、召喚されてすぐの私が現界し続ける事なんて無理なのは当たり前。
そんな私は、目的もなくただただ歩き続けた。
今思えば何かを求めていたのかしら⋮、雨の中をふらふらと歩いていた。
いつの間にか私は森の中から砂利道に出る。
しかしそこで力尽きた。
これまで││。
そう思い、意識を失った。
ふと気付く。温かい⋮
先程まで雨の中に居た筈だ。ではこの温もりは
目を開ける。
何故
そこは部屋だった。そして私は布団の中に居た。
?
?
﹄
その疑問はすぐに解消される。
?
﹃事情は話せるか
﹄
そこには男の人が居た。
﹃起きたか
?
?
670
感情が無いかの様な声でその人は私に淡々と続けた。
﹂
?
﹁いえ⋮﹂
﹁必要か
﹁傘は⋮﹂
空を見ていた宗一郎様が庭の方へ出る。
どれだけ時間が経っただろうか。
る。
宗一郎様は1度目を閉じた後、雨がまだまだ降り続く空を見た。私も続けて空を見
﹁いえ⋮ただ、あの日もこんな雨だったなと⋮﹂
声を掛けてきたのはあの人、いえ、宗一郎様。
思考の中に入っていた私が声によって現実に引き戻される。
﹁キャスター。そこで何をしている﹂
私は問わずには居られず声を掛けた﹃待って、どうして⋮﹄と⋮⋮。
続けて彼は出口の方向を言い、席を立つ。
﹃迷惑であったなら帰るが良い。忘れろと言うのなら忘れよう﹄
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
671
大雨とまでもいかなくともそれなりに雨は強い。
その下へ気にも止めず、歩いて行く宗一郎様に声を掛けた。
私はただ聞くだけではそっけなく感じるであろう返事に嬉しくなって追従する。
私も雨の元へ行く。
2人で歩きだす。
そして歩いて行く。雨の中を。
お出迎えの準備をするために。
宗一郎様。このお芝居が終わったら今度こそ私はあなたと││││。
﹁ところで、聞き耳は良くないわね﹂
﹂
どうやっているのか、この雨の中でも濡れることなく存在する彼女は、少し気まず気
私の問いに答えながら、ストンと軽い音をたてて屋根からコウジュが降りてくる。
﹁なっはは⋮、許してほしいな。これでも気を使った結果なんだぜぃ
?
672
にしている。
その様子に、クスリと笑みを漏らしてしまう。
﹂
?
3人となった私たちは、今度こそ龍洞寺を後にする。
ふふ、満足したし行きましょうか。
まぁ涙目で睨まれても全く怖くは無いのだけどね。
り睨んできた。
しばらく撫でられるままに頭をふらふら揺らしていたが、ハッと気づいたのか後ずさ
今度は顔を赤くしたまま固まり、撫でられるままになっているコウジュ。
思わずポスりと、コウジュの頭へと手を置いて撫でる。
本当にからかい概のある子だわ。
﹁はいはい、はぁ⋮﹂
﹁気を使ってくれるのは嬉しかったけれど、もう動かないとでしょう
口を尖らせながらそういうコウジュの様子が更に面白くて笑みを深めてしまう。
どうやら拗ねさせてしまったようだ。
﹁なんだよ。ひっどいなぁ⋮﹂
﹁分かっているわよ﹂
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
673
674
◆◆◆
どうも皆さんこんばっぱー。
俺は勿論高い所に忍んで見てるぜい。
色々と実験やら、準備してる間に士郎達による宗一郎氏襲撃の時間が来た。
俺
のマスターが分からない。
そして士郎達は、それを行っているのがキャスターだとは気付いたがそのキャスター
が力をつける為に生命力︵魔力︶を集めてるからなんだ。
最近この辺りでは謎の昏睡事件が起きてるわけなんだが、それというのがキャスター
さてさて、なんで士郎達がこんな闇討ちみたいな事をしてるかというとだな。
なにせ丁度今始まった所だ。
とりあえず俺の事は置いとこう。
方法は⋮まぁ例のアサシンのカードを使ってなわけだ。やっぱハズイね、これ⋮。
?
で、まぁ御都合主義やら、というか俺がイリヤに頼んだ情報提供やらで宗一郎氏に当
たりをつけたわけだ。
けど、まだ確信を持てなかった士郎達は原作の様にガントをかなり弱くして撃って、
その反応を見て考えようとなり、結果こんな状況なわけだ。
もちろん宗一郎氏がマスターなわけだから大当たり。
そして宗一郎氏に当たりそうになったガントはキャスターが出てきて無効化。
さぁ御対面だ。
一触即発の雰囲気の中言葉を交わす双方。
﹄
キャスター勢は士郎達を言葉巧みに挑発する︵あ、これ俺がお願いしたことね。原作
﹄
あんたはキャスターが何をしているのか知っているのか
﹄
!?
の言葉を言ってもらってる︶。
﹃あんたって人は
﹃知っているが、それは悪い事なのか
!
おおぉっとここでセイバーが宗一郎氏に斬りかかる。
士郎達の琴線に触れまくりなセリフだ。
っとまあこんな感じだね。
﹃キャスターも中途半端な事はせずいっそのこと命を奪った方が効率も良いだろうに﹄
!!
?
﹃葛木
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
675
しかし、一通り避けた後宗一郎氏の1、2
セイバーさん吹き飛ばされてダウン
そこに、宗一郎氏の決め台詞。
ゴメン嘘。
ホントはこっち。
首掴んで地面にドン
!!
でフィニッシュ
!
って感じな件について。
セイバー圧倒した技術とか⋮ねぇ
?
うん、ごもっとも。
﹃いかに優れた魔術師も呪文の詠唱を封じられては打つ手はあるまい﹄
そしてまた││、
あ、今度は凛が前に出て魔術を使おうと⋮宗一郎氏が詰め寄って1撃入れちゃった。
何あれどこの瞬歩
?
キャスターの補助ありとはいえ、拳で地面砕くし。
能が無いって、いやいやそんだけできりゃあ十分でしょ。
ように前に出るしか能のないマスターも居るということだ﹄
﹃マスターの役割を後方支援と決めつけるのは良い。だが、例外は常に存在する。私の
!!
!!
﹃お前はもう死んd︵ry﹄
676
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
677
ってか、宗一郎さん優しくない
とか言いながら、対峙した時に
アニメ見ても思ったんだけど、なんか授業みたいじゃね
今はお芝居だけど、原作でも何故まだ殺していない
?
ただけの木刀って⋮アーアー言わんこっちゃない。
のは当たり前だけどさ、エクスカリバーを持ったセイバーを撃退した宗一郎氏に強化し
士郎以外の二人が倒れてしまっている以上へっぽことはいえ前に出ないといけない
そうこうする内に、遂に主人公が動き出した。
今回の件の説明は全部キャスターがやってくれたしね。
実際のとこは俺自身がほとんど会ってないから分からん。
ま、俺の勝手な考察だけどな。
ものすっごい不器用さんってな感じじゃなかろうかねぇ。
ただ、感情の出し方知らないだけでさ。
んじゃないだろうか。
織の決まりである任務遂行と同時に死ぬという事を自ら止めた位だし、わりと感情ある
元々居た組織というか育った環境のせいで感情が無いって設定だったはずだけど、組
確か宗一郎氏の戦闘技術の名前は﹃蛇﹄という殺すことを目的としたもののはずだ。
本人が殺してないしさ。
?
?
678
当たり前のように砕かれてんじゃん。
けど、士郎は咄嗟に投影を行う。
出てきたのは、干将・莫耶。
久しぶりに見た気がするね。あの白黒双剣。
あれ
士郎はそれを持って│││。
ん
やっぱ出てる
宗一郎氏の服が若干凍ってるし
なんか氷のエフェクト出てないか
?
これは予定より早く士郎のレベルが上がってるってことか
!!
ちょ、キャスターこっち睨まんとって
俺も予想外だったんだからさ
こんなに早く徴候が出るとは⋮。
!
!!
干将・莫耶と一緒に後ろに弾かれて膝を付く。
あらま、士郎がアボンしちゃった。
キャスターが宗一郎氏の防護魔術追加した。
あ⋮。
これはちょいと予想外だぜ。あれはチラッと見せただけなのに。
?
!!
?
?
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
679
さておき、そうこうする内にキャスターから士郎に対して交渉が始まった。
内容は聖杯戦争をしなくても、〝ちょっとした〟犠牲を出すだけで聖杯を手に入れら
れるというもの。
ま、答えは聞くまでもなく分かっている。
だから、その前に俺はこの場を去ることにした。
俺は俺でやることがあるからな。
やることというのは勿論、桜ちゃん救出作戦だ。
実は既に桜っちには会って話をしてある。
いつの間にと思うかもしれないが、割りと簡単だった。
あの子、重要人物の割に無防備に一人でいる事多いし。
あ、ライダーの事は言ってあるよ。
ちょっとだけだけど、会わせてあげたらすんごい喜んでた。
ライダー縮んじゃったから色々あったけどね。
ライダーさんの鼻から忠誠心出そうになってたとだけ言っておこう。
んで、交渉した後は、ばれないようにする為キャスターに桜ちゃんの交渉内容に関す
る記憶を消してもらって、後は表面上だけだけど原作に沿わせていくって状態だ。
そして、俺の仕事はこの後なのだ。
というか同時進行か。
キャスターには時間を稼いでもらわないとな。
何をするかは⋮、まぁ、秘密ってことで。
◆◆◆
少し離れた場所に在ったコウジュの気配が消えた。
どうやら予定通りもう一つの用事を済ませに行ったようだ。
さて、ここからは私の仕事ね。
﹂
これを終わらせれば宗一郎さまとの⋮うふふ⋮ゲフンゲフン
ないとね。
﹂
﹁ねぇ、私たちと手を組まない
﹁なんだ⋮と⋮
と、とにかく頑張ら
!
宗一郎様に吹き飛ばされた少年が、何とか立ち上がりながらそう聞いてきた。
?
?
680
なるほど、コウジュが気にかけているだけの事はあるわね。
宗一郎様の一撃には私の魔術も上乗せしてあったのに立ち上がれるなんて。
そう内心で感心しながらも表面上は怪しい笑みを浮かべながら続きを話していく。
﹂
!
﹂
?
?
わ。
?
﹁殺し合いなんかしなくても、聖杯は召喚できるのよ。私はもう聖杯の仕組みは理解し
魔術師としての興味もあるのでしょうけど、損得を抜きにしてまずは聞きに来た。
コウジュに聞いていたように彼女は敏い。
ふふ、こっちも予想通りの反応ね。
﹁どういう⋮事かしら⋮
﹂
その正体をコウジュから聞いてはいるけど、伝説とは違って中々に直情的で面白い
それにしてもセイバーは予想通りの反応ね。
を立て直しそう言い放った。
脳震盪でも起こしていたのか未だ若干ながらふらついているセイバーも、何とか体勢
﹁あら怖い。でも、嘘ではないのよ﹂
﹁世迷言を
るって言ったら信じるかしら
﹁あなた達の目的も聖杯を手に入れる事でしょう 聖杯を手に入れる方法が他にもあ
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
681
たの。協力するのならあなた達に聖杯の恩恵を分けてあげても良いわ﹂
﹂
﹁結構な話ね。それで、あなたの言う大量の魔力は一体何人の魂を使えば済むのかしら
杯を維持する大量の魔力さえあれば聖杯の力は手に入るのよ﹂
﹁この土地は聖杯を下ろすに足る霊脈を持っている。あとは聖杯の核となるものと、聖
﹁どうやって聖杯を手に入れるっていうのよ﹂
682
お釣りが帰ってくる位に、ね。なにせ大量
?
ああ、やっぱり理不尽すぎるわね。
の生成が出来なくなっていたとしても元々の純度と瞬時回復量が桁違いだもの。
のコウジュのものを使っても可能なのよ
それから一つ言いたいのだけれど、あなたが言う魔力に関しては、あなた達のところ
本来の私ならば切って捨てるものを、今は欲してしまっている。
はぁ、この短期間であの子に影響されちゃってるわね。
分だわ。
元々死者を出すまではしていなかったとはいえ、人を襲っていたのは真実。複雑な気
とはいえ、実際そんな事する気はもう無いのだけれどね。
今の話だけでそこまで推測できるなんてね。
さすがは、と言った所かしら。
?
頭がまた痛くなってきちゃったわ⋮。
しかしそんなことはおくびにも出さずに続ける。
くらでもあるわ﹂
﹁火にくべる薪⋮だと⋮
﹂
その子の琴線に触れたみたいね。
赤い髪の少年、衛宮士郎だったかしら
!?
﹁もう一ついいかしら
聖杯の核って⋮魔術師の事よね
﹁生贄
どういうことだ
﹂
!?
本当に優秀ね。教えた者が良かったのかしら。
!?
贄として⋮﹂
たのマスターは魔術師ではないみたいだし、代用品が必要って事になるわよね⋮
生
聖杯に触れられるのはサーヴァントだけだけど、呼べるのはマスターだけ。でもあな
?
?
当然の結果と言えば当然ね。この子たちみたいなのには許せない言葉でしょうし。
?
まぁ安心なさい。幸いにも現世には溢れるほど人間が居るもの。火にくべる薪はい
ど、十分に運用し続けるには足りないかしらね。
﹁ふふ、そうね⋮。聖杯を呼ぶだけなら、この町の人間すべてを使えば足りるかしら。け
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
683
?
素直にそう思う。
そういえば、なんでこの赤い子が既に脱落して、男の子の方が残ってるのかしら⋮。
これがコウジュの言っていた﹃しゅじんこうほせい﹄というものなのかしら
いえ、そもそもコウジュの所為だったわね。ご愁傷様。
⋮⋮少し親近感がわくのは何故かしら。
?
﹁生贄とは野蛮ね。ただ装置として働いてもらうだけよ まあ実際にやってもらえば
684
注がれる魔力に耐え切れずに意思というものは消し飛んでしまうかもしれないけれど
?
﹂
ね。あなた達のどちらかがもう片方の願いを叶えるなんてどうかしら。素敵じゃない
﹂
﹂
さて、返答やいかに
﹁断るわ
﹁俺も断る
!
はぁ⋮。
﹂
そうしてくれれば私たちも遠慮なく裏で動ける。
あなた達はただ突き進みなさい。
そう、それで良いのよ。
﹁答えは決まっています
!!
?
!!
?
でもこの子達を見ているとなんだか眩しくて悲しくなってくるのは何でかしらね。
よし、種はまき終わったしこの辺りで戻りましょうか。
恐らくコウジュの方もそろそろ準備できているでしょうしね。
一人、ふさわしい魔術師が居るもの﹂
私の言葉に怪訝な顔をするセイバー達。
ほらほら、早く思い出さないとどうなっても知らないわよ
私は宗一郎様に近寄り共に目的地へと転移する。
待ってるわよ。あなた達。
◆◆◆
士郎と凛以外に、ふさわしい魔術師⋮
﹁﹁っ
﹂﹂
思考を巡らせようとすると、士郎と凛が同時に誰か分かったようです。
?
?
﹁あらあら、それは残念ね。じゃあ他の子を使うとしましょう。別にあなた達以外にも
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
685
!?
﹁まさか・・・﹂
っ
﹁あいつまさか、イリヤを狙ってるんじゃ⋮
﹂
!?
すぐに追いつく
間に合ってください
﹂
イリヤスフィールは確かに先程の条件に十分当てはまる
﹂
﹁セイバー先に行ってくれ
﹁分かりました
!!
しかし異変に気付く。
電気が点いていない⋮
私たちが帰るまで待つと言っていたはずだが、いや、先に寝ただけだろうか。
?
家へと入り、慎重に、イリヤが居るであろう居間に向かう。
なものに思えた。
普段なら夜としては当然のものとして享受していたものだが、いまはただただ不気味
既に深夜なのもあり辺りは静寂に包まれている。
元々それほど離れていなかったのもあり、家へはすぐに辿り着いた。
そう願いながら、衛宮家へとひた走る。
!!
!!
!?
士郎の命もあり、私は急いで家へと戻る。
!
!!
686
もしくはコウジュと共にどこかへ出かけたという可能性もある。
そう思いつつも確認の為、中を見る。
居ない、か。
いや、机の陰に隠れてはいるが誰かが倒れるようにそこに居る。
慌てて駆けよれば、倒れているのは桜だった。
まさか、襲われた後
桜無事ですか
﹂
!? !?
外傷はないようですが、まさか魔術的な何かを⋮
呼びかけるが彼女の反応は無い。
剣を置き、慌てて桜を起こす。
!
トスッ│││。
その時││、
どうするべきか、どう動くか考える。
自分では彼女の状態を詳しく知ることも、対処する方法も思いつかない。
眠るように静かではあるが、これだけ呼びかけても反応が無いのはおかしい。
!?
﹁桜
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
687
﹂
私の胸元で軽く何かが当たるような感覚と音が聞こえた。
﹁え⋮
一体どういう⋮
﹂
!
﹂
!
キャスター
みを浮かべながら短剣を掲げるように私へと見せる。
私の問いに、 桜 はゆっくりと立ち上がり、普段の彼女からは考えられない妖艶な笑
﹁何をした
同時に、離れた瞬間手に取っていた聖剣が何故か重くなった気がした。
だが次の瞬間、身体から何かが切れる感覚がする。
慌てて桜から離れる。
﹁キャスター
この声は先ほどまで聞いていたものだ。
桜から桜の声ではない声が響く。
﹁ふ、ふふふ、ぬかったわねセイバー﹂
思考が定まらない。
?
そして、その短剣を持つのは、桜だった。
目線を落とすと、刃が何度も曲がった歪な短剣が私の胸刺さっていた。
?
688
﹂
!!
﹂﹂
!!
どうやら士郎と、凛が着いたようですね。
﹁﹁セイバー
そう、一人悔いていると玄関の方から人の気配が入ってくる。
不甲斐無い⋮。
一瞬そう考えてしまい、その隙には影も形もなく消えていた。
追いすがろうとするが、先程の言が正しければ、あの桜は操られているだけの本人だ。
そう言い残し 桜 は影へと飲み込まれ消えていく。
キャスター
﹁待てキャスター
﹁ふふ、この子は頂いていくわよ﹂
握り慣れたはずの愛剣が遠くに感じる。
次に何かしてきても即座に対処できるよう聖剣を握る力を強くするが、やはりどこか
抜かりました⋮。
先程の何かが抜ける感覚はそれか。
じる事ができた。あなたはもう聖剣を使うことはできないわ﹂
﹁この子の魔力ではサーヴァント契約までは破棄できなかったけど、あなたの宝具は封
﹁ルール⋮ブレイカー⋮⋮﹂
﹁この宝具はあらゆる魔術契約を無効化する我が宝具、﹃ルールブレイカ│﹄よ﹂
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
689
私は居間から出て、二人の元へと合流する。
﹁でもなんで桜が
﹂
﹁⋮まさか桜がなんて﹂
﹂
﹁分かっているわ
!!!
でも⋮、でもキャスターは、恐らく自らの工房で陣取っている。並
!
かった。
ギュッと、音がするほどに手を握り込む凜に、士郎は続けて言葉を出すことが出来な
大抵では救出できない﹂
!!
なら桜は
﹁じゃぁあ早く助けに行かないといけないじゃないか キャスターが言っていた通り
たのか。
そもそも何故キャスターは桜を攫ったのだろうか疑問だったかがそういうことだっ
﹁桜はね、元々の生まれが魔術の家系なのよ⋮。だから、素養はあるんだと思う﹂
士郎の問いに凜は逡巡し、やがてゆっくりと口を開いた。
それに士郎も気づいたのか、凜へと問うた。
私の一言に凜が一瞬、悲しさと後悔を織り交ぜたような表情となった。
?
?
﹁遠坂、何か心当たりがあるのか
﹂
﹁すみません、油断しました⋮。桜がキャスターに⋮⋮﹂
690
﹁あんた魔術師の工房に突入することがどれだけ危険か知らないの
術師じゃない。キャスターとして召喚されるほどの魔術師の英雄よ
でも⋮﹂
﹁でも、ここで桜を見捨てるなんて選択肢は無い筈だ﹂
﹁それはっ
地作成で創られた拠点内では英霊たる真価を発揮するでしょう﹂
それもただの魔
﹂
にサーヴァントの中では比較的弱いクラスとされていますが、それは条件次第です。陣
﹁しかし士郎、無策で飛び込んでも意味がありません。キャスターというクラスは確か
逆に凛の言葉が小さくなっていく。
凜の強い言葉に、士郎はそれでも揺るがない
!!
!!? !?
そんな士郎を凜はキッと睨むように見る。
暗く重い雰囲気の中、それを振り切る様に士郎が力強くそういった。
﹁それでも、桜を助けに行くことには変わりない﹂
が腹立たしい。
今の二人に、更なる絶望を叩き付けるようなこと場を言わなければならなかった自分
ば白兵戦を前提として頂かなければなりません﹂
は封じられてしまいました。申し訳ありません。だから、キャスターの元へと行くなら
﹁士郎、凜。今のあなた達に言うには酷ですが、先程キャスターの宝具によって私の聖剣
『stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだよね』
691
﹁⋮これを使うよ。ここで使うべきだと思うから﹂
そう言いながら、士郎は一枚のカードを出した。
﹁行こう。桜を助けに﹂
士郎は私と凜を、意志が強く籠った目で見ながら言う。
は自分に正直に言うよ﹂
﹁出来るか出来ないかじゃなくて、やるって気持ちが必要だって教えてもらったから、俺
692
﹃stage34:めでぃあ☆マギカ﹄
﹁まったく、やりたい放題ね⋮﹂
遠坂が呆れたと言わんばかりに眼前に広がったモノを見て言う。
それに答えることもできず、俺は呆けて目の前に広がるものに圧倒されていた。
セイバー、遠坂と共に桜を助けるため龍洞寺へとやってきた俺達。
遠坂に魔術的なわなを回避してもらいながらなんとかキャスターの工房へと侵入す
ることが出来た。
だがそれは工房というにはあまりにも広大だった。
詳しい建築様式は分からないが、古代ギリシャの神殿を思わせる建物がいくつも並ん
でいた。
授業で習った程度だが、パルテノン神殿を彷彿とさせるものがいくつかある。
﹁こんなものをどうやって⋮いや、魔術だよな⋮﹂
﹁これがキャスターの工房ですか﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
693
コウジュを始め、サーヴァントという存在はやはり英雄と呼ばれるだけの規格外さが
ある。
コウジュは何か違う気もするが、根本的なところでは一緒だろう。ただの魔術師では
その領域には至れやしない。
そんな風に諦観していると周囲の建造物からぞろぞろと何かが出てきた。
骨
これもキャスターの魔術という訳だろう。
頭の部分が大口を開けた咢のみで構成されており、人間の頭部とはかけ離れている。
ただ、単純な骸骨という訳でもないようだ。
だが剣を持つものなど明らかにこちらへの敵意を持っているのが分かる
端的に言えば、見た目は骨でできた人型だ。
?
﹃GURUAAAAAAAAA
﹄
簡単に方針を決めて、出てきた骨兵に全員で突っ込む。
﹁分かった﹂
しょう﹂
﹁そ う 容 易 く い く わ け は あ り ま せ ん か。少 し 数 が 多 い。囲 ま れ る 前 に 正 面 突 破 を し ま
﹁来たわね﹂
694
!!
rper││
﹂
どこから声を出しているのか、一目では数えられないほどに現れた骨兵は一斉に咆哮
を上げる。
rper ist ein K
!!!!
同時、遠坂が宝石を複数そちらへと投げた。
﹁Ein K
Ö
く吹き飛ばした。
!!!
﹂
言いながら再びポケットへと両手を入れジャラジャラと次の宝石たちを握った。
﹁ふふん、宝石の心配をする必要はないからね。思い切り行かせてもらうわ
﹂
複数の宝石はそれぞれが散りばめられながら骨兵へと降り注ぎ、そのまま彼らを大き
Ö
!
俺は前にコウジュに見せてもらった黒白の双剣を投影した。
﹁投影開始││﹂
ト レ ー ス・オ ン
ないだろう。
現在進行形でセイバーが更に道を広げてくれているが、のんびりしていていい訳では
遠坂の大量爆破で多くの骨兵が吹き飛んだとはいえ未だにその数は多い。
へと切り込んでいく。
キャスターに宝具を封じられたと言っていたが、そんなことを思わせない動きで骨兵
次に行動したのはセイバーだった。
﹁行きましょう
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
695
手に確かな感触が生まれると同時に、俺も眼前の骨兵へと切り込む。
﹂
!!!!
この﹃凍結﹄という効果が中々に使い勝手が良いのだ。
たこともあって大きなアドバンテージを俺に与えてくれている。
さておき、この双剣は何故かよく手に馴染むし、これの扱いばかりを俺は練習してい
薬等を置いたまま出掛けてばかりだった。
重要な用事があるとかでいくらでも怪我をして良い様にとイリヤの監督の下で回復
なかったか。
いや、実際にはコウジュは数日の修行の後これを俺に見せてから修行には参加してい
そしてここ数日のコウジュにされた修行の成果か凍結の確率は各段に上がっている。
すことができ、必ずしも斬る必要が無く当てさえすればいいとのことだ。
コウジュ曰く、ある程度の力量もしくは確率に左右されるが﹃凍結﹄という効果を齎
これはコウジュに見せてもらった干将・莫邪という双剣の効果らしい。
よし、有効だ。
すると当てた場所がピキピキと甲高い音を立てながら凍り始めた。
俺は冷静に斧を避け、そのまま右手の黒剣をかつんと骨兵へと当てる。
斧を手にした骨兵が斬り掛かってくるが、その速度が遅く感じる。 ﹁GUUUUA
696
直接的なダメージを与えるわけではないが、効果が及んだ際には相手の動作が阻害さ
れる。
相手が早いなら遅くすれば良いじゃない等とコウジュは言っていたが、その横に居た
アーチャーがそんなに簡単に言うなと呆れていたのをよく覚えている。
・・・
そういえばアーチャーも同じものを持っていたが、起源は同じだが違う歴史を辿った
別物だとか。
そちらは伝説にあるように﹃引き合う力﹄を持っているらしいが、今の俺にはこちら
の凍結効果を持つ干将・莫邪のほうが助かる。
サーヴァントの様なスピードが出せない以上、コウジュが言う様に相手の動作を制限
﹂
するこの干将・莫邪は大いに助かっている。
!
!!
う。
﹁次っ
﹂
け、効果が薄いようなら多少骨兵の行動が阻害されている間に追撃を加え倒してしま
邪魔になる骨兵へと双剣のどちらかを当て、凍結して動きが阻害されたならば走り抜
あくまでも俺達の目的は桜の救出だ。
完全に倒す必要はない。
﹁はぁっ
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
697
また一体倒したところで次へと駆けだす。
﹂
しかし、俺はすぐに足を止める。
﹁そいやぁぁぁぁ
られない。
というか見たくなかった。 !!
で来た。
数ある建築物の間を抜け、骨兵たちを退けながら、奥にある上段、その手前の階段ま
した。
そっと顔を逸らし、見なかったことにしてセイバーと共に再び前へと俺たちは駆け出
﹁懐を気にしないで良いなんて気持ちよすぎる
﹂
後ろを見ればポイポイと宝石を投げる遠坂の顔はとてもじゃないがファンには見せ
学校では決して見られない位にテンションが上がってるお嬢様だ。
まぁ犯人はすぐ後ろに居る奴なのは分かってる。
目の前の骨兵の集団が一斉に吹き飛んだ。
!!
698
ぱっと見る限りではこの階段を昇れば一番大きな神殿へと辿り着く。
私が門番である事は承知している筈だが﹂
そう思い更に速度を上げる。
だが││、
﹁よくぞ参られた。どうした
しかしそれを見て、アサシンがこちらを制すように手を上げた。
それを見て改めて干将莫邪を構える。
階段の途中、やや開けた場所に佇むアサシン。
?
﹂
⋮どういうことだ
﹁ふむ、不思議か
﹂
?
だが、通してくれるというのなら行くまでだ。
できない。
どういう意図で言っているのか、本心なのか、はたまた思惑があってか、俺には判断
サーヴァント。魔術師の一人や二人を通してしまうのは仕方なかろう
﹁私 の 使 命 は サ ー ヴ ァ ン ト か ら の 守 護 で な。更 に 言 う な れ ば 私 が 相 対 す る の は 最 優 の
思わず怪訝だという表情をしていたのであろう俺の顔を見て、アサシンが続ける。
?
?
そうアサシンは俺と遠坂を見て良い出した。
﹁まぁ、待て。貴様たちは先に行くがよい﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
699
﹁セイバー﹂
﹁アサシン⋮﹂
トとして居られるのも後わずか⋮。この身に残る魔力では朝まですらもつまい﹂
﹁なに、礼には及ばぬ。お前との戦い、少しでも長く楽しみたいだけのこと。サーヴァン
﹁感謝します﹂
◆◆◆
階段も、あと少しだ。
俺と遠坂はセイバーに後を頼み、先へ進む。
﹁頼んだわよ﹂
﹁頼んだ﹂
﹁分かっています。私もすぐに﹂
700
私と剣を交えたいだけにしろ、今は助かった。
ただ、少しでも長くと望まれても急ぎあなたを倒し、武人として強者との戦いを望ま
・・・・・・・・・
ぬわけではありませんが、今は先へ進ませていただきます。
﹁さて、サーヴァントとしての最後の剣を交える相手がお前という事を嬉しく思うぞセ
イバー﹂
⋮
いや、何かではない。
ここ数日で見る機会は幾度もあったものだ。
・・
アサシン
﹁これの効果を考えれば死合うのには無粋だが、仕方あるまい﹂
!!
だが、どうしてアサシンがそれを持って│││。
﹁なに、少し気が変わってな⋮﹂
するとそれは溶け込むように消えた。
アサシンは答えず、その取り出したものを胸に当てる。
!!
何を意味するのかは分からないがそう言い構える。
﹂
アサシンはそれを言った後、おもむろに袖に手を入れ何かを取り出す。
どこか引っ掛かる言い回しするアサシンに内心で首をかしげる。
?
﹁どうしてあなたがそれを持っているのですか
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
701
﹁一体何の事を言っているのですか
私が言いたいのは││
!?
くっ
小次郎の剣気が一気に高まる。
私も構えて、魔力を高ぶらせる。
だが、心の中では今聞けなかった疑問が残り続ける。
何故│││、
﹂
何故アサシンがコウジュのカードを持っているのですか
◆◆◆
﹁ぐ⋮こんの
﹁⋮⋮﹂
!!
?
!!
﹁構えよ⋮。今はただ剣を交えるのみ⋮﹂
702
﹂
!
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
703
俺は今、葛木先生、いや葛木と戦っている。
理由は簡単だ。
俺と遠坂がアサシンの横を抜けて階段の最上まで上がると、祭壇のような場所にいる
桜を見つけて駆け寄ろうとしたが横から葛木が奇襲を仕掛けてきた。
何とか反応して防ぎ、遠坂を先に行かせて俺が相対している。
そして現在に至る⋮、というわけだ。
だが、当たらない。
葛木の攻撃は素手、対して俺は双剣。
なのに、当たらない。
確かに相手の方が身軽であり、葛木の動きそのものも洗練されている事から基礎的な
部分で俺はスピードで劣っている。
とはいえ、間合いは圧倒的にこちらにある。
それでも当たらない。
袈裟、横に一閃、突き、逆袈裟⋮様々な攻撃を仕掛けても、避けられ、当たりそうに
なると少しだけ逸らして、そして避けられる。
幸いなことは、葛木の攻撃もまた俺へと致命的な一撃を当てられていないということ
だ。
干将莫邪が当たれば凍ると知った葛木が警戒して刃に触れないようにしている。
だからこれを盾にして何とか直撃を防いでいる。
ただ、それでも防ぎきれない分があり、俺の防御の隙をついて俺に向かってくる攻撃
が徐々に俺にダメージを与えている。
﹂
だがこのままじゃジリ貧には変わりない。
どうすれば⋮⋮。
﹂
﹁余所事を考えている暇はあるのか
﹁
﹂
!!?
﹂
しまっ⋮
﹁っ
﹂
!!!
ガァンと拳と剣がぶつかったとは思えない音が辺りに響くと同時に、俺は反動で再び
俺は咄嗟にソードを掲げるように投影で出し、葛木の拳を防ぐ。
﹁やられてたまるかっ
葛木が追撃をかけて来る。
!
!!
後方へと吹き飛ばされ干将莫邪を手放してしまった。
﹁ッぐふぁ
腹で爆弾が爆発したかのような衝撃が走る。
!?
?
704
後ろへと飛ばされた。
﹂
今度はこちらからだ
﹁くっそ
◆◆◆
!!
!!
!!
今、助けるからね⋮。
居るんでしょう
!!
居ないはずがない。
私はこれを行っている張本人を呼ぶ。
﹁キャスター
﹂
桜の魔力が流れているのが分かる。
桜は祭壇の上に虚ろな眼のまま立ち、その周りに桜を中心として引かれている陣へと
私は桜が眠らされている祭壇の前まで来た。
﹁桜⋮﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
705
﹁っ
る。
﹂
・・・
あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
﹂
Zweih
nde
ä
一体何をしたのよ
Set...Los
!
く、仕方がないわ。
﹂
﹁桜、ちょっと痛いけど我慢しなさいよ
r
!
!!
!!
桜の元からキャスターが離れると同時、桜が苦しげな声を上げ、周りの陣が活性化す
!!
何を言われたのか桜は何も移さない目をこちらに向けてきた。
!!?
﹁う、うあ⋮うああぁ
!!!!!!!!!
そう言った後、キャスターは目に光の無い桜の耳元へ行き、何かを呟く。
﹁ふふふ、この子の記憶を覗かせていただいたわ﹂
﹁全部⋮お見通しなわけね⋮﹂
恐らく私と桜の関係をどうやってか調べたのでしょう。
それにしてもいやな言い回しね。
深く被ったローブから出ている口元には笑みが浮かんでいる。
どこからともなく表れるキャスター。
﹁あらあら、少し侮ったかしら。でも、あなたの大切な桜さんの為ですもの、当然よね﹂
706
魔力を腕に貯め、強めのガンドを一気に放出して桜にぶつける。
態々操った状態にしてあるということは覚醒状態である必要があるのだろう。
だからガンドを使って意識を飛ばす。
﹁くっ⋮﹂
しかし、当たる寸前で桜の前で障壁のようなものに弾かれてしまう。
﹂
だったらと、今度は宝石で攻撃を仕掛けてみる。
﹁これなら
そして無情にも、時間が来てしまった。
しかし、これもまた弾かれてしまう。
!!
咄嗟に近くの物陰へと隠れ、それを見ていると触手達が一斉にこちらに来た。
呟く暇もなくその触手達がこちらへと一斉に迫ってきた。
なんだってのよあれは⋮。
形成していく。桜を守るように存在するそれは、一本一本が人の腕ほども太い。
それは意思があるかのように形を作っていき、うねうねと何本かの触手のような形を
も黒く濁った闇が凝縮されたような何かが溢れだしてくる。
桜がまた苦しみ出したと思ったら、陣が強い光を放ち、桜の足元から黒い、どこまで
﹁残念ね、時間切れのようよ﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
707
﹁っ
Sechs│ein│plus
Einh
!
nder
ä
﹂
!!!
﹁んぐあっ
﹂
そして、しまったと思った瞬間には触手達がこちらに殺到していて⋮。
足元に形成する陣の外へと飛び出すが、足に少しカスってしまった。
﹁ぐっ﹂
予感通り柱など容易く破壊し、それでもなおこちらへと迫ってきた。
いやな予感がして柱から離れ、逃げ出す。
しかしそれらは容易く弾かれ、自らが隠れる柱へと殺到する。
慌てて、ガントではなく攻撃用魔術で迫ってくる触手達へと攻撃する。
!!?
けどここで、動かないと意味が無いじゃない
動きなさいよ私の身体
桜はもう目の前なのよ
苦しんでる妹がそこにいるのよ
自らの身体に叱咤し、優雅もへったくれもない根性で転がった体を起こす。
!!?
!? !!
!!
アドレナリンが出てるからか痛みは感じないのが唯一の救いね。
身体が思うように動かせない⋮。
身体が大きく跳ね飛ばされ、何度もバウンドした後地面を滑っていく。
!!
708
﹁ああぁぁ
﹂
立って、あの子の所へ
そんなの決まってるわ。
どうして
﹂
何とか立てた私に向かって、キャスターが言ってくる。
﹁どうしてそんなに頑張るのかしら
?
!!
少しずつ⋮少しずつ身体が動かしていく。
気合を入れるためにも吼えるように声を出す。
!!
?
私も
お父様も
!
魔術師の家系は継承を1番上の子どもに伝えるのが習わしだから﹁つまり妹
﹂
﹂そんなわけないじゃない
!!
!!
﹁違う
より習わしを優先したわけよね
﹂
?
!!!
?
そのほうが桜が桜として生きていけるようにって
﹂
﹁それをこの子が望んだの
﹁
﹂
おかしいわね⋮。なら何故この子を間桐の家に渡したりしたのかしら この
?
子の感情の中にはそれを厄介払いされたという風に感じてる部分があるみたいよ
?
!!
さっきからキャスターは何が言いたいの
!?
!?
?
﹁あら
﹁桜が⋮私のたった一人の妹だからに⋮決まってるじゃない⋮﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
709
﹁それと、この子が間桐の家で何をされてきたか⋮それを知ってまだ同じ事が│││﹂
?
﹁そういえば、間桐の家が魔術師の家系として断絶しかけてるのは⋮知っていて
﹂
キャスターの声を遮るように、かすかに⋮ちょっとした物音にでもまぎれてしまいそ
﹁⋮めて⋮﹂
﹂
うな声で、しかし確かに聞こえた。
﹁さく⋮ら⋮
﹁驚いたわね、まさか私の呪縛を抜けるなんて⋮﹂
﹂
キャスターが本当に驚いたと言った体で言う。
﹁やめ⋮て⋮私は⋮⋮望んで⋮﹂
﹁中を覗いた私が本当の事を知らないとでも
﹂
桜に向かってそう言った後、キャスターは再びこちらに向いた。
?
﹁ねぇお嬢さん。この子の髪や瞳は昔からこんな色だった
髪と瞳の色
﹂
?
昔も大人しい性格ではあったけど、暗くはなかった。
﹁こんな性格だった
いいえ、昔は私と同じ黒だった。
?
﹁えぇ、魔術回路を失ってしまって魔術師としての力はもうほとんど無いのは周知の事
?
?
710
実﹂
﹁不思議ねぇ⋮じゃあ誰があのライダーを召喚したのかしら﹂
何か、魔具を使ったんじゃ⋮いえ、そんな簡単に道具なんかでサーヴァント召喚を代
替させられるわけが無い。
桜が再び、停止の意を唱えるがキャスターは続ける。
﹁やめて⋮﹂
﹁これはどうかしら 間桐家には、まだ一人だけ魔術を使えるものが居て⋮そいつは
﹁それって⋮﹂
今言われた事が真実なら⋮桜は⋮。
﹁やめてえええええぇぇぇ
﹂
そして、間桐の属性も
加えて言うなら、遠坂の家系であるこの子の属性は高い素養があったのか﹃架空
元素・虚数﹄なのに今のこの子の属性は﹃水﹄。どうしてかしら
わよ
蟲をつかって対象の身体を弄って自身の都合のいいように改造が出来たりするらしい
?
行った。
桜の足元から出ていた何かは一気に増え、触手の数を増やし、キャスターに向かって
!!!!!!
?
?
﹃水﹄。スゴイ偶然ね﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
711
﹁完全に支配から⋮抜けられたみたいねっ
日からの事が気になって仕方がなかった。
﹂
しかし私の中ではそんなことより、桜があの日、遠坂の家から間桐の家に預けられた
忌々しそうに、障壁で触手を弾きながら離れるキャスター。
!
﹂
お父様と、私が思っていた桜の幸せなんて一つも無くて、ただ身体を弄られていたと
いうの⋮
﹂
だったら、教えてもらえるだろうか
桜自身の意思が戻っているようだ。
ビクッと桜が反応する。
﹁
﹁桜⋮本当⋮なの⋮
?
本当なの
無駄だったの
﹁違い⋮ます⋮﹂
ないけど⋮恨まれていたって私は⋮﹂
﹁お願い桜⋮。いままで姉らしい事なんて一つも出来なかったけど、でも、今更かもしれ
?
?
あの子の先輩としてではなく、姉として教えてほしい。
?
!?
?
712
﹁違います
姉さん達を⋮恨むなんて⋮
﹂
姉さんは
﹁本当の事⋮なのね⋮
!
ただ、知られたくなくて
!!
﹂
!
を強く握り、血が滲むのもいとわず佇む。
私は自身の情けなさに、気付けなかった悔しさに、どうするべきかも分からずただ拳
何が⋮姉よ⋮⋮。
それほど気にも止めずに⋮。
髪も瞳の色も変わってるのに⋮。
だけど、まったく気づけなくて⋮。
桜が、遠坂桜から間桐桜になってからも私は気にかけてきたつもりだ⋮。
かった⋮。
私たちに知られたくなかった⋮。そんなことが桜の身を襲ってるのに、私は気づけな
悔しい⋮。
﹁桜⋮お願い⋮教えて⋮桜の気持ちを⋮⋮﹂
﹁ぅあ⋮ち、ちが、いや、私は⋮﹂
?
!!
桜がポツリポツリと話し始めてくれた。
﹁私は⋮、私は魔術なんか無くても⋮良かったんです⋮﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
713
私は悔しさに下ろしていた顔を上げて桜の顔を見る。
だけで幸せだったんです⋮﹂
﹁桜⋮⋮﹂
?
⋮って。でも、でもすぐに思いました。そんなことは
?
!!
﹁当たり前⋮。むしろ私が桜の姉で良いのか⋮﹂
﹁私⋮ひっく⋮⋮私は本当⋮姉さんの妹で良いですか⋮
﹂
あの触手達は私に攻撃する事もなく、それどころか減っていっている。
﹁うぁ⋮うぅぅ⋮⋮﹂
私はいつの間にか桜に近づき、抱きついていた。
け⋮ないじゃない⋮⋮﹂
﹁迷惑なわけないじゃない 桜は私のたった一人の妹なんだもの。そんな事⋮思うわ
をかけるなんて⋮﹂
それで、結局言えなかったんです。送り出してくれた所に助けを求めるなんて⋮迷惑
したんだって⋮。
ないって⋮姉さんに貰ったリボンを見るたびに、姉さんたちは幸せになれるようにこう
何で私がこんな目に合ってるの
﹁本当の事を言うと⋮最初はちょっと恨んだこともあります。私はいらない子なの
﹁私はただ⋮あの家で、姉さんと⋮お父さんとお母さんと⋮一緒に居れるだけで⋮それ
714
?
﹁姉さんは私の姉です⋮。血の繋がったたった一人の⋮﹂
ピシっ⋮と何かにひびが入る音が聞こえた。
砕けたのは、桜を囲っていた黒い何かと、祭壇を中心に走っていた陣。
そして、黒い何かは消えていく。
良かった⋮。桜が戻って。
﹂﹂
!!?
キャスターの事を完全に忘れていた。
!!
⋮まったく、攻撃するならさっさとしているわよ﹂
﹁ね、姉さん⋮あの⋮﹂
⋮そういえばそうね、でも何で⋮
!
後ろにかばった桜が話しかけてくる。
?
﹁待ちなさい
慌てて残っていた宝石を手に持つ。
しまった
私と桜は声のした方に同時に振り向く。
﹁﹁
﹁えーと、良い所ごめんなさいね﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
715
﹁はぁ⋮。あのねぇ
ですけどね⋮﹂
ちょっとは不思議に思わなかったのかしら⋮何で、敵である私
﹂
桜も何かを話したがってるし⋮。
﹁おーい、遠坂、桜無事か
﹂
走ってくる士郎。その後ろには、歩いてくる葛木先生の姿が見える。
﹁無事でしたか
ホントにどういう事⋮
﹁坊やとセイバーはもう聞いたの
?
﹁あ、あぁ。未だに信じきれていないんだけど一応は﹂
﹁はい﹂
﹂
小さくなったアサシンみたいなのが今度は来た。
セイバーと⋮アサシン
!?
?
があれだけ親切な事を言っているのかとか。まぁ、そう思えない状況を作ったのは事実
?
どうして、キャスターはいきなりこんなにフレンドリーになっているのかしら
???
どういうことか考えながら、私は声のした方、士郎へと顔を向ける。
?
?
?
716
﹁ということは、お嬢ちゃんだけね。
簡潔に言うわ、今回の事は全部コウジュの仕込み、お芝居だったの﹂
﹂
お芝居
え、どういうこと
﹁はい⋮
仕込み
どうしてコウジュの名前
?? ?
?
?
・
・
・
﹁はぁぁぁぁ
﹂
その張本人はどこ
﹂
た一連の事も全部がコウジュの計画
﹁それで
!!
!?
私たちがキャスターたちを狙うのも、桜が攫われるのも、そしてここに救いに来てし
!!!?
﹁最初から説明するわ││││﹂
???
!!?
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
717
﹂
コウジュちゃんは私たちの事を思ってしてくれたんです。だから恩人なんで
思わず拳に力が入る。今ならあの厄介な障壁も素手で壊せそうな気がするわ。
すよ
﹁姉さん
!
◆◆◆
でも⋮1発くらいは良いわよね
確かに感謝しないといけないわね。
はぁ⋮。
それは桜も同じことらしく、どこか吹っ切れたという感じがする。
我慢してた物が溢れてやまない。
さっきまであんな事をしてたけど、私たちの間の壁がなくなったから今までギリギリ
ダメだ、桜には勝てない。
﹁うっ⋮桜がそう言うなら⋮﹂
!!
よかった⋮。
?
718
遠坂と桜が姉妹だったってのにはびっくりしたし、今回の1連の事が全部コウジュの
計画だと言うのにも驚きだった。
自分なりに色々と考える事があった身としては、
いささか納得できない部分もあるが、桜達のためだったんだし構わないか⋮。
だがコウジュじゃないことはすぐにわかった。
続けて発せられた声からして男だ。
?
2人が嬉しそうにしてるのを見ると仕方ないと思える。
それにしても、計画した張本人は一体どこに│││
パチ、パチ、パチ、パチ⋮⋮
突然、気だるげな拍手が辺りに響き渡る。
コウジュか
?
﹁中々に良い余興であった⋮﹂
『stage34:めでぃあ☆マギカ』
719
そして声のした方向を全員で見る。
そこには黄金に身を包んだ男が居た。
一体何が起こってる
この男は誰なんだ
これもコウジュのシナリオってやつなのか⋮⋮
?
?
?
﹁しかし、飽いた。舞台の終わった役者はさっさと降りろ。目障りだ﹂
720
﹃stage35:5000円/グラム位でいけるかな⋮
そして今の状況がどれだけまずい状況かということも分かった。
思い出して見たわけだがあまりにもな情報量、そしてその内容に圧倒される。
修行の際にコウジュに言われた事、
﹃武器⋮特に剣等場合は注意して見ろ﹄というのを
は理解を拒否するものまである。
正確にはどういった類のものであるかや何かの原典であるという程度のもの。中に
そして何故か、あれらが何であるかが頭の中へと流れ込んでくる。
むしろこちらの方が目に見えた脅威としては上だろう。
コウジュという存在を知っていてもなお、信じることが出来ない光景だ。
⋮ありえない。
更には視界全てを埋め尽くすほどに浮かぶ武器。いや、宝具。
いつの間にかそこに居た、黄金の鎧に同色の髪そして紅い瞳の男。
あれ⋮﹄
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
721
しかも全ての宝具の刃先がこちらを向いているのだ。
あれら一つ一つが俺達を殺してなお余りある力を持つのは確かだ。
既に疲れが貯まっている俺達でどれだけの事が出来るだろうか。
まぁベストコンディションだったとしても難しいだろうことは容易く分かる。
それにしても、こいつもサーヴァントなのだろうか
なのに8人目
だが聖杯戦争に召喚されるサーヴァントは7人と言っていた筈だ。
?
ないか。
もしかするとあいつもそういう生存し続けた存在か
どうであろうと関係ないか。
問題はどうやってこの状況を打破するかだ。
出されるように向かってくる。
黄金の男が事も無げにそう言った瞬間、空中に浮いていた宝具全てがこちらへと撃ち
?
だが⋮、いやよく考えたら身近に聖杯戦争に敗れても尚生存している存在が居るでは
概要を聞いただけしかない俺では根本的な部分での判断ができない。
?
﹁では失せろ。雑種共﹂
722
まずい
﹂
しかし、それよりも早くキャスターと葛木が俺たちの前に出た。
とする。
俺の後ろに居るセイバーに遠坂、桜を守ろうと回収していたソードを盾に前へ出よう
!!
!!
だが、少しずつキャスターの障壁を抜ける宝具の数が増え始める。
それでもキャスターは弾き続けていく。
する神秘のランクも上がった。
そして次の瞬間、向かってくる宝具の勢いが増し、打ち出される宝具そのものが内包
それに対し、黄金の男が舌打ちをした。
﹁⋮⋮ちっ﹂
に後方に居る俺たちの元へは一本もたどり着いてはいない。
多重に張られた障壁を時たま貫通する宝具も葛木によって弾かれていくため、その更
その状態でキャスターが弾き損ねた宝具を素手で殴り飛ばし、援護を始める。
そして葛木は懐から青い腕輪を出し、腕にはめた。
前に出たキャスターは障壁を張って飛来してくる宝具を弾いていく。
﹁だが、多少ずれる可能性があるとも言っていた﹂
﹁予定と少し⋮違う⋮わ⋮
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
723
そして、合わせて葛木が弾く数も増えていき、さらに先程までとは違って、はためく
﹂
キャスターのローブも葛木の拳も目に見えてダメージを受けていく。
﹁宗一郎様⋮あと何分ですか
﹁後1分だ﹂
﹂
!!?
だが次の瞬間、そのまま3本の剣がキャスターと葛木を貫いた。
咄嗟に障壁をさらに重ねて展開した。
キャスターが驚く。
﹁むっ⋮﹂
﹁っ
駆け抜けた。
しかしその三本は恐るべきことに、撃ち出される宝具よりも早くキャスターと葛木へ
その所作はとても軽い。
そしてそれをこちらに投げてきた。
黄金の男が、次は片手を上にあげたと思ったらその手に3本の剣が収まる。
﹁小癪な⋮だが⋮⋮﹂
宝具の弾幕が障壁に当たる音で少ししか聞き取れなかったが、後1分とは一体⋮。
キャスターたちが何か会話を始めた。
?
724
同時にキャスターの障壁が砕け、他の降り注いでいた宝具がキャスターと葛木を襲
う。
耳がおかしくなるほどの轟音が響き、巻き上げられた土煙で視界が塞がれる。
しばらくして、宝具の弾幕が止まる。
しかし不思議と、俺達には1本も当たらなかった。
遠坂、セイバーへと目配せするも無傷だ。
俺達が居る場所から少し離れれば、そこは暴力的な豪雨として降り注いだ宝具たちの
所為で穴をあけるどころか地面をめくりあげ幾つものクレーターを作り上げているの
に、だ。
だが、その疑問の答えはすぐにわかった。
徐々に晴れていく土煙。
その中から出てきた二人が全て防いでくれたからだ。
そしてその分、キャスターと葛木は幾本もの宝具に貫かれていた。
ギリギリ頭部や心臓といった致命傷は防げているがそれだけ。 手足や腹部に刺さった宝具が俺達の言葉を失わせる。
﹁坊やたち⋮は⋮いいから後ろに下がって⋮なさい⋮⋮﹂
﹁どうして⋮﹂
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
725
俺の口からやっと出た言葉をキャスターが遮る。
﹂
口元から血を流しつつも、笑みをやめないキャスターは黄金の男の方を改めて向く。
﹁⋮⋮時間だ﹂
葛木が同じく血を口元から流しながら言った。
それにますます笑みを強くしたキャスターは驚く行動に出た。
﹂
﹁あらあら⋮全然効かない⋮わね⋮あなたの正体を聞いた⋮けど⋮この程度⋮
そして男は、軽い動きで腕をこちらへ振り下ろした。
待機させた。
先程あれだけ使ったというのに先程と同等、ひょっとすればそれ以上の宝具を空中に
再びその背後に現れる幾つもの宝具。
対し、黄金の男はもう何も話さずただ腕を上げる。
ている。
俺たちは動けず、キャスターたちは放っておいても死んでしまうだろう程の傷を負っ
このタイミングでの挑発。
﹁何だと雑種
?
?
726
﹁ところがぎっちょん
た。
って、コウジュ
﹁はうあっ
﹂
こうじゅぅぅぅ
何しに来たんだよ
!!!?
﹂
キャスターたちと一緒に貫かれた。
!
だが彼女なら、
絶望的な状況だ。
そこへと降り注ぐ無数の宝具。
彼女は立っているのがやっとのキャスターたちを飛び越えその更に前へと降り立つ。
よく見れば白い影というのはコウジュだ。
!?
白い影、表現がおかしい気もするがどこからともなく声を上げながら目の前に躍り出
!!!!
!?
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
727
728
黄金の男も思わず呆けてしまったのか宝具の弾幕を止めてしまった。
◆◆◆
い、痛い⋮⋮。
用事を終わらせて予定の時間になんとか間に合ったと思ったら既にクライマックス
だったでござる。
アンリミテッド・ブレイド・ワークス
まぁでも想定の範囲内だ。
アチャ夫の無 限 の 剣 製に貫かれた瞬間が走馬灯のように脳裏を走ったけどね。
飛び込んでしまえばあとは成る様にしかならないからやってるけど、ほんと止めとけ
ばよかった。
そんな風に僅かな後悔と懐かしさを抱いている内に、視界が光に包まれ身体が修復さ
れる。
よし復活
!!
ん
やっぱりMだったのかって
?
そんなわけはねーよ、全力で否定させてもらうぜ
ゲート・オブ・バビロン
王 の 財 宝
﹂
︵デデーン
!
でも、ただ覚えたわけじゃないんだぜ
スキル
が持ってる宝具、王の財宝の力だが、俺は今、俺自身の能力として覚えたのだ
オレ
その力は我の⋮⋮それ以前に何故生きている
﹂
!?
﹁そう、王の財宝だよ。そして悪いね。覚えさせてもらった﹂
﹁バカな
!?
勿論メインは桜っちの方だけど、まぁ何とか間に合った。
今後金ぴかを相手にする場合、強力な面精圧武装は必要だ。
況だったのでダイレクトアタック︵やられる側︶をしてみた訳だ。
本当なら直接受けるのではなく、見ることでヒントを得ようとしたんだけど状況が状
けど、中々感覚が掴めないからこんな事をしたわけだ。
いつだったか貰ったメールでもその内できるかもって書いてあったからやってみた
!
黄金の男⋮金ぴかが使ってる技、空中に浮いてる数々の宝具とそれを打ち出すのは奴
?
いや、さすがにもう分かるシチュエーションだよね。
││覚えるためだ
!!!!
俺がわざわざやられに来たのは│││、
!!
!!
?
﹁覚えた
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
729
うん、コツが掴めてきた。
いくつか空間を扱う技術に触れたのもあってか、なんとなくだが身体に馴染んでき
た。
俺の背後の空間から金ぴかと同じように武器達が顔を覗かせる。
オレ
ただ、金ぴかとの差異があるとすれば、俺の方は剣や槍といったものではなくおびた
だしい数の│││││
│││マシンガン︵笑︶
いるのか
確かにこれらは貰い物だけど、ゲームの中とはいえ愛用していたものや思いである子
ちょっとムカ⋮。
尊大な仕草でそういうギルガメッシュ。
財を名乗るなら、我の物ほどは無理であろうが多少は少しマシなものを用意せぬか﹂
オレ
いや、所詮は猿まねか。王の財宝を真似たのは良いが、中身が無かったようだな。
?
﹁ふん、なんだそれは。そのような数が多いだけの現代兵器で我に勝てるとでも思って
730
達なんだ。
ま、まぁ、別に良いけどね
精々吠え面フラグ乱立してろ
ただしその頃には八
!
つ裂き⋮は銃じゃできないから⋮、ハチの巣になってるだろうけどな
!
!!
﹂
?
何ならほんとに吼えようか
わんわんわーんってさ。
行くぜ英雄王。武器の貯蔵は十分か
﹂
それだと俺の武器たちは金ぴかほどの数が無いから押し負けてしまう。それ以前に
俺が今覚えた能力はこのままだと〝武器を倉庫から取り出し射出〟するだけだ。
く。
俺は白紙のカードを取り出し、いま手に居れた能力を一つの能力として形にしてい
﹁試したら分かるよ
!
?
でも窮鼠猫を噛むって諺もあるんだ。
それに俺が弱いのも確かだしね。
ビーストだし。まぁなれるのは狼だけど。
?
﹁ふん、弱い犬ほどよく吠えるというが正しくその通りだな﹂
てくれるんだぜ
﹁バカにしてはいないさ。ついでにいうと、この子達はあんたの財に劣らない活躍をし
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
731
俺が今出しているような射撃系武器は射出したところで意味が無い。
そこで、俺は王の財宝を覚えた上で対抗するためのスペルを前もって考えていた。
﹁弾符﹃メセタ・フィーバー﹄
﹂
!!!!
く。
狙い通り
﹂
﹂
﹁HAHAHA、どんなもんだこのやろー
﹂
ま、簡単に言えば﹃メセタ・フィーバー﹄こいつがキーワードさね。
何故ただの弾丸に見えるものが宝具を弾けるのか、まったく分からないんだろうな。
くふふ、驚愕している顔を見てすっとするぜ。
!!
﹁なにぃっ
!!? !!
そしてその音の中、金ぴかの武器達と俺の銃達の弾丸が互いを撃ち落とし合ってい
を塞ぎたくなるような音が響き続ける。
俺の武器が連続射撃系武器なこともあって轟音に次ぐ轟音。ビーストでなくとも耳
金ぴかもまた宝具たちを射出し始める。
俺の宣言と同時、背後に浮かび上がっているマシンガン系武器が一斉に撃ち出す。
﹁ふん、行けぇっ
!!!!!!
732
バレット
メセタフィーバーってのは、PSPo2に出てくるマシンガンの技だ。
この技はPPを消費して行う技ではなくお金を消費して弾丸を放つというもの。
この間キャスターの策略︵未だ根に持ってる︶で魔力供給が途切れてしまったから、現
状の限りある魔力ではその内に押し負けてしまう。
そ こ で 考 え 付 い た の が 某 〝 パ ン が 無 い な ら ケ ー キ を 食 べ れ ば い い じ ゃ な い 〟 戦 法。
魔力が無いなら別の物を犠牲にすればいいということだな。
だからメセタ、つまりお金が無くならない限り撃ち続ける事が出来るのだ
来ているのではなく通常時の宝具の神秘に依存している程度の筈だ。
あとついでに言うと、金ぴかの宝具を打ち出すというのは、一つ一つの真名解放を出
睡眠時間やら何やら犠牲にして無駄に貯蓄した数千万を味わういい。 しない。
たメセタ︵当然この世界では使えない︶が倉庫に入ってたから弾はそうそう無くなりは
この世界で使えるお金は全然持ってないけど、何故かゲーム時代に無駄に貯まってい
!!
﹂
対して俺の宝具の効果発動は俺の能力によりテキストデータから概念を抽出してい
る。
つまり││、
﹁マッハでハチの巣にしてやんよぉ
!!
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
733
宝具︵金ぴかの︶がゴミのようだ
!!!
あはははははは
見ろ
!!!!!
﹁終戦﹃フィーバータイム﹄
そして宣言。
﹂
カードを取り出し、またしても効果を想像しスペルカードを作成する。
んじゃ、次に行こう。
いくら、ランクSのものを使おうとも拮抗がやっとこさみたいだね。
まぁ、マシンガンは元々一発の威力がかなり低い。
!
グレネード、レーザーカノン。
ハンドガン、ツインハンドガン、クロスボウ、ロングボウ、ライフル、ショットガン、
そうこうする内に出てくるマシンガン以外の重火器。
いやいやいや、どっちにしろ使えないんだ。ケチってやられては意味が無い。
るとだいぶ減るだろうなぁ⋮。
元々ゲーム内通貨なわけだし、今世でも使えないものだけどこれだけの数で撃つとな
装填する技は勿論メセタフィーバー。
効果は、マシンガンだけでなく全ての重火器を取り出しぶっ放すというもの。
マシンガンを撃ち続けたまま、追加スペル発動。
!!!
734
﹁ふぉいやー
﹁ちいぃぃっ
﹂
﹂
金ぴかが本腰を入れて宝具を撃ち出して来る。
その数は今までの火ではない。
だがしかし、時すでに時間切れだ
戦争は数だよ兄貴
﹂
!!!
剣も来てぇ
﹂
跳弾がっのわぁっ
﹂
弾ききれません
!!!
お前が撃ち出す宝具の数よりも、こちらの弾数の方が若干上回っている
!!
今かすっイヤー
!!!
跳弾
!! !!
!!
かすった
!!!
﹁コウジュ止めてください
﹁キャァー
!!
!!
のものが軋むように音を発し、遠くに見える壁や天井が歪み始めた。。
そして続けて聞こえてくる、ゴギガガガギゴ⋮じゃなかった、ともかくまるで空間そ
あれー
﹁⋮はう︵ばた︶﹂
!!?
?
!!
!!! !!
﹁ちょ、コウジュ
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
735
はて
って、あ⋮⋮。
やっべ。とにかく撃ちまくったから、流れ弾でこの空間が潰れかけてる
﹂
の宝具やら攻撃やらで空間も飽和しちまったわけか
こりゃ、やばい。
﹁ちっ、空間が持たんか⋮おいそこの雑種
!?
スター︶は後ろで死んでる︵リアルに︶んだし、神殿の保持ができな状態で、あれだけ
そうか、一応ちょっとやそっとじゃ壊れないようにしてとは言ったけど、術者︵キャ
!?
?
る。
﹁なんじゃいの
﹂
王の財を真似るという大罪、またすぐに償わせてやる
覚えておれっ
﹂
いや、空間移動系宝具の原点を持っててもおかしく
いいなー。王の財宝︵もどき︶は手に入ったけど、どうせなら中身も欲しいな│。
?
何その噛ませ犬発言。
ってか、今の霊体化したのか
!!!
?
それだけ言って、金ぴかは消えた。
﹁貴様
!
はないからそっちっぽいかな。
!!
いつのまにか互いに撃ち合いをやめており、金ぴかは俺に向かって何かを言ってく
!!
736
﹂
確かに俺が持ってるのは規格外だけど、どうやってもPSPo2の世界観上近未来的
ふむとかのんきなこと言ってないで脱出の手伝いをしなさいよ
!!
なのとかが多いから、明らかに宝具っぽいのも欲しいっす。
﹁こらー
﹁扉
扉その辺にない
﹂
!?
﹂
・ω・`︶
﹁あんたがなんか考えてる間に消えたわよそんなもんは ってああ
も無くなったじゃない
凜ちゃんが激おこぷんぷん丸︵
﹁すまん
失敗しても俺を恨むなよ
﹂
だから、ちょっと荒っぽくなるけど仕方ないよね。
ムカ着火ファイヤーしちゃう前に行くとしますか。
´
!!
!!
出口に続く道
!!
郎達の方を向く。
の付いた巨大なナイフを逆手に持ち、内包する﹃空間操作﹄の概念を能力で操作し、士
俺は、
﹃ツミキリ・ヒョウリ﹄、以前にイリヤとライダーに見せたツインダガ│を出す。
!!
!!
さっさといつものスペルを使っていつものように移動しようと、扉を探す。
!!
早く何とかしないと空間がどうにかなる前に俺が凜ちゃんに殺されそうだ。
やばい。そうだヤバい状況だったんだ。
!!
﹁ふむ⋮⋮﹂
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
737
実はこれ、あんまり練習出来てないんだよね。
現状どうしても距離とかの制約が着いてしまう。
空間を切り裂けっ
﹂
キャスターの御陰で空間移動の感覚がちょっとはマシになったしたぶん行けるとは
ツミキリ・ヒョウリ
恨むなってどうい│││﹂
﹂
﹂
!!!
思うんだけどね。
﹂
﹁⋮⋮﹂
!! !!
﹁え、ちょっと
﹁答えは聞いてない
﹁っ
!!!
﹁いやあああああ
!!?
るだろう。
とりあえずは上手くいった⋮かな
神殿が崩壊しちゃったし、これは怒られるかなぁ⋮。
すかさず俺も、キャスターと宗一郎氏を抱えて裂け目に飛び込む。
?
若干一名気絶したままだったのでそのまま落ちて言ったけど士郎が何とかしてくれ
思い描いていた空間の裂け目が士郎達の足元に出来、飲み込まれていく。
!!!
﹁うわあああぁ
ヒョウリを士郎達に向かって振り下ろす
!!
!?
738
そんな、緊張感がない事を考えながら俺は飲み込まれていった。
﹂
﹂
﹁きゃあぁぁぁぁ
﹁⋮
﹂
?
で斬られたと思ったら落ちる感覚と共に黒い空間に飲み
あれ、そういえば小次郎どこ行った
⋮⋮あれ
◆◆◆
?
!?
俺たちはコウジュに双剣
込まれた。
﹁ぐはっ
ぐぇっ
﹂
﹂
﹁きゃっ
﹁くっ
!? !?
!?
﹂
しかし暫くすると視界が明るくなり始め││、
?
!?
!?
﹁うわあぁぁ
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
739
!!?
││地面にビタンと打ちつけられた。
ついでに背中におも⋮ゲフンゲフン⋮遠坂様が乗ってこられました。
セイバーは横で着地したようで、カシャンと具足の軽い金属音と共に降りてきた。
俺が抜け出そうとしたでもぞもぞ動いていると、状況に気付いたのか遠坂が飛び跳ね
るように避けてくれた。
続けて俺も何とか立ち上がり、状況を確認する。
﹂
とりあえず桜はセイバーが途中で抱きかかえてくれたのか無事だ。
﹁ってあれ、ここって柳洞寺の門
ニヤニヤしながら、チート野郎めとか言ってきてたから大した理由があって隠してる
助かるって言えば助かるんだけど、ちょっとだけ気味悪くなってきた。
だろうか⋮。
今更だけど、この武器の情報が分かるというのは何でなのかいい加減教えてくれない
空間を移動できるくらいの宝具だから低い訳もないか。
あの法具は見ても分からなかったからかなり高ランクってことだな。
か。
確かにここは柳洞寺の門前⋮ってことはさっきの双剣は移動するのが能力だったの
遠坂の声に反応し、俺も当たりを見渡す。
?
740
わけではないと思う。というかコウジュが言うな。
﹂
⋮⋮現実逃避もここまでにしておこう。
?
││っ
﹁今一人多くなかったか
﹂
﹂
いうか小さくなったアサシンだった。
そこに居たのは青い着流しに長い髪を一つに結った古風な男に似た少年だった。と
﹁私の事か
?
!?
!?
じゃあ後はコウジュだけ││、
﹁私もだ﹂
﹁私も問題ありません﹂
﹁私は大丈夫よ。桜も居るわ﹂
﹁皆無事か
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
741
﹂
?
﹁あ、あんた何で⋮﹂
私はずっと居たぞ
え
?
?
おい⋮。
!!
﹂
!!
少し遅れてきたが自身も無事にあの宝具であの神殿から抜けて来れたようだ。
コウジュが上から何かを二つ抱えて目の前に落ちてきた。
﹁すたんっ、着地っと。10点
アサシンがごく平然と何かを話そうとするが、すぐに遮られた。
﹁ああ、そのことかそれは│││﹂
を見せられたんだ。遠坂が言いたくなるのも当たり前だろう。
なった。かばってくれたりもしたし⋮。そんな2人が目の前で貫かれて倒れていくの
あの二人は敵だったが、コウジュの計画だった事から味方、少なくとも敵ではなく
う。
遠坂はさっきの、キャスター、葛木と黄金の男との戦いの際の事を言っているのだろ
﹁あんたサーヴァントなら闘いなさいよ
﹂
﹁ただ、私はずっとクラススキルで姿を消していたがな﹂
いや、確かに金色の男が表れる前に居たのは覚えてるが、その後は記憶にない。
﹁ふむ
742
良かった。
そう安堵したところで、バーンという効果音が似合うような登場の仕方をしたコウ
ジュの手にある二つのモノに目をやる。
﹂
キャスターと葛木の死体だ。
何この状況
?
?
﹁ん
キャスター達だよ
ああそっか士郎達は知らんかったっけ。大丈夫、多分もう
?
﹂
?
セイバーとアサシンは無言で同じように入っていく。
遠坂は頭痛が痛いとでも言いたげに頭を押さえながら同じように中に入っていった。
・・
﹁ああ、忘れてたわ⋮学校の時のもあの子だったけ⋮﹂
そんな風に先程の疑問を口にしていると、俺の横を遠坂が歩いていく。
﹁というか起きるってどういうことだ⋮
しかし声を掛ける暇もなく、コウジュは奥へと消えていった。
身長足りないから擦ってる擦ってる。
がら柳洞寺の門をくぐって中へと入っていく。
そう言いながら、コウジュは2人の遺体を改めて肩に担ぎ直し、何かカードを使いな
チョイしたら起きると思うから﹂
?
﹁コウジュ⋮それって⋮⋮﹂
﹁おおぅ
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
743
﹂
あまりにも普通に置いて行かれたので一瞬呆けてしまったが、慌てて俺も同じように
門を潜った。
・
・
・
さっき何の話してたんだ
﹂
﹁説 明 め ん ど い か ら 俺 の 能 力 で 空 間 繋 げ た 結 果 だ と 思 っ と き ゃ い い よ。そ う い や さ、
あ、桜は近くの部屋に真っ先に寝かせてきてある。
今更な気もするが思わず口に出てしまった俺は悪くない筈だ。
後ろを見たらやはり柳洞寺の階段が写っているのに、前を向いたら俺の家の中⋮。
屋の引き戸を開けたらそれは俺の家の引き戸になっていた。
さっきまで柳洞寺に居た筈なのに今は俺の家に居る。柳洞寺の門を越え、中にある家
﹁あのさ、柳洞寺に居た筈なのに何でいつの間にか俺の家に居るんだ
?
744
?
俺がぽろっと言ったことへの回答を投げやりに答えながら、担いでいたキャスター達
を下ろし、自身の疑問をぶつけてくる。
なぁ、俺ってここの家主だよな
何かあったのだろうか
?
手を付きながら落ち込み始めた。
それを見てコウジュは噴き出した︵俺もちょっと危なかった︶が、すぐに何故か床に
なった手には大きいようで刃先がぐらぐらと揺れている。
アサシンが立ち上がり刀を取り出して握るも、身長の2倍はある大太刀はその小さく
﹁ぶはっww ちょ、それ⋮⋮って俺笑えねぇじゃん⋮﹂
ように身体が小さくなってしまって刀が振れなかったのだ﹂
﹁うむ、最初は当初の予定通り私も時間稼ぎに参加しようと思ったのだがな、ほれ、この
﹁あ、小次郎隠れてたんだ﹂
たくせにさっきまでずっと隠れてたらしいわ﹂
さっき話してたのはアサシンの事よ。こいつバトルジャンキーみたいなこと言って
?
なんだろう、このやるせない気持ち⋮。
別にえらぶろうってわけじゃないけどさ⋮。
?
﹁いいけど、その次は私の質問だからね
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
745
コウジュの為にも聞かない方がよさそうか。
それから
?
﹂
?
﹂
!!
!
!!
回 み た い な 事 を 起 こ し た。金 ぴ か の あ い つ の 件 は 俺 自 身 の 為 っ て 部 分 も 確 か に あ る。
﹁ホントに悪いね。でもさ、あんたらには嫌でも強くなってもらいたいんだ。だから今
声を荒げて言う俺にコウジュは唐突に真剣な顔になって、俺に言ってくる。
も怒るぞ
﹁まーねって⋮軽すぎるだろ こっちは桜の事とか色々焦ったんだぞ いくら何で
﹁まーね﹂
ターが言ってたけど、全部あんたの掌の上だったんでしょ
﹁私 が 聞 き た い の は 今 回 の 事 件 を 起 こ し た 理 由 よ。そ れ か ら あ の 金 ぴ か の 奴。キ ャ ス
魔法ってほんと何なんだろう⋮。
りそうだ。
すまない、魔術にもあまり詳しくない俺では理解するのにはもうちょっと時間がかか
遠坂は幾らかを察したのかおざなりにだがそう言った。
が持ってるのは聞いたし、今更あんたが何しようとあんまり驚かないわ﹂
どういう理屈かはこの間そこまで教えてくれなかったけど、そういうスキルをあんた
そっちの死体やってる二人も。
﹁アサシンが小さくなってるのはどうせアーチャーの時と一緒なんでしょ
746
でも、キャスターの件は士郎達の為ってのが大きい。
これは完全な俺の押しつけだよ。余計なお世話って言われても仕方ないことだ。偽
善者って言われるのも仕方ない。
でも、今のままだと俺が見たい未来には行き当たらない。
俺はハッピーエンドが好きだ。それの為には必要な事なんだ﹂
コウジュの紅い瞳に見入る。
いつものおちゃらけていて楽しそうな瞳ではなく、ただ真剣さを映したその瞳は俺に
何も言わせなくする。
卑怯だ⋮とも思う。怒れないじゃないか。
それは遠坂も同じだったらしく│││、
イリヤにもあるが、子どもの様にはしゃぐくせにこういった時はその顔に子どもを暖
そのようには似合わない、大人を思わせる表情。
ここ数日でも何度か見た、コウジュの表情。
まただ。
軽い口調とは裏腹に本当に申し訳なさそうに言ってくる。
﹁ゴメンな⋮﹂
﹁そんな目されたら強く言えないじゃない。まったく⋮﹂
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
747
かく見守る大人の様な慈愛が見て取れる。
﹂
﹁はぁ、もう良いわよ⋮。それで 話せるとこまでの説明をしてくれるんでしょうね
748
?
まぁ仕方ないか。士郎、この二人寝かせるのにどっか借りて良い
﹂
どっちが本当のコウジュなのだろうか
﹁士郎
﹂
そんな俺を見て首をかしげながらもコウジュが二人を担いでアサシンと共に部屋を
﹁私が見ておこう﹂
﹁さんきゅ﹂
って、何を焦ってるんだか俺は⋮。
思わず、焦って声がどもった。
た。
違うことを考えていたからか反応が遅れてしまいコウジュが俺の顔を覗き込んでい
﹁あ、ああ。空いてる所を適当に使ってくれ﹂
?
?
気付けばコウジュは、いつもの常にどこか嬉しそうにしてる彼女に戻っていた。
?
方は先に起きても良い筈なのに。
﹁ああもちろんだ。っとちょっと待ってくれ。キャスター達の蘇生が遅い。先生さんの
?
出ていく。
﹂
?
そうこうする内にコウジュが戻ってきた。
﹁同感だ⋮﹂
う﹂
﹁ど う せ だ っ た ら コ ウ ジ ュ に 先 に 回 復 し て 貰 う ん だ っ た わ。戻 っ て き た ら し て も ら お
そんな風に改めて今日の事を思い出したからか、ドッと疲れが出てきた。
今日だけで死を覚悟しなければならない目にあったのは何度あっただろうか。
んだ。
コウジュの空気に乗せられて普段みたいに居間に居るから忘れてるけど、戦いの後な
そう⋮だよな⋮。
詳しい事もどこまで聞けるんだか分からないし、どっかに当たる事も出来ないし﹂
﹁大丈夫なわけないでしょ。正直満身創痍よあれだけの事があったんだから。しかも、
﹁大丈夫か
コウジュが出てすぐ、遠坂は机に項垂れた。
﹁はぁぁぁぁぁ⋮﹂
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
749
遠坂が今言ったように回復だけしてもらい話を続ける。
﹁さて、話の続きだけどどこから言おうかねぇ﹂
﹁とりあえずはあの金ぴかの事からで良いわ。一体何者なの
﹁あいつは│││﹂
﹁あの者に私は﹁求婚された
﹂⋮っ
どうしてそれを
!?
﹂
﹂
!?
捨てましたが﹂
﹁ちょ、ちょっと待って
セイバーは前回の聖杯戦争でも召喚されてたの
﹂
!?
えていき、呼べてもすぐに炎に飲まれるあの地獄が脳裏に浮かんだ。
その単語を聞いた瞬間、町が燃えていくあの光景が、町の皆が助けを呼ぶ暇もなく燃
大火災。
﹁はい。そしてあの者と剣を交えています。あの大火災の中で⋮﹂
!
﹁⋮⋮。コウジュの言う通り、私はあの者に聖杯戦争の中求婚されました。勿論、斬って
﹁今更その辺は気にしない気にしない﹂
?
今まで黙っていたので少し驚く。いや、知っている事の方に驚く。
コウジュの言葉に重ねる様にセイバーが言った。
﹁あの者はアーチャー。前回の聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの一人です﹂
?
750
﹁前回私は最後の二人まで残りました。もう一人はあの黄金の男です。マスターは分か
りません。いえ、あの者の正体も結局掴めませんでした﹂
に﹂
﹁では、凛。あの数ある宝具の中に一つでも見覚えがあるモノがありましたか
?
?
﹂
?
良くわからない事だらけだが、コウジュが俺の続きを言ってくれるらしい。
﹁正解だよ士郎。特訓の成果ありってことかね。とりあえず後は俺が言うよ﹂
﹁宝具の原典って⋮どういう││﹂
かは宝具の原典というものらしい﹂
﹁原典だよ。何でかは分からないが頭に入ってきた。全部かどうかは知らないがいくつ
だが俺は、あの光景を見て知った事をただ口に出す。
誰が言ったのか疑問を投げかけてくる。
﹁士郎
﹁原典⋮﹂
い出す。
俺も思い出す。けど、いくつかは解かる事は出来なかったは知ることはできた事を思
﹁それは⋮﹂
﹂
﹁ど う い う こ と あ れ だ け 派 手 に 宝 具 を 使 っ て る ん だ か ら 分 か っ て も 良 さ そ う な の
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
751
﹁コウジュはあの者を知っているのですね
﹂
?
いや待って、真眼とか初めて聞いたんですが
﹂
?
﹁はるか古代にあらゆる宝具はたった一人の元にあったわ﹂
どうやらセイバーと遠坂が同時に答えを導き出したようだ。
﹁﹁まさか⋮﹂﹂
﹁そして⋮王⋮﹂
﹁原典⋮大量⋮⋮﹂
ジュが出した問題を考える。
もう微妙に俺の事について流される事には慣れてきてしまったので、とにかくコウ
しょう
﹁さて問題です。数多の宝具の原典を湯水のごとく使い、自身を王と呼ぶあの男は誰で
しかしそんな俺は置いておいてコウジュは続ける。
?
そこで指をピンっと一本立ててコウジュは続けた。
ど、それでもいくつか分かったみたいだね﹂
実は士郎には真眼スキル、剣とか限定だけど適性があるんだ。まだ全然みたいだけ
﹁ああ。それと、士郎が言った原典ってのは本当だよ。
752
そこで俺も分かった。
つまりあいつの正体は│││、
s right♪﹂
'
﹁なんだってそんな奴がまだ現界してるのよ﹂
いかもしれない。
だから、俺がすぐに助けに行けない場合は俺が行くまで保ってくれないと助けられな
現状の戦力で言えば金ぴかに対抗できるのは俺だけだ。
これからは士郎達もあいつと相対する可能性がある。
る方が対処はしやすい筈だ。
原作ではこの時点では士郎達は金ぴかの正体には気づけないんだが、前もって知って
金ぴかの正体を皆にバラした。
◆◆◆
﹁That
﹁﹁﹁古代ウルクの、最古の英雄王、ギルガメッシュ﹂﹂﹂
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
753
凛が俺に聞いてくる。
えっとどこから話そうかねぇ⋮。
﹂
?
⋮⋮えっとちょっと待てね。
?
?
聖杯はあらゆる願いを叶える願望器だから聖杯で現界を願えば良いのかしら
それって⋮﹂
?
﹁﹁
﹂﹂
から﹂
﹂
私がこの手で、前回のマスターである衛宮切嗣に令呪で命じられて壊させられました
のです。
﹁事実です凛。コウジュの言う通り前回の聖杯戦争で景品である聖杯を得た物は居ない
﹁え
けどな、前回の聖杯戦争には勝者は居ないんだ﹂
はある。
﹁さすが凛だね、おしい。確かに聖杯によってサーヴァントを現界、いや受肉させる方法
?
てるから聖杯は必要不可欠⋮。
とりあえず前提条件としてサーヴァントは聖杯を介して現界という神秘を可能にし
﹁現界し続ける方法
トが現界し続ける方法って何があると思う
﹁ちょっとややこしい部分だから整理しながらいくぜ まず、凛ちゃんはサーヴァン
754
!?
凛と士郎が同時に驚く。
・・
ただ、2人が驚いたのはそれぞれ別のところだろうな。
士郎は衛宮切嗣という部分に、凛は聖杯をわざわざ壊したという部分に。
宝具という奇跡も使用するんだぜ
﹂
いう一種の奇跡を人一人で何日も現界し続ける事が可能か
?
戦争中は﹃魔法﹄に近い
確かにサーヴァントの維持にマスターからの供給は必要だ。けどさ、サーヴァントと
ここで重要なのがバックアップの部分だよ。
の現界の維持をバックアップ。そして願望器としての器。
聖杯の役割は3つ。まず呼び出すためのゲート。そして聖杯戦争中のサーヴァント
でもさ、考えてみたら答えは単純なんだよ。
続けている。
﹁それでさっきの続きだが、あの金ぴかは聖杯ではなく他の力によってその身を現界し
すまんな士郎。
だから、切嗣が聖杯を壊した理由も言えないんだ。
聖杯が穢れている事はまだ言えない。
部知ってるわけじゃないからさ﹂
﹁まぁその辺はセイバーに聞いてくれ。俺は知識として知っているだけ出し、全部が全
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
755
?
﹁⋮
なるほどね⋮そういうこと⋮⋮﹂
!
﹂
?
だよ﹂
?
要なんだろ
﹂
・・
最近何が起こって
?
?
﹁おいおい、忘れちまったのかい この町はあんたらの町だろ
?
﹁そうだよ。そんなことが可能だとしても、困難って言う位なんだから相当の魔力が必
ないのよ﹂
﹁でもコウジュ。私も自分でそう考えたとはいえ、他のとこからっていう部分が分から
ならどっかから取ってくればいい﹂
﹁そう、聖杯が無いと現界させ続けるのがあくまで困難なだけだ。だったらだ、足りない
そこに俺が続ける。
後の問題は魔力だけなの﹂
﹁士郎、既にサーヴァントはこちらに来てるんだからゲートの役目は必要ない。だから
﹁いや、つまりどういうことだ
﹂
﹁つまりだ士郎。サーヴァントが現界し続けるだけなら聖杯が必ずしも必要じゃないん
今のだけで分かるとかさ。
ホントに凛って優秀だよね。
﹁
756
た
﹂
?
﹁ちょっと待って 町って言ったらガス漏れ事件の事よね でもあれはキャスター
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
?
とか槍の類の長物での辻斬り事件﹂
﹁いや⋮遠坂、まだある。他にも事件があった。俺も詳しく聞いたわけじゃないけど、刀
そこで、考え事をしていた士郎がポソリポソリと言い始める。
が魔力を吸うために⋮﹂
!
だから、もう少しの我慢だ。
に使えないからな。
単純な戦闘はともかく、ここまで何とか戦闘を行ってくれた方法もあいつらには確実
てずにいる間は自殺するようなものだ。
それ以前に、金ぴかたちをラスボスとして認識している以上、勝てるという確信を持
でもここで俺が焦って突っ込んでも殺されるのが落ちだ。全て水の泡となる。
でもあとちょっと、あとちょっとで終わらせることが出来る、
それと、まだ触れてないがあの金ぴかのマスターについてもな。
猪のごとく突っ込んじまうから言えない。
実際は他の供給方法も使ってるがそっちを言っちゃうと士郎達の事だ。
﹁それだよ﹂
757
﹁そんで問題はさ⋮。新たにこの地には聖杯が現れたからあいつも聖杯に触れる事が出
来るって部分なんだ。
聖杯に触れられる条件はサーヴァントである事だからな﹂
向もある程度予想はできた。
?
けど、ここからは⋮。ここからは何が起こるか分からない。
﹁後少し、後少しでこの聖杯戦争も終わる。だから絶対に生き残ってくれよ
﹂
ここまでは原作知識があったし、それにそって何とか事を運べたから金ぴかとかの動
か分からない﹂
はかなり⋮ごほん⋮えっとちょっと不器用だから予想外の事が起こった時はどうなる
けど、あいつの持ってる宝具の中には俺と相性の悪いやつもあるかもしれないし、俺
﹁俺も自分の事を大概チートだとは思ってる。
決心をする三人。
﹁当然、冬木の地を管理する私としてもそんなものは許せないわ﹂
﹁私も渡す気はありません﹂
﹁ああ、あいつに聖杯を渡すわけにはいかない﹂
て⋮﹂
﹁最悪⋮。辻斬りめいた事をしてまで生き残ってる奴に聖杯を得る権利が残ってるなん
758
縁 側 に な ん か 座 っ て ど う し た ⋮ っ て な ん で 今 に も 泣 き そ う な 顔 し て る の さ
﹁﹁﹁ああ︵ええ︶︵はい︶﹂﹂﹂
⋮﹂
﹁あ れ
あぁ⋮俺の数百時間がぁ∼⋮﹂
位 が 減 っ ち ま っ て。そ り ゃ ぁ あ れ だ け の 数 で 一 斉 に メ セ タ 溶 か せ ば こ う な る よ な。
﹁はぁ、使えないよ。確かに今は使えない。でも億近くまで溜めてたのに今じゃ数桁単
﹁そ、そうか⋮﹂
やっちゃっただけだからさ。⋮⋮はぁ⋮﹂
﹁ああ、気にしないでくれ。自業自得なんだよ。ちょっと調子にのっちまってパーっと
﹁⋮⋮えっと﹂
﹁お金をな⋮勢いで使いすぎてしまったんだ⋮⋮うぅ⋮﹂
?
︻小話︼
『stage35:5000円/グラム位でいけるかな…あれ…』
759
﹁あ、ひょっとして元の世界のお金か
﹂
?
﹁え、金
﹂
﹁え、違うのか
コウジュ
!?
ご利用は計画的に︵血涙︶
﹁え、ちょ、コウジュ
﹂
これを大量に消費したのか⋮。確かに痛いな、懐的に﹂
﹂
?
﹁知らなければよかった⋮﹂
?
?
ご利用は計画的に︵泣︶
!!!?
﹁って、これ金か
﹁そうそう、魔力の代わりに物量で勝つためにお金を消費したんだよ。こういうやつ﹂
760
﹂
﹃stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ﹄
﹁え、誰
?
﹁What
s⋮
﹂
?
まず、メディアさん。
続で入ってくる二人を見てたんだけどさ、そこからが問題なんだよ⋮。
やっちゃいなYO﹄な人の事務所に所属できそうな少年になったなーとか考えながら後
今回は何で復活遅かったんだろーとか、小次郎がお姉さま方が放っておかない﹃ユー
そしたらさ、看病に行ってた小次郎が目覚めた二人を連れて来た。
アチャ夫さんにお茶を入れてもらって居間でくつろいでたんだ。
今は話が終わった後、もう遅いからって一旦寝ることにして、次の日の朝。
'
﹁葛木宗一郎だが﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
761
762
御希望通り、ロリではないが大人でもない微妙なラインというのは成功したみたいだ
けど、元々神聖な雰囲気をまとった美人さんだったから、小さくなって可愛さプラスし
﹄とつい問いたくなっ
たら﹃マジカルめでぃあちゃん﹄みたいな感じになってしまった⋮。
美少女エルフ、もしくは美ニュマ娘。
ファンタジーの鉄板でもあるが、だからこその破壊力。
怪しい笑みを浮かべているのがマイナスですが⋮。
さておき次だが、更に大変な事に⋮。
メディアさんの次だから勿論、葛木宗一郎氏なんだが⋮。
入ってきた瞬間の俺の反応は﹃どこの七夜のしっきーですか
た。
こう、暗殺者的な
そこに拍車をかけるように雰囲気が似てるんよ。
タよりは上だが︵ry な年齢に現在はなっているわけだが、顔がそこそこ似てる。
キャスターさんの強い︵強迫じみた︶希望により宗一郎氏もキャスターと同年代、ショ
?
何という予想外な宗一郎氏の幼い頃⋮。
た感じになってしまっている。
でもまぁこっちは本家に比べて眼がギラギラして無い分、
﹃文化系な七夜さん﹄といっ
?
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
763
ブリュンスタッドの姫君の⋮
とりあえず一言言わせてもらおう、イケメン爆発しろ⋮。
そういえば、キッチンに居るアチャ夫さんから﹃何
いや、違うか⋮﹄とか聞こえてきた。
るのかね
ってかあんた見たことあんのかよ⋮ってことはこの世界って月姫の関係者やっぱ居
!?
あれ、この時点でフラグだったりする
◆◆◆
さておき、桜はまだ寝ているみたいだがキャスターがもうすぐ起きるだろうと言うの
まぁあれだ、大体コウジュの所為。
キャスター達が起きて来た後、少し一悶着あったが今はそれは置いておこう。
?
なんか変なフラグ立っちまったら目も当てられねぇからな⋮。
いや、考えるのはよしておこう。
?
で、朝ごはんの準備だけ終わらせて待っているところだ。
とはいってもアーチャーがほとんどやってくれたので、俺は手持無沙汰だったりす
る。
だから、朝特有の霞がかった庭をなんとなく歩いている。
冬独特の身を刺すような寒さが眠気を訴える身体を覚醒させていく。
この引締めるような空気が考え事をするには丁度いいのだ。
目指すは中庭。
しっかりと日が出ていないこの時間、町は未だに寝ているように静かで中庭からは日
の出も見ることができ好きな場所の一つだ。
そこを目指し、歩いていく。
しかし人の気配があることに気付いた。
しばらく沈黙が場を包むが聞きたい事があったのを思い出す。
俺はセイバーの横に移動する。
彼女は静かに中庭の中央で佇み、ただ空を見ていた。
姿が見えないと思っていたがここに居たのか。
﹁セイバー、こっちに来てたんだ⋮﹂
﹁士郎⋮ですか⋮﹂
764
考え事をしようと思っていたが、その内容は彼女に関するものだ。
﹂
丁度良いと思い直し、直接聞くことにした。
﹂
﹁なあセイバー、少し話があるんだが良いか
﹁なんでしょうか
﹁切嗣ですか﹂
﹁親父の⋮ことだ﹂
?
?
﹂
?
?
﹂
?
ように最後まで私と切嗣は勝ち残りました。
﹁切嗣は生粋の魔術師でした。良くも悪くも⋮。10年前、コウジュが昨日言っていた
﹁それって一体⋮
の過去を見ました。そのあなたの中の切嗣を壊したくはなかった﹂
﹁正直に言うと切嗣がどんなマスターであったかあなたに言いづらかった。私はあなた
だが一つ溜息をついた後、諦めたように続きを話してくれた。
言うべきか言うまいか、今でも悩んでいるような表情だ。
俺の問いに悲痛な表情を見せるセイバー。
﹁それは⋮言いにくかったからです﹂
んだ
﹁ああ、前回のセイバーのマスターだったんだよな⋮ どうして言ってくれなかった
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
765
そして、私があの金色のアーチャーと対峙している間に切嗣は相手のマスターを倒し
たのでしょう。確かに聖杯は私たちの前に現れました。
しかし切嗣は最後の令呪を使い、私にその聖杯を破壊させました。次の瞬間にはあの
大火事が起こっており、聖杯が無くなったため私は気づけば英霊の座へと還っていまし
た﹂
何故親父は聖杯を破壊したんだろうか。
昨日コウジュははっきりとは言わなかったが、今セイバーが言ったように親父は勝利
し、正規の手順で聖杯を手に入れたんだろう。
なのに破壊した。
分からない。分からないことだらけだ。
ありません。
あった聖杯を前にして、彼は私に破壊を命じた。あの時ほど、令呪の存在を呪った事は
そこまでして彼が信じたモノが何であったかは私にはわからない。ただ、その目的で
殺した。
し殺人鬼というわけではなかった⋮。けれど彼は、あらゆる感情を殺し、あらゆる敵を
のためには手段を選ばず、阻むものは何であれ排除する。残忍というわけではなかった
﹁私は今でも信じられません。私の記憶にある切嗣はまさしく生粋の魔術師。己が目的
766
しかし私は、再び聖杯戦争に参加する事ができた。
今度こそ私は、聖杯を手に入れる﹂
拳を握りしめ、自分に言い聞かせるようにセイバーは宣言した。
聖杯を手に入れることは俺も賛成だ。あんな危ない奴に渡す事はできない。
だが、それとは別に聞いておきたいことがある。
俺は昨日から考えていたそれをセイバーに言うことにした。
だったら│││﹂
?
そしてその終わりもまた、言い伝えられている。
ンを統一するというものだ。
伝説の内容は諸説あるが、岩に刺さった剣を抜き王となり、円卓の騎士と共にブリテ
いる。
セイバーはアーサー王、騎士王と呼ばれる程にブリテンの伝説として言い伝えられて
それを彼女は望んでいる。
〝王の選定をやり直す〟こと。
少し前に俺は、セイバーの望みを聞いた。
﹁そして、王の選定をやり直すのか⋮﹂
﹁私は⋮、残るつもりはありません。聖杯を手に入れ、元の私に戻るだけです﹂
﹁聖杯があれば、こちらに居られるんだろ
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
767
768
幾多の神秘・伝説に包まれたアーサー王の終わりは、アーサー王の死と共に国が滅び
る事で締めくくられる。
そしてセイバーは、その王国が滅びた原因は自分にあるから、過去に戻り、自分が抜
いてしまった剣による選定をもう一度行おうとしているのだ。
俺はセイバーの過去を何度か夢で見た。
きおく
令呪による繋がりのせいで、記憶が夢として流れているのだろうと言っていたが⋮。
システム
とにかくその夢の中で見たセイバーは王としての責務をちゃんとこなしていたと思
う。
自身の心を消し、国を治める王であろうとした。
システム
その結果は伝説に残っているようなものに相違はない。
システム
ただ、その王を見て民は思ってしまったのだ。アーサー王には心が無いのでは⋮と。
王が求めたのは効率、確実な勝利だ。それは確かに勝利をもたらす。
だが、効率の為には捨てる必要のある物もある。
それが民に少しずつ、けれど確実に不満を蓄積させていった。
その結果起こった謀反。
それは、アーサー王が遠征に出ている際に起こった。
国に帰ってきたアーサー王はその自身が守らなければならない国に自ら攻め込んだ。
その戦の中で致命傷をセイバーは負ってしまう。
謀反を起こした民や騎士が悪いとは一概には言えない。
けど、アーサー王、セイバーだけが悪いわけでは決してないと思う。
それを全て無かった事にするというのがセイバーの願い。
俺が偉そうに言うのはおかしいかもしれない。
けど、これだけは言える。
そんなのはおかしい。
王の責務は十分に果たしていたんだ。
それでも国は滅びたんだ。
ならそれが、こんな言い方はどうかもしれないが運命だったんだと思う。
セイバーは何も答えてくれない。
イバーは今ここに居るじゃないか
﹂
い
ま
﹁自分を変えるのに、過去を変えるんじゃなくて現在を変えるんじゃダメなのか
﹁士郎、もうこの話は終わりにましょう⋮﹂
それに対しセイバーはしばらくの沈黙の後、こちらへと悲しげな顔を向けた。
思わず、大きな声で言ってしまう。
!
セ
?
﹁セイバーはもうここに居るんだ。後は自分の事をやれば良いじゃないか﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
769
﹁⋮っ﹂
それだけ言うとセイバーは歩きはじめ、中へと入っていってしまった。
﹁馬鹿野郎⋮⋮﹂
つい、口に出してしまう。
どうやったら分かってもらえるんだ
どこからか突然声が響いた。
﹁あんな可愛い子にやろうはねぇんじゃねぇの
この声はコウジュか
﹁いよっと⋮﹂
?
た。
それに気づかず、彼女は着地と同時にずれた帽子を押さえながらこちらへと振り返っ
スカートでそんなことをするものだから、俺は目を反らす。
スタッという音と共に上から俺の目の前に降ってきて、着地する。
?
﹂
中に入る気にもならず、俺はただそこに立ちつくしてしまう。
?
770
違う、そこじゃない。
﹁む、のぞき見は良くないぞ⋮﹂
聞かれていた気恥かしさもあり、誤魔化すように少し反発した言い方をする。
﹁言っとくけど、俺は最初から居たんだぜ そこにセイバー、士郎⋮と来て話し始めた
そうだったのか。
い事を言いながら、やれやれといった感じで首を振る。
コウジュは、俺は屋根に上ると降りれなくなる呪いでもあるのかね⋮と良くわからな
し﹂
から降りるにも降りれなかったんだよ。俺、基本獣に近いから耳ふさいでも聞こえる
?
﹂
でも、やはり聞かれていた事実は恥ずかしさを消してはくれない。
?
それにサーヴァントに見た目関係ないし﹂
!!
く〟見えない。
今怒ってるのもぷんぷんって擬音語があまりにも当てはまるので年上には〝まった
でも、見た目が⋮な。
そういえばそうか。
﹁俺の方が年上だっての
﹁少年って⋮どう見てもコウジュの方が│││﹂
﹁そんでさ、少年は何を悩んでるん
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
771
﹁おい、てめぇ。今俺にぼこぼこにされても文句言えない事考えなかったか
﹂
見た目はあれだが、軽く殺気を感じたので慌てて否定する。
﹁い、いやいや、考えてない考えてない﹂
﹁ま、いいや。で結局なんなのさ
これって一応恋愛相談みたいなもんだろ
いや言いにくいって⋮。
そんな俺には構わず、直球で聞いてくるコウジュ。
﹁えっと⋮﹂
?
﹂
!!
俺が悪いのか
こいつ何当たり前の事言ってんの
俺か
?
!
みたいな顔をされた⋮。
?
変に問い詰めようとも負けるのはいつも俺で、そしてただ疲れるだけだ。
しかし俺もここ数日で学習した。
?
﹂
?
だったら空気読んでくれよ 言いにくいに決まってるだ
!!
﹁あえて読まなかったに決まってるじゃないか﹂
ろ
﹁って、そうじゃないか
﹁ま、居たから大体分かるけどな﹂
見た目だけとはいえ、俺より小さい女の子に言うのは憚かれる。
?
772
それに、コウジュの御陰で少し心が楽になった。
だからまぁ聞いてたんならと、少しずつ俺は話し始める。
﹁あのさ、聞いてたと思うけどセイバーの願いの事なんだ﹂
﹁過去の改ざん⋮ね⋮﹂
過去を変えたいという気持ちはわからないでもない。
﹁ああ。でも俺はそんなことよりセイバーには前を向いてほしいんだ﹂
でもいま彼女が居るのはこの現代だ。
それなのに過去を変えるなんてのは違うと思うんだ。
過去を変えるために今を否定するなんてのは何かがおかしい。
しかしコウジュの意見は違うらしい。
﹂
?
﹂
?
﹁うんや、だから難しい事って言ったんだよ。客観的に見れば、どちらも間違っている
か
﹁ちょっとばかしって⋮。コウジュは過去の改ざんをセイバーがするべきだって言うの
の場合はちょっとばかし規模が大きいだけさね﹂
﹁だってさ、人間誰しもやり直したい過去の一つや二つあるだろうよ。それがセイバー
﹁なんでだ
﹁難しい問題だなー﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
773
し、どちらも合っていると言えると思うね。
王の責務、セイバー自身、そして士郎、歴史の重さ。どれも視点もベクトルも違うん
だ。答えなんてそうそうないよ。
﹂
ただ⋮、俺的にはセイバーはこちらに残ってほしいけどね﹂
﹁コウジュ的にはってのは何でなんだ
バーが思ってるようなちゃんとした歴史を歩むのか
アーサー王が守って、生きて、子孫を残した人々が同じように生を全うできるのか
俺はいつの間にかコウジュの話に入りこんでいた。
ただただ聞き入ってしまう。
そんな俺を知ってか知らずか、コウジュは続けていく。
﹂
?
?
もし、歴史の改竄に成功して選定からやり直したとして、その後の国は本当にセイ
けど、何をどうやったら正解なんてないと思うんだよね。
確かに王としてまだやりようはあったかもしれない。
わけだ。童話や、劇なんかになっちゃう位にさ。
ら謀反起こしたかもしれないけどさ、歴史はアーサー王を騎士王と言うほどに認めてる
意味で残ってるわけじゃないじゃないか。それってつまり、当時の民は気に入らないか
﹁いやだってさ、本人はどう思ってるかは知らないけど、アーサー王の伝説は決して悪い
?
774
﹁だからと言って、生きていた人は生きているべきで、生き返る可能性があるのに歴史で
は死んでるから死ねというのもおかしな話ではあるけどなー。
ま、ここまでは客観的な話だね﹂
最後の部分に俺はハッとする。
そうか、そういう見方もあるのか⋮。
誰しも生き返れるなら生き返りたいだろう。
皆が感じる事が出来た幸せまで否定してほしくないはない。
そんなのって悲しいじゃん
それにセイバー自身にも幸せになってほしい。
俺はセイバー自身の幸せを見つけて欲しい。
俺は傲慢だからな中の良い人が幸せじゃないのは嫌なんだ﹂
﹁⋮⋮﹂
?
?
﹁っと俺の話は置いとこうか。そんで士郎的にはセイバーに残ってほしいんだよな
﹁ああ、もちろんだ﹂
﹂
良かれと思って救ってきた命なんだ。最後に国は滅びたかもしれないけど、その中で
俺はセイバーに、王として自身が辿った道を、救ってきた命に後悔はしてほしくない。
﹁ほんで、こっから俺の感情的な話になるけどさ。
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
775
﹁セイバーが過去を変えるのには否定的
﹁そう⋮だな﹂
言い淀む。
﹁それは⋮﹂
うことそのもに疑問があるから
﹂
﹂
﹁それは士郎が個人的に今この場所に居て欲しいからかな
?
﹂
!
ものになっていた。
それとも過去の改竄とい
それでも、そうふざけて言う言葉とは裏腹に、コウジュがこちらを見る瞳は真剣その
いや、サーヴァントに歳は関係ないんだったっけか。
何歳のつもりなんだ。
おいちゃんって⋮、また年が上になった。
﹁ゴメンゴメン。よし、じゃぁおいちゃんからちょっとしたヒントを上げよう﹂
﹁茶化さないでくれ
﹁いやー、青春してるねぇ﹂
た。
それに気づいたのか、ふとコウジュを見るとニマニマと笑いながらこちらを見てい
いや、でも言い淀んでいる時点で答えは出ているような物だろう。
?
?
776
﹁セイバーは多分今迷ってると思う。王の責務か、自身の感情か⋮。
それは士郎にも言えることだね。士郎も居てほしいという気持ちとセイバーの事を
思う気持ちで揺れてる﹂
﹁気持ち⋮﹂
改めて思い返す。
多分俺は、あの土蔵で、初めてセイバーに会った時点で惚れていたんだ。
けど俺はセイバーの心に触れていく中で、セイバー自身の事とか色々と考えて、結局
よくわからない事になって⋮。
てきた過去を持つ。
?
そう言ってコウジュは家の方に歩き始めた。
﹁士郎、朝飯行こうぜ。どうやら桜が起きたみたいだ﹂
そのままぴくぴくとさせながらコウジュは屋敷の方を見る。
そこまで言ったところで、コウジュの耳がピクリと少し動いた。
そんな彼女に届く何かを士郎は見つけられるかな
﹂
ただ問題は、セイバーはそんな心の揺れも王としての使命を全うするために封じ込め
いから気を付けないといけないのはいけないんだけどな。
﹁まだ時間はあるんだ。そう急ぎなさんな。といって、時間が有り余ってるわけではな
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
777
そこまでわかるのか、すごいんだな獣人ってのは。
ともかく考えてみよう。
俺は結局どうしたいのか。どうしてほしいのか。
最初から⋮。
﹁あ﹂
﹂
れが正解ってわけでもないし。
何よりさ⋮えっと⋮恥ずい⋮から﹂
帽子を下げながらも上目遣いでこちらを見るコウジュ。
そんな彼女の表情に少しドキッとする。
﹂
!
!
?
かなり恥ずかしいのか、白い肌に紅みが増してそのコントラストが⋮ってダメだ
俺は一体何を
﹁わ、分かった、了解した、無問題だ
振り切るように首を振り、コウジュに返す。
!?
﹁さっき俺が言った事、あくまで参考程度で自分がどうしたいかを考えてくれよ あ
コウジュが途中で立ち止まり、振り向く。
﹁どうした
?
778
まいっか、んじゃ行こうぜぃ﹂
?
どこに行くのか尋ねると道場に行くとのことなので、そのまま見送る。
しかしまぁ今から話す内容は士郎には話さないつもりだったし丁度いいか。
ぼそぼそ言ってたけど、一体何と戦うんだよ⋮。
なんか、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだって、どこぞのサードチルドレンばりの事を
居間に入ろうとしたらすれ違いで士郎が出てきた。
が、そういや話を桜達にしないといけないんだった。
ご飯を食べ終わったんで、今日は用事があるから外に行こうと玄関まで行ったんだ
◆◆◆
ご飯終わったら、ひとまず座禅から始めるべきかな⋮⋮。
何だか知れないが、いろんな方向に罪悪感が浮かび、少し立ち止まる。
言ってタタタっと居間へ向かった。
俺の反応に首をかしげるもすぐに気にしないことにしたのか、コウジュはそれだけ
﹁⋮
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
779
仲間はずれじゃないよ
休校中でも先生の仕事があるそうだ。
﹁さて、今回集まってもらったのは⋮⋮、でも何から話そう
イリヤが冷たい⋮。
﹁私に聞かないでよ﹂
︵メメタァ
﹂
ついでに言うと、虎の姉さんも一緒にご飯食べたけど同じく仕事で学校へ。
宗一郎氏は学校だ。
チャーが集まる。
元々居間に座っていた凛、セイバー、キャスター、イリヤに桜、洗物をしていたアー
その声に集まって来る。
手をパンパン鳴らして言う。
﹁はい皆集合∼﹂
時が来れば桜ちゃん自身から話すか、終わってから言えば良いだろう。
し今は置いておくってだけ。
ただ桜ちゃんのことについて話すから、士郎に話すとそのまま飛び出しちゃいそうだ
!
出番が少ないからだろうか⋮
?
?
780
﹁あの⋮﹂
﹂
手を上げながらそう言ったのは桜だ。
﹁はいはい桜っちなんですかい
│││
それを言おうとしてたんだった﹂
│││バシンっ
﹁それだ
﹁聞きたい事があるんです、間桐家の事で⋮﹂
?
﹂﹂﹂
?
んでる。
それも仕方ないよな。
でも本当の事なのだ。
?
﹁桜っちが不幸になった原因である間桐臓硯を排除したんだ。あいつが間桐の支配者だ
﹁それってどういうことですか
﹂
イリヤ、アーチャー、キャスターにはとっくに伝えてあるので、反応なしでお茶を飲
凛、セイバー、桜が驚く。
﹁﹁﹁え
﹁えっとですね、間桐家なんですが実質潰しました﹂
イリヤに叩かれた⋮痛い⋮。
!!
!
﹁ごめんなさい⋮﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
781
からな。だからあいつが居なくなった間桐家は実質潰れたという事さ。
﹂
キャスターが士郎達を相手している間に、俺は間桐家の方へ行っていたというわけさ
ね﹂
﹁殺した⋮んですか
でも、今俺はここに居て、桜ちゃんの目の前に居る。
それだけあっちが幸せだったということなのだろう。
だから、こんな今の桜ちゃんみたいな表情をする奴はいなかった。
は他愛無い日常があふれていた。
あっちには魔術も何もない。知らないだけかもしれないけど少なくとも俺の周りに
そういう意味では少しだけ人生の先輩ではあるが、所詮はその程度だ。
俺がコウジュになるまでに生きた人生なんてのは20年そこそこでしかない。
を知っている訳ではない。
十数年にも及び絶望の淵へと立たされ続けたと知識で知ってはいても、直接的にそれ
どうやったらこんな表情になるんだよ。
それを見て、俺もまた悲しくなる。
その表情は困惑やら何やら、色々と入り混じって表現のし辛いものとなっている。
そう不安気に聞いてくる桜ちゃん。
?
782
うん、やっぱりこういうのは苦手だ。
他愛無い日常を知っているからこそ、こんな表情をする子が居るってのは我慢ならな
い。
貰い物の力だけど、今は桜ちゃんに幸せってやつを届けようか。
﹂
別空間
的なところに居るよ﹂
﹁死んではいないと思う。医学的な死亡ってのに照らし合わせれば⋮的な﹂
﹁何で顔を逸らすのよ﹂
俺はお道化るようにそう言った。
﹁コホン、まぁ正確にはこれを使ったから結界
﹁何で疑問形なのよ⋮﹂
﹁それが俺にもよくわからなくて⋮﹂
?
桜ちゃん以外の皆はまたか⋮みたいに呆れ顔だ。
?
そっくりのよくわからないものになっちゃってな⋮﹂
﹁牢屋みたいな空間を作るためにとあるものをモチーフに作ったんだけど、何故か元祖
クで書かれた有〇みかんの段ボール箱が描かれている。
カードの表面には、禁忌﹃一条祭り﹄の文字と、黒い背景にポツンと一条祭りとマジッ
ジト目で見てくるイリヤに苦笑いしながら、俺はカードを出して皆に見せる。
?
﹁ヤマシイコトナンテナニモアリマセンヨ
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
783
元ネタはぱにぽにの一条さんが使ってたアレだ。
蟲爺を捕えておくための何かを考えた時に思い付いたのがそれだった。
ルームグッズの段ボールに〝一条祭り〟と書いて、カードにして、アニメで見たよう
なよくわからない何かを想像しながらスペル化させたらできたものだ。
桜が若干引き気味になる。
﹁そ、そうですか﹂
作った俺でも何かこれ怖いもん。当然だよな⋮。
とりあえずカードを仕舞う。
ちなみにどんなふうに使ったかというと、はいダイジェストドン
・
・
・
﹃ちわー宅配便です﹄
!
ものになってしまったんだ。うん、自分でも何を言ってるかよくわからない﹂
﹁正直、よくわからないままよくわからないものを作った所為でほんとよくわからない
784
﹃あ奴らおらんのか⋮仕方ない。ハンコはどこに押せばいいんじゃ
﹃あ、ここにお願いします⋮⋮禁忌﹃一条祭り﹄発動︵ボソ﹄
SYGYAAAAA
﹃な、なんじゃこれは
パクッ⋮
ぐあぁぁぁぁっぁ⋮⋮﹄
!? !!!!
﹄
?
触手とか誰得よ
触手
?
爺
すいませんそっちの世界は知りたくありませ
?
ってかまじで何なのコレ。
爺
ん。
×
箱の中に引きずり込むのを間近で見た俺はしばらく動けなかった。
さておき、真っ黒い闇が凝縮したようなとでもいうべき何かが触手となって爺さんを
×
餌食にするつもりだったのかもしれないけどなったのは爺さんの方でした。プギャー。
大体こんな感じ。餌がどうとかって俺を見ながら言ってたからひょっとすると蟲の
・
・
・
﹃何これ怖い⋮﹄
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
785
しばらくして再起動した俺は家の中に入り、地下へと行ってうじゃうじゃ居た蟲達を
取り込もうと再びスペルを唱えたんだけど、再び触手が現れパクパク食べ始めたのだ。
部屋の中に貯まっていた臭いとその光景にほんとドン引きしました。
アニメでも確かに人を取り込んだりしてたし、中から出てきた人が性格変わったりし
﹂
てたけど、ほんと何なのコレ。誰か入って中見てきてくれないかな。俺は行きたくない
ので。
桜ちゃんにお兄ちゃん居たっけ
お姉ちゃんは凛ちゃんでしょ
?
?
ただ、二人の言う人物に心当たりがない。
そらし、桜ちゃんと凜に目を向ける。
俺の視線にもどこ吹く風と美味しそうにマグマグとアイスを食べる幼女から視線を
凛が続けて声を上げた。
﹁あ、それ私も気になる﹂
そこの幼女も見習ってほしい。一人アイス食べてないでさ。
気遣いのできる良い子ですな。
俺がガクブルしだしたので、桜が話題を変えてくれたようだ。
﹁そ、そういえば兄さんはどうなったんですか
?
786
ああ
えっと│││
﹁│││あ
あのワカメね﹂
!!
かったのだ。 いやでもこの間見に行った時にあまりにも変貌していたものだから思考が繋がらな
最近ジト目をされるのにも慣れてきた。
ジトーっとした目で凛がこちらを見てくる。
﹁あんた今忘れてたでしょ⋮﹂
!
﹂
?
﹁⋮そろそろ戻そうか
﹂
もう2度と行きたくない。
防具着てもうちょっとガタイがよくなったらブルァァァ言いそうだった。
イリヤ経由で用意してもらった訓練場所だったんだけど、何なんだろうねあの場所。
を片手に走り回ってたんだよなぁ⋮。
肌も焼けて、髪も肩を越えるほど長いワカメになって何故か色素が薄くなってて、斧
﹁なんでか筋肉ムキムキになって、良い笑顔してたもんだから思考の端に放棄してたわ﹂
カキンっていう擬音が聞こえそうな位に場が一瞬で凍る。
だしただけだよ
﹁とある軍隊に所属するオホモダチのまん前に鍛えてやってくれって張り紙と共に放り
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
787
?
﹃戻さなくて良い︵です︶︵わ︶
デスヨネー。
﹄
!!
桜っちの元々受け継いでいる属性を間桐家の属性に無理矢理変えて、その状態を無理
弄られるなんて言葉だけじゃ言い表わして良い事じゃないだろうな⋮。
桜っちの身体の弄られ方は正直許せなかったね。
常な状態へ戻せた。
今回のひと騒動の前から色々準備してたわけだが、キャスターの手伝いもあり大体正
もらってなんとか戻せたよ﹂
﹁うい。桜っちの身体の弄られちまってた部分の事なんだが、キャスターにも手伝って
﹁私の状態、ですか⋮﹂
もし戻ってきても俺の耳が音を拾ってくれるだろうし、このまま続けよう。
い。
まぁ元々この話をする時は士郎に席をはずしてもらおうと思ってたしほんと丁度い
若い男の子が一人で何してるんだか︵意味深
けど、丁度士郎も居ないしな﹂
﹁ごほん⋮。さて、最後に桜っちの今の状態を教えとこうかな。何してんだかわからん
788
矢理固定し続けてたんだ。
そのために桜っちの中には何匹もの魔術媒体である蟲がかなり居た。
キャスターも同じ女性としてかなり許せなかったのだろう、蟲を桜っちの中から排除
する時の悲痛な顔は忘れられない。
原作知識からだが、蟲に犯され続けた結果がこれだった筈だ、文字通りの意味で⋮。
﹁本体っていうのはどういう事
﹂
﹁もう安心していいよ。君の中に居た本体も取り除いた﹂
・・
さておき、落ち着いた場を見計らって話を続ける。
あ、泣いてませんよ俺は。あれ汗だから。
そのまま少しの間、桜ちゃんが泣き止むまで待った。
あ、やばい。俺も泣きそう。
そんな彼女を凜ちゃんが静かに抱きしめる。
そのままダムが決壊するように感情を掃き出しながら泣きはじめる。
に涙を流し始めた。
俺の言葉に続けるようにキャスターが言うと、桜ちゃんは暫く呆然としていたが静か
﹁私の身体が⋮⋮う、うぁ⋮⋮⋮﹂
﹁安心しなさい。私とコウジュが責任を持ってすべて排除しておいたわ﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
789
?
凛ちゃんはその部分が引っ掛かった様で聞いてくる。
そういやそこまでは言ってなかったから仕方ないか。
こ
ど、いつしか永遠の命を得ることに固執し過ぎて、手段と目的がおかしくなっちまった
なんだっけか、世界を救うには人間程度の寿命では足りないから永遠の命を求めたけ
だが長い時の中で魂が劣化し外道になったとか⋮。
世界の悪を無くすため、聖杯戦争というものまで創って第三魔法を求めた。
臓硯も昔は良い奴だったらしい。
いたってわけだ﹂
答えが自身を魔術の蟲と化し、生き永らえる事。そしてその本体を桜っちの中に隠して
ら寿命を迎えて居てもおかしくはない年齢なんだ。じゃあなんで生きてるのか。その
﹁その蟲ってのはな、桜っちにこんな事をした張本人の本体だってわけさ。奴は本来な
でも怖いので何も言わずに話を続ける。
おいそこの赤いのこっちを親の仇でも見る目で見るんじゃない。
ふにょんと余計な肉がぶつかってちょっともやっとする。
自身の心臓がある位置を指差し言う。
た場所は心臓だ﹂
こ
﹁桜っちの中にはな、身体をいじるためのとは別に特殊な蟲が居たんだよ。そいつが居
790
んだっけか。
だからといって、桜っちにした事は許せるわけがないので一条祭りの刑にしたわけだ
が⋮。
キシュア・ゼルレッチ
切り取った運命は本体の虫が桜ちゃんの中に入ったって部分。
にかなりの精神を摩耗したね。
第二魔法で成功の確率を呼び寄せ、その状態で桜ちゃんの一部の運命を切り取るため
し、助けようとして殺っちゃったでは済まないからマジで頑張った。
一応スケープドールを桜ちゃんに持たせた状態でやったけど、一定確率で即死する
際に対象へと斬りつける必要があることだ。
ただ、問題はやはり剣を通して概念を使ってるってイメージを俺が持ってる所為で実
つまりは歴史の書き換え、運命の操作、因果律の操作だ。大変なチートである。
力を持つ﹄というテキストを持つ。
サイカ・ヒョウリは﹃過去と未来の過ちを支配し、表裏一体の運命をくつがえす程の
方法というのが、﹃サイカ・ヒョウリ﹄と第 二 魔 法の例のコンボだね。
とだ。自分のことながらよくやったよ。
軽く言ったがこれがいつしか自分の身を粉にして︵物理的に︶頑張ったから出来たこ
﹁で、その本体の蟲を宝具の一つ使って斬り取ってしまったわけだ﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
791
本来なら蟲全部に対してやるべきだったんだろうがそれだと士郎との出会いやら想
いやら他の部分も一緒に消えてしまいそうだったので止めた。蟲全部ということは入
れられたこと全てが無かったことになり、その後に起こったことも全て変化してしまう
可能性があるのだ。
それにその改変によってどこまでの影響がこの世界に現れるのかが分からなかった
のも大きい。
ともかく切り取ったことで取り出せた本体の蟲は一条祭の中に放り込み、その他の部
分はキャスターに取り出してもらったり、母体として弄られていた部分も治してもらっ
た。
流石はキャスターさん。心霊医術もお手の物です。
出来ないというのはきっと悲しいことだ。
でも、その弄られたという過去の所為で折角解放されても好きなように生きることが
からない。
男の俺としては、女性としての機能を弄られていたことがどこまで不幸なことかはわ
いな身体にしてくれて在る筈だよ﹂
から、今の桜ちゃんは精神的にも記憶的にもまだしこりはあるかもしれないけど、きれ
﹁あとはキャスターが身体の弄られていた部分とかを正常に戻したりと色々してくれた
792
だからキャスターにお願いしてみた。
キャスターなら同じ女性だし、その辺のことは全て理解したうえで上手くやってくれ
俺はほら、身体は幼女になったけど中身男だし。
るだろう。
俺
うん。やっぱり嬉しいもんだね、感謝されるってのは。
でもおかげでまた桜ちゃんの涙が流れ始めた。
あー、あー、美人さんが台無しだ。ほらハンカチ上げるから。
まぁそこまで喜んでくれてるってことなのかな。
あれ、実はまだ多分使えるんだよねー﹂
?
そこでまた一つ、告げないといけないことがあるのを思い出す。
使ってた黒い影みたいなのあるじゃん
?
とは言っても劣化番で、俗に言う黒 桜 程のエグさはない。
ヤンデレモード
桐の﹃吸収﹄をかけ合わせた﹃影﹄。
アレの正体は聖杯からの魔力供給により生来の持つ魔術素養﹃架空元素・虚数﹄と、間
そう、例の触手だ。
してる時に
﹁ははっ。喜んでくれてなによりだぜ。俺も頑張ったかいがあったってもんだ﹂
﹁ありがとう⋮ございます⋮⋮﹂
?
﹁あ、そ う だ。も 一 つ 言 っ と か な い と ⋮。桜 っ ち が 凛 ち ゃ ん と 姉 妹 喧 嘩
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
793
本来ならありとあらゆる生物を溶解し、吸収するほどの力があるが、あの時の擬似聖
杯はリミッター付けたりと所詮は御芝居用まがいものだし、あの時点で桜っちの身体は
戻っていた。
元々は、属性が異なる間桐の魔術に無理矢理慣れさせられた体だから生来の素養を引
き出すことは本来不可能である上に、魔術師としての教育を受けていない所を聖杯に
よって無理矢理に負の感情を﹃影﹄として表出していたのだ。
それを、桜っちの身体を戻した際に属性も戻ったためにキャスターがこれ幸いと新た
な擬似魔術回路みたいのを作り、蟲から間桐の素養﹃吸収﹄を抽出してパクッて再現し
たのだ。
まぁ間桐を
あの時のキャスターはマジで恐かったな。魔術特性を奪われた上に、家系を断絶され
て良い気味って、ウフフフフっと笑いながら言ってたからね。
思わずドン引きしてその場を離れた俺は悪くない筈。
﹁えっと⋮そこにいるキャスターからのサービスみたいなもんらしいよ
思い出す﹃吸収﹄が嫌なら取り除くらしいけど﹂
そう言うと、照れたのか無言でフードを深くかぶり直すキャスター。
だけど、頬が赤くなったのは見えてるとです。
小さいとただの萌えキャラだなー⋮。
?
794
っと続き続き。
﹁桜っちの魔術の才能って実はものすごいらしい。魔術の名門である遠坂の後ろ盾がな
いと封印指定されて、ホルマリン漬けの標本にされる位にさ。だから、これからは自衛
手段があった方が良いってわけで﹃影﹄の出番なわけだ。
あ、でも最初から敵なしなわけじゃないからちゃんと練習やら修業は必要だとさ。
まぁ幸いにも教師は事欠かんわな。
優しいお姉ちゃんに士郎と一緒に教えてもらうとかいいかもね。キャスターも教え
てくれるだろうさ﹂
したかった話もとりあえずは終わってるしね。
それじゃ、俺もそろそろ行くかね。
が席を立ち始めた。
凜ちゃんも何か桜ちゃんに話したそうだし、他の面々も御開きの雰囲気に気付き各々
とはいえ喜んでるのを邪魔するほど無粋な真似はしたくないし、おいておこう。
女の子って強かデスネ⋮。
今の今まで涙流してたのに今はもう妄想の世界に飛び立ってるぜ。
たくましいな、おい。
﹁姉さん⋮と⋮先輩と⋮⋮﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
795
﹂
﹁さて、話も終わりだしちょっと出てくるぜ﹂
・・
?
・・・・
﹁そう⋮。じゃぁ私もそろそろな訳ね﹂
﹁あぁ、よろしくな﹂
﹁ええ。キャスターお願いできるかしら
?
﹁おっちゃん。それ各種10個ずつちょうだいなー﹂
・
・
・
ではでは、まずは商店街辺りに行くとするかね。
今度こそ俺は居間を出て玄関へ向かう。
﹁分かったわ﹂
﹂
﹁うい。青くてピッチピチの釣ってくるぜぃ﹂
事前にイリヤにも言ってあったから気づいたのだろう。
イリヤが扉を出ようとする俺に話しかけてきた。
﹁ひょっとして釣りに行くの
796
﹁あいよ。いつもありがとよ。それにしても毎度思うが良く食べるなぁ嬢ちゃん﹂
﹁おっちゃんのが美味しいのがイケないんだよ。ついつい食べちまう﹂
﹁そいつは悪い事をしたな。お詫びにサービスしといてやるよ。ほい﹂
﹁いつもありがと、はい代金﹂
何してるのかって
釣りはどうしたって
はぐはぐ⋮。んまー
!
時間もだいぶ経ったのか、日が落ちるのが早いとはいえ太陽はもう沈み始めている。
冬木市の大体は見れただろうか。
俺は歩く。ひたすらぶらぶらと。たい焼きを食べながらぶらぶらと。
ま、その内わかるさ。
準備は万端、仕掛けは上々、後は結果を御覧じろってね。
?
たい焼き買ってんだよ。前食べてはまっちゃって、常連さんになっちまったんだぜ。
?
﹁おう。またよろしくなー﹂
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
797
そろそろ⋮かな⋮
はぐっと⋮。
最後のたい焼きを口に放り込む。
ついつい数十あったやつ全部食べちまったよ。
イリヤ達の分残すの忘れてたけどしかたないよね
﹂
あ、イタイとか言って引かないでねー
﹁さてっと、貴様見ているな
はは、釣れた。
﹁やぁやぁこんばんはです﹂
﹁よう、嬢ちゃん﹂
ただし釣るのは、英霊だけどね。
皆なら気づいてると思うが、これこそが釣りだ。
俺の中に封印されてる奴が︵ry﹄的なもの
?
でもない。
!
!
俺は最後に士郎達と戦った、あのアインツベルンの森の中の広場に来た。
?
厨二的なあれでもないし、
﹃皆近づくな
!!!
798
まぁ居るのは分かってた。
だからこそ人気の無いこの場に来たわけだしね。
﹂
でもまさかここまでスムーズに一日目で引っかけられるとは思わなかったけど。
来ると分かってるんだから警戒しないわけないっしょ﹂
﹁どうやら気づいてたみてぇだな。いつからだ
﹁最初から⋮かな
﹁ごもっともだ﹂
?
隠れもせずにあんなことしてたら気づいてく
英霊の尾行に気づけるとかマジちーとぼでぃ⋮⋮と言いたいところだけど。
出来た。ついでに気配みたいなのも。
普通にしてるだけならちょっと敏感位だけど、今回みたいに警戒してたら分かる事が
最近さらに獣化しているのか五感がかなり強くなっている。
?
?
命令なんでな﹂
﹁そうか。でもな嬢ちゃん、悪いんだが死んでくれ。何の恨みもないんだがマスターの
む﹂
﹁まぁ俺としても、ここまでついてきてくれたのは助かったよ。周りを巻き込まずに済
﹁はははっ確かにその通りだ﹂
ださいって言ってるようなもんじゃん﹂
﹁それほど気配殺してなかったでしょ
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
799
﹁おろ
俺を殺しに来た割には不満気だね﹂
?
﹂
?
手に持つトラクラさんをヒュンっと軽く振る。
﹁んじゃ、槍比べといこう﹂
﹁どうやったかは知らねぇが受肉している英霊か。なら、全力で行くぜ﹂
ただし、HP吸収効果と特殊エフェクトで粒子が舞ったりする。
概念は無し。
白く輝いているのは白き輝石とかいう珍しい鉱石を使っているかららしい。
が無いためにあまり突く為ではなく斬る事に適しているように見える。
幅広の長方形の刃が手持ち側が少し広がるように付いており、白く輝いている。先端
見た目はあまり槍っぽくない。
呼ぶのはスピア、﹃トライデントクラッシャー﹄。
俺は手に武器を呼び出した。
いた異世界の英雄だ。ちなみに今無職﹂
では自己紹介といこうか。俺の名はコウジュ。少し前までバーサーカーを拝命して
﹁ふーん。あの麻婆、ランサーに何も言ってないんだ。そいつは好都合。
常で居られる時点で普通じゃねぇか⋮。何もんだ
﹁ったりめぇだっての。何でこんな無関係そうな、いや、今まさに殺されそうってのに平
800
振った軌跡を光る粒子が舞いとてもきれいだ。
!!
?
ラ ン サ ー の ク ラ ス に 槍 で ケ ン カ 売 っ た こ と を 後 悔 さ せ て や る よ
そして、持ち手の真ん中辺りを片手で持って後ろに引き、半身で構える。
﹂
﹁槍 だ と は っ
『stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ』
801
!
月光
﹂
﹂
!!
予想よりも早くに次の手が来た俺は用意していた札の一枚を切る。
﹁ちっ
﹂
真下に来たクー兄さんに向かって槍を投げつけた。
突き出される槍、それを潜る様に身体を沈めて避けた後、俺はランサーの真上に跳び、
・・
﹃stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかった
ですね﹄
﹂
﹁っはあぁぁぁ
﹁なんの
﹂
!!
元々払われる前提の一手だったのであろう。
﹁っ
!?
だが俺が近づくより早く戻した槍で再度突きを放ってきた。
﹁あめぇっ
ランサーの鋭い突き、それを払いながら近づく。
!!
!!
802
!
だがそれは横に飛ぶ事で避けられる。
結果、槍はズガンっ と槍によって起こされたとは思えないほどの音と共に小さなク
レーターをクー兄さんが居た場所に作り出した。
!
﹂
!!
﹂
!!
﹁今のを反応するとはさすが最速と名高いサーヴァント
うりゃっ
﹂
!
その最速に本気でガードさせた嬢ちゃんに言われると嫌味にしか聞こえねぇ
﹂
突きや払いの応酬で、互いの槍を反らし、避け、防ぐ。
⋮ぜっ
!
!!
﹁おらっ
!!
だがそれも、突きに合わせて横に払うのと同時に自身の身体をずらされた。
﹁っらぁぁ
ただし今の俺の身体能力でやると音を置いていける程のスピードだ。
自らも槍の様に、踏み出した一歩目で思い切り大地を蹴りだし、突く。
身体を伸ばすように素早く突く。
﹁⋮月影刃
俺は着地し、トラクラを再び手に取る。
﹁それじゃぁ⋮﹂
﹁あったりめえだ。妙な技だが、投擲されたものは何とかなく分かるんでな﹂
﹁ま、そう簡単に当たらないよねー﹂
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
803
804
本気かもしれないけど絶対全力ではなかったよね今の⋮。
やっぱり技術じゃ中々追いつけないか。槍兵に槍で勝負で挑んでるわけだし余計に。
でもこれにも理由があるのだ。
というのも、ランサーに対して理想的な状態で勝つための方法が俺には無かったの
だ。
・・・・
例えばランサーが持つ矢除けの加護、それを貫通するほどの遠距離攻撃を俺は持って
いるが、それをやると被害が甚大だし俺の目的を果たせない。
さらに言えばランサーは生存に関しての技能を持っているはずだ。
・・・・・・
そしてそれを俺は知っている訳だから、見えない遠距離から吹っ飛ばしても生きてる
かもしれないと思ってしまうだろう。
だから遠距離戦は却下。
そうなるとランサーとの戦いは近接戦闘となる訳だが、俺の持ち味は速さと馬鹿力と
獣の様なしなやかさ。
でもこれはランサーと似てしまっている。
妖怪キャラ被り⋮は俺視点からすればキャラを食われちゃうのは俺になっちゃうか
ら置いといて、現時点でランサーに勝っていると自信を持って言えるのは馬鹿力くらい
なのだ。
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
805
だがここで思い出してほしい。いつだったか小次郎が言っていた言葉、﹃当たらなけ
れば意味が無い﹄を。
速さでの単純な勝負では分からないが、あちらは歴戦の戦士だ。
いくら馬鹿力があったとしてもランサーには経験の差で負ける可能性がかなり高い。
そこで槍だ。
でもただ槍を使ったんじゃ負ける。
一番扱いなれているルゥカや双剣を使うことも考えたが、ルゥカも双剣も相手の懐に
近づく必要がある。
だが相手は槍だ。俺の技量では近づく前に突き殺される可能性が高い。
双剣はさておき、ルゥカも長物と言えばそうだが、あれは自身の身体を起点に斬るこ
とを前提としたものだ。その形状も、刃の長さもかんがえれば、点での攻撃に長けてい
る槍相手ではやはり相性が悪い。
ならば同じ土俵に立ち、その上で奇策を用いる。
うん、これを思いついた俺ってなかなかやるんじゃないかと自画自賛してしまう程度
に舞い上がってる。
ゲーム内での槍を用いた挙動は実は少なく、ほぼ突くことを前提としたもの。でも今
は現実だから、槍で突く動作に加え、ルゥカの様な両剣の動きを取り入れることが可能
だ。
その結果がさっきからしている動きですよ。
ファンなら技名ですぐに出てきたかもしれないな。テイ○ズオブヴェス○リアに出
てくるジュディスの槍術。実はあれを参考にしている。
それをイメージしながら俺は槍を使っているのだ。
これなら槍の持ち味である大きな間合いを用いつつ、得意な両剣の動きもできる。そ
してここ最近で出来るようになってきた転移の感覚を用いた元ネタ技の再現。
ま、まぁ、アサシン相手に練習したとはいえまだまだ回数を経ていないからイメージ
を補正する為に技名を言葉にしないといけないのだが、先程使った〝月光〟のような初
見殺し技も多いし大丈夫だろう。
避けられたけど。
でも、次は当てる。
俺は槍を上段に上げて再び走り出す。
﹂
そしてそこから薙ぎ下ろしながらランサーに突っ込む。
﹁幻狼│││﹂
﹁甘いって言ってんだろぉがぁぁ
その俺に対しランサーはより早く神速の突きを以てして対応する。
!!
806
が││、
﹂
!?
ぶ
・・・・
ショートジャンプ
そういえば、某〝狩人 狩人〟に出てくるカストロというちょっと可哀そうな人の〝
先行し過ぎて能力のせいでこういう技として出来てしまったんだよね⋮。
いや、本当はちゃんとした技を練習してたんだが、ゲーム内エフェクトのイメージが
用して自身の幻影を置いて自分は敵の後方へ空間跳躍というもの。短距離転移だ。
と
が俺がしたのは、前にキャスターと話した技としてのカレイドスコープ︵もどき︶を応
TOVの技の一つ。本来は、正しく残像を残すほどの急加速で敵の後方に抜ける技だ
幻狼斬。
俗に言う残像っていうやつだ。正確には俺のは幻影だが⋮。
いや、正しくはランサーの槍が貫いている方にも俺は居る。
に居る。
ランサーが俺に突きを喰らわせてる時点で既に俺はランサーに背中を合わせるよう
﹁っな
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
807
役に立っているので構わないかな。
時間があったらちゃんとした武術として再現したいようなきもするが、これはこれで
現段階ではチートに頼った上で制限が付いている荒技、幻狼斬もどき︵笑︶。
ダブル〟という能力に似ているかな。
×
﹁││斬っ
﹂
﹂
!!!!
斬撃を喰らったランサーは前方へ吹っ飛ぶ。
いや、感触がおかしい
!!
﹁っ痛ってぇな⋮。ったく、今のはどういう理屈だ⋮
﹂
後方に出た俺の斬撃と同時に、ランサーの前に居る俺は霞と消える。
﹁ぐあっ
!!
ああ、楽しいなぁ││
振り向き、俺の方を向くランサーの顔はまだまだ余裕の笑みを浮かべている。
﹁仮にも英雄って呼ばれてんだ。わけねぇよ﹂
前で見るとはね﹂
﹁あの状況で反応して前方に飛んだわけか⋮。フィクションみたいだけど、まさか目の
さすがは、英雄ってことか⋮。
垂れ落ちる血液。しかしその程度。
立ち上がったランサーの背中には確かに俺の斬痕があるが、致命傷には程遠い。
?
808
│││っと、ダメだダメだ。
ナノブラスト使っちゃうと目的を果たせなくなる。ケモってる場合じゃない。
アーチャーの時みたいに後でならともかく、今なる訳にはいかない。
冷静に、ランサーの槍を捌かないと⋮。
まったく、獣の本能ってやつは厄介だな。すぐに戦闘が楽しくなる。
獣って言う位なんだから生存本能優先しろっての。
何にせよ、何とかランサーの動きに対応できている。
でも、それでやっと追いついたというだけだ。
はっ さっきのは嬢ちゃんの技なんだろ
!
だったら使えばいいじゃねぇ
?
やるからよ﹂
か。手加減してる奴に勝ってもなにも嬉しくねぇ。全身全霊で来い。我が槍で貫いて
﹁ズル
?
だが、苦笑する俺にランサーの兄貴は漢前に笑いながら告げる。
ほんと、全く持って〝当たらなければ意味が無い〟ね。
短距離転移に分身もどき、結構なチートを使っているというのにこれだ。
ショートジャンプ
﹁まったく、ズルしてこれかよ⋮﹂
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
809
そう言いランサーは構える。
け ど、俺 も 嬢 ち ゃ ん み た い な 気 の 強 い 女 は 嫌 い
!!
か、かっこいい⋮。
さすがは兄貴。そこに痺れる憧れる
じゃないぜ﹂
?!
?
﹂
﹂
だがそれも後ろに下がることで避けられる。
槍を腰だめに構え、そのまま槍に乗る様にランサーへと突き込んだ。
!!
なんかランサーの兄貴がナンパ男みたいになってる
さも持ってるとか中々無い逸材だぜ﹂ ?
ってか女らしいとか言うな
﹁っ
!!
﹁うお
!?
!?
﹁何だよ照れてんのか ますます気に入った。その技量を持ちながらも女らしい可愛
けどその意味が解って俺は混乱する。
一瞬思考が止まる。というより理解を拒否した。
﹁っ、な、何言ってるのさ
﹂
﹁お 褒 め に 預 か り 恐 悦 至 極 っ て か
﹁かっこいいなぁほんと。羨ましいよ﹂
810
﹁ちっ﹂
﹂
﹁照れ隠しにしちゃぁ物騒なことしやがるぜ﹂
女らしいとか言うな
!!
あと照れてない
こんなナンパ野郎はさっさとぶっ倒す。
さっきまではカッコいいと思っていたが撤回だ。
!
﹂
!!
﹂
﹂
それにランサーも驚く│││恐らく槍のぞんざいな扱い方にだろう│││がすぐに
槍を避ける。
乗せていた腰をてこに槍を地面に当てて身をランサーの上へと跳ねさせ、ランサーの
でもこの次は見せていない。
そして流れるようにこちらへと突きを放つ。
そう言いながら鋭い眼光でこちらを見るランサーは容易く避ける。
﹁それは今見たぞ
再び腰だめに構えて、槍自体に乗る様にしてランサーへと突き込む。
﹁ラウンド2だ
﹁おーおー来やがれ来やがれ。もっと俺を楽しませてみな、嬢ちゃん﹂
﹁ここからは諸事情で全力は出せないけど本気で使える技使っていくから
!!
!!
!!
﹁うっさい
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
811
槍を引き、自身の上に来た俺へと槍を向け直す。
﹂
良い感じじゃねぇかっ
﹂
だがその時点で俺も槍をランサーへと向けていた。
それだっ
!!!
﹂
互いの間にて火花を散らす槍が、双方の槍の進路を弾いていく。
!!!
﹁っるぁぁぁ
﹁そうだっ
!!!
互いに突きの連打。
!!
﹁月光
﹂
ぶ
再び俺は跳躍する。
と
﹁ちっ、またか
﹂
でもそれで良い。
でも3段目は身体を流されたせいで出来ない。
今使った技は本来3段式、長槍系PAドゥース・マジャーラ。
そこへ放たれる槍。
足付けたランサーに途中で上手いこと槍を反らされ、それに合わせて体が流れる。
だけどたとえ馬鹿力とはいえ空中では発揮し辛い俺は、普通に考えたらわかるが地に
﹁っは
!
!
でも同じ技じゃぁ芸がねぇよな
!!
!
812
ランサーは背後を見る。
﹂
でも俺はそこに居ない。
﹂
止めと言わんばかりに彼は槍を突き出す。
・・
月光・烏
月光・
月光・烏
月光・烏 月光・烏
!
でも残念。
月光・烏
月光・烏 月光・烏
月光・烏
月光・烏
そしてそれを再び投げつける。
!
月光・烏
月光・烏
!
!
飛ぶのは俺だけじゃないのです。
烏
!
﹁月光・烏
月光・烏││││﹂
!
!
ランサーが俺へと届く前に、俺は槍を手元へ呼び戻す。
月光・烏
!
!
そしてその瞬間には空中で無防備となった俺へとランサーは飛んでいた。
避けられた俺の槍はランサーの背後へと落ち、ドンと重たい音を立てる。
それをランサーは冷静に払いのける。
﹁っ
そこから槍を投げ放つ。
ランサーの更に後方、その上空。
!!
!
!
!
!
!
!
﹁│││烏
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
813
否、投げつけ続ける。
﹂
!?
はは
ただのカカシですな
!!
す。
!!
?
・・
見えていないと思ったが俺自身が放たれた以上、矢除けの加護が発動したんだろうか
しかしそれも弾かれた。
﹁っらぁ
﹂
空中で身を翻し、そのまま空中を蹴って、隕石のごとく蹴りをランサーに向けて落と
﹁│││月破墜迅脚﹂
弾かれた俺の槍がやがて土煙を上げ、辺りを隠していく。
徐々に表情が苦しげになるランサー。
でも先程の俺と同じように空中では万全の体勢とは言えない。
空中で器用に俺の槍を弾いていくランサー。
!!
対する俺が今使っているジュディ姐さんの本領は空中戦。
そして彼は今空中に居る。
驚愕の声を上げるランサー。
﹁はぁっ
814
﹂
まぁ別に決まればいいなと思っていた程度でしかない。 ﹁まだまだぁぁっ
﹁突き合いか
おもしれぇ
﹂
一度俺はバックステップで下がり自身の槍、トラクラを両手で腰だめに構える。
!!
!!
﹂
!!!
存在する。
今は使ってないよ
﹂
突く突く突く突く突く突く突く突く││││││
﹁っしゃああぁぁぁぁ
!!!!
突きを繰り返す俺にランサーは付き合ってくれて、突きを繰り返す。
ってか早々使う気ないけどそんな物騒なの⋮。
?
ちなみにこの技、空間を貫き次元を破壊する衝撃により敵を吹き飛ばすという概念が
をする槍スキルだがそんな無粋なマネはせず、ただただ突きの部分を繰り返す。
フォトンアーツの技の一つ、連続突き技のドゥース・スカッド。本来は最後に槍投げ
﹁ドゥース・スカッド
さぁ、次は突き勝負と行こうか。
ランサーも同じように構えた。
?
互いに突いて突いて突きまくる
!!
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
815
﹁オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラぁぁぁっ
﹂
!!!!!
駄ぁぁぁっ
⋮
駄ぁぁぁっ
⋮
﹂
﹂
ま、まさか⋮。
!!?
!!!!
﹂
﹁無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無
オラオラぁぁぁっ
!!!!!
﹁オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
俺はもう一度後ろに一旦下がり、もう一度同じ技を繰り返す。
!?
!!!!
﹁無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無 駄 無
816
これは確認が必要だ⋮。
槍を大きく薙ぎ払うように振り、ランサーを飛ばす。
﹂
﹂
飛ばされた時に自身から飛んだのか、軽々と後方で着地するランサー。
そこで俺は一旦槍を下ろす。
﹂
﹂
あんたぜぇったい読んでるだろっ
﹁貴様︵ジョ〇ョを︶、見ているな
﹁⋮何の事言ってんだ
ジョ〇ョ
だって││││、
いやそれもろに嘘ダウトだろ。
何の事やらといった風に掌を上にして否定するランサー。
﹁な、何の事を言ってるんだかわからねぇぜ⋮﹂
!!!
?
﹂
﹁なん⋮だと⋮
!!!
﹂
おい、何なんだよこのランサー。何か無駄に親近感わくんだけど⋮。
!?
れぇっ
﹁動揺しすぎだし、ついでに言うと⋮その見事なジョ〇ョ立ちをやめてから否定しやが
!!?
?
少しの沈黙の後⋮。
﹁ジョ〇ョだよ
!!
!!
﹁どうした嬢ちゃん
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
817
なんだあれか
大きいお友達︵イケメン︶なのか
ランサーじゃなくてらんさーなのか
﹂
ってか、無駄にセリフやらポーズが似合うなおい
﹁⋮⋮﹂
﹁おい嬢ちゃん⋮。その目やめてくんねぇか
!!
!?
?
?
さ⋮なんというか⋮ねぇ⋮
﹂
良いじゃねぇか別に
あれか
﹂
サー
!?
?
そいつはサーヴァント差別だろ
!?
﹁は、はまっちまったもんは仕方ねぇだろ
ヴァントはマンガ読むなってか
これ俺の所為じゃないよね
!! !!
?
からさ。
けど俺、ランサーとまだ関わった覚えないよ
なんで既にキャラブレイク
!!?
!!?
サーヴァント勢がキャラブレイクしまくってるのは分かるよ。俺が関わった結果だ
!?
!!?
空気になったと思ったらこれですよ 俺が言えるこっちゃないのは重々承知だけど
﹁いや、だってさ⋮、さっきあんなかっこいい事言ってさ、場を引き締めて、良い感じの
?
818
あれか
﹂
﹂
テコ入れ
バタフライエフェクトとかいうやつか
﹂
!?
!?
いや、それで何だ
それともマスターであるマーボー神父の所為か
あーもう誰か助けて
何で知ってやがる
?
わけ分からん
﹁なんかニュアンスが⋮気のせいか
﹁ああ
﹁ランサーの趣味って釣りじゃないの
?
!!
﹂
?
レ兄さんだ﹂
なんか近所の子に懐かれてる
!!?
う度にやらせるものだから身に着いちまってな。笑いたけりゃぁ笑え、今の俺はコスプ
十分読めるから読んでたらいつの間にかって感じだ。このポーズもそのガキどもが会
﹁いや、近所の変なガキ共が持ってくるんだよそういうのをよ。まぁ警戒しながらでも
﹁それでマンガやらに
ター放っぽって行く訳にはいかんだろうよ﹂
﹁まあ良いが⋮確かに釣りは好きだけどよ、サーヴァントの俺が釣りできる所までマス
?
?
!!
﹁それは気にしない﹂
?
!?
!?
﹁あのさー、らんさー⋮﹂
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
819
まぁ戦闘時以外は気の良いイケメン兄さんだから分からんでもないが⋮。
それにしてもよっぽど気にいったんだね⋮。まだジョ〇ョ立ちしてる位だし⋮。
というか自然に出るくらいにさせられたんだね。
か⋮﹂
そう言って槍を構え直す。
ちょ、いきなりシリアスに持って行かんといて
俺そんなに器用じゃないっすよ
﹂
!?
って、だから空気の上下が
!!
なんと、ランサーはなのは式OHANASHIも知っていた。
﹁それも知ってるの
﹁OHANASHIは嫌だけどな﹂
俺もシリアスに突入│││
よし、落ち着いた。
実際してみたい、色々と楽しそうだ。
﹁ん、うん、そだな。確かにランサーとはゆっくり話とかしてみたいね﹂
!?
!
﹁そうか⋮。ちっ、どうせなら違う出会い方したかったぜ。良い話ができそうじゃねぇ
﹁じ、事情は分かったよ。おれもマンガとか大好きだから分からんでもないし﹂
820
めい
それを使うことを態々指定してきた。何故だ
そして、宝具⋮ってことはゲイボルグだよな
?
えたってところかな
例え治らない傷を植え付ける武器だろうと、一度に幾つもの命を奪っていくほどの効
今までに何度か試した結果、やはりスケドの効果は転生に近いことが分かっている。
多分俺って、直死とかを喰らっても死なないと思うよ⋮。
でも残念。
とか。
だったら回復できない効果を持つ武器で傷を付けて死んでもらおうと⋮そういうこ
そんでもって、回復後は技を覚えられる⋮と考えたと⋮。
?
金ぴかに一度殺されたのに復活した所から高速再生かなんかだとマーボー神父は考
いや、今までの事を見られていたと考えればそこに行き当たるか。
?
チートって言葉すらあほらしくなる位にチートだもの。使いこなせてないけど⋮。
でも当然っちゃ当然だわな。
いやはや、えらく警戒されたもんだね。
りと殺して来いってな﹂
﹁だがもう遅ぇ。俺のマスターの命は嬢ちゃんを殺すことだ。我が宝具を使ってきっち
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
821
果を持とうと、スケドがある限りは復活する。
おそらく、魂とかを吹っ飛ばされても治るんじゃなかろうか。
いや、さすがにそれはないか。
無いよね
例えゲイ・ボルグでも一度死ぬだけだ。
やられる気はないけどね。
﹂
ってかこれ以上死ぬことに慣れるのは嫌だ
﹂
﹁おい嬢ちゃん
﹁のわっ
しまった⋮。
いつの間にか思考に没頭してた。
﹁えっと、ごめんなさい⋮﹂
やるなら構えな﹂
﹁それは良いんだけどよ、半分は俺の所為でもあるからな。それより続き、どうするんだ
!
ともかく、こと生存に掛けては過剰なほどのチートである。
?
﹁たく、いきなり何黙り込んでんだか﹂
!?
!
822
?
そう言いランサーは再び構える。
ど﹂
﹁⋮普通言うなら一つだろ
それで、なんだ
﹂
?
んじゃラストバトルと行こうぜ
そんじゃあ聞くことはなさそうだな﹂
﹁それはまぁ後のお楽しみって事で﹂
﹁はっ
﹂
﹁そいつはどーかねぇ
・
・
・
﹁いやー楽しいね
?
!
良い気分じゃあねぇな﹂
﹂
﹁否定はしねぇが、やればやるほどこっちの技術が吸い取られていくってのはあんまり
?
!!
?
﹁あ の さ ラ ン サ ー。俺 が あ ん た を 倒 し た ら 俺 の お 願 い を 二 つ ほ ど 聞 い て ほ し い ん だ け
どうせなら今言っとこうかな。
﹁あ、待った﹂
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
823
どれ位やってるかは分からないが、第3ラウンドを始めてそこそこ経った。
ちなみに、軽く言っているが実際はそうでもない。
刹那の間に何度も攻防を繰り返し、死が見え隠れする死合いの真っ最中なわけで余裕
はない。
ランサーが言うようにちょっとずつランサーから学べているから何とかもっている
だけだ。
﹂
でも何か一つ間違えるとすぐにアボンしちゃうね。
﹁考え事とは余裕だなぁっ
またやってしまった
﹂
!!
﹁
﹂
だが││、
これは第3ラウンド終わりかね⋮。
この体制じゃぁ追撃をかわせないかな。
が貫かれて飛んでいく。
それを無理矢理身体を後ろに倒すことでかわすが、ギリギリのため額でかすり、帽子
﹁こんにゃろぉぉ
ランサーの槍が顔に向かって迫る。
!!
!!
824
!!?
ランサーはそれをせずに固まっている。
何故
いや、けどこの機会を逃すのは惜しい
﹂
しかしランサーはハッとするかのように体勢を立て直し迎撃態勢を取る。
サーに向かう。
倒れる身体をバク転の要領で一回転させて体勢を立て直し、改めて槍を後ろ手にラン
!!
?
!!?
だが、そんなことする訳がない。
﹂
!!
!!
斬りかかる。
今度は前か
!
﹂
!!
をランサーへぶつける。
大きく袈裟掛けに振り払い、その瞬間に魔力をわざと暴発させることで球形の乱気流
﹁なら、嵐月
突きだしていた槍を跳ね上げ俺の斬撃は防がれる。
﹁っち
﹂
槍に突かれた俺、それは一瞬で消えるが本体の俺はその消えた俺の後ろから再び現れ
﹁無影衝
・・・・
その俺にランサーの突き、構図としては先ほどと似ている。
﹁さっきと同じかぁ
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
825
﹁くそっ
﹂
﹂
﹁止め⋮⋮我に仇名す者を⋮冥府へ送りし⋮朧月の棺
げる。
﹂ 再び蹴り上げていき、さらに空中2段ジャンプで追撃の突きを行いさらに上空へかち上
蹴り上げと同時に、踵落とし、落ちたランサーを逆立ち状態でカポエイラをしながら
﹁かはっ⋮﹂
﹁崩蹴月⋮風月⋮尖月⋮﹂
縦に回転しながら下から連続で切り上げ、最後に蹴り上げる。
﹁如月⋮﹂
﹁ぐはっ
俺はそのまま近づき、思いっきり踏み込んで上空に蹴り上げる。
﹁天月閃⋮﹂
いや、言いたかっただけだけどね。
とか言ってみちゃったりしてー。
﹁槍術系混成接続⋮⋮﹂
ランサーは大きく後ろへ飛び、それを避けた。
!
!!
続けて空中で連続で斬撃と蹴撃を流れる様に加え、最後に大きく斬り上げ│││、
!!
826
﹁はあああぁぁぁ
覇王⋮籠月槍ぉぉぉ
!!!!
﹂
!!!!!
!!
ありったけの魔力を自身の槍に叩き込みッ
投げつける
!!!!!
矢除けの加護があろうとこれだけ体勢を崩したうえで空中なら避けようもないだろ
う
!!
﹁どもです。んじゃぁ⋮ってい
﹂
俺は例のごとくスペカを取り出し、ランサーの残っている胸元の辺りの掌底と共に撃
!
よし、了承は得た。
﹁ああ、好きにしな。この状態じゃあもって一分もないだろうが⋮﹂
﹁ありがと。ってなわけで、先の約束についてなんだけど⋮﹂
様にしながらも立ったままのランサーが言ってくる。
俺が投げた槍の所為で腹にドでかく風穴を開けそれでも倒れずに、ゲイボルグを杖の
⋮﹂
﹁なんだ⋮、嬢ちゃんの槍は空中が本来使う場所だったのかよ⋮。今のは見事だったぜ
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
827
ちこむ。
﹁ぐほぁあっ⋮
鬼畜
何⋮しや⋮がる⋮⋮﹂
いや、でもしんどい時間は短かい方が良いじゃん。
ランサーは血を吐いた後、そのまま後ろへと倒れ込んだ。
!!
っておお
どうなってんだこりゃ
?
なんて、頭の中で実況しているとランサーの瞼が震えはじめた。
何しやがる
!?
跳ね起きるようにして俺の目の前に立つランサー。
!!!
わーい、目線の高さが同じくらいだ。
﹂
辺り一面に血が飛んでいる森の中に青い全身タイツの少年が現れたではないですか。
すると何と言うことでしょう︵劇的ビ○ォーアフ○ー風
やがて光は収まっていき、そして消えた。
光に包まれていたランサーの身体が徐々に小さくなる。
まぁ毎回のパターンだよね。
今までよりは早いだろうか、倒れたランサーの身体が光に包まれていく。
そんな誰に対する言い訳か分からないものを考えながら暫く待つ。
はたから見たらただの死人に鞭打つ状態だけども。
?
﹁って、いってぇぇぇ
!!
828
ようこそ小さな世界へ︵血涙
﹂
令呪が消えてる上に受肉してんのかこれ すげぇなおい。でもなんで小さ
﹂
﹁それはほら、世のショタ好きな⋮﹂
﹁誰にだよ﹂
﹁いや俺にもそこはよくわからない。サービス
くなってんだ
!
!!
それで、俺が言ったお願いについてだが、1つ目は、この聖杯戦争を終わらす手伝い
一緒に身体が陥ってる状態も。
キングクリムゾン︵笑︶中にお願いを言いました。
﹁嬢ちゃん、何でそれを知ってやがる﹂
・
・
・
﹁あいあい。えーっとですねぇ││││﹂
﹁いやもう良い、それよりもなんで俺を生き返らせた﹂
?
?
﹁おお
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
829
をしてほしいという事。
そして2つ目がさっきの言葉に繋がる。
その二つ目ってのがダメt⋮じゃなかった⋮バゼットさんの所に案内してほしいと
いうもの。
ついでに、ランサーの真名も知ってるし、バゼットさんが本来のマスターなのに、今
のマスターに令呪を奪われたせいで従ってる事も言った。
﹂
?
﹂
!?
﹁もう良い。そっちは置いておく。約束とはいえ、これも契約だ。雇われる側に必要な
槍の柄の方で小突かれた。
﹁痛い
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あは︵笑︶﹂
らねぇんだ
﹁ちょっと待て。簡単に言うこっちゃないだろ。っていうか、それなら何で場所がわか
そういや最近使ってないな。拗ねてたりして︵笑︶
いつものごとくの良い訳。
ら⋮ってことで﹂
﹁何で知ってるかって⋮⋮えーっと、簡単に言うとアカシックレコードに接続できるか
830
﹂
情報でもねぇしな。それで
﹂
!!?
?
何であいつの所なんだ
?
あいつはもう⋮﹂
?
﹂
!?
やーめーてー。
吐く
マジ吐くこれ
﹂
!!
うぅ、吐くってこれ⋮。
﹁ちょ、やめて
!
﹁わ、悪ぃ⋮。 それでマジなのか
!?
ぬおっ
やっぱりイケメンは小さい時からイケメンなんですね。爆発すればいいのに。スケ
さすがイケメンカッコよす。
!?
嬉しそうに微笑むランサー。
に思ってたがホントに生きてやがったか⋮﹂
﹁そうか⋮。あいつが生きてんのか⋮。ははっ、殺しても死にそうにねぇ奴だとか最初
﹁まじまじ。そんなわけで案内してほいんさ。ほっといたら死ぬんでな﹂
?
﹂
クー兄さんは俺に詰め寄り、首元を掴んで思いっきりゆすりだす。
﹁ほんとなのか
﹁確か⋮自身を仮死状態かなんかにしてまだぎりぎり生きてる筈﹂
﹁
﹁死んでないとしたら
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
831
ド使ったとこだけど。
確かそんな名前のバゼット
でもまぁせっかくだから、その顔はバゼットさん本人に見せてやってほしいね。
﹁ま、そんなわけで案内よろしくね﹂
﹁ああ。こっちだ﹂
・
・
・
小さくなったランサーの案内で、なんだっけ、双子館
もっとグロい目に会ってる俺が言うのもなんだけど。
グロいね。
令呪を奪っていく際に腕ごと持っていかれたんで片腕が無い。
﹁うっわ、見事に血まみれ、そして片腕が無い﹂
みれなバゼットさんが転がってる真ん前まで来た。
そして、中々にきれいでいかにも高そうな雰囲気の物がたくさんある部屋の中、血ま
さんが拠点にしようとし、そして令呪を奪われた屋敷に来ている。
?
832
﹁あのよー、嬉しくなって来ちまったが⋮、改めてみると死んでる様にしか見えないぞ嬢
ちゃん﹂
なんか俺も直接見たら心配になってきた⋮⋮﹂
?
﹁ちなみに俺は大〇のぶよのが好きだ﹂
おいぃぃっ
その近所の子見たくなってきた。
近所の子どもさん、ランサーにそんなのまで教えてんの
!
って
?
状、仮死⋮AND検索でいっか﹂
?
?
現在の状況、
﹃仮死じゃね
﹄って書いてあるね。
?
﹁アカシックレコードってそんなググる感じでできるもんだったっけか
やってみ
﹁できるもんは仕方ない。ッと出た出た。え∼何々
か案外蹴ったら起きるんじゃね
?
﹂
﹁こいつでアカシックレコードに繋いでみて確かめるんさ。えーっと、バゼットさん、現
!!?
﹁確認するよ。たららったら∼携帯電話∼︵耳なし青ダヌキ風︶﹂
仕方ない、こんな時は⋮。
おおぅ⋮。
ジトーっとした目で見てくる。
﹁おい⋮﹂
﹁うんや、生きてる⋮よ
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
833
⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
!!
ロッ ド
﹁おい、ホントに蹴ろうとするんじゃねぇよ
﹁⋮⋮冗談ダヨ
ねぇ
ソンナワケナイジャナイデスカー⋮。
?
レジェネ
レスタ
﹂
!!!
してみた。
﹁え∼まずは仮死状態を解除して回復すれば良いかな
!!
ただ、見た目は魔法少女のステッキといった体だが、ネギよりは杖っぽいからこれに
ちなみにこれを選んだ理由は特にない。
出して構える。
そう、続けてランサーに言いながら俺は大杖の一つ、
﹃えこえこステッキくん﹄を取り
?
ちょっと心配だったんだよね。
腕も回復したのは行幸だ。
ふむ、割りと簡単にできたな。
寝息がかすかに聞こえる。
戻ったバゼットさんになった。
バゼットさんが光に二度包まれ、服に血が付いてはいるが血色がよくなり、腕も元に
?
834
﹁ありがとよ、嬢ちゃん﹂
﹁良いって良いって。これは俺が勝手にしたいと思ってやった事だからさ﹂
くっふっふ、後は罠にかかるのを待つばかりだ。
そして向こうの戦力は削った。
戦力はそろった。
うん、これは一度にする必要があるから、あとちょっとだね。
あとは金ぴかとマーボー神父とに聖杯か。
順調順調ー。
よし、これでまた一つクリアっと。
﹁そっか、んじゃ着いてきてくれ﹂
﹁おっと、そいつは俺がやるぜ﹂
うちといいつつ衛宮亭ですがね。
なきゃだな。うちまで連れてくかな﹂
﹁なんか照れくさいな⋮っとそうだ、このまま地面に寝かせとくのもアレだし移動させ
﹁それでも、言わせてくれ。感謝する﹂
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
835
クライマックスは近い。
<小話:バゼットさんのところに行くまでした会話>
﹂
﹁そういやさ﹂
﹁あん
﹂
﹁耳って⋮これ
なんで
﹂
?
俺を食ってどうするの
!?
ってかどっち
!?
!?
したぜ。たぶんこっちの意味でも駄目だろうしなぁ﹂
﹁食べる
﹂
あれって
﹁あー、ちくしょう。犬は食わないって誓約を立てちまってるからなぁ。惜しいことを
ゲッシュ
﹁あ、そういえば犬耳っぽいのだっけ俺⋮﹂
しちまっただけだ﹂
﹁なんだ、それは知らねぇのか。俺はちょいと犬ってのに良い思い出が無くてな。反応
?
﹁ああそれか。それはお前さんの帽子が取れた時に耳が見えたからだよ﹂
何で
﹁おれがランサーに最後の大技くらわす前にランサー一瞬止まったじゃん
?
?
?
836
﹂
﹁そりゃぁお前、決まってるだろ﹂
﹁美味しくないよ
!?
﹂
?
﹂
?
違わないけど
ほら行くぞ
﹂
!
さい。通報しますよ
﹁ちげぇよ
!
﹁あ、うん﹂
!
﹁いや、なんかよく分からないけど嫌な予感がしたから。あ、それ以上近寄らないでくだ
﹁まぁ、色々楽しませてもらうか。っておい、何で離れるんだよ﹂
﹁お、おおぅ
﹁く、くくっ、そうじゃねぇよ。まぁいいや。どっちにしろ今の状態じゃ難しそうだ﹂
『stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね』
837
﹃stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね
﹄
まぁ仕方ないよね
れ気味になっている。
というか身長が低くなったランサーに担がれてるのでバゼットさんは若干引きずら
さん。
後ろにはクー兄さんと干された布団の様にグデーっとなったまま寝ているバメット
俺は能力でドアくぐって衛宮邸まで一気に帰ってきた。
﹁たっだいまー﹂
?
﹂
?
そう思わずつぶやいた。
﹁なんぞ⋮
が真っ赤の士郎。
しかし部屋に入ったら何故か腹抱えてプルプル震えながらうずくまってる遠坂と、顔
とにかく、俺は2人を衛宮亭へと連れてきた。
!
838
多分俺以外の誰が見ても同じような事をつぶやくと思う。
﹁ひぃー⋮はう、笑った笑った⋮あら、おかえりなさいコウジュ﹂
ああ、なる。笑ってたのか。
それにしても、何を笑ってたんだ
﹁ちょ、遠坂
﹂
﹁ねぇ聞いてよコウジュ、士郎ったらね﹂
いや、状況から士郎の何かを笑ってたんだろうけど。
?
して。
あのー、士郎さん
﹂
反対の手がヤバいとこ触ってますよ
﹂
?
さすが主人公、とりあえず爆発しろ。
またどっかでフラグ立てた
﹂
これがワカメだったら魂ごと消し飛ばされてるだろうに。
さすが主人公、その程度で済むのか。
﹁わ、悪いっ
﹁どこ触ってるのよ
あ、はたかれた⋮。
?
!
?
士郎はかなり必死に凛を止めようとして口を防ぐ。それも後ろから抱き付くように
!?
!!
﹁んで、士郎がどうしたん
?
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
839
﹁いーえ、どちらかというと回収に行く感じかしら。明日セイバーとデートしに行くん
だってさ﹂
デートとな
私、気になります
﹁いま、面白いって言いそうになってなかったか
﹂
デート後に金ぴかがちょっかいかけてくるのもあって余計にね。
ニヤニヤせずにはいられなかったシーンなんで印象に強く残ってるよ。
原作であったデートイベントかな。
﹁それは面白⋮もとい⋮めでたいことだねー﹂
っと、顔を赤くしながらも近くにあった新聞を丸めて構えたので離れる。
うりうりと顔をつついてみる。
何これ可愛い。
回り込むとまた顔を背ける。
士郎の方を見ると顔を赤くしながら顔を背ける。
!
人の恋路ほど面白いものは無いと言うがほんとそうだな。
今の俺を効果音で表すとキランと付くことだろう。
!
ぴゅーぴゅーと口笛を吹いて誤魔化す俺。
?
840
訝しむ士郎だが、ハァと一つ溜息をついた後は諦めたようだ。
なんだよその何言っても無駄だなって表情は。
片方は⋮ランサー
ちょっとその溜息に釈然としないながらも話を続ける。
今更ながら驚いた凛は宝石を構える。
﹁そういうことよ。所で⋮後ろの二人って⋮あれ
それにしてもよくわかったな。
﹂
!?
士郎は一回ランサーに殺られてるんだっけ。
あぁ、そっか。
ふと、士郎の方に顔を向けると、苦虫を潰したようなといった微妙な顔をしていた。
凛は再び座ってくれた。
﹁⋮っ。⋮わかったわ﹂
いようにな﹂
﹁ストップストップ。2人はもう味方だから一応。それに片方は気絶中だから起こさな
うん、改めて見てもやっぱ〝らんさー〟ってのがしっくりくる。
に。
小さくなってるから、もうランサーのコスプレした小っさいどっかの子になってるの
?
﹁それで凛は爆笑してたわけか﹂
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
841
そらそんな顔になるわな。
﹂
?
﹂
?
﹂
っと言いたいけど、俺の日ごろの行いのせいだわな。
﹂
﹁おいおい、嬢ちゃん方そいつはひどくないか
餌は俺ってことになるのかね。
﹁拾ったというより釣った
!!
しかし見た目がアレなもんで少年が拗ねているだけに見える。
はさむ。
クー兄さん︵らんさー︶が扱いを不満に思ったのか、今まで黙ってたがさすがに口を
?
?
こっち見んな
微妙にもやもやしている俺を、凛がそんなことを言いながらジトーっと見てきた。
﹁それで、どこで拾って来たの
まぁその表情をしてしまう現状を作った俺が言うのもなんだけどさ。
なんか、ほっとけないよなこんなところを見ちゃうとさ。
はお兄さんちょっと心配だ。
でも、味方になったって俺が言っただけでそこまで自分の気持ちにふたをするっての
表情的にはまだ納得してないって感じだが、それでも理性で抑えてくれたようだね。
﹁⋮そう⋮だな。味方になったなら態々争うのもおかしいし﹂
﹁士郎、納得いかない部分もあると思うがそこはちょいと目を瞑ってくれないか
842
そんなクーさんは自分が座るついでにその辺の座布団を繋げて、その上にダゼットさ
んを寝かせた。
すかさずアーチャーが掛ける為だろう毛布を持ってきた。
無言で頷き合うアーチャーとランサー。
おお、漢な二人の掛け合いカッコいい。二人ともショタだけど。
本名なんだっけ⋮。
まぁでもその二人の気遣いの御陰か寝かされたバメットさんも心なしか満足げだ。
⋮あれ
ダメット・フラグミッツ
三つ
?
ふざけてたらどれが本当か分からなくなってきた。
?
まぁそのうち分かるか。
?
?
﹂
﹁そういう契約しちまったからな。約束は守るが⋮そろそろ、内容を教えてくんねーか
る事が出来ました。わーぱちぱち﹂
﹁そんなわけで⋮あれ、どんなわけだ ⋮まいっか、そんなわけでランサーの協力を得
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
843
そういえば話したのってイリヤとキャスターくらいで、今ここに居るメンバーは知ら
その言葉に、他の皆も俺を見る。
?
844
ないのか。
まあいい機会か。
い
ま
なんだかんだ言いながら俺は説明を抜きにして好きにして来たし、ほぼ最終段階まで
来たのに言わないってのは駄目だよな。
それに、丁度セイバーも居ない。
現時点で問題となってくるのはセイバーの本心。
セイバーの本心が王の責務で塗りつぶされてしまっているか、それとも現在を望むか
⋮。
実際問題として、セイバーが現界し続ける事は聖杯が無くても俺のスケド︵スケープ
ドール︶で可能なわけだ。
セイバーは英霊として少し特殊で、本来の身体がまだ生きていたりするのからただ単
純にスケドを使えばいい訳じゃないはずだが、でもまぁぶっちゃけ、手間がかかるだけ
で問題はない⋮はず。
だから、後はセイバー自身の問題だ。
聖杯が穢れてるとかそんなの抜きにしてセイバー自身がどう思うか。
それによって俺が取る方法を変えなきゃならない。
傲慢な考えだと思うけど、やるならとことんまでやりたいのは確かだ。
でも、こればっかりは士郎とセイバー二人がどうするかにかかってる。
二人があと少しの時間でどうなるか、それによって対応を決めるしかないのだ。
結局これに関しては後で考えるしかないか。
なら、現状で言えることは言ってしまっておいた方がやはり良いのだろう。
俺は意を決心して、皆の事をしっかりと見ながら口を開いた。
﹂
?
﹁嬢ちゃん⋮、本気か
﹂
﹁理由を聞いてもいいか
﹂
﹁モチのロン。本気と書いてマジです﹂
?
﹂
?
な。強い奴とやりあえればそれで満足だ﹂
﹁ねぇよ。俺は聖杯に願いを持っちゃいねぇ。俺はこの聖杯戦争そのものが願いだから
望みってある
﹁勿論。けどどう話そうか⋮。そうだな、ちょっと聞きたいんだけどランサーは聖杯に
?
?
﹁私たちにも勿論教えてくれるのよね⋮
﹂
士郎、凛はどうやら固まってるようだ。
ランサーがキョトンとした顔をこちらへ向けてくる。
﹁⋮なんだって
﹁単刀直入に言うよ。俺の目的は聖杯をぶっ壊す事だ﹂
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
845
﹁んじゃ、無問題だね。この度召喚される聖杯、実はこれが汚れてしまっているんだ﹂
﹂
?
﹁方法
生贄が必要だとかって事
﹂
?
﹁なんですって
﹂
﹁おいおい、マジかよ⋮﹂
﹁ゴメン、よくわからないんだがどういう事なんだ
?
!?
クー兄さんも確かキャスターのクラスにも該当するぐらいに造詣が深い。
でも魔術に馴染のメンバーはその意味が分かったようだ。
いや、良いんだけどね。実質士郎は素人なんだからさ。
士郎ェ⋮。
物騒なのは分かるんだが⋮﹂
﹁いんや、それすらも生ぬるい。その方法ってのはな、﹃破壊﹄を持って成就するんだ﹂
?
だろうよ。けどな、その方法が問題なんだ﹂
叶える願望器なんて物じゃなくなってるんだ。いや、確かに願いを叶えることはできる
﹁汚されているってのは文字通りの意味だよ。聖杯は汚されている。あれはもう願いを
他の皆も首を傾げたりと理解まで行っていないようだ。
穢れてるっていきなり言われても意味が解らないよな。
そう問う凜ちゃん。
﹁⋮どういう⋮こと
846
﹂
﹁例えば⋮そうだな、さっきランサーが言ってた〝強い奴と戦いたい〟っていう願いを
聖杯に言うとするだろ
?
﹁ん
それがどうしてさっきの願いに繋がるんだ
﹂
?
﹁その結果何が起こる 戦争が起こるのは確実だろうよ。戦争なんてものが起こった
?
落ちるだとか、文明の崩壊だとかが起こるんじゃいかな﹂
﹁そしたら多分、各国の重要拠点が吹っ飛ぶだとか、核ミサイルが誤作動起こして他国に
だから気に食わないってのは分かるけどブスッとしないでくださいな。
例え例え。
﹁そんなの願わねぇけどな﹂
﹁⋮ああ﹂
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
847
戦争の結果生まれた技術なんてそこら中にある。
そりゃ技術力は上がるだろうさ。
戦争なんていう極限状態だ。普通なら踏みとどまる所で踏みとどまれなくなる。
く聞く話だ。
俺の想像力が貧困なのでこの想像なのだが、戦争が技術を発展させるっていう話はよ
い、﹃ヒャッハー﹄や﹃汚物は消毒だー﹄な世紀末が簡単に来ちまうだろうな﹂
ら人々は強くならざるを得ない。文明の崩壊も⋮残された資源を巡っての闘争、奪い合
?
例えば新幹線に使わている技術、あれも元は戦闘機の開発技術を流用したって話だ。
つまり、何が言いたいかというと、人は極限状態ではどこまでも突き進む。
そして人間はそれを乗り越えるために強くなろうとする。
人間の強さは適応力だと聞いたことがある。
まあ悪い意味ばかりでもないのは事実だろうけどさ。
〝この世全ての悪アンリマユ〟は善悪二原論のゾロアスター教において、絶対悪とさ
⋮﹂
アンリマユ、つまり〝この世全ての悪〟だった。それ以来の筈だ、聖杯が穢れたのはな
ヴァント阿部⋮じゃなかった﹃アヴェンジャー﹄を召喚した。アヴェンジャーの正体は
﹁汚 れ た 原 因 は 確 か 第 三 次 の 聖 杯 戦 争。そ こ で、ア イ ン ツ ベ ル ン が イ レ ギ ュ ラ ー サ ー
中に取り込まれているモノも然り。
まぁ、聖杯自身も被害者と言えなくもない。
改めて考えるとホントろくなもんじゃねぇな。
でもきっとそうなるのだろう。
それどこの独裁者スイッチと言いたい。
ね。自分以外に誰も居ないんだもの、当然1番になるわよ⋮﹂
﹁たまったもんじゃないわ。世界最強を願ったら、多分世界中の人間が死ぬんでしょう
848
れる存在だ。
それを当時のアインツベルンが勝利に固執し、ルールを破って例外的な方法で反英雄
として召喚してしまうわけだ。
ただ、問題があった。
召喚されたのはアンリマユであってアンリマユではなかった事だ。
その正体は、拝火教を信じる古代のある村で、
﹁この世全ての悪性をもたらしている悪
魔を仕立て上げることで、人間全体の善性の証明とする﹂という身勝手な願いの結果、一
人の人間がこの世全ての悪を体現する悪魔﹁アンリマユ﹂の名と役割を強制的に背負わ
され、人々に心から呪われ蔑まれ疎まれ続ける中で﹁そういうもの﹂になってしまった
ただの人間だった。
﹂
しかしその在り方は人々の願いの結果であったことから願望器である聖杯が反応し、
聖杯は汚染されていった。
それが穢れの正体。
﹁また厄介なものを⋮﹂
呆れたと言わんばかりに言う凛。
まったくだ。
﹁あなたが壊そうとする理由は分かったわ。でも、さっさと壊さないのは何でなの
?
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
849
おあふ⋮。
核心突いてくるなー。
⋮⋮当たり前か。
﹂
?
﹁⋮そう。まぁいいわ。今更だもの﹂
だから、言えない。 それを犠牲にしてってのは本末転倒だ。
秘密主義ってわけじゃないけど、俺がハッピーエンドを考えた時に最初に思い付いた
だ。
俺の一番の目的ってのも、言うとその方法を絶対聞かれるからって理由で言えないの
キャスターには簡単な概要だけは伝えたけど、それでも全部じゃない。
だからイリヤにも言ってなかったりする。
言ったら絶対却下される方法だし。
﹁それは⋮まだ言えない⋮かな﹂
﹁ある方法っていうのが知りたいんだけど
勘弁願いたい。だから俺がある方法で聖杯を壊す﹂
理しておきたいんだ。前回からの今回の様に、下手なことをしてまた次回なんて状況は
﹁それはあれだよ、確かに召喚されるのを阻害する方法はあるけど、ここできっちりと処
850
ゴメン。超ゴメン。
﹁あのさ⋮﹂
﹂
士郎が何かに気づいた様で俺に問うてくる。
?
壊させた﹂
﹂
s rightだ士郎。切嗣氏は寸前で気付いた。故にセイバーに命じて
?
終わってからゆっくりと話すべきことだしな。
どころか、士郎の場合100%足枷にしかならない。
現状では聖杯戦争っていうものの中では重要度が低い。
切嗣氏とアインツベルンの関係についてはまだ言わなくてもいいかな
'
ついでに言うとその方がイリヤを弄れて楽し⋮ゲフンゲフン、家族間の問題になるか
?
﹁That
で、どうなんだ
﹁どんな状況だよ。というか普段俺の事をどういう風に見てるかよーく分かった。それ
ろうか﹂
﹁おやおや、士郎にしちゃ鋭いじゃん。明日は槍どころかゲイボルグが降るんじゃなか
たってことだよな⋮。それを親父は願いを捨ててまで寸前で壊したって事は⋮﹂
﹁親 父 は ⋮ 気 づ い て た の か な ⋮。3 回 目 か ら っ て 事 は 当 然 前 回 の 聖 杯 戦 争 も 穢 れ て い
﹁どったん
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
851
らじっくりと話せる方が良いだろう。
クーさん今の会話だけで大体解かっちゃったげですか
こっちとしては説明する必要が無くて楽だけどさっ。
衛宮士郎だ﹂
?
⋮なんのこと
﹁いや、親父にさ、どんな願いがあったのかは知らないけど、それを諦めてまで聖杯を壊
俺が首を傾げているのを見て、士郎は続けた。
?
士郎が悲し気に顔を下むがながら声に出す。
﹁それにしても、親父悔しかっただろうな⋮﹂
ショタなのに。
ショタなのに一々漢を魅せやがる。
飄々と笑いながら返すクーさん。
﹁あいよ﹂
いぞ
﹁どうやらそうらしい。いまいちピンと来てないけどな。って、俺の名前は小僧じゃな
今の見た目はあれだけど⋮︵目反らし
さすが兄貴と言わざるを得ない。兄貴の称号は伊達じゃない。
!?
﹁ほぉー、小僧の親父さんは前回の勝利者だった訳か。けど壊したと⋮。やるねぇ﹂
852
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
853
したのに結局大火災が起こってしまったんだ。結果的に見たら被害の規模はまだ少な
い方なのかもしれないけど、それでも親父なら⋮さ⋮﹂
遠くを見つめるように何かを思い出しているのであろう士郎。
何か⋮とは言ったが十中八九切嗣氏にあの大火災の中から士郎が助けられた所を思
い出しているのであろう。
勘でしかないがそう確信できる。
俺は実際に見たわけではないがそのシーンはアニメで見た。
アニメは所詮虚構だが今目の前に居る士郎達は現実。だからこそあのシーンがより
俺の中で鮮明に思い出された。
大火災による地獄絵図。救いなんてあるように思えない。そんな中で切嗣氏は一人
に少年を見つける。今にも死に絶えそうなその少年。それが士郎だ。
そしてそこが、士郎の原点。
士郎は確かその時の切嗣氏の表情を見てこう言った筈だ。
〝助けられたのは俺なのに助けた方が救われた顔をしていた〟
細かい言い回しは違うと思うが士郎がそう思ったのもさもありなん。
俺はFateのZEROはほとんど知らないから切嗣氏の詳しい内情を知りはしな
い。
﹂
けど、当時の切嗣氏は罪に苛まれており、ほとんどの人が死人となった炎の地獄を歩
き続けた中で生存者に出会えたってなっていたのは覚えてる。
その時に歓喜、虚しさ、その他諸々の感情が溢れたのは想像に難くない。
﹁確かに⋮ね⋮﹂
﹁報われねぇってのは、辛いもんだしな﹂
﹁自分が原因だなんて⋮ホント│││﹂
⋮
あれ⋮
﹂﹂
どういうことだ
大火災は親父が聖杯を壊したからじゃ⋮
◆◆◆
﹁﹁え⋮
﹁ちょいタンマ。切嗣氏は直接あの大火災に関わってるわけじゃない筈だぜ
?
?
﹁あれ、俺言ってんかったけ 切嗣氏はあの大火災の原因って言えば原因だけど直接
?
?
?
?
854
?
は関与してなかったはずだぜ
詳しい事は俺もしっかりと知らないんだけど、切嗣氏
﹂
ないけど、根本的には切嗣氏は大火災を起こした訳じゃないよ﹂
実際は資格をまだ持ってないのに触れたから余計にこじれたとか色々あるのかもしれ
が そ の 願 い に 触 れ て し ま っ て あ あ い う 形 で 願 い を か な え た っ て の が 真 相 だ っ た 筈 だ。
の相手、つまりあの金ぴかのマスターが切嗣氏の足止めを願い、既に現界していた聖杯
?
!!?
﹂
﹂
﹁そうなの
!?
﹂
!!
た時に対処できないかもしれないからだそうだ。
理由としては、今は必要ないだとか、俺達が知ることによって計画が変わってしまっ
相変わらず、コウジュは色々と隠しているようだ。
それから俺たちは情報を纏めてみた。
﹁そ、そうだよ⋮。ってか近い
身を引くコウジュだが、遠坂も気になったのか詰め寄る。
?
﹁おおぅ
思わずコウジュに、机の上に身を乗り出して聞いてしまう。
﹁じゃ、じゃあ聖杯を壊した結果が大火災じゃなかったのか
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
855
それで⋮だ。
纏めた情報なんだが│││、
1.金色のサーヴァント、ギルガメッシュは聖杯を望んでいる。
2.ギルガメッシュは前回の聖杯戦争からの生き残りである。
3.ギルガメッシュはセイバーを狙っている。
4.ギルガメッシュは前回の聖杯戦争で、聖杯からこぼれ出たモノをかぶったために
現界し続けられている。ただし、魔力の補充をするため人を襲っている。
5.今回の聖杯戦争は実はもう終わっている。
﹂﹂﹂
││││││なるほど⋮。
﹂
﹁﹁﹁って、ちょっと待て
﹁う⋮
?
!!
856
﹂
﹂
首を傾げるコウジュ。ちょっと可愛い⋮。
じゃなくて
特に最後
﹁聖杯戦争がもう終わってるってどういう事
﹁あ、俺はノリだからな﹂
﹁ランサーェ⋮ゴロ悪いなこれ⋮⋮じゃなくて、聞いてない
﹁﹁言ってない﹂﹂
当然のごとく遠坂と声が重なる。
﹁⋮⋮わはー﹂
﹁﹁誤魔化すな⋮﹂﹂
﹁ゴメンなさい⋮﹂
ってそうでもなくて
﹁聖杯戦争がもう終わってるってどういう事なの
﹂
言ってなかったけ
﹂
﹁いやー、ゴメンゴメン隠し事しすぎてどれを話してないのか忘れてたぜ。ギルガメッ
?
!!
コウジュはあははーっと苦笑した後、先の疑問について答えてくれた。
﹁ギルガメッシュの方もだ﹂
?
!!
コウジュが土下座をする。あの角度で何であの帽子落ちないんだろ⋮。
?
!?
!?
!!
﹁後半二つは俺聞いてないぞ
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
857
シュの方は簡単。前回のわたくしめの説明不足でございます。あわよくば、そのまま流
してくれたらなーっと⋮﹂
そしてまた土下座。
なんだろう⋮やっぱりコウジュって実は遠坂家の関係者じゃないのかって最近ほん
とに思うんだが⋮。
です、はい﹂
?
?
最後の サーヴァントだった訳だから、セイバーの勝ちは決まってるんだな。
ああそっか、聖杯戦争で倒すのは他の6人のサーヴァントだもんな。実質ランサーが
わっているというわけです。金ぴかは仲間はずれなので⋮﹂
である7人のサーヴァントの内残っているのはセイバーだけなため聖杯戦争自体は終
﹁聖杯戦争が終わったというのはですね、ランサーを先程倒して来たので、本来の参加者
ああ、コウジュが震えてる。
⋮。
あ の、遠 坂 さ ん 恐 い ん で す が ⋮。目 が 笑 っ て な い で す。声 は い つ も 通 り な の に
﹁ふーん。で、終わってるっていうのは
﹂
ぶったおかげで現界し続けられてて、でも魔力が要るから人を襲ってるって感じなわけ
﹁前に俺が言ったのもあながち間違いじゃないんだ。けど、ギルガメ君は聖杯の中身か
858
﹂
!!
﹂
あれ、でも待てよ⋮という事は⋮。
﹁聖杯が危ないんじゃないか
聖杯が
横で遠坂がハッとする。
!!
!?
鍵⋮ってなんだ
﹁そっか⋮﹂
﹂
?
﹁うあ⋮士郎そんな顔しないでくれよ。ものすっごい罪悪感感じるぜ。秘密にする俺が
俺のことを考えてくれての事だとは思うがそれでも⋮な。
疎外感⋮というわけじゃないが、少し寂しい。
﹁なんだよ、俺だけ仲間はずれかよ⋮﹂
﹁あーそうね。士郎は知らない方が良いかも⋮﹂
﹁今は内緒⋮﹂
﹁鍵って何なんだ
横に居る遠坂は何か納得したみたいだ。
?
何があっても大丈夫なように対策もしてる。約束もしたから絶対守るよ﹂
﹁それは大丈夫。ぬかりないよ。聖杯を召喚するためのカギは全てこちらにある。一応
ずっと土下座していたコウジュが顔を上げる。
﹁そ、そうよ
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
859
悪いとは思うけどさ、今士郎に話しちゃうとつっ走っていきそうだからな﹂
むう⋮。
思わず顔に出てたか。申し訳なさそうな顔をするコウジュに俺も罪悪感を感じる。
けど、俺が突っ走ってしまうっていう事は、それなりの危険か何かがあるってことだ
よな
かもしれないし⋮。
!!
まったく不甲斐ないな⋮。
アーチャー私もお茶
﹂
﹁さて、真剣な話はここらで終わりにしよう。疲れた アーチャーお茶ちょうだい
押入れからアーチャーが出てきて、そのままキッチンの方へ向かう。
﹁まったく⋮私は使用人ではないのだがね﹂
元とはいえ私のサーヴァントなのよ
!
衛宮家の押し入れはその内に青い狸でも出すんだろうか⋮。
﹁ちょっと
﹁おう、俺も頼むわ﹂
!
﹂
とはいえ、コウジュの言うハッピーエンドっていうのを目指すためには必要な事なの
しい。本人は女の子扱いされるのを嫌がるけど、それでも俺からしたら女の子だ。
俺としてはそんなことを元サーヴァントとはいえ、女の子にさせるのはやっぱり心苦
?
遠坂とランサーも便乗する。
!!
!
860
もう何この状況。
俺の葛藤とかは何だったんだろうか⋮。
俺が言うのもなんだけど、聖杯戦争はこんなので良いのだろうか⋮。
あ、終わったんだっけ⋮。
はぁ⋮。
まったく、最近コウジュ関係で溜息が多い気がするよ。
◆◆◆
どこにいるかは容易く予想がついた。
を探しに来た。
話が終わり士郎を一通りからかった後、私はいつの間にかいなくなっていたコウジュ
﹁ん、凜か⋮﹂
﹁やっぱりここに居た⋮﹂
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
861
イリヤの部屋だ。
コウジュがうまく掻き回しているから士郎は多少訝しむ程度で気づいていないが、昨
日からイリヤの姿を見ていない。
それを思い出してここに来てみれば案の定だ。
暗くしてある部屋、その中に敷かれた布団に眠るイリヤを見る。
薄暗いからよく見えないけど、薄く上下する胸から呼吸があるのは分かるがあまりに
も生気が感じられない。
﹂
呼吸が無ければその容姿も相まって人形と間違えそうな程だ。
﹁イリヤは、大丈夫なの
自分の予想が正しいかどうか、それによって今後取るべき方針が変わる可能性があ
い。
そんな彼女に聞くのは心苦しいが、先程気づいたことを聞いておかなければならな
る。
何かを我慢するように、そして申し訳なさそうに無理に笑おうとしているのが分か
その姿は普段の彼女からはかけ離れていて痛々しい。
そう言いながらも苦笑するコウジュ。
﹁たぶん、ね﹂
?
862
る。
﹁鍵って、イリヤのことよね
﹁やっぱ、気づいてたか﹂
﹂
?
﹁イリヤが自分で言ってたでしょ 準備しなきゃって。それにあなたが幾らなんでも
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
﹁それ、褒めてるの
﹂
だであなたってやることはやってるしね﹂
せに、既に大事なものは手元にあるみたいに切羽詰った様子を見せてない。なんだかん
のんびりしすぎているように感じたのよ。あれだけ私たちに不安を煽るように言うく
?
﹁そう思うならそう思っておきなさい﹂
?
でも、ここ数日の彼女を見ていて警戒する自分が馬鹿らしくなったのは確か。
最初は怪しいなんてものではなかった。
いつの間にか目の前の少女を私は仲間と認識していたようだ。
そこまで考えて、自分もまた苦笑する。
どいつもこいつも好き勝手やって、周りに居るものの心配を考えなさいっての。
その姿に少しイラッとする。
そう言いまた苦笑するコウジュ。
﹁ひっどいなぁ⋮﹂
863
864
隠し事に向いてる性格ではないのに自分で何とかしようとして色々隠して、でも隠し
きれてなくて。
ああ、やっぱり腹が立つわね。
士郎も、コウジュも、自分がやらなければと全部背負い込んで。
桜の事に関しては感謝してるし、アーチャーの事もまだまだ言いたいことがあったか
らあれはあれで何とか納得した。
けれどそれ以外の事に関しては別だ。
どこまで知っているのか分からないけど、コウジュは何から何までお膳立てして、全
部掌の上ように振る舞って、後になってこういうことだったと説明されて⋮。 確かに、すべてを聞いたところで私ではサーヴァントの戦いに邪魔になるのは確か。
魔術師としての自分が冷静にそう告げている。
けどやはり言ってほしかった。
コウジュには恩義もある。
余計なことも多々されたけれど、それ以上に、桜との仲を取り戻してくれたのは彼女
だ。
だから何か手伝ってあげたい。
でも│││、
﹁ねぇ、もう一度聞くわ。イリヤは大丈夫なの
でも、ここ数日でわかった。
﹂
そこまでしてくれる彼女を邪魔したくないとも思ってしまっている。
それでも矢面に立って、色々としているのは彼女だ。
死ぬという経験が消えるわけでもないはずなのだ。
けど身体が感じる痛みが和らぐわけではないはずだ。
不死身だと聞いた。怪我もすぐ治ると聞いた。そしてサーヴァントだと知っている。
と思って行動してくれている。
私が言ってほしいと思うこの感情と同じように、コウジュもまた私たちの事を仲間だ
?
って、兄なんて私には居ないしコウジュは女の子じゃない。私は何を考えているのや
その笑みはまるで、兄が妹を安心させる時にするようなものだった。
今度はニシシと軽快に笑うコウジュ。
﹁まぁお兄さんに任しときなって﹂
﹁そう⋮﹂
そう言う彼女の顔は先程までと違って強い目をしている。
するってのは俺の専売特許だよ﹂
﹁大丈夫、大丈夫だよ。イリヤと約束したから、守ると誓ったから、思ったことを現実に
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
865
ら。
も悪いし﹂
﹁そうかい
﹁何よ、なら話してくれるの
でもそれが嫌じゃない。
不思議と大丈夫と思わせる安心感はなんなのだろうか。
さっきのもそうだけど、時折見える彼女の男らしさとでもいうべきか、とにかくこの
短く、けど力強くそう言うコウジュ。
﹁任せろ﹂
らね﹂
﹁だから、もう聞かない。聞かないでいてあげる。だけど、失敗したら承知しないんだか
というか、彼女が好きにするのなら私も好きにさせてもらうだけだ。
でももうそれで良いような気がしてきた。
やっぱり言ってくれない。
﹁どうせそんな事だろうと思ったわ﹂
?
?
﹁⋮⋮あはは﹂
﹂
ま、気遣ってくれるのは嬉しいけどさ﹂
﹁まあ、他にも聞きたいことはあるけどこんなものにしておくわ。あまりここで話すの
866
大人が子供に言い聞かせるように言うときはちょっとだけムっとするけどね。
私は静かに部屋を出る。
持っていた疑問はほとんど解決していない。
でも不思議と心は軽やかだ。
先程までのもやもやはどこへやら、私は足取りも軽く、居間へと向かった。
﹁さってと、私は士郎のデートプランでも考えてあげるとしましょうか﹂
『stage38:聖杯って大体ちゃんと使われないよね?』
867
アチャ夫さんは﹃マイルーム﹄にでも居るんじゃないかな。
キャスターが強制転移で呼び戻すから大丈夫︶。
そしてランサーは朝からどこかに行った︵釣竿を持って出ていったが、何かあっても
バゼットさん︵思いだした︶はまだ起きていない。
現在居間に居る訳なんだが、居るのは俺、キャスター、士郎、凛だ。
とりあえず、現状説明から言ってみよう。
ワクテカせざるを得ない。
つ・ま・り、士郎君の半告白シーン到来なわけだ。
今はあの話が終わって次の日の朝だな。 おっと改めまして、おはよう。
って、なんか懐かしいな⋮。この姿になった今となっては余計にそう思う。
オッハー。
﹃stage39:デート・ア・ライブ的な⋮﹄
868
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
869
桜は部活の何かがあるってさ。
ライダーも一緒に動いてもらった。
リアルに太陽がまぶしいとか言ってたんだけど、あのサーヴァント大丈夫か⋮
あ、ライダーに桜と一緒に行ってもらったのは勿論護衛のためだ。
桜も狙われる可能性が一応まだある。
ちなみにライダーの格好だがロリサイズの穂群原学園制服だったりする。
キャスターさんが一晩で作ってくれました。
魔眼封じのメガネも掛けてるし、一応一般人に見えるだろう。
ふふふ、まぁこれで彼女もコスプレ幼女の仲間入りだね︵血涙
んだ、俺。
威圧感とまでは行かなくても相手に警戒させる程度には護衛っぽさが必要だと思う
どう見ても背伸びして高校の制服着てる、ちびっこな桜っちの妹さんだよ。
ただ一つ問題がある。今の状態のライダーさんだと護衛に見えない点だ。
良きかな良きかな。
桜っちとお揃いだとか言ってさ。
うにしてたなあ。
俺も着せられそうになったのは置いといて、ライダーさんってばものすっごい嬉しそ
?
870
︵ブラック企業感
一応、リーチ以外の基本スペックはそのままだし大丈夫って言えば大丈夫だろうけど
さ。
それにいざとなったらキャスターが居るし
ヴァントに第二の生を生きてもらってるとこからきっと気づいてる筈だよね
周知の事実過ぎてつっこまれてないだけだよね
何故黙ってたとか言って罰ゲームとかないよね
よし、気づいてると思っとこう⋮。
後はなるようになるよな⋮。
士郎と凛は机を挟んだ向こう側でずーっとデートとはあーだこーだ話をしている。
話がそれたんで戻すと、現在居間に居る俺達は、俺とキャスターはテレビを見ていて、
!!? !?
?
あの時俺ってライダーを連れてそのままあの場を去っただけだし、今まで俺がサー
そ、そうだ。
し⋮。
と会わせてなかったし、もう隠れててもらう必要はないんだけど、今更言うのもアレだ
士郎達ってのは士郎、凛、セイバーなんだけど、前にライダーさんを確保してからずっ
うかな⋮。
あ、そういえばライダーが生きてる事まだ士郎達には言ってないんだけど、どうしよ
!
凛が士郎に色々と享受している感じだ。
机の上にはずらっと雑誌が積み重ねられている。デートスポットやらがどうとか書
いてあるようなあれだ。
どこから持ってきたのか気になるが、凛はそれらを指し示しながら﹃デートとは闘い
なのっ﹄と格言じみた事を言った後はデートコース、店と言ったものの確認をしながら
士郎にいろいろ吹き込んでいる。
どうでもいいが、士郎が行くのに凛が行くかの如くなノリだね。もしくは士郎のママ
的立ち位置
おい、セイバーがビクッて若干引いてるぞ。
慌てて士郎と凛は机の上の本を片付ける。
るとセイバーが入ってきた。
そんな2人を視界の端に移しながらニュースの合間にやってる今日の運勢を見てい
まぁ他人の恋路を応援したくなるのは分かるけどさ。
それにしてもマジで凛さんのテンションたっかいなー。士郎はもうたじたじだよ。
?
﹁﹁お、おはよう⋮﹂﹂
﹁お、おはようございます⋮﹂
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
871
﹁ぷっ⋮くくっ⋮⋮﹂
ムリ⋮助けて誰か⋮くくっ⋮。
キャスターと二人、知らないふりをしながら笑いを堪えるのが大変です。
テレビを見ているふりをしながらチラリと士郎達を見る。
青春してんなぁほんと。おじさんにはこの空気は辛いよ︵元20歳大学生現幼女
そしてこのもどかしい雰囲気をそろそろやめてほしい。
いやしゃべれよ。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
士郎は自分の横、凛が居るのと反対側に座布団が空いているのでそこに呼んだ。
このよくわからん空気を脱出させてくれたのは士郎だった。
﹁あ、はい﹂
﹁えっと、セイバーここどうぞ﹂
872
士郎は話をどう切り出そうかと目線を向けてはまた下げて、セイバーは最初は良く分
あぁぁ
やぁめぇてぇ
﹂
﹂
この空気を打破するためだからって俺に話を振りやがった
﹁え、だってそりゃなるでしょう
こ
かってなかったみたいだが途中から士郎と目が合う度に顔を少し染めて同じように目
﹂
どうかしたかしら
キャスターめ
﹁何でもアリマセンヨ
の裏切り者め
!!
線を下げる。
なんていうか痒い
!!
さっきとは違う意味で助けて欲しい。
!
てしまった。
そんな俺をギン
﹂
!!! !
﹁⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁コウジュうっさい
と鋭い目で睨む凜。
何でも無いって言ったのにニヤニヤしながら食い下がるキャスターについ声を荒げ
!
?
﹁でもそわそわしてたじゃない﹂
!
?
!?
!
?
﹁コウジュ
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
873
凛に怒られてしまった⋮。
俺まだ何もしてないのに⋮⋮。
◆◆◆
?
デートの説明ってどうすればいいんだ
﹁もちろん﹂
﹁女の子⋮とは私の事を言っているのでしょうか﹂
これならどうだろう。
﹁えっと、デートっていうのはだな⋮。あ、女の子と遊びに行くっていう意味だ﹂
?
ただ、返ってきた言葉は少々予想外ではあったが⋮。
俺は今、一大決心をしてセイバーを誘っている。
すが﹂
﹁デート⋮ですか それは何でしょう、あまり専門的な訳語は使わないでほしいので
874
﹂
﹁言葉の意味は分かりましたが、意図が全く分かりません。そんな事をする理由は何で
すか
これ以上どう説明すればいいんだ
だろうが⋮。
この状況でそれをいきなり言えと
そんな風に頭の中でパニックを起こしていると、遠坂から声がかかる。
ってそうじゃない、問題はどう説明するかだ。
のキャスターも要注意だと思う。
が居る前でするのは駄目な気がする。あと見たことないほどの暖かい眼で見てるそこ
いやいやでも端で笑いを堪えたりもじもじしたり突然体を捻ったりしてるコウジュ
べきなのだろうか。
いや、別に恥ずべき感情なわけでもないし、むしろまっすぐ表現するべく告白をする
?
意図⋮という部分で考えれば俺がセイバーの事が気になるからっていう事になるん
?
数少ないボキャブラリーを総動員してるんだが素で返されてしまった。
クロスカウンターというものを喰らったらこんな気分になるんだろうか。
﹁⋮⋮﹂
?
﹁士郎、さっさとしないと﹂
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
875
﹁うぐ⋮﹂
時計を見る。そろそろ家を出ないとゆっくり回れない。
﹁分かってはいるんだが⋮﹂
ボキャブラリーの少ない自分に自己嫌悪に陥りそうになる。
勉強は苦手ではないんだが、こういう感情を吐露する事や説明っていうのはどうも苦
手だ。
セイバー。デートっていうのはようするに逢引の事なの﹂
そんな事を考えていると、遠坂はよしっと声を出した後、セイバーに向き直り│││、
﹂
﹁良い
﹁っ
?
っておい
遠坂さん
爆弾発言をした。
!
!!
ど
⋮
今、豚と牛
鳥も
ってどこからか声が聞こえた気がする。それは合挽だ
?
って犯人はコウジュか
?
?
誤魔化しまぎれに咳払いを一つする。
!?
しっかり言えない俺のせいだけどそこまでストレートに言われると恥ずかしんだけ
!?
!!
!
876
⋮いや、何でそんなに疲れた顔してるんだ
隣では恥ずかしい説明がまだ続いていた。
﹁な、なるほど⋮﹂
﹂
﹁男の子が好きな女の子にアピールするチャンスってわけなのよ﹂
?
あとリア充爆発しろ
!
!? !
﹂
?
が│││なんだ
コウジュのいつものごとくな突発的な行動だが、今回はかなり感謝したい。
達を引っ張っていく。
コウジュは俺とセイバーの手は握ったまま、器用に障子戸を足で開け、玄関の方に俺
﹁よし、ならいい。さっさと行って来い﹂
?
持っていくものは小さいリュックに入れてそこにあるので、それを持っていくだけだ
﹁え、えっと出来てるけど⋮﹂
﹁士郎、準備は
俺たちはそのまま立たせられる。
コウジュは突然席を立ち、俺とセイバーの所まで来ると手を引っ張ってきた。
良くわからないが怒られた
﹁もう良いからさっさと行けよ
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
877
さっきの空気は俺もさっさと抜けだしたかったからな。
よし、覚悟は決まった。
﹂
でいいのかな⋮、とにかく黒と白のフリフリとしか形容できない
どうせならオシャレをしていくべきよ
このまま俺はセイバーと今日一日デートを│││、
﹁待ちなさい
できなかった。
そこにはゴスロリ
!!
﹁今言った通りよ。外出、それもデートというものをするのだからそれ相応のおめかし
﹁どういうつもりだキャスター⋮﹂
⋮。
くそ、さっさとこのリア充どもを送り出して俺も自分の事をしようと思ってたのに
いつのまに
◆◆◆
レースがふんだんに使われた服を掲げるキャスターが居た。
?
!
!?
878
が女の子には必要じゃない
物語ってるぜ
﹂
開き直りやがった
﹂
﹂
明らかに目がそんなセイバーの為じゃないことを
あんたの嫁をどうにかしてくれ
!
なにはともあれ言ってやれ
﹁男は黙ってなさい﹂
﹁はい⋮⋮﹂
家主よっわ。
今更か⋮。
家主としてガツンっと
!
俺も何期待してたんだか⋮いや、この考えはさすがに酷いな。
!!
あまりのキャスターの勢いに今まで固まってたのだろう。
今まで黙っていた士郎が後ろから声を出す。
﹁えっと⋮キャスターさん
葛木先生
﹂
﹁それが本音じゃねぇだろあんた
だが
聞くだけなら確かに正論。セイバーの為を思って言っているような言葉⋮。
?
?
!
!?
!
!!
!!
!!
﹁そんな事は百も承知よ
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
879
よし、ここは俺が一肌脱いでやろう
コウジュ﹂
﹁セイバー、士郎⋮﹂
﹁どうしました
!!
﹁俺がここを押さえる
お前たちは行け
﹂
﹂
後それってこの間コウジュが言ってた死亡フラグっぽいぞ
﹁くっ、コウジュ。すみません
﹂
﹁ありがとうなコウジュ
!!
!
俺は男らしくガシッとキャスターの腕を掴む。
ふっふっふ、これってかなり男らしいんじゃないかな。
﹁ここは俺が一肌脱いでやろう﹂
セイバーが答えてくれる。士郎さん律儀に守らんでも⋮。
?
!!
死亡フラグ⋮
文句はないわ﹂
﹁あらあら、コウジュ。あなたが着てくれるのね 私はどっちでも良かったのだから
?
おかしいな。士郎が不吉な事を言ってたような⋮。
2人は俺達の横を抜け早足で玄関を出ていく。
?
!!
880
?
﹁え
あれ
﹂
?
﹁一肌⋮脱いでくれるのよね⋮
⋮⋮え
・
・
・
?
﹂
!!!
変な関西弁が出てしまった。
﹁そういう問題ちゃうわ
﹂
﹁良いじゃない似合ってるんだから﹂
?
?
﹁汚されてしまった⋮﹂
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
881
882
しかし許してほしい。
一肌脱ぐとは言ったが、誰が本当に脱がされると思うだろうか。
いやまぁつまり俺は今ゴスロリなフリフリを着せられてるわけだ。
鏡を見た時、普通に可愛いと思っちまったじゃないかこん畜生。中身は俺だっての
に。
さて置き現状だが、さっき言ってた俺のやりたい事ってのはズバリ尾行だったりす
る。つまり尾行なう。
ちゃっちいとか言うなし。これは必要だからやってるんだ。
今まで大まかな流れは原作沿いにしてこれたけど、なんの拍子に死んじまうか分から
ない訳だからな。
このデートイベントなんて、アニメでは覚醒イベント的に死ぬ寸前まで行って、力が
目覚めるパターンが起きる訳だけど、一歩間違えれば死亡一直線だ。
だから必要なわけだ。
決して野次馬的なサムシングではない。
なのに、なんでこんな格好に⋮。
目立つやん。
どう言い表せばいいのか⋮黒ゴス、絶対領域、フリルでひらひらほわほわ⋮⋮
?
おっとこれ以上は俺の精神が死ぬ。 帽子も獲られ︵誤字にあらず︶てしまったので獣耳が出っぱなしだ。
﹁あら、私はできるからやってるだけよ
﹁うぐ⋮﹂
悔しかったら自分で掛ければいいじゃない﹂
?
できない事はない。アサシンのカード使えば良いだけだからな。
だが
﹂
堂々としてたらコスプレにしか見えないと言われたが⋮何といえばいいのか今まで
﹂
?
目立たないようにしてきたので恥ずかしい。
怪しまれるわよ
いや待て、コスプレの時点で恥かしくない
?
﹁そんなこと言ったってさ⋮ていうか自分だけ認識阻害掛けるのひどくないか
!
﹁うー、うー⋮﹂
見つかるだろうし、そうなったら破滅だ。
それにたぶんだが、魔力抵抗の高いキャスターだと認識されてる状態からだと容易く
じゃない。
認識阻害だけで見たらものすごい良い効果なんだが、あれは真昼間からできる恰好
あれは代償が大きすぎる。なにせ革ベルトだからな。
!!
?
﹁ほら堂々とする
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
883
﹁うーうー言わない。ほら早く行くわよ﹂
俺は頭は悪くはないと思うぞ
まあ良くもないが⋮。
﹁ほら、次のバスが来たわよ﹂
そのおかげかチートを持て余してるんだろうしな。
?
ってこの言い方だと俺が頭悪いみたいだな。
これだから頭脳派は⋮。
らしい。
しかも自分だけ認識阻害とかひどい。いつもの若奥様風に見えるように設定してる
に嵌められた。
ター優しいとか思ったが前提としてキャスターのせいで着る事になった訳だから完全
私も一緒に着てあげるからあなたも着なさいとか言われた時はなんか今日のキャス
ふりふりほわほわなやつな。
あ、ちなみにキャスターは俺が今着ているやつの色違いを着ている。
尾行にしに来たのになんでこんな目立つ格好でしなきゃならないんだよ。
ちくせう⋮。
﹁おぅ⋮﹂
884
﹁ういー﹂
しゃーない。
とにかく尾行するか。
﹁あそこよ﹂
しかし││、
今だけはレーダーのクラスを授与しよう︵笑︶
キャスターさん超便利。魔術で士郎達の位置が分かるんだってさ。
?
最近諦めてばっかりな気がするなぁ⋮。
そうですか⋮。
そういや、結局キャスターさんはなんで着いてきたの
下見
・
・
・
?
﹁さってと、2人は│││﹂
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
885
﹁ん
どこだ
﹂
?
結局見えない。
ない。
ぴょんとジャンプしてみるが、周りは一般人しかいないので常識の範囲内でしか飛べ
人ごみで見えん。
?
とりあえず、キャスターが言ってた方向へ向かう。
[服屋]
?
﹁この店に入って行ったな。この辺で居れば見つからないかな
﹂
ほんとなら小一時間問い詰めてぇところだが、今は尾行が優先だ。
っと、早くしないと余計見つからなくなるな。
こっち見て言いやがれ。
﹁いいえ、思ってないわ﹂
﹁おいてめー、今俺の身長見て笑っただろ。ちょっと俺よりでかいからって﹂
﹁っぷ⋮﹂
886
﹂
﹁何やってるの入るわよ﹂
﹁ちょ、見つかるって
なって下さいと言ったら、セイバーが文字通り腕いっぱい広げて破く所だった。
あんたは過去からタイムスリップしてきた人がテレビを見て壊すタイプのアレか
!?
目 線 を 向 け る と 店 員 さ ん の 一 人 が 服 を 持 っ て い る セ イ バ ー に ど う ぞ 広 げ て 御 覧 に
か﹂
﹁はは、例の物で通ってしまう位には常連さんなわけね⋮。で、セイバー達はっと、あれ
﹁かしこまりました﹂
﹁ええ。あ、ちょっとそこの店員さん例の物持ってきて﹂
?
いう所は苦手だ。
﹂
元々服はブランド物よりも量販店で気に入ったものを買う方が好きだったのでこう
あ、高そう。
いらっしゃいませ、と上品に告げる店員さんたち。
自動ドアを潜り中へと入る。
﹁うーん、まぁ了解﹂
﹁堂々としてたらばれないわよ。結構中は広いし﹂
!
﹁へぇ結構広いのな。来た事あったのか
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
887
いやでも衛宮邸では普通にテレビ見てたし、あれは素でやってるってことですか
﹂
﹁ちょっとコウジュこっち来て﹂
﹁な、なんだ
?
﹂
あれれーおかしいぞー
い。超逃げたい。
﹂
﹂
男的にお姉さん方に詰め寄られて幸せなシチュエーションだろうに今の俺は逃げた
同じようにその後ろから笑顔で詰め寄る店員さんたち。
いやに良い笑顔でそう言うキャスターについ顔が引きつる。
﹁だったら早くしないといけないわね♪﹂
﹁あのさ、俺って士郎追いかけたいんだけど
思わず某体は子ども頭脳は大人な少年探偵がよく言う口癖が出てしまった。
?
何当然の事を言ってるのといわんばかりの顔でこちらを見てくる。
﹁何って服よ
﹁あのー、キャスターさんこれは何でせうか
持ってるのほとんどがまた今着ているのと同じくらいふりふりだったりする。
ている所に着いた。いやーな予感。
手を引かれ俺は連れて行かれると、何人かの店員さんがそれぞれ違う服を持って立っ
!?
?
?
?
888
だって逃げないと俺の中の何かがまた消えてしまいそうだもの
﹂
!
!!
﹁ほら早く。時間が無いなら厳選してまずはこれを│││﹂
何でそんな服がこんな服屋にあるんだよ
けではない服たちばかりだ。ドレスっぽいのもあるし
!
いま彼女たちが持っているの物は確実に専門店でもないと手に入らなそうな一般向
明らかに周囲にある服とは系統が違う。
﹁ちょっと待てぇ│
!
﹂
る商品をいくつも出しているのよ
﹂
﹁何でそんなこと知ってるんだよ
とかいうので調べてくれたわ﹂
あいつライダー止めてチャネラーにでもなったの
﹁あ、それはライダーがネットの電子掲示板
﹁あ、そ、そ う だ
ほ ら、そ う い う の っ て 高 い じ ゃ ん だ か ら 受 け 取 れ な い か
その中毒性は分からんでもないけどさ
最近ネットばかりやってるからって馴染みすぎだろ
!?
!
!
?
というか買ってしまえばせっかく買ったのだからとなし崩し的に着せられてしまい
苦しい理由だが、実際にそう思うのも確かだ。
なぁーって⋮﹂
!!
!?
?
!
﹁ここはオーダーメイドも可能なの。そしてここの店長はこっち系にも一部で人気があ
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
889
そうで怖い
しかも1週間5千円。
俺なんて小遣い制だぞ。
﹁なんで英霊が現代でそんなの買えるお金持ってるんですかねぇ
﹁それも大丈夫よ﹂
!
よっ
いつからあんたはクリエイターになったの
というかなんだその無駄に豪勢なスキルの使い方は
﹂
でもとりあえずツッコミは後だ
﹁戦略的撤退
!!
これとこれは後で回収に来るわ﹂
﹂
﹁ちっ、逃げられたか。仕方ないわね全部買うわ。いつも通りに配送でお願い。あ、でも
!!
!?
!?
た以上に高値が付いてね。ほら、道具作成とか得意だし﹂
﹁私、内職で原型師を始めたのよ。それをライダーに売ってもらったりしていると思っ
!
そんなひもじい思いを俺はしてるってのに、あんたのその余裕は何処から出てるんだ
!
普通に考えればそれでも十分だけど今のボディのエンゲル係数は尋常じゃないんだ
!?
890
﹁ありがとうございましたー﹂
[映画館]
何も持たずにキャスターが出てきたので安心して合流した俺は、再び士郎達の後を尾
行し始めた。
一瞬笑顔でこちらを見たキャスターにゾクリとしたものを感じたけど何故だろうか
⋮。
さて置き今するべきことは尾行だ。
そう思い直ししばらく着いていくと、今度はどうやら映画を見るようだ。
ねとやさしい微笑みと共にお釣りを受け取り地味にダメージを受けていた。
そして俺は大人チケットを買おうとしたが係りのお姉さんに子供料金にしておくわ
地味にせこいぞこのサーヴァント。
ちなみにこの時だけはキャスターは子どもの姿に戻って年齢割引を買っていた。
士郎達が何を見るのか確認してから俺達も同じものを購入し中へと入った。
﹁ええ﹂
﹁定番だな﹂
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
891
さておき、二人が見ることにしたのはどうやらバトルものようだ。
普通なら恋愛ものだと思うが、セイバーがデート相手だからこっちの方が良いのだろ
うな。
とは言え俺も恋愛ものよりは手に汗握る展開というものの方が好きだ。
少し離れた所からセイバーを見るに可愛い位にわくわくしているのが見て取れるし、
ここで何かが起こる訳でも無さそうだから俺も大人しく映画を見ることにした。
しかし、半分くらいを過ぎた所で気づく。
そしてそれはキャスターも同じようで、俺より先にキャスターが口を開いた。
﹁なぁ⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
て﹂
﹁それはそうだろ。俺たちは元とはいえサーヴァントだ。聖杯戦争と比べたら当然だっ
﹁こう、生ぬるいというか、物足りないというか﹂
﹁何さ﹂
﹁ねぇ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
892
﹁何⋮
﹂
﹁ポップコーン⋮食べるか
﹁⋮⋮いただくわ﹂
ポリポリ⋮。
[ファンシーショップ]
﹂
?
?
入っていく。
そんなことを思い出しながら俺は、今までと同じように士郎達から少し遅れて中へと
ペンギン型のかき氷器だったかにも一目惚れしていた筈。
確か何気にセイバーは可愛いものが好きな筈だ。
いぐるみと相まみえる訳だが。
まあ実際にはアニメでセイバーはここで運命の出会いと言っても良いライオンのぬ
ろうチョイスだと思う。
俺もデートに関してよく知ってるわけではないが、初めてのデートでは行かないであ
﹁まったくね﹂
﹁セイバーとのデートで何故このチョイス﹂
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
893
﹁ここも結構大きいし、ちょっとやそっとじゃばれなさそうだな﹂
﹂
!?
﹁何かしら⋮
﹂
﹁いや、その手に持ってるのは何かなーって思ったり
﹂
﹂
﹁そ、そうね。ところで私も聞きたいのだけど﹂
﹁何さ
﹁猫と犬と、狐
﹁おう⋮﹂
蛇
﹂
?
?
﹁コウジュ⋮﹂
﹁何だ⋮﹂
?
?
?
﹁ほんとだよな⋮。小さい子じゃないんだからさ。ところで⋮﹂
かしら⋮﹂
﹁まったく、あの坊やはこんなところにセイバーを連れてくるなんて何を考えているの
・
・
・
﹁どうした⋮って、あ⋮﹂
﹁そうね⋮っ
894
多数
﹁あの坊や⋮中々やるわね⋮﹂
取得:ぬいぐるみ [海岸沿いの公園]
たものだ。
なんだろう⋮、陸に打ち上げられたタイタニックとでもいいのだろうか
な感じ。
ちなみに、遠くに見えるセイバーさんですが自分がやりましたと士郎に自首し、こん
?
何がどうなってこうなったのかは俺も知らないが、よくもまぁこんな無残な姿になっ
感じだったはず。
が宝具使って運悪く船が巻き込まれた残骸がむなしくそこに鎮座しているとかそんな
ちなみにどういう事かというと、前回の聖杯戦争で海上戦を余儀なくされたセイバー
船乙︵笑︶
これだけは言っておこう。
×
﹁まったくだ﹂
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
895
896
セイバー ︵
え
俺達
・ω・`;︶
士郎 ︵;゜д゜︶
´
?
ふむふむ、熱いねコンチクショ│。なんて言うのか情熱的
恥ずかしくて見てらんないぜ。
喧嘩と言っても、犬も食わないという例の痴話喧嘩だ。はたから聞いてたらリア充氏
あ、下の会話が喧嘩っぽくなりだした。
夜の帳も降り始めて人気が少ないとはいえ、良くやるよほんと。
?
そんな事を橋の上で考えていると、下の士郎とセイバーがシリアスタイムに入った。
ほんと現代をエンジョイしてるよなあの人。
あと、何か寄る所があるとか行ってたな。閉店前に回収がどうとか。
もう十分だってさ。
あ、キャスターさんはログアウトしました。
[大橋]
とこんな感じです。
ニヤニヤ︵・∀・︶︵・∀・︶ニヤニヤ ?
ねと言いたくなるような感じの。
││││﹄
﹃││││これ、本当はコウジュには言うなって言われてるんだけど││││﹄
﹃│││え
ちょっと待てぇ
だろうけどさ
その前振りに出てきた本人が上に居るんですけど 気づいてないからこそ言うん
!!!!
?
!?
っていうか、その前振りって事は、この間の│││。
!!
やーめーてーぇぇ
しくないって││││﹄
うおぉぉぉぉぉ
恥ずかしくて死ねる
既に俺のライフはゼロだ
│││﹄
﹃│││俺もそう思った│││コウジュの言葉を借りることになるけど││││だから
!!
!!!
だから続きなんて言わないで
!!!
!!
!!!
しても、それを否定してほしくない。その中で皆が感じたであろう幸せまで否定してほ
﹃│││あの子が言ってたんだ。セイバーが望んでした結果、最後は国が滅んだのだと
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
897
﹄
パンっ・・・
﹃士郎
!!
何
何があったの
?
セイバーが士郎の頬を打ぶった。
え
?
っていうか、俺の言葉を言ったからじゃないのか
いや、ホントはこんなの聞いちゃいけないんだろうけどさすがに気になるって
?
ねー。あのセイバーが。
﹄
こんなシーンは無かったと思うから、変わったのかね
ここは原作と一緒か、士郎は家に向かってるみたいだし。
ただ、その顔が今にも泣きそうに見えるのは俺の気のせいではないと思う。
セイバーも少し意固地になっている様で、大橋に留まっている。
さっきの言い合いからまた少し問答した後、士郎が走って去っていく。
﹃勝手にしろっ
?
気 持 ち の 整 理 が つ い て な い 時 に 一 気 に 言 わ れ た ら そ う な る だ ろ う け ど、打 つ と は
?
!!
恥ずかしくて下の会話がちょっと耳に入ってこなかったんだが、なんか急展開。
!
!!
898
『stage39:デート・ア・ライブ的な…』
899
≪コウジュ、セイバーは予定通りこっちで遠見で見ておくけど⋮≫
キャスターから念話が入る。
≪んじゃ、頼む。多分大丈夫だと思うけど、金ぴかが来たら教えてくれ≫
≪分かったわ≫
さてさて、俺は士郎の方に行くか。
俺の言葉が士郎の考え方に少なからず影響を与えている。
俺は口下手だから大層な事は出来ないと思うが、ほったらかしというのは気に入らな
いしフォローというか、アフターサービスってやつをやろうかね。
このやり方が正解なのかはわからないけど、少なくとも途中で投げ出すのはもっと駄
目だと思うしね。
セイバーの感情は原作よりも表へ出てきているような気がする。
そして士郎もまた変化を始めている。
なら、後ろ何て見てないで俺は俺のできることをしないとな。
﹃stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜け
暗い部屋で天井を眺める。
などと自嘲せずにはいられず、部屋に響く自身の声でまた嫌になる。
﹁何をしてるんだろ⋮俺は⋮﹂
未だ熱を持つ頬が無駄に自己主張している。
思わずセイバーに叩かれた頬を軽く触る。
い返されて⋮。コウジュが言わないでほしいって言ってた言葉まで使って⋮。
自分の思いを、セイバーに今を生きて欲しいって事を言って、けど、セイバーから言
うに仰向けに寝転がる。
セイバーをあの大橋に一方的に置いて帰ってきた俺は自身の部屋にふてくされるよ
セイバーに対してじゃない。自分自身にだ⋮。
腹が立つ⋮。
ちゃうだろうけど﹄
900
今日は楽しかった。
セイバーも多分楽しんでくれた。
その日常が、どうして当たり前の物じゃないんだろう。
全ては聖杯戦争のせいだろうか
何が間違っていて、何が正解なんだろう。
御陰ともいえる。
でもセイバーと出会えたのも、今この家がにぎやかになっているのもその聖杯戦争の
?
そんな風に自問自答していると、トントンと小気味よくこの部屋へと近づく足音が聞
こえてきた。
誰だろう
?
﹂
?
﹁んじゃ、失礼するぜ﹂
了承するが、顔にもみじがあるため顔を隠すように二の腕を乗せる。
﹁あ、ああ﹂
﹁入っても良いか⋮
﹁コウジュ⋮か。ただいま﹂
戸の向こう側から、透き通った声が届く。
﹁おかえり﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
901
戸が開く音と共にコウジュが入ってくる。
﹂
!?
﹁⋮
あっ
てめぇ
!!
﹂
!!
俺の態度からどういうことか気付いたのか中に入ってきてドゲシっと俺の脚を蹴っ
?
つまり、中を見てしまいました。ごめんなさい⋮。
その状態で俺は乗せていた手を除けた。
で。
簡単に言うと、俺は障子戸の方に頭を向けて仰向けになっていた。それも戸の近く
いえ、ミニスカートなわけで⋮⋮。
その⋮なんだ⋮、えっとだな⋮俺は寝転がっているわけで⋮コウジュは背が低いとは
と、同時に俺は目にしてはいけないもの見てしてしまい慌てて腕を再び下ろす。
﹁っ
予想外に近くに居たコウジュと目が合う。
﹁﹁あ⋮﹂﹂
どうしたのかと顔を覆っていた腕を少しだけ上げて声が聞こえていた方を見る。
い。
コウジュは何かを言おうとしてはすぐにやめてを繰り返して、中々二の句が出てこな
﹁えーっと、あーうん、そのーだな﹂
902
てくる。
既に夜と言って良い時間ではあるのだが、障子紙を通して入ってくる月の光があるか
らか結構部屋の中は明るい。おかげでしっかりと見えてしまったわけで⋮。
﹁お、おーけい⋮﹂
﹁はぁ⋮。それで、士郎はこんな所で何をしてんだ
?
さておき何と答えればいいのか。
どうやら中に入ってきて近くに座っているようだ。
溜息をつきながら、トサリと軽い音がコウジュの方からした。
﹁何って⋮﹂
﹂
ちっ、多分今顔赤いな⋮。よし顔を上げるな。そのままでいろ。オーケイ
﹂
﹁いいって、不可抗力ってのもあるだろうし、まぁさすがに恥ずかしくはあったが⋮、
には出来ないが内心ではいつまでも土下座をしています。ホントに、はい。
どうやら許してくれたようだがまた手を上げたら大変な事になる気がするので、実際
コウジュの声音がいつもと同じ緩いものになった。
﹁⋮まぁいいや﹂
ホントにごめんなさい⋮。
﹁ごめんなさい⋮﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
903
?
セイバーと喧嘩して、セイバーを置いて自分だけ帰ってきて、ふてくされて寝てる
改めて考えるとどうしようもない事をしている。
喧嘩したにしてももう少しあっただろう、俺。
?
今日は、楽しかったか
﹁あぁ⋮﹂
﹂
﹁セイバーに楽しんでもらえたか
﹁⋮あぁ﹂
﹂
?
セイバーに届かなかった。
でも俺の言葉じゃ⋮。
ああ、伝えたよ。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮伝えたのか
それにあの微笑みが嘘だとかそんなものじゃなく、心の底から楽しんでくれた。
?
?
楽しいと言ってくれた。
﹂
手だから喧嘩売ってるみたいに聞こえたらゴメンな。
﹁うーんと、俺って口下手だから間接的にというか、オブラートにというかそういうの苦
904
俺の言葉を使って﹂
コウジュの⋮言葉⋮
でも何で⋮﹂
?
﹁∼∼∼∼っ
﹂
﹂
﹁っ
﹁
!!!!
﹂
それに気づき慌てて顔を背けようとする。
そして暗闇の中で見えてしまった中身。
コウジュは俺の正面で胡坐をかいて座っていた。
起き上がって目にしたのは先程と同じものだった。
!!
﹁あ⋮⋮﹂
顔の事とか諸々忘れて、コウジュの真意が気になって起き上がってしまう。
俺は慌てて起き上がる。
﹁見て⋮た
﹁悪いな、見てたんだ。全部ってわけじゃぁないんだけどな﹂
?
﹁伝えたんだな⋮⋮。
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
905
!?
だが俺はそれより早く壁まで吹き飛ばされた。
勢いよくぶつかった俺は、壁を背にして何が起こったのかを確認する為、突然のこと
に瞑っていた眼を開けた。
││トスっ││
ついでに首の辺りに何かが刺さる音が聞こえた。
両方
ドコとドコ
﹁斬り落としてやろうか⋮両方⋮﹂
斬り落とす
!?
!?
何故にロンギヌス
こ の 禍 々 し さ と 宝 具 特 有 の 神 聖 さ が こ れ で も か と 俺 に 圧 迫 感 を 与 え て い る こ れ が、
コウジュいわくこれでランクB。
いうものらしい。
有名な彼のロンギヌスとは違うらしいが、それでもあらゆる防御を貫く概念を持つと
!?
一度コウジュに見せてもらったロンギヌスの槍だ。
のような色の槍。
目に映るのは先が二つに分かれ俺の首をはさみこむように固定する、赤よりも紅い血
いる様子だ。
コウジュの物騒な言葉と共に、目に入ったのは何やら物騒なものが俺の首を固定して
!?
906
やっちゃいけねぇっての
?
だ。
どう思うよ﹂
?
コウジュはロンギヌスを抜き、どこかへと消した。
﹁⋮悪い。話を戻すぞ﹂
なんでだろうか、遠坂と一緒に泣いているデフォルメされた絵が後ろに見える⋮。
﹁いいさ、どうせ俺のせいだもん⋮﹂
コウジュは、最近よく見るため息をまた1つ吐いて今までの空気を霧散させた。
愁をコウジュが漂わせているため、せずにはいられない。
確かに下着を見てしまったからというのもあるが、何故かそうしなければならない哀
槍が無かったらもちろん実際にやっている。多分額が擦り減る位に⋮。
変わりとばかりに頭の中で土下座を敢行する。深く深くだ。
れていることを告げてくれている。たぶん1ミリでも首を動かせば危ない。 首の左右に伝わってくる冷やりとした金属独特の温度がぴたりと俺の首を挟んでく
﹁い、今のは俺が悪いと思うので謝ります⋮。ごめんなさい⋮﹂
問うてくる。
槍の柄を持ち、帽子のせいでよく見えないが目が据わっているのは確実なコウジュが
か
﹁おい⋮俺は真面目な話ができねぇ呪いでも掛ってんのか
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
907
﹁何だっけか⋮、あーそうだ、理由だったな。
気になるっしょ。
気になったからってのが一番大きいかな。一応護衛とか他の理由もあったりはする
んだけどさ。
やっぱり、俺が助言した訳だし
本人は否定するだろうけど、優しいってのは俺も分かる。
た。
あの遠坂もコウジュの秘密主義的な部分を、だからこそ怒るに怒れないと言ってい
てきた。
なんていないと思うが、それでも、真剣に心配してくれる優しい子だというのは分かっ
普段からお茶らけた態度ばかりだし、真剣という言葉がこれほどまでに似合わない子
のからだろう。
コウジュの言う﹃気になった﹄というのも恐らくだが、興味ではなく心配から来たも
尾行された事自体はそんなに怒りとかは湧いてこない。
尾行してた事については謝罪するよ﹂
?
﹁それに、謝るのはこっちの方だろ。コウジュは言わないで欲しいって言ってた言葉を
﹁そっか⋮﹂
﹁尾行は⋮ちょっと恥ずかしいけど怒ってないさ﹂
908
使ってしまったんだからさ﹂
﹁んー、多分難しい⋮かな。セイバーの状態っていうか、世界との契約時のことって聞い
俺の問いに、コウジュは顔色を曇らせながら答える。
!?
!!
が無くても二回目の人生って歩めるのか
﹂
﹁なあコウジュ セイバーが望んだら、コウジュなら他のサーヴァントみたいに聖杯
ってそうだコウジュなら。
いくら俺が望んでも⋮。
なければならない。
セイバーが新たな人生を拒否している以上、聖杯を壊してしまったらセイバーと別れ
それが終わればもう、セイバーは居なくなってしまう。
そしてあとは、聖杯を、ギルガメッシュをどうにかするだけ。
聖杯戦争はもう終わったという。
焦り⋮。
﹁そう⋮なのかな⋮﹂
恋は盲目っていうか、よっぽど気が急いていたのか⋮﹂
でもまぁ、士郎があのタイミングで言うのはちょっと予想外だった。
﹁俺も⋮別に怒ってないよ。理由は前にも言ったけど恥ずいからだし。
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
909
たことある
﹂
?
﹂
?
凛が言ってなかったか
﹁そう言えば⋮﹂
けどセイバーが覚えてる。それは特殊だからなんだよ﹂
サーヴァントが前回の聖杯戦争の事を覚えてるのはおかしいって。
?
つまり、セイバー自身の時がその契約の時点で止まってるんだよ。
り、そしてまた呼ばれる。
サーヴァントは本来呼ばれた後は座に還る。けど、セイバーはその契約した時点へ還
た。
になっている時に後悔し、願ってしまい、それを世界が契約を対価に聞き届けてしまっ
﹁セイバーは生前⋮と言っては微妙だけども、致命傷を受けた。そして今にも死にそう
﹁生きてる
﹁セイバーはな、厳密にいえばまだ生きてるんだ﹂
・・・・
でもコウジュが言う状態っていうのが分からない。
契約に至った経緯も。
一応、夢を通してみた事はある。
﹁いや、ないけど⋮﹂
910
確かに、いつだったかそんな事を遠坂は言っていた⋮気がする。
い﹂
そっか⋮。
まず仲違いをどうにかしろよ﹂
﹁そ ん な こ と よ り
﹁うぐ⋮﹂
言い返せない。
﹁なあ士郎。士郎は結局セイバーにどうして欲しいんだ
?
深く深くため息をつくコウジュ。
﹁そういや、仲違いの原因ってそれ位か
﹂
﹂
はぁ、当事者同士の問題に茶々入れた俺の判断ミスかねぇ⋮﹂
少なくとも俺の気持ちは極端にいえば二人には関係ない。
士郎の気持ちなわけで、まぁセイバーの気持ちも大事だけどさ。
・・
﹁だったらそれでいいと思うんだけどね。俺の言葉なんか使わなくてもさ。大事なのは
頑張って頑張って、自分を殺してまで尽くして、それでも報われないなんて嘘だ。
﹁俺は、セイバーに今を生きて欲しい。王としてじゃなく、セイバー自身の生を⋮﹂
?
!!
﹁俺 の は 死 ん だ 瞬 間 に 生 き 返 ら せ る か ら な。だ か ら セ イ バ ー に は 現状 ど う し よ う も な
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
911
﹁えっと、大まかには⋮そうかな。
﹂
あ⋮﹂
﹁何さ
﹂
?
ないが、今改めて反芻するとダメージが大きい。
しかも好意ある人物に言われた訳だから⋮あ、軽く泣きそう。
﹂
﹁おい、ヘタレて自分の世界入るな﹂
﹁へ、ヘタレてないぞ
男としてそれだけは否定させてもらう。
﹂
﹁はいはい。それでなんだけど、それは言われても仕方ないと思うぜ
﹁そ、そうなのか
?
!?
﹁そりゃそうでしょ。自分の行動を考え直してみたら分か⋮らないか。だからやってる
?
﹂
死者の考えだとまで言われてしまい、あの時は自身も気が高ぶっていたからそうでも
後半はだんだん尻すぼみになってしまう。
自分の事を考えて行動しないあなたにだけは言われたくない⋮って⋮﹂
﹁俺が、セイバーは闘う事に向いてない。もう自分の為に生きて欲しいって言ったんだ。
﹁その辺聞いてないな。どういう事
﹁士郎にだけは言われたくないって⋮﹂
?
912
わけだし。士郎だし﹂
男として泣いては駄目だと思う。
けど││、
思わず手で目元を触る。
良かった。まだ泣いてない。
◆◆◆
何それ美味しいの
﹁話をしよう⋮あれは││││﹂
シリアスシーン
?
さておき、え∼、今から士郎の中の意識改革を始めようと思います。
?
それに、胸に何かが刺さったように胸が痛い。
またしても言い返せない。
﹁うぐ⋮﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
913
その為のお話。
?
お話だ。物語ともいうね。
OHANASHIじゃないよ
ちゃんとした
?
﹂
?
﹁その魔王の妹の本当の願いはな、兄と共に暮らすことだったんだ。仲良く、のんびりと
﹁⋮分からない﹂
たしで終わらない。というか終わっちゃいけないと思うんだ。何でだと思う
﹁けどな、世界は救われたけど、その話は決してハッピーエンドじゃない。めでたしめで
ちょっと詐欺っぽいが、気にしてはいけない。
Fateの世界があるんだ。無いとはいえない。
﹁異世界の話だよ。あくまで⋮﹂
﹁そんな奴がいたのか⋮﹂
かくして世界は平和になったのでした。
その最後はその身に世界中の恐怖を集めて│││死ぬ。
ある少女と出会い、王の力を得た少年は世界を一度ぶっ壊し、作り替える。
妹の願い﹃優しい世界﹄を作るために世界に喧嘩を売って勝っちゃう話です。
話すのはとあるシスコン魔王のお話。
﹁それはある一人の魔王のお話。優しい優しい、黒の王の│││││﹂
914
⋮。
それに、魔王に力を与えた少女だって、残された。
そして、魔王自身が救われていない﹂
﹂
?
﹂
?
﹂
?
ふふん、そんなの決まっている。
﹁俺
﹁⋮コウジュは⋮どうなんだ⋮
それが聞き取れなくて聞き直す俺に、士郎は真っ直ぐ瞳を向けて改めて口を開いた。
士郎がぼそぼそと何かを言い始める。
﹁んあ
﹁⋮は│││﹂
でも、それじゃあ救われない人も居る。
救うというもの。
当然だろう。士郎の中の〝正義の味方〟というのは自身を犠牲にしてでも誰かを
士郎は何も答えない。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁自身を勘定に入れないなんて、まるでどこかの誰かさんみたいだな﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
915
﹂
﹁俺がハッピーじゃねぇハッピーエンドなんか許さねえ
何故笑うし⋮。
﹁っぷ⋮﹂
﹁何かおかしいか
﹂
それで救わ
俺が言って良い事かは微妙だけど、自分を勘定に入れろ
けど、元気になってもらいたくて俺は来たわけだしこれで良いのかな
!!
﹁⋮⋮⋮﹂
だからなんでそこで悩んじゃうんだよ
俺の言葉に再び口を噤む士郎。
ああもう
俺が単純に考え過ぎてるだけなのか
!
違うよな。そうじゃない筈だ。
?
!
れる人がいるんだから〝正義の味方〟だっていうなら自分も救ってみやがれ﹂
﹁とにかく
?
!
!
くそぅ、なんか恥ずかしいじゃんか⋮。
やけにすっきりした顔だ。
なんかすんげー良い笑顔で言いやがる。
﹁ぐぬっ⋮﹂
﹁いや、あまりにもコウジュらしいと思ってな﹂
?
916
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
917
中身が一般人だから、本当の悲劇というものを知らないからこそ俺はそう思ってるだ
けなのかもしれない。
でも、イリヤを目の前にした時、あの子を救いたいと思った。死なせたくないと思っ
た。
それで良いじゃねぇか。
そう思うだけならタダだ。
それを実行するのは本人の責任だ。
だったら最後までやり通せよ。救いきれよ。
俺が好きな正義の味方ってのはそういう奴だった。
やらない善よりやる偽善。
自分の気に入らない現実を否定して、好きなだけ救いきって、最後はみんなでハッ
ピーエンドじゃダメなのかよ。
熱くなってる自分の頭を振り切るように一度大きく振る。
これは押しつけだな。
自分の好きなものを押し付けてる。
でも、悲劇を乗り越えて立ち上がる主人公を見て感動する気持ちとは別に、その悲劇
すらも起こさずにすべてを救う夢想は誰でもするはずだ。
意を決する。
これも偽善だ。
でも、やっぱり士郎にも救われて欲しい。
﹂
改めて俺は口を開いた。
﹁士郎の夢は
﹂
?
か
それとも〝贖罪〟がしたいからか
﹂
?
?
?
⋮﹂
﹁俺は別に士郎の根幹を否定するつもりはない。とは言っても肯定するつもりもないが
けられた事の贖罪と、その助けてくれた人との約束がかなり大きかった筈。
確か、士郎の中ではあの大火事の中で助けを求められても助けられず、自分だけが助
士郎だから全部だろうな。
﹁⋮⋮⋮﹂
?
﹁質問を変える。士郎は何のために正義の味方になりたい 〝人助け〟をしたいから
﹁それ⋮は⋮﹂
のか
﹁じゃあ聞くけど、士郎は正義の味方になりたいのか それともならなきゃいけない
﹁〝正義の味方〟だ﹂
?
918
る。
ふむ、士郎の中で何かのヒントになったかな
それなら嬉しいが⋮。
し
知りもしない癖にあーだこーだ言われるの。
?
﹁そんな事はっ
﹁なして疑問形
⋮⋮ないと思う⋮ぞ
﹂
?
からなればいいと思うけど、やり方を間違えんなよって話﹂
?
﹁けど、間違えたやり方って言われてもな⋮﹂
﹁簡単じゃねぇか。誰か泣かしたら〝間違い〟だ。簡単だろ
少なくとも正解ではないじゃんよ﹂
〝間違い〟じゃなくても
まぁいいけど。さておき、あー、つまりだな。士郎は別に正義の味方になりたいんだ
? !!
まぁ、俺が言ってる事も既にそれに値するかもしれんけどさ﹂
士郎も嫌だろ
し、言いたくない。
だから俺からはこうした方が良いんじゃないかとは言えてもこうしろとは言わない
﹁俺は士郎じゃないし、士郎が通って来た道を識ってはいても知らない。
?
苦笑気味に士郎は俺に返す。とはいえ、先程までの士郎よりは少し楽な顔をしてい
﹁どっちだよ⋮﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
919
﹁ははっ、確かにな﹂
皆で助け合えたら万々歳だ﹂
?
けだ〟ってね﹂
﹂
﹂
自分でも微妙だと思ってんだからツッコムな
もうこんな時間か
!
﹁はは、なんだよそれ﹂
さてと⋮。
﹁う、うるさい
俺は障子戸の方へ向かう。
!
﹁そろそろお姫様を迎えに行く時間じゃないか
﹁や、やばい
!!
?
?
﹂
?
﹁さっきの、お前が助かる事で救われる奴の中には俺も含まれてる。だから、似合わねぇ
﹁コウジュ
その士郎の手を掴み、少し引きとめる。
士郎は慌てて立ち上がり、俺の横を抜けようとする。
ない時間だ。
現在はもう夜が更けって、深夜とまでは行かなくても良い子なら寝ていてもおかしく
!!
﹂
﹁だろ さっきの魔王の言葉を借りるなら〝救って良いのは救われる覚悟のある奴だ
﹁ああ、それは確かにハッピーエンドだ﹂
﹁笑っていこうぜ
920
し、ボキャブラリーの少ない頭を使って言ったんだ。それだけは││││﹂
じゃあ行ってくる﹂
﹁そっか⋮って、おい
誰が小さいかぁぁぁぁ
はぁ、もう居ねぇーし⋮。
﹁ほんと口下手だなぁ俺⋮﹂
﹂
もう居ない士郎が走っていった方を向きながら、呟く。
!!!
﹁口下手という割に、えらく何かを指し示す事を言っていたと思うがね
た。
こいつ聞いてやがったな。
﹂
後一つ言うと身長がアレなんで似合わないぜ
﹁誰のせいだ
おっと⋮。
﹁顔に出ていた﹂
﹁ナチュラルに心の声を読むな﹂
!!
?
﹂
士郎が走っていった反対側の廊下、そこには壁にもたれるようにして赤の弓兵が居
?
!!
﹁ああ、こんな小さい子にまで言われたんだ。皆で笑えるようにしてみるよ。
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
921
﹁正直気付かなかったぜ。どこから聞いてた﹂
ほぼ全部じゃねぇか。
?
﹁⋮⋮﹂
﹁何かね
﹂
﹁ひねくれ者﹂
﹁では私は君にツンデレという言葉を贈ろう﹂
というか、どこで知ったし
!!
﹂
﹁私は⋮間違っているのか
﹁何が
?
﹂
?
しだした。
して胸の内で何とも言えないものが生まれるのを感じていると、アーチャーが静かに話
否定しつつも自分がしている事を反芻すると、若干ツンデレっぽい事をしている気が
﹁そっちが本物だ。俺は違ぇよ﹂
﹁いやなに、ライダーが君の事をそう言っていたのでね。あと、イリヤと凛の事も﹂
!
?
﹁誰がツンデレだ
﹂
﹁バーサーカーの身で何度もしている君に言われるとは思わなかったよ﹂
﹁って誰が可愛くだ。まったく、諜報はアサシンの仕事だろ
﹂
﹁どこからだったか⋮。君が可愛らしく顔を染めたらしい所は聞いたな﹂
922
﹂
﹁こりゃ失敬。んー⋮⋮さあ
?
﹂
?
アーチャーの表情が凍る。
﹂
﹁タイムパラドックスって知ってるだろ
﹁ああ﹂
﹂
﹁あれ、多分あんたには適用されないぜ
﹁何
﹂
?
?
﹁もう既にあの士郎とあんたは別人だ。証拠は簡単、俺が士郎に話した事をあんたは士
?
﹂
﹁過去の自分を殺した所で恐らくあんたが為した事は消えない﹂
﹁⋮何かね
﹁所詮は俺理論だけどね。あと、絶望的なお知らせ﹂
﹁泣く人が居る⋮か。まったく、痛みいる言葉だ﹂
ただまぁ、俺理論で行くと、泣く人が居る以上間違いに近いだろうな﹂
にして、他の人なんだ。そいつ本人の事なんて本当の意味で知らない。
﹁俺には分からねぇ。さっきも言ったが俺は所詮他人だ。交友関係とかそんなのは抜き
いつもの口調が崩れてまでツッコミをするアーチャーに内心笑いつつ俺は続ける。
﹁さあって⋮おい⋮﹂
?
﹁知っていて聞くのかね
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
923
郎として記憶にあるか
ないだろ
﹂
﹂
?
﹂
?
だからこういうの嫌いなんだよ。
﹁うぐ⋮﹂
いが、心惹かれるものがあるのは確かだ﹂
﹁そうだな⋮。どちらにしろ、自由と言いながらとりあえずの目標を潰された気がしな
ね﹂
﹁どうするかは自由だって前にも言ったが、俺っていう可能性に賭けてくれると嬉しい
﹁⋮⋮﹂
を探すのもありなんじゃねぇか
﹁とはいえ、前にも言ったがあんたは第二の人生を歩んでるわけだし、新たな正義の味方
﹁そう⋮か⋮﹂
郎を殺してもアーチャーが消えるとは思えない。
それに、俺は衛宮士郎には他のルートがある事を知っているから余計にこの世界の士
根拠がない以上それはただの過程だからな。意味はほとんどない。
ねぇ﹂
﹁知らねぇよ。推測はいくらでも立つがそれが本当かなんて根拠を知る方法を俺は知ら
?
?
﹁確かに⋮ないな。しかし何故
924
﹁クク、冗談だ﹂
からかわれただけかよ
﹂
?
﹂
﹄とね⋮。私に言われた言葉じゃないが、胸が痛かったよ。
どうしたのかね
?
ら、少し そっとしておいてくれ
うわーうわー
!!
いや、してください
!!
俺は胸元を押さえながら必死に恥ずかしさで死にそうなこの気持ちを抑えてんだか
?
じゃん
の 中 で 皆 が 感 じ る 事 が 出 来 た 幸 せ ま で 否 定 し て ほ し く は な い。そ ん な の っ て 悲 し い
くない。良かれと思って救ってきた命なんだ。最後に国は滅びたかもしれないけど、そ
﹁いつだったかな、とある女の子が﹃自身が辿った道を、救ってきた命に後悔はしてほし
﹁きっかけ
てはいた。その後にも、とある言葉がきっかけで考え直した部分もあるしね﹂
﹁実際の所はな、あの二度目の生を受けた後の話の時点で君のハッピーエンドに引かれ
実際に俺も悪かったしな。
か。
まぁ、今の笑いはいつもの皮肉気なものではなく本当の笑みな気がしたのでまあいっ
!!
﹁悪い⋮﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
925
!!
他人から聞くとこうも恥ずかしい事をいっていたのか俺は
!?
って俺のマネをして言った部分にツッコミを入れられない程
ホントもう穴があったら入ってそのまま埋めて欲しい。
アーチャーがじゃん
度には恥ずかしい
?
あ、ちょっと落ち着いてきたな⋮。
!!
自業自得じゃねぇか⋮。
﹂
﹂そうでした⋮⋮﹂
俺の落ち込みようからか、話を反らしてくれるアーチャー。
﹁それで、君の言うハッピーエンドの為に必要なのはあと何かね
?
その上で士郎には因縁に決着をつけてもらう。
金ぴかを丸ふりしても大丈夫そうな位にこちら側の戦力は充実してきている。
うん完璧だ。
ね﹂
れてるし、金ぴか達の事もたぶん戦力的にいけると思う。聖杯は俺が喰らえば良いし
﹁とりあえずは⋮やっぱり士郎の強化が先決だな。細かい事はキャスターが準備してく
?
来るモニターがあるのは気のせいだったかね
イルームに戻っていた。ついでに言うと君が拒否しない限り、外の様子を見ることが出
﹁って、あんたいつから盗み聞きが趣味に﹁あの時の私は食事の用意が終わって、君のマ
926
つまりは、聖杯の事は俺に任せて先に行けと言いつつ金ぴかを押し付ける作戦。
なんていう外道。
でも、現状それが一番成功確率高そうなんだよなぁ⋮。
自分の不甲斐無さに内心で涙していると俺を何故か残念な子を見る目でアーチャー
は見ていた。
できないものなのかね
﹂
﹂
俺は手に魔力を集中させ、ある魔術を発動させる。
﹁これ⋮は⋮﹃投影﹄⋮まさか、無限の剣製から
?
?
﹁おうよ。なんとかね。ってか難しすぎるでしょこれ
﹂
﹁あ、そういえば。アーチャーに見てもらいたいものがあったんだよ﹂
失礼な
﹁分かった。言うだけ無駄だという事がな﹂
きりっと答える俺にアーチャーはやれやれとでもいう風に首を横に振った。
﹁ムリダナ。この表現が一番合ってるし、俺が使う宝具的にもな﹂
?
﹁難しいとかどうとか以前の問題だとは思うが⋮、いや、しかし何故それなのかね
?
!
アーチャーの問い、それは俺の手の上に現れたものが剣ではないからだ。
﹂
﹁前から言おうと思ってたのだが、その喰らうとか聖杯を弄るだとかの表現はどうにか
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
927
では剣ではなく何が現れたのか
アンサー、たい焼き
そりゃツッコまれるか。
とか、
れって投影っぽくねとか思いながらやったら何故か出来たんでそのまま練習に⋮。
さておきなんでたい焼きかというと、とある桜がきれいな島の魔法を思い出して、あ
第だから扱いづらい。
やはりラーニングはそれ其の物を技能として覚えるだけでそこからの応用は努力次
るとは思ったんだけどね。
ラーニングで覚えたとはいえ、エミヤシロウの﹃投影﹄はUBWからの派生だしいけ
だけど、予想外に難しかった。
UBWをラーニングで覚えたとはいえ、投影自体も練習したかったんでやってみたん
﹁いや、練習をこれでしてたからつい⋮﹂
?
とか、無限の菓子製 とか考えたけど美味しいから良いやと納得し
最初は、何でUBWの派生の練習の筈なのにこっちの方が軽くできちゃうの
腹ペコキャラ確定
だって俺ってば獣人だし
?
食べることの方が親和性高くてもおかしくないし
その後に一応剣もできたしね。
!
た。
?
!!
?
928
﹂
?
﹂
?
﹂
?
てね﹂
・・
﹁決まってんじゃん。金ぴかいじり⋮ごほん、さっそくヒントを渡しに行こうかと思っ
﹁どこへ
﹁さてさて、俺もそろそろ行こうかね﹂
せる。
そんなアーチャーにほっこりしつつ、まだやるべきことが残っているから話を終わら
比較的少ない許されてる男のツンデレだもんねこの人。
ろう。
どうせ、見るに堪えんとか言いながらなんだかんだで修行の手伝いをしてくれるんだ
なるほど⋮とか神妙に呟くアーチャーをニヤニヤしながら見る。
﹁ふむ、なるほど⋮﹂
だろうしさ﹂
ヒントとしてかね ヒントさえあれば俺が士郎に渡してあるあれでどうとでもなる
?
﹁だって、アーチャーが士郎に教え﹁断固として拒否する﹂││だろうと思ったからね。
﹁君が教えると
﹁いやー、士郎に自分の中の物を自覚してもらおうかとね﹂
﹁む⋮少し、というかかなり疑問はあるが、その﹃投影﹄がどうかしたのかね
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
929
◆◆◆
その矢先だった。
た。
﹂
たい事はあったがセイバーの手があまりにも冷たかったからひとまず家に戻ろうとし
そこにはまだセイバーが居てくれて、自分の思いを改めてぶちまけて、まだまだ言い
まで戻った。
コウジュに諭されてから、とにかくセイバーに言いたい事があって、伝えたくて、橋
かった。
その存在を、多少強くなった程度でどうにか対処できるなどとは思い違いも甚だし
正直なところ、慢心していたのだろう。英雄王ギルガメッシュという存在を。
メッシュ。
さも愉快だと言わんばかりに、地面に倒れる俺たちを高笑いしながら見る男。ギルガ
﹁ふふ、ははははは、アハハハハハハハハハハハハハハ
!!!!!
930
│││どこに行く
それは我の物だ│││
すらも許してはくれなかった。
だからセイバーと共に一当てした後、体勢を立て直そうかと思ったのだが、奴はそれ
これではまた同じではないか。
われたことがふと脳裏を掠めた。
最初は俺が囮になっている間にセイバーに逃げてもらおうと思ったが、コウジュに言
そう言いながらあいつが現れたのは。
?
セイバーやコウジュを相手に修行をした。
バーもエクスカリバーを真名解放したのに⋮だ。
う 禍 々 し い 歪 な 形 状 を し た 剣 を 真 名 解 放 し セ イ バ ー に 瀕 死 の 重 傷 を 負 わ せ た。セ イ
セイバーは撃ちだされた宝具は避けたが、ギルガメッシュが取り出した、エアとかい
俺は胴や、全ての手足を撃ち貫かれている。 だが結果は散々たるものだ。
その宝具たちは真名解放などしてはいなかった。
そこから出てくる無数の宝具。
コウジュは確かそう呼んでいた。
﹃ゲートオブバビロン﹄
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
931
だから、勝つことはできないと知ってはいるが、逃げる程度は出来るだろうと踏んだ。
それが間違いだった。
﹁セイ⋮バーっ﹂
俺のすぐ傍に飛ばされてきたセイバーに話しかけるが、セイバーから返ってきた言葉
﹁ぐっ、士郎⋮⋮﹂
は弱々しく、身体の至る所から流れ出る血が瀕死である事を俺に容易く分からせる。
だというのに、彼女は俺を心配そうな瞳で見る。
﹁あなただけでも⋮逃げて⋮ください⋮﹂
そしてセイバーはかすれる声でそう言った。
だがそんなことは出来るわけがない
だったら、セイバーが俺を救おうとするのなら俺がお前を救おう
今セイバーがしていることこそが俺がしていたことなんだ。
ああ、そうだ。
だけど、誰かを救わず自分だけが救われるなんてのは違う
コウジュは言った。誰かを救うなら自分も救えと。
!
自身の身体に鞭打ち何とか立ち上がる。
!
!
932
穴の空いた部分からは、力を入れたせいでブシッと勢い良く血が吹き出る。
それがどうした
それ以前に、ここで倒れていてはせっかく気づいた意味が無い
何とか立ち上がり、武器を作りだす。
﹂
最強の剣、あの時投影したあの剣を
イメージ
投影するのはコウジュと戦った時のあの黄金の剣
!!!
成功だ。
それを構え│││、
﹁﹃投影﹄⋮か⋮。つまらぬまねをする﹂
そんな俺を見てギルガメッシュは何かを取り出す。
それは黄金の剣。
奇しくも俺が投影したそれとよく似たものだ。
れたもの。これは更にその源流﹂
﹁お前の持つ、王を選定する岩に刺さった剣は、北欧の支配を与える木に刺さった剣が流
!!
良くも悪くも稽古の時に痛みには2少なからずの耐性はできた。
!!
!!
手にしっかりとしたあの時の剣の重さが伝わってくる。
!!
﹁トレース・オン
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
933
何⋮
それじゃあ⋮。
疑問を持っちゃいけなかったのに、俺は思い浮べてしまった。
?
﹂
!?
そう思ったからだろうか、ズボンの右ポケットの辺りが熱を持ったと思ったらその心
うるさい。
ドクドクと何かが流れ出るように、心臓が早鐘を打つ。
自身の血の音がうるさいのだ。
セイバーが何か言ってきてくれているが良く聞こえない。
﹁士郎│││で│か││
それの所為で思考そのものが乱される。
その二つが全身を駆け巡る。
痛い。熱い。
﹁が⋮は⋮﹂
太く線を残してもあまりある威力で俺を再び後ろへ吹き飛ばす。
そして俺は剣ごと胴を逆袈裟に斬られ、軽くふるわれただけのそれは、俺の胴に紅く
﹁勝てん﹂
次の瞬間には奴は俺の前に居て│││、
﹁どう足掻こうが、複製が原典には││││﹂
934
臓の音が少し静まった。
同時に、全身を支配していた痛みも熱も少しずつではあるが引きはじめる。
何⋮だ
いや、今はそんなことはどうでも良い。好都合だ。
?
それ以上無理をしてはっ﹂
少しずつではあるが、身体を起こす。
!
やつはそんな俺たちを冷ややかな目で見ながら話していく。
セイバー。
未だに立てない俺を自分もボロボロなのになんとかその小さな体躯で守ろうとする
﹁士郎⋮﹂
俺はまた、何かを間違えたんだろう。
誰かが泣いているのならそれは間違い。
これではコウジュに言われてしまう。
ああ駄目じゃないか。セイバーが今にも泣きそうだ。
それを見てさらにセイバーが悲痛そうな表情をする。
セイバーの声に無理をして返答しようとしたからか、口から大量の吐血。
﹁だいじょ、⋮ぅぐっ﹂
﹁士郎
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
935
﹁セイバー、早く我の物になれ。さすればその小僧を助けてやらん事もない﹂
な⋮に⋮
?
ぶ。
﹁そんなのは駄目だ
答えるな
﹂
!!!
!?
!!
ははっ、コウジュの言っていたことが改めて身にしみる。
この期に及んでまだ俺の心配をするのか。
れたら私は│││﹂
﹁何をしているのですか もう無理です止めてください こんな事であなたに死な
らない。
だがやはりというか、すこしは回復したとはいえ身体中に穴があいている事実は変わ
たため、俺は再び立ち上がる。
いつの間にかあれ程うるさかった血の音も静かになっており、身体も少しだけ回復し
!
俺から目を離し、自分を殺して了承しようとする彼女にすべてを言わせる前に俺は叫
﹁わかりまし││﹂
その表情は彼女には似合わない、諦めを帯びた今にも泣きそうなものだ。
その言葉を聞き、セイバーは俺を見た。
﹁我は寛大であるからな、野良犬程度は捨ておいてやる﹂
936
しかし、今はそんなことは置いておく。
俺は怒鳴るようにセイバーに言う。
その声に驚くセイバー。
セイバー以上に欲しいものなんてない
﹁し、しかし、私は⋮⋮﹂
﹁俺には
﹁士郎⋮﹂
﹂
﹁俺の中にはお前の代わりになるものなんて一つもないんだ
腹が立つ。
ああ、本当に腹が立つよ。
セイバーにこんな思いをさせてしまう俺の弱さにも。
あくまで俺を助けようとするセイバーにも。
腹が立つ
﹂
﹂
そして何よりもセイバーにこんな思いをさせている英雄王に
!!
!!
﹁だから俺は、こんな奴にセイバーを渡してたまるものか
!!
!!!!
!!
!!
﹁うるさいっ、少し黙ってろ⋮﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
937
﹂
!!
﹁たわけ。それは貴様には過ぎた宝だ﹂
お前にセイバーは渡さない
!!!
音が響いた。
││││ガガガガガガガガン
﹂
!!?
そこに居たのは、小さくも頼もしい狂戦士のクラスであった少女だった。
俺も応用にそちらを向く。
英雄王が自らの剣群の進行を邪魔した何かが飛んできた方向へと叫ぶ。
﹁誰だ
かった。
英雄王が放ってきた剣達は横から飛んできたな何かに弾かれ、こちらに届く事はな
!!
そう思いカードを素早く出し剣を具現化させようとするがそれよりも早く、辺りに轟
こうなったら、あの壊れない概念を持つ剣を一旦出して⋮。
それらが、こちらに射出される。
その後方にゲートオブバビロンが開き、その中身が顔をのぞかせる。
英雄王があの歪な剣を持っていない左手をこちらに向けて軽く振る。
﹁雑種が⋮。セイバーの存命に手間がかかるがお前を潰すか﹂
﹁失せろ英雄王
938
﹂
!!
二人ともボロボロだ。
ら撃ち落とした訳だ。
しかも来た瞬間にはその状態だったから、慌てて、俺も﹃投影﹄品を撃ちだして横か
たのに、まさかゲートオブバビロンの方を使うとは。
本来なら士郎が新たな力を顕現して、ギルガメのエヌマ・エリシュを押し返す筈だっ
むしろ、今までが一致してるのがおかしかったのかもしれないが、本当に焦った。
何故かっていうと、ギルガメの行動が記憶にある原作と微妙に違う。
いやー、ちょっとビックリした。
◆◆◆
はあったが。
何故か、あのいけすかないアーチャーのものに似た赤い軽鎧と外套に身を包んだ姿で
﹁じゃっじゃーん。真打ち登場
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
939
940
失血死してもおかしくないほどに衣服には血の赤が見える。
はぁ、二人にはすまないことをしちゃったなぁ⋮。
いや今は反省している時じゃないね。そして落ち込んでいる場合でもない。
自らの能力の弱点は心理状況に影響されること。 まずはあいつをかるーく退けようじゃないか
るため、嬉しさが急暴落というのはまた別の話である。
限があって着れなかった赤原礼装を着れるようになって嬉しくは思うが、アチャ娘であ
PSPo2をしている時、俺が育てていたKoujuは女の子であったため。性別制
いわゆるアチャ娘だ。
る。
ただやはりというか、まことに残念ながら赤原礼装は赤原礼装でも女物に改造してあ
着ているわけだ。
PSPo2にはアーチャーが着ているその赤原礼装が存在するからそれを改造して
これはアーチャーが身に纏っている軽鎧の名前だ。
赤原礼装。
そのために、これを着てきたのだから。
・・
そして同時に、士郎にはもう一歩先に進んでもらおう。
!
さておき何故このような姿なのか
﹂
﹁小娘言うな
﹁なにぃ
﹂
このデコっパチ
﹂
それは今からアーチャーとして動く必要があるからだ。
?
﹁勝てる⋮もの
﹂
﹁そうだ。簡単だろ
?
?
﹁いくぜっ
﹂
﹂
そう士郎に小さい声で伝えると、俺は手に白黒の双剣、干将莫耶を取り出す。
さて、トレースオンっと﹂
﹁俺が渡した剣、あれを使ってくれ。今の士郎が強化も用いれば、きっと届くはずだよ。
﹁だが⋮﹂
勝てるものを作るだけだ﹂
﹁話は後だ。士郎、俺が今から時間を稼ぐ。その間にお前は勝てるものを作れ﹂
﹁コウ⋮ジュ⋮﹂
ら士郎達との間にまで跳んで降り立つ。
なんて、どこかで聞いた事実なのかどうか良くわからん事を言って金ぴかを弄りなが
!!!
!!
!!
﹁ずっとオールバックにしてると広くなるぞこの予備軍め
!!?
!!
﹁また貴様か小娘
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
941
!!
﹁捻りつぶしてやる
◆◆◆
勝てる⋮もの⋮
フリーズアウト
﹂
﹂
ソードバレルフルオープン
﹁│││停止解凍、全投影連続層写っ
﹂
ただ、その中でもコウジュが産みだす物に目が行く。
を通して得る情報が無くとも分かる。
その一発一発に信じられない程の威力と神秘を内包しているのはいつものように目
いくつもの宝具のぶつかり合い。
がまさしく剣の撃ち合いだ。
ギルガメッシュは原典を、コウジュは投影したものを、それぞれの違いはあるだろう
い。
振るわれることを主目的とした武器ではあるが、目の前の様相はそう評するほか無
目の前では剣の撃ち合いが行われている。
!!!
!
?
﹁ゲートオブバビロン
!!!
942
なぜだろうか、妙に既視感がある。
同じ﹃投影﹄だから⋮
真力﹃エクスキャリバー﹄。
その原因であろうものを取り出す。
そのとき、ドクンっと何かが脈動したような気がした。
?
剣というには刃もなく、剣の形状をしてはいるが儀式剣と言われた方がまだ納得のい
く黄金の剣。
﹂
?
﹁士郎それは
一体何が⋮
﹂
?
一瞬、エクスキャリバーが光ったかと思うと、全身の傷が回復した。
!?
?
﹁コウジュがこれを使えって⋮って、うわ
﹂
そうすればカードに描かれていた黄金の剣が生まれる。
カード名を宣言。
そしてそのためにはこのカードを使えばいいらしい。
﹁なんでもない。それより、勝てるものを作らないといけないらしい﹂
いつの間にか、すぐ近くまで来ていたセイバーが心配気にこちらを見てくる。
﹁士郎
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
943
身体の奥底にある何かが一瞬熱を持ったような感覚があったが、それか
◆◆◆
くっ、難しいっ
?
だからやっているのだが⋮。
そしたら士郎の眼にヒントとして映らない可能性がある。
まう。
PSPo2武器を使えば楽になるのかもしれないが、それでは投影ではなくなってし
神をすり減らす。
多重投影等を用いて金ぴかの宝具を撃ち落とすが、純粋な投影のみで行うのは中々精
!!
そんな俺の様子に驚愕を浮かべるセイバー。
﹁士郎⋮、まさかあなたがっ⋮﹂
944
﹂
金ぴかの宝具を続けて投影したもので撃ち落とす。
!!
ぐ。
きっつ⋮
だけどやらせねぇ
!!
後ろでは、士郎とセイバーが何かを話しているようだが、まだか
そう俺が内心で悲鳴を上げた瞬間、光が辺りにあふれた。
ちらりと後ろを覗き見る。
そう確信する。
!
エ
な
ヌ
マ
いつの間に
﹁天地乖離す│││﹂
!?
﹂
盾の向こう側では金ぴかがゲートオブバビロンから宝具を射出しつつもこちらへと
!?
向けていた眼を、再びギルガメッシュへと戻す。
勝った
ぎ出したのは光り輝く黄金の鞘。
そこには片手にエクスキャリバー、もう片手にエクスカリバー、そしてその眼前に紡
!!
その状態で展開している盾に後から後から魔力を注入して、展開させ続ける。
!!
前方に、虹色に光る花弁の様に展開する盾を展開する。そこへ金ぴかの宝具が降り注
﹁I am the bone of my sword︵身体は剣で出来ている︶
!!
﹁ああもう
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
945
乖離剣エアの真名解放しようとしていた。
エ
リ
シュ
お前そんな器用な事出来たのかよ
﹁│││開闢の星っ
﹂
!!!
何とかこのアイアスで止め│││
﹂
!!!
くそっ
避けてください
!! !!
こに顕現する。
辺り一面を昼間かと間違うほどの、いや、すべてを白一色に塗りつぶすほどの光がそ
はすぐに無くなった。
うげはっ、勢いのあまり壁へと激突してしまったが、そんなことを気にしている余裕
俺は瞬時にアイアスを消し、横へ力の限り飛ぶ。
なら、邪魔者は避けようじゃないか。
ている。
士郎が投影した〝黄金の鞘〟の後ろに2人それぞれがエクスカリバーを持って構え
│││ようかと思ったが、セイバー達の準備はバッチリの様だ。
﹁コウジュ
!!!!!!
946
よっしゃ
いっえーい
2人は抱き合っていた。
﹁士郎⋮あなたが私の鞘だったのですね⋮﹂
だが二人を見た瞬間に俺は固まってしまう。
﹁あ⋮﹂
この喜びを誰かと分かち合おうと、ひとまずは士郎達の方へ向く。
よろこぼう。
この身体になってからは感情が出やすくなってしまったが、こんな時くらいは素直に
思わず手を上げながら飛ぶように喜んでしまう。
!!
思ってたのとは若干違うがこれでまた前に、ハッピーエンドに進んだ。
!!
それと同時に金ぴかの方は何か不都合が起きたのか霊体化をして消えていく。
しばらくすると、爆発で舞い上がった土煙やらが晴れる。
﹁ちっ⋮﹂
『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』
947
948
そんでもっていい雰囲気。
とりあえず、俺は上げていた手を静かに下ろした。
﹃stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい
﹄
ここは⋮
それだけではない。
空も同じ色をしている。
ふと上を見上げる。
その色は鉄錆の様な赤土だ。
見渡す限りに剣が刺さる大地。
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣││││。
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
?
!!
⋮歯車
?
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
949
950
空には、この剣が刺さる大地を囲うように歯車が浮いている。
止まっていても仕方が無い。少し歩こう。
歩きながら刺さっている剣群を見ているとふと気付く。
見た事もない剣が多いがいくつかはつい最近見た記憶がある。
コウジュに見せてもらった剣⋮だよな
あれ
どこで聞いたんだっけ。
│││身体は剣でできている│││
するとどこからか声が聞こえた。
見覚えのある剣がちらほらと刺さっているため、それらを一本一本見ていく。
?
⋮もどかしいな。
しかしなぜかその言葉がとても大事なもののように感じて、諦めきれない。
ダメだ。思い出せない。
何故か、大事な事の様な気がして、一度立ち止り、必死に思い出そうとする。
?
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
951
心内にもやもやとした物を抱えつつ再び歩き始める。
するとごく最近手に持った剣が目に入った。
これは、エクスキャリバー
│││
更に剣からこう言われている気がした。
心臓の音がどんどん速くなっていく。
右手を伸ばす。
目の前に刺さるそれは、俺に対してそう言っている気がした。
│││もっと⋮│││
したものだ。
黄金色の、斬るためではなく儀式用と言われた方が納得できる、剣としては歪な形を
自分がコウジュに、カードとしてだが貰ったモノ。
それは、自分が思いを寄せる人の宝具と似た名前を持つ剣だった。
?
│││扱いきれるかな⋮
?
心臓の音が速まって行くのが止まらない。
﹂
それでも手を伸ばし、手が持ち手に触れ││││
・
・
・
﹁っ
﹂
?
﹂
?
脳裏に浮かぶのは剣の刺さった赤銅色の空間。
﹁⋮⋮夢
という事は今のは⋮。
辺りを見回す⋮までもなく見慣れた自分の部屋だ。
﹁ここは⋮
どくどくと血流を速め、自己主張してくる。
心臓が痛むように音を上げている。
はあ、はあ、はあっ⋮⋮。
!!
952
それはあまりにもリアルで、少し瞼を瞑るだけで鮮明に思い出せる。
そこでふと気づく。
俺はいつの間に家に帰ったのだろうか。
それどころか俺は今まで布団に寝ていたようで、丁寧に寝間着姿にもなっていた。 とりあえず自身の身体を起こす。
そこで、右手に違和感がある事にも気づいた。。
何か持っている
いる。
柄が変わった
﹂
しかし、よく見るとエクスキャリバーとクロスするようにエクスカリバーも描かれて
それはコウジュに渡されたカード、真力﹃エクスキャリバー﹄。
確認すれば持っていたのはカードだ。
?
│││ギルガメッシュ。黄金の英霊と戦った事。
﹁そ、そうだ、俺達あいつと⋮﹂
ただ、それによって思い出されるのはカードについてではなく│││、
考え事を始めると、寝起きでくぐもっていた思考が廻り始める。
?
?
﹁それにしても、何で持ってるんだろ
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
953
しかし、記憶が途中で途切れてる。
セイバーと合流した後に俺たちを襲ってきたギルガメッシュ。
相手取り、瀕死の状態であった俺たちの前に現れたコウジュ。
その後はコウジュが言う様に勝てるものを投影しようとして、そして産みだされたの
が2本の黄金の剣と黄金の鞘。
どうもその後からの記憶が無い。
どうにもすっきりとしない思考の中に居ると、誰かが近づく足音が聞こえてきて考え
事から意識がそれる。
目は覚めましたか
﹂
足音から二人くらいのようだが、それに気づいたころにはもう部屋の前に着いたよう
だ。
﹁士郎
﹂
?
﹁あのさ、俺⋮﹂
?
てくる。
先程の疑問を解消しようと口を開いたが俺の言葉にかぶせるようにコウジュが話し
﹁痛みはまだあるか
傷自体は完全に回復している筈だけど⋮﹂
戸を開けて入ってきたのはセイバーとコウジュだった。
﹁覚めたかー
?
?
954
すぐ近くまで近づいてきたコウジュにやや驚きすぐに返事を返せなかったが、慌てて
あ、ああ痛みとかはないよ﹂
返す。
﹁え
?
﹂
?
﹂
﹁それは構わないけど⋮って、待ってくれ。コウジュが着替えさせてくれたのか
﹂
﹁うんそうだけど
﹁全部
﹂
と言わんばかりに首を傾げるコウジュ。
﹁おう。なんかマズかった
?
?
部ってことは下もってことだろうし。
﹂
サ ー ヴ ァ ン ト と は い え 見 た 目 幼 女 に 着 替 え さ せ ら れ る っ て 駄 目 だ ろ う。し か も 全
駄目じゃないけど駄目だってそれは。
待て、それはマズい。何がマズいって絵面がマズい
何か駄目だった
?
?
?
も穴だらけだったし。丸っと捨てちゃったけど構わないよな
プラッタ状態。だからそのまま寝かせるわけにもいかないし着替えさせたって訳。そ
﹁着てた服も血でドッロドロだったからねぇ。一般人が見たら確実に卒倒するようなス
ホッと一息ついた後に笑みを浮かべるコウジュ。
﹁ほむ、それならよかった﹂
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
955
冷や汗が全身を流れ始める。
何でこの幼女は平然としてるんだ
サーヴァントだから
!?
ど、英雄ってその辺りも無頓着なの
﹂
ことが問題なわけで
﹁どったん
﹂
だからなんでそんなに異性に対して無頓着なんですかね
俺の様子に反対側へまた首を傾げるコウジュ。
﹁ほむ
﹂
いやそうじゃなくて今はこの目の前の幼女に一度全部脱がされた可能性があるって
か。
確かに2回目がある訳だけどもその表現だけで言うと俺が性犯罪者みたいじゃない
って待て俺、初めて覗いたって何だ。
そういえばセイバーも初めて覗いてしまった時も素で意識されてなかったような。
!?
いつだったか成人してるとは言っていたから男女の機微とか知ってると思うんだけ
!?
﹁い、いや、な、なんでもない、よ
!!
﹁よくわからんが、まぁその時見た限りでは傷は残ってなそうだったし、士郎自身でも自
!?
?
?
?
956
覚症状が無いのなら大丈夫だろう。良かったよかった。﹂
身体を剥いただけじゃなく確認までされていたことに身悶えそうになったが、よかっ
たと言った時ににへらと笑うコウジュに思わず見惚れてしまう。
心からそう思ってくれていることが伝わってくる優しい笑みだった。
だがすぐにハッとする。
﹂
そして色んな意味で気まずくて話題を変えることにした。
あいつと戦った後どうなったんだ
!!
!?
コウジュがいつだったか言っていたが、死ななきゃ安いとはまさしくその通りだろ
できると言うのは本当にありがたい。
自分のことながら感覚が麻痺しているのだろうと思うが、それなりの傷だろうと回復
たのだろう。
冷静に考えればあの場に居たメンバーがここに集っている以上は無事に事なきを得
優しくそう言ってくれるセイバーに俺は安堵する。
﹁そっか⋮﹂
﹁あなたはギルガメッシュを退けた後、倒れたのです。安心して気が抜けたのでしょう﹂
それに対して少し驚きながらも、セイバーが答えてくれた。
つい声を大きくして聞いてしまう。
﹁そ、そうだ
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
957
う。
限りなく現代医学に喧嘩を打っているが。
﹂
いや、遠坂曰く魔術にも喧嘩を売っているのだったか。
﹁それで、今回も回復は⋮コウジュがしてくれたのか
自分で
自らにそんな御大層な能力は無かったように思うがどういうことだろうか。
?
犯人は何とはなしにそう告げた。
トラウマになりかねなかった幼女の所業を思い出して身体を振るわせていると、その
﹁うんにゃ、違うよ。俺は何もしてない。それはお前さんが自分で治したんだよ﹂
ああ、今更ながら感覚が麻痺するはずだ。
クブルガクブル⋮⋮。
回復できるからギリギリまで、しかも一瞬で回復するからすぐに再開されて│││ガ
ついでに思い出す⋮、いや、思い出してしまう修行のこと。
どういう理屈で回復出来ているのかは分からないが一瞬で回復できる。
思い出すのはコウジュの回復系のカードやテクニックと彼女自身が呼んでいた魔術。
多分それほどの時間は経ってないだろう。
いくらこの体が丈夫だって言ってもあれだけの傷があったし、まだ夜中のようだから
?
958
﹂
聞きかじりの知識でも魔術であろうと重傷を直すにはそれなりの代償が必要だとい
うことは知っている。
勿論覚えた魔術にそんなことが出来るものは無い。
?
イメージ
ギルガメッシュの宝具を押し返したあの鞘のこと⋮だよな
あの幻想は意図して生み出したものじゃなかった。
﹂
?
エクスカリバー⋮の
理由にはなるが⋮何故
何故、そんなものが俺の中に
﹁なあ、何で⋮﹂
?
?
える超回復能力があった理由にはなる。
確か、持ち主を不死身にするとかいう⋮それが俺の中にあったのなら俺が異常とも言
?
﹁あれはエクスカリバーの鞘。私が生前所有し、手を離れ戻る事のなかった鞘です⋮﹂
﹁覚えてはいるけど、あれって何なんだ
分を勝利に導くものを幻想した結果出てきたものだった。
イメージ
というよりは、何かを出そうとしたのではなく、ただ勝てるものを、セイバーを、自
?
俺が覚えの無いことに頭を捻っているとセイバーがそう聞いてきた。
﹁あなたが最後に顕現させたあの鞘を覚えていますか
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
959
﹂
﹁それが何故あなたの中にあるかは分かりません﹂
﹁俺知ってるよ
﹁そっか⋮﹂
ん
?
﹂
!?
﹁コウジュ
あなたは知っているのですか
イマナニカオカシナコトイイマセンデシタカ
アノ、コウジュサン
?
それはそうだけど、大声出しても仕方ないって
﹂
?
確かにそれはそうだけど、なんか言われたら腹立つ。
くない
﹁あのさ、俺が言うのもなんだけど、もう俺が何知っててもそのたびにツッコムのしんど
俺もセイバーが出してなかったら代わりに出してたし。
!!
人差し指を口の前に持ってきて静かにするよう促すコウジュ。
﹁いや、だから知ってるってば。あと、今真夜中だから、しー⋮﹂
!
?
?
960
俺だけじゃない筈だ。
横のセイバーもぐぬぬといった風に我慢しているし。
れた。それが答え﹂
﹁そんでだな、何で士郎に鞘が入ってるかだけど、実際は単純な話さね。誰かが士郎に入
いや、ひょっとして│││﹂
?
う確信があった。
﹂
どこか頭打った
セイバーもそう思うよな
正解だけど無事か
セイバーも同意してくれるだろうとそちらを見る。
﹁⋮⋮﹂
﹂
!?
﹂
どうした
!?
﹁親父⋮
﹁おおぅ
﹁それはさすがに失礼だろ
!?
!? ?
さすがにこう何度もこういう扱いされると反論したくなる。
!?
!?
何故親父が浮かんだのかは自分自身まったく分からないが、直感的に絶対そうだとい
親父だ。
る。
その事を聞いた瞬間、コウジュに聞こうとしながらも俺の中で思い浮かんだ人がい
誰かが俺に入れた。
﹁それは誰なんだ
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
961
セイバーさんこっちを見てください⋮
﹁ごほん⋮えー、切嗣が入れたという事ですが⋮いつ
!
そして一つ合点がいった。
そっか、親父も⋮。
いや、そうか、大火事⋮﹂
﹁奇しくも、親子二代にして同じ戦闘方法になったわけだな﹂
それが、俺の治癒能力の正体⋮。
﹁エクスカリバーの鞘は持ち主を不死身にするほどの癒しを与えてくれます﹂
けた少年は瀕死の重傷。その少年を生かすためには鞘の力を借りるしかなかった﹂
けど、あの大火事。闘いが終わって、生存者を探して、探して、探して⋮やっと見つ
上がると考えたから。実際その考えは正解で、勝ち残った。
た。けど、切嗣氏は鞘をセイバーに返さずに自身が持つ事にしたんだ。その方が勝率が
﹁士郎、切嗣氏はな、前回の聖杯戦争でエクスカリバーの鞘を触媒にセイバーを召喚し
たのか、よく言われるように顔に出ていたのか、話し始めてくれた。
大体の事は今ので予想はついた。が、詳しく聞きたい。その思いがコウジュ達に届い
﹁その通り。それが唯一士郎を生かす方法だったからな﹂
?
962
セイバーと俺の縁だ。
いつだったか遠坂との話で﹃セイバーに対する並々ならない繋がり、縁があるんじゃ
ないか﹄、だから魔術師として半端な俺が︵言ってて少し悲しくなった︶〝セイバー〟と
いうクラスを引き当て、〝アーサー王〟を呼び出す事が出来たんじゃないかという話を
した。
それが鞘だったわけだ。
だが、そうなると⋮⋮。
になるわけだ
知らずとはいえ、セイバーの鞘を俺は取り込んでしまってるわけになるんだよな
俺としては正直何度も助けられているわけだし、命の恩人ならぬ恩鞘
?
うならそれは正直誇らしい。それに│││﹂
セイバーが頬を赤く染めて、うつむく。
?
どうしたんだ
﹂
﹁│││その、なんというか、繋がり⋮ があるというか。それはそれで嬉しい⋮
?
?
というか⋮私は何を言っているのでしょうか⋮
?
﹁いいえ、謝る必要はありません。その鞘があったおかげであなたが助かってきたとい
からありがたいのだが⋮。
?
﹁悪い⋮セイバー。お前の鞘を⋮﹂
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
963
時が止まった。
空気が凍るとかそんなのではなく、ある意味嬉しい止まり方。
いや、
だが、その止まった時に対し、自身の顔が一気に熱くなっていき、心臓は早鐘のごと
く鼓動を早くする。
俺も何が言いたいのか分からない。
いや、これだけは言える。
セイバー可愛い。
﹁氏ね。死ねじゃなくて氏ね。末永く爆発してろ﹂
そして時は動きだす⋮。
動かしたのはコウジュだ。
ゴメン、一瞬居る事忘れてた。
い、今のは違います いえ、違わなくはないんですが
コウジュは立ちあがり、戸を開ける。
﹁コ、コウジュっ
﹂
!!
だがそんなセイバーを暖かい眼で見ながら、はいはい分かってますよと言わんばかり
く話しかける。
セイバーが顔を赤くしたまま、出ていこうとするコウジュに弁解しようするかのごと
そうではなくてっ
!
!!!!
!!
964
にセイバーの肩を無言でトントンと叩き、笑みを浮かべたまま今度こそ戸を潜った。
﹁御馳走さん御馳走さん。こんな甘ぇ所に居れるかっての。俺はちょっと行くとこある
から行くわ。ゆっくり養生しな。くふふごゆっくりぃ∼﹂
そう言ってコウジュは出ていった。
むぅ⋮。一気に気まずくなる。
いや、気まずいと言っても嬉しいものではあるのだが⋮ってこんなことやってるから
コウジュにリア充氏ねとか言われるんだよな⋮。
あ、あの│││﹂
!
﹂
?
あー、これはまたコウジュに起き抜けで弄られそうだ。
そのため、2人して、台所の方へ向かうことにした。
実際にお腹も、意識すると自己主張を始めた。
がこれに乗るしかこの恥ずかしさはどうにもならない。
嬉しい沈黙とはいえ、そのまま続ける訳にもいけないし、不自然な話題転換ではある
﹁あ、ああ⋮そうだな。すいてる﹂
﹁お腹はすいてませんか
意を決したようにセイバーが話を始めた。
﹁士郎
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
965
966
◆◆◆
やっはろー。
現在俺は、耳を塞ぎながら屋根の上に居ます。
空は白み始めたところで、この身体になってから寒さに大分強くなったせいか息が白
くなるほどなのに心地良い位だ。
とは言え、朝の早くから何故こんなことをしているのか
聞こえるからだよ
いちゃいちゃラヴラヴ士郎とセイバーがしてるのがな
ケモミミ
そっちに行っちゃうじゃん
素数数えたり歌を口ずさんだりしたけど駄目だったよ⋮。
?
ほら、町全体が寝静まって静かだし、気にしちゃいけないって思えば思うほど意識が
音も拾っちまってさ。
だけどこの獣耳どんどん馴染んできていて、今じゃぁ息遣いとか衣擦れとかの細かい
?
?
いや、さっさと屋根に避難したから音声だけではあるんだけどね
!!!
!!!
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
967
見えない分余計に生々しいしさ。
さらに原作とかアニメのシーンが思い出されてしまって、音からシーンが俺の中で補
完されていくわけだ。
恥ずかしいったらありゃしない。
ちなみに流れ的には大体アニメ版に似てるかな
その状態で、士郎がささやくようにセイバーに今を生きて欲しい旨を今度はしっかりと
セイバーの手を後ろから握ってる士郎の顔は必然的にセイバーの耳元にあるわけで、
ざるを得なくなったのだ。
その結果、俺が屋根上に引きこもるという、日本語的に意味分からん状況を作り出さ
けどな、この後からが俺には耐えられなかった。
ま、まぁ、ここまでは、まだ、なんとか、ぎりぎり許容範囲だ。
間を発生させるわけだ。
台所に二人、セイバーの後ろから士郎が手を握ってこうやるんだって教えつつラヴ空
ど、料理したことないセイバーに作れるはずもなく、結局二人で作る事になるんだよ。
セイバーが士郎に何か食べたほうが良いって言って、セイバーが台所に立つんだけ
な部分も1時間以上あるわけだが
当然、アニメにしてはいけない見せられないよ
?
⋮。
!
968
自分の思いを言うんですよ。
けどまぁ、セイバーはまだそれを受け入れられず、戸惑いやらなんやらで心内を複雑
にしながらその場を去るんだ。
士郎はすかさずセイバーを追い、もう一度セイバーに自分と居て欲しいと告げて、更
に口づけをする。
もう無理
セイバーはその口づけがが終わった時に﹃卑怯です﹄って言って今度はセイバーから
口づけを⋮。
はいこっから18禁
!!
人って恥ずかしさで死にかけるんだぜ
真剣に死ぬかと思いましたよ。
皆知ってるかい
?
耳押さえても聞こえてくるっていう地獄は勘弁してほしい。
そこにこれですよ。
つまりは聴覚やら何やらがいつも以上に敏感だったし、気持ち自体が昂ぶっていた。
後ってのもあって俺自身身体が鋭敏になっていた。
その時点では屋根の上に行って耳を防いでいたわけだが、ギルガメッシュと戦った
!!!
いになりながら変な動きをしていた気がする。
っていうか、テンぱってしまってあわあわはわはわと、どこぞのちみっこ軍師達みた
?
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
969
初々しい二人の空気⋮というか音に当てられて顔が真っ赤どころの話じゃねぇよ。
この年で三角座りで顔埋めて耐えることになるとは⋮。
とりあえず二人とも運動︵直球 したのもあって今は疲れて寝てしまったようではあ
る。
まぁ死にかけた後だし生存本能とかの所為で昂ぶっても仕方ないからね
だけど今この屋敷に何人居るか考えて欲しかったかな
俺はアイテムボックスの中から冷えた水を取り出す。
!
これは素直に嬉しい。
極めつけは自分からキスした事。
分で気づいてるか分からないけどかなーり嬉しそうな色を含ませてた。
嬉しさでどうしていいか分からなくなってって感じたし、その後の卑怯だって言葉は自
セイバーが士郎から離れた時の反応も自身を否定されたという想いよりも戸惑いや
セイバーの反応がかなり柔らかく感じたのは気のせいじゃない筈だ。
それにしても、セイバーがかなり原作と変わってきてるなー。もち良い意味でね。
ふぅ、よし。ちょっとは落ち着いてきたな⋮。
く。
そしてそれを一気に煽り、刺すように冷たい外気もあって一気に頭の中を冷やしてい
!!
俺 が ハ ッ ピ ー エ ン ド を 目 指 し た 結 果、少 な く と も 現 時 点 で 2 人 の 中 は 原 作 以 上 だ。
色々とうだうだしちまったが少なくとも結果がここにある。
﹁⋮⋮﹂
キスシーン思い出したらまた頬が熱持ち始めた。
落ち付け俺。
仮にも中身は成人しているだろうが。
子どもじゃないんだからあの程度で赤くなるんじゃない。
落ち着くためにたい焼きを投影してかぶりつく。
落ち着くために何でたい焼きだよとかはツッコンだら負け。
ともかくハムハムと生み出したそれを口内へ放り込んでいく。
﹁まずい⋮﹂
が、失敗した。
さっきまでよりは比較的落ち着けてはいるが、美味しそうなのは見た目だけで味は最
悪だ。
別にそういうのに耐性が無いわけではないと思うんだが、予想以上に慌てていたのか
たい焼きはまるでスポンジでも食べているかのような粗悪品に成り下がっている。
やっぱり知り合いだからかね
?
970
例えば家族で映画を見ていたら徐にベッドシーンが始まった的な
でもまぁ、マズすぎて逆に冷静になった。
結果オーライとしておこう。
冷静になったらなったでなんだか笑ってしまう。
決して夢の国に居るリア充ネズミのマネとかじゃないよ
なんか嬉しくて笑っちまうのさ。
?
真夜中にニヤニヤしてる屋根上少女ってのは。
?
最初は小さなマスターを守りたいと思っていただけだったのに、行けると思い始めて
けど、少なくとも俺が居なければ起こらなかった変化だろう。
もしれない。
色んな奇跡が折り重なってここに来たのかもしれない。たまたま運が良かったのか
そしてその準備は既に終えている。
しかも後は最後の一手を打つだけ。
ぼさずに来れたんだ。
何もかもが中途半端で、行き当たりばったりで、でもここまで来れた。何とか取りこ
でも、純粋にうれしいのだから仕方ない。
はたから見たら変人かね
?
﹁ははっ。なんだよこの不味さ﹂
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
971
からは調子に乗って欲張ってしまった。
勿論そこに後悔などは無い。
無いが、それでもこれで良かったのか思う俺が居るのは事実だ。
取捨選択は可能性の否定。
俺の好きな言葉だ。
でもこれは否定的に捉えればただ優柔不断なだけとも言える。
そう考えると、欲張ったというよりは捨てられなかったというのが正しいのだろう
か。
しかし、やはりというかその捨てられなかったこと自体に後悔がある訳ではない。 サーヴァント
好き勝手やってハッピーエンドでいいじゃないか。
ぐっちゃぐちゃだなぁ。やることなすこと、そして俺自身も。
神様見習いで、 英 雄として召喚されて、でも中身は一般人で⋮⋮。
た。
俺はどうやっても理性の効いた、自らの信念に従える英雄になれないのはよくわかっ
良いじゃないか。欲張ったってさ。
再び、意図せず笑ってしまう。
﹁ははは⋮﹂
972
・・・・・・
あと少しだ、頑張ろう。
﹂
あと少しふざけるだけで終わる。
?
あんた、絶対明日の朝に﹃昨日はお楽しみでしたね﹄とか言うつもりだろ。
ニシシと軽快に笑いながら言うランサー。
﹁1人は下だけどな﹂
勿論口に出しては言わないけどね。
まあ全員小さいけど。
﹁改めてみると、サーヴァントが勢揃いってのは壮観だな﹂
後ろを振り向くとサーヴァント勢︵勿論セイバーは抜いて︶がそこには居た。
﹁ああ。ハッピーエンドに近づけてる実感が持てたもんでねー﹂
俺はそちらを見ずに返事をする。
同時に掛かった声。
背後でいくつかの気配が生まれる。
﹁何かうれしい事でもあったかね
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
973
﹁ふん、今の状況を分かっていない。特に原因の小僧は⋮﹂
いつもの皮肉気な言い方をするアーチャー。
けどあんたが言うなよ。
もう既に別人とはいえ、あんたも自身の過去で似たような事やってるだろ
おまいうですよおまいう。
?
﹁違うって。何て言うか平和だなーって思っただけ﹂
先程までのヒネた言い方ではなく、どこか拗ねる様に言うアーチャー。
﹁さすがに笑われるのは心外なのだがね⋮﹂
その様子に、俺は思わずまたしても笑ってしまう。
﹁はははっ﹂
いている。
ちなみに、全員の真名をそれぞれ知っているため、他のサーヴァントもうんうんと頷
アサシンの言葉に二の句を継げないアーチャー。
ほら、言われてる。
﹁む⋮﹂
うて﹂
﹁別によかろう。今の状況だからこそとも言える。それに、主が言えることではなかろ
974
﹂
本来ならこんなことは起こり得ない、俺というイレギュラーが居るからこその異常。
本来の聖杯戦争は正しく戦争だ。
だから、こんなにも〝異常〟であることが〝平和〟だ。
それがたまらなく嬉しい。
その原因は自分であるのだから。
﹂﹂
!
﹂
?
魔女としてのローブを目深にかぶったキャスターが聞いてくる。
﹁明日⋮なのよね⋮
答えたのは俺とランサーだが皆が同じ思いなのがそれぞれ表情に出ている。
その言葉に俺とランサーが同時に笑いながら答える。
﹁﹁それも違ぇねぇ
を着ているライダーが言う。
眼鏡ではなくいつもの魔眼封じの眼帯に元のサーヴァントとしての服︵ロリver︶
﹁でも、私は平和であっても良いと思います﹂
?
また一つ、そう思えるものが見つかった。
﹂
!
笑いながら言うランサーの言葉に俺はさらに笑みを深める。
﹁違いない
﹁けどよ、そいつは聖杯戦争に一番似合わねぇ言葉だと思うぜ
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
975
﹁ああ。いつのまにか日をまたいでるんで実質今日だけど、まぁそうなる。そうなる筈
だ﹂
いよいよ、いよいよだ⋮。
実質の日にちはそんなに経っていないのに、それでも一日一日が濃かったからとても
長い間ここに居た気がする。
﹂
だけどやっと、〝ハッピーエンド〟を始められる。
ゴンっ
﹁痛っ
何するし
!?
・・・
﹂
そんな俺の頭に衝撃が走った。
!!
それを思い出し、些か憂鬱になる。
キャスターさんに対する対価がそれなのです。
﹁俺、これが終わったらコスプレするんだ⋮﹂
その言葉に一瞬固まってしまう。
﹁そういう契約だもの、当然よ。その分しっかり対価を払ってもらうけどね﹂
﹁さんきゅー﹂
﹁勿論整ってるわ。あのこもね﹂
﹁キャスター準備は
?
976
!?
﹁それ死亡フラグじゃねぇか﹂
ランサーが槍で俺の頭を小突いて言う。
あ、やっぱこのランサーは分かるんだ。
染まってるねー。
だがまだまだのようだな
!!
﹂
?
﹂
?
﹂
?
何でそんなの知ってるの
あ、またネットか。
!?
今まで黙っていたのにボソッとライダーがそう告げた。
があるそうですよ
﹁あのあの、死亡フラグを折ろうとすることを誰かに言うことが死亡フラグになった例
言ってて涙が溢れそうになったけど⋮。
元ニート予備軍舐めんなし。
どうやら俺の勝ちなようだ。
﹁なん⋮だと⋮
ちょっとアーチャー風味にニヒルにカッコつけて言ってみる俺。
秘義を知らんのか⋮
﹁フッ⋮甘いな。死亡フラグを乱立させる事で死亡フラグを回避し生存フラグを立てる
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
977
あんたも色々染まり過ぎだろうに。
まぁ、今を楽しんでるってことで良いんだろうけどさ。
﹁さってと、キャスターさんそういや向こうはどんな感じ
﹂
﹂
仕掛けてきた
﹁いいえ、まったくよ。舐めてるとしか言いようがないわ﹂
﹁って事は、ひょっとして向こうに完全にこっちの戦力バレてないって事
﹁もしくは知っていて放置しているか、ね﹂
?
それもあって他愛ないとでも思われてるのかな
まぁその方が好都合だけど。
んだカード。
ラーニング出来てるUBWだけではなくそこからの派生魔術や技術の模倣を積み込
のアサシンのやつをアーチャー版にしたやつね。
あ、ちなみに﹃アーチャー﹄のカードというのは、ちょくちょく使う夢幻召喚スペカ
?
を発揮したわけではないしこちらの圧勝とはいってない。
それに、昨日の橋の下での戦闘も﹃アーチャー﹄のカードを使ったとはいえその真価
王のすることではないとか言って使ってなさそうだ。
あらゆる宝具の原点持ってるんだったら遠見の水晶的なものを持ってるだろうけど、
﹁その場合はさすが慢心王と言うしかないなぁ⋮﹂
?
?
978
中々の出来だと自負している。
素質とかが必要だけど、それさえあれば﹃今日から君もアーチャーDA☆﹄ができる
チート仕様。
他のサーヴァントも鋭意制作中です。
くる。
いや、好きでショタ化するようにカード作ったんじゃないよ
?
明日は予定通りに行こう 士郎達の方も予定通りにってことで
勝手にそうなるだけですからね
﹁と、とにかくだ
﹂
!!
!!
﹁んじゃまあ、後はゆっくりしていってね。今日は俺が見てるからさ﹂
俺の言葉に、静かに全員が頷く。
!!
?
ランサーとアサシンがそう言ってくるが、アサシンの一言は中々に俺の心をえぐって
﹁うぐ⋮﹂
﹁うむ。身体の変化による不都合もある故丁度良いだろう﹂
なかなか楽しめそうだな﹂
﹁俺的には多勢に無勢ってのは気にいらねぇが、コウジュの言う通りの奴ならそれでも
﹁だけどあっちが慢心してるなら好都合。ぼこぼこにするだけさね﹂
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
979
﹁お願いするわ﹂
俺が無理矢理終わらすとサーヴァントの皆はキャスターが作ったゲートに入ってい
く。
ゲートは俺のマイルームに繋がっており、中で明日までゆっくりするのだろう。
俺は俺で明日の為にゆっくりするかねー。
一応警備しながらだが。
屋根瓦に寝転び空を見上げる。
今度は温かいお茶が入った湯呑を取り出す。
でもやっぱり本物も食べたいなー。
あの商店街のたい焼きを思い出して作ったたい焼き。
﹁うん今度は成功だな﹂
映姫⋮じゃなかった⋮英気を養うためにたい焼きを投影して口にくわえる。
こういうのも、なんだか風情があるよな。
でも、確かにそこにある月は何故か心を落ち着かせてくれる。
満月ではないし、夜ではない分その輝きは多少物足りない。
空が白み始めているとはいえ、未だそこにある月。
﹁良い月だ⋮﹂
980
『stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい!!』
981
うん、最高の組み合わせだ。
ハッピーエンド
そんな風にうだうだしながら朝焼けの中で一人、再び〝俺の考えた最高の最 後 〟に
ついて考えていく。
あ、二人が起きてまたまたイチャイチャしてる⋮。
独り身にはほんときついなぁこれ⋮。
﹃stage42:昨日はお楽しみでしたね
目が覚める⋮。
とても心地よい微睡から徐々に意識が覚醒していく。
俺はそれに合わせて体を起こした。
﹁ん⋮﹂
改めてセイバーの顔を見る。
﹄
自分が起きた事でセイバーも起きたかと思ったが大丈夫だったようだ。
?
決戦が間近だというのは分かっているつもりなんだが、どうしても嬉しさがこみ上げ
る。
このまま見ていたいのは山々だが、そうも言ってられない。
﹂
仕方なく布団から出て服を着る。
﹁士郎⋮
どうやら、セイバーを起こしてしまったようだ。
?
982
﹁あ、ごめん。起こしちゃったな﹂
﹁大丈夫です﹂
セイバーはそう言い、布団を出る。
だがまあ、あれの後なので当然セイバーも服を着ていないのでセイバーの白い肌が目
に写る。
このまま行っても弄られるだけだしな。
頭を冷やすためにも少し外に出てみるか。
﹁朝ごはん⋮いや、その前に│││﹂
恥ずかしさでいたたまれなくなって部屋を出る。
﹁は、はいっ﹂
﹁お、俺、先に行ってるからっ﹂
表現のしがたい気恥かしさだ。朝になって日の光があるから余計にだろうか⋮。
う。
昨日︵実際は今日だが︶互いに見たというのに改めて見ても互いに視線を外してしま
俺は慌てて目を反らし、セイバーは急いで服を着始める。
﹁﹁あ⋮﹂﹂
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
983
・
・
・
玄関を開け、外に出る。早朝故に辺りは薄く朝靄が掛っている。
﹁⋮⋮∼♪﹂
どこからか歌が聞こえる。
口ずさむようなその歌はリズム程度しか聞こえないが、それでも歌っている者が楽し
﹂
げなのは伝わってくる。
﹁中庭の方か
でも誰が
る。
すると、聞こえていたものがやがてしっかりと耳に入り、やはり歌だという事が分か
足をそちらへ向ける。
?
?
984
中庭へと出る角を曲がる。
だがやはり誰も居ない。
よくよく聞くと、どうやら声は上からしてくる。
﹁││♪﹂
屋根の上か⋮。
今居る場所からでは屋根の縁の所為で上は見えないので、少し移動する。
とはいえ場所と、そしてしっかりと聞こえ始めた声で誰かは分かった。
そして見える位置まで行くと、やはり大きな帽子をかぶった不思議な少女、コウジュ
が居た。
屋根の上で目を瞑りながら、彼女は楽しそうに体を揺らして歌っている。
その楽しげな様子もあり、歌とかはあまり聞く方ではないのだが思わず聞き入ってし
まう。
何の歌だろうか
?
もう少し聞いていたかったが残念だ。
聞き入っている内に終わってしまったようだ。
だなぁ。でも前じゃ思いっきり歌えなかったしなぁ。声的に﹂
﹁っと、うんうん、やっぱりいい歌だねぇ。って自分で歌っていうとナルシっぽくていや
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
985
そんな風に少し物足りなく思っていると、コウジュはどういう意味かは分からない
が、そう言うと閉じていた眼を開いた。
そして俺と目が合う。
途端に真っ赤になっていくコウジュの顔。
﹂
コウジュはそれに気づいたのか、帽子を思いっきり顔まで下げて隠す。
﹁えっと⋮、聞いた⋮
﹂
!!
た。
ごめん。悪気は無かった。
﹁あ、でもほら上手だったぞ
!
最後の方はやはりまだ恥ずかしいのか、ボソボソと消え入りそうな声ではあったが
俺の言葉に何故か慌てて帽子から顔を出してそう言うコウジュ。
﹁ちがっ、いや、うん、ありがとう⋮⋮﹂
て歌が上手いんだな﹂
それもあってつい聞いちゃったというか。コウジュっ
つい本当のことを言ってしまった瞬間、帽子の向こうから声にならない叫びが出てき
﹁っ∼∼∼∼
﹁あー⋮、おう﹂
帽子の奥からくぐもった声でそういうコウジュ。
?
986
⋮。
﹂
しばらくして落ち着いたのか、コウジュが軽い身のこなしで下へと飛び降りてきた。
猫が着地する時みたいにしなやかに、音も軽く着地する。
﹁たまたま外に出たら歌が聞こえたからつい来ちゃったんだが、ダメだったか
ずっとっていつからだろう
不貞腐れるようにそう言うコウジュ。
を紛らわせるためにずっと歌ってたから気付かんかったぜ﹂
﹁ああ、いや、外で歌ってる俺が悪かったさ。くそぅ、いつのまにかそんな時間か⋮。気
?
そう思い、素直に感想を言ってみることにした。
し。
聞いている方も楽しくなるくらいに、コウジュ自体が楽しんでいると分かるくらいだ
まぁでも時間つぶしに歌う位だから歌が好きなのだろう。
だろうか。
流石に昨日の夜に別れてからではないと思うけど、でもそれなりに長い時間だったの
?
そう言うや否や、コウジュはまた顔を真っ赤にして俺に詰め寄り、俺の腹を殴ろうと
し、また聞かせてもらいたいくらいだ﹂
﹁そこまで不貞腐れなくてもいいじゃないか。聞いている方も楽しくなるくらいだった
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
987
してきた。
﹂
それを思わず避けてしまう。
﹁避けるな
から
﹂
﹂
!
⋮⋮いや、もう良い。どうせ言っても無駄だし﹂
﹁そういうことってどういうこと
!?
!!
!
解せぬ⋮。
?
!!
﹁ああ、色々頑張ったもんね、色々と。寝技の練習とか﹂
﹁いや、特に要は無いんだけど外の空気を吸いに来たんだ﹂
よくわからないが何故か疲れたような表情でそう言うコウジュ。
﹁はぁ、それでどうしたん
﹂
よくわからないが諦められた。
﹁だから
﹂
﹁士郎はいつもそうやって⋮ ってか俺にそういうこと言うな 俺は堕とされない
本当のことを言っただけなのに。
何故殴られそうになったんだよ俺。
理不尽にそう怒るコウジュ。
﹁避けるよ
!? !
988
何故かコウジュが辛辣だ。
﹁まあいいんじゃない やっとの思いが叶ったんだし。俺も陰ながら応援した甲斐が
あるってものさ﹂
そこで、コウジュが部屋を出ていく時に気を利かせてくれたのを思い出した。
そんな彼女に、からかわれている俺としては苦笑を返すしかなく、笑ってごまかした。
でもそれがまた彼女らしい。
ほんと、コロコロと表情が変わるよな。
先程までとは違い、今度はからかうような笑みを浮かべながらそう言うコウジュ。
?
?
?
その様子がどうも引っかかった俺は、つい言葉にしてしまった。
﹁そういやコウジュはハッピーエンドにこだわるけど、何か思い入れがあるのか
﹂
コウジュの言葉にすかさず答えると、そんな俺を見て、彼女はそう寂しげに言った。
﹁なら、いいのさ。ハッピーエンドの為にはそういうのが無いとね﹂
それだけは確実に言える。
﹁ああ、それだけは確実だ﹂
か﹂
﹁あやまんなって。俺は嬉しいんだぜ 少なくともお前さんらが望んだ結果じゃない
﹁そういえば悪いな。様子を見に来てくれたのに追い出したような形になっちゃって﹂
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
989
その問いに、コウジュは刹那の間ではあるが虚を突かれたように動きが止まる。
だがすぐにいつもの楽しげな笑みを浮かべ、俺を見た。
今まで無かったって、それはいったい・・・。
?
どう聞けばいい
そこを俺は知らない。
そう考えてしまえばもう続きを聞くことが俺には出来なかった。
例えば、何か悲願をハッピーエンドとして終わらせるため⋮とか。
だけど、もしかすると今の言葉の中にその答えがあるのではないだろうか
?
それほどのものを聞いても構わないのだろうか
コウジュならば普通に答えてくれる気もするが、コウジュほどの能力を持ってしても
?
本来叶えられないものを叶えるために聖杯を求めているはずだ。
?
?
じゃあコウジュは何を求めてこの戦争に参加するのだろう
セイバーは変えられない過去を変える為に聖杯を求めている。
英霊は聖杯に何かの願いを託してサーヴァントとして紹介されると聞いた。
だが、言葉に詰まる。
俺はすぐにそう聞こうとした。
え
と思ったってのが正直なところかな﹂
﹁ううん、特には無いんさ。あー、でも、あえて言うなら今まで無かったから見てみたい
990
叶えられなかったその願い。
それは決して軽くは無い筈。
﹂
そうして躊躇っている内に、俺が口を開くよりも早くコウジュは次の言葉を続ける。
﹁そういやそろそろご飯だよな
誤魔化すように口早に言うコウジュ。
?
その姿がまるで何かから逃げるようで、どこか痛々しかった。
﹂
?
あ、ああ、今からだ﹂
?
そう言う彼女は昔を思い出しているのか、目を細め空を見る。
が出来る﹂
﹁うん、まぁね。音楽を聴いてると感情が豊かになる気がするし、歌えば感情を出すこと
結局俺が出せた言葉はそんな当たりさわりのない言葉だった。
﹁歌、好きなんだな﹂
先程の物とは違うのか、今度は優しい曲調だ。
歩きながら鼻歌を歌っている。
そう言って玄関の方へ向かうコウジュ。
﹁そか﹂
﹁え
﹁なぁ士郎、聞いてるか
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
991
その姿に、先程までの影は無かった。
良かった、と安堵する。
さっきみたいな彼女は見たくない。
カラオケ⋮
英霊ってカラオケ行くのか
ってちょっと待ってくれ、先程までの俺のシリアスを返して
異世界だから
?
先輩
んだよなぁ﹂
妹
いやいやいや、そいう問題じゃないだろ今は
﹁か、カラオケとかあったんだな⋮﹂
﹁いや、普通街にはいくらでもあるじゃん﹂
という顔をするコウジュ。
!!
お昼代って⋮いや、コウジュが食べる量から考えたら切実な問題か⋮
というか、えらく所帯じみてないか
新事実が続々と発覚なんですがそれは
!?
何当たり前な事言ってんの
?
?
!?
!?
!?
﹁よく妹とか先輩とかと行ったもんだぜ。点数勝負とかな。上手くいけばお昼代が浮く
!?
!?
!?
﹁それに、前はよくカラオケに練習とか行ってたからつい懐かしくてなー﹂
992
これって、俺がおかしいのか
たくないし。
咄嗟に作り話が出来るほど頭の回転が良い訳でもないし、そもそもそういうのは言い
だって元一般人だし。
いやだって、特に重苦しい過去がある訳じゃないからな。
士郎に何でハッピーエンドに拘るのかって聞かれた時はどう答えたもんか悩んだぜ。
いやぁ、ほんと危なかったんですよ。
丁度食事の準備を始める所のようで、俺は手伝いをしながら先程の事を考えていた。
士郎を庭に置き去りにし、一足早く居間まで来た俺。
◆◆◆
仕方なく、もやもやしながらも俺はそれに続いた。
そう叫びたいが、コウジュは既に中へと入って行った。
!?
その結果が誤魔化すという回答なんですがね
!
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
993
994
士郎、誤魔化されてくれたかねぇ なんか悲しげな表情で見られてた気がするけど
⋮。
まさかハッピーエンドハッピーエンドばっかり言ってるけど特に何もない
ことに気付かれた
はっ
?
ことについて気付かれてたとしてもさ。
だって、昔に何かが無ければ幸せを望んじゃダメって訳でもないだろう
あこがれを抱いていた。
そしていつからかはまり出したゲームや漫画にラノベ、それらの空想世界ってものに
しろそれなりの物だったと思う。
普通の学生生活の中に、適度に人付き合いがあって、そこそこに笑いのある人生。む
う。
前の人生はハッピーエンドもバッドエンドも無い、ただただ普通の生活だったと思
?
まあ悪いことではないと思うし、別にいいんだけどさ。俺の中身が特に何もないって
あかん、何言ってるか分かんねぇや。
れとは違って周りをよく見てるというか⋮。
色々なものに気を回しているというか、いや、前から気を使うのは上手だったけど、そ
最近の士郎はやたらと察しが良いからなぁ、ありえる。
!?
!?
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
995
楽しかった。
厨二病なんてものに掛かっていろんなものを妄想して、空想して、物語を考えて⋮。
でもそれはきっと日常があるからこそ、出来たものなんだろう。
改めて考えても、好きな人生だったと思う。
でも、こんな状態になって、イリヤのサーヴァントになって、そして彼女を守りたい
と思った。それも事実。
そして、どうせ関わってしまったのならハッピーエンドにしてしまいたいと思うのは
誰でもそうだろう。
自分からバッドエンドを目指すなんてドMでもしないだろう。あ、いやドMはそれが
ご褒美になるんかもしれんけどさ。
ともかく、このFate/stay nightと前の世界で呼ばれていたここ
で、俺はハッピーエンドを目指すと決めたんだ。
今となったからこそ分かる。
前の、20年と少しではあるが過ごした生活はありふれた日常だった。それがとても
大切なものなんだって。
それを皆に体感してもらいたい。
イリヤが学校に通って友達と話すところが見てみたい。
996
サーヴァントの皆がそこらの商店街やそこらで暇つぶしをしている所が見てみたい。
士郎や凜ちゃんが大学に行って他愛無いことで盛り上がったり講義について話すと
ころを見てみたい。
桜ちゃんが士郎に講義の事で分からないところがあるからなんて言いながら教えて
もらって、それを凜ちゃんが嫉妬してるところとか見てみたい。
うん、やっぱり楽しそうだ。
これこそハッピーエンドってやつだろう。
失って始めて気づくなんてよく言うけど、ほんとそうだよな。
他愛無い日常だったけど、あれが幸せってやつだったんだろう。
あそこに戻りたい。
けど、ただ戻るだけじゃダメだ。
もう俺はイリヤたちに関わった。
だから、彼女たちと一緒に、俺はハッピーエンドってやつを迎えるんだ。
だから│││、
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
997
だから、早くご飯を食べよう
言峰教会に用があるのだ。
朝食を食べ終わり、一息ついた後、俺は外出することにした。
◆◆◆
サーセン。
え、俺がたくさん食べる分余計に用意しないといけない⋮ですか
腹が空いては戦は出来ぬですよ
!
全てが水の泡だ。
このタイミングでサーヴァントを連れずに歩いて、最悪殺されるなんて事になったら
念のためセイバーと共に向かう。
から何か追加情報がないか気になったため足を向けることにしたのだ。
一昨日、言峰に聞いた黄金のサーヴァントについての情報、少し調べると言っていた
?
!!
998
というか、むしろ身内の人間にぶん殴られる。
殴られる程度で何をと思うかもしれないが、それは甘い。パフェに砂糖を並々振り掛
けたものより甘いというものだ。
考えてもみてくれ。基本全員サーヴァントだぞ
他の遠坂や桜だって油断ならない。
だ。なにそのコンボ。
ついでに言うと桜にはもれなくライダーが付いてくる。下手をすれば姉の遠坂も⋮
て貰ってるみたいで身体能力が格段に上がっている。
遠坂は中国拳法を使えるし、桜だって最近魔力の使い方とかをサーヴァント勢に教え
?
いつもの〝気にしたら負け〟というやつかな⋮。
そういえば、気づいたらライダーがナチュラルに居間に居て食事をしてたんだが何故
誰もツッコまなかったのだろうか
?
まあ一旦それは置いといて、実は先程勝ち抜けで腕相撲をしたんだ。ちなみに魔力の
使用は可だ。
どうなったと思う
一位:コウジュ
二位:ライダー
三位:セイバー
?
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
999
四位:ランサー
五位:桜
六位:アーチャー
七位:遠坂
八位:俺
といった感じだ。
キャスターは不参加なんだが、これをどう思う⋮
それから、改めて思うがツッコミどころが多すぎる。
まずコウジュ。あの子は力だけで絶対に世界を落とせる。
ライダーとセイバー以外ピクリとも動かせなかったんだぞ
そうになったのは別の話。
まぁ後のサーヴァント勢は良いとして、遠坂姉妹、あなた達何してるんですか
ただ、問題と言ってしまうと悪いが、桜の事だ。
から魔力有りだとこういう結果になってしまう。
遠坂はまだ分かる。自力なら俺の方が上なんだが、やはり魔術の構成や効率が上手い
!?
何故それが戦闘でいかせないのかがかなり謎だし⋮それを言ったらコウジュが泣き
?
男勢全員で崩れ落ちてしまったのは言うまでもないだろう。
?
五位ってなんでさ
アーチャー六位だぞ
!?
﹁士郎
考え事をしていた様ですが⋮﹂
会に向かっているって話だったな。
それで何の話だったか⋮ああそうだ、長い回想になったが今はセイバーと共に言峰協
しくなったな桜⋮。
キャスターとコウジュが共同で魔改造した結果こうなったらしいんだが⋮、うん、逞
妹みたいな存在である桜にやられた時の悲しさと言ったら⋮はぁ⋮世知辛いな⋮。
まぁ俺もその横で崩れ落ちてたんだけどな⋮。
のはかなりシュールだった⋮。
アーチャーがいつもの口調で﹃やはり女性は強いな⋮﹄って言いながら崩れ落ちてた
!?
⋮﹂
?
若干引きながらも心配してくれるセイバーのおかげで少し元気が出てくる。
考えていた内容を誤魔化そうとしたはずが、内心がポロっと出てしまう。
﹁そ、そうですか⋮。無理だけはしないでくださいね⋮
﹂
﹁いや、何でもないよ。ただあえて言うなら、男の意地って何なんだろうなって思ってさ
?
1000
元気がなくなった原因の一人はセイバーだったりするけど、気にしてくれることが嬉
しいからまあいいかな。
そうこうする内に俺達は教会の前まで来ていたようだ。
﹂
さてと、何か有力な情報があるだろうか。
あれ、いないのか
?
扉に手を掛け中に入る。
?
ないのだが⋮、何だこの違和感は⋮
ああなるほど。
ドロドロとした粘着質││。
﹁ああ、俺も思った。このドロドロとした粘着質な感じかなり気持ち悪い﹂
﹁士郎、待ってください。ここはおかしい﹂
生理的嫌悪感とでも言えば良いのか、とにかくここに居たくない。
自身の奥底から這い出る嫌悪感。
違うな、そんな単純なものじゃない。
言峰が居ないというだけでどこか変な感じがする。
?
別にアポイントメントを取ってきたわけじゃないから居なくても不思議ではない。
声に出すが出てくる様子はない。
﹁言峰⋮
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1001
口に出してやっと理解した。
〝言峰〟だ。
この違和感の正体は言峰だったんだ。
目の前に居ないのに言峰と対峙した時のような感覚。
どういう事だ⋮
以前より
でも濃いっていうのは
俺が気づかなかっただけでここは前からこうだったってことか
言峰が居ないから本来のこの空気を感じる事が出来ている
けどそれはおかしい。
くてはならないはずだ。
ここは教会だ。居る人間があんなのでもここは教会。この空気とは反した位置にな
?
?
?
恐らくセイバーが言っているのはセイバーを召喚した夜にここへ来た時の事。
?
してください、何かあります﹂
﹁違います、士郎。以前もおかしくはありました。それが、今日は前に増して濃い。注意
気持ち悪さの原因を考えているとセイバーが訂正する。
?
﹁ホント今日はどこかおかしいな﹂
1002
﹁そういえば以前は言っていませんでしたね﹂
セイバーはいつもの甲冑をその身にまとい俺の前に出る。
日は特にその澱みが酷い﹂
﹁ここはあまりにも空気が澱んでいる。聖なる場所とはかけ離れた所です。そして、今
戸惑いながらも歩みを進める。
訳が分からない。どういう事なんだろうか⋮。
とにかく言峰を探そうと奥の扉を見つけたので、扉に手を掛けた瞬間│││、
﹂
││ドクン⋮││
﹂
﹁ぐおっ⋮
﹁士郎
!?
身体が傾く。
﹂
声が俺の中を駆け巡る。
頭の中を這いずるように圧迫していく声達、助けて、どうして、いやだ⋮いくつもの
突然、俺を圧迫感が襲う。同時に子どもがすすり泣くような声が頭に響く。
!?
﹁どうしたのですか
!?
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1003
セイバーがすかさず支えてくれた。
頭を押さえて声を聞く。
こんな声聞かなければ良いはずだ。
だが同時に何故か聞かなければならないと俺の中の違う俺がそう囁く。
││あっちだ⋮││
││行くな⋮││
行くように言うのも俺だし、止めるのもまた俺だ。
いくつもの哀しみの声が、二つの声が、俺をどんどん満たしていく。
自然と足が前へ、教会の奥へと進み出す。
意図したものではない。
だが進んでいく。
しっかりしてください
﹂
ゆっくりと、確実に、俺に何かを訴える〝何か〟に。
﹁士郎
!!
﹁⋮⋮﹂
﹁セイバー⋮俺、行かないと⋮﹂
でも、俺は多分奥に行かないといけないんだ。
肩を貸してくれていたセイバーが俺の前に出てきて止める。
!!
1004
口に出した時点で俺の脚は前へ進も始めている。
セイバーは俺の顔を見て無駄だと悟ったのか、はたまた別の何かを感じ取ったのか、
﹂
俺を制止するのを止め、何も言わずに再び俺に肩を貸しながらついてきてくれる。
﹁ごめん﹂
﹁謝らないでください。しかし、一体何がそこまであなたを
?
階段を降りていき、日の光のない地下へと入っていく。どんどん頭に響く声は大きく
││まだ間に合う⋮││
││ようこそ⋮││
俺たちは二人して階段を降りる。
││引き返せ⋮││
││降りて⋮││
それなりに奥行きのある通路を歩いていくと、下へ降りる階段があった。
││やめろ⋮││
││奥へ⋮││
路を歩いていく。
俺とセイバーは教会の礼拝堂に当たる部分を通り抜け、中庭を囲うようにしてある通
﹁わからない。でも呼んでるのだけは分かる﹂
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1005
なる。
﹂
!?
だが同時に足がその場に張り付いたように動いてはくれない。
今すぐこんな場所など離れたい。
俺達を包むのは単純な忌避感。
セイバーも、冷静に言っている様には聞こえるが、わずかにだが声が震えている。
止めたくなる光景がそこにある。
あまりにもな光景に思考が止まる。いや、止める。
﹁澱みの原因はここですか⋮﹂
﹁何だ⋮これ⋮⋮﹂
そして俺達はその目的の場所へと足を踏み入れた。
そして俺の目的地もどうやらそこのようだ。
臭いはすぐそこに見えるもう一つ奥の部屋からだろう。
俺とセイバーは鼻を押さえる。ひどいにおいだ。
けど、ここじゃない。
降りていくと、そこそこ広い場所に着く。
﹁っ⋮
﹁ぐ⋮﹂
1006
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1007
それほどに目の前の光景は眼について離れない。
眼前には石で出来た台座がいくつも奥に向かって規則正しく並んでいる。
そしてその上にそれぞれ死体が乗っているのだ。
日本は火葬だが外国では土葬にするそうだし、死体を一時的に預かって安置している
とかであるのならばあるかもしれない。
だが、それは確実に違うと言える。
目の前の光景はあまりにも異常で、異質で、とにかく日常にあってはならない光景だ。
いや、日常でないものを何と定義するにしてもあってはいけないものの筈だ。
なぜなら、台座の乗る死体達は1つとして通常の人の形を保っているのはない。
かろうじて人であったであろうというものばかり。
そう、かろうじてだ。
俺が人の形を知っているから、部分部分を見て、人の、更に言うと子どもだったので
あろうと分かる。
・・・・・・・
それほどに身体を構成していたであろう四肢が、胴が、頭部が、内蔵や筋肉、血管に
至るまでがバラバラとそこに並べられている。
極めつけはどの死体も妙に生々しいこと。
先程まで聞こえていた悲しみの声が、怨さの声が、よりクリアに聞こえてくる。
目の前にあるのは明らかに死体だ。
バラバラになったものをとりあえずといった感じに纏められただけ。
そして何年もそのままだったのであろうか、腐敗はかなり進んでいる。
なのに、明らかに死に体であるのに、生々しさがある。
まるでまだ生きているような⋮⋮。
声も、その原形など忘れてしまったのではというほどに崩れた声帯からだしているよ
うな⋮⋮。
!!
持ち始める。
﹁これはなんだ
﹂
いつもと同じその口調がやけに俺を腹立たせ、止まってしまっていた脳が一気に熱を
﹁いくら教会とはいえ、勝手に奥まで入ってくるのは考えものだがね﹂
付けて近寄ってくる。
悠然と部屋の奥から歩いてくる言峰は、人を不快にさせるだけの笑みをその顔に張り
﹁言⋮峰⋮﹂
動けないでいる俺たちに声が響く。
﹁よく来たな衛宮士郎、そしてセイバー﹂
1008
未だ平然とした態度を取る言峰に言葉をぶつける様に発する。
死体だよ、少し特殊ではある
﹁ふむ、そういえば君も可能性はあったわけか、呼ばれたのだろうか⋮。さて、これらが
﹂
何かという質問だったな。しかし見て分からないかね
が⋮﹂
だがそれでも態度は変わらなかった。
?
?
える。
一体、誰の事を言ってるんだ⋮
﹁これは食事だよ。彼のね﹂
彼
俺はそう思ったが答えはすぐそこに居た。
こんな醜悪なものを、平然と眼の前に出来る存在が居るというのか
?
﹁ギルガメッシュ⋮
何故お前が⋮﹂
言葉と共に部屋の奥から出てきたのは、あの黄金のサーヴァントだった。
﹁昨日ぶりよなセイバー﹂
?
?
そして、そんな言峰と俺との間に、俺を守るようにして前へ出るセイバーに言峰は答
言峰は歩みを止め、笑みを静かに深める。
今度はセイバーが聞く。
﹁特殊⋮とは一体何の事を言っているのですか
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1009
?
今までも空気は重く、最悪だったが奴が来る事で一気に圧が増す。
それに屈する事が無いようとにかく疑問を口に出す事で抵抗しようとしたが、ギルガ
メッシュは俺など視界に入って居ないかのごとく無視し、話を続ける。
﹂
!
何故こいつがここに居る
﹂
聞かされていないのかね
?
笑みをして言葉を返す。
﹁ふむ⋮
﹁何が言いたい⋮
?
?
突然何だ⋮
?
﹂
だが、それに対し言峰は少し予想外だというように、一瞬笑みを消した後、より深い
﹁言峰⋮お前がギルガメッシュのマスターだった訳か⋮﹂
奴がここに居る、それが何よりの証明。
いい加減認めろよ、俺。
改めて考えてみたが、ははっ、そんな疑問に意味はないじゃないか。
?
それに対しあの黄金の鎧をまとってはいるが余裕の態度で対峙するギルガメッシュ。
セイバーはエクスカリバーを構え、いつでも戦闘を開始できるようにする。
﹁戯言をっ⋮
﹁昨日の今日で我に会いに来るとは中々に殊勝な心がけだ﹂
1010
﹂
﹁あの銀の髪の少女だよ。あの子は私の事を知っているようだったが
﹁だから何が言いたいっ
!!?
﹂
?
は⋮
思考が一瞬止まる。
何を言っているんだ
でも、コウジュはここの事を知っていた
なら何故それを教えてくれなかった
刹那の疑問。
余程焦っているようだな言峰。
雰囲気に呑まれそうになっていた身体が一気に軽くなる。
言峰はおそらく、俺達の不和を狙ってこんな事を言ったんだろうが失敗したな。
だから、余計なことを考える必要はない。
普段から隠し事の多い彼女だがこれを許容できる子じゃないことは短い間に知った。
俺に言わないのは何か理由があるんだろう︵一瞬無い気もした︶。
だがそれはすぐに脳裏から消え去った。
?
?
コウジュの事を言ってるんだろうけど、あの子は当然仲間に決まってる。
?
?
﹁いやなに、私は君達が手を組んでいると思っていたのだが⋮予想が外れたようだ﹂
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1011
﹂
﹂
?
獅子身中の虫と
お前とはそれほど相対した回数があるわけじゃないけど、あまりにもらしくない。
俺の前に居るセイバーも少し気負いが取れたように感じる。
セイバーも同じことを思ったようだ。
私と取引しないかね
﹁おそらくあの子は聖杯を横からかすめ取るつもりではないのかな
はこの事だ。どうだ衛宮士郎
﹁取引
俺たちにお構いなしに続ける言峰。
?
│﹂
思わず笑いを我慢できずに漏れ出す。
﹁ははは⋮﹂
これもコウジュに助けられたって事になるかな
何かおかしなことを言ったかね
?
?
に何もない。
﹁どうした
﹂
さっきまでは雰囲気に呑まれてしまっていたが、今では言峰に対して感じるものは特
?
しかし、彼女が邪魔だ。聖杯を召喚するのは私がやっておこう。その間に君は│││
る。
﹁そ う だ。私 の 役 割 は 聖 杯 の 持 ち 主 を 見 極 め る 事。君 は 既 に 勝 者 だ。資 格 は 十 分 に あ
?
?
1012
﹁ああ、言ったよ﹂
﹁まったくですね﹂
﹂
?
それがどうした。
?
あの子は人を御人好しと言うがあの子こそ御人好しだろう。
だと思う。
というか、知っていたら俺は即ここに特攻していたと思うから、それを予想しての事
必要ならやればいいと思う。
コウジュに秘密
そしてコウジュは、こいつをどうにかする為に色々していたのだろう。
今それが分かった。
こいつは敵だ。
だがそれで十分。
分かるのはろくでもない事だろうという事くらいだ。
い。
こいつが何を目的としているのか、聖杯で何をしようとしているのか俺は分からな
そんな俺達に怪訝な表情の事峰。
セイバーと二人、笑みを浮かべる。
﹁何⋮
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1013
そんな彼女をこいつは排除したいと言った。
よほど、コウジュの存在が邪魔なのだろう。
それにしてもコウジュはその場に居なくてもエアブレイクを出来るんだな。
未だこの部屋に居るのに一気に空気が和らいだ気がする。
いつもは困りものだが今はありがたい。
強張っていた身体が軽くなった。
これだけは分かる。今のあんたはらしくない﹂
﹁士郎の言う通りです。余程焦っていると見える。それほどにあの子は脅威ですか
心に余裕が出てきたので、いつも俺がされる側だった皮肉気な言い方をする。
そんな俺の言葉に、一気に言峰の笑みが消える。
?
知ってるんだろうな⋮。
?
そのためにも今は目の前のこちらをどうにかすることが優先だろう。
とりあえずこの部屋の理由はコウジュに聞くとしよう。
少し、ほんの少しだけ、言峰がかわいそうになった。
ろうか
ふと疑問に思ったんだがコウジュってひょっとして言峰の目的とかも知ってるのだ
図星みたいだな。
﹂
﹁あんたよっぽど焦ってるみたいだな。あんたの事に詳しいわけじゃないが、それでも
1014
﹁ギルガメッシュ⋮﹂
﹁滑稽だな言峰よ。まぁよい。この状況でうすら笑いが出る小僧には少し腹が立ってい
た所だ﹂
ここに来て言峰のあの気持ち悪い空気が強くなる。
﹁殺すなよ。あとで使う﹂
﹁分かっている﹂
それだけ言うと言峰は部屋の奥へと消えた。
そして周囲には無数の武器が出現し始める。
そう考えた時、どこかからコウジュがくしゃみをするのが聞こえた気がした。
えっと、コウジュの御陰で気は楽になったけど、これ、どうしよう。
周囲に浮かぶ武器群は今にも飛んできそうだ。
そう言いながら手を掲げるギルガメッシュ。
﹁小僧、軽く死んでおけ﹂
『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』
1015
ふぇっくし
出ていかないのかって
やだなーもう。
いや、出たいんだよ
﹄
?
というか足がヘタレて動けないというか、あまりの驚きに頭の中が驚きの白さになっ
けどね、現在進行形でとある問題に直面していて出て行けないのです。
そりゃぁもう肉を前にした犬並みにすぐに出ていきたいさ。
?
出るタイミング逃しちゃったんだよ。出るに出れないみたいな。
?
うん、そうだよ。目の前で戦闘始まってるよ。
現在の俺は既に教会の地下室の中に居たりします。
あ、どもども、コウジュです。
壁に耳あり障子にメアリーだぜ士郎に麻婆よ。
!!
﹃stage43:おわかりいただけただろうか
1016
ちまってるわけですよ。
で結局何が言いたいのかって
何と言えば良いのか⋮。
俺の周りにな、居るんだよ。いっぱい。
何がってそりゃあ││││
﹄
﹃ねぇねぇお姉さん、誰に向かって言ってるの
﹃独り言とか不気味だよねー
何でナチュラルに幽霊が居るの⋮
ってちょっと待とうか
﹄
あ、胸元に鎖とかついてなくて少し安心したのは秘密だぜ。
幽霊ってホントに居るんだねー⋮。
さんの半透明で浮いてる子達がいっぱい居たりするわけですよ。
えっとだな、つまり直面というか目の前に居るというか、今まさに俺の周りにはたく
?
?
てめえらにだけは言われたくない。
﹃ねー﹄
?
世界観違い過ぎやしませんかね
!?
?
!
いや冷静に考えたら同じ系列の月姫とかには似たようなやつが居るんだっけ
?
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1017
というかそもそもサーヴァントも幽霊みたいなものか。
でもなんでそれが普通にこの教会に居るの
どうしてこうなったし。
結果が幽霊たちとの邂逅なわけです。
さておき、それでなんとか気配遮断︵名状しがたい例のヒモ装備︶して侵入してみた
からであろう。ほぼ自分の血だが。
なんとか正気を保てているのも幾度かの戦闘を乗り切り、血というものに少し離れた
中身が元一般人の俺ではSAN値がゴリゴリ削れて行きますよ。ええ。
臭いとか気配とかがあまりにも俺の感覚を犯すのだ。
獣でもあるこの身体はこの場所を今もまさに忌避している。
正直今すぐにでもここを離れたい。
本来なら早くに来るべきだったんだろうけど、色々と踏ん切りがつかなくてね。
最初はさ、ずっと来れなかったからここにある死体の状態を確認しに来たんだ。
?
﹄
次々と浮かび上がる疑問を処理するのに必死で、部屋の中で戦闘が開始されているの
に集中できない。
⋮痴女ちゃうわっ﹂
﹃ねぇねぇ痴女さん
﹁っ
?
1018
!
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1019
思わず叫びそうになるがスネーク中なので声を押さえて静かに訴える。
気配遮断しているはずなのに普通に話しかけてくるこの子達もうやだ。色んな意味
で。
とりあえず、改めて周りに浮かぶ子達を見る。
後ろが透けて見える以外は比較的普通の小学生から中学生の子たちだ。
男の子も女の子も、その容姿や性別に至るまで子どもという所以外には共通点は無
い。
訳だが、どこから出てきたのだろうか
その彼ら彼女らが、士郎達が入った扉の外から覗いている俺を囲う様に浮かんでいる
いや幽霊だから壁とか関係ないのか
?
比較的冷静でいることが出来ているのはこの幽霊の子たちの姿が透けている以外は
映画位ならまだしも、生で見ることになるとは思わなかった。
俺、ゾンビとか攻撃できそうなものは割かし大丈夫なんだけど、幽霊って駄目なんだ。
ゾクリ、と背中に氷を入れられたように寒気が走る。
るということだ。
この場所に居る幽霊、ということはつまり部屋の中にある死体に関連する可能性があ
けど問題はそこじゃない。
?
﹄
映画などの様な怖気を催す物ではないからだ。
﹃痴女のお姉ちゃん、聞こえてるんでしょう
﹁だからちゃうねんっ﹂
さっきから痴女痴女煩いよ
誰が好き好んでこんな姿するか
?
﹃まぁ僕たち生きてたらそれなりの年齢だからね∼﹄
って待て、この子達何で恥女とかって言葉知ってるんだ
!
!
﹂
?
﹂
!?
ほんとやだこの子達。もう帰りたい。
これでも一応全部小声で話してるが、いまにも声を荒げてしまいそうだ。
﹁違ぇーよ
﹃っていう設定なんですね分かります﹄
慢して着てんの。おk
﹁っていうかさ、この服装は特殊な効果があって、隠れるために必要な効果があるから我
ナチュラルに心の声を読まれた気がするが、もうなんか突っ込むの疲れた⋮。
さいですか⋮。
し﹄
﹃精 神 年 齢 上 が る の は 当 然 で し ょ。条 件 そ ろ え れ ば 外 に 行 け る か ら 知 識 も 入 っ て く る
?
1020
ただまぁ、セイバーも金ぴかも気配察知は苦手な部類なのか、俺が隠密になれてきた
のもあるからか小声位なら出しても今のところばれていない。
そのおかげで少しずつ会話が出来ているのだが、ツッコミばかりさせられて話が進ま
ない。
﹄
﹂
うん、特に意味は無いけど帰ったらみんなに謝ろう。他意は無い。
﹃そだよ
?
でもだからってそれだけでこんな状況になるものか
輪郭を崩した。そう、それはもうドロンと。
ドロンと、目の前に居る少年は悪戯を思いついたような笑顔でそう言いながら身体の
﹃あ、言っておくけど、この姿はわざとこうしてるだけであって、実際はこうだから﹄
なのに目の前に居る。
俺が驚いたことからも分かるようにこの子達は原作に出てこない。
?
いやそれをしてないからこの子達はこんなことになっているのか。
神父仕事しろ。 ﹃うん、だってここ来るもの拒まずで防御的なものがガバガバだし﹄
?
?
﹁え、マジで
﹂
﹁って待て、条件をそろえればここから出れる
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1021
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ
叫びそうになった自分の口を無理やり押さえ、頭の中で絶叫する。
咄嗟に自分の声を防ぐことが出来た自らの瞬発力に感謝した。
なにせさっきまで会話していた幽霊君が半分ゾンビになったのだから。
!!!!!!!
透けている以外は普通の顔だったのに、今では透けている上に顔の輪郭が崩れ目玉は
流れ出て骨も所々見えてしまっている。
知らなかった。幽霊はゾンビにジョブチェンジできるのか。
いや、両方死んでるから似たような物
待て、そうじゃないぞ俺。
?
慌てて部屋の中を再び覗き見る。
そこへ、ドンっと腹まで響く轟音が届いた。続けて2発3発と続いていく。
とりえあず、いつまでも視界をぼやけさせている訳にもいかないので袖で拭う。
涙もろいこの身体をどうにかしてください。
くなる。
必死に誰に向かっての言い訳なのか自分でもわからないものを言う自らに余計悲し
﹁これ、あれやから、汗やから、びっくりして出た汗的な何かやから⋮﹂
﹃あ、ごめんお姉さん。泣くとは思わなかった﹄
1022
ゲート・オブ・バビロン
中では、士郎が干将莫邪を、セイバーがエクスカリバーを持ち、ギルガメッシュの
王 の 財 宝を弾きながら防戦している所だった。
混ざりたいなー。
最近獣の本能なのか、元々そういう気質でもあったのか闘いを見てるとホントにうず
うずする。
痛いのは嫌だけど、闘うのってなんかワクワクするよね
でも我慢だ。
どうしても訓練だと殺意を帯びた攻撃というものを体感できないからね。
それに、実戦を経験して経験値を積んでもらいたい。
士郎には出来る限りギルガメッシュの武器を見ておいてもらいたい。
!
そうだけど何だ
﹂
﹄
実戦が一番の糧になるのはどの業界でも同じだろう。ソースは俺。
﹁ん
?
?
﹂
?
言っている意味が一瞬理解できず、少し間の抜けた返答をしてしまう。
﹁⋮ぅえ
こえはしないだろうけど﹄
﹃いやー、あの金色の人倒してくれないかなーなんて思ってね。横でNDKしたい。聞
?
﹃ねぇねぇお姉さんあの人たち仲間
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1023
NDK⋮、﹃ねぇどんな気持ち
﹄を言いたいってことだよね
?
んだけど⋮。
何なのさっきからこの子、黒いし、子どもが知ってて良い知識じゃない様な気がする
?
周りの子も
﹃俺も俺もー﹄
美味いって言われたいわけじゃねぇけどよー﹄
?
﹂
?
﹂
?
﹃﹃﹃﹃死ねばいいのに⋮﹄﹄﹄﹄
﹁あ、じゃあ言峰は
まぁ、ソーデスヨネー。
俺と会話してた子たち以外も、後ろで当たり前だなと首を縦に振る。
﹃﹃﹃﹃当然﹄﹄﹄﹄
﹁やっぱりあいつの事嫌い
すり抜けてるからシュールな光景でしかないけど。 を蹴った。
ふてくされた様に言う先程までとは別の幽霊少年は、チッと舌打ちしながら近くの壁
言うんだぜ
﹃つーかよー、あいつマジうざいんだけど。人の事毎回毎回喰っといてマズイって文句
!?
﹃あ、それ私もー﹄
1024
またしても後ろの子たちも頷く。
辛辣でだねぇ。
でもそれも当然か。それだけの事をしてきたんだからな。
むしろ魂とはいえ、歪んでないのがスゴイのではないだろうか。
ここの穢れた空気の中にずっと居る事もあるし魂が歪んでてもおかしくないと思う。
でもこの子達は笑えている。
けして良い感情を発露している訳ではないが、それでも冗談混じりに言える程度には
確固とした自分を持って居る。
強いな、この子達。
﹂
?
そこは無いよっていう感動のシーンじゃ⋮。
?
?
わけだし恨むなとかまず無理っしょ﹄
﹃だよねー。他の人に聞いても何で私達だけがみたいなー
﹂
﹃でもね、いつからか考え方が変わったんだよ﹄
﹁考え方
?
﹄
﹃最初は意味も分からず身体が死んでるのに魂を縛り付けられてずっと食べられ続けた
え
﹃あるに決まってるじゃん﹄
﹁他の人とかも恨みそうになった事は無いのか
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1025
﹃うんうん、あの二人は私たちみたいなのに頼らないと生きていけないんだねーとか、
養ってあげてるんだーとか、とりあえず可愛そうな人だなーとかね。そう思い始めたら
を送ってるか
まぁそんなのとは関係なしに鬱陶しいとかは思うけどあの二人﹄
何て言うか呪いみたいな恨みは消えたかな。他の人に対して恨みをぶつけるのもお門
違いだし
おばけにゃ学校も試験も何にも無いんじゃなかったのか
﹃学校もタダで行けるしねー﹄
なー﹄
﹃そう思ったら身体が楽になってさ、それからはそこそこな幽霊ライフ
何だかもう俺もそんな目でしかあいつらの事見れない。
言峰ェ⋮。ギルガメェ⋮。
死んだ目と優しい目を混ぜたような微妙な表情をしながら言う子達。
﹁うわー⋮﹂
?
でノー〇ル賞ものだと思うんだよねー﹄
研究議題って⋮お前さんひょっとして大学課程も見に行ってんの
ってか、ノー〇ル賞って⋮。
下手すると普通に俺より賢い
?
!?
﹃あーでもレポート書けないのはつらいなぁ。良い研究議題みつけたのにさぁ⋮。マジ
?
?
1026
﹃俺は見たいアニメ見るのに誰かの家に行って後ろから見るしかないのが辛いなー⋮っ
つかパソコンでイヤホン着けて見んなよな、音声無しじゃつまんないじゃん。まぁギャ
ルゲーは文字を読めるからまだ良いけどさ﹄
﹄
﹃あ、私もそれ思う。生中継とか音声有りでみたい。後コメントしたい﹄
後ろからとか恐ぇよ
ホント何してんだよお前ら
ってかギャルゲーに関してはほんとやめたげて
犯人はお前らかー
ってか実体化
!!!?
何この高性能幽霊達
!?
そ の ラ ン サ ー が 幽 霊 だ と 気 づ か な い レ ベ ル で の 高 度 な 実 体 化 を 何 故 元 々 は 一 般 人
ランサーってキャスターのクラスにも慣れる程に魔術に対する造詣も深いはずだ。
ルで﹂
﹁って今更だけどなんでそんな実体化とか出来るのさ。それも青タイツにばれないレベ
!!
合う人になってたもんねー。なにあのやってみたシリーズ﹄
﹃あーあの人面白かったのにねー。実体化して色々教えてたらリアルにジョ〇ョ立ち似
?
!?
!!
!!
﹃あ、そういえば最近青タイツのお兄さん見なくなったよねー
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1027
だったであろうこの子たちが出来るのだろうか
?
﹄
!
﹁うん
昔から出来てたわけではないのか
﹂
?
魔力だっけ
それを聞いて俺は冷や汗をかいていた。
ね﹄
今はもう山の方に吸われるだけでこの間程充実してないから実体化できないんだよ
?
その前にも一回数分ほど消えてたし、山奥の電波並に不安定な存在なんじゃないかな
2,3日前から居なくなったんだけどね。
?
の町に不思議パワー的なものが多くなったんだよ。
﹃まあね。アレはえっと、数週間前くらいだったかな。何かがこの町に来て、それ以来こ
?
﹃ねー﹄
﹃けどもう少し早くから実体化できるようになってたらなぁ﹄
それは嘘でいいよ。俺が困る。
があるなんて嘘だったんだ
﹃だね。告白したら来世でなって言われたし。温かい目で見られたし。エタロリの需要
﹃いや、たぶんアレは気づいてたね。その上で相手をしてくれてた﹄
1028
なにそれタイミング的になんか身に覚えがあるんですが。
いやいや、でも流石に俺の身体に発生してたものが垂れ流されてて、しかもそれが幽
霊を具現化できるほどのものだとかいうご都合主義ある訳無いし気のせいですよね。
幻想を現実に出来る云々かんぬんとか、そういえばキャスターの話では産みだしてる
もしくはどこからか持って来ているとかって話だったけど、使ってない分がどうなって
いるかは気にしていなかったけな。
普 通 に ゲ ー ム 感 覚 で ゲ ー ジ マ ッ ク ス な ら そ こ で 止 ま っ て る か な ん か で 気 に し て な
かったし。
になるはずだ。
?
うん、よし。気にしないようにしよう。
俺が気付かなかったことにすれば完全犯罪
﹂
?
ら声を掛けてきた。
俺が自分の中でQED的な自己完結をしていると、幽霊の少年が扉の中を指さしなが
﹁なんだ
﹃ところでさ⋮﹄
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1029
﹃あの人たちピンチだよ
﹂
?
﹄
?
ちょ、え
えええ
?
審判タイム
◆◆◆
くそっ
!!!
エルキドゥ
コウジュがギルガメッシュの事を慢心王って言ってたけど、悔しいかな慢心してよう
ないのが痛い。
いくら場の空気に飲まれなくなったとはいえ、ギルガメッシュが弱くなったわけでは
!!
!?
まさに浮遊する武器軍に貫かれようとしていた。
視線を士郎達の方に向けると、2人が鎖︵多分天の鎖だと思う︶に捕まっていて、今
﹁え
1030
がこいつは強い。
コウジュに貰った大剣を出して盾にしつつ何とか凌いでいるが、それは向こうが遊ん
でいるからにすぎないだろう。
今のところ何とか出来ていてもスタミナや魔力がいつか尽きてしまう。
セイバーはまだ余裕がありそうだが、それもまたしかり。
あいつがこのままずっと宝具の雨だけで攻撃してくる訳が無い。
そうなればどうなるか、想像に難くない。
なんとか活路を開かないと
そして腕を組み、尊大な態度でこちらを見る。
そう思ったのがフラグだったのか、ギルガメッシュは一度宝具の雨を止めた。
!!
﹂
!!
│││射出した。
﹁│││終わりだ﹂
ギルガメッシュが剣を2本中に浮かべ、それを│││
﹁これで│││﹂
黄金の鎖が空間を割くように現れ、俺とセイバーを絡め取る。
終いだ。天の鎖よ
﹁このままいつまで凌げるか見ているのも面白そうだが、時間が押していてな。これで
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1031
くそ
まったく動けない。
そこで思い出したコウジュに貰った切り札。
これって、手に持ってなくても宣言すれば出せるか
﹁真力﹃えk﹁やらせねぇよ
﹂コウジュ
﹂
!?
する。
ポケットに入れっぱなしになっているとっておきに一縷の望みをかけ、宣言しようと
!?
!!
腹状のつなぎ目が見える。
左に持つ剣は前に見せて貰った刃の部分が紫色に怪しい光沢を放っており、刀身に蛇
発している。
右手に持つ、赤と黒のどこか生態的なもので構成されている剣は鍔の部分が黒く光を
両方とも見た事が無い。
そこで目に着くコウジュが両手に持つ剣。
どこから出てきたのかコウジュは悠然と俺たちとギルガメッシュの間に立つ。
﹁やーやーまたあったじゃんよーギルガメェ﹂
﹁貴様⋮﹂
すべて消し去った。
俺たちの前に飛び込んでくる影、コウジュは手に持つ剣で俺に向かってきていた剣を
!!
1032
特訓の賜物か、剣の類をみると自然と解析するようになっていたから目に着いた。
だが解析できない。
いや、理解したくない。
俺の中の何かが全力で拒否している。
出来るのは分析までだった。
自然と俺はそれから目を離し、コウジュ自体を見るようにした。
何故だか、これ以上見ていると飲み込まれそうな感覚に陥ったのだ。
できれば先に言って欲しかった。
というか、コウジュさんは一体どこから
やけに良いタイミングだったような⋮⋮。
いや、コウジュだしなぁ⋮⋮。
無礼にもほどがあるぞ貴様
この言葉だけで全て納得できてしまう俺は悪くない筈だ。
﹁我が名前ギルガメッシュだ
﹁はいワロスワロス﹂
!!
﹂
よっぽど嫌いなのか、あくまでも小馬鹿にしたような態度でギルガメッシュと対峙す
!!
?
思い出したように、こちらを見ずに俺に忠告してくるコウジュ。
﹁あ、士郎。これは解析しない方が良いよ﹂
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1033
るコウジュ。
﹂
全てを飲み込め
ヴィヴィ・デッザ
﹂
!!!
﹁我の宝具が
﹂
きっさまぁぁぁぁ
﹁これで終わりだと思うな
﹂
!!!
﹁でぇぇりゃぁぁぁぁ
﹂
それが次第に輝きを放っていく。
蛇腹剣の軌跡で武器を弾きながら陣を書いたようだ。
ていくのが分かる。
次第にコウジュの前に魔法陣の様なものが描かれ、傍目にもその中心に力が集約され
コウジュは言いながらもまだ舞うようにウロボロスを振るう。
!!
!?
るだけで飲み込むように消していく。
鞭のようにしなりながらコウジュの周囲を飛び回り、射出された宝具をことごとく触れ
俗に言う蛇腹剣だったようで、コウジュが言うには光波鞭と呼ばれるそれは文字通り
ウロボロスと呼ばれた剣はコウジュが振るう事で伸びる。
!!
それに対しコウジュは、今度は左の手に持つ剣を大きく振るった。
ギルガメッシュがその態度に腹を立て、再び宝具の雨がこちらへ放つ。
﹁許さん
!!
﹁邪鞭ウロボロス
!!
1034
!!!
魔法陣に集まる力がはち切れんばかりになった時、最後にコウジュは唐竹割りに大き
く上から振り下ろす。
魔法陣を割るように振るわれたウロボロスは魔法陣に集まる力と共に伸び、斬撃とし
て宝具を飲み込みつつギルガメッシュに迫る。
﹂
!?
﹁もう許さんぞ貴様⋮﹂
解放された俺とセイバーは再び構えて対峙する。
もう名前からして破滅をもたらす災厄の剣だし⋮、この鎖を切っちゃう位だし⋮。
ホントに申し訳ないが正直怖いです。
助けてくれるのは嬉しいがもう少し離れた部分でやって欲しい。
その言葉の通りに剣が触れた部分の鎖は消えるのではなく滅びる。
﹁滅ぼせ魔剣レーバテイン﹂
るう。
笑いながらコウジュはこちらを向き、今度は右手の剣を俺とセイバーを捕える鎖に振
﹁ぷはっぬおぉぉだってっ﹂
ギルガメッシュは宝具を打ち出すのをやめて、全力で横に跳んで避ける。
﹁ぬおおぉぉぉぉっ
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1035
先 程 ま で の 事 が 無 か っ た 事 の よ う に 憮 然 と し た 態 度 で こ ち ら を 睨 み つ け る ギ ル ガ
メッシュ。
﹁コウジュ
﹂
ここは任せた
放っておく訳にははいかない
﹁分かったコウジュ
﹂
!!
﹂
﹂
!!
﹁やらせるかよっ
!!!
﹁行かせはせん
俺とセイバーはすぐそこの階段を上っていく。
コウジュだけに任せていくというのは正直気が引けるが仕方が無い。
!!
!!
そうだ、あいつは聖杯の出し方を知っているようだった。
それを聞いてハッとする。
追ってくれ﹂
﹁ここは俺1人で十分抑えられるさね。セイバー達はいったん外で回復した後、言峰を
セイバーも疑問に思ったのか質問する。
?
?
﹁どうしてですか
﹂
﹁許さん許さんうっさいっての。さて、セイバーに士郎、ここは俺に任せて行け﹂
1036
後ろで再び戦い始める音が聞こえる。
どうした
先程までの勢いはどこへ行ったぁ
だが、コウジュを信じ、振り向かずに一気に駆け昇る。
任せたぞコウジュ
◆◆◆
﹁はははははははっ
宝具が降り続ける。
﹁どうだろうねぇ⋮﹂
剣も、槍も、斧も⋮。
﹂
!!?
雑種の分際で無礼であろうがぁぁ
﹂
だが俺はそれを何でも無いように見せながら時に破壊し、時に飲み込ませていく。
俺を殺さんとして。
俺を貫かんとして。
ありとあらゆる宝具が俺に向かって降り続ける。
!!?
!!
!!!
﹁先程からその言い草っ
!!
!!!
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1037
降り注ぐ宝具の勢いが増す。
だけど俺は、あえてその全てを更に早く武器を振るうことで消し去っていく。
なにせギルガメッシュの後ろには幽霊の子たちの身体がある。
下手に弾きでもすればどうなるか分かったものじゃない。
先程当人たちと話したことを置いておいても、あの子たちの身体をこれ以上どうにか
されるのは気に食わない。
その本人たちは扉の外から俺にエールを送ってくれてるけどね。
﹁ふん、忌々しい宝具だ﹂
さておき、これ以上はさすがに周囲の被害が馬鹿にならないしそろそろ終わりにした
い。
そろそろ士郎達はここから離れただろ。
まだやらなければならないこともあるし、終わりにしようか。
﹂
あーでもなー、マジでやると絶対協会そのものが潰れるし、どうしたものか。
﹁天の鎖っ
むむ
!!
あれさっき壊さなかったけ
?
ああ、やっぱり魔剣を扱いきれてなかったのかね
?
?
1038
ヘタレ言うなし。
正直触れた物を壊すって能力怖くて使いきれねぇんだよな。
壊しちゃいけないもんまで壊しそうだし。
その所為か無意識で壊しきれてなかったのかね
あと、この剣うるさい。
それはさておいて、これは丁度良いな。
とにかくうるさすぎて集中できないので早く使うのを止めたい。
こんな感じになるとはね。
に取り込まれてしまう〟ってのが確かにあったけどさ。
この剣の概念として〝闇を根源とする魂が宿っており、使い方を誤ると全てをその身
壊せ壊せと語り掛けてくるのでほんとうるさい。
?
遠慮なくやりたまえ金ぴか君
痛いのは嫌だけど、これで俺がやられれば一応の決着がつく。
さぁ
!!
ぐるぐるぐるぐる││││、
空間から現れる無数の鎖が俺の身体をぐるぐると縛り付け、締め付けられていく。
どう考えてもドMなセリフみたいだが、俺はドMじゃないのであしからず。
!!
││││ってしつこい
!!
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1039
どんだけ包むんだよ
俺の身体で出てる部分が顔だけじゃねぇか
って口もか
窒息して死ぬわ
!!
!!
る。
我に逆らった事、地獄でなげけぇっ
当然俺は身じろぎ一つできない状況だ。
﹁これでとどめだぁっ
﹂
!!!
貫け我が宝具よ
﹂
!!
他愛無い
所詮は雑種か
!!
﹂
!!!
ほんと痛ぇ⋮。
俺の身体は貫くに貫かれ、穴が開いていない場所などない位に穴だらけだ。
﹁ふははははははは
!!!!
そして刹那の後、俺の身体にいくつもの衝撃が走り、激痛が体中を支配する。
その声と共に、幾つもの風を切る音を俺の耳が拾う。
﹁今更遅いわ
!!
それを見てなのか嬉しげに声を荒げながらギルガメッシュが話す。
見習いでも神性に対する拘束力は十二分に発揮しているのか全く動ける気がしない。
﹁ムー、ムー
﹂
結局デカい帽子以外は全て包まれ、蓑虫のようにされながらも空中に縛り付けられ
!!
!?
!
!!
1040
けど、最初に比べて何でかマシだ。
慣れたのかな
それとも脳内物質とかの問題か
!!
さすがは不老不死。
もっていけぇい
﹂
そして、貫かれた俺の身体は、既に回復しようとしている。
以前に比べ、そんな事を考える余裕がある。
なんにせよ、こういう時は便利だ。
?
?
﹁ハハハハハハハハ
それらは不死殺しだ
やっぱり不死殺し。
!!!
これで貴様も終わりだっ
!
うん、予想はしてたけどこれ多分やばいやつ。
それが3つ。
追加で、新たに禍々しい気配が生まれる。
!!
﹂
もし、慢心していないやたら察しの良い王様モードのギルガメだったらどうしようか
助かった。
でも、ギルガメは俺の不死が俺自身のモノからだけのモノだと思ってるみたいだから
なんだかんだで俺の存在は不安材料なんだな。きっちり殺しにかかりやがった。
!!
﹁ついでだ
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1041
と思ったぜ。
まぁ実際俺の身体は蘇生がストップし、血液は流れるまま足元に血溜まりをつくって
いる。
意識は何とかあるが、この身体は明らかに死に体だ。
指先一つ既に動かせない。
それ以前に感覚が一つもない。
当然か。
今、俺の身体は確実に死に向かっている。
それにしても、型月世界って不死存在が居る分、不死殺しも充実してるからもしかし
てと思ったがやはり持ってたか。
でも俺は不死殺しだけじゃぁ殺せない。
いや実質的には一回死ぬんだけどね
ほんと、生存チート万歳だわ。
らどうにかしないといけないな。
ゲームでもそうだったが、生存系の能力に頼っているとプレイヤースキルが落ちるか
おかげでこれに頼り過ぎて自分の命を軽く投げ出しすぎている気がする。
?
﹁ふん。所詮幕引きはこんなものか。さて、我も聖杯の元へ行くとするか﹂
1042
ギルガメッシュが俺に刺さっている宝具や、天の鎖を消して、歩いていく。
言葉通り聖杯の元、柳洞寺の出現ポイントへ向かうのだろう。
一方、支えを失った俺の身体が床へと放り出される。
ぐしゃっと、俺の身体が倒れたからであろう音が耳に届く。
とりあえずはこれで、原作通りにやつらを最終決戦場へと向かわせることが出来たか
ね
これが一番穏便だよな。
ここを壊さずに金ぴかだけを蹴散らす術を現在の俺は持っていないからな。
ランサーの位置が俺だけど、それは仕方ない。
?
・
あー⋮床、冷てぇ⋮⋮。
ハッキリ死ぬ感覚があるのはそういや、初め⋮て⋮だっけ⋮⋮。
意識が跳ぶわ。
あー、やべ、もう無理。
﹁⋮っ﹂
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1043
・
・
﹁はっ
﹂
﹃あ、起きたー
﹄
ってあれ
!?
?
い天井だ〟は鉄板だろjk﹄
﹁何言いだしてんの
﹂
﹃はー、無視かよ。まぁ百歩譲って無視は良いとしても、こういう起き方したら〝知らな
でも、誤魔化すためにワザとやられたことは思い出した。
どうやらまだ頭の覚醒が追いついていないらしい。
うん、自分で行ってて意味が解らん。
かと一瞬焦るがよく考えれば休みじゃないかと安心する心境だ。
気分的にはほんとは休みなのに目覚まし時計が鳴らずに目が覚めたせいで遅刻した
辺りを見、静かなことに胸をなでおろす。
バッと身体を起こし、周囲を確認する。
﹁ここ⋮は⋮あーそっか﹂
?
!?
1044
﹂
起きぬけに耳に入ったよくわからん助言に、ついツッコミを入れてしまう。
﹁って、おお
その頭で考える。
今俺に話しかけたのは誰だ
﹂
というか予想外に近いとこに居た。
﹄
﹄
﹄
﹁うん、まあね。どれ位経った
﹂
﹃う∼んと三日位
﹁マジで
﹃嘘だっ
ってか、使い方違ぇよ
?
もう何この子達怖い。
﹁嘘なのかよ
﹂
そこには俺を囲うようにして幽霊の子達が居た。
そう思い、声のした後方を向いた。
?
同時に、一気に頭が覚醒した。
聞こえた声に思わず反射的にツッコんでしまう。
?
!!?
幽霊だからとかそんなものが些細な事に感じる位に怖い。
!!!
?
!!! !?
?
﹃起きた
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1045
何がっていうと⋮⋮あ、そうだ、俺がツッコミに回るしかないって言えば分かるかね
⋮⋮自分で言ってて悲しくなってしまったぜ。
?
でも意識が回復しなかったのはなんでだろう
今までは意識を失う暇すらなかったのに。
もしや不死殺しの影響かな
﹄
?
言うだけのことは結構してるかもだけど、休憩するのはもう少し先だ。
﹁まぁな。やることやるまでは弱音を吐いてられないさ﹂
﹃ねぇねぇ、ほんとに大丈夫
事態が起きてもある程度対処できるように計画してある所か。
まぁ、不幸中の幸いはキャスターに予めバックアップに入ってもらってるから不測の
その初めてのは何の感慨も浮かばないけどさ。
あそこまで殺しつくされるのは初めてだったし。
?
?
スケープドールの御陰か身体はすぐ治ってたのか。
﹁そっか⋮﹂
てたみたいだね﹄
﹃ちなみに現在はそんなに経ってないよ。まぁ身体が治ってからがそこそこ意識を失っ
1046
﹃やること
﹄
のは都合が良い。
﹁するかぁぁぁぁ
O☆HA☆NA☆SHIされるぞ
﹂
ホントにブレねぇなこの子達
﹄
!!!
﹃え∼、まぁしかたないわねぇ﹄
﹁む⋮いや、だけど、大事な話だ﹂
﹃嘘だよ嘘。なんか辛気臭い顔をしてたからついね﹄
復活したてで精神的に疲れてるからそろそろ勘弁してつかぁさい
!!!
俺が先程までとは違って真剣な話をしようとしているのを分かってくれたようだ。
けど、しっかりと聞く態勢になって、俺の言葉を待ってくれる。
先程までと変わらず、笑みを絶やさずにこちらを全員で見てくれる。
!!
!!!!!
!!
本来なら色んな手順を踏んでから聞こうかと思ったんだが、ある意味こうして話せた
俺は、ここに来た最後の目的を果たすために幽霊の子たちを見渡しながら言う。
﹁⋮あのな。皆に話があるんだ﹂
やりに来た事⋮。
俺が苦笑交じりに言うと、幽霊の少年が首を傾げながらそう聞いてくる。
?
﹃やべぇぞ皆逃げろ
『stage43:おわかりいただけただろうか?』
1047
﹂
そんな彼ら彼女らを、改めて見回す。
そして、俺は意を決し口を開く。
生き返りたくはないか
?
﹁あのな
?
1048
﹄
!!
さそうだったので、もう家に戻って万全の状態にした方が良いという話に落ち着いたの
それに、先にセイバーを回復しようとしたらセイバーは俺に使おうとして話が進まな
い。
内心、このまま言峰を追いたくて仕方が無いがそれで死んでしまっては元も子もな
たい。
これをいくつかコウジュに貰っていたのだが、出来ればセイバーと共に回復しておき
象一人を規定値まで瞬時に回復してくれる。
このカードはコウジュが持つアイテムをカード化したものなんだが、宣言をすれば対
回復できない。
コウジュに貰っていた回復用のカードがあと一枚しか無い。これではどちらかしか
一度体制を立て直すため、家へと向かうことにしたのだ。
ころで目的地を変更した。
俺とセイバーはコウジュに言われたように言峰の後を追おうとするも、教会を出たと
﹃stage44:思い⋮出した⋮
『stage44:思い…出した…!!』
1049
だ。
あと、家には他のサーヴァント達が居る。
戦闘能力が大幅に下がっていると言っていたが、それでも助力を得られれば格段に勝
率は上がる筈だ。
とはいえ時間は刻一刻を争う。
俺たちはとにかく急いで屋敷まで走った。
だが、家が見えてきたところで異変に気付く。
それはセイバーも同じようで、二人ともに屋敷を前にして足を止める。
﹂
?
少なくとも遠坂やサーヴァント達は朝の時点では居たのに、だ。
だが、静かすぎる。
遠目には屋敷に異常はないし荒れた様子も見られない。
消失しているのだ。
いつも我が家を包んでくれていた結界、更にはキャスターが張っていた結界までもが
入口である門の前、そこまで来ると先程感じた違和感の正体に気付く。
ゆっくりと、警戒しながら屋敷へと近づく。
﹁ああ。でもこの違和感は何だ
﹁士郎、気を付けてください。何かおかしい﹂
1050
﹁とにかく中へ行こう﹂
﹁はい﹂
門を潜り、玄関扉をも潜り屋内へと踏み入れる。
勿論警戒を怠らず、何があってもすぐ動けるようにしながらだ。
だが、入ってすぐに感じた異臭、そして暗がりに見えたものに思わず立ち止まる。
﹁なんだ⋮これ⋮﹂
俺の目に飛び込んだのは、嵐が通ったのではないかと思えるほどに荒れた自分の家
だった。
そして、そこら中に飛び散っている血痕。
嫌な想像が頭を巡る。
﹂
﹂
この家に居たはずの遠坂達は何処へ行ったのか。
皆
!!
!!
﹂
!?
壊れるほどの勢いで戸を開け、居間に入る。
﹁こっちか
血痕はどうやら居間の方に向かうように付いている。
靴を脱ぐのも忘れ、走る。
﹁士郎待ってください
!!
﹁遠坂
『stage44:思い…出した…!!』
1051
﹁遅かった⋮じゃない⋮の⋮⋮﹂
﹁遠⋮坂⋮﹂
﹁凛⋮﹂
ある
﹂
!!!
﹂
?
それを慌てて使って遠坂を回復する。
焦っていて忘れていたが、後一枚だけだがコウジュに貰ったモノが残っていた。
﹁あ、ああ
!!
﹁士郎⋮回復カード持って⋮ない⋮
俺はその間、何とか無事だった包帯を使って止血をしていく。
るため、タオルと洗面器を持ってくるよう頼む。
とにかく止血をしないといけないと思った俺はセイバーに流れ出る血をどうにかす
その姿は今にも消え入りそうだ。
﹂
そこに居たのは脇腹を押さえ、普段着ている赤の服を血で更に染めて、床には血で水
溜りを作った遠坂だった。
セイバー、タオルと洗面器を
﹁まさか⋮綺礼が⋮ゲホッ⋮っ⋮コウジュが隠すわけ⋮ね﹂
﹂
﹁遠坂もう良いしゃべるな
﹁はい
!!
血を吐きながらも何かを言う遠坂。
!!!
!!
1052
﹁うぐ⋮﹂
﹁どう⋮だ
ろか。
﹂
血も止まっているようだし、失った血液までは戻らないが一先ずは安心と言ったとこ
くなった顔を見て安心する。
少し辛そうな顔をしたが、カードの効果で先程までからは考えられない位に血色のよ
﹁え、ええ⋮かなりマシになったわ⋮﹂
?
タオルを⋮もう必要なさそうですね。よかった﹂
!!
﹂
?
そして、苦虫を潰したような表情になりながらも語り始めてくれた。
それを聞くと、一気に遠坂の顔が曇る。
﹁それにしても一体何があったんだ
遠坂もそれに答えるように柔らかに微笑みながら礼を言った。
﹁ふふ、ありがと﹂
る。
部屋に入り、遠坂の顔を見てどうにかなった事に気付き、張りつめた空気を霧散させ
そこへ、物を取りに行ってもらっていたセイバーが戻ってきた。
﹁士郎
﹁ふぅ⋮ありがと衛宮君。ホントに死ぬかと思ったわ﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1053
﹂
﹂
﹁ごめん⋮イリヤを守れなかった。綺礼の奴に連れていかれちゃった⋮﹂
﹁イリヤが
﹂
でも、それだと遠坂の言い方からして違うし⋮。
それって、キャスターが桜を器にしようとした︵演技だったけど︶みたいな感じか
﹁ええ⋮﹂
﹁器⋮
﹁イリヤはね⋮聖杯を降臨させるための器なのよ﹂
﹁しかも言峰にかやっぱりこっちに来たんだな⋮けど何でイリヤが
!?
﹁作られたって事は⋮ホムンクルスってやつか
﹂
﹁イリヤの体調が悪くなったのっていつだったか覚えてる
﹁イリヤが⋮﹂
﹂
?
遠坂は続けて言う。
た人間のことなんだけど、イリヤは魔術回路を人間にした子なの﹂
スではなく聖杯降臨の為に特化されている筈よ。魔術師っていうのは魔術回路を持っ
﹁そうよ。それもただの⋮って言い方には語弊があるけど、普通に作られたホムンクル
?
なの﹂
﹁コウジュが言い辛そうだったから言わなかったけど、イリヤはその為に作られた存在
?
?
?
1054
いつからだっただろうか
あ、確かに。
﹂
?
コウジュは風邪だって言ってたけど違ったんだな。
イリヤがずっと寝ていたのは内側にあるサーヴァントの力の所為だったわけだ。
そうか⋮今分かった。
ものなのよ﹂
役目は6騎のサーヴァントの受け皿。理屈は今は省くけど、簡単に言えば鍵みたいな
そして問題は小聖杯。これがイリヤに当たるわ。
ら。
んだけど、それはたぶん柳洞寺のどこかにあるわ。あれほど召喚に適した霊地は無いか
﹁聖杯を召喚させるために必要なのは大聖杯と小聖杯。大聖杯は膨大な魔力の受け皿な
確かにランサーが来た日からイリヤの事を見ていないな。
セイバーは覚えていたようでそう告げる。
サーが来た日です﹂
﹁以 前 か ら 時 折 体 調 を 悪 く し て い た よ う で す が、完 全 に 起 き て こ な く な っ た の は ラ ン
前々から行動が一定しなかったからよく覚えてない。
?
﹁しかし⋮、それでは何故コウジュはこちらに来たのでしょうか
『stage44:思い…出した…!!』
1055
コウジュがその事を知らない筈がないし、最初は主従関係だったかも知れないけど、
長年一緒に居た家族の様な仲の良さだった。
それこそ姉妹のような。
そんなコウジュがイリヤを放って言峰教会に来た理由って何だ
いや、でもそういえばこっちには││、
﹁そういえば、此処に居た他のサーヴァント達はどこへ行ったんだ
俺に続けてセイバーが言った。
﹁そういえば、屋敷の中に他の気配がありませんね﹂
聞きたい事があるんだけど⋮﹂
﹂
﹁そういえば、今の言い方だとコウジュはそっちに行ってたみたいだけどどこに居るの
ってことは、アーチャー、アサシン、キャスターが行方知らずか。
いってもらったけど⋮、後は分からないわ。士郎達の方に付いてると思ったんだけど﹂
﹁ラ ン サ ー は 多 分 あ の バ ゼ ッ ト っ て 人 を 避 難 さ せ て た は ず、ラ イ ダ ー に は 桜 を 連 れ て
それに対し遠坂は、一瞬キョトンとした後に口を開いた。
?
?
1056
けど、コウジュ自身が言った事とはいえ置いてきたという事実は少し言いづらい。
コウジュなら大丈夫だと思う。
﹁えっと⋮﹂
?
﹁凛、コウジュは私達を逃がすためにギルガメッシュと言峰教会で闘っています﹂
そんな俺を見てかセイバーが代わりに答えてくれた。
に回復してから万全の態勢で行った方が良いって気づいてこっちに帰ってきたんだ﹂
﹁コウジュは言峰を追えって言って俺たちを逃がしてくれたんだ。けど途中で、念の為
たかな⋮﹂
﹁それで私がこのザマで、最後の一枚を使わせたってわけね⋮。ホントに選択を失敗し
今チラッと短剣の柄の様なものが遠坂の後ろで見えたような気がしたが⋮何
選択って、何か失敗したのだろうか。
ん
で隠すんだ
そんな疑問を俺が持った事に気付いたのか凛がこちらを向いて言う。
?
?
その笑みは嫌な予感しかしない。
だからと言ってこちらにシフトチェンジはやめていただきたい。
ツッコムのは可哀そうなことなんだろうな。
前半は例のうっかり関係の事なのだろう。
ちらを見る。
俺の疑問は解消されずに、遠坂はそれを誤魔化すように目を細めながらニヤニヤとこ
﹁こ、こっちの話だから士郎は気にしないでっ。それにしても、士郎がねぇ⋮﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1057
﹁士郎が一度引く事を選ぶなんてね。少し前なら一直線だったのに、これはコウジュさ
まさまかしら﹂
って遠坂
!?
俺が立ちあがると、セイバーと遠坂も立ち上がる。
﹁ええ﹂
﹁はい﹂
これ以上はただの時間の浪費となるだろう。
それに、イリヤが拐われたんだ。
遠坂が求めてたくらいだからもうカードのストックも無いのだろう。
全快には遠いし、身体はまだ重たいが強化の魔術で何とかなるはずだ。
数十分とはいえ、それだけあれば俺の中にあるセイバーの鞘が回復してくれる。
話している間にそれなりにだが回復出来た。
﹁そろそろ行くか﹂
さておき、だ。
褒められた気がしないのは俺だけじゃない筈だ。
﹁ふふ、すねないの。良い兆候だって褒めてるんだから﹂
﹁む⋮﹂
1058
﹁と、遠坂
その傷で行くつもりか
﹂
!?
だけど彼女は気丈にも肩に手を当てぐるぐると回しながら無事をアピールする。
回復出来ていてもやはり遠坂はまだまだ動くべきではないのだ。
じゃない。 つまり失血した分や疲労感は拭えない。
あ の コ ウ ジ ュ の カ ー ド は 回 復 と は 言 っ て も 時 間 回 帰 の よ う に 全 て が 戻 っ て く る 訳
た血液を考えると、余裕があって浮かべてるものとは思えない。
そう、どこかあの紅い弓兵に似たニヒルな笑みを浮かべながら言うが、辺りに散乱し
﹁何言ってるのよ。回復してもらったから今のあなた達とそう大差は無いわ﹂
!?
他のサーヴァント達が当てにできない以上ね﹂
?
一発あいつを殴らないと気が済まないわ﹂
!!
てしまった。
俺がどうやって説得しようかと考えていたら遠坂はさっさと玄関の方へ歩いていっ
﹁ほらっさっさと行くわよ
確かにそれはそうだが⋮。
い方が良いでしょ
﹁待った。さっきも言ったけど、今のあなた達と変わらないわ。それに、今は一人でも多
だがそれを遮るように遠坂が言う。
セイバーがその事について言おうとする。
﹁そうは言っても凛⋮﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1059
﹁実際、凛が居るだけで勝率は上がります。説得は無理でしょう﹂
セイバーが俺にそう言うが、心配なものは心配だ。
本当ならセイバーにも闘って欲しくない。
男が女の子の後ろに隠れてなんて俺は嫌だ。
むしろ守りたいと思う。
けどそんな甘い考えでは勝てないと知った。
だから俺は選んだ。
共に戦うことを。
共に在ることを。
それは大切な人を危険に晒すことかもしれない。
けどそれで救えるものもあると知った。
いや、教えてもらった。
だったら│││、
考えたら遠坂の手は必要だと覚悟を決める。
自分の中の思いを整理し、現状優先されること、聖杯の破壊とイリヤの奪還について
﹁はい、マスター﹂
﹁そうだな、行こう。イリヤが待ってる﹂
1060
さあ、あの外道神父と慢心王を倒しに行こう。
そしたら晩御飯だ。
今では二桁にも上る衛宮家の食卓の人数だが、だからこそ腕が鳴ると言うものだ。
そのためにも勝つ
◆◆◆
!!
﹂
?
でも違った。
俺は、この子達が生き返りたいと言うと思っていた。
その返答が予想外だった俺は、困惑する。
﹁何故⋮だ⋮⋮
今のはそれに対する返答だ。
返りたくないかと聞いた。
言峰教会のその地下、禍々しい様相を呈しているその場所で、俺は幽霊の子達に生き
﹃やだね﹄
『stage44:思い…出した…!!』
1061
﹃俺達はさ、もう疲れたわけよ。おっさん臭い言い方だけどな﹄
もう⋮﹄
?
﹄
?
?
よ﹄
﹃け ど 俺 達 の 望 み は そ れ じ ゃ な く な っ ち ま っ た。今 の 俺 達 が 望 ん で る の は 解 放 な ん だ
たこと自体はホントに嬉しいのよ
﹃あーもうほんとに泣き出しちゃった。あのね 生き返らせてくれるって言ってくれ
だってさ、俺は⋮⋮。
﹃普通逆でしょ
﹃あーもう何であんたが泣きそうな顔してんだよ﹄
﹁意味が⋮分からねぇよ﹂
晴れ晴れとした笑顔でそんなことを言う。
幽霊のままだ﹄
した。納得して今まで幽霊として存在し続けてしまった。これで生き返っても、俺達は
﹃そういう意味じゃないよ。戸籍とかそんなんじゃないんだ。俺達はもう死んだと納得
﹁居場所なら何とかして⋮﹂
﹃ま、俺達はもう死んじまってる訳でさ。それでいいんだよ。それに居場所がない﹄
﹃確かに生き返るのも良いかなーとは思うけど、私達はもう眠りたいのよねー﹄
1062
﹄
﹄
﹄
﹃そうそう。私たちはちゃんと死にたいのよ。向こうで親も待ってるだろうしね﹄
そんな⋮悲しい事言うなよ⋮。
何でそんなに笑ってられんだよ。
くっそ、あのマーボー神父と金ぴかめ。
こんな良い奴らに死ぬ事を望ませるなんて。
﹃ほらほら、そっちはそっちでやる事あるんでしょ
﹁ある⋮けどさ⋮﹂
﹁ああ⋮﹂
﹂
﹃だったらサクッと俺たちをやって行っちまいな出来るんだろ
﹁できるけど⋮さ⋮ホントに良いのか
?
﹄
じゃあえーっと、呪いのように生き、祝いの様に死のう﹄
?
﹃うっわ、今の私たちにぴったりスギじゃん
?
﹃あ、そう
﹃それなんか違う﹄
あれだ⋮えーっと、立って歩け、前へ進め、あんたには立派な脚があるだろう﹄
にせず行け。
﹃良いの良いの。俺たちはもうほんとに良いのさ。十分十分。だからあんたは俺達を気
?
?
?
﹃ならさっさとそっち行けよ。どうせあの神父と金ぴかの奴んとこだろ
『stage44:思い…出した…!!』
1063
﹁それエロゲ│じゃねぇか。未成年﹂
⋮いや、それ知らねぇや﹂
!?
﹃じゃあこれだな﹄
物騒の言葉が聞こえた気がしたがそっちはスルーしよう。
こいつらの事だからネタだろうとは思ったが、ホントにそうだったとは⋮。
﹃なんだよ血貯まり知らねぇのかよ﹄
﹁またネタか
﹃奇跡も魔法もあるんだよ﹄
﹁よし、分かった。来いコクイントウホオズキ﹂
なら、これ以上彼らを引き留めても俺の我が儘でしかない。
俺はハッピーエンドを求めたんだ。
でもそれを拒否する権利は俺には無い。
死ぬことが彼らの幸せだという、その事実が俺には受け入れられない。
その瞳を見て、俺は胸が苦しくなる。
本気で、いま終われるのならば終わりたいとそう思っている目だ。
そうふざけながら言う彼らの瞳は本気だ。
だから本編知らねぇし﹄
﹃良いんだよ。幽霊に年齢なんて関係ない。っていうか、俺が知ったの格ゲーの方から
1064
﹃ザワ⋮ザワ⋮﹄
﹁ホントブレねぇなお前ら
﹂
分かりづらいネタやめぃ。
﹃なんですかもぅ﹄
それあれだろ。茜色に染まる⋮なんだっけ⋮。
とにかくそこに出てくる歯ブラシを武器に戦える不思議っ娘だろ
むしろよく覚えてたな俺。
はぁ、これはあれか、元気づけられたのかね
笑って送り出してやる。
る。 だったら俺は笑おうじゃねぇか。
この子達とはほんの数時間前に会っただけだが、それでも笑顔が似合う子達だと分か
でもまあ、いつまでも俺が泣いてるわけにはいかねぇよな。
?
?
!!
﹃おお、俗に言う冥界に行けるのか﹄
使ってあんた達はちゃんとした死を迎えられる筈だ﹂
よし、んじゃいくぜ。こいつは死者の国に渡る際の渡航証と言われてる。こいつを
﹁まったく、ぶれなさすぎだよ⋮。
『stage44:思い…出した…!!』
1065
﹃幽々子お姉さまに会いたーい﹄
﹂
いや、ヤマザナドゥドゥ
?
いっぺんこの世界のメディア関係を確認すべきか⋮。
そんなことを考えながら苦笑する。
そして俺はコクイントウを腰だめに構える。
これ以上間を空けると決心が鈍りそうだ。
﹄
!!
﹃おいなんか一人バギー船長混ざってるぞ。例の赤鼻のやつ﹄
﹃ド派手に逝くぜ
﹃ぼっこぼこにしといてね∼﹄
﹃んじゃ、かたき討ちよろしく∼﹄
どうせならこの子達が言うような東方勢が居る冥界に繋がりますように。
だから振り切るように、概念を強化し、そして願う。
﹄
一個多いよ
!
﹂
!
ってか誰だよヤマザナドゥドゥ
﹃やっぱドゥだろjk、ヤマザナドゥ希望
﹁そんな機能ねぇよ
﹁何の電波
﹃いや、よくわからないけど電波が⋮﹄
!!!
ってか、東方系のゲームもあんのかよ。
!?
!!
﹃こまっちゃんの横で一緒に昼寝したい⋮﹄
1066
﹃﹃誰が赤鼻だぁッ
﹄﹄
﹂
!!
﹃増えてるし⋮﹄
要望通りにド派手にだ。送るぞコクイントウ
要望に答えるために構えを変える。
﹁はは、じゃあいくぞ
折角だからこっちもネタを使おうじゃないか。
前にも一回使ってるから出しやすいし。
﹂
コクイントウを頭上に構え直し、│││振り下ろす
え、これもあるの⋮
・
・
・
?
!!
?
!!?
!!!!
﹃﹃﹃斬魄刀⋮だと⋮⋮﹄﹄﹄
﹁月牙⋮天衝ぉぉっ
『stage44:思い…出した…!!』
1067
俺の目の前には崩れた教会がある。教会を潰すのはどうかとも思ったが、穢れが酷す
ぎたし、それ以前に金ぴかと戦った時にはもう致命傷だった。
あの子たちの身体に傷をつけないようにした結果、教会が被害を受けてしまったの
だ。
月牙をできる限り手加減したがそれでも無理だったなんて事はない。
だから仕方ないと自己完結する。
事故完結ではないのであしからず。
これは俗に言うコラテラルダメージなのさ。
俺は合わせていた手を離し、閉じていた目を開ける。
﹁良かったの
﹂
そう苦笑していると、突然俺の横に気配が生まれる。
最後まで俺にツッコミさせるとはな。
とツッコミを入れてしまう。
今まで数十分かけてホンの数時間の出会いを反芻した後、最後の言葉に対してボソッ
﹁ホントに面白い奴らだったな⋮最後の言葉が﹃斬魄刀⋮だと⋮﹄ってなんだよ﹂
1068
?
空間から溶け出るように現れたのはキャスターだった。
﹁見てたのかよ⋮。ま、もちろんさね。あいつらがちゃんと死ぬことを選んだんだ。そ
れがあいつらにとってのハッピーエンドだっただけのこと﹂
﹁あなたが良いのなら私は良いのよ。ただ⋮泣くのか笑うのかどっちかにしなさいな﹂
泣くわけにいくか。
﹁泣いてねぇよ⋮﹂
笑って送るって決めたんだからな。
かセイバー達を待って行動に移ることにしていたみたいだけど、そのセイバー達が柳洞
﹁そろそろ行くわよ。日が暮れてきたわ。ギルガメッシュは貴方を殺したと思ったから
それからしばらく経つと、キャスターが再び話しかけてきた。
しばらく無言の時が流れる。
感じ、それがとても居心地良かった。
恥ずかしいとかよりも、そのキャスターの優し気な手が帽子越しなのにやけに暖かく
したくなかったというべきか。
いつもなら俺はそれを振り払う所だが、出来なかった。
それだけ言うと、キャスターは俺の頭にポンと手を乗せた。
﹁そう⋮﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1069
寺に着いたわ﹂
なら急がないとな。
﹁ん⋮、了解だ﹂
多分セイバー達だけでも勝てるだろうけど、ハッピーエンドの為には少し足りない。
さてさて、ハッピーエンドを始めに行こうじゃないか。
俺は最後にもう一度教会へ振り返り、そして懐からカードを出す。
教会はまだ崩れただけで、地下聖堂にはまだあの子達の亡骸がある。
だから、最後にここを消し飛ばす。
もちろんド派手にだ。
このカードは以前に何となくで作って見た目だけ整えただけのものだ。
外側だけ整えたものだからそれほど威力は無いし戦闘用なのに戦闘にはほぼ使えな
いレベルという代物。
だけど、最後までネタ好きだった彼らの手向けには丁度いいだろう。
﹂
送り出した彼らに響くように、俺は宣言する。
﹁紅符﹃不夜城レッド﹄
!!!!
1070
◆◆◆
こんなものが聖杯
黒とは言えない黒、純色ではなくあらゆる色を混ぜてできた黒の様で不快感を湧き立
?
そして、言峰の後ろには黒い球体が浮いている。
﹁見たまえ、これが聖杯だよ﹂
今回の元凶にして、前回の聖杯戦争で一つの街を焼いた男だ。
そんな俺達を迎えたのは言峰綺礼。
マスターを倒すためだ。
それは勿論この聖杯戦争を本当の意味で終わらせるため、最後のサーヴァントとその
俺とセイバー、遠坂は今、柳洞寺まで来ていた。
﹁歓迎しよう、衛宮士郎﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1071
たせる。
それは空中に出来たような穴からとめどなく泥を溢れ出させ瘴気や災いが形となっ
て吹き出ているようだ。
そうとしか表現できない泥。
そしてその中心にはぐったりとしたイリヤが埋め込まれるようにして存在している。
遠目にも荒い息をしている事は分かるがとても無事とは言えない。
この状況は考えられる限りで最悪だ。
言峰の横にはギルガメッシュが現れる。
疲弊した姿ですらなく、悠然と言峰の横に並んだ。
そのことに動揺する。
あいつが無事だということは必然的に│││、
﹁嘘⋮、コウジュはギルガメッシュの所に行ったって士郎は言ったわよね⋮
﹁ああ⋮﹂
遠坂が俺に聞いてくる。
?
俺は遠坂に、コウジュは俺達の代わりに言峰教会に残ったと言ったのだから。
当然だ。
﹂
﹁この時をどれほど待ち侘びた事か。頃合いも良い。今丁度聖杯に穴があいた所だ﹂
1072
しかし、この場にギルガメッシュが平然と居るその事実は当然のごとくある事を俺達
に思い浮かばせる。
なんだかんだであの子はハチャメチャな子だったけど、あの強さは本物だ。
何か目的があって負けるならまだしも、コウジュが負けるなんて考えられない。
エルキドゥ
﹂
﹁ふん、それほどまでにあの小娘が勝つと思っていたのか。しかし、容易かったぞ
天の鎖⋮﹂
ギルガメッシュが横へ手を伸ばす。
実際コウジュ1人で十分に聖杯戦争を終わらせる事が出来るほどの力を秘めていた
筈だ。
しかし、この場にコウジュはおらず、ギルガメッシュが居る。
変わらず悠然とした態度で、混じり物、そうあいつは嘲るように口にした。
ふははっ、はははははは
!!!!
セイバーもコウジュが勝つと確信していたからか、思わず声を漏らす。
﹁そんな馬鹿な⋮﹂
我慢しきれぬと言った風に、高笑いをするギルガメッシュ。
﹁あの小娘は我が殺してやったわ
!!
すると虚空からいつものごとく宝具が現れる。
?
﹁コウジュ⋮ああ、あの混ざりものの小娘の事か﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1073
現れたのは鎖だ。
俺達を教会で縛り付けたあの鎖。
?
それはセイバーと遠坂も同じようだ。驚愕と苦悶の感情を混ぜ合わせた表情をして
俺はその事実をどうしても受け入れられない。受け入れたくはない。
いや、けど⋮。
その不死性を殺す宝具で貫かれたら、いくらコウジュでも⋮。
実際に生き返る所をこの目で見ている。
コウジュは自分で不老不死だと言っていた。
しかし不死殺し、これで貫かれたら⋮。
当然で、聞いても意味は無い。
そもそも、俺達はイリヤに別世界の英霊であると聞いているのだから、知らないのは
あのコウジュが神性を持っているとかは別に良い。
嘘だ⋮。
わ。 獣が混ざっていたらしいアレには丁度良かろう﹂
ケダモノ
後は不死殺しの概念を持つ宝具で串刺しにしてやった。それだけで死んでいった
たこともないがそれなりに神性が高かったのであろうよ。ピクリとも動かんかったぞ
﹁これは対神宝具でな。神性が高いほど拘束力が増す。コウジュなどという神族は聞い
1074
いる。
サーヴァントとはいえ、数日とはいえ、俺達は家族のように衛宮家で過ごした。
秘密を持っているとはいえ、聖杯戦争をハッピーエンドで終わらすと語ってくれた。
普段のコウジュは、見た目の割に大人びた事を言ったり、かと思ったら年相応に見え
る事をしたり⋮そんな子が死んだ。
受け入れられる筈が無い。
今から闘う事すらも思考から抜け落ちて、今後取るべき行動すべてが頭の中で整理で
きないで居た。
どうせまた、そこら辺からヒョコッと現れるのではないかと思ってしまう。
しかし、ギルガメッシュが持つ鎖が、数多の宝具が、その存在感を俺達に感じさせる
度に、コウジュが死んだという事実が俺達の中に染み込んでくる。
まぁ良かろう⋮﹂
?
恍惚とした表情で語り始めるギルガメッシュ。
かとな﹂
﹁我は今までずっと考えていたのだ。嫌がるお前をどう組み伏せ、この泥を飲ませよう
とはいえ、相も変わらずその目に移しているのはセイバーだけのようだが。
ギルガメッシュはこちらの事などお構いなしに言葉を続ける。
﹁先程までの威勢はどうした
『stage44:思い…出した…!!』
1075
その身に宿すおぞましい感情が辺りに充満する。
直接向けられているセイバーはどれほどのものか。
その空気に触れ、俺達はやっと闘わなければならない相手だと再認識し、気を入れ替
える。
コウジュが居ない。
でも、俺達が勝たなければならない事実は変わらないのだから。
うに感じる。
こ と の は
﹁その穢れきった姿を早く見たいものだ
﹂
瞳孔が開ききった目でセイバーを見るギルガメッシュ。
それに対し、既に再び戦闘態勢を取っているセイバーも言葉を叩きつける。
﹂
﹂
﹁そのようなおぞましい事を考えられていたと思うだけで身の毛がよだちます
ような言の葉を述べた事を後悔しなさい
黄金の聖剣をその手に構え、ギルガメッシュに向ける。
﹁ああ、それで良い。それで良いぞセイバー。そのお前を組み伏せてこそだ
!!
!!
!!
!!
その
ギルガメッシュが言の葉を、感情を乗せて発する度に空気は歪むように穢れていくよ
がりつく⋮﹂
﹁泣き叫ぶお前を踏みつけ、その腹が身籠るほどの泥を飲ませ、耐え切れず我の足元にす
1076
その言葉と同時に、セイバーとギルガメッシュは互いに距離を縮め、剣をぶつけあい
始める。
そして剣の応酬を続けたまま、この場を離れていった。
残されたのは、俺と遠坂と言峰、そしてその後ろにある聖杯と埋め込まれたイリヤの
みとなった。
﹁私も、ギルガメッシュではないがこの時をどれほど待ち望んだ事か。ましてや、あの
忌々しい衛宮切嗣と遠坂の血筋の者がこの場に居るとはな、喜ばしい限りだ﹂
言峰が厭らしい笑みをして話し出す。
確か、遠坂にとって言峰は兄弟子に当たるんだったな。
﹂
!?
世をわけ隔てなく呪うモノが入っている﹂
﹁聖杯よりうみ出る力、際限なく溢れ災厄を巻き起こす。この中にはあらゆる悪性、人の
﹁お前は何が望みなんだ
が続く限り耐えて貰わねばならん﹂
﹁それはできない相談だ。聖杯は現れたが、まだ不安定だ。接点である彼女にはその命
坂。
自身としても聞きたい事は山ほどあるだろうが、それを置いてイリヤの事を聞く遠
﹁綺礼、さっさとイリヤを解放しなさい﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1077
﹁それが何だってのよ
う
﹂
隙を探せと頭が考える。
生 存 と い う 助 走 距 離 を
俺は今あまりの怒りに一周回って冷静になったのであろう。
が、案外あるもんだ。
自分の事でなんだが、心が熱くなったら頭が冷静でいられる事は無いと思っていた
いつだったかコウジュが言っていたな。﹃心は熱く、頭は冷静に﹄、と。
自分自身こうやって自己評価できるのが不思議な位に腹が立っている。
もった目で見ている事だろう。
悦に浸った言い方で自身の望みを言いきった言峰を俺は、溢れんばかりの怒りのこ
故に、私程聖杯に相応しい者も居ない﹂
歪な形ではあるが、私ほど人間を愛している者は居ない。
?
最高の煌めきがなぁ。無念のまま朽ちてゆき、叫ぶ人間に胸打たれるものがあっただろ
﹁10年前の火災は悪くなかった。あのような地獄にこそ、魂は炸裂する。人における
興奮冷め止まぬといった風に声を上げ、離し続ける言峰。
持って高く飛び、空へ届き、尊く輝く。私はその輝きこそを見たいのだよ﹂
?
!!
﹁人 と い う も の は 死 の 瞬 間 に こ そ 価 値 が あ る と 思 わ ん か ね
1078
けど、今すぐに近づいてぶん殴りたい自分も居る。
あの大火事を自身の欲望の為に起こしたこの男を。
許せるか
?
破壊という形で人の輝きを見たいと、バカげたことを言うこの男
?
こいつは倒すべき〝悪〟だ
﹁ふむ、来るか。あの小娘さえいなければこちらの優位は動かん。だが、聖杯が完成する
小声で隣に居る遠坂に声をかける。こちらの考えに気づいてくれたようだ。
﹁⋮ええ、援護するわ﹂
!!
最初からその事実は変わらなかったが、今、俺の中で再認識する。
倒さなければならない。
だったら俺はこいつを倒す。
こいつが居ると、また大多数の人間が不幸になる。
けど、これだけは言える。
正義とか、悪とか、俺はまだしっかりと答えが出たわけじゃない。
俺は許せない。
を。
放っておけるか
〝人〟という存在をここまで自身の為に貶める男を。
許せるか
?
﹁⋮遠坂﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1079
までしばらく猶予があるな。よろしい、時間を潰そうではないか﹂
﹂
衛宮切嗣の遺志を継ぐ者が⋮﹂
言峰がそう言い切る前には俺は走り出していた。
・
・
・
﹁はぁぁッ
﹁この程度なのか
遠坂は俺の後方から、ガントや宝石魔術でこちらを駆使し、俺の援護をしてくれる。
それを凌ぎ、払い、時には回避し、再び、斬りかかる。
それを言峰はギリギリのところで回避し、拳を打ち込んでくる。
俺は、言峰に干将・莫耶で斬りかかる。
?
!!
1080
だが攻めきれない。
先程からその繰り返しだ。
ア
ン
リ
マ
ユ
その原因は言峰の背後にある聖杯の所為である。
﹁ほら、次だ。この世全ての悪をその身に浴びろ﹂
触手が、泥の塊が、俺と遠坂に向かってくる。
言峰が操っているのであろう、聖杯。
いや、アンリマユと呼ぶべきか。
ア ン リ マ ユ は 俺 達 を 飲 み 込 ま ん と 人 一 人 に 対 し て 過 多 な 量 で こ ち ら に 触 手 と し て
迫って来る。
時に泥を自身で飛ばして、時に言峰がその手で巻き上げてこちらへと飛ばす。
弾幕、とまでは行かなくても当たる訳にはいかない以上、そう易々と潜り抜けられる
ものではない。
直感的にあれに触れてはいけないことは分かるが故に、一発も受けないようにしよう
とすると決め手に欠けてしまう。
・・
唯一の救いはそれほどスピードが無い事か。
﹂
!!!
絡みつこうとする触手を俺は剣で弾き、横へ跳躍する。
﹁っぜぁぁぁ
『stage44:思い…出した…!!』
1081
本来なら出来ないのであろうが俺が今持っている干将・莫耶はコウジュに見せて貰っ
た方だ。
こちらの干将・莫耶の効果は凍結。
斬りつけた場所が凍りつき、固体となった触手を弾く事が出来る。
出来るとは言ったがほんの数瞬だ。
凍った場所をすぐに後から後から違う泥が覆い、再び俺を追う。
だが、その刹那の間に避ける程度の事はできる。
﹂
!?
そんな遠坂を待ってくれるはずもなく、残りの触手が迫った。
何とか障壁で弾いたようだが、咄嗟の事で大きく体勢が崩れてしまっている。
遠坂は魔術で弾きながら避けようとするが、一本が遠坂に当たり動きを止める。
﹁きゃっ
しかも、今までより数も大きさも段違いとなっている。
今度は泥の触手を遠坂の方へ向わせ始める。
﹁さて、次はそっちだ﹂
くそ⋮、やはりアンリマユが邪魔で近づけない。
予想の範疇と言わんばかりにこちらの抵抗を見物する言峰。
﹁投影か⋮。それにしてもよく避ける﹂
1082
﹁ちっ
﹂
﹂
!!
場を離れる。
2回、3回と続け、最後は自身で遠坂の前で触手をいくつか凍らせ、遠坂と共にその
続けて凍結の方の干将・莫耶を投影し投げる。
﹁投影開始
ト レ ー ス・オ ン
だがその程度ではせいぜい数本かすった所を凍らせるだけだ。
遠坂の方へ走りながら手元に在った干将・莫耶を遠坂の方に投げる。
!!
次はどう動くべきか⋮。
距離を一向に縮める事が出来ない。
悔しいけど奴のいう通りだ。
てくる。
手でクイッと、掌を上にしてさっさと来いと言わんばかりに手招きして言峰が挑発し
﹁私はここだ。早く来たまえ﹂
ある。
言葉の通り、先程から言峰に迫る時に、後方からの遠坂の援護で助かった部分が多々
﹁お互い様だ﹂
﹁ごめんなさい、助かったわ﹂
『stage44:思い…出した…!!』
1083
コウジュ達鍛えられたからか、余裕はないが余力はある。
﹂
そんな風に次の行動をどうするか悩んでいると│││││。
﹁うぐっ
﹂﹂
!?
﹂
?
セイバーも立ち上がり既に戦闘態勢。
でもまだ終わりじゃない。
状況は変わらず最悪か。
言峰の横に着地して現れるギルガメッシュ。
﹁ふむ⋮、そうだな。聖杯の方もまもなく完成のようだ。頃合いか⋮﹂
﹁いやなに、そろそろセイバーに泥を飲ませようかと思ってな﹂
﹁ギルガメッシュ、どうした
よかった⋮、見た目に反してダメージは少ないようだ。
俺の腕の中から起き上がるセイバー。
﹁ぐっ、すいません士郎。思いのほか飛ばされてしまった⋮﹂
地に伏すセイバーを急いで抱き上げ、状態を見る。
その誰かはセイバーだった。
﹁﹁セイバー
俺達の前に誰かが飛びこんでくる。
!!?
1084
遠坂も先程のダメージからは復帰している。
俺も、多少の疲れはあるが余力を残している。
意思もまったく陰りはしない。
陰る訳が無い。
なら、あきらめる要素がどこにある
不利な事は変わらない。
まあ、そんなものは最初から分かってるさ。
ジリ貧。
そしてその泥がギルガメッシュと言峰の中にあるわけだ。
それが穢れているのだったか。
こみ、その魔力を以てして願いを叶える。
確か、この聖杯はアンリマユとなってはいるが、元来地脈からのマナを吸い上げ貯め
!!?
なんでだろうな。
で脳裏に浮かぶ紅い弓兵。
ピンチになったら助けてくれる正義の味方│││じゃないが、何故かこういった場面
頭に浮かぶのはいつものごとくあいつの言葉。
﹃勝てるものを幻想しろ⋮﹄
『stage44:思い…出した…!!』
1085
またお前かと言いたくなるが、今は妙に心強い。
そして││、
あれでは、ダメだ。
あれでは勝利とは言えない。
だけど、今なら分かるぞコウジュ。
どういう風にこれを使えばいいか。
?
かって言った言葉。
その言葉はギルガメッシュに殺されそうになった時、助けに入ったコウジュが俺に向
﹃ヒントは俺の闘いの中にあるかもね
﹄
以前使った時は意図せずして出てきた黄金の剣と鞘。
た。
最初に渡された時はもう一本剣が必要だという、そのもう一本が何か分からなかっ
真力﹃エクスキャリバー﹄、このカードが指し示してくれる。
その取り出したカードを通して俺の身体は熱に浮かされていた。
同時にポケットに入れていたカードを取り出す。
最後が頼りなかったが、コウジュの言葉も思い出す。
﹃読むべき時に読め。その時になったら分かる⋮はず⋮﹄
1086
全部分かってて言ったのかコウジュ。
だったらとんだ策士だ。
一つ一つが布石で、今、俺の中で結ばれた。
今度こそ、このカードを自分の意志で使おう
思い出せ
聞こえてきたあの詠唱を思い出せ
!!
﹁│││I am the bone of my sword︵身体は剣で出来てい
!!
!
﹂
﹁避けてください士郎
﹂
﹂
俺は2人の前に出る。
る︶
!? !!!!!!!!
この量じゃ避ける事はもう不可能だ。
を飲み込もうとしている。
の気が済んだからか、先程まで触手として俺達を苦しめていた泥が今は奔流として俺達
俺達の目の前には、泥を飲ませるというギルガメッシュの意を汲んでか、または言峰
当然だ。
遠坂とセイバーが俺に声を掛けてくれる。
!!
﹁士郎
『stage44:思い…出した…!!』
1087
下手な防御も意味は無いだろう。
﹂
だが、そんなものは今の俺には関係ない。
勝つんだ
﹁真力﹃エクスキャリバー﹄
!!!!
勝てるものを幻想しろ
今はこの泥が邪魔だ
盾を
!!!
これは光の花弁
ロ ー・
ア
イ
ア
ス
﹂
頭に浮かんだ盾を思い浮かべ、投影する
﹁熾天覆う七つの円環
俺の目の前に光で出来た七枚の花弁が展開する。
!!!
!!
俺の可能性だって言う位だから今の俺が知る由もないだろうしな。
いや、今はこれが何かなんて関係ない。
?
するとどこからともなく頭に思い浮かぶ盾のイメージ。
俺達三人を守る為の盾を、城壁のごとく俺達を守る壁を強く望む。
!!!
!!
剣から溢れんばかりに力が流れ込む。
右手にずしりとした重みが加わる。
!!!
1088
﹁何っ
﹂
﹁馬鹿なっ
﹂
士郎
﹂
!!
﹁知らずに使ったの
﹂
力が溢れると同時に思いが強くなっていく。
える。 俺自身も同様だ。
そういえば、遠坂達の疲れが吹き飛んでいる⋮というか、活力が湧きでている様に見
﹁ああ。コウジュがくれたとっておきってやつだ﹂
セイバーが俺が黄金の剣を持っている事に気付いたのか聞いてくる。
?
!?
﹁その剣のおかげ⋮ですか
﹂
﹁そういうものだったのか、今の﹂
﹁ロー・アイアス⋮、ギリシャの英雄アイアスが用いたとされる盾﹂
!!
同時に投影していた光の花弁が割れて消える。
やがて泥は量を少なくしていき、遂には迫っていた泥は消える。
投影した花弁は俺達を飲み込もうとする泥を弾くように防ぎ続ける。
防がれるとは思ってなかったのだろう。
壁の向こう側から驚愕する声が聞こえる。
!!?
!?
﹁す、すごいじゃない
『stage44:思い…出した…!!』
1089
それもこの剣の効果なのか
今の俺に、負けるイメージなどどこにも浮かばない。
?
今度はギルガメッシュもくるのか
﹁あ⋮れ⋮
﹂
﹂﹂
どうなっているんだ⋮
﹁﹁士郎
何で俺の身体は動かない
早く盾を出さないと⋮。
まるで自分の身体では無くなったような感覚。
?
セイバーと遠坂が俺を支えてくれる。
!!?
?
のに身体が付いてこない。
頭はもうろうとするどころかハッキリとしていて、心は戦おうと、勝とうとしている
足がふらつく。
?
が││、
俺は再び前に出て、盾を投影しようとする。
!!?
淡々とそう言いながら、ギルガメッシュは自身の周囲に数多の宝具を
﹁言峰、泥を増やせ。我があの生意気な盾を突き破る﹂
1090
ト
レー
ス
何をすればいいのかは頭に流れてくる。
だが、身体がその動きを追いかけるすることが出来ない。
ギルガメッシュが浮かべている宝具がこちらへ向かい始める。
その後ろには再び波となってこちらを飲み込もうとする泥が控えている。
ソードバレルフルオープン
﹂﹂
だが、無情にも俺の心に反して身体は動かず、宝具の軍勢が迫り始める。
﹁貫け﹂
フリーズアウト
!!!
あの男と、そしてもう一つはひどく予想外の少女のもの。
は知っているものだ。
身体を動かす事が出来ないのでそちらを見る事は出来ないが、聞こえてきた二つの声
いく。
しかし、迫る宝具の軍勢は、俺達の後方から飛来した数多の剣によって全て弾かれて
﹁﹁│││停止解凍、全投影連続層写⋮⋮⋮
『stage44:思い…出した…!!』
1091
1092
どうしてこの二人が⋮
そんな疑問も、目の前の爆撃とも言える宝具の応酬の中に消えていった。
?
ソードバレルフルオープン
﹂だな﹄
フリーズアウト
クスだぜ
﹂
?
その影は2人ともに先程聞こえてきた声の主であった。
2人は降り立つと同時にこちらへ振り向く。
紅い影だ。
剣の雨が止み、俺の前に二つの影が降ってくる。
自身の宝具を弾かれた事によるものだろう。
ギルガメッシュから疑問の声が上がる。
﹁む⋮
できた剣軍の数が十や二十では到底きかないからか衝撃波として感じるほどだ。
轟音となって響くそれは、ギルガメッシュが射出してきた武器と俺達の後方から飛ん
声と同時に、金属と金属がぶつかり弾かれる音が連続して辺りを満たす。
!!!
!!!
﹁﹁│││停止解凍、全投影連続層写⋮⋮⋮
﹂﹂
﹃stage45:やっぱここは、﹁最初っからクライマッ
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1093
﹁まったく不甲斐ない﹂
姉としては中々だったと思うわ﹂
片方はいつものニヒルな笑みを浮かべるアーチャー。
﹁ふふ、まあ良いじゃない
?
﹂
そしてもう一人は│││、
どうかしたかしら
いや、なんでさっ
なんでさ
││イリヤだった。
﹁ん
?
﹁⋮
﹂
次に目の前に居るイリヤ。
るイリヤwith聖杯。
俺は目の前に居る2人の向こうに居るギルガメッシュと言峰⋮のさらに向こうに居
だが仕方ないはずだ。
思わず二回言ってしまった。
!!?
!?
?
1094
?
目が合うと、首を横にこてっと可愛くて傾げる。
えっと、2人居るんだが
﹂
いや、そういう話は聞いていないが⋮﹂
言峰、どういうことだ
?
やら気のせいだったようだ。
!
ギルガメッシュがその手に取り出したのはつい昨日も見たあの宝具。
だが、そんな状況に着いていけてない俺の事をギルガメッシュが慮る訳はない。
﹁これならどうだ贋作師ども
﹂
コウジュと居た事でそういった驚きに対する耐性が付いていたつもりだったが、どう
も出来ない驚愕だというのに。
俺からしてみれば、いや、俺の後ろに居るセイバーと遠坂にとってもどう表現する事
しかし、あいつ等にとっては小さな事でしかなかったようだ。
﹁確かに些事だ。そちらは任せるぞ﹂
﹁ふむ⋮いや、些事か。器として機能しているのなら構わぬな﹂
何せ俺も意味が解らない。
持たない方がおかしいというものだろう。
ギルガメッシュと言峰が2人のイリヤに疑問を持つ。
﹁私にもわからん。双子か⋮
?
?
?
﹁器が二つ⋮
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1095
俺とセイバーを苦しめたあの宝具だ。
ギルガメッシュは宝具に魔力を込め始める。
合わせて、エアと呼ばれたそれは剣の名に似合わぬその歪な刀身を回転させ、込めら
れていく魔力を今にも放とうと荒ぶらせていく。
イリヤが何かを思い出したのか、トトっと俺の方へ近寄ってくる。
﹁あ、そうだ士郎。ちょっとジッとしていてね﹂
正直この子は今の状況を掴めてるんだろうか
エ
ヌ
マ
エ
リ
シュ
﹁天地乖離す開闢の星っ
﹂
防符﹃ヴィクトリウス﹄
血のように禍々しい赤に見える魔力の嵐が俺達に迫る。
﹁まだ一度しか使えないのだがね
懐からカードを取り出し宣言するアーチャー。
!!!
メッシュが撃ち放ってきたものへと向かって掲げる。
﹂
そしてアーチャーが宣言することで出てきたモノ、それを何とかといった体でギルガ
その見慣れたカードはコウジュが渡してくれるものと同じデザインだ。
!!!
!!!!!!
とはいえ、俺は意識がはっきりしてるとはいえ動けないのでどうする事も出来ない。
今にも放ちそうだ。
近寄ってきたイリヤの向こう側でギルガメッシュは魔力を込め終えたのかこちらへ
?
1096
その様子から盾⋮だとは思う。
だがその様相は盾には決して見えない。
一言で表すならば獅子、その顔を象ったもので、黄金色のオーラのようなものを纏っ
ている。
﹂
!?
そんな俺をさておき、傍まで来ていたイリヤはアーチャーの事などお構いなしと言っ
身体が動かないのもあって現状がとても歯がゆい。
何とか状況を理解しようと頑張るが、どうにもうまくいかない。
異。
俺が渡されたエクスキャリバーを通して得た知識、それと眼の前のアーチャーとの差
でもそれを目の前のアーチャーは行っている。
分からない。
・・・・・
ギ ル ガ メ ッ シ ュ が 持 つ あ の 歪 な 剣、あ れ の 攻 撃 を ま と も な 方 法 で 防 げ る と は
そのことに俺もまた驚いていた。
その奔流が流れてきてはいないのだ。
それもそのはず、何故ならアーチャーが掲げている盾からこっちには一ミリたりとも
未だ禍々しい嵐を放ち続けるギルガメッシュだが、その表情には驚愕が見て取れた。
﹁何ィっ
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1097
た風に、いつもの雰囲気のまま懐からカードを取り出す。
﹂
?
⋮汁
﹂
?
恐らくあれは俺の可能性じゃなくてコウジュからの借り物。
だからアーチャーが用いている方法を理解できなかったのか。
な。
この剣は強力な手段を与えてはくれるが、そこまで万能という訳ではなかったんだ
それにしても魔力欠乏か。
少し意味深な言葉も聞こえたが、とりあえず俺を助けに来てくれたようだ。
だし、それも仕方ないのだけどね。まぁ意識を失わなかったのは流石と言っておくわ﹂
い方は引き出せてるのだけれど、それを用いるための魔力が足りなくなったのよ。連戦
﹁そしてあなたが陥っていたのは魔力欠乏症。エクスキャリバーの御陰で潜在能力の使
?
が煮詰めてそれをコウジュがカード化し直した⋮見たいな感じかしら
﹁これはコウジュの魔力から精製した魔力用の回復カードよ。コウジュ汁をキャスター
﹁これは⋮
身体の不調も、先程までが嘘のように身体が軽くなった。
イリヤの宣言、同時に俺の中へと何かが入っていき、満たされる。
﹁士郎、あなたはまだ力の使い方を知らなさ過ぎるわ。道具﹃フォトンチャージ﹄﹂
1098
詰まるこの剣で行えるのは俺が用いることが出来るかもしれない可能性だけ。
やはり中々にピーキーなもののようだ。
でもそれでも、今の俺にはとてもありがたい。
俺は一先ず立ち上がり、体の各部の調子を確認する。
先程までの虚無感はもう無い。
魔力が充足したからだろう。
﹂
﹁イ リ ヤ ⋮ 長 く は も た な い。避 け る な り 何 な り し て く れ る と 私 と し て は 嬉 し い の だ が
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
﹂
?
﹂
?
ただ、向こうで器にされてる子もイリヤさんにしか見えません。
そうですねあなたはイリヤさんにしか見えません。
﹁私以外の何だと言うの
﹁えっと、イリヤ⋮で良いんだよな⋮
そんなイリヤを見て冷や汗を見ながらも諦めた顔で前を向き直したアーチャー。
それに対して軽く答えるイリヤ。
いつもの笑みを浮かべながらも汗をかいているアーチャーがイリヤに言った。
﹁あ、うん、分かった﹂
?
﹁そうだな、うん、イリヤだ。ありがとう回復してくれて。でも避けようか﹂
1099
﹁⋮
何がでもなの
天然か
﹂
首をかしげるイリヤ。
?
天然で言っているのか
!?
見たぞ
﹂
あのアーチャーが
﹂
士郎
﹁ああ、もう
﹁キャッ
!!
今俺が避けようって言った瞬間アーチャーが目にありがとうの意を含んでこちらを
!?
?
あれ⋮⋮
いや、とにかく今は避難を
今しなければいけないことを思いだし、退避する。
次の瞬間にゴォッと、退避する俺達の後ろを力の奔流が通りすぎた。
いい加減お姉ちゃんを降ろしなさい
!?
アーチャーが防ぐのをやめ、回避したようだ。
聞いてるの
!!
⋮⋮お疲れさまです。
﹁ちょっと士郎
﹂
!!
!!
そして後ろの二人にも声を掛けようとするがそこには誰も居なかった。
俺はイリヤを抱えてその場を離れる準備をする。
!?
!?
!?
!!
?
1100
腕の中でイリヤが暴れたので慌てて降ろす。
それなりに離れたから大丈夫だろう。
あれ、そういえば姉ってなんだ
?
﹁あ⋮。いや、えと、今は良いじゃない
?
﹁士郎
ご無事ですか
﹂
!?
﹂
!?
﹁え⋮いや、なんというか⋮⋮﹂
がない。
どこぞのホラーモノじゃないが、忽然と後ろに居た人間が消えたのだ。心配しない筈
﹁2人ともどこに行ってたんだ
声の主は、先程忽然と姿を消したセイバーと遠坂だった。
﹁士郎無事⋮よね⋮そうよね⋮⋮﹂
!!
見直すと、声が掛かった。
そんな風に無理矢理納得というか後回しにすることを決め、ギルガメッシュ達の方を
うん、まぁ⋮戦闘中に聞くことではないか⋮。
俺が聞くと挙動不審になるイリヤ。
﹂
﹂
さっきも言ってたような気がするけど。
?
﹁そういえば姉ってなんのことなんだ
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1101
﹂
﹁予想外というか⋮ある意味予想通りの人物のところよ﹂
﹂
誰の事を言ってるんだ
﹁⋮
イリヤがセイバーと遠坂に話しかける。
段取り⋮
話しは俺を置いて進んでいく。
﹁正直⋮まだ意味が分かりません﹂
﹁私はどうせこんな事だろうと思ったわよっ
﹂
﹁ああ、そういう段取りだったわね。どう驚いた
?
?
突如響く声。
﹁ふふん♪ 説明しよう。なぜなにコウジュの時間だよ∼♪﹂
だからなんなのさ⋮。
頭を抱えて言うセイバーに、自棄になったかの様な遠坂。
!!
?
?
1102
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1103
それを聞いて、遠坂が自棄になって﹃どうせこんな⋮﹄なんて言いなくなった訳が分
かった。 声に次いで、空間からにじみ出るように現れたのは死んだとされていたコウジュ。
何故に不死殺しをくらって生きているのか⋮。
私
の元サーヴァントであるコウジュ。
イリヤスフィール
生きてたのは嬉しいけど、ちょっともやもやしてる俺は悪くない。
◆◆◆
まったくもう、と溜息をつく。
少し予定より遅刻気味に表れたのは、
彼女がキャスターの転移魔術でランサー、アサシンと共に現れた。
そのコウジュを見て、離れた所に居る言峰神父とギルガメッシュが驚愕を露わにす
る。
1104
そしてそれを見てコウジュがドヤ顔をするので凜に頭をはたかれてしまった。
思わず苦笑する。
ほんとこんなので良いのかな、聖杯戦争って。
なんて緊張感の無い戦争だろうか。
大体コウジュの所為って言えばいいのだろうけど、やっぱり私はコウジュの御陰と言
いたい。
私がこうしてここに立って居るのもコウジュの御陰だ。
本来ならば、私の人格は既に壊れていなければおかしいのだ。
この身はホムンクルス、聖杯の器として調整された身だ。
ホムンクルスと魔術師、衛宮切嗣との間に生まれた存在。
私はこの聖杯戦争で死ぬはずだった。
それはこの身体が聖杯の器である以上仕方ない事だ。
何故なら聖杯戦争が進むにつれ私の中の杯は満たされていき、最後にはその中身が〝
私〟を消して本当の意味で〝器〟になる筈だった。
もし、〝私〟が残ったとしても、この身体はもうボロボロ。
この聖杯戦争の間さえ持てば良いといった程度にしか調整されていないから、もった
としてもあと10年も生きられない身体。
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1105
それをコウジュは助けてくれた。
ホントにコウジュはお節介。
勿論嬉しいのだけれどね。
ヒトガタ
本人曰く、私を助ける為にやったことは単純らしく、精巧に作られた私の人形にコウ
ジュがキャスターの力を借りて、私の〝器である〟という概念を切り取って人形に移し
たらしい。
そうすることで、私の中に貯まる筈のものは既に溜まっていたものも含めて人形の方
に流れていくという寸法だ。
それが、今言峰神父の後ろにある聖杯を召還する為に使われたものだ。
だから私は自我を失うことなくこの場に居ることが出来ている。
確かにこれだとこの聖杯戦争の為だけに調整されたこの身は20幾ばくかしか生を
全うできないだろう。
けど、それでもいい。
私はもともとこの聖杯戦争に勝ちなど求めてはいなかった。
ただ、見て見たかった。切嗣が選んだ子を。
だから最後は死ぬつもりだった。
正確には死ぬしかなかった、かしら。
1106
でもコウジュがそれだけじゃダメだって、絶対に助けると言ってくれた。
幸せにしてくれると言ってくれた。
寿命に関してもどうにかすると言ってくれていたけど、これ以上は望み過ぎだわ。
だから、残り少ない命をコウジュの言う幸せの中で使ってみせる。
そのために私も戦うという選択肢を選んだ。
コウジュが持つカードの中で、特に適正が高かった〝夢幻召喚﹃アーチャー﹄〟のカー
ド。
それを使った状態で私はここに居る。
誰かの後ろに隠れずに闘えるのは良いものね。
士郎のピンチにさっそうと現れる姉⋮良い感じ。
改めて、士郎を見る。
〟がたやすく幻視できる。
〝私〟が向こうで聖杯に半分取り込まれてるのに〝私〟が目の前に居る。
それで状況が分からなくて頭の上に〝
これが萌えってやつね
ゲフンゲフン⋮。
?
最近、人形を変わり身にコウジュのマイルームに潜伏してたからライダー達と会う機
今のは忘れてちょうだい。
!!
会が多くて⋮、ちょっと⋮、ほんのちょっとだけ染まっちゃったかな⋮
ああいうゲームもばかにできないものよね⋮。
?
けど、そんな士郎を見て楽しんでいたから、ついつい私が姉だってことを言ってし
﹂
!!
?
まった。
助けて
まあ、誤魔化せたから良いわよね
!!
やはり、コウジュの言う様に厄介だ。
れていないようだ。
泥を使う言峰神父と宝具の雨を降らせるギルガメッシュにいまいち決定打を与えら
そちらではアーチャー、ランサー、アサシン、カバー要員でキャスターが闘っている。
そして私はコウジュから目を反らすように言峰神父たちの方へと目を向ける。
コウジュが訳を話す方が良いと思うのよ。
その方がおもしr⋮最後まで士郎達に言わずに立ち回ろうとしたのはコウジュだし、
でも助け舟は出さないでおく。 それを押さえようとするもダメだったらしく、涙目で助けを求めてきたコウジュ。
凜にセイバー、そして士郎がコウジュを問い詰めている。
﹁諦めなさい。あなたが悪いんだもの﹂
﹁イリヤ
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1107
1108
特に泥は触ってはいけないそうだし。
⋮仕方ない。
士郎達への説明をコウジュに丸振りする以上、私はこちらに加戦しようかな。
どうもあの金色を見ていると心臓の辺りがきゅーっとするのよね、なんつーかこう、
アイツの心臓えぐりとりてぇってな感じにもやもやとするし。
それに、人形とはいえ私を裸にして見るからに身体によくなさそうな泥にまみれさせ
歳近くなのに。
ながら宙に浮かせるという公開処刑を現在進行形をしてくれている奴らだ。
見た目幼女でも私は
らにあるんでしょう
あと、コウジュに聞いたんだけど切嗣が会いに来れなくなった原因の一つってこいつ
乙女の柔肌をさらした罪は重いわ。
××
私が貰ったこのカードを使いこなす方法はただ一つ。
もう一人の弟君にも手伝わせて、消し炭にしてあげるわ。
けないなんて言ってないし、ふ、ふフフフフ⋮。
コウジュは士郎にあいつらを倒させてあげたいって言ってたけど、別に手伝っちゃい
まぁいいわ。
ドウシテクレヨウカシラ⋮。
?
最強の自分を思い浮かべる事。
なら簡単だわ。
最凶の近くに居たのだもの、想像は容易い。
フフフフフフフフ。
◆◆◆
幼女説明中。
ってわけで、俺の目の前には驚いている士郎。
そして向こう側ではギルガメとマーボーがこちらを向いて驚きながらアーチャーた
ちと戦っている。
あ、イリヤがそこに加わった。
イリヤのUBWには俺の武器が登録されてるからなんかえげつないな。
というか相変わらずアーチャーのクラスなのに弓使う奴が居ないのは何故だ。
と、とりあえず、士郎達に説明する前に倒さないで⋮ね
?
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1109
﹁コウジュ⋮生きてたのか⋮﹂
本来の意味で俺が死ぬ事なんてそうそうねぇよ﹂
?
!!
付いてもらってるから居ないけど、いざとなったらすぐに呼べる状態だ。
まぁスケドを使ったサヴァ勢は多少戦闘力が削られているし、ライダーは桜ちゃんに
自分でやって思うが、もうこれ消化試合だよね。
金ぴか&麻婆神父vs全サーヴァント&士郎・凜・イリヤという状況だ。
戦力はかなり充実している。
予定していた通りに事を運ぶことが出来た︵所々に失敗はあったけど︶のでこちらの
さておき、どうだろうかこの状況。
うわー容易く眼に浮かぶぜぃ。
う。
たぶん、金ぴかが自信満々に﹁不死殺しで貫いてやったわ ﹂的な事を言ったんだろ
ねぇ。
今の今まで自分が死にそうだったってのに、俺の心配するだなんて本と御人好しだ
る。
若干2名、士郎の後ろからすごい剣幕で見てくるけどさておき、士郎に対して苦笑す
俺に詰め寄ってきていた一人、士郎に視線を戻し質問に答える。
﹁俺が死ぬ
1110
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1111
イリヤなんて、俺のカードを使えちゃったから戦闘技術を学び出して、イリヤが人形
と入れ替わってからずっと引きこもって練習してたから普通に今の士郎より強い。
練習相手には事欠かなかったしね。ライダーとかさ。腐ってもサーヴァントだし。
ライダーに関しては違う意味でそっち方面行きそうなので桜が心配してたけど⋮ま
あそれは別の話だ。
まぁそんなわけでイリヤも戦力としてこの場に居たりする。
あ、そだ。
軽くネタばれ含めて状況の整理と行くか。
俺はあの教会を出た後、迎えに来たキャスターと共にマイルームに向かった。
︶が居た。
マイルームにはイリヤ、アーチャー、アサシンこと小次郎、ランサー、桜、ライダー、
そしてベッドに寝かされてるバゼットさん︵で合ってるよね
凛はどうしたんだって
いだ。
俺が教会に行ってる間はキャスターに衛宮家の事任せといたんで皆で避難したみた
?
これが終わったら殴られる覚悟もできてる。
ちゃんとキャスターにいざという時はすぐに回復に入れるようにしてもらってたし、
それは⋮あれだ、原作通りにするためだ。うん。
?
アゾられそうで怖いけど⋮。
あ、そう言えば途中でセイバーと凛が消えただろ
気付いてる人も居るだろうが犯人は俺です。
ツミキリ・ヒョウリでちょちょいとね
?
さてさて、そろそろ話を進めようか。
ていただいたが正解だな。
して上げたっていうか俺が来るの遅れたのとか色々俺のせいでもあるから回復させ
足元の空間まで斬って繋げて、この部屋に落として生存報告+回復をして上げた。
?
﹂
?
どうなるにせよ、出来ればここは士郎にどうするかを決めてもらいたい。
ただぶん殴るというのも良いだろう。
仇を打つというのも良いだろう。
だから選択肢は幾つかある。
だが、この場には俺達が呑気に会話してられる程に戦力が余ってる。
他のルートだと違うらしいけど、俺が基礎にしたルートはそうだ。
原作なら俺達はここに居らず、士郎とセイバーのみで倒した。
あんたは何がしたい
﹁さてさて士郎、聞きたい事がちょっとは﹁山ほど﹂⋮うん、山ほどあるだろうけど、今
1112
どうあれ俺のすることは変わらないし、折角なので士郎には色々と整理する為にもこ
こで因縁を終わらせてもらいたいと思っている。
さてさて、返答や如何に
?
﹂
?
は
﹂
え、どういうこと
﹁はた迷惑
?
?
?
そして再び、今度は言われたことに対して少し反応が遅れてしまう。
﹁はた迷惑だ﹂
少し遅れて、再び聞き直す。
﹁⋮ちなみに理由は
自分には無い決意を秘めた瞳は、とてもうらやましい。
これが主人公ってやつなのかねぇ。
その瞳に、少し見入ってしまう。
俺が問うまでもなく、そうするつもりだったと言わんばかりに。
その瞳は決意に満ちている。
俺の問いに、少し考えた後そう答えた士郎。
﹁⋮あいつらを倒す。それだけはしないといけない﹂
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1113
﹁ああ⋮。あいつらが目指してるのは他人に迷惑を掛ける事でしかない。だったら理由
はそれで十分だ。少なくとも俺の中であいつらは悪だ﹂
そう決意を込めた瞳で言う士郎。
その意味を理解し、俺は腹を抱えながら笑ってしまう。 は、腹が痛い。
ラスボスに対してはた迷惑だってよ
うんうん、確かにあいつらははた迷惑な存在だな﹂
何だよその近所の迷惑ばっかり掛ける人みたいな評価は
﹁はははっ
!
!
した。
原作とか、二次元の世界から知っていた知識ではあったが、実際に会ってそれを体感
いや、ものだった。
いう歪なものだ。
正義の味方を目指していた士郎、でもそれは自身を勘定に入れずに只々周りを救うと
笑うの止めらんないわ。
でもゴメン。
少し不貞腐れた様に言う士郎。
﹁笑うなよ⋮﹂
!
1114
そんな士郎がこんなことを言うのだ。
自分で言うのもなんだが、大分俺に毒されたね。
でも、それが何よりもうれしい。
原作は好きだが、目の前に居る人たちがあんな殺伐とした終わりを迎えるのは嫌だっ
たんだ。
に聞けるとは思わんかった。
俺は一応、士郎があいつに個人的な復讐しても良いと思ってたんだぜ
?
無かったからだった筈。
そういやそのイリヤさん上手く闘えてるかな
チラッとそっちを見てみる⋮と⋮。
うん見なかった事にしよう。
?
と、泥の呪いのせいで身体機能やらなんやらが落ちて、無理矢理イリヤに会う程の力が
切嗣氏がイリヤに会いに行けなかったのって、アインツベルンの爺が拒否してたの
たんだ﹂
それにもう一つ、後で詳しい事は言うけど、イリヤもある意味であいつに不幸にされ
因は戦争終了時に浴びた泥が原因でもあるからな。
切嗣氏の死
﹁まぁいいじゃんいいじゃん。これは嬉しくて笑ってんのさ。いや∼士郎からそんな風
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1115
とりあえず頑張ってるみたいだね。ほんと話終わる前に倒さないでね
視線を士郎に戻す。
?
この状況で考え事を出来る士郎は、原作の士郎より肝が据わってるな。
俺の所為
デスヨネー。
?
﹁なーるほどねー。くく、ホントにそれで良いんだな
ふっきれた表情でそう言う士郎。
﹁ああ。あ、でも⋮﹂
﹂
そして最後に何かを思い出したようだ。
﹁なんさ
幸の源だったんだろ
﹂
﹂
﹁いや、イリヤがどうなのかなって。コウジュが後でっていうからよく分からないが不
?
?
仇討ちじゃない筈だ﹂
﹁だから俺はあいつを倒せさえすればそれで良い。親父の望みも、今じゃ聞けないけど
考えを纏めた士郎が俺に宣言する様に言う。
ずに何かしらの災害を起こそうとしてる﹂
﹁確かにあいつは、あの大火事を起こしたし、たくさんの人を殺して、更に未だ飽き足ら
1116
?
コウジュがの部分をさりげなく強調して言う士郎。
そんなに不満かよぅ⋮。
?
それにしてもイリヤか。
あ、念話か。
?
色々と吹っ切れたからか、最近は完全にそうだ。
さすがお姉ちゃんってところだな。
﹃分かったわ。士郎がそういうなら私も遠慮しとくわ﹄
﹃ついでに言うと、切嗣氏が仇討ちを望む筈が無いと思うってさ﹄
﹃ふ∼ん﹄
なんよ。ただあいつらを倒せれば良いってさ﹄
﹃いや、作戦変更の可能性が出てきたからさ。士郎は別に仇討ちをする気はないみたい
に回りつつもこちらに念話を繋げてくれたようだ。
前衛で親の敵と言わんばかりに︵実際にそうだが︶闘っていたイリヤがバックアップ
その手があったな。
﹄
今向こうで無双してるんだけどどうやって聞こうかね
コウジュ何か用
?
突然頭の中に声が響く。
﹃なに
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1117
たまに俺に対してもそんな態度を取ろうとするから困りものだけど。
そんなしょうもない事を考えているとイリヤはけど⋮と話を続けた。
﹃けど⋮、個人的な恨みがあるから復讐自体はさせてもらうわ﹄
念話ごしなのにものすごいオーラを感じる。
というか、遠くからホントに感じる。
だって、黒いオーラが幻視できるもの。
﹄
﹄
いつからイリヤはビジュアルユニットのブラックハートを付けるようになったんだ
ろうか。
いや、どちらかというと黒色のブースト
身体から噴き出すように見えるから。
倒したら通常より経験知貰えそうだな。
同時に呪われそうだけど。
それはおいといて、個人的な恨みって何だろ
?
?
聞いたら後悔する気もするけど、聞かずにはいられない。
﹃ところで個人的な恨みって⋮
?
﹃ふフフ、ふフフフフフフフフ⋮あのね、あいつ等の後ろにあるのって⋮何
あー⋮。
?
1118
そういえば麻婆たちの後ろにあるのは、とある界隈で高評価を受け始めている造形師
なキャスターさん渾身の作品である身代わりイリヤちゃん︵剥かれた状態︶でしたね⋮。
?
介錯はしてやるさ。
﹄
?
﹃コウジュ
な、何さ
!!? ?
﹃予定通り聖杯の方は任せるわ﹄
その声に驚きつつ、返答する。
び掛けてきた。
憐みの目で麻婆たちを見ていると、話さなくなった俺を不審に思ったのかイリヤが呼
﹃わっほい
﹄
大人しく俳句を読むといい。
ロリを裸に剥くなんて重罪だもの。
まぁでも態々裸にしたあいつらが悪いし仕方ない。
麻婆に金ぴか、南無。
てるようような気がした。
時間すら凍らせそうなほど冷たい声なのに、燃え上るような激情がその声には含まれ
れて晒しものに⋮﹄
﹃私の身代わり人形とはいえ、器になる程の精巧に出来たモノなのよ それが裸にさ
『stage45:やっぱここは、「最初っからクライマックスだぜ!!!」だな』
1119
魔法少女リリカル☆イリヤ始まります⋮。
とにした。
念話の最後にこれでストレス発散ができるわと聞こえた気がしたが聞かなかったこ
﹃了解っす﹄
1120
﹃stage46:なんというか救われてなきゃぁダメな
んだ﹄
﹂
!!
何故生きている
!!
﹂
?
なんだかんだで結構覚悟が要るんだぞ、あれ。
まぁでも何回も殺されるのは勘弁してほしい。
相も変わらずはあんただよ。
るまでのこと﹂
﹁ふん⋮、相も変わらずのその言い様。まあ良い。一度で死なぬなら何度でも殺してや
﹁言うと思うのかい
どうやらあちらさんも聞きたい事があるようだ。
同時に金ぴかが俺へと声を掛けてくる。
それに合わせ、先程までの攻防は一度止まる。
一通りの説明が終わり、俺達は前線へと来た。
﹁貴様
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1121
ラーニングの為でもなければ早々にやりたいことではない。
それに、ギルガメッシュの宝具の中に〝殺し続ける〟なんて宝具があった場合はどう
なるか分かったもんじゃないしな。
とはいえここからは死ぬつもりないから、殺られる前にヤッちゃうけどね。
﹂
?
して譲渡も可能とは恐れ入る﹂
﹄
﹁何故バレたし⋮﹂
﹃当たり前だ
﹂
!!!
何人かから同時にはたかれる。
﹁はうあっ
!!?
大きい帽子かぶってるからってそんな威力で叩かなくても良いじゃないか
!!
﹁ふむ⋮命のストックといったところか⋮。それも回数制限もしくは数が豊富な⋮。そ
それに対し言峰は一瞬考えるそぶりを見せた後、一つ頷いた。
は一緒だよ。種も仕掛けも御座いますってね
﹁ふふん、仕方ないからヒントだ。ギルガメッシュの言ってる方もランサー達の方も種
それに対し俺は指を一本立ててニヤリと笑う。
今度は麻婆が聞いてくる。
﹁出来れば私も聞いてみたいものだな。何故ランサー達が生きているのか﹂
1122
身長伸びなくなったらどうすんだよ
伸びるかどうかは置いとくけど⋮。
!!
﹂
!!
ちっ
﹂
!!
﹂
!!
聖杯の触手から泥を撃ち出す事に切り替える。
それをアーチャーとイリヤがローアイアスで防ぐ。
﹁しゃーない。ホントのホントに最後のバトルだ。とっとと終わらそう﹂
ラストバトルっぽく舌戦とか無いけど、あっちが仕掛けてきたんだから良いよね
答えは聞いてない。
﹂
﹁コウジュ、さっき言った通りギルガメッシュはこちらで潰すわ。だから⋮﹂
﹁おーけ│。マーボーと聖杯はこっちでだな。行くぜ
俺はロンギヌスの槍を取り出し、アイアスを飛び越え突き進む。
!!
?
マーボー神父もギルガメッシュを止めようとするが、無駄だとすぐに判断し、自身も
﹁待てギルガメッシュ
!!
そう言って、ギルガメッシュが宝具の雨を降らせる。
死ぬのか、それを知るのも一興よ
﹁ふん、面白いではないか。かの英雄は十二の試練を超えたという。貴様は何度殺せば
も第二第三の俺が現れ貴様を倒すであろうさ
﹁ま、まぁさておきだ。一度や二度殺した程度では俺は死なないのさ。この俺を倒して
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1123
﹁俺も行かせてもらうぜ
最初っからクライマックスだ
﹂
!!
ふ む ⋮ 目 標 を 斬 り 捨 て る ⋮ こ れ は 中 々 し っ く り く る
!!
﹁けどよぉ
⋮多い
﹂
﹂
!!!
数だけだ
⋮なっと
っりゃぁぁ
﹂
!!
﹁さっすがに
3人で弾幕を潜り抜けながら、時には武器で弾きながら向かう。
何気に距離がある上に、この弾幕をくぐりながらだから中々たどり着けない。
る。
クー兄さん、小次郎も続けてアイアスの隙間から飛び出て、ギルガメ達の方へ走り寄
な﹂
﹁私 も 行 か せ て も ら お う
!! !!
!!
泥は弾くな
!!
!
むっ
!?
!!
﹂
!!?
その手にあの紅い槍はもう無い。
続いて、小次郎の援護に回ったランサーも飛び退く。
﹁マジかよっ
に泥に取り込まれていく小次郎の物干し竿があった。
小次郎の方を見ると、小次郎はその手に何も持っておらず、小次郎が寸前まで居た所
比較的近くに居たランサーが小次郎への射線上に入る。
三人で進んでいる途中で、突然小次郎が離脱する。
﹁確かに
!!
!
1124
近くに泥に飲み込まれていくそれが見て取れる。
そして小次郎とランサーがバックステップをしつつ避けて行くが量が量だ。
得物が無い二人にはいささか捌ききれない。
俺は慌てて2人の射線上に入る。
﹂
!!
してこちらへと再び飛んできた。
泥は地面にぐちゃりと落ちたかと思うと、身をねじるようにグネグネと形を変え、そ
だが、無駄だった。
それによって泥は登る対象を失う。
ロンギヌスを一度消す。
なるほどな、これに二人の武器は飲まれたわけか。
泥が生物のように手元に上ってくる。
慌てて振り払うように振るうが無駄だった。
そしてついに泥を避けきれず、自らに当たるよりはとロンギヌスで弾いてしまった。
俺もロンギヌスを振り回すが宝具は弾けても泥に触らないというのは難しい。
際は無いです。
某ピンクの髪をした写メ取るのが趣味な騎士様の口マネをして余裕ぽく振舞うが実
﹁厄介⋮ちょっとだけ⋮
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1125
﹁キモイっての
適当にシールド
10
×
﹂
!!
した。
﹁悪ぃな嬢ちゃん
﹂
﹂
同時に2人と共に後方へ下がる。
﹁恩に着る
﹂
それを見て、俺は言葉通りに適当にシールド関係のランクが低いのを10個眼前に出
!!
他愛もないではないか
なんか腹立つんですけどあいつ
﹂
!!
やっぱり生半可な盾では圧倒的な質量の前では意味をなさないか。
しかし、言峰はそれ諸共に飲み込もうと大きな波を泥で作りこちらへ向かわせる。
した大剣をいくつも格子状に地へと突き刺していき、波の進行を防ぐ。
俺達三人とスイッチする様に再びアーチャーとイリヤが前に出る今度は二人が投影
!!!!
﹁ふははははは
!!!
だがすぐに、すべての盾は飲み込まれていった。
それに対抗するために盾の数を増やしてみる。
泥は波のように質量を持ち始め、俺が出した盾を飲み込まんと迫る。
言峰は俺達が引いた事に気を良くしたのか続けて攻撃してくる。
﹁ほう、いくら不死者でもこの泥は避けるのか。ならば
!!
!!
!
1126
一般人
まったく、いくら不老不死でもあの泥に触れた瞬間に俺の脆弱な中身は押しつぶされ
る気がするから当たりたくはないのに。
予定より早いけどツミキリオモテ
サイカオモテ
﹂
!!
を集約させ、その身に取り込み力と成す﹄。
つまり、この世全ての悪だろうと濾過して自分の力にする
﹂
とは言え一人では限界がある。
地面に擦りそうなほど体制を低くし、最短距離を走る。
泥は斬り、宝具は弾く。
一人、泥と宝具の雨の中を駆ける。
﹁スイッチだ
!!!!
!!
方が﹃絡まりし事象の鎖から、その姿を表すとされる連鎖の小剣。哀しき事象の因果律
罪の小剣。全ての悪しき罪を調律し、怨念や苦悩を絶大な力へと昇華させる﹄、サイカの
込められた概念はツミキリの方が﹃絡まりし事象の鎖から、その姿を表すとされる断
本ずつ。
俺が出したのはツミキリヒョウリ、サイカヒョウリの片手ダガーverをそれぞれ一
!!
この世全ての悪が中に入ってるチートスペックな身体とかどんな絶望だ。 !!
でもだからこそ対処法は考えてある。
﹁調子にのんなぁぁ
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1127
宝具と泥の雨を抜けてもまだ泥の波が残っているのだ。
しかし心配する必要はない。
後ろには心強い味方がたくさん居る。
のようだ。
いくら神代の魔女と呼ばれるキャスターといえどあれだけの密度には拮抗がやっと
あの泥は魔力の塊でもある。
いや、よくて拮抗か。
それによって波は押し遣られた。
そこへ叩き込まれるいくつものキャスターの砲撃。
﹁ふぉいやーってね﹂
空中へと飛び出す俺の身体、それを追う様に波はうねりながら俺へと向かってきた。
それを前に、身体を止めるために使う慣性を地を蹴ることで上へと向ける。
目の前には丁度泥の海。
同時に俺は地に両の剣を刺すようにして身体を止める。
念話を通してキャスターから言葉が届く。
﹃おーらい﹄
﹃チャージ完了よ﹄ 1128
キャスターには結界も頼んでるし、仕方ないか。
けど、それで十分。
道は開かれた。
空中に居た俺は宙を蹴り、金ぴかたちに肉薄する。
﹂
あれってまさか⋮セイバーを追い詰めるのに使われてた鎌
金ぴかはそのまま空中から大鎌を取り出す。
舌打ちをするギルガメッシュ。
!!?
﹁っぐぅ
﹁ふんっ
﹂
あれの能力は│││、
でもそうじゃない。
大鎌ではあるがその刃は届きそうにない。
ギルガメッシュからは少しの距離ができた。
る。
俺は慌てて、勘に従って再び地を蹴るように宙を蹴り、身体を無理やりに後方へと捻
アニメで見たことのある鎌、それの能力は俺が言うのもなんだがかなりのチートだ。
!?
﹁ちぃぃっ
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1129
﹂
!? !!!
刃先の空間跳躍と斬った相手の魔力吸収。
その刃が俺の背を裂く。
同時に抜け出る魔力の感覚。
幸いにも少し掠っただけだからかそれほど抜け出てはいない。
俺はそのまま、変な体勢で避けた所為で地面にぶつかり、そのまま地を滑る。
だけどすぐに、追撃を警戒して身体を起こす。
すると案の定、俺に向かって泥の波が来ていた。
俺は痛む背を無視してバックステップし、下がる。
そして下がった俺の前に後方から魔力弾が雨の様に降り注ぎ、地面ごと抉ることで泥
の波を防いでくれ始めた。
感謝だキャスター。
そう不満げに言いながら鎌を消すギルガメッシュ。
﹁⋮避けられたか﹂
その様子にちょっとイラッとしながらも一つ疑問を持つ。
何故直すんだろうか。
何かの制限があるから
そう言えばアニメでも一度使った後は違う武器に変えていたか。
?
1130
プライド
王としての傲慢が武器の多用を許せないとか
勘の御陰で何とか致命傷を防げたけど、次はどうかわからない。
でもおかげで助かったわけだ。
そこまで行くと慢心も一つの境地じゃないかと思えてくるから不思議だ。
?
﹂
﹂
あーくそ、やっぱり自分の選択とはいえあんな設定するんじゃなかった。
﹁コウジュ無事なの
!
最初から無理そうならしないって約束だったでしょう
?
ガメがなんか動く。
いや一応は生物︵
︶なのだからそれは当然っちゃ当然なんだが、そういう意味では
その所為なのか、俺が居ることでの乖離なのか、慢心してはいるけど、目の前のギル
けど、今更だけど一番最初の制約がここに来てやっぱり邪魔だ。
・・・・・・・
ほんとは最初から分かってはいたんだけど、つい魔が差したんだよ。
!?
﹁ごめん、隙作れんかった。やっぱり作戦1は無理っぽい﹂
﹁馬鹿
﹁あははー、すまねっす﹂
!
少し涙目になってそう言うイリヤに、苦笑をこぼす。
﹂
俺の横に駆け寄ってきたアーチャーとイリヤが心配してそう声を掛けてくれた。
!?
﹁無事か
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1131
なく、原作知識で持っている人物像よりギルガメッシュが宝具を射出だけではなくちゃ
んと手に持って使ったりとアクティブなのだ。
制約の所為ならちょいと厄介だねぇ。
自業自得ではあるんだけどさ。
うし、回復。
?
大太刀と槍、それらを二人の前に落ちるようにしてアイテムボックスから出す。
﹁おいで、コクイントウホオヅキにロンギヌス﹂
そこで俺は二人に自らの武器を渡すことにした。
でもアサシンの言う通り、今の二人は武器が無い。
頼りにしてるともさ二人とも。
その二人にもあははと苦笑を漏らす。
俺の横に並び、そう言うランサーとアサシン。
﹁うむ、とはいえ武器を奪われたがな﹂
﹁ってか、そのための俺らなんだろ
﹂
口の中に広がる苦味を我慢すると、先程からあった背中の熱感が消えていく。
言いながらアイテムボックスから小回復薬を出し、中身を飲む。
モ ノ メ イ ト
﹁うーん、やっぱ作戦Bしかないかぁ。予想以上に金ぴかが邪魔だ﹂
1132
﹁代わりにこの子達を使ってくれ。泥が厄介だけど、2度目は無いっしょ
﹁はん、誰に言ってやがる﹂
というわけで、今度は俺がバックアップに入るか。
俺には到底無理だな。
うへぇ、あれが本物の英霊ってわけか。
ことで軌道を反らすようにしていく。
﹂
二人は先程までの戦いのように泥を真っ向からたたき切るのではなく、幽かに触れる
言うなり、それぞれ目の前の武器を手に飛び出したランサーとアサシン。
﹁愚問だな﹂
?
ネギウォンド
徐々に金ぴかたちへと近づいていくランサーとアサシン、その二人を追いかけるよう
にしてアーチャーとイリヤも突き進む。
﹂
テクニック
俺は一度両手のオモテを直し、代わりに出すのは短 杖。
デバンド
!
﹁サンキュー嬢ちゃん
﹂
そしてオーラに触れた味方達の攻撃の重みが増した。
俺から立ち上る魔力が赤と青のオーラとなって俺を中心に広がっていく。
距離を考えて、数メートル下がった状態で魔 法を使う。
﹁シフタ
!
!
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1133
ランサーが金ぴかたちから目を離さずにではあるが礼を言ってくれた。
他のメンバーも一瞬の間にこちらへと視線を送ったりと感謝の意を告げてくれる。
そのことに少しテンションが上がる。
俺は突っ込むだけが能ではないのだ
ちなみに今俺がつかったのは、炎系テクニックであるシフタ、氷系テクニックである
デバンド。
効果はそれぞれ味方の攻撃力と防御力を一定割合分上げるというもの。
効果時間は短いが、これの凄い所は筋力とか皮膚の固さを上げるというのではなく概
念的に攻撃力と防御力が上がるという部分。
だからボディイメージが変わることなく、能力値を向上させることが出来る。
まぁ、未だにフレンドリーファイアをしないようにテクニックを使えるようにはなっ
﹂
てないので、自分の立ち位置を考えないと敵まで強くしてしまうんですがね。
﹁コウジュ、今のは
静観というか唖然としていたが正解なのかね
﹁今 の は 俺 の 魔 法、い や 士 郎 達 的 に は 魔 術 か。ま ぁ ち ょ い と し た ブ ー ス ト さ。そ し て
まぁこれだけ戦力が居れば入っていく隙を見つけるほうが難しいわな。
?
今まで後方で静観していた士郎が話しかけてきた。
?
1134
ディーガ
﹂
ディーガディーガディーガ
﹂
!
﹁くっ、視界が
﹂
﹂
そのための防御力上昇なのに貫通してしまう威力を出しちゃうと意味が無い。
そもそも手加減無しでやると他のメンバーを巻き添いにしてしまう。
これで倒せるとは思ってない。
だけどそれで良い。
しかし、飛んでいく岩石は全て泥や宝具に容易く撃ち落されていく。
石。
なんだか高画質録画とかできそうだけど、飛ばすのはあくまでもテクニックによる岩
連続して岩石を飛ばしていく。
﹁ディーガ
それが放物線を描きながら金ぴかたちの方へと飛んでいく。
形作るのは今の俺より二回り以上も大きい岩石。
くる。
言うに合わせて振り下ろした杖、その先から溢れ出るように魔力が形を得ながら出て
俺は士郎と話をしながら次のテクニックを使う。
!
!
!?
﹁ギルガメッシュ
!?
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1135
そして次第に、砕かれていく岩石は粉塵となり視界を防いでいく。
特に泥ではなく宝具により砕くことを主にしていたギルガメッシュの方は一段と砂
煙が舞い上がっている。
﹁ランサー⋮っ﹂
同時に上がるアサシンの声とギルガメッシュの声。
﹁ぐぁっ﹂
アサシンは視界を防がれたギルガメッシュを器用に刀の峰で打ちあげたのだ。
波動球ってな
﹂
そしてアサシンの声を聞き、打ち上げられた金ぴかへランサーが追いすがる。
﹁あいよぉ
﹂
!!
そしてそのギルガメは俺達の方へと飛んできた。
その方法は極めて単純、バットの様にロンギヌスを握り思い切り振りかぶる
そのカチ上げられたギルガメを、ランサーが槍で麻婆から引き離す。
﹁ぬぉおおおおああ
!!!
﹂
!
だけど、俺がお願いしたのは彼らじゃない。
その声に、尚更慌てる士郎達。
﹁んじゃ、後はよろしく
それを見た瞬間、俺は後ろで慌てている士郎達はさておき前方へと走り出した。
!!
!!!?
1136
俺とすれ違う様にギルガメッシュを追いかけてきたアーチャーとイリヤ、少し遅れて
ランサーとアサシンだ。
﹄﹄
!!!
﹂
!?
当たらなければどうということは無ぇ
﹂
!!
﹁追い付けんか、ならばこれならどうだ﹂
速さはこっちが上だ。
それを斬りつつ、その場に止まることなく動き続ける。
何本もの触手が俺に迫る。
﹁はん
!
﹁その双剣⋮厄介だな。だが、生身の部分に当てれば問題はないか﹂
﹁やっぱその聖杯は面倒なんでねー﹂
言峰がそちらへ触手を伸ばそうとするがそれを俺が叩き斬る。
﹁あんたの相手は俺なのさ﹂
でもこれこそがプランBだったのさ。
ふふふ、その表情実に愉悦。
流石に動揺せざるを得ない様子の言峰。
﹁分断されたか⋮
重ねるように唱えられると同時に士郎達、向こうに居た組は全員消えた⋮。
﹃﹃unlimited blade works
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1137
早さで追いつけないならばと、麻婆は触手の数を増やしてきた。
確かに、俺にはランサーやアサシンの様に最低限の動きで泥の中を駆け抜けるような
ことは出来ない。
だけど、ただ速くぶった切ることなら出来る。
だから、ただただ斬って斬って斬りまくる。
最近じゃぁ空中を蹴るのもお手の物だ。
双小剣系フォトンアーツの中にレンガチュウジンショウというものがある。
この技とか完全に空中を蹴って移動しながら敵を切り刻むんだけど、その技があった
からか虚空瞬動もどきが出来るようになってきた。
﹂
それを使って3次元的な動きで翻弄しながら触手を斬っていく。
﹁まずは一手
﹂
すぐに回避するために踏み込み切れなかったし、浅かったかな。
俺が今まさに居た所へと触手が殺到した。
そしてすぐに離脱。
そしてそのまま袈裟掛けに言峰をも切り裂く。
俺に迫る触手を何本も斬り伏せ、一度言峰の懐に入り込む。
﹁くっ
!!
!
1138
でもあの触手の海に身を委ねるつもりはない。
幼女に触手なんて何そのエロゲってなものだ。
絵面的にどこぞの協会に規制されてしまうレベルだ。
そんな益体もないことを考えていると、言峰は傷口を押さえながら何故かこちらへと
笑みを見せた。
つい
例え俺がいなくてもあんたの野望はここで潰えていたよ﹂
﹁何を根拠に⋮﹂
﹁あんたがしてる事が悪だからさ
世間一般で考えてな
悪は滅びるもんだ﹂
!!
﹂
!?
!?
な。それに、俺は正義なんて崇高なもんを背負うつもりはねぇ﹂
﹁そんなもん俺が知りたいね。いつだってそれを決めるのは自身じゃなくて相手だから
か
﹁ならば正義とは何だ お前も衛宮親子の様に自身が正義の味方だとでも言うつもり
なら当然、負ける宿命にあるさ。
そしてこの町には正義の味方が居る。
!
麻婆の妄言に、俺はどこぞのチルドレンのマネをしながら言う。
﹁あんたばかぁ
?
ば計画は成功していただろうに﹂
﹁くくく、これほどか。これほどなのかイレギュラーサーヴァント。貴様さえいなけれ
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1139
はたまたこの町の為か
﹂
﹁なら貴様は何の為に闘っているというのだ アインツベルンの娘の為か 衛宮士
郎の為か
?
?
﹂
?
けどな、助けたいから助けて何が悪い
﹁そして偽善か⋮﹂
﹂
﹂
いちいち正義がどうとか考えて行動するかっての。
助けたいと思ったから助ける。
思ってしまったんだから仕方ないじゃないか。
!!?
!!
﹁その程度で⋮その程度の考えで私の邪魔をするのか
﹂
けどな、やらねぇ正義抱えるくれぇなら、自分で動く偽善抱えてた方がマシだっての
らな。
﹁それこそ正義とは何かって話になるだろうがよ。文字通り偽の善っていう位なんだか
?
よ。
﹁てめぇだけには言われたくねぇよ。だがまぁその通りだ。俺は自己中心的なんだろう
﹁自己中心的だな﹂
﹁そんなもん決まってる⋮自分の為だ
はっ、分かりきった事聞いてんじゃねぇよ。
?
!!
1140
﹁士郎が言ってなかったか
﹂
が好きか
﹂
お前さんはた迷惑なんだよ﹂
﹁ふん⋮、お前も衛宮士郎か。どいつもこいつも衛宮衛宮⋮へどが出る。それほど衛宮
?
俺が
士郎を
なぜなにほわい
なんでそんな話になるのかな
一瞬思考が止まってしまう。
?
!?
﹂
た 事 が あ る 筈 だ。そ の 身 を 焦 が す 思 い が
どの力を持つなら尚更の筈だっ
あの⋮聞いてます
!!!
全 て を 壊 せ と 破 壊 せ よ と
そんなはっちゃけて言うから血がだらだら出てるじゃん。
ちゃった位だからな﹂
そ れ ほ
﹁破 壊 衝 動 ね ー ⋮。確 か に あ る な。特 に 俺 は 獣 人 だ し、バ ー サ ー カ ー の ク ラ ス を 頂 い
!!
?
!!
斬撃で俺が斬った部分を手で押さえながら声高に叫ぶように言う言峰。
はぁ、1人テンション上げちゃってさ。
って聞いてるわけないか。
?
!!
﹁お前もどこの英霊かは知らんが元は生きていたのだろう ならば、破壊騒動を感じ
!?
?
!?
!?
﹁⋮へ
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1141
﹁そうだろう
ならば私を肯定しろ。そうすれば││﹂
俺は声高に麻婆にすべてを言わせる前に叫ぶ。
ほんと痛いのは大っ嫌いです。
なんかよく死んでる気がするけど⋮。
それは能力の関係とか、実験とかの為だから
!!
﹂
どこぞの総領娘みたいにM疑惑は俺には必要ないからな
﹁は⋮
﹁それがどうした
﹂
?
けどそれは相手も望んでこそだ。
競い合うことが好きなんだ。
他人の痛がるのを見て喜ぶドS趣味はねぇ
!!
るから闘いに対する喜びがある事は否定しねぇ。
はっ⋮。俺はな、痛いのが嫌いだ。確かに闘うのとか生来身体動かすの好きな部分あ
﹁それがどうしただと
?
﹁俺はな。痛いのが嫌いだ。不死だから回復するけど、死ぬ度に痛い、当然のごとくな﹂
いや、突然素の反応すんなよ⋮。
?
!!
?
﹁だけど、俺は根本的に痛いのは嫌いなんだよ﹂
1142
そんなの見る気なんざさらさらねぇんだよ
お前みたいに、ただただ一方的に虐殺するのを肯定できる訳がねぇ
﹂
士郎が気持ち悪い笑みと言いたくなるのも無理が無いと思うな。
﹁何がおかしい
﹁ならばどうする
私を殺すかね
﹂
?
死んで終わりになんかするもんか。
こいつの命を背負う気はないし、こいつは生きて償うべきだ。
こいつだけは殺すもんか。
﹂
﹁だが断る。だから、お前に復讐はするがお前だけは殺して〝やんない〟﹂
でも俺はお前をどうするかは既に決めてあるんだよ。
両手を広げ、さぁとでも言わんばかりにこちらへ笑みを向ける。
?
そちら側なんてな﹂
﹁虐殺したくなるような〝そちら側〟は元よりお断りだよ。あの子達をあんな風にする
前は〝そちら側〟か⋮﹂
﹁いやなに、バーサーカーのクラスを得たお前なら理解できると思ったんだが⋮所詮お
?
!!
!!
何が可笑しいのか満面の笑みをこちらに向けてくる。
﹁フフ、何を言うかと思えば⋮﹂
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1143
﹁ならばっ
﹂
﹄
ホントにどこぞのジ〇リの出てくる獅子神様最終形態みたいな感じになってるよ
│││最終的に、巨大なかろうじて人型の怪物になった。
﹁何というデイダラボッチ⋮﹂
それは次第に聖杯すらも飲み込み、巨大になっていき││││。
包む泥がどんどんどんどんとカサを増し、質量を増やしていく。
なぁにこれぇ⋮。
﹃お前が死ぬが良い
言峰の周りにあった泥が言峰を包みだした。
!!
っぽい所がパクパク開閉したと思ったら、腹の底に響く声でそう言ってきた。
?
とりあえず俺は、改めてオモテの2本を両手に出して構える。
やっべぇ⋮、冬木終わったかもしれない。
口
﹃完成した聖杯の力を見せてやろう⋮﹄
神父+聖杯+ロリ=デイダラボッチとかどういう計算式だおい。
というかイリヤ人形ごと取り込みやがったぞこの神父。
ね。
まぁ向こうは薄い青でどこか神々しさがあったのに対して、こっち真っ黒ですけど
!?
!!!
1144
『stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ』
1145
か、カカッテコイヤオラァ
だから許してください。
とりあえず被害が龍洞寺で留まるように頑張ろう。
!!
﹄﹄
﹃stage47:劇的○フォー○フター﹄
﹃﹃unlimited blade works
アーチャーとイリヤは〝unlimited blade works〟⋮、無限の
剣の世界⋮。
そして同時に、これこそがコウジュが俺に見出していたものだと理解する。
何かを流し込んでくる。
先程から、俺が手に持つエクスキャリバーが熱を持っているかのように脈動し、俺に
理解させてくれたと、そう言うべきなのだろう。
・・・・・・・・
いや、訂正だ。
るべきものだったのだと理解する。
最後の言葉の前の詠唱もやけに容易く俺の中に入ってきたが、この世界こそが俺に入
しか見た剣と歯車が支配する世界に変わっていた。
そう、ギルガメッシュが飛んできた瞬間にアーチャーとイリヤが言うと、辺りはいつ
!!
1146
剣製と呼んでいた。
どういう理屈かは分からないが、この世界は俺の世界でもあるようだ。
分からない事だらけだ。
アーチャーの事も、イリヤの事も、そしてこの世界が俺の世界でもあると思ってしま
う事も。
・・・・
けど、無駄なんだろう。
ここはそういうものなんだ。
コウジュのプレゼントは﹂
理解するのではなく、ただ認めれば良い場所。
?
﹂
?
が無くなっているな。
?
改めてそう感じながらも、俺は他の思考で埋め尽くされている。
まぁだいたいコウジュの所為だが。
か、カリスマ性
今は身長が小さくなっているから自然とそうなるが、それにしても以前の威厳という
俺の前に来て、下から覗き込むように聞くキャスター。
﹁聞いてる
あれ、そういえば途中で居なくなってたな。
空間そのものから溶け出すように現れたキャスターは、俺の横でそう言った。
﹁どう
『stage47:劇的○フォー○フター』
1147
当然この世界についてだ。
視線を前方へ戻す。
そこではアサシン・ランサーと共に、2人の紅い弓兵がその名とは違い、地面に刺さっ
たいくつもの剣を駆使しながらギルガメッシュの宝具に対応していく。
どうやら弓兵は白兵戦もできなければならないようだ。
俺自身、弓を担うと同時に剣を握ることに忌避感を覚えてはいない。
ひとまず、俺はそこから目を離さずに答える。
ライダーも居ないし﹂
?
固有結界だってホントは現実世界を塗りつぶすように現れるものだけど、それだと分断
﹁まず私だけど、私は今回結界担当なのよ。柳洞寺の結界だって私が弄ってあるし、この
キャスターは指折り数えながら言ってくれた。
﹁ああ、そういえば坊やは知らなかったのよね﹂
﹁そういえば、今までどこに居たんだ
俺は再び、視線はそのままにキャスターに質問する。
再び俺の横に戻り、俺と同じように遠くに見える闘いを見るキャスター。
﹁ならよかったわ。コウジュも報われるわね﹂
る﹂
﹁確 か に こ れ は す ご い よ。ど こ か 懐 か し さ す ら 感 じ る ほ ど に こ の 世 界 は し っ く り と 来
1148
できないから結界を応用して少し層をずらして世界を構築する様に調整してるわ。普
﹂
通はできないけど、色々と条件がそろったから何とか出来たのよね。コウジュとあの神
父が居ないでしょ
﹂
﹁次にライダーだけど、ライダーは桜とあのダゼット
女性を守っているわ。念の為だけどね﹂
⋮⋮バゼットさんじゃなかったっけ
いや、今は置いておこう。
とにかく他の皆が無事でよかった。
俺はもう諦めの境地に至ったから、うん⋮。
?
とにかくランサーと一緒に来た
﹁キャ、キャスター。出来れば私はこの状況や、いえもう全ての状況解説をお願いしたい
俺
根が真面目な二人の事だから許容しきれなくなったのだと思う。
あまりにもあまりな状況のカオス具合に思わず呆けてしまっていたのだろう。
後ろに居るのはセイバーと遠坂だった。
そう言って、俺への説明を終えたキャスターは後ろを振り向く。
?
?
?
した事は分かった。
層をずらすとかはよくわからなかったけど、コウジュと言峰が居ない事で分断が成功
?
﹁さて、後ろの2人はいつまで呆けているのかしら
『stage47:劇的○フォー○フター』
1149
のですが
﹂
?
と変わらないと言えば変わらない
﹂
やはり、2人はついていけていないようだ。
﹂
そんな2人の質問は無視して、キャスターは続ける。
﹁今から総攻撃するけど、来るかしら
そう満面の笑みで言う。
?
﹁速 く 終 わ れ ば そ れ だ け 速 く 質 問 タ イ ム が 取 れ る わ よ
?
?
﹂
?
走ると同時、もう片方にカリバーンを投影する。
俺は手の中にあるエクスキャリバーを強く握り、走り出す。
﹁当然俺も行く。この状況とはいえ、女の子にばっかり戦闘任せるってのもあれだしな﹂
﹁坊や、あなたはどうする
因果応報というやつだろう。
だろうな。
いやもう過剰戦力だと思うんだけど、それ以上に成さなければならないことあがある
その言葉をキャスターが言いきる前にセイバーと遠坂は既にその場に居なかった。
│﹂
つ い で に ス ト レ ス 発 散 を │
﹁私も⋮さすがにこの状況はコウジュだからで済ませてはいけない様な⋮。いや今まで
1150
片手剣と両手剣、本来同時に使用するものではないが、必然とその使い方や身体の動
かし方が漏れ出す。
そう思いつつも、俺もその闘い
現実は非情である。
・
・
・
に突っ込んでいくのだった。
?
﹂
先程のことで魔力も充実しているのか、ダルさもなく体が前へと進む。
⋮やられると⋮がはぁっッ
!?
!?
既にギルガメッシュは満身創痍な気もするが、仕方ないのだ。
⋮程度で⋮おぐ
!?
金ぴかも、こうなりゃただの、サンドバック。字あまり。
﹁このて⋮ぐふぁ
『stage47:劇的○フォー○フター』
1151
・・
﹁まったくひどいですよ。死んでしまったらどうするつもりだったんですか
﹂
?
﹂
俺の近くでキャスター達に文句を言っている金の髪の少年にギルガメッシュがなっ
どうかしましたか
てしまったからだ。
﹁ん
?
でもまさか性格まで変わってしまうとは⋮。
性格まで変えてしまうとは改めて恐れ入る。
カード、低年齢化、そう来れば大元の原因は分かる。
ドが原因なのだろう。
恐らくとどめを刺す寸前にイリヤが掌底と共に心臓の辺りへと叩き込んでいたカー
ただ、キャスター達はこうなることを知っていたようで驚いてはいない。
俺の問いに対して朗らかに笑いながら首を傾げる姿に毒気が抜かれてしまう。
﹁自分の事だろうに⋮﹂
﹁さあ、何ででしょうね。僕としてもあの性格は意味が分かりませんし﹂
﹁とりあえず何でお前そんなに性格変わってるんだよ﹂
﹁確かにそうですね﹂
﹁もうわけが分からん﹂
俺が目線をやったのに気付いたのかこちらを見てくるギルガメッシュ︵少年︶。
?
1152
しかし、これで一先ずこの戦いも終わりなのだろう。各サーヴァント達が武器を下ろ
している。
一番ギルガメッシュに敵意を燃やしていたイリヤも既に警戒を解いている。
アーチャー、イリヤ﹂
短剣片手にやや不満顔の遠坂が居るが、さすがに屈託ない笑顔の少年を攻撃しようと
は思わないようだ。
﹁じゃあ元の世界に戻すわよ
?
﹁うわ、何あれ気持ち悪い﹂
遠坂が口に出したその言葉は俺も今まさに言いそうになった言葉だ。
﹁なによ⋮これ⋮﹂
しかし、出てきて早々に目に入ったのは、ビルのようにバカでかい人型の何かだった。
苦笑交じりに俺はそう思い直す。
心配するだけ無駄か。何せあのコウジュだ。
外に残された言峰とコウジュはどうなっただろうか。
れていき、先程まで居た柳洞寺の境内へと景色が戻っていく。
そして、キャスターが2人に指示を出した後、指を鳴らすと世界を構成するモノは崩
﹁了解したわ﹂
﹁心得た﹂
『stage47:劇的○フォー○フター』
1153
続いてイリヤがそう言った。
改めてみると本当にでかい。ウルト〇マンとかが闘うべき大きさだ。
あれは⋮誰か戦っていませんか⋮
﹂
その怪物が、大きな体をうねらせながら腕を振り回し暴れている。
﹁む⋮
?
◆◆◆
!!!!
へと剣を振るい抉り取る。
轟音と共に振られた腕を宙を蹴ることで辛うじて避け、そのまま身体を回すことで腕
﹁っるぁあああ
﹂
そして、何とか見れた影の正体はコウジュだった。
少し速くて見づらいが、目を凝らし見てみる。
て取れる。
俺もそこへ目をやると、確かに何かの影が飛び周りながら攻撃して行っているのが見
セイバーが巨人の首の辺りを見てそう言う。
?
1154
だが浅い。
傷自体は大きいが、対象の腕そのものが大きいために相対的に言えばかすり傷にしか
ならない。
そしてその傷も、すぐに塞がる。
﹂
傷周囲の泥がうねうねと動き、傷ついた場所を埋めていく。
﹁キリがねぇなおい
サイズ考えろサイズを
﹄
!!
﹂
息が上がっているではないか
そんでもってめんどくせぇことに徐々にボッチ神父の速さが少しずつ上がってる。
い討伐は心が折れそうになる。
レア掘りの為に連日クエストに潜るくらいならやるんだが、これほどにやりがいの無
だけど、何度斬っても終わりが見えてこない。
双剣で斬る。斬ったものを剣が吸収して俺の力となる。
!!
きさは無理だっての
!!
ので慌てて回避する。
そう叫ぼうとするも、象程度なら容易く飲み干せそうな咢がこちらへと向かってきた
!!
文句言うなら俺に巨大合体ロボでも渡せやおらぁ ただでさえ幼女なのにその大
!!
!!
﹁っるっさいわ
!
﹃どうした
『stage47:劇的○フォー○フター』
1155
ついでに一閃。
しかし、思うほどのダメージを与えられない。
まったく聖杯とどんな化学反応が起こったらこんな姿になるんだっての。
そう思考するも答えが出てくるわけもなく、振り下ろされてくる腕を避けながらひた
﹂
すら斬る。
﹁っと
何がいけなかった
﹂
!?
思わず吐いてしまった言葉、その原因とも言える光景が先程の疑問の答えになった。
﹁ってきめぇ
﹃ふはははは、馴染んできたか﹄
チート武器以上に頼りにしている勘の通りに動いたのに、どういうことだ⋮。
なのに、避けきれなかった。
速さが上がってきていたとしても、まだ余裕はあった。
?
そして避けた所で今の回避ミスについて考える。
そのことに一瞬動揺するも、追撃が来ていた為一先ず避ける。
てしまった。
ボッチ神父の腕を避けたつもりが、少し袖に引っかかってしまい片袖を持っていかれ
!?
1156
ボッチ神父から触手がいっぱい生えてきてなんかタタリガミになってるのだ。
腕の辺りにもいっぱい生えている。
腕そのものにばかり集中していた俺はその各部から生える触手に服を持っていかれ
たってわけだ。
人型ですらなくなってきたそれは、どこまでも嫌悪感を掻き立てる。
﹁⋮⋮そこまでして、町を、世界を、壊したいのかよ﹂
﹄
?
ちまちまやんのはヤメだ
!
!!
でも、今となってはその素晴らしさが分かる。
ブチ切れた
!!
それを、こいつは、全否定した
!!
でもない﹄
が、それをすればこの町が跡形も無くなると思うが それに私も只々やられている訳
﹃な ら ば ど う す る か ね。こ の 身 体 を 滅 ぼ し つ く す こ と 自 体 は 君 に は 可 能 で あ ろ う。だ
﹁あーもう
﹂
その中で居た時はただただその日常を享受していたに過ぎない。
俺が元々平穏な日常しか知らないというのもあるのだろう。
当然と言い切ったその性根に、俺はとてつもない拒否感を感じた。
﹁っ⋮﹂
﹃当然だろう
『stage47:劇的○フォー○フター』
1157
?
嘲笑。
お前に何が出来るのかとそう言外に言う言峰。
ああその通り。チマチマと斬っていてもキリが無いのは確かだ。
高火力で一気に殲滅しても町ごと吹っ飛ぶのは最初から分かっている。
だからこそお前は泥に塗れてそんな姿になったんだろう。
俺を殺してその上で全ての破滅を望んだ姿がソレなわけだ。
その発想は確かに正解だろうよ。事実、俺は徐々にお前に押されている。
このままやれば俺の脆弱な中身はその泥にいつしかこそぎ落されるだろうさ。
だけどお前は一つ忘れている。
俺のクラスはバーサーカーだ。
俺はまだその本領を発揮しちゃぁいない。
刻めば良い﹂
?
﹄
!!!
じゃ、試してみるがいいさ。
﹃世迷言を
﹁ちょいと後が面倒だが出来ないことは無いのさ﹂
﹃この泥に触れずにかね
﹄
﹁だったら、速くだ。再生するよりも速く、お前が何かするよりも速く、その全てを切り
1158
◆◆◆
﹄
!!!!!
のように撒き散らし、両の腕には刃の紅い斧のような刀身をつけ、そして何よりもその
大きさは2m以上にまで膨れ上がり、全身は黒い毛に覆われ、背中では黒い奔流を翼
コウジュの姿もまた先程までとは明らかに違っている。
その轟音の正体はコウジュだ。
でも違った。
身体には触手のようなものが増え、コウジュを押し始めたからだ。
初めは巨大な怪物の方が原因だと思った。
声ではなく意味も無い、ただひたすらに感情を表すだけの獣の遠吠え。いや、咆哮だ。
巨大な何かとコウジュの戦いを見ていた俺たちの所へ、爆音が轟いた。
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■│││││││││
『stage47:劇的○フォー○フター』
1159
顔は狐とも狼ともつかぬ獣の顔になっている。
﹄
!!!!!
すぐ横を見ればイリヤ。どうやら彼女が言ったのだろう。
戦いに見入っていた俺はその声にハッとする。
﹁あちゃぁ、やっぱりこうなったか⋮﹂
遂には軌跡すら捉えられなくなってきた。
速い。まだ速くなる。
そして段々、段々と俺にもコウジュの動きが追えなくなってくる。
る。
でも、ただそれだけなのに先程までとは違って巨大な何かは苦しんでいるように見え
管に振り回し始めた。
実際に、今まで見てきたような流派なんて関係ない最短距離を行く動きではなく、只
ただ握って、斬りやすい様にぶら下げているだけだ。
いや、構えるなんて上等なものじゃない。
オモテをハンドガードごと無理矢理持つようにして構える。
その黒い獣となったコウジュは同時に、先程まで握っていたツミキリオモテ・サイカ
もう一度吠えた。
﹃■■■■■■■■││││
1160
その彼女は手で頭を抱えるようにしている。
それにしても何がやっぱりなのだろうか
苦笑しながら言う彼女は目の前の戦いそのものはさておき、説明を始める。
﹁あー、そう言えば士郎⋮とセイバーと凜にもまだ言ってなかったわね﹂
そう考えていると、見ている俺に気付いたのかイリヤがこちらを見た。
?
あれはこの世全ての悪という呪いに汚染さ
﹁順番に話すから最後まで聞いてね。あの外道神父が操っていた聖杯の中身、あれが汚
染されているのは前にも言ったわよね
?
じゃあコウジュが危ないんじゃ
﹂
れた泥。だから触れるだけでもただでは済まない代物なのよ﹂
!?
!!
ものだ。
精々キャスターの様子が疲れているように見える程度。
でも勝ちが確定しているというのはどういうことだろうか⋮
﹁士郎、コウジュの能力はね、思ったことを現実にする力なの﹂
?
確かに、目の前で未だ響き続けている戦闘の激しさに比べてこちらはゆったりとした
ちは確定したようなものよ。だからこそ私たちはこうして休憩しているの﹂
﹁待ちなさい士郎。言っておくけどこの戦いはコウジュがああなった時点でこちらの勝
慌てて駆けだそうとする俺をイリヤが手を引き、止めた。
﹁そんな
『stage47:劇的○フォー○フター』
1161
﹁⋮え
﹂
?
⋮はい
﹁それからは│││﹂
﹁待ってくれイリヤ﹂
﹁何よもう、話してる途中に﹂
﹂
﹂
﹁それは悪い。でも、聞き違いじゃなければギャグ補正って言ったか
﹁ええ言ったわよ
﹁いやなんでギャグ補正
?
?
﹂
?
?
﹁だからコウジュは、一番最初に自分で思い込むことにした。ギャグ補正というものを﹂
何と言えば良いのだろうか、彼女は他のサーヴァントに比べて〝上手く〟ないのだ。
力は強い、宝具も強い、でも、最強という訳ではない。
コウジュは何処が釣り合いが取れていないのだ。
その言葉を聞き、確かにと納得してしまう。
強いのに弱い。
ちゃうってことは悪い想像も現実にしてしまうのよ。だからコウジュは強いのに弱い﹂
らいに規格外の能力。けどそれも良いことばかりじゃないの。思ったことを現実にし
﹁ふふ、確かにそういう反応しちゃうわよね。私も最初はしたわ。でも、事実よ。それく
1162
﹁それを今から言おうとしたんじゃない﹂
そう拗ねるように言うイリヤ。
俺が悪かったのか
だからコウジュはあんなにも戦いの中でもふざけるようにして色々と⋮。
そうだったのか。
ると思い込むようにし、そしてそういう風に振る舞うようになった。﹂
を持っているけど痛いのが嫌いなの。だからギャグ補正というものが自分に適用され
﹁コウジュはね。バーサーカーというクラスで召喚されたし、不死身と言って良い能力
しかし不思議と言い返せない雰囲気だったので黙ることにした。
!?
﹁つまりそれがあるからコウジュは勝つってことなんだな﹂
でも確かに、もしそれを自在に扱えるのなら勝機もありそうだ。
いつだったか誰かが慎二はギャグ補正が効いてるとか言ってたっけ。
けど、漫画とかに疎い俺でも何となくだがわかる言葉だ。
かなり予想外の単語が出てきたな。
それにしてもギャグ補正か。
コウジュに会ったら謝ろうと思ったけど、置いておこう。
﹁まぁその所為か途中からは素でしている部分もあったみたいだけどね﹂
『stage47:劇的○フォー○フター』
1163
﹁違うわよ
﹂
⋮あれ
?
?
﹂
!?
!
そして、真正面から闘った場合の勝率はあまり高くないと考えたが故のサーヴァント
けている場合では無いのだろう。
なるほど、確かにコウジュでもあの泥とギルガメッシュの宝具を同時にやるにはふざ
曰くのラスボスの片方、ギルガメッシュの対応を私たちに任せた﹂
言っていたわ。それもあって彼女はサーヴァント達を自陣に組み込んだ。そして、彼女
﹁コウジュは〝ラスボスにギャグ補正は効かない。ガチでやらないとダメだ〟と自分で
笑みすら浮かべて言うその姿を見て、逸る俺の気持ちも少し落ち着く。
どこか誇らしげにそう言うイリヤ。
つ。それだけは確かなの﹂
﹁だから待ちなさいってば。さっきも言ったけど、コウジュは確実にあの外道神父に勝
いか
﹁じゃ、じゃあやっぱりコウジュが危ないんじゃ 少しは援護した方が良いんじゃな
当然世界其の物に対しても﹂
思 考 が 泥 の 悪 意 に 曝 さ れ れ ば そ の 思 い 込 み は む し ろ マ イ ナ ス 方 向 に 働 く で し ょ う ね。
﹁そのギャグ補正はコウジュの思い込みによって成り立っているのだもの。コウジュの
1164
達。
けどそれでも、教えてもらったコウジュの能力に対してあの泥はあまりにも相性が悪
い筈。
そう思ったことに気付いたのか、イリヤがこちらを見る。
そして、笑みを浮かべながらもどこか怒気を纏いながら説明を続けた。 ﹁確 か に そ れ で も あ の 泥 は 脅 威 よ。そ れ も コ ウ ジ ュ に 対 し て は 私 た ち 以 上 の 脅 威 と な
る。それはあの双剣が合っても尚の事よ。あの剣は結局は斬ることでしか力を発現で
きないらしいから。だからあのバカはこう考えたのよ。〝触ってしまうと自我がこそ
ぎ落されてしまうのなら最初から自我を失った状態で動けばいいんじゃないか〟って
ね﹂
今の説明で新しい単語がたくさん出てきて理解しきれてない部分は多々あるが、それ
待て、待ってくれイリヤ。
暴走状態﹂
能力こそがバーサーカーというクラスに当て嵌まっている要因なのよ。 獣 化、それも
ナノブラスト
らしいけど、そこまで深く考えられる状態じゃないらしいわ。そしてその状態になれる
﹁そう、自我が無い。ただただ目の前の敵に対して攻撃しているだけ。いや、多少はある
﹁つまり、今のコウジュは⋮﹂
『stage47:劇的○フォー○フター』
1165
でも今のコウジュがあの泥に対して有効であることは理解できた。
でも、暴走状態
それはものすごく厄介な状態じゃないのか⋮
いやな予感がする。
?
?
のを殴っている。
﹄
!
それでも否定したい。
﹁さぁて、最後の仕事と行くか
﹂
先程感じた嫌な予感がそれに類するものだと自分の中では何故か納得できているが、
しかし、準備とは何だろうか。
諸共近くにあるものを咆哮と共に吹き飛ばした。
そして、言っている間にコウジュは全身から魔力を迸らせながら小さくなった泥の塊
﹃■■■■■■■■││││
!!!!!
その上で、コウジュの勢いは未だ衰えることを知らず、剣を握った手で言峰だったも
だ。
確かにいつの間にかあの巨大だった怪物はその体をあと少しにまで縮め、もう死に体
そう言われてハッとする。
﹁さて、士郎。もうすぐあの戦闘も終わるわ。だから準備しなさい﹂
1166
﹁其れゆえの我らだからな﹂
﹁まったく、仕方あるまい﹂
ランサー、アサシン、アーチャーが言いながら前へと出てくる。
その手には各々の武器がある。
それを見ながら、イリヤが言った。
﹁士郎、言い忘れていたけど、この作戦には最大の難点があるのよ﹂
ああ、言わなくても分かった。
何故準備が要るのかも。
﹁あの黒い獣状態のコウジュはフレンドリーファイアお構いなしなのよ﹂
言いながらイリヤもまたその手に剣を構えていた。
入ったコウジュは戦うことしか頭にないから敵味方の区別がつかなくなるのよ﹂
﹁ギ ル ガ メ ッ シ ュ を 私 た ち が 完 封。泥 を コ ウ ジ ュ が 完 封。だ け ど ね、一 度 暴 走 状 態 に
『stage47:劇的○フォー○フター』
1167
﹃stage48:ハッピーエンド
﹄
?
いから知らなかった〟とのことだったが、いくらなんでもあれはひどすぎる。
本人曰く〝無敵状態でバ火力になるのは知ってたけどガチで暴走したことはまだ無
ような必殺の一撃は食らった瞬間にその潤沢な魔力で以て超即再生をしやがったのだ。
正確には全身から爆発的に溢れ出させた魔力の壁でほとんどを弾き、ゲイ・ボルグの
のバックアップがある状態で全員からの全力攻撃、それをこの子は防ぎ切った。
私とアーチャーで固有結界を再度形成、その中でキャスターによる魔力やその他諸々
しかしながらそれでは私たちの気が収まらない。
ト達へと全力で謝ろうとして土下座を行っている。
この子は元マスターである私を中心に、周囲で満身創痍になっている他のサーヴァン
コウジュのことだ。
そう言いながら土下座をする馬鹿が一匹、もとい一人。既に暴走状態から脱している
﹁誠に申し訳ありませんでした⋮﹂
1168
殺しても消し飛ばしても次の瞬間にはそこに居るのだから堪ったものではない。
小ギルガメッシュに無理矢理エアを使わせて固有結界ごと吹き飛ばしたのにまたそ
こに居たのだから冗談ではない。
おかげであの美しかった柳洞寺の庭はもうどこにもない。白砂利が敷き詰められ、清
流を幻想させる庭はどこにも⋮。
周囲を覆っていた木々達でさえも全てが地面ごとなぎ払われ、土砂災害かと言わんば
かりに掘り返されている。
そして、柳洞寺の本堂やそのほかの建物は〝そんなものは無かった〟と言わざるをえ
ない惨状。
本当にそこに建物があったのか疑問を持ってしまう程にそこには建物を構成してい
たのであろう何かが少し残っているだけ。
間にそれくらいは分かった。
コウジュが変な話し方をする時は大体何かを誤魔化す時だ。短くも濃い付き合いの
私たちの殺気だった雰囲気に、つい言い訳しようとしたようだがその前に潰す。
﹁あい﹂
﹁鬱陶しいから似非関西弁止めなさい﹂
﹁ちゃうねん。もう少し手前で止まる筈やってん﹂
『stage48:ハッピーエンド?』
1169
﹂
﹂
!
被害が抑えられたのはサーヴァント達の御
想定より被害自体は少ないし
それにしても、どうやらまだ反省しきれていないらしい。
﹁で、でもほら
陰でしょ
﹂
﹁あなた自体は好き勝手してたじゃない
!
﹁まぁそこまでにしておいてやりな、嬢ちゃん﹂
?
そう言うランサーにジト目を向けるも開豁に笑うのみ。他の皆も同じ気持ちのよう
いじゃねぇか。元々いざという時の被害を抑えるのが俺達の仕事だ﹂
﹁そんなこたぁ無ぇよ。この寺には悪いが予想の範囲内の被害だったんだからそれで良
﹁ランサー⋮、あなたこの子になんだか甘くないかしら
﹂
変えるなんて高度なことができない筈とのことだけど、それは所詮憶測でしかない。
本人が怖くて使えないと言っていたし、狂化中はまともに思考が働かないから武器を
云わば対星宝具。
な に せ コ ウ ジ ュ が 持 つ 宝 具 の 中 に は 惑 星 を 対 象 と し た も の が い く つ か あ る と い う。
けでしかない。
確かに作戦上ではこうなる可能性があると言ってはいたが、ある意味運が良かっただ
目を反らしながら誤魔化し笑いをするコウジュを思わずはたく。
﹁あ、あはー⋮痛っ
!?
!
!
1170
だ。
そんな姿を見てしまえば、自分一人が言い続けるのも大人気ない。
﹂
はぁ、と溜息一つ。コウジュに手を伸ばし彼女を立たせてあげる。
﹁もう良いのか
﹂
いた時は気絶していたけどいつの間にか目が覚めていた様ね。
そしてそのあとロープでぐるぐる巻きにして身動きできない状況にされていた。撒
れてぼこぼこに殴られて最後には元の姿に戻っていた。
聖杯の泥に塗れて人外になっていたこの神父だけど、コウジュにズタズタに切り刻ま
今の今まで黙っていた外道神父が、私が目を向けたことに気付き目を合わせてくる。
﹁││││││っ﹂
う。
まぁでもそれについてまた話し始めると長いし、さっさと終わらせてしまいましょ
忘れてた訳じゃないでしょうね⋮。
コウジュは私の言葉に思い出したかのようにハッとした表情をする。
若干涙目のコウジュを見ると前言撤回をして続きをしたくなるがさておき、立たせた
﹁良くは無いけど仕方がないわ。まだやることもあるしね﹂
?
﹁それで、どうするの
?
『stage48:ハッピーエンド?』
1171
﹁ふふふ、俺にいい考えがあるんだ﹂
駄目な気がする。
しかし今までもなんだかんだといい方向にはなっていたし、静観する事にした。
狂化状態でも結局コウジュは言峰を殺さなかったんだもの、悪いようにはしないので
しょうね。
狂化すれば思考が単純になると言いながら、泥だけを斬って命を奪わなかったのだか
らここまで来ると呆れを通り越して尊敬するわ。途中からはその思考もどこかに吹き
飛んで完全な暴走していたようだけどね。
ハンドガン
まぁともかく、コウジュがどうするのか見てみましょうか。凜もすごい眼付きで見て
はいるけど、コウジュに任せるみたいだし。
場所へと導かれる﹄とか言ってたっけ。
確か、
﹃この銃に射抜かれたものは運命の選択を迫られ、その決断によって魂が正しい
が包むようにして在り、銃身を造っている。
フォトンで出来た光球、そしてその台座、それらを3つの少し丸みを帯びたブレイド
ハンドガンとは言うが、これは銃の形はしていない。
コウジュが呼び出したのは以前見せてもらった片手銃の一つ、魔弾ミストルテイル。
﹁来い、魔弾ミストルテイル﹂
1172
そこまで思い出し、つい苦笑してしまう。
どうあっても彼女は激甘のようだ。
でもそれが、なんだか嬉しく感じてしまう。
そして、コウジュはそんな私はさておき言峰に向かってミストルテイルを構えた。
﹂
バンッという音と共に、弾丸が発射され言峰に当たる。
﹁お前の罪はお前が償え、言峰﹂
﹁││っ
?
それでも何とか誤解を解こうとわたわたしているコウジュの後ろで、外道神父は再び
いつもいつも説明をせずに先に行動するコウジュが悪い。
コウジュが慌てて弁解するも、皆は引いたままだ。
ら﹂
﹁あの皆さんそんなやっちゃったみたいな目で見ないでくださいな。別に殺してないか
たれたんだからいくら死と隣り合わせの世界に生きていても驚くわよね。
うんまぁ、事情を理解した私以外からすれば目の前で動けない状態にされた人間が撃
凜が恐る恐る問うた。
﹂
着弾した瞬間言峰は気絶したのか、ぐったりとしてしまう。
!!?
﹁コウジュ、何をしたの
『stage48:ハッピーエンド?』
1173
﹂
目を覚ましたのかもぞもぞと動き始めた。
大丈夫だったじゃんよ
!?
﹂
!!?
﹁すまなかったぁぁぁぁ
た。
﹂
その言峰が、突然がシュバっという効果音が似合いそうなほど俊敏に正座をしだし
そうこうする内にロープをすべて外された言峰。
ず。
凛が驚いて言うが、私の予想通りならもうこの外道神父は外道ではなくなっているは
﹁ちょ、外していいの
のロープや、口元を縛っていたものも全て外していく。
若干自分でも心配だったのであろうコウジュはまた涙目になりながらも、起きた言峰
﹁ほ、ほらな
!!
﹁大☆成☆功
って、おぅっ
﹂
!?
﹁ほんとおぉぉにすまなかったぁぁぁ
﹂
い状況を作り出した原因があなたのだから仕方ないわよ。
何で叩かれたんだという目を涙交じりにしているコウジュだけど、このよくわからな
ドヤ顔で言うコウジュを今度は凜が頭をはたく。
!!
そしてそのまま、額を地面にこすりつけて土下座をした。
!!!
!!!
1174
そして嗚咽交じりに言峰神父は土下座を続行中。
他の面々は未だにこの気持ち悪い位の代わり様に引いたまま思考放棄しているよう
だ。
仕方がない、そろそろ助け舟を出してあげるべきかな。
なのよ﹂
﹁さっきコウジュが持っていた武器の能力は簡単に言えば魂の在り方を導くというもの
﹁そ、そうなんだよ 俺が言峰にしたのは言峰の感情の歪みを弄ったって言えば良い
!
﹂
のかな⋮、生まれながらに在り方が歪んでたんだ﹂
?
けど、この神父はその反面そんな自分に疑問を持っていて自ら色んな事をして救われ
確か、一般的な幸せを謳歌出来ず、人の不幸に愉悦を感じてしまう歪み。
とかって考えに至ったと思うんだ。
多数の人間と根底が違ってしまっている結果、今回みたいに死の瞬間の人の輝き見たい
﹁歪みって言っても俺の主観的なものになるんだけど、言峰の中の判断基準ってのが大
士郎の疑問に答える為にコウジュは続きを話す。
それに返してきたのは士郎だ。
私の言葉に慌てて付け足すように言うコウジュ。
﹁歪み
『stage48:ハッピーエンド?』
1175
ようとしたりもしてたんだ。詳細は忘れたけど、堕ちるまでは聖職者らしい聖職者だっ
たらしいよ。
﹂
だから、その辺りを上手くいく様にちょちょいとやってみた﹂
﹂
つまりアレだね、映画だと突然良い奴になる少年にな
﹁それをしたから⋮こんな言峰になったのか⋮
s right
ぞらえて言うと、綺麗な言峰だね
﹁That
!!
よし、私もなんだか我慢ばかりしている気がするし少し参加しようかな。
近胃が痛い時があったとしても。
でも、その御陰で私は生きているのだし、感謝しないといけないのかしらね。例え最
残念で仕方ないけど。
今更だけど、本当に規格外なことばかりを起こしているわね。扱いきれていないのが
キャスターが状況を消化しきれないのも仕方ない。
魂 の 改 変 だ な ん て 魔 法 の 領 域 を さ ら っ と し て し ま っ た ん だ も の。魔 術 師 で も あ る
またしても何でという表情をしているけど、理解していないのかしらこの子は。
あ、今度はキャスターに頬を軽くだけど抓られてる。
キレイなだけに、なんて嬉しそうに言うコウジュ。
!
'
?
1176
◆◆◆
﹂
!!
でもこれしか思いつかなかったんだから仕方ないじゃないか
ってか何で俺は抓られてるの
抗うと後が怖いことは学習したからね
あ、痛いと思ったからかちょっと痛くなってきた。もう嫌だこのピーキーな能力。
実際には痛くなかったがつい頬を摩る。
そう思いされるがままになっていると、少しスッキリした表情をして止めてくれた。
!
とは言えこういう時は大体自分がやらかした時なので我慢する。
防御力の関係か痛くは無いんだけど、やめてくださいお願いします。
?
!
自分でやっといてなんだけど、何だろうこの落ち着かない感覚。
まにか膝立ちになって空に向かって懺悔的な事をしていた。
俺がキャスターやイリヤにあちこち抓られている間に、土下座していた言峰はいつの
﹁ああああ、私というものはどうしてこんな事を
『stage48:ハッピーエンド?』
1177
そんな風に内心で涙目になっていると、後ろで騒いでいた麻婆がいつの間にか静かに
なっていた。
︶を手に思いつめた表情の麻婆が⋮。
どうしたんだろうかと、目を向ける。
そこには黒鍵︵
い
﹂││ぐふ
?
しかしこうでもしないと
!?
﹂
!!
てしまう。
そしてまだ何か言ってる麻婆を、とりあえず腕だけロープで再び縛り拘束する。
!?
俺はそんな言峰正面に行った。
﹂ごふっ
!
﹁あんたの罪は消えねぇし、あんた1人が自殺した所でどうなるってもんでもねぇ﹂
!!!
﹁と り あ え ず
よく聞け言峰﹂
帽子越しだからそんなに痛くないし許せ麻婆。
聴覚が良くなってる事もあったのだろうがかなりうるさかったんですごめんなさい。
突きをかましてしまった。
鼻と鼻が付きそうなほど顔を近づけていきなり大声で叫びながら泣くから思わず頭
﹁そうだ、私はたくさんの人を⋮人を⋮⋮本当に何という事を ﹁やめぃ
﹂
一瞬固まってしまったが首を掻き切って自殺しようとしたのを見て、とりあえず殴っ
!!
﹁私一人の命で釣りあうとは到底思わないがこうなったら私の命を捧げ││﹁やめんか
1178
!
後ろにのけ反ったまま戻れない言峰を引張り起こして目を見ながら俺は改めて話す。
﹁俺 は あ の 教 会 で お 前 と ギ ル が 弄 ん だ 子 達 と 接 触 す る 機 会 が あ っ た。そ こ で 話 を し た
が、あの子たちはかたき討ちをしてくれって俺に言った。けどな、一言もあんた達を〝
殺してくれ〟とは言わなかった﹂
ボソリと思い出すように言う士郎。
﹁それってあの地下の⋮﹂
あの地下礼拝堂に行ったから俺が何の事を言ったのか気づいたのだろう。
士郎は幽霊の子達を実際に見た訳ではないんだろうが それでも子どもたちを弄ん
だという結果はあそこにあった。
〝かたきを討つ〟、この言葉本来の意味なら殺してくれっていう意味になるんだろう
があの子達が言った言葉に〝殺してくれ〟の意味は含まれていなかった。
俺の思い込みって言われたらそこまでだが、ホントに短時間とはいえ、それ位は分
かったつもりだ。
ボコボコにしてくれとかは結構言ってたが⋮。
けど、あんたはここで今生まれ変わったんだとそう信じたい。
したっていう事にもなるとは思うし、ただの詭弁だとも思う。
﹁だから俺はあんたを殺さないと決めた。あんたの感情を弄った事が本来のあんたを殺
『stage48:ハッピーエンド?』
1179
そして、残りの人生を全てかけて償え。何をして償えとは言わねぇ。けど、あんたは
生きて償うべきだ﹂
偽善。自分勝手な押しつけ。まさしくその通りだろう。
でも、こんな結末があっても良いと思うんだ。
世間一般から見れば裁かれるべき存在かもしれないし、言峰を憎む存在もたくさん居
るだろう。今まさに近くに居る凜ちゃんがそうだ。
けど、だからと言って殺してはいおしまいってのは俺自身なんか嫌だ。
俺自身が命を奪うということに対する忌避感を持っているのも勿論あったけど、やは
り生きて償うことも必要だと思う。
平和ボケしたなんて言われる現在日本人の感性かもしれないけど、それの何がいけな
いのさ。
転生して、こんな体になって、チート能力貰って、いつ死んでもおかしくない聖杯戦
争なんてものに巻き込まれたけど、やっぱり俺は俺だ。
この身この全てを掛けて償いをし続けよう
﹂
というか、ただでさえギスギスしてるのにこれ以上ギスギスしてしまうと俺の胃が
マッハだ。
﹁ああ分かった
!!
俺が考えている間に言峰も自分の意思を固めたのか、高らかにそう言いながら自分で
!!
1180
ロープを引きちぎり立ち上がった。
自分で切れたのかよ⋮。
さっそく行ってくる
﹂
!!!
そう自分に言い聞かせるようにしながら、置いてきぼりにしていた面々の方を向く。
まぁ仕方ない、あの感じだと大丈夫だろう。
しかし考えている間にも麻婆は影も形もなくなった。
えぇぇ⋮、一応キャスターに強化してもらったロープなのにどうやったのさ⋮。
次の瞬間には言峰は走り出し、その場を去る。
﹁では、一分一秒も惜しい
!!
葉は無く、代わりに頭の上に何かを乗せられた。
だから、何か言われて当然だと思い頭を下げたが、予想に反していつまで経っても言
そんな中でもこうしたのは俺の勝手だ。
それに、直接殺されそうにもなっている。思う所などいくらでもあるだろう。
麻婆は親が死んだ要因でもあるし、あの大火災を起こした張本人だ。
俺は士郎達に頭を下げながら言う。
あったろうけど、俺の勝手でこうしちまった⋮﹂
﹁すまん。凛ちゃんも士郎も言峰に対して色々言いたい事も、どうしようもない感情も
『stage48:ハッピーエンド?』
1181
﹁わふっ⋮ん
﹂
﹁別に俺は良いよ。遠坂は
﹂
そして俺の目を見て優しく微笑みながら話し始める。
てくれた。
そんな風に意識が若干逸れていると、士郎が俺の肩を持って俺の姿勢を真っ直ぐにし
何だか獣化するたびに獣に近くなってる気がする⋮。
というか、なんか犬っぽい声を出してしまった。意識なんか当然してない。
何を置かれたのかと思い手をやるとそれは士郎の手だった。
?
そうとはもうしないんだろ
﹂
﹁確かに思う所が無いって言ったら嘘になるけどさ、でもあいつはもうあの惨劇を起こ
自分なりに色々考えて良い方向へ持ってきたつもりだ。それが認められた気がした。
かと怖かった。
ここまで自分勝手にしておきながらなんだが、心のどこかでは否定されるのではない
その言葉に、思わず泣きそうになる。
﹁2人とも⋮﹂
なのよ﹂
﹁私も良いわよ。というか、例えばの話この状況で私がダメって言うとかどんだけ鬼畜
?
1182
?
﹁うん、それは確実。あとで何かあっても大丈夫なようにもするつもりだし﹂
条件で発動する呪い系の魔術とかそういったモノをキャスターに依頼するか自身で
どうにかしようと思う。
ミストルテイルで撃った際にかなり強力に願ったから大丈夫だとは思うが念の為だ。
増えるなら良い事だろうしな﹂
﹁なら良いさ。俺は惨劇を止めたかっただけだし、少なくともこの結果誰か助かる人が
﹁腹を刺された身としては一発だけでも思いっきり殴りたかったところだけど、まぁ仕
方ないわね。許すつもりは到底無いけど、これはこれで良い事なんでしょう﹂
﹂
俺は目元をぬぐい、2人をしっかりと見る。
そして頭を下げる。
﹁お礼なんてする必要ないさ。な
ほんと良い子達過ぎでしょうこの子達。
礼を言う。
良いと言われたが、もう一度心の中でになるが大きくお辞儀し、ありがとうと俺はお
二人は微笑みながらそう言う。
﹁ええ、これは私たちが納得しただけなんだから﹂
?
﹁⋮ありがとうっ﹂
『stage48:ハッピーエンド?』
1183
﹂
経験した年数で言えば5年ほどしか違わない筈なのにこんな風に笑えるとかすごい
と思う。
小並感ってやつだが、尊敬するよ。
﹁あのー、空気読めない発言になるので悪いのだけど、僕はどうすればいいかな
学校で先生に質問する時のように片手を上げて言うショタガメッシュ。
そういえば、忘れていた。
理由だ。
どういう理屈かは俺にもわからないんだが、確か⋮原作のhollow編だっけか
で、何故かショタ化しただけで良い子になって町の子とサッカーしてた筈。
それをうろ覚えだが頭の中にあったので試してみたら大正解だったわけだ。
いと言っておいたんだ。
それがあったからキャスター達にはとりあえずショタ化だけさせて様子を見て欲し
めるほどだった筈。
原作でショタギルが大人ギルの事をどうしてあんな性格なのか分からないと言わし
?
何故ショタ化させただけでミストルテイルを使っていないかだが、それは原作知識が
た。
対処を皆に任せていたのもあったし、静かだったから思考の端に行ってしまってい
?
1184
『stage48:ハッピーエンド?』
1185
さっき自分でやらかした言峰ほどじゃないが、実際見て見るとこの子ギルもすごい変
化だな。
でも良かった思い通りに行って。
そういや言ってなかったけどギルがショタ化した方法は、いつもの如くスケドを使っ
たのではなく、今回はキャスター作の薬品を使用した。
ギルガメッシュは泥を浴びて既に現界し続けることが可能になっている。
それでも魔力を一般人から奪っていたのは自身の理由としての能力というか、真名解
放などの魔力使用に対して必要だからだと思う。
スケド使って完全な受肉をしたら自己発電が容易とまではいかないがサーヴァント
時より効率よく行えることは確かだ。
だけどそれだといずれ成長してしまう。
だから、何か他の方法をと考えていたらキャスターがこれを使えと渡してくれた。
どうも製作途中のものらしいのだが効果は確実というもので、何かドロドロした緑色
の液体Xをビーカーで見せてくれた。
曰く、アンチエイジングの為らしい。
スケドで復活し受肉した場合身体は成長していくから老いがある。それに対抗する
為らしい。
あんたまだ見た目少女じゃないかと言ったら、殺されそうな目で見た。
あなたも女の子なら今からしときなさいと何故か俺の分まで渡されたのは別の話だ。
でまぁ、ギルガメッシュにそれを使う事︵人体実験 ︶が決まり、実際に使ったみた
いだが、もくろみは成功のようだな。
んだけど、イリヤが嬉々として受け取っていたしストレス発散できたかねぇ
そんな子ギル君を俺は真正面から見る。
﹁ショタギルくん、君にはやってもらいたいことがある﹂
﹁ショタって⋮まぁ今の僕はそうですけど。それで僕にやって欲しい事というのは
る。
﹂
俺は今までのシットリ気味の空気を振り払うように、腕を組みながら不遜な態度を取
?
結局AUOは皆に任せることになったから一応使いやすい様にカードにして渡した
?
何であんな慢心王になるのかホント不思議。
素直でええ子やぁ⋮。
了承してくれたのか微笑むショタギル。
﹁分かりました。出来る限りのことをしましょう﹂
からな﹂
﹁まぁちょいとした手伝いさ。あとで詳しく言うよ。これはあんたにしかできない事だ
?
1186
そんな今の子ギル君に対し、前振りしておいて後でってのはひどいかもしれんが先に
やらないといけないことがあるんで許してほしい。
何せ俺が思っていたハッピーエンドはまだ終わっちゃぁいない。
今回の聖杯戦争の締めとして最後にもう二つハッピーエンドを迎えなけりゃいけな
いんだ。
まず一つ目、対象はイリヤだ。
◆◆◆
突然﹂
?
その言葉に私は疑問を返すがコウジュは指を一本立てて続きを話す。
コウジュが突然、真剣な表情で私にそう言った。
﹁どうしたの
﹁さて、俺には後もう二つこの場でやらなければならない事がある。まずはイリヤだ﹂
『stage48:ハッピーエンド?』
1187
﹁俺はさっきツミキリシリーズを使って、それを媒体にアンリマユと化していた穢れた
﹂
聖杯を斬りまくって自身に取り込み続けた。もちろん浄化しながらな。
﹂
さてそこで問題です。聖杯はどこへ行ったでしょうか
﹁あなたまさか
?
意味が今分かった。
?
﹁あなた、聖杯を本来の聖杯としての状態で取り込んだのね﹂
﹁ピンポーン正解だ。俺の中にあるんだよ聖杯ちゃん。むしろ俺が今聖杯
﹁嘘だろ⋮﹂
﹁信じられない⋮﹂
士郎と凛が驚愕の声を上げる。
みたいな﹂
私が心配するからと決して詳細を話さず、聖杯を食らうなんて表現をしていた本当の
それでもあの2本の剣に拘った理由がコウジュにはあったんだ。
うなもの。
泥に対して有効なものは他にもあると聞いていた。例えば切ったものを消し去るよ
ていたのか少し疑問だった。
どうして高威力を放つ武器ではなく、ツミキリシリーズの中でもオモテの2本を持っ
コウジュの言葉で、私の中のピースがはまったかのように謎が氷解する。
!?
1188
だけど、サーヴァント達は驚いていない。
この子、私に言わずにサーヴァント達にだけ言ってたのね⋮。
私が心配するからって、そんな無茶心配するに決まってるじゃない。
﹂
後で折檻ね、そう思いながらジト目でコウジュを見ていると、コウジュは慌てて目を
反らし、手を上に掲げた。
﹁こ、来い、﹃聖剣エルシディオン﹄
慌ててコウジュが出したのは、いつだったかアインツベルン本家で結界を直すために
!
どうしてそんなものを⋮﹂
使った聖剣エルシディオン。
?
い﹂
実質的には膨大な魔力の塊だか何だからしいが、その指向性を俺が示してやればい
そして今、俺の中にはあらゆる願いを叶えるって聖杯がある。
でも、それは逆を言えば確信さえあれば現実化できてしまうわけだ。
とまで現実化してしまうこともある。失敗すらだ。
と思った訳さ。俺の能力は知っての通り思ったことを現実にすること。でも余計なこ
﹁今聖杯は俺の中に溶け込んでる状態だからな。こいつを使って明確な形として使おう
私の疑問にコウジュは改めてこちらを見て言う。
﹁それは⋮エルシディオン
『stage48:ハッピーエンド?』
1189
確かに、その通り。その能力については私も説明を受けていた。
だから、強力な力があっても遠回りでしかやりたいことができないとコウジュ自身嘆
いていた。
でもそこまでして、私に秘密にまでして叶えたい願いって⋮⋮
?
事がある﹂
?
士郎もな﹂
?
コウジュはそれをちゃんと叶えてあげるために聖杯を⋮
だけどその考えはどうやら違ったらしい。
﹁私は、いりません。私が叶えようとしていた願いはもう必要ない。そう気が付きまし
?
そして聞いていたかぎり、士郎はともかくセイバーには聖杯に託した望みがある。
確かに、実質的な勝者は士郎とセイバーだ。
は本来セイバーと士郎にある訳だ。つまり、セイバーの願いをどうする
﹁セイバーに聞きたい事ってのは、セイバーはこの聖杯戦争の勝者な訳でこれの所有権
ながら返事をするセイバー。
そして今のコウジュの説明にまだ少し理解が追いつけていなかったのか、若干動揺し
私の疑問などお構いなしに、今度はセイバーに問うたコウジュ。
﹁な、なんでしょうか
﹂
﹁で、だ。俺は今この聖杯を使いたいんだが、使うに当たって一つ、セイバーに聞きたい
1190
た。
私の国は滅びるべくして滅びたのだと。
私は良い王ではなかったかもしれない。だけど、その事実を消してはならない⋮と﹂
少なくとも俺は
﹁俺もいらないよ。俺が叶えたい願いは聖杯を使って叶えるべきものじゃないしな。
っていうか、セイバー前にも言ったけど、セイバーは良い王だぞ
そう思うし、歴史もそう言ってくれてる﹂
﹁士郎⋮﹂
二人だけで固有結界を作れそうなほど自分たちの空間を作り始めた。
あ、うん、士郎達はどうやら既に幸せそうだ。お姉ちゃん嬉しい。
?
コウジュもそれをどこかヤサグレた目で見ながらも、喜んでいるようだ。
ってそうじゃない
!
これじゃあコウジュは何のために聖杯を取り込んだのかが分からない。
﹂
﹂﹂
!? !!
﹁何でそうなるのよ
﹂
﹁んじゃ、この聖杯は俺が使うね
!!
答えは聞いてない﹂
コウジュは咳払いを一つ、説明を続けた。
﹁﹁⋮⋮っ
﹁ごほん
『stage48:ハッピーエンド?』
1191
?
﹁はうあっ⋮﹂
﹂って聞きなさい
先程から私を置いてけぼりに好き勝手しているコウジュに思わず物理的なツッコミ
聖杯っていうのは⋮﹁エルシディオン 願いを叶えるぞ
!!
を入れる。
﹁あのねぇ
﹂
!!
?
そしてそんな私を、コウジュが掲げた聖剣から溢れ出た光が包み込み始めた。
コウジュの行ったことが一瞬理解できずに間の抜けた声を出してしまう。
﹁⋮え
﹂
﹁イリヤに人としての寿命を俺は願う﹂
ジュは掲げながら大きく声を上げた。
再びコウジュに詰め寄ろうとするも、それをひらりと避けて、エルシディオンをコウ
だけど、今回はそれでも止まらずにコウジュは自分が思う様に進めるらしい。
!!
!
1192
﹁ちょ、ちょっとコウジュこれは
﹂
広いってことを知ってもらおうと思って色々やってみたんだ。それがこれってわけ﹂
だから、自分が持ってる全てを使ってそれだけはどうにかしようって、世界はもっと
それが悔しかったんだ。
命が短いことを知って、それを理解して、それでもどこか納得しきれずに諦めてた。
イリヤはさ、諦めてたよな。諦めざるしかない状況だったんだろうけどさ、自分の寿
けど、それでもこれだけはって決めてた。
争の中で行うと決めていたんだ。まぁ、途中でいろんなものに触れて欲張ってしまった
﹁最初から、これだけは決めていたんだ。いや、むしろ最初はこれだけを俺がこの聖杯戦
族を見るような、慈愛に満ちた笑みを浮かべながら話し始める。
そんな私を見て微笑みながら、いつものふざけた雰囲気ではなく、妹を見るような、家
どういうことかわからず、私は声を荒げる。
!?
あるかもしれんけど、万能の願望器だっていうんだから、それくらいできると思うし﹂
・・・・・・
だってことは変わらずに人生を謳歌出来るんじゃないかな。遺伝子がどうとか本当は
子だっていう繋がりをそのままに人間としての生を願ったからちゃんと二人との子
﹁んとまぁ⋮そういう事さね。俺が願ったのは、細かく言えば切嗣氏とアイリスさんの
﹁コウジュ⋮あなた最初から⋮﹂
『stage48:ハッピーエンド?』
1193
途中からはどこか恥かしそうに言うコウジュ。
そんなコウジュの姿が、ぼやけはじめる。
光が強くてなんだか前が見づらい。
けど、そうこうする内に私を包んでいた光が和らいでいき、そして消えた。 それでも前が見づらい。
﹂
どうやら私は泣いているらしい。
﹁っ
﹁これでイリヤの身体は子どももできるし、良い婿さん貰ってラブラブ私生活でも送り
﹁ん⋮﹂
﹁それでも⋮ありがとう﹂
﹁気にすんな。これは俺の願いでもあったからな﹂
﹁ありが⋮とう⋮﹂
このどう表現すればいいかわからない感情がそうさせるのだ。
でも許してほしい。
普段の自分ではしないような恥ずかしい行為だ。淑女としてあるまじき行為だろう。
私は飛びつくように抱き付いてしまう。
﹁うおっと﹂
!!
1194
な﹂
﹁ばかコウジュ⋮
﹂
﹂
!
それは自分でもわかるが感情が制御できないのだから仕方がない。
照れ隠しだ。
わず一層の力を込めて抱き付いてしまう。
さっきまでの雰囲気は何処へやら、またいつものコウジュに戻ってそう言う彼女に思
﹁痛って
!?
聞こえた。
﹁う、うるさい
息
﹂
息できない
﹂
!!
!!
﹁い、イリヤ痛い
!
に抱き付いてしまった。
キャスター達の声に我に返った私はつい一層の力を込めてコウジュで顔を隠すよう
!
そんな私たちを見てか、キャスターにランサー、小次郎が茶化すようにそう言うのが
﹁ふふ、確かにな⋮﹂
﹁確かにな。両方とも姫さんみたいな外見だが﹂
﹁なんだか、助け出されたお姫様と騎士みたいね﹂
『stage48:ハッピーエンド?』
1195
◆◆◆
﹂
そう言い、優しげに微笑むセイバー。
したから⋮﹂
﹁そんな顔をしないでください。私はこの聖杯戦争に呼ばれて幸せでした。答えは得ま
﹁セイバー⋮﹂
そうすれば丁度、セイバーの身体を淡い光が包んでいっていた。
俺はセイバーの方に向き直る。
お次はセイバーだ。
なんか取られた気分で少し寂しいがまだすることがあるし仕方がない。
アーチャーに慰められている。
そんなイリヤは今では先程の自分がよほど恥ずかしかったのか、今は少し離れた所で
て置いておこう。イリヤ可愛かったし。
イリヤのベアハッグというべき抱き付きに一瞬意識が飛んだがまぁ役得だったとし
﹁っと、そろそろかな⋮
?
1196
セイバーを光が包んでいっているのは、セイバーの現界を維持していた聖杯が無く
なったからだ。
つまり、セイバーの身体が帰ろうとしている。
他のサーヴァントは既に受肉しているがセイバーはそうは行かない。
そんなセイバーの姿を、士郎は言い表しようもない表情で見ながら、セイバーの手を
握る。
﹁士郎、凛も⋮ありがとうございました。コウジュにも、心からの感謝を⋮﹂
﹂
﹁礼を言われるようなことはまだしてないよ﹂
?
﹂
!!
同じなのだが、セイバーに関しては本体がまだ生きている状態だ。
いま目の前に居るセイバーは分身体のようなもので、それ自体は他のサーヴァントと
けど、無理だろう。
士郎は俺にスケドを使って欲しくてこっちを向いたのだろう。
士郎が俺の方を向く。
﹁コウジュ
身の時代へ戻ります﹂
﹁はい。聖杯が無くなった今私をこの時代に結びつけるものは無くなりました。私は自
﹁これで⋮お別れなのか⋮
『stage48:ハッピーエンド?』
1197
そんなセイバーにスケドを使っても意味は無いと思う。何よりもそうではないかと
俺自身が思ってしまっている。
﹁お別れです、士郎。あなたに出会えて⋮、あなたを愛せてよかった⋮⋮﹂
それでも我慢して、ただ、セイバーを抱きしめる。
こちらから見える士郎の表情は今にも泣き出しそうだ。
士郎は思いきりセイバーの身体を抱き寄せる。
﹁セイ⋮バー⋮﹂
セイバーの身体は既に、今にも消えそうな程に光に包まれている。
そして、聖剣を賜った身として最後にしなければならない事もあります﹂
す。
しかしコウジュの言った通りに私の身体は遥かな時代を挟んだ向こう側にあるので
いですがそれを望んでいる。
この世界であなたと共に居るのも良いのかもしれない。私自身、前の私では考えられな
﹁士郎⋮仕方がないではないですか。確かに、王としての使命が終わっている以上、私が
﹁くっ⋮﹂
復させるものだ。幾ら向こうのセイバーが死にかけてるって言っても⋮⋮無理だ﹂
﹁士郎、セイバーの身体はまだセイバー自身の時代で生きてる。スケドは死ぬ寸前で回
1198
士郎が離れる。
そして一度俯いて、改めて顔を上げた士郎は精一杯の笑顔でセイバーを見送る。
セイバーに会えてよかった。そして俺も愛してる﹂
!
噛み締めようと。
うしようと別れる事になるだろうけど、それが俺達の運命だから、出会えた幸せをただ
コウジュが何をするかは分からないが、そのままを受け入れようと。 自分たちはど
この柳洞寺に来る前にもセイバーと少しだけ話をした事を思い出す。
俺は、今にもこぼれ落ちそうになる涙を必死に我慢し、笑顔でセイバーを見送る。
セイバーが消えてゆく。
◆◆◆
く│││。
そしてセイバーを包んでいた光は一層強くなり、セイバー自身が光となって消えてい
﹁俺もだ
『stage48:ハッピーエンド?』
1199
そう二人で決めた。
最後に、コウジュに頼りそうになったけど、でも、やはり最後は笑ってさよならをす
るべきだと思った。
そうは問屋が下ろさんとです
﹂
だからセイバーとほほ笑みあいながら別れを│││、
﹁ところがどっこい
!!
コウジュ
﹂
バーの服の裾を持った。
﹁な
!?
﹂
?
・
思わず呆けてしまったが仕方無い事だと思う。
﹁え⋮
次の瞬間、セイバーとコウジュは消えた。
!!
!?
﹁行くよツミキリ・ヒョウリ
﹂
コウジュがツミキリシリーズの内、どれかは分からないが二本を左右に持ってセイ
!!
1200
・
・
﹁たっだいまー
﹂
もなく疲れた姿でしかも何故か縮んだ姿で。
ホントに訳がわからない。
え、どういう事なんだ
俺たちの決心はどこへ
﹂
!? !? !?
!
俺は思わずコウジュに詰め寄り、肩を持って揺さぶる。
﹁ホントどういう事なんだ
ち、違った⋮話すから離して
﹂
コウジュはついさっきまでと同じでよく分からないテンションで、セイバーはとてつ
俺が︵他の皆もだが︶呆けてしまってすぐ、一分程で2人が再び俺の前に居た。
﹁ただいま⋮戻りました⋮﹂
!!
は、離すから⋮話して⋮
!?
も確かだ。
コウジュが何故言い直したのか分からないが、確かに揺さぶったままじゃ聞けないの
﹁おおう
!!!
﹁なんでさ⋮﹂
『stage48:ハッピーエンド?』
1201
﹁で、どういうことなの
を使って来ただけ
﹂
﹂
﹁な、何をしたかというと簡単
とても良い表情で、俺の横で仁王立ちしている
遠坂も気になるのだろう。
いつの間にか俺の隣には遠坂が居た。
?
速でする。
﹂
ス ケー プ ドー ル
セイバーの時代に一緒に行って現場で復活アイテム
﹃コウジュが悪い︵わ︶︵です︶︵な︶﹄
手を離した瞬間に、涙目で頭を押さえてコウジュは座り込んでしまう。
﹁酷いよ士郎⋮﹂
というか、これはコウジュが俺にさせているのだ。うん。
無い。
俺は女の子に手を上げるのはしたくないんだが、これはそう言ったレベルでの話では
相当痛いのか、俺の手を持って離そうとするが俺は離さない。
﹁にあぁぁぁぁぁっ
!!!!!?
そんなコウジュに俺はすかさず両方のこめかみにグーにした拳を当て、ぐりぐりと高
語尾に音符が付いているかのごとく可愛らしくコウジュが言う。
!
!!
1202
一斉にほぼ全員から攻められて今にも泣きだしそうだ。
そんなコウジュに若干の罪悪感が生まれるが、でもコウジュも悪いと思うのだ。
そう自分の中で割り切る。
﹁なんで教えてくれなかったんだよ﹂
なかったし、越えれてももセイバーの元にちゃんと行けるかどうか分からなかったんだ
﹁うぐ⋮ぬか喜びさせたくなかったんだよ⋮。俺自体が時代越えられるとか本気で思わ
よ⋮。確固としたイメージが無いとどこに飛ばされるやら⋮。まぁセイバー自身を指
標にしてなんとか行けたけどさぁ。聖杯の魔力の残りもあったし。帰りは士郎の中の
鞘をセイバーに強くイメージして貰ってなんとか⋮⋮うぅ痛い⋮﹂
まだ涙目で頭を押さえているコウジュはそう言う。
あー、ってことは、悪い事をした
?
時代を上手く超えられるかって事は下手をすればその失敗した時代に取り残された
かもって事⋮だよな⋮
?
そう思うと、先程割り切った罪悪感が一気に自分を苛む。
﹂
!!
﹁良いよ、別に。言わなかった俺が悪いし⋮﹂
俺はすかさず謝った。
﹁ご、ごめん
『stage48:ハッピーエンド?』
1203
少し拗ねるようにそう言うコウジュ。
ゴメンな、ホントに。
もう一度言うよ。
か。
セイバーの事で頭がいっぱいでその場では流してしまったがそういうことだったの
なるほど、それであんな妙な言い回しをしたのか。
受けられるってもんさ。さっきは〝まだ〟何もしてなかったからねぇ﹂
﹁ふふん、どういたしましてどういたしまして♪ これで名実ともに感謝の念を堂々と
二人で精一杯の感謝を込めて礼をする。
﹁ありがとうございますコウジュ﹂
﹁ありがとうなコウジュ﹂
それならと俺も、セイバーもコウジュの前に行く。
らそう言うコウジュ。
そんな俺にコウジュもばつが悪くなったのか、いつものように茶化すように笑いなが
バーの思いが成就する訳だしね∼﹂
﹁どうせなら謝るんじゃなくて、ありがとうを言って欲しいな∼。これで、士郎とセイ
1204
1205
『stage48:ハッピーエンド?』
ありがとう、コウジュ。
が集まってくれた。
?
だけどあの広い庭も狭く感じるほど集まってくれた。
ちなみに今居るのは衛宮邸の庭だ。
そして今日、お別れの為に何人もの仲間⋮戦友
この10年でいろんなことをした。色んな事があった。
けど、今あらためて思うと10年は長いようで短かった。
の時にいくつかの世界を渡るなんて言われていたからな。
ないのかもなんて嫌な予想が若干あったのだがどうやら外れたようで助かった。最初
ひょっとしたら聖杯戦争が終わってすぐに俺はこの世界から出て行かなければなら
内容は単純に、次の世界まで10年の猶予があるというもの。
実は、俺が思うハッピーエンドを終わらせた後しばらくして、メールが来ていた。
あれから長い年月が経った。10年だ。
﹃stage49:うん、ハッピーエンド‼‼﹄
1206
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1207
イリヤ、サーヴァント勢全員に、士郎、凛、桜、慎二︵ムキムキマッチョメン︶、美綴
綾子。
そしてここからが驚きのメンバー、白レン、レン、遠野志貴、アルクェイド、遠野秋
葉、シエル、シオン、弓塚さつき。あと浅上藤乃。
うん、この世界って遠野家あったよ。つまり、月姫の世界でもあったようだね。
そんでもってふじのん、何故いるふじのんっと思ってしまうが、いつだったかライ
ダーがメル友になった一人がふじのんだったらしい。あとの二人がさっちんとまさか
の桜ちゃん。
世界って狭いね⋮。
まぁでもほんと色々あったなぁ⋮。
最初の方は、アインツベルンを正式にイリヤに継がせるために爺さん共をぬっこぬこ
にしに行ったり、イリヤにカレイドステッキをマジで持たせてみようと時計塔行った
り、そしてそこで何の因果かアルクェイドについてキシュアのじっちゃんから頼まれた
弓 塚 さ つ き
り、驚きながらも行ったらホントに月姫だし、さっちんからのヘルプメール便りにとあ
る町まで行ったら偶然にもあのさっちんだし、案の定士郎達が魔術師協会に目を付けら
れて、結局協会もOHANASHIしに行かなければならなくなったり、と色々あった。
ふじのん経由で両儀のシッキーと会うこともあったっけか。
1208
黒桐青年が俺にラッキースケベをやらかして何故か俺が切り刻まれるなんてことも
あったぜぃ。
あ、いつだったかどこの国だったか戦災被害にあってる所へチャリティーコンサート
﹄なんて言いながら無双
﹄って言いながら突っ込んで
しに行った時に、ムキムキ慎二が素手で戦車に無双してたなんてのもあったなぁ⋮。
最初誰だか分からなかったし、﹃80パーセントォォ
行ったからビビったビビった。
最近は斧にハマってるらしくて、
﹃今死ねぇ すぐ死ねぇ
結果は、ここに居るのが答えだ。生来の姉御肌もあって、一緒に行動している。
決めた方が良いって事になった。もちろん本人の意思を尊重してだ。
だからある程度知識を教えてあげるか、もういっそのことこちら側の世界に入るかを
消したからといって放っておくのは危険な状態のようだった。
巻き込まれた時にか、はたまたそれ以外で発現してしまったのかは分からないが記憶を
出来てしまっているのだそうだ。それが先天的に持っていたモノなのか、後天的にあの
その時一緒にキャスターと行ったんだけど、どうやら綾子ってば魔術的なものに縁が
の学校を見学という名目で会いに行った。
そういえば綾子についてなんだが、その後一段落した時に退院は済んでいたから士郎
!
!!
してるよ。ちゃうねんキャスターの魔改造の所為やねん。
!
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1209
ただ、魔術自体には適性が無かったから装備は俺のモノを使ってる。種族ヒューマン
として色々調整できたのは幸いだったな。
ちなみに結構強い。
英霊とまでは行かないけど、元々運動神経も良いし、槍を薙刀として使う事で結構な
戦闘力がある。
綾子にまで戦闘力が求められる世界であるってのは悲しい事だが、綾子が自分で決め
た事なので俺も納得している。
最近ランサーと仲良い気がするんだけど、このままくっ付くのかね
白レンとは俺が契約する事になったし⋮なんでさ
どちらかというと精霊に近いな。単独行動できるようになっちゃった。
あ、レンと白レンだけど、なんか色々してたら使い魔じゃ無くなった。
?
会社作っちゃった
そして、何よりも俺の中で大変だったものがこれだと断言できる。
まり意味は無いモノなんだけど、なんかどうしてもって⋮。
まぁ契約とは言ってもパスを繋ぐ程度のものだし、白レンは自律行動できるからあん
?
けどな、仕方無いんだ︵血涙
うん、突然この子は何を言ってるんだろうと思うのも仕方ない。
!
1210
俺達って、自分に関してはナルシストみたいになるから言いたくないが見てくれが良
いんだよ。男女とも両方にな。
そして、そこにキャスターさんの趣味である可愛いものを更に可愛くしたいという欲
望。
当然のようにアイドル養成とかその他もろもろをする会社になっちまったよ⋮。
会社自体は考えてたんだ。その為のショタギル君でもあるし。
なにせ彼、黄金律っていう何もしてなくてもお金が手に入るっていう羨ましすぎるス
キルを持ってるからね。
で、まぁ、ギルのおかげもあって基盤はどうとでもなるんだが、その方向性に悩んで
たら、キャスターが⋮キャスターが⋮⋮。
いつだったか罰ゲームでコスプレの撮影会が行われたんだが、ある日、ニ〇動とか
ネット巡りしてたら、例の動画やらがネット上で何故か拡散されてたんだよ。
とりあえず裏切りモノを探した。犯人はランサーだったのでとりあえず埋めた。
で、でだ。
それを知ったキャスターは、もうこのままYOUいっちゃいなよ的なノリで会社を
そっち方面にもっていきやがった。
おかげでアイドルデビューだよ。
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1211
まさか、好きだった歌︵カラオケレベルだったけど、マネーの力でプロの元で練習さ
キャスターはマネージャーで忙しいからってあ
せてくれた︶がワールドワイドな話になっちまうとは⋮。
当然イリヤやキャスターもだぜ
んまりしないが。
後はアルクの姉にあたるアルトルージュが来たときはビックリしたっけ。まぁ結局
たけど。
あ、そういえばアルクェイドだけは最後まで歌関係はやらなかったな。写真集はやっ
他のメンバーも交代とかで色んなグループ作ったなー。
イリヤとか元から歌が上手いから今じゃソロでミリオン叩き出す有名歌手だよ。
ある意味チートだよね。
まぁ全員一般人では無い訳だから歌って踊っても息切れ一つしないしこの業界では
狂信的なファンが発生してかなりビビったなぁ⋮。
一時期、俺、イリヤ、レン、白レンでアイドルグループ結成した時もあった。一部で
勢にも可愛いどころ綺麗どころいっぱいだもの。
月姫勢と出会ったのはその位の時期だったかな、もちろん人員確保しましたよ。月姫
会社なんなのって位に手広く手を広げている。
仕舞いにはアイドルやらそっち関係だけでなく、開発やらレジャー系やら、もうその
?
1212
期間限定ユニットの生贄になったけど。
うん、思い返すと良い思い出だな。
恥ずかしい思い出ばっかだったけど、面白かったて言えば面白かったし。
会社の売り上げのほとんどは紛争地や難民の手助けとかのボランティアに回した。
だってうちの会社の重役の何人か、っていうか士郎達だけど、正義の味方だもんね。
今じゃ名実ともに正義の味方だ。
おかげで、会社の社員さんもいっぱい増えた。子会社とかいろいろね。
エンターテイメント部門なんか今じゃ世界レベルでひどいレベル︵ほめ言葉︶だよ。
誰だよオタク文化で各国を侵略したの。平和で良いけどさ。
あ、最後にもう一つ、忘れられないものがある。
﹃Fate/stay night﹄なんだけど、この世界でゲームになっちまった。
細かい部分は違うけどな、バーサーカーが俺とか。
何でだろうな。俺知らないよ
俺ルートとか誰得
グロシーンあるから年齢制
で、何が問題かというと、何故かコウジュルートが付け加えられている。
まぁ開発に関わった身ではあるんだがな。
?
いや、一応18禁じゃなくて、通常ゲームソフトだよ
?
!?
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1213
限あるけどさ。
ホント誰得だよ。
おかげで自分のフィギュアとかが出来たりした所為で気軽に秋葉行けない。ちなみ
に最初の原型師はキャスター。ほんとにクリエイターになってたからビビったよ。
元の世界でも行った事無かったから入り浸ろうと思ったのにさ⋮。
ま、行ったんだけどね。変装してだけど。
勿論祭典にも行ったぜ。
自分の薄い本にはビビった。うん。
まぁそれだけ好いてくれてるってのは嬉しいんだけどね。
しっかりしろ
俺
!!!
ってやばい、本格的にアイドル思考になってる部分がある。
俺は中身男なんだぞ
!!
挨拶はほとんど済ませてある。
最近ずっとお別れ会してたしな。
お別れ会なのにずっとはおかしい
こらの酒盛りで終わる訳無いじゃないか。三日三晩どころじゃない長い期間でやりま
いやいやいや、いつの間にか随分と増えた、魔術やらの裏関係の人外どもが一日やそ
?
と、まぁ長い長い回想だったが、とにかく今日でお別れだ。
!?
1214
したとも。 さておき、今俺の前には扉がある。
さっきメールが来て、これをくぐれとの事だ。
もう一度、何気に長かったこの世界での事をさらっと思い出す。
色々あったなホント。
悔いは無い。
いや、あるか。
ど う せ な ら イ リ ヤ の 結 婚 式 と か 見 た か っ た な ー。俺 っ て ば 生 前 の 妹 の や つ 見 れ な
かったし。
あ、ここで皆さんにご報告があります。
士郎の野郎やりやがりました。セイバーとの間におめでたです。
それだけじゃありません。凛と桜もです。
公認ハーレム築きやがったんだよあいつ。
契約も俺としたし。
ちなみに遠野家の志貴君もです。赤ん坊はまだいないけど時間の問題じゃないかな
あんなにいっぱい居るんだし。
あ、でも白レンは何でか志貴の方に行かなかったな。はて
ま、本人たちが幸せそうなんで別に良いけどねー。
?
?
いやいや、末永く爆発しろとか思ってませんので。
でも、ホントにイリヤの花嫁姿は見たかったなー。
今じゃもう成長してボンッキュッボンッな美人さんだぜ
?
﹂
かなり言い寄られてた筈なんだけど、浮いた話は全然出てこない。
﹁何考えてるの
?
﹂
!
﹁厨二乙﹂
俺は俺以外の何者でもない﹂
また埋めるぞこのやろう
うっせえよランサー
?
﹁サラッと人が気にしてる事言うんじゃねぇ
﹂
される。ホントに変わらないわ。身長とか⋮﹂
﹁でも、ホントに変わらないわ。初めてあなたを召喚した時の事が昨日のように思い出
!
!!
﹁当然じゃん
﹁まったく、いつまでたっても変わらないんだから⋮﹂
やめてください縮んでしまいます。
また頭をはたかれた。
﹁ばかコウジュっ
﹁いや、イリヤの花嫁姿見たかったなーっと﹂
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1215
!!
そうなんです。
俺を残して皆成長しました。
サーヴァント勢も完全に受肉してるから当然な。今丁度20歳だ。スケドの効果で
10歳くらいまで若返っちまってたからな。
いたしな。 まぁふーんで終わらされたけどさ。
?
この二人、元々犬猿の仲だったのに、今は仲良いよな。いや、喧嘩するほど仲が良い
白レンを地面から持ち上げて胸元に抱えるイリヤ。
﹁ま、それは置いておいて、もう行かないとダメなんじゃない
﹂
ちなみに、今言ったように俺はカミングアウトした。一段落すれば暴露すると決めて
?
だから、俺を残して皆本来の身長位まで戻ってる。
レンと白レンすらもちょっとずつ、ホントにちょっとずつだけど成長してるんだぜ
不老不死とか⋮⋮けっ。
﹂
?
足元に居た白ネコが声を出して言う。白レンだ。
﹁だってホントの事じゃない
﹁可愛い言うなっての。何回言えば良いんだよ。俺は元男だっての﹂
﹁もう、拗ねるんじゃないわよ。そんな事してもかわいいだけなんだから﹂
1216
何で喧嘩してたのか知らないけど。
りするかもよ
﹂
を得たらこの時間帯に戻ってくるさ。案外俺がこのドアくぐった瞬間未来の俺が来た
﹁まぁそうだな。とはいえ、俺は不老不死で、時間を操る方法も知ってる。予定通り、力
まぁたぶんキャラが被るからとかそんなんだろう。
?
?
その偶然に、俺は何よりも感謝した。
けど、そんな中で俺はイリヤの元へと来ることが出来た。
には士郎が一番高い位かもしれない。
一応ゲームコラボとしてセイバーが持つエクスカリバーを持っているから、可能性的
れていてもおかしくは無かった。
この世界の人達とチートを貰っただけの俺とでは繋がりが無い。だから誰に召喚さ
ヤに召喚されてよかったと思ってる﹂
﹁ははっ、そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。偶然だったかもしれないけど、俺もイリ
﹁本当に、あなたを召還できてよかった。私がここに居るのはあなたの御陰よ﹂
しかし、すぐに笑顔に戻って言う。
それでも寂しげに言ってくれるイリヤ。
﹁そうだったわね⋮﹂
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1217
俺のマスターがイリヤであったから目標が出来た。イリヤと触れることでこの世界
で戦う覚悟が出来た。イリヤが居たから前へ進むことが出来た。
他の人がマスターでも俺なりに何かしたかもしれないけど、やはりイリヤ以外のマス
ターは考えられない。
そう思いを馳せていると、イリヤは微笑みながらゆっくりと首を振った。
イリヤは抱えていた白レンを近くに居たキャスターに渡すと、俺の目の前まで来て言
う。
偶然じゃない
た
﹁私はもう自分の生まれを恨んでなんかないわ。私が小聖杯であったからこそあなたに
そんな俺に対してイリヤは、慈母のように優しげに微笑みながら首を振る。
自分を物扱いするイリヤに俺はついムッとする。
いたからこそ繋がることが出来た﹂
そしてあなたは、思ったことを事象にしてしまう者。きっと私たちはそういう所で似て
願っ
﹁私たちは根本的なところで似ているのよ。私は小聖杯である願いを叶えるための物。
そんな俺を見て苦笑するイリヤは続けた。
そう言ったイリヤに俺は首を傾げる。
?
﹁違うわコウジュ。これはきっと偶然じゃなかった﹂
1218
出会えて、人としての人生を歩むに至れた。自分が願いを叶えるための物なのに自分の
願いは決して叶えられないという絶望を、あなたが変えてくれた。私の願いを叶えてく
れた﹂
言いながらイリヤが俺に抱き付いてくる。
あー、くそ、成長したイリヤに抱き付かれてしまえば俺はイリヤの胸の下まで位しか
身長が無いから悲しくなってくる。おかげで涙が止まらない。
﹂
?
﹁だから泣いてねぇっての。ってか涙脆くなったのはこの身体になってからだ﹂
﹁コウジュは昔から泣き虫よね﹂
﹁泣いてねぇ⋮﹂
﹁ふふ、泣いているの
なのになんで今になってそんなこと言うんだよ。
んか。
なんだよなんだよ、しみったれた雰囲気で別れるのはやめようなって昨日話したじゃ
が出てくる。
誤魔化しているつもりだったが、胸の内を暖かい何かが埋め尽くし、後から後から涙
その言葉を聞いた瞬間、もうダメだった。
﹁だから、ありがとうコウジュ。私のバーサーカー﹂
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1219
﹁やっぱり泣いてるんじゃない﹂ ﹂
!!
俺は力強く、扉を潜った。
いつか自分の力で、ここへと戻ってくればいい。
そうだ、さっき自分でも言ったようにこれが最後のお別れとは限らない。
それだけ言って、俺はイリヤたちに背を向けて扉へと歩き出す。
﹁ああ、行ってきますだ
だから、俺も負けじと笑みを浮かべる。
泣いてるだけじゃぁやっぱり俺じゃないよな。
それを見て、俺は頬を叩いて気合を入れる。
くれている。
そんなイリヤの後ろで、他の皆も言葉にしないが手で仕草で﹃また会おう﹄と言って
﹁いってらっしゃい、コウジュ﹂
真爛漫な満面の笑みを浮かべた。
そして、霞む俺の視界を投影したハンカチでふき取り、最近しなくなった昔の様な天
イリヤは抱き付いていた手を離し、かがんで俺の目を正面から見る。
﹁う、うるせぇ⋮﹂
1220
『stage49:うん、ハッピーエンド‼‼』
1221
そして感じる浮遊感。
認識する前に落ちていく身体。
ああ、最後まで俺はこんな扱いなのね⋮。
﹃stage50
:if...﹄
そしてその男から命からがら少年が逃げてきたのがこの蔵だった。 振るった。
朱い槍を持つその男は、理解できない言葉を言いながら少年を追い詰めるように槍を
学校での記憶が曖昧なまま自らの家へと帰ってきたはいいが、そこへ再びの襲撃者。
少年は現状を理解しようと記憶を浚うも答えはやはり出ない。
自分が何故この状況に至ったかが彼にはわからない。教えてくれる人間も居ない。
い少年が居た。
物が散乱する蔵、その中で息を荒げながら今の自分に起こっていることを認められな
?
男は無造作に槍を構えている。
の扉の内側に居る槍を思った男。先程から少年を殺そうと迫る男だ。
入ってきた入口、鍵を閉めたはずなのに、いや、閉まっているのに当然とばかりにそ
﹁ひょっとすれば坊主が7人目だったのかもな﹂
1222
しかし、だからと言って彼を殺すことを止めた訳ではないだろう。
ただ、男にとって少年は構える必要が無いと言うだけ。
男が槍を軽く振るう。ただそれだけで驚異的な速度。
﹁じゃあな。運が悪かったと思って諦めてくれや﹂
だが、少年にはそれがとてもゆっくりとしたものに見えた。 これが俗に言う走馬灯か⋮。
そう少年が思う間にも槍の穂先少年へと突き進む。
思い出されていく過去。誓った言葉。しかしそれらを無価値だと断ずるが如く目の
断じて否だ。
否だ。
前に差し迫る槍。
許せるか
許容できるか
﹁っな
﹂
!?
﹂
そしてその願いはここに成就する。
だから、少年は拒絶した。願った。
なればこそここで死んでいる場合では無いではないか。
少年は遠き過去に誓った。自らの命の恩人であり家族となったあの男に。
?
?
﹁っるあぁぁぁぁ
『stage50?:if...』
1223
!!!
少年の心臓を2度も貫こうとしたその穂先、それが少年へと届く前に蔵は閃光に包ま
れ、その光の中で産まれた存在が槍を弾き、更には操主たる男を弾き飛ばした。
﹁いったい何が⋮﹂
を肩に掛けるようにして外へと飛び出ていく。
そして言い切るや否や、いつの間にか手にしていたS字を描く両端に刃が付いた武器
飛んでいった方だ。
先程まで少年を優しく見ていた眼は、苦笑しながら蔵の外を見ている。槍の男が吹き
何とか口にした疑問に、少女は待ったをかけた。
﹁あー、悪いね。どうやらそれどころじゃないようだ。説明は後でな﹂
﹁君⋮は⋮⋮﹂
その全てが、今居る蔵には不釣り合いなほどの幻想を少年の目に焼き付ける。
表 情 が 溢 れ る 快 活 さ。幼 女 と 言 っ て も 良 い 幼 さ で あ る の に ど こ か 感 じ ら れ る 存 在 感。
白銀の髪にルビーを思わせる瞳。白と黒だけで彩られた服ではあるがそれでもその
も印象的だった。
月明かりが入り込むだけの蔵の中で、ブレイバーと名乗った存在が少年にはあまりに
息を飲んだ。
﹁こんばんは士郎君。サーヴァントブレイバー寄る辺に従い参上だ﹂
1224
今起こっている非現実さについ呆けてしまう少年。
そうこうする内に外からは金属同士がぶつかる甲高い音が響き始める。それは少し
前に校庭で聞いた戦闘音にも似ていた。
﹂
?
﹂
そこまで思ったところで、あの少女が男に勝てるとはどうしても思えず、助けに行か
なければと我に返り立ち上がった。
しかしそこで少年はふと気づく。
﹁あの娘、何で俺の名前を⋮﹂
・
・
・
﹂
!!
?
﹁さぁ、どうだろうな
﹁異世界の⋮って言ったら信じる
﹁変わった武器を持ってるが嬢ちゃん、一体どこの英雄だ
『stage50?:if...』
1225
槍を持つ男、ランサーは吹き飛ばされたにもかかわらずダメージの一つも感じさせな
い姿で佇んでいた。それに相対するのは今まさに呼び出された少女、ブレイバー。
ブレイバーの姿を見て、ランサーはまた変わったサーヴァントが呼ばれたものだと興
味本位で問うてみた。
その答えが異世界の英雄だという。
普通ならば一笑に付すべき戯言だが今行われているのは聖杯戦争と言う現実離れし
た殺し合い。ならばありえないことではない。
そしてその答えは刃を交じり合えばわかることだろう。
﹂
そこまで考えたランサーは自らの槍を繰り出す。
初歩的な突きだ。
﹁いきなりはひどいなぁっと
﹂
ランサーは慌てずにその足元に振り割れた刃を槍で防ぎ、体制の崩れている少女に向
なったところで片手を地につけもう片方に持った武器を振るいランサーへと反撃する。
だがそれもブレイバーは身体を後ろに倒すように避け、それどころか上下逆さまに
その動きを見てランサーは、突いた体勢から横に槍を薙ぐ。
突きに対してブレイバーが取った行動は単純に、身を横に流し避けること。
﹁そう言いながら躱すじゃねぇか
!
!
1226
かって蹴りを放つ。
しかし少女は、放たれた蹴りに対して反応できなかったのか避けもせずに喰らい、飛
ばされる。
﹂
先程とは逆に飛ばされた少女、しかし彼女は、身体が地に付く前にくるりと身を翻し
て着地した。
﹁今のは割と本気で蹴ったんだがな。障壁か
とも知らず、ランサーは先程までと違う構えを取った。
自分でもわからないから教えられないんだよなんて言葉を少女が内心で呟いている
﹁はっ、それもそうか﹂
﹁さぁさぁなんでしょう。けど、教えられないんだなこれが﹂
?
しかし、だからと言ってそのまま死ぬという選択肢をブレイバーは取る訳にはいかな
の命を奪い取ってあまりあることも。
今から目の前の槍を以て放たれるものを知っているのだ。そしてそれが容易く自身
それを感じ取ったブレイバーは冷や汗を流す。
ランサーの穂先に集まる魔力、それはあまりにも濃密な死の気配だ。
障壁がどこまでかは分からんが、試させてもらうぜ﹂
﹁悪いな嬢ちゃん。うちのマスターは臆病でな、一当てしたら帰ってこいだとよ。その
『stage50?:if...』
1227
い。
ブレイバーは徐に懐からあるものを取り出した。携帯電話だ。
それをランサーに向ける。
ランサーはその行動に訝しみながらも、与えられた知識からそれが携帯電話と解し、
行動せずに必殺の一撃の準備をする。
次の瞬間、カシャリと光と共に携帯電話が瞬く。
その行動にさらにランサーが内心で訝しんでいると、目の前の少女が口を開いた。
﹂
!?
文明の利器で何が出来ると放置した結果がこれだ。
いて自らの情報と言うのは宝物にも似た重要なもの。
いま目の前のサーヴァントが言った情報はすべて真実だ。そしてこの聖杯戦争にお
飄々と笑う目の前の少女。その姿にランサーは殺気を強める。
﹁さぁ、どうだろうね﹂
﹁そうじゃねぇ。何故知って⋮⋮いや、その携帯電話か﹂
﹁そう睨まないでほしいな。勝手に写メを取ったのは謝るけどさ﹂
﹁っ
る必殺の一撃は因果の逆転を起こし、避けることも叶わない﹂
﹁クー・フーリン、アイルランドの光の御子。そしてその手荷物ゲイ・ボルグから放たれ
1228
﹁もう一度問う。嬢ちゃん、お前は何だ
﹂
﹁サーヴァントブレイバー。所謂イレギュラーってやつらしい﹂
ランサーが持つ紅い槍、そこに凝縮された殺意が放たれる。
﹁そうかい。ではブレイバー、知った以上はここで死んでもらおう
ゲ
イ・
ボ
ル
グ
﹂
!!!!!!!!
﹂
!!!
?
携帯電話をしまい込んだブレイバーがそれに対峙する。
﹁刺し穿つ死棘の槍っ
﹂
!!!
イ・
ボ
ル
グ
舞い上がる土煙。
の後ろにある蔵の壁へと叩き込まれた。
士
郎
そして貫いて余りあるその槍の威力は、いつの間にか出てきていた少年を通り越しそ
は少女の心臓を貫く。
その結果、ブレイバーが防ぐために振るったルゥカの軌道を訳もなくすり抜け、魔槍
結果放たれたという逆行。
刺し穿つ死棘の槍は確実に心臓に穿つ槍。放ったから貫くのではなく、心臓を貫いた
ゲ
だが、魔槍が行うは因果の逆転。武器をで防ぐ程度で避けれるはずもない。
だ武器を振るう。
ランサーから放たれた魔槍。その軌道に合わせるように、ブレイバーがルゥカと呼ん
﹁ルゥカ
『stage50?:if...』
1229
﹂
それを見てランサーはチッと後味の悪そうに舌打ちをして背を向けた。
だが││、
﹁おい、確かに俺は心臓を貫いたはずなんだがな
少し離れた所に居る士郎も息を飲む。
辺りに満ち溢れる殺意。一触即発と言う言葉が相応しいだろう。
える。
ランサーが再び槍を構える。それに合わせてブレイバーも再びルゥカを呼び出し構
﹁ああ良いぜ。とことんまでやり合おうか﹂
せないのは確実かな﹂
﹁あー、それは俺にはどうしようもないかな。まぁでも、一回殺されたくらいじゃ俺は倒
だろ﹂
﹁ち、やり辛いぜ。さっきから嬢ちゃん相手には身体も動きづらいし、他にも何かしてる
どう見ても心臓を貫かれた者のものではない。
パタパタと埃を払いながら出てくるその姿に傷など跡形もない。その姿はどこから
ランサーが振り向くと、そう言いがらブレイバーが瓦礫の中から出てくる。
﹁あははー、勿論一回死んだとも﹂
瓦礫となった壁の中から一瞬漏れた光、同時に、ガラガラと崩れる音。
?
1230
現在の状況を何とか理解しようとすると共に、何とか打開しようとするもそれが思い
つかず、さらに言えばその場の雰囲気にのまれて動けない状況だ。
深夜なのもあってか、音は無い。人の気配もない。
ただ、空を流れる雲がゆっくりと動くのみ。
しかし唐突にその重苦しい空気は霧散した。
意外なことにそれを為したのはランサだ│。
﹁ったく、これからが良いとこだってのによ。悪いが帰還命令が出たんでな、帰らせても
らう﹂
﹁そいつは助かる。御帰りはあちら﹂
﹂
!?
そうだ。
後ろから近づいたために後ろ姿しか見えないが、その所作は軽いもので確かに大丈夫
しかしそんな士郎にブレイバーは手をひらひらと返すのみ。
﹁だ、大丈夫か
慌てて士郎が駆け寄った。
それを見、姿が見えなくなったところで地へと崩れるように座り込むブレイバー。
そう言い残し飛び去るランサー。
﹁くく、そう邪険にしなくてもいいじゃねぇか。またなイレギュラーの嬢ちゃん﹂
『stage50?:if...』
1231
とはいえあの槍を喰らい、槍の男曰く心臓を貫かれたはずの少女。日ごろから御人好
しと言われる士郎には放って置く選択肢はない。
﹂
﹂
だから士郎はそのまま近づきブレイバーの正面に向かう。
﹁泣いてるのか
緊張解れて汗が出ただけや
!!
◆◆◆
?
﹁これは、やっばいなぁ⋮﹂
﹁もう帰るの
御持て成しもまだなのに﹂
士郎は、これなら大丈夫そうだと何故か確信した。
﹁な、泣いてへんわ
!
?
1232
マスター
ブレイバー
雪の妖精を思わせる少女からの命をすぐにでも実行できるように、岩を思わせる斧剣
を片手に佇む鋼の巨人。相対する少 女と比較すれば、その身長差は優に3倍にもなるだ
ろう。
だが、自分が逃げるわけにはいかないとブレイバーは覚悟を決める。
なにせこの場に居るのは敵コンビと自身とマスターだけ。そして大英雄を相手取れ
るのは自身だけ。
速度を優先し、手を組んでいる凜・アーチャーペアを置いて先にこの城へと来たのは
ブレイバー自身だ。
だから、答えは決まっている。
﹂
レ
イ
バー
お 前 助 け に 来 た の に 二 人 共 死 ん だ ら ど う す ん だ
そんなこと出来るわけが││﹂
ブ
﹁行 け っ つ っ て ん だ 馬 鹿 マ ス タ ー
!?
にこの様子だ。おそらく勝率が低いのだろう。
ライダーコンビを下した時も余力があるように見えていたのにバーサーカーを相手
かった。
い つ も は 飄 々 と し て い る 自らのサーヴァント の そ の 剣 幕 に 士 郎 は 黙 る し か で き な
!
!!
﹁な、コウジュ
﹁士郎、速く逃げてくれ。上手く行けば凛ちゃん達がこっちへ向かってるだろう﹂
『stage50?:if...』
1233
でも、それならば尚更この少女を捨て置く訳にはいかない。
それをしてしまえば、少年は衛宮士郎ではなくなってしまうのだから。
そう思い、士郎は自らのサーヴァントに声を掛けようとするが、遮られることになる。
﹂
?
﹂
?
﹁ほんと、何だろうね。昔は何の役にも立たなかった知識ってところかね。けど、君が士
﹁⋮っ。あなた、何を知っているの
﹁ははー、そんなに弟君が気になるかい
﹁お兄ちゃんを逃がしても無駄よ。あなたを倒してすぐに追いかけるもの﹂
・
・
・
士郎は逃げることにした。
いんだ。だから早く逃げてくれ﹂
﹁悪いな士郎、この大英雄相手にはここら一体を吹っ飛ばすつもりでやらなきゃ勝てな
1234
郎に会いたかったってのは知ってるかな﹂
﹁何でも知った風に言うのね。正直、煩わしいわ﹂
ていた﹂
﹁何でもは知らないさ、知ってることだけってやつでね。でもだからこそ、この時を待っ
になさい
﹂
今すぐに殺しなさいバーサーカー
﹂
﹂
あんたは
﹁ふふ、この状況を作ったのはあなたの思惑とでも言う訳 その思い上がったまま死
十三回、俺は心が折れない限りだ
◆◆◆
!!!
!!
﹁■■■■■■■■■■■■■│││││
!!!!
!!
!!
?
﹁やっぱ怖ぇなぁ。でもまぁやろうか先輩。盛大に死に会おうじゃねぇか
『stage50?:if...』
1235
﹁ありがとう士郎⋮。お前のおかげで俺は救われたぜ﹂
初めての邂逅から数週間が過ぎ、前聖杯戦争からの生き残りであったギルガメッシュ
を打倒した士郎とブレイバー。
そんな二人は、静寂に包まれた龍洞寺の山間で日が明けるのを待っていた。
﹁け ど 俺 は ﹂ の契約も果たした。イリヤも何とかなりそうだ。これでもう思い残すことはねぇさ﹂
別れは必然ってやつさ。桜ちゃんを救えた。アーチャーは答えを得た。キャスターと
﹁まぁしゃーないさ。俺は聖杯戦争の為に呼ばれた。そして聖杯戦争は終わったんだ。
﹁けど、コウジュはもうすぐ⋮﹂
1236
ブ レ イ バー
!
前さんを思ってる人は他に居るし、俺はその気持ちを受け取る資格が無い﹂
俺はがむしゃらに頑張ったコウジュだから
!
だけどちょっと違うんだ﹂
﹁でもやっぱ駄目なのさ。俺は自分自身に整理をつけきれていないし、士郎の事は好き
﹁資格がどうとか関係ないだろう
﹂
﹁言ったろ。その気持ちは俺に向けるべきじゃねぇって。ほらあれだ、吊り橋効果。お
涙を堪える様に言う士郎に、コウジュは静かに首を振る。
!
苦笑しながらそう言うブレイバーに士郎は思わず奥歯をギリッと噛む。
何故この子には言葉が届かないのだろうか、何故悲しそうにしながらも温かい目を俺
に向けるのだろうか。
いつも士郎はそう思ってきた。
初めての邂逅、その時はただ単にきれいだと思っただけだった。そこからは各サー
ヴァント達との血みどろの戦いだった。命を奪ったことに涙している姿を見た時は何
故か意図せず抱き付いてしまった。でも改めて思うと最初から、心奪われていたのだろ
う。
身に合わない力を持った優しい小さな英雄は、只管にがむしゃらに頑張ってきた。
そしていつしか、士郎は自分の気持ちを自覚した。
だが時は残酷だ。
ブレイバーの身体は次第に薄れ始めていく。
﹂
それを見て士郎はブレイバーに抱き付いた。
!?
束は守れよ﹂
﹁⋮ったく、あんたも変なのに惚れたなぁ馬鹿マスター。うん、絶対覚えてるさ。けど約
﹁俺は好きだった。それだけは覚えててくれ﹂
﹁うわっぷ、何するんだよ
『stage50?:if...』
1237
﹁分かった。自分も一緒に救える正義の味方になってみせるさ﹂
﹁ああ、それじゃあなコウジュ﹂
﹁ふふん、普段位ふざけないとやってらんねぇのさ。頑張れよ、士郎﹂
﹁今本音を言うのかよ。いつもコウジュはずるいなぁ⋮﹂
﹁じゃ、さよならだ。本当はもうちょっと心残りがあるけど、仕方ないしな﹂
ではなく、優しい、優しい笑みだ。
そして笑みを浮かべた。優しい笑みだ。いつも彼女がする様なふざけるような笑み
ブレイバーが士郎の身体を優しく押し遣る。
﹁うん、なら良い﹂
1238
テテテテーテーテッテッテテー♪
﹂
?
﹂
﹁って、あれ消えない。しかもメール⋮
﹂
!?
﹁な、何でも無い⋮ぞ
﹂
﹁っておい、何で嬉しそうなんだよ﹂
残存か﹂
﹂
﹁メールでそんなことまで教えてくれるのか、聖杯ってすごいんだな⋮。でも、そっか、
とか⋮⋮﹂
﹁あぁ、いや、なんか、聖杯戦争に勝った士郎君にご褒美ってことで暫く俺の残存決定だ
﹁なんだ
!!!??
﹁ど、どうした
!?
﹁いやなんかおかしくてって⋮⋮⋮っはぁああああああああああ
『stage50?:if...』
1239
?
﹂
!!!!
その後どうなったかは、本人達のみ知るところである。
肉させることに成功する。
その時味方につけた力ある者達と共に、ブレイバー消滅後に再び再召喚しコウジュを受
この後10年の間現世に留まり、衛宮士郎と共に世界各地でいくつもの事件に遭遇。
○サーヴァント:ブレイバー︵コウジュ︶
﹁何でも無いならその笑みを止めろ馬鹿マスター
1240
﹃ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり﹄の世界
﹃stage0:おかえりなさい︵行ってらっしゃい︶﹄
落ちる、落ちる、落ちていく。
そんな感覚もどれほど続いただろうか。
しかし、このいつまで続くかわからないフリーフォールが妙に懐かしく感じる。
というのも、俺がFate世界に召喚された際もこんな感じだったのだ。
だがその感覚も、唐突に終わりを告げる。
﹂
!?
身体に残る痺れにも似た衝撃によるダメージに目を瞑りながら立ち上がり、服をはた
とはいえ無駄にハイスペックなこの身体だとそんなダメージもすぐに消えてくれる。
﹁なんだよこの悪意しか感じないテンプレは⋮﹂
あまりにも突然目の前に地面が現れたものだから受け身を取る暇すらなかった。
終わりを告げた瞬間地面に叩き付けられる。
﹁痛ぇっ
『stage0:おかえりなさい(行ってらっしゃい)』
1241
く。
しかしそれも意味のない行動だろう。
今更ながら周りを見れば一番最初に見た宇宙の様な空間。ここに埃なんてものがあ
るようには思えない。
﹂
﹁おかえりなさいコウジュさん﹂
﹁⋮っ
﹁⋮⋮誰
﹂
﹂
それを思い出し、エミリア︵神︶の方へ向くために振り替える。
でもよく考えれば俺を送り出した存在がここには居たのだ。
唐突に背後から掛けられた声に驚く。
?!
﹁あ、忘れてました。ま、まぁ置いておきましょう
?
が誰かだ。
?
きか出るとこは出てひっ込むところは引っ込んでいる理想的な体型だろう。
の着物を着ているのだがそれに負けないくらいの存在感を秘めた女性。勿論というべ
も中々見かけないような整った顔立ち。紅く、ともすれば派手だと言われそうな色合い
腰元よりも長く艶やかな黒髪。黒曜石の様な瞳。顔立ちは日系ではあるが、テレビで
まずはこの人
何をだよ。そうツッコミたかったがとりあえず置いておこう。
!
1242
そんな女性が目の前に居る。
正直に言えば見惚れてしまった。
ただまぁ幸いにも目の前の女性がポンコツを初見から披露してくれたので何とか現
実に戻ってこれた。
めてくれませんかねぇ
無茶苦茶言いやがる。
﹂
﹂
そもそもがここで出会った存在はただ一人だからだ。一人と数えるのが正しいのか
そう言われ、半ば予想できていた答えにたどり着く。
が﹂
﹁ふふ、以前にもお会いしたことがありますよ。その時はこの姿ではありませんでした
そうすると、目の前の女性は意味深に笑みを浮かべた。
これ以上相手のペースに流されないように話をぶった切って直球で聞いてみる。
﹁ってそうじゃない。あなたはどちら様ですか
?
?
あ、考えるのを止めてもらえれば大丈夫ですよ
﹁そうは言われましても、情報として入ってくる以上諦めていただくしかありません。
?
照れながらそんなことを言う目の前の女性。とりあえずナチュラルに心を読むのや
﹁いやぁ、そこまで褒めて頂けるとこそばゆいですね﹂
『stage0:おかえりなさい(行ってらっしゃい)』
1243
はさておき。
﹂
!
﹁ともかく Fate世界での使命が終わった以上、次の世界に行ってもらう必要が
なんだろう、殺伐とした世界に居たからすっごい和むわこの女神様。
﹁まったく、久しぶりに会ったと思えばひどい言い様ですね﹂
もといエミリアに化けていた神様。
先程までの慈母のような優しい笑みは何処へ行ったのやら涙目で訴えてくる女神様、
﹁そっちで覚えないでっ
﹁つまり中間管理職の神様か﹂
1244
もう
休みくれないの
!?
間また出張ですか
ド畜生
いやさ社畜生
!
﹁入社から30年は経たないと無理ですねー﹂
あ、いや、有給使わせてください⋮。
有給ください⋮。
!?
どんなにブラックだって月1回位は休みがあるだろうに、10年ぶりに帰ってきた瞬
何だこのブラックな仕事。
!?
あるのでその手続きをしますよ﹂
!
!
自分でも何を言っているのかよくわからないが叫びだが、言わずにはいられない。
しかし文句ばかり言っていても行くことには変わらなさそうだ。
こうしている今もニコニコとしながら拒否は許さないと顔に書いてある。
としても労災が落ちないところですが、それが私の仕事ですから。ええ喜んでしますと
﹁いえいえ良いんですよ。一日数百時間働いたとしても部下の失敗の所為で一回死んだ
﹁えっと⋮﹂
先程から表情は笑みを取っている。取ってはいるが、眼が死んでいた。
﹁あ、これはその10年を勝ち取るための代償で渡された書類です。1日分の﹂
る書類の山。机すら埋もれるほどだ。
そしてバチリと、今度は力みながら強めに指を鳴らせば雪崩のように上から落ちてく
る。
また一つパチリと鳴らせばさらにドサドサドサドサっと書類が降ってきて山が出来
さらにパチリと鳴らせばドサドサッと上から書類が降ってくる。
つ。
言いながら女神さんが指をパチンと鳴らせばすぐ横に社長が座っていそうな机が一
まった書類が机の外に溢れるように取り返しのつかないことに⋮⋮﹂
﹁それに、聖杯戦争後10年待つだけで限界だったのです。これ以上待つと机の上に貯
『stage0:おかえりなさい(行ってらっしゃい)』
1245
も﹂
﹂
そこまで言って、女神さんはコホンと咳を一つして表情を穏やかな笑みに戻した。
﹂
﹁ところで、有給⋮欲しいですか
﹁っ
それではまず帰還祝いに良いことを教えてあげましょう﹂
!
出てきたのはPSPだ。
かを取り出す。
そんな風に半分楽しみにしながらも半分戦々恐々としていると女神さんは懐から何
ターンはよくあると思うのは、俺が2次元の世界に馴染み過ぎたゆえだろうかね。
良 い こ と を 教 え る と 言 わ れ て 教 え ら れ た こ と が 本 人 に と っ て い い こ と で は な い パ
しかし良いこととはなんだろうか。
驚いて思考がずれる。
手を合わせるようにパチンと鳴らしながら大きな声でそう言う女神さん。おかげで
﹁さて
⋮⋮あれ、そう言えば俺ってそれになるために転生させられたような。
というかどれだけ過酷なのだろうか神様業。
今の話をされた上で首を縦に振ることが出来るだろうか。まぁ無理だ。
全力で首を横に振る。
!!
?
1246
というかあんたの胸元は四次元ポケットか。
﹁あなたの世界で新作が出たので取り寄せてみました。その名も|PSPo2i︽ファ
﹂
ンタシースターポータブル2インフィニティー︾です﹂
?
なにこれ⋮⋮
す﹂
﹁あなたが神か⋮﹂
﹁いや、そうですけどね﹂
まじで
?
これだけで全てを許せる気がする
差し上げるという言葉に思わず漏らした言葉に苦笑される。
﹂
いやでもマジでこれくれるの
﹁って、待って。買ってきた
?
!!
それはあなたの為に買ってきたものなので差し上げますよ。ちょっとしたボーナスで
﹁続編というか、拡張版ですね。大体あなたの死後1年ちょっとで発売されました。あ、
?
見ると、ソフトに描かれた絵と共に書かれた〝∞〟の文字。
手のひらにすっぽり収まるサイズの、どこか懐かしいその形。それを懐かしみながら
受け取った俺は迷わずソフトを確認するために開き、中から取り出す。
女神さんがPSPを俺へと渡してくれる。
﹁⋮⋮新作
『stage0:おかえりなさい(行ってらっしゃい)』
1247
?
﹁ええ買ってきました。不思議パワーでパパッとやっちゃうのもよかったんですが、そ
こはやっぱり様式美として発売日に買ってきました。ちなみに私も持ってます﹂
ふふんと得意げに言いながら再びPSPを取り出す女神さん。めっちゃデコられて
るその本体からディスクを出して俺に見せてくれる。
違う、俺が聞きたいのはそこじゃない。
でも自分で言っているように、この女神さん自分で並びに行ったんだな。
﹂
まぁ今は日本人か怪しい容姿だけども。
じゃなかろうか。
ってか、色々と内心に隠してしまう日本人にとってこの心を読まれるって地味に弱点
だからナチュラルに心読まないでくださいってば。
目を細めてジト目でそんなことを言われてしまい、俺は目を反らす。
心を得た弊害ってやつですね﹂
﹁む、神にだって遊び心は必要なんですよ。というか清涼剤が無いとやってられません。
る。
美人さんなだけにすごく絵になるのだが、手に持っているものがアレなので残念であ
俺が微妙な目線を送っていることに気付いたのか女神さんが首を傾げる。
﹁⋮どうしたんですか
?
1248
﹂
﹁さておき、このPSPo2i発売に合わせてあなたの武器等を追加しておきましょう﹂
﹁ま、マジですか
に強かったからね
いや、普通に闘ってギルガメさんにどうやって勝つのさ。あの人慢心しなけりゃ普通
いくのに対して俺は貰った力に反してそれほどの成果を上げられていない。
前世で見た二次SSなんかではチートを得た転生者たちが華々しく戦闘に勝利して
奇襲、奇策、チートパワーによる脳筋突撃、ほとんどがそれなのだ。
Fate世界において、俺はまともに闘って勝てたことが実は一度もない。
そう真剣な面持ちで言われ、はしゃいでいた自分を恥じる。
器。どこまで行っても使い手次第でしかないので﹂
﹁し か し そ れ 以 外 は 基 本 的 に あ な た 自 身 の 力 を 育 て て く だ さ い。武 器 は あ く ま で も 武
!?
?
でいた精神を回復させてしまう。マジちょろいは俺。
現金なもので、そんな顔を目の前で美人さんにされてしまえば中身が男な俺はへこん
その姿はまさしく女神と言われるにふさわしいものだった。
優しく微笑みながらそう言う女神さん。
こに闘えたら良いんですよ。本質はそこには無いですから﹂
﹁そう落ち込まないでください。戦闘力がなければならない訳でも無いですし、そこそ
『stage0:おかえりなさい(行ってらっしゃい)』
1249
そんな自分を誤魔化すために、けふんと咳を失敗しながらも一つする。
それがばれたのかくすくすと笑われ頬が赤く染まっていくのが分かる。
良い物とは何だろうか
﹂
?
あるということかな。
けど予想以上の成果
思うのだが、まぁやっぱりしたかったからそうしたのだ。
成り行きというか、そうしたかったからしただけだし今思えば無茶苦茶やったなぁと
確かに俺はその両方を成した。
ということ自体を体験しました。その経験はとても重要です﹂
﹁あなたは性質が変わったものとはいえ、願望器の中身に触れ、あまつさえ願いを叶える
?
あ、無作為に送られたわけでは無くて理由があったのか。ということは次の世界でも
欲しいというもの。しかしあなたは予想以上の成果を上げてくれました﹂
﹁あの世界において私たちがあなたにしてほしかったことは願いを叶えるものに触れて
た。
まだ少し頬が熱くなっているのが分かるが、それよりも良い物というのが気になっ
?
したからあなた次第では色々できるようになってますよ
﹁ふふ、元気が出たようで何よりです。それにあの世界であなたは良い物を手に入れま
1250
﹁そして特に重要なのがあの泥に直接触れたこと。加えて言えば浄化した状態で体内に
プロセス
取り込んだことです。神頼みという言葉がありますが、願われたことを叶える神と願い
⋮⋮へ
言葉を外してもいいかもしれませんね﹂
だから、今のあなたは願望器に似た性質を持つに至っています。これで見習いという
同じようなものなのです。それにあなたは、触れた。
を叶える願望器、どこか似ていると思いませんか 本質は全然違うものですが過程は
?
願いを叶える
俺が願望器に近い
?
ファッ
いやがちでそんな声が出そうになった。多分大分変な顔もしてると思う。
﹂
自分の考えたことすら条件付きで具現化す
寝耳に水なことを言われて頭が処理しきれない。
るのがやっとなのに
?
そんなものまでラーニングしたってのか
いやだってあのはた迷惑代表みたいな聖杯の泥を使えるって言われたんですよ
?
?
した状態で体内に取り入れたじゃないですか﹂
﹁大丈夫ですよ、流石にあの悪性までそのままではありませんから。第一あなたは浄化
!?
?
?
!?
﹁それに関しても良い物を同時にあなたは覚えました。聖杯の泥、使えますよ
『stage0:おかえりなさい(行ってらっしゃい)』
1251
﹁あ、そうか⋮﹂
﹂ ?
こう、ドリフ的な⋮。
?
かる浮遊感。
カコンと、間抜けにも思える軽い音ともに足元の感触が無くなる。同時に身に襲い掛
﹁またお会いしましょう、コウジュさん﹂
﹁あ⋮﹂
下ろされる腕、当然それに合わせて下に引かれる紐。
﹁それでは次の世界であなたに似た存在や神とは何かを考えてきてください﹂
そしてその紐を握る女神さん。
そんな確信にも似た予感が俺の中に産まれる。
あ、これって例の紐じゃね
すると彼女の横に、上空から紐のようなものが垂れてくる。
そう笑顔で言うと、女神さんはパシンと柏手を一つ打つ。
よ﹂
﹁ともかくそれを使って色々してみてください。あなたの力との相性が良いと思います
首を傾げられても困るんですが⋮。
世の土的な何か
﹁正確には可能性の塊みたいなものになっているみたいですね。こう、元が泥なので創
1252
『stage0:おかえりなさい(行ってらっしゃい)』
1253
あっさりと、それはもうあっさりと俺の身体はつい先ほどの様に下へと落ちて行く。
あ、なんだろう、少しずつこの流れになれてきた自分が嫌だ⋮。
ってあれ、次の世界のこと聞いて無くない
?
﹃stage1:夏の祭典前﹄
﹂
﹁なぁ先輩、譲ってくれないか。ここはかっこよく後輩にだな⋮﹂
﹂
﹂
のではないだろうかと思わず言ってしまいそうなほどの容姿をした銀髪紅眼の少女。
片や30歳ほどの特徴らしいものは特にない男、もう一人は居る世界を間違えている
まぁそれも仕方ないだろう。
ても奇異な目で見られている。
とある本屋で出会った先輩と、最後の一冊を両端で握り合っている俺。周りからはと
﹁馬鹿野郎。ここは後輩として先輩に譲るところだろ
?
そしてその二人が取り合っているのは所謂ラノベである。
﹁幼女は大人しく朝のアニメでも見てろ
!
ってか祭りに行かなきゃならんのに見てられるか
!
この世界に転移して来てしばらく、俺は何をすべきかもわからず適当にフリーターを
この大人げない先輩と出会ったのはかれこれ10年ほど前だっただろうか。
﹁よ、幼女ちゃうわ
!!
1254
『stage1:夏の祭典前』
1255
やっていた。
今回は誰かに召喚されるでもなく、落ちた先が普通なマンションの一室だったのだ。
近しいものに会えだとかは言われたが、調べる限りでもこの世界は至って普通の現代
社会だった。俺が生前居た世界とほぼ変わらない程に。
どっかで聞いたような物騒な地名も無ければ秘密結社も無い、普通も普通な世界だ。
だがしかし、ビバ普通。いいじゃないか普通。
前のFate世界が嫌いなわけじゃないが、平平凡凡としたこの空気、最高だね
た。
い。けど、今となって改めて思い出してしまうと何故か無性に懐かしくなってしまっ
元々居たのは2流もいいとこの一般大学だったし、それほどの未練がある訳でも無
しかしフリーター生活をしていて気付いた。俺はもともと大学生だったのだ。
前に何もしないという生活は精神的に悪そうなのもあった。
が済まないらしく、とりあえずフリーターをやりながら日々を過ごしてたんだ。それ以
もあったからニート生活もできた訳だがどうも身体を動かしていないとこの身体は気
さておき、前の世界で手に入れていたお金があったし何故か用意されている俺の戸籍
なってるんで居ても困るんですがね。
ただまぁ残念だったのはこの世界に俺の家族が居なかったことか。いやまぁ幼女に
!
1256
体感時間で言えば丁度30歳といったところなんだが、少し変わったホームシックみ
たいなものだろうか。多分、平和な時間が出来てしまった所為で変に思い出してしま
い、さらに言えば自分の家族が居ないことを知ってしまったが少しでも前の環境に戻そ
うとつい思ってしまったのだろう。
とまぁそんなわけで俺は大学に通うことにした。
戸籍が何故かイリヤが作ってくれたコウジュスフィールで設定されていたので、仕方
なくそれで通うことにしたわけだが色々と苦労したものだ。
そもそもの見た目がファンタジー幼女だもの。
ケモミミに関してはキャスターに掛けてもらってラーニングした簡易認識阻害があ
るからどうにかなったが見た目がもう冗談みたいな存在だ。まず大学生には見えない。
ついでに言えば国籍が見た目と違うしな。
次に学力。
確かに大学生ではあったが、だからと言ってそれまでに身に着けた学力全てがそのま
ま頭の中に残っている訳ではない。当然再受験する訳だから10年のブランクもある
し中々に大変だった。覚える系に関してはこのチートボディの御陰か能力の御陰か割
かしましだったんだけどね。あとは高卒認定が用意されていたのはマジ助かったぜぃ
⋮。
さて、次がこの名前。
この世界にFateのゲームあるんだよね。当然大学にもfateを知ってる人が
居るわけで、というかこの先輩がその内の一人なわけで⋮。
見た目のカラーリングも似てるから何度﹃やっちゃえバーサーカー ﹄を言わされた
ことか。ちゃうねん、俺言われるほうやねん。
そして最後がそもそもどこに通うかだ。
長々とした回想だが目の前の先輩と会ったのはそんな成り行きでだった。
だったから入ってしまった。
うちの大学に来るかと言われて、ついつい新興の3流大学なのもあって入りやすそう
ただまぁそこに関しては目の前の先輩︵その時はネット上の知りあい程度だった︶に
り、微妙に違ったのだ。
確かにこの世界は元居た世界に似通っているが微妙に違った。地名然り、有名人然
!
卒業後も何かと付き合いがあり、基本的に生活圏が似てることもあって度々こうして
街中で会うのだ。
﹂
?
﹁よっしゃ、それじゃあいつもの喫茶店にでも行こうぜぃ。予定の時間までまだ時間あ
﹁あー、まぁそれなら良いけど﹂
﹁じゃあ先輩、先に読ませてくれない
『stage1:夏の祭典前』
1257
るっしょ﹂
本を二人で購入し、少し行った所にある行きつけの喫茶店に行く。
﹂
そしていつものごとくマスターに奥の席を使わせてもらい本を読み始める。
﹂
﹁コウジュちゃんご注文は
﹂
﹁あ、二人ともいつもので
﹁そんなことないですよ。こう、腐れ縁
﹁今日も仲が良いわね﹂
﹁お前が言うのかよ﹂
?
﹂
!?
しまった。
今日は真夏の祭典がある日なのだが、残念ながらこの人気ラノベの発売日が重なって
今読んでいるのはとあるラノベだ。
とりあえず注文は終わったし、再び本へと目を落とす。
と何故か爆発しろと言われたが何故だ。
いつも注文を取りに来てくれる店員のお姉さん︵26歳独身彼氏無し︶に注文を行う
﹁どんな待ち方
﹁はいはい、とりあえず爆発してまってなさいな﹂
﹁本人を前にして言うことじゃないよな、それ﹂
?
!
1258
元々はもう少し前に発売の筈だったが、最近何やらこの辺りでなぞの失踪事件が起き
ており、その関係で搬入が遅れたとか。詳しくは知らないけど。
そんなわけで、祭典前に何とか最寄りの本屋で電車待ちの間に駆け込み、そして見つ
けた最後の一冊であった。何ともまぁ同じ思考をしてやがった人がたくさん居たよう
で困ったよ。
先に祭典の方に行っても良いのだが、祭典の方は一応保険掛けてあるし、こっちは確
実に祭典後には売り切れて手に入れられなかったはずだ。実際に売り切れかけてたし。
そして読んだことを先に祭典へ行ってるリア友に自慢してやるのだ。 ﹂
・・・・・
﹁いつも思うけど読むだけで良いのかよ。しかもそんなパラパラと。それに別に見るく
らいなら半分払わなくても良いんだぞ
?
と得意なんだよ﹂
不貞腐れるように言う先輩に、思わず苦笑する。
?
﹁まったく羨ましいこって﹂
﹁そういう先輩ほどじゃないよ。奥さん居て、色々資格も貰ったとかって聞いたけど
﹁おま、それ何処から聞いたんだよ﹂
﹁いや、その奥さんから﹂
﹂
﹁いやいや、そこは少しでも売り上げに貢献してですな。それに覚えることだけはわり
『stage1:夏の祭典前』
1259
﹁俺が居ない時に何してる
﹂
﹁お前まで染まってないのが唯一の救いか﹂
?
なんか有名人かもしれんじゃん
﹂
厄介ごとが嫌いな先輩らしく、やはり顔には関わらないでおこうと書いてある。
﹁なんだろうな⋮﹂
俺の視線につられて外を見た先輩も訝しむように目を細める。
窓の外に目を向ければ、多くの人が一定の方向へと走るように向かっていた。
そこでふと気づく、何やら店の外が騒がしい。
つい誤魔化すように目を反らす。
﹁なんか、ごめんなさい⋮﹂
﹁⋮⋮最近、会話が少なくなってきてて﹂
おいおいどうした先輩。
ニヤニヤしながらそう言うと、先輩は突然ずーんと落ち込み始めた。
﹁そんなこと言ってると嫌われちゃうぜ先輩
﹂
﹁あははー、腐に目を瞑ればあの家は宝庫だしね﹂
!
しかし、俺は逆に興味が湧いていた。
﹁先輩見に行きませんか
!
﹁ミーハーだなぁ。お前の見た目も大概アレなのに﹂
!!
1260
﹁アレ言うなし。というかそれとこれとは別っ
﹂
ゆりかもめまだ大丈夫っすよね
﹁あー少しくらいなら大丈夫だな。とりあえず見に行くか
頷く俺を見るや否や、伝票を持って立ち上がる先輩。
﹂
?
というのも、その門のある位置が車道のど真ん中なのだ。
しかしおかしい。
うだ。
それを囲う様にして野次馬達は携帯電話で撮影したり、指さして何事かと見ているよ
暫くして見えてきたのは石造りの巨大な門だった。
その野次馬達に混ざるように俺達も流れに乗って向かう。
会計を済まし二人で店の前に出ると、やはり皆が一定の方向へと走っている。
まぁでもここはありがたく奢られておこう。
る。
何この無駄なイケメン。普段はグータラが基本の癖にこういう時だけ男を見せやが
?
!
ここは銀座で、勿論ここは交通の少ない道路という訳でも無い。だというのにその大
﹂
通りを大きく塞ぐようにして門はそこにある。
なんぞいな
?
﹁なぁ先輩。あれ、何だと思う
?
『stage1:夏の祭典前』
1261
﹁映画の撮影⋮とか
﹂
?
喚されて出てきそうだけど﹂
?
?
﹂
この理に従うならば応えよーってか
﹁まだ言いますか
﹂
?
なんだこれ
先輩を小突こうと軽く構えると、それを見て少し下がる先輩。
しかし、突然右手を抑えてうずくまった。
え、なに、厨二病
﹁違うって
マジで痛いんだってば
言いながら右手を見せる先輩。
!
﹂
ですかー、右手に封印された悪魔が騒いでるんですかー
!
﹂
﹂
﹁なんすか先輩、いくら誤魔化すためって言っても今時その返しは無いでしょ⋮。なん
?
!?
!!
﹁いやー、やっぱお前が居るとついな⋮って痛っ
!?
﹁はは、じゃあ汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、
スター的なの﹂
﹁俺が近くに居るとそっちに持ってくのやめてくださいってば。俺が言ってるのはモン
﹁召喚ってなんだよ。英霊でも出てくるのか
﹂
﹁映画かぁ⋮。映画だったとして何のジャンルですかね 俺的にあの中から変なの召
1262
?
その表情は割とガチで痛そうだった。
でも突然痛むってなんでだ
﹁なんだこれ
﹂
そう思い見ていると、突如その右手の甲に入れ墨のようなものが浮かび上がる。
?
もの。
つまり、なんだ。
これ、令呪じゃね
﹁あれ、何だこの感覚。後輩⋮
﹂
﹂
そう思った瞬間、己の中の何かが目の前の先輩とつながった感覚が産まれる。
?
それは前世界に置いてとても身近だったもの。半身とも言えたあの娘が持っていた
のを何度も見たことがある。
3本の爪痕のようなもの。それ其の物には見覚えがある訳ではないが、それっぽいも
を見て。
しかしそんな先輩を見て俺は冷や汗をかいていた。正確にはその入れ墨の様なもの
側から見たり突いたりと不思議そうだ。
先輩はようやく痛みが引いたのか、不思議そうにその入れ墨のようなものを見る。掌
?
?
﹁こ、ここに、契約は完了した⋮
?
『stage1:夏の祭典前』
1263
1264
互いに向き合う俺と先輩。
門が開くまであと少し⋮⋮。
とはいえそれは手に怪我をしたとでも言って隠せばいい話だ。
つかったらただでは済まない。
パッと見ではただの傷跡にも見えるが、よく見れば入れ墨だ。こんなものが上官に見
こにある。
表面を摩ってみるが別に凸凹してるわけではなく、自然と皮膚に馴染むようにしてそ
何なのだろうか。
うーん、それにしても俺のこの手に出来た傷のようにも見える3本の爪跡状のこれは
だが、流石にうるさいので静かにしてくれ。
目の前で何故だ何でだ何なんだと慌てる後輩を見ることで逆に俺は冷静になれた訳
違う言い方をすれば、何かが繋がったと言うべきか。
あ、こう言うと微妙に犯罪チックだな。
目の前の後輩との間に何かが生まれた。
﹃stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい﹄
『stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい』
1265
しかしそれは根本的な解決にはなっていない。
問題は、これが何かということだ。
一応、これに該当するものであろう知識は頭の中にある。それはもう馴染み深いもの
なのですぐに脳内検索でヒットしてしまった。
だが、その知識が当たりであるのならば色々とおかしい。
というのもその引っかかった知識というのは俗に言うサブカルチャー、オタク知識と
いうものだ。
それが今現実のものとして俺の手にあるのはおかしいと言わずして何と言おうか。
引っかかった知識の名前は﹃Fate﹄シリーズの中に出てくる〝令呪〟というもの。
そう、3画だ。
た3つの絶対命令権とされている。そして大体が3画で構成される入れ墨の様なもの。
その中で令呪とは、魔術師が英霊という規格外の存在を使役する為に与えられるたっ
7人の魔術師が7人の英雄をサーヴァントとして使役し殺し合うというもの。
内容としては大体がその基盤としているのが聖杯という万能の願望器を得るために
アニメ、漫画とその手はのばされていった作品だ。
元々はPCゲームで、そこからドンドンとPCゲームだけに収まらずコンシューマ版や
﹃Fate﹄シリーズと言ったからには幾つかのシリーズとして発売されている訳だが、
1266
『stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい』
1267
己が手に現れたソレの画数を見る。
1、2、3、ポカン⋮と忘れたい気分だがやはり3画。まごう事なき3画にて構成さ
れている。
いや待て。俺は魔術師なんかじゃない。
先程ふざけて言った言葉
ふと我に返りそう思うも、一度思い始めるとこれが令呪にしか思えなくなってきた。
しかしきっかけはなんだ
?
だが違った。
合の入った厨二病かキラキラネーム的な何かでそうなったのかと思ったものだ。
初めてこいつの名前とその姿を目にした時は、原作を知っているのもあってえらく気
の名前だ。
コウジュスフィール・フォン・アインツベルン。それが目の前で未だ慌てている少女
の前の後輩の所為でもあるのだ。
というのも、厨二病的なサムシングの所為でというのもあるが、その原因の一旦は目
そして俺もある。それも何度も。
衝動。
誰しも在る筈だ。若かりし頃の黒歴史というか、ついつい詠唱とか唱えたくなるそんな
だがその程度でサーヴァントを召喚できるのならこの世界は今頃英霊だらけだろう。
?
1268
実際にこの名前で国籍も持っているのだ。日本にだが。
この後輩は元々とある掲示板における知りあい程度の仲だったのだが、通う大学を探
していると言われ、魔が差してつい自分が行っている大学を紹介してしまった。
そうして出会ったのがこの少女、もとい幼女だった。
最初はもうなんだこの2次元生物はと自分の目を疑ったものだ。
まず名前がアレだし、見た目が完全に幼女⋮ギリ少女。しかも銀髪紅目で整った容姿
だなんて言うフルコンボ。
ほんと、ついに自分の頭が現実を否定して2次元に迷い込んだのかと思ったものだ。
だがまぁ大学を紹介したのもあって交友を持つと中々にネタも分かるし自分に近し
い中身だと分かり今に至るまでの付き合いとなっている。
そして、こいつのこの名前を聞き、そしてFateを知っていれば大体そのことに関
して言ってしまうのは仕方がないことだと思う。本人もそっち系の知識がある訳だし
な。
その関係で、この幼女がからかわれる時は大体Fateに関するものになってしま
い、原作中でも人気ヒロインの一人であるイリヤスフィール関連での事が大部分を占め
てしまうわけだ。大体涙目でやっちゃえバーサーカーを言わされるのがこの幼女だ。
勿論、本人が本気で嫌がってるなら無理強いはしないのだが、なんだかんだでこの後
輩も好きらしく、押すなよ絶対に押すなよ的な意味で拒否しているようなので結局から
かわれているのだ。本人曰く感慨深いものがあるらしい。
話がそれたがそんなわけで、この後輩に関わってからは先程そらで言えてしまう程度
には召喚に関する詠唱も何度も言ってきたわけだ。
だが、こんなものが出てきたのは今回が勿論初めてだ。
﹂
!?
﹂
?
手の甲を見せるようにして後輩に聞くも、後輩はあーやらうーやら唸りながら悩む。
﹁なぁ後輩、これが何か分かってたりするのか
つまり、こいつ何か知ってるんではないかと思ったわけだ。
焦りというものは何某かに対して自らの思惑とは違った場合に起きるものだと思う。
だが、先程からやけに焦っていた。
す。
この後輩はたまにポカをやらかすんだが、基本的には何事もそれなりに卒なくこな
だがまぁ、そうしなければきっと話は進まない。
めて若干涙目になって俺を睨んでくる。解せぬ。
未だにわたわたと慌てている後輩の頭をペシンと軽くはたく。すると慌てるのをや
﹁ぬわっ
﹁って、いい加減に落ち着け﹂
『stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい』
1269
﹂
酷くないですか
そしてポンと手を打ち、口を開いた。
﹁カッコいい入れ墨ですね
脅しじゃ無くて宣言
!
﹂
?
﹂
﹁どうやらそうみたいだ先輩。サーヴァントバーサーカー、寄る辺とか特にないけど参
だがすぐに、ふにゃりと笑みをこぼした。
たことないような目だ。
俺がそう聞くと、後輩は先程までとは違い真剣な眼差しになって俺を見る。今まで見
居る訳だよな。それが、お前なのか
﹁俺が聞きたいのはそう言うことじゃない。これが令呪だってのなら、サーヴァントが
何でこのタイミングで出てきたのか分からないんですって﹂
﹁それはたぶん、先輩の思ってる通り令呪だよ。Fateにでてくるあの。でもほんと、
俺がジッと見ていると観念したのか、はぁと後輩は溜息をつく。
﹁うっ⋮、いやまぁ知っちゃあいるんだけど、なんでそうなったのかが分からなくて⋮﹂
そんな後輩を俺は無言で見る。
それなりに長い付き合いだからよくわかる。いや付き合いが無くても分かるか。
!!?
﹁殴るぞ﹂
﹁痛っ
!
これ絶対何か知ってるやつだ。
!?
1270
『stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい』
1271
上した。よろしくマスター﹂
バーサーカー⋮、ダメなやつじゃないか⋮。
◆◆◆
うへぇ、なんでこのタイミングでこんなことが起こったんだ
で今みたいなやり取りを何度もして来たってのに。
考えられるのは目の前のこの門か。
今までにも悪ふざけ
そんな中、俺はあの門からやけに懐かしい空気が流れ込んでくるのを感じていた。空
きて門に対して文句を言っているのだから渋滞どころの話ではない。
のかと観察している。道路のど真ん中な為に車も沢山あるんだが、運転手自体も降りて
スマホを向けて撮影している者や門をペチペチ叩いている者、それぞれがこれを何な
今の俺と先輩のやり取も埋もれてしまう位に、今この門の前はごった返している。
?
気というか、雰囲気
いうことか。
マ
ナ
とりあえず確実なのは門というからにはどこかに繋がっていて、そしていずれ開くと
しかしまぁなんなんだろうねこの門は。
られない。
そして、それの所為でこの先輩と繋がってしまった。状況的にはそれくらいしか考え
この門から溢れているモノは結構な濃さだ。
この世界に来てすぐ、Fate世界に比べて魔力が異様に薄いことを感じていたが、
?
いやーな予感がするなぁ。
か
お前が
﹂
?
?
とかナチュラルに出せる人マジスゴい。
﹁まぁ残念ながらその通りさ。けど、これでも聖杯戦争を経てここに居るんだぜ
﹂
まぁ結局は与えられた力で内面が一般人だしな。凄みがないのは当然だろう。殺気
しかし客観的に考えても英霊らしさとかプレッシャーとか無いのも事実。
全くもって遺憾である。
俺が色々考察していると、何やら失礼な質問をされた。
?
﹁なあ後輩、前からファンタジーの住人みたいなやつだとは思ってたが、本当に英霊なの
1272
﹁・・・・・・﹂
何度か死んでるけど。とはさすがに言わないが、それでもそれなりに修羅場は潜って
きた。
だから安心してくれという意味を込めて笑みを浮かべる。
しかし微妙な顔をされた。解せぬ。
そんな先輩に抗議しようと詰め寄った瞬間、ゴリゴリと重々しい音が辺りに響きわた
る。
音の発生源の方を向くと、そこには開き始める門があった。
ここからは人混みもあってそれなりに離れているが、その突然の動きに門周囲の人た
ちが離れるのが見える。
同時、中から何かが出てくるのが見える。そして聞こえるのは、いくつもの金属がす
れる音。
嫌な予感が確信に変わる。
ネコミミボディスーツの宇宙人が遊びに来ましたなんて流れなら嬉しいんだけど、そ
んな風にはいかなそうだ。
﹁どうしたんだよいきなり﹂
﹁先輩、逃げた方が良い﹂
『stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい』
1273
俺の言葉にキョトンとする先輩を視界の端に捉えながらも俺は門から目を離さない。
﹂
!!!!!!!!
士。
!!
それらが手当たり次第に敵を襲い始めている。
何でいきなり世紀末になってんだよこんちくしょう
そう叫びたい気持ちもある
る兵士らしき存在。その上を飛び越えてくるのは竜に乗って空を駆ける槍を持った兵
とも言えるような怪 物 共。そしてそのすぐ後ろからは中世を思わせる鎧を着て馬に跨
モンスター
見た目で名称を付けるならばゴブリンやらオーク、そういったファンタジーの代名詞
門からは続々と様々な生き物が出てくる。
魔力を足場に門の方へと飛び出した。
り上へと飛ぶ。そしてすぐに身体を地面と平行にして空気を蹴るように足元に固めた
俺はこちらに来てからは暫く使っていなかった、使う必要が無かった全力で地面を蹴
には及んでいない様子。とはいえ弁明している場合では無い。
だが、周囲の人間はそんな俺に驚いたのかこちらを訝しむように見るだけで現状理解
身長しかないそいつがその手に持つのはどう見ても剣だ。
その瞬間には、出てきた何か達が人を襲うのが見えた。その内の一匹、小学生程度の
出来うる限りの声で叫ぶように言う。
﹁走れええええええええええっ
1274
『stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい』
1275
がそれをする時間すら惜しい。
とりあえずは目の前で呑気にスマホで撮影しようとしている女性をトンと軽く押し
遣る。
だが、遅かった。
すぐそこには大きく口を空いたワイバーンとでも言うべき竜。その背には騎士。
避けられないっ
◆◆◆
が咥えられていったのだ。脳裏には噛み砕かれる後輩が浮かぶ。
どう考えても幼子一人くらい容易に噛み砕けそうな咢をした竜だった。それに後輩
しかしすぐにハッと我に返る。
思考が停止した。
だが次の瞬間にはワイバーンみたいなのに咥えられ飛んでいく。
の方へと流星のごとく飛んでいった。
咆哮のごとく声を上げた後輩はアスファルトを割るほどの力で跳んだと思いきや門
!?
その妄想を振り払うように首を振るう。
人ごみの所為で前は見えないが、今後輩を咥えて後ろに飛んでいった生物が種や仕掛
けで作れるものではないのは簡単に理解できた。そして前方では遠巻きに聞こえる悲
鳴の数々。
﹂
慌てて飛んでいった後輩の方を見る。
﹁は⋮
な、何だ⋮
その中に居ては流れに逆らうことも儘ならず、徐々に俺自身も流されていく。
理解が追いつかず居ると、人混みが津波の様に門から遠ざかろうと動き始める。
?
や、次の瞬間には再び前方の門へと飛んでいった。
続いてその血霞の中から後輩が抱えた何かに電気のようなものを走らせたと思いき
しながら。
立った瞬間、何故かワイバーンが爆発四散した。それはもう赤いものを辺りに撒き散ら
それを見てどうにかしたいと思うもどうすることもできないと諦めかけた自分に苛
こぼれる銀髪が見えた。
ワイバーンに咥えられた後輩はもうそれなりに離れていたが、ワイバーンの口元から
?
後輩は
!?
1276
何とか流れに逆らう様に後輩の方を見ようとするも、空を飛ぶワイバーンたちが何か
を囲うように飛んでいる所しか見えない。平均身長よりもやや高い程度でしかない俺
では人混みをかき分けながら向こうが見えないのだ。
たまにワイバーンたちの間を黒い影が飛んでいるのが見える。
よく見ようと目を凝らすも出来ない。
そんな俺の頭に突如ノイズのようなものが鳴り始める。
﹄
?
﹃今使ってるのは念話的な何かなんだけど、ギャーギャーやかましい あ、こっちの話
電波の悪い無線の様に聞こえてきたのは後輩の声だ。
﹃あー、先輩聞こえ⋮おっと、きこえるかなっ
『stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい』
しんがり
ね。んでまぁこの念話、あまりうまく使えないもんで一方通行しか使えないんよ。だか
!
以上
﹄
ら簡潔に言うぜ先輩。 殿でヘイト取るから後よろしく。とはいえ、この人数は流石に
無理臭いからどうにか対処してほしかったり
!
!
そう言うだけ言って、先程鳴っていたノイズのようなものと共に頭の中が静かにな
る。
﹂
!!!!
俺は必ず後輩に文句を言うと決めて、とりあえず何かできないかと模索し始めた。
﹁何なんだよこの野郎
1277
﹃stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べら
れらは未だ留まるところを見せない。
数えるのも億劫な程の異形や騎士を倒したが、溢れ出るように門から這い出てきたそ
それにしてもさっきから一体どれほどの数を倒しただろうか。
らに放置したが、まぁなるようになるだろう。
一応ワイバーンに乗っていた騎士さんが空中に放り出されたので意識を奪ってそこ
スプラッタにしてしまった。うえ、今思い出しても気持ち悪い。
ただ、食われていることを頭が理解した時に思わず全力でワイバーンを殴った所為で
うだ。
を貫けるほどに強い訳ではなく、俺を噛み砕こうとしても文字通り歯が立たなかったよ
まったが、何とか無傷で脱出できたので良かった。どうやらあのワイバーンは俺の防御
飛 ん で き た ワ イ バ ー ン を 避 け き れ ず パ ク ン と い か れ た 時 は 一 瞬 思 考 が 止 ま っ て し
れかけた﹄
1278
間に合わなくて事切れた命も一つや二つじゃない。胸糞悪い。
だが、そこで落ち込んでいる暇はない。そんな暇があるなら次の場所で命を助けるべ
レ
ス
タ
きだ。そう割り切って走りながら目につく敵をひたすら倒す。未だ命を失っていない
人には辻斬りのごとくすれ違いざまに回復魔法を掛けていく。
ただ、予想外にレスタを掛けることが出来る存在は少ない。
しかしそれはいい意味でだ。
運良く初動で対応できたからか、俺がヘイトを稼いでいる間に結構な数が逃げれたよ
うだ。
問題は、俺が所詮一人であること。
後続の幾らかが俺を無視して逃げた人を追う様にビルの隙間を駆けて行った。
﹂
速くこいつらをどうにかして追いかけなければ⋮。
﹁HUGOAAAAAA
﹂
﹂
!!
握って俺へと迫る。
目 の 前 か ら 迫 っ て く る ゴ ブ リ ン と オ ー ク が 唾 液 を 撒 き 散 ら し な が ら 汚 ら し い 剣 を
﹁うるっさい
!!
﹂
!!!
!!!!
﹁HUGYAAAAAAAAAA
﹁まったく数ばっかり多いなぁ
『stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べられかけた』
1279
着ている服もみすぼらしいものだ。囚人服の方がまだ綺麗だろう。
そんなやつらへと俺は何も握っていない右手を向ける。
そしてそのままコインを弾く動作。
・・・
すると、バシュンと小気味良い音と共に俺の右手からとあるものが発射される。
﹂
だが利点がある。
いに低く設定されている。
PSPo2iにおいてコラボし、ハンドガンとしてされたこれは、威力も迫力も段違
とはいえ本家本元ほどの威力は到底無い。
が使う技の一つ。
元ネタは﹃とある魔術の禁書目録﹄に出てくるヒロインの一人、電撃姫こと御坂美琴
〝超電磁砲〟、それが俺が今使った武器の正体だ。
レー ル ガ ン
に落ちる。
遅れるようにして、キィンとゴブリンの腹を撃ちぬいたかのように見えたコインが地
撃たれたゴブリンは感電しながらうめき声を上げ地に沈んだ。
いや、突き抜けたのは衝撃のみ。
俺が撃ち出したものは狙い違わず前側に居たゴブリンを貫く。
﹁HUGYO
!!?
1280
『stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べられかけた』
1281
この武器は装備していることが分からないのだ。そして何よりも、特殊効果の感電効
果が高い。
ゲームとは違い、コインを用意する必要があるがアイテムボックスのある俺には関係
のないことだし、未強化状態で使えば殺傷力を落とした状態で感電させることで相手を
無力化できる優れものだったりする。テキストとして超高速のコインが射出されると
あるから避けることも叶わないし使い勝手がスゴく良い。
実は夜のバイト︵コンビニである。怪しいことではない︶をしていたとき、夜に出歩
くからか時々襲われたことがあり、それ以来密かに装備していたのだ。ほら、チートパ
ワーでうっかりグチャぁっとやっちゃったらダメだし。
だからまだ生存者も居る中でぶっぱするわけにはいかないのでこれを使っているわ
けだ。
まぁ、後もう一つ切実な理由もあったりする。
というのも、先程から血の匂いの所為か身体が疼く。
あ
あ、いや、左手が疼く的なあれでもエロい意味でもなくて、たぶん疼いているのは獣
の本能ってやつだ。
約10年ぶりに嗅いだ戦闘の臭いにどうやら中てられているらしい。先程浴びたワ
イバーンの血もそれを後押ししているのだろう。
なんとか無理矢理平静を保つようにしているが、ここで暴走しちゃうとこいつらの所
為どころではない血の海が広がってしまう。
そんなわけで、こいつらには相応の報いを受けさせたいのも山々だが出来る限り命を
奪わずに対処している。
それ以前に殺したくないというヘタレ精神もある。
聖杯戦争を潜り抜けた所で命を奪う行為になれるわけもないのだ。
﹂
!
﹂
!!!!!!!!
﹂
!?
慌てて構えて、敵を撃ち貫く。
いた。
慌ててそちらを見れば、少し離れた場所で襲われそうになっているスーツ姿の青年が
突如聞こえた叫び声。
﹁だ、誰か
それを駆使し、駆けては撃ちを繰り返す。
本来であれば右手にしか持てないものも、2丁出せばそれぞれの手で持てる。
同じように感電しながら崩れ落ちるオークを見てすぐさま次の目標へと駆ける。
左手でコインを弾く動作。
﹁甘いわ
﹁GOAAAAAAAAAAAA
1282
﹁ひいいいいいいいい
﹂
案の定、その青年目掛けて次のやつが来た。豚顔のやつだ。
だがそんな所で止まられていると、次の行動に移れない。
ないだろう。
今まさに刃を突き立てようとしていたゴブリンが目の前で吹っ飛んだのだから仕方
青年が顔を膝の間に埋めるようにして身体を丸める。
!?
﹂
﹁セイクリッドダスター
﹁PUGYA
﹂
れ重々しく音を立てながら地面へと落ちる。
すると豚君は吹き飛びながら甲高い音を立てつつ凍っていき、しまいには氷塊に包ま
の右腕。さすがに全力でいくと突き抜けそうなので押し出すような感じで弾く。
飛び掛かるように襲おうとしていた豚君の、柔らかそうなレバーへと叩き込まれる俺
青年を襲おうとしていた豚君を、近づくと同時に殴る。
!?
!
青年へと駆けよる。
そう判断し、両手の超電磁砲を倉庫へと返して次の武器を呼び出す。呼び出しながら
このままここで遠距離攻撃してても意味が無いか。
﹁ちぃっ﹂
『stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べられかけた』
1283
ナックル
うし、成功。
鋼拳系Sランク武器﹃セイクリッドダスター﹄。
3本の青い爪が付いた手甲で、青く輝く粒子を産みだしながら攻撃した相手を一定確
テキスト
率で凍らせる凍結効果を持つ武器である。
概念にも凍らせる不思議な力があるとされるこの武器、これもまた非殺傷武器として
はかなり有効だ。
ゲーム内では凍結効果に有効時間もあったしライダーに使った時もすぐに凍結は解
除された。だが武器としての凍結効果ではなく、テキストの凍結効果を意識することで
効果時間なんてものはあってないようなものに変わる。
とはいえまだ使い慣れてる訳でも無いので格下にしか使えないし直接触れる必要は
あるが、こいつらの速さはサーヴァント達には遠く及ばない。鈍っているこの身体でも
十分反応できる。
速くここから逃げろ
﹂
だから、死なない程度にこれで殴って端から凍らせていく。
﹁あ、おいあんた
﹂
!!
とりあえず近くに居たやつらを軒並み凍らせたところで思い出して彼に逃げるよう
いつの間にかこっちを見て口をパクパクして驚いていた青年。
﹁ひいいいいいいいいいいいいいいい
!?
!
1284
に促すが、鞄も拾わずに何故か悲鳴を上げながら逃げ出した。
いや俺を見て逃げなくてもいいじゃないか。ちょっとショック。
﹄
突然のその行動につい呆けてしまう。
は何処までも届きそうなほどだ。
それは事実笛だったらしく、取り出すや否や騎士がそれを吹いた。甲高く鳴り響く音
イッスルのようなものを取り出す。
そう思っていると、飛んでいるワイバーンの内の1騎、乗っている騎士が首元からホ
楽になる筈だから来るならさっさと来てほしい。
さっきから飛んでたワイバーンは粗方落としたはずだし、こいつらを倒せばある程度
3騎も居るし、ジェットストリームアタック的な感じで連携攻撃してくる気かね。
しかし、高い所から見下ろすだけだがどうする気だろうか。
けている。
さておきその3騎は俺を排除対象としているようで、囲う様に旋回しながら飛行を続
青年はこれが見えたのだろう。⋮そう思いたい。
と思いきや、俺へと影が掛かり上を見て見るとワイバーンが3騎飛んでいた。
﹃GYUAAAAAAAAA
!!!!
そしてそれもやがて止まった。なんだったのだろうか
?
『stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べられかけた』
1285
しかし、何のために吹いたのか、そう考えるもすぐに答えは出る。
笛とは何かの合図のために吹くものだ。そして今吹く理由なんて容易に想像が付く。
援軍だ。
﹃﹃﹃﹃﹃﹃﹃P U G Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y
でも無いのでこれだけの数が居ても勝てるだろう。気が滅入るのは変わらないが。
とはいえ、相手方がそれぞれサーヴァントレベルだったら話は違うがそこまで強い訳
をしたんだろうな。考えるだけでもテンションが下がる。
か︶睨まれているだけで済んでいるが、ビルが無かったらもっとむさくるしい囲まれ方
ビルがあるから4方向から︵空の3騎⋮気づけば増えてるがそれを含めると5方向
る俺は四面楚歌状態だ。
俺が他で対応している間に門からは続々と出てきていたようで、十字路の真ん中に居
瞬く間に集まる敵方の援軍。
﹁うへぇ、いじめ反対⋮﹂
1286
ぶ ん 殴っ て
それら全てを凍らせながら迎撃していく。
次から次へとだ。
一人テンションを下げていると、四方から一斉に豚顔達が飛び掛かってくる。それも
﹄﹄﹄﹄﹄﹄﹄
!!!!!!!!!
右右左上後前左前、と次から次へと飛び掛かってくる豚君たち。
なんのコマンドだと愚痴りたくなるがそんな暇も無く、俺へと迫る敵は後を絶たな
い。
﹂
!!!!!!!!
﹂
!!
とは言え残念ながら普通の弓じゃ俺には届かない。一定以上の攻撃でなければ弾か
か。いや、それほどまでに俺を脅威だと見てくれてるってことかな。
に入るだろうがあちらさんの人員はまだまだ居るのに撃つとは中々に下衆いじゃない
それにしても、俺の周りにはまだまだ豚顔さんやらゴブリンまで、モンスターの部類
当然狙いは俺のようだ。
でもたぶん、構え、とでも言ったのだろう。上官の声に合わせて弓兵が一斉に構えた。
何を言っているのかは分からない。そもそもが違う言語圏なのだろう。
﹁&%$#
手に持つのは、弓。弓兵だ。
くる。
その上官っぽい人が言うに合わせて隊列の中心が割れ、そこから何人もの騎士が出て
そこには幾らか装飾の多い騎士が、周囲へと叫んでいる。恐らく、お偉いさんだろう。
飛び掛かる豚顔達を殴り倒しながら、聞こえてきた声の方を見る。
﹁#$%%〟#$〟#%
『stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べられかけた』
1287
1288
れて終わりだ。
あの弓に番えられている物がもしもカラドボルグだってなら話は別だが、普通の矢
じゃ意味が無い。まぁ周りの豚さん達が被害を受けて終わりだろう。
だがそれをされると血の臭いに俺が反応しちゃうだろうし、かといって態々助ける義
理も無いような⋮。
さてどうするべきか。
敵は四方全てに居り、幸いにも救助者はもう居ない。けど俺が持っている選択肢の中
で広範囲を攻撃するものっていうとここら一帯を諸共吹っ飛ばすような代物ばかりな
SLB
んだよなぁ。
魔砲とか論外だし、射撃系武器は蜂の巣がたくさんできてしまう。テクニックは単体
への威力が高いし、周りへの被害が│││
│││周りへの被害
フォトン
あ、ティンと来た。
その一瞬を使って武器を交換する。
らの前方へのブーストナックルといったところか。それを使って近くに居た敵を一掃、
ゲーム内で言えばボッガ・ズッバという鋼拳系フォトンアーツで、敵を打ち上げなが
ナックル
素早く魔力を込めた拳を前方へと突き出すように振りかぶり爆発させる。
?
次に出したのはネギだ。
と言っても唯のネギではもちろんなく、いつものあれだ。ネギウォンド。
それを、掲げる。
﹂
!
﹁メギバース
『stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べられかけた』
1289
﹄
!
を通して垣間見えた。
放送される際はモザイクなどの加工がされているとはいえ、その壮絶な状況はテレビ
や建造物を破壊するもの。騎士が持ったいた槍で人を突き殺すもの。
豚顔の異形が剣を持って人に斬り掛かるもの。大きな怪物が丸太のような棍棒で車
映し出された映像は様々だ。
で取られた映像はその悲惨さを全国に知らしめた。
ゲート関連の報道は連日行われ、現場に居た一般人の撮影によるものや店頭カメラ等
被害者の数は数万に上り、死者に関しては数千人とも言われている。
いて数多の被害者を出した。
地図には無い門の向こう側。その地より訪れた数多くの異形や兵士たちは銀座にお
それは突如東京都中央区銀座にあらわれた門を起点として起こった事件の名である。
銀座事件。
﹃stage4:そうだ、異世界へ行こう
1290
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1291
しかし、その映像の中で時折不可思議なものが映るのだ。
氷 塊 の 中 に 閉 じ 込 め ら れ た 異 形 の 数 々。時 折 痙 攣 し な が ら 地 面 に 倒 れ て い る 騎 士。
何故か息も絶え絶えな多くの存在。そしてその間を駆け抜ける影。
その答えはSNS等の規制が比較的後手に回る情報共有システムに慣れ親しんだ者
や、ネットにおける某掲示板を見ている者などが知っていた。 幼女、いや正確には幼女っぽい何かだ。
携帯電話や画質が落ちる店頭カメラではあまり画質がよろしく無い為、小さな影とし
シンシ
か見て取れない。また、時折立ち止まるも基本的に素早く動くその人影は低画質のカメ
ラでは追いきれない。
それでも世には無駄なことに力を入れる存在が居るため、銀髪の幼女っぽいという所
までは特定されてしまう。何故か報道では流されない情報だが、ネット社会における利
点であり弊害か、その情報はすぐさま全国を駆け巡った。
そしてその幼女が何かをすると敵が倒れて行くのだ。
時には体を震わせながら地に倒れ、時には凍り付いて氷像となる。緑と白に彩られた
杖っぽいものを振った瞬間に血を流して倒れている被害者が立ち上がった映像もあれ
ば、逆に精気を吸い取られたかのように突然地に沈む異形の姿もあった。
あまりの意味不明さに当初は悪戯かよく出来た加工映像だとされ流されていたが、す
1292
ぐさまそれが本物であるとされた。
実際に救われた何人かが証言したのだ。そして感謝の意を告げたいという言葉がい
くつも出てきた。
それが何者によるものなのか、一部を除き、その正体は未だに明かされていない。
いたみようじ
そんな幼女とは逆に、報道においてその名が何度も上がった者も居る。
伊丹耀司、自衛隊三等陸尉。その活躍により二等陸尉となった男だ。
東京銀座において、逃げ惑う人々を咄嗟に皇居へと誘導して立てこもり、警察や陛下
の助力もあってだが数多くの人を救った〝二重橋の英雄〟。
彼の姿に関してははっきりと報道もされていた。
見た目だけで言えば、30代前半の普通な男性だ。特に身長が高い訳でも無く、筋骨
隆々という訳でも無い。
だがそんな彼の閃きによって救われた人は数千人にも上る。
そんな彼は今、銀座事件から数日の時を経て、特地と名付けられた異世界へと派遣さ
れることとなった。
特地出陣式、それを以て自衛隊は門の向こう側へと向かうことになる。
◆◆◆
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹃なんだよ先輩、行きたくないのかい
﹄
?
﹁ったりまえだ。最近ついてないよほんと﹂
﹃はは、俺がついてるって﹄
﹁伊丹二等陸尉質問か
﹂
﹂
!!
ただ、これには欠陥がある。向こうからの一方通行でしかなくこちらは肉声なのだ。
たりな名前だが念話というものらしい。
そして先程から頭の中に響く声、これはすぐ近くに隠れている後輩のものだ。ありき
今はゲート内部へと向かう部隊の一員として並んでいる所だ。
姿勢を正す。
誰の所為だと怒鳴りたいがそれもままならず、もやもやしたものを抱えながら改めて
﹃大変だねぇ。ほんと﹄
﹁何でもありません
!?
﹃違いない。⋮っと﹄
﹁憑いてるの間違いだろ﹂
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1293
1294
あの銀座騒動の中で使われたやつだが未だに慣れないし、微妙に使えない。直接言っ
てやったら涙目になってたのが印象深い。
まぁそんなわけで小声で返していた︵どうやっているのか後輩は聞こえるらしい︶の
だが上司に見つかってしまった。というか隣の人間すら気づいてない位の小声なのに
何故バレたんだ。
それにしても、はぁ⋮、どうしてこうなってしまったんだろうか。
ことの始まりはあの銀座に居合わせたことなのは確実だろう。
夏の祭典に参加しようと後輩とそこに居ただけだったのだが、突如現れた異世界へと
つながるゲートからなる一連の騒動に俺は巻き込まれてしまった。
色々あって避難誘導やら救助活動やらをしている間にどこかのバカ後輩や基地に居
た自衛隊員の援軍によって事態は収束したのは良いが、今じゃ英雄呼ばわりだ。
俺 な ん か を 英 雄 呼 ば わ り し な く て も 良 い の に 困 っ た も の だ。む し ろ し な い で ほ し
かった。
英雄というプロパガンダを必要とするのは分かるし、論功行賞を怠る訳にはいかない
のもまぁ理解はできる。だが納得し辛い。おかげで次の祭典に参加できるかも怪しく
なり始めている。
どこかから俺へと話しかけている後輩辺りにでもその役目を与えてくれればよかっ
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1295
たんだが、実はこいつ、現在雲隠れ中なのである。
あの事件からすぐに後輩の正体は各上層部に知られるところとなった。
在籍していた大学、住居、職場、あらゆる情報を取り逃すまいと様々な組織がそれぞ
れの思惑を抱えて捜査していたらしい。
しかしいざ調べてみると割と情報は出てくるのにとうの本人は全然見つからなかっ
たそうだ。その捜査中も各地で目撃情報が出るのにまったく捕まえられなかったそう
な。あいつバーサーカーじゃなくてアサシン名乗ればいいのに。
さておき、当然調べられた中には俺との交友関係も含まれていたわけで、当日に一緒
に居た所までをも知られていた。英雄という扱いをしておきながら容疑者を尋問する
ように尋ねられたものだから堪ったものではない。まぁそれに関しては後輩︵の知り合
い︶から祭典の御宝を回してくれることで話が付いたから良いが。
ただ、よくよく考えればあの容姿は目立つ︵良い意味でも悪い意味でも︶筈なのに、
精 々 が か わ い い 子 が 居 る と い う 噂 程 度 で 落 ち 着 い て い た。そ れ は 明 ら か に 不 自 然 だ。
俺自身、改めて考えて初めて分かったのだが、それもあいつが何かしていたのだろう。
そしてそんな後輩をそう簡単に探せるわけもなく、本人は悠々と今俺の近くに居る訳
だ。
今から門をくぐるっていうピリピリしてる部隊の近くでどうやっているのやら。
そういえば、以前に後輩の家に一度訪れたことがあるのだが地味に後輩は良い所に住
んでいた。今はどうなっているのだろうか。
実は後輩、俺も何度か訪れたことがあるのだが億ションとまではいかないが一等地に
ある高級マンション在住なのだ。
それでも何故か後輩はコンビニでバイトをしていたり、その他にもあいつは造形師の
真似事らしきこともやっていたがな。深夜にたまたま立ち寄ったコンビニで後輩が品
出しをしていた時は本気で焦った。
造形師に関してはどうやっているのやら、本人は企業秘密だとか言っていたがそれな
りの値が付くレベルのものを造っていたらしい。かくいう俺も実は、好きな魔法少女物
のフィギュアをオーダーメイドで作ってもらったことがあるのでレベルが結構高いこ
と自体は知っている。
だからまぁ後輩はそれなりの資金を持っているはずなのだが、口座の凍結とかされて
しまえばそれも意味のないものになっている可能性がある。
考え出すと心配になってきた。
すぐ近くに居るってことが無事な証拠ではあるし、時たま念話が来てたから安否確認
はできていたが後輩の姿自体はあの銀座以降見ていなかった。
﹁⋮⋮なぁ後輩﹂
1296
﹃何かな先輩。また怒られるよ
﹄
ように感じていたから余計だろう。
後輩だけでなく趣味仲間として数年来の付き合いであるし、最近の事で妙に遠い存在の
しかし了承自体はしてくれたし、俺にならと言ってくれたことには嬉しく思う。先輩
めた俺自身が言うのもおかしな話だが大丈夫だろうか。
少しの間が空いたことから後輩でもそれなりのリスクがあることなのだろうか。求
﹃ん⋮、まぁ先輩になら構わないか﹄
なら構わない﹂
﹁分かってるよ。だからとりあえずはこれで最後だ。ちょっとだけ姿見せてくれ。無理
?
そこまで考えて自分らしくない思考に苦笑してしまう。この後輩と関わり始めてか
らは調子を崩されっぱなしだ。
﹂
!!
あ、やっべ。そう思うももう遅い。
い出す。
なんとか周りに合わせて装甲車へと乗車するが、したところで後輩に言った言葉を思
響く声にハッと意識を再起動する。
﹁│││││全員乗車
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1297
何とか座席に座ったまま不自然の無い程度に外を見るが、その狭い隙間から覗けるの
は精々が街路樹程度だった。
そう聞きたいも、向こうからの一方通行でしかない念話ではそ
?
﹁痛った
﹁⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁伊丹二尉⋮頭でもぶつけたんすか
?
前の同僚にデコピンを喰らわせる。
﹂
それを見て言葉をこぼした俺は悪くない。なので俺を変なものを見る目で見た目の
けるようにして消えたが。
いや俺も何を言っているんだと思うが今そこの街路樹に居たんだよ。もう風景に溶
!?
?
﹁畳を背負った狐⋮
しかし見ていると、街路樹の枝の上に変なものが現れた。
れもできず、そのまま見ることしかできなかった。
え、解くって何を
﹃あ、そのまま見ててね。一瞬だけ解くから⋮﹄
は誰も居ない。
そう頭の中で言われるも見ることが出来るのは街路樹のみ。一応見て見るもそこに
﹃んと、あ、居た居た先輩こっちだよ﹄
1298
いやいやいや、ファンタジーな見た目だがあれでも一応人類の姿
しかし一体今のが何だと言うんだ。
あれがコウジュ
をしていたぞ。なんだよ畳を背負った狐って。
?
﹄
!
うん、あまり考えると頭が痛くなるし、後は実際会った時に聞くことにしよう。
畳に関しては意味が解らんが。
りが聞けば喜びそうなネタだ。
だとか言ってたな。ビーストって直訳すると獣だし、そう言う意味だったのか。倉田辺
そう言えばいつだったか、どこの英霊なのかを聞いた時に異世界のビーストって種族
狐になってるなんて思おうか。
しかし確かにあれでは上層部も捕まえられない筈だ。どこの諜報部が失踪した人が
にあの銀色の毛並みは後輩の髪色を思い浮かべさせる。
とまぁ現実逃避はさておき、どうやら今見えた畳を背負った狐が後輩のようだ。確か
うに。
あ、本当にあれが後輩なんだ。ただでさえ小さかったのにさらに小さくなって可哀そ
会った時にでも改めてってことで
﹃あ、見えたみたいだね。さすがにこれ以上は見せてられる余裕はないから、向こうで
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1299
1300
◆◆◆
先輩との念話を切り、ちょこちょこっと地面を走って近くの車の荷台へと飛び乗る。
周りを確認すれば武器やら装備品を運ぶための車らしく、この車に乗ってる人は運転
手のみのようだ。
それを確認したところでぷはぁと息をこぼし、気を張るのをいったん止めた。
この装備はほんと燃費が悪い。そう考えながら改めて、鏡面の様に磨かれた武器の表
面に映る自身の姿を確認する。
はいそうです私が畳を背負った子狐さんです。
さて、まずは俺が何故子狐なんてものになれるようになったかから始めようか。
と言っても簡単に言えば覚えた聖杯の泥を使ったってだけなんだけどね。
そのまま聖杯の泥というのもややこしいので何か名前を付けたいところだがさてお
き、この泥めっちゃ優秀なんです。
この泥、どうやら何にでもなる性質があるらしく形を定めるとそのしたい物になるよ
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1301
うなのだ。ついでに言えば覆ったものの性質を変えるなんて効果もあるらしい。
思
え
ば
例えばこの泥を使ってフィギュア状になるように形を整えて、その後でこれはフィ
ギュアだって願えばそのフィギュアになる。ちゃんと材質とかもフィギュア用のもの
で再現されるのだ。副業を思いついた瞬間である。
ただ、これは俺の﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄のダウングレード版の様なもの
らしく、俺の想像力や集中力に比例して出来上がりが変わる。
初めの頃は役に立たないと嘆いたものだ。
なにせ俺は既に投影を覚えているから剣などの武器を産みだすならそれを使えば良
いし、想像力に依存しているから俺が知らないものや複雑なものは産みだせない。そし
て 集 中 力 も 必 要 だ か ら 咄 嗟 に 使 用 で き る も の で も な い。瞬 時 に 使 お う と し て も ぶ っ
ちゃけ俺じゃ泥を形にする前に自分で突っ込んだ方が早い。
だがある時、この泥に覆った物の性質を変える効果もあると気づいてからは認識が変
わった。
切っ掛けは厨二ごっこをする為︵現代社会におけるストレスを発散する為︶にその泥
を両手に纏わせ腕だけ獣化した時の手にしてモンスターな王女様の漫画に出てくるリ
○・ワイ○ドマンごっこをしていた時のことである。
関節の位置がおかしかったのだ。
1302
俺の低身長のまま腕だけ獣化させると、獣化した際の身長は2m超えだから中に在る
筈の手首の位置や肘と外に来るそれぞれの関節の位置は違ってくる。
だけど何の問題もなく俺は動かせた。何度もポーズを取ったから気付いたのだ。
そこから何度か実験した結果、この泥は覆ったものであっても性質ごと変わると気づ
いたのだ。
フォークを包んでナイフにするとかできます。実用性があるかはさておき。
しかし、これは俺にとって大きな進歩だ。
今までも﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄を使ってはいたがこれは十分な想像力が
無ければ失敗するか残念な物しかできなかった。精々が外堀を埋めることでそれにな
りやすくする程度だった。
だが、ダウングレードされた泥は目の前に物がある分想像しやすい。直接手で触って
こねくり回すことが出来るのも大きいだろう。
ふとその自分を客観的に見たら泥んこ遊びに興じる幼女の図だなとも思ったが、ボッ
チで部屋で遊んでるのだから誰に見られるでもないし迷惑もかけないので気にしない
ことにした。ボッチの特権だ。
さておきその実験の結果分かったのが││、
1:泥を基に作ればその作りたい物の性質になる。
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1303
2:難しい構造の物、構造が理解できない物は作れない。
3:元々形あるものを覆った上で変化させればその覆った物ごと性質が変わる。
4:基本的に生物を覆い性質を変えることは出来ないが、自分であるならばある程度
の性質変化が可能である。ただし性質が離れすぎているものほど難易度が上がる。
│││といったことだ。
つまりこの泥の性質変化を使って狐に化けているのである。
全身を泥で覆って、ギュッと圧縮して、ポンで変身だ。なんと使い勝手のいいことだ
ろうか。
最初は何度か失敗して、というか余計なことを考えた所為で、某忍ばない忍者漫画の
砂瀑送葬をセルフでやる感じにブシャァとやっちまったが今では狐になるのもお手の
物だ。オソウジ大変でした。
ちなみに今成れるのは狐、狼、猫の3種にそれぞれの子どもverだ。
ただ、現状成れるのは普通の動物の狐猫狼。
男としてはやっぱり竜とか、あとは貰ったPSPo2iにBOSSとして居るヤオロ
ズ様くらいの威厳ある存在になりたいものだが、想像力が足りないのか現状出来てはい
ない。
狐 狼 猫 の 3 種 に 関 し て は 獣 化 で 成 れ る も の だ か ら 出 来 て い る の か も し れ な い が、
1304
ひょっとすると他にも条件があるのかもしれない。
いやだって、これ使って意気揚々と男になろうとしたんだが出来なかったんだよ。
元男なんだから男に関しての知識はあるし、中身が男だったわけだから因子的なもの
もある筈なんだが、成れないのだ。一瞬世界滅べと呪いそうになり踏み止まるのに苦労
した。
意気揚々と言った程度には確信があったのに何故だ。確信があるほど出来る可能性
が増える筈の﹃幻想を現実にする程度の能力﹄なのに、だ。
幼女は愛でるものであって成るものではないのだ
しかしここで諦めたら男が廃る。
脱幼女
!
そんな狐モードだが、抜け道を俺は見つけた。
身体能力も普通の動物程度になっているからマジで焦ったよ。
襲われそうになった時は変化を解くことすら忘れて全速力で逃げたものだ。
あの恐怖は今でも忘れない。
狼や猫じゃないのは野良が襲ってくるからだ。しかも発情した状態で。
の動物の姿でうろちょろしているのだ。
そんなわけで、狐になる能力を手に入れたので逃亡生活中に外を出歩く際はそれぞれ
きっと何かしらの条件か経験値が足りないだけだろう。
!
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1305
それが畳を背負っていた理由である。
シールド系Bランクダウンロードアイテム﹃タタミガエシ﹄。
テキストに書かれているのはニンジャが使っていたらしいこと、そして身を隠す効果
があるということ。
いつものごとくゲーム内ではそんな便利な能力は無かったが、それを使えるのが俺の
能力。
ついでに言えばこの盾には回避力アップの効果が付いているので、これを背負うだけ
であら不思議、アサシン狐の出来上がりである。そしてアサシンカードリストラの瞬間
でもある。
まぁよくよく考えれば身体スペックが普通の狐やらになっていても中身は俺なのだ
から能力とかが使えなくなっている訳がないのだ。さもないと一度でも動物モードに
なった瞬間、戻るために能力を使えなくなっているわけだから詰みである。動物エンド
とか誰得だ。
話が逸れまくったが、この動物モードと能力の同時使用、そしてそもそもがマイルー
ムやどこでもドア擬きを持っているのだから俺が捕まる訳がない。
そもそも何で俺を追いかけるのか。
いやまぁこの現代社会において俺の力が異質なのは分かるけど、何で家でゆっくりし
1306
て た ら 特 殊 部 隊 み た い な の が 突 っ 込 ん で く る の か。敵 か と 思 っ て 全 員 伸 し ち ゃ っ た
じゃないか。
それ以来である。追いかけられているのは。
何度か先輩や俺の周囲の人を人質にして俺をおびき出そうとした連中も居たが、そん
な外道も今では一条祭りの中である。一応生きている筈だけど、これ以上増やしたくな
いものだ。
現在では、一番仲の良かった先輩の周りを密かにマークして泳がしている状態のよう
だ。俺にばれている時点で密かではないけど。
けどそれの方が俺もやりやすい。それに狙い通りでもある。
実は逃亡中に先輩の周りに痕跡が残るように動いていたのだ。
御陰で追手のほとんどが先輩の周りに集中している。
ただ面白いのが、俺としてはバラバラに動かれるより纏まってる方が対処しやすいと
言った程度の思惑だったのだが、俺と先輩との仲がバレたのは先輩の事が全国放送で紹
介された後だったからか英雄状態の先輩を直接どうにかすることもできないで居るよ
うで、思わぬ膠着状態を生み出している。
このまま俺なんかに構わず差し迫った危機の方をどうにかしてほしいものである。
まぁもしも先輩以外の人を襲おうとしたら密かに置いてきたプチ一条祭りさんが何
『stage4:そうだ、異世界へ行こう!』
1307
をするか知らないってだけだ。
ほんと未だにあれの中身が分からないのだが俺の思った様には動いてくれるので助
かっている。あまり考えるとSAN値下がりそうだから思考放棄してるわけではない。
んで、そんな風に時には追手を躱し、時には外道にOHANASHIし、たまに先輩
とお話しながらのらりくらりと逃亡生活をし、そして今日ここに至るのだ。
逃亡中に先輩が出世したことを知ってお祝いの言葉を贈ったが、ついでに特地送りだ
とか事情聴取されただとか恨み言を言われたのももう何日前だっただろうか。御宝を
渡すからと言えば許してくれたけどね。先輩マジちょろい。
とはいえ先輩と契約が成立しちゃってる以上、先輩だけを特地とやらに送り出すわけ
にはいかない。
だから俺はついていくことにした。マスターを戦場に行かせて自分だけ安全地帯︵ま
るっきり安全ではないけど︶に居る訳には行かないだろう。
別にサーヴァントとしての誇りだとか騎士道精神的な高尚なものではない。
先輩にはとてもお世話になったのだ。そんな人を知らぬふりはできない。
だから、行くと決めた。
あの時密かにイリヤに誓ったように、俺はまた誓おう。
先輩を無事に連れて帰る。
1308
それだけは貫き通す。
フリーター生活
覚悟しろ異世界、俺の日 常を邪魔した報いを受けさせてやる。
ところで運転手さん、もうちょっとゆっくりお願いします。
今子狐モードなので三半規管が、うえっぷ、出る、出ちゃうから
!
﹃stage5:門を越えるとそこは⋮⋮﹄
﹁うっわ、無いわぁ⋮⋮﹂
軍勢が居る。
銀座で見たモンスター共もうようよ居やがる。
そんな軍勢を、俺は先輩に抱きかかえられながら見ている。
先輩に保護されているからだ。
何故抱きかかえられているかというと、こちらの世界で捕まえた動物という体で俺は
てい
自陣⋮って俺が言うにはおかしいけど、こちら側から少し離れた場所には数万単位の
何せ目の前には軍勢、軍勢、そして軍勢だ。
しかしそれも仕方ないのだ。
口にしたのがそれだった。異世界へ来ての感慨の欠片も無い。
門を越えた先、少しの勾配があるだけで遠くまで見晴らせる大地を見て、俺達がまず
﹁だよなぁ。まったく、気分が重くなるよ﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1309
そして特地の安全確保がまだ出来ていない現状では研究班が来れない為、俺は先輩預
かりとなっている。先輩にだけ懐いてるように演技もしたしな。
御陰でもくろみ通りに先輩の近くで守ることが出来ている。
俺も首を撫でられてウハウハですよ。
先輩の方は生暖かい目で見られるから嫌らしいけど、別に良いじゃん。女性士官たち
にモテモテだぜ
?
バーサーカーは悪くないやろ
殲滅して良いならやるけど﹂
?
一人一人が自分の成すべきことをするために忙しそうだ。
進軍する為に準備をする兵士たちがここからでもなんとか見える。
改めて前を見る。
しかし確かに、あの軍隊はどうにかしたいものだ。
何も言わず目を反らす俺にジト目を向ける先輩。
!
﹁やっぱバーサーカー駄目だな﹂
﹁何でや
﹁⋮⋮﹂
﹁それだと悪いのはお前だけど﹂
!
﹁黙んなよ⋮﹂
﹂
﹁どうかなぁ、ほら俺ってバーサーカーじゃん
﹁それにしてもあの軍隊どうにかならんものか後輩よ﹂
1310
﹁後輩、あまり見るなよ。辛くなるぞ﹂
﹁分かっちゃぁいるんだけどね﹂
先輩の言葉に返事をしつつも、その光景から目を反らすことはできなかった。
2万
いや、それどころじゃないだろう。
今からあの中の何人が死ぬことになるのだろうか。
1万
?
今から起こるのは恐らくは蹂躙。その言葉が最も似合うことだろう。
うとは誰の言葉だったか。
今から起こるであろうものは戦争なんかじゃない。戦争は同格の者が争うことを言
しかしその1がその指先で齎す銃弾の数は分間に何人の死を産みだすだろうか。
い。
数で言えば圧倒的に自衛隊の方が少ない。10:1かそれ以上の差があるかもしれな
だけど、それを補って余りある文明の力が地球側にはある。
るようだ。
こっちの世界にはマナが溢れ、魔術も存在するらしい。人間ではない種族も数多くい
?
イヤだイヤだ。気が滅入って仕方ない。
思わずそう零してしまう。
﹁はぁ⋮どうしてどの世界も争ってばかりなのかねぇ﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1311
ほんと俺はあの人たちをどうしたいのだろうか。
救いたいとも思う。けど憎らしいとも思う。
どちらも相反するものだが、抜けきらない一般人の感性はその両方を俺の中で産みだ
し続ける。
門の向こうからいきなり現れて罪もない人々を何人も殺した奴らではある。
しかし、あの人達だって命じられてやっている部分もある。
だから許せるとは言わない。
﹂
けど、死ねとも言えないだろう
﹁⋮争うのは嫌いか
?
生産的な争いか、確かにそれはいいな。
俺の言葉に嘆息するように言う先輩。
﹁だよなぁ。もっと生産的な争いをすれば良いのにな﹂
しねぇさ﹂
﹁嫌いじゃあないけどさ。それは命を賭けない範囲でかな。誰も好き好んで殺そうとは
すると上から見下ろすようにしていた先輩と目が合う。
俺は首を反るように上を向く。
静かに、俺を抱える先輩がそう聞いてきた。
?
1312
﹁例えば
﹂
﹂
?
﹁⋮⋮色気より食い気。さすが幼女﹂
﹁そうだなぁ。たい焼きコンテスト
﹁⋮引きながら言うなよ。そう言う後輩は何が良いんだよ﹂
﹁流石先輩、ぶれませんなぁ﹂
﹁魔法少女コンテスト﹂
?
イリヤにはバーサーカーらしいって言われたもんだがね﹂
?
﹁そうそう。超かわいいぜ
﹂
﹁ああ、そういえばイリヤちゃんが元マスターなんだっけ﹂
﹁そうかい
﹁後輩ってさ、バーサーカーらしくないよな。狂戦士って感じじゃない﹂
た。むぅ、無駄に手馴れてやがる。
そんな俺の無言の抗議を感じ取ったのか、先輩は誤魔化すように俺の頭を撫でだし
マジで何なのだろうか。不当な評価を受けている気がする。これは訴訟ものだな。
なんだよぅ、と拗ねるように言えば何でもないと返してくる。
す。
俺を抱えている手をタシタシと叩いて挑発するも、何故か先輩はそれを見て笑い出
﹁おいこら表でろや先輩﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1313
?
﹂
?
させたことはあるけど、今じゃ美女だからなぁ﹂
﹁あっちでは魔法少女やってないの
﹂
?
?
﹁鼻の下伸びてますよー﹂
﹁そ、そうだな。見たことない位の美人さんだ﹂
﹁ふふん、どうだ美人でしょ﹂
もうあれですよ、妖精から精霊にワープ進化した感じ。
恥かしげに振袖を着てほほ笑むその姿は見るものを引き込む美しさと可愛さがある。
と冬木市の成人式に出てもらって撮った記念写真が今見せている物だ。
席することになったイリヤ。あの願いを叶えてから順調に成長した彼女に、折角だから
実年齢で言えば士郎よりも上だが、見た目に合わせて作られた戸籍の所為で遅れて出
だが仕方ない。誰が見てもそうなったもの。
写真を受け取り、それを見る先輩は一瞬見惚れて止まってしまう。
そして先輩の方へと向けて取ってもらう。
ボックスから取り出し口で軽くくわえる。
イ リ ヤ が 戸 籍 上 で 2 0 歳 に な っ た 際 に 撮 っ た 写 真 を 周 り を 確 認 し た 上 で ア イ テ ム
﹁まじで。写真あるよ﹂
﹁マジで
﹁プリヤのこと
1314
﹁⋮⋮気のせいだ﹂
顔を背けて言っても説得力皆無である。
﹁まったく、奥さんに言っちゃいますよー。旦那が浮気してるって﹂
﹁あー、それなんだがな⋮⋮﹂
俺の言葉に、何故か気まずげに返す先輩。
はて、と首を捻ったところで先輩がまた口を開いた。
﹂
え、マジで
さ
先輩の奥さんの名前は梨紗さん。
り
そういえば会話が少ないとか言ってたけど、まじで⋮
?
思わず間抜けにも口を開いてそう返ししてしまう。
﹁は
?
なりに長い付き合いだ。
そんな理沙さんには俺もよくお世話になっており、趣味が合わない部分もあるがそれ
んでもって大学も同じだったため彼女は俺の先輩でもあると言うわけだ。
あとめでたく結婚に至った。
彼女と先輩は中学が一緒だったのでその頃から付き合いがあり、数年前に紆余曲折の
?
﹁実はな、この作戦に参加するにあたって別れたんだ。というか別れようって言われた﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1315
そんな彼女とは、よく先輩についての話をする。主に向こうからの相談だが。
しかしその相談、実を言うとほぼ惚気だったりするのだ。
そんな梨紗さんだからこそ、先輩と別れたというのが理解できない。
今ではむしろ仲が良いが、あの時はどうしようかと悩んだものだ。
アレだぜ、梨紗さんってば大学で先輩との交流ができた俺に敵対心持ってたこともあ
るんだぜ
﹁先輩何かした
﹂
更なんでまた⋮。
結婚する当日まで何故か俺にごめんねってまだ微妙に勘ぐって言ってた位なのに、今
それくらい先輩のことが好きな彼女が分かれるってどういうことだ。
?
いやまぁだからこそ近くに居ても友
?
不安だって言われたっけ。
思い出してみれば以前に一度理沙さんから、先輩から何かを求められたことが無くて
でもそのことが不安になって理沙さんはつい言っちゃったんじゃなかろうか。
人関係を続けられるんだろうけどさ。
いやだってこの先輩草食系も良いとこだよ
これたぶんあれだよ、何もしなかったから不安になったんだ。
首を傾げる先輩を見て、俺は一人納得がいった。
﹁⋮⋮思いつかん。特に何かした覚えが無いんだけど﹂
?
1316
ってなんで女子側の評価を俺がしなきゃならんのか。いい加減にしろこのオタ夫婦。
﹁爆発しろ﹂
﹂
苦笑しながらそんなことを考える。
ほんと気の利く先輩だこと。普段からこんなならもっとモテるだろうに。
いや、先輩は俺が話さないのに合わせて黙ってくれているようだ。
さない。
相も変わらず何やら忙しそうに準備している敵陣を見ながら、俺も先輩も只々何も話
そのまま暫く無言の時が流れる。
先輩はそんな俺を一瞬捕まえようとするも諦めたのか上げかけた手を下ろした。
そしてまた前を見る。目の奥へと焼き付けるように。
て、そのまま先輩の頭の上へと行く。
俺はやってらんねぇと言わんばかりにケッと悪態をついてから先輩の手から抜け出
まったくこれだから先輩は⋮⋮。
﹁何でだよ
!?
これは誓いだ。
﹁そうか⋮﹂
﹁先輩、俺が絶対あんたを地球に連れて帰る﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1317
イリヤの時にしたような、自分の根幹とするべき誓い。
したいと思った、ただそれだけではあるが為さなければ自分を許せなくなる。
こんな先輩をこんなところで死なせて堪るか。絶対に梨紗さんの元へと連れて帰る。
この世界で一番お世話になっていると言っても良い人なんだ。そして今では俺のマ
スターでもある。
絶対なんてものは無いなんて言葉があるが、思わなければ現実にはならない。特に俺
は、思えば思うほどそれが力になる。
だから、何が何でも先輩は生きて地球へ帰ってもらう。
そんな俺の誓いに帰ってきた先輩の言葉は短いものだった。
だけど、その言葉の中にはいろんな感情が含まれているように感じた。
再びの静寂。
しかし今回は割かし早くそれは終わった。
静寂を破ったのは先輩だ。
﹂
?
その声はいつもの様な言い方ではなくどこまでも真剣そのものだった。
何でも無い風にそう言う先輩。
﹁へ
﹁じゃあ俺もお前を連れて帰らないとな﹂
1318
先輩が俺を
何で
?
その言葉に一瞬固まってしまう。
誰が誰を連れ帰るって
?
な、何だそう言うことか。びっくりするじゃないか。
どこかで頭打ったんじゃないかとかそういうあれですよ
いつにも無く真剣な声に思わず焦った。
いやあれですよ
?
﹁だってお前を連れて帰らなかったら梨紗に何を言われるか分かったもんじゃないし﹂
?
くる。
?
﹁やっぱ俺らにシリアスは似合わないな先輩﹂
しまう。
そのまま二人して見つめ合うも、そんな互いが互いに面白くなって同時に吹き出して
﹁良く分かったね先輩。俺もそんな表情出来るって初めて知ったわ﹂
だって初めて知ったぞ﹂
〟 と 言 わ ん ば か り の な 表 情 は。俺 狐 が そ ん な 表 情 豊 か
固まっている俺を不審に思ったのか、先輩は頭の上から俺を下ろして顔の前に持って
その先輩が突然そんなことを言うもんだからつい、ね。
もの。上司に対してもそんなだってんだから逆に尊敬するレベル。
だってこの先輩、基本的に趣味に生きる人だからまず真面目なことって言わないんだ
?
﹁何 だ よ 後 輩 そ の 〝 頭 打 っ た
『stage5:門を越えるとそこは……』
1319
﹁全くその通りだ後輩﹂
そのまま二人で笑い合う。
至急配置に戻れ
しかしそこへ近寄ってくる人影があった。
﹁伊丹二尉、散歩の時間は終わりだ
﹂
﹂
!
真似して俺もシュッ
﹁ちょっと行って来るわ後輩﹂
去っていく上官さんを先輩と共に見送り、再び互いに見合う。
怖いとか思っちゃって。
やべぇ、今の一瞬でこの厳ついおっちゃんが凄く良い人に感じる。ごめんなさい内心
てもほんと一瞬だった。
そんな俺達に一瞬だけ微笑ましい目を向けてくる上官さん。俺の動体視力を以てし
!
先輩は上官の言葉に左手で俺を抱えたまま再び右手で敬礼をして返答する。思わず
そっか。そろそろ戦いが始まってしまうのか。
さておき、そういえば散歩って名目でここに居たんだっけか。ほぼ歩いてないけど。
する先輩。なんと似合わない光景だろう。
どうやらこの怖いおっちゃんは上官だったらしく。おっちゃんを見た瞬間に敬礼を
﹁ハッ
!
!
1320
苦笑いしながらそう言う先輩。
その表情は今から起こることを理解してか、どこか寂しげだ。
この人は誰かを守るために誰かを攻撃できる人だ。割り切れる人だ。でも、何も感じ
ないわけじゃない。
確かにここで先輩一人が手を抜いたところで戦況に大きな影響はないだろう。そう
することで先輩の手も汚れない。
けれど、先輩はそれをしないだろう。
ここにある門、これを死守しなければ再びあの銀座事件のような惨劇が起こる。それ
だけは絶対に食い止めなければならない。
それを防ぐために先輩たちはここに居る。その為に彼らは派遣されてきた。
そんな彼らの後ろに隠れてるってのはどうにも性に合わんよな。
今更ながら、ここも何かの作品の世界なのかもしれない。
そんな中では何を以てハッピーエンドってものに辿り着けるかもわからない。そも
そも終わりなんて無いのかもしれない。
けど、何もしないままってのは俺じゃない。
俺は先輩の手を抜け出し、地面へと降りる。
﹁そいじゃあ先輩。互いに頑張ろうか﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1321
良く分からんが分かった﹂
?
りもやや敵寄りの場所だ。
俺が今居るのは防衛ラインの一歩手前。何やら自衛隊員が立てたと思われる看板よ
するために、ご都合主義の一手を指す。
少しでも、あの心優しい先輩が背負うものを少なくするために、失われる命を少なく
けど、これをしないと被害は大きくなる一方だ。
人手なんてある訳もない。
時間は無い。
と進む。
そう思いながら俺は障害物の間を潜り抜け、認識される前に作業を終わらせては前へ
速く、速く、何よりも速く。全てを置き去りにするほどに速く。
◆◆◆
わる。
そうさ、先輩が理解する前に出来るだけ終わらせとこう。きっとそれだけで何かが変
﹁ん
1322
そこにはもう敵が来ており、俺はそいつらの足元を狐状態のまま縦横無尽に走ってい
る。
&$$$$$$$$$$$っ
﹄
そして、走っては作業、そして見つかる前に離脱、そして作業、そして離脱。その繰
﹄
&%#$%&
り返し。
﹃#
!!?
﹄
!!!?
﹃&#%$%&
$%&&$#$%&
!!
!?
#$%&
!
﹃$%&
﹄
それからも作業をしばらく続けていると、軍勢が一度退却することになったらしく後
合では無いのですよ。
ふぅ、まだまだすることはたくさんあるからね。こんなところで立ち止まっている場
なってその口を開くことが出来なくなった。
俺を見つけたらしい人が何か叫んでいるが、次の瞬間には俺が設置したものの餌食と
引き続き、俺は作業をしながら軍勢の中を駆け抜ける。
でもそう易々とは捕まってあげられません。
あ、どうやら見つかったっぽい。
!!!!
うん、阿鼻叫喚ですね。何を言ってるか分からないけど。
﹃#$%
『stage5:門を越えるとそこは……』
1323
退し始めた。
何度かこれをやっているが、何とか思っていた状況に持ち込めたようだ。
これで一段落かな。
﹂
そうだと良いなと思いつつ、俺は自衛隊が陣を張っている所にそそくさと戻っていく
のであった。
◆◆◆
﹁後輩、お前何をしたんだ
戦端はついに開かれ、自衛隊側へと進軍してきた敵軍を撃退し、ついには撤退に追い
は既に1週間も前のことだ。
後輩と共に門のある場所、アルヌスの丘と現地で呼ばれている所から敵を見ていたの
先程からあることを何度も聞いているのだがこの調子なのだ。
正面に持ち上げるも視線を反らす後輩に、はぁとまた溜息をもらす。
﹁何のことですかね。とんと見当も付きませんね﹂
?
1324
込むところまで来た。
しかし、その間の敵軍の動きがどうにもおかしかったのだ。
観測班からの報告では確認できただけでも10万以上の軍勢だった。
だが実際に突撃してきたのはその半分にも及ばない。
なら残りは何処へ
?
﹂
その答えを知っているのが恐らく、この後輩だ。
おら
!
!!
その他にも似たような話を聞き、敵軍でなければ自衛隊でもないということでこの後
そこに居た人間が黒い何かに包まれた後倒れていったとか何とか。
監視を行っていた連中によれば、突然敵軍のど真ん中で爆発のようなものが起こると
しかし中々口を割らない後輩。
そして俺にもやっと回ってきた休憩時間を使って後輩を訊問しているのだ。
る。同時に敵の動きがおかしかった原因を調べている最中だ。
現在、敵側の軍は既に撤退しているため警戒体制ではあるが交代で休憩を取ってい
る。
動物好きには決して見せられないような顔の狐、もとい後輩の様子に慌てて手を止め
﹁や、やべて、ちがうの、はく、う、うえっ﹂
﹁吐け
『stage5:門を越えるとそこは……』
1325
輩しかそんなことできそうな奴は居ないわけで、このような状況となっている訳だ。
んでいき、最後にはいつもの見慣れた後輩の姿になる。
いや、微妙に違った。
コスプレちゃうから
!
﹁何だそのケモ耳、あと服﹂
﹁あ、いや、これが本来の格好なんだよ
!
いつもの大きさに戻ったと思いきや、大きな帽子を被っていたり、変わった構造の服
﹁いやそこまで言ってないし﹂
﹂
そして確認が終わったのか、後輩は影から溢れた黒いものに包まれた後、大きく膨ら
それを気にしてか、耳をピクピクとさせた後そう呟いた。
床も薄い。
今俺達が居るのは仮隊舎における一室だが、所詮は急拵えのプレハブだ。壁も薄く、
﹁一応、周りは大丈夫っぽいね﹂
た。
後輩はキョロキョロと周りを確認した後、俺の手の中から抜け出して地面に降り立っ
かれこれ1時間ほどの問答にやっと終止符が打たれた。
出ちゃうよ﹂
﹁あー、もうわかったよ。言います。言いますってば。これ以上されたら本当に変な物
1326
を着ていたり、仕舞いにはケモ耳が生えていた後輩。
そんな姿に思わず突っ込んでしまったのだが、何故か顔を真っ赤にしながら声を荒げ
られた。あ、若干涙目に⋮。
まぁ違和感も無いし構わないんだが、そんなに気になるなら着なければいいのに。そ
うツッコむのは藪蛇だろうか
﹁あ、そう⋮﹂
AUOの⋮⋮。 つい不満を顔に出してしまっていたようなので、慌てて戻す。
﹁何が不満だったのか分からんけど、俺が使ったのはこれなんだよ﹂
ちょっとワクワクしちゃったじゃないか。俺の年甲斐もない高揚感を返してほしい。
?
た。
すると何も無い筈の空間から筒のようなものが零れ出るように後輩の手の上に現れ
へ掲げる。
それを思い出したことに後輩も気づいたのか、何とも複雑そうな顔をしながら手を横
とはいえこんな話をするためにここに居る訳じゃない。
?
いや待てって、それってあれでしょ
﹂
?
﹁しがないアイテムボックスです﹂
﹁それって王の財宝⋮⋮
『stage5:門を越えるとそこは……』
1327
よくよく考えればアイテムボックスも十分すごいしな。異世界転移物で言えばチー
トの定番だし。 そう思い直し後輩が手に出したものを注視する。
一言で言えば、筒だ。
しかしよく見れば各所に切れ込みや機械的な突起が見受けられる。
地雷
これが
?
んじゃうかもしれないから﹂
!?
﹁いやぁ、実際に見てもらった方が手っ取り早そうだったし﹂
恐らくオリンピック選手でも驚くほどの瞬発力だったと思う。
既に眼の前にはあの筒は無い。だが後退りせずにはいられなかった。
﹁なんでそんな物騒なもん出した
﹂
﹁これって設置後数秒で勝手に爆発するし、今の俺が使ったらこの建物ごと先輩吹っ飛
﹁もう直すのか﹂
しかしそれより早く後輩は地雷と呼んだそれを虚空へと消した。
疑問に思いながら見る位置を変えようと回り込む。
?
﹁これはトラップだよ。簡単に言えば地雷﹂
﹁後輩、何なんだそれ﹂
1328
壁際まで逃げた俺に苦笑しながらそう言う後輩。
彼女は手の中には何もないことをアピールするかのように手をブラブラとこちらへ
見せつける。
そこまでされて逃げたままというのも何か負けた気分になるので、俺は素直に後輩へ
と近寄った。
﹁んで、話を戻すとさっきのはトラップの中でもウィルストラップって代物なんだよ。
効果は文字通りの感染状態にすること﹂
﹂
?
いで、腹痛やらで倒れた人が多かったんですよね。衛生的にアレだったんですかねぇ
繋がるかなって。まぁそれどころか予想以上に免疫力の低下ってのが効果あったみた
﹁これをですね、タタタッと子狐状態で敵陣にばら撒いてきたんですよ。戦意の低下に
しかしそんな俺の不安を余所に後輩は続ける。
安心してくれと言わんばかりに笑って言うがそれは安心できることなのだろうか。
かその程度ですから。あとはトラップ発動時の軽いダメージ位のものだから﹂
﹁あはは、そこまで物騒な代物じゃないですって。持久力の低下とか免疫力が下がると
再びそこから離れたくなったが後輩に手を掴まれてそれもできなくなった。
ウィルス、感染と来て思いついたのがそれだった。
﹁バ、バイオハザード⋮⋮
『stage5:門を越えるとそこは……』
1329
⋮⋮﹂
何恐ろしいことさらっと言っちゃってくれてんのこの子は。
つまりあれか、日和見感染を起こしやすくするトラップだってのか。なんだその恐ろ
しい地雷。
あれ、でもちょっと待てよ。さっきはこのプレハブごと吹っ飛ぶみたいなこと言って
なかったっけ
?
﹂
?
﹁ほんと先輩は優しいっすねぇ。どうせ弱い状態で敵陣に突っ込みやがってとか思って
それに気づいてしまい、思わず顔をしかめてしまう。
そんなことをすれば下手すれば死んでいたかもしれない。
たというわけだ。
しかし、それが本当ならこいつはその弱いステータスのままで敵陣の真っただ中に居
ステータスに左右される武器か。まるでゲームみたいな話だ。
き出されて、子狐状態ならダメージも低いって寸法っす﹂
ばステータスによってダメージが変わるんすよ。今の俺が使うとやばいダメージが叩
﹁おおぅ、すごいとこに気付きましたね。実はこのトラップ、使用者の、まぁ簡単に言え
てたよな。何か違うのか
﹁さっきはプレハブが吹っ飛ぶみたいなこと言ってたけど、今は軽いダメージって言っ
1330
るんでしょ
う。
﹂
というか俺ってそんなに分かりやすかったか
なんか腹立ってきた。
何でチョップするんすか
﹂
!
﹁いやまぁつい言っちゃっただけですけど⋮⋮、ってそうじゃねぇ
﹂
無意識に顔を触りに行くが、そんな様子に更に嬉しそうにする後輩。
?
ニヘラと零すように笑顔になる後輩。内心を見透かされて余計に顔をしかめてしま
?
﹁帽子あるんだから大丈夫だ﹂
!?
﹂
?
そう言いながら後輩が出したのは一本の小刀だ。
﹁あれの効果は端的に言えばステルスなんです。そして今回用いたのがコレ﹂
頭痛が痛くなる光景だったから忘れていた。
﹁あ、そういえばそうだな﹂
しょ
﹁それじゃあネタばらしですけど、門を潜る前に俺を見てもらった時に畳背負ってたで
進まないで我慢する。
芸人か、とノリツッコミする後輩にツッコミ返ししたくなるがこれ以上はさらに話が
!?
﹁痛っ
『stage5:門を越えるとそこは……』
1331
いや、正確に言うならばそれは、クナイ。
﹂
﹁やっぱりお前アサシンじゃねーか﹂
﹁ち、違うし
てると高い回避性能と命中力を上げれるの
﹂
﹁これは確かにクナイだけど俺はこれに付いてる効果を利用したんだよ
これを持っ
目の前の後輩︵自称バーサーカー︶を訝しむように見ていると、慌てて説明を始めた。
れないけど⋮いややっぱアサシンだろそれ。
NINJAソウルを持つスレイヤーさんくらい行くとバーサーカーでも良いかもし
クナイを使うって言えば忍者だと思うんだが違うのだろうか。
!
こいつも悪気があってした訳じゃないことは分かっているのだ。ただ、一言欲しかっ
そんな後輩の頭を帽子越しではあるがポンポンと撫でる。
どんどん尻すぼみになっていく後輩。流石に自分でも悪いと思っていたのだろう。
⋮⋮﹂
必要があったからこれを使ったんだよ⋮。これなら狐状態でもくわえるだけで良いし
意なんだけど、今回はただばら撒くだけじゃなくて効率的にトラップに掛かってもらう
﹁ビーストって種族はどうにも命中率が悪いんだ。だから遠距離攻撃より近接攻撃が得
心配を掛けさせた意趣返しのつもりだったんだが、後輩は気づかずに続ける。
!
!
1332
た。
家族の様なこいつがただ一人で戦場に行っていたという事実に何とも言えない気持
ちになってしまったのだ。
﹁悪い、助かった﹂
そっぽを向かれてしまった。だがその頬が幽かに赤くなっているのが見える。
﹁⋮⋮俺が勝手にしただけだ﹂
その姿に思わず笑みを浮かべてしまう。
ことは気持ちの良い物ではないのだ。
﹂
﹁次に何かする時は、必ず俺に言えよ
﹁それは⋮、命令かな
?
俺の言葉に、帽子の陰から見上げる後輩。
?
﹂
戦死者と言っても相手側ではあるが、やはり人の命を奪うために引き金を引くという
後輩の御陰で確かに被害は拡大したが、予想されていた戦死者の数は減っている。
流石にこれ以上は俺が言うべきではないか。
ついに帽子を深く被って顔を隠してしまった後輩。
﹁⋮⋮馬鹿言うなし﹂
﹁とりあえず、サーヴァントとかまだ良く分からないけどさ、気を使い過ぎだバカ後輩﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1333
恐る恐るといった調子に聞き返す彼女はどうにもバーサーカーというクラスが当て
嵌まる気がしない。
しかしよく考えればその反応も仕方ないのかもしれない。
後輩はサーヴァントだった。そして彼女と俺を結ぶ縁には令呪というものが増えた。
その令呪というものが俺が知っている知識と同じものであるならば、俺は彼女に対す
る強制権を持つことになる。
マスターがサーヴァントに使えるたった3度の絶対命令権。それは自害すらも命令
することが出来る。
絶対と言いながら幾つかの例外が在るには在るが、それでも令呪が持つ力は規格外に
過ぎる。
それを、俺は目の前の後輩に行使することが出来る立場にある。
⋮⋮バカバカしい。
俺がそんなものを行使すると思われているのならば、また一つこいつを怒る理由が増
えてしまう。
そんなものを行使する気は全くないし、そんなもの程度で俺たちの関係が変わる訳が
ない。
﹁これは、テンプレで言えば〝お願い〟ってやつだ﹂
1334
俺の言葉に一瞬ポカンと呆ける後輩。
しかしすぐさま再起動し、堪え切れないといった風に笑みを零した。
そして後輩は、けど、と続けた。
﹁く、くく、確かに、定番だ﹂
そう言いながら、後輩は満面の笑みを浮かべた。
﹁願いだってなら、俺が破る訳には行かないな﹂
『stage5:門を越えるとそこは……』
1335
﹂
あ、そこは駄目だってば
﹃stage6:ドラゴンさんがログインしました﹄
﹂
めっちゃモフってくる
﹄
!!!
﹄などと可愛らしい言葉が脳内へと響くが、銀色という変
!
﹁伊丹二尉この子って何を食べるんですか
﹃先輩この人から助けて
悪魔
﹁んんっと、何でも食べるんじゃないかなぁ⋮
俺の言葉に、
﹃鬼
!
﹁ですね、確かコダ村だったっす﹂
﹁捕まえた捕虜からの情報では、そろそろ村が見えるはずだったよな﹂
田三等陸曹へと話を振ることにした。
そう心の中で思いながら時折聞こえる艶やかな声を無視しつつ、横で運転している倉
だから許せ後輩。
る。
いかず、部下の一人である黒川二等陸曹に撫でられるままになって貰っている必要があ
わった色をしている以外は普通の子狐ということになっている後輩に反応する訳にも
!
?
!
?
1336
﹁ま っ た く、あ の 日 ゆ り か も め に 乗 り 損 ね た 結 果、異 世 界 の 村 に 来 る こ と に な る と は
なぁ﹂
いっすよ
﹂
﹁良いじゃないですか、ケモ耳っ娘とか妖艶な魔女とかロリBBAとか居るかもしれな
?
ちゃんが人型に変身とかしてくれたらなぁ⋮
与えられた隊の名は〝第三偵察隊〟。総勢12名の、俺が言えることではないが中々
針を決定するとのこと。そしてその為に俺に下された命令が1部隊を率いよ、だ。
曰く、特地における生態系や生活環境、政治形態、宗教に至るまでを調べて今後の方
事の発端は、上司に呼び出され与えられた任務の内容だ。
つつある自問を脳内で繰り広げていく。
さて、いつものごとく何故こんな状況になったのだろうか。既にテンプレートと化し
みがましい唸り声も知らぬフリだ。
ける訳にもいかず、知らぬフリをしながらそうだなと軽く答える。先程から聞こえる恨
そう言いたいがただでさえ後部座席でもみくちゃにされている後輩に追い打ちをか
!
?
残念、ケモミミ娘が狐に変身してるんだ。
﹂
﹁あはは、あの子狐ちゃんですか 確かに懐かれてますもんね伊丹二尉。はぁ、あの狐
﹁俺は魔法少女で良いよ。ケモ耳は間に合ってる﹂
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1337
H
M
V
に濃いメンツが揃った部隊だ。
その12人で数台の高機動車に分かれて乗り、現在は事前情報で得ていたコダ村とや
らに情報収集を兼ねて向っている所だ。
そういえば、どうして黒川二等陸曹はこちらの車に乗ってきたのだろうか。
本来であれば栗林二等陸曹と同乗するはずだったのだが、コダ村までという限定でこ
ちらに乗り込んできた。
乗って以降ずっと後輩を抱きしめているのだが、ひょっとして可愛い物好きとか
と顔が蕩けて危ないことになり始めている。
大和撫子然とした容姿も相まって似合ってはいるが、そろそろ後輩を放してあげない
?
悠然と聳え立つ幾つもの樹。
現代日本では数少なくなってきている自然の強かさ。それを見せつけるかのように
先程まで走っていた荒野に比べると随分と情緒あふれる光景だ。
気付けば、先程までと違い周囲の木々が増えてきた。
そんな後輩の姿をバックミラー越しに見るのを止め、今度は前を見る。
少なくともその容姿では。
ぐすん、と涙ながらに念話が繋がるが、そもそもお前はお婿さんには行けないだろう。
﹃先輩、俺もうお婿さんに行けない⋮⋮﹄
1338
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1339
その合間を抜けるようにしてある馬車道をHMVが颯爽と走っていく。
とかいう集落で先輩達が情報収集した後、次の集落へと行くための道を
そしてしばらくの後、コダ村らしき集落へと辿り着いた。
◆◆◆
コダ村
だろう。
もしも意識して変身し続けるタイプのものだったら確実に俺は元の姿に戻っていた
テンプレな変身が解けるなんてのだけは無いのがほんと救いだわ。
なったよ。
いやーでも、ほんと危なかった。黒川さんのモフり技術が凄くてつい声に出そうに
川とかいう人にかなりモフられたが何とか生還したのだ。
そんなHMVの中で俺は今、先輩の頭︵鉄帽とかいうメット︶の上で寛いでいる。黒
ら見る景色は何とも長閑なものだ。
走っている俺達。走っていると言っても実際に走っているのはHMVだけど、その中か
?
何故かというと、泥を使った変身は正確には存在置換とでも言えばいい代物だから、
今の俺は〝狐であったならば〟の俺なのだ。
だから、気を抜こうが寝ようが一回死のうが今の狐の姿に戻る。
とはいえもう一度あのてんg⋮地獄のような目に遭うのは勘弁だけどな。人間とし
﹂
ての大事な何かが崩れ去ってしまう。
﹁どうした
え、軽く首を振っておく。
﹂
﹁うわ、隊長その子ってこっちの言葉解ってるんすか
﹁前見ろ前
﹁痛っ﹂
可愛い
﹂
!!!
その揺れに、俺は先輩の鉄帽から転げ落ちる。
それによって大きい石でも踏んだのかゴトンと車体が縦に揺れた。
俺が首を振るのを見た運転手の人が先輩に小突かれて若干ハンドル操作を誤る。
!!
!?
とりあえず、心配してくれた先輩にそのまま口で話すわけにもいかないので念話で答
のだが、今は先輩の上に居るから頭ごと振わせてしまったようだ。
大事な何かを失って撫でられるままになっている自分を想像し身震いしてしまった
﹃何でも無い⋮⋮﹄
?
1340
﹁おっと﹂
﹃サンクス先輩﹄
転げるままに落ちると先輩が優しく受け止めてくれた。
それに礼を言うと、再び頭に乗せてくれる。
じょぶ。
かわいいって言われるのは癪だが、褒めてくれたこと自体は嬉しいし、今のもぐっ
それにしても良い人だな運転手さん。
ねるようにして外の景色へと顔を背けてしまった。
しかしどうやら先程の言葉はそもそも俺に言ったものだったらしく、先輩は途端に拗
﹁⋮⋮あっそ﹂
﹁なのでその子に言ったっす﹂
﹁言うならこいつに言うんだな﹂
そんな彼の様子に笑みを浮かべた先輩は、俺を指さす。
怒られてすぐの為か前方から目線を反らさず言う辺り律儀だ。
の人がそう謝った。
先輩の頭の上で再びのんびりしようと身体を先輩の鉄帽に雪崩掛からせると、運転手
﹁⋮⋮すんませんっす﹂
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1341
﹂
なので俺は先輩の頭の上から飛び降り、そのままタタッと運転手の人の頭上へと飛び
乗る。
﹁うわっと
﹁マジっすか
ありがとな狐ちゃん
﹂
!
﹁結構生意気だぞ
﹂
しかしそれを先輩が見て一言。
いてしまった。
なので、よせやいと言わんばかりに俺はペシペシと運転手さんのメットを連続して叩
に褒められると照れてしまうものだ。
いや俺が目指しているのはカッコいい〝漢〟なのだが、それでもこうまでストレート
その言葉につい照れてしまう。
﹁隊長、この子めちゃくちゃ可愛いっす﹂
そしてしばらくした後、再び口を開いた。 しかし運転手さんは突然黙ってしまった。
気にすんなという意味を込めて俺は運転手さんのメットをペシペシと軽くたたく。
?
﹁許してやるってさ﹂
飛び乗った俺をチラリと横目で先輩が見る。
!
1342
?
俺は先輩に躍り掛かった。
・
・
・
流れとなったのだ。先輩曰く国民に愛される自衛隊がそれはマズいとか。
ることで相手に警戒されてはいけないと一応隊長である先輩が賛成したことで野営の
そんな中で何が居るかわからない森に突入するのは危険であるし、夜に集落へと訪れ
森の中に集落があるそうだが、周囲は既に日が沈み始め暗くなり出している。
ちゃんの提案で森に入る前に一度野営をすることになった。
コダ村より川沿いに先へと進み森林地帯手前まで来たのだが、先輩曰く鬼軍曹のおっ
﹃燃えー⋮⋮﹄
﹁燃えてるっすね﹂
﹁燃えてるな﹂
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1343
しかし、いざ森への入り口が見えたという所で異常に気付いた。
森が燃えているのだ。それも結構な広範囲で。
﹂
そこで第三偵察隊は森近くの高台までHMVを走らせ、そこから森の様子をうかがう
ことにした。
﹁まるで怪獣映画ですね﹂
⋮⋮あれか、聞こえた物の正体は。
見える。その眼を行使し、その違和感の正体を知るために目を凝らす。
鷹の目なんてスキルは持っていないが、それでもこの獣の身体だと生前よりも遠くが
俺は閉じていた眼を開き、眩いほどの火の向こう側を見るように注視する。
何か聞こえる。それも地響きのような、それでいて妙に生物めいた何か⋮⋮。
だがそこで、違和感に気付く。
うに、目を瞑りながら先輩のメットに只管しがみつく。
出来るだけ臭いを吸わないように、そして目の前で起こる火の脅威から目を反らすよ
ら気分が悪くなる臭いが辺りを充満している。
俺も、獣の姿をしているからか先程から身体が何というかぞわぞわする。それに何や
先輩がどうしたものかと暗くなった辺りを明るく照らすほどの火災を前に零す。
﹁大自然の脅威ってやつか
?
1344
俺が見つけたものを、隣に居た鬼軍曹さんも見つけたようだ。
それなりに距離があるが、手に持つ双眼鏡で捉えたのだろう。
﹃先輩、レウスが居る﹄
﹁まじか⋮⋮﹂
俺か、軍曹さんか、どちらに反応したのかは分からないが、受け取った双眼鏡を慌て
て覗き見る先輩。
そして見るや否や顔を引き攣らせる。
かくいう俺も内心驚きに満ちていた。
軍曹さんが言った怪獣、そして俺が聞いたものの正体、それは赤いドラゴンだった。
それも、かなり大きい。人程度なら軽く一飲みに出来そうだ。
そんなドラゴンの鳴声、いや唸り声だろうか。それがこの距離でも俺の耳が拾ったら
しい。
﹂
俺の耳が良くなっているからか、あのドラゴンの発声器官の賜物か、何とも耳に来る。
?
そんな彼女の方へと振り向いた先輩に合わせ、俺もその栗林さんの方へと目線が行く
二等陸曹と先輩に教えてもらったっけ。
そう言いながら駆け寄るのは栗林ちゃんと先輩に呼ばれている女性だ。確か階級は
﹁隊長、これからどうしますか
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1345
わけだが、彼女の頭の位置は俺の位置からしても割りと下なので少し見辛い。
もう一人の女性隊員である黒川さんが先輩より背が高い為余計に小さく見える。
しかしこれでいて結構な武闘派なのだとか。
時折先輩を不審な目で見ているため、先輩が大丈夫か心配になる。
そんな風に思い出していると、先輩は改めて森の方へと向き直り双眼鏡を覗きなお
す。
﹂
﹁栗林ちゃん良い所に来た、ちょっと一人じゃ怖いからさ、一緒に着いてきてくれるー
1346
になったよ先輩。
それが面白くてついククと鳴くように声を漏らしてしまう。おかげで少し気分が楽
振られてやんの。
追い打ちと言わんばかりに当の栗林さんもきっぱりと断った。
﹁あぁそぅ﹂
﹁嫌です﹂
痛いと小さく零す先輩、いい気味だ。
なったのでメットをパシンと叩く。
妙なシナを作りながらそう言う先輩に、ちょっと先程とは違った意味で気持ち悪く
?
しかしそれに気づいた先輩に鼻先をピンと弾かれてしまう。
痛い⋮⋮。
く。
﹁飛び去っていく⋮
﹂
﹂
それに合わせて、隊員の皆は反射的に持っている銃を構えつつドラゴンの方へと向
ドラゴンが咆哮を上げる。俺でなくても聞こえるほどだ。
﹁GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
!!!!!!!!!!
く。
!!
﹂
誰に言ってるのだかそんな風に思いながら先輩のメットをたたく。
いやだって紅玉が中々集まらなくてですね⋮⋮。
がり始めた。
だからか、今度はいかにもファンタジーらしい生物を見かけたことでテンションが上
さにも少し慣れてきたため、余裕が出てきたのだろう。
飛び去るドラゴンを見てついそう念話越しに言ってしまう。臭いから来る気分の悪
﹃せ、先輩ペイントボール
﹄
しかし、どうやらドラゴンは誰かが零したその言葉通りにどこかへと飛び去ってい
?
﹁あー、もうわかったから大人しくしてろ
!
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1347
しかし、ちょっとテンションが上がった所為で先輩のメットを叩きすぎたからか、先
輩は俺をメットから摘み上げ、そのまま黒川さんの方へと向き、投げ││││ようとし
たところで先輩は何かに気付いたのか燃える森の方へと向き直る。
危なかった。もう少しでヘブンさせられるところだった。
未遂ではあるが、先輩に恨みがましい目を送る。しかし、先輩は厳しい目を森へと向
け続けている。
その目は俺があまり見たくない、先輩が何かを覚悟する時の目だ。
﹂
?
真剣に返す。
てい
?
ああどうして気付かなかったんだ。この吐き気を催す臭い。これはタンパク質が燃
そこまで言われてはじめて俺は気づいた。
﹁そうじゃなくてね、さっきのコダ村では森の中に集落があるって話だったろ
﹂
先輩の言葉に先程と同じ体で皮肉るように栗林さんが言うが、先輩の方は先と違い、
か
﹁ドラゴンの習性に興味が御有りでしたら、隊長ご自身で追いかけてみてはいかがです
覗いた。
その言葉は誰に向けた物か、そう言った先輩は俺を静かに地に降ろし、再び双眼鏡を
﹁あのドラゴンってさ、何も無いただの森を燃やすような習性とかってあるのかな⋮⋮﹂
1348
えた時の臭い、前の世界で経験した、ヒトが燃えた時の臭いに近いものじゃないか。
﹂
俺は慌てて駆けだす。
◆◆◆
それだけを願い、俺は燃える森へと駆けだした。
いや、居て欲しい。
どこかにまだ生存者が居るかもしれない。
先輩が背後で叫ぶ声がするが今はそれどころじゃない。
﹁おい
!
火力の所為か木々は既に燃え尽き、辺りの火は引き始めている。
俺達は既に森の中にあると言われていた集落に到着していた。
しかし言葉を交わすが警戒を続けたまま俺達は前へと進み、探索を続ける。
やけに後輩︵子狐︶を可愛がっていたし、結構な動物好きのようだ。
俺が零した独り言に、返してくれたのは黒川ちゃんだ。
﹁大丈夫でしょうか、心配です﹂
﹁あの馬鹿、どこ行きやがった⋮⋮﹂
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1349
そして燃えた後に残るのは│││、
﹂
?
﹁この辺りには居ませんね⋮⋮﹂
﹁生存者は
発見されるばかりだ。
無事な建物も一つとして無く、逃げようとしてそのまま燃えたような遺骸がいくつも
しかし見た限り人の気配は無かった。
そうして、俺達は2班に分かれ村を捜索していく。
その為にもまずは現状の把握を最優先だ。
俺達に出来ることはまず生存者を探すことだ。その後に、丁重に葬ってやろう。
何度見ようとも、失われた命に慣れることは無い。
命を奪うために引き金を引いたこともある。だがそれが何だ。
それを見て倉田が引きつった顔でその正体に関して言おうとするが遮る。
か。
廃墟のごとく燃え尽きた建物の残骸、その瓦礫から生えるように出ている炭化した何
側を残りは俺と西側だ﹂
﹁言うなよ。絶対に言うなよ。とりあえず現状把握だ。仁科一曹は勝本、戸津と共に東
﹁隊長、あれって⋮⋮﹂
1350
近くを探索していた富田二等陸曹が戻ってきたので聞いてみるも、頸を横に振り柄
返ってきたのはそんな言葉だ。
﹄
﹂
やはり全滅、だろうか⋮⋮。
﹃先輩
﹂
!!
﹁どうしました
!?
﹄
!
な。
ここで変に一人焦って走り出してはここまで後輩を匿ってきた意味がなくなるから
を誘導することにした。
とりあえず、俺は周囲の探索も終えた所だったので不審にならない程度に他メンバー
続けてそう話す後輩はどこか焦っている様子なのに気づく。
﹃先輩、村の真ん中辺りの井戸に来てくれ
そう心に決めながらも無事なようで安堵している自分に苦笑する。
あの馬鹿後輩。戻ったら文句を言ってやる。
それを見て周囲の探索から丁度戻ってきていた栗林ちゃんに不審な目を向けられる。
突然頭に響いた声に思わず肩が跳ねた。
﹁ああ、栗林ちゃんか。いやなんでも無いよ﹂
?
﹁っ
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
1351
﹁ここらには何もないようだし、一先ず村の中央で合流しようか﹂
そう声を掛け、そのまま歩き出す。
全員が付いてきているのを横目で確認し、後輩の言う村の中央らしき場所へと向か
う。
しばらく歩くと、村の中央らしき場所に出た。
そして目的の井戸もある。
﹂
?
そして覗き見た俺は、何かと目が合う。
﹁ここか
近づいた俺は、中を覗き見る。
る。
上げた石で造られており、周りに燃えるものも無かったからかポツンと平場の中央にあ
集落の全員で使っていたのか、遠目で見てもそれなりの大きさだ。そしてそれは積み
俺はそんな彼らを見送り、一人井戸へと向かう。
敬礼とと共に了承を告げた皆がそれぞれ周囲の探索へと向かう。
﹁﹁﹁了解﹂﹂﹂
﹁この辺りも調べようか﹂
1352
1353
『stage6:ドラゴンさんがログインしました』
ネギを咥えた子狐︵後輩︶とエルフだった。
﹃stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるよ
あの井戸を覗き込んだ時、そこに居たのは後輩とその後輩を頭に乗せているエルフの
視線を遠くにそびえる山々へと向けながら、どうしてこうなったと反芻する。
その様子を見てまた一つ溜息。
腹立たしかったりする。
ているエルフの少女。腕と胸で挟まれている狐の顔が妙にほっこりしているので若干
後方で繰り広げられているのは、後輩︵子狐︶を抱え込むようにして座席の上で丸まっ
めながら面倒なことになったものだと溜息をつく。
あの焼け落ちた集落からコダ村へと戻っている訳だが、バックミラー越しに後方を眺
隣で運転する倉田に目も向けずそう口にした俺。
﹁うるせぇ﹂
﹁伊丹隊長、狐ちゃん盗られちゃいましたね﹂
﹁⋮⋮どうしたもんかねぇ﹂
うです﹄
1354
『stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです』
1355
少女だった。
当然そのままにしておくわけにはいかないので二人を持って来ていたロープを垂ら
して救出したは良いが、そこで問題が起こってしまった。
というのも、あの集落はほぼ全てが燃え尽きてしまっており、見つけた生存者と言え
ば井戸の底に居たエルフの少女只一人。そんな彼女が井戸の底から出てきたらどうな
るかなど想像に難くない。
彼女は井戸を出て周囲を見回すなり何かを叫びながら走りだし、念のため追いかける
も敢え無く巻かれてしまった。しかも後輩を抱きかかえたまま。
後輩からの念話で何とかしてみると言われたが、それもまた難しい話だ。
俺は後輩がサーヴァントという超常の存在であることを知っているが、他の隊員から
し て み れ ば た だ の 子 狐 を 手 に 走 り 去 っ て し ま っ た エ ル フ 少 女 と い う 場 面 で し か な い。
それに後輩一人に任せておくのもまた心配だ。因みに何かやらかすのではないかとい
う意味である。
そんなわけで何組かに分かれて周囲を探索するも見つからず、最終的には再び後輩か
ら来た念話頼りにエルフ少女の元へと辿り着いた。
しかし見つけたはいいがそこには不思議な光景が出来てしまっていた。
地面に立てたネギを前に不思議な踊りをする子狐、そしてそれを極微笑ではあるが先
程 ま で と は 違 い 多 少 の 明 る さ を 取 り 戻 し た の で あ ろ う エ ル フ 少 女。や は り 何 か し や
がったようである。
そしてそれ以来だ。あのエルフ少女が後輩をその手元より放さなくなったのは。
後輩曰くアニマルテラピーとのことだが、お前はどこまで行ってもあにまる︵笑︶だ。
とはいえ二十日以降の差異よりは落ち着いているのも確かな為、無理にエルフ少女か
ら情報を得るのも難しいと考えて一先ず部隊はコダ村へと戻ることになった。
そして今に至る訳だ。
◆◆◆
あまりにも訳の分からない状況に思わず、俺は頭を抑えた。
なぁにこれぇ。
狽えるエルフ少女。
いる後輩。そしてそんな後輩を掴まえようとエルフ少女に詰め寄る形になる黒川。狼
そこには何処から取り出したのか、葱を口に咥えたままエルフ少女の上で飛び跳ねて
改めてバックミラー越しに後部を見る。
﹁ほんとどうしたものか⋮⋮﹂
1356
『stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです』
1357
どうしよう、エルフさんが俺を離してくれない⋮⋮。
現在の俺達はエルフの集落からコダ村へと既に戻ってきていた。
そして先輩が村長さんに赤い竜の事を話すと、村の人達は総出で村を捨てる準備を始
めた。言葉が俺には理解できないので先輩経由で聞くと、なんでも人の味を覚えた竜と
いうのは遠からずまた人里を襲うのだそうだ。しかも先輩が告げた竜の特徴から、あの
時見た竜はただの竜ではなく古龍という種らしく、撃退など考えられるものではないの
だとか。
なので今、俺の目の前では村の人達は家の中から必要なものを場所に詰め込み逃げ出
す準備をしている途中だ。
そんな中で、俺はギュゥッとエルフさんに抱えられたままだ。
理由はまぁなんとなく察しはついている。
あの時、エルフ少女が焼け落ちた自らの村を見た後に目の前にある現実を否定しよう
と何かを探し求めるように走り出した。
パニック状態に陥った彼女は、恐らく人の名前を叫びながら未だ火の燻る瓦礫を素手
で書き分けたり自らが傷つくことを厭わず周囲を走り回った。
恐らくトラウマ、というやつなのだろう。自分の住み慣れた村が焼け落ちてしまった
1358
のだからそれも無理はない。
だから彼女は目の前に広がる現実を否定しようと走り続ける。
しかし俺は生前に友人から聞いたことがあるのだ。現実を否定して自分で自分に嘘
をつくとやがて心が壊れると。
その時の友人は実際には色々とどういうことか教えてくれたのだが俺が理解できな
かった為、簡単に言えばとそう教えてくれた。
ただ、同時にこうも教えてくれた。
トラウマやPTSDと呼ばれる心的外傷というものは専門家の元で治療して行かな
いと悪化する可能性があるのだとか。
それを思い出し、俺は歯噛みした。
どうにかしたいと思っても、俺にはそれをする術が分からない。認知療法だとかなん
とかその友人が言っていたが、やり方も分からなければ専門家でもない俺にはどうしよ
うもない。けどあきらめたくない。
だから、必死に友人との会話を記憶の海から掘り返した。
そうして思い出したことが一つ。それがリラックスしてもらうこと。
リラックス状態になって貰うことでそのトラウマの原因になることについて自然と
考えを持っていかないようにしたり、精神的な疲労感を和らげることで心に余裕を持た
『stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです』
1359
せることが出来るみたいなことを言っていた。
ならば、と。
俺は現状における、俺ができる最大限のリラックス効果を発揮する何かを考えた。
そして思いついた。
それがアニマルテラピー、つまり俺自身のモフモフである。
何故そこでモフモフと言う人も居るだろう。
だが、モフモフを見くびってはいけない。
古来より、モフモフとは人の心を掴んで離さない魔性の存在だった。例えば古代エジ
プトの時代から王族は猫を飼っていたという。ほかにも諸説あるが、約1万年前には既
にイエネコは存在していたのではないかとも言われている。犬も同様に、始まりは狩猟
犬としての側面が強かったようだがペットとして進化し、1万年前位には飼われていた
のではないかと言われているそうだ。
そんな昔からモフモフ達によってもたらされた癒やし力というものは決してバカに
出来るものではないと思うのだ。
モ フ モ フ
飽食の時代と言われる現代日本ならいざ知らず、明日の食事も気にしなければならな
い時代から自分たち以外の食事を用意してまで彼らが求めた癒やし。それが今この身
にある幸い。使わずにいられようか。
1360
故にこそ、俺はこの身を以てエルフ少女を癒す。
そう思い俺はエルフ少女を落ち着かせるためにアクションを起こした。
勿論容易いものではなかったさ。
まずは気を引くために目の前で狐のフリをして血反吐を吐く思いで可愛く鳴いたり、
肉球でペシペシとその柔らかさを知ってもらおうと頑張ったり。
それでもパニックを過ぎ、絶望した彼女の心を動かすには至らなかった。
だがその程度で諦めてなるものかと俺は次の手に出た。
レ
ス
タ
次に考え付いたのは物理的に彼女に元気なって貰う方法だ。
ズバリ回復魔法である。
一応井戸の底でも掛けていたのだが、ひょっとすればもっと掛けてみると元気になる
かもしれない。人というのは体力が落ちている時は精神的にも追い込まれるものだし。
そ う 思 い い つ も 杖 代 わ り に 使 っ て る 例 の ネ ギ ウ ォ ン ド を 取 り 出 し 咥 え て レ ス タ を
使った。これで少しでも元気が出てくれれば、そう一縷の望みに掛けてやってみた。
一応周りに誰も居ないことを確認した状態で使ったのでばれていないとは思う。
そうして俺とエルフさんと二人して緑色の粒子に包まれていると、成功したのかどう
なのか、何とかエルフさんの注意を引くことが出来た。
ただ、ジーッと見るだけで何のリアクションも得られなかった為に断念。
『stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです』
1361
レ
ジェ
ネ
それに子狐モードでネギウォンドを使っていると何故か気分が悪くなってくるのだ。
レスタをしても回復しないし状態回復魔法を使用して何とか戻ったがあれは何だっ
たのだろうか⋮⋮。
さておき、エルフ少女の興味を一応引くことが出来た俺は次の手に出た。
日本には天岩戸という伝説がある。簡単に言えば引きこもった女神さまを誘き出す
為に扉の前で踊ったりすることで興味を引かせ中から出て来させるというもの。
というわけで俺は踊った。
音楽療法というものも世界にはあるらしいし、偶然にも前世界でダンスや歌に関して
はそれなりのものを収めたと自負している。
だから、踊ったのだ。キューキュー鳴きながら。
超踊った。
ひたすら踊った。
途中から変なテンションになって訳の分からない動きもした気がするが、とにかく
踊った。
その結果、少しだけだが笑みを浮かべることに成功した。
そこからは全身のモフモフを使って彼女へとダイレクトアタックだ。
するとどうだろうか。
1362
絶望を顔に表していた表情は次第に氷解し多少ではあるが和らいだ。
成功だ。
それ以来だ。彼女は何があろうと放さないと言わんばかりに俺の事を胸に抱き続け
ているのは。
いや正直嬉しいですけどね。
外側は幼女⋮どころか狐だけど俺の中身は男なわけで、こんな美人さんに抱きしめら
れてるなんて男としては喜ばないわけがない。特に未使用のまま無くしてしまった自
分としては。
しかし少しやり過ぎてしまったようで、彼女はモフモフに依存性が出てしまったよう
なのだ。
元気になってくれたのはいいが、このままでは中毒症状が出るかもしれない。
これはまずい。
あくまでもリラクゼーション目的の介入であったのだから違う精神的症状を産みだ
してしまっては意味が無い。何とかできない物か⋮⋮。
一番なのはやはりそもそものトラウマを克服してもらうことなのだが、先にも言った
ようにそれは専門機関においてしてもらう必要があるものだ。素人がおいそれと手を
出して良い分野ではない。
『stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです』
1363
見習いとはいえ神様になったのだからそれくらいできるようになりたいものだ。
そういえばどこぞのドワーフに育ててもらった少年が言っていたっけか、〝目の前の
女の子も救えずに世界なんか救えるかよ〟と。
確かにその通りだ。たった一人の少女も救えずに何が神か。
貰っただけの能力ではあるが、それを育てるのは俺自身。
ならば、出来る限りのことをしよう。
だからまずは、この少女の腕から逃げることから始めよう。
頭の上に行くために抜け出すのは許してくれるのにどこかへ行こうとするとすぐさ
ま捕まえてくるのだ。
これでは何も出来ない。
元気になってきてるのは嬉しいんだけどね
◆◆◆
ゴスロリ様は本当に存在したのか⋮⋮。
いや、頭がおかしくなったとか幻覚を見ているとかではなく、炎龍の事を告げた途端
!!!
に村を避難することに決めた村人たちを放置するわけにもいかず同伴して道を行く途
中に見つけたのだ。
徒歩や荷馬車の速度に合わせながらゆっくりと進んでいる途中、前方にやけに烏が集
まっているため双眼鏡越しに前方を見ればしゃがみながらこちらを見るゴスロリ様。
フリルの多い服に、腰よりもなお長い黒髪、所々に赤いアクセントがあるが黒一色に
染められたその容姿は等身大の球体関節と言われても信じて疑わないほどに美しいも
のだった。
容姿に反してどこか凄みや妖艶さを醸し出すその雰囲気もまた、容姿を後押しする一
因でしかない。
とはいえこのまま放置するわけにもいかず、かなりの距離があるが視線はこちらを見
ているようだし景色を見ている訳でも無いようなので近くまで行った後は隊員二人に
事情を聴きに行ってもらった。
一応片言ではあるがこちらの言葉を話せる筈なのだが、どうにも少女には通じない。
二人の言葉が聞こえていないかのように黒ゴス少女はこちらへと近づいてきた。
﹂
〟とこちらの言葉で問いかける。
?
しかし少女は微笑むばかりで何も言わない。
〝こんにちは、ごきげんいかが
﹁サヴァール、ハル、ウグルゥー⋮⋮
?
1364
『stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです』
1365
しばらくどうしたものかと悩んでいると、少女は唐突に後部に乗って貰っていたコダ
村の子ども達と話し始めた。
何を言っているのかは分からないが何やらテンション高めに少女に何かをいう子ど
も達。
よく見れば足が悪いなどの理由であまり動けない老人の方々は少女の方を向いて拝
んでいる人︵特地なりの様式で︶まで居る。
え、さっきから冗談半分にこの美少女をゴスロリ様とか言ってたけど、マジで宗教的
に偉い人
いやもう乗るとこないから
なのだ。反して相手はお構いなしにそこら中触りまくるし、触り方一つ一つがやけに妖
子を無碍に扱うこともできず触る場所を気にしながら少女を除けようとこちらは必死
隣の運転席で倉田が羨ましいやら何やら叫んでくるが、お偉いさんかもしれないこの
終いには俺の上に乗ってくる始末。
かどうかは分からないが構わず少女は乗り込んできた。
そう言うも咄嗟の事で日本語で話してしまい、というか特地の言葉でも聞いてくれた
!
側へと回ってきたかと思うと乗り込んできた。
そう割とまじで焦っていると、少女は斧を後部に回って乗せると再び俺が座る助手席
?
艶で心臓に悪い。
﹂
何なのまじで。
﹁シャー
!?
最終的には俺が少し横に避けることで落ち着いたのだが、このゴスロリ少女は何でま
とはいえ混沌とした場はとりあえず収まった。
に戻ってこい後輩。
うちのサーヴァントよっわ あの反応もう完全に小動物の動きじゃないか。人類
てしまった。
その目に当てられてか、後輩はブルリと身を一度振わせた後エルフ少女の後ろに隠れ
女は後輩をジーっと見ていた。それはもう訝しむような目で。
さておき、そう言えば件のゴスロリ少女はどうしたのかと思い見てみると、何故か彼
悪いが、助けてもらっておいてそんなことを言うのも失礼なので我慢する。
その様子にニヤリとする子狐後輩。子狐モードでそんな顔をされると微妙に気持ち
オメガグッジョブだ後輩。助かったという意味を込めて後輩にサムズアップする。
のだが、その声にゴスロリ少女は動きを止めた。
吠えると言っても子狐だしエルフ少女に捕まったままなため可愛いものでしかない
俺が焦っていると、後部より後輩が吠えるように鳴いた。
!!!
1366
『stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです』
1367
た後輩を訝しむような目で見ていたのだろうか
ひょっとしてこちらの宗教的な不思議パワーで後輩の正体を見破ったとか
お前のサーヴァント設定どこ行ったよ。
なぁおい。
実際、
ところで後輩よ、エルフ美少女と黒川という大和撫子美人に撫でられて良い御身分だ
それが今の俺に出来ることだ。
とりあえずは近くの村か近くまででも村人さん達を連れていくことを優先しよう。
まぁこの疑問を解消しようとしても言葉の壁があるから難しいんだけどな。
んと少女が居るらしいし。
こちらの世界には魔法もあるみたいだし、実際にこの集団の中には魔法を使える御爺さ
?
?
﹄
!!
え生活に必要な物を持ち出すのも一苦労だ。
H
M
V
彼らも出来るものならこんな事はしたくない。現代日本とは違い、馬車があるとはい
だからコダ村の面々は今こうして当て所も無い旅路を行っている。
それに対しコダ村の村長は人の味を覚えた炎龍は再び人を襲うと告げる。
当然、自衛隊の面々はなぜ逃げるのかと問うた。
それを聞き、慌ててコダ村の住人は逃げ出す準備をした。
炎龍がエルフの里を襲った。
らに伝えられた情報故にだ。
コダ村の住人達が何故揃ってここに居るのか。それは高機動車に乗る自衛隊から彼
続くのはコダと呼ばれる村に住んでいた人々。
その集団の先頭に居るのはHMVと呼ばれる高機動車や軽装甲機動車。その後ろに
日差しの強い中、草木も生えない岩石地帯を行く集団があった。
﹃stage8:一狩り行こうぜ
1368
しかし、命より高いものは無い。命あっての物種。長年生きてきた村を捨ててでも、
彼らは生きるために道を進むしかないのだ。 そんな彼らを、自衛隊の面々は見捨てることが出来なかった。故に、随伴するように
安全だと判断できるところまで同行している。
﹂
そんな彼らの中でも一番前を走るHMVの中で、とある言い合いが始まっていた。
﹁ねぇ、そこに居る獣なんだけどぉちょっと見せてもらえないかしらぁ
子狐を抱えるエルフの少女に向かって問うのは黒いゴスロリ服を着た少女だ。エル
﹁駄目⋮⋮﹂
?
フの少女の名はテュカ・ルナ・マルソー、ゴスロリ服の少女はロゥリィ・マーキュリー。
﹂
彼女らはHMVにおける座席越しに言い合いをしていた。
﹂
﹁もぅ、その子何か変よぉ
﹁駄目ったら、駄目⋮⋮﹂
?
子狐はこの状況から逃げたいのかジタバタとするが、体格の差が歴然である為それも
テュカが手の中に居る子狐を守るように抱きしめる。
﹁それは⋮⋮そうだけど⋮﹂
?
﹁何で駄目なのぉ
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1369
1370
できない。
その様子を見て、ロゥリィは再びジトっとした目を向ける。
ロゥリィは死と断罪を司るエムロイの使徒にして亜神。そんな彼女は魂の素質とい
うものにすごく敏感だ。その感覚において、エルフの少女に捕まっている小動物は明ら
かに異質。彼女とて目に映るすべての生物の根幹を見て取れるわけではないが、それで
も目の前の小動物から感じられるそれはその見た目に有り余るものを内包しているこ
とが分かる。
例えば、目の前にコップがあるとする。しかしその飲み口から覗き込んだ中身は湖の
様に膨大なものが映っている不自然。千年に近い時を生きてきたロゥリィ自らの感覚
ではそのように感じるのに、しかし客観的に見ればただの小動物だ。
それ故にロゥリィはつい顔を顰めてしまう。
疑問を解消するためにエルフの少女からその小動物を取り上げるのは正直容易いが、
それは自身の生き様に相反する。
故に彼女は同時に苛立ちを覚える。
生来からして好奇心旺盛と言われてきた彼女にとって、気になるものが目の前に合っ
てそれを解決する方法もあるのにそれを成せないというのは只々ストレスの貯まるも
のだ。
﹁その小動物ってぇこの人達が連れて来たのぉ
﹁たぶん、そう﹂
﹂
?
もの。そう納得した。
でなければおかしいのだ。
見え辛いが、だが確かにただの生物ではないと自身の感覚が告げているのだ。
に近しい気配を感じるのか。その謎を解明したくて仕方がない。靄が掛かったように
何故このような何の力も無さそうな小動物からロゥリィ自身、いや、自らが崇める神
そうでもしないと気になって仕方がないのだ。
にした。
だから、一先ずは異世界からの来訪者である故の存在としてロゥリィは納得すること
得ないが、だがそうであるならばその内に秘めたモノがおかしい。
確かに似たような生物なら居るため変異種だとでも言われてしまえば納得せざるを
何故なら、そもそもがこのような動物はこの世界に存在しない生物。
・・・・・
この緑の服を着た人々は異邦人なのだろう。そしてこの小動物もまた、彼らに連なる
その言葉にロゥリィは一つだけ合点が行った。
ロゥリィの言葉に短く答えるテュカ。
﹁ふぅーん⋮⋮﹂
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1371
しかし、とそこでロゥリィは踏み止まる。
腑に落ちない点ではあるが、それをするのはやはり自分らしくない。
ロゥリィがはぁと嘆息をもらす。
それを見て子狐はびくりと怯えを見せた後、テュカの背後へと駆け去った。
いや、無いな。
ロゥリィは子狐の様子を見て疲れているのだろうと思い直す。
きっと長年相棒としてきた第六感というのも偶には休憩をしたいのだろう。そうで
なければこの程度で怯える子狐が尊い魂を持つ訳がない。
止めようと思いつつもやはり気になってしまう自身の性格を難儀に思いつつも、ロゥ
﹂
リィは意図的にその存在を意識から外すように今度は自身の隣に居る男を見上げた。
﹁な、何
で話していたのはこの集団の真意を知るためであったが、ここでネタばらしも面白くな
ただその男の言葉に意味深に微笑み返した。態々言葉に気を使いながらこちらの言葉
亜神であるロゥリィはこちらの言葉でなくとも意味を理解できるが悪戯心が芽生え、
る。
な男。しかしこの男は周りの人間から隊長と呼ばれていたのをロゥリィは耳にしてい
ぎこちないながらもこちらの世界の言葉を話す、見るからにうだつの上がらなさそう
?
1372
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1373
い。
そんなロゥリィに対し男はというと、苦笑いした後に何か間違ってたかなと手元にあ
る小さな本の様な物を見直した。何とも情けない姿だ。
だ が ロ ゥ リ ィ は 思 う。先 程 の 小 動 物 も 気 に な る が こ ち ら の 男 も ま た 面 白 い 存 在 だ、
と。
・・・
覇気も何もない様に見える目の前の男だが、ロゥリィの感覚から言えばその在り方が
とても好ましいものに観えたのだ。
揺るがなく、自らを貫く魂の輝き。
面白い。この集団に着いていくことで面白いものが見えるかもしれない。だからも
うしばらく一緒に行動することにしよう。
ロゥリィは自然と笑みを浮かべながら、そう決めた。
◆◆◆
やっべぇ、何か知らないけど黒いゴスロリ少女がめっちゃこっち見てる。
ジッと見たり、ちらっと見たり、見ながら意味深な笑みを浮かべたり、思わずエルフ
少女の背中に隠れちまったよ。ごめんねエルフちゃん、盾にしちゃって。
1374
でも許してほしい。だってなんかおっかないんだよあの女の子。
なんというか、そう、例の金ぴかとかと相対した時の感覚。
実際はベクトルが違うと思うんだけど、なんかこう身体の奥底からこいつはやべぇと
囁き掛けてくるんだ。
ひょっとして獣の本能ってやつが原因だろうか
ている。ちなみにEXトラップも設置個数制限は消えており、又、念じることで起動で
なのに、ゲーム内の設定であった三つまでしか同時設置できないという部分は掻き消え
持っている人間のステータスによって威力が変わるなんて部分はゲームっぽい仕様
先日使った地雷もその類いだ。
トラップ
ムそのままの部分もあれば現実に則した部分もある。
他にもポケットの中の幻想なんてものを能力としてもらってるわけだが、これもゲー
ファンタシースターポータブル
とが出来ていない。
一先ず〝獣の本能〟がソレっぽいと納得することにしたが、未だにその確証は得るこ
のは無かった。
例えば、ラーニングの能力があると言われたが以前見た自身のスペック表にそんなも
しきれていなかったりする。
実は、既に20年近い時間を過ごしたこのちーとぼでぃだが、未だにその全容を把握
?
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1375
タイプ
きる形になっていた。そのくせ自身の職業をブレイバーに変えておかなければ使えな
いという謎仕様。
さておき、使い勝手が良いのか悪いのか良く分からないこのちーとぼでぃだが、かと
いって今すぐどうにか出来るものでもないので諦めるしかないのが現状だ。
覚えた泥も中々進展が無いし。
色々と形作るのは大分慣れたのだが、中々中身があるものを造れない。あと性質変化
も難しい。
矛盾させる
正直に言えば俺自身の想像力が貧困な所為でこうなっているのだろうけど、でももう
少しどうにかなってほしいものだ。
いつだったか、キャスターが俺はルールを変えることが出来ると言っていた。
泥の性質変化というのもその流れから来るものだろうと思うんだが、これがなかなか
難しい。
泥に性質を与えるのは割かし出来るのだが││と言ってもかなりの集中力が必要だ
が││そもそも在るものを性質変化させようとする場合だと中々難しい。
それは自分に関しても言えることで、門を越える前から考えても何も進歩していない
と言って良い。
やはり何か切っ掛けが必要なのだろう⋮⋮。
1376
と、ここらで現実逃避はやめようかな。
矯正
どうやら﹃黒ゴス様がみてる﹄状態は脱したようだ。何かが始まる訳じゃないだろう
けど、タイを直されるどころか生き方とか直されそうなレベルで言いしれない圧力を感
じた物だからつい思考の海にダイブしてしまっていた。
さておき、黒ゴス様は次の標的を先輩にしたようだ。
何やらジーッと先輩の事を見ているが、その表情は面白いものを見つけたと言わんば
かりのとてもイイヒョウジョウをしてらっしゃる。俺の時みたいな棘々したものじゃ
ないので若干羨ましい。隣の運転手さんも絶賛羨ましがってるし。今にも血涙を流し
そうな程。
対して先輩はあからさまに視線を黒ゴス様から反らし、景色を見るようにしていた。
だが視線を反らす先輩を更に面白がって突いたりもたれ掛かったりとして遊んでい
る。
何があの黒ゴス様の琴線に触れたのだろうか
確かに先輩は陰でモテてたりする。
けど、直接関わればわかるがあの人は自分を貫き倒す覚悟がある。普段はまぁ駄目な
う。
見てくれはお世辞にも良いという部類ではないし、俗に言うフツメンというやつだろ
?
方向に自分を貫いちゃってるが、いざスイッチが入ると中々に頼り甲斐があるのだ。
そんな先輩にあの黒ゴス様が気付いた
バタバタと身体を揺すくってもびくともしない。
ねぇ。
っ て 言 っ て も、現 在 進 行 形 で 狐 モ ー ド な 俺 は エ ル フ さ ん に 抱 え ら れ て い る ん だ よ
とりあえずそんなわけでこの状況を何とかしたい俺。
まったわけだけどもあまり現実的ではない。とりあえず爆発しろ。
ハ ー レ ム っ て の も 創 作 の 中 に は よ く あ る ⋮⋮ い や ま ぁ 絶 賛 士 郎 君 が 作 り 上 げ て し
ている以上、これが変なフラグになっていないかと心配なのだ。断じて他意は無い。
いやだって先輩の⋮⋮元嫁さんになってしまうわけだけども梨紗さんの存在を知っ
うー、なんかもやもやするぜ。
いやでも今さっき会ったばかりなのにそんなの解るものかねぇ。
?
鳴声を上げても首を捻られるだけで放してくれそうもない。ただ可愛い仕草が見ら
れるだけです。
さて、どうしたもんかねぇ⋮⋮。
﹁何だ、あれ⋮⋮﹂
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1377
ある意味ショウもないことで悩む俺の耳に先輩の声が届く。
あれって何
﹁おいおいおいこのタイミングでかよ
じゃねぇ
﹂
ドラゴンだ
﹂
!!!!!!
こ ん な 開 け た 所 で 来 る ん
戦闘用意っ
﹁く そ っ た れ 怪 獣 と 戦 う の は 自 衛 隊 の 伝 統 だ け ど よ
◆◆◆
その声に、俺を掴んでいた腕に力が一気に弱まった。
!!
そう念話で聞こうとするが、それよりも早く先輩が答えを口にした。
?
!
俺が後ろへと目を向けると違和感があった。
急加速した車の勢いで座席から滑り落ちたのかと目をやるがどうやら違うようだ。
フ少女のものだろう。
それと同時、後部座席からきゃあと甲高い悲鳴が聞こえた。聞こえた声は恐らくエル
後方の隊列に向かって走り出したHMVの中でおやっさんの声が響く。
!!
!!
!!?
1378
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1379
居るはずの奴が居ない。怪我をした老人や体力のない子ども達、そしてエルフ少女や
何人かの隊員は居る。だが、エルフ少女の近くに居たはずの後輩が居ない。
あの馬鹿
に傷一つ付けることはできておらず、形が武具というだけで簡単に崩されていくところ
しかしすぐさま思考を再起動させよく観察すれば、その作られゆく武具ではドラゴン
俺自身、あまりにも現実離れしたその光景に思考が一瞬止まってしまう。 一体何が起こっているというのだろうか。誰もがそう思っていることだろう。
していく。
それに対しドラゴンはその巨体と堅牢な鱗の鎧を武器に、形作られる武具を尽く破壊
泥は不完全な形で剣や盾になりながらドラゴンを襲っている。
戦っているのだ。
ゴンが人々を襲わず周囲から湧き出るようにして出てくる黒い泥の様な物を相手に
降り立つなり炎を吹き出し、もしくはその爪や咢を以て村人を襲っていたはずのドラ
に入った。
しかし、素早く準備を終えてドラゴンへと各車両が走っていけば、異様な光景が視界
う伝える。
そう口に出しそうになるも一人飛び出すわけにもいかず、各員へ小銃の準備をするよ
!!
が見て取れた。正直なことを言うと見た目に反してあまりにも心もとない。
何すかあれ
このまま近づいちゃった大丈夫っすか
﹂
だが、その心もとない泥の武器たちの御陰でドラゴンはそれを壊すのに意識が取ら
﹁大丈夫だ
あの泥は味方だ 一先ず各車両は人命救助優先で、俺達はドラゴンの
﹂
﹂
炎
﹁それにしても、二尉はあれが何か、うお、知ってるんすか
﹂
ドラゴンより吐き出された流れ弾を上手く避けながら聞き返してくる倉田に心の中
!!?
どこに行ったかと思えば⋮⋮。
だからあそこに居るのは、ここに居ないあの馬鹿後輩なのだろう。
あの馬鹿がいつだったか変身する時に使っていたやつだ。
あの泥には見覚えがあるのだ。
俺は倉田に、何事も無いように返す。
!
る。
倉田もこの光景に思わず思考が止まっていたのだろう、思い出したように聞いてく
!!?
れ、周囲からは人々が何とか逃げることが出来ていた。
﹁い、伊丹二尉
!?
ドラゴンに向かって運転しながらも弱音を吐く倉田。
!
周囲を走って牽制
!
﹁りょ、了解っす
! !!
1380
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1381
で賞賛を送りつつ、どう返したものかと悩む。
再びドラゴンの方へと目を向ければ、その周りを翻弄するように走り回る銀色の子狐
らしきものが居るのが見える。俺はあいつを何と紹介すればいいのだろう。
味方とは言った。だが俺の後輩だと紹介していいのか
村人含めての全員が見ていることだ。それが国に伝わった時どうする⋮
さぁどうする⋮⋮
しかし、ばれるのも時間の問題だろう。
だと分かっただけ。
ろう。俺も実際には見えている訳ではなく、推測と前情報ありきで見ているからあいつ
今はまだ、先程までこの車に乗っていた子狐が闘っているとは誰も気づいていないだ
?
ら情報が漏れるとも限らない。いや既にドラゴンと何かが闘っているのはここに居る
この短い間に第三偵察隊の面々が気の良い奴らだというのは理解しているが、どこか
あいつは向こうの世界では今の時代では珍しいお尋ね者というやつだ。
?
むしろ後輩が出しているであろうあのできそこないの武器たちの方が大きい分ドラ
だが、その全てが弾かれる。
乗る面々も各自で攻撃してくれている。
考えながらも、ドラゴンの意表を突くように銃を撃つ。俺だけじゃなく、この車両に
?
ゴンの気を引くことが出来ている。
どうする、どうすればいい、この状況を打破し、その上であいつの存在がばれないよ
﹄
﹂
﹂
うにする方法は││││、
﹃先輩
﹂
﹁い、いやなんでも無い
﹁どうしたんすか
﹁うお
!?
!!!!!!!!
﹄
!!
!?
ああそういえばこいつはそういう奴だったな、と。
後輩の言葉に、俺は自分が先程まで考えていたことが馬鹿らしくなってしまった。
ハハ、と思わず笑ってしまう。
たこいつを俺がぶっ倒すから
﹃20秒、20秒で良いから完全にこいつを任せて良い そうすれば村の人達を襲っ
ちながら意識を集中する。
どうにも慣れない念話というものに辟易しつつ、その件の後輩が何を言うのか銃を撃
突然頭に響いてきた声。それに驚きつい声を出してしまったが慌てて誤魔化す。
!
!?
1382
バカじゃねぇの。いやバカだったな。
今まで姿を隠してきたのにバレたらどうなるかとか絶対考えてないわこいつ。しか
もぶっ倒すだと
大バカだった。
そしてあいつは、やると決めたらやる奴だ。
なら、こちらも合わせてやらないとな。
おやっさんと黒
自衛隊は怪獣にやられてばかりじゃないってところを見せつけてやろう
各 車 両 は 救 助 を 終 え 次 第 に 牽 制 に 加 わ れ
﹂
軽装甲機動車 は ミ
ラ イ ト アー マー
!
勝本はパンツァーファウストが用意出来次第ぶっ放せ
!!
川はそのまま牽制
﹂﹂﹂﹂
ニミとキャリバーで牽制
﹁﹁﹁﹁了解
!
!!
そういえばあいつは、自分なんぞ置いておく癖にやけに人が傷つくのを見てられない
?
幽かに見えた。
同時、ドラゴンを襲っていた泥が引き、銀色のちっこいのもどこかへと走り去るのが
を周回し始める。
返答と共に各自それぞれの仕事を始め、俺の乗るHMVは指示通りにドラゴンの周囲
くれる面々。頼もしい奴らだ。
俺の指示に、この訳のわからない状況に異議を唱えるわけでも無く意気の良い返事を
!!
!
!
﹁倉田はこのままドラゴンの周囲を囲う様に走りつつブレスに注意
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1383
﹂
!?
﹂
少しで良い、少しだけ気を反らせばあの馬鹿が仕留める
﹂
!!
﹁あの泥っぽいの消えちゃいましたよ
﹁それで良い
﹁あの馬鹿って
!
﹁まずいまずいまずい
﹂
もっと飛ばせ
﹁ガン踏みしてるっすよ
﹂
!!
﹂
!!
じているかは怪しいが││、ドラゴンがこちらから目を反らす。
きた。 こちらで撃っている物とは違い、多少は効くのか││見た感じかゆみ程度も感
そこへ、工事現場で聞こえる削岩機の様な音を出しながらライトアーマーが近づいて
﹁お待たせしました
こちらへと迫ってくる。
追いかけてくるドラゴンに弾は当たっている。しかしそれがどうしたとドラゴンは
!!!
!!
だが、ドラゴンは予想以上に俊敏な速さでこちらへと駆けてきた。
そんなものに構ってる暇はないと、続けて撃ち続ける俺達。
片目の潰れた厳つい顔でこちらへと咆哮を浴びせかけてくる。
あの泥が消えたことで、ドラゴンは次の標的をすぐさまこちらへと変えてきた。
うてくるがそれを説明している暇はない。
倉田の問いに投げやり御答えると次は俺の後ろで64式を撃ち続けていた黒川が問
!!?
1384
すかさず俺達はドラゴンの側面へと回り込み、再び鉛玉をぶち込む。
栗林たちが乗る車両もほぼ同じくして牽制に参加し始めた。
ドラゴンが、不愉快そうに喉を唸らせる。
相変わらず、ドラゴンの鱗には傷一つ付いてはいないが、それでもなんとか気を引く
﹂
ことには成功しているようだ。
!!
そして予想通りに外れた弾はドラゴンの足元へと着弾する。
外れる。誰もがそう予想した。
う。
入ってしまい、元々重心位置が扱いづらいこともあって照準がずれたまま撃ってしま
それに対し、車が急制動を駆ける。合わせて、照準していた勝本三曹の手元に力が
いた。
しかし、その間にもドラゴンは声に気がひかれたのか身をよじりそちらを標的として
味仕方ないのかもしれない。
さっさと撃てと全員が思ったことだろうが日ごろの訓練の成果でもある以上、ある意
ら身を乗り出してパンツァーファウストを構えていた。
響く勝本三曹の声。見ればキャリバーを撃っていた笹川士長に代わり、上部ハッチか
﹁後方の安全確認良しっ
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1385
巻き上げられる土煙。
不幸中の幸いか、それによって俺達を見失ったようでドラゴンは翼を羽搏かせること
﹂
で土煙を晴らそうとする。
﹁次急げ
いなしに一台ずつ片付け始めるかもしれない。
そんな嫌な予感がよぎり、慌てて指示を出す。
この土煙が晴れ次第、再びやつは襲ってくるだろう。
だが、遅かった。
と地面すら揺らすような轟音が辺りへと響く。
いや、意味がなくなった。
ドゴン
!!!?
しかしそれは先程までと違い、こちらを威圧するものではなく悲鳴の様にも聞こえる
続いて響いたドラゴンの咆哮。
﹁GYUOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAっ
﹂
早く次を撃ってもらわなければその内に銃を脅威と感じなくなったドラゴンはお構
現状、用意できる携帯武器で一番の高威力を誇るのがパンツァーファウストだ。
!!
!!
1386
ものだった。
﹃お待たせ先輩、後は任せてくれ﹄
いつの間にか20秒は経っていたのか、再び頭の中に念話が届いた。
そしてドラゴンの方を見れば既に土煙は晴れかけており、その中からドラゴンが姿を
現す。
しかしよく見ればドラゴンだけじゃない。ついでに言えばドラゴンも先程と様子が
違っていた。
片翼がぐちゃぐちゃに潰されたドラゴン。
そしてそのドラゴンを睨むようそこに居る幼女、もとい見覚えのあるバカ後輩。
そう念話を残し、後輩はドラゴンへと駆けだした。
れたくなかったら退避よろしく﹄
﹃ここまで躊躇いなく全力出せそうな相手は初めてだわ。そんなわけで先輩、巻き込ま
『stage8:一狩り行こうぜ!!』
1387
﹃stage9:炎龍は居なかった。良いね
﹄
?
この気持ちの全ては、目の前の龍にぶつければいい。
だから、我慢だ。
まう。俺が皆を殺すわけにはいかない。
獣化はともかく、狂化は完全に暴走状態だから意志も無くここら一帯を更地にしてし
無理矢理意志をねじ伏せるように、黒くなっていく部分を落ち着かせる。
でもそれじゃあいけない。
ふと目をやれば手や足が獣のそれになりかけている。垂れる髪も黒く染まっていく。
を目にして怒り狂わずにいられようか。
だが、そこらに充満する焦げたタンパク質や血の臭い、そして幾人かの死体。それら
普段の俺ならビビッて何もできなかっただろう。
赤い龍を前に、俺は怒気を露わにして立ちふさがる。
﹁よくもまぁやってくれたよなぁ、おい﹂
1388
﹂
御誂え向きに向こうさんもやる気のようだ。
﹁GYUOAAAAAAAAAA││
る。
ギャリリと金属音を鳴らしながら、たった今ドラゴンの翼を破壊したものを回収す
そのドラゴンを見ながら、俺は右手に持つ物を引っ張る。
ン。
ぐちゃぐちゃに潰れた片翼を引きづりながらもこちらへと殺意を向けてくるドラゴ
!!
る訳でも無かった。
そんなこいつだが、実はゲーム内で言えば特出した攻撃力がある訳でも特殊効果があ
ている所か。
に棘付の鉄球が繋がっているというもの。若干違うのが、光波鞭の名残か鎖が光で出来
フォトン
見た目は先輩が言った様に鞭には見えず、いわゆるモーニングスターのように鎖の先
光波鞭︽ウィップ︾系Sランク武器﹃ギガススピナー﹄。
﹁どんだけお前の鱗が固いかわからんけど、諸共ぶっ潰しゃ問題ないよなぁ﹂
でもこれ、一応〝鞭〟なんだ。
少し離れた場所で先輩がそう言ったのを俺の耳が拾う。
﹁どたまカチ割りトゲボール⋮⋮だと⋮⋮﹂
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1389
だが、この場においてはとても効果的なテキストを持っている。
﹂
それは、〝鉄球の一撃はどのような装甲も一振りで叩き潰す〟というもの。
﹁っるぁぁぁ
﹂
!?
ない。
だが、月並みな表現で言えばマグマの様に燃え滾っている怒りは罪悪感も何も生まれ
悲鳴を上げるドラゴン。
あった翼が根元から引きちぎれた。
俺が引くことで戻って来た鉄球は潰れていた翼の付け根に当たり、元々ボロボロでは
で行っても引っぱりゃ戻ってくるのは当然だ。
器だ。一撃目を避けた所でその刃の全てに注意を向けなければ意味が無い。先が飛ん
避けたと思ったんだろうがウィップ系の武器ってのは中距離圏内の制圧に向いた武
﹁GURUAAA
構わず俺は伸び切った鎖を引っ張る。
鉄球を避けた。
それを見てドラゴンはその巨体に見合わない素早さで地を蹴り、身体をずらすことで
ギャリギャリと擦れた鎖が甲高い音を立てながら棘付の鉄球を運んでいく。
俺は再びギガススピナーを振るった。
!!!!
1390
﹁部位破壊は基本だよなぁ
﹂
もう一度振う。今度は対側の翼だ。
当然ドラゴンは避けようとする。
しかしそうは問屋が卸さない。
﹂
﹁GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA│││
﹁これで逃げられないぜ
﹂
!!!?
!!
以て地を掴んでいる。
俺は戻ってきた鉄球をいつでも振れるように構える。
睨みあい。当たりは先程までが嘘のように静寂に包まれる。
誰もが動かない。動けないでいる。
﹂
しかしいつまでも待ってられるほど俺は落ち着きがある精神をしていない
!
両の翼が無くなり血も流しているというのに、俺の隙をいつでも突けるように四足を
グルルと唸りながらこちらの様子を窺うドラゴン。
それでも龍は、俺の方をその隻眼で睨みつけたまま闘う意思を萎えさせないでいた。
両側の翼が根元から無くなり、体積が半分ほどに減ったように見えるドラゴン。
!!
!!
逆袈裟に右腕を振るう。それに合わせて飛んでいく鉄球。狙いはドラゴンの頭部。
﹁悪いがそろそろ終いだ
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1391
﹁GURUAAAA││
﹂
﹂
!!
部分に当てることで鉄球部分を地に落とした。
何故ばれた
確かにギガススピナーの効果は鉄球部分にしかない。たまたま
動きに迷いが無かった気がする。
いや、その割には
だがドラゴンはそれを首を捻ることで避け、更には体を捻り尾をギガススピナーの鎖
﹁なっ
!?
まずい
﹂
﹂
フォトン
ついでに言えばギガススピナーの持ち手部分も持っていかれてしまった。
俺を喰らおうと閉じられるその咢。ギリギリ避けるも、右腕の先を持っていかれる。
﹁ん、ぐぅっ
﹁GAAAAAA││
ラゴンの咢がこちらへ戻ってくるのが早かった。
そう思い、虚空瞬動擬きをしようと魔力を足元に固めようとするがそれよりも早くド
!
そして俺が驚いて反応が遅れた間に、鎖部分が引っ張られた俺は宙を浮く。
の鱗がその程度の効果はものともしない様子。
本来であれば武器の種類的に鎖部分にも斬撃の効果が乗っているはずだがドラゴン
?
!?
!!!?
!!
1392
未だ空中に浮かぶ俺の身体。無理に体を捻った所為で体勢が崩れている。
そう何度も食われて堪るか
そんな俺に、ドラゴンは追撃を駆けようと再びその咢を開く。
もう一回食おうってか
!!
食われそうになった瞬間に口の中からズタズタにしてやろうと、構える。
残った左腕、そちらにルゥカを取り出す。
!?
◆◆◆
熱い、そう感じる暇も無く、俺の意識は炎の中に飲み込まれ、途絶えた。
て俺へと迫った。
そう認識した次の瞬間には少し見えていただけの火の粉はすぐさま膨れ上がり、そし
炎のブレス。
に見える俺の右腕とは別に、チロチロと赤いものが見えだす。
しかしそんな俺を知ってか知らずか、俺の目の前で開かれたドラゴンの大口、その中
﹁おいおいマジかよ﹂
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1393
﹁あ⋮⋮﹂
間抜けな声が俺の口から出たのが分かった。
巻き込まれないように離れさせたHMV、その中からドラゴンと後輩の戦いを見てい
た。
そのド派手な戦い、遠目で見るからこそ何とか見える程度の速度で繰り広げられる攻
防。
だがそれも終わった。
﹂
右手の先を食われた後輩はそのままドラゴンのブレスの餌食となり、真っ黒なナニか
になってしまった。
隣で同じように見ていた倉田が叫ぶ。
﹁え、あれ、やられちゃいましたよあの子
どうしますか
﹂
!?
何故⋮⋮。
﹁伊丹二尉
!
ぶっ倒すと言ったじゃないか。いつも言ったことはやってきたじゃないか。なのに、
けで何も生み出さない。
そう頭は認識する。だが、その現実を受け入れられずに、頭の中では言葉をなぞるだ
ああ、そうだな。やられたな。やられてしまった。
!?
1394
おやっさんが俺に問うてくる。
﹂
﹂
意味は分かる。何をしなければならないかも頭の中に出来上がる。だが、動けない。
・・
数秒か、数分か、そのまま動けずにいるとすぐ隣から予想外の声が響いた。
﹂
﹁ふぅ∼ん、あれでも生きてるのねぇ⋮⋮。やっぱりあの子もそうなのかしらぁ
﹁生きてる⋮
?
?
反応してしまう。
?
そもそもどうしてこの子は生きてると言った
あの状態で 生きてる
?
そこまで考えて俺は慌てて手に付けていたグローブを外す。
あの後輩はサーヴァントで、そして俺はマスター。
そこでふと思い出す。
何か確認する方法は⋮⋮。 続けて問うてきたものに返す言葉も出さず、ただ考える。
先程までとは違い頭の中で疑問がぐるぐると生まれては消えていく。
?
でも炭のようになってしまったじゃないか。見間違え
言葉が通じていることにも疑問を抱く余裕すらなく、ただ〝生きてる〟という単語に
生きてる、そう言ったのは黒ゴス少女だ。
?
?
﹁⋮⋮あなたは知ってるんじゃないのぉ
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1395
﹂
うお、こっち見んなトカゲ野郎
そこには未だ血の様に紅い色で刻まれている3本の爪痕。令呪。
まだ大丈夫のようだ
!!
ドラゴンがこっち見てますよ
!
それだけで不思議と心が凪いだ。
﹂
しかも激昂してるじゃないっすか
!?
!!?
為をせずにこちらへと向かってきていた。
﹁レウスがティガになってる
﹂
﹄
両翼も無く片目も潰れたドラゴンは、生物にあるまじき、怒りで以て逃げるという行
その瞳に在るのは怒り。
はないが確かにこちらへと迫ってきている。
それなりに距離があるし、後輩が翼を落としたからか四足を使ってそれほどの速度で
そして倉田の言うドラゴンを見れば、確かにこちらへと向かってくる。
がら問うてくる。
運転席の倉田が指示通りに待機したまま、いつでもアクセル全開に出来るようにしな
﹁けどこっちに来てますよあのドラゴン
た物だった。
それによって言い忘れていた指示を思い出し慌てて言うが、無線越しの声もまた慌て
!!
﹁全員待機
﹃隊長
!?
令呪を意識した途端に、そこからあいつの鼓動が伝わってくる気がした。
!?
!!
1396
実は余裕あるだろお前。
叫ぶように言う倉田の方を見ながらそう言いそうになる。
だがそんな倉田を見て、一段と落ち着いた。
パニック状態の時に慌てている他人を見ると不思議と落ち着くと言うのは本当だっ
たのだろう。
そして落ち着くと今度はちょっとムカッとしてきた。
ど う い う 原 理 か は 知 ら な い が 後 輩 は あ ん な 状 態 に な り な が ら も 生 き て い る ら し い。
もしくはFateに出てきた第五次バーサーカーの様に命のストックが出来るのだろ
うか。しかしどちらにしろ高い生存能力があの後輩にはあるらしい。
なら先に言っておけ、と。絶対他にも隠してるだろ、と。
よくよく考えればサーヴァントとマスターという関係になったというのに原作通り
に聖杯戦争がある訳でも無いからあまり深く聞いていなかったが、あいつには隠し事が
多すぎる。
確かに言えないこともあるのだろうし全てが全てを聞いていい訳でも無いだろう。
だがそれでも、この現状を生み出してる力に着いて位は先に言っておいてほしかっ
た。
変な心配かけさせるんじゃねぇよバカ後輩
!!!
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1397
だから│││、
﹂
!!!!!!!!!!
見えた。
◆◆◆
今先輩何か言った
まぁでも一回死んでちょっと冷静になった。
な。
かったのは死ぬのが初めてじゃなかったからかな。いやこの考え方はどこかおかしい
おかげで復活するまでが痛いのなんのって、頭がおかしくなりそうだったよ。ならな
と時間が掛かってしまった。
しかもブレスが中途半端に俺の耐性でレジストされたからか死に切るまでにちょっ
いやぁ、びっくらこいたよホント。あのタイミングでブレスが来るとはねぇ⋮⋮。
?
そう俺が叫んだと同時、ドラゴンの後方で黒く炭化していた何かが光に包まれるのが
﹁だから、さっさとぶっ倒せバカ後輩
1398
怒り心頭の状態で狂化しないように変に理性を働かせていたからか、あまりに俺らし
くない動きをしてしまった。戦闘中に自分らしくない動きをしてしかもやられたなん
て佐々木のアサシン師匠に怒られてしまう所だ。
俺の持ち味はスピードとパワー。
なのにウィップ系の武器は変に中距離武器で、しかも振るった軌道を気にしないとい
けないからそれほど自分が動けないのを忘れていた。
だけどついつい固い鱗の上から叩き潰すという思考で頭がいっぱいになってしまい
ギガススピナーなんてものを出してしまった。
だがギガスの装甲破壊の効果は鉄球部分にしかない。当たればでかいが、当たらなけ
ればそれほどの脅威ではなくなる武器だ。
確かにギガス自体は悪くはないが、状況に合ってない舐めプになってしまっていた。
まったく、痛い勉強代になってしまったぜぃ。
けどまぁここからは油断せずに行こう。むしろさっさと終わらそう。
人型でなく遠慮する必要が無いと言うのなら、ただぶっぱすればいいだけじゃない
か。
決意を込めてそう口にする。
﹁まぁそんなわけで、今度こそ終いにしようか﹂
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1399
それが聞こえたのだろう。進んでいた足を止めこちらを振り向くドラゴン。
その瞳には驚愕、益々激しさを増す怒り、そして⋮⋮怯え。
まあ何とか殺したはずの奴がすぐに生き返ればそうなるわな。
でもごめん。
お前が皆を喰おうとするなら、躊躇っていられないんさ。
やる時はやらなければならないと。さもなければ失うのだと。
けど、前の世界でも決めたことだ。
痛々しいほどだ。これじゃあどちらが悪者かわからない。
片目は潰れており、両翼は引きちぎられ、その紅い体は血でさらに染まり見ていて
もう一度、俺を殺そうと迫るドラゴン。
﹁悪いけど、さよならだ﹂
それを、俺はただ上段に構えた。
PSPo2i中の武器の中でもかなり高位に当たる武器だ。
紫紺の柄に黄金の峰、そこから淡く光るフォトンが刃を構成している。
呼び出したのは、長剣系Sランク武器、☆15の究極を冠する剣。
ソー ド
右手にずしりとした重みが生まれる。
﹁来い、エリュシオーヌ⋮⋮﹂
1400
だから│││、
﹁消し飛べえええええええええっ
﹂
そして暫くして、土煙が晴れる。
同時に鳴った轟音はあまりの大きさに耳が痛くなるほどだ。
その風によって周囲の大地は巻き上げられ、視界を遮る。 当たった瞬間に辺りへと吹き荒ぶ風。それはその一撃の余波でしかない。
の接触が、ドラゴンを死へと追いやる。
だから、擬音語にすればコツンと言ったところだろうか、その程度の接触。しかしそ
何故なら、この剣は惑星を切り裂くとされるから。
それだけでこいつが持つ概念はどれだけ固い鱗だろうと容易く切り裂く。
ドラゴンの牙が俺を噛み砕こうとする瞬間、軽く、振り下ろす。
!!!!
﹁やべぇこのスプラッタどうしよう⋮⋮﹂
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1401
先程までの昂ぶりなぞ吹き飛び、思わずそう零してしまう。
前を見れば辺りの大地は巻き上げられてるわ、血みどろなうえ肉片が散らばってる
わ、視界の限界のそのまた向こうまで大地が切り裂かれてるわ、ちょんって当てただけ
なのにやばい概念を持つ武器の中でも特にやばいシリーズってこんなにやばいの
﹂
か。ってやばいを言い過ぎてゲシュタルト崩壊してきた⋮⋮。
﹁コウジュ
ら。
そうしなければ前の世界で〝正義の味方〟と共に学んだことが嘘になってしまうか
確かに救えなかった命もあるけど、それでも救えた人達を誇りにしたい。そう思う。
なかった。
例え最初は衝動的に飛び出したのだとしても、やはり村人達がやられるのを見てられ
なにせ今回結構頑張った。
そんな先輩にビッと親指を立てる。
気出してるんだよ。
その姿を見て、思わずホッとする。良く分からない安心感だが、先輩ってそんな雰囲
ら転げ出るように走ってきた先輩が声を掛けてくる。
目の前の真っ赤な大地をどうするか考えていると、大急ぎで来たのであろうHMVか
!!
1402
﹁このバカ後輩
﹂
﹁にゃ、にゃにすしゅりゅんしゅか
レ
ジ
ス
ト
﹂
地味に痛いから止めて
しかし先輩は走り寄るなり俺のほっぺたを抓り引き延ばす。
自動防御さんはどこ行った
!?
無駄に心配かけさせるんじゃないっていつも言ってるだろうが
!?
その表情から、本気で心配してくれていたのだと分かってしまう。
だから、こちらも本気で謝る。
一度殺されてしまった。そして先輩に心配を掛けた。
﹂
銀座で無双出来ていたからとどこか調子になっていたのだろう。だからドラゴンに
他愛のない日常を享受し、いざ戦いの中に戻っても適当にやっていた結果がこれか。
優しい笑みを浮かべながらそう言う先輩に、俺は少し胸が痛くなる。
﹁まぁ分かればいいよ。ほんと生きててくれてよかった﹂
置いた。
を一つした後、抓っていた指を話してポスンといつものように帽子越しに俺の頭に手を
抓られている状態だと日本語にすらなっていないが、そう言った俺を見た先輩は溜息
!
!!?
!
抓りながら俺の顔を真正面から見て言う先輩。
﹁お前なぁ
!
﹁しゅんましぇんっしゅ﹂
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1403
これじゃぁ駄目だ。
前世界の様に事前情報がある訳ではないこの世界でこの調子では、先輩を無事に日本
へ返すという目標も達成できないかもしれない。
まずは、そう、やはり先輩に俺というものが何なのか言ってしまおう。
ファンタジーな世界があったんだから、今更俺という存在を隠す必要もないだろう。
ここまで見られたんだ。もう後は行動するだけだ。
しかし、だ。申し訳ない気持ちと共に、本気で心配してくれるということにどうも照
れてしまう。
イリヤの時もそうだったが、そう思ってくれる人が居るというのがこの上ない程に嬉
しい。 前回も今回も、俺は本当にマスターに恵まれているよ。
思わず笑みを浮かべてしまう。
それを見て、俺の頭に手を乗せたままだった先輩はそのままそっぽを向いた。
そろそろその子に関して教えて欲しいのですが⋮⋮﹂
あ、照れてる。
﹁あの、隊長
のだが、自衛隊として派遣されてるわけだし女性で良いだろう。
女性と言っても背が俺と20cm位しか違わないので綺麗系というより可愛い系な
俺と先輩の方へと恐る恐る声を掛けてきたのは、先輩が栗林と呼んでいた女性だ。
?
1404
その栗林さんがチラチラと俺の方を見ながら先輩へと問う。
﹁あー、こいつはだな。なんて言えばいいんだろう⋮⋮﹂
先輩だけど思わずそう口にしてしまった。
﹁おいこら﹂
﹁じゃあ逆に聞くけどお前どう自己紹介するよ﹂
まないだろう。
それに先ほどあとは行動するだけと決めた所だ。ここでまごついていても前へは進
ておいた方が良い気がするのだ。
いやま全部が全部いう訳じゃないけど、先輩と契約してることとかは他の人にも言っ
まだまだ俺についての情報はたくさんある。
そこに別世界から来たことや実はもう40歳越えてること、チート性能なこと等々、
だ。
隠すために狐に化けてて⋮⋮と、先輩が知る内容だけでも訳の分からない情報ばかり
卒業した大学が一緒で、俺は後輩で、サーヴァントで、先輩と契約しちゃって、姿を
言わなければならないことが多すぎて何から言えばいいのか確かに迷う。
そう言われてしまうと弱い。
﹁うぐ⋮⋮﹂
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1405
気づけば俺の周りには第三偵察隊の面々が揃っている。
全員、先輩が近くに居るからか銃口は下げているが手に持ったままこちらを見てい
る。
幸いにも敵意は無いようだ。かと言って友好的なものでもない。
的な物すら効かないドラゴンを一回やられたとはいえ一太刀でぶった切っ
うん、怪しいですもんね俺って。しかもチートスペック晒しちゃったし。
機関銃
ふむ、ここはひとつ場を和ませようか。
先輩にはたかれた。
﹁俺の名前はコウジュ。通りすがりのサーヴァントさ
﹂
狐の時は和やかな目で見てくれていた分なんだか視線が痛い。
しかしこの雰囲気の中で自己紹介するのやだなぁ⋮⋮。
でしょう。
てそのうえで大地を悲惨なことにしてしまったのだからまったく無警戒とはいかない
?
でも運転手の人は笑ってくれてるじゃないか
◆◆◆
!!
!
1406
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1407
最初は夢だと思った。思ってた。
いつもの日常の後、いつものように就寝。明日もいつもの日常が来るのだろうと何気
なく信じていた。
明日は何をしようかな。またユノと川へ行こうかな。そんな他愛も無いことを考え
ながらいつの間にか夢の中へと旅立っていた。
しかしそれもすぐに終わる。
覚醒仕立ての頭は現状理解が遅れるが、目覚めた目の前には難しい顔をした父が居
た。
その父は、何故か闘う為の装備全てを持った状態で静かに私に告げる。炎龍が来た
と。
炎龍という言葉に寝ぼけていた頭が一気に覚める。
慌てて自らも弓を取るが、父は早く逃げるよと私の手を取った。
扉を出てすぐに身を襲うのは身を焦がすほどの熱気。
辺りを見渡さなくとも夜の闇を消し去るほどに住み慣れた森は燃えていた。そして
空を舞う龍が皆を襲っている。
1408
中には闘う者も居るが鎧袖一触、炎龍は何事も無いように容易く命を駆り取ってしま
う。
父の手に引かれながら走っていると、私を呼ぶ声がした。
すぐさま振り向けば一番年が近いこともあってよく遊ぶユノがそこに居た。
だがそのすぐ後ろには炎龍。
私は持っていた弓を構えるも、それよりも早く、ユノは私の目の前で炎龍に噛み砕か
れてしまった。
そこで私の何かが折れた。
弓を引く手から力は抜け、近づく炎龍を見上げながら震えることしかできなかった。
ああ、ここで終わるんだ。そう思った。
しかしそうはならなかった。
父が放った矢、それが炎龍の片目を貫いたのだ。
すかさず炎龍の口内をミスリルの剣で貫く父。
炎龍はよほど痛かったのか苦しみ悶え、その場で暴れ出した。
その隙に私は父に手を引かれ逃がされる。
そして私は、生きろと言う言葉と共に井戸へと落とされた。
落ちながら見えたのは笑顔の父。その後ろには炎龍が迫っているのが見えた。
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1409
お父さん
なかった。
そう叫ぼうとするも、水面にぶつかりそのまま沈んだ私にはそれは出来
〟そう笑顔をで声を掛けてくる父を幻視する。
?
しかしその時はいつまで経っても来ない。
〝無事だったかい
そうだ。父だ。はやくここから出してくれないと風邪をひいてしまう。
麻痺した思考が唐突にそんなことを思い出す。
ああ、そう言えば山火事の後は雨が降ると父が言っていたな。
気づけば、雨が降っていた。声はもう聞こえなくなっていた
そしてまた減っていく。
私はそれを聞くしかない。
それも段々と減っていく。
哮、それから聞き覚えのある者の悲鳴。
そこから見上げれば時折見える飛ぶ炎龍や舞う炎、そして聞こえてくるのは炎龍の咆
それなりに高い場所に在る井戸の口。離れているからか、小さなものだ。
上を見上げる。
湧き水だからかそれなりに冷たい水は私の身体を冷やしていく。
井戸の底には当然水がある。
!
1410
降ってくる雨の所為で身体が冷えに冷えてしまい、頭がぼおっとし始めた。
その時だ。あの子が降ってきたのは。
自らの身体を抱えながら、少しでも熱を逃がさないようにしているとすぐ近くにボ
チャンと音を立てて何かが落ちてきた。
それは何かの動物だったようで、わたわたと水面を泳いでいたので慌てて拾い上げ
た。
目が合う。
見たことの無い種だ。しかし愛玩動物の様に可愛らしい。それに暖かい。
気づけば私はその子を抱きしめていた。
暫くして私たちは救出される。私と、降ってきたこの子と。
井戸から出されてすぐに私はその惨状を見て走り出してしまった。
見知った人の家も、よく遊んだ場所も、皆が集まるための集会所も、全てが燃え、崩
れ、灰となってしまっていた。
頭がどうにかなりそうだった。心は悲鳴を上げていた。
だから、ただ闇雲に走った。
言っても小さな村だ。それもすぐに終わる。
村の中を走りながらみんなの名前を叫んだ。でも返ってきた返事は一つとしてない。
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1411
村の所々にあった黒いナニかの正体なぞ考えたくもない。
暫くして私は再び井戸の前に居た。
何をすればいいのか、何故私は生きているのか、もう何もかもが分からなかった。
敬愛する父が死んだのだ。そればかりか友人も、皆も、村も、悉くが炎龍にやられて
しまった。全てを失った。
何も考えたくない。もうどうなっても良い。そんな事ばかりが頭の中に浮かぶ。
でもそんな私をあの子は元気づけようとしてくれた。
最初は何をしているのかは分からなかった。
けどその小動物らしくない知性の宿った瞳で必死に何かをしてくれようとしている
姿に、次第に意識はあの子へと向かっていく。
終いには良く分からないダンスの様な物を始めた。何も考えたくなかったが、その姿
に思わず頬が緩んだ。
それから私たちは緑色の服を着た人達と共に避難することになった。
炎龍からの被害を避けるため、コダ村の人達も一緒だ。
しかしその道中、また奴は来た。炎龍だ。
その姿を見て、私は全身の力が抜けた。あの村の惨状がフラッシュバックしてしまっ
た。
1412
ふと見れば腕の中に居たあの子も居ない。
また居なくなった。また失うんだ。
思わず悲鳴を上げそうになる。
ラァ
スィ
しかし、暫く経っても一向に炎龍の攻撃は来ない。何故
意を引き続けてくれている。
産みだされる武器は炎龍に傷一つ付けてはいない。それでも炎龍を翻弄しながら注
失ってしまうが必死に闘ってくれているのが分かった。
弓 を 扱 う 私 は 比 較 的 遠 く の 標 的 を 見 る こ と に 慣 れ て い る。そ れ で も 時 折 そ の 姿 を
暫くあの子は戦っていた。それを私はずっと見ていた。
その姿を見て、心に灯がともった気がした。
闘っていた。
あの炎龍を、友達や皆を蹂躙し噛み砕いた憎き牙も爪も、うまく往なしながら果敢に
目が離せなかった。
たりしながら炎龍と戦っていた。
あの子は周囲から黒い泥の様でもあり影の様でもある物を生み出し、それを形を変え
が闘っていた。
気になった私は、驚くほどに透き通ったガラス窓から炎龍の方を見た。するとあの子
?
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1413
その小さな体には過ぎた重荷だろう。でもあの子は全然諦める様子も見せず頑張っ
てくれている。
しかし状況が変わったのか、私が乗っている馬も無く走る馬車とでも良いのか、乗り
物が動き出す。
馬ほどの速度を出しながらも素早い小回りをするこれに、周りのものにしがみ付くこ
とで何とか耐えるがそれで精一杯。周囲を見る余裕は無くなる。
だから私は聞くことで何とか状況を確認しようとする。
聞こえてくるのは轟音。それも一つや二つではない。
パパパと破裂するような音がこの乗り物からも外からも、それより大きな連続する破
裂音の様な物も聞こえてくる。
急な動きにも慣れてきたため、周りのものを掴みながらなんとか確認すれば緑色の服
の人達が今度は戦っているようだった。
彼らが持つ長いものから先ほどの轟音は生まれているようで、その先端から何かが飛
び出すと同時に音は鳴っている。
耳が痛いほどの音。
それが続いたと思えば、最後には今までのものが可愛らしく思えるほどの爆音。そし
て炎龍の居た場所が吹き飛んだ。
1414
やったの
見た目と年齢の違いで言えば、エムロイの神官様も似たようなものだし私もエルフだ
しかしその表情には憤怒が見て取れた。肉食獣を思わせる、獰猛な表情。
らしい、まだまだ親元で蝶よ花よと育てられても良い年ごろに見える。
一体どうして⋮⋮。そう思い、それを成した鉄球の先を辿れば幼い少女が居た。可愛
その強固な筈の身体が抉れている。
龍種の中でも古龍は天災のレベルでどうしようもない存在だ。その炎龍が血を流し、
私は目を疑った。あの炎龍がその体から血を流しているのだ。
し抉れている。
見れば炎龍の近くに棘付の鉄球が落ちていた。丁度その上にある炎龍の翼が血を流
先程とは違う、地を揺らすほどの爆音と共に炎龍が悲鳴のような咆哮を上げた。
しかしそれもすぐ終わる。
い。炎龍は今までよりも怒りを露わにした状態でこちらを見ていた。
あれが当たっていればひょっとして⋮⋮、しかしそんなifを考えている場合では無
る。
どうやら先程のものは地面に当たってしまったようで、炎龍の足元が大きく抉れてい
そう思ったが中からのそりと炎龍が出てくる。
?
から見た目と年齢の違いはある。あの子もその類いなのであろうか。
そこでふと気づく。その幼い少女の髪色に何故か見覚えがあるのだ。
ふと頭をよぎった想像を即座にかき消す。
確かに先程まであの場所にあの子は居た。でもあの少女がそうなわけがない。
しかしよく見れば、少女の耳元にはあの子を思わせる獣の様な耳がある。
いやまさか。そう思っている間にも少女は鉄球を巧みに使い炎龍と戦い始めた。そ
して片翼を落とし、少ししてもう片方の翼も抉り落とす。
私は奇跡の瞬間を目の当たりにしているのかもしれないと思った。
だが、次の瞬間にはその少女も炎龍の餌食となってしまう。
そして今度こそ、炎龍は私たちに向かってきた。
父が貫いた片目は無い、両翼も無くしている。でも、それでも私たちにあれが倒せる
とは思えなかった。
やはり人類は炎龍にはかなわないのか、そう諦めた時、前に座っていた男の人が何か
を叫ぶ。
すると炎龍の後ろ、少女が燃えたあたりでまばゆい光が産まれる。
すぐに光は溶けるように消えた。そしてその中からは先程の少女が出てきた。
死んではなかった
?
『stage9:炎龍は居なかった。良いね?』
1415
そうホッとするのも束の間、少女は神々しい剣を虚空から産みだした。そしてそれを
頭上に構える。
それを見ていた炎龍が再び少女を喰らおうと迫る。
しかしそれよりも一足早く振り下ろされる剣。そして何度目かになる爆音。辺りは
土煙に包まれる。
そして土煙は晴れ、辺りが見渡せるようになった。 見れば少女の正面一帯は真っ赤に染まり、地面には巨大な亀裂、炎龍は木端微塵に
﹂
なっていた。
﹁ふえ⋮⋮
変な声が出た。
?
1416
﹂
﹃stage10:この世全ての食材に感謝して⋮⋮﹄
?
人も居るが、知りあいを失った人も居て悲しんでいる。いや、仇を討ってくれたとかで
自衛隊が居て、若干の距離を置いてコダの村人達。村人たちの中には狂喜乱舞している
し離れれば俺達が居る訳だが、そのスプラッタを起こした犯人である後輩を囲んで俺達
少し離れた場所では元火龍がスプラッタ状態で地面を赤く染めている。そこから少
改めて周りを見ればひどい状況だ。
りあえず自重。
お前さんそんなキャラじゃなかったろ、とツッコミたいがそんな空気ではないのでと
そんな後輩を見て、無言の圧力を俺に放ってくる黒川。
後輩の方を見れば未だに頭を抑えながら蹲っている状況だ。
栗林ちゃんの問いに投げやりに答える。
﹁それは俺が聞きたいんだけどな﹂
﹁結局その子は何者なんですか
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1417
泣きながら神に祈ってるっぽい人も居る。
怪我人、怪我人さんは居ないかな
居るならこれ使って
﹂
!
何このカオス。
﹁あ
!
様な物が描かれている。
﹂
これと怪我人にどういう関係が
﹁何ですかこれ。モノメイト
持っていた倉田は突然膨らんだ質量に対応できずボトルは地面に落とした。
そしてそれらは描かれていたボトルと寸分違わず同じものに姿を変え、片手で軽く
カードたちが光り出す。
結構焦っている後輩にどうしたと声を掛けようとするがそれよりも早く倉田が持つ
その様子を見て声を上げる後輩。
だ。
俺のすぐ横に居た倉田が興味津々といった様子でカードを見る。そして文字を読ん
﹁あ﹂
?
?
渡されたカードを見るとモノメイトという文字と共に緑色の液体が入ったボトルの
た。それを俺達へとそれぞれ渡す後輩。
蹲っていた後輩が突然立ち上がり、言いながら何も無い所からカードを数枚取り出し
!
1418
﹂
ガシャン、そんな音を立てながらそれぞれが地面に転がると若干後輩が涙目になる。
﹁痛いっす
とりあえず俺は落ちたものを拾い上げ、ボトルを改めて見る。
俺がやってた。
気づけば栗林ちゃんが倉田を小突いていた。よくやった、お前さんがやらなかったら
!?
俺たちの世界には当然魔法なんてものは存在しないし、怪我を治療すると言っても結
だが、後輩の良く分からない能力の中でこれが回復薬に相当するものなら助かる。
一旦近くに居る村人に怪我人をそれぞれ応急処置してもらうように頼んではある筈
事態を収拾する為に俺達は最初に後輩の所に来たが、確かに怪我人は数多くいる。
色々と説明が抜けている気がするが、どうやら後輩は怪我人を治したいらしい。
う。
未だにまだ少しションボリ気味だった後輩は、気を取り直して全員を見ながらそう言
かったら俺の所に取りに来てください﹂
し。あ、あとは一枚で足りない人は治るまで何枚か使ってほしいです。カード足りな
いてあるモノメイトってのを読むと出てくるはずだから。そういう風に設定してある
さんに飲ませてあげて欲しいんだ。俺は俺で回復手伝うからさ。まだカードの人は書
﹁カードの中に入れてあったんだけど、まぁ出ちゃったから丁度いいか。それを怪我人
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1419
局は人間そのものに宿っている治癒力を当てにしなければならないことがほとんどだ。
周りを見れば隊員たちがこちらを見ている。指示待ちのようだ。
俺は一つ頷く。
見るなり、それぞれが重症度の高い怪我人から順に手当を開始した。キャラクターは
濃い人間が多いが優秀な部下たちだ。
ボトルの空け方は見慣れない形状に反して分かりやすく、どうやら緊急時にすぐ飲め
るような形状になっているようで、隊員たちはそれを素早く飲ませていく。
﹁違うから 逃げる気は無いし最優先だからいっただけだし 忘れてくれればいい
﹁後輩、良く分からんがちゃんと説明はしてもらうからな﹂
1420
・
・
・
やっぱりじゃないか。
なと思わなくもないけど⋮⋮﹂
!
!
﹁おお
おおおお
治った
!!!
儂の足が治った
!
﹂
!!!
くに置いておくと何故か元に戻った。
何この薬。怖いんだけど。
?
ほんと何なのこの薬。その魔法チックな粒子も気になるけど⋮。
るし。何人かは負傷する前よりも元気になったと言う人も居るくらいだし。
る薬とは確実に別格のものだ。質量保存の法則とか色んな物にケンカ売ってる気がす
いやそもそもこれは薬という分類で良いのだろうか
少なくとも現代科学におけ
さすがに四肢の欠損までは治らないようだが、それでもその千切れた先がある人は近
の周りに緑色の粒子みたいなものが溢れたらありえない速さで怪我人が治っていく。
後輩が俺達に渡したモノメイトというもの、それもそうなのだが後輩が葱を振ってそ
って、現実逃避してる場合じゃなかったな。
葱を振ると人って治るんだね。すごいね。
!
﹁うわっぷっ﹂
だ。それを誇ればいいさ﹂
﹁それは仕方ないさ、割り切るしかない。ま、お前が居たことでかなりの人が救われたん
嬉しそうにしたり泣きそうになったりと相も変わらず感情が上下するやつだ。
﹁先輩、これで怪我人は全員治ったと思うよ。即死だった人は⋮⋮、残念だったけど﹂
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1421
少し乱暴に、丁度いいところにある後輩の頭をわしわしと撫でる。
実際、こいつが居なければ被害はもっと広がっていただろう。
銃では全く効かず、パンツァーファウストも直撃しなかったとはいえ効果範囲に居て
ダメージを受けた気配は無かった。後輩の攻撃がその直後にあったから少しはあった
のかもしれないが、見る限りにダメージは無かったのでまぁ直撃でもしなければ意味は
無いのだろう。
そして戦闘開始後の負傷者は居ないが、遭遇時に被害を受けた村人達の中でもすぐに
緊急手術が必要そうな村人も後輩のおかげで助かっている。
最初の内に殺されてしまった人が数人居るが、村人全体から考えればあんな化け物に
襲われた割には被害が軽微だ。
死者を数字として捉えることは心情的にはしたくないが、そう認識し、そのままを記
録し、報告しなければならないのもまた俺達の仕事である。とはいえその数字上でしか
ないものであっても少ないのはこの上なく嬉しいものだ。
﹁何でお前が首傾げてるんだよ﹂
めにやったわけじゃないんだからね
﹂
﹁いや、あれですよ、俺がやりたいからやっただけで、その、あれです。別にあんたのた
﹁不甲斐無い話だが、俺たちの装備じゃもっと被害が出ていた。ありがとうな﹂
1422
?
というか何故ツンデレ。
まぁそれはさておき、そんなやり取りを後輩としている間に全員が戻ってきている。
コダ村の人達は互いに抱きしめあったりしながら無事を喜んでいる。後輩がどうい
う存在かよりも生きていることが何よりも大事といった様子だ。
それもそうか。彼らからすれば村を捨ててでも逃げなければならないほどの存在な
のだから。
ということは後輩の事を伝えるのは第3偵察隊の面々だけで良いかな⋮⋮って、何故
かしれっとそこにエルフちゃんと杖を持った少女︵魔法少女 ︶、それから例のゴスロリ
美少女が混ざっている。
何をするのか不思議に思って混ざっているのだろうか
?
不思議がられるか。
うーん、どうせ言葉は伝わらないだろうし、この微妙な状況で無理矢理遠ざけるのも
?
俺もこの後輩がそこまでの戦力を持っているとは知らなかったから正直に言うと内
いった調子だ。
困 惑 し た 目 で 見 て い る。ゴ ス ロ リ 少 女 だ け が 興 味 深 そ う に 微 笑 み な が ら 見 て い る と
俺の横に立つ後輩をチラッと見た後に全員を見ていくと、大体がこの不思議な存在を
﹁さて、一段落したところで改めてこいつを紹介しようか﹂
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1423
1424
心では混乱している。
だって見た目は確かにファンタジーな容姿だけど、幼い少女だよ
いやもう幼女と
いや、これ以上は後で本人に直接聞いた方が良いだろう。思い込みが一番危険だ。
もできる。
いのかもしれない。そう考えれば、この後輩が持つ剣も後輩が持つ必 殺の宝具だと納得
とっておき
具だとか言って世界を壊すほどの威力があるドリルとかがある訳だから不思議ではな
ただまぁよくよく考えれば対城宝具だとか言って諸々吹き飛ばす聖剣だとか、対界宝
てるよ。
分とかでは決してない。戦闘機一機でここまでの被害を出せるなら今頃地球は終わっ
分という予想はしていた。していたが、目の前に広がる惨状を見ると確実に戦闘機一機
俺が知るFate原作基準で考えていたから、サーヴァントの強さは大体戦闘機一機
とだろう。
確かに後輩がサーヴァントだってことを知ってはいるが、まぁ甘く見ていたというこ
か。しかも一回死んだと思ったのに生きてるし。
そんな後輩が一撃でドラゴンを粉微塵にする力を持つとか誰が予想できると言うの
言いたくなる。
言っても過言ではないレベルだ。ゴスロリ少女と並べばどこの二次元から出てきたと
?
とりあえずは、目の前の隊員たちへの説明だ。
﹁この中に、Fate/stay nightって知ってる人居る
﹂
と結んだなんてのをそのまま信じられても困るが、どうしたものか。
しかしそうなると説明の仕方が難しい。Fateと同じような主従契約をこの幼女
まぁそんな気はしていた。
俺の問いに首を傾げる面々。唯一、すかさず手を上げたのが倉田だ。
?
一先ず契約をしていて、俺が主側だから何かあっても制御できるから問題ないとだけ
は伝えるか。性格を知っていれば人畜無害なのは分かるんだがな。
﹂
?
﹂
﹁どうしてそうなる
?
﹂
しかしそう思ったのは黒川だけではなかったようで、栗林が引き継ぐように話し始め
今の話からどうしてそう繋がるのか。
ボソリと爆弾を投下した黒川に間髪入れずに抗議する。
!?
﹁ロリコン⋮⋮
は命令権が合って、こいつが何かしたとしても俺が制御できるから安全だ﹂
﹁これは令呪といって、この子との契約の証みたいなものだ。この3本の令呪分だけ俺
﹁引っ掻き傷⋮⋮みたいな刺青
﹁とりあえず、これを見てくれ﹂
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1425
た。
﹁言っとくけどこいつはもう30代だ
﹂
﹂
﹁女の子の年齢を暴露するなんて最低です
﹁そこ
﹂
ってか俺より年上
﹁実際は40歳越えてるけどね﹂
﹁お前はお前で爆弾投下すんな
胡散臭いのは俺が一番分かってるよこんちく
!?
﹁アインツベルン
﹂
とになってるけど、まぁコウジュって呼んで下さいな﹂
﹁まずは初めまして。俺の名前はコウジュスフィール=フォン=アインツベルンってこ
もの凄く不安だが、俺も知らないことがあるからその方が良いのだろうか。
﹁まぁまぁ先輩、ここは俺から話すよ﹂
しかし、そんな俺へと救いの手が差し伸べられる。
そう心の中で嘆くも話を続けないといつまでも立往生だ。
しょう
ああもうどうしてこうなるんだよ
!
!
!
!
!?
!
﹂
臭いですが、それにしても設定を付けるならもう少しましなものをですね﹂
﹁いやだってこんな幼い子に対して命令権って⋮⋮しかも3回も。そもそもの話が胡散
1426
!?
﹂
俺は元々この世界でも無く、勿論門の向こうにある地球ではな
倉田が反応したので後ろからすかさず羽交い絞めにする。
﹁えーっと、続けるよ
い所から迷い込んだ存在なんだ﹂
﹂
!
﹂
?!
﹁俺は前に居た世界でとある戦争を何とか生き抜いて、役目が終わった俺はなんでかこ
何かサラッと重い事実が⋮⋮。
るために遺伝子情報を操作して肉体性能を向上させた種族、それがビースト﹂
﹁俺の種族は故郷ではビーストって言われる種族なんだ。過酷な各惑星の環境に適応す
倉田が反応したのですかさず落としておく。
﹁ケモ耳
﹁俺は厳密に言えば純粋な人間じゃないんだよ。ほらケモ耳もある﹂
そんな栗林を見て満足したのか再び元の姿に戻った後輩。
普通驚くよな。俺も最初はかなり驚いたものだ。
その姿を見て驚く栗林。
﹁あ、いつも隊長と一緒に居た子
言いながら後輩はあの黒い泥を身に纏って子狐の姿になる。
﹁そうなるっすね。例えばほら﹂
?
?
﹁それは特地とは違う異世界ってこと
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1427
の世界に流れ着いた。だけどこの世界で何をすればいいのか分からなかった。そんな
俺に目的をくれたのが先輩なんだ。
知り合ったのはネットなんだけど、そこで大学を紹介してくれたり、色々教えても
らったり、平凡な日常ってやつを一緒に楽しんだ。だから俺は先輩って呼んでるんだ。
けど、あの銀座事件で全てが変わってしまった。
あの日も俺と先輩は祭りに一緒に行こうとしてたんだけど、待ち合わせしてたその近
くで門が開いた。そこで契約を先輩と結んだんだ。まぁ結果的に念話とか出来るよう
になったから良かったんだけどね。
コウジュ
それで、あとはがむしゃらに門の向こうから出てきた奴らを倒したり、先輩が心配だ
からこっちの世界に付いて来たって感じ﹂
リンクもちょっと近未来チックなものだったし。
宙進出したかなり文明の進んだ世界ってことだろうか。そういえば先ほど渡されたド
例えば各惑星の環境ってとこだけど、つまり聖杯戦争に参加する前の元々の世界が宇
出てきたな。
色々と抜けている気がするが︵あえてだろうけど︶、今の話だけでも気になるワードが
チラリと俺の方を見て、補足するように念話を送ってくる後輩。
﹃一応嘘は言ってないよ﹄
1428
あとは役目。役目って何だろうか。誰かの指示で後輩は動いているってことか
うーむ、判断が付かない。この辺りも改めて後で聞くか。
とりあえず後輩の話を噛み砕けた俺は他の面々へと目を向ける。
?
ら後輩を見ていた。
何この状況。
?
何せ一番肝心な後輩の戦力に対
ひょっとして後輩はこうなることが分かっていて今の説明を
そう思い後輩の方を見てみる。
しかし何故か後輩の方がキョトンとしていた。
思惑と違ったのかよ。
﹃何で俺は優しい目で見られてるの先輩﹄
実際に念話まで送られてきた。
?
遺伝子操作されて産まれた種族で、この幼い形で戦争にも参加させられたけど何とか
いや待てよ。
する言及がない。話の内容的には精々が後輩の背景でしかない。
しかし今の穴だらけの説明で何故こんなことに
何て恐ろしい奴だ。
なんか黒川が涙ぐみながら後輩を見ていた。というか他の面々も優しい目をしなが
﹁そうなの、そんな過去があったのね⋮⋮﹂
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1429
生き残った。しかしそれだけでは終わらず次の戦争に放り込まれそうだったが何らか
の事情で地球に到達。そして俺と出会い、知ることの無かった日常に溶け込んでいた
⋮⋮なんて風に取れなくもないか。
実際には俺が出会った時点で良いマンションでジャージ生活してるようなやつだっ
たわけだが、でもそれほど間違ってないという話だったし、実際に聖杯戦争にも参加し
ていたとも言っていたから結構な苦労を後輩はしてきたのだろうか。苦労なんて言葉
で片付けて良いかは別として。
﹂
?
すげぇ
!?
ってことはこの子は英雄 ああでも確かに英雄なら
﹁いや、あのな倉田。それは│││﹂
﹁マジなんですね
!?
されたら意味が無い。
しまった。折角みんなが納得してくれそうだったのにここで二次元の話を混ぜっ返
気づけば復活していた倉田がご丁寧にも手を上げながら質問してくる。
してた戦争って⋮⋮聖杯戦争
﹁あの、隊長さっき言ってたいくつかのワードから考え付いたんですけど、その子が参加
うーん、やはりこれも後で詳しいことは本人に聞こう。
っと、しまった。気づけば俺も後輩を優しい目で見ていたらしい。
﹃何で先輩まで優しい目で見てんだよおい﹄
1430
!!
あの力も不思議じゃないっすね
異世界とケモ耳は本当にあったんだ
﹂
?
﹁そんなのあの力を見たら信じざるを得ないじゃないですか﹂
﹁えっと、何で今までの話を信じられるんだ
まだすべてを言ってないのに何故か一人納得してしまった倉田。
!
みたいなのが居てもおかしくは無い⋮⋮のか
﹁あの、聖杯戦争って何ですか
今度は栗林が質問してきた。
それに英雄
﹂
?
﹂
!!
しかし今度は悲しげな表情で後輩を見る面々。
栗林の質問に後輩自らが答えた。
﹁それが、さっき言っていた戦争⋮⋮﹂
その内の一人が俺だったってことですね﹂
去 現 在 未 来 に お い て 活 躍 し た 英 雄 を 従 者 と し て 呼 び 出 し た 存 在 の こ と を 言 う ん で す。
のマスターと、それに従う7人のサーヴァント。そしてそのサーヴァントというのが過
﹁聖杯戦争ってのは万能の願望器〝聖杯〟を掛けて殺し合うせんそうのことっす。7人
?
まぁでも信じてくれるならそれで良いか。実際にそうなわけだからな。
?
実際に今も異世界に居る訳だし、エルフだってドラゴンだって居た。そんな中で後輩
﹁あー⋮、それもそうか﹂
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1431
﹁まぁあれですよ。聖杯戦争自体には負けましたが、こうやって生きてるので大丈夫で
すって﹂
そんな面々を見てやっと自分がどういう風に見られているのかに気付いたらしい後
輩は場を温めるためにか力こぶを作る様なポーズをしながら笑みを浮かべ大丈夫だと
アピールする。
すると今度は隊員たちの目が無理に虚勢を張る後輩へと痛々しいものを見る目を向
ける。ぶっちゃけ逆効果だったようだ。
苦笑する後輩。
仕方ない。とりあえずここらで話を切ってしまおう。いつまでもここで立ち往生し
ているわけにもいかない。
勝手を言っているのは承知している。これだけのことをやってしまったのだからそ
俺は言いながら頭を下げる。
﹁先輩⋮⋮﹂
掛け合ってみる﹂
から、一先ずはこいつを現地協力者ってことにしてほしい。場合によっては俺から上に
もらった通りにこちらの世界でも異常だ。けどこいつは普通の生活をしてたんだ。だ
﹁まぁそんなわけで、俺はこいつの存在を隠しておきたかったんだ。こいつの力は見て
1432
の内上層部にもバレてしまうだろう。だが、少しの間だけでも後輩を逃亡生活から遠ざ
けてやりたいのだ。
こいつはあの銀座もいま戦ったのも周囲の人間を助ける為だったのだ。なのになん
で救った張本人が追われなければならないのだ。
後輩自身はそれらを振り切るほどの力を有しているのかもしれない。
でも、そうじゃないはずだ。
賞賛しろとまでは言わない。でも、平穏な生活を送らせてやるくらいの事はしてやり
たい。
何とか出来ればいいのだが、俺の地位は中間管理職も良い所だ。実質的には何の力も
無い。
何か手は無いものか⋮⋮。
﹂
最悪の場合はこちらの世界に紛れ込むというのも考えないといけないかもしれない
な。
!
見れば周りの面々も敬礼をしながら微笑んでいる。
た。
考え込んでしまった俺に威勢の良い声で敬礼と共にそう言ったのはおやっさんだっ
﹁了解しました隊長殿
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1433
﹁良いのか
﹂
?
﹂﹂﹂﹂﹂
!!
﹁あ、先輩。ちょっと待って﹂
た。
一先ず乗せ終わったので次は何をするかと辺りを確認していると、後輩が近寄ってき
俺は俺で、エルフ少女たちを車へと押し込んでいく。
そうして隊員たちがそれぞれ撤収作業に入った。
﹁﹁﹁﹁﹁了解
﹁それじゃあ皆撤収作業に入ろうか。いい加減コダ村の人達を送ってやんないとな﹂
何はともあれ、受け入れられてよかった。
本語になっているが、まぁ仕方ないだろう。
そんなおやっさんを涙を流しながら笑みを浮かべて見る後輩。感動のあまり変な日
﹁おやっさんさん⋮⋮﹂
そう良い笑顔で言うおやっさん。
子に我々が何かしたとなると全国民が敵にまわってしまいます﹂
民に愛される自衛隊だそうですからね。こんな⋮まぁ見た目だけらしいですが可愛い
であるとのこと。守ることはあれ非難する理由なぞありますまい。それに隊長曰く国
﹁我々の任務は民間人を守ることであります。聞けば彼女は普通に生活をする一般市民
1434
﹁どうした
﹂
?
紅くなっていた部分の全てを覆い尽くした。
そしてそうこうする内にゆっくりとだが広がっていっていた影の様なものはついに
足りないようだが剣の形にしたりとかもしていたし色々と便利なものだな。
これって変身する時に使ってたりドラゴンと戦う時に使ってたやつかな。強度的に
く。
ボソリボソリと呟くと同時、後輩の影がどんどんと広がりながら紅い大地を覆ってい
﹁薄く、薄く、広げて⋮⋮﹂
そして徐に大地へと手を付ける。
言うなり、紅く染まった大地へと近づいていく後輩。
﹁了解っす。ちょっとやってみる﹂
事だし﹂
﹁出来るのか 出来るならその方が良いだろうな。変な感染症でも発生してしまうと
?
割れでも起こったかのようにめくれ上がった大地。
﹂
後輩が言いながら目を向けた方へと俺も目を向ける。そこには紅く染まった上に地
﹁これ、どうしよう﹂
?
﹁一応このスプラッタだけでもどうにかした方が良いよね
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1435
﹁回収、回収、包み込むように⋮⋮﹂
広がっていた影が、今度は徐々に後輩へと戻っていくように小さくなっていく。
だが驚くことに、その覆っていた部分から影が除けられると散らばっていた血肉が無
くなっていた。
どんどんと狭まっていく影の範囲。勿論その通り過ぎた下にも紅い大地は残されて
いない。
気づけば影は後輩の元まですべて戻ってきていた。
﹁違うよ
﹂
?
﹂
?
いつから俺はそんな何でも食べるような食いしん坊キャラになったんです
﹁飲み込むって⋮⋮、食うのか
﹁そうっすね。後はこれを飲み込むだけ﹂
﹁ひょっとしてそれの中にさっきのやつが
その手には先程の黒い影が凝縮したような丸い球体。
後輩は地に付けていた手を離し、そのまま立ち上がった。
﹁まぁ冗談はさておき、実はまだ集めただけなのでどうにかしないと﹂
﹁出来てたまるか﹂
﹁いやぁ、これは初挑戦だったりします。やればなんとかなるもんですね﹂
﹁そんなこともできるのか﹂
1436
?!
か
﹂
目を反らしながら言う後輩。
﹁あー、いやまぁ確かに食いますけど⋮⋮﹂
﹁いやだって実際によく食うし﹂
!!
から│││﹂
﹁何言ってんすか。というか変な想像させないで下さいよ。これでも集中してるんです
圧縮した後に取り込みそうな勢いだな﹂
﹁なんというか、影のゲートのイメージって影に沈んでいくものだけど、後輩のそれって
俺もそれなりに2次元の世界に触れてきたからこそだとは思うのだが││、
フィクション
しかし、そこでふと思う。
大きな物も入れられる方が便利だろう。
確かに、アイテムボックスの話は聞いていたが手に持てる物という制限があるよりは
﹁なるほどな﹂
利だと思ったんですよ。現状だと手に持てる物しか入れられませんから﹂
ト的なこと出来ないかなぁって。そしてそのままアイテムボックスに放り込めたら便
﹁これはちょっとした思い付きの実験でもあるんですけどね。この泥を使って影のゲー
『stage10:この世全ての食材に感謝して……』
1437
│││ケプ。
どこからともなく、というか、割と近くから可愛いゲップの様な物が聞こえた。とい
うか後輩からだった。
﹂
﹁え
?
ほんとに食べたの⋮
﹂
﹁え
?
?
1438
︵ガタ﹄
さてさて、戻って参りましたアルヌスへ
!?
泥
だけどね。まさかアイテムボックス通り越して胃の中に⋮というか消化すら通り越し
それが無理だったとしても寄せ集めて掌サイズにしたものをほおり込もうと思ったん
んをイメージした影魔法の転移みたいに影から直接アイテムボックスに入れるか、最悪
ゲー ト
アイテムボックスって手で持てる物しか中に入れられないから、ネギまのエヴァにゃ
も俺の一部みたいなものだもんな。
それにしてもあの泥ってあんな風にも使えるんだねぇ。まぁよくよく考えればアレ
まった。
いやー、先輩が思わず変なことを言うから想像をしちゃった所為で本当にそうしてし
た。
い眼で見られるが︶俺は再び狐モードとなってアルヌスにある前線基地へと戻ってき
何とか説明を終え、第三偵察隊のメンバーにも居ることを認められた︵やたらと暖か
!
﹃stage11:夜戦
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1439
1440
て養分になるとは思わなかった。
とりあえずお腹を壊したりはしなかったけど、どうせ食べるならドラゴンステーキと
か食べてみたかった。
さておき、その所為で嫌なことに気付いてしまったんだよね。俺は今までラーニング
能力が何処から来ているのかとずっと悩んでいたわけだがそれの答え、それこそがその
〝嫌なこと〟だ。
以前に俺は、ラーニングというチートを貰っている筈なのにその表記がステータスに
無いことを不思議に思った。消去法で﹃獣の本能﹄が関係するのかななんて思っていた
が、所詮は推測だった。
けどそれが正解だったんだ。
俺がラーニングだと思っていたものの正体は﹃獣の本能﹄の中でも〝幻想を現実に〟
の方になぞらえて言うなら﹃喰らう程度の能力﹄とでも言うべき部分。攻撃を喰らうの
もそうだが、そのものを喰べることでもその効果を発揮するものだった。厄介なのはむ
しろ後者こそがその本質なところ。まぁ喰らう︵意味深 とかじゃないっぽいのが唯一
の救いか。当然ながら実行して確かめたって訳じゃないけど、無い⋮筈。
俺はこの能力を貰った時にラーニングという所から一度技を喰らったり実際に見る
ことでその技に対する理解を深める必要があると考えていた。だからそっちの方向で
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1441
ばかり使用していた。
だけど今回炎龍を偶然にも食べたことでその本質が自然と理解できてしまった。
冷静に考えれば確かに獣の本質は喰らうことでそれを自身の血肉としながら生きて
いくもの。知能の高い獣なら経験によって学ぶことも可能。どうりでアーチャーから
ラーニングした投影を自分なりに解釈しようとしたときに食べ物系に偏ってしまった
訳だ。つまり俺の腹ぺこはこの能力から来てたわけだな。
しかもこれにはかなりエグイ部分があって、技を喰らった場合はその技だけをスキル
の様に得ることが出来るが実際に食べてしまった場合はそいつの本質を血肉にしてし
まうみたいなんだ。因子を得るとでも言うべきなのかな。
そう、因子だ。いつだったか、あればいいなと言っていたあの因子だ。
つまり、なんだ⋮⋮、俺は獣化だけじゃなくて龍化できるようになっちまったんだよ。
なんかね、炎を吐けるようにもなったし、ちゃんと翼で飛ぶこともできるようになった
んだ。
しかも今までの様に技だけをコピーした訳じゃなくその本質を得た訳だから、その技
をなぞるだけではなくて、最初から応用が可能なんだよなぁ。
例えばヒトの姿のまま龍翼を出して飛んだり、炎を吐いたり。腕だけ龍にするとかも
余裕でした。10年どころではない今までの練習とは一体⋮⋮なんてレベルである。
1442
まぁ人状態のままで炎を吐く姿はかなりシュールなんですけどね。あ、でも﹃恋する
ドラゴン﹄ごっこは出来るようになったのでちょっと嬉しかったです。あと、ライダー
正直これって完
戦で使ったホワイティルウィングもちゃんと使ってあげられるよ。姿勢制御に使える
程度の飾りでしかなかったしね。
でも、なんだかドンドン人から離れていくのは気のせいだろうか
ドラゴン
それは〝炎を吐こうとする〟ことで〝炎が口から出る〟という現象を導き出してい
をその口から掃き出しその火力で以てして焼き尽くすことが出来る。
例えばブレスだが、炎龍は身体の中に炎を吐くための器官が無い。しかし実際には炎
食べたことで理解したんだが、どうやらこれは一種の魔法らしい。
りという器質的な機能を持っている訳では無かったみたいなんだ。
いうイメージだと思う。でも実際には炎龍に関しては実際に炎を吐いたり空を飛んだ
炎龍⋮⋮というか竜と言えば空を飛び、炎を吐き、その爪牙であらゆるものを屠ると
たかな。
特に〝炎を吐く〟ということと〝翼で飛ぶ〟という部分を理解できたのが大きかっ
ただ、悪いことばかりでもないのは確かなのだ。
う今日この頃 全にラスボスとかとして倒されるべき存在に成って行ってるんじゃないだろうかと思
?
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1443
るからみたいなのだ。
翼に関してもそう。
あれは翼によって浮力を得るのではなくて、〝翼を羽ばたかせる〟ことで〝空を飛ぶ
〟という結果を持ってきているようなのだ。
理屈はわからない。
いや、何やらここにあってここではない何かから結果を抽出してこの世界に導き出し
ているというのは分かるんだが、感覚でしかないのだ。炎龍自身も本能的に理解してい
るだけだったみたいだし。だから口にして説明しろと言われても難しかったりする。
なんというか、法則とかは分かるけどそれを構成する数字そのものの意味とかはわか
らない・・・みたいな。あ、重力があるから物が落ちるのは分かるしどうすれば物が落
ちるという現象を起こせるかは分かるけどその法則を表す数式がなぜそう出てくるか
はわからない・・・みたいな
他にも出来そうなことが増えてそうだし、暇を見てまた修行かな⋮⋮。
ことにした。
は知っている訳だし、中身が日本人な俺としては別に構わないかなと無理矢理納得する
けど現代日本人だってテレビの構造を知っている訳でも無いけどテレビを見る方法
うん、結局俺の頭じゃ理解しきれていないだけなんだろうけどね。
!
1444
話が変わるがコダ村の人々についてだ。実は、大半の人があの後そのまま村へと戻っ
ていったんだよね。
ま ぁ 炎 龍 の 脅 威 が 去 っ た こ と を 目 で 見 て 知 っ て い る の だ か ら そ れ も 無 理 は な い か。
かなりの上機嫌で戻っていきましたよ。何故か拝まれたが。
ただ、残りの村人に関しては俺達と共にアルヌスまで戻ってきている。
というのも、その残った人たちというのは身寄りの無い子供や老人、比較的若い人で
も再出発する為の資材すら失ってしまっていたりという人たちなのだ。
・・
火龍によって馬車ごと襲撃され、何とかモノメイト等により当人は回復できたが俺の
力では物を治すことはできない。だからその身一つという人たちが大勢出来てしまっ
た。
無事であった人々にどうにかならないかと先輩が交渉してくれたが、同じ村仲間とは
いえ他者を養うほどに余裕がある訳でも無く、どうしようもないとのことだ。それはア
ルヌスまで来た人たちも納得できなくとも理解していて仕方がないと言っていた。
それに無理矢理に家へと戻ったとしてもあるのは家だけ。更にコダ村は一番近い集
落からでもそこそこ離れている為、再出発しようとも稼ぎ口が無い。畑を作ろうにも実
るまでに飢え死にしてしまう。どちらにしろ生きるための糧が必要なのだ。
さてどうしたものか、とみんなで悩んでいると先輩が﹁任せろ﹂と言って引き連れて
基地まで戻ってきてしまった。
まぁ当然の如く上司からはこっぴどく怒られたらしい。子犬を拾ってきた子どもに
しかし捨てる神あらば拾う神ありとでも言うべきか、その怒った上司のさらに上︵陸
﹁拾ってきたところに捨ててきなさい﹂と怒る親のようだったとのこと。
長さんだったかな︶が難民として受け入れると言ってくれたらしいのだ。危ない危な
い、もうちょっとで嫌がらせしに行くところだったよ。
そんなわけで、人道上の配慮ってことから受け入れられた元コダ村の人達。あ、エル
フちゃんと黒ゴス様も一緒だな。あと何故か本を大量に荷台に積んだ杖持ちの御爺さ
んとクール系美少女も。
そして先輩はそんな彼らの保護・観察を言い渡され、第三偵察隊の面々と生活環境を
作っている最中なのだ。
﹄
?
?
自ら背負い込んでるわけなんだからさ﹄
﹁見てられないからって炎龍に喧嘩売った奴もどっかに居た気がするんだが
﹂
﹃後味悪いからってその後を引き受けるなんてのがさすがって言ってるのさ。面倒事を
﹁違うよ、ただあのまま見捨てるのは後味が悪いなって思っただけだ﹂
﹃いやはや、さすが先輩ってところかな
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1445
﹃⋮⋮﹄
通路を歩く先輩の帽子上に子狐モードで乗っかっている俺。そんな俺を突きながら
﹁おい黙んなよ﹂
先輩は避難民を保護するために必要な書類を取りに向かっているところだ。
﹄
俺は念話で、先輩は小声で、怪しまれない程度にコミュニケーションを取りながら俺
は帽子の上で揺られる。
﹂
﹃さっきの柳田って人が言ってたこと、ほんと
﹁特地の価値がどうとかって話か
﹃そう﹄
人さん部隊も居たのだ。それもかなり殺傷力の高い武器も携えていた。殺す気は無く
俺自身あの銀座事件以降、俺を確保しようとしたのは日本だけではなく結構な数の外
を確保する価値があるかどうかを知りたいのだそうだ。
す必要があるという話だった。そして日本の上層部は、世界を敵に回してでもその資源
あり世界各国が狙っており、だからその資源を独占する為には世界の3分の1を敵に回
簡単に言えば、この特地には未だ発見されていない資源等が数多く存在する可能性が
さっきまで話をしていたんだが、それが中々に込み入った話だった。
柳 田 二 尉 と 先 輩 が 呼 ん だ ち ょ っ と ナ ル ⋮⋮ キ ザ な 感 じ の 男 性。そ の 人 と 先 輩 が 今
?
?
1446
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1447
とも腕の一、二本は仕方ないと言わんばかりの勢いだったのを覚えている。
それだけ未知の可能性というものが喉から手が出るほど欲しいのだろう。ほんと、物
騒な話だ。
でも資源を外国に頼っている現状の日本だからこそ、外交の武器となる一手が欲しい
のも確かだろう。
例えば現在諸外国に頼っている状態の食物が特地で生産できるようになったとする。
それを考えるだけでも貿易によって支払っていた金銭等が浮いてくるわけだから莫大
な利益が出てくるはずだ。
当然そんな単純にはいかないだろうが、陸続きで東京のど真ん中に広大な土地が増え
た訳だから諸々の問題点を無視してでもそんな方向に行くかもしれない。輸出に関し
ては、食品で言えば〝日本ブランド〟という安全性が買われている部分もあるから逆に
特地での生産によってブランド性が揺らぐ可能性もあるが。
他にも輸出入に関して安全性の問題点がニュースでよく取り上げられたりするが、門
の向こうとはいえ同じ日本国内とするならばそれも大幅に減少するだろう。
あまり詳しくない俺が単純に考えただけでもそれだけパッと思いつくのだから、専門
家が考えればもっと出てくるだろう。
さておき、そんな話をついさっきまで夕日を背に男二人が語り合っていた訳だ。俺の
場違い感半端なかったと思うよ。
けどその話も終わり、釈然としない気持ちを俺も先輩も抱えながら最初の目的であっ
た書類の回収へと向かっている。
そもそも何故そんな話が先輩の所に来たかというと、特地に詳しい〝特地の住人〟と
一番コミュニケーションを取り、一定以上の信頼を得ているのが先輩だからだそうだ。
もやもやする
﹂
これ
自業自得と言われてしまえばそれまでだが、どうにも話が大きくなりすぎている気がす
る。
﹁あー、くそぅ
でもそれなりに強いんだからさ﹄
﹁⋮⋮﹂
﹃いや黙んないでよ先輩﹄
﹁恥ずかしいセリフ禁止﹂
!
﹃それをおっさんに言われてもなぁ⋮⋮﹄
﹁ああお前言ってはならんことを 30代ってのはナイーブなんだぞ
このロリB
﹃先輩が襲われても俺が守るから大船に乗ったつもりで居てくれていいんだぜ
﹁なんだよ﹂
﹃確かにいきなり世界がどうとか言われてもねぇ⋮⋮。けどさ、先輩﹄
!
!!
?
!
1448
﹂
まだ40代だからセーフだし
﹄
﹄
!
BA
﹃先輩こそ言ってはならんことを
﹂
こちとら成長できるもんならしてるわ
﹁年上に見えないんだよこの幼女
﹃煩いわ
!!
! !!
!!
も暫く先輩との言い合いは続いた。
◆◆◆
﹁そう言うなって。難民の皆に自活してもらえるのはかなり大事だろ
?
ケモミミ触らせて
﹂
﹁そりゃそうですけどね⋮⋮。うーん、狐ちゃん⋮⋮じゃなかったコウジュちゃん
俺を癒して
!!
!!
!
﹂
売り言葉に買い言葉。先程までのモヤモヤとしたものなどどこへ行ったのか、その後
!
﹁今から暫くは俺達運送業者っすか⋮⋮﹂
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1449
﹁嫌です真面目に運転してください﹂
﹁そんなガチで言わないでよ⋮⋮﹂
﹁だって倉田さん尻尾が無いからって溜息吐いたし﹂
﹁あれはほら、ケモ耳と尻尾はセットだって固定観念が⋮⋮ね
﹂
﹁どうせ俺は尻尾無しのはずれですよ。というか獣度は内面も大事だし。語尾とか
!
﹂
それにモフモフと言えば肉球と尻尾でしょ 耳だけってそれ
!
!?
頭の上が少し寂しくなった︵髪的な意味ではない︶様なスッキリしたような微妙な気
部分もあるみたいだが⋮⋮、まぁ大丈夫だろう。
しかも二人ともモフモフ好きらしいから余計だろう。その所為で意見がぶつかり合う
倉田はこの部隊で唯一俺以外にオタ話が出来る存在だから割と仲が良かったりする。
くるが倉田の上から避けることはせず、そのまま居座ることにしたようだ。
同時に後ろから羨ましげな声が聞こえたがさておき、後輩は何だかんだ文句を言って
上に置き直す。
どうでも良いが俺の頭の上で話し込まないでくれ。そう思い頭の上の後輩を倉田の
﹁月夜ばかりと思うなよ﹂
ほぼコスプ⋮⋮、あ⋮⋮﹂
萌えるじゃないか
﹁いーや、やっぱり見た目からの獣度も大事だと思うね 肘膝までケモってるとか超
!
?
1450
分のまま改めて前方を見る。といってもあぜ道にも似た舗装されていない道がただ続
くばかりだが。
右を見れば山。左を見れば草原。先を見れば終わりの見えない道。
先日と違い馬車や徒歩の人と同速で動いている訳でも無いからそれなりのスピード
は出ているが、それでも話を聞く限りそれなりの距離があるそうだ。
予想ではもうすぐだと思うのだが、いつ終わるのやら。
現在俺達はHMVや装甲車を使い、いつもの第三偵察隊に加えてテュカ︵エルフ少
女︶、レレイ︵杖を持った少女︶、ロゥリィ︵黒ゴス少女︶と共にイタリカという町へと
向かっている途中だ。
というのも、元コダ村の人達を難民として迎えるのはいいが当初の目的である自活す
る方法をどうするかという話を詰めている際にレレイが翼竜の鱗を売りたいと言い出
したのだ。
話をする前日にレレイが敷地外で的と化していた翼竜を見て何やら思案顔で鱗が欲
しいと言ってきたのはその為だったらしい。
こちらとしては固いだけの的でしかなかったし自活方法の準備金になるのならと許
﹂
可し、それを売りに行くのが今回の目的である。
﹁なんか焦げ臭くない
?
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1451
唐突に鼻をくんくんとひくつかせながら言う後輩。
その言葉に倉田も同じように鼻をひくつかせるが何も分からなかったのか首を捻る。
それによって後輩が落ちてしまい、後ろから﹁あ⋮﹂と声が漏れる。俺は知らないか
らな倉田。
さておき、焦げ臭い臭いなんぞ俺も感じないが、なんだろうか。
﹁これ、血の臭いも混ざってる﹂
﹂
あ、あれか﹂
前方に煙が見えます﹂
?
うだ。
﹁俺達が向ってるのって、あっちだったよな
﹂
双眼鏡を取り出して見れば、周囲の物から目測で考えても結構な範囲で燃えているよ
目を凝らし前方を見れば、今進んでいる道のはるか先で黒煙が確かに上がっていた。
﹁うーん
﹁隊長、あれじゃないですか
転げ落ちた後輩は器用に俺の方まで登ってくると、今度は物騒なことを言いだした。
﹁何⋮⋮
?
?
うへぇとあからさまに嫌な顔をする倉田。恐らく俺も似たような顔をしているだろ
﹁言うなって、俺も今そう思ってたところなんだから﹂
﹁ですねー。というか黒煙を見るのこれで2度目ですよ。さすがに嫌になります﹂
?
1452
う。
全く以て嫌になるよほんと。
どうして異世界に来てまでこんなに争いごとばかりなんだか。夢も希望も無い。
しかもどうやらその煙の出ている場所がイタリカのようだ。
﹂
つまり俺達はその煙の元へと行かなければならない。
﹁今からあそこに行くのよねぇ
?
﹂
俺達とは違い、笑みを浮かべながら座席の隙間から顔を覗かせたのはゴスロリ少女
だ。
?
?
らったんだが、あのゴスロリも神官服だかららしい。
ってあれ、今ナチュラルに日本語話してなかったか
覚えた
﹁嫌な臭いだ﹂
?
ひょっとしてレレイみたいに
そ う い え ば 彼 女 は 死 と 断 罪 を 司 る 神 に 仕 え て い る ん だ っ け か。レ レ イ に 教 え て も
嬉しそうに言う彼女に、思わず引き攣った声が出る。
﹁そ、そうですか⋮⋮﹂
﹁いいえぇ。ただ争いの〝匂い〟がしたからぁ﹂
﹁あ、ああ。だけどどうした
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1453
﹁そぅ、でも死を否定していては人は生きていけないのよぉ
﹂
?
﹂
◆◆◆
﹁はっ
?
!?
﹁あ、気づいたの
﹂
とりあえずイタリカに向かおうか。当初の目的通り。
俺は無言で一つ頷く。それに返すようにうなずく倉田。
俺は倉田の方へと顔を向ける。丁度倉田もこちらを向いたところだった。
何故か突然シリアスが始まってしまってるんだが⋮⋮。
車内を包む沈黙。
その言葉に思う所があったのか、後輩は思い詰めたように下を向く。
死を否定してると生きていけない、か。
ボソリと後輩が口にした言葉に、諭すように言うロゥリィ。
﹁そう⋮、なのかな﹂
1454
目を覚ます。と同時に視界に広がったのは黒川さんの顔だ。
何この状況。俺は気を失っていたのか
が経っているようだ。
素直に聞いてみるか。
﹂
﹁何でそんな所に⋮⋮
﹂
?
﹁ほら、伊丹二尉と一緒に門の前まで行ったでしょう
﹁あ﹂
その時突然門が開いて⋮⋮﹂
窓の外を見れば既に日は落ちているようだし、気を失う前から考えてそれなりに時間
ふむ、それにしてもここはどこだろう
ある花瓶一つで幾ら位になるのだろうか。うん、考えたくない。
庶民的な感性しかないから高そうとしか言えないが、買おうとしたら端の方に置いて
さだ。よく見れば部屋自体もレトロな雰囲気だがかなり豪華な内装となっている。
どうやら俺はベッドの上で寝かされているらしく、それもダブル位はありそうな大き
ちょっと照れるので、誤魔化すように辺りを見回す。
?
?
﹁ここはイタリカのフォルマル伯爵家よ。その客室﹂
?
そうだ。そうだった。
?
﹁えっと、ここは
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1455
イタリカに着いた時、門内からいきなり門が開いて先輩諸共頭をぶつけたんだった。
﹂
考え事をしていた所為で反応が遅れ、子狐モードだから防御も低い状態だから普通に
意識を失ってしまったようだ。
﹁傷はいつの間にか治ってたけど、大丈夫
えしなければ⋮⋮。
?
先程︵と言っても俺の記憶で言えばさっきなだけだが︶黒ゴス様が死を否定してはい
血の臭いを嗅いでにわかに騒めくこの身体も、嫌になる。
まったく、こっちに来てから闘ってばかりだ。嫌になる。
それでイタリカから煙が上がっていたのか。警戒していたのもその為ってことね。
﹁夜襲、夜襲ねぇ﹂
請を受けたのよ﹂
﹁伊丹二尉ならここのお嬢様達とお話し中よ。夜襲があるかもしれないらしくて救援要
﹁そういえば先輩は
﹂
ん。ほんと大和撫子という言葉をそのまま人物にしたような人である。これで暴走さ
元気なのをアピールするようにピョンと宙返りしてみると、御淑やかに微笑む黒川さ
﹁なら良かったですわ﹂
﹁うん何処も異常は無いよ。むしろ寝た分元気なくらい﹂
?
1456
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1457
けないと言っていたが、俺には未だに良く分からない。
確かに人はいつか死ぬものだ。俺は死ねなくなったが、ヒトのつもりだ。神になれと
言われたとしても、ヒトのままであり続けたい。
だからと言って、死を肯定する気にはなれない。
誰だって命を失うのは嫌だし奪うのも嫌な筈だ。
だけど夜戦が起こるということは、また人の命が失われるのだろう。
な ぜ そ う も 簡 単 に 命 の 奪 い 合 い が 発 生 す る ん だ。皆 楽 し く 笑 い 合 っ て い れ ば い い
じゃないか。ハッピーエンドで良いじゃないか。
争うこと自体を否定はしない。それが無ければ前へと進めない時というのは幾らで
もある筈だから。
けど、今から起こるのは殺し合いなのだそうだ。
はぁ、と溜息が出る。
止め止め、考え込んでも答えは出なさそうだ。
とりあえず〝死んで欲しくない〟と思っておこう。
俺のスタンスは変わらない。
悲劇を見たくない。それで良いじゃないか。
それ以上を考えてしまうと、またあれこれ手を出し過ぎて自分だけの手に余り出す。
﹁それであなたはどうする
﹂
放って置きたくないんだ。
いや違うな。
て置く訳には行かない。
聖杯戦争時代から変わらずのスタンスを貫くのなら、今から起こる夜戦ってのを放っ
まぁさておき、だ。
でも狐状態なのになんで表情読めるのこの人。
ふむ、どうやら俺が考え事を終えるのを待ってくれていたようだ。
を見ながら微笑んでいる。
ただ先送りにしただけの思考のぶった切り、それを終えたと同時に掛かる声。俺の顔
?
チートスペックで以て返り討ちにしてやる
!
最近大規模戦が多いし、ちょっと手札を増やしたかったところだ。
さぁやってやろうじゃないか。
俺は立ち上がり、ベッドから飛び降りる。
それにいい考えがあるんだ﹂
﹁それじゃあ先輩の所に向かわせてもらおうかな。ちょっとやりたいことが出来たし。
1458
『stage11:夜戦!?(ガタ』
1459
ところで黒川さん扉開けてくれないかな。そんな所で微笑んでないでさ。
子狐モードだと届かないんだ。
﹃stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでし
たね﹄
その支配地域は留まるところを知らない。
﹂
相手国はこれまでにもいくつもの国を併合してきた﹃帝国﹄だ。その全てを飲み干し、
数年前、自らが所属する国で戦争が起きた。
しかしそれも遠い昔の話だ。
なっていた。
子どもながらに国を守りたいと願い、志願し、いつしか数百人の兵を率いる長とまで
男は兵士であった。
僅かな望みすら潰えたのか、この世の終わりを嘆くようなそんな声だ。
戦場に、男の嘆きが響く。
﹁こんなものを、こんなものを求めて俺達は
!!!!!
1460
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1461
こちらの国が何かしたわけではない。あえて言うなら、順番が来ただけ。
だからと言って自らの住み慣れた土地を易々と明け渡すわけにはいかない。
故に闘った。
しかし結果は悲惨なものだ。そもそもの数が違う。
質で負けているつもりは無かった。だがそんなもの絶望的な数の差の前では何の意
味もなさない。
それからは帝国の属国として搾取される側に回った。
何をされようとも敗残国の我々に拒否権は無い。
〝負けた〟というその事実が何よりも重たくのしかかる。
幸いにもと言って良いかは微妙なところだが、軍に関してはそのまま運用されること
となった。その実態は買い殺しでしかないが。
帝国の属国となって数年、その間にも帝国は戦争を続ける。その度に絞り取られてい
く国庫と人材。帝国が一定以上に軍属を増やしてはならぬとするため、余ってくる資金
等は帝国に持っていかれてしまうばかり。
そして今回もまた同じように、帝国に良い様に使われながら相手を蹂躙するのだと
思っていた。
相手は門の向こうからの侵略者だという。
1462
時々この世界はどこかへと繋がる門が開くというが、それもごく短期間であり、迷い
込む者もそれほど多くない筈だ。
だが今回はどうしたことか向こう側から攻めてくるという。
対するこちらは、帝国による支配をうける属国、それからなる連合軍。
とはいえ男にはそんなものは関係ない。買い殺しの中、己の意思をぶつける相手は誰
でも良かった。
だが負けた。いや、戦ですらなかったのだ。勝った負けたそれどころの話ではない。
相手を見ることも叶わず、各地で黒い靄に包まれ倒れていく仲間たち。決死の覚悟で
突き進もうとも、少しでも靄を浴びていた者は立所に病で倒れた。
帝 国 に 敗 れ た と は い え 精 強 な 部 下 た ち だ。病 に 倒 れ る よ う な 軟 弱 な 者 は 居 な い 筈
だった。
手に持つ剣を振るう暇すらなかった。
原因を調べる間にも増えていく病人。そしてそれを介抱する為にも人員が要る。
足りない。
情報が足りない。
人が足りない。
対処をするにしても時間も無い。
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1463
戦とも呼べぬそれは実に数日続いた。 只々、向かえば倒れるものが増えていく毎日だった。
何とか黒い靄を抜けても、何かが飛んできては倒れていく。
そして、気づけば男はまたしても敗残兵となっていた。
無様にも、病に倒れた仲間を捨て置き無事な者を連れて逃げるだけで精いっぱいで
あった。
・・・
男以外の者もそうだ。
足元を駆ける何かに気を付けながら、怯えながらただくだ男の後ろをついていく。
男は幸いにも見ることが無かったが、数人が黒い靄の原因であろう何かを目撃した。
いや、正確にはそうであろう影を辛うじて見ることが出来たが正しい。
しかし見た者は皆、口を揃えて〝銀色の獣が〟と口走る。そんな馬鹿なと口にする者
も居たが、確認しようとして無事だった者は居ない。
姿を見て未だ立っている者はただ運が良かった。
足下を何かが駆け、その数瞬後に地より何かが浮かび上がり、その近くに居ればたち
まちに黒いもやに包まれる。
恐 ろ し き は そ ん な も の を 行 使 す る 敵 軍 か。男 は 理 解 し き れ て い な い な が ら も そ う
思った。
1464
敗残兵となって暫くしてからも男は国に帰らなかった。残った仲間とともに死地を
探すことにした。
戦というものに飢えてしまっていたのだ。
男を含めその仲間たちは帝国の属国となりながらも、それでも国を守るために自らを
鍛えてきた。
だが今回のことで、その存在意義を失ってしまった。
守るものも無く、戦うことすらできない。帝国に言われるままに戦場へ行き、今回は
その帝国兵すらいなかった。完全に当て馬だ。
そんな繰り返しの果てに、ついに兵士であるはずの彼らは何かが切れてしまった。
そこからはただ戦を求めて進むだけであった。
恐怖の中に居た者も、それをかき消すために同じくして突き進む。きっと悪夢でも見
ていたのだ、と無かったことにしながら。
そして辿り着いたのがイタリカ、帝国領内の城砦都市だ。
城 砦 都 市 と い う だ け あ っ て し っ か り と 町 は 砦 に 守 ら れ て 兵 も 多 い。何 か 壊 れ て し
まった男は、それが晴れ舞台に丁度良いと考えてしまった。思えてしまった。
だがそれは間違いであった。
防衛戦に徹している砦を襲うのならば3倍以上の人員が必要だろう。だが今の男に
は、男たちにはそんなものは関係ない。
ただ戦いを求めているだけなのだから、勝とうが負けようが、戦であるのなら何でも
よかった。
・・・・・・
しかし、2度の交戦を経ての3度目。ここで何かがおかしくなった。
正確に言うならば、おかしなものが現れたというべきか。
!!!!!!!!!!????
﹂
?
﹄
イタリカから比較的近い村を襲ったという噂はあった。だから味を占めた炎龍がこ
確かに居てもおかしくは無い。
その姿は炎龍。絶望の象徴だ。
轟々と燃える周囲の炎の中、そんな男を見るものがあった。
│
!!!!!
﹃GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA││││││││
その声はやはり、絶望を見た者の嘆き。
男が再び叫ぶ。
んだよおおおおおおおおおおおおっ
﹁俺達は、俺達はイタリカに来たはずだ。そうだろう なのになんでこんなのがいる
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1465
こに居てもおかしくは無いのだ。
だが、この炎龍は何かがおかしい。
炎龍とは目の前に広がるものを尽く燃やし尽くし、破砕し、喰らう災害の様な物で
あったはずだ。
なのにこの炎龍はイタリカを守るようにして男たちを見下ろしていた。
﹄﹄
仕舞いだったために余裕がある。
門の向こうから来た軍勢と闘う為に用意されていた武器防具は良くも悪くも使わず
くやという大きさだ。
グルルと唸り声を上げる化け物共。その巨体に合わせて、ただの唸り声も地響きもか
三体の化け物が綺麗に三方向から男たちを囲んだ。
物。双方ともに、炎龍ほどの大きさがある。
狼をそのまま大きくしたような化け物と狼に似た四足獣ではあるがやや細身の化け
てきていた。
見れば、囲うように炎龍とは別の化け物が二体、炎に怪しく照らされながらも近づい
そんな絶望の淵に居る男を更に追い詰める咆哮が追加で二つ響く。
││
!!!!!
﹃﹃GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA│││││││
1466
だがそれが何だというのだろうか。
男たちから見て、いくら手元に潤沢な装備や道具があっても目の前の化け物に勝てる
気がしなかった。
﹂
!!!!!!!
つ。
あった。
﹄
一矢は唯でさえ絶望的な状況で、為す術がないことを確定させてしまうだけのもので
のように弾かれてしまったのだ。
それどころか巨獣に矢は届いていない。巨獣に当たる寸前に見えない壁でもあるか
た。
だが、その一矢は化け物の注意を引いただけでかすり傷一つ付けることは叶わなかっ
﹃GURUUUUUUUUAAAAAAAAAA
!!!!!!!!!!
この重苦しい空気に耐えられなくなった一人が、四足の巨獣へと闇雲に弓で矢を放
﹁くそおおおおおおおおおおおお
のか、その瞳にはもはや戦場に出られるような破棄は無く、幼い子供の様ですらあった。
セイレーンである彼女はヒト種に比べて感覚系が鋭い。それ故に何かを感じとった
精霊使いの娘が地に尻餅を付いて座り込んだ。
﹁う、うあ⋮⋮﹂
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1467
1468
一歩、また一歩と徐々に幅を狭める化け物達。その姿は不自然な程に統率が取れたも
のだ。
だから逃げ場は無い。
3匹の化け物の間にはそれなりの距離があるが、それ以外にも盗賊達を囲うものがあ
る。
化け物達の周囲では至る所で火の手が上がっているのだ。
イタリカの門外であるこの場所は穀倉地であり、周囲には燃えやすいものが数多く存
在する。だから、盗賊達はそれらにドラゴンが時折吐く炎が引火したと思ったのだろ
う。
しかしながら事実は違う。
夜が明けていない時間でありながら異様な程に明るく照らし出された周囲。それは
イタリカの住民と自衛隊によって用意された光源であるのだが、冷静に頭が働いていな
い元兵士でもある盗賊たちでは気付かない。
何せその明るさで以て化け物達の姿を見ることが出来ているのだ。
闇の中これらに襲われる瞬間なぞ盗賊たちは考えたくもないだろう。見えることで
の恐怖もあるが、居ることが分かっているのに見えないのはそれ以上の恐怖だ。
原初より人が恐怖するのは闇だ。
だから今は、この火が消えないことを切に願うしかない。
男は剣を下ろし、天を仰ぎ見た。
ああこれで終わりか。
その距離も大分と近づいた。
ゆっくりと近づく化け物達。
しかしそれに優しく答えを出してくれる存在は居ない。
何を間違ったのだろう、男は自問する。
するしかなかった。
戦うことも叶わず、今回に関しては逃げることも叶わず、兵としての自らに男は絶望
どうすることもできないのだからそれも仕方ないだろう。
座に気付いた。
それが賊を率いる男には不思議でならなかったが、それがただの現実逃避であると即
人の気配はする。しかしこれほどの化け物が居ながら逃げる様子もなく砦内に居る。
対してイタリカの街は恐ろしい程に静かだ。
何度目かになる唸り声。距離があるにもかかわらず賊達の腹に響くほどの重低音。
﹃GURUUUUU⋮⋮﹄
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1469
!
!
をなくさせるのが一番だと思ったんだよ
﹂
﹁だ、だってしょうがないじゃないか あれだけ大勢なのを無力化するには闘う意思
﹁うん、えっぐいな後輩⋮⋮﹂
◆◆◆
盗賊達は喜んで武器を手放した。
所属伊丹二尉であります。死にたくなかったら武器を捨て投降してください﹄
﹃あー、あー、テステス。聞こえてますか盗賊の皆さん。こちらイタリカ城砦内、自衛隊
1470
﹂
﹂
﹁いやでも、あれはなぁ⋮⋮。なんというかあれだな、ゴ○ラとモ○ラにギ○ラが闘おう
としている中心に取り残された一般人みたいな
脅しだから
!!
込まれていくのを見ながらそんな会話をしていた。
それにしても失礼なことを言う先輩である。甚だ遺憾である
2匹の獣の正体は狼と狐、俺が持っている獣化の因子の一部だな。
だが、他の2匹も実は俺なのだ。
まずはあの怪物たちに関してだが、炎龍は勿論俺が変身した姿だ。
といっても、言うのは簡単だがやるのは難しいか。
せる作戦。
イタリカの城砦外にて盗賊が現れたと同時に3匹の怪物に囲わせてやる気をなくさ
今回、俺がやったのは簡単だ。
それに、出来る限り誰かの命を奪いたくはないという俺の我が儘でもある。
でも仕方ないじゃないか。これしか思いつかなかったのだから。
ない。
しかしまぁ、今回に限ってはちょっと、ちょぉぉぉっとやりすぎたかなと思わなくも
!
うっすらと空が明るくなり始めた頃、俺と先輩は砦の中に続々と捕まった賊達が放り
!
?
﹁ああ確かに言い得て妙っすね。って、あれはただの脅し
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1471
1472
変
身
今回はそれらを俺の中から取り出して泥に混ぜ込み、存在置換した時の姿をそのまま
大きくして配置したのだ。
炎龍を取り込んだことで巨体での運用方法を理解できたからさなせる技でもあった
けど、同時に自分を別に生み出すというのは成功するか実は五分五分だった。
いやまぁ実際には今回のは失敗だったんだけどね。
というのも、いつだったか考えていた分身の術。最初はあれをしようと思ったんだ
よ。だけど失敗した。
だって未だに同じ自分を何人も産みだすというのが理解できないのだ。忍者の世界
に産まれた訳でも教えてくれる人が居る訳でも無いので仕方ない。
けどそこで俺は考え方を変えることにした。
キ シ ュ ア・ ゼ ル レ ッ チ
分 身 の 術 を 考 え る に 至 っ た 経 緯 と し て、俺 が 覚 え た﹃秘 剣 燕 返 し﹄の 本 質 で あ る
多重次元屈折現象がある。
この燕返し自体は同時に3つの剣閃を産みだすというものなわけだが、実際には一つ
の剣閃にプラスして違う振り方をしたという可能性を平行世界から持って来て同時に
存在させるという荒業なのだ。
つまり何が言いたいかというと、俺は今回まず自分が炎龍の姿になり、そして泥を基
に今存在するために狐であったかもしれない自分と狼であったかもしれない自分の巨
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1473
大バージョンを存在させるという方法を行った。
泥が自分自身でもあるらしいことを含めて、泥の性質変化が自分であるならばある程
度できるというのならと思いつき実行したのだが、わりかし上手く行くものである。
マニュアル
ただ問題点があるとすれば、出来るかどうかの確信が持てていなかった為か自分自身
が変身した炎龍はともかく他2体に関しては見た目だけで、しかも完全 手 動 操作だっ
たりする。
ぶっちゃけ張りぼてである。
まぁ張りぼてにしては些か上等なものだとは思う。咆哮は上げられるし、視認しなが
らのマニュアル操作とはいえ、そのモデルは俺なわけだから結構なハイスペックだった
りする。慣れないことをした上に巨獣を2体同時に操りながら自身も動かないといけ
ないので時折狼型と狐型がまったく同じタイミングで咆哮を上げたり、シンクロしてい
るかのように綺麗に同じ動きをさせてしまったりとかもあったが気づかれたなかった
みたいだし、セーフだろう。
しかし中身が無いだけでその迫力は本物だ。
最初は炎龍だけでいくつもりだったんだけど、作戦を話してから少し時間が有った
し、何とか作戦開始前にこの技が完成したので盛り込んだ。炎龍だけだと逃げられてま
たどこかで同じこと繰り返されるかもしれないしね。
1474
御陰で囲まれた盗賊達はビビりにビビッて、容易く投降してくれた。
鳥っぽい子とかちょっと地面が濡れちゃうほどにビビってたけど、うん、許してくだ
さい。
あとの問題点は感覚を共有してることかねぇ。
一応あれも俺だから結構なステータスを誇る訳だけども、自分で動ける訳じゃないか
ら良い的も良い所だったりする。
だからあの巨獣たちがダメージを負うと全部俺に返ってくるのだ。巨獣たち自体は
中身が無いから痛みを感じることは無いしね。
これは消そうと思えば消せるけど、そうすると操作できなくなるから仕方ない。
次に砦周囲の炎に関してだが、あれは事前に周囲の数か所に燃えるものを用意しても
らって敵が来たと同時に着火するように仕組んでもらったものである。
これに関しては先輩主導の元、街の人達にもいくらか手伝ってもらって準備した。俺
は変身とかの方の予行演習してたからね。
でもこれも最初は手間取ったものだ。
幾ら自衛隊の装備がこの世界に対して有効的すぎる殺傷力を持とうとも、それがどう
いうものか理解されていなければ意味がない。どれほどの強さを持つか分からなけれ
ば手伝うと言ってもイタリカの人達からすれば十人程増えるだけで梨の礫としか感じ
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1475
てもらえない。
しかしそこで俺の出番である。
まず、先輩に炎龍を倒したのではなく使役することに成功したと法螺を吹いてもら
う。こいつは何を言っているんだと思われるだろうがそこに俺が登場して一部だけ変
には少しだが既にKou
身してみせる。アドリブに関しては念話があるから楽勝だし、炎も吐けて剣すら通らな
い鱗があれば信じざるを得ないだろう。
ついでに言えば、えっとピニャ皇女殿下 ピノだっけ
?
銀色の髪︵元キャラはピンク︶に、頭に乗せたKouju時にも被っている物に似た
ただし2Pカラー。
なってしまった。
その姿を思い浮かべてしまったが故に、俺の大人verはほぼほぼ恋するドラゴンに
たのが時折話に出していた﹃恋するドラゴン﹄の姿だったのだ。
ただこれにも問題点があって、龍が人に変身した姿で威厳も迫力もある姿で思いつい
ないかと思ってやってみるとこれまた成功したのだ。
超大型の獣になる応用で、しかも俺は炎龍という成体の因子があるからいけるんじゃ
うことにした。大人verってやつだ。
juの姿で会った後だったので幼女の姿では些か迫力に欠けると思い違う人型で会お
?
1476
大きい帽子。翡翠の瞳に割れた瞳孔。美しい容姿に均整の取れたグラビア顔負けのス
タイル。ただしブレザー着用。そして何故か人型でありながら驚くべき重さを誇る体
重。
普通に御屋敷の中を歩くと床が抜けてしまうので︵何か所か抜けた後である︶、常に木
ひしゃ
製 の 床 の 上 を 歩 く と き は 足 元 に 魔 力 で 足 場 を ば れ な い 様 に 作 り な が ら 歩 い て い ま す。
体重計に乗ったら体重計が拉げるレベルですね。
まぁでもその御陰でかなり無茶苦茶な作戦だが無理を通すことが出来た。
もし成功しなかったとしても砦内の人達にとっての損害が無いのも大きかったのか
もしれない。準備を少し手伝ってもらったが、余った燃料を渡すことでトントンだろ
う。
そういやその燃料なのだが、何気にこれが一番の難題であった。
いや、普通に考えればいつ来るかもわからない上にどの方面から来るかもわからない
のだから、それに対応する光源に出来るほどの炎の為の燃料ともなると結構な量にな
る。
この世界には未だ液体燃料など便利なものも出回っていないようだし、そんなものが
あれば俺達が砦に到着するまでに使い切り勝利を収めているだろう。
なので、俺が用意しました。
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1477
用意したと言っても地中から掘り出したとかではない。
作り方自体は簡単だ。かなーーーーりの覚悟が要ったが。
まず少量の液体燃料︵揮発しないもの︶を少量用意します。それをコップに入れます。
︵死んだ目
因子を取り入れます。出します。
ほら簡単でしょう
だ。
︵ただし石油は身体から出る
ちょっと大きな獣にトラウマ抱えちゃった人も居るけど、死ぬよりはマシ⋮⋮な筈
でもまぁ、結果だけを見れば大成功だろう。死傷者はなんと0人なのだから。
とメイドのペルシアさん︵猫獣人さん︶は渡さない。
倉田さんに死ぬよりひどいトラウマがどうとか言われたが知ったこっちゃない。あ
さておき、そんなこんなで今回のイタリカ攻防戦は何の山も谷も無く終結した。
石油王に俺はなる
だがその苦難を乗り越えた結果に得た物は素晴らしいの一言だ。
い。
ら龍の時みたいに影で飲んだりできないのかと言われて無言で腹パンした俺は悪くな
とかじゃなくて口に自ら含むわけだから色々な覚悟が必要だった。後になって先輩か
自分で言いだした作戦なのだから仕方ないのだが、手に付いたものを間違って舐める
?
!
1478
ただ、問題はこの捕まえた人達をどうするかってことだ。
イタリカの人達の中には殺すべきだと訴える人も居る。多数派ではないがそれなり
に居るのだ。
しかし俺はそんなことをしたくないし、自衛隊の面々もその信条に反すると言ってし
ない。
彼ら盗賊落ちした人達は、よくよく理由を聞けば闘うこともできずにいる自分たちが
許せなくてこんなことをしたそうだ。その結果死んでも悔いは無いとも言っていた。
とはいえその境遇に同情はしない。
彼らは人を殺すつもりでこのイタリカを攻めたのだ。死ななかったから許せるとい
うものだろう。
そして後悔もしない。
話を聞く限りは俺がやり過ぎた所為で彼らは自分というものを失ってしまったのだ
ろう。最後の切っ掛けを生み出してしまった原因は俺にもあるのだろう。
だけど、ここで後悔してしまってはイリヤや士郎、先輩に教えてもらった言葉を意味
の無いものにしてしまう。俺は、救えた命を誇りに思うし、無為に人の命を奪いたくな
んかない。そして助けたいと思ったから助けたのにそれを後悔するなんてしたくない。
だから盗賊の人達が産まれた原因は大元は俺なのかもしれないがそれを悔いたくは
ない。
ただ、だからと言ってこの人達をこのままにするのは無責任が過ぎる。
さてどうしたものか⋮⋮。
そんな風に悩んでいると、何か音楽なようなものが聞こえてきた。
﹂
?
いや何も聞こえないけど﹂
?
つ﹂
?
望的な顔だ。
なんかこう、テスト当日にテスト勉強の範囲を間違えていることに気付いたような絶
面を晒す。
再びの俺の質問、それをすると先輩は何故か口を開いて何かを思い出したのか間抜け
﹁なるる。でもなんでそれが聞こえてきてるの
﹂
﹁ああ、それはワルキューレの騎行だな。ほれ、地獄の○示録って映画でも使われてたや
するとそれを聞いて先輩が答えが分かったのか教えてくれた。
だからふと口ずさむ。
何で聞いたんだったか、思い出せないがリズムは思い出せる。
﹁うーん、いややっぱ聞こえる。なんかこう洋画とかで聞いたことあるようなの﹂
﹁へ
﹁なぁ先輩。なんか聞こえない
『stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね』
1479
﹁あ⋮⋮。後輩
あの獣たち消せ
早く
!!
富田は通信急げ
!!
﹂
!!
それを消せってのはなんでだ
痛いよ
にぎゃあああああああああああああああ
そして最後には頭をぶつけた感覚と同時に視界が真っ暗になった。
最近こんなのばっかりだ⋮⋮。
﹂
!!!!!!!!!!!!!!
だ。
痛い
そして││││、
﹁痛たたたたっ
!!!!?
全身を襲う痛みに俺は床を転がり悶える。
!?
突如鳴り響いた轟音。ヘリのローター音とガトリングでもぶっ放しているような音
しかし何故獣を消せと言ったのかすぐ理解できた。
?
無いとは思うが盗賊の人達が暴れ出した時用だ。
ため門の外で待機させてある。
確かに、炎龍は俺自身が変身していたから既に居ないのだが、確かに残る二匹は念の
そして次の瞬間には慌ててそう言う先輩。その姿に思わず呆けてしまう。
!
!?
1480
﹂
﹃stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘です
ね﹄
﹂
まぁそんな理由で、ミュイちゃんから怒涛の質問攻めを受けておるわけだが、実はこ
⋮⋮。
つまり、なんか仲間意識が生まれたんだってさ。俺の中身40歳越えてるんだけど
俺は幼女。彼女も幼女。
何この状況と思われるかもしれないが、まぁ仕方ないのだ。
いる状態です。
現在俺はフォルマル領の御息女であるミュイちゃんに詰め寄られて色々質問されて
!?
﹂
﹁御好きなものは何でしょうか
?
﹁た、食べ物なら大抵好きかな⋮⋮﹂
!?
﹁えっと、あっちの方
﹁コウジュちゃんは何処から来たんですか
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1481
1482
の場所には先輩たちはもう居なかったりする。
盗賊達を捕獲した日、俺は唐突な痛みについ意識を手放してしまった。
その理由というのが何とも情けないものだったりする。
実はあの時聞こえてきた音楽というのは先輩が頼んでいた援軍だったようで、砦の外
に待機させていた大狐と大狼を敵と勘違いしてバカスカ撃たれてしまった。そしてあ
の2匹は俺自身ではないけど俺だから痛みを共有している。だからその分の痛みが全
て俺にフィードバックしてしまいあまりの痛みに気絶してしまったのだ。
先輩に連絡入れろよとか、何で敵だと勘違いしたのかって疑問が当然出てくるが、そ
の辺りは完全に俺の所為だったりする。
まず何故連絡を入れることが出来なかったかというと、それは俺が第3偵察隊の面々
の協力を仰いだ所為でそんな暇が無かったからだ。
初めに俺は町の人達からの協力を得ようとしたんだが、やはり炎龍を使役してるなん
て話を信じてくれるはずもなく、仕方がないので﹃恋するドラゴン﹄になった状態で町
民の前で部分的に炎龍に変身した。
だがそれは失敗だった。その姿を見て事前に言っていたのにも関わらず逃げるわ怯
えるわでまったく協力を得られなかったのだ。
だから俺は第3偵察隊の面々の協力を得て作戦の準備に当たった。砦周囲に穀倉地
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1483
に燃え移らず、それでいて辺りを照らし、そして効果的に盗賊達を囲う様な配置で液体
燃料を設置してもらったのだ。
しかしその範囲の広さの所為で結構な時間が掛かってしまった。敵に見つからない
ようにしながらだから余計にだ。
そこに俺がギリギリになって大狐と大狼を追加することにしちゃったもんだから、町
の人達への説明のし直しとか色々してもらった所為で援軍の人達に説明する暇も無く
戦闘開始となってしまった。
俺の作戦なら死人が出ないだろうというのもあり第三偵察隊の面々は精力的になっ
おやっさん
てくれたのだが、最後の最後に俺が気絶したもんだから謝られてしまった。いやむしろ
こっちがごめんなさいです。でも桑 原さん撫でるのは勘弁してください。
次の、何故大狐と大狼が攻撃されたのかって理由だが、それも結局俺が悪いのだ。
あの時、俺は﹃恋するドラゴン︵2Pカラー︶﹄の姿で先輩の横に居たのだが、大狐と
大狼は砦の外に配置したままだった。
それは何故かというと盗賊達の逃走防止の為だ。
何せ城砦都市一つ落とそうって盗賊共だから数が多い。一人一人しっかりと捕縛し
ては砦の中に確保していたんだが、それなりに時間が掛かった。
捕縛している間に逃げられでもすれば目も当てられないので、内側は俺本体、そして
1484
外には2体の大獣という訳だ。
だけどその姿が援軍の人達には今にも人を襲い砦を破壊しようとする怪獣に見えて
しまったらしい。
まぁそりゃそうだよな。
砦の外から内側︵人︶に向けて唸ってる怪物が二匹居たら俺も攻撃するよ。リアリ
ティを出すために偶に唸らせたり歯を剥き出しにさせたりしてたから、それが余計に迅
速な対応が必要なように見えたらしいし。
ちなみにらしいというのは、その撃つのを指示した人から直接聞いたからだ。
目が覚めた後のはなしだが、健軍さんっていう援軍︵第4戦闘団︶の隊長さんが先輩
に事情を聴いて謝罪しに来てくれた。
恋ドラの姿ではなく本来の姿のことまで先輩から聞いていたのか、幼女姿に戻ってい
たにも関わらず直角に頭を下げてくれたのだ。
むしろこっちが謝りたいくらいだった。
というか謝った。俺の思い付きに付き合わせてしまった所為で色々とご迷惑をかけ
てしまった訳だし。
すると健軍さんは何故か漢らしい笑みを浮かべ、そして微笑ましいものを見る目をし
ながら俺の頭をぐりぐりと撫でてありがとうと言ってきた。よくわからん⋮⋮。
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1485
とにかくそんな訳で、身から出た錆というか自業自得というか、俺の思い付きの所為
で気絶しちゃった訳だからちょっと恥ずかしかった。それすらも暖かい眼で見られる
んだからもうやだあの偵察隊。
というかむしろ気絶程度で済んだ自分の耐性にびっくりだよ。
まぁまだ中途半端な術だから感覚系しか繋がってなかったしフィードバックが痛み
だけだったってのが救いか。
それでも死ぬほどの痛みでショック死しなかったのは自分ながら凄いと思う。
とはいえよくよく考えればFate世界で色んなもの︵UBWとか王の財宝とか魔術
の雨とかその他諸々︶を浴びている訳だから今更なのだろうか。いやだなぁそんな殺伐
とした耐久経験⋮⋮。
さておき話を戻すが、気絶してから数時間で俺は起きたらしいのだがその時点で第3
偵察隊の帰還予定時間から大幅に遅れていたらしく、先輩達は急いで帰らなきゃならな
くなったのだ。
むしろ日が昇り切る前に帰還する予定だったらしいのだが、先輩が怒られるのを覚悟
で俺が起きるのを待ってくれていたらしい。健軍さん達の方も同様に、事後処理やらな
んやらと理由を付けて残ってくれていたようだ。
だから先輩達は俺が起きるなり様子を見にきて、そしてそのままアルヌスの前線基地
1486
へと帰って行った。
じゃあ俺はどうして残っているのかというと、黒川さんが先輩にもう少し休ませてあ
げて欲しいと伝えてくれたからだ。手をワキワキさせて俺のケモ耳を見ながらだった
ので微妙な気分になったが、触ることよりも休ませてくれることを選んでくれたのだか
ら本気で心配してくれたのだろう。
ついでに言えば、捕えた盗賊達の監視役でもあったりする。
俺⋮⋮というか﹃恋するドラゴン﹄モードの姿の俺が居るだけで盗賊達は暴れる気力
を無くすようで、大人数を収容できるようには出来ていないこの町にとっては大いに助
かるそうだ。
そんなわけで、俺は先輩達にはついていかず、このイタリカに残存しているというわ
けだ。
別に寂しくは無い。無いったら無い。
それに俺一人ならいざとなればアルヌスまでひとっ跳びだし、先輩にはいざとなれば
令呪を使って強制召喚するように言ってある。
正直言って令呪の存在理由って今の所無いしね。現状でいうと念話を繋ぎやすくす
る程度だろうか。
本来、霊体であるサーヴァントを現界させ続けるために令呪が必要だが、俺は元々生
きてる状態だし、そもそもこの世界には契約前から居る訳だから令呪が無くなってもデ
メリットは無い。
聖杯戦争中ならマスターとしての証だったりサーヴァントの強化とか色々使い道が
あるようだが、よくよく考えれば聖杯戦争に参加してる時にそんなことに使われた覚え
はない。イリヤがお仕置きと称して遊んでたくらいのものだ。
強制召喚に関しても、原作でセイバーが士郎に令呪で召喚された際は服が吹き飛ぶみ
たいなことが説明されていたが、最近来ている服は地球産のものではなくいつものPS
Po2服だ。﹃恋するドラゴン﹄モードの時でも来ている服はPSPo2のブレザーだ
から何の問題も無い。
ああ、そういえばその﹃恋するドラゴン﹄モードなんだが、それを得るきっかけとなっ
た大元の炎龍に関してだがまた一つ面白いことが分かった。
今まで俺はこの世界の人達の言葉が全く分からなかったし、こっちの言葉も通じてい
なかった。
だがあれ以来何故か通じているのだ。
だから
先輩もなぜか頭を打った後に何となく分かるようになったとか言ってたが、それとは
違って、自然に頭の中に溶け込んでくるようになった。
ひょっとすると炎龍ってのは人の言葉を理解していたんじゃなかろうか
?
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1487
喰らった時にその要素も俺は喰った為に言語を理解するようになったのかもしれない。
古龍とかってのはラノベ脳的に言えば言語を理解したり人の姿に成るのは定番だ。
ひょっとするとあの炎龍も実は結構な知能を持っていて言語とか解していたのかも
しれない。
﹂
そういえば戦闘中も知能的な動きを見せていたしあながち間違いではないのだろう。
御陰で勉強しなくて助かったよ。
え、えっと⋮⋮﹂
まぁ文字は未だに分からないんだけどね。
﹁コウジュちゃん
﹁全く何なのさ落ち着きなっての。ミュイ吉って呼ぶぞ仕舞いには
すね
どうぞお呼びください
﹂
!
!?
面の笑顔になったミュイ嬢。ちょろい⋮⋮、じゃなくて何故喜ぶのか。
その様子を見て自らの頬が引きつるのを感じながらミュイ吉と呼べば何故か喜色満
嬢が涙目になっていた。
現実逃避から思考を戻せば、俺が黙っていたことで何か怒らせたのかと焦ったミュイ
﹁何でそんなテンション高いんだよこの幼女⋮⋮﹂
!
﹁ミュイ吉 〝きち〟というのが何かは分かりませんが、それはあだ名というやつで
!
!
1488
﹁ミュイ吉って呼んだ方が良いの
﹂
﹂
﹂
再び涙目で、上目遣いで恐る恐るという風に俺の方を見るミュイ嬢。
﹁御嫌⋮⋮だったでしょうか⋮⋮
一応俺は敵国側の人間に当たる訳だけど、よくあのメイド長さんが許し
?
に言えば炎龍を直接使役しているのは先輩の協力者である俺だということ。
今回のイタリカを守るための作戦を考えたのは俺だと先輩から伝えられており、さら
そう思い問うたのだが、ゆっくりとミュイ嬢が語り出したことを纏めるとこうだ。
用心すぎる気がする。
幼女二人だから何かが起こる訳は無いだろうし俺自身起こすつもりもないが、些か不
現在居る部屋は俺に与えられた客間だ。そこに、俺とミュイ嬢の二人きり。
﹁それは⋮⋮﹂
たなぁと思ってさ﹂
たる訳だろ
﹁いや別にそうじゃないんだけど、純粋な疑問だよ。ミュイ吉ってこの土地の領主に当
何この罪悪感。
﹂
あだ名とは親しき間柄でのみ使われるものと聞き及んでいます。なので私は
ミュイ吉で構いません
﹁はい
?
?
?
!
!
﹁んーまぁそれ自体は構わんがけど⋮⋮、てか今更だけどなんでこの部屋に来てるの
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1489
俺が未だにイタリカに残っているのも捕えた盗賊達が暴れ出さないようにする為で、
先輩達とピニャ皇女との間に結ばれた協定に則り盗賊達の護送の段取りが付くまで居
ることになっているらしい。
そしてメイド長としては、そんなイタリカを守る要となった俺とミュイ嬢が親しくな
ることで力となってほしいという考えがあるそうだ。
あとミュイ嬢自身から、若くして領主を引き継ぎ、それ以前からも身分的に仲の良い
メイドさんの件とか言っちゃダメだろう
くだり
同年代の存在が居なかったから仲良くしてほしいのだとか。
!?
よろしくお願いします
﹂
﹂
まった以上、この子が傷つくところは見たくない。
ま、子ども同士の仲良くってのは流石に無理だが︵精神的に︶、顔見知りになってし
解しろってのは無理な話か。
って、そういえばこの子はまだ11歳だったな。そんな子に汚い大人の諸事情とか理
うんなるほど。この子ポンコツだ
!
﹁とりあえず、改めてよろしく⋮⋮かな
﹁はい
!
守る、その単語にふとあることを思い出す。
守りたい、この笑顔。
俺の言葉に嬉しそうに返すミュイ嬢。その笑顔は子どもらしい無邪気なものだ。
!
?
1490
﹂
﹁あ、そうだ﹂
﹁⋮⋮
最近実験中のある物が丁度ミュイ嬢を守るのに良いと思ったのだ。
言いながら、俺は懐に手を突っ込んだ。
?
﹂
?
﹂
!
何せ目の前では美人さん二人が黒い触手に塗れてあられもない姿をさらしているの
目の前で起こっていることに、俺は何という感想を言えば良いのかわからない⋮⋮。
◆◆◆
﹁よく解りませんが分かりました
﹁ちなみに文字は読まないようにね。身の危険が迫った時に読むと良い事あると思う﹂
﹁これは、カード⋮⋮ですよね
﹁お、あったあった。これをお守り代わりに持っとくと良いよ﹂
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1491
﹂
だ。どう反応すればいいのか⋮⋮、というかあるところが反応しそうで怖い。
!?
聞こえないのか
いやだってこれ完全に薄い本展開だよ
こちらの非は詫びる
!?
﹁フーッ⋮、フーッ⋮⋮﹂
﹁止めてくれ
!
正直なところ一人で残すことがちょっと、ちょーっとだけ心配だが後輩が死ぬような
だから一旦、俺から離れてゆっくりしてもらおうという魂胆である。
まってからはそれが顕著だ。
後輩は元々誰かを守ろうとするきらいがあるのだが、サーヴァント契約を結んでし
ような気がしたので一旦俺から距離を置いてもらったのだ。
賊達への監視の意味も確かにあるのだが、それ以前に最近の後輩は気を張り過ぎている
何故後輩を置き去りにしたかというと、後輩自身に告げたように念のための療養と盗
遡ること数時間前、俺は後輩をイタリカに置いたままアルヌスへの帰途へと付いた。
目が覚めたらこんなことになってたんだけど、ほんとなんでこうなったんだよ。
後輩。その後輩を後ろから抱き付くようにして抑え込もうとするピニャ皇女殿下。
そして厨二病を発症しているかのように片手を抑えながら何かに耐えるように蹲る
!!
1492
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1493
状況が今の所想像できない。いや死んでも生き返るが正解だろうか。
どちらにしろ、後輩を傷つけるような存在が今のところ想像できない。
あれだけ人に恐怖を与えていた炎龍に成れる後輩しな。
というか20ミリ機関砲を間接的にとはいえ気絶で済ませることができる後輩をど
うにかできる存在が居るとは思えない。
そんなわけで、後輩を置いてアルヌスへと向かっていたんだが、そこで俺はとある集
団に出会った。
端的に言えば薔薇だ。百合の可能性も微レ存。
とにかく女性だけの騎士団に俺達は遭遇したのだ。
しかしそこで問題が発生した。
掲げる隊旗からピニャ皇女から聞いていた薔薇騎士団だと判明したが、こちらの世界
には遠距離での通信機器が存在しないため、彼女たち騎士団の中には俺達がピニャ皇女
と結んだ協定は存在しない。つまりその時点ではアルヌスから来た兵隊と言えば帝国
と争う存在なわけだから、彼女たちからしたら憎き怨敵になってしまうわけだ。
だから彼女たちは俺達の話を聞きそれに気づいた瞬間に剣を抜いた。
当然そのままやられるわけにはいかないのだが、協定を結んだ手前攻撃する訳には行
かない。
1494
だから、話を付けるために車から降りていた俺自身は仕方ないが、問題を起こさない
ためにはそこから居なくなるのが一番と思い撤退を命令した。
一人残される俺、自ら命令したとはいえやっちまった感が半端じゃなかった。
そしてそこからがまぁ地獄だ。
騎士のお嬢さん方は馬に乗ってるわけだが、俺は当然乗ってない。乗せてくれるわけ
もない。
なので俺は走る馬⋮⋮、まぁ多少は速度を落としてくれてはいたがそれでも人の限界
超えそうな速度で並走させられた。
それだけならまだ良かった。
その走り込みの最中に周りのお嬢さんからの熱いアタック︵物理︶があるんだが、そ
れが中々に堪えた。
しかも時折体勢を崩すほどの一撃とか足元を引っかけてくるから転ぶわ怪我するわ
で大変だったよ。
この時ほど特殊作戦群とかに居たことを感謝したことは無い。いややっぱ今の無し。
とにかく心身共にボロボロにされながら何とか彼女たちの目的地であるイタリカに
到着した。
そこで限界を迎えた身体は思うように動かなくなり、お嬢さん方に引きずられながら
フォルマル亭へと引きずられながら再び戻ってくることになってしまった。
後輩は自分でいつでもアルヌスへ戻ってくることが出来るって話だったので、イタリ
カに戻ってくるのは当分先の予定だったのだが、あまりにも早い再訪問となってしまっ
た。
そんなことを思っている間にも俺の意識は朦朧として来て、ついにはシャットダウ
ン。
﹂
そして次に目覚めた時には目の前でR18寸前の触手プレイが始まっていたのだ。
﹂
﹁お気づきになられましたか
﹁うお、メイドさん
﹁えっと、ちなみにこの状況は一体どういうこと⋮⋮
﹂
﹁その、伊丹様があの女性騎士の方々に連れて来られた姿を見て、次の瞬間にはああなっ
?
をしてくれていたらしい。
極度の疲労とあんまりな眼の前の状況に全然気づかなかったがどうやら俺の手当て
思わず漏れ出た言葉に反応したのはすぐ近くに居たメイドさんだった。
!?
!?
﹁何⋮⋮この状況⋮⋮﹂
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1495
ておりました。つい先ほどのことです﹂
﹂
?
それだけは避けたい。
R18Gに変化してしまう。
このままもし泥が収縮したり剣の類いに変化しようものなら忽ちにあの少女たちは
の泥だ。
その結果が触手プレイというのもなんともしまりが悪いが、後輩が使っているのは例
まっているようだ。
さておき、どうやら様子を見る限り後輩は最後の一線を越えない様に何とか踏み止
いです。
慌てて顔を抑えると、メイドさんが首を傾げながらこっちを見ていた。いえ何でも無
しまう。
そう思いつつも、俺の事でそこまで怒ってくれていることにどこか嬉しさも生まれて
しまったなぁ。あいつがここまでの反応をするとは思わなかった。
ふむ、現状の原因はどうやら俺にあるようだ。
﹁あの馬鹿⋮⋮﹂
﹁恐らくそうでは無いかと﹂
﹁まさか俺の姿見てブチぎれた
1496
だが、近くにはあわあわ慌てているミュイ嬢も居るし、コウジュを何とかしようとし
がみつているピニャ皇女︵圧倒的に後輩の方が小柄なのにビクともしていないが︶も居
る。だから下手なことをしてしまうと彼女たちを傷つけてしまうかもしれない。
﹂
さてどうしたものか⋮⋮。
﹁どうかされましたか
﹁それは真ですか
是非よろしくお願いいたします
﹂
!!
後 輩 は 五 感 が 昔 か ら か な り 優 れ て い る。今 と な っ て は ビ ー ス ト っ て 種 だ か ら と 分
結構まずい状況かもしれないな。
と呟き続けている。
後輩は俺の事にはまったく気付いていない様で、目を瞑りながら﹁考えるな考えるな﹂
ピニャ皇女には悪いが、少し避けてもらって俺は後輩の耳元へと口を近づける。
俺は重い身体をメイドさんに手伝ってもらいながらも動かし、後輩の元へと向かう。
でもごめんなさい。じつはそれほど大それたものではないんだ。
俺の思い付きに、眼を見開きながらお願いしてきたメイドさん。
﹁極めて了解、です﹂
!?
﹁いや、あの馬鹿を止める手立てを思いついたもので﹂
?
﹁あ⋮⋮﹂
『stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね』
1497
かったが、昔は本気で驚いたものだ。
驚かせようと後ろから近づいても避けたり見る前から誰か気付いたり、犬かと思うほ
どの嗅覚を披露したり、案外地獄耳だったり、色々と五感が優れていることを何度も証
明してきた。
しかし今は俺がこれほど近づいても自分の世界に入り込んでいるかのように何の反
応も無い。
今更になって俺の思い付きが通じるか不安になってきた。
だが、ここまできて止めるのもおかしな話か。
俺は、覚悟を決めて口を開いた。
﹂
!?
ちょっろこいつ。
﹁まじで
﹁例のケーキ10個食わせてやるから落ち着け﹂
1498
﹃stage14:地球へ﹄
特地における自衛隊の前線基地、その中でも指令室に当たる部屋に3つの存在があっ
た。
﹂
中に居るのは伊丹耀司、コウジュ、そして特地方面派遣部隊指揮官である狭間陸将の
3名。
﹂
その3名を包む雰囲気はとても重苦しいものだ。
﹁えー、コウジュです﹂
﹁あははは⋮、そうですね⋮⋮﹂
﹁そうか。何とも面白い偶然があるものだな﹂
﹁コウジュスフィール・フォン・アインツベルンです﹂
﹁そうか、では君が懇意にしていたこの写真の少女の名前は
?
引き攣った笑いを浮かべる伊丹の横で、今まで沈黙を守っていたコウジュがビクリと
?
﹁伊丹二尉、もう一度聞こう。彼女の名前は
『stage14:地球へ』
1499
身体を振るわせる。
そのコウジュの表情は硬く、俯き気味だ。普段の彼女からは考えられない程に。
ことがあるだけなのでね﹂
取り直し柔和な笑みを浮かべる狭間の姿に少しだけ警戒を解くコウジュ。
﹂
それでも未だに表情はどこか硬いものだ。
﹁聞きたいこと、とは何ですか
﹁君にも聞きたいのだ。この少女と君は何か繋がりが在ったりはしないかね
﹁えっと⋮⋮﹂
ていたコウジュ自身の写真だ。ネット上に上げられている物とは違い鮮明に映し出さ
狭間が手にして見せている写真、そこに写っているのは明らかに銀座事件の中で動い
?
?
狭間の言葉にコウジュは言い淀む。
﹂
﹁そう怯えないでほしい。何も君を取って食おうとは思っていないんだ。ただ聞きたい
その姿を見て表情を渋くする。
狭間の姿に何か間違えたのかと怯え始めるコウジュ。
コウジュの姿を見て、嘆息する狭間。
﹁は、はいっ﹂
﹁コウジュ君、だったね﹂
1500
『stage14:地球へ』
1501
れており、横顔ではあるがその容姿は当然の事ながらコウジュに瓜二つである。
その写真を見せられたうえで、どう答えるべきか考える。
伊丹とコウジュの計画では、内部に協力者を作るのはもう少し後にする予定だった。
しかし、アルヌスに戻り地球へと戻ろうとする寸前に狭間陸将からの呼び出しを受け
たためにここに来た。
そしてその時の呼び出しには、〝一緒に居る銀髪の幼い少女と共に来るように〟との
言伝が付属していた。
その言い回しから考えるに、コウジュと伊丹はバレていると悟った。
ただ、何かの流れで火龍とのことを聞いただけの可能性もあるから銀座での事との繋
が り ま で は バ レ て い な い か も し れ な い な ん て い う 希 望 的 観 測 も 二 人 の 中 に は あ っ た。
まぁ今の言葉で確実にそれは幻想だったことが証明されたわけだが。
そもそも何故秘密にしようとしているのかというと、一旦落ち着いているコウジュを
捕獲しようとする動きが再び活発化しないようにだ。
確かに、正体を明かし自衛隊内の上層部で認められれば動きやすくはなるだろう。
だが現状の子狐の状態でもそれほど不自由なく動けてはいるし、それ以前にコウジュ
に関してはチートがあるため本気で逃げようと思えば幾らでも方法はある。
だから正体を明かすことのメリットと言うと実はそれほど無いのだ。
しかしここに来ての早い身元バレ。
コウジュは悪いことをした訳もないのに嫌な汗が流れていくのを自覚する。
そんなコウジュを見かねてか、狭間がゆっくりと口を開く。
だがそれでは、狭間が気を利かせてくれている今までの言葉を無駄にする。
ここで偶然居合わせただけだと答えるのは簡単だ。
その姿に、コウジュは戸惑う。
あると確信しているものだ。そして、同時に頭を下げた。
言わなくていいと言いつつ、その言い方は完全にコウジュが銀座の少女と同一人物で
間をも救ってくれた少女に最大限の感謝を﹂
我々自衛隊も、言わなければならない言葉がある。ありがとう、民間人を救い我々の仲
を聞こうとしているのではなく、感謝の言葉を伝えたいとの言葉が大多数だ。そして
の少女の事を行政機関などに聞いてくる民間人が増えた。その人達は興味本位で情報
確かに君の存在を欲した。だがそれは本意ではない。付け加えて言えば、あの日以来あ
﹁もし、もし君が銀座事件の少女と知り合いならばこう伝えてほしい。我々の上層部は
そう言いながら狭間は陸将としての表情を見せ、コウジュの目を見ながら続けた。
なくても良い。だが、これだけは言わせてほしい﹂
﹁関係が無いのならそう言ってくれれば良い。言いたくないことがあるのなら別に言わ
1502
コウジュは口を開いて閉じ、どう言葉を返せばいいか悩む。
チラリと、助けを求めるようにコウジュは伊丹を見た。
すると伊丹は静かに頷きながら笑みを返す。
それを見て、コウジュは言う言葉を決めた。
思 い ま す。た ま た ま そ こ に 居 た だ け で 助 け る こ と が 出 来 る 術 が あ っ た か ら そ う し た。
﹁その写真の少女とおr⋮⋮私が一緒かは分かりませんが、きっとその子はこう言うと
自分がやりたいことをしただけで、感謝されるのはむず痒い、と﹂
コウジュの言葉に、狭間は笑みを浮かべながら会釈する程度にだが再び頭を下げる。
しかしその会釈には最大限の感謝が込められているのを伊丹とコウジュは感じた。
そして再び顔を上げた狭間は唐突に破顔した。
度の写真は一般には出回っていない筈なんだが﹂
﹁それにしてもこの写真の少女が銀座事件の裏の立役者だとよく知っていたね。この精
しかし油断したところへ爆弾を落とされる。
胸を撫で下ろし、表情を釣られる様に柔らかくした。
狭間の雰囲気が先程までとは違い比較的軽いものになったことで伊丹とコウジュは
﹁そうみたいですね﹂
﹁何とも写真の少女は恥ずかしがり屋なのだな﹂
『stage14:地球へ』
1503
ビキリと、伊丹とコウジュの表情が固まる。
そして二人一緒にたらたらと汗を流し始める。
その様子を見て、狭間は声を荒げて笑い出した。
その呟きを聞きコウジュはギンっと伊丹を睨む。
﹁お前もう40越えてるだろうに﹂
そんなコウジュを横目で見ながらボソリと伊丹は呟いてしまう。
狭間の言葉にうへぇとあからさまに嫌な顔をするコウジュ。
﹁大人って汚い・・・・・・﹂
もしれんな﹂
﹁嘘吐きになれとは言わんが、君達はもう少し感情が表情にでないようした方が良いか
な場所で示してみせた瞬間である。
たため再びこの部屋を重苦しい空気が包む。実力でもって成り上がった老獪さを無駄
二人の様子を見てゴホンと狭間は咳払いを一つし、次の瞬間には真剣な表情へと戻っ
眼を向けるコウジュ。
それを見て安堵の息を漏らす伊丹と、どこぞの魔女嫁さんのようなやり辛さだとジト
そう言いながらも笑いを我慢しきれないのか、その後も何度か笑い声を漏らす狭間。
﹁ははははははっ。すまない、冗談だ。許してほしい﹂
1504
﹂
コ ウ ジ ュ の 耳 は 文 字 通 り の 獣 耳。ど れ だ け 小 さ か ろ う と こ の 距 離 で は そ の 呟 き を
拾ってしまう。
﹂
﹁誰がエタロリだごらぁっ
﹁誰も言っとらんわ
!
た。
?
だが流石にこれ以上は話が進まないと狭間は止めることにした。
ていく。
それも次第に言う言葉が思いつかなくなってきたのか低レベルなものへとシフトし
やれやれと首を振る狭間にも気付かず二人は舌戦︵
︶を繰り広げていく。
ヘタレだのうっかりだのと罵りあってはいるが、狭間から見ればただの痴話喧嘩だっ
そうして始まったいつものじゃれ合い。
!
﹂﹂
!
元々、狭間がこの場に伊丹と少女を呼び出したのは注意をするためだった。
た納得をすることにした。
いつの間にか外野にされてしまった狭間は、これなら大丈夫かと一人あきらめにも似
﹁すまない私が悪かった﹂
﹁﹁痴話喧嘩じゃないですっ
﹁話を振っておいてなんだが、痴話喧嘩は余所でやってくれ﹂
『stage14:地球へ』
1505
1506
しかし伊丹とコウジュの二人を見ていると案外何とかなりそうな気がしてきたのだ。
今までにも何度となく世話になってきた直感が、この二人なら大丈夫だと告げてい
る。
いやむしろ変に考えると疲れそうだと心のどこかで囁いていた。
経験上的にもこういう人種はある程度自由にさせておいた方が後々の為になる。
ふむ、と狭間は思案する。
この後、伊丹は門を再び潜り参考人招致への参加が決定している。
内容は自衛隊の特地派遣に関するものだだろう。厳密に言えば伊丹率いる第三偵察
隊が関わった炎龍討伐に関することだ。
その際に数人の死者が出ている。
コラテラルダメージだと捨て置くつもりはないが、それでも炎龍に関する報告書を見
た上で狭間はよくやったとしか言えない。
ただ問題は報告書と実際が違うという事。
・・・
報告書では自衛隊の火器による成果となっているが、実際に見ていた元コダ村住人か
らの情報ではとある少女が吹き飛ばしたとあった。
一応あまり言いふらさないようにと言われていたようだが、その情報源の住人を責め
ることは出来ない。彼らも明日を生きるための糧を欲しているのだから。
だがその情報が既に一部に出回ってしまっている。参考人招致においてその辺りを
つつかれるのは確実と言える。
狭間は考えを纏め、改めて二人を見た。
伊丹とコウジュの二人は一応の決着をつけたのか、双方ともに何故か落ち込んでい
た。どうやら互いに言葉のクロスカウンターを打ち合い諸共に沈んだようだ。
その二人を見て、狭間はニヤリとした笑みを浮かべた。
・・
今から二人に伝えることはメリットデメリットの両方があるが、この二人が上手く切
り抜ければ色々と掃除が出来る。そしてそれが出来ればこの二人も多少は生きやすい
世の中になるだろう。
そんな思いから、少しばかり二人には苦労してもらおうと考え、狭間は口を開いた。
﹂
?
◆◆◆
﹁さて、話が付いたようなので少しばかり聞いてほしいことがあるのだが良いかね
『stage14:地球へ』
1507
﹃俺は、帰ってきた
﹂
﹄
!!!
と俺の頭の上で甲高い鳴き声を上げながら、念話でも叫ぶ子狐状態の後輩。
﹁やかましい
くー
!!
念話で﹃裏切り者ー
﹄と届くが知ったことではない。テュカの後ろでは黒川も待っ
罰として俺は、後輩をテュカへと預けることにした。
久しぶりの地球だからってテンション上げ過ぎだ。
!
だから、イタリカで後輩が落ち着いてすぐにピニャさんは俺へ謝罪の言葉を告げると
の他を使役している幼女が怒ってたらどうにかしないとまずいと思うよな。
にかなりの焦燥感を与えてしまったからの様なのだ。まぁ客観的に考えれば炎龍やそ
それは何故かというと、イタリカで後輩がキレてしまったことがどうやらピニャ皇女
何故ピニャ皇女達がここに居るかというと、まぁこれも後輩の所為だったりする。
いた。
として縦巻きロールが素敵なボーゼスさんを加えたメンバーは門を潜り地球へと来て
さて、俺達第三偵察隊と後輩、テュカ、レレイ、ロゥリィ、そしてピニャ皇女と御付
ているから大人しくしてなさい。
!
1508
『stage14:地球へ』
1509
共に部下のボーゼスさんを際どい格好で俺の部屋へと送り込んできた。
だがそこには後輩と、後輩が産みだした恋ドラモードと名付けられた姿の女性が居る
状態であったためボーゼスさんは見るなり慌ててすぐに帰ってしまった。どうやら後
輩と恋ドラモード︵炎龍︶の姿にトラウマが生じてしまっているらしい。
何故ボーゼスさんが俺の部屋に来たかはまぁ察しが付くが、正直嬉しくない⋮⋮とい
うかそんなことをされると殺されそうなので勘弁して欲しい。
なので俺はピニャ皇女にそんなことはしなくても大丈夫だと告げに行ったんだが、何
故か泣かれてしまった。
話を聞けば、俺が断りに行ったことで謝罪を受け取ってもらえなかったと思われたよ
うだ。
さすがにそのままにするわけにもいかず話し合いをし、とりあえずお偉いさんの方と
話を付けてもらうことにした。
人はこれを他人任せというかもしれないが、俺が決めて良い問題でないのだから仕方
ない。いやー、ほんと申し訳ないなー、俺には決める権限が無いから上の人に任せるし
かないんだよなー。
だがそれがピニャ皇女にはとてもうれしい事だったらしく、また泣かれた。
上層部に直接話をさせてもらえるなんて何ともありがたいだとか言われかなり良心
1510
が痛んだが、まぁ本人が喜んでいるのだから良いという事にしておこう。
そんなわけで、ピニャ皇女はボーゼスさんと一緒にこちらへと来たわけだ。
あとのテュカ・レレイ・ロゥリィの3人に来てもらったのは国会招致で少し手伝って
もらおうと思ったからだ。
今回の国会招致では数人の現地住人を共に連れて来るよう言われていた為、この3人
に協力してもらうことにした。
最初は上手く後輩に演技してもらおうと思っていたのだが、狭間陸将との話でそれは
やめておいた方が良いと言われてしまった。
後輩の写真は狭間陸将だけでなく各国含めての一部上層部にも出回ってしまってい
るらしく、別の問題が発生するだけだとのこと。
だが、その際に別の案を提示された。
内容に関しては未だに大丈夫なのかと思う部分もあるが、後輩に関して大体の事︵報
告書に書いていないことも含めて︶を言った上で提案されたので恐らく大丈夫だろう。
一応狭間陸将からやりたくなければやらなくても良いと言われたが、後輩自身がそれ
を了承してしまった為、俺からは何も言えなくなってしまった。
しかし逆に考えればこのタイミングで特地における自衛隊のトップを味方に付ける
ことが出来たのはかなり大きいだろう。
俺自身が組織に属している以上、ある程度はその規律を守らなければならないのは確
かだ。
その辺りの便宜を狭間陸将自ら融通すると言ってくれたのだからむしろ良いこと尽
くめの気もする。
実際、後輩の事に関しても〝特地における協力者〟ではなく〝異世界に関しての助言
者〟として協力体制を敷くことが出来たと上層部に上手く報告してくれるそうだ。
そして上手く行けば後輩も今より自由に動けるようになるし各国の動きも多少牽制
できるとのこと。そのためにも、国会招致で後輩には頑張ってもらう必要がある。
そう、狭間陸将は告げた。
難しい顔してないでいつもの喫茶店行こうぜ さもないとモフられ過ぎて
﹄
得られるそうで、暇があれば後輩に子狐モードになってほしいと告げていたりする。
黒川はともかくテュカに関しては何やら後輩︵子狐モード︶に触れていると安心感が
わしていた。物理的に。
後輩の方を向けば、いつの間に仲良くなったのかテュカと黒川が仲良く後輩を弄りま
!
意識飛んじゃう
!
俺の思考を遮るように、後輩からの念話が届く。
!
﹃先輩
『stage14:地球へ』
1511
特地では狭間陸将との話以降は比較的元の姿で居ることが多かった後輩だが、国会が
終わるまでは暫く元の姿にはならない様に言われているので現在は子狐モードな後輩
だ。だから久しぶりに触る分、余計にモフり倒したいのだろう。
しかしながらこのままでは二人して全く前に進みそうにないので、今度はレレイに預
けることにした。
レレイは後輩とよく話をしているしその中身は魔法がどうとかの話なので、とりあえ
ずモフられる心配はないだろう。
ロゥリィでも良かったんだが、後輩はロゥリィに少しばかりの苦手意識を持っている
ようだからやめておいた。
ロゥリィ自身はコウジュの事に興味があるようだが、彼女の話を後輩に持ち出すと若
干難しい顔をするのだ。
とりあえず、前へと進む準備が出来たので︵若干2名の鋭い視線を受けながら︶俺は
敷地の外へと出るための手続きをしに行くことにする。
しかしそこで何やら近づいてくる人影があった。
その言葉と共に現れたのは何とも胡散臭い男だった。
かっております﹂
﹁伊 丹 二 尉、情 報 本 部 か ら 参 り ま し た 駒 門 と 言 い ま す。皆 さ ん の エ ス コ ー ト を 仰 せ つ
1512
恐らく、調査を主な仕事とする公安調査庁の人間だ。
﹃何この胡散臭い人﹄
お前も大概胡散臭いからな。
﹂
後輩の念話に頭の中でツッコミを入れながら、俺はその胡散臭い人と話を続ける。
﹁おたく公安の人
﹁んふふ、分かりますか。さすが二重橋の英雄は違いますな﹂
?
店へと訪れた。
いかないので近くのスーツと言えばなあの店でテュカ用の服を買った後いつもの喫茶
そのあとはバスに乗り込み、現在の服装のままテュカ達を国会に参加させるわけにも
騒いだが、まぁ置いておこう。
その際に駒門さんが調べた俺の経歴について栗林がSAN値を削られたかのように
そこからは少し駒門さんと話をした後、いくつか情報交換をしてバスに乗り込んだ。
俺は偶々目につきやすい位置に居た。それだけの話。
実際、ほとんどの敵兵を無力化したのは後輩だ。
本当に運が良かっただけだ。
﹁運が良かっただけだよ﹂
『stage14:地球へ』
1513
﹁いやー、ここも久しぶりっすねぇ﹂
﹂
?
﹂
!
後輩は我先にと中へと入っていく。
店の前に居たのに気づいたのか、いつもの店員さんが中から出てきた。
﹁ありがとうございます
﹁いらっしゃいませコウジュちゃん。準備は終わってるわよ﹂
容姿は完全に日本人じゃないのになぁ⋮⋮。
そうツッコミそうになるが不思議と似合っているので言葉にはしなかった。
お前はいつの時代の人間だ。
そう言いながらがま口の財布を取り出す後輩。
﹁あはは、残りは俺が出しますよ。地球にいらっしゃいませってことで﹂
﹁ちゃっかりしてるなぁ。でもひとり500円までだぞ
﹁ちゃんとメールしといたんで、もう料理は出来てると思うっすよ﹂
行かず戻っているのだ。
この喫茶店へは昼食を取るために来たので、さすがに子狐状態のまま食べるわけにも
その姿は元のものへと戻っている。
感慨深げに言う後輩。
﹁まったくだな。あの日もここに来てたっけか﹂
1514
このままだと後輩に全部食べられてしまうかもしれないので、俺達も続いて中に入
る。
﹁へぇ∼、何だか落ち着く場所ねぇ﹂
﹁おいしそうな匂いがする﹂
ロゥリィ、レレイ、テュカはそれぞれ感想を言いながら、店内に入り周りを見渡しつ
﹁ほんとだわ。私お腹すいちゃった﹂
つ俺に続く。
先導しながら奥へと進めば、後輩がカウンター席でマスターと楽しげに話をしてい
た。
とりあえずニヤニヤしておく。
見る間に真っ赤になる後輩。
この野郎、とジト目を向けると同時、全員に聞こえるほどにグゥーと音が聞こえた。
後ろには聞こえなかったようだが、後輩がニヤついていた。
無意識に俺の腹が鳴る。
いた。流石に一テーブルに全員は座れないのでその隣の席などにも置かれている。
後輩の言葉を聞きいつもの席へと目をやればいくつもの美味しそうな料理が並んで
﹁あ、先輩こっちこっち。いつものテーブルに準備してくれてあるってさ﹂
『stage14:地球へ』
1515
帽子を深く被り顔を隠す後輩、その姿を微笑ましく見守っているマスターに顔を向け
て会釈する。
そうだ。だからマスター自身から遠慮は無用とは言われている。
く、そこから家族の様な付き合いをしているそうで祖父と孫のような関係になっている
ただ、前に聞いたんだがこの店が潰れそうになった時に後輩が何か手助けしたらし
い。
店の2階が家なのだそうだが、それでも開店前の準備もあるだろうにほんと申し訳な
今回も、人目に付かず食事する為に急遽お願いしたのだが快く了承してくれた。
後輩の紹介で訪れるようになった喫茶店だが、このマスターには頭が上がらない。
立てる。
コーヒーを点てることが趣味だと言うマスターは、柔和な笑みを浮かべながら親指を
てきた人生の重みを感じさせるものだ。
歳は既に六十を超えているそうだが、顔に出来た皺は衰えを現すのではなく、過ごし
マスターをこそロマンスグレーと呼ぶべきだと思う。
だ。周りを気にする必要もない﹂
﹁いやいや、伊丹君とコウジュ君の頼みだ。いつでも構わないよ。それにまだ準備時間
﹁マスター、いつもすいません﹂
1516
それでも気にしてしまうのが日本人というものだろう。 ﹂
﹁ほらほら、料理が冷めてしまうから先に食べてしまいなさい。食後にコーヒーも淹れ
﹂
よう。お嬢さん方は紅茶の方が良いかね
﹁あ、俺はココアが良いです
﹁分かった。いつものだね﹂
﹁まったくお前は⋮⋮﹂
!
?
れたのか、奥へと入っていく。
そして準備が終わり、店員さんは礼をして奥へと戻った。マスターも気を利かしてく
スープ等の温かいものは出来立てで食べられるようにしてくれたようだ。
すると、奥から店員さんが残りの料理を持って来てくれた。
し、自身もいつもの後輩の前へと座る。
マスターが言ってくれているのに続けるのも失礼なので、俺も皆を適当な席へと誘導
そしてその後輩は、カウンター席からいつもの窓際の席へと移動した。
ちなみに、後輩曰くココアも絶品だそうで、いつも後輩はココアを頼んでいる。
それに対してマスターはニコリとするのみだ。
そう言ってくれるマスターに再び会釈。
﹁ふふふ、構わないさ。普段頼ってくれないから嬉しい位だよ私は﹂
『stage14:地球へ』
1517
﹂
﹂
その二人に感謝しつつ、俺は後輩へと目を向ける。
﹂
﹁良いのか
﹁何が
?
﹁まぁ、色々だよ。もう後戻りはできないぞ
?
﹁え、全部
べて良いぞ
﹂
﹁さて、腹も減ったし食べるか
!
いやまぁ良いけどちょっと足りないかも⋮⋮。ひーふーみー⋮⋮﹂
!? !
皆、ここはコウジュの奢りだそうだから好きなだけ食
誤魔化すように俺は声を上げた。
その言葉に、何やら俺も照れくさくなる。
﹁分かってるっすよ先輩。でも、ありがとう﹂
﹁無理はするなよ﹂
それに気づかなかったフリをして、俺は目線を外へと向けた。
なるほどただの照れ隠しか。
いや、よく見れば頬が微かに紅くなっている。
と言われるんだ。
良い事言ってるのに目が料理にしか行ってないぞお前。まったくこれだから残念娘
﹁うん、分かってる。でもこれで俺の周りの人に迷惑が掛からなくなるなら俺はするよ﹂
?
1518
慌てて財布を取り出す後輩。そして中身を確認しだした。
って熱っつぃ
﹂
他の席ではそれぞれ料理に舌鼓を打ちつつ食事を開始したようだ。
えっと、いただきます
!
!?
俺も、目の前の料理へと手を付けていく。
!
とりあえず、被害が最小限になることを切に願う。
国会でこいつの生贄になるのは誰なんだろうなぁ⋮⋮。
その姿を見て、俺は思う。
相変わらず食べ物に関してはいつも全力だよな。
それでも負けじと涙目でステーキを口へと運んでいく後輩。
お前また猫舌なのを忘れてたな⋮⋮。
せているステーキプレート。
だが後輩が最初に口にしたのは現在進行形でジュージューと芳ばしい音と匂いをさ
と手を掛けた。
財布から目を上げた後輩が俺達が先に食べ始めたのに気付いて追いかけるよに箸へ
﹁あ、ずるい
『stage14:地球へ』
1519
﹂
﹂
﹃stage15:ハナシアイ﹄
﹁あなたお馬鹿ぁ
﹁い、いま、なんと⋮⋮
﹂
?
だがそれは、ただ馬鹿にしている訳ではない。ロゥリィは純然たる理由があって目の
前の女性を嘲る。
亜神たる彼女は、この場だけでも多数の人間が居るというのに堂々とした態度で目の
そして大音量で以て本国の人間かと思うほど流暢な言葉で答えた主の名はロゥリィ。
そんな中、とある議員の発言に対する答えが冒頭のものだ。
かつてないほどに高くなっていた。
間が経過したころ、公共のチャンネルを通じて義務的に行われているこの場の視聴率は
某巨大掲示板に置いて特地の人間が国会中継に出ていると書き込まれたから早数時
﹁お嬢ちゃん⋮⋮ですって⋮⋮
﹁あなたはお馬鹿さんですかぁって言ったのよぉ、お嬢ちゃん﹂
?
?
1520
前の女に対して言い返すべきだと判断したが故だ。
まず第一に、見当違いの質問をしている。第二に、見た目で判断して侮っている。第
三に、どのような回答をしてほしいか、そしてその答えでもって自分の言い分を通そう
としているのが透けて見えている。
ぶっちゃけて言えばロゥリィからすれば嫌いな人種だった。
他 を 蹴 落 と す こ と で そ の 場 に 居 る よ う な 輩 は 総 じ て 死 を 前 に し て 醜 い 本 性 を 現 す。
ロゥリィが何度となく見、そして何度となく断罪してきた存在だ。
ロゥリィが仕える死と断罪の神は決して命を否定し死へと誘う存在ではない。むし
ろいずれ来る死の瞬間の為に悔いなく生きることをこそ教義としている。
しかし目の前の女は己を偽り言葉を偽り他者を貶める言葉を吐く。
これを前にしてロゥリィが黙って居られる筈もない。
ロゥリィは予め言われていたことに気を付けながらも自身が感じたことをそのまま
きねぇ﹂
こそを称えるべきよぉ。彼らが行ったのはぁ奇跡にも等しいということを理解するべ
者は出たでしょぉ。でもそれ以上にぃ、炎龍を前にしてあれだけの命が残っていること
彼らの自衛隊は勇敢に闘い撃破したわぁ。そして彼女と共に村人を救った。確かに死
・・
﹁まったく、あなたのような輩が居るこの国の兵士は大変苦労しているでしょうねぇ。
『stage15:ハナシアイ』
1521
告げた。
それは紛う事なき本心だった。
はるか昔から炎龍は数多くの英雄を喰らい、貪り、その命を無へと還してきた。
ロゥリィ達の世界において炎龍とは災害そのもの。災害を打破しようなど出来るは
ずもない。
だがそれが行われたのだ。
それが職務怠
褒め称えこそすれ、どうしてもっと上手くできたはずだと責められようか。
﹂
﹁しかし彼らに死者は出ていないのに現地民にだけ被害が出ているわ
慢と言わず何と言うの
既にそのやり方は当人以外の全てに対して効果を齎してはいない。
だがそこで女性議員は気づくべきだったのだ。
そう言った心情で以て言葉を続けた。
なる。多少の不敬は大人らしく大目に見て言い包めなければならない。
えばここで敵対している派閥にダメージを与えることができれば自身の立場は盤石と
全国に放送されているこの場で少女に言い負けては自身の立場が危うい。さらに言
ドを叩くようにしながら放送機器に向かってアピールをする。
ロゥリィの言葉に女性議員は負けじと声を張り上げる。その手に持つフリップボー
!
!
1522
そもそもその言葉は人の心に響いては居なかった。
当然だ。その場を見て当事者であり被害を被った人々と共にあったロゥリィの言葉
と、数字の話ばかりをして上げ足を取るだけの女性議員。
この場の趨勢は決まっているようなものだ。
それを忘れて前の兵士を貶
守るのよぅ。あなたみたいな後ろで踏ん反り返っているだけの人間がそんな言葉を口
﹁ほんとぉにおばかさんねぇ。前線に立つ兵士が倒れてしまえば誰が後ろに居る人間を
にできるのは前に立って守る人間が居るからなのよぉ
すだけでは誰もそのうち守ってくれなくなるわぁ﹂
それはその可愛らしい見た目に反して重く人々の心に浸透していく。
長い、この場に居る誰よりも長い生を生きてきた少女の言葉だ。
?
正式な場という事で取り出していたのだ。布に包まれているとはいえ巨大なそれに周
持ち歩くと目立つという事でとある少女から渡されたカードの中に収納していたが、
そしてその在り様に、ついにロゥリィは断罪するべきかと己の武器を握り直す。
い。
言葉を拒絶し、自身の思惑通りに行かないこの場にただ憤っている故に響きはしな
だが目の前の女性議員には届いていなかったようだ。
﹁お、大人に対する礼儀を弁えていないようね⋮⋮﹂
『stage15:ハナシアイ』
1523
囲は慄く。
しかし仕方ないのだ。
ルー ル
言って分からないのであれば魂となって浄化された方が早い。
それがロゥリィの関わる世界での教義。
﹂
敬虔な使徒であるロゥリィにとって眼の前の存在は害悪でしかない。
﹁少しお待ちください
﹂
!
﹁我々は門の向こう側に行き、様々なものを見ました。そして、こちらの常識が向こうで
そしてすぐさま、この場の皆を見回しながら再び口を開く。
それを見てほっとっする伊丹。
リィなりのアピールだった。
常に傍に在った物が無くなるのはどこか落ち着かないが、伊丹に任せるというロゥ
ら与えられた席へと戻る。
ロゥリィは仕方なく﹁良い所なのにぃ﹂と言い、手にしていたものを再び収納しなが
彼はロゥリィを押しのけるようにして前に立つ。
伊丹耀司だ。
しかしロゥリィによる断罪が行われるよりも早く、声を上げる存在が居た。
﹁ちょ、ちょっとぉ
!!
1524
は通用しないことを知りました。その一つが年齢です。
私たちは日常の中で年功序列等と言う言葉を使いますが、その言葉で当てはめれば、
﹂
こちらに居るロゥリィ・マーキュリーはこの中で最も敬われるべき存在です﹂
﹁ちょっとぉ、その言い方は無いんじゃないのぉ
どうやらロゥリィは直接を手を下すことをやめて場の成り行きを見守る体勢に入っ
ちらりとそちらを見た伊丹は心の中で最近増え気味な溜息をつき、改めて前を見る。
ロゥリィから非難の声が上がるがその表情はニヤニヤとしたものに変わっていた。
?
﹂
たようだと判断した伊丹は元々やろうとしていたことの為に軌道修正を図る。
?
だった。
完全に先の一言で場の流れを持っていかれてしまった彼女はそこまで言うのが限度
未だ伊丹の対面に立っていた女性議員が、何とかそう口にした。
﹁ち、ちなみに⋮⋮﹂
うレベルなのに、千に届こうかという年齢を言われてしまえば驚かざるを得ない。
しかしそれも当たり前だ。現代日本には100歳を超えるだけでも何人いるかとい
ロゥリィが告げた年齢に場が騒然となる。
﹁まったくぅ。私は961歳よ﹂
﹁ロゥリィ、悪いが年齢を言ってくれないか
『stage15:ハナシアイ』
1525
しかし彼女の言葉と共に目を向けられたテュカは、その言葉の意味を理解して憮然と
答える。
この場に居るものだけでなく、カメラを通したその向こう側の全員が同時にそう思っ
お前のようなゼロ歳児が居るか。
﹁ふふん、己は精々数日だな﹂
おれ
そして女性議員は、多少持ち直した心で以て何歳かとその少女に問うた。
何故ならレレイの隣にはもう一人、銀色の少女がまだ座っているのだから。
しかし、ホッとしたのも束の間、彼らは結局頭を悩ませることになる。
年齢であった場合には議員たちは放心してしまっていただろう。
別に見た目に反する年齢の何が悪いという訳でも無いが、レレイまでもがありえない
ホッと、その場に居た者たちがそう口にする。
﹁15歳﹂
彼女もまた答える。
目を向けられたのはレレイだ。
女性議員はついに言葉を出すことも忘れて、その隣に座る少女へと目を向ける。
再び議事堂内が騒がしくなる。
﹁165歳﹂
1526
た。
なにせそう告げた少女、否、女性は女学生が着るようなブレザーを着てはいるがモデ
おれ
ルも斯くやと言わんばかりのプロポーションを誇っていた。
﹁ああ、敢えてこう言おうか。己は数日前に一度殺され、そして再構成されたのさ﹂
おれ
足を組み、尊大に座るその女性はその場に居るものを睥睨するかのように告げる。
﹂
?
だ。
今俺の後ろで銀髪の女性が告げた〝己が炎龍〟だという言葉を聞いたのがその原因
皆気付いているだろう。
日ごろから空気を読む︵読み専︶ことに気を付けている俺じゃなくてもそのことには
場の空気が凍った。
◆◆◆
一緒にしてくれるなよぅ
﹁己はさっきからお前たちの話に出てくる炎龍だよ。マグロ食ってるイグアナ擬きとは
『stage15:ハナシアイ』
1527
︶が聞いていたとは誰も思わないだろう。
空飛ぶ戦車だとかタングステン並みの強度だとか色々とあれこれ言われていたのを
その本人︵本龍
この状況こそ、俺達の作戦への第一歩。
そしてこれで良いんだ。
だからこそ、俺たち以外の人間は凍り付いたように反応できなくなっている。
しかしそんなことここに居る人間には判断が付かない。
ラver︶なのだ。
だが当然ながら実際には違う。ここに居るのは後輩が遠隔操作している泥人形︵恋ド
?
﹂
?
ことができました﹂
すことが出来ています。いえ、正確には彼女を御すことが出来る存在と協力関係を結ぶ
﹁いいえ、改めて言いますが彼女が炎龍だというのは本当です。そして我々は、彼女を御
ならもう一手だ。
さすがは古株。これだけ場を掻き乱しても再起動するまでが早かったな。
俺の記憶によれば結構な古株で各方面に顔が利く議員だったかな。
引き攣った顔で、議員の一人がそう言いだした。
﹁ははは、昨今の自衛隊は演劇の練習もするのかね
﹁皆さん驚くのは仕方ないと思います。しかし彼女が炎龍だというのは確かです﹂
1528
﹁何を言って│││﹂
・・
これに気付くことが出来ていた方はいらっしゃいますでしょうか
﹂
?
御陰で良い引き立て役だよ。
全く以て予想通りの返しだ。
ありがとう、と俺は心の中で言う。
何を馬鹿なと鼻で笑うように言う女性議員。
﹁何もないじゃないですか﹂
その為に、俺は俺が立つすぐ横に在るモノを指さしながら告げる。
・・
進行係の人は既に混乱しているのだ。あとは残る議員の余裕を潰すだけ。
て話す。
古株議員の御陰で続いて再起動できたらしい女性議員の言葉を遮るように声を上げ
﹁失礼ですが
!
﹂
?
そう漏らしたのは誰だったか、在るという前提で見るか在ることを知っていれば容易
﹁あ⋮⋮﹂
ないですか
だから、ここに段ボール箱が不自然にあることに気付いた人がそろそろ出てくるんじゃ
・・・・・・・・・・・・・・
方なら気づいた人も居るかもしれません。直接じゃないと効果は薄いらしいですから。
﹁いいえあるんです。認識できていないだけでここにはあるんです。テレビで見ている
『stage15:ハナシアイ』
1529
く意味をなさなくなるらしいこれ。それをこの場に居る誰かが目にすることが出来た
ようだ。
続けるように、周囲のあちこちから驚く声が聞こえはじめた。
驚くことにその中の一人は目の前の女性議員だったりする。
いや、無いな。
疑ってかかればまず見つけられない筈なのに案外純粋な心も持っているのだろうか
さておき、ここらがいいタイミングだろう。
?
﹄
!?
それが立て直され始めた人々の心へとダイレクトアタックする。
その後輩が段ボールを脱ぎ捨てると同時に人型に戻って周囲へとアピールする。
モード+畳︶になって隠れていたのだ。
そう、恋ドラちゃんを操作する一方で、後輩は段ボールの中でステルスモード︵子狐
中から出てきた後輩の姿に、飛び上らんほどに驚く面々。
﹃
﹁待たせたなぁっ﹂
同時、ガバっと勢いよく段ボール箱が空に飛んだ。正確には中から人が出てきた。
俺はボソリとそう口にする。
﹁後輩、出番だ﹂
1530
目の前の女性議員なんて大口を開けて阿呆面を曝してしまっている。俺が言うのも
なんだが全国放送でその顔はマズいと思うの。
しかしそれだけ驚きに包まれ思考を停止してしまっているということだろう。
よく見れば女性議員だけでなく周囲の何人もがそうなってしまっている。
好機、かな。
﹁さて皆さん、ここに居る彼女⋮⋮コウジュこそが炎龍を御し、そしてあの銀座事件で活
躍したもう一人なのです。どうしてこんなことをしたのか、そう疑問に思う方もいらっ
しゃるでしょう。しかしこれはある話を聞いて頂くためのデモンストレーションなの
です﹂
そう、俺は斬り出していく。
未だに頭の中が整理しきれない人物が数多く居る様で、俺の話を切ろうとする者は居
ない。
刀法がどうとか言うつもりは勿論ありません。ただ、そんな平和な日本を脅かす存在に
銃刀法という法があるこの日本において、それに対する手段などありません。別に銃
した。
との間に門を介して繋がりが出来てしまい、そしてその門から突如侵略者たちが現れま
﹁今から数か月前、銀座に置いてある事件が起こりました。通称﹃特地﹄と呼ばれる世界
『stage15:ハナシアイ』
1531
対してすぐさま対応できる人間が居なかったのです。たった一人を除いて。
話は変わりますが十年ほど前、実は既に一人の異世界からの来訪者は居たのです。そ
台本と違う
﹄
の存在こそが銀座事件を最小限に留めた立役者なのです﹂
﹃ちょ、先輩
!!
勿論情報源は狭間陸将だ。
座事件での銀髪少女に関してこの場で聞こうとしている奴が居るってことは。
知ってるんだよ。この中の誰かがどの派閥かは知らないがフリップまで用意して銀
そう、そのままで居てくれ。俺が全てを言いきるまで。
誰も彼もが聞くに徹している。
俺の言葉だけが場に響く。
ち我々を守ってくれたのです﹂
変わったのが銀座事件でした。彼女は命を奪うことに忌避感を持ちながらも、矢面に立
逆を言えばそれだけで、何の変哲もないただの少女だったからです。しかしその認識が
人間であるという事を知りませんでした。何せ彼女は少し目立つ容姿をしていますが、
﹁彼女とは十年前にひょんなことから知り合いました。その時はまだ、彼女が異世界の
しかし俺はそれを無視して続きを話す。
俺の言葉に後輩から念話が届く。
!?
1532
あの人に言われた提案、それはこの場において先んじて後輩の情報を提供すること。
その為に、無駄にパフォーマンスをして全員の頭の中を空っぽにしてもらう必要が
あった。
御陰で今話していることはスルスルと頭の中に入っていくことだろう。
言葉というものは難しいもので、同じ言葉でも捉える人間が違えば捉え方も変わって
しまう。
そこに余計な前情報が入ってしまえば余計にだ。
だからそれを最小限にするために、静かに頭の中を空っぽにして聞いていてもらう必
要があった。そして先んじて言うことで、後から付け足された情報の信用度を下げる。
この辺りも陸将とともに作戦を詰めた部分だが、陸将曰く、
﹁デカい衝撃を与えて頭の
中が空っぽになっている状態の所に一石投じてやれば人間ってのはそっちに転んでし
まうもんだ﹂だそうだ。そうすることで自然と群集心理ってのが働くらしい。
それを、俺達は狙った。
ま、少し勝手にアドリブを入れさせてもらうがな。
は貰い物だそうですが、都合この地球で3つ目の世界となる異世界からのお客様です﹂
﹁彼女はコウジュ、コウジュスフィール・フォン・アインツベルン。コウジュ以下の名前
『stage15:ハナシアイ』
1533
1534
◆◆◆
先輩のセリフが台本と違う件について。
いやまぁ作戦に支障をきたすわけじゃないけど、何故それを言ったし。
アインツベルンまで言っちゃうと大きいお友達たちはすぐにどういう意味か気づく
はずだ。
だってつまり俺は立場的に言えば3次元に居るオリ主だってことを日本全国のお茶
の間に宣言されちゃうって訳だ。そんなのマジで勘弁してほしい。
そんなの恥ずかしくて悶え苦しむわ。
いや、主人公ってわけじゃないだろうけど、それでも二次元に介入した後だって言わ
れるわけだぜ
ホント勘弁してくれませんかねぇ
!?
報を叩き込むというものだったわけだが、ちょっと俺のリアル黒歴史を公開しちゃうの
元々の作戦でもインパクトを与えて呆けてもらっている間にこちらの都合が良い情
でも今は普通ならありえないデモンストレーションをしたすぐ後だ。
・・・・・・・・・
普通なら、そんなの信じる訳がない。
?
銀髪ケモ耳紅目巨乳幼女な見た目で、魔法とか使えることは銀座事
あー、別にあの世界に関わったことを恥ずかしいって思ってる訳じゃないけど、でも
ほら、ねぇ⋮⋮
件の事で一部にはばれてるし、そこにしかもドラゴン倒せるとか言われると、ねぇ⋮⋮
?
最初の世界は普通の学生でした
!
ごめんなさい最初の方はそういう設定なだけなのでホント勘弁してください。
その後何とか解決に至りました。そしてその後にこの世界へと来訪したのです﹂
つ目の世界へと渡ったそうです。二つ目の世界でも彼女はとある事件に巻き込まれて、
業営む組織に属していたそうですがとある事件に巻き込まれてそれを解決、その後に二
境でも適応できるように遺伝子操作で産まれた種族らしいのです。そんな彼女は傭兵
居たそうですが、その中でも彼女と同じ種族であるビーストという種は、過酷な宇宙環
﹁彼女は元々、宇宙進出を済ませた世界に居たそうです。その世界には幾つかの種族が
そんな風に一人復讐を誓っている間にも先輩の言葉は進んでいた。
先輩後で覚えてやがれ。
?
も大まかに言えば人助けをする職業、そういう気質なのでしょう。
は彼女も言っていましたが後悔はしていないそうです。彼女が元々行っていた傭兵業
﹁しかし彼女はまた事件に巻き込まれてしまいました。それが銀座事件です。それ自体
『stage15:ハナシアイ』
1535
だが、その彼女を脅かそうとする存在が居ます
﹂
待って、ねぇちょっと待って先輩。一体何を言うつもりなのさ。
!
﹂
!
ああ、確かに彼は英雄だ。
くない言葉を吐く先輩は何処までもカッコよかった。
当初の作戦はどこかに行ってしまったが、これだけの面々を前にして素の感情でらし
だけど、それが先輩には我慢ならなかったらしい。
諦めていた。
俺自身、自らがこの世界では歪な存在だと思っている。だから狙われても仕方ないと
た。
作戦とは全く関係ない言葉だけど、現金なことに俺は内心溢れんばかりに嬉しかっ
先輩は、俺の為に怒ってくれているんだ。
その顔は怒りを浮かべていた。
途中から、敬語も無くなり感情のままにそう言った先輩。
内こいつの周りを狙い始めやがった。そんなこと許せるわけがない
が得意です。その為に彼女は捕まることなくこの場に居ます。しかしそいつらはその
織達に狙われ続けています。しかしまぁ先程ご覧いただいたように彼女は隠れること
・
﹁彼女はとある場所に住んでいたのですが、銀座事件の後、彼女は何処とも知れぬ謎の組
1536
そんな英雄殿はつい声を荒げてしまった自分を少し恥じたのかコホンと1拍置き、続
けた。
ないからと捕えてあるそうですが、さすがに食費やらを維持するのが大変なのでそろそ
﹁それでも彼女はその攻めてきた奴らを一人も殺しちゃいません。さすがに放置もでき
もっと良い言い方ってもの
!?
ろ引き取ってほしいそうです﹂
俺の感動返して
待って、今いい話してたのに途端に安っぽくなったよ
があるよね
!!?
しかし俺の内心など知ったことかと、先輩は無駄にキリッとした顔で続ける。
!?
んだけど、放置
?
だけど、その先輩の御陰でなんだか少し救われた気がした。
酷い先輩も居たもんである。
?
え、俺はこのまま 俺の登場は予定にないから席も無いしで立ってないといけない
そう言って先輩はマイクから離れて自分の席へと戻った。
す。ここで今一度、彼女たちへの対応を考え直して頂きたい。以上です﹂
予想もできないものを彼女は持っています。勿論、扉を越えた向こうの世界もそうで
す。炎龍を我々と共に倒してくれたのも彼女の技術あってのもの。その様に我々には
﹁さて、本題に入ります。彼女はいくつかの世界を渡り、幾つもの技術を身に着けていま
『stage15:ハナシアイ』
1537
正直助かった命が有るというだけでも嬉しかったが、こうやって身近に俺について
怒ってくれる人が居るというのはやはり何よりも嬉しい。
対価が欲しい訳じゃないが、だからと言って良い様に使われるのはまっぴら御免であ
る。
その辺りの事を今回伝えようって最初は予定していたはずなんだが、どうやら先輩は
それだけでは物足りなかったようだ。
むむ、何だよ先輩カッコいいじゃないか。
俺はつい嬉しくなって、でも流石に自分では恥ずかしいので恋ドラちゃんを使って先
﹂
輩へとありがとうを伝えることにした。
﹁さっすがは己の英雄殿だ
今更こちらへ戻ってくるのも締まらないだろうし、ここからは俺ががんばろうか。
てしまった。
元々は先輩と共に色々話すつもりだったわけだが、先輩は勢いでそのまま席へと戻っ
さて、俺も本来予定していた行動へと戻ろう。
そのものじゃないし、うん、気にしないでおこう。
人形とはいえ中身が無いだけで人種そのものの外側だから色々柔らかい筈だけど俺
ひとしゅ
勢い余って抱き付く形になってしまったが、まぁ仕方ないか。
!
1538
折角先輩が気を利かせてくれたんだ。このまま世界へとアピールしようじゃないか。
俺達と敵対するよりも仲良くした方が利益がありますよってな。
元々が日本人なのもあって日本贔屓ではあるが、その上で攻めてくるのならどこだろ
うと知ったこっちゃない。
俺自身に対してなら構わないが、周りにまで迷惑掛けようものならボコボコにしてや
る。
でもまぁ狭間さんが言っていたがこれである程度民衆を味方にできるそうだ。
そうすれば敵さんも動きにくくなるし、その分余計に俺自身を狙うようになるだろう
とのこと。
難しいことはよくわからないが、そうなるのなら真正面から叩きつぶすだけだ。
その為にも、俺自身の有用性をある程度伝えなければな。
さぁ、ここからが正念場だ。
﹄
!!
﹂
!?
操作の為に感覚共有を使っているから嫌なところに手が触れた感覚が有ったので、恋
﹁うおっ
﹃ってこら先輩ドサクサ紛れにどこ触ってやがる
『stage15:ハナシアイ』
1539
1540
ドラ人形で殴っておく。
このタイミングでラッキースケベとかどこのRITOさんだ。まったく⋮⋮。
3 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ﹀﹀1 立て乙
ID:││││││││
2 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ なんか国会にエルフとか出てるって聞いて ID:││││││││
1 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ︻日本︼国会中継になんか来た︻始まった︼
注 掲示板形式
﹃stage15.5:
︵某掲示板での︶ハナシアイ﹄ ※
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1541
1542
ID:││││││││
﹀﹀1 おっつおっつ
4 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀1 乙 んでその肝心のエルフって
ID:││││││││
6 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ 気になってテレビ漬けたがまじだった
ID:││││││││
5 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1543
﹀﹀5 漬けんなwww
7 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀5 柴漬けか浅漬け、それが問題
8 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀5
不覚にも吹いたwwww
9 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
1544
﹀﹀5
で、美味いのか
ID:││││││││
んで、結局どうなのよ。エルフマジでてるん
ってかめっちゃ美人やんwwwwww
マジっぽい。居るわ耳長いの
ID:││││││││
12 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
11 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
蛇さんはお帰りください
ID:││││││││
10 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
13 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
くっころされそうな感じ
ID:││││││││
エルフと来たらすぐそっちに持っていくよなおまいら。で、ソリッドブックはいつ
?
14 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
しまっちゃいましょうねー
ID:││││││││
16 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
全裸待機
ID:││││││││
15 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
︵全裸待機
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1545
1546
17 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
俺は奥の黒いロリさんが良いわ
18 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
あの銀髪少女が良いわ
19 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
少女ってレベルじゃねーと思うんだけど
ID:││││││││
あのスタイル抜群の子
いやほら青みがかった銀髪の子。
ID:││││││││
20 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1547
なんかどこぞのパイロットみたいじゃん。
21 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
﹀﹀19
そうだよな。中学生以上はもう少女じゃないよな
22 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
﹀﹀21 通報した
23 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
﹀﹀21 通報した
24 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
1548
﹀﹀21 通報した︵目反らし
25 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
﹀﹀24 も通報
それにしてもマジでエルフとかいたんだな。まぁあの銀座のやつでゴブリンっぽい
のも居たし可能性は考えてたけど
26 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
ワイバーンとかも居たよな。転がる豚はたぶんオーク
ID:││││││││
そういや一時期話題になってた銀髪幼女︵仮︶は結局どうなったんだ
28 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
27 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1549
ID:││││││││
ああ、あのCGだの合成だの言われてたやつな。
動画自体は本物だったらしいが、見つかってたらもっと祭りになってるよ
29 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
それもそうか。
30 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
そういや今国会に出てる一人が銀髪だけど、姉妹だったとかて落ちない
32 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
いやいやいや、それは無いッて
ID:││││││││
31 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
1550
ID:││││││││
ナイナイ
33 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
無いよな
ID:││││││││
36 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀34 裏切り者だ殺処分しろ
ID:││││││││
35 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
銀髪姉妹は頂いていきますね︵キリ
ID:││││││││
34 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1551
﹀﹀34
ヒャッハー
汚物は消毒だー
!!
ID:││││││││
40 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
tktk
ID:││││││││
39 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
wkwk
ID:││││││││
38 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
おい、そろそろ始まるみたいだぞ
ID:││││││││
37 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!
1552
・・・古い。でもこのノリ嫌いじゃないわ
﹀﹀43 それ俺も思ったw
ID:││││││││
44 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
プラグスーツ着てほしい
ID:││││││││
43 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ほむ、レレイちゃんね
ID:││││││││
42 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
最初は、あの銀髪クール少女ちゃんか
ID:││││││││
41 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!
45 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
おまえらwwwと言いいつ俺も類友
46 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
まったく同じ思考の人間がこんなに⋮。こんな時どんな顔すればいいのかわからな
いわ。
47 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
・ω・`︶
﹀﹀46 ´
ID:││││││││
48 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
︵
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1553
﹀﹀46 ︶
´
52 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
おまいら49の冷静さを見習え
ID:││││││││
51 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
おしいww
﹀﹀47 ﹀﹀48
ID:││││││││
50 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
レレイちゃん日本語話せるのな
ID:││││││││
49 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
︵`・ω・
1554
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1555
ID:││││││││
﹀﹀51
って言いつつプラグスーツで雑コラ作ってくれてるんでしょう
働かないこと
﹀﹀54
ID:││││││││
55 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
自由とはなんだ︵哲学
ID:││││││││
54 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
おい、なんかそのレレイちゃんが哲学的なこと言いだしたぞ
ID:││││││││
53 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
1556
56 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
アッハイ
57 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
ん、衣食住は分かるが後は何だ
衣・食・住・食・レイ
ID:││││││││
58 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
何回食うねん
﹀﹀58
ID:││││││││
59 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1557
60 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
﹀﹀58
生きるのに必要なのが綾波レイかwwww
61 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
職じゃね
・
・
じゃあ﹀﹀55は駄目だな。ナームー
ID:││││││││
62 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
1558
・
81 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
次エルフちゃんだ
82 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
テュカルナマルソーちゃんだってさ
83 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
テュカ・ルナ・マルソ│かな
ID:││││││││
84 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
テュカル・ナ・丸そーかもしれんぞ
85 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
どうでもいいわwww
86 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
テュカちゃんhshs
87 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
この子、あれだ、得るウィンっぽい
88 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
シャニティアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
!!!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1559
1560
89 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
シャニティ アッー
お、おう⋮
ID:││││││││
92 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
間違えた。ホモは帰ってくれないか
﹀﹀90
ID:││││││││
91 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
悪いがホモ以外は帰ってくれないか
ID:││││││││
90 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!!!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1561
93 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ID:││││││││
アッハイ
それと
94 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
巨乳なの
?
ID:││││││││
てか、話し戻すけどそのテュカウィンちゃんは結局貧乳なの
も虚乳なの
?
ID:││││││││
小さくは無いけどでかいってわけじゃないかな
がダントツ
?
ID:││││││││
96 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
デカさで言うなら横の銀髪美女
95 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
1562
小さいのはレレイちゃんか。ってか幼い
﹀﹀97 せやな
ID:││││││││
99 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
また脱線してんじゃねぇか
ID:││││││││
98 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
乳に貴賎なし
ID:││││││││
97 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
100 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
耳
!
│ ID:││││││││
あ、おい
!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1563
101 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ピクッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
102 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
│ ID:││││││││
ミミガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ミミガアアアアアアアアア
│ ID:││││││││
104 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!!!!!!!
103 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
アアアアア
キェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウゴイタアアアアアアアアアアアア
!!!!!!!!!!!?
1564
・
・
・
111 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ゴスロリ様だ。
112 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ゴスロリのロリ様が出てきた
ベール取ってくれないかな
!!!
113 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1565
︵難聴
│ ID:││││││││
ゴリスが何だって
│ ID:││││││││
うおおおおおおおおおおおお顔見たいいいいい
貴様にはTウイルスをやろう
﹀﹀113
│ ID:││││││││
116 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
傘の罠にはまってろ
﹀﹀113
│ ID:││││││││
115 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!
114 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1566
117 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
もちつけおまえら、ゴスロリ様が話すだろ
118 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
えっと、神官って言った
じゃぁお偉いさん
│ ID:││││││││
119 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
ローリーって名前か
│ ID:││││││││
120 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
121 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1567
ロゥリィ・マーキュリー
│ ID:││││││││
発音的にロゥリィじゃね
125 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
お、俺阪神⋮⋮
│ ID:││││││││
124 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
俺カープ派なんで
│ ID:││││││││
123 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
俺ヤクルト派なんで
﹀﹀120
│ ID:││││││││
122 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1568
│ ID:││││││││
33│4
126 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
阪神関係無い⋮⋮こともないか。
│ ID:││││││││
何でや
│ ID:││││││││
129 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
俺、皆マーキュリーの方に反応すると思った
│ ID:││││││││
128 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
いやねーよ
│ ID:││││││││
127 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
ああ、水星を守護に持っちゃう感じ
IQ300な感じ
│ ID:││││││││
130 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
│ ID:││││││││
133 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
だな。ってかマジで何なのアレ
│ ID:││││││││
132 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
むしろ手に持ってる巨大なあれの所為で物理攻撃系にしか見えない件について
│ ID:││││││││
131 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
神官って言う位だし杖とか
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1569
1570
それとも神に代わってお仕置きよ︵物理︶なの
134 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
アレが杖って、祈り︵物理︶なの
?
祈りが折りに見えたスマソ
﹀﹀134
なるほどな
﹀﹀135
│ ID:││││││││
136 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ら相場が決まってるじゃないか。
何言ってるんだ。僧侶は殴る者、神父も殴る者、シスターは祈る者︵物理︶って昔か
│ ID:││││││││
135 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1571
137 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀135
おいw 完全にゲーム脳www
138 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
殴る系神父が出るゲームってあったっけ
│ ID:││││││││
外道麻婆のことかああああああああああああああああ
!!!
140 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
マジ狩る☆八極拳
│ ID:││││││││
139 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1572
141 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
麻婆かww
142 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
じゃああのロゥリィちゃんが持ってるのって黒鍵的な何か
145 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
本人も真っ黒なんですがそれは⋮⋮
│ ID:││││││││
144 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
確かに黒いのに包まれてるしな
│ ID:││││││││
143 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
│ ID:││││││││
あ、ロゥリィちゃんがベール取ったぞ
何を言うんだろう
│ ID:││││││││
146 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
い
めっちゃかわいいいいいいいいぶひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
!
﹀﹀145
│ ID:││││││││
147 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
・ω・`︶豚は出荷よー
´
・
・
・
︵
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1573
1574
167 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ロゥリィちゃんよく言った
ロゥリィ様だこのやろう
│ ID:││││││││
168 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!
│ ID:││││││││
170 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
様を付けろよデコ助野郎
│ ID:││││││││
169 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!
!!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1575
あ、おいあの襟キレてんぞww
171 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
そらこんな少女にマジレスされたらキレるだろうさ。俺もスカッとしてるけどさw
w
172 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
おこなの
ムカ着火ファイヤー
ヽ︵`Д
#︶ノ ´
│ ID:││││││││
174 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
│ ID:││││││││
173 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1576
煽り耐性ゼロかこいつwwww
175 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
おww嬢wwちゃwwんww
176 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
お嬢ちゃんてwwwww
177 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
煽りよるwww
178 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ドヤ顔可愛いいいいいいいいいいいい
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1577
179 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
あ、伊丹氏が出てきたぞ
180 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
なんだなんだ
181 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
はっ
ファーーーーーーーーーーwww
│ ID:││││││││
182 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1578
183 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
まじで961歳
│ ID:││││││││
え、まじで
!?
│ ID:││││││││
エタロリだああああああああああ
│ ID:││││││││
ロリBBAだあああああああああああ
BBA
BBA
俺だ結婚してくれえええええええええええ
│ ID:││││││││
186 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!!!!
185 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!!!
184 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
!!
187 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1579
│ ID:││││││││
BBAって言ったやつ夜にお客さんきちまうぞwww
︵ガチ
188 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ロリBBAに殺されるなら本望です
わが生涯に一片の悔いなし
│ ID:││││││││
189 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
│ ID:││││││││
191 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
いやな名セリフの使い方だなぁおいww
│ ID:││││││││
190 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
1580
テュカちゃんも165歳だってよ
192 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀191 まじで
│ ID:││││││││
れ、レレイちゃんもひょっとしてひょっとしちゃうんですか
﹀﹀194 15歳
│ ID:││││││││
195 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!?
194 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
まじまじ
│ ID:││││││││
193 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
196 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
・ω・`︶
│ ID:││││││││
´
・ω・`︶
´
│ ID:││││││││
そういやもう一人の銀髪美女は
?
199 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
何でションボリするんだよwwww
│ ID:││││││││
198 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
︵
│ ID:││││││││
197 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
︵
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1581
1582
200 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
今から言うとこだ
201 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
えっと、生後数日
│ ID:││││││││
生後数日ってどういうこと
204 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
203 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
って言ったよな
│ ID:││││││││
202 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1583
│ ID:││││││││
あの4人の中で一番育ってるじゃん。どこがとは言わないけど
205 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
いやほんとそう言ったんだって。
206 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
一度死んで生き返った炎龍
│ ID:││││││││
は
?
え、どういうこと
│ ID:││││││││
208 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
│ ID:││││││││
207 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1584
あの銀髪美女が生後数日なのは一度殺された後に生き返ったからなんだってさ
209 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
意味が解らないです
210 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
段ボールがある
211 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
つまりどういうことだってばよ
自衛隊が倒したって言ってたやつ
?
│ ID:││││││││
村人を殺したってさっき言ってた炎龍
?
212 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1585
213 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀210 何言ってんだお前
214 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ファンタジーな放送だけど現実だぞ ちゃんと現実見れて
どうもその炎龍らしい
﹀﹀210 どした
るか
?
?
│ ID:││││││││
向こうの世界って死んでも生き返れるの
│ ID:││││││││
216 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
215 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1586
﹀﹀213﹀﹀214
いや、見間違いだったっぽい。すまぬ
217 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀215
でもこの銀髪美女はそう言ってるぞ
218 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
村人
?
│ ID:││││││││
待て待てお前ら。それ以前にその炎龍っていうのが本当なら大丈夫なのか
殺しまくったんだろ
│ ID:││││││││
殺しまくったというか、されそうになった
昔からの分は知らんが
?
219 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1587
220 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
待った。炎龍って自衛隊だけで倒した訳じゃないっぽい。
221 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
どういうこと
あの銀髪美女って召喚獣的なさむしんぐ
!?
223 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
炎龍を倒した時に協力してくれた人が炎龍を復元して制御してるんだってさ
│ ID:││││││││
222 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
│ ID:││││││││
まじで
!?
1588
224 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
エロいことし放題じゃないかヒャッハあああああああああああああ
225 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
薄い本
│ ID:││││││││
薄い本
!!
│ ID:││││││││
じゃあその炎龍ちゃんのご主人様に許可貰ってくる
!!
227 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
がな
まぁあの炎龍ちゃんが奴隷だろうとなんだろうとおまえらには何の関係も無いんだ
│ ID:││││││││
226 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1589
228 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
喰われるんじゃね
どうやって許可貰うのか
それ以前に自衛隊の武器がほとんど叶わなかった炎龍ちゃんを倒すってマスターに
│ ID:││││││││
231 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ばくっと物理で食われるんだろうけどな
│ ID:││││││││
230 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
喰われる︵意味深
│ ID:││││││││
229 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1590
232 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀231 土下座
233 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
それで貰えるなら俺がしに行くわwww
234 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
段ボール
│ ID:││││││││
さっきから段ボールって何なの
釣り
?
236 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
235 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1591
│ ID:││││││││
安っぽい釣りもあるもんだなぁ
237 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ちゃうって、伊丹氏が指さしてる足元にあるんだよ
238 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
あ、ほんとだ
239 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
え、何も無いぞ
│ ID:││││││││
240 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1592
あれ
さっきまで無かったのに
│ ID:││││││││
さっき見間違いって言ったものだけどまた見えるようになった。なにアレ幽霊
?
│ ID:││││││││
244 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
﹀﹀241 段ボールの幽霊って何だ⋮⋮
│ ID:││││││││
243 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
かって言ってるわけだし
少なくとも伊丹氏は見えてるんだよな 指さしてるわけだし。これに気付いてた
│ ID:││││││││
242 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
241 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1593
段ボールの幽霊www ひもじいwwww
245 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ダンボール舐めんなよ。なんでも作れるんだぞ段ボールがあれば
│ ID:││││││││
﹀﹀244 は
│ ID:││││││││
じゃなくて結局この段ボール何なの
あ。俺も見えるようになった
│ ID:││││││││
248 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
247 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
そうだな、家とか作れるよな
│ ID:││││││││
246 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1594
249 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
何これ
250 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
特地にはファンタジーがいっぱいみたいだし
│ ID:││││││││
認識阻害的な魔法とか
252 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
認識阻害か、ありそうだな
│ ID:││││││││
251 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
│ ID:││││││││
それあるー
!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1595
いやでも伊丹氏が言ってからいきなり見える人増えた
253 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
まじでそんなのあるのか
しなぁ
│ ID:││││││││
256 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
通報した
﹀﹀254
│ ID:││││││││
255 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
とりあえず存在するなら覚えたいな
炎龍ちゃんが生き返ったらしいし、そういうのがあっても不思議ではない。
│ ID:││││││││
254 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!?
1596
﹀﹀254 何に使う気だ
お兄さんに言ってみ
?
260 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
俺が言われたわけじゃないのに、なんだろう、泣きたい
│ ID:││││││││
259 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
おいやめろ
│ ID:││││││││
258 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
大丈夫、お前元々存在感薄いから
﹀﹀254
│ ID:││││││││
257 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1597
│ ID:││││││││
言った本人が言うのもなんだけど、ごめん、泣きたくなった
261 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
なんぞ
│ ID:││││││││
264 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
段ボールから幼女が生まれたwwwwwww
│ ID:││││││││
263 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
│ ID:││││││││
262 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
1598
︵MGS感
・・・
段ボールかてくる
│ ID:││││││││
268 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
意味わからんww ってかまじで蛇かこの幼女はwww
│ ID:││││││││
267 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
!?
│ ID:││││││││
266 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ちょ、実況してよ。テレビ見れてないんだよ
│ ID:││││││││
265 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1599
﹀﹀265
伊丹氏が指さす↓段ボール現れる↓中から幼女が
書いてる俺も意味が分からん
269 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀266
すわれ
﹀﹀267
なーでこーだYO│
271 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
座れww 俺が行って来るww
﹀﹀266
│ ID:││││││││
270 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1600
│ ID:││││││││
段ボールがあるだけで幼女が生まれるんなら今頃世の中幼女だらけだわwww
それでこの箱からどうやったら幼女出せるんだろう
272 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀271
おまえもおちつけ
273 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
伊丹氏曰くこの子はコウジュちゃんっていうらしい
・
・
・
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1601
289 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ちょっと国ぶっ壊してくる
紳士の風上にもおけんやつらだ とりあえず
290 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
こんな幼い少女の家を襲撃だと
バットを持ったがどこに行けばいい
!!
│ ID:││││││││
292 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
くそがあああああああああああああああああああああああ
│ ID:││││││││
291 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!?
!?
1602
うわぁ、終わってるな。銀座救ってくれたのに襲うとかどんな神経してるんだ
ってか銀髪幼女本人が出てくるとか他のスレでも大変な祭りになってそうだな
│ ID:││││││││
293 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
アインツベルンってFateのやつだよな
いやそれも気になるけど、コウジュスフィール・フォン・アインツベルンって言った
よな
?
Noタッチいいいいいいいいい
│ ID:││││││││
Yesロリータ
!
た系
言ったよな。特地とは別の異世界って言ってたし、まじでFate世界から来ちゃっ
﹀﹀293
│ ID:││││││││
295 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!!!!
294 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1603
296 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀293
何その二次SS展開。さすがにたまたまだろう。
もしくはあの作品からこの世界での名前を付けたとか
297 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
でもよく考えればカラーリングはあいんつべるんのホムンクルスそっくりだよな。
298 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀292 確か銀髪幼女専用スレあったで
│ ID:││││││││
299 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
まて、伊丹氏が紹介してくれるっぽい
﹀﹀297
ひらがなだとポンコツ臭い
300 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ω
*︶
│ ID:││││││││
︵*
'
303 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
宇宙
│ ID:││││││││
302 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
シュタッ
│ ID:││││││││
301 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
'
?
1604
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1605
│ ID:││││││││
あ、ケモ耳
│ ID:││││││││
307 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
﹀﹀305 お帰り下さい
│ ID:││││││││
306 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
よーしよしよしよしよしよしよし
│ ID:││││││││
305 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ケモ耳だああああああああ
│ ID:││││││││
304 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!
1606
ビースト
悲しい生まれだったんだな⋮。しかもその上人助けの職業なんてすごいなこの子。
│ ID:││││││││
311 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
コウジュちゃん⋮
│ ID:││││││││
310 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ホムンクルスってのも大概な生まれだけど、そのビーストってのも重いな⋮⋮
│ ID:││││││││
309 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
宇宙環境に適応するために産みだされた種族って⋮⋮
│ ID:││││││││
308 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1607
ただ、傭兵で段ボールって狙ってるとしか⋮⋮
312 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ってことは2つ目は何処
│ ID:││││││││
ってかこの地球で3つ目
?
te世界でそこで後半の名前を貰った可能性が微レ存
﹀﹀311
シリアス吹っ飛んだじゃねぇか
っすがにそれは想像力豊か過ぎるだろwww
﹀﹀313
│ ID:││││││││
314 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
そういやさっき、コウジュ以下の名前は貰い物って言ってたし、2つ目の世界がFa
│ ID:││││││││
313 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1608
・・・ナイよな
三度目に巻き込まれた事件︵銀座︶↑今ここ
│ ID:││││││││
待てよ、英霊って年取ったっけ
ひょっとしてこの子もエタロリですか
│ ID:││││││││
︵歓喜
2度目の事件が聖杯戦争だったとして、解決したってことは聖杯どうなるんだ
?
317 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!?
?
316 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
二度目に巻き込まれた事件︵聖杯戦争に召喚される︶
一度目に巻き込まれた事件︵英雄化︶
│ ID:││││││││
315 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1609
318 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀315
その流れで行くとあのコウジュちゃんのクラスは何になるんだろう
│ ID:││││││││
﹀﹀316
言われてみればそうだな。幼女のまま固定ってことか
︵渇望
319 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
321 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
そらアサシンだろう
﹀﹀318
│ ID:││││││││
320 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!?
1610
│ ID:││││││││
﹀﹀318
アサシンしかないじゃんさっきの見たら
322 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀318
\アッサシーン/
323 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
宇宙進出とかしてるって話だし宇宙船やら乗れないときついん
│ ID:││││││││
﹀﹀318
ライダーとかは
じゃね
?
│ ID:││││││││
324 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1611
﹀﹀318
アサシン⋮と言いたいけどイレギュラークラスの可能性もあるか
325 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀323
さっきまで乗ってた︵入ってた︶のは段ボールだけどな
326 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀318
炎龍を制御してるって話だし、﹃テイマー﹄なんてくらすはどうだろう
﹀﹀325
クラス名はダンボ│ですね分かりますん
│ ID:││││││││
327 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1612
﹀﹀323
どうせなら乗りたいな。もしくは乗られたい
328 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀327 お巡りさんこいつです
329 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀327
一回死んでみる
ちね
﹀﹀327
│ ID:││││││││
330 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
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1613
331 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀327
逝ってよし
・
・
・
337 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
紳士だ⋮。紛う事なき紳士だ
338 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
1614
│ ID:││││││││
伊丹氏かっけぇwww 国会で吠えやがったwww
339 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
やるじゃない
340 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ロリコンの鑑
│ ID:││││││││
342 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
紳士すぐるww
│ ID:││││││││
341 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!
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1615
﹀﹀340
幼女の事で怒ってるからってロリコン認定はやめて差し上げろww
343 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀340
あれだけ熱く語れば仕方ないな︵確信
344 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
伊丹氏にこそロリコン︵紳士︶の称号は相応しい
345 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀344
せめてかっこの中身と外を逆にしてやれww 1616
346 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
ちょw コウジュちゃん襲てきたやつ全部捕まえてるんだってwww
347 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
まじかww
348 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
引き取ってほしいんだってさ。食費とかが掛かるからwwww
349 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
食費wwwww
350 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
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1617
│ ID:││││││││
食費ってwwwwww
351 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
コウジュちゃんひょっとして御人好し
御人好し良いんじゃね
www
│ ID:││││││││
352 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
│ ID:││││││││
ってかひょっとしてコウジュちゃんの手作りだったりするんかな
俺捕まりにいてくる
!?
353 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
354 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!
1618
│ ID:││││││││
﹀﹀353
つ[レトルト]
355 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
形の崩れたおにぎりとかだと最高にうれしい
│ ID:││││││││
手作りだと
!
│ ID:││││││││
俺はちょっと焦げてるくらいのカレーかな
カツドゥーン喰いたい
358 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!
│ ID:││││││││
357 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!
356 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!?
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1619
│ ID:││││││││
コウジュちゃんを食べたい
359 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀358 死ね。氏ねじゃなくて死ね
360 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀358
よかろう、ならば戦争だ。
361 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀358 悔い改めろ
362 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
1620
│ ID:││││││││
処す
﹀﹀358
処す
?
│ ID:││││││││
?
﹀﹀358
今からブッ殺しにいくぜ。小便は済ませたか
タガタふるえて命ごいをする心の準備はOK
?
│ ID:││││││││
﹀﹀358
それ伊丹氏の前で言ったらぶん殴られるんじゃね
│ ID:││││││││
365 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
364 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
神様にお祈りは 部屋の隅でガ
363 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
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1621
伊丹氏﹁ここで今一度、彼女たちへの対応を考え直して頂きたい﹂だってお
色々技術持ってるっぽいし、普通に協力関係にはなれんもんなの
﹀﹀365
難しいんじゃね
最初の出だしが悪かったんだし、最悪コウジュちゃん帰るかもよ
│ ID:││││││││
367 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
いわ
すげぇな伊丹氏、結局言いたいこと言いきったよ。伊丹氏になら後ろ差し出しても良
│ ID:││││││││
366 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
微妙なところだな。法律的に明らかな武力を持った人間をどうするかってのが定め
﹀﹀365
│ ID:││││││││
368 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
1622
られていない以上、国として外部の国に突かれたら色々難しいんじゃないか
ロリコンに差し出しても貰ってもらえないぞ
﹀﹀366
│ ID:││││││││
370 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
絶対要らないと思う。てか帰れ
﹀﹀366
│ ID:││││││││
369 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
なんでホモが湧くんですかねぇ⋮⋮︵驚愕
﹀﹀366
│ ID:││││││││
371 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
?
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1623
372 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
│ ID:││││││││
奴は敵だああああああああああああ
えええ
ぶっころせええええええええええええええ
!!!!!
373 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
いいいい
いたみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
!!!!!!!!!!!!
えええええええええ
│ ID:││││││││
375 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!
らっきすけべめええええええええええええええええええええええええええええええ
│ ID:││││││││
374 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!!!!!!!!
1624
ラッキースケベは駆逐してやる
一人残らず
!!!!
←
紳士︵ロリコン︶
←
英雄
←
自衛隊員
←
一般人
│ ID:││││││││
377 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
でもまぁロリコン︵紳士︶だと思っていたのにラッキースケベとは確かに許せんな
この掌返しよwww
│ ID:││││││││
376 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!!!
『stage15.5:(某掲示板での)ハナシアイ』 ※注 掲示板形式
1625
ラッキースケベ︵罪人︶↑今ここ
378 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀377
何処で何を間違えたらそうなるんだ⋮⋮
379 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│ ID:││││││││
﹀﹀377
伊丹許すまじ、慈悲は無い
ニンジャナンデ
380 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
ナンデ
!?
│ ID:││││││││
アイエエエエエエエエ
!?
381 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
!?
1626
│ ID:││││││││
アサシン疑惑の子が居るのにそっちより優先されて狙われる伊丹氏ェ・・・・w
﹃stage16:○○ホイホイ﹄
﹁さぁおいでなすったぜ嬢ちゃん﹂
﹁嬢ちゃんはやめてくださいよ。歳、そんなに離れてませんし﹂
﹁ああ、そうだったな﹂
﹁とりあえず、やります﹂
届き者が原因だ。
何故そんなことになっているかというと、その答えは後ろから追いかけてきている不
いまこの車には俺達と駒門さん、そして駒門さんの部下が数人乗っている。
今回俺達の護衛を担当してくれている人だ。
俺の言葉にニヤリとする駒門さんは公安というところに所属しているらしいのだが、
国会が終わり、移動のために乗り込んだバスの中で俺は駒門さんと言葉を交わす。
﹁了解です﹂
﹁頼んだぜ。対象は後ろにピッタリ着いてきてるやつだ﹂
『stage16:○○ホイホイ』
1627
1628
国会議事堂から移動する際の諸注意として駒門さんから各国のエージェント的な人
たちが追いかけてくる可能性が高いと言われていたんだが、やはり来たようだ。
本来であればバスを囮にして地下鉄で移動という話だったのだが、先輩が何やら嫌な
予感がすると言うので急遽予定を変更したのだ。
かといって追われる事が分かっているバスにそのまま乗るのもおかしな話なので、俺
が対策することになった。
俺は乗っているバスの窓を開け、屋根の上に飛び乗る。
どこぞの高校生みたいに足の握力で屋根を掴むことは出来ないので影を屋根に巻き
付けるようにして固定し、落ちないようにする。だって落ちた所でダメージ無いって
言っても走ってる車の上怖いし。
身体が固定されたのを確認し、後ろから追いかけてきている車の運転手たちを見る。
驚きに目を見開いている彼らは、薄くスモーク乗っかっている為見ずらいが明らかに
日本人では無い容姿だ。
さすがにどこの国の人達かってのは分からんが、友好的な様子ではないのは確実。
なら、自分の運命を呪ってもらうしかないだろう。
まぁ後続の車もあるしあまり派手なことをして関係ない人を巻き込むわけにはいか
ないので手加減は当然するが。
﹁ミラージュストーム﹂
手を横に出し、俺は一本の杖を出す。
黄金の軸に、真ん中辺りに埋め込まれている翡翠を思わせる球体、それを囲うように
鳥が翼を広げた姿を思わせる形で装飾されている紅い翼。
長杖系Sランク武器の﹃ミラージュストーム﹄だ。
夢幻の世界に誘われる〟というもの。
?
られる催眠はあまり複雑ではない物に限られ、又、現実からあまり外れた物を見せるこ
ただし俺との相性があまりよくないのか修行不足というかイメージ不足なのか、掛け
ぶっちゃけて言えば催眠系武器だ。いつから錯覚していた
系だ。
ミラージュストームが持つ概念は〝一陣の風と共に深紅の羽根が舞い踊りあたりは
俺はすかさず手に持つ長杖に意識を向け、込められた概念を呼び起こす。
るだけでは意味がない。
これはゲーム時からあったエフェクトだが、当然羽がひらひら舞ってるところを見せ
して現れる。
すると、杖が振られるのに合わせて周囲にいくつもの赤い羽根が宙を舞い踊るように
俺はミラージュストームを軽く振るう。
﹁お疲れさん。良い夢みてくれよ﹂
『stage16:○○ホイホイ』
1629
とは出来ない。ついでに言えば効果時間も未だに短い。
けど、今はそれで十分。
ストーカー
舞い踊る羽が後ろを走る車へと殺到する。
避けることも叶わず、追跡者達は赤い羽根の中で夢幻の世界へと誘われる。
ただ恥かしいので俺が離れようとすると分かっていたかのように先輩は手を止め自
最近このパターンが多い気がする。
うへぇと俺が零せば先輩は俺の頭をポンポンと撫でる。
果があるんだし。ただやっぱり慣れないことをすると精神的にめちゃ疲れる﹂
﹁ひでぇっすねぇ先輩。でもまぁ否定はしないよ。未だ慣れてない幻術でもこれだけ効
﹁先に聞いてはいたが相変わらずエグイのが多いなお前﹂
すると苦笑いした先輩がすかさずこちらへと近づいてきた。
あまりにもあっけない幕引きに、微妙に肩を落としつつ俺は再びバスの中へと戻る。
﹁ジャスト一分、良い夢見れたかよ⋮⋮って言いたかったなぁ﹂
途端に車は慌てるようにハンドルを切り、自ら何処へともなく走っていった。
刷り込む夢幻を頭で作り出し男たちに魅せる。
イメージ
いったって感じで良いかな﹂
﹁夢 は、う ん。目 の 前 で 追 い か け て い た 車 は 炎 龍 が 抱 え 込 ん で 何 処 へ と も な く 飛 ん で
1630
分から離れた。
むぅ、なんだか釈然としないが文句を言うのも変なので気持ちを切り替える。
俺はこちらの様子を見ていた駒門さんへと顔を向ける。
﹁駒門さん。これで栗林さん達を迎えに行けるよ﹂
﹁いやはやお見事としか言いようがないねぇ。俺達の出る幕が無い﹂
﹁何言ってるんですか、俺は索敵とか情報収集が大の苦手だから駒門さんが持ってる情
報を頼りにしないと流石に難しいですよ。一人なら好き勝手出来るんですけどねぇ﹂
んでな。目を離すなって言われてるんだよ。申し訳ないんだがな﹂
﹁はっはっは、俺としちゃ好きかってしてもらってもいいんだが、嬢ちゃんも護衛対象な
・・・
本当に申し訳なさそうに言う駒門さんにどう返したものか。
言われてるって言うのは当然上からだろう。
それ自体は俺も覚悟の上だ。
ふむ、初邂逅時には胡散臭いと言ってしまったがなんだかんだと良い人っぽいこの人
に無駄な心労を負わせるのは流石に悪いよな。
ら。あと嬢ちゃんやめてってば﹂
だし、直接被害が出てるわけでも無し。それに何かあってもどうにかしちゃえますか
﹁大丈夫っすよ、駒門さんは仕事をしてるだけなんですから。俺もある程度は覚悟の上
『stage16:○○ホイホイ』
1631
俺の言葉に一瞬キョトンとするも、すぐに表情を苦笑へと変える駒門さん。
むぅ、俺がフォローを口にすると苦笑する人が大半なのは何故だ。
やっぱヤな人だ
◆◆◆
﹂
!?
現在俺達はバスを適当なところで降り、バスの中に後輩が即席で俺達に似せた人形を
いる筈だからこの辺りの事はよく知っているのだ。
後輩も知る中⋮⋮というかしょっちゅう遊んでるし後輩も梨紗の家には何度も来て
ちなみに梨紗とは俺の元嫁さんの名前だ。
後輩が零した言葉に俺は軽く返す。
﹁そ、梨紗の家の近く﹂
﹁あれ、ここって⋮⋮﹂
!
﹁そこを直すんじゃないよ
まぁ守られてくれよお姫様﹂
﹁くくく、そこまで言われちゃ仕事しないわけにはいかねぇな。俺達より強いらしいが、
1632
『stage16:○○ホイホイ』
1633
乗せて囮にして街中を歩いている。後輩の幻覚とやらはあの赤い羽根を直接見た者に
しか効果が無いらしく、バスの中に幻を残すなんてことは出来ないらしいので代わりの
影人形だ。
後輩は確か認識阻害的なことを出来た筈なので聞いてみたが、どうにもあれは自分に
しか行使できないそうで感覚を頼りに周囲を警戒するしかない。地味に使えないよな
後輩の能力。
しかし本来なら後輩が居なければもっと苦労していたところなのだから贅沢は言っ
てられないと諦めている。
さておき、今俺達が歩いているのは都内のとある住宅街だ。
そして何故元嫁さんの家の近くに来ているかというと、勿論その元嫁さんの家へと向
かう為だ。
最近メールで水が止まっただのご飯が無いだのと来ていたので、少しだけだが補給し
に行くためにも寄ることにしたのだ。
本来ならこんなタイミングで行くつもりは無かったのだが、メールの内容的にガチで
危なそうなので仕方なしだ。
後輩の幻覚やら陽動やらでここまでの間に追手は振り切っているし、バスの中で引き
続き囮役をしてくれている駒門さんが頑張ってくれているからバレていないとは思う
しな。
駒門さん曰く、内部に裏切り者が居るのは確実らしいので本来俺達に着きっきりにな
る筈の駒門さん自身が離れた方が安全とのことだ。
最初は後輩から目を離すなという命令を守っていたが、さすがに周りの動きがきな臭
くなってきたから現場の判断というやつで離れることにしたそうだ。
?
一応いつでも連絡を取れるように後輩と携帯番号とかを交換していたのだが、俺が言
うのもなんだが大丈夫だろうか
?
ういう所では普通にまともなことを言う後輩なのだ。
普段は色々と波乱万丈というか滅茶苦茶な行動をしているように思われがちだが、そ
を持った生活をすれば良いのにと苦言を呈していた。
別れたってのは伝えてあるし、そのうえ前から後輩は梨紗の事についてもう少し余裕
まぁそうなるよなぁ。
俺が届いていたメールを見せながら言うと苦笑する後輩。
﹁うっわ。梨紗さんまた根詰めてるのか。懲りないなぁ⋮⋮﹂
かなかったんだよ。それにほれ﹂
﹁マジだ。この現状で飛び込みで寝泊まり出来そうなところってここくらいしか思いつ
この大人数で﹂
﹁先輩、マジで寄るつもりですか
1634
﹁んー、とりあえずあの部屋で全員寝るのはギリギリだし、何とかするか﹂
﹂
﹁何とかって
?
購入してあるし、後は中へ入るだけだ。
言われていた食料に関しては自分たちの分も含めて後輩のアイテムボックスの中に
ただ誤魔化されただけの気もするが、着いたのは事実だ。
いつものやり取りしている内に、梨紗の住むアパートへと到着したようだ。
﹁おい﹂
﹁っと、着きましたよ﹂
﹁お前ほどじゃないよ﹂
﹁先輩たまにかなり失礼っすよね﹂
﹁何でも良いが、ご近所さんに迷惑はかけないようにな﹂
輩らしい。
とはいえそういう時は大体誰かの為でもあるので怒ることもできないのが何とも後
しい。
よく分からんが、こういう時はたいてい後で溜息をもらすことになるので勘弁してほ
ビッと親指を立ててにかっと笑う後輩。
﹂
﹁何とかっす
!
『stage16:○○ホイホイ』
1635
生きてるかな⋮⋮。
﹂
?
﹂
?
﹁まぁ無事じゃないでしょうね﹂
﹁さてと、あいつは無事かな﹂
最悪何人かは外に行くか。
ん。結構な人数だが、まぁ何とかなるだろう。
俺、後輩、栗林に富田、テュカ、レレイ、ロゥリィ、そしてピニャさんとボーゼスさ
ぞろぞろとアパートの階段を上がり、目的の扉へと向かう。
﹁あー、入ってから説明するよ﹂
﹁伊丹達に馴染み深い人って
﹁ここはまぁなんというか、俺と後輩に馴染み深い人が住んでてな﹂
その声にニヤついた笑みを浮かべながら答える後輩に質問したのはロゥリィだ。
は思わなかったようで驚いた栗林。
目的地を告げずに来たんだが、その行き先がこのどこにでもありそうなアパートだと
﹁うい。ここは俺もよく来るので﹂
﹁あなたはここが何か知ってるのぉ
﹁そうですよー。何でここかは後のお楽しみってことで﹂
﹁え、隊長ここが目的なんですか﹂
1636
﹁だよなぁ⋮⋮﹂
愛想尽かさ
鍵を開けながらつい口にした言葉にすぐさま帰ってくる言葉に納得せざるを得ない
のがなんとも言い難い。
俺は扉を開けて中へ入る。
暖房位着けろよな﹂
って、げ、コウジュちゃんも﹂
﹁梨紗ー居るかー。って寒っ
﹁せ゛ん゛は゛い゛ぃぃぃ
れちゃうぞって。まったくもう、まったくもうですよまったくもう﹂
﹁うー、ごめんてばぁ﹂
は合っていたってことなのか
﹂
ともあれ何かと梨紗を気に掛ける後輩なのだ。
?
昔からこの二人はどっちが先輩後輩なんだか分からない調子なのだ。いや年齢的に
相変わらずの様で妙に安心したよ。
後輩は苦笑いをしながら梨紗に言い、当の梨紗はバツの悪そうな顔をして謝る。
後輩を見つけて渋い顔をする。
立って歩く元気もない位なのか足元に這い寄る梨紗。そしてそのまますぐ横に居た
?
!?
﹁げって酷いなぁ⋮⋮、ってかなんですかこの状況。俺言いましたよね
!!!
﹁えっと、隊長にコウジュちゃん。この方って
?
『stage16:○○ホイホイ』
1637
ここまで黙ってついてきてくれていた富田がこの混沌とした状況についに質問して
きた。
当然と言えば当然か。むしろよくここまで黙って来れたな。
とりあえず、富田だけでなくその後ろで首を捻っている面々にも説明は必要なので答
えを言うことにした。
﹁この人は、あれだ、俺の元嫁さんなんだ﹂
﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹁ちなみにマジです﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁ええっ
いや、それもそうか。全員驚いているのも仕方ない。 何故念を押した後輩よ。俺に嫁さんが居ると不思議だってのか
!?
﹂
?
リビングまでの廊下にぞろぞろと居る状況なのだが、よほど俺と後輩の存在にしか意
今さらながら俺と後輩以外にも人が居ることに気付いたのか、首を傾げる梨紗。 ﹁今気づいたのかお前⋮⋮﹂
﹁あれ、この人達は
だったのは確かだろう。
これもまた運が良かったからというべきかもしれんが、まぁ少し普通とは違う夫婦
自分で自分を客観的に見れば嫁さんが居たってのは割と不思議な状況だよな。
?
1638
識を向ける余裕が無かったのだろう。
え
何この状況
﹂
﹁とりあえず奥に行くぞ梨紗。あと色々借りるから﹂
﹁え
?
!?
﹂
!?
?
ると理解したようで着いてくる。
?
﹁ういうい﹂
﹁よろしく。後の皆は無難にカフェオレとかにしといて﹂
先輩はいつもので良いっすよね
﹂
他の面々もイマイチ状況が分かっていないようだが、とりあえず落ち着ける場所があ
俺は先導して奥へ向かい、後輩は梨紗を引っ張りながら後をついてくる。
には場所がある。
なのでリビングまで行けば余裕があるとまでは行かないだろうが全員が座れる程度
だけ広い部屋を借りることが出来ている梨紗。
元々借りる予定だったアパートとは違い後輩と共に梨紗がしたバイトの御陰か少し
と向かう。
状況が理解できずに居る梨紗だが、とりあえず立ったままというのもあれなので奥へ
﹁何なのー
﹁とりあえずお邪魔します梨紗さん﹂
?
﹁皆何を飲みます
『stage16:○○ホイホイ』
1639
そう言い残し、梨紗を放した後輩がキッチンへと消える。行くついでに暖房をつけて
いく後輩にはグッジョブと言わざるを得ない。
まぁ何度もここに寝泊まりしているし勝手知ったるなんとやらだ。
なので飲み物は後輩に任せて、皆をそれぞれ座らせて話が出来る状況を作る。
﹁は、はい
って何なのこの状況
﹂
!?
﹂
?
何が駄目だったんだろう。
一瞬で冷めた目に変わった梨紗に速攻で拒否された。解せぬ。
﹁⋮⋮あれ
﹁帰ってください﹂
﹁追われてるんだ、匿ってくれ﹂
改めて俺は梨紗を見ながら告げる。
が赤いのは暖房を一気に聞かせ過ぎたからか、念のため温度を少し下げておく。
俺の言葉に何時にも無い雰囲気を感じ取ったのか、声を小さくしていく梨紗。若干頬
いつもは絶対に出さないような真剣な声で梨紗を真正面から見て言う。
﹁えっと、うん⋮⋮﹂
﹁落ち着いて聞いてくれ﹂
!
﹁さて、とりあえず落ち着ける場所に来たわけだがまずは梨紗﹂
1640
﹁隊長
﹂
元奥方とはいえ一般人の方を巻き込む気ですか
﹁だが行く場所が無いだろう
﹂
!?
しい。
?
そのことを富田が全員に言えば全員が似たような表情になった。 ﹂
久しく聞いていない敬語でジト目をこっちに向けながら言う梨紗。
この子達は特地の子だよ﹂
悪かったって、そう言いながら俺は説明を続ける。
にょほぁああああああああ
!!!!
﹁ニュース見てないか
﹁じゃあコスプレじゃないの
!?
?
﹂
どうやら厄介な追手は予めの予定通りに会館へと行き問題を起こしてくれているら
映し出したニュースは富田の言う会館が火事にあったというものだ。
何とか受け取った富田はそれを見て難しい顔になる。
俺は事前に調べてあった情報を携帯電話の画面に出して放る。
流石に一般人である梨紗の家に止まるのは気が引けるのか言ってきた富田だったが、
﹁うわっと⋮﹂
﹁ほれ﹂
﹁会館があるじゃないですか﹂
?
!
﹁それじゃ、こんなきれいどころばっかりを連れてきた理由は何ですか
『stage16:○○ホイホイ』
1641
﹁落ち着けって。とりあえずニュース見てくれ﹂
﹂
﹁あれ、この炎龍の子は
﹂
関してのニュースを見るように言う。
落ちつくように言うも無駄だと思うので、とりあえず分かりやすい様に昼間の国会に
が居ることにテンションが上がってしまったようだ。
俺と同じような趣味を持つ梨紗の為、明らかにエルフっぽい子や宝塚みたいな子たち
﹁うん
!
え
段ボールから生まれた
﹂
そういえば梨紗にはまだ後輩が異世界から来た存在だったことや色々な能力を持っ
?
だ。場所を取るだけだなので。
﹁ってあれ、この子コウジュちゃん
?
﹁ああそうか、そういや梨紗はまだ知らなかったんだな﹂
?
実際のところこの場に居ないのは単純に後輩が具現化させているのを解除しただけ
梨紗にするには話が長くなってしまうからだ。
言いながらも画面から目を離さない梨紗に苦笑をしつつ、軽く誤魔化す。その辺りを
龍の子、つまり恋ドラモードの後輩が居ないことに気付き質問してくる。
パパッと自分のパソコンで素早く情報を見つけた梨紗が、ニュースの中に出ている炎
﹁ああ、その子は、まぁ詳しくは言えないがここには居ないよ﹂
?
1642
ていることは伝えていなかった。
﹂
特地に行くことになったことやその後の色々があって伝えることが出来ていなかっ
たのだ。
﹁お呼びですかな
たの
﹂
﹁コウジュちゃんってソリッドなの リキッドなの ビッグなボスのクローンだっ
?
?
?
く。
それをさすがというべきかひらりと回避して、そのまま全員へと飲み物を渡してい
タイミングよく飲み物を持った後輩が来たのだがそこへ突撃した梨紗。
﹁うわお、危ないって梨紗さん﹂
!?
﹂
!?
﹁ただのアイテムボックスです﹂
﹁王の財宝
それを見て梨紗が驚きに目を見開く。
上に置いた後輩。
何でも無い様に言いながら空間からお菓子が山盛りになったお盆を取り出して机の
よかったし。あ、お菓子はこれね﹂
﹁一応、某傭兵さんじゃないよ。ネタであれをやっただけで、インパクトがあれば何でも
『stage16:○○ホイホイ』
1643
﹁あ、そう﹂
﹁ええ
﹂
じゃあそれコスプレじゃなかったの
﹁コスプレちゃうわ
﹁えぇ⋮⋮﹂
﹂
!?
言いながら頭を下げる後輩。
だよ。特地に行く前に伝えられれば良かったんだけど⋮⋮﹂
﹁とりあえず、黙っていてごめんなさい梨紗さん。実は俺、異世界から来た存在だったん
れていたが。
そういえば梨紗は何かにつけて後輩にコスプレさせようとしていたな。尽く拒否さ
いたらしい。
般向けではない服に見えるそれを着てるのを見て梨紗はどうやらコスプレだと思って
ここに来るときはいつもジャージ姿なことが多い後輩が今日は戦闘服だっていう一
﹁何で残念そうなんすか⋮⋮﹂
!
!?
てるんだよ﹂
﹁後輩って実は特地とは別の異世界から来てたんだってさ。それで今は協力してもらっ
どこかで見たことあるやり取りだなと思ったら俺だった。
﹁それもう俺がやった﹂
1644
普通に考えて簡単に言えることでもないし仕方ないと思うんだが、後輩的には黙って
いたことに良心の呵責を覚えていたようだ。
相変わらず変なところで律儀な後輩だ。
そんな後輩に、梨紗は先程までの慌て様は何処へ行ったのか優しい笑みを浮かべなが
ら言う。
﹁気にしないで良いよコウジュちゃん。そんなこと普通は言えないって﹂
﹁梨紗さん⋮⋮﹂
﹂
﹁それに言われてたら頭疑うだけだし。もしくは厨二病再発﹂
!
?
テュカ達は休ませたい﹂
﹁うー⋮。でも先輩、布団とかどうするのよー
﹂
﹁はいはい、詳しいことはあとでだ。とりあえず寝る準備だけさせてくれ。とりあえず
にする。
俺との言い合いとは違い可愛いものだが、まだ話の途中なのでとりあえず止めること
に後輩と梨紗は言い合いを始めた。
謂れのない被害を受けた気がするのでツッコムが俺の言葉など聞こえないかのよう
﹁どういうことだおい﹂
﹁先輩そっくりだよあんた
『stage16:○○ホイホイ』
1645
﹁寝袋もあったろ
それとか使って何とかできないか
﹂
?
お待ちなさいなお二人さん。俺にいい考えがある
その手にはカードを持っており、何かをするつもりなのだろう。
そういえば家に入る前に何か言っていたな。
それがこれか。
言いながら、後輩は手に持つカードを近くの扉へと叩き付けた。
﹁こんなことになるだろうと思ったよ。だから今こそこれの出番だ
﹂
!
これで俺の部屋に行けば布団どころか余裕で寝
これがあれば俺が行ったことのあるドアになら例えどん
!
なドアでも繋ぐことが出来るのさ
﹂
!
﹁空間移動﹃どこでもドア﹄
られるスペースがあるよ
ドヤ顔で言う後輩。
﹂
俺も任せきりにするのは悪いのでついていこうとするがそこへ待ったがかかった。
どこだったかなと言いながら押入れの方へと歩いていく梨紗。
﹁それならなんとか﹂
?
ニヤリと笑みを浮かべながら言うのは後輩だ。
﹁ふっふっふ
!
ている。
言いながら開けたドアの向こうは、確かにいつしか見た後輩の部屋の景色へと変わっ
!!
!
1646
『stage16:○○ホイホイ』
1647
お前それあるならここまで歩く必要なかったじゃねぇか
!!!!!!!!!
﹂
﹃stage17:報われない男たち﹄
さいこーじゃないかー﹂
﹁たいちょー、私たちこんなことしてていいんですかねー
﹁いいんじゃないかー
﹁﹁﹁うんうん﹂﹂﹂
﹁もう働きたくないでござるー﹂
﹁おー、蕩けてるねぇ。来て良かったっしょ
﹂
ここに居る者の全員が程度の差こそあれ、皆が皆蕩けているからだ。
しかし今この場にそれをあえて口にする者は居ない。
黒川を知る者が今の姿を見れば大層驚くことだろう。
く柔和な雰囲気を醸し出している。
その黒川にしても、いつもの凛とした大和撫子を思わせる姿はそこになく、どことな
栗林の間延びした言葉に、伊丹もまたのんびりと答える。同意したのは黒川だ。
﹁コウジュちゃん様様ですね﹂
?
?
1648
?
そこへ飲み物を盆に乗せながら歩いてきたコウジュが笑みを浮かべながら話しかけ
る。
即座に伊丹が答えるが、普段なら叱責する栗林たちもそれへと頷くばかり。
この場には栗林や黒川以外にも富田が居るが皆揃って頷くものだから、コウジュはい
つもと逆だなと苦笑いだ。
しかしそれも仕方ない。
なぜなら今居るのはとある常夏の無人島。誰の目も憚ることなく遊ぶことが出来る
絶海の孤島なのだから。
そんな島の砂浜に、パラソルとビーチチェアを広げて寛ぐ面々。当然全員が水着だ。
耳に優しい波の音、適度に温かい気候、敵の心配をする必要が無い環境。
こんな状況で、蕩けるなという方が難しいだろう。
﹂
?
そして配り終えたコウジュは、空いている一脚へと腰掛ける。
配っていく。
コウジュは持ってきたものの一つを富田へと渡し、そのまま持ってきたものを順番に
﹁あいあい。えっと次は│││﹂
﹁あ、自分です﹂
﹁えと、ミックスジュース誰だっけ
『stage17:報われない男たち』
1649
自分用に用意したオレンジジュースを一口煽り、身体を椅子へと沈める。
そんなコウジュへとすぐ隣で蕩けていた伊丹が目線を向けた。
﹂
その視線に気づいたコウジュは伊丹へと顔を向ける。
﹁結局ここってどこなんだ
新しい物を造られるだけではないかと半分諦めている部分もある。
むしろ、変に消したところでこれほど自然に溶け込む情報操作技術を持つのなら結局
る戸籍を改竄するのも後々問題が出る可能性を考えて未だに保留とされている。
コウジュの事を知った際に国はその辺りの事も知ったが、あまりにも当然のようにあ
ば何の問題も無いうえにちゃんと認可されている。
どうやって用意されているのか、普通に考えれば矛盾だらけなのにシステム上で言え
自然な戸籍だ。
コウジュの戸籍はこの世界へ来た時点で何故か用意されていたもので、不自然な程に
の偽造とか﹂
れを言いだすと俺自身が日本に不法入国してるようなものだし。ついでに言えば戸籍
﹁えー、誰も使って無いし良いじゃないっすか。物は全部自分で用意したし、そもそもそ
﹁さぁってお前、不法占拠かよ﹂
﹁さぁー、適当に飛んで見つけた所だから﹂
?
1650
その辺りのことを幾らか知っている伊丹は、少し考えるもやはりどこか納得してはい
けないような気がしてもやもやとしたものを抱える。
閣 下 が 言 っ て た ん で し ょ 箱 根 の あ の 旅 館 に 行 く よ う
﹁確かにそうだけど、良いのかねぇー⋮⋮﹂
・・・
?
にって。ちゃんと行ったじゃないですか。そこに居ろとは言ってなかったんでしょ
?
さておき今回、その閣下が伊丹に直接出した指令の内容が箱根の旅館に行くようにと
る訳も無いので話の合う幼女と認識されていたりする。
ちなみにコウジュとも何度か会ったこともあるがその正体を伊丹より先に知って居
題の中心に居る伊丹と時折情報交換をしていた。
ひょんなことから学生時代の伊丹と知り合っていた彼は、今問題となっている特地問
防衛大臣、そしてこの度、特地問題対策大臣に任命された男だ。
嘉納太郎。
だ。
しかしただのHNではなく、実際にそれなりのというのもおかしい地位にある人物
閣下、というのは伊丹がとある人物を呼ぶのに使うハンドルネームの様な物だ。
寄ってくりゃ十分じゃないですか﹂
それに主目的は周りの鬱陶しいのをおびき寄せるための餌なんですし、疑似餌でも
?
﹁良 い ん じ ゃ な い っ す か
『stage17:報われない男たち』
1651
1652
いうものだ。
勿論ただの旅館ではない。
その旅館には元伊丹の同僚たちとなる特殊作戦群を中心に部隊が展開されており、現
状で言えば日本で最も安全な場所となっていることだろう。
敵が来ることが分かっている場所でもあるので現状はと付くが、余計なお客さんをそ
のまま返すようなことにはならない戦力が放り込まれている。
しかし、コウジュたちは今その旅館には居ない。山中にある旅館とは似ても似つかぬ
海が綺麗な島を満喫している所だ。
なぜそうなったのか、というのはいつものごとく大体コウジュの所為というのがほぼ
ほぼ正しいだろう。
梨紗の家へと赴いた際、コウジュは思い出したかのように空間移動をする能力を面々
に教えた。
それを暴露した際は当然の如く伊丹から何故早く言わなかったと怒られてしまった
わけだが、そもそもコウジュは伊丹と共に特地へと赴いてからは伊丹と行動を共にする
ようにしていたわけだし、コウジュの﹃どこでもドア﹄は知っている場所にしか移動す
ることが出来ない。だから頭の中からどこかへと飛んで行ってしまっていても仕方な
いのだ。
ともかくその能力の恩恵を得て、コウジュたちは南の島へと赴いている。
勿論、コウジュが言うように罠や偽装工作をしたうえでだが、閣下にメールを残して
旅館から消えている。
問題があるとすれば、電波どころかガスも水道も無い南の島な為にメールをしたは良
いが返信メールを伊丹が受け取れない事態に陥っているため、閣下はどうしたものかと
頭を悩ませているくらいだろうか。
﹁そ れ は そ う だ が な ぁ。で も そ れ っ て 俺 が 言 え た こ と じ ゃ な い け ど 完 全 に 屁 理 屈 だ よ
な﹂
バーサーカー
﹁ひっどいなぁ。俺は別に命の奪い合いは好きじゃないですよ 身体を動かすのが好
﹁やめろ戦闘狂﹂
る。
伊丹の言葉にニヤニヤとしながらそう言うコウジュに伊丹はジトっとした目を向け
別に俺一人残っても良かったんだけどねぇ﹂
それに、罠も張ってるし味方側は俺達の心配をする必要が無くなるって利点もあるよ。
﹁くっふっふー、これくらいなら俺が理屈として押し通せば屁理屈も理屈になるっすよ。
『stage17:報われない男たち』
1653
で済むようになってきたし﹂
きなだけです。それに無力化する練習になるしさ。そもそもただの銃弾なら痛いだけ
?
手をグーパーグーパーと開いて閉じてを繰り返しながら言うコウジュの言っている
ことは正しい。
コウジュは以前に炎龍を捕食︵偶然の結果だが︶してしまった結果、耐久度が格段に
上がっている。ヘリの機銃掃射を受けても痛いだけで済むのもその加減だ。
気を失ったのは痛さに転がった結果自らのチートスペックでもって頭をぶつけた所
為だ。
ちなみにコウジュの耐久力というのは概念的なものに近く、攻撃に対して発揮される
だけでそれ以外の者にはわりかし適当だったりする。だからこそ某マスターのツッコ
ミ等に対してはまるっきり効果を発揮しないわけだが、本人は知らない部分だ。
﹂
!!
マ ス タ ー だ か ら な の か 無 意 識 の う ち に コ ウ ジ ュ 自 身 が 攻 撃 と 思 っ て い な い か ら か、
そこからはいつものじゃれ合いになってしまった。
﹁貴様言ってはならんことを
﹁アベンジャーかっこわらいかっことじさんには言われたくないなぁ﹂
そんな伊丹を見て、コウジュが再びニヤニヤとした笑いを向ける。
うへぇと言わんばかりの伊丹。
わ﹂
﹁銃弾の効かない幼女が真正面から来るってどんな悪夢だよ。やっぱバーサーカー怖い
1654
取っ組み合いを始めるコウジュと伊丹。
そこへ海に出ていたロゥリィ、テュカ、レレイの3人が丁度戻ってきて呆れた目を向
あきないわねぇ﹂
ける。レレイに関してはほぼほぼ表情の動きはないが。
﹁またやってるのぉ
﹁ずるいわ﹂
?
た。
今はすぐ近くに扉だけが設置されており、それをマイルームへとコウジュは繋げてい
扉さえあれば見知った場所へと繋げることが出来るコウジュの能力の賜物である。
これらすべてはコウジュが持ってきたものだ。
ている。
ご丁寧にも傍に置かれた机の上には飲み掛けではあるがそれぞれの飲み物が置かれ
3人もまた、空いているビーチチェアに腰掛ける。
放っておけばすぐに終わることを理解していた。
なんだかんだとそれほど長くも無い日数の中で濃い付き合いをしてきたものだから
ので場の成り行きを見守っている。
テュカがどちらに対して言っているのかはさておき、この特地三人娘も既に慣れたも
﹁論点が違う気がする﹂
『stage17:報われない男たち』
1655
1656
マ イ ル ー ム に は コ ウ ジ ュ が 心 地 よ く 生 活 を 送 る た め の あ れ こ れ が 置 か れ て い る し、
キッチン、バスルーム、トイレとその中だけで生活できるものが充実している。
それを開けっ放しで置いてあるため、この無人島でもそれぞれが好きなように過ごす
ことが出来ている。
世の物理学者やらが聞けば嘆きそうな異次元移動法の無駄遣いではあるが、コウジュ
に言わせてみればチートなど使ってなんぼである。
マイルームにはドレッシングルームという設置されている倉庫︵据え置き型のアイテ
ムボックス︶に服を入れておけば一瞬で着替えられる便利な部屋︵何故かサイズも丁度
になる︶もあるため突然このビーチに連れて来られた面々も海を楽しむことが出来てい
る。
コウジュの甘言に乗せられて一緒に着いてきた3人娘もまた、そんなチートを駆使さ
れたこのビーチを堪能していた。
森を生活拠点としていたテュカは勿論の事、レレイも海は知識で知る程度だしロゥ
リィもまた純粋に海で遊ぶのはほぼほぼ無かったのだ。
ちなみにこのビーチには他にも梨紗やピニャ、ボーゼスもきているが3人は事前に
買っていたお宝、もといBLTサンドトマト抜き的な本を見るために揃って木陰にある
簡易の小屋の中だったりする。
﹁それにしても、便利よね﹂
﹁コウジュが言うには私やテュカの方が多様性に優れていると言っていた﹂
その割に炎龍を一太刀で叩き切るというか粉砕することもできるコウジュを何とも
返ったこともあったくらいだ。
いたことがあったが、そんな便利なものがあったら家を襲撃されてないなんて言葉が
例えばこの島についてすぐ伊丹が認識阻害の結界を張っていたりするのかなんて聞
何でもできるように見えて、出来ないことが多いコウジュの能力。
多いのだ。
けて言えば振り回されている部分も多いようだが、ロゥリィの言うように尖った能力が
結果分かったことは極めて単純で、コウジュの能力はピーキーだという事。ぶっちゃ
があった。
その中で、それぞれが全てではないが自身の能力に関しての際に着いて話をしたこと
ジュも貯まった何かを吐き出すべく話をすることが何度もあったのだ。
地球の人々に比べて特地で出会った3人娘は比較的ファンタジーな住人な為、コウ
彼女たちはそれぞれがそれぞれ違う思惑でコウジュと話しをしたことがあった。
テュカの言葉に捕捉するレレイとロゥリィ。
﹁確かにぃあの子の能力って何というか尖ってるものねぇ﹂
『stage17:報われない男たち』
1657
言えない目で見てしまう3人娘の心情は何とも表現し辛いものだ。
﹂
?
﹁でも何だかあの子らしい。それに何でもできちゃうより親しみやすくて良いわ﹂
﹁ふぅーん、やっぱり変な所で偏っているのねぇ﹂
技術が必要とのこと。詳しくは教えてもらえなかった﹂
﹁すでに聞いたけどそれはできないらしい。なんでも、同じ世界の中を渡るのとは違う
﹁あ、そういえば﹂
かしらぁ
﹁ここに来るのにあの子の能力を使ったけどぉ、アルヌスへ直接飛ぶことは出来ないの
あった。
そ の 表 情 に こ っ ち も 相 変 わ ら ず か と 微 笑 む ロ ゥ リ ィ は ま た 一 つ 思 い 出 し た こ と が
むむむと口を尖らせながら言うテュカにレレイが珍しく目を輝かせながら言う。
﹁でもおもしろい﹂
﹁日本語って難しいわ﹂
﹁トキィではなく時計﹂
る頃に戻るんだって﹂
﹁ええ、あの子が確かそう言っていたわ。あそこにあるトキィの針が6と12の所に来
﹁そういえばぁ、あと5時間ほどで向こうに戻らないといけないんだっけぇ﹂
1658
そのテュカの言葉にロゥリィは、何でもできちゃうと捕まえても逃げられちゃうもの
ねと心の中で呟いた。
そんな中、レレイはというと少し不満気な表情をしていた。
というのも、コウジュは伊丹が居ない時は代わりに様々なことを教えてくれるのだ
が、たまにまったく教えてくれない分野があるのだ。
その一つが空間移動についての話だ。
世界を渡る技術というのは端的に言えば神域の話だ。
しかし、コウジュは技術としてそれを行使している。
魔法を学ぶ者であるレレイとしては、空間を移動する技術と世界を移動する技術の違
いはどこにあるのか、又、異次元の相より魔法という力を導き出す魔導士としては異相
へと直接繋げる技術がどんなものであるのかが気になって仕方がない。
だがコウジュはいくつかの話題に関しては苦笑いしながら誤魔化すばかりだ。
﹂
実際にはコウジュにも分からない︵感覚でやってるから︶ので仕方ないのだが、当た
あっちも終わったみたいだし、さっき聞いたスイカ割りをしてみたいわ
!
り前のように目の前で行使されるとレレイとしては気になって仕方がない。
﹁賛成
﹁同意﹂
!
﹁まぁ仕方ないわねぇ。とりあえずもう少し遊んでいきましょうかぁ﹂
『stage17:報われない男たち』
1659
1660
◆◆◆
所変わってとある箱根の旅館、その周囲に広がる森の中。
そこには悪夢が広がっていた。
パスパスと、短く破裂音が続いたと思えば続いて何かが倒れ伏す音が何度もこの場で
は起こる。
倒れていくのはどれもが招かれざる客だ。
エージェント
故に、お客を出迎える側に躊躇っている暇などありはしない。
今、日本外の組織から派遣された部隊員たちは、南の島を満喫している対象たちが進
んだ先に居ると思い込み旅館を目指していた。
しかし、この場には事前に特殊作戦群を中心に部隊が展開されている。
特戦群はホームで招かれざる客を順々に沈めていく。
だがそれなりに数が居るため休む暇もありはしなかった。
それもその筈で、この場所には米・露・中の各国から部隊が派遣されている。
たとえホームとはいえ、静かにその全てを排除するのは容易ではない。
容易ではないが、それが与えられた命令だと特戦群の面々はそれぞれ自らの任務をこ
なしていく。
問題は、木陰に時折隠れながら進む彼らは偶然にも未だ他国の組織とは鉢合っていな
いが、その内に出会ってしまう事。
偶々各国は違う方面から旅館を目指していた為このような事態となっているが、目的
地は同じためいつかは出会うのが道理。
そうなれば、利益を求めてここへ送り込まれている部隊員たちが自国の為に引き金を
引き合うのもまた当然の事だ。
そこへ、特地問題対策大臣として作戦を統括している部屋へと来ていた嘉納に連絡が
﹂
!!
届いた。
どういうことですかい総理っ
!?
それなりに長い付き合いなのもあり知っているが、本位は向いていないながらも特地
納。
電話越しに震えている声が届き、本位︵総理︶にどう続ければいいか悩んでしまう嘉
い。私だって悔しいんだ⋮⋮﹄
﹃仕 方 な い ん で す。こ こ ま で こ ち ら の ス キ ャ ン ダ ル を 握 ら れ て い て は ど う し よ う も な
﹁作戦中止
『stage17:報われない男たち』
1661
問題が発生し内閣総入れ替えが起こった後の日本を何とか繋ぎとめてきた。
だが、ここへきて今までのツケが回ってきた。
本井本人がどうという事ではないが、選んだ人間に有った事実は消えない。
﹂
幾つかはハニートラップなどの罠でもあったのだろうが、今となっては後の祭りだ。
﹁それで、どうする気なんだ
﹃国を頼みます。心残りがあるとすれば、大人としてあの少女たちに運命を任せてしま
声が震えながらも、本位の声には決断した意志が含まれていた。
ます﹄
﹃分かっています。これで終わりでしょう。けど、そこに意味があるのならやってみせ
それが分かっていて、本位は行うという。
何故そんな事態になったかを国民が知る由もない以上、そうなるのは当然の帰結。
出来ないだけでなく、政治家としての一生を放り投げるという事だ。
責任を放り投げ総理を辞めるという事は当然のことながら二度と総理になることは
続きを嘉納は口にすることが出来なかった。
﹁そんなことをしたらあんたは⋮⋮﹂
密も無価値になる﹄
﹃何とか来賓を引き渡す約束は回避できました。あとは政権を投げ捨てれば握られた秘
?
1662
う事でしょうか。話を聞けば私よりも何倍も年上の子がいるそうですが﹄
精一杯の冗談だろう。
だが、旅館のガードを解いてしまうざるを得なくなった自身の無力感に溢れていた。
そんな本位に、嘉納は一つ助け舟を出すことが出来ることを思い出した。
﹁それに関しては何とかなるかもしれねぇ﹂
﹃ああ確かに、あの銀髪の少女は隠れることが得意なのでしたか﹄
そういえばと元居は思い出し、幾分か声に余裕が戻る。
とは言え特地からの来賓自身に結果の如何を任せてしまう状況は変わらないので空
元気も良い所だろう。
そんな本位に、嘉納は苦い笑いを零してしまう。
﹄
?
旅館にはトラップも仕掛けてあるからお客さんが来ても大丈夫だそうだ﹂
ミーなんだとよ。詳しいことを聞こうにも伊丹からの返事が無いから分からんが、最悪
﹁俺もよく分かってないんだがな、あの嬢ちゃんの力なんだそうだが旅館に居るのはダ
間の抜けた声が本位から出る。
﹃は
外だそうだ﹂
﹁いいや、そもそも彼女たちはあの旅館には居ねぇんだよ。どこだか知らねぇが日本の
『stage17:報われない男たち』
1663
﹃は、ははは、それは嬉しい誤算ですね﹄
﹂
!
日本一つで国が回っていない現状、爆弾でもあり宝の山でもある特地の対策を行う上
確かに早い段階で清算することの意味はあるだろう。
つい零してしまう。
﹁あの馬鹿⋮⋮﹂
覚悟を、決断をした男の言葉だった。
最後の本位の言葉は吹っ切れた物だった。
嘉納が言葉を返す前に電話は切られてしまう。
﹁あ、おい
も早い段階での。これで後顧の憂いはなくなりました﹄
﹃いえ、これで決心がつきました。今後この国を守るためには一度清算が必要だ。それ
しかし、言い切る前に本位は告げた。
だからこそそう言おうとした。
だが内閣の解散というのは持ち札として持っていて良い切り札とはならない。
それは事態を後回しにするだけだというのは分かっている。
上手くやれば多少は穏便に降りることできる、そう続けようとする嘉納。
﹁だからお前さんさえ上手くやれば│││、﹂
1664
でお伺いを立てなければならないというのは重しにしかならない。
だから、お伺いを立てなければならない理由が一つでも早いうちに無くなるのは理に
適っている。
だが、その結果が一人の政治仲間を失うことと同義であるならば納得し辛いのは当然
だ。
とはいえ、もう本位は決断した。
なら、男の引き際を侮辱するのは同じ男としてできはしない。
任されたのだ、日本を。
そう無理矢理納得し、嘉納は口を開いた。
それに彼女たちは隠れちまった後らしい﹂
﹁来賓の心配はしなくていい。旅館には銀髪の少女がトラップを仕掛けてあるそうだ。
だから、嘉納は続けて告げる。
勿論内心では不満が募っているだろう。
次の瞬間には命令に準じた行動を取った。
だがそれが命令ならば、そう行動しなければならないのが彼らだ。
その言葉に、一瞬各部隊員は一瞬止まってしまう。 ﹁作戦中止だ。上から通達が来た﹂
『stage17:報われない男たち』
1665
伊丹からのメールをそのままいう訳にもいかないので少しばかり端折った説明だが、
その言葉にあからさまにほっとした空気が流れた。
だが、現地に居る特戦群が離れた頃、再びそこには地獄が再臨した。
各国の部隊員が遂に出会ったというのもある、予想通りにそれぞれが潰試合を始め、
形振り構わず銃を連射し始めた。
だが、その中に隙を見て旅館内部へと突入した男たちが居た。
その男たちが地獄を見ているのだ。
名状しがたいその何かは、敢えて言うならば触手だろうか。
目の前の画面では、段ボールから出た何かが次々に人を取り込んでいた。
まったが、その言葉はまさしく正鵠を得ている。
馴 染 み 深 く な っ て し ま っ た ど こ ぞ の ア ニ メ 内 で 言 わ れ た セ リ フ を 思 わ ず 出 し て し
そう呟いたのは伊丹に毒された内の一人だ。
﹁箱が⋮⋮食ってる⋮⋮﹂
そして、中を映す画面には恐るべきものが映っていた。
旅館内に設置されていたマイクから聞こえるのは、幾つもの悲鳴だった。
本位が零した言葉に、その場に居た面々は静かに頷く。
﹁あれがトラップだってか、あの嬢ちゃん中々えげつないな﹂
1666
『stage17:報われない男たち』
1667
ほど
暗闇の中にありながらなお黒く、それでありながら存在感を持つその触手は、先程ま
で本人と寸分違わない来賓たちの姿を取っていた。
動きはないが、生きているようにしか見えない人形だ。
違和感があるとすれば足元に転がっている段ボール位の物だろう。
しかしそれが招かれざる客を目の前にした時、水に濡れた泥の様に解けたかと思え
ば、次の瞬間には人を襲い始めた。
ともすれば発狂してしまいそうな光景だが、幸いにもそんな人間は出ていない。
その理由はやけにコミカルな光景だからだ。
ひょいぱくひょいぱく、一般男性より身長は高く体つきもゴツイ男たちが質量を無視
して段ボールに放り込まれていく。
放り込まれる男たちの表情は恐慌の一言だが、段ボール自体はトコトコと動き、まる
で回収回収と言わんばかりに男たちを食べていく。
血が一滴も流れていないのもまた、コミカルな一因だろう。
そして何よりも、何故かどの箱も汚い字で〝一条祭〟と書きなぐられており、触手の
一本が何を思ってか﹃おきゃくさまはおかえりくだちい﹄と書かれた看板を持っていた。
恐怖のあまり銃を乱射する男も多く居たが、それすら漂う触手に飲み込まれていく。
何とも見ている側からすればシュールな光景だ。
暫くして、招かれざる客たちは全て段ボールの中へと消えて行った。
来賓たちに化けていたもの以外にも数はあったらしく、気づけばあっという間に跡形
もなく男たちの姿は消えていた。
誰かが言ったその言葉に、嘉納はついぞ答えることが出来なかった。
﹁俺達、居なくても良かったんじゃ⋮⋮﹂
誰もがそう思ってしまう状況だった。
さっきまでの必死さは何だったのだろうか。 だがそれを誰が責められようか。
嘉納が、ついつい気の抜けた言葉を発してしまう。
﹁あー、状況終了。後片付けだ﹂
1668
﹃stage18:遅かったな、言葉は不要か⋮⋮﹄
!
かな
ちょっと前だったけど言うの忘れてたんだてへぺろ︵・ω<︶
ね
!
あ、中身がいっぱい入ってたしついでに整理整頓もしておいたよ
そんなわけで中の確認しておいてね
!
!!
ぶっちゃけて言えば、君の特性を足しておいてあげたんだよん。実際にやったのは
元々素質は芽生えてたから、整えてあげたんだよ♪
まぁ弄ったと言ってもこちらが何かを加えた訳ではないのよさ。
君が作った一条祭りだけど、ちょっと弄っちゃったZE☆
!!
ほむ、とはいえ内容を言わないと褒めるものも褒められないか。ならさっそく言おう
褒めてっ。
やぁやぁ今回はちょいとお得な情報を教えようと思ってメールしてみたよ。褒めて
﹃こんにちはろはろー、かおすめーるな時間だよー
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1669
ではではあでゅーさよならまたらいしゅう﹄
﹁なんぞこれ﹂
ビーチでの楽しい一時を終わらせ、片づけが終わったところに久しぶりに携帯電話が
鳴った。
着信音的にはメールだったため一段落付けてから携帯電話を見てみれば変なメール
が来ていた。
送信者は〝私〟さん。メールアドレスは文字化けしてしまって不明。
いや誰ですかあなた。
一条祭りがどうとかって書いてあるし普通に考えれば俺に能力とかくれた神様にな
?
が新しい担
るんだろうけど、前にメールが来た時は〝エミリア︵神︶〟が差出人になっていた筈だ。
ひょっとして係長って言ってたし、左遷された それでこの人⋮⋮人
当になったとか
ふむ、よく分からん。
?
?
1670
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1671
とりあえずこれ以上は考えても分からないし一旦置いておくとして、問題は書いて
あった一条祭りに関してだ。
今稼働しているのは知り合いの家に置いてきた何個かと、ついさっき俺達の代わりに
旅館で置いてきた数個だけだ。
そもそも、その一条祭りとは﹃ぱにぽに﹄に出てきた謎物体で、愛媛みかんの段ボー
ル箱に一条祭と書かれただけ見た目で言えば特に面白いことも無い代物だ。
しかしこれはあらゆるものを吸収し、近くに居る者を捕食するという特性を持ってい
た。
まぁ元々がギャグ漫画なので血なまぐさいことにはならないし、途中で自我を持つよ
うになるが最後もまぁギャグ漫画らしいよく分からない終わり方だった。大体学級委
員長の所為。
さておき、そんな一条祭りを何故再現しようかと思ったかというと、その箱の捕獲︵捕
食︶という部分に目を付けたからだ。
作った当時は、いや今もだけど、捕まえた者を捕えておく場所を俺は持っていなかっ
た。
マイルームも一時的になら良いんだが、そうなると俺が中に入って使うことが出来な
くなるし、イリヤの城とかを使うにしても魔術的な防御とかが俺にはよくわからかった
1672
のでいっその事よく分からない異次元に飛ばしておけばいいんんじゃないかと考えた
次第である。
今となっては中途半端に自分の力量や創造性を自覚してしまった所為であまり根拠
のない能力の発展性を出せなくなってしまっているが、作った当初は思い付きで割かし
なんでも行けた。
一条祭りなんて何故再現しようと思ったか昔の俺に聞いてみたいところだが、でもこ
れはある意味中々に良い選択をしたとも思っている。
何せ俺の能力は想像したものを生み出す能力なわけだがデメリットは〝出来ない〟
と考えることで、中身がどうなっているかは特に関係ないのだ。
つまり再現するために中身を理解する必要が無い。
原作ではなくアニメの方だが、俺が知っている知識と言えばそれで見た描写されてい
たものくらい。
触手みたいなものが出る、外敵を排除する、吸収、ギャグなので死なない、それらさ
え分かっていればそれが全てとなって一条祭りは再現されていた。ちなみに吸収はし
ない様にと考えながら作ったのでそれは再現されていない筈だ。
しかし、だ。
ここに来て何やらそれが変化したらしいときた。
メールの内容を信じるのならば俺の特性を足されたらしい。
でも俺の特性って何だ
幼女、とか
?
それは無いだろう。
獣
段ボールに獣が足されるという事は4足歩行するようになるとか
何それ怖い。
おいこれどれも物騒じゃねぇか。
あとは不死とか、幻想をの能力とか、最近分かった喰べる能力とか
?
いやいや段ボール箱に幼女の特製されるって何だよ。自分で考えておいてなんだが
?
メールには中を確認しておいてってあったし、見ておいた方が良いのだろうか⋮⋮。
?
?
いてきた。
一人悩んでいると、ジャリジャリとビーチの砂を小気味よく鳴らしながら先輩が近づ
﹁あ、先輩﹂
﹁どうした、段ボール箱と見つめ合ったりして﹂
﹁ふむ⋮⋮﹂
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1673
片付けも終わりマイルームで順番にシャワーを浴びていたところだったのだが、俺は
所有者だからと一番最初に入らせてくれたので残りの皆を待っていた。
その合間にメールが来たためどうしようかと悩んでいたのだが、レディファーストと
いうことでシャワー順を最後に回した先輩が暇を持て余し俺の所へ来たようだ。
銀座事件の後から俺を襲う奴が出てきたわけだが、俺はその捕獲した人達をどうする
だ。
なのだが、それぞれ別の一条祭りに食われた奴らも同じ空間に放り込まれたようなの
ついでに言えば俺のマンションとかを襲撃した犯人たちもこの中に居たりするわけ
出てきたことから分かったことだ。
俺自体は中に入ったことは無いのだが、いつだったか物を放り込んだ時に別の箱から
に謎空間に繋がっていることが分かっている。
ていると想像しながら造ったせいか、その謎空間は別の一条祭りからでも同一の謎空間
スペルカードとして産みだしたこの段ボール箱︵一条祭り︶だが、俺は謎空間に繋がっ
を受け取りながらも目線は段ボール箱⋮⋮一条祭りからは離さない。
マイルームの冷蔵庫に放り込んでおいた缶ジュースを持って来てくれたようで、それ
﹁うい、冷たいものどうも﹂
﹁ほい、冷たい物どうぞ﹂
1674
かかなり悩んだ。
その後も一条祭り祭り︵ちょっと自分でも行ってて意味が分からなくなってきた︶を
していかざるを得なかったんだが、捕虜は増えるばかりで一向にどうするかが決まらな
い。
そんなある日、一条祭りの中から食材やら生活用品やらが書かれたメモ用紙が出てき
た。
それは拙いが日本語で書かれた物や外国の物もあった。
よく分からないが、俺は中の人達の欲しい物だと考え、餓死されても困るのでとりあ
えず買って放り込んでみた。
そしたらなぜか感謝のメモ用紙が返ってきた。
何だか釈然としないし、結構な量を買わなくちゃいけないため面倒だったが放り出す
わけにもいかないしなあなあで放置していた。
﹂
しかし、どうやらそのまま放置という訳には行かなくなったようだ。
?
﹁何か異常が起きてたりしないか気になって﹂
﹁何でそんなもの出してるんだよ⋮⋮﹂
﹁そうそう、俺達の代わりに置いてきたトラップっすよ﹂
﹁後輩、それって旅館に置いてきたやつ
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1675
メールの事を言うと俺が転生者だとか言わなくても良い事まで言わないといけなく
なるのでめんど⋮⋮もとい煩わしいので少しぼかして先輩へと返す。
以前にも俺は突然地雷を出したこともあるため恐る恐ると近づいてくる先輩は、見た
﹂
目だけで言えば何の変哲もない段ボール箱を見て首を傾げる。
﹁どう見ても段ボール何だが、違うんだよな
﹂
?
思わず間の抜けた声が出た。
﹁え
そして俺は、中を覗き込む。
もなんだけど。
でも未知に対する恐怖は誰でも同じようなモノの筈だ。ほんと造った本人が言うの
れたが、制作者に対してはそんなことは無かったので大丈夫だとは思う。
アニメではとある少年が一条祭りの中を興味本位で覗き感嘆の声を上げた後捕食さ
を決してふたを開ける。
とはいえこのままずっと一条祭りとにらめっこしている訳にもいかないので俺は意
うん俺も怖い。造った本人が言うのもなんだけど。
﹁何それ怖い﹂
﹁うん、何というかちょっと能動的なネズミ捕りみたいな﹂
?
1676
﹁どうした
﹂
何でこれが
た。
しかし俺はそんな事よりもその近未来的なと表現した広場に思考がフリーズしてい
条祭りに捕食された人達だと思う。
半分以上が迷彩柄やら軍服の様な物を着ていることから恐らく俺を襲おうとして一
同じ人達も居るようだが、関係なしにそれぞれ過ごしている。
けでもわかるくらい国籍にばらつきがある。
どいつもこいつもガチムチな中々によろしい体系をしており、そしてちらりと見ただ
そしてそこを小さな人が何人も歩いたり話をしたりと思い思いに過ごしている。
の広場が広がっていた。
そう、先輩の言う通り一条祭りの中は何故か近未来的な様相を呈すミニチュアサイズ
すぐる仕様じゃないか﹂
﹁へぇ、こうなってるのか。ミニチュアみたいだな。しかも近未来的で中々に男心をく
俺の声に疑問を持った先輩が同じようにソロソロと箱の中へと目をやった。
?
そう何度も頭の中でリフレインするも、答えは出ない。
?
﹁どうしてこうなった⋮﹂
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1677
﹂
ほんと、ほんと何で一条祭りの中にPSPo2のシップロビーが広がっているんだろ
うか
﹁﹁﹁はっ﹂﹂﹂
﹁準備は出来たか
◆◆◆
?
その為には最後のチャンスと形振り構わずに来るであろう工作員たちを振り切る必
要なのは門を潜って帰ったという事実だ。
後輩の能力があれば門の周囲にある検問の内側に直接飛ぶこともできるが、俺達に必
これから俺達は門を潜らなければならない。
は既に家に戻ってもらっている。
テュカ、レレイ、ロゥリィ、ピニャさん、ボーゼスさん、そして後輩。梨紗に関して
それを聞いた俺は、次に残りのメンバーに目をやる。
俺言葉に栗林、黒川、富田が敬礼と共に返事を返す。
?
1678
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1679
要がある。
だから梨紗には帰ってもらった。完全な一般人である梨紗にはこれ以上は危険が跳
ねあがる。
ならそもそも何故梨紗の家に行ったのかと問われれば、以前に後輩から理沙の家の周
りにはわなを仕掛けてあると聞いていたし、度々送られてきたメールの内容から死には
しないかと心配になったからだ。
しかし今から行く場所は敵が来ると分かっている場所だ。そんな所へ連れて行くわ
けにはいかない。
その説明を梨紗にして渋々ながらに帰らせれば、後輩がニヤニヤした目でこちらを見
てラブコメラブコメと煩くなるなんてこともあったがそれはいいか。寸前まで段ボー
ルを見て遠い目をしていたのに元気なやつだ。心配して損をした。
そんなわけで俺達は今から銀座にある門を潜って特地へと戻らなければならない。
集まった俺達の前には門があり、その先は銀座からほど近い後輩のマンションへと繋
がっている。そこから俺達は銀座へと乗り込むのだ。
銀座では、ただ通り過ぎるのではなく献花をする予定も盛り込んである。
これは梨紗の案でもあるのだが、その情報を流して一般人︵大きなお友達が中心だが︶
を集めて工作員の動きを牽制し、更にはせめて来た側である特地三人娘が献花をするこ
とで心証の回復を図ろうというものだ。
勿論特地の人間とはいえ直接攻めてきた軍の人間ではないが、ただ通り過ぎるのとそ
ういったことをするのでは全然受ける印象も違うのは確かだ。
特に人というのはテレビ等に出てくる言葉が全て本当ではないと思っていながらも
その表現の仕方一つで影響をついつい受けてしまうものだ。在ること無い事書かれる
よりは、良い事をしてその〝在ること〟を書かれた方が遥かにマシである。
まぁ、お願いした三人娘自身が乗り気だったのもある。
三人は既に帝国が日本へと攻めてきた結果が今の状況であるという事を知っている。
直接関わりがある訳ではなくても、死者を悼む気持ちはあると言ってくれた。とても
優しい子たちだ。
少し寂し気に言う後輩に目を向けた後フローリングを見れば、幾つもの足跡があり、
﹁土禁なんだけど、これだけ汚れてば一緒だなぁ﹂
止まらずに奥へと進めば、続くように全員が入ってくる。
込む。
よくある空間を超えるような感慨も無く、容易く俺の足は後輩のマンションへと乗り
俺はドアノブを捻り、歩を進める。
﹁よし、行くぞ﹂
1680
綺麗だったであろう床は汚れている。
床だけではない。
高級マンションと一目でわかる景色と広さを誇っていながら部屋の中は色々と荒ら
されていた。
本来であれば跡を残さずに色々とするのだろうが、事が事だけに形振り構わずと言っ
たところか。
﹂
?
﹁ういうい、何せビーストだから﹂
﹁見えるのか
﹁うへぇ、めっちゃ居るっすねぇ﹂
や、いつも以上に賑わっていることだろう。
高層マンションとはいえ銀座の詳しい部分までは遠くて見えないが、いつも通り、い
である銀座を見る。
とりあえず心の中で手を出したであろう工作員と国に手を合わせつつ、窓から目的地
あれは確か後輩が気に入ったからと初回特典版で購入していたアニメのものだ。
かずとも汚れが目立つ。
部屋の端に落ちていたDVDのケースもまた、乱雑に扱われたからか割れるまでは行
﹁⋮⋮とりま俺のコレクションに手を出した奴はぶん殴る﹂
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1681
ビーストってマサイ族的な側面もあったんだな。いやむしろマサイ族がビースト的
な続面を持っているのか
あ、これアカンやつや。
がらこちらを見た。
そんな風にどうしたものかと頭を抱えていると、後輩がニヤリと良い笑みを浮かべな
背に腹は代えられないのならそうするしかないが、さて⋮⋮。
直に言えばあの喫茶店にこれ以上迷惑はかけたくない。
いつもの喫茶店まで後輩の能力で跳べばその辺りの悩みも一緒に吹き飛ぶのだが、正
なる。
込み入った裏路地まで行ってしまうと、何のために人を集めたのか意味が分からなく
たがどうにもそれは悪手にしか思えない。
ここから路地や人通りの少ない場所を通りつつ、最悪車を使って移動しようかと考え
ふと意味も無いことを考えつつ、そこまで混んでいるのならどうしようかと悩む。
?
何故かそんな言葉が俺の中で響いた。
当確です。
﹁先輩、俺に良い考えがある﹂
1682
◆◆◆
﹂
いっそ殺せえええええええええええええええ
﹁あっはっは、それなら手を離せばいいじゃないか﹂
えええええええええ
!!!!!!!!!!
BOSS級エネミーだ。
﹂
ちなみにヤオロズ様というのは、PSPo2i内においてとあるクエストに出てくる
てない。
うPSPo2iに出てきたBOSSの姿を取っていた。悔しかったからとかでは断じ
俺が炎龍を出し、俺自身は大狐⋮⋮だと炎龍の迫力に負けちゃうのでヤオロズ様とい
そう、俺達は今上空1万メートルの高さに居る。
﹁そりゃそうだよ。何せ今は、はるか上空1万メートルって所だしね﹂
﹁そんなことを死ぬだろおおおおおおおおおおおおおお
!!!!!!!!!!!????
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
﹁やめろおおおおおおおおおおおおお
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1683
1684
ただ、エネミーとは言うが言葉を交わし、ガーディアンズに試練を与え、その試練を
乗り越えた者に褒美を与えるという比較的友好な存在だ。
その正体について詳しいことは分かっておらず、クエスト名や話の中で分かっている
のは星霊という存在であるらしいことや神と崇められていること、他にも主観的なもの
だが結構強いのとレアドロップで神剣とかをくれることだろうか。
姿に関しては仮面を被った白い大狐で尻尾は三本。背には5重の塔が背負われてお
り、四肢にも仮面。そして各部にある荘厳な装飾と、炎を思わせる半透明な紅い帯を漂
わせている。
そんなヤオロズ様の姿になっている俺と、出した炎龍の背に分かれて乗る皆。
これなら安全に目的地まで行けるというのが俺の出した名案である。
上空1万メートルというのは生身でいて良い場所ではないが、空気圧などに関しては
そこはエルフであるテュカちゃんと魔法少女なレレイちゃんの出番である。お、俺もで
きないことも無いから提案したけど、安全性を考慮してってやつです。
風圧に関しては、俺は魔力を固めて空を歩けばいいし、炎龍は翼で直接飛んでいるの
ではなく飛んでいるという結果を引き出しているのでゆっくり飛ぶのは比較的簡単だ。
ただ、問題が一つだけある。
先輩って実は高所恐怖症なんだよね⋮⋮。
だからこそさっきから先輩は叫びまくっているのである。
﹂
ちょっとは気張りなよ﹂
﹁はいはい先輩着いたよー。後は降りるだけだから黙っててねー﹂
﹁まだめっちゃ高いじゃないか
?
!!
﹁そらそうだよ。でも空挺徽章とか持ってるんでしょう
﹂
!!
﹁はぁ
隊長って空挺徽章も持ってるんですか
﹂
!!?
?
!?
﹂
!!!??
俺はあまり知らないけど、エリートが取る様なやつだっけ
よく分からんが何故か栗林さんが煩くなった。
ってかあの隊長が何でえええええええええええええ
?
まぁ確かに先輩には似合わないもんだけど、酷い言われようだ。うん、ほんと普段の
?
!?
﹁取っちゃった 取っちゃったって何 そんなノリで取れるものじゃないんだけど
ような⋮⋮﹂
﹁あれ知らなかったの 他にもレンジャー徽章やら幾つか取っちゃったって言ってた
!?
俺は辟易としながら首を振ると、俺の言葉に声を上げた人が居た。
んな所で出てしまった。
やれやれだぜってのはもっとかっこいい場面で使えるものだと思ってんだが、ついこ
﹁やれやれだぜ⋮⋮﹂
﹁無理なもんは無理だ
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1685
先輩を見てると言われて仕方ないけどさ。
当の本人はというと別の意味で叫んで今のが聞こえていない様子。
仕方ない。このまま居ても煩いだけなのでさっさと降りてしまおう。
そうして、俺は一歩一歩、空を踏みしめながら静かに大地を目指した。
◆◆◆
︻美少女に︼異世界へと渡りたい︻会い隊︼︵15︶
660 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
そういや伊丹氏がマスター疑惑ってどうなったん
661 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
1686
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1687
あれってデマだって噂だぞ
662 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
この間あの騒動の流れを羅列した動画上がってたけど、最初に誰かが伊丹氏の腕に包
帯が巻かれているのを発見してからだってさ
663 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
wwww
なんでそれがマスターの証になるんだよwww
ただの中二病かもしれないじゃんか
664 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀663
国会に来てまで厨二病発症してる時点でオワテル
665 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀663
1688
何故そこで厨二病www
ただのけがかもしれないだろうwww
666 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀663
あれはな、コウジュちゃんって銀座事件で回復魔法的なの使ってたらしいんだよ。な
のに伊丹氏は仲が良いらしいのに態々包帯を巻いてるのが怪しいって感じで令呪を隠
してるんじゃないかって考えたのが居たんだとさ
667 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なにそれこわい。包帯外すわ俺。
668 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀666
あー、確かに言われいてみれば。
でもだからって飛躍しすぎな気もするが
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1689
669 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀667
ちゅに病さんチっすチーッす。今日の暗黒龍の具合はどうですか
﹀﹀670
それが過ぎに出てくるお前も⋮︵
;ω;`︶ブワッ
670 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
回復魔法ってあれでしょ
葱の・・・
672 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
やめておけ、自分の傷口を広げるだけだぞ
﹀﹀670
671 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
´
葱ww そう葱のやつwwww
673 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
1690
674 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
あれなwwww
あれは今でも笑うわwwww
675 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
何故そこで葱
あの姿、まさしく葱
で、結局葱って何
一時期各地で葱が消えたのに
知らないやつも居るのな。
678 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
677 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!!
676 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!?
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1691
679 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
主に振るために
680 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀677
銀座事件の幼女の武器の一つが葱と判明したため
681 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ふぁ
緑と白のステッキだと思われてたやつがまさか葱だったとはなぁ・・・
683 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
あの事件に巻き込まれた人とかから流れてきた情報だっけ
682 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!?
1692
684 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ぶん
葱だ葱だ騒いでいた奴も確かに居たけど、あの幼女が国会でのデモンストレーション
で本当にネギを出した時はたまげたよな︵ぶん
!
お、ゴルフの練習ですか
﹀﹀684
686 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
一体何を振ってるんですかねぇ・・・
﹀﹀684
685 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!
688 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
シマッチャオウネー
﹀﹀684
687 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1693
話が流れまくったけど、何で幼女は葱を持ってたの
?
めちゃくちゃ強いのに銃刀法違反気にするなんてやだかわいい
691 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ホント確かに銃刀法違反にはならねぇわなwww
690 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
だっておww
国会で聞かれてたけど、何でも葱を持ってても銃刀法違反にはならないでしょう
689 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
692 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
木材じゃダメなんだろうか
?
逆に言えば葱さえあればどうにでもできるってことだよな。
でもなんで葱
﹀﹀691
?
1694
きもい
693 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
キッとあの緑と白のコントラストが︵適当
そこに魔力を通してだな︵士郎の強化的な
694 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ほら、真ん中空洞じゃん
知らないのか
一部地域ではネギは魔除けとしてうんぬんかんぬん
695 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
まさしく︵全裸待機
697 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
それより異世界美女たちが銀座に現れることの方が重要だ
葱の話はもうおいとこうぜ、前に散々話しただろう。
696 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1695
698 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
シュタッ
699 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀697
まさかおまえそれ現地でやってるんじゃないだろうな・・・
700 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀697
お巡りさんあいつです
701 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀697
通報しますた
702 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
1696
さすがに部屋の中だよwwww
703 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ちな俺現地︵ボソリ
704 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
オレモ⋮
705 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀703 ﹀﹀704
裏切り者だああああああああああああああ
何処に居るの
殴りに行くわ
﹀﹀703 ﹀﹀704
706 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!!!!
707 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1697
﹀﹀706
それってお前も居るんじゃないのかwww
708 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ってかまだなん
いつ来るとかは決まってないみたいだし、数時間後ってこともあるんじゃね
おい違反者くんな
712 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
精進が足りんな。徹夜組
711 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
まじかー。さすがにそこまで待ってられんわ
710 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
709 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
・ω・`︶シュッカヨー
713 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
︵
・ω・`︶ソンナー
さぁ
誰かがのつぶやきだって話だけど、よくわからん。出回り過ぎて
﹀﹀715
717 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
716 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
そもそも献花に来るってどこ情報よ。
715 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
︵
714 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
´
´
1698
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1699
718 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
これで来ないとかいうオチだったら面白いなw
719 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
まぁ確かにテレビでは何も言ってないし、まじであるかもなぁ
720 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
いいや来るね
その根拠は
721 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!
﹀﹀722 誤字った 来てほしいから
723 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
俺が着て欲しいから
722 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
1700
724 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
お、おう
725 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
せ、せやな
726 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
アッハイ
727 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
せやかて工藤
728 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
何でや工藤
﹀﹀722
一体何を着てほしいですかねぇ⋮⋮
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1701
729 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
メイド服が着たい
帰れ
730 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
おっさんのメイド服姿とか見たくないわ
!!
周りにおっきいおともだちいっぱい︵
・ω・`︶
731 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!!!!
734 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
一人ぼっちは寂しいもんな⋮
733 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
よかったな仲間がいっぱいじゃないか
732 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
´
1702
おいやめろ
735 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
でもほんとおっきいおともだちばっかだわ。肉ばっかり
736 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
駄肉の分際で何言ってんだか
737 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
駄肉・・・そこはことなくエロいスメルが//
738 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
R18スレ行け
739 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ここも腐界に沈むのか⋮⋮
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1703
740 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
そこまでだ
・
・
・
なぁ、なんか音がしないか
ニートはまず家から出ろw
985 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
PCのファンの音しかしないが
984 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
983 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!!!!
1704
現地の話だろたぶんw
986 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なんぞこれ
なぁ、上になんか居ない
上から来るぞ気を付けろ
上ってなんぞ
キレイな青空だけど
989 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!!
988 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
987 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
え、マジで何かいる。なにこれ。
990 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
?
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1705
991 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀988
マジで上から何か来てるんですが
ああ。
なんかおっきい狐っぽい何かも居るんだけど
995 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
炎龍だああああああああああああああああああ
994 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なんかでかいの二匹居るううううううううううう
993 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!!!!!!!!!!!!
親方ああああああああああ。空からなんか来たああああああああああああああああ
992 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
!?
1706
996 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なにあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれな
にあれなにあれなにあれなにあれなにあれえええええええええええええええええええ
えええええ
997 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
も、もちつけ、こんな時は素数をだな。1、2、3、4・・・・
998 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ってか次スレええええええええええええええ
999 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ぎゃああああああああああああああああああああああああああ
1000 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:│
│
あ、炎龍が美女と幼女になった
『stage18:遅かったな、言葉は不要か……』
1707
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﹃stage19:メイド服って⋮メイド服って⋮⋮
﹁俺を売ったくせに⋮⋮﹂
!
﹄
!!!
アルヌスへと門を抜けて戻ってきて暫く、伊丹は事後処理の書類整理に追われてい
るが専ら伊丹の所為であるからだ。
それもその筈で、コウジュがここに居る原因となったのはコウジュ自身の落ち度もあ
そんなコウジュに伊丹は言い返すも強くは出れない。
て辛口で返したのはコウジュだ。
アルヌスにおけるPX︵売店︶のすぐ傍に設営された食堂、そこを訪れた伊丹に対し
﹁それは⋮⋮まぁ﹂
﹁分かっちゃいますけど、こんな服着ることになったのは先輩の所為でしょうが﹂
﹁人聞きの悪いことを言うな
というかお前も納得しただろうに﹂
﹁おいこらお客さんに向かって舌打ちするな﹂
﹁らっしゃーせー⋮⋮って、ちっ先輩か﹂
1708
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1709
た。
コウジュも、伊丹のサーヴァントである故にそれに付き合っていたが、幾ら裏切る可
能性が無い存在だと言ってもそこは自衛隊内部。当然ながら部外者が見て良い物ばか
りではない。
なのでコウジュは伊丹が仕事中は専らコダ村からの避難民たちやテュカ達と共に過
ごしていた訳だが、その彼らも日々遊んで暮らしている訳ではない。
彼らとて、自衛隊からの配給があるとはいえそれだけで生きていける訳でも無く、配
給自体も自活の目途が立つまでだ。だからその配給が無くとも生活を維持できるよう
にそれぞれが仕事を探し出し、日銭を稼ぐのに必死だ。
そんな中、コウジュは何もすることが無かった。
確かにサーヴァント本来の役目で言えばマスターの守護ではあるが、伊丹を守ると
言っても基地内では命に関わる事件が起こるはずもない。
だからコウジュは手持無沙汰になり、様々な場所を転々としていた。
仕事中の人達の邪魔をするほど常識外れでもないし、かと言って基地内で歩くことを
ある程度許可されたとはいえ好き勝手出来るほどではない。
それから数日と経たない内にコウジュは猛烈に焦り始めた。
銀髪紅目幼女無職という肩書き、これほど不名誉なものは無いと気づいたのだ。
1710
実質的にはコウジュは既に自衛隊内で貴賓扱いとなっている。
というのも狭間が手を回してコウジュの肩書きを特地対策特別顧問とし、協力関係で
あるとしていたからだ。
これが通ったのは伊丹とコウジュが狭間の案もあってだが大いに暴れた国会生中継
があったからこそだ。
実際にどうするかまで狭間は口出ししていないが、想定以上にアピールしてくれたお
かげでコウジュという存在に対して日本を含めて各国共に慎重にならざるを得なかっ
た。
さらに言えば、門を通って帰るために炎龍一体だけでも自衛隊からの報告書で常識外
の存在であると分かっているのに、それを使役しているうえコウジュ自身も大きな狐と
なって銀座に現れていた。そんなコウジュに対して下手な行動に出ようものならどう
なるか分かったものではない。各国が送り出したエージェントも生きたまま捕えられ
ていると言われてしまっては容易く動く訳には行かない。
さておきそのような過大評価を受け下手をすれば特地問題以上に慎重に対応される
べき存在とされているが、しかしてその中身は元一般人である。
貯金もあり、それなりの身分扱い︵これに関しては実はまだ理解していない︶が、周
りが働いているのに自分だけ何もしていないというのはコウジュの心に来るものが
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1711
あった。
だからコウジュは、働く場所を探すために伊丹に相談をしに行った。
しかしその結果が今コウジュがここに居る原因である。
現在、アルヌス駐屯地におけるPXは大いに人手不足だ。
というのも、ピニャ皇女から要請のあった語学研修が開始し、アルヌス駐屯地のすぐ
そばに設営された難民キャンプへと人が続々と集まってきた。
同時に、龍の鱗を生活費へと当てることが出来るようになった難民キャンプの人々は
それを元手にそれぞれ商売を開始した。自衛隊と取引したものを売る者、仮宿舎を運営
する為の人員となったもの、誰もが手に職をつけることができた。
実はこの辺りは伊丹が忙殺される原因となった書類によってある程度根回しされた
モノでもあるのだが、そのおかげで﹃アルヌス共同生活組合﹄として元コダ村の住人た
ちは安定した収入を得ることが出来るようになった。
しかしそれは最初だけであった。
別に商売が破綻したわけではない。むしろ逆だった。
駐屯地内に設営されたPXでは物の流れなどを徹底的に書類を通して行っており、そ
れを煩わしく感じる者達が難民キャンプ内にあるPXまで通うようになる。そこに現
在進行形で語学研修で来ている人員も通うようになる。更に更に異世界からの珍しい
1712
物を手に入れようと来る商人まで居る。
そしてその対応を任されたのが伊丹だった。
元を辿れば元コダ村の人々を招き入れたのは伊丹だ。一番現地住民と接触を図って
いるのも又、伊丹だ。
となると、狭間が伊丹にその采配を任せるのは必然とも言える。ぶっちゃけて言えば
自分の尻は自分で拭けってことである。
とはいえそう簡単に人員不足を解消できるはずもなく、伊丹はどうするか悩んだ。
だがそこに救世主が現れた。
タイミングよく伊丹の元へ仕事を探して訪れたのがコウジュだったのだ。
そのコウジュを見て、伊丹はピースがはまったかのように天啓を得た。
よくよく考えれば、何かあっても自力で問題を解消できて、地球の事も異世界の事も
知っており、地球と特地両方の言葉を話せるって後輩って実はかなり優秀な人員なん
じゃなかろうか、と。
それに思い起こせば後輩はバイト生活でコンビニ店員やらの接客業もこなした経験
がある。
これしかない、と伊丹はすぐさま書類を用意し、コウジュへと渡した。
コウジュはコウジュで、周りが働いているのに自分だけ働いていないという状況に危
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1713
機感を覚えていた為にその書類へとすぐさまサインをしてしまった。
その結果、晴れてコウジュはPXの店員という職業を手に入れた。
とは言えコウジュもずっとそこで働いていられるわけもないので増員は必要だ。だ
からそれまでの補助要員である。
だがここから、コウジュにとってだが悪夢が始まる。
PXに幼女店員が来た↓よく見れば噂の銀髪幼女↓一目見ようと隊員たちが集う↓
客が増える↓人員が足りない↓恋ドラ人形を増やして慣れない並列思考しながらコウ
ジュ頑張る↓美人が増えたから客が増える↓売り上げが上がったので商材塔が増える
↓人が足りなくなる↓フォルマル伯爵家から補充要員↓ケモミミ娘が増える↓客が増
える↓人が多くなったので食堂立てる↓人手不足↓補助要員として夜だけだがコウ
ジュが入る↓人手不足↓⋮⋮⋮以下繰り返し。
そんなわけで、コウジュは夜に食堂で働かなくてはならなくなった。
しかし、元々職を探していたのはコウジュ自身の希望だ。それだけで文句を言われれ
ば伊丹も堪ったものではない。
では何がコウジュをヤサグレさせているのかというと、冒頭にコウジュが言った〝こ
んな服〟を着ることになったからである。
黒いワンピース、その上から白いフリルの付いたエプロン、フリル付きのカチュー
1714
シャ、つまりはメイド服をコウジュは着ているのである。
地球で過ごしていた際、サブカル文化においても意気投合していたコウジュに伊丹、
そして梨紗。
その中で、可愛い物好きな梨紗がコウジュへとコスプレをさせようとしたことが何度
もあった。
しかしコウジュはそれを頑として受け入れることは無かった。
梨紗にしてみればコスプレをしない方がおかしい位の可愛さなのに、ついぞコウジュ
がそれを受け入れることは無かった。
それも当然で、コウジュは中身だけとはいえ男だ。
梨紗の言う可愛い子がコスプレしている姿を見るのは大変喜ばしいというのも分か
らなくもない。
しかし自分自身がコスプレさせられそうなら話は別だ。何が嬉しくて人格が男の自
分がコスプレしなければならないのか。
ついには、コウジュはこの世界に来てもできるだけ使おうとしなかったチートを駆使
して逃げた。
そんな風に本気で嫌がってるコウジュに梨紗は仕方なしに諦めた。
そこへ来てのこれである。
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1715
コウジュがヤサグレるのも当然と言える。
勿論、当初はメイド服を使用する予定は無かった。
むしろ伊丹の采配で店員はメイド服着用とされていたならば伊丹は今頃ボコスカと
やられているだろう。
だから最初はコウジュも安心してそれなりにフォーマルな服の上からエプロンを付
けて作業をしていた。コンビニのバイトでも良くしていた格好である。
しかし人員不足によりフォルマル家から補助要員として送られてきた人員が全てメ
イドさんだった。
彼女たちはそのメイド服こそがフォルマル家に所属するメイドたる自分たちの誇り
であり仕事着であり正装であるとメイド服で仕事をすることになった。
そうすれば浮いてくるのがコウジュの姿だ。
伊丹としては企業という訳でも無く、自活の為に難民キャンプでのPXを立ち上げた
︶が届くようになった。
だけなので正直な話をすれば恰好など好きにやってくれというものだ。
﹄
﹃仕事着はちゃんと着るべきそうすべき﹄
﹃メイ
だが、暫くすると伊丹のもとに困った苦情︵
﹃なぜ彼女はメイド服じゃないのか
?
抗議文が匿名で数多く届けられた。
ド服姿見せろや﹄等々、コウジュがメイド服姿ではないことに不満を持つ物たちによる
?
1716
少数であれば伊丹も無視をするつもりだったが、それは日に日に増えていくことと
なった。増えるだけならいいが︵よくはないが︶、文章も又どんどん過激になる一方だっ
た。
そして最終的に、伊丹はメイド服を持ってコウジュのもとを訪れた。
当然コウジュからぶん殴られそうになった伊丹だが、諦めずに懇々と説明をした。
だがコウジュとて守りたい一線がある。
メイド服をどうこうというしょうもない話は平行線のまま、続いた。
事態が動いたのはそれから暫くの後だ。
コウジュが告げる。
﹃それほど俺にメイド服を着せたいのなら令呪でも使うんだな﹄と。
﹄と。
それを聞き、いつもの掛け合いの如くヒートアップしていた伊丹は積もる疲労もあっ
てつい口にしてしまった。
﹃やってやろうじゃないか。メイド服で仕事をするんだ後輩
その瞬間、伊丹の手の甲から幽かな光が放たれる。
それを見てやっちまったと固まる二人。
イディスーツ︵ミニスカメイド︶になっていたのである。
そして次の瞬間には、何故かコウジュが着る服はメイド服、PSPo2内におけるメ
!
﹁うー、くそ。とりあえず注文は何なのさ﹂
本来であれば令呪を発動させるためには魔力が必要である。しかし当然ながら伊丹
思い返せば何故あのタイミングで令呪が発動したのか。
ずみな発言したのは俺も同じだ。それくらいは待ちますってば﹂
さい。これ以上は俺が悪者みたいじゃないっすか。あれは事故と言えば事故だし、軽は
﹁はぁ、分かってるっすよ先輩。冗談ですからそこまで申し訳なさそうにしないでくだ
﹁すまん、もう少し頑張ってくれ。次の補助人員さえくれば終わりだ﹂
りにしてくれよ﹂
﹁はいはい。ったく、罪悪感で毎日様子を見に来るくらいならさっさと俺の任期を終わ
そんな申し訳なさそうな伊丹にこれ以上は流石に悪いかと苦笑いしながら口を開く。
なさそうに毎日のように来ては頼むものをいつもの如く言う。
伊丹は伊丹で、コウジュがメイド服を着る要因となったのが自分であるために申し訳
ては置いておいて伊丹から注文を取ることにした。
ヤサグレたコウジュは、そのままでは仕事が片付かないからと一旦自身の状況につい
﹁とりあえずいつもので﹂
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1717
にはそんなものは無い。
しかし伊丹との契約自体が不思議なものであったし、何かが切っ掛けだったのか、令
︶が付く謎の。
呪を使おうと意識したこと自体がトリガーとなったのか、試すわけにはいかないが推測
しかできない現状ではどうしようもない。
そこでコウジュはふと思い出した。
そういえば俺、幸運:Eだった。しかも後ろに︵
う。
そんな風に思い返していたコウジュに、伊丹は自身の一角掛けた令呪を見ながら言
?
例えば、対魔力が高ければサーヴァントはある程度令呪を介しての命令に背くことが
ただ、これにも穴はある。絶対命令権とはあるが、必ずしも〝絶対〟ではないのだ。
使える絶対命令権である。
令呪とはそもそも聖杯戦争におけるマスターに与えられた契約証明であり、三度だけ
﹁うぐ、その御陰でイリヤにも弄ばれたことがあるんですから言わないで⋮⋮﹂
﹁でも聞かされてなかったとはいえ後輩にそこまで聞くとはなぁ⋮⋮﹂
強制召喚は何かの役に立つかもしれないし﹂
﹁それについても言いましたけど、先輩のいざという時の為に取っておいてください。
﹁ホントすまん、最悪また令呪を使って解除するからさ﹂
1718
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1719
できる。重ね掛けすればその限りではないが、絶対ではない理由の一つ。
他にも、曖昧な命令もまた令呪の効力を落とす。〝絶対に勝て〟だとか、〝死ぬな〟
などの命令が叶うのであれば令呪は願望器にも等しくなってしまうからだ。
だが、コウジュに関してはこれが当て嵌まらない。
いつだったかイリヤに〝女の子らしくするように〟という悪ふざけにも似た罰を与
えられたが、これもまた令呪としては曖昧な命令でしかない。
しかしコウジュはそれに背くことが出来なかった。
それもその筈で、コウジュは能力として自身の想像したもの具現化するというチート
を持っている。
だから、令呪によって命令されれば〝令呪はマスターの命令権〟だと認識しているコ
ウジュは逆らうことが出来ないようにセルフで令呪の効果をブーストしてしまうので
ある。
上手く使えばこれはメリットになるだろう。
曖昧な命令でも令呪自体が見た目に反した神秘を内包している為にそれなりにサー
ヴァントへと恩恵を与える。
その為、もしもコウジュに対して〝絶対に勝て〟なんて命令でもあれば能力の特性上
コウジュは大いに恩恵を得ることが出来る。
しかし、今回もまたマイナス方面で働くことになってしまった。
幸いにも、伊丹が間違って命令してしまったのは〝メイド服で仕事をしろ〟という部
分な為、仕事中を脱すればメイド服は脱げる。
そんなわけで、コウジュは絶賛メイド服姿なのである。
食堂にて、今日も今日とて店員をしていると何やら先輩とロゥリィさんが一緒に飲ん
なんかダークエルフさんが居る件。
﹁緑の人に炎龍退治を頼みたいのだ﹂
◆◆◆
﹁死んだ魚みたいな目になってるぞ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁似合ってて可愛いってかなり評判だし元気出せって﹂
﹁何すか先輩﹂
﹁でもほらあれだ後輩﹂
1720
でいた辺りがにわかに騒がしくなり、注文されていた物を持っていけば先輩達の代わり
にダークエルフさんが居た。
いや訳が分からねぇよ。
周りの人に話を聞けば、どうやら先輩がロゥリィに無理矢理酒を飲ませていると勘違
いして斬り掛かりそうになったんだとか。
そんな危険人物が何をしにここへ来たのかと思って警戒しながらも聞いてみれば先
の言葉をダークエルフさんは告げたのだ。
﹂
﹂
﹂
そんなダークエルフさんに飲みに来ていたおっちゃん達が告げる。
﹁その話は真か
おっちゃん達の言葉に、眼を見開くダークエルフさん。
﹁そうそう、緑の人と協力関係にある人が倒しちまったって話だぜ
?
﹁らしいな。まぁそれほどの重要人物を言いふらす方がおかしいわな﹂
て話だ﹂
﹁俺も詳しく聞いたわけじゃないよ。というかあまり言いふらさない様に言われてるっ
と言う訳にもいかないので︵言いふらすことでも無いし︶、黙って聞くに徹する。
あ、それ俺です。
!?
?
﹁炎龍って退治されたんじゃなかったか
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1721
﹁そ、それでも聞かせては貰えまいか。2頭の炎龍に我々の村が襲われているのだ。件
の炎龍とは違って幾らか小さい為死に瀕するまでは行っていないが時間の問題だ。風
の噂でここに炎龍を倒せるものが居ると聞き、私は一縷の望みを託してここへ来た﹂
小さい炎龍ってワイバーンじゃないの
助けを求めてる人が目の前に居る訳だし助けるのも吝かではないけど、うーむ。
しかし俺を目当てに来たってのは分かったが、どうしたものか。
あ、でもそれなら2匹くらいじゃそこまでの戦力にはならないか。
?
一応笑みの形は保っているが、保つので精いっぱいであった。
ピクリと、俺の頬が引きつる。
﹁そんな年から働かなければならないとは、苦労しているのだな﹂
するとダークエルフさんは痛ましい物を見る目になる。
テーブルの上に置き、チラリとダークエルフさんの方を見れば目が合った。
それは丁度ダークエルフさんの注文分だった。
く。
悩みつつも、仕事の手を止める訳には行かないので注文されていたものを置きに行
﹁ああ、すまない﹂
﹁はいコレビールね﹂
1722
この容姿であるから幼女扱いされるのは仕方がない。気にならないわけではないが
仕方が無いことだ。
だけどそんな目で見ないでほしい。
これでは俺がかわいそうな子じゃないか。
腹が立つ訳ではないが、なんかこう、悲しくなる。
しかしそんな俺には気付かず、ダークエルフさんは続けた。
?
ゆかり
しかしそれは先輩の元を離れて行く必要があるだろう。
だから、縁も縁も無いとはいえ助けてあげたいとは思う。
えん
与えるだけであったが︶。
幼いながらも働く子を見てあんな目を出来るのだから︵俺に関しては精神ダメージを
恐らく、根は悪い人ではないのだろう。
何とか言葉を返し、その場を離れる。
﹁アッハイ﹂
﹁そうか⋮⋮。いやすまない。子供に聞くことでは無かったな。仕事に戻ってくれ﹂
﹁エット、ワカリマセン﹂
う緑の人でも構わない﹂
﹁ところで幼子よ。炎龍を倒したという誰かを知りはしまいか 協力関係にあるとい
『stage19:メイド服って…メイド服って……!!!』
1723
1724
先輩はあと数日すれば別任務でまたこのアルヌスを離れる必要がある。
そして今はアルヌス共同生活組合に関しての書類仕事もある程度終わり、次のその任
務に関しての準備等を進めている所だ。
そこにこの厄介ごとを持ち込む暇はないだろう。
さて、どうするべきか⋮⋮。
﹃stage20:俺は悪くねぇ
﹂
﹁君に一つ依頼がある﹂
﹁俺に⋮ですか
﹄
!!
始まらないかと思い直し、狭間へと目を向け直した。
それが今になって仕事とは何だろうか。そうコウジュは疑問に思うも、聞かなければ
かった。
実 際 に そ の 役 職 を 与 え ら れ て か ら 今 日 ま で に 何 か 仕 事 を 申 し 付 け ら れ た こ と は 無
ければならないというものではない。
名目上、コウジュは特地対策特別顧問ではあるが、それは名ばかりのもので何かしな
その言われた少女、コウジュはその依頼について首を捻る。
重たくなっている口を開いた。
アルヌス駐屯地内における執務室、その部屋の主である狭間は目の前に居る少女へと
?
﹁先に伝えておくが、これを受けるか受けないかは君の自由だ﹂
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1725
その言い方にコウジュは嫌な予感を覚える。
古今東西遥か昔から、こういう前置きがある時は厄介事だと相場が決まっている。
﹂
そして断っても良いよと言いつつ断れないのもまたよくある話だ。
﹁なんだか厄介事の臭いですね。俺だけ呼んだのもその関係ですか
﹁ヤオ・ハー⋮⋮名前的に特地の人だとは思うのですが誰ですか
﹂
﹁今回お願いしたいのは、ヤオ・ハー・デュッシという女性からの依頼が大元だ﹂
その言葉に、コウジュは思わずゴクリと生唾を飲み込む。
﹁さて、本題に入ろうか﹂
コウジュが考え終わるのを待っていたのか、コウジュが目線を戻すと狭間が続ける。
直す。
それらの恩に報いるためにも内容次第では受ける方向で行くか、そうコウジュは考え
たりと便宜を図ってくれている。他にも多くのことを狭間はしてくれていた。
が売れそうではある。それでなくても基地内をある程度自由に歩けるようにしてくれ
厄介事というだけで嫌厭したが、狭間の言い方的にはその厄介事を解決することで恩
そんな狭間を見てコウジュは少し考える。
そう言いながら狭間は苦笑した。
﹁そういうことだ。私個人としては受けてくれた方がありがたくはあるがね﹂
?
1726
?
﹁君 も 目 に し た こ と は あ る と 思 う。ダ ー ク エ ル フ の 女 性 だ よ。最 近 は 食 堂 の 方 に 入 り
浸っていると聞くが⋮⋮﹂
あのボンテージの
﹂
名前からは思い浮かばなかったが、そこまで言われてコウジュは思い出した。
﹁ああ
!!
おかしいだろう。
派である。そこへボンテージに似た肌が大いに露出した服装と来れば目立たない方が
褐色の肌にエルフのように長い耳、それでいてプロポーションは抜群で胸部装甲も立
というよりも、あの姿で目立たない方がおかしいというものだろう。
そんな彼女の名を、コウジュは今更ながら知った。
こともある。
している様子のダークエルフの女性。当然コウジュは何度も見かけている。話をした
コウジュがアルバイトをしている食堂だけでなく、PXなどの方にも来ては誰かを探
!
﹂
?
﹁炎龍退治ですよね。それも二体﹂
﹁どうやらそうらしい。そしてその目的が│││﹂
﹁一応。探しているのは俺で、緑の人達ってのは自衛隊ですよね﹂
いのだがその辺りに関しては知っているだろうか
﹁恐らくその女性だろう。彼女はとある人物と緑の人とやらを求めてこの地に来たらし
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1727
﹁うむ﹂
コウジュの言葉に、重々しく頷く狭間。
どうやら厄介事の正体は炎龍退治のようだ。
それに気付いたコウジュは途端に顔を顰めた。
半分はコウジュの所為とはいえ炎龍には一度殺されているし、眼の前でコダの人々を
襲われた身としてはどうにも炎龍に苦手意識が芽生えていた。
炎龍に対して苦手意識だけで済んでいる時点であれだが、ともかく、ファンタジーの
代名詞だ何だと無邪気にその存在を喜べないコウジュであった。
だから考える。
倒すだけで良いのならそれほど苦ではない。
2体という事だが、その分小さくなり脅威度も下がっているとのこと。それならば今
のコウジュであれば何の問題も無い。更に言えば守りながら戦う必要もないと来れば
暴れ放題ではある。
﹂
しかし、コウジュには気になることがあった。
﹁ちなみにその間先輩は
﹁それはありがたいです﹂
﹁待機にしておこう。君のような存在が来ない限りこの基地は安全だ﹂
?
1728
マスター
一番の懸念事項であった先輩の安全。それが簡単に保証されてしまっては断る理由
は無い。
ただ、もう一つコウジュが気になったことがある。
それは狭間が〝受けてくれた方がありがたい〟といった理由だ。
基地の近くどころか未だ自衛隊が至っていない地にて起こっている今回の炎龍騒動、
それがどうして狭間が助かる理由に繋がるのかがコウジュには理解できなかった。
﹂
﹁ではもう一つ。遠回しに聞くのは苦手なのでそのまま聞きますが、どうしてその依頼
が狭間さん経由で
狭間は決心をして重い口を開いた。
かと言って言わなければ話が前へと進まないのも確かだ。
だからこそ、狭間は言い淀む。
うは見えない。
聞けば既に40歳を超えているとのことだが、そういう種族なのか何なのか、到底そ
そのものだ。
狭間がチラリとコウジュの方を見れば彼女は首を傾げる。その姿は純真無垢な少女
単刀直入に聞くコウジュに、狭間はどう答えたものかと逡巡する。
?
﹁簡潔に言えば政治的理由という事になる﹂
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1729
﹁政治的
﹂
?
﹂
?
その辺りの事をコウジュへと狭間は告げた。
その為、各国は次の手段として政治的にコウジュを自国へ導こうとし始めたのだ。
る訳も無かった。
れ去ろうとする強行派も居たが、ビルほどもある怪物をどうにか出来る薬なぞ持ってい
工作員たちの中には騒ぎを起こしてその隙に薬物などを使って人質にし、そのまま連
ただ、その所為で各国の工作員たちも全く動けなかった。
女と美幼女になっていれば誰もが固まるのは当然であろう。
まぁ普通に考えれば突然ゴジラみたいな大きいのが2体も出てきて次の瞬間には美
まりな展開に皆が凍ったように動けなくなった。
その結果銀座は混乱し、すぐさま変身を解いたコウジュだったが今度はあまりにもあ
行う場所まで赴いた。
銀座からコウジュたちが特地へと戻る際、コウジュは炎龍と大狐の姿となって献花を
ヤオロズ
ない。問題はその後の銀座で彼らが後に引けなくなったことなのだよ﹂
﹁その件に関しては向こうが焦ってという部分もあるのだが、そう捉えてもらって構わ
﹁あー⋮、旅館の事とか
﹁そうだ。現在我々は恥ずかしいことに各国の要求を跳ね除けることが出来ていない﹂
1730
コウジュはその狭間からの話を聞くたびにうへぇと言わんばかりに顔を顰めていく。
﹁君自身がどう思っているかは今は置いておこう。そして君にとっては嫌な言い回しに
なるがその上で告げる。君は今各国にこの国における小回りの利く戦力だと捉えられ
ている﹂
不承不承ながらそれに関して理解を示すコウジュ。
﹁それは、まぁ、仕方ないです﹂
実際コウジュ自身もやり過ぎた感は感じていた。
しかしその場のテンションでついやってしまったものは仕方がないと割り切ってい
たのだが、そのツケがどうやら今回ってきた形の様だ。
くことすらできない隠密性、どれをとっても使い方次第で大きな被害が出る。むしろ炎
いでの〝小さな獣〟が成した惨状、空間を移動できる不思議な扉や目の前に居ても気付
狭間からしてみれば、その炎龍だけでなく銀座事件の事や門を越えてすぐにあった戦
コウジュが顰め面のまま言うものだから狭間は苦笑いしてしまう。
﹁そう言ってもらえて助かるよ﹂
俺は他国からすれば目の上のたん瘤ってところでしょうか﹂
けど、炎龍を使役しているというだけで過剰戦力でしょうしね。それを倒せるっていう
﹁実際問題として、空飛ぶ戦車と言われた炎龍にすらなれる⋮⋮のは知られてないです
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1731
龍の方が的がでかい分どうとでもなると狭間は考えていた。
現状は目の前の少女がその全てを内包している訳だが、それがもし各国に渡ったとな
ればどうなるかなど考えたくも無い。
しかし当然ながら各国は彼女を欲している。
特地と違い、コウジュはその全てを内包したまま移動できるのだ。
特地にある資源等も他国は欲しているが、すぐ近くにあるご馳走を無視して手を伸ば
す物ではないとどの国も考えている。
その結果が今回のお願いに繋がる訳だ。
﹂
?
もう国ごと無くなればいいのに、と呟く。
途端に苦虫をつぶしたような表情になるコウジュ。
﹁すまないがマジだ﹂
﹁マジですか⋮⋮﹂
う。だから他国から国賓としてお迎えしたいそうだ﹂
上に領土内にあると各国を突っぱねてきた。しかし君の場合は何処にでも行けてしま
﹁簡単な話だよ。特地は動かせないが、君は動ける。日本はこれまで特地は動かせない
﹁それはまた何でですか
﹁今回の炎龍討伐、その際には君は独断で行くという形にしてほしい﹂
1732
出来そうだからやめてほしい、とそのコウジュの呟きが聞こえた狭間は思ったが、実
際は国どころか星を破壊するモノも持っているので知らぬが仏というものだろう。
が国はそれら全てを突っぱねるほどの力がある訳ではない。更に言えば、銀座でのこと
﹁勿論、我が国にとっても君は国賓だ。その要求に拒否もしている。しかし如何せん我
もあるからどの国も最上級の御持て成しだとか色々とツアープランまで立ててくれて
いる。表面上とはいえそこまで条件を出しているのに突っぱねるのは痛くない腹を探
られかねないのだよ﹂
﹂
?
﹂
?
暫く二人して笑い、そこであることを思い出した狭間はそういえばと切り出した。
思い浮かべたかもしれない。
お主も悪よのういえいえ御代官様こそ、そんな光景をもしもこの場を見た者が居れば
ニヤリと二人して笑う。
﹁ふむ、それは私にはわからないな﹂
﹁ちなみにその炎龍はどこの炎龍ですかね
・・
には炎龍をどうにかしろとでも言うべきかもしれないな﹂
君に対してお願いをしても意味がないという事になる。それでも言ってくるような国
﹁そうなる。君が我々のお願いを聞かず、特地の問題を片づけに行ったとなれば我々は
・・・
﹁なるほど、そこで俺に一芝居打てと
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1733
﹁そういえば君は既にヤオ君の目的を聞いていたようだが、よくすぐに向かわずに居て
くれたものだ。まあ、そうなればそうなったで理由を後付けすることも出来たが││
│﹂
そこで狭間は異常に気付いた。何故か目の前の少女の顔が真っ赤になっているのだ。
よくある例えでリンゴの様にだとか言うが、まさにそれだ。
先程まで見た目にそぐわぬ表情をしていたのに今や羞恥に顔を染める幼子の様だ。
いかつい壮年の男性と羞恥で顔を赤く染める幼女が居る空間がいつの間にか犯罪臭
のする空間に成り代わっていた。
﹂
例え何年も人の荒波の中を泳いできた狭間であってもこの現状は想定外で言葉が続
いて出なかった。
﹁││どうしたのかね
しかしその均衡を破ったのは、その状況を作り出した張本人であるコウジュであっ
るまい。
染めていることに犯罪臭を嗅ぎ取るか、どちらにしろ不名誉なものであるのは変わりあ
︵それでも表面上は微々たるものだが︶狭間に驚くか、狭間の前で恥かし気に少女が頬を
もしもこの瞬間を部下の誰かが見たのならば、いつになく慌てた様子が見て取れる
暫くの間を置き、何とかそう口にした狭間。
?
1734
た。
﹁いや、ごめんなさい。ちょっと思い出してしまったことがあってですね⋮⋮﹂
そう言いながらもコウジュの頬は少しマシにはなったが未だに真っ赤だ。
それに気づいたのか、コウジュは顔を隠すように被っていた帽子をずり下げる。
そして帽子で隠しきれていない口を開き続けた。
﹁前に彼女が食堂に来た時に依頼の内容を聞いたんですよ。その時には気になることも
あったしすぐに名乗り出なかったんですけど、正体を隠して事情だけでも聞こうとその
後に聞きに行こうとしたんです。だけど、その時にですね、えっと⋮⋮﹂
もごもごと、言い淀むコウジュ。
しかし少しの間を置いて決心がついたのか口にした。
しかしそのコウジュとは違い、狭間は頭を抱えたい気持ちでいっぱいであった。
隙間から見える口元や首を見るだけでも真っ赤なのが分かる。
言いながらどんどんと再び赤みが増していくコウジュ。
⋮⋮﹂
ちょっとした興味本意で見に行くとですね、えっと、男の人がズボンを脱いで、ですね
け て で す ね、二 人 し て 路 地 裏 の 方 へ と 入 っ て い っ た ん で す よ。何 を す る ん だ ろ う と、
﹁彼女を見かけたので声を掛けようと近づいたんですが、それより前に男の人が声を掛
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1735
彼は事の真相を知っている。
だから頭を抱えたくなったのだ。
﹁いや別に最後まで俺は見て無いですよ
男の人がズボンを脱いでいるのを見た瞬間
故に狭間は彼女が運が無い、と嘆息した。
だが、そうならなかった。
いたかもしれない。
もしそれのうちどれかが成功していたのなら今頃炎龍2匹の首はそこらに転がって
けに行っていたようだ。だがその尽くがタイミング悪く失敗に終わっている。
どうやら狭間が思っていた通り、コウジュはその御人好しさを発揮してヤオに声を掛
そして狭間は思う、あのダークエルフの女性はなんて運が無いのだろう、と。
はぁ、と狭間は深い溜息をついた。
﹁はい⋮⋮﹂
﹁ああすまないもう分かったよ。もう十分だ﹂
と路地裏の方に入って行って⋮⋮﹂
という訳でも無かったし。見かけた時は声を掛けようとしたんですが、その度に男の人
ですね。見るたびにダークエルフさんは嫌がってる様子もないし、怯えて声を出せない
いままでにない位に力を駆使して逃げましたから。ただ、そんな感じのが何回か続いて
?
1736
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1737
というのも、もしもコウジュが見かけたものが本当に情事に耽ろうとしていた所なら
自業自得だと切り捨てるのだが、実際はそうではないのだ。
ヤオというダークエルフの女性は助けを求めにこの地へと来た。しかし噂を頼りに
アルヌスへと訪れた彼女には誰がその噂の人物かが分からない。そんな彼女を陥れよ
うと声を掛けた者達が居た。それがコウジュの話に出てきた男達だ。
ヤオは見た目で言えば一級品で男好きのする身体と言えよう。ちょっかいを掛けよ
うとする者は多く居た。
そして実際に声を掛けた輩も居り、その瞬間をコウジュは見てしまったのだ。
何故これらが露見したかというと、ヤオはその輩を皆返り討ちにし、その内の一人が
腹を立てて警備に財布を強奪されたと密告したのだ。
実際にヤオは返り討ちにした男が命欲しさに財布を置いていったため証拠を持って
いることになる。
その為、彼女は一度アルヌスの警備に捕まっているのだ。
最終的には通訳として訪れたレレイや嘘の密告をしたものを捕まえたロゥリィたち
の御陰で疑いは晴れたが、その裏で自分が追い求めた人との邂逅が無くなっていたと知
ればどんな顔をするだろうか。正直に言って考えたくはない狭間であった。
ヤオ自身に言わせてみれば、礼を失しなければ肌を重ねるのも吝かではないのだが、
そんな場合では無いのと、紳士然としたものが居なかった為に全員が返り討ちとなった
のであった。
狭間は一先ず、情事を見てしまったと恥ずかしがっている様子の幼女へと誤解を解く
ために説明をした。そうすれば現状も変わるだろうと狭間は思ったのだ。
しかし、その説明を聞く途中で帽子を上げて狭間の方へと目向けたが、暫くして幼女
は再び違う意味で顔を赤くし始めた。
今度は自分が勘違いしていたことに顔を赤くしていた。
それはもう真っ赤で、更に言えば涙目にもなっていた。
先程より酷くなっただけである。
ただ、彼女が勘違いしたのも仕方ないのだ。
生前も今も無使用のままである彼女は情事に関しての知識に乏しい。
現代では様々な情報媒体からそれらの知識も得られるが、知っているのと識っている
のでは意味が違う。
だから、男がダークエルフの女性を前にズボンを脱ぐ瞬間を見て脱兎のごとくにげて
しまうのも仕方ないのだ。次の瞬間ダークエルフの女性が男を剣で返り討ちにしてお
り、その瞬間を見ることが叶わなかったのも仕方ないのだ。
﹁は、はは、何だそういう事だったんですか⋮⋮﹂
1738
﹁う、うむ﹂
でももうすぐライダーやります。
のコウジュですよ。
やぁやぁ、最近テイマーだとかサモナーだとか噂されているけど本当はバーサーカー
◆◆◆
﹁お外走ってくるううううううううううううううううううううううううう﹂
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1739
1740
本日は晴天、絶好の飛行日和である。
狭間さんとの話があった日から数日、俺はアルヌスにおける飛行場へと来ていた。
そしてすぐ傍にはF│4EJとかいう戦闘機が2機、待機している。
というのも、今から炎龍討伐に向かうからだ。
狭間さんと話した作戦を今から決行するのである。
それにしてもこの前は何ともひどい目に遭った。
まぁ俺の勘違いがわるいのだが、男女が路地裏に入っていって男がボロンとナニを出
してたら勘違いするだろ普通。する⋮⋮よな
そんな俺達を戦闘機二機で追いかける。俺達を連れ戻すためという名目だ。
そして基地を飛び立ち、現地まで一直線。
まず、恋ドラ人形を炎龍化させて俺が乗る。ヤオさんも乗せる。
今から作戦を開始する訳だが、内容はこうだ。
さておき、だ。
た所為で暫く狭間さんに変な噂が立っちまったことには申し訳ないと思っている。
思わず狭間さんの元を飛び出してしまったが、顔を真っ赤にしたまま幼女が飛び出し
でもまぁそれが勘違いだったわけで、俺は要らぬ恥をかいた。
?
だがそのまま俺が炎龍2匹を相手取り、派手に闘う。
その様子を、戦闘機から偶々中に置いてあったカメラで撮影して、資料として提出。
数日すれば各国にそれが何故か流れて、日本のいう事を聞いている訳ではない。自衛
隊が越えられない国境すらも人助けの為にひとっ飛びで行ってしまう。
│││といった感じだ。
その際に気を付けなければならないのが、俺自身の力はあまり派手に使わないこと。
炎龍に関しては特地内で既に情報が出ており、それに関しては炎龍戦の事やその後の
聞き込みで得た物が世界に渡っている。
だから炎龍の力を使って幾ら派手に闘おうが痛くも痒くもない。
なのでこれ以上各国に要らぬ情報は与えないようにしながらも迫力のある映像を取
る必要がある。
そうすれば直接的、間接的に俺を引き抜こうとするのが減るだろうとのことだ。
戦闘機に関しても、炎龍を倒すほどの戦力を越境させる訳にはいかないだけで、人の
﹂
目の届かない空をたった2機が飛んでいても問題にはならないとのことだ。
そんなわけで、俺は今から空の旅へと洒落込むわけだ。
ほぼ同い年ですからね
!
﹁準備は出来たぜ嬢ちゃん﹂
﹁だから、嬢ちゃん禁止ですって
!
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1741
手袋痛いし
﹂
﹁そんなこと言われてもなぁ⋮⋮。こんなタッパじゃ説得力ないぜ
﹁ってこら、撫でないで下さいって
﹁ははは、悪い悪い﹂
!?
﹂
?
だが、普通にしていればただの熱い人だ。
因みに絶賛彼女募集中らしい。
此の身はどうすればっ
そんな二人が今回俺に着いてきてくれる。
﹁こ、コウジュ殿
﹁これでも着ている方なのですが⋮⋮﹂
﹁お、おう﹂
﹂
﹂
何でも、操縦経験1000時間を超える超ベテランだったりと色々凄い人達らしいの
他にも久里浜二等空佐とかも居て、航空自衛隊からの出向組らしい。
犯人の名は神子田2等空佐。
手串で整えながら犯人を見れば、後ろ手に手を振りながら搭乗するところだった。
飛 ん で い か な い 様 に 帽 子 を 脱 い で い る せ い で 髪 を ぐ し ゃ ぐ し ゃ に さ れ て し ま っ た。
!
﹁えっと、うん、寒いと思うからもう少し着れば
!
続いて声を掛けてきたのは件のヤオ・ハー・デュッシさんだ。
?
!?
1742
本人よりヤオで構わないと言われており、ついでに言えば敬語じゃなくても良いと言
われているのだが、何とも慣れない。
本人曰く助けてくれる御身にその様な話し方をさせる訳には云々かんぬんと言われ
たが覚えてない。
俺は前もって龍化させておいた恋ドラ人形へと乗り込む。
﹁さて、そいじゃあ行きますかね﹂
事前に急ごしらえの鞍なども用意してあり、乗り込めばもうドラゴンライダーだ。騎
士じゃないので竜騎士にはなれないのが残念だ。
続いてヤオさんが恐る恐る俺の後ろの鞍へと座る。
まぁ炎龍を討伐しに行くために炎龍に乗るのだから気が気じゃないのは仕方ないか。
で尚満足。
ではでは、空の旅へと向かいましょうか
!!
決めていた訳でも無いのについノリでマクロスパロをやったんだが、乗ってくれたの
うむ、無線も良好と。
﹃スカル3了解﹄
﹃スカル2了解﹄
﹁スカル1から各機へ、今から炎龍討伐に向かいます﹂
『stage20:俺は悪くねぇ!!』
1743
1744
落ちないからそんなとこ掴んじゃダメだって
!?
ぬお、ヤオさん 落ちないから
!?
ひょえああああああああああああああああああ
!!!?
!?
﹃stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙
一重﹄
いって話だったが、まさかその小ささと2匹であることを利用してあんな攻撃してくる
きる存在だったってとこだ。なんだよあれ。嬢ちゃんが倒したやつより二回りは小さ
﹁ほんとあんなもん運が良かっただけだ。むしろ驚いたのはあいつらがあんなことがで
!
!
﹁はっはっは
まさか板野サーカスを自分ですることになるとは思わなかったよ﹂
戦闘機ってあんな飛び方が出来るんですね。ってか嬢ちゃん禁止﹂
俺はあいつらを倒すことが出来ました。もう一度見てみたいものですよあの変態機動
﹁よしてくださいよー。むしろ二人があのタイミングで2匹の前へ出てくれたからこそ
は落とされていた﹂
﹁まさしく紙一重ってやつだったな。嬢ちゃんがあそこで気を引いてくれなければ俺達
﹁だな。すげぇ戦闘だったよ。小さいとはいえさすがは炎龍ってところか﹂
﹁いやぁ、今回の戦いは激戦だった⋮⋮﹂
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1745
とは思わなかったぜ﹂
の手の一つをつい使ってしまいました﹂
?
たところだった。
え、あんたたち何をして来たの
の間にか出撃していつの間にか帰ってきた後輩に言おうとしていたことが全てどこか
女という組み合わせなのに戦友と言わんばかりに楽しげに話して居るものだから、いつ
あまりにも達成感に満ちた晴れ晴れとした笑顔を浮かべ、見た目はおっさん二人と幼
?
に訳を聞かされ、一言モノ申すために後輩を出迎えればそんな会話をしながら帰ってき
よく分からないまま狭間陸将に待機を命じられていた俺は、後輩が帰ってきたと同時
﹁あはー、そいつは企業秘密ってことで。あと嬢ちゃん禁止﹂
たが、あれはひでぇってもんじゃ済まないぜ﹂
﹁そうだ、あれ何なんだよ。巻き添え喰らわない様に警告されたから避けることが出来
は思わなかったよ﹂
﹁そういえば嬢ちゃんのアレって何なんだ
まさか嬢ちゃんにあんなことが出来ると
かに要因の一つですが、流石にあれは驚かざるを得ません。隠しておくつもりだった奥
﹁ですねぇ。あれには俺も冷や汗を掻きました。炎龍だという事前知識があったのは確
1746
へ行ってしまった。
狭間陸将曰く﹁心配性な先輩には伏せておいてほしい﹂と言われたそうだが、先ほど
やっと教えてくれたその留守の理由というのが炎龍退治のためだったそうなのだ。
件の炎龍よりは小さいとはいえ炎龍だ。心配するなという方が無理な話だ。いや、後
﹂
輩が炎龍を倒すために周辺に被害を与えていないかが心配なだけだが。
!
よな。
!
まぁ、いいか。
一言だけでも言ってやるつもりだったのに、楽しげな様子につい絆されてしまった。
しまった。普通に返してしまった。
﹁おう、おかえり﹂
﹁ただいま
﹂
たまに思うが、テンションが上がるとお前って年齢相応︵見た目の︶に成る時がある
後輩はと言えば俺に近寄った後は二人にバイバイと手を振っていた。
いくのを見送った後後輩に眼を向ける。
俺はその姿を見た後、その後方にいる二人に敬礼をし、その二人が良い笑顔で去って
俺に気付いた後輩がスタタっと駆け寄ってくる。
﹁あ、先輩
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1747
無事には帰ってきたわけだし、水を差すのも野暮って物だ。
﹂
﹁勝ったんだな﹂
﹁超余裕です
﹁でも苦戦がどうとか聞こえたんだが
﹂
はいはい、とりあえずドヤ顔ダブルピースやめーや。
!
まぁそれはさておき、先に聞くべきことがある。俺はその為に来たのだ。 ほんと嘘が付けない後輩だ。
何故ばれないと思ったし。
﹁何故ばれたし﹂
﹁ダウト﹂
う。
らしいが、目を反らしながら言っているので恐らく誤魔化したい何かがあるのだろ
らしい。
何かの拍子にやらかしそうだとは思っていたが、どうやら自分なりに気をつけていた
とかダークエルフさん達の住居諸共吹き飛ばすわけには行かないし﹂
ちらに食いついてくる物だからちょっと苦労しただけって話です。ほら、さっきの二人
﹁いやいやアレはですね、戦力的に苦戦したのではなく、思った以上に炎龍達が必死にこ
?
1748
﹁それで、俺に黙って行った理由を聞こうか
﹁うぐ⋮⋮﹂
まぁ予想は出来ている。
﹂
苦言を呈するのは止めたのだから、これくらいは聞かせてほしい。
少し罪悪感が湧くが、これだけは聞いておきたいのだ。
俺の言葉に、途端にばつの悪そうな表情になる後輩。
?
﹁いや、言うと先輩は着いてくるでしょう 今回は迅速さが必要だったし、先輩を危険
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
はぁ、予想通りに人の事ばかり考えやがって。
分かっていたから言わなかったんだよな。
確かに俺は高所恐怖症だが後輩一人に押し付けるつもりは⋮⋮って、俺がこう思うと
﹁う、それを言われると辛いが⋮⋮﹂
も先輩って高所恐怖症じゃないですか﹂
だったんすよ。まぁ予想通りに行かず多少危ない目に遭っちゃいましたけど。そもそ
元々は離れた場所から見ていてもらうつもりだったから本来の予定では危険は無い筈
だ と 分 か っ て い る 場 所 に 連 れ て 行 く の は 憚 れ て ⋮⋮。一 緒 に 来 て も ら っ た お 二 人 は
?
俺はポフリと後輩の頭に帽子越しに手を乗せ、少しだけ撫でる。
﹁ま、お疲れさん﹂
1749
﹁う、うっす⋮⋮﹂
﹂
手が乗ると同時に少しだけ手をワタワタとさせるも、すぐに撫でられるままになる後
輩。
暫く互いに無言のままそんな時間が続く。
﹂
﹁伊丹隊長、やっぱりロリコンだったんですか
﹁違うからな
いつの間にか近くに居た黒川に冷たい目と共に言わてしまったが断じて違う
失敗した。そういえばここはまだ航空機系の離着陸場近くだった。
◆◆◆
はぁ⋮⋮。
るし、又余計な噂が立ちそうだ。
というか後輩もいつの間にか消えてるし、周りの他の連中もなんだか暖かい眼で見て
!
!?
?
1750
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1751
先輩に撫でられると何というか和むので好きなのだが、流石に他の人に見られると恥
ずかしいものがある。
言っておくがこれでも俺は40歳を過ぎているのだ。
大人として流石に恥ずかしい。
それはさておき、今回の戦いは中々に大変だった。
どうやら俺が倒しに行った炎龍というのは、最初は番いかと思ったのだが双子だった
バー
サ
ク
ようで、しかも例の炎龍から生まれた古龍の系譜である幼龍だったようなのだ。
つまり、ただの炎龍ではなく知能が高いのだ。
最初の時点では何やら空腹状態が限界に近かったのか完全に暴走状態していたが、何
度か俺が騎乗していた炎龍の一部を食われてからは幾らか腹が満たされたせいで冷静
さが戻り、そこからは中々に激戦となってしまった。
あ、もちろんその時点ではヤオさんを下ろした後だ。
だが、これからは俺が炎龍を御している状態だということを対外的に示せるように騎
乗状態での戦闘が出来るようにと炎龍に乗った状態で戦っていたのが仇になった。
幼龍2匹は果敢に、炎龍に乗る俺と、少し離れた場所を飛んでいた神子田さんと久里
浜さんを狙い始めたのだ。
1752
俺が乗っていた同族である炎龍が、何やら人間に良い様に使われているとでも思った
のだろうか。
その所為か幼龍二匹は俺達の攻撃にも怯むことなく攻めてきた。
御陰で騎乗戦闘なんて余裕がなくなり、俺自身が炎龍になった状態で戦う羽目になっ
た。
何故か余計に幼龍二匹の攻めが苛烈になったが、まぁ神子田さん達の御陰でどうにか
なった。
ほんと、あの二人の飛行技術は本当にすごいと思う。
俺が一匹を相手している間にもう一匹が向かったのだが、二機で交互に翻弄して完全
に手玉に取っていた。
聞けばギリギリだったとの話だが、その割には終わってから良い笑顔をしていた。
まぁでもその御陰で範囲攻撃の準備が整って、最終的には二匹が二機に向かった瞬間
を纏めて落とせた。
とはいえ準備とは言ってもそれ自体は大層なものじゃない。
問題は被害が出る範囲とか自分自身の心配をしなければならない所だ。
何せよくよく考えれば即座に出せる範囲攻撃というのを俺は持っていない。
ス タ ー ラ イ ト ブ レ イ カ ー 擬 き は ア ス ト ラ ル ラ イ ザ ー が 無 い と で き な い し、リ イ ン
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1753
テ
ク
ニッ
ク
フ ォ ー ス み た い に 地 面 ご と 吹 き 飛 ば そ う も の な ら 周 囲 一 帯 が 塵 と 化 す。
PSPo2魔法には杖が要るし、Fate世界で覚えた魔術と言えば士郎のやつだがU
BWとか詠唱してる間に二機が落とされてしまうかもしれない。
だから即興で考えたのだが、自分ながら酷い発想だ。
覚えてしまったガソリンがあるじゃろう それを二匹に掛けつつ撒き散らして気
化していくところにブレス。
してきやがった。
しかもあいつら途中で水蒸気爆発を理解したのかブレス同士をぶつけたりなんかも
だから単純に紅が炎、蒼が水という訳ではなく、それぞれが両方を使えるのだ。
使っているようだった。
・・・
やはり古龍の系譜だからか器官としてブレスを吐くのではなく魔法としてブレスを
レスも吐いてきたのだ。
そしてどうやら母は炎龍だが父は水龍か何かだったようで、炎のブレスもだが水のブ
今更だが、幼龍二匹は双子なわけだがそれぞれ紅と蒼の体躯だった。
正確には幼龍二匹が使った技を見て思いついた、だろうか。
いや、思いついたのがそれだったんだよ。
火に耐性があるらしい炎龍でもちょっと熱かった⋮⋮。
?
1754
闘えば闘うほどに攻撃が鋭くなっていき多様性も増すとかどんなチートですか。
御陰で俺はともかく、二機がいつ落とされるかと冷や冷やものだった。
うんまぁ二人も二人でドンドン変態機動に磨きがかかっていたけどさ。
さておき、そんな二匹を見て思いついたのがガソリン爆破だったのだ。
元々の防御力に炎龍の鱗があっても熱かったからなぁ、至近で一緒に喰らった2匹な
んかズタボロでしたよ。
ま、それでも生きていたのがさすがは龍種ってことなんだろうか。
そう、生き残ったんすよねぇあの二匹。
今はまぁ一条祭りの中だけど。
いや、なんか思惑があったわけじゃないんだけど、サイズもそこまで大きくなかった
し、気絶状態だったからつい捕獲しちゃって⋮⋮。
ああ勿論、今までに捕まえた人達とは別の区画にぶっこんである。
何せいつの間にか変わっていた一条祭りの内装、あれはリゾート型コロニー﹁クラッ
ド6﹂における中央ロビーだからだ。
リゾート型コロニー﹁クラッド6﹂はPSPo2において所属する民間軍事会社﹁リ
トルウィング﹂が拠点とする巨大コロニーで、その一部にマイルームもあるという設定
だった。
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1755
そしてそのマイルームは勿論、居住区画にある一室という設定なわけだから他にも部
屋はたくさんある。
一条祭りの中が何故かクラッド6の内装へと変化していると知ってからは幾度か中
ひょっとしてマイルームと一条祭り
へと入ったからその辺りは事前に知っていたのだ。
だってマイルームってコロニーの一部だよ
一応隔壁とかの強度的には破れない筈だし、マイルームと同じように攻撃そのものが
うしかないか。猛獣を危険だと知りながら飼う趣味は無いし。
ま、今はまだ気絶してるけど起きて暴れたり危ないようだったら今度こそ死んでもら
だけどなんか放って置けなかったんだよなぁ。
る炎龍を殺したのは俺なのだからその危険性は嫌というほど味わった。
よくよく考えればダークエルフさん達を食っちまおうとした奴らなわけだし、親であ
うーん、今思うと何故助けたのか。
ちょっとだけ食料を置いてきた。
一応怪我したままだと何だか可哀そうだったので死なない程度に回復してあげた後
たのだ。
だからその際に見たことがある巨大な格納庫みたいな場所に二匹をぶち込んでおい
の中が繋がっているかもと思うじゃないか。まぁ繋がっていた訳だが。
?
1756
行えないようになっている。
だから中に住んでいる人達は大丈夫なはずだ。
そ ん な 感 じ の 人 を 見 つ け た。あ、勿 論 女 性 で あ る。ゴ ス ロ リ を 着 た マ ッ
そういえば、炎龍二匹を倒した後、住処らしき洞窟で白いゴスロリ服を着た竜人でい
いのかな
何故あんな場所に居たのだろうか⋮⋮、餌にされる寸前だったとか
なかったそうで、救出に訪れた俺を大層ありがたがってくれた。
でもそろそろダークエルフさん達も蓄えや体力、精神的に追い詰められてそろそろ危
で、炎龍に襲われたにしては少ない被害で済んだそうだ。
のと、生まれてそんなに経っていないのか狩りというものを上手くできずに居たよう
ちなみにダークエルフさん達は何人か食われた後だったが、二匹が空腹状態であった
ほんと、ファンタジーな世界ってのは怖いわ。
い上空に誘き出して戦ったから、その後に喰う予定だったのかもしれない。
あの二匹はダークエルフの隠れ家に着いてすぐに襲撃してきたところをそのまま広
だろう。
それなら間に合ってよかった。きっと空腹で倒れた所を頂かれそうになっていたの
?
ちなみに、見つけたというのは何やら空腹のあまり気絶していたからだ。
チョとかいうオチは無い。
?
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1757
とりあえずお腹を空かしているようだったので食料を分けたのだが、そこへ2匹が
やってきた。
そこから戦闘が始まったわけだが、展開が早すぎて結構疲れた。
まぁでも、お礼になんかでっかいダイアモンドみたいなの貰ったし、竜人さんを助け
られたし万々歳かな。
マスター
それに何かあれば種族一同で助けてくれるって言ってくれたから、俺は多分助けを求
めることは無いので主である先輩に何かあれば助けてほしいとだけ伝えた。
そしてその後は蜻蛉帰りだ。
神子田さん達の燃料がギリだったのと、先輩をあまり待機状態にさせ続けるのもでき
F│4EJ
ないので急いで帰った。
途中悪ふざけで戦闘機の上に仁王立ちしたりした。
神子田さんの方に乗ってたんだが、神子田さんもノリノリで曲芸飛行をしてくれたも
んだから中々に楽しかった。
一応泥を巻き付けて身体も固定していたんだが、気分は第4次バーサーカーだよ。い
﹂って叫んだ俺は悪くない。曲芸したのは中の人だけど
やまぁ操縦は神子田さんだけどさ。
思わず﹁小林ぃぃぃぃぃっ
さ︵大事なことなのでry
!!
1758
そう、この世界って第4次聖杯戦争を語ったFate/zeroってやつが存在する
んだよね。
いやぁ、初めて見た時はびっくりしたね。そんでもって泣いた。何あの救われない物
語。
ハッピーエンドが好きな俺としてはほんと見てられなかった。いや見たけどさ。
物語としては確かに楽しめるけど、登場する何人かを知っている身としては、どうに
もねぇ⋮⋮。
まぁこの世界のFate/zeroが前の世界の10年前とな寺かって言われると
違う可能性もある訳だけど、俺が知る断片とは一致していたからモヤモヤっとしたもの
が晴れない。
今ではネタとして扱う程度は出来るようになってきたが、読み直したらまた憂鬱にな
る自信がある。
っと止め止め、このまま考えてたら本当にテンションが下がる一方だ。
気を取り直し、俺は与えられている一室へと向かう。
何故か未だに食堂で働いているけ
一応相部屋ではなく、それなりに豪華な佐官級クラス用の個人部屋だ。
俺ってば腐っても名目上は特別顧問だからね
ど。
!
いや、俺も嫌ではないんですけどね。
何せ特別顧問って何か起こった時に相談に乗るのが仕事だからそれ以外は待機だし、
それだけで給料を、しかも結構な額を貰うのは気が引けるのだ。
だから未だに食堂の手伝いをしている。
売
店
手伝いというのは、俺は既に主戦力からは外れているからだ。
PX一本にしないのは常連さん達が辞めるのは止めてくれって泣いて頼むから。
個人的には絶対辞めたいわけでは無かったから別に良いんだけどさ。
まぁそんな訳で、今では食堂の給仕長はデリラさんというウサミミさんだったりす
る。正確にはウォーリアバニーとかいう種族だ。
色々聞いてきて、分からないこととか、日本の事にも興味がある様で色々教えている
内に仲良くなった。一緒にお酒も飲んだりする。
帰ったらまた色々教えて上げなければ。
次は何だっけか、日本の地理とか教える約束だったかな。
一応佐官用の部屋ではあるが、 こ こはあくまでも橋頭保でしかない。
アルヌス駐屯地
中には持ち込んだ本類が本棚と共に立ち並んでおり、他には炬燵とベッド位。
気づけば部屋まで辿り着いていた俺は、鍵を開けて中へと入る。
﹁っと、通り過ぎる所だった⋮⋮﹂
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1759
今でこそそこそこに時間も資材もあるが、建物はほぼほぼプレハブだ。
そんな中に個人部屋というだけでも結構な贅沢というもの。
中でもこの部屋は狭い方らしい。
ちなみにこれは自分から申し出たことだったりする。
何せ俺にはマイルームもあるし、常に駐屯地内に居る訳でも無い。
勿体ないのもあるが、自衛隊内では部外者に近いので気が咎めたのだ。
まぁそんな駐屯地内の俺の部屋、そこへと帰ってきた俺は炬燵を畳んでアイテムボッ
クスに放り込み場所を開けた。
そしてそこへと段ボール箱を置く。
言わずと知れた﹃一条祭り﹄だ。
諍いを起こしたメンバーは何処からともなく現れた触手にどこかへと運ばれるのだ
まに諍いを起こそうとする面々も居るから割と便利なのだ。
流石に他の人がそれぞれ個室にして割り振っているらしい部屋まで覗かないけど、た
結果はビンゴ。俺のマイルームまで覗けたのだからびっくりだ。
そこから俺は、ロビーだけじゃなく他の場所も覗けないか試したことがあった。
以前に、一条祭りの中を覗くと中にミニチュアサイズのロビーが見えた。
﹁さてさて、様子はどうかな﹂
1760
が、俺は怖くてその先を見ていない。
さておき、その一条祭りからマイルームを見れるというのを利用しようと思ったわけ
だ。
今はあの竜人さんが寝ている筈だ。
マイルームから出るには俺の許可が無いとできないし、多分移動しようにも文明レベ
ル的に何が何やらでどこかへ行くことは出来ていないと思う。
女性が寝ている所を直接覗くというのはどうかとも思うが、いきなり部屋へと入るよ
りは良いと思うのだ。
自分の部屋ではあるが、もしも着替え中とかだったら申し訳ないし。着替えを持って
いるようには見えなかったから本当に着替えているとは思えないが。
だからまぁ軽く様子を窺う分には仕方ないだろう。
﹂
﹁ありゃ、まだ寝ているのか。あ、食事は取ってくれているし、食べて眠くなったのかな
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1761
かなりお腹が空いていたようなので、アイテムボックスからストックしてあった常温
しい。骨すら無い。
竜人さんってことでお肉多めに置いておいたのだが、どうやら綺麗に食べてくれたら
どうやら一度起きた後の様だ。
?
でも大丈夫な肉料理をいくつか一条祭りの中へと落とす。
すると不思議なことに竜人さんが寝ているベッド横にある机上へと今落としたもの
が現れる。
いつ見ても不思議な光景だ。所有者は俺なのに、未だにこの理屈がわからん。
まぁでも便利だし良いか。
テレビとかだって構造を理解して使ってるわけじゃないし。
次に見るのは幼龍2匹だ。
﹁そいじゃぁ次だ﹂
あの爆発攻撃の衝撃で気絶状態だった2匹だが、もう起きて暴れているかもしれな
い。
あの巨体だし、食料的にも色々問題が出そうだし、飼い殺しにするのも趣味が悪いか
それとも狭間さんかな
?
ら対応を考えないと。
一応先輩に相談した方が良いのだろうか
まぁ見てから決めるとしよう。
?
﹂
俺は一度蓋を閉めて、今度は2匹が居るであろう格納庫を想像しながら再び開ける。
居ない
!?
だが│││、
﹁え、何で
!?
1762
『stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさに紙一重』
1763
嘘だ。いくらなんでもこの場所から逃げるなんてできない筈だ。
それに倒した炎龍よりは小さいとはいえ、それでもそこそこの大きさがある身体では
隠れることもできない筈。
では一体どこに
見間違いでは無かった。
念のため、眼の間を揉み、もう一度見る。
そして端から見ていき、とある場所へと目を向けた時、思わず自身の目を疑った。
緊急事態こそ焦ってはならない筈だ。
まずは現状の再確認から。
余計な想像は俺には致命傷となる。
そこまで考えて俺は首を振る。
そしてもし、もしここに居ないとなれば他の居住区画に│││、
うとかもできるかもしれない。
それに、あの2匹はそれなりに知性もあるようだったから、隠れて人が来た瞬間に襲
に見るのは初めてだし。
ひょっとするとどこかに死角があるかもしれない。中を歩いたことはあるが、俯瞰的
俺は念のため格納庫内を端から見て行く。
?
えっと│││、
﹁│││何で幼龍の代わりに全裸の幼女が二人転がってるの
﹂
?
1764
﹃stage22:幼女の正体﹄
当初は家財道具すら無く自衛隊からの配給などによりその日を暮らしていたが、飛龍
である。
彼らはその名の通りにアルヌスにおける生活を相互に助け合うことを目的にした組合
アルヌス共同生活組合、コダ村難民を始めとしていつの間にやら肥大したグループ。
残った書類もこれが最後だというのに、面倒な⋮⋮。 なんとかロリコン疑惑を回避できたのに、次から次へと頭の痛い問題が出てくる。
うべきか。
と分かり、後輩と話も出来たからこっちへ戻ってきたのだが、一難去ってまた一難とい
待機の理由自体は後輩が遠出する間の俺を安全地に居させるという契約の為だった
る。
あの要領を得ない待機中にこれ幸いと片づけるつもりだった書類を前にして首を捻
﹁どうするかなぁ、これ⋮⋮﹂
『stage22:幼女の正体』
1765
1766
の鱗などを譲り受けそれを売ることで資本金とし、今では自衛隊と商取引した商品を売
買している。自衛隊もまたそれによって得た特地の貨幣を元手に様々な方面へと手を
伸ばすことが出来ている。
異世界同士、互いの世界に無い物を得ることが出来る中々に理に適った取引だと言え
るだろう。
だが、それが最近では問題となりつつある。
特地には無い斬新な商品、高い技術によって作られた品物が注目を浴びて話題となっ
ているのだ。
ダース100円で売っているような鉛筆一つとってもこの世界では考えられないほ
ど高い技術で作られた品物となってしまう。ナイロンでできた雨合羽など魔法の布扱
いだ。言っておくけどそれも100円︵税抜き︶だよ。
故に、それらの品に考えられない値段が付く。
自衛隊側から組合には人件費の利益や運送なども込みで多少高くはなっているが、お
土産価格程度の相場で売っている。
組合もまた買いに来た他都市の商人達に自分の利益は勿論出るようにしてはいるが
それほど寝蒼上げて売っている訳では無かった。
しかし、需要に対して供給が追いついておらず、物によっては金に糸目をつけない貴
『stage22:幼女の正体』
1767
族が欲しがるために転売業者まで出る始末だ。安いサテンでも、貴族の御令嬢からすれ
ば自慢の種にするには充分な技術が含まれているそうだ。
だから現状では一部だけに利益が出るのを防ぐために卸し量の調整や金額も多少高
値にするなどして調整している。
結果どうなるかというと、組合に入る金額が大きくなる。
自衛隊としても、特地で売れるものなどを常に調査して仕入れの数を増やしたりと対
応しているためその内に値崩れしてくるだろうとは思うが、現状ではそれも見込めな
い。
それに対して商人は留まるところを見せず、次から次へと商機を見出してアルヌスへ
と集まる一方である。
そしてさらに、それによって新たに生まれてきた問題がある。卸している店の規模が
集まる商人の数に対して足りていないのだ。
アルヌス内に作られたPXはちょっとした商店並みのサイズがある。
だが、今の状況であればスーパー並みのサイズであっても良いかもしれない。
何せ一部には路上販売までしている始末だ。
まぁ、実際にスーパー並みのサイズであったとしても次は店員が足りないんだけど
な。だからこそ後輩が出張っているわけだし。
﹁ここはやっぱり、例の帝都支店を視野に入れて行くしかないか⋮⋮﹂
ピニャ皇女の御陰で講和への布石は徐々に打つことが出来ている。
未だ帝国の中枢までは手が届いていないが、それももうすぐだ。
後輩の御陰もあって数多く居る銀座事件での捕虜、それを出汁に元老院議員へと講和
を持ちかけており、外務省の菅原さんがピニャ皇女と同道して下地を作ってくれてい
る。
この待機明けには講和派を集いパーティを開くことになっており、それが講和会議へ
の第一歩となる。
それと同時に帝都内へ組合の支店を置き、文化侵略とまでは行かないがこちらとの取
引で得ることが出来る物の覚えをしておく名目でそこから品物を流す。
そうするだけでもアルヌスのPXまで来る商人の数は大分減るだろう。
ふぅ、と一息つき肩を回す。
あくまでも帝国と日本は未だ敵国同士でしかないのだ。
ないのもまた事実。
ぶっちゃけて言えば後回しにしただけの内容だが、しかしそれ以外ではどうしようも
帝都支店を視野に入れた組合の発展計画。それを書類に書き込み印を押す。
﹁うし、これで良いだろう﹂
1768
慣れない書類仕事にどうにも肩が凝って仕方がない。
そういえば後輩はマッサージが上手だったな。梨紗も良くしてもらっていたと記憶
している。
後輩曰く、マッサージが上手な人は何処をマッサージされると気持ち良いか体感して
知っている人らしいが、後輩もマッサージしてもらったことがあるのだろうか。見た目
でいえば幼女なので肩が凝るようには思えないが⋮⋮。
・・
しかしそこでふと後輩の一部について思い出す。
アレがでかいと肩が凝りやすいって話は迷信じゃなかったのかもしれない。
似合わないデスクで悪戦苦闘していたりする。
各自使用した物品・弾薬についての書類など、脳まで筋肉で出来ているような奴らは
る。
周りを見れば第三偵察隊の人間だけでなく、他の部隊の人間も書類仕事に勤しんでい
今更だが、今居る駐屯地内の事務所にはそれなりの数の隊員が居る。
幸いにも、俺の呟きを拾った人間は居ないようだ。
漏れてしまうのは誰しも一緒だろう。
そんな独り言を呟いてしまっている時点でお察しだが、疲れている時ほど自然と声が
﹁っと、疲れてんのかな。これ以上のロリコン疑惑は勘弁だ﹂
『stage22:幼女の正体』
1769
1770
かくいう俺も脳筋では無いが違う意味で書類仕事は苦手な為、それなりに時間が掛
かってしまった。
時計を見れば、後輩と別れてからそれなりに時間が経っていたようだ。
そろそろ夕食時だし、丁度良い。
提出するべき書類を纏めてファイルに入れ、席を立⋮⋮とうとして違和感に気付く。
なんかこう、ドドドドドといった風に言い表すべき音が聞こえてくる。
しかもそれがドンドン近づいてくる。
一体なんだ
息を荒くし、そして俺を見つけるとそのまま跳躍して天井を蹴って俺の前に降り立
ともかく、入ってきたのは後輩だ。
あ、後輩の扱いってもうそんな感じなのな⋮。
各々が作業に戻った。
事務所内の全員が音に気付いていたようで、開く前から見ていたが犯人を目にして
叩き開けられた。
そこまで思い至ったところで音は爆音に代わり、そしてバンッと音を立てながら扉が
る。
いや待て、こんな非常識な音を立てながら近づいてきそうな人物に一人心当たりがあ
?
つ。
無駄に身体能力使わず普通に来いよ。
出来ちゃった
どうしよう
﹂
しかし俺が文句を言う前に、後輩は俺の腕を掴んで震えた声で叫んだ。
﹁先輩
!!
!!?
いきなり何言っちゃってるんですかねこの子は
﹁いや、そうじゃなくて、子どもが﹂
ジーザス。
マジで子どもらしい。
﹄
﹂
?
事務所内の屈強な男たちが一斉に立ち上がって、いや女性陣も立ち上がって今にも俺
﹁ちょ、待って、そんな出来るようなことしてないから
!!!!!
﹃伊丹ィィィィィっ
!!!!!
﹂
だから、思わず吹き出してしまった空気を取り戻すために深く息を吸い、後輩に聞く。
方へ持っていったが、後輩の事だからただ言葉が少ないだけかもしれない。
あ、いや、待て、真剣な顔で言うものだからつい出来ちゃったイコールで赤ちゃんの
!?
事務所内の全員が吹いてしまった。俺も吹いた。
﹃ぶほぁっ﹄
!
﹁待て待て、出来ちゃったって何がだよ。また何か作ったのか
『stage22:幼女の正体』
1771
を殺しに来そうな形相で見ている。
いやでもほんと後輩とそんな出来るようなことをしたことないよ俺
しかし、後輩とはそういうアレではない。
童貞は捨てちゃっているが、結婚歴もある成人男性︵三十路︶ならまぁ普通だろう。
!?
何かの誤解だろ
なっ
﹂
昔から邪推するやつは数多く居るし、某掲示板でもなんか色々言われているが、それ
でも俺はやっていない。
﹂
!!?
﹁出来る⋮⋮
﹁後輩も何か言ってやれ
!?
だから、慌てて後輩に言う俺。
良いが、それは単なる趣味仲間的なサムシングだ。
子どもは可愛いとは思うがそういったアレではないし、さっきも言ったが後輩と仲は
ばならない。
このままでは俺のロリコン疑惑が確定に変わってしまう。それだけは阻止しなけれ
やこしくなっているだけのやつだ。
この反応は絶対違うやつだ。長年の経験から分かったが、やっぱり言葉が少なくてや
ながら疑問を口にする。
自分の発言から何故こんな状況になっているのか理解できていない後輩は首を傾げ
!
?
1772
だが、後輩は今更ながら自分が言ったことからどうしてこうなったかを理解したよう
﹂
で、一気にその雪のように白い肌を真っ赤に染め上げる。
噛んでる噛んでる
﹁あ、いや、ちが、あの、ご、ごきゃいっす
!!!
説明が説明になってない。
そうじゃなくて、そもそも俺達子ども出来るようなことしてないよな
というかそれだと余計に誤解が深まるだけなんだが
﹁後輩
﹂
養豚場の豚を見るような目って表現があるけどその目を俺
それくらいに今この事務所内の殺気が半端ない。
ない位に俺は殺されているに違いない。
5次バーサーカーがエクスカリバーで一気に命のストックを失ったが、それどころじゃ
視線だけで人が殺せるのなら俺は今この瞬間に何回死んでいるだろうか。きっと第
!?
!?
じゃなくて、事故というか、いやでも可愛いんですけど、でもそうじゃなくて││││﹂
﹁子供が出来たというのはですね、なんかこうできちゃったというか、意図してできた訳
をぐるぐるさせながら、そしてワタワタと手を動かしながら続ける。
でもそんな事にも気づかない位テンパってしまったのか、漫画的な表現をするなら目
!
そう、それさえ言ってもらえればとりあえずこの場は収まる筈だ。
!
特にそこの黒川さん
!?
『stage22:幼女の正体』
1773
に向けないでくれませんかねぇ
声を張り上げて言った。
そもそも俺まだ一回もしたことないし
バタン。扉の向こうへ後輩が消えると同時に事務所内の時間が元通りになり、全員が
それと同時に後輩が回れ右してそのまま歩き出し、静かに扉の向こうへと消えた。
そして、誰かが止まったままだった腕からペンをデスクに落とした音が響く。
始めた。
暫くすると、ただでさえ真っ赤だった後輩の顔は真っ赤なのはそのままに涙目になり
た。
何秒か、何分か、どれくらいかは分からないが、確実に全員の動きが止まってしまっ
﹂
!!!!!!!!!!
そして後輩は、俺の言葉に天啓でも得たと言わんばかりに、ワタワタするのを止めて、
だから、縋る思いで後輩に言った。
!!?
!
そ、そうっすよ
!?
殺気が止んだ。というか時間が止まった。
﹁│││っハ
1774
動き始める。
確かに俺の誤解は消え去っただろうが、どうしようこの空気。かなり居辛いんです
が。
俺が手を出していないと分かりヤケににやけるごつい男たちが何人か。お前らサム
ズアップすんな。
ほんとあいつは事あるごとに爆弾を落としていくから困ったものだ。
俺は、いつの間にか落としてしまっていたらしい書類を入れたファイルを拾い、歩き
出そうとし⋮⋮たところで再びドアが開いた。今度は静かに、立て付けが悪いのでキィ
と音は鳴るがその程度で、先程とは段違いだ。
しかし、その音に再び事務所が一斉に静かになる。
そしてやはり、扉を潜って入ってきたのは後輩だった。
戻ってきた後輩は赤面したまま、何も言わず、今度は静かに歩いて俺の元まで来て裾
を掴んだ。
そして引っ張って歩き出す。
﹂
!
﹁⋮⋮分かったよ﹂
﹁良いから
﹁あ、おい﹂
『stage22:幼女の正体』
1775
その有無を言わせぬ在り様に、仕方ないと俺は着いてくことにした。
よくよく考えれば後輩はあまりこの事務所には近づかないようにしていた。
仕事の関係では仕方ないが、やはり部外者である以上は気軽に入るべきではないと自
重していたのだ。
それに気を付けていた後輩があれほど慌てて入ってきたことを思うと、何か理由があ
るのだろう。
そう思ったからこそ、俺は着いていくことに決めた。
後輩はなんだかんだとその辺りの通すべき筋は通す性格だ。
たまにうっかり忘れていたり、今回みたいにすっぽ抜けてしまうこともあるようだ
が、内面に秘めたそれに対してかなり几帳面だ。
何気に、掃除洗濯料理と、一般レベルではあるようだが家事全般も出来たりする高ス
ペックだったりする。ちなみに、たまーにやたら美味しい料理やお菓子が出てくるが、
それは裏技らしい。
﹂
?
を行く後輩が前を向いたままそう言ってきたので軽く返す。
事務所の扉を潜り廊下に出て暫くしたところで、後ろ手に俺の裾を引っ張りながら前
﹁何だ
﹁先輩﹂
1776
おっと、さっきの説明か
﹁あ、うん、そうね﹂
﹁ホント童貞ちゃうから
﹂
そう思ったが、どうやら違ったようだ。
?
◆◆◆
!!!!!!!
うわあああああああああああああああああああ
あんな大勢の前で童貞です宣言とか恥ずかしすぎる
!!
恥ずかしい恥かしい恥かしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
!?
そう思った今の俺の表情はきっと、今までにない位暖かい眼をしているに違いない。
どっちにしても、そういうことにしておこう。
性別的に確かにそうではないよな。
!
あ、いや今は性別が女だから処女
?
『stage22:幼女の正体』
1777
1778
いやでもどっちにしろ人前です面で言えることじゃねぇ
さて、そうこうする内に俺の部屋まで辿り着いた。
恥ずかしさのあまり基地が吹き飛ぶとかシャレにならんぞおい。
のだ。それなりに叫んだ気がするが、壁が壊れたりはしてなかったしセーフだろう。
というかつい最近も似たような闘争をした覚えがあるが、あの時もよく我慢できたも
だから我慢。
何せドラゴンの因子まで手に入れたからマジ叫びが咆哮になっちまう。
だってさ、今の俺が本気で叫んだなら物理的な攻撃になっちゃうからね。
抑える。
とりあえずそんな叫びたい衝動をホントに外へと出すわけにはいかないので脳内で
ど。
なんかさっきから先輩の眼も生暖かいし、もうね、死んじゃいたい。すぐ復活するけ
い。
ととかこの間の国会で転生チート幼女だってばれたことだが、ほんとそれくらい恥かし
他のランクインはアイドル擬きしちゃったりゲームのヒロインになっちゃってたこ
い。
く、黒歴史だ。これは間違いなく人生でベストテンに入るくらいに黒歴史に違いな
!!
俺は鍵を開け、先輩を連れて中へと入る。
﹂
いつだかのように、部屋の中央のスペースを空けて、そこに例の段ボールを置き、挟
むようにして座る。
﹁後輩、これっていつものやつだよな
俺は一息ついて、段ボールの蓋を開ける。
いつの間にか幼女になったんです﹂
﹂
﹁お前の段ボールって中に入れた生き物を幼女に変えるの
もみんな幼女に
!?
事は絶えそうだけど。
筋肉ムキムキマッチョメンがいつの間にかみんな幼女とか嫌だよ俺。いやまぁ争い
﹁それもそうか﹂
﹁いやなってないのこの間確認したでしょうが﹂
!?
ってことはこの間の軍人
﹁失敬な。この二人は討伐に行って捕まえた炎龍の二匹っすよ。ここに居れて置いたら
?
見てもらうのは当然、例の幼女二人だ。
﹂
先程の事を再び思い出し顔に熱が集まるが思考をずらして阻止する。
﹁うぃっす、この中に居る存在がさっきの、まぁ、子ども発言になる訳っすよ﹂
?
﹁ほうほう、ってあれ、なんか紅と蒼の幼女が居るんだけど、誘拐
『stage22:幼女の正体』
1779
﹁ま、とりま行きましょうか﹂
実は先輩の所に駆けこむ前に、一度中に入って二匹と⋮⋮二人
なんとこの元幼龍たちは人語を解すのだ。
﹁どこへだよ
﹂
俺は立ち上がり、ついでに先輩の袖を引張り立たせる。
と話したのだ。
その理由は、百聞は一見に如かずってことで見てもらった方が早いだろう。
そもそも、ただ幼龍が幼女になった程度ならあそこまで取り乱さない。
二人の前に行って話した方が良いだろう。
それもまぁ、人型になったことに起因するのだが、ここであれこれ言うよりは実際に
?
◆◆◆
た。
言うが速いか、俺は段ボールを指さしながら倒れ込むように先輩と共に中へと入っ
﹁ここっす﹂
!?
1780
﹁ほい到着﹂
﹂
に明るい。
壁はSFチックな金属製のもので、光源はどこにあるのやら暑くはないが日の下の様
先程は狭い個室だったのに、いつの間にか体育館並みの広さへと変わってる。
俺は一言言おうとするが、そこではたと気付く。
段ボールへと突っ込んだと思いきや、次の瞬間にはこれである。
た。
気づけば後輩に御姫様抱っこで抱えられていたが、次の瞬間には地面へと降ろされ
﹁うおっ
!?
﹂
よく見れば、アニメでよくありそうな巨大人型兵器でも置いてありそうな格納庫の様
だ。
!!
俺が辺りを見回していると、上から何かが降ってきて後輩へと飛びついた。
﹁うおっと﹂
﹁かあさま⋮⋮﹂
﹁ママ
『stage22:幼女の正体』
1781
後輩は声とは違って、危なげなくその二つの影を抱きとめる。
紅と蒼の影、先程段ボール越しに見た元幼龍らしい幼女だ。
ただ、幼女が二人の幼女を抱きとめている訳だが、見た目だけでは微笑ましい物なの
に何やら二人が言った言葉がおかしいものだった。
今、後輩に向かって言葉は違うものの母だと言いながら飛びつかなかったか
着ている。
かあさまと物静かに言いながらもダイブした子が蒼い長髪に青い同じような浴衣を
らに元気が溢れているといった感じの幼女だ。
ちなみにママと言った方が紅い長髪に紅い裾が短い浴衣の様な物を着ている見るか
?
あいつは白だったけ
それぞれ浴衣の下に薄いインナーと短パンを履いているようで、浴衣の様な上着で動
き辛そうに見えたが存外動きやすそうだ。
というかこれって、たまに後輩が自分の家で着てなかったか
?
ど、何だかジャージに次いで楽だからとちょくちょく着てたはずだ。ミヤビカタとか
言っていたか⋮⋮。
ということは、後輩が二人に着せたのだろう。
﹁そうなんすよ、これがさっきの発言の原因っす﹂
﹁後輩、えらく懐かれてるな﹂
1782
辟易とした様子の後輩、その姿に思わず苦笑いだ。
どうしてこうも懐かれているのか。
お前がやったのか
﹂
しかしそれを聞く前に、二人が一斉にこちらへと牙を剥きながら威嚇してきた。
﹁ママが何だか辛そう
﹂
!!
しか見えないことが多いのだ。 後輩があの姿で色々やらかしているが、どうもその本人の容姿も相まってコミカルに
も怖くない。
それにしても、幼龍とはいえ元炎龍だと聞いても幼女二人が威嚇してくるだけでは何
いえ駄目です。というか疲れてるのは君たちの所為だと思うぞおじさんは。
﹁かあさまの敵なら、食べて良い人間
?
!
というか、この数か月で慣れてしまったのだろう。
﹂
!
﹂
?
﹁ならよし﹂
﹁﹁分かりましたぁ⋮⋮﹂﹂
かったか
﹁こ の 人 は 俺 の 恩 人 だ か ら、食 べ ち ゃ ダ メ な 人 間。と い う か 人 間 は 食 べ ち ゃ ダ メ。分
﹁﹁はーい﹂﹂
﹁やめい
『stage22:幼女の正体』
1783
おおぅ、これ本人に言うと殴られそうだけどめちゃくちゃ母親っぽい。
歯をむき出していた二人がシュンと一瞬で沈んで大人しく後輩のいう事を聞いた。
普段は粗野なのに無駄に女子力高かったりするし、割と向いているんじゃなかろう
か。
それにしてもなるほど、これが〝できちゃった〟発言に繋がる訳か。
﹂
しかしなんでまたこんなに懐かれているのだろうか
﹁それで、何で後輩はこんなに懐かれているんだ
?
とりあえず、人間では分からない匂いなのだろう。
見た目は幼女とはいえ女性にすることでは無いしな。
少しムッとする後輩に素直に謝る。 ﹁あ、すまん﹂
﹁さすがに恥ずかしいんでやめてほしいっす﹂
思わずクンと鼻で吸うがよくわからん。
﹁匂いねぇ⋮⋮﹂
で母親認定されたらしくて﹂
いがするらしい。一応俺は倒した方って言ったんだけど、匂いはするしご飯も上げたし
﹁それがどうも、例の炎龍がこの子達の母親らしいんすよ。そんで俺からあの炎龍の匂
?
1784
しかし説明したのにそれでも母親認定とはよく分からん状況だな。
﹁前のママ、私たちを置いて消えちゃったし、次のママはご飯を全然くれないもん。でも
ママは変なのも一緒だったけど遊んでくれたし、美味しいご飯もくれたから大好き
!!
﹂
最初のママも好きだけど、おんなじ匂いがしておんなじみたいな姿になるママの方が好
き
!!
でも次のママってなんだ
人も見た目は子どもだけど。
見た目が似たようなもんだからこそチャンネル的なものが合うのだろうか
そんな本人に失礼なことを考えていると、後輩がジトっとした目をこちらへ向けてい
?
それにしても困惑しながらも遊んであげるとは中々後輩も子ども好きなのだな。本
前の環境が悪かったのだろう。
何せ後輩が帰って来てからまだ数時間しか経ってないのにこの懐きようだ。よほど
か、どちらにしろ考えても詮無い事か。
まぁご飯をあまりくれなかったって位だし、世話をしなかったのか出来なかったの
?
たぶん、最初のママってのがその生みの親であり後輩が倒した炎龍だよな。
シュンとしていた幼女たちが顔を上げて後輩へとそう言う。
﹁⋮⋮うん。美味しい、です。それに⋮⋮、お洋服面白い、です﹂
『stage22:幼女の正体』
1785
た。
﹂
?
前は燃料にもなっていたし、割と何でもありな不思議物質だ。
変身する時に使ったりと後輩がよく使っているのを目にするアレか。
﹁ああ、あの剣になったり触手になったり忙しいやつな﹂
﹁俺がいつも使ってる影みたいな泥みたいなのあるじゃないっすか﹂
俺が内心で首を傾げていると、後輩が再び口を開く。
何だか要領を得ない言い方だ。
﹁いんや俺自身は何もしてないっす。でも、俺が原因ってのはある意味正解かも﹂
﹁あ、そうだよそれ。これもお前が何かやったのか
﹁次はこの子達がなんで人化したのかの話をしますね﹂
そんな俺の姿を見て、後輩は溜息を一つ、説明を続けた。
考えていたことが顔に出ていたのか、それを悟られたようで思わず顔を背ける。
﹁おいこっち見ろや﹂
﹁⋮⋮なるほどな﹂
まぁ、ついおいしそうに食べるのを見て色々上げちゃいましたけど﹂
龍化して戦ったのがこの子達には遊んでもらったように感じたらしいんすよ。ご飯は
﹁言っとくけど、遊んだってのは討伐に行った時の事ですからね。途中から俺自身が炎
1786
後輩曰くそれなりに制限があるらしいが、それを補って余りある多様性だと俺は思
う。
しかしあれがどうしたのだろうか。
﹁い や ぁ、あ れ っ て 聖 杯 の 泥 を 俺 が ラ ー ニ ン グ し て 願 い を 叶 え る っ て 性 質 が 滲 み つ い
ちゃったみたいで、それがまぁ段ボールからたまに出てる触手の正体でもあるわけで、
それを食べちゃったみたいなんすよこの子達﹂
﹁はあああああああああああああ
﹂
それって滅茶苦茶危険な代物じゃないか
!?
いや悪いとは思ってるから睨まないでくれ。
でも驚いても仕方がないんだ。それほど危険な代物なのだから。
あ、ごめん、幼龍の二人。驚かせちゃったな。
もろに穢れてるやつじゃないか
しかもこいつが参加した聖杯戦争って第五次だったよな
聖杯の泥
!!!!?
!!!!
!?
!?
あ、でもよく考えれば後輩はあの泥を結構使っているし、実際に触れた人が何人も居
﹁ボソッと言ったの聞こえたぞおい﹂
んですよ。⋮⋮まぁ俺が悪意持っちゃうとアレですが﹂
﹁あ、安心してください。元の悪性は取り除かれてるんで、言ってみれば純粋な力の塊な
『stage22:幼女の正体』
1787
るが、何か異常が出た人を見たことは無い。
触れるのはともかく、食べて大丈夫なのかそれって。
それよりも問題は、その泥を食べたって二人だ。
まったくこいつは⋮⋮。
それを知っているからか、後輩は俺が言う言葉に嬉しそうに笑う。
なのだ。
いるが、無くても後輩が居続けられるというのなら今すぐにでも契約解消したいくらい
建前上は令呪での制御が出来ているという上辺が必要だから令呪をそのままにして
後輩はサーヴァントかもしれないが奴隷じゃない。
﹁はは⋮、ですよね﹂
﹁っ⋮⋮、そもそも暴走しない様にしろ馬鹿後輩﹂
いなので、先輩が使ってくれりゃぁ大丈夫っすよ﹂
﹁大丈夫っす。先輩には令呪がある。俺は特性上令呪の効果を普通より強く受けるみた
そう思ったのが分かったのか、後輩は苦笑いしながら説明を続ける。
でもお前バーサーカーじゃん⋮⋮。
ことは無い筈です﹂
﹁大丈夫っすよ。それなりに理性はあるつもりだし、暴走でもしない限り泥が暴発する
1788
﹁まぁさておき、二人はその泥を食べてしまったわけです。ここの防衛機構としていつ
の間にか働いてくれていた触手さんが、暴れようとした炎龍達を抑えようとしたみたい
なんですけど逆に食べられたってのが顛末みたいっすね。んで、その後で格納庫に放置
されたこの子達はどうやらその方向性の無い泥に願っちゃったらしいんすよね。﹃人み
たいな小さい姿ならここから出て行けるのかな。ママともっと遊べるように人の姿に
もなれるようになりたい﹄って﹂
﹁なるほどなぁ⋮⋮﹂
その願いを、叶えた結果がこれか。
でもそれでいくと食べてスーパーサ○ヤ人になりたいとか狙ったら髪が黄金になる
のだろうか。
俺がそんなことを考えていると、静かにしていた幼女二人がガバりと顔を起こして口
を開いた。
﹂
!
まぁでもこれで、子どもが出来ちゃった訳はわかった訳か。
驚愕すべきは後輩の泥の性能か、それともこの子達の発想か。
﹁⋮⋮実際楽しい、です﹂
うだったの
﹁ママに遊んでもらってた時にママは二匹になったり人になったり龍になったり楽しそ
『stage22:幼女の正体』
1789
合点が行った俺は、これからこの子達をどうするつもりなのか聞こうと後輩へと顔を
向けるが、当の後輩はなんというか﹃あ、やっべ﹄みたいな顔をしていた。
おい何やらかした。
場合によってはこの子達の事を狭間陸将に伝えなきゃならんのだからこれ以上の厄
介事は勘弁だぞ。
一人きりで見知らぬ場所に放置とか大問題じゃないか
?
まったくこいつは⋮⋮。
﹁やっぱ駄目っすかねぇ⋮⋮﹂
﹁それなら⋮⋮いや駄目だろう﹂
に混乱してってことは無いと思うんですけど⋮⋮﹂
てたみたいで無くなってたから結構な量を足してきたんですよ。だから見知らぬ場所
﹁なんか空腹で倒れてたっぽい感じだったのでご飯を置いておいたらいつの間にか起き
一人ってのは⋮⋮﹂
﹁それって結構不味くないか 炎龍に襲われそうなところを助けたにしても、流石に
!
たんすよ。どうにもこの子達に掛かり切りですっかり忘れてたなぁと﹂
﹁いやぁ、この子達を回収した後に住処にしてたっぽい洞窟で倒れてる女の人を見つけ
﹁まだ何か問題があるのか後輩﹂
1790
要救助者を、空腹で倒れていただけっぽいとはいえ放置はマズいだろう。
後輩は回復魔法的なのも使えるみたいだから緊急性は無いとはいえ、帰って来てから
﹂
結構な時間が経っている。
﹁今から行くのか
﹂
そこでふと、気になった問いが出てきたので聞くことにした。
そして慌てて二人して通路を後輩の先導で向かう。
後輩は離れたがらない二人を何とか言い包めて、俺と二人で格納庫を出る。
﹁分かった。すぐに向かおう﹂
﹁ういです。ここから部屋はすぐなので一旦向かいましょうか﹂
?
?
おま、それ、ロゥリィみたいな亜神ってやつじゃないのか
!?
﹁えっと、竜人って感じの人ですね。あ、後なんか白ゴス着てた﹂
何故なら│││、
しかしその後輩の言葉に、俺は言葉を失った。
俺の言葉に、前を走る後輩が答える。
﹁ちなみにどんな人だったんだ
『stage22:幼女の正体』
1791
﹂
﹃stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘です
けどね﹄
﹁えっと、こんばんは
﹁お、おう﹂
コウジュと伊丹がマイルームを訪れた時には既にジゼルは起きており、コウジュが用
肌に入れ墨をし、白いゴスロリ服を豊満な身体に無理矢理着ている女性。
参加者はコウジュ、伊丹、そしてジゼルと名乗った深縹色︵やや紫みを帯びた青︶の
徒を交えたモノの様に、決して良いとは言えないものとなっていた。
コウジュのマイルームで行われている三者面談。その雰囲気は、留年目前となった生
﹁あー、オレはジゼルだ﹂
﹁⋮⋮よろしく﹂
﹁あ、俺の名前はコウジュです。こっちは伊丹先輩﹂
?
1792
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1793
意した食事を食べ終わった所だったのかまったりとしていた。
しかし、コウジュが入ると同時にジゼルは何故か見るからに警戒した面持ちとなり、
若干の怯えすらも見て取れた。
それに対してコウジュは首を捻るも、突然訳の分からない部屋に連れて来られた所為
なのだろうと無理矢理納得した。怯えられる理由がそれくらいしか思いつかなかった
からだ。
まぁ当然ながらそんな理由ではない。
なにせジゼルは亜神だ。ロゥリィ・マーキュリーと同じ、人ではない不死の存在なの
である。
亜神の中では最も若いとはいえ、既に400年の歳月を過ごし、それなりに多くの経
験を経ている。
では何故ジゼルはコウジュに対して警戒しているのか
その答えは至って簡単だ。
本人が望んでいるかはさておいて、着実に経験を増やしその道を順調に進みつつあ
コウジュ本人は若干忘れているが、コウジュが目指している物は神化だ。
ているからである。
いつしかロゥリィがコウジュに対して感じた気配をジゼルもまたコウジュから感じ
?
1794
る。
そして既に、神化は始まっている。
文字にすれば︵仮︶が︵見習い︶になった程度だが、コウジュから滲み出る気配には
ジゼルが主上と仰ぐものと似た気配が出ている。
空腹で倒れて意識を失い、気づけば見知らぬ部屋に居る上、何故かご丁寧にも食べて
下さいと書かれたメモと共にあった大量の極上の料理たちを平らげて落ち着いたと思
いきや直属の上司と同じ気配を醸し出す存在が部屋に入ってきた。
そんな状況の為、考えるよりも動くことが得意なジゼルは、とにかく何かあればすぐ
動けるように表面上警戒しているが、コウジュがもしも敵性存在であれば詰みな状態の
為に、ぶっちゃけて言えば内心で涙目となっている。
そんなジゼルに対して、コウジュもまた内心で涙目となっていた。
ファンタジーの代表的な存在達、その一角を占める竜人を見て少しばかりテンション
が上がっていたのだが、当のジゼル本人があからさまに警戒していては素直に喜べな
い。
〟にゃ〟が語尾の猫耳メイドさんやエルフさん︵モフられ過ぎてちょっと苦手意識が
生まれてる︶達に出会えて生前から持っていた衝動を刺激され、異世界最高と純粋に喜
んでいたコウジュ。幾つもの悲劇には出会った物の、異世界そのものを否定する気には
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1795
到底なれなかった。
そしてそこへ、久しぶりの新たな種族に出会えたことを喜んでいたのだが、浮足立っ
ていた心は現在急降下中である。
転生系小説の転生先としてもよくあげられる竜人種。
マイルームへの移動中に伊丹から聞かされた亜神かもしれないという言葉で多少気
を引き締めたが、改めて目にするとなんとも厨二心を擽られてしまった。
コウジュが生前よく見ていたweb小説サイトでは大体が通常の人間に尻尾と翼が
生えただけだとか龍に変身出来るだとか人間からそれほど逸脱した見た目では無かっ
た。
しかしジゼルは肌の色からして肌色ではない。
と自分の事︵厨二カラーである事など︶を棚に上げて嬉しく思っていた。
そのことに現代人の何割かは忌避感を示すかもしれないが、コウジュはただファンタ
ジーすげぇ
しないでもないが、美人なのである。
白いゴスロリ服ではあるがその粗野な着こなしに些か野性味が溢れすぎている気が
そして、ジゼルは肌の色を抜きにしても美人と言えるくらいに容姿が整っていた。
更に言えば、今更ではあるがコウジュの中身は男である。
しかし悲しいかな、御対面はどうやら失敗したらしい。
!
そんな美女に警戒されているのもまた、コウジュとしては悲しかった。
しかしだからといってそこで諦めるコウジュではない。
﹂
互いに切りだし辛くなっていたが、何かないかと視線の端で探し、そしてそれを見つ
けた。
満足してもらえましたか
?
だったぜ
﹂
﹁お お あ れ か め ち ゃ く ち ゃ 美 味 か っ た
腹 が 減 っ て 死 に そ う だ っ た ん だ が 最 高
すげぇな
﹂
弓 兵 主 夫 に 習 っ て 作 っ た や つ と か な ん で す け ど 満 足 し て 貰 え た よ う で 良
﹁あれはあんたが作ったやつだったのか
!
﹁や っ た
!
﹁⋮⋮同類だこの二人﹂
そんな美女と美幼女の話し合いに入れなかった伊丹はボソリと呟いた。
ボックスからとある弓兵お手製のお菓子等を取り出して更に話を盛り上げた。
そこからは互いに料理に関して様々な話をし、気分が良くなったコウジュはアイテム
!
かった﹂
! !!
!
その言葉に、今までの警戒は何だったのかとジゼルは目を輝かせた。
﹁そういえば料理はどうでした
?
1796
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1797
◆◆◆
いやー、警戒されてたけど料理話であそこまで盛り上がれるとは思わなかったよ。
それに俺が作った料理を美味しいと言ってくれるものだからついつい秘蔵のアチャ
男菓子を出してしまった。あの世界に戻れない現状ではストックして置いたものにも
限りがあるが、後悔はしていない。
あ、そういえばそのジゼルさん自体は保護しただけだったのでもう帰りました。
話の途中で微妙に引き攣った笑みを浮かべていたり、なんか用事を思い出したと言っ
ていたけどどうしたんだろう。炎龍を退治した当たりの話だったと思うけど、それ関係
で何かあるのだろうか
いや亜神だからなのだろうか
く手に入るものでは無かったのに不老不死の大安売りだ。俺が言えることじゃないか
しかも亜神って皆不老不死らしいし、Fate世界では不老不死なんて求めても容易
と居るんだね亜神ってさ。
やはりというか、先輩の思っていた通りにジゼルさんって亜神だったわけだけど、割
?
べたら治ったそうだ。やっぱりすごいなファンタジー。
それにしても、飢餓状態からの回復って結構時間を要するはずなんだけど、料理を食
?
1798
もしれないが。
さておき、現在は皇室庭園で行われている園遊会に俺は陰ながら参加している。
参加していると言っても、メイドとしてだ。
メイド服を着ることに違和感が無くなってきた今日この頃だが、ガチメイドさん達が
居る中でメイド服を着ることを恥ずかしいとは言えないのだから仕方ない。
それに、メイド服を着ているとはいえ、俺が今やっているのは調理の手伝いだ。
なにせメイド服を着る機会が増えたとはいえ所詮俺は紛い物。貴族を相手にした作
法など知る由もない。
かと言って先輩がやっているような、講和派に対する牽制でもある自衛隊所有の武器
に関しての説明やら演習やらの手伝いを俺が出来る由もない。
そんな中、特別顧問として無理矢理割り込んだのに何もしないというのも気が引ける
ので仕事を探した結果が調理の手伝いなのだ。
園遊会では、日本の事を知ってもらうと同時に日本に敵対しないようにするため牽制
と講和を進めることで得られる利益を餌とするために様々なものを用意している。
先に言った武器の説明もそうだが、俺が手伝っている料理もまた餌の一つである。
日本は飽食国家と呼ばれるほどに地球有数の食文化が発達している国だ。
繊細な料理が多いと言われる和食もそうだが、各国の食文化も取り入れてきた日本に
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1799
は多くの美食が集っている。
そもそもの日本食というのも、料亭で出るような料理から家庭料理までで考えてもそ
の幅は多岐にわたる。
そこへ各国の料理も混ざればレシピの種類は数千数万どころではない途方もない数
だ。アレンジも加われば言わずもがな。
そして、言っては悪いが特地の食文化はまだまだ発展しているとは言い難い。
そもそもが保存一つとっても難しい特地において、味など二の次になってしまうのは
無理もない。 貴族の食事情に関しては多少異なるが、聞けば豪勢な肉料理を贅沢に用意することで
貴族の威を示すのが基本なのだそうだ。しかも調味料が限られているから、味付けには
それほど幅が無いとか。それはそれで俺的には胃を刺激する内容だが、ジャパニーズソ
ウル的には様々な味付けを楽しみたい。
まぁ俺の事は置いておいて、その日本の食文化というのもこの特地では大いなる剣と
なるのだ。
見れば、用意された料亭料理や特地受けしそうな数々の料理を講和派の貴族やその家
族が食べて舌鼓を打っている。
さすがに料亭料理とか出来るわけがないので下拵えとかばかりだが、それでも作った
1800
料理に喜色満面の笑みを浮かべる人々を見るというのは嬉しいものがある。
とはいえ、俺がアチャ男に教えてもらったものや自分で勉強した料理は基本的に家庭
料理なのだが、少しくらいは料亭料理とかを習っておくのだったとこの光景を見れば少
し後悔しないでもない。
俺はチラリと横に居る人を見る。
古田均さん。階級は陸士長だったか。
古田さんは元板前で、開店資金を稼ぐために自衛隊に入隊したらしい。
そして先輩率いる第三偵察隊所属となったようだが、その経歴から食事関連の仕事が
回されることが多いようだ。
まぁそれも仕方ないだろう。
俺がバイトをしている食堂でもそうだが、今回の事に関しての打ち合わせをする際に
も俺は何度か古田さんの作ったものを食べたことがある。マジ最高でした。
アチャ男の料理や士郎、凛ちゃん、桜ちゃん、アインツベルン家で食べた食事、どれ
も美味しいものだったが、有名な料亭の料理長の元で修行してきたという古田さんの料
理はまた別ベクトルの美味しさがあった。
食レポなんぞできる能力は無い為に言葉には言い表し辛いが、鋭い美味さがあった。
いや何言ってるんだろう俺。
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1801
まぁ、そんな古田さんの横で大根の桂剥きやらをやっているのだが、所詮は家庭料理
を作る程度の能力しかないので最初は戸惑ったものだ。
だが、これでもチートスペックを持つ者だ。
少しずつだが古田さんのやり方を真似たり古田さん直々にアドバイスを貰って少し
ずつ技術が上がるのを実感している。難し顔をしながらも褒められるのが地味に嬉し
いです、はい。
ただ、そんな俺でもここでは十分な戦力になるという現状は割と厳しいものがある。
というのも、そもそもが自衛隊員は料理を学ぶために自衛隊員なのではないからだ。
バイト先やフォルマル家からの助っ人があるとはいえ、多少の知識がある俺以上に不
慣れな作業工程をしなければならないために、肝心な部分はほぼほぼ古田さんが関わら
なければならない。
今日の園遊会では料理長は古田さんだ。
自衛隊員としてここに居るとはいえ、作る以上は妥協する訳には行かないと古田さん
にはかなり負担がかかっている。
ばれない様に回復を俺がしているが、肉体的な疲労は回復しても精神的な疲労は回復
することが出来ない。
見れば古田さんは自身も料理をしながら、各担当から求められる質問にもアドバイス
を即座に返し、貴族たちの腹に消えて行く料理を追加していっている。
汗をかきながらも、決して集中を途切らせることなく、一つ一つの工程を丁寧に、そ
して素早くこなしている。
﹂
?
﹁うーん、弟子かぁ。俺じゃ力不足だと思うっすけどねぇ⋮⋮﹂
弟子を取ることもあるだろうしその予行演習って所か﹂
﹁子ども扱いというか、勝手に弟子の様な感覚で接しさせてもらっているよ。いつかは
そして作業に戻りつつ、口を開く。
俺の言葉に古田さんが苦笑した。
んですけど﹂
﹁いえ、あなたも俺を子ども扱いするんだなって。まぁ見た目があれなんで仕方がない
﹁どうしたんだい
不思議に思ったのか手を止めてこちらを見た。
その言葉に少しだけ引っかかりを覚えてしまい、即座に返せないでいると古田さんが
﹁気にすることは無いさ。心配してくれた子を怒鳴るほど狭量じゃないつもりだ﹂
﹁すいません、よそ見してました﹂
覗き見しているのがばれたのか、視線を手元から反らさずに古田さんがそう言った。
﹁大丈夫だよ﹂
1802
そんな俺の言葉に、今度は笑みを零す。
食
?
に感じたけど﹂
何この人エスパーか何かですか
﹁や、やさ⋮⋮
﹁ああ﹂
﹁マジですか﹂
俺そんな顔してました
そんな顔していたのか俺。
?
﹂
しい笑顔が出来るのなら、料理する者として一番大事なものを君は持っているよ﹂
﹁独学じゃできない動きをしていれば自然とね。それに、食べる人に対してあれだけ優
﹁よく分かりましたね﹂
それがどうやら古田さんには俺の作業を通して見えたようだ。
しかしその間に教えてもらったアチャ男式主夫術の多くは俺に根付いている。
男さんに作ってもらっては俺が食べていた。
といっても基礎も基礎だけだし、やはり俺は食べる方が好きだからか気づけばアチャ
確かに俺はアチャ男さんに師事したことがある。
?
材の切り方一つとっても、誰かに言われた注意を思い出しながら丁寧にやっているよう
﹁そんなことはないさ。恐らくだけど、誰かに師事したことがあるんじゃないか
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1803
?
いやまぁ嬉しかったのは確かだけどさ。
というかこの人はサラッと何を言っているのだろうか。
顔が熱くなるようなことがよく自然と言えるものだ。
けど、料理する者としてのくだりを言った時に少しだけ眉が寄って難しい顔したのは
何でだろうか
﹁一応、褒められていると取っていいんですかね
だけど、さすがに聞けるわけもないか。
﹂
先輩は色々あって自衛隊にって言っていたし、その辺りに何かあるのかもしれない。
?
運んできたが、正直に言ってこちらの人の胃袋を舐めていたと思う。
比較的に作業の少ない料理を古田さんは選び、結構な量の下拵えを事前にしておいて
というかやっぱり料理人が少ないと思う。
ピードと同じくらいだ。
地 味 に 泥 人 形 す ら 出 さ ず に こ の 身 一 つ に 集 中 し て 作 業 し て い る と い う の に 減 る ス
庭園に集った人数もあって料理が減るスピードは伊達じゃない。
﹁確かに﹂
はそんな場合じゃないしね﹂
﹁良いんじゃないかな。本格的に弟子になるのならもっと言いたいこともあるけど、今
?
1804
俺と同じくらいの幼女なのに結構食べてるんだよね。あ、俺も食うんだから俺と比べ
たら比較するのにおかしいか。
でも本当に大人から子供まで、それなりの量を食べている。
それだけ作った料理を評価してくれているともとれるが、食べてくれる人達の顔位
ゆっくり見たいものだ。
と、そんな風に古田さんと共にたまに会話をしながらも料理を作り続けていると先輩
から耳に付けていた無線に連絡が届いた。
﹄
?
︽いや、よく分からない騎馬隊が来たからVIPを逃がすだけだ。見る限りでは今すぐ
﹃俺もそっち行った方が良いですか
だから何事も無いように俺達は作業へと戻りながら、俺が先輩へと返す。。
う。
俺のケモ耳も普通の耳に見えるようになっているが、それも注視されれば解けてしま
俺と古田さんの耳元には俺が何とか習った認識阻害の魔術が掛かっており、受信機や
俺が念話で返す。
そして事前に決めていた通りに、無線では同時に相互通信出来ないためこちらからは
古田さんの物にもそれは届いたようで、二人して顔を見合わせる。
︽後輩、緊急事態が起こったから離脱する︾
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1805
に抗戦するという訳でも無いが、いざとなったら決めてあったように古田と共に離脱し
ろ︾
出来れば先輩の方へついていきたいが、例の様に令呪があるし、何かがある前に逃げ
講和派への剣でもあり飴でもあるこの園遊会は何としても成功させる必要性がある。
そうなれば貴族の園遊会としては見目悪く、招いた側としての風聞に関わる。
てしまう。
そんな状態で料理関係の中心から俺達が抜ければ振る舞われている料理に空きが出
が到着するにもまだ少しの猶予があるだろう。
勿論この世界の物とは比べようもないほどの距離を誇るもの故に、その騎馬隊とやら
る。
今回の園遊会を開くにあたり、この会場周囲には特戦群により警戒網が敷かれてい
﹁了解﹂
達はここで続行という事で﹂
﹁お聞きの様に正体不明の騎馬隊が近づいてるようですけど、予定通りギリギリまで俺
掛ける。
先輩からの無線が切れたのを確認したと同時に念話も切り、古田さんへと静かに声を
﹃了解っす﹄
1806
るのだから差し迫った危機は無いだろう。
むしろここに残る方が危険度としては高い。
そんな場所に古田さんを置いていくわけにもいかないし、離れた場所には外務省から
の出向である菅原さんやピニャ皇女も居る。
最悪の場合は彼らの脱出に手を貸すのが俺の今回で一番重要な部分だ。
俺の倍からあるんじゃなかろうか
﹁物騒っすねぇ全く﹂
﹁コウジュちゃんは逃げてもよかったんだけど
辟易と、俺は思わず零してしまう。
そんな俺の様子を見て古田さんが言った。
﹂
俺は純粋に心配してくる古田さんにどう返したものか困ってしまいすぐに言葉を返
?
?
いるのは立派な馬だがその大男が乗っていることで小さく見えてしまう。
一番前に居るのは、古田さんの言う通りに豪奢な鎧にマントを付けた大男だ。乗って
暫くするとチート耳に聞こえていた蹄の音も近くなり、丘の上に騎馬隊が見えた。
﹁確かに﹂
﹁あれか。馬に乗っているとはいえごついな﹂
﹁どうやら来たみたいっすね﹂
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1807
せなかった。
だって、大男とはいえ尊大に近づいてくる件の男に斬り掛かられてもきっと俺は傷一
つ付かない。
魔剣とかそういった類の物を持って居ればわからないが、それでもロゥリィさんクラ
スが出てこないと炎龍の鱗すらラーニングして防御力が上がった俺にはそうそう怪我
というものは無い。
だから古田さんの心配には意味が無い。
でも心配されること自体は嬉しいものだ。
﹁ちょ、大事なってっ﹂
つい大声を出しそうになるが何とか抑える。
先輩の大事な子って何ですか
?
!?
﹁だって隊長があれだけ気に掛けているんだからそうだろう
コウジュちゃんも隊長
理が付かないんだよ。それに隊長の大事な子が傷つくと隊長が何するかわからないし﹂
﹁年齢は聞いているけど、それでも君みたいな子を矢面に立たせるのはどうにもまだ整
一先ずそう返すと、古田さんは難しい顔をする。
る訳には行かないけど、何があるかは分かりませんから﹂
﹁⋮⋮事前に決めたようにいざという時の脱出役ですってば。確かに古田さん達が逃げ
1808
の傍を離れないし。契約どうこうは聞いたけど、契約っていうには近しいでしょ。だか
ら基地の皆はコウジュちゃんが隊長の大事な人って認識だよ﹂
﹂
気を付けた方が良いんだろうか⋮⋮
﹁え、何で落ち込んでるんだい
﹂
?
﹁してるんですっ。だから俺は違いますっ﹂
﹁隊長結婚してるの⋮⋮
離婚状態だがどうせ元鞘だろうしそこは置いておく。
るし﹂
﹁いや、先輩はあくまで家族みたいな友達って感じなんですよ。というか先輩結婚して
俺の様子を心配して少し焦った様子で古田さんが声を掛けてくる。
?
?
なのに周りからはそう見えていたってことか。
実際に先輩とは趣味仲間だ。もしくは心友。
感じで接しているつもりだった。
確かに先輩とは仲良くさせてもらっているけど、どっちかというと家族とか仲間って
何でそうなるのさ⋮⋮。
古田さんの言葉に俺は思わずどこぞの英雄志望みたいに零す。
﹁何でさ⋮⋮﹂
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1809
俺の発言に目を見開いて驚く古田さん。
俺もつい語気を強めに言ってしまう。
って、何で知らないのさ。
態々言いふらすことでも無いってのは分かるけど、俺とのことが噂になる前にそっち
を噂にすべきでしょうが
それにしても、兄ってことはあの人は王族なわけだよな
似てない兄妹だこって。
えっと、ピニャ皇女の言葉を拾うにどうやらあの大男はピニャ皇女の兄のようだ。
理へとむしゃぶりつく様に手を付け始めた。
そんな会話をしている内に、大男はピニャ皇女と話した後、部下と共に周囲にある料
﹁⋮⋮程ほどにね﹂
﹁⋮⋮帰ったらすることが出来ました﹂
はぁ、これは基地に戻ったら色々と修正すべきだな。
!
うんまぁ、ガツガツ美味しそうに食べてくれてるし、所作なんて俺も偉そうに言える
少なくとも気品よ言うものが感じられる食べ方ではない。
何というか料理の食べ方が偏見かもだけど野盗っぽい。めちゃくちゃ粗野だ。
?
1810
こっちゃないけど、もう少し落とさないように食べてくれると嬉しいかなぁ⋮⋮なん
て。
何とも言えない気持ちになりながらも俺は作業を続ける。
そのピニャ皇女のお兄さんと共に来た騎馬隊の人達が次々に料理を食べて行くもの
だから減る速度が速まった。
止ませるために近づいたから何事も無かったが、ちょっとムカついた。
貴族として躾けられているからか喚く様なことはないし、近くに居た親御さんが泣き
す。
アイスクリームが気に入ったのか箱ごと持って行った皇子に一部の子どもが泣き出
﹁さ、流石に行かないっすよ﹂
﹁行っちゃだめだよ﹂
﹁⋮⋮﹂
き、子どもたちを散らしながら順番なぞ知らぬとアイスクリームを食べに行った。
見れば子どもたちが並んでいた、アイスクリームを出しているメイドさんの方に行
﹁同感です﹂
﹁⋮⋮ってことは皇子か。あまりそうは見えないけど﹂
﹁どうやらピニャ皇女のお兄さんみたいですね﹂
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1811
古田さんに止められたからではなく、流石にあのままあの皇子へと物申しに行くよう
なことはしないが、気分が良くないのは確かだ。
だからジッと見ないでください古田さん。
でもほんと、気に入ってくれるのは良いが子どもの分まで取るなっての。
ただ、それが王族故に当然の振る舞いだと言われてしまえば仕方がない。
王族として、誰かに気を使うようでは務まらないというのであればあの振る舞いこそ
が正しいのだろう。
けど、やはり納得できるものではないな。
そう理論で行くとピニャ皇女はあまり王族らしくないのだろうか
それならピニャ皇女の方が断然いい。
の姿だってなら勘弁だ。
うーん、でもそうなると俺個人で言えば目の前で繰り広げられているようなのが王族
だってピニャ皇女って先輩やら梨紗さんに色々〝お願い〟している姿をよく見るし。
?
ちょーっと最近BL本に傾倒しすぎな気もするし、俺経由で手に入れようとするのは
勘弁してほしいが、まぁその分身近に感じる。
﹁コウジュちゃん﹂
﹁む、今度はお菓子まで﹂
1812
その言葉は口に出さず置いておくことにした。
⋮⋮よっぽどのことが無ければ。
﹁だから行かないですって⋮⋮﹂
『stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね』
1813
﹃stage24:悪所と前兆﹄
﹁第一目標は達せられました。諸王国の軍は壊滅し、我らへと牙を立てる力すらありま
﹁まったく忌まわしい限りだ。連合諸王国軍もまるで役に立たないとはな﹂
送り出したマルクス伯の報告が今行われていた。
ピニャの兄であるゾルザルが皇室庭園での園遊会に姿を現して暫く、そのゾルザルを
クス伯。
そしてモルトに向かって膝を付き、忠誠を示しながら言を返すのはその腹心たるマル
ウグスタス。
帝国内謁見室、その中でも最も高い位置にある玉座に座る男、現皇帝モルト・ソル・ア
﹁ふむ、一先ずはそれで良しとしよう﹂
しょう﹂
﹁しかし無駄ではありませぬ。ゾルザル殿下があの場へ赴いた意味を理解する者も居ま
﹁あ奴め、餌を漁っただけで満足して帰ってきよったぞ﹂
1814
せぬ﹂
帝国を存続させるために有用であるかどうか、それだけが彼の中にある。
皇帝にとって属国や同盟などというものはどうでも良いのだ。
行った。
この際には帝国の大敗は知らせず、門からの侵略者として自衛隊と戦わせるまでもを
兵力を削ぐことが目的だった。
だがその実態は、自衛隊に大敗した帝国が周辺諸国にクーデターを起こされない為に
名目上は確かに帝国への増援ではあった。
しかし彼らは、帝国の増援として呼ばれたわけでは無かった。
そんな橋頭保をアルヌスに作った自衛隊を襲ったのが連合諸王国軍。
た。
そして、内閣に変動を起こしながらもついに自衛隊はついに門を潜り特地へと渡っ
開門後、銀座事件が起こり日本は早急な対応が求められた。
と訪れた際に戦った軍隊の事だ。
連合諸王国軍、それは帝国に敗れ属国となった国々により組織され、自衛隊が特地へ
皇帝の言葉に、マルクス伯が静かに頷く。
﹁それを奴らに感謝するのは業腹だがな﹂
『stage24:悪所と前兆』
1815
﹁それで、諸王国軍の様子はどうだ なにやら敵の兵器によって病に伏せるものが多
数と聞くが﹂
?
﹁御意。では、ゾルザル殿下はどういたしますか
﹂
﹁会議など踊らせておけばよい。その間に元老院どもを黙らせておけ﹂
の戦に加わって居た者が居る以上、軽く見積もっても約半数が講和へと進むでしょう﹂
﹁でありましょうな。講和会議が始まれば尚の事でありましょう。元老院の親族にもあ
ずそれを利用してくるぞ﹂
﹁後は元老院だ。ニホンとやらは我が軍の者を捕虜として捉えていると聞く。奴らは必
そのマルクス伯を見ながら、皇帝はさらに続ける。
了承と共に面を下げるマルクス伯。
﹁御意に﹂
考えておけ﹂
て。しかし幸いにもその黒い靄を浴びた者は我が軍にはおらぬ。その靄への対抗策を
﹁ふん、厭らしい手を使いよるわ。生きた怪我人ほど進軍の邪魔になるものはあるまい
るようですが、体力の低下が著しいとのこと﹂
はなくありふれた病に罹ったものが数多く居るようです。現在では体調も改善してい
﹁はい。突如地面が破裂するとともに浴びた黒い靄が原因と思われますが、毒の類いで
1816
?
﹁適 当 に お も ち ゃ を 与 え て 遊 ば せ て お け。ど う せ あ れ は 頭 を 使 っ て 動 く こ と な ど で き
ん。頭を使っているつもりになっているだけだからな。まあまた今回の講和派の元へ
行かせたようにあやつを送るのもいいかもしれんな。どうやらニホンはこちらとの直
接的な交戦を望んでいないようだ。アレが遊んでいるだけでも場を掻き乱せるであろ
う。詳細は伯に任せる。余は1ビタの金も1ロムロの土地も渡すつもりはありはせぬ﹂
美味い美味い言ってくれるのは良いけど、兵隊さん共々散らかしていくわ子ども泣か
兄さん。
最後の最後まで料理を食い散らかして何か満足気に帰って行ったよピニャさんのお
いやー、それにしても似てない兄妹もあったもんだねホント。
園遊会から数日後、俺は帝都に来ていた。
◆◆◆
﹁はっ。御身の御心のままに﹂
『stage24:悪所と前兆』
1817
1818
せていくわ、好き放題してくれちゃってまぁ。
まぁでも何とか無事に園遊会は成功に終わったし目的達成ってことでいいのかな。
あの後俺は、講和派の人達をピニャさんのお兄さんに見つからないように送り出した
先輩達と合流した。
その合流地点が帝都内にあるピニャさんの屋敷だ。
勿論、古田さんも一緒ですとも。
まぁ俺はあくまでメイド役としてあの場所に居たので、最後まで古田さんの手伝いを
して普通にあの場を辞した。やり切りましたよ俺。手伝ってくれたメイドさん達にお
菓子のお土産を渡したらめっちゃ喜んでくれたし、割と楽しかったかもしれない。
あ、講和会議を進める役人として来ている菅原さんも最後まであの場に居たので同道
した。
ちなみにどこでもドアは使っていない。
緊急時は使っても良いけど、交渉相手である講和派とはいえ敵に態々手の内を知らせ
る必要はないとの判断だ。
まぁよくよく考えればあれってかなりチートだしね。厳密には〝どこでも〟ではな
いとはいえさ。
だから俺と古田さん、菅原さん、そしてピニャさんは普通に馬車で帝都内へと入った。
『stage24:悪所と前兆』
1819
元々ピニャさんと行動を共にして講和派の味方を増やすべく挨拶周りみたいなのを
行っていた菅原さんはともかく、俺は帝都内へ赴くのは初めての為ちょっとだけわくわ
くしていた。
そのためここ数日は帝都内を散歩するのが日課だ。
先輩と一緒に居なくても良いのかとも思うだろうが、例の如く便利な令呪もあるし、
そ れ に ほ ら な ん と い う か ⋮⋮ い ざ と い う 時 に 帝 都 内 の 地 理 を 理 解 し て い な い と 何 か
あった時に不利じゃん
正体を知らない兵士さんに言われたし。
言えば俺がうろちょろしても子どもは大人しくしてなさいってなものだ。実際に俺の
ん率いる薔薇騎士団の人達も居る。そして第三偵察隊も居るわけだから、ぶっちゃけて
警備をしても良いのだけど、御屋敷付きの帝国の兵士さんが居るし、他にもピニャさ
で外堀を埋めて行くのが中心となり暫くは屋敷内にて過ごす予定だ。
そのピニャさんと菅原さんにしても、園遊会も終わったところなので暫くは手紙など
が現在の役目なのだから俺は仕事が無いのだ。
ちょっかいはかけられず、先輩率いる第三偵察隊はピニャさんと菅原さんを警護するの
だってさ、皇女であるピニャさんの屋敷に居る以上おいそれとお偉いさんであっても
ごめんなさい、ぶっちゃけ暇なだけなのですよ。
?
1820
だから俺も暫くはピニャさんの屋敷内で大人しくしていたのだが、ぶっちゃけて言え
ばすぐに飽きた。
この身体になってから、ジッとしているのがとても辛いのだ。
せめて娯楽の類いがあればいいのだが、そんな物すぐに底をついてしまった。
漫画やらもアイテムボックスやマイルームにあるが、一度読んだ物をまたすぐ読んで
も仕方がないし、ゲームの類いも積んであった分は既にやり終わった。
マイルームにはパソコンもあるからネット︵何故か繋がる︶をしたりもしたが、それ
も ず っ と や っ て い た ら 飽 き て し ま っ た。出 来 な い こ と も 無 い が 特 地 に 来 て ま で ヒ ッ
キーは嫌だ。
例の如くPX帝都支店の手伝いに行こうともしたが、常駐する訳でも無いのですぐに
正職員が集まりお役御免と相成った。
そんなわけでとにかく何かして動きたかった俺は、帝都内を散歩することにしたの
ビースト
だ。
獣人だし仕方ない︵目反らし
というか、今まさに俺は今帝都内を歩いている最中だったりする。
帝都支店の周りからぐるーっと順番に実際に帝都内を歩いているのだが、これが中々
に面白い。
『stage24:悪所と前兆』
1821
ファンタジートリップものでありがちかもしれないが、帝都の様相は中世ヨーロッパ
の世界観と言えばそれで事足りるだろう。
だが、それは知識や映画などから得た認識でしかなく、実際にその中を歩くとなると
また違った趣がある。
例えば、この帝都にもコロッセオがある。
流石に中にまでは入らなかったが、外から見るだけでもこの世界の技術でどうやって
作ったのか、ちょっとしたスタジアムほどの大きさがあるうえにその壁面には細かな彫
刻が成されていた。
人も大勢訪れており、時折中からは身体に響くほどの歓声が聞こえてきていた。
他にもテルマエ⋮⋮じゃなかった、帝都民用の共同銭湯などもあったし、帝都の外に
なってしまうが龍騎兵用の駐屯地とか、帝都の中を走る大きな川なんかもある。
帝都の中でも一番大きな商店街なんかでは買い食いをしまくったのは良い思い出で
ある。
そして今日は、帝都に置いて悪所と呼ばれる場所に行くのが目的だ。
悪所は、帝都に置いて一番低い位置にあり、貧民街と化している。
そして様々な種族が集まり人種の坩堝となっているここは、一般市民は決して近づか
ない犯罪の温床と化している。
1822
しかし、悪所は悪所なりのルールがあるらしく、そこに住む者や地元マフィアに筋を
通して自衛隊はその中にも事務所を設立しているそうな。
今日の目的は悪所の中でもそこに行くのが目的でもある。
実はそこには第三偵察隊の中でも黒川さんをはじめとした数名が仕事に赴いていた
りするので、前々から見に行きたかったのだ。
というのも、これまたよくある話だが悪所は色町やマフィアもあるからか帝都内でも
色々と噂が聞こえてくる場所らしく、低料金で検診や物資︵避妊具とか薬らしい︶の提
供などをすることで代わりに情報を得ているのだとか。
先輩はそういう所にお前は行くなと言っていたが、行くなと言われれば行きたくなる
のが世の常というものだ。
というか先輩はちょっと過保護すぎる。
確かに見た目は幼女だが、中身はこれでも四十過ぎなのだ。自分で言って何やら悲し
くなるが。
だから奴隷やらその辺を見て正義感に溢れて色々暴れたりなんぞしない。しないっ
たらしない。
確かに奴隷という身分に思う所はあるが、この世界には犯罪奴隷というものもある
し、そうせざるを得なかったという人も居るだろう。
『stage24:悪所と前兆』
1823
騙されて奴隷堕ちしたなんてのもあるだろうが、それが本当か判断できない以上、下
手に動く訳には行かない。
それにいち日本人︵内心では︶である俺が奴隷を持つ訳にもいかないだろう。
確か法律的に奴隷は駄目なんじゃなかったっけ
そしてついでに言えば、同行者が居たりする。
でなにも嬉しくないが。
ちなみに今の俺は変装の意味もあって恋ドラモードだ。銀髪美女だぜ。俺自身なの
これなら俺が通っても何も言われないだろう。
が完全スルーだ。
それに、なんだかんだと人の出入りは多く、しかも明らかに目つきが怪しい奴も居る
ないのだろう。
一応警備の兵士は立っているが、欠伸をしているくらいだから立っているだけでしか
さて、そうこうする内に悪所へと繋がる門の所まで来た。
だから思う所があっても、事を荒立てる訳には行かないのだ。
が根本的な解決にはなりゃぁしない。
そもそもそこで何かしても文化としてそれがある以上、一時的にはいいかもしれない
まぁ何にせよ、折角うまく講和が進みそうなところで事を起こすわけにはいくまい。
?
﹂
それが誰かというと│││、
﹁ねぇママ、ここで良いの
﹁臭う⋮、です﹂
﹁⋮⋮チビママ﹂
﹁でもママの正体も小さいよ
﹂
﹁いやだからここは子どもが来るところじゃないんだってば﹂
?
そう、例の幼龍の二人だ。
か小さい言うなし﹂
﹁いやまぁそうだけど、中身は大人なの。でもお前らは中も外も子どもだろう
?
って
⋮⋮教育ママ的な思考に陥っている気がするが、あくまでも大人として駄目なんじゃ
やらを見せるのは教育的に駄目だろう。
言ったが事を荒立てるわけにもいかないし、折角人の生活を見せているのにここで奴隷
戦力的な意味では俺含めての三人でこの帝都を落とせるくらいの力があるが、先にも
だが、さすがに悪所に連れて行くのはマズいと思ってる。
人の営みやら常識を知ってもらう為にも、ストレス発散ついでに散歩に連れていたの
人を放置する訳にも行かず最近の散歩では共に行動していた。
あまりマイルームの方にばかりいる訳にもいかないし、炎龍とはいえまだ子どもな二
?
1824
ないかと思っているのだ。
﹂
だが、その説得も中々に芳しくない。
﹁ママも、私たちを見捨てるの⋮⋮
﹁寂しい⋮、です﹂
?
元炎龍でしょ
正確には古龍だっけか
?
あと、第三偵察隊の人達に会ったら挨拶もするし、人を食べようとはせず、普通に俺
しない。パパと呼ぶのは勘弁してほしいが。
だから基本的に俺の言う事もちゃんと聞くし、最近は先輩を見ても噛みつこうとかは
まった位だ。
いた教科書とかを使って色々教えたのだが小学校レベルの物はほぼほぼ終わってし
知能の方も結構高く、特地で現地民への教育等に使用するために物資として送られて
どちらにしろ、これではもうただの幼女だ。
?
というか、なんでこんなに感情豊かなのさ。
れたのでは堪ったものではない。罪悪感がぱないの。
炎龍の姿のままだったらそれほど気にならなかっただろうが、流石に幼女二人に泣か
なにせこれだ。しかもめっちゃ涙目になるんだよ。
﹁うぐっ﹂
『stage24:悪所と前兆』
1825
達が食べるような食事を共に食べている。
だがそんな二人も、俺と離れることを極度に嫌がる。
本人たちも言っていたが、人の姿を取れるようになったことで感情というものの幅が
広がった気がするらしいし、俺の泥を食ったことでただ人の姿を取れるようになっただ
けでなく、人そのものに近づいているのだろうか
流石に自由にさせる訳には行かないから一条祭りから外へ出るときは俺と一緒に行
が、俺に懐いてくれているし我が儘もこれと言っていう訳じゃない。
幼龍とはいえ炎龍の為か少なくなってきてはいるが思考は未だ捕食者のそれに近い
正直に言って、すごく良い子たちなのだ。
しかしそれが故に俺もこの二人に対しての距離感を未だ掴みきれていない。
?
動を共にしてもらっているが、その時の二人の嬉しそうな顔と言ったら思わず頭を撫で
思考が既に毒されている
たくなるレベルである。
はっ
!!?
﹂
!
﹁うん
﹁はい、です
﹂
﹁どうしても着いてくるの
﹂
けどこの二人の感情を無視して動くのもなぁ⋮⋮。
!?
!
?
1826
俺の後ろで仲良く返事をする二人。
お揃いのデザインで色だけが違う、それぞれ赤と青を基調とした浴衣なようなミヤビ
カタを着ているのだが、嬉しそうに飛び跳ねている。
しかし着いてくるとなると、やはり俺一人はともかくこの二人を連れて行くのは難し
い。
﹁うーん、じゃああっちに行くのは止めようかなぁ⋮⋮﹂
悩んだ挙句に出た答えがそれだった。
だってこの二人を連れて行けないのなら行かないようにするしかない。しょうがな
いじゃないか︵ENR感
俺にはどうもこの二人
しかしその答えもまた幼女二人にはお気に召さなかったようで、途端にシュンと落ち
込む。
﹂
﹂
﹁私たちの所為で、行けないの
﹂
世のお母さんたちどうやったら上手いこと出来ますかね
即座に俺はそう答えてしまった。
﹁や、やっぱり行こうかな
?
を裏切ることは出来ないです。
?
?
!!!?
﹁私たち、邪魔、なのです⋮⋮
『stage24:悪所と前兆』
1827
しかし、言ってしまった手前もう行かざるを得ないだろう。
仕方がない。
あかね
あおい
さっさと目的地である事務所内まで行って、あまりうろうろせずに帰ろうか。
﹂
﹁はい、です
!
﹂
漢字は違うし許してほしい。
いっちゃったのだ。
色 合 い と か で 咄 嗟 に 思 い 浮 か ん で 口 に 出 し て し ま っ た も の を そ の ま ま 二 人 が 気 に
を喋ったりはしない。
あ、語感的に某VOICEROIDを思い浮かべてしまうが、別にどっちかが関西弁
⋮⋮。
お母さんが勝手につけたものらしく、あまり好きじゃないとか。二人目のお母さんェ
どうやら二人にはトワトとモゥトという名前があったようなのだが、それは二人目の
見た目からあまりひねりの無いものを付けてしまったが、二人は大層喜んでくれた。
紅音と碧依というのは俺が咄嗟に付けた名前だ。
!
﹁うん
﹁うし、行こうか紅音、碧依﹂
1828
『stage24:悪所と前兆』
1829
まぁそんなわけで、紅音と碧依の二人とはぐれない様に手を繋ぎながら、結局俺は二
人を連れて門を潜った。
・
・
・
ピニャさんの屋敷に戻ってきた。既に夜である。
いやぁ、途中で若干迷子になっちまったよ。
というのも、子連れの若いお母さん︵恋ドラモードなので普通に美人︶がのんびり歩
いているように見えたようで絡まれる絡まれる。誰がお母さんか。
でもまぁ幼女二人も贔屓目に見てもかなり美幼女だ。
御陰で変な所を触られそうになったり変な薬嗅がされそうになったり何やかんやと
路地裏に連れ込まれそうになったり、色々と大変でした。
1830
ただまぁその辺の薬じゃぁ俺達には効かないし、そもそも臭いや気配である程度は事
前 に 察 知 で き る。上 手 い 事 忍 者 み た い に 忍 び 寄 っ て 引 っ 張 ら れ そ う に な っ た こ と も
あったけど、恋ドラモードな俺は体重が数トンどころではないので引っ張った人の腕が
脱臼した。
あ、触ろうとした輩は咄嗟に上空へぶん投げてしまい、慌ててキャッチしたが、漏ら
しながら逃げて行った。
そういったことが何度もあったために変な所へ迷い込んで、それで更に絡まれたりし
てと、結局何度か暴力沙汰になってしまった。
流石にそこらの人達に負けるわけもなく、無傷で事務所へと辿り着くことが出来た
が、その頃には既に辺りが薄暗くなり始めていた。
何気に今日一日で色々あったが、まぁそこそこ面白い場所もあったし、途中から幼女
︶を治療したりした。
二人も参戦してなんと手加減を覚えたので結果的にはちょっとプラスだと思う。最初
はスプラッタトゥーンになっていたから慌てて被害者︵
う。
俺の念話は一方的だから先輩の返事を貰えないのだが、何も言わないよりは良いだろ
着くなり、念のための帰ったよ念話を送っておいた。
そんなわけで、事前に先輩へと念話で遅れる旨を伝えたうえで漸く帰ってきた。今も
?
無線も事務所にはあったが、
﹃今から帰ります。少し遅くなります﹄なんてものを任務
用の物を使ってまで伝えるのもおかしな話だ。
そう思っていたのだが、何やら俺達が屋敷に着くなり先輩が慌てて出てきた。
何だろうか
緊急転移に二人は着いてこれないからなぁ。
?
そうこうする内に先輩は目の前だ。
まぁともかく話を聞けばいいか。
遠慮してくれたのだろうか
けど緊急事態時には令呪があるし⋮⋮あ、紅音と碧依が一緒に居るのは知っていたし
?
しかし地震とな。
何とも物騒な話だ。
でもなんでそんなことが分かったのだろうか
﹁だから地震だと﹂
るらしく、その影響で揺れる前と似た感覚だとか。だけどこの辺りには火山は無い﹂
﹁悪所に居るハーピィ種の子が地揺れの発生を感知したみたいなんだ。地元に火山があ
俺が疑問に思い首を傾げているのに気付いたのか、息を整えた先輩が言う。
?
全力疾走してきたからか息が切れている先輩。
﹁後輩っ、はっふぅ、地震、が、来るっ﹂
『stage24:悪所と前兆』
1831
﹁そういうこった﹂
なるほどねぇ⋮。
ってあれ、悪所のハーピィって⋮⋮。
﹂
﹁ひょっとしてテュワルって名前だったりする
﹁よく分かったな。知り合いか
そのハーピィの子って﹂
そのこともあって遅くなったのだが、確かにあの子ならあり得るかも。
話し相手になってくれた良い子だ。
ただまぁ最終的にはお菓子を上げたりしている内に慣れたらしく、子どもたちの良い
感じてつい怖がってしまったと謝られた。大当たりです。
めて紅音と碧依は怖くないと伝えつつ理由を聞けば、ドラゴンを前にしたような恐怖を
プルプルワルイヨウジョジャナイヨ︵俺は大人状態ではあったが︶的な感じで自分含
それが娼婦をやっているハーピィの少女、テュワルちゃんだ。
のだ。
悪所にある自衛隊の事務所に行った際に、俺達が入った瞬間にかなり怯えた子が居た
つい先ほどの話だ。
﹁それは⋮⋮、すごいな﹂
﹁うい。さっき知り合ってね。俺達が普通じゃないって気づかれた﹂
?
?
1832
どうやら種族的にか、テュワルさんは感覚が鋭敏らしく、その為その地震の予兆とい
うのも感じたのだろう。
そういえば、日本での大地震直前にも鳥が一斉に飛び立つなんてものも目撃されたら
﹂
しいし、第六感的に鳥類はそういった微細な振動か何かに鋭敏なのだろうか。
﹁地震がいつ来るか⋮⋮までは分かんないよねぇ
に出し終わってるよ﹂
だ。悪所に居る黒川たちも避難が済んだらしいし、緊急事態の為帝都内へ避難勧告も既
﹁あ あ。一 応 連 絡 が 来 て す ぐ に 避 難 を 開 始 し た か ら 大 体 が 安 全 な 場 所 へ と 移 動 し た 後
?
﹁そいつはすみませんっす。このまま避難場所に向かえばいいですか
る先輩。
﹂
俺達に言うと同時に、無線で恐らく避難済みの隊員の誰かに今から向かうことを伝え
﹁おう、俺も屋敷内のチェックとかは終わったから一緒に行くぞ﹂
?
しまった。
遅くなるって伝えた後だったし普通に晩御飯を食べたり寄り道しながら帰ってきて
それは悪いことをした。
﹁だからお前らが最後ってこった﹂
﹁ほむ、それなら安心っすね﹂
『stage24:悪所と前兆』
1833
﹂
﹂
﹂
短く伝達を終えた先輩は改めてこちらを見る。
﹁走れるか
﹁あーばよとっつぁん
﹁最悪飛べるので大丈夫ですよ。乗ります
?
そんなに俊敏なとっつぁんは勘弁だ
﹁待てぇールパーン逮捕だーって言うべきでした
﹁はっや
!?
となのだろうか
﹂
﹂
わりと先輩ってマッチョメンだし。
結構な速さで走ってるのにツッコミを入れる余裕があるってのは流石特戦群ってこ
す。
俺が瞬時に追いついたことに驚きつつもツッコミを入れてくる先輩に苦笑しつつ返
﹁確かに﹂
!!! ?
切り替える。
でもそれをしたおかげですぐに先輩に追いついたので、今度は先輩の横を並走するに
虚空瞬動擬きだ。
いた紅音と碧依を抱きかかえてジャンプし、身体を地面と水平にした瞬間に空を蹴る。
とりあえず置いて行かれる訳には行かないので、大人しく横で事の成り行きを聞いて
言った時には既に走り出している先輩。どれだけ嫌なんだよ。
!
?
1834
?
﹂
なんて特戦群の人に失礼なことを考えていたら、先輩がボソリと言う。
﹁そういやなんで悪所に居るはずの娼婦と知り合いになったんだ
おうふ、気づかれた。
﹁あ、えっと⋮⋮﹂
完全にジト目だ。
咄嗟に答えられずに居ると、走りながらも先輩はチラリとこちらを見た。
てたのに。
俺もさっき普通に答えちまったけど何の反応も無いから、流してくれたもんだと思っ
?
その目にさらされて、思わず冷や汗が出てくるのが分かる。抱えてる二人ごめんね。
!!!
はぁ、これは説教コースだ。 で、でもここはとりあえず
﹂
!!!!
逃げることにした。
﹁あばよとっつぁーん
『stage24:悪所と前兆』
1835
﹂
﹃stage25:穏やかじゃないですね﹄
この世の破滅か
その日、帝都を地震が襲った。
﹁ほ、本当に揺れているっ
!!?
かを懺悔している。
なんとか視界に入れた部下でもあるハミルトンを見れば、彼女もまた地面に蹲り何事
つしかできなかった。
その結果ピニャは恐怖に包まれ、地に手を付き、ただただこの災厄が過ぎ去るのを待
全く情報量が違う。
事前に地震というものに関して聞いてはいたが、やはり伝聞と実際に体感するのでは
それを今まさにその身で感じ取っているピニャ・コラーダは悲鳴にも似た声を上げた。
20年程のの生においても体感したことが無い、地面そのものが揺れるという現象。
!!!
1836
﹁震源は何処ですかね
﹂
初期微動が長かったからかなり遠そうですが﹂
﹁ここで震度3か4ってところか。って後輩、浮くとか卑怯じゃね
この世の終わりを幻視する最中にピニャへと声が届く。
伊丹は、普段は飄々としているがピニャの部下である薔薇騎士団の責めを受けても怒
もまた平静を保っていることだ。
さておき、彼女が気になるのは軍人である伊丹はさておいても、文官である筈の菅原
編み出した秘訣だった。
だとか、色々聞いたがあまり考えないようにすることがピニャが心の平穏を保つために
は置いておく。つい最近、実は火龍だったとか、いやいや火龍を基に火龍を造っただけ
しかしピニャにとってコウジュが宙に立っている程度は今に始まったことなので今
一人だけ宙に立っているが。
その三人は声からも予測していたように平常通りの姿で地に足を付けていた。いや、
そこに居たのは菅原、伊丹、コウジュの三人だ。
揺れる視界の中、彼女は声のした方を見る。
ニャは思った。
その声はどれも堂々としたもので、現状を理解できていないのではないかとすらピ
?
?
﹁だってぞわぞわするし﹂
『stage25:穏やかじゃないですね』
1837
りすら見せず許せる度量もあり、又、コウジュという存在の根幹もまた彼であることか
ら地揺れなど気にもならないのかもしれない。
だが菅原はどうだ。
ここ数日は彼女と共に講和派への根回しをしたが、動けないわけではなかろうが兵士
とは言えない身のこなしであり、前線で戦うものではないと感じ取っていた。
だというのに、騎士としてそれなりの自負があるがピニャ自身は地に手を付き揺れに
対してどうすることもできないというのに余裕の態度。
ピニャは恐怖した。
コウジュという未知なる力をいくつも提示する少女も恐ろしい、それを御す伊丹もま
た恐ろしい、だが、真に恐ろしいのは文官までもが地揺れ程度に恐れることなく立ち続
ける人間を生み出す日本なのではなかろうか。
﹂
地から伝わるものとは別に身震いする。
﹁ピニャさん、大丈夫
﹁ひぃっ﹂
地揺れに心が弱り切って居た所へ嫌な想像をしてしまっていたピニャはコウジュか
﹁いや、こちらこそ、す、すまない﹂
﹁あ、ご、ごめんなさい⋮⋮﹂
?
1838
ら差し伸べられた手に思わず悲鳴を上げてしまった。
ここ数日で、見に宿す力に反してやけに友好的な少女だと理解していたはずなのに彼
女の身体が思わず拒絶してしまう。
コウジュはと言えばガチで怯えられたことにマジへこみしており若干涙目となった。
そんなコウジュを見て、罪悪感が途端にピニャを襲う。
思わず一度引いた手を戻して改めてコウジュから差し出された手を握る。
それだけでコウジュはピニャへ笑顔を向けた。
その笑みを見て、先程まで感じていた恐怖が途端に無くなる。
ピニャには未だこの少女の本質が掴み切れないでいた。故にこそ考えるのを止めた
訳だが。
ただ、コウジュほど心強い味方は居ないことだけは確かだ。
問題があるとすれば優しすぎること。
恐らく心を寄せているであろう伊丹を攻め立てたピニャの部下ですら、怒りに我を忘
れている中でも殺しはしなかった。
﹂
しかしその優しさが故に│││、とそこまでピニャが考えた所で地揺れが止まったこ
とに気付く。
﹁ん、止まったみたいっすね。立てますか
?
『stage25:穏やかじゃないですね』
1839
﹁ああ、すまない﹂
ずっと握ったままだった手をコウジュが引き上げる。
体躯はピニャよりも頭二つ分ほど小さいというのに軽々と引っ張られてしまう。
今は宙に立っている為、立ち上がってしまえば目線は同じだが、その細い腕のどこに
それほどの力を宿しているのか。
心も失せる。
の言うことを聞きあまりにも子供らしくコウジュに懐く姿を何度も見せられては警戒
初めはコウジュ以外の全てに牙を剥いていた︵幼女姿でだが︶彼女たちも、コウジュ
しかしそれもすぐに止めた。
ざるを得なかった。
その引き起こされた二人もまた炎龍だというのだから、聞いた当初ピニャは頭を抱え
それを見てやれやれと言いながらも二人の元へ移動して引き起こすコウジュ。
した双子龍が地面にワザとらしく寝ころぶ。
起こされたピニャを見て、地面に倒れるとコウジュに手を引いてもらえるのだと認識
﹁ったく、ほら二人とも服が汚れちゃうだろ﹂
﹁立てぬ⋮⋮﹂
﹁あー、立てなくなっちゃったー﹂
1840
どうにも日本に関わる幼女は変に考えるだけ頭痛の種が増えるのだとピニャは無理
矢理納得した。
﹁次はいつ来ますかね﹂
﹁それほど時間は無いだろうな﹂
めんどくせぇ﹂
﹂
些か遠い目をしていたピニャに、受け入れられない言葉が聞こえた。
﹁揺り戻しだっけ
?
!?
﹂
?
パンが無ければケーキを食べればいいじゃないとでも言うように、コウジュが空を指
﹁あ、じゃあ皆さんも空に上がりますか
ピニャの周囲に居るハミルトンや兵も絶望の声を上げる。
れないという事。
しかしそれよりもピニャに取って許容できないのは今の地揺れが再び起こるかもし
と構っていた。
その指さされたコウジュはと言えば、揺れが収まったからか既に地へと降り双子龍へ
彼女、とコウジュを指しながらそう言う伊丹。
す。場合によっては何度か﹂
﹁はい、大きな揺れの後には彼女が言っていたように揺り戻しというものが起きるので
﹁も、もう一度揺れるだと
『stage25:穏やかじゃないですね』
1841
しながら皆に言う。
言うと同時にコウジュの陰が膨れて、そのまま美女の姿へと変わる。恋ドラ人形だ。
しかし、その恋ドラ人形が炎龍が人化した姿だと知らされているハミルトンを始め帝
国兵たちはすかさず距離を取った。
の父の事に着いて思い出した。
さておき、今のやり取りの中で余裕が戻ってきたピニャは次の揺れが来ると聞き自ら
めているようだ。
だからハミルトン達の反応が普通なのだが、ピニャも常識の崩壊がどうやら起こり始
幾ら安全だと言われても嵐の中に自ら飛び込むものは居ない。
炎龍とはこの特地においては災害に等しい超位存在だ。
部下の引きように言いそびれてしまった。
実は恋ドラ人形の正体を軽くだが知らされているピニャはその案に乗りたかったが、
かったピニャ。
伊丹の言葉に頬を掻きながら苦笑するコウジュ。そしてそれに乾いた声しか出せな
﹁そ、そうだな﹂
﹁割と良い案だと思ったんだけどなぁ﹂
﹁このあんぽんたんめ﹂
1842
父、つまりは皇帝モルトだ。
ピニャは皇帝の娘であり、しかし同時に臣下でもある。
故に、この非常時において得た有益な情報を何よりも速く伝える必要がある。
﹁ともかくこうしては居れん。父上にお知らせせねば﹂
﹂
続けてピニャは兵に皇宮へ行くと伝え、準備を進める。
ピニャの呟きに、すぐさまハミルトンが駆けだした。 ﹁す、すぐに着替えを持ってまいります
!
﹂
だがその途中でピニャは自衛隊の姿を見て驚く。撤退準備を進めていたのだ。
!?
戻ろうかと﹂
!?
?
マズくないですか
﹂
?
しかしそれに対し伊丹は顔を引き攣らせる。
﹁でもピニャ殿下のお父上って皇帝⋮⋮陛下ですよね
その言葉にピニャはうっと息を詰まらせる。
?
周囲に居るピニャの護衛兵も縋るように伊丹や栗林達自衛隊の面々を見ている。
当然着いてきてくれるものだと思っていたピニャは驚きの声を上げた。
﹁着いてきてはくれぬのか
﹂
﹁えっと、ピニャ殿下は皇宮へと赴かれるのですよね なので我々は悪所の拠点へと
﹁い、伊丹殿たちは何処へ
『stage25:穏やかじゃないですね』
1843
帝
国
よくよく考えなくても、日本と帝国は戦争真っただ中なのだ。その敵国へ日本の自衛
隊が行くのは当然マズいどころでは済まない。
更に言えば、行くのは帝国のトップが居る場所である。
ここ数か月に渡りピニャと自衛隊は親しくしてきた。
だがそれは未だ内々の物であって、講和の見込みが付いてきていたとしても敵兵を自
﹂
国の重要拠点へと自ら招き入れるなど以ての外である。
だが│││、
﹁⋮⋮伊丹殿、どうか着いて来ては貰えぬか
﹁うっ、⋮⋮分かりました﹂
﹂
!!
ない。
ましてや涙目でピニャに願われた伊丹が溜息と共に承諾するのを責めることもでき
しかしそれを誰も責められようはずもない。
お願いするしかない。
ピニャにとって伝えに行かないという選択肢が無い以上、自身のプライドなぞ捨てて
ピニャが取った行動は恥も外聞もなく伊丹に懇願することだった。
﹁か、感謝する
﹁俺も一応着いていくよ。恋ドラも出しとくし大丈夫でしょ﹂
?
1844
『stage25:穏やかじゃないですね』
1845
それにコウジュもまたピニャに着いていくという。
ピニャにとってこれ以上ないほどの増援だ。
もうピニャに怖いものは無かった。
◆◆◆
おおぅ、何このお城すげぇ⋮⋮。
今俺が歩いているのは皇居における皇帝の居室近くだ。
ピニャさんを先頭に、まずは居室に居るであろう皇帝の元へと行くため歩いている。
流石に深夜だしね。いくら皇帝とはいえ寝る時間だよね。
それにしても、俺が知ってる王様と言えばあまり王様らしくないのばかりだからどん
な人か気になる。セイバーさんとか金ぴかとか⋮⋮、あれ、王様の普通って何だ
ま、まぁそれはさておき、日本へと攻めるように命令したッぽい人だから油断できな
?
1846
いのは確かだ。
でも、ピニャさんみたいな面白い人の父親でもある訳だし、性格的にはどんなものな
のだろうか。
あまり受け入れられる内容ではないが、〝帝国〟である以上は他国を責めることで得
た利益で以て配下に報いなければならず、苦肉の策として〝戦争〟というものを行って
いる可能性もあるにはある。
確か、戦争とは最も不利益な交渉手段とかって聞いたことがある。
負けたら負けたで搾取されるが、勝ったら勝ったで活躍した配下には報いねばなら
ず、金しか掛からないとか。
うーむ⋮⋮。
とはいえ歩きながら周囲を見れば一つ一つが素人目に見ても高額であろう品々だ。
歩いている廊下に敷かれている絨毯一つとっても汚れ一つなく、毛は高いのに歩きに
くくなく、むしろ柔らかさが心地よいほどだ。
少し離れたところにある壺など、蝋燭の明かりですら上品に反射してその意匠を見せ
てくれている。この特地にコンピュータ制御により焼き後を付けるなど当然ながら無
いし、職人が丹精込めて一つ一つ描いたのであろう。
それらを始めとして、廊下の端まで綺麗にズラーっと彩っている。
イリヤの屋敷も大概だったけど、あっちは他人の目を意識する必要が無いからか、完
全に貴族の嗜みと言った程度だった。
でもここは訪れた者に帝国の威信を見せつけるためにか、一つ一つ、その置き方から
順番まで意識して飾られているのだろう。
こう、一般人視点だけど、すごいっぽい。
自分ながらなんて語彙の少ない表現方法だろうか。
でも感性は何処まで行っても一庶民なのだから仕方がない。
そうこうする内に、居室に着いたようだ。
◆◆◆
﹁紹介します。ニホン国使節、スガワラ殿。そしてニホン国軍の者達です﹂
﹁ほう、その方らがニホン国の特使か﹂
ほう
そう言いながらピニャさんは部屋の中へと、ノックの後に2、3会話し入って行った。
﹁近衛すら居ないとは何たる体たらく。帝国の近衛も質が落ちたものだ﹂
『stage25:穏やかじゃないですね』
1847
﹁お初にお目にかかります陛下﹂
菅原さんが挨拶と同時にきっちり45度の礼をする。
それに合わせて俺達も敬礼を行う。
チラリと見れば後輩も、見よう見まねで恋ドラ人形と共に敬礼を行っていた。しかし
それは海軍式だ。
さておき、場所は変わって皇宮内における謁見の間である。
寝所よりピニャ皇女と共に少ししてから出てきた皇帝は、やや疲弊した感があるも流
石は皇帝というべきか、威厳を漂わせながら俺達を率いて謁見の間まで来た。
そして一番高い位置にある玉座に座った皇帝を上に見ながら、俺達はピニャ皇女に紹
介をしてもらったのが今という訳だ。
﹁それは真か
﹂
それを聞いた皇帝は驚愕を露わにする。
大きな地震の後には揺り戻しと呼ばれる繰り返しの地揺れが起こる事。
彼女は先程俺達から聞いた話をそのまま皇帝へと告げる。
皇帝の問いに答えたのはピニャ皇女だ。
﹁それに関しては私からお伝えしたいことがあります﹂
﹁して、このような時間に何用か使節殿﹂
1848
!?
﹁彼らは地揺れに慣れており、助言を求めて同道しました﹂
﹁ふむ、この様な場でなければ盛大な宴で歓迎するが今宵は勘弁してもらいたい﹂
ピニャ皇女の言葉に、続けて菅原さんへと声を掛ける皇帝。
﹁はい陛下。改めて我が国との交渉の場を頂きたく存じます﹂
すかさず菅原さんも皇帝へと言葉を返し、口約束とはいえ講和への取っ掛かりを作っ
ていく。
それから暫く、皇帝と菅原さんとの話が続いていく。
護衛として付いて来た俺、富田、栗林は無言のまま直立不動で菅原さんの後ろに控え
ている。
流石に俺もこの状況でふざけることはしない。
後輩は⋮⋮、うん、寝てるわこいつ。
帽子が大きいから目元が見にくいが、身じろぎもせずどうやら夢の中だ。恋ドラ人形
の方は普通に立っているが、こっちは人形だし本体が寝てるから電源offで動いてな
いだけなのだろうな。
と、その時、後輩がピクリと動いた。
そしてゆっくりと目を開けたと思えば、何やら不機嫌な顔となる。
どうしたのだろうか
?
『stage25:穏やかじゃないですね』
1849
﹂
!!!
しかしその答えはすぐにわかった。
すぐにこの場を離れましょう
!!!
恐らく奴隷なのだろうが、全員が全員、違った種族だ。それぞれ違った動物の特徴を
俺も、舌打ちしたい気分だった。
た理由は当然、その女性たちの扱いに関してだろう
皇子の乱入で会話が切れていた菅原さんが横で小さく舌打ちするのが聞こえる。し
皇子は、全裸でボロボロの女性を何人も引きずっていたのだ。
たかの理由が分かった。
その結果、入ってきた時は護衛に囲まれていて見えなかったが、後輩が何故顔を顰め
下がり控える。
その集団は俺達のすぐ傍まで来ると、皇子一人が前へ出て話を始めた。兵は皆後ろに
付けている奴とか何がしたいのだろうか。
恐らく皇子に召集され睡眠時にも拘らず来たためにそうなったのだろうが、籠手だけ
後ろには慌てて来たせいか鎧というには不格好な半裸のガチムチ集団が居る。
先頭に居るのは、確かピニャ皇女の兄だったか。
居た。
大声を上げ、菅原さんと皇帝が話しているにも拘らず中へと大勢で入ってくる者達が
﹁父上ご無事か
1850
体のどこかに持っている。
しかしそれも、切り取られたかのよう半ばから無くなっていたり、傷だらけになって
いた。
首元には首輪が付けられ、そこから鎖が皇子の手元へ伸びている。
そして彼女たちは、無理矢理引きずられたからか首が閉まり息も出来なかったのだろ
う。誰もが空気を求めるように咳き込んでいる。
栗林と富田も、いくらか悪所で奴隷というものを見たとはいえ、目の前でこれほどの
暴虐を見るのは初めてだ。
俺同様、驚愕が過ぎればすぐに怒りへと変わっていく。
しかしここで動く訳には行かない。
この特地において、奴隷という存在は国で認められている。
なのに個人的な意思で事を起こせば内政干渉となり、講和も全て藻屑と消える。
それにここで奴隷というものにムカついたからと異議を唱えても意味は無い。
富田は大丈夫だろう。だが、後輩と栗林は分からない。
それでも動きそうな奴が約2名居るからだ。
俺は小さくそう呟く。
﹁⋮⋮動くなよ﹂
『stage25:穏やかじゃないですね』
1851
栗林も流石に命令違反はしないと思うが、後輩はどうだろうか。
﹂
!!
﹂
!!!!
うとする。
ノリコ
やけに効きなれた韻に、引っ掛かりを覚える。
?
﹁地揺れがまた起こるとノリコが言っているのだ
・・・
一刻の猶予も無いと言わんばかりに、ピニャ皇女を押しのけてでも皇帝を連れて行こ
ピニャ皇女の言葉に、皇子が怒気を孕みながら言葉を遮るように声を荒げた。
﹁何を悠長なことを
﹁兄上、今は主だったものを招集中であり、それを待たずに移動したとあっては│││﹂
そう思いながら、俺もまた我慢をしつつ事の成り行きを見守る。
居るのだから。
俺達の使命を忘れちゃいけない。俺達はピニャ皇女と菅原さんの護衛としてここに
良かった。これなら何とか大丈夫そうだ。
そちらに目をやっている間に、栗林と富田も小さく了解と告げたのが聞こえた。
チラリと見れば血が引くほどに手をぎゅっと握りしめている後輩。
短く、頭の中へ後輩の言葉が届く。
﹃我慢する﹄
1852
特地に来てから知った人の名前はどれも外人に似た韻であった。あえて言えばヨー
ロッパの者が近いだろうか。
今すぐこの場を離れねばならん
﹂
しかし、その引っかかりに関しての答えは、皇子自らが教えてくれた。
﹁どけピニャ
!
﹁落ち着きなされ兄上 しかしよく地揺れがまた起こるとご存知でしたな。我もそれ
!
を伝えに参ったのです﹂
!
その女性は、どう考えても日本人だった。
そしてその中に居る黒髪の女性。ノリコ。
ピニャ皇女と話しながらも、指で引きずられてきた奴隷の女性たちを指さす皇子。
しい。向こうで攫ってきた女だ。そこの黒髪だ﹂
・・・
﹁ふん、こいつが言ったのだ。ノリコが言うにはユリモドシとかいうのでまた揺れるら
『stage25:穏やかじゃないですね』
1853
■■■■■■■■│││││││││
﹄
地揺れにも似た咆哮が、皇宮を襲った。
!!!!!
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1854
﹃stage26:狂化の行方﹄
ああ、駄目だ。
黒く、意識が黒く染まっていく。
■■■■■■■■│││││││││
全てに絶望した目。 諦めた目。
﹄
でも、あんなものを見てしまったらどうしようもないじゃないか。
局何も成長できていなかったのかな⋮⋮。
数十年生きて、先日見た先輩の怪我の時でも何とか耐えることが出来ていたのに、結
自らの喉が激情を現すように咆哮する。
!!!!!
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
『stage26:狂化の行方』
1855
1856
死ぬこともできず、生きているだけの目。
あの子が時折見せる目と一緒だった。
・・
可愛いくてカッコいい俺の最初のマスターと同じ、冷めた目だった。
だからそれを見てしまった時、俺の中で何かが外れた。
気づけば俺の影が膨れ上がり、身体を包み込む。
視界が紅く染まり、意識が薄くなっていく。
霞んでいく視界の中で、腕が大きく太く、そして大振りのナイフと見紛う爪が生える。
視界そのものも高くなっていく。
ああ、もうダメだ。
狂うしかない。
自分で自分が抑えられない。
感情が次から次へと溢れ出し、ただ一つの目的を達成する為に意識が染まっていく。
コワソウ。
スベテヲコワソウ。
ゲンインモロトモ、スベテヲ。
違うんだ。
助けたいだけなんだ。
そんなものを俺は願っちゃいけないんだ。
泥は浄化されているとはいえ、俺が願えばまたナッてしまう。
だから、だから││││、
お願いだ、先輩。
﹄
!!!!!
それはすぐ横に居たはずの後輩が出したものだった。
皇宮中に響く咆哮。
◆◆◆
俺はもう一度、ナいた。
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ││││││
『stage26:狂化の行方』
1857
部屋に居る者すべてが、その強大な咆哮に耳を抑えながらも原因である後輩を見る。
後輩の影が膨らんで泥の様な厚みを持ち、後輩を包む。
それは何度か見た、後輩が変身する時に行っていたものと同じだった。
しかし、今回は何かが違う。
肌を刺すような後輩の感情、それがこの部屋を満たしている。
そしてそれを表すように、膨れ上がった後輩の影は身体を包んだうえで大きくなって
いく。
イタリカで見た大獣になるのか⋮⋮
そう思ったが、それも違うようだ。
だが今度の咆哮は、どこか悲しげだった。
再びの咆哮。
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ││││││
そして暫くして、ソレが現れた。
と入っていく。
次から次へと膨れ上がる影、いや泥は、3メートルほどになると圧縮するように内へ
?
﹄
フィクションによく出てくるような狼男、それを真っ黒にすれば近いだろうか。
その姿になった後輩を改めて見る。
!!!!!
1858
だが、近いだけで全くの別物と言って良いだろう。
牙を剥き出しにする姿は狼のようだが、耳は狐の様に縦に長い。瞳は、元のルビーの
様な赤ではなく、血の様な赫へと変わっている。尾など獣のそれとは違い、いつしか見
た竜人のように長い円錐状のものだ。
そして、何よりも特徴的なのが両の前腕に生えた巨大な刃と黒い翼だろうか。
人など簡単に両断できそうな刃は、血が滴っているかのように刃先が紅く染まってい
る。
両の肩から出る翼は、半透明な黒い何かが噴き出す形で形成されている。それもまた
刃の様で、触れた地面は切り裂かれている。
﹃サーヴァントバーサーカー、寄る辺とか特にないけど参上した。よろしくマスター﹄
バーサーカー
と、そう後輩はいつしか言っていた。
なるほど、それがお前が狂戦士たる所以か。
﹂
!!!!!!!!!!!?
そちらを見れば、近くに居たはずの後輩が皇子をその腕で壁に叩き付けていた。
皇子が叫ぶと同時に、ドゴンっと岩石が砕けたような音が鳴り響く。
﹁ば、ばけも、ぐぁあああああああああああああっ
『stage26:狂化の行方』
1859
今の一瞬であそこまで
﹁ゾルザル様
﹂
分厚い壁にはどんどんと蜘蛛の巣状の亀裂が走り、そしてついには容易く崩壊した。
まったく見えず、音がして初めて気づくほどの速度。そして驚くべき怪力。
!?
﹂
しかし│││、
﹁き、効かない
!?
ない。
後輩に届く前に、その身体を覆うように透明な壁があるかの如く騎士たちの剣は届か
届かないぞ
﹂
そんな後輩へ騎士たちが剣を手に飛び掛かる。
⋮⋮。
手加減したのか、それとも一度で終わらせない為か、出来れば前者であってほしいが
ただ、幸いにも傷だらけで血を流してはいるが致命傷には至っていない様子だ。
皇子は気絶しているのか、ぐったりとしている。
持ち出てきた後輩。
崩壊した壁が上げる土煙の中から、2メートルはあるであろう皇子を容易くその手で
皇子の御付だろう騎士達が、果敢にも黒獣となった後輩へ走り行く。
!!!
﹁なんだよこれ
!!? !?
1860
黒獣は騎士たちの剣など意にも止めず、ノシリノシリとゆっくり歩いてくる。
その間にも騎士たちはどうにか皇子を助けようと剣を後輩へと叩き込む。
だが、その全てが見えない壁に阻まれて無駄となっている。
剣を振るう騎士たちは誰もが鍛えられた身体つきをしており、剣もまた人を斬るため
に鍛えられた鋭い光を放っている。
しかしそれを以てしても、黒獣には何一つ届いてはいない。
﹂
!!!!
そして、一人が駆けだすと同時に全員が逃げ出した。
股の辺りが濡れだしている者も居る。
ものだ。
その表情はまさに怪物を目の前にし、今にも喰われるという自分を予想する絶望その
顔を向けられた騎士たちが後退りする。
識してしまった。
今まで騎士なぞ居ないかのように振る舞っていたが、今の衝撃で黒獣が騎士たちを認
ただ、全く意味がなかったわけではないようだ。
しかしそれも壁に阻まれ精々が軽く後輩の身体を揺らす程度に終わる。
騎士の一人が、岩石程度なら砕けそうな大槌を後輩の背後から叩き込んだ。
﹁これでも喰らえ化け物がっ
『stage26:狂化の行方』
1861
だがそれよりも早く、後輩は影から泥を生み出し、幾つもに分岐したそれはその先端
﹂
を鋭く薄く、剣の様に変えていく。
﹁まずいっ
﹂
だが人が相手なら
あの触手が全て剣となっていたら
それらから、今から起こりそうな惨劇について予想が容易く出来てしまう。
?
後輩は暴走しかけて、女性騎士たちを襲っていた。
れた時。
そしてもう一つ思い出すのは、俺が行き違いの結果ピニャ皇女の騎士団に怪我させら
?
炎龍には効かない鈍ら。
は炎龍の鱗を貫くほどの技物を構成できなかったらしい。
あの後に本人に聞いた話では、泥を形にするにはそれなりに集中力が必要で、咄嗟に
ただその時に見た剣は炎龍に容易く折られていた。
以前に見た炎龍戦、その時に後輩は泥を剣の様にして戦っていた。
後ろから栗林が叫ぶが止まっている暇はない。
俺はすぐに走り出す。
﹁た、隊長
!? !
1862
﹁馬鹿後輩
﹂
﹄
流石に後輩を直接狙う訳には行かないので、ギリギリ掠らない程度に足元を撃つ。
そのまま俺は懐から短銃を取り出した。
後輩を呼びながら、走り寄る。
!!
!!
顔を向ける。
ゾクリと氷柱を背に刺されたような感覚が走る。
顔を向けられただけだ。
それなのに、この全身を襲う悪寒はなんだ
これが、あの後輩だっていうのか⋮⋮
!?
違うはずだ。
十数年の付き合いになるが、こんなのが後輩の本性だとでも言うのか
?
人を殺そうとするのはおかしい。
激戦の中でも、自分が不利になろうとも人を殺そうとしなかった奴が、こんな簡単に
あの馬鹿みたいに何でも楽し気にする後輩がこんなのを望むとは思えない。
!?
そしてその音に後輩は意識を反らし、騎士達からこちらへとその獣そのものとなった
ガンと甲高い音を立て、予想通り後輩の障壁で弾かれる。
﹃■■■■■■■■っ
『stage26:狂化の行方』
1863
1864
こうはい
そう思い、自身を奮い立たせて黒獣と対峙する。
黒獣は、手に持っていた皇子をそのままにこちらへと近づいてきた。
そして皇子を持つのとは反対の手を、こちらへと近づける。
誰であろうとお構いなしか。
それなりの知己であると思っていたが、今の後輩はどうやら誰であろうと敵を排除し
ようとするらしい。
かといってこのままやられる訳には行かないので、向けたくはないが小銃を先程とは
違って直接当たるように構える。
死にたくないのもある。
だが、何よりもこいつ自身が誰かを殺すことで自分を許せなくなるのは明白だ。
うぬぼれる訳じゃないが、俺みたいな知り合いを殺してしまえば自殺でもしてしまい
かねない。
いつしか聞いた、後輩が第五次聖杯戦争を生き抜いた方法。その中に、言峰神父をど
うしたかというものがあった。
そこで後輩は言峰神父の性格そのものを改変することで、悪意そのものをどうにかし
たと言っていた。
言峰神父と言えば、ゲームで言う所のラスボスだ。
『stage26:狂化の行方』
1865
それを後輩は生かしたというのだ。
方法があるとはいえ、普通は生かす方向で対処はしないだろう。
この世界にも当然、Fateに関する二次小説︵SS︶がある。俺も1ジャンルとし
て、たまに読んでいた。
そしてそれらの多くは言峰神父を排除するか、元々の性格がマイルドだったのだと改
変することで成り立たせていた。
だが後輩は、それをした。
なのに、後輩は同時に後悔もしていた。
俺は言峰神父をこの世界での知識としてしか知らない。
でも、後輩の話を聞く限り外道なのは大して変わらないようだ。
そんな言峰神父の精神を弄ったことにすら後輩は自分で疑問を持っていた。
死んではいないだけで根本から変えてしまったらそれはもう別人なのではないか、そ
ういつしか口にしていた。
甘ちゃんだとか偽善者だとか、そう言われてもおかしくは無い思考だ。
俺も危険が迫る前に必要なら排除したいと思う方だ。
なのにあの御人好しは、出来る限り生かすことを是とする。
馬鹿みたいだ。自分が損をするだけだ。力があるからって自分からそんなことをす
るのはただのマゾヒストだ。
だけど、そんな後輩が俺は嫌いじゃない。
だから、こいつの為にも死んでやるわけにはいかない。
﹃セ⋮タス⋮⋮レイ⋮⋮⋮﹄
何かが聞こえた。
それは、脳内に直接語り掛けてくるような声だった。
せ、たす、れい⋮⋮
そう聞こえた。
﹁後輩⋮⋮、耐えてるのか⋮⋮
﹂
そしてそれを行使するのは│││、
最近とみに体験しているその超常的なモノ。
││念話。
この脳内に直接聞こえてくる感覚に覚えがある事だ。
だが何よりも重要なのはそこじゃない。
?
いつしか後輩の歩みは止まっている。
?
1866
その瞳は俺を見ているままだ。
だが、先程までの猛り狂った激情の中に、僅かばかりの理性が感じ取れる。
そういえば、先程に比べて身体の一部が白くなっている。
尾の先や耳の端などほんの一部。
だがひょっとすると、この白こそが後輩が戻ろうとする兆候ではないのだろうか。
・・・・・・・・・・
思い違いかもしれない。そう思いたいだけなのかもしれない。
でも、泥を使っていながら暴走をしているのにまだ誰も殺していない。
幼龍の双子を紹介された時、〝暴走でもしない限り泥が暴発することは無い〟と言っ
ていた。ついでに言えば悪意を持たなければ、とも。
じゃあ悪意を持って暴走したのにこの現状はなんだ⋮⋮
?
後輩と向き合いながら、少しの間静寂が生まれる。
ただ一つ言えることは、後輩はやはり耐えているという事。
しかしそれが何を意味するのかが分からない。
令呪を、と言っているのだと思う。
今度ははっきり聞こえた。
﹃レイ⋮ジュヲ⋮⋮っ﹄
『stage26:狂化の行方』
1867
だがそれもすぐに打ち破られた。
殿下には当てるなよ
﹂
!!
﹂
﹂
﹃■■■■■■■■│││
﹄
広間の入り口付近から弓を構えた兵士が何人も後輩を狙っている。
考えている間に、逃げた騎士たちが増援を呼んできたようだ。
﹁弓隊構え
!
来るぞ
﹂
﹁うおっ
﹁殿下
﹁構えろ
!!!
払った。
﹂
!!!!?
﹁がああああああああああああああああああああああ
﹁腕が、腕があああああああああああああっ
﹂
!!!!!!!!!?
後輩は次の瞬間には彼らの目前へと迫っており、身体を回しながら尾を横薙ぎに振り
しかしそれは後輩に対してあまりにも遅かった。
げると同時に走り始めた後輩を警戒するものと、違う動きをする。
弓隊は驚き後ろへコケるもの、飛んできた皇子を受け止めようと受け止めるもの、投
た。
狙われていることに気付いた後輩が咆哮を上げ、持っていた皇子を弓隊へと放り投げ
!!
!?
!
!!
1868
﹁ひぃぃぃぃぃぃぃぃ
る。
﹂
投げられた衝撃で目が覚めたのか、皇子が自分の状況を理解して悲鳴を上げる。
﹂
!!!!??
その後輩は倒れ伏す兵士たちの中から先ほど投げた皇子を掴み取り、再びその手にす
問題は、少しずつだが出る被害が大きくなってきていることか。
やはり後輩は人を殺さぬように耐えている。 感じだ。
止めたように見えた。無理矢理腕ごと身体を回すことで、結果尻尾で薙ぎ払ったような
今の尻尾を叩き付ける寸前にも、一瞬その凶悪な刃が付いた腕を振り下ろそうとして
壁を壊すことが出来るのなら人の身体なぞ風船の様な物だろうに、だ。
先程も壁を壊すほどの勢いで皇子を叩き付けたのに皇子自身が無事だった。
ただ、誰も死んではいない。
運よく尾の襲撃を免れた者も居るが、尻もちをつき、見るからに戦意は喪失している。
る。
吹き飛ばされ壁に叩き付けられる者も居れば、持っていた弓ごと腕を折られた者も居
三々五々に薙ぎ払われる兵士たち。
!!?
﹁ぐぅ、な、何が⋮⋮ひああああああああっ
『stage26:狂化の行方』
1869
帝国の次期皇帝なんだぞ
﹁やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
﹂
黒獣は皇子の言葉に何も反応を見せず、ゆっくりとその咢を開いた。
だがそれが届いているかは見るからに明らかだろう。
!!!!!!
その皇子を、後輩は目の前まで持ち上げる。
俺はこの国の皇子だぞ
!!!
喚く様に、目の前に来た黒獣の顔へと訴えかける皇子。
﹁や、やめろ
!
!?
﹂
しかし効果はあるのか、再び後輩から念話が響いた。
ただ、先程の物に比べて一段と消え入りそうな声だった。
まずい、まずいまずいまずい
正直に言って殺しても良いような奴らだとは思う。
このままじゃ本当に後輩が誰か殺してしまう。
!!!
だけど、そんなやつらの為に後輩が苦しむところを見たくはない
!!
やはりというか全く効いた様子は無い。寸前で打った弾は弾かれている。
﹃セン│、パ││││﹄
つ。
俺は短銃で、当てないようにだとか贅沢を言っていられなくなったので足を狙って撃
喰う気か
!!!!!
1870
『stage26:狂化の行方』
1871
だが手立てがない。
あるとすれば後輩がさっき言っていた令呪か
ただ止まれと命令すればいいのか
しかし令呪を使ってどうやって後輩を止めればいいのか⋮⋮。
?
無いか
後輩が言うには回数制限がないらしいが、俺を安心させるために嘘を言った可能性は
だけど、それは本当にそうなのか
確かに後輩は死んでも本当の意味で死ぬわけではない。
俺は今何を考えた。
俺はその恐ろしい考えを振り払うように首を振るう。
〝自害せよ〟、その一言で彼のサーヴァントは脱落した。
それは、Fate/Zeroにおけるランサーの最後。
そう考えると同時、ある事が頭を過ぎった。
ではどうするべきか。
だが令呪は確か曖昧な命令では効きにくい筈だ。
?
?
それに自殺の場合発動しないなんてデメリットがある場合はどうする
俺は改めて後輩を見る。
?
?
普段は犬みたいなやつなのに、何だよその凶悪な姿は。
普段は尻尾が無いくせに嬉しい時には尻尾がぶんぶんと振るわれているように幻視
すらできるのに、実際に尻尾があれば一振りで人が吹き飛ぶとは全く以てお前らしくな
いじゃないか。
狼とか猫とか狐とか、最近では龍に慣れるようになったとか言いやがって。
いつもの犬っぽいお前に戻れよ。
どうすればお前を戻せるんだよ
!!
﹂
?
これで味方は俺と後輩だけだ。
後ろから二言三言聞こえた後、いくつかの足音が遠ざかるように耳に届いた。
少し悩んだ感があったが、結局は指示に従うようにしたようだ。
﹁⋮⋮了解﹂
﹁構わない。俺はこの馬鹿をどうにかしてから行くさ﹂
﹁よろしいのですか
﹁お前たちは先に行け。各自の判断で撃ってよし。HMVも乗っていけ﹂
全く以て俺には勿体ない部下だ。
後ろから、富田がそう言うのが聞こえた。
﹁隊長、拉致されていた女性の救助は終わっています。いつでも行けますよ﹂
1872
いや実質一人か。
今にも引き金を引かなければならないかもしれないこの状況を客観的に見た場合味
方とは言えない。
そういえばピニャ皇女は味方と言って良いかもしれないが、根本的に敵国の所属だ。
四面楚歌、そんな言葉が脳裏に走る。
﹄
!!
か、俺へと吠える。
ああくそ、冷や汗が止まらない。
向けられる殺意だけで心臓が止まりそうだ。
もう、時間は無いのだろう。
やはり自害を命じるしか止める方法は無いのか⋮⋮
しかし悲しませないために本人を殺すなんて本末転倒もいいところだ。
?
そんな後輩は、皇子を手にしながらもこちらを脅威と取ったのか煩わしく感じたの
黒く染めた。
ついに後輩の意識が途絶えたのか、身体の一部にあった白い部分が消え去り、全てを
﹃■■■■■■■■│││
『stage26:狂化の行方』
1873
まったく、どうすりゃ良いってんだよ
﹁││あっ﹂
俺は右手の甲に意識を向けながら││││││、
やはり命じるしか、無いのか⋮⋮。
このまま何もせず居れば、晴れて俺は肉塊となる。
今の後輩ならば数秒と掛からず俺へと至るだろう。
これまでか。
後輩は床に罅が入るほどに踏み込み、こちらへと迫る。
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■│││
だが悩むも答えは出ず、無情にもタイムリミットが来てしまう。
!!
葉が思い浮かんだ。
﹄
唐突に、本当に唐突に今の後輩を殺すことなく鎮圧することが出来るかもしれない言
!!
1874
﹂
!!!!
国民的アニメとも言えるその中での言葉だ。
某半妖の犬少年と巫女の生まれ変わりとの物語。
﹁おすわり
『stage26:狂化の行方』
1875
﹂
﹃stage27:一条さん﹄
﹁おすわり
静寂に包まれる間。
この化け物めが
だがそれもすぐに終わる。
!!
その為コウジュが地に沈むと同時に彼もまた地へと叩き付けられていたのだ。
彼はコウジュが無力化される時、その腕に捕まれていた。
ゾルザル・エル・カエサルだ。
意識を失い地に伏しているコウジュ。そのすぐ傍に動くものがあった。
﹁く、そっ
﹂
は一瞬光に包まれたのち、元の幼女へと戻る。
隕石でも落ちてきたかのようなクレーターを作りながら、その中心で潰れたコウジュ
同時、狂化していたコウジュが地へと沈みこむ。
その一言が響くと同時に轟音が謁見の間に響いた。
!!!!
!
1876
そして運よく、コウジュがクレーターを作る直線に掴む腕が緩み、轟音を作るほどの
衝撃の近くに居ながら致命傷を負うに及ばなかった。
そんな彼は悪態をつきながら、床より低くなってしまった場所から這う這うの体で這
い出す。
片腕は折れ、両の足は傷だらけだ。
だが、彼は怒りのあまりに脳内物質が多量に出て痛みを忘れている。
﹁ふ、ふん、こうなればただの小娘じゃないか﹂
言いながら、ゾルザルが傍に落ちていた剣を拾う。
彼は剣を杖にしながら立ち上がり、足を引きずりながらコウジュへと近づいた。
そして剣を無事な方の手で持ち上げる。
﹂
!
は無い損傷を負っているため簡単に剣を落としてしまう。
2メートルを超す長身で自らも戦場に出るために鍛えていたゾルザルとはいえ、軽く
少し離れたところから放たれた伊丹の銃弾だ。
しかしそれよりも早くタンっと短く破裂音が響き、ゾルザルの腕から剣が弾かれた。
剣を振り落とそうとゾルザルが手に力を入れる。
も凌辱の限りを尽くしてやる
﹁お前には死すら生ぬるい。この俺をこうまでしたのだ。四肢を落とし、懇願しようと
『stage27:一条さん』
1877
﹁貴様ぁっ、なんのつもりだ
﹂
ゾルザルはすぐさま剣を弾いた相手に気付いた。
振り返り、激高する。
しかしそれに対して伊丹は静かに睨み返す。
近衛兵
ゾルザルは一瞬、伊丹の眼光に怯んだ。
﹁ピニャ
剣を持ってこい
!
﹂
それだけは許容できないゾルザルだった。
﹂
かといってコケにされたままでは皇子としての名が軽んじられたままに終わる。
なのに重傷を負った自分の周りに味方が誰一人居ない。
この場所は帝国で、その皇宮だ。ゾルザルにとっての本拠地だ。
それに気づいたゾルザルは、頬を引く尽かせる。
だ。
この間へと来ていた兵は皆、コウジュによって戦闘不能へと追いやられているから
ただ、それに反応する者は誰も居ない。
はいかないと伊丹を殺すために兵を呼ぶ。
だがそれもすぐにプライドが塗りつぶし、下民に睨まれてそのままにしておくわけに
!!
!!
﹁き、貴様も大罪人として処刑してやる
!!
1878
!!
﹂
﹁し、しかし兄上
﹁早くしろ
!!!
﹂
!!
確実だ。
今更な気もするが、皇子の命を奪ってしまえば帝国が後に引けなくなってしまうのは
だが、それをしてしまえば講和は完全に無くなってしまうだろう。
銃弾はまだ残っているし、強行突破できないことも無い。
後は逃げるだけ⋮⋮なのだが、その当のコウジュはゾルザルの足元だ。
思惑通りにコウジュを無力化できた。
そんな中、伊丹はどうにか後輩を救出する手立てを探していた。
していた。
斬りたい人間が居て、斬れる道具がそこにある。それだけがゾルザルの心を埋め尽く
ているピニャがなんとか兄を窘めようとしているのもゾルザルには関係なかった。
自分が持っていた剣を弾いた道具を伊丹が未だ構えていることも、それの威力を知っ
ゾルザルは見つけると同時にピニャの腰にある剣へと目をやる。
ニャだった。
使えるものは無いかと周囲に目をやり、目に付いたのが皇帝の傍に突っ立っているピ
﹁うっ⋮⋮﹂
『stage27:一条さん』
1879
現状では向こうの拉致が分かったこともあり、なんとかまだ互いに譲歩することがで
きるだろう。
しかしここで殺してしまえば、折角コウジュが耐えた意味も無くなる。
皇子を殺されて動かないわけにはいかない帝国とも、再び戦端は開かれるだろう。
伊丹はそう思い、銃口を僅かに迷わせる。
その一瞬の迷いが仇となる。
﹂
ならば、後にするか
﹁その身で贖え化け物が
﹂
ゾルザルが瓦礫を落とす。
!!!!
目の前に落ちている、自身をコケにした存在を傷つけられればそれで良いのだ。
だがそんな判断が出来る状況にゾルザルはなかった。
?
かと言ってすぐには武器が手に入りそうにない。
石を使うなぞ王族のすることではない。
た瓦礫を持ち上げる所だった。
そこにはいつまでも剣を渡しそうにないピニャに業を煮やしたゾルザルが落ちてい
ピニャの叫びに慌てて伊丹は目線を戻す。
﹁兄上何を
!?
1880
片手を負傷しているとはいえ、それなりに体格が良いゾルザルが持ちあげた瓦礫は人
の手足位簡単につぶせそうな重量がある。
ただ、持ち上げるに精いっぱいで、落とすしかできなかった。
それでもその重量が1メートルちょっとの高さからとはいえ落ちれば下にあるもの
はただでは済まない。
その塊が、ゆっくりとコウジュへと落ちていく。
銃では弾けないと伊丹が走り出した。
おれ
だが、走るよりも早く、瓦礫はコウジュへと辿り着いた。
在が立っていた。
そして落とされる筈だったコウジュはと言えば、そのすぐ近くにゾルザルとは別の存
それはよく見ればコウジュの上へと落とされそうになっていた瓦礫だった。
それと同時に、離れた場所でドゴンと何かが壁にぶつかった。
声が響いた。女性の声だ。
﹁いやはや己を忘れて貰っちゃぁ困るなぁ﹂
『stage27:一条さん』
1881
1882
それが先程響いた声の主だ。
その女性は足を蹴り抜いた形で居たのを正し、何事も無かったように佇んだ。
この女性こそが伊丹よりも早くコウジュの元へと駆け寄り、瓦礫を蹴り飛ばした正体
だ。
伊丹はその女性を、何故と驚愕の目を向ける。
長い銀髪に勝気な紅い瞳、その瞳孔は縦に割れて肉食獣を思わせる。
肢体はモデルが羨むような凹凸の激しい身体。
しかし、服装は反して学生を思わせるブレザーを着ている。
そして、トレードマークなのか、頭よりも大きい丸い帽子を被っている。
そう、コウジュが恋ドラ人形と呼んでいた、動くはずの無い存在だった。
◆◆◆
俺は目の前の状況に、悔いと安堵と驚愕を綯い交ぜにして動けなくなっていた。
悔いは勿論、後輩の為に咄嗟に動けなかった事。
安堵はその後輩が一先ず助かったこと
そして驚愕は、動くはずの無いものが動いたこと。
改めて恋ドラ人形を見る。
今まで動くはずがないからと数に居れていなかった文字通り人の形をしているだけ
の物の筈だった。
恋ドラ人形は完全に後輩のマニュアル操作だ。そう後輩自身が言っていた。
なのに今、後輩が気絶している今、恋ドラ人形は独自に動いている。
正直に言って、意識に中からすら抜けていたほどにその存在感は無かった。他の者も
見れば同じ様子だ。
だが、それが今になって動き出した。
何故⋮⋮
?
何のつもりだ
﹂
!!
声を荒げる。
自身が行ったことが成されなかったと今更ながらに気付いた皇子が恋ドラ人形へと
﹁小娘
!
後輩が操っている時には見られなかったものだ。
そんな俺を見て、恋ドラ人形は薄っすらと、妖艶にすら思える笑みを浮かべた。
﹁ふふん、何やら訝しんでいるようだけど己は味方だぜぃ英雄殿﹂
『stage27:一条さん』
1883
それなり以上ののプロポーションを持つ恋ドラ人形は身長も高い。それからしても
巨体の皇子が上から拳を振り落とす。
﹁は、放せ
﹂
この
﹂
﹂
!!!
﹂
ほれ﹂
くそ
﹁何だ放してほしいのか
﹁うおおおおおおおおおっ
?
!
た。
それでも逃げられないで焦っている皇子の手を恋ドラ人形が少し勢いを付けて放し
傷ついた足にも拘らず、皇子は身を振ってでも逃げようとする。
!!!?
!!
﹁良い身体つきだ、だが無意味だ﹂
それを皇子が外そうとするも、全く動く気配が無かった。
恋ドラ人形は受け止めた拳をそのまま掴んでいた。
﹁貴様⋮⋮、な
﹂
それを恋ドラ人形はポスンとコミカルにも思える軽い音と共に掌で容易く受け止め
た。
この俺を
﹁戦闘力たったの5か、ゴミめ﹂
﹁な、ご、ゴミ
!!?
﹁あまり吠えるなよぅ。弱く見えるだけだぞ
!?
!?
?
1884
﹂
すると軽い動作だったにも拘らず、皇子の身体は空を滑り暫くして地へと転がった。
﹁お前、は、恋ドラ人形じゃない⋮⋮のか
﹁うおっと
﹂
うと、それをこちらへと放ってきた。
それを聞いただろう恋ドラ人形は答えず、しゃがんで後輩の身体を抱き上げたかと思
俺はそこに至ってやっと声を出すことが出来た。
?
だが、後輩の意思を越えて動いている以上、無視することは出来ない存在だ。
後輩の泥からできている以上、敵ではないと思う。今の行動からもそう思える。
動くはずの無い存在が、何故動いているのか。
その寝顔に少し引っかかる部分もあるが、今は恋ドラ人形に関してだ。
いるだけで気が一つない後輩。実に幸せそうな寝顔で寝ている。
あれだけの事をして、あれだけのクレーターを地に作ったというのに服が多少汚れて
俺は慌てて飛んできた後輩を受け止める。
!?
﹂
?
いいさ英雄殿﹂
﹁ふむふむ、確かにな。だが説明が面倒だ。オートモード的な何かだと思ってくれれば
﹁だが、自分では動けないと聞いていた。それが何故動く
﹁味方だと言ったんだがなぁ。そうでも無ければこんな面倒なことはせんだろうよぅ﹂
『stage27:一条さん』
1885
現状に似合わない、何の気負いも無いような笑顔でそういう恋ドラ人形。
だが目が笑っていない。
それはまるで、仕方がないから居るだけで有象無象などどうでも良いと言わんばかり
に見る物に価値を見出していないような目だ。
後輩に対してだけは感情が籠っているような気がするが、少なくとも英雄殿と俺を呼
ぶくせにそうは確実に思っていないと目からわかる。
﹂
なって後退りをする。
﹁お、お前は何なんだ
﹁そんな訳が│││﹂
﹂
﹁さっきも言っただろう。ドラゴンだと﹂
!
﹁ありえないなんてことはあり得ないそうだぞ、人間。がおー
﹂
!!!!
事ここに至って、皇子は自分が相手にしているものの強さを垣間見たのか、今更に
自身に当たっていた剣を軽くつまみ、指先だけの力で叩き折った恋ドラ人形。
・・・・・・
﹁今の己はドラゴンだ。その鱗を通したいなら聖剣でも持ってくるが良い﹂
・・・・
だがそれを、恋ドラ人形は避けもしない。
そんな恋ドラ人形へと皇子が剣を手に斬り掛かった。まだ諦めていなかったようだ。
﹁こ、の
!!!
1886
﹁ヒィッ
﹂
﹁ぐ、がぁ
﹂
そしてそんな皇子を恋ドラ人形が蹴る。
う。
だが、目の前で恐慌に陥っている皇子にはそうでも無かったのか、尻餅をついてしま
恋ドラ人形が吠える。それは声を大きくしただけの可愛らしくもあるものだ。
!!?
ていない。
﹁や、やめろ、俺をつぶす気か
﹂
﹂
恋ドラ人形がススっと足をずらす。
﹁何だ、潰されるのがお好みかな
何をするつもりだ
!!?
?
!?
?!
その先は、皇子の股の間にあるアレだ。
﹁おい待て止めろ俺は皇子だぞ
﹂
﹂
それだけで皇子は動けなくなったのか、ジタバタとその下でもがくが全く身体が動い
恋ドラ人形は仰向けに地へと倒れ込んだ皇子の腹へと足を乗せる。
だがその着地地点には既に恋ドラ人形が居た。
軽く飛ぶ皇子。
!?
﹁何ってナニを潰されたいんだろう
?
『stage27:一条さん』
1887
﹁違うそうじゃない俺は│││﹂
﹁えい﹂
そんなばっちぃことするかよぅ﹂
﹁ぎゃああああああああああああああああああああああああああ、あ、⋮⋮ああ
﹁あっはっは、マジで潰すと思ったのか
思わず俺は足を内股にした。
﹁あ、ああ、残ってる。残ってる⋮⋮﹂
そして気づけば、俺のすぐ傍まで来ていた。
そう言って、恋ドラ人形は素早い動きでその場から離れた。
﹁ってうぇ、漏らすどころかこんなので興奮してんのかよ。変態だなお前﹂
はしでかしていく。
﹂
一先ずは味方らしいとはいえ未だに警戒心を解けずに居ると、その間にも恋ドラ人形
それに後輩が作っていた〝恋ドラ〟というキャラクターとも何か違う気がする。
やはり、後輩らしくない。
実際にはやらなかったが、少し流れが違えば簡単にやってのけそうな目をしていた。
だがそれを、恋ドラ人形は容易くしようとした。
それほどの恐怖。
皇帝も、若干広げていた足が閉じている気がする。
?
?
1888
﹁恋ドラ人形、お前は本当に誰なんだ⋮⋮﹂
﹁しつこいなぁ⋮⋮。そうだな、己の事は一条とでも呼べ。それが今の所一番近い。マ
マツリ
どこかで聞いたような⋮⋮。
ツリちゃんでも良いぞ﹂
一条
?
一条祭りがどうとか。
?
いた。 そう考えている間に恋ドラ人形││もとい一条とやらは皇帝に向かって交渉をして
だが後輩が言っていた〝一条祭り〟とは│││、
いや待て、後輩が似たようなことを言っていなかったか
今の状況についていけないのもあって、頭の中が混沌としている。
だが思い出せない。
?
皇子は自らの急所を押えながら呆然と床を見ている。
目をやる。
皇帝は何とか憮然とした態度を取り直しそう言いながら自らの息子である皇子へと
ぬ﹂
なった。こちらにも非はあろうが、王族をあのようにしてそのまま返すわけにはいか
﹁う、うむ⋮⋮。だがこちらとしてもこのまま其の方らをただ見逃すわけにはいかなく
ほう
﹁一先ずは脱出と行こうじゃないか。良いよなぁ、そこの人間﹂
『stage27:一条さん』
1889
その目は何も映さず虚ろで、ぶつぶつと何かを呟いている。
その姿には当初の傲慢さは欠片も見られない。
その姿を一条はチラリと見た後に鼻で笑った。
﹂
?
﹂
﹁おい恋ドラ⋮⋮じゃなくて一条
﹁ふん⋮⋮。良いよなぁ
?
それは流石に看過できないぞ。これじゃ強盗だ﹂
!
飲み込み始めた。
そして、後輩がするように自身の影を広げ、その広がった影で転がていた奴隷たちを
る奴隷たちへと近づいた。
一条はそんな皇帝にもゴミを見るような目を向けた後、地面に転がって気を失ってい
﹁ふん、最悪の気分だ。餌位は貰っていくぞ﹂
いられないだろう。
男である以上、あの光景を見て、次の標的が自分かもしれないと言われれば冷静では
が震える。
一条が牙を剥き出しにしながら言えば、皇帝も憮然とした態度を取っては居られず声
﹁い、いや、潰されたくはないが﹂
お前は潰されたい方か
﹁ふん、これだから人間は嫌いだ。己は許可を得ようとしたんじゃない。通告したんだ。
1890
一条は一瞬こちらを見るも、気に入らないとばかりに鼻を鳴らす。
そしてそのまま皇帝を見て、疑問形でありながらも言外に断ったらどうなるかと言わ
んばかりに鋭い目線を向ける。
﹁⋮⋮構わぬ。その程度の奴隷好きにするが良い﹂
皇帝はもう何も言わぬと、諦めたように憔悴していた。
確かに今までの流れを鑑みれば言う気も失せるだろう。
俺もそうだ。
﹂
そんな風に考えていると、すっかり忘れていた2回目の地震が襲った。
﹁ひいいいいいいいいい
!?
俺は後輩を抱き直しながら、慌てて駆け寄る。
やる。
そして出口近くになると振り返り、俺の方へと向いたと思えば早く来いと顎をクイと
う用は無くなったと出口へと歩き始めた。
そんな中、ここまで傍若無人をそのまま形にしたような態度を取ってきた一条は、も
倒れている兵や心神喪失状態の皇子は声を上げる余裕もないようだ。
ピニャ皇女や皇帝の声が響く。
﹁ぐ、こ、これかっ⋮⋮﹂
『stage27:一条さん』
1891
﹂
﹂
そこへ、皇帝が待ったを掛けた。
﹁待つが良い
﹁⋮⋮何でしょう
!
﹂
?
?
ただ変な力を持っているだけで、今までだってそんな力を大っぴらに使わなくてもこ
馬鹿やってるのが似合う、普通の少女だ。
い。
上からすればそう言った気持ちもあるのだろうが、俺個人としてもそうは見たくな
だが、それは戦力としてではない。
確かに後輩は自衛隊へと協力してくれている。
それに対して俺はどう答えるか悩む。
揺れる最中、皇帝は意を決したようにそう言った。
女もまたニホンとやらの持つ力の一端なのか
﹁その女子がドラゴンと言っていたのは本当か 先程のばけ⋮⋮巨躯へと変化した少
だからそうなる前に俺が返答することにした。
殺すかと言わんばかりの目をしていたからだ。
すぐに振り返れなかったのは、速く脱出したいのもあるが目の前の一条が面倒だから
俺は振り返り、皇帝の方へと向く。
?
1892
いつは普通に生活できていた。
とはいえ、やはり後輩という存在が居るだけで得ることが出来る利益というのは確実
に存在し、そしてそれに甘えてしまっている部分があるのは確かなのだ。
だからそういう意味では、力の一端と言えなくもない。
そうして悩む間に一条が答えた。
﹁己はお前たち人間が恐れる幻想種だ。それに違いは無い。ほれ、炎も吐ける﹂
言いながら口の端から炎を零れさせる。
少し距離が離れているのに凄い熱量を持つのか肌がチリチリと焼けるようだ。
そんな一条の姿を見て皇帝は何かを悩むように口元を抑える。
一条は続ける。
﹂
?
その俺に、幽かに皇帝の声が聞こえた。
俺もそれに追随し、宮殿を後にする。
言うが速いか、一条はそのまま歩いて行ってしまった。
﹁ふむ、ではな人間﹂
﹁そんな気はせぬよ。早く行くが良い﹂
てるとは思いあがるなよ
﹁化け物を討つのはいつだって英雄だ。それは己も否定はしない。だがな、貴様らに打
『stage27:一条さん』
1893
﹁我々は、龍の尾を踏むどころか招いてしまっただけだったのか⋮⋮﹂
1894
﹄
﹃stage28:己のターン って、もう終わりか
よぅ
!
そうしてうっすらと開いた目には眩い光が差し込んでくる。
仕方なしに未だ微睡の中に居たい自分にむち打ち起きることにした。
冷たく固い床の感触が起床を急かす。
水底から浮き上がるように目が覚めるのを自覚する。
!!
仲間⋮⋮とは言うが、似たような境遇なだけで真に仲間と呼べるものは既にいないの
隷仲間が数人転がっている。
覚醒しきらぬ頭で近くを見れば、金属のような白磁のような見慣れぬ床に見知った奴
入れてくれるようになった。
さて、水も欲しいが目覚めてすぐで光に慣れていなかった瞳が漸く周囲の情報を取り
どうにも喉が渇いていて水分が欲しい。
思わず喉から出た声は言葉にもならぬ唸り声。
﹁う、うぅ⋮ん﹂
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1895
1896
だが、それでも知らぬ中ではないのは確かだ。
その内訳は全員が女。
自分も含めて、皇子の奴隷をしていたのだからそれも当然だ。
そしてその全員が薄汚れた薄い布で申し訳程度に身体を隠しているのみ。
まぁこれも自分含めて、だが。
彼女らを観察すると、どうやら目覚めているのは自分だけのようだ。
全員が全員とも、悪夢に魘されているかのごとく青い表情で意識を失っている。
待て、そもそも何故自分を含めて気を失っていたのか。
それ以前にここは何処なのか。
覚醒し始めた頭がやっと現状に対しての疑問符を上げて行く。
改めて近くではなく、その周りへと意識を向けると驚愕に包まれる。
先程認識した見たこともない床の材質もそうだが、壁そのものが光を放っていたり、
何かの魔術だろうか空中にそのまま文字や絵が浮かんでいる。
そのどれもが見たことの無い程の技術レベルだ。
パッと見ただけでもそれだ。
見る限りでは扉が無い為ここから出ることは叶わないだろうが天井も高く広い。
探せば更に驚くべき何かがありそうだ。
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1897
ただ、問題は何故ここに自分が居るかだ。
私は今、ゾルザル皇子の奴隷という身分にある。
その身分を認めたくはないが、それに甘んじる必要があるため心を殺して努めてき
た。
しかしここにはその皇子が居らず、この場所自体も帝国の何処にも無い場所だ。
そもそもが皇宮などは切り出した大理石などを材料に作られている。
だがこの場所は切れ目一つ無い鏡面とまでは行かなくとも不思議な光沢を見せる床
や壁を使用している。
城とはその国の権威を見せつけるための一種の道具であり、これほどの物を造れる者
が帝国内に居たとするならばすぐにでも皇宮内はこの素材で一新されていただろう。
さておき、その帝国内で一番豪奢な造りをしている筈の皇宮が霞むほどの技術レベル
が見て取れるここに何故居るかが問題だ。
当然ここに連れて来られた記憶など無い。
自分を拐かす理由も特には見つからない。
あるとすれば殺すために連れ去るだろう位だが、そうする位なら、皮肉なことにその
場合は見つかった瞬間に殺されているだろう。それほどまでに私は恨まれている。
そもそも、自らの本来の身分を中心に考えた︵未だ引きずっていることに自分で自分
1898
が嫌になる︶が、ここには私以外の奴隷も居る。
自分だけが目的で連れて来られたと考えるのは早計だろう。
他にありそうなのは皇子のまた新しい遊びだろうか。
ああ、その可能性が高くて吐き気すらする。
意識を奪ってまで見たことも無い場所に連れてくるなどあの皇子のやりそうなこと
だ。
皇子は楽観主義が極限まで行ったような存在だ。
普通ならその時点ですぐに破滅しそうなものだが、身分が身分の為にそれを成すだけ
の地位と金と周囲の力がある。
皇子が是と言えばそれがそのまま正解になってしまうのだ。
それによって歪められた回答など今までにどれほどあっただろうか。
・・
ただ、これほど厄介な存在もないが故にこそ扱いやすい部分もある。
だからこそ私はアレの元に居るわけであり、父親が皇子を放置しているのも皇子に皇
帝の座を渡しつつもその後ろで実権を握り続けるための傀儡要員としてだ。
脱線したが、その皇子は時に遊びと称して国一つを潰すこともあるほどの人非人なの
だ。
そう考えるとこの状況も皇子の所為の可能性が││││、
﹃■■■■■■■│││
﹄
!!
というのもヴォーリアバニーは第六感を含めた感覚がヒト種に比べて何倍も鋭敏な
私自身はそれほどある訳でも無いが、それでもそこらの人間以上には動ける。
そしてそれ以外にも﹃首狩り兎﹄と呼ばれるほどの戦闘力も特徴だろう。
きない。だから気に入った男が居れば行きずりの関係でも交わることもある。
ヴォーリアバニーは雄が生まれにくく、それ故に他種族と交わらなければ種を存続で
私はヴォーリアバニーという種族だ。
あの狂気を固めたような、殺意を形にしたような、ただ憎しみを前面に出した声を。
そして聞いたのだ。
そうだ。意識を失う前まで私は確かに皇宮に居た。
それを抑えるため身体を抱きかかえるように抑える。
頭の中にこびり付いた咆哮に全身を寒気が走る。
﹁っ⋮⋮﹂
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1899
1900
のだ。
他種族にもそういった種族は存在するが、危機感知に関しては一入だ。
その感覚が、今でも私に怖気を走らせる。
何なのだろうかアレは。
感覚的に亜神の類いの様にも感じたが、似て非なるものだと思う。
咆哮と共にあの部屋を埋め尽くした殺意。
そうだ、それから逃げたくて私は意識を飛ばした。
ただ現実を否定したくて⋮⋮。
しかし、あれは何処にいたのだろうか
そういえばあの時、皇帝に謁見している者が居たがあの中に居たのだろうか
?
しかし広い空間ではあるがあれほどの狂気を隠せる場所があるとは思えない。
あんな者が居れば嫌でも気づく。
だがあの様な存在は居なかった。
い。
へと走らされ、普段の生活状況から心身ともにボロボロになっていたからそれは仕方な
皇子の屋敷からそれほどの距離は無いとはいえ転ぼうが怪我をしようが無理矢理前
謁見の間へと引きずられて行った時、確かに周りを見る余裕は無かった。
?
皇子であるゾルザルが地揺れについて知っていた黒髪の奴隷││ノリコのことを皇
帝に言った瞬間にアレは現れた。そしてゾルザルを殺そうとした。
タイミングで言えばこれが一番当て嵌まりそうだ。
でも、あれを飼いならす
冗談ではない。
その一瞬だけで私は、私は⋮⋮。
﹁だ、誰
﹂
?
た肌の男も居る。ただ一人だけだが女も居る。
よく見ればその後ろにも何人か連れている。白い肌の男も居ればやや黄色身を帯び
浮かべながら近づいてくる。
何を言っているか分からないが、その鍛えられた肉体と強面の顔に似合わない笑みを
れた。
アレの恐怖を思い出していると壁だと思っていた場所が開き、中から黒い肌の男が現
!?
﹂
アレの存在を感じたのは一瞬だった。
あんなものを戦力にするなんて正気の沙汰じゃない。
?
﹁Did you wake up
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1901
そして後ろから来た男たちは茶色い箱の様な物を持っている。
ヒト種のようだが、何者達だろうか
続けて話す。
﹂
﹁Can you speak English
﹁何を言っているの⋮⋮
﹁Oh⋮⋮﹂
﹁な、なんなのよ﹂
﹂
私が警戒心を露わに叫んだためか、最初に話しかけてきた先頭の男は頭を掻きながら
?
﹂
?
これをどうしろと
そこから中身の服を取り出し、手に持つ。
表裏と見回せば、透明な布に穴が空いている場所を見つけた。
?
広げてみれば、透明な布の様な物に包まれた綺麗な生地の服だった。
次に話しかけてきた女は箱から何かを取り出し私に渡してきた。
﹁くれるの
﹁Here it is﹂
た白い肌の女へと何か言った後、後退した。
2、3話しても私が理解していないと気づいたのか、男は肩をすくめた後に後ろに居
?
?
1902
驚くほどに滑らかな材質だ。そして柔らかくも軽い。
何なのだこれは。
この部屋もそうだが、貴族が見れば大金を払ってでも手に入れそうな程の代物だ。
そんなものを私に渡してどうしようというのだろうか。
﹁Wait
﹂
What are you doing
﹁な、何よ着るんじゃなかったの
何故か止められた。
﹂
!?
私に言う。
そして女は私の方を押さえて真剣な表情で、何を言っているかは分からないが色々と
叫ばれた男たちは慌てて後ろを向いた。
脱ごうとした物を上から下ろされ、女は後ろに居る男たちに何かを叫ぶ。
!?
!!
私は着ていた粗末な服とも言えない布きれを捲り上げ│││、
しかしこのよく分からない現状では逆らうわけにもいくまい。
どういう心づもりなのだろうか。
つまりはこれを私に着ろという事らしい。
何を言っているのかは分からないが、身振りで服に袖を通すような仕草をしている。
﹁Well⋮.There are clothes﹂
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1903
その言い方はどこか母が娘に言い聞かせるような調子だ。
察するに男の前で肌を曝すな的なことを言っているらしい。
何だそれは。
今更見られた程度で感じるものなど私のどこにも残っていやしない。
今までに殺しても足りない位に憎んでいる男に何度身体を開いたと思っているのだ。
﹂
﹂
そんなもの、今更だ。
﹁っ
﹁何するの
もし怪我をさせることでこの人間たちから敵意を向けられる状況に陥ることは防が
私は私の目的のために生き残らなければならない。
それだけはできない。
我を負わせてしまう。
種族的にヒト族よりもある筋力で跳ね除けることもできるが、そうするとこの女に怪
戦闘が部族の中では苦手な方である私はこの体勢から女を除けることが出来ない。
突き放そうとするが、無駄に鍛えられた女の身体は離れる様子が無い。
めた。
今更な女の言葉︵推測でしかないが︶に思わず自嘲していると、女は私を突如抱きし
?!
!?
1904
なければならないのだ。
だから、私は抵抗を止めることにした。
抱きしめられることを許容する程度で彼らの信用を少しでも得られるのなら安いも
のだ。
でも、こうして敵意の無い人の温もりに触れるのはいつ以来だろうか。
そう考えると多少はこれも悪くは無い気がする。
先程思い出したあの恐怖感が少しでも和らぐのならこれを甘受するのも吝かではな
い。
その最後の一つを、私の最後の意地を通してみせる。
ならば私に残されたものは既にこの身一つ。
むしろ私を憎んでいることだろう。
守っていた国も、民も、私を見捨てた。
私は私が一番大事だ。
言われずとも分かっている。
流れ的に身体を大事にしなさいだとかそういうことを言っているのだろう。
暫く抱きしめられた後、女はそう言った。
﹁Respect yourself﹂
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1905
1906
とりあえず私は頷いて見せる。
そうすると女は微笑み、そして後ろの男たちがこちらを見ていないか確認してから私
の着替えを改めて促した。
着方が分からず少し手伝われながら着た服は手触り通りに肌に優しい感触を与えて
くれる。
感覚が鋭い為に肌も比較的敏感な種族としてはこれはありがたい。
それに、見たことが無い変わった様式の服だが、伸び縮みして動きやすくありながら
も貴族が着るような光沢もあり、もう着ることは無いだろうと思っていた上等な服だ。
少なからず着ていて嬉しくもなる。 ⋮⋮いや嬉しくなんかない。こいつらが勝手にしているだけだ。
自分でもよく分からない葛藤を続けていると、女は先程の様に箱から服を受け取り他
の奴隷たちを起こしていく。
そして全員にゆっくりと身振り手振りで説明しながら服を着せていった。
服を着た子は、男たちから今度は食料らしきものを渡され、それを食べていく。 全員が着替え終わった頃、再びあの壁の様に見えていた場所が開いた。
やはりあそこは取っ手が無いが扉なのだろう。
ともかくその扉から新たなヒト種が入ってきた。
﹂
それと同時に一気に私の第六感が危険を告げてくる。
﹁終わったー
﹂
しまっているのだろう。
それにヒト種には違いないようだし、数年の奴隷生活の所為で私の感覚もガタが来て
感じている恐怖感も気になるが、それよりも現状理解を進める方が先決だろう。
いや待て、それよりもこの少女二人の言葉が何故か分かる。
抑えることはできているが、何なのだろうかこの感覚は。
気を失う前に見たアレ程ではないが、醸し出す雰囲気は私よりも圧倒的な強者の物。
だが問題はその幼げな姿に反して私に今も警戒を呼び続けるこの感覚だ。
種族を越えても整っていると感じさせる容姿だ。将来は美人になる事だろう。
いた物腰に感じる。
ただ違うのは、紅い髪の少女は快活な表情をしており、蒼い髪の少女は対照的落ち着
二人は双子だろうか、髪色に反してその顔はよく似ている。
てだろうか服の色もそれに合わせて赤味と青味をそれぞれ帯びた色合いだ。
これまた変わった様式の裾は短いのに袖は長い服で、対照的な紅と蒼の髪色に合わせ
しかしその第六感に反して入ってきたのは幼い子ども二人だった。
?
?
﹁起きた⋮です
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1907
﹂
そう自分で自分を窘めながら、私は恐る恐る少女たちに声を掛ける。
﹂
﹁言葉が通じている⋮⋮かしら
﹁ん
?
い。
今のうちに聞きたいことを聞いておくべきだろう。
﹁良かったわ。ここがどこなのか教えてもらえないかしら
﹁駄目よ﹂
﹂
﹁駄目、なのです﹂
﹁な、何故
﹂
他の奴隷たちに関しては渡された食料を食べるのに必死でこちらには気付いていな
し、今なら聞けるかもしれない。
周りのヒト種も、私が少女たちと会話出来ていることに気付いたのか静観するようだ
良かった。やはり聞き間違いなどではなかったようだ。
﹁通じてる、です﹂
?
﹁母様、仲良くするように、言ってた。それから、手伝うようにも言ってた。でも、どう
﹁ママからここに関することを中の人に伝えないように言われているのよ﹂
しかし私の問いに彼女たちは拒絶するように否と答えた。
?
?
1908
いう場所か言っちゃ駄目って、言ってたです﹂
どうやらそう容易く教えてはくれなさそうだ。
しかし情報が一つ手に入った。
ここはこの子達の母親が関わる場所らしい。
ならばその母親とどうにか会話する機会を得られないだろうか
﹂
そしてそれほどの対応を見るからに奴隷の私たちに取るのは何かしらの理由がある
場所を教えられないという事だが、これほどの設備ならばそれも理解できる。
分かる。
先程からのここのヒト種の持て成し方から、私たちは邪険にされている訳ではないと
?
させてもらおう。
この子達のお母様がどんな奴かは知らないけど、私の目的のために利用できそうなら
よし、これならいけそうだ。
紅と蒼の双子は見合わせながら可ではないが色よい返事を返してきた。
?
からの筈だ。
﹂
?
﹁ちょっと聞いてみる、です。多分、大丈夫⋮⋮﹂
﹁うーんと、どうだろう
﹁なら、あなた達のお母様と少し話が出来ないかしら
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1909
1910
ここに私が居る理由。
私たちを丁寧に扱う理由。
どうにせよ、皇子から私たちを奪うという事は敵対行動を取るという事だ。
これだけの技術力があり、そして皇子に敵対行動を取ることが出来る存在。
ああ、考えるだけでも面白い。
私は、ヴォーリアバニーの族長であったこのテューレは、何を利用してでも絶対に帝
国へと復讐するのだ。
だから、悪いがお母様とやらには利用されてもらうわ。
◆◆◆
後輩の暴走から数時間が立ち、ピニャ皇女の邸宅にてアルヌスへ報告を入れた俺は後
輩が眠る部屋の前まで戻ってきた。
帝国に拉致された存在が居たことは日本にとって大きな問題である為、寝耳に水とア
ルヌスを通して上層部は対応に追われているようだ。 そして決まったのが、示威行為として帝国元老院の破壊。
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1911
未だ夜は明けておらず、会議を行う為に存在する元老院に人はまだ居ない。だが国に
とっては重要な施設である。
そう言った理由で元老院が選ばれたわけだが、その辺りの話を詰めるのに少し時間が
掛かってしまった。
実質的には防衛省の大臣と狭間陸将との間で示威行為を行うことはすぐに決まった
のだが、どこを破壊するかで少々時間が掛かったのだ。
民間人に被害を出すわけにもいかず、さりとて重要拠点でなければいかず、その為に
現地を知る人間として俺へと槍玉に挙げられたのだ。
これも1部隊とはいえ隊長である故の仕事だ。仕方がない。
ただ、問題は後輩が皇宮内でしでかしたことに関してだ。
大暴れ、しちゃったからなぁ⋮⋮。
まぁ後輩の事が無ければ俺自身が拳をぶち込んでいたか、栗林辺りがマックノウチし
てたと思うが、立場が問題なのだ。
後輩は特地対策特別顧問という肩書を持っている。
だが、後輩は元とはいえ民間人なのだ。
今でこそ大手を振って俺達と共に行動しているが、訓練を受けた訳でも自衛隊員でも
無い。
非常勤の自衛隊員としての立場を与えることも考えられたが、そうなると〝命令〟と
いうものの重みがのしかかってしまう。
そうなると、一枚岩ではない上層部や諸外国からの圧力が掛かった際に面倒なことに
なる。
そう考えた狭間陸将によって今の位置づけとなった訳だが⋮⋮、くそ、あの時せめて
俺が動いていれば。
後悔するも今となってはもう遅い。
ただ、幸いにも後輩という存在を法的に認めさせるために嘉納さんが動いてくれてい
る。
今では内閣も森田内閣へと移行し嘉納さんも外務大臣へと肩書が変わっているが、内
部での信頼も厚いようで、今回の後輩の事に関してもうまく動いてくれると思う。
﹂
アルヌスに戻り次第連絡を取って情報交換しないといけないな。
﹁はぁ⋮⋮、よし
そうなると帝国との関係性は振出しに戻ると考えるべきだろう。
むしろ普通はなるだろう。皇帝の前で皇子をボコったのだから。
今回の事で講和会議は破談となる可能性が高い。
この数時間における報告の連続とこれからの事を考えると思わずため息が出る。
!
1912
既に講和派が大半を占めているとはいえ、今回のことで主戦派の声が大きくなること
は確実。
再びの戦争、それも視野に入れておかなければならないかもしれない。
とはいえ、それも今すぐではない。
﹂
今は目の前の問題だ。
?
﹁当然だな、己が眠らせている﹂
﹁後輩はまだ起きてないのか﹂
だがいつまでも見ている訳にもいかないので気を取り直して話しかける。
その姿には慈愛が感じられ、整った容姿もあって一瞬見惚れてしまった。
その後輩が眠るベッドの傍らに腰掛け、一条は優しく後輩の頭を撫でていた。
中では後輩が未だベッドで寝ており、穏やかな寝息を立てている。
一条の言葉を得て、一先ず俺は中へと入る。
ぶように言った女の声だった。
だが返ってきたのはある意味後輩以上にやらかしてくれた一条、もしくはマツリと呼
俺はノックをした後、声を掛けて後輩が眠る部屋の扉へと手を掛ける。
﹁構わぬよ﹂
﹁入るぞ
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1913
﹁⋮⋮どういうことだ
﹂
?
か。
でも、なぜ今になって現れた
今までも恋ドラ人形は幾度となく後輩によって産みだされていた。
?
登場時の行動や先程の笑みを思うならばやはりこいつは後輩の味方という事だろう
どうやら、こいつの言葉を信じるのならば後輩の身体を思って眠らせているらしい。
た。
かせるような笑みではなく、どこか嘲るような笑みを浮かべながらこちらへと振り向い
少し声を荒げてしまった俺に漸くこちらを見た一条は先程までの見る者に行きを付
﹁そう⋮⋮か﹂
ない様だったから眠らせておるだけだよ﹂
﹁ふふん、心配性だなぁお前は。まぁ安心するが良いさ。スペック頼りに碌に寝ても居
﹁そういうことじゃないっ。お前が眠らせているのかって聞いてるんだよ﹂
そういう一条。
俺の言葉の意味を理解しているのかいないのか、笑みを浮かべたままこちらも見ずに
だがなぁ﹂
﹁この子の種族は特性として特殊な攻撃に弱いのさ。回避力は他種族間でもトップなん
1914
︶がオートモードの様な物と言っていたが真相は分からない。
だが今の様に後輩の意思を無視して動いているのは当然初めてだ。
一条本人︵本龍
るというのはどういう事だろうか
だがこいつはそれを越えて何らかの能力を駆使している。
う話だったはずだ。
後輩曰く、恋ドラ人形は元ネタ的に物理攻撃が中心の、後はブレスを吐ける程度とい
?
それに、産みだした親に当たる後輩を既に寝ているとはいえ眠らせ続けることが出来
?
さっきの後輩を見る眼差しを俺は信じるよ﹂
あんな目を見たら誰でもそう思うっての
!
﹁事も無げに恥ずかしいことを言うなぁお前﹂
!
拒絶はしないという意味で言った筈なのに何故かジト目で見られた。
﹁う、うるせぇ
﹂
﹁と り あ え ず、お 前 が 後 輩 に 対 し て す ぐ に で も 害 を 齎 す わ け じ ゃ な い の は 分 か っ た。
俺は一度深く呼吸をし、改めて一条を見る。
いや、俺が分かりやすいだけか。
俺の内心を見透かしたかのような言動。
﹁⋮⋮﹂
﹁くふ、英雄殿はあくまでも俺を許容しないか。まぁそれで構わぬよ﹂
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1915
流してくれれば良い物をそう言われてしまっては気恥ずかしさが出てしまう。
だがその評価自体は本当に思ったから言ったのだ。
あれは害する人間に対して向けられる瞳ではない。
﹂
?
?
﹂
?
うだ。まだ己を知られる訳には行かないし、そろそろ限界だから消えさせてもらおう﹂
﹁他にも答えてやりたいのは山々だがどうやら時間切れだ。もうすぐこの子が目覚めそ
それだけ言うと、一条は立ち上がりこちらを見た。
﹁おおぅ、もう喰われたか。致し方ないか﹂
向いた。
そう思っての質問だったが俺の問いに一条は答えず、慌てるようにして後輩の方へと
一条マツリと名乗るくらいなのだから、関係が無いことは無いだろう。
俺が思いつける可能性で言えばこれくらいだ。
⋮⋮あの段ボールが正体ってことか
﹁とりあえずは違うと認識しておくぞ。だがそうなるとお前が名乗った通りに一条祭り
まー根源的な意味では全く別物だとは別物だよ﹂
﹁ふむ、泥を使ったからそう思ったのか。だがそうだとも言えるし違うとも言えるな。
は無いだろうな
﹁それで、結局お前は何なんだ 後輩が取り込んだっていうアンリマユとかいうオチ
1916
﹁あ、ちょ﹂
﹁お前も己の事を言わないでくれよぅ
な気が⋮⋮。
⋮⋮言ったら潰す﹂
というか最後だけ、今までのどこか演じるような話し方ではないガチな声だったよう
俺の言葉も聞かず、一気に捲し立てる一条。
?
どうするんだよ、結局何の疑問も解決しなかったぞおい。
プンと音を立てながら床へ浸み込むように消えた。
結局最後まで謎やら何やら残すだけ残して、身体を崩して黒い泥状になった一条はト
﹁ではな、名残惜しいがおやすみ英雄殿﹂
『stage28:己のターン! って、もう終わりかよぅ!!』
1917
﹂
﹃stage29:それぞれの行方﹄
﹁皇帝陛下、この惨状をどうなさるおつもりか
老年の男の声がその場に響く。
男の名はカーゼル。地位は侯爵だ。
てが瓦礫の下だ。
井だったものは無くなり、そもそも中にあったはずの調度品を探すことが困難な程に全
壁は風通りがよすぎるくらいに崩壊し、清々しい青空が視界いっぱいに見えるほど天
そう言い表すことが正しいであろう惨状の場所だ。
一言で言えば廃墟。
を見る。
手を広げ、他にもこの場に居る元老院議員や有力貴族に改めて認識させるように周囲
﹁このような恥辱、帝国始まって以来のものでございましょう﹂
元老院議員である彼は、玉座に居る皇帝モルトに言葉を続ける。
?
1918
なんとか議員席を掘り越したが、それを議員席と呼ぶのは滑稽な程に埃まみれだ。
ここは数時間前までは議事堂と、そう言い表されていたはずの場所。
﹂
そしてつい数時間前に自衛隊航空部隊によって打ち砕かれた場所だ。
﹁答えてはいただけないのですかな
カーゼルは玉座を囲うようにして座る議員たちへと視線を送り、口を開いた。
報を他の議員へと語ることに決めた。
皇帝の態度を見てカーゼルは皇帝から直接成り行きを聞くのを諦め、自分が集めた情
﹁ならば私めが知る限りの成り行きを語りましょうぞ﹂
しかし皇帝は黙して語らず、ただ鋭い視線を送るのみであった。
挑戦的に目を向けるカーゼル侯爵。
?
それが本当であれば下手人は当然の事ながらその一族郎党さらし首にすらする必要
カーゼルの言葉にその場に居た議員たちは息を飲む。
のだ﹂
物を謁見の間で暴れさせ破壊し、それどころか陛下の御前で皇子殿下にすら手を掛けた
当然であろう。だから事前にそれを行った。しかし使節の者はそれを知るや否や化け
が始まりだ。ご存知の通り門を建造したのは我々帝国であり、事前に敵戦力を計るのは
﹁事の始まりは我が帝国が門を使い戦を仕掛ける前、現地より幾人かを連れてきたこと
『stage29:それぞれの行方』
1919
があるからだ。
それは絶対王政を敷いているのならばどの国でも同じだろう。
国の象徴である存在が︵ゾルザルは皇子ではあるが︶害されたとなれば国の威信に傷
が付き、それを野放しにしたとあっては周辺諸国から侮られる。
如何に周囲でも類を見無い程の強大な群を持っている帝国であっても、いや帝国であ
るからこそ由々しき事態である。
る、まだ男だ、付いてる付いてる﹄と譫言の様に呟いている。
そして何よりも、今までにも何人もの人間を容易く殺めてきた口が、
﹃大丈夫、付いて
る。
2メートル以上ある身体は恐怖に震え、自身の身体を抱きしめるように縮こめてい
傲岸不遜な瞳は視点が合っておらず強姦された少女の様だ。
皇帝と同じ黄金の髪は老人のように白くなっている。
そこへ目を向けてしまった。
むしろ今まで意識して視界の外へと追いやっていた。
が。
その声に合わせて議員たちが件のゾルザルの方へと目を向ける。向けたくなかった
﹁見よ皇子殿下の御労しい姿を。まるで幼子のようではないか﹂
1920
もうダメだろうこれ、と全員が思った。
傍 若 無 人 が 服 を 着 て 歩 い て い る よ う な 存 在 で あ り 馬 鹿 の フ リ を し て い る つ も り に
なっている馬鹿という評価だったが、違う意味でバカになってしまったようだ。
皇帝もこれにはほとほと参った。
何せ皇帝という座にはゾルザルを着かせつつも実権を後ろで握るつもりであったモ
ルトだ、
しかしこれでは対面的にも玉座にまともに座らせることすら出来るか怪しいではな
いか。
何故ニホン国はたっ
?
たい﹂
た一人の女の為に殿下を打擲するに至ったのか知る者が居れば是非説明していただき
たという事も無かろうに。誰か事の次第を知る者は居らぬか
かし自国の民一人のためにこれほどの所業はどういうことか。その奴隷が王族であっ
﹁ニホンの特使は帝国との講和を望んでたと聞く。会合も幾度と開催されたそうだ。し
く。
あまりにもあまりなゾルザルな姿に議員たちはそれぞれ呟きながら目を反らしてい
﹁どれほどの悪夢を見ればこうなるのか⋮⋮﹂
﹁御労しや⋮⋮﹂
『stage29:それぞれの行方』
1921
カーゼルの言葉に誰もが顔を見合わせる。
それも当然だ。
あの場に居た者でこの会議に参加できる者など限られている。
一人は黙して語らず、一人は茫然自失。
妾が彼らについて知る事⋮⋮ですか
﹂
となると、最後の一人であるピニャの名が挙がるのは当然の流れであった。
・
・
・
﹁は
?
その為、議事堂へと召喚されたことに初めは何を問いただされるのかと戦々恐々とし
わなかった。
皇位継承権も10位であり妾の子のため、国の中枢であるこの場所へと入ることは叶
めかけ
ピニャはこの議事堂へと訪れたのは生まれて初めての事となる。
声を出してしまった。
300人からの視線に晒される事となったピニャは、聞かれたことに若干間の抜けた
?
1922
ていた。
実際にピニャとしても思い当たる節があるので余計にそう思ったのだ。
今回の事件に関して下手人であるニホンの特使たちを招き入れたのはピニャ自身だ。
それも伊丹達自身から敵国の皇宮内へと入るのは大丈夫なのかと事前に言われてい
たにも関わらず無理を承知で共を頼んでしまったのだ。
しかし蓋を開けてみればニホンの者達に関しての情報が欲しいということであった。
それを聞き、一気に気が抜けてしまったピニャ。
本来であれば国の重鎮たちの目に晒され声を震わせてもおかしくはないが、炎龍やそ
の他の瞳に比べればひよこにも等しい優しい眼差しでしかない。
ピニャは軽く咳ばらいをし、自身が辿ったニホンとの出会いについて語り始めた。
まず伝えたのは自衛隊の戦力に関してだ。
した。
そのためピニャは自衛隊の戦力もそうだがコウジュの能力に関しても伝えることに
元々コウジュや伊丹の方から秘匿すべき情報とそうでもないものは教えられていた。
イタリカのおいて何があったかを。
ピニャは語る。
﹁彼らと出会ったのはイタリカが最初であった│││﹂
『stage29:それぞれの行方』
1923
銃、戦車、戦闘機、帝国の戦力が如何に強大であろうともその常識を覆す戦力がそこ
にはある。
ピニャの言葉に議員達も息を飲む。
しかしピニャから告げられる恐るべき真実はそれだけにとどまらなかった。
炎龍を打倒し使役、それだけに留まらず大狼に大狐をも操る少女。その少女こそが謁
見の間で暴れた存在だと言うではないか。
そしてゾルザルをアレにした存在は炎龍が化けた姿だという。
何の喜劇かと議員たちは鼻で笑う。
自衛隊の装備に関してだけでも理解したくはない話だ。
しかしそれに関しては園遊会で議員の中でも力を持つキケロ卿をはじめ多くの者が
体感している。
﹂
だがいくらなんでもその少女に関しては空想の話だと言うしかない。
それをピニャは乾いた笑みを浮かべてしまう。
﹁ピニャ殿下、何か可笑しな事でもありましたかな
﹂
?
﹁ああ、ならばあえて言おう。言葉が足らなかったな﹂
﹁⋮⋮言葉が過ぎますぞ
﹁いや何、知らぬというのはこれほどまでに幸せなのかと思っただけだ﹂
?
1924
ピニャは言葉と共に悟りを開いたかのような清々しさすら感じさせる素晴らしい笑
みを浮かべた。
そのピニャの姿に議員たちは圧倒される。
それは皇帝ですらも変わりは無かった。
そこに居るのはただの小娘ではなく、何かを乗り越えた者だ。
瀕死の者を癒すぞ
他には何があったか
﹁あの娘には剣は効かぬ、弓も効かぬ、斧も槍もトロルの一撃すら効くかは分からぬ。聞
けば炎龍は一太刀だとか。空も飛ぶぞ
?
お飾りの皇女はどこへ
皇子だけでなく皇女までどうしてしまったのか。あの騎士ごっこをしていただけの
⋮⋮、ああ、そういえば恐ろしい獣の姿にもなったな﹂
?
議員たちはそう思わずにはいられなかった。
?
﹁今まで秘めていたことをお許しいただきたいが、それはニホン国にて捕虜となってい
﹁こ、これは⋮⋮﹂
それをカーゼル侯爵へと渡した。
そして言いながら懐から一冊の冊子を取り出す。
ピニャは議員たちの様子に気付かず続ける。
﹁これを⋮⋮﹂
『stage29:それぞれの行方』
1925
﹂
る人物の一覧です﹂
﹁なんと
﹁わしの甥が出兵していたのだ
見せてくれ
﹂
!!
!?
﹁ピニャ殿下、一つお聞きしたいがこれら全てが捕虜なのですかな
﹁うむ。亜人部隊は抜かれているがな﹂
﹁何と言う数か⋮⋮﹂
そう、カーゼル侯爵が気付いたのは捕虜とされている者の数だ。
﹂
つまりはそれだけの数を無力化されたという事。それだけの戦力差があるという事。
越えているように思える。
出兵6万、亜人部隊を含めると相当数に上る。しかし捕虜となっている者の数は万は
?
気付く。
その中で、探す者の居ないカーゼル侯爵は冷静であり続けることが出来、あることに
が一喜一憂していく。
探していた名がある事に安堵する者、幾ら名を探しても無いことに涙を流す者と各々
そして奪い合う様にしてその冊子を見ていく。
へと砂糖菓子を前にした蟻の如く群がった。
捕虜の一覧だとピニャが告げるのとほぼ同時に議員たちは冊子を持つカーゼル侯爵
!
1926
﹁ニホンには奴隷という習慣は無く、身代金の有無に関わらず安全は保証されるそうだ。
我が子をこのまま見捨てよと
﹂
故に彼らの心配は一先ず置いておいてほしい。しかし問題は我らが帝国は彼らの逆鱗
に触れてしまった﹂
﹁で、ではどうするのですか
!!?
子ですのでその消息もお教え願いたく存じます﹂
﹁父上、講和を急いでいただきたい。それから他にもニホン国から拉致した者が居る様
それをヒラリと躱し、ピニャは自らの父、皇帝モルトへと顔を向けた。
議員の一人がピニャに掴み掛らんばかりに詰めよる。
!?
うだ。
なるほど、類を見ない強敵を前にしてピニャは一皮むけるどころか大いに成長したよ
そして辿り着くのは当然ニホン国。
何がこうもピニャを変えたのか。 れた様子は微塵も見えはしない。
大胆不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ姿に今までの皇女という肩書だけと言わ
今この場を支配しているのはピニャと言っても過言は無いだろう。
ピニャの堂に入った姿に皇帝は感心する。
﹁ふむ⋮⋮﹂
『stage29:それぞれの行方』
1927
モルトは半分捨て置いた自らの娘に再び関心した。
﹄
!!
俗に言うレ○プ目である。
付けたはずだ。
顔は確かに微笑んでいたかもしれないが、目をよく見れば遠い目をしていることに気
けなのだ。
の議員を物ともせず微笑んでいたのではなくここ最近の経験によって色々と諦めただ
ピニャを父としてよく知っていたならば皇帝は気づけたのであろうが、ピニャは周囲
例えば、ピニャは別に成長したのではない。
ろうか。
ただ、問題があるとすれば今回の会議において少しばかりのすれ違いがあったことだ
斯くして、日本と帝国の争いは終わりを見せ和平へと進み始めることとなった。
﹃はっ
﹁これ以上の戦は帝国に害を齎すのみである。其の方らも早急に対処せよ﹂
後ろで騒いでいた議員たちも慌てて姿勢を正した。
皇帝の言葉にピニャはすかさず膝を付く。
﹁はっ﹂
﹁良かろう、講和を進めるが良い。お主が中心に進めよピニャ﹂
1928
『stage29:それぞれの行方』
1929
他にも本来のピニャから考えられない憮然とした態度に色々と勘違いされているが、
知らぬは本人ばかり。
そして、今回の事で議員たちはピニャの姿に未来を見てしまった。
現実を見、逸早く日本との懸け橋になろうと動いたピニャに議員たちは感嘆の声を上
げるしかなかった。
実際問題として自らの血族を救うための手立てを持つのはピニャのみだ。
議員たちはピニャに頼らざるを得ない。
ピニャの投遣りな態度が奇しくも求めていた講和派を増やすことに成功したのだ。
しかし、それを面白く思わない存在が居た。
次兄、第二皇子たるディアボである。
彼は元々兄であるゾルザルが次期皇帝とされていることに疑問を抱き続けていた。
その為、裏で議員達へと手を回し、自身も元老院議員となっていた。
そして後援者を集め、自身こそが皇帝にふさわしいと思っていた。
そこへ来てのこれである。
急遽元老院が開かれた際は何事かと思ったが、ゾルザルの様子に自らの時代が来たこ
とを感じたディアボであった。
しかし実際は後から呼ばれたピニャが思わぬ才覚を見せ、周囲を圧倒して見せた。
1930
これではまずいとディアボは考える。
場は既に講和派が主だ。
そしてその為には仲介役をしてきたピニャが中心となる必要がある。皇帝すらもそ
う口にした。
このままでは帝国を救ったピニャが皇女となる可能性が高い。
ディアボはギチリと噛み締める。
何か、何かないのかと、ディアボは必死に考える。
暫く思考を煮詰めて、ふと思い出した。
以前に怪しげな醜い男が声を掛けてきたことがあった。
その時はあまりのも胡散臭い姿に歯牙にも掛けなかったが、今は贅沢を言ってられる
場合では無い。
それに思い至ったディアボは、苦々しい表情を浮かべながら誰にも悟られぬようにそ
の場を去った。
◆◆◆
ん⋮、んあ
目が覚める。
って、目が覚めるという事は俺は眠っていたのだろうか
それよりもここは何処だろう
﹂
どうやら寝ているのはベッドのようだが⋮⋮。
?
ふむ、やけに体が軽い。今なら空を飛べそうだ。いや飛べるのか。
目をシパシパと瞬かせながら、ぼやけていたピントを合わせる。
?
?
?
﹂
?
ああよかった。
﹁疑問形にしなくてもちゃんとおはようで合ってるよ。今は朝の九時だ﹂
﹁おや先輩、おはようございます
先輩は書いていた手を止め、こちらへと身体ごと向ける。
ようだ。
先輩の前にある机には書類があり、俺が目覚めるのを待ちながら書類仕事をしていた
声のした方を見れば、すぐ近くに先輩が座っていた。
﹁起きたのか
『stage29:それぞれの行方』
1931
カーテンから光が入ってきてるのは分かるが昼過ぎとかだとどうしようかと思った。
﹂
その後一体どうなったのだろうか
だ。
そして薄らとした意識の中で色々殴り飛ばした後、なんとか先輩に止めてもらった筈
俺はあの女の人を見て暴走したじゃないか。
そうだ、何を寝ぼけたことを言っているのだろうか。
﹁ってそうじゃなくて
!
ん栗林さんは無事だろうか
﹂
何かを言い淀んだ様子だったが、何かあったのだろうか
でも実際に俺はここに居て、先輩もここに居る。
ろう。 それに先輩もこんなことで嘘はつかないだろうし、言ってる通りに無地は無事なのだ
?
突然俺の頭を軽くチョップした後、そう優しく告げる先輩。
﹁大丈夫だ。とりあえずは⋮⋮、まぁ、無事に全員脱出したから﹂
﹁うわふっ、って、何するんすか先輩
そんなことを考えていると頭に突然衝撃が走った。 ?
自分の事で精いっぱいで、拉致されていた女性とか一緒に来ていた菅原さんや富田さ
?
!
1932
﹁それよりも自分の事を心配しろ。アレの後遺症とかはないのか
﹁一応無い筈っすけど⋮⋮﹂
暴走、俺にとっての狂化。
それ自体にリスクは無い。
﹂
ただリスクは無いが、それ以外の代償が大きすぎる。主に周囲の。
?
少し能力を使い始めればすぐに気付いてしまう。感情如何で能力はマイナス方面へ
しかし次際はどうだ。
当初はチートを貰ったからと素直に喜んでいた。
になってしまう。
俺が出来ると思えばできてしまうし、出来ないと思えば簡単なことでもできないよう
俺の能力は感情に左右されてしまう。
しかし今回は突発的な感情の揺れによってなってしまった。
前に立てていた。
以前に使った時は理性を吹き飛ばしても止めてくれる人が居た。そういう作戦も事
実際に俺は暴走してしまったのだ。その事実は変わらない。
使うつもりは無かった、なんてのは言い訳に過ぎないだろう。
﹁というか、見られちゃいましたね﹂
『stage29:それぞれの行方』
1933
も力が働く事は。
﹂
だから日頃から激情を持たない様に気を付けていた。
何するんですか何回も
なのに│││、
﹁って痛
﹁見られたからって何なんだよ。一人辛気臭い顔をして﹂
すると下手人こと先輩は真剣な目でこちらを見つめていた。
俺は痛む頭を押さえながらすかさず下手人へと目を向ける。
考え込んでいた頭に再び衝撃が走った。それも先程より強く。
!!
バーサーカーだから暴走するもんじゃないのか
﹁いやだからですね、俺は暴走を⋮⋮﹂
﹁暴走したから何なんだ
?
﹂
たんですけどねぇ⋮⋮って痛 何でそうポンポン叩くんすか
﹂
﹂
脳細胞が死んじゃ
﹂
!
ってそれは叩く理由
?
うっすよ
﹁叩けば治るかなって思ってな。というかお前不死身なんだろう
じゃないっすよね
﹁確かにそうですけど⋮⋮、あれ、脳細胞もふっかつするのかな
なんて先輩だ。可愛い後輩をポンポンと叩くなんて。
!?
?
!
!?
﹁いやまぁそう言われればそうですけど、本来なら理性で抑えられる筈⋮⋮だと思って
?
!?
1934
あ、可愛いってのはナルシ│的な意味じゃなくて比喩表現で⋮⋮って俺は誰に良い訳
してるのだろうか。
た。もしくは栗林がな。それにお前はあの場で誰も殺していないから気にするな。後
﹁あ の な ぁ 後 輩。一 つ 言 っ て お く が お 前 が し て い な か っ た ら 俺 が あ の 皇 子 を 殴 っ て い
はこっちで上手く処理するさ﹂
﹁でもそれは先輩が止めてくれたからで⋮⋮。それに皇宮から逃げる時とか完全に足手
纏いじゃないですか。先輩は俺が守るって言ったのに﹂
目先の事に囚われず、事実をしっかり見ようと決めたじゃないか。
俺は前の世界で何を学んだんだ。
かった。
俺は暴走してしまったという事ばかりに気が向いてあの女性の事に気が回っていな
そして同時に恥かしくなってしまう。
俺はその事実を客観的に聞かされたことでつい間の抜けた声を出してしまう。
そっか。無事だったのか。
﹁あ⋮⋮﹂
だ。望月紀子さんというらしいが、お前さんに感謝してたぞ﹂
もちづきのりこ
﹁だから気にするなって言ってるだろうが。それにお前の御陰であの女性は助かったん
『stage29:それぞれの行方』
1935
そうして落ち込んでいると今度はポスンと、もはや被り慣れた帽子が乗っていない頭
を先輩が撫でてきた。
﹄と言われたそうだ。正義
?
をせずに胸を張れ﹂
お前さんが持ってる力で救えた命は多いにある。俺だってそうだ。だから辛気臭い顔
﹁後輩の中で暴走というものがどういうものなのかは知らん。聞いてないからな。けど
でも、そうか。暴走してしまったのは変わりないけど、救えていたのか。
﹁は、はは、俺じゃあ正義の味方には役不足っすよ⋮⋮﹂
の味方だな﹂
直接感謝の言葉を伝えたいのですがどうすればいいですか
伝える際に本部の人がお前さんが救ったと告げたら﹃家族で救われたことになります。
﹁そう、あの日お前が救った人の中に望月さんの御家族も居たんだよ。望月さんの事を
﹁え、でもさっき連絡を取ったって﹂
んの御家族は行方不明の家族を探すビラを配っていた﹂
﹁話はそれで終わりじゃないんだよ。あの日、銀座事件が起こった日、あの場所で望月さ
﹁そう、ですか。それは良かった﹂
ら捜索願いが出されていたそうでな。御家族とも連絡が付いた﹂
﹁先に本部へ連絡して彼女について調べてもらった。どうやら望月さんが拉致されてか
1936
そう言いながら先輩は笑みを浮かべた。
それを見て、俺も釣られてしまう。
そんな俺の言葉に、先輩はニヤリと笑う。
﹁はは、ほんと成長しないなぁ俺は。学んだつもりだったのにまた教えられてしまった﹂
﹁俺は先輩だからな。教えて当然だ﹂
﹁当然っすか﹂
﹁おう、当然だ﹂
うん、暴走してボコボコにした人には悪いけど、それで救われた人が居るのなら俺は
謝る訳には行かないよな。
俺は正義の味方じゃない。
紅い弓兵の様に割り切れるほど器用でも無い。
だから偽善と言われても救いたい人を救いたいと誓ったはずだ。
そうあの子に誓った。
世界が変わっても、俺がやることは変わらない。
事も良い方向に持って行けるかもしれんしな﹂
﹁まぁあれだ。とりあえずもう少し俺に暴力のことを話してくれ。上手く行けば今回の
﹁すまないっす先輩。ちょっと弱腰になってた﹂
『stage29:それぞれの行方』
1937
﹁はいっす先輩﹂
色々と俺自身分かっていないこともあるから言っていなかったけど、先輩にだけでも
やっぱり言っておいた方が良いよな。
数も多いから使う時に言えば大丈夫かななんて思ってたけど、それだと今回みたいな
場合に対処しきれない。
一つ一つの能力がチートだからと思考が偏っていた。
もっと柔軟に、多種多様な力を持った武器もあるんだから自重せずに使わないといけ
ないよな。
やるならとことんだ。
﹂
?
そんなの俺らしくないじゃないか。
最近は少し保守的だった気がする。
ここから先、今更だけど自重は無しだ。
俺は改めて決意する。
﹁そっか⋮⋮﹂
﹁俺もっと強くなるよ﹂
﹁何だ
﹁先輩﹂
1938
慣れないことはするものじゃない。
前の世界と違って、事前知識がある訳じゃない。原作があるかどうかも分からない世
界だ。
なら、先にやれるだけの事はやっておこう。
何を以てハッピーエンドかは分からない。
そもそも物語と違って終わりなんてものは無いんだ。
だからこそ、少しでも楽しく過ごせるように頑張ろう。
﹂
?
﹁あの、俺の決意に水差さないで下さいっす⋮⋮﹂
﹁ちょっと待って、もう強くならなくてもいいんじゃない
『stage29:それぞれの行方』
1939