要 報告番号 甲 乙 第 約 号 氏 名 白井 悠一郎 主 論 文 題 名 Elevated Pentraxin 3 in Systemic Sclerosis: Associations with Vascular Manifestations and Defective Vasculogenesis (強皮症におけるPentraxin 3の役割:脈管形成抑制を介した血管病変形成) (内容の要旨) 強皮症は末梢循環障害と諸臓器の線維化を特徴とする全身性疾患であるが、その病態 は未だ不明な点が多い。近年、自然免疫の分子Pentraxin 3(PTX3)が、炎症、細胞外マ トリックス蓄積、血管新生因子Fibroblast growth factor-2(FGF2)の抑制等の機能も持つ こ と が 知 ら れ、強 皮 症 患 者 皮 膚 組 織 で の 発 現 亢 進 も 報 告 さ れ て い る。そ こ で 本 研 究 で は、強皮症の病態形成におけるPTX3の意義について追究した。 強皮症患者171例と健常人19例を対象に、血漿PTX3濃度および血清FGF2濃度を測定し たところ、ともに強皮症患者の方が高値であった。さらに、強皮症の各臓器病変(手指 潰瘍(Digital ulcer: DU)、上部・下部消化管病変、間質性肺疾患、肺動脈性肺高血圧症 (Pulmonary arterial hypertension: PAH)、心病変、腎病変)の有無と、PTX3・FGF2濃 度の関連を調べたところ、PTX3はDU及びPAHで上昇、FGF2はPAHで低下が認められた が、線 維 化 病 態 と の 関 連 は 得 ら れ な か っ た。FGF2シ グ ナ ル を 反 映 す るPTX3/FGF2比 は DU、PAHでともに上昇した。背景因子で補正した多変量解析による検討でも、同様の結 果が得られた。 全患者のうち、DU罹患歴のない148例についてその後のDU発症を追跡したところ、経 過中に18例が新規にDUを発症した。背景因子とともにDU新規発症との関連についてCox 比例ハザード解析を行ったところ、登録時のPTX3上昇およびPTX3/FGF2比上昇は将来の DU発症を予測する独立因子として抽出された。 強 皮 症 で は、循 環 血 液 中 の 血 管 内 皮 前 駆 細 胞(Endothelial progenitor cell; EPC) (CD34 + CD133 + CD309 + 細胞)による脈管形成が障害され、血管病変形成に寄与すること を 報 告 し て き た。そ こ で、PTX3、FGF2と 同 時 にEPC数 を 測 定 し え た70例 を 対 象 に、 DU・PAH、EPC数、PTX3・FGF2濃度の関連を検討した。まず、DUまたはPAHの有無で EPC数を比較したところ、DU、PAHを有する群ではいずれもEPC数が有意に減少してい た。ま た、EPC数 はPTX3濃 度、PTX3/FGF2比 と 負 の 相 関 を 示 し た が、FGF2濃 度 と の 相 関は認められなかった。従って、EPC数低下はDU・PAHの発症およびやPTX3上昇と関連 することが明らかにされた。そこで、EPC分化におけるPTX3の役割を検討するため、マ ウスの骨髄単核球からのEPC分化を評価するin vitroアッセイへのPTX3添加の影響を検討 した。その結果、PTX3添加によりEPCコロニー形成が有意に低下し、PTX3による骨髄幹 細胞からのEPCへの分化抑制効果が示された。 以上より、強皮症患者では、PTX3への高濃度暴露が脈管形成抑制を介してDUやPAH 等の血管病変の形成に寄与していることが示された。
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