深遠なる迷宮 ID:71137

深遠なる迷宮
夢幻の残響
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
││気がつくと見知らぬ部屋にいた。そこは未知の世界。未知へ
と続く、暗く深き﹃深遠なる迷宮﹄。
﹁家族のもとへ帰るために﹂
その想いを胸に、心優しき雷光の少女と共に、俺は
迷宮へ挑む││。
注意事項
※自サイト︻夢幻の残響︼でも連載しています。そちらからの転載
です。
※原作名にある世界に行くわけではありません。
※始めは︵結構しばらくの間︶フェイトちゃんだけです。
Phase1:﹁召喚﹂ ││││││││││││││││││
目 次 Phase2:﹁把握﹂ ││││││││││││││││││
1
Phase9:﹁決意﹂ ││││││││││││││││││
Phase8:﹁虚勢﹂ ││││││││││││││││││
Phase7:﹁推測﹂ ││││││││││││││││││
Phase6:﹁動揺﹂ ││││││││││││││││││
Phase5:﹁家族﹂ ││││││││││││││││││
Phase4:﹁初陣﹂ ││││││││││││││││││
Phase3:﹁教受﹂ ││││││││││││││││││
5
12
19
25
31
37
42
46
Phase1:﹁召喚﹂
貴方は﹃深遠なる迷宮﹄に
他の1,000人のプレイヤー
││Congratulation
挑む第三次召喚者に選ばれました
ゲームマスター
と共に頑張ってください
!
ます
貴方のお好きな能力を思い描いてください
ください
││その能力は既に使用されています
他の能力を思い描いて
他の能力を思い描いて
他の能力を││
││その能力は既に使用されています
││
││その能力は既に使用されています
Good Luck
よ ろ し い で す か ⋮⋮⋮⋮ そ
││その能力は既に使用され││
││その能力は既に││
││その能力は││
││その││
│ │ そ の 能 力 は 使 用 で き ま す
れでは、迷宮の深奥にてお会いしましょう
⋮
⋮⋮
⋮
そのくせ妙にはっきりと覚えてる。
真っ暗な空間でたただ声だけが聞こえてきただけの夢。
!
﹃ゲームマスター﹄、
﹃ユニークスキル﹄⋮⋮何が何だかわからない、け
﹃深遠なる迷宮﹄、﹃第三次召喚者﹄、﹃1,000人のプレイヤー﹄、
!!
ください
!
!
⋮⋮変な夢を見た。
?
││その能力は既に使用されています
││⋮⋮⋮⋮貴方のお好きな能力を思い描いてください
││⋮⋮貴方のお好きな能力を思い描いてください
!
││迷宮の王より、プレイヤー特典としてユニークスキルが贈られ
!
!
1
!
!
!
!
!
!
!
!
ど、何だろう、凄く気持ち悪い。そう、言うなれば、無理矢理〝解り
やすいように〟表現したかのような⋮⋮と言うか、とってつけたよう
な雰囲気とでも言おうか。
そう考えたところで、ふと思った。⋮⋮ここ、どこだ
どうやら俺はベッドに寝ているらしい。
井。
⋮⋮っていうかなんで俺ベッドに寝てるんだ
授業受けてた⋮⋮はず
背筋にゾクリと嫌な予感が走る。
冷や汗が止まらない。
徐々に心臓が早鐘を打ち始める。
一度目を瞑って、大きく深呼吸。
がむき出しの天
確か⋮⋮教室で
と、それを挟んで向かい合う二人掛け程度の大きさのソファー。
その奥⋮⋮ベッドから見て反対側の壁には⋮⋮あれ、キッチンか
そのキッチンらしきものの右横の壁にはドア。
いえば雰囲気が掴めるだろうか、そんな感じの箱。
それにこの部屋、窓も照明も無いのに何で明るいんだ
⋮⋮まったく持って訳が解らない。ホントここ、どこだよ
内心でそうボヤキながら、ベッドから降りた、その瞬間だった。
?
その更に横の角には、大きな箱。ゲーム何かでよく見る宝箱⋮⋮と
出入り口の左横の壁に埋め込まれた謎の端末。
きの扉。あっちはどうも出入り口っぽい。
そして俺の左手側、ベッドから一番離れた壁の真ん中には、観音開
?
角には俺が寝ている粗末なベッド。中央には木でできたテーブル
7、8メートル四方程度だろうか、小さな部屋。
⋮⋮そこは部屋だった。
ないけど、体を起こして周囲の様子を見ることにする。
⋮⋮⋮⋮よし、落ち着いた⋮⋮わけがないけど、覚悟は⋮⋮決まら
落ち着け、俺。
?
?
ば、学校の天井でもない⋮⋮ゴツゴツとした岩
目に映るのは天井。だけど、自分の良く知る部屋の天井でもなけれ
?
?
2
?
﹁っ
﹂
突如襲ってきた頭痛。
ガリガリと、まるで無理やり脳に知識を刻み付けているかのような
激痛と共に、事実書き込まれていくのが解る、知らない知識。
・・・・
ここはプレイヤーの為に用意された﹃マイルーム﹄で、﹃深遠の迷宮﹄
に挑むために準備するための場所で、俺がこの世界で生活するための
場所で、キッチンの横のドアはバスルームとトイレに通じるドアで、
あの箱はアイテムボックスで、その横の端末で色々と買い物やら何や
らができる。
そんなような怒涛の情報が一気に脳内に流れ込んできた。
気持ち悪い。
吐きそう。
頭痛え。
あ、吐く。
⋮
⋮⋮
⋮
辛うじてトイレに駆け込んで、汚物を床に撒き散らす事態は防い
だ。
けどもう気力も体力も使い果たした俺は、ヨロヨロとベッドに戻る
と横になる。ぎしりとスプリングが軋む音がした。
無理やり刷り込まれた知識で、理解したくないけど現状は理解し
た。
つまり、俺を始めとした、この場には姿の無い││恐らく各自の﹃マ
イルーム﹄とやらに居るのだろう││他の999人の第三次召喚者と
やらの﹃プレイヤー﹄は、
﹃ゲームマスター﹄とやらが創ったこの﹃深
遠なる迷宮﹄を攻略するためだけに﹁この世界﹂にいるのだというこ
とだ。
﹃ゲームマスター﹄が何故わざわざ迷宮を創り、そして様々な世界か
3
!!
ら様々な人間を呼び込んで、無理矢理迷宮に挑ませているのかは知ら
ないけれど。それが今回⋮⋮﹃第三次召喚﹄とやらは俺達の世界だっ
た、と。勘弁してくれ。
そして俺は、この迷宮をクリアしないかぎり元の世界には還れない
んだとか。
荒唐無稽。
滅茶苦茶。
夢だろこれ。
そんな思いがいくつも浮かんでは、すぐ消える。
だって俺はもうこれが事実だと理解してしまっているもの。
⋮⋮違うな、理解﹁させられている﹂が正しいか。
部屋の床に立った途端に襲ってきた頭痛と、その後の情報の津波。
あれは迷宮に挑むプレイヤーが、すぐに攻略に参加できるように
ゲームマスターが仕組んだ﹁情報提供﹂らしい。
ソレによって俺は現状が事実だと無理矢理理解〝させられて〟し
まった。
普通ならもっと泣き叫んで、怒鳴り散らしているだろう。けど、そ
の段階は既に通り越してしまった。⋮⋮実際にはまだなのに、そんな
気分にさせられてしまっている。
ひどく、気持ちが悪い。
⋮⋮はぁ、とりあえずちょっと寝よう。
そういえば、今夜はカレーだって、母さん言ってたっけ。
自分の頬を何かが流れる感触に顔を顰めた。
⋮⋮本当に、勘弁してくれ。
⋮⋮帰りたい。
4
Phase2:﹁把握﹂
⋮⋮目が覚めた。
視界に写るのは見慣れた部屋の天井じゃなく、ゴツゴツとした岩が
むき出しの天井。
⋮⋮⋮⋮はぁ、夢じゃない、か。
溜め息を吐きつつ、解っていたことだけども、と独り言ちてから体
を起こす。
幾分気分がスッキリした。⋮⋮って、あー⋮⋮制服のまま寝たもん
だから思い切り皺になってるな⋮⋮はぁ。
まったく、溜め息ばかりだ。
とりあえずサッパリしてくるか⋮⋮と、バスルームへと向かった。
どうやら﹃魔導力式﹄のシャワーもあるらしい。魔導力って何だろう
とは思うが⋮⋮名前から察するに魔法の力ってやつだろうか。
⋮⋮さて。
サッパリしたところで、次に決めるのは今後の事、か。
最終目標は、この迷宮を攻略して元の世界に帰ること。もしかした
ら誰か一人が攻略すれば全員が帰れるかもしれないが⋮⋮余り楽観
視しないほうがいいか。下手をすれば誰も攻略に乗り出さない⋮⋮
なんてことになりかねない以上、攻略した人だけが帰れる、と考えて
いた方が自然だもんな。
と ま れ、方 針 と し て は、〝 命 を 大 事 に 〟。こ れ し か な い。死 ん
じゃったら元も個も無いわけで。
﹁書き込まれた﹂情報によると、この世界は剣と魔法と魔物がはびこ
るファンタジーのようだし。⋮⋮俺に戦いとか出来るんだろうか。
そう思いながらとりあえずアイテムボックスを開け、そこに入って
いた小さなポーチを取り出す。
どうやらこれはこのアイテムボックスと直結しているらしく、この
ポ ー チ を 通 じ て ア イ テ ム ボ ッ ク ス の 中 身 を 出 し 入 れ で き る ら し い。
魔法ってすげえな。
5
⋮⋮って言うか、この﹁知らないはずの情報を知っている﹂って感
覚が凄く気持ち悪い。そのうち慣れる⋮⋮とは思うんだけど。
次いで、出入り口横の端末の前に立った。
それに反応してか、ブンッと電子音のような音を立てて起動する端
末。⋮⋮タッチパネルのようだ。実はこれ、魔法じゃなくて高次元に
行き着いた科学なんだって言われても違和感は無いよな。そういえ
ばどこかで、行き過ぎた科学は魔法と変わらない⋮⋮みたいな表現を
見たことが有る気がする。⋮⋮そんなどうでもいい感想が浮かぶ中、
ディスプレイに目を向ける。
そこに表示されているのは、数行の文字の羅列。
上から﹃ステータス﹄、
﹃アイテムボックス﹄、
﹃ショップ﹄、
﹃コミュ
ニティ﹄、﹃インフォメーション﹄とある。
見たことも無い文字のはずなのに何故か読めるそれらの中から、と
りあえず﹃ステータス﹄を選択。
◇◆◇
︻プレイヤー名︼
長月 葉月 [Hazuki Nagatsuki]
︻称号︼
﹃第三次召喚者﹄
:異世界から召喚された﹃深遠なる迷宮﹄第三次攻略
者。出身世界は﹃地球﹄。
︻ユニークスキル︼
﹃キャラクター召喚・Lv1﹄
:術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続
ディ
レ
イ
召 喚 時 間 は 最 大 3 時 間。送 還 後、召 喚 し て い た 時 間 と 同 時 間 の
スキル使用不能時間が発生する。
召喚可能キャラクター
﹃フェイト・テスタロッサ﹄
︻スキル︼
﹃アーサリア言語﹄:迷宮の王より付与された初期スキル。パッシブ。
この世界の言語を使用することができる。
6
◇◆◇
⋮⋮﹃筋力﹄やら﹃知力﹄やらが数値化されていないだけまだマシ
だけど、まるでゲームだな。
画面の一番上に小さく注釈がついていたんだが、どうやらこのス
テータス画面は﹁ステータスオープン﹂と発声すれば、迷宮内のどこ
でも表示可能らしい。
っていうか出身世界﹃地球﹄って、大雑把過ぎるだろ。
そんな感想と共に思ったのは、俺が選んだユニークスキルってこん
なんだったか、と言うものだった。
それに、この知らないはずの文字が読めたのは、最後にある﹃アー
サリア言語﹄とか言うスキルのせいか。⋮⋮果たしてこの﹃アーサリ
ア﹄ってのは、世界名なのか大陸名なのか国名なのか。
⋮⋮色々思うところはあるが、とりあえずそれはおいといて、先に
他の項目の確認だな。
そう自分に言い聞かせ、前の画面に戻って順番にメニューを見てい
く。
﹃アイテムボックス﹄から行えるのは、中のアイテムの確認と、
﹃分
解﹄、﹃合成﹄。
﹃分解﹄は選んだアイテムを﹃魔力﹄に変換するらしい。
﹃合成﹄は、別々のアイテムを一つにして新しいアイテムを作り出
す。それを行うには﹃魔力﹄が必要、と。﹃魔力﹄はこの他にも、この
部屋の機能の維持にも必要だとか。
で、
﹃魔力﹄を得るには先の﹃分解﹄しかなく、迷宮内に出現するモ
ンスターから得られる﹃魔結石﹄やモンスターの部位素材から多くの
﹃魔力﹄が得られる⋮⋮つまり、生きるためには戦え、と言うことか。
次に﹃ショップ﹄。
これは文字通り買い物ができるみたいで、日用品や食料品から武器
防具まで何でも買えるようだ。
ただし、買うために支払うのはお金じゃなく、先に上げた﹃魔力﹄で
ある、と。
7
次の﹃コミュニティ﹄。これは今は見れなかった。
選んだところ﹁この項目は現在使用できません﹂と出やがった。字
面から察するに、恐らくは他の﹃プレイヤー﹄との交流用だと思うが。
そして最後の﹃インフォメーション﹄。
これは文字通り各種情報。先の﹃魔力﹄に関する情報もこれで見た。
他に迷宮の簡易情報や戦ったモンスターの情報なんかが見れるみ
たいだ。
今見れる迷宮の情報としては、俺がこれから挑まなければいけない
のは、迷宮第一層﹃洞窟エリア﹄で、全10階層で構成され、10階
にはボスが居る、と言うことぐらいか。
さて、次は⋮⋮武器の調達か。
迷宮内にモンスターが出る以上、戦う手段は必要だ。
﹃ショップ﹄の項目の中から﹃購入﹄、
﹃武器﹄と選ぶ。現在マイルー
ムにプールされている魔力量は4,863。これが多いのか少ないの
かはわからないが。切の良い数字じゃないのは、多分一日経ってるこ
とと、さっきシャワーを浴びたからだろうか。
さて⋮⋮武器の種類は⋮⋮無難に剣かな。
安全面を考えるなら、遠距離から攻撃できる武器がいいんだろうが
⋮⋮弓矢とか、それこそ素人には無理な気がする。クロスボウでも有
れば別なんだろうけど。
そう思って、﹃ソード﹄の項目を選択。
ずらっと並ぶリストを見ていくと、全体的に高い気がする。一番安
い﹃ブロンズショートソード﹄で必要魔力が1,000ポイントか。
しばし迷いながらも、買うものを決定していく。
購入した物品はアイテムボックスに入るようだ。試しにと思い、腰
につけたポーチから取り出してみると、大きさの如何に関わらず出し
入れできるようである。便利。
購入したものは以下。
アイアンショートソード:鉄製の刃渡り30センチ程度の剣。1,
500ポイント。
バックラー:裏側に持ち手のついた、直径30センチ程の円形の盾。
8
木製。500ポイント。
マイナーヒールポーション:飲めば体力回復、掛ければ傷の治療に
使える液体の回復薬。効果小。250ポイントが2つ。
他に着替えとか色々200ポイント分。
以上、締めて2,700ポイント。
他に生活費需品や食料品なんかも買わねばならない事を考えると、
とりあえずこれ以上は使いたくない。一回の探索でどれぐらい魔力
を回復できるかわからないのだし。
さて、それじゃあいよいよ、今後の探索の鍵となるだろうユニーク
スキルをば。
まぁ、こんなスキルをゲットしていることから解るように、アニメ
やゲームやらは俺も好きなわけで⋮⋮本来ならワクワクするところ
俺自身、いきなりこんなところに召喚されて、
なんだろうが、今は正直気乗りがしない。
だってそうだろ
迷宮に挑まされる状況に追いやられてるというのに、その俺が取得し
たスキルが、自分が生きるために関係ない相手を召喚して戦ってもら
うスキルなんだから。
一番の疑問は、果たしてこの﹃キャラクター召喚﹄は、創作物の人
物を〝創りだして〟呼び出す能力なのか、それともその創作物の〝世
界〟があって、そこからその人物を呼び出すのか、どちらかと言うこ
とだろうか。
⋮⋮そう思ったところで、考えるまでもないかと思い直す。
これから呼ぶ相手が一人の人間である以上、例え実際がどちらであ
ろうと俺がやることに代わりはない。協力してもらえるように、誠心
誠意頼むだけ。
⋮⋮駄目なら諦めて一人で攻略するしかないな。
使い方は⋮⋮大丈夫、解る。
相変わらず﹁知らないけど知っている﹂状態だが、今更だな。
では、いざ。
覚悟を決めて、俺はその場に手をかざし、脳裏に刻まれた情報に
沿って、言葉を発した。⋮⋮まぁ、召喚したい人の名を呼ぶだけみた
9
?
サモン
いだが。
﹁﹃召喚:フェイト・テスタロッサ﹄﹂
俺の言葉が終わると同時に、かざした手の先に現れる人ひとりが入
るぐらいの大きさの、球状の魔法陣。
思わず﹁おお﹂と感嘆の声が漏れる。
そして次の瞬間││魔法陣がカシャンッと音を立てて砕け││俺
の眼前には、綺麗な金の髪をツインテールにした、黒色のワンピース
を着た10歳ぐらいの少女が居た。
紛れも無い││あのフェイトだ。うむ、美少女である。
彼女は現れた直後、一瞬途惑った表情を浮かべたあと、少し周囲を
見回し、その視線を俺に向けて、﹁あの⋮⋮﹂と声を掛けて来た。
ながつき
はづき
って、呼び出しといてぼうっとしてどうするよ俺。しっかりしろ。
﹁あ、ごめん。えっと⋮⋮はじめまして。俺の名前は長月 葉月。行
き成り呼び出して申し訳ないんだけど、話を聞いてもらえないかな
﹂
そう言って頭を下げた俺に対し、
﹁あ、あの、頭をあげてください﹂
と慌てた様子で言う彼女は、その丹精な顔にふっと微笑みを浮かべ
た。
とにかく俺の半分程度の年の子だ。
不意打ちの表情にドキッとする。落ち着け俺、相手は推定10歳
⋮⋮9歳だったか
﹂
?
その後のディレイなんか││を説明した。
そして最後に、俺が手に入れた召喚能力の仕様││連続召喚時間や
えられ、俺が手に入れたのは﹃召喚能力﹄であること。
召喚された時に、ゲームマスターによって、
﹃ユニークスキル﹄を与
に戻れないらしいこと。
﹃深遠なる迷宮﹄と言うらしいこの迷宮を攻略しなければ、元の世界
﹃迷宮の王﹄とやらにこの世界に召喚されたこと。
ゲームマスター
の状況を説明していく。
少しだけ戸惑ったような表情を浮かべてそう言う彼女へ、俺は自分
す。⋮⋮とりあえず、話を聞かせてもらえますか
﹁私はフェイト。時空管理局嘱託魔導師の、フェイト・テスタロッサで
?
10
?
﹁正直、自分でも未だに混乱している部分もあるんだ。放り出された
状況と、植えつけられた情報と、自分の現状にさ。それに俺自信は戦
いとかそういったこととは無縁の生活してたから、今の自分がまとも
に戦えるとは思わない。けど、攻略しなきゃ帰れないって言うなら
⋮⋮攻略すれば、家族の元に帰ることができるなら、俺はそれを諦め
たくなんて無い。だから、お願いします。力を貸してください﹂
俺の説明を聞き終えた後、フェイトはその表情を真剣な物へと変え
て、ひたと俺を見据えてくる。
俺はその視線を逸らさないように正面から受け止め、彼女の次の言
葉を待つ。
どれだけの時間が経っただろうか。⋮⋮いや、きっと幾許も経って
﹂
いないんだろう、けど、俺にとっては凄く長い時間が過ぎた気がして。
そして彼女は││
﹁⋮⋮うん。私でよければ力になります。⋮⋮一緒に頑張ろう
もう一度その顔に微笑みを浮かべ、彼女の口から発せられたその言
葉に、俺は大きく安堵の息を吐いた。
彼女の中でどんな想いがあるのか、どんな考えから、そう言ってく
れたのか、それは俺には窺い知ることはできないけれど⋮⋮いつか訊
いたら、教えてくれるだろうか。どうして俺に協力してくる気になっ
たのかって。
けど今は、先に言わなきゃいけない⋮⋮いや、心から言いたい言葉
を、言おう。
﹁ありがとう﹂
まだたったの18年だけど、今まで生きてきた中でこの一言をここ
まで心を篭めて言えたのは、これが初めてだったに違いない。
11
?
Phase3:﹁教受﹂
とりあえず、俺に敬語はいらないよ、と告げると、一瞬の間を置い
てから﹁うん、わかった﹂と頷いたフェイト。
さて、彼女も協力してくれるって言ってくれたし、それじゃあ早速
と外に出てみようかと出入り口に向かおうとしたところで、そのフェ
﹂
聞くと、彼女は﹁肝心なこと、確認してなかったから﹂
イトに﹁ちょっと待って﹂と止められた。
どうした
と前置きし、
﹁葉月は戦えるの
その口から出たのはそんな疑問。⋮⋮うん、当然の疑問だよな。
俺も男だ。任せておけといいたいところだけども、見栄を張っても
﹂
意味は無いので正直に﹁戦ったことはない﹂と答える。
﹁⋮⋮剣の使い方は
うな表情を浮かべる。
﹁私でよかったら、戦い方教えようか
﹂
俺の言葉に苦笑を漏らしたフェイトは、
﹁仕方ないなぁ﹂と言ったよ
﹁あはは⋮⋮もう﹂
﹁⋮⋮こういったものを使った記憶はありません﹂
?
それから二時間と少し。
?
一瞬目の錯覚かと思う程に透明だったそれは、徐々にその色合いを
ような球状の魔法陣が出現する。
ややもして、不意にフェイトを包み込むように、召喚した時と同じ
も俺にとっては初めて尽くしで大変だったんだけれども。
つまりは、戦闘の心得や基本的な武器の振り方とかである。それで
る。そのため基礎の基礎を教えてもらった時点で終わったのだが。
チャーを受けた。とは言え教えられているのは戦闘ド素人の俺であ
よ﹂と 言 わ れ て、フ ェ イ ト を 召 喚 し て い ら れ る ギ リ ギ リ ま で レ ク
だが、彼女自身に﹁最初が肝心だから、やると決めたからには今やる
始める前にふと、一度戻った方がいいんじゃないか
と思ったの
その有り難い申し出に、一も二も無く頷いたのは言うまでもない。
?
12
?
?
濃くしていく。
﹁ん⋮⋮時間みたいだね﹂
自身を包み込む半透明の魔法陣を見て、フェイトが言う。
﹂と念を押すように一言。
俺は手を止めて彼女に向き直ると、フェイトは﹁基礎は大事だから、
これからもサボっちゃ駄目だよ
﹂
いつつ簡単に済ませる。⋮⋮母さんの飯が食いたい⋮⋮と思ってし
⋮⋮普段料理なんてしないから、これからが大変だな⋮⋮なんて思
は言え無論必要量だけだが。
端末から﹃ショップ﹄を開き、
﹃食料品﹄から適当に購入。適当、と
か。
そんな事実に思い至ると余計に腹が減ってきた。⋮⋮昼飯にする
は昼のはず⋮⋮そういや昨日から何も食べて無かったな。
みれば、短針は12に近い位置。俺の体内時計が狂っていなければ今
フェイトを見送った後、ふと空腹を覚えて外していた腕時計を見て
⋮
⋮⋮
⋮
納めた魔法陣は掻き消えた。
最後にそんな言葉を残して、大気に溶けるように、フェイトを中に
﹁それじゃ、また3時間後にね﹂
し、
言ったところで、その表情を隠すかのように、魔法陣はその色を濃く
もう居なくなっちゃったんだけど、とフェイトが少し寂しそうに
スって言うのは、私の魔法の先生でね﹂
﹁ううん⋮⋮私もリニスによく言われたなって思って。⋮⋮あ、リニ
﹁どうした
頷き、次いで何かを思い出したか、ふふっと小さく笑った。
それに﹁解ってる。大丈夫﹂と答えると、彼女はうん、と満足げに
?
まって落ち込みそうになった気分を何とか奮い起こす。
13
?
食材と一緒に買った食器をシンクに放り込み⋮⋮先に洗っとくか
⋮⋮。
思い立ったが吉日、と言う訳ではないけれど、さっさと済ませてし
まおう。放っておいたら俺は絶対にやらない自信があるから。
まぁ、使った数は少なくて良かったと思いつつ皿を洗う。
﹂と言う疑問に思い立った。
その最中ふと、﹁そういやスキルを再使用できるようになるまでの
時間って解るんだろうか
この先迷宮の攻略が順調に言っ
今はまだいい。安全な部屋の中にいるからな。
けど、これが迷宮の中だったら
なんて言われて一瞬浮かれかけたんだが⋮⋮ふと、幾らなんでも自分
先程指導を受けている間も、フェイトにも﹁思ったより筋が良いね﹂
いくのが解る。
不思議と、何度も何度も繰り返すうちに、自分の動きが良くなって
それを思い出しながら、幾度と無く繰り返し続けた。
かった。
﹃戦闘﹄そのものの経験が豊富な彼女の説明は、素人の俺にも解りやす
﹁剣や盾の扱いは、私も専門じゃないんだけど⋮⋮﹂と言いつつも、
注意事項。心構え。その他もろもろ。
武 器 の 持 ち 方。振 り 方。剣 や 盾 に よ る 受 け 流 し。戦 闘 時 の 心 得。
いようにしないと。そのためには反復あるのみ。
さて、無事に疑問も解消されたことだし、折角教わった事を忘れな
く残り153分24秒ってことだろう。
4﹂。後ろの数字が一秒ごとに減っていったことから考えるに、恐ら
に カ ウ ン ト が 浮 か ん だ か ら だ。今 頭 に 浮 か ん だ の は、﹁1 5 3.2
⋮⋮と言うのも、実際にスキルへと意識を向けてみたところ、脳裏
そんな疑問はすぐに解消されたのだが。
言って非常に怖い。
スキルを使えない時間がどれだけあるのか解らないってのは正直
れば、必ず召喚不能時間と重なることになるだろう。そんなときに、
た場合、恐らく迷宮の中で夜を明かす事態もあると思われる。そうな
?
のこれは異常だろうと思い至り、薄ら寒いものを感じながらも﹁ス
14
?
テータスオープン﹂と言葉を発した。
眼前に現れるウィンドウ。
※※
そこに浮かぶ文字を見て、そういうことか、と独り言ちる。
※※新たな︻称号︼を獲得しました
﹃召喚師﹄:召喚術を使用して戦う者。
そんな考えが脳裏を過ぎったところで、頭を振って思い直
前回と同じように、かざした俺の手の先に現れる球状の魔法陣。そ
﹁﹃召喚:フェイト・テスタロッサ﹄﹂
サモン
で、再びの召喚を試みる。
気がつけば既に3時間が経過し、スキルが使用可能になっていたの
⋮⋮時間ってのは、何かに集中してるとすぐに過ぎるもので。
そう思いながら、俺は再び剣を振り始める。
俺の力になるはずだ。
ってことは、こうして訓練することは決して無駄じゃない。確実に
イトの指導を受けたからだろう。
みるに、この﹃剣士・Lv0﹄とやらを得たのは、俺が剣を持ってフェ
恐らくまだ戦いに出ても居ないのにこうして︻称号︼を得た事を鑑
それに、だ。
ステム﹄だ。
えるものは使わないといけない以上、これは確実にプラスになる﹃シ
ろしくもあるけれど││今の俺に取捨選択する余裕なんてない。使
⋮⋮自分の知らないうちに、いつの間にか影響を受けているのが恐
す。
のか
じゃあ、何もしなくても俺はそのうち剣を自在に扱えるようになる
由は、この﹃剣士・Lv0﹄効果が有ってってことか。
つまり、俺がこうして今自分の上達を感じる程に剣を扱えている理
干のボーナス。
﹃剣士・Lv0﹄
:剣を使用して戦う者。見習い。﹃ソード﹄の扱いに若
!
してそれがガラスのように砕けて消え、その中から現れるフェイト。
15
?
彼女の姿は先ほどまでとは違い、黒いボディスーツに黒いマント。
彼女のバリアジャケットだな。その手には長柄斧の形状の武器⋮⋮
彼女の専用デバイス、﹃バルディッシュ﹄が握られている。
彼女は現れてすぐに俺の姿を認めると、ニコリと微笑んだ。
﹁3時間ぶり、だね﹂
今の一言で、俺が召喚していない間も、彼女は彼女の世界で時間を
過ごしている事が窺い知れた。もしかしたらそういう記憶が植えつ
けられている、なんて可能性もあるけれど、それを言っていたら切が
無いしな。
﹂
急に居なくなった
そこでふと思った。召喚している間はどうなんだろう、と。
﹂
﹁なあ、フェイト
﹁ん、なに
﹁さっき戻ったとき、騒ぎになってなかった
ってさ﹂
多分、葉月によって﹃私﹄のコピーがこの世界に召喚さ
トの同位体⋮⋮コピーであり、それがこの世界から送還された時に、
そこから結論付けたのが、先程の、俺が呼び出しているのはフェイ
で過ごしていた3時間の記憶があるのだという。
つまり、フェイトには俺と会っていた3時間の記憶と、自分の世界
は﹁俺と会ったという記憶﹂が流れ込んできたそうだ。
先の召喚時間が切れて自分の世界に戻ったフェイトだけれど、実際
た。
思う﹂と続けたフェイトは、そう思った一番大きな理由を教えてくれ
そう言ったあと﹁確信は無いけれど、十中八九は間違っていないと
れてるんだと思う﹂
いのかな
のを呼び出してるわけじゃないみたい。⋮⋮同位体、とでも言えばい
﹁ん、大丈夫だったよ。⋮⋮どうも、今の﹃私﹄は﹃私﹄自身、そのも
と続けると、彼女からは思いもよらない言葉が返ってきた。
フェイトが元居た場所じゃ3時間ほど行方不明になってた訳だし、
!
?
経験した記憶等が元の世界に居る本体にフィードバックされる、と言
うものだそうだ。
16
?
?
?
とは言え、やはり今の自分が﹃本人﹄ではない、と言うところに複
﹂
雑な表情を浮かべるフェイト。
﹂
﹁えっと⋮⋮フェイト
﹁ん、なに
?
何か不調が出たりしてない
﹂
?
怖い。
くなってしまった。
││死ぬ。その考えに至ったとき、扉に手を掛けたまま俺は動けな
所。
この先は未知の空間。下手をすれば死ぬかもしれない、そんな場
自分の喉が鳴る音が嫌に大きく聞こえた。
ここから出ればそこは﹃迷宮﹄。⋮⋮流石に緊張するな。ゴクリと、
そうだな、とフェイトの言葉に頷き、出入り口の扉の前に立つ。
続ける。
俺の言葉に彼女は﹁うん﹂と頷いて、
﹁何があるか解らないから﹂と
時間を見越して準備を整えてきたのか。
﹁ああ、それでさっきとは服装が違うんだな﹂
﹁それじゃ、葉月。今回は実際に﹃迷宮﹄に出てみようか﹂
かを言う前にその表情を引き締める。
そう言って、
﹁心配してくれてありがとう﹂と続けた彼女は、俺が何
﹁大丈夫。少なくとも今のところ何も不調はないよ﹂
と言う俺に対して、彼女はこくりと一度頷いて、
のか
﹁⋮⋮ん、俺の方こそ。⋮⋮けど、それってフェイトの身体は大丈夫な
﹁謝らなくていいよ。⋮⋮ありがと、葉月﹂
に俺が謝った理由に思い至ったのだろう、くすりと小さく微笑む。
対してフェイトは、一瞬きょとんとした表情を浮かべたあと、すぐ
らずには居られなかった。
意図せずとは言え、彼女に嫌な思いをさせてるだろうと思うと、謝
﹁その、ごめん﹂
?
そんな想いが頭を過ぎり││カタリと、自分の手が震えているのが
解った。
17
?
⋮⋮情けない、と思う。けど、止められない。止まらない。
そんな折、不意に手を包み込まれるように握られて、一瞬ビクリと
驚いて隣を見れば、見惚れる程に柔らかな微笑みを浮かべたフェイト
が。
﹁大丈夫。危なくなったら、私が守るから﹂
⋮⋮参った。そんな事言われてしまったら、これ以上格好悪いとこ
ろ、見せられないじゃないか。
眼を瞑って、一度大きく深呼吸。
見栄でも、虚勢でも良い、強気で行こう。俺なら大丈夫。たった3
時間の付け焼刃とは言え、フェイトに教えを受けたんだ。だから大丈
夫。
パンッと軽く頬を叩いて気合を入れる。⋮⋮よしっ
﹁⋮⋮ありがとう。もう大丈夫⋮⋮行こう﹂
﹁⋮⋮ふふっ。うん﹂
※※
一度しっかりと視線を合わせ、コクリと頷きあって、俺達は﹃迷宮﹄
へと足を踏み出した。
※※新たな︻スキル︼を獲得しました
闘時に平常心を保つことができる。
18
!
﹃戦場の心得・Lv0﹄
:パッシブ。戦闘経験者から指導を受けた。戦
!
Phase4:﹁初陣﹂
﹃深遠なる迷宮﹄第1層・洞窟エリア・1階。
﹃マイルーム﹄の扉を開き外に出たそこは、文字通りの洞窟だった。
﹁部屋から出たら洞窟って⋮⋮何だか変な感じだね﹂
﹁だなぁ⋮⋮﹂
扉を出た場所はどこかの通路の途中の様で、道は左右に伸びてい
る。さて、どちらに進もうか⋮⋮なんて悩んだところで、道標も何も
ないんだから変わらないか。
直感に任せて、適当に右へ。
天井からは鍾乳石が垂れ下がり、水滴の音を響かせる。
地面は二人が余裕を持って並んで歩ける程度に均されてはいるが、
所々に石筍が生え、若干歩きづらい。
そして、こうして周囲の状況を把握できる程度に明るいのは、どう
19
いった原理か、所々の壁や天井が淡く光を発しているからのようだ。
明かりの事は全然頭に無かったから、正直有り難い。流石はまだ序盤
も序盤ってところだろうか。
物珍しさも相まってか、警戒しつつもどことなく楽しそうなフェイ
トと並んで歩くことしばし、突如フェイトが立ち止まり、警戒を強め
た。
﹁⋮⋮気を付けて。何か来る﹂
フェイトの忠告に従って武器を構える。
耳を澄ませば、確かに前方の暗がりから、タタタタタッと言う小さ
な足音らしきものが聞こえてくる。
﹂
足音は徐々に近くなり、そして俺達の前にその足音の主が姿を現し
﹂
た。それは││
﹁⋮⋮ネズミ
﹁ネズミ⋮⋮かな
﹁⋮⋮大きいね﹂
﹁でかいな﹂
各々の武器を構える俺達の前に現れたのは、体長50センチ⋮⋮尻
?
?
尾を含めれば1メートルにはなろうかと言う、巨大なネズミ。
見慣れているものが小さなものなだけに、ここまででかいと怖いを
通り越して呆れるな。
そして俺達が良く知るネズミとの最も大きな違いは、その大きさも
さることながら、前脚よりも目に見えてに発達している後脚だろう
か。
﹁とりあえず、私は手を出さないから頑張ってみて﹂
そう言うフェイトに頷いて返す。気後れはするが、ここで躊躇って
いてはいつまで経っても戦えない。腹をくくれ、俺
﹁っ
﹂
﹂
﹁葉月
にその攻撃を躱し、ネズミは俺達の間を通り過ぎる。
フェイトは余裕で、俺は慌てて、それぞれ身体を半回転させるよう
開けて噛み付いてきた。
て勢い良く突進し、俺達の手前2メートル程で跳び上がり、その口を
ネズミは俺がやる気になったと見るや、おもむろにこちらに向かっ
!
うに意識しながら、右手に持ったショートソードをネズミに一閃。
俺達とネズミの位置関係と通路の広さも相まって剣閃はネズミの
横腹を軽く傷つけるに終わったが、素人の第一撃目としては及第点
じゃなかろうか。相手の攻撃を喰らわずに、こちらの攻撃を当てたの
だから。そういうことにしておいてくれ。
対するネズミは﹁キィッ﹂と苦悶の声を上げつつ、斬られた衝撃で
地面を数回転がった後、再び立ち上がってこちらを威嚇してくる。
﹁まさかネズミが跳ぶとは思わなかった﹂
﹁だね。⋮⋮あ、葉月、見て。やっぱりただの動物じゃないみたい﹂
フェイトに言われてネズミをよく見てみれば、なるほど確かに俺が
切った傷からは血が流れることはなく、金色の粒子が煙のように立ち
上っている。
と、その時、話しながら観察していた俺達の様子を隙と見て取った
か、ネズミは再度こちらに向かって突進してくる。その動きは先ほど
20
!
そのタイミングで掛けられたフェイトの声に従って、刃を立てるよ
!
よりも遅く、さっき斬った影響だろうか、なんて思ったその瞬間、そ
の発達した後脚を強く蹴り出して加速し、俺の数歩後ろにて様子を
伺っていたフェイトへと狙いを変えた。
今度は跳ばずに走り続けるネズミは、突如標的を変えられたために
反応の遅れた俺を置き去りに、フェイトに向かって勢い良く突進し│
│ガンッという鈍い音を立てて吹っ飛び、ものすごい勢いで壁に激突
する。
ネズミの軌道とフェイトの残心の構えから察するに、恐らく掬い上
げるように振るわれたバルディッシュによって弾き飛ばされたんだ
ろうとは思う。彼女の動きが速過ぎて見えなかったが。
ネズミに目を向ければ、壁からずるりと地面に落ちると、そのまま
動かなくなった。
その直後、ネズミの身体は傷口から出ていた金色の粒子と同じ物へ
と変わり、大地にと大気に溶けるように消える。
21
後に残ったのは、縦3センチ、横1センチ程度の大きさの、薄黄色
の細長い石が一つ。これが﹃魔結石﹄ってやつだろうか
して来た。咄嗟に構えた盾に当たって事なきを得たが、防いだ腕がし
蛙は舌の先端が鈍器のように硬くなっており、ソレを伸ばして攻撃
まま大きくしたような巨大蛙なんかと戦闘を行った。
周囲の探索をし、その間も何度か、先ほどの巨大ネズミや、蛙をその
それからしばらくの間、余り遠くへ行かないように気をつけながら
⋮
⋮⋮
⋮
フェイトが怪我するより良いから構わないんだけどね。
⋮⋮いや今の様子ならまず有り得ないと思うけど、間違って無駄に
﹁えっと⋮⋮ごめんなさい。思わず手が出ちゃった﹂
送れば、彼女は少し複雑そうな表情で。
それを拾って腰に付けたポーチへ放り込みつつフェイトに視線を
?
ばらく痺れていたほどの衝撃であり、幾度かのネズミ戦に多少慣れ
て、油断したところの一撃だっただけに内心冷や汗ものだった。
フェイトには﹁油断大敵だね﹂と注意されたのは言うまでもない。
ごめんなさい。
今までの探索で解った事。ネズミや蛙⋮⋮モンスターと呼ぶけれ
ど、モンスターを斬った時に出た金色の粒子は恐らく﹃魔力﹄だと思
われる。
というのも、余り手傷を負わせずに倒した方が、後に残る魔結石の
大きさが大きかったからだ。
モンスターを倒した後、その死体が残らず消えるのは、モンスター
が﹃魔力﹄によって創られた存在であるからだろう。
﹁創られた存在﹂と俺が口にしたときにフェイトが一瞬表情を歪め
たのは⋮⋮彼女の生い立ちによるものか。とは言え俺がそれに何か
言う訳にも行かないけど。
そしてその仮説を裏付ける決定的な現象が、今俺達の前で起こって
いた。
洞窟の壁や天井の所々が光を発している、と言うのは先に述べた通
りなわけなのだが、その中でも、一際強い光を発する部分を見つけた。
まるで脈動するように強くなったり弱くなったりを繰り返す光。
そしてソレは起こった。
今までで一番光が強くなった後、ボコリッとその部分の壁が盛り上
がり、まるで壁から生える用に大ネズミが〝生まれた〟のだ。
今まで曲がりになりにも﹁動物﹂の姿をしているこいつらを殺すこ
とに抵抗感はあったのだけど⋮⋮いや、今も無いとは言わないけど、
それが一気に減ったように思えるほどに異常な光景だった。
﹁うわぁ⋮⋮﹂
その光景に思わず漏らした俺の声に、フェイトがその気持ちは解る
と言う様に苦笑を浮かべる。
つまり、今まで明かり要らずで便利だなーなんて思っていた、この
壁や天井の光っている部分は、モンスターが生まれるための〝魔力溜
り〟だったわけだ。現にネズミが生まれた後の壁はもう光っていな
22
い。
生まれたてのネズミは既に今まで遭遇したネズミと同じような大
きさであり、それが当然の行動といわんばかりに、俺達に向かって襲
い掛かってくる。
出現の仕方はアレだったが、その行動自体は今まで遭遇したネズミ
と変わらない。
俺はフェイトより一歩前に出ると、跳びかかって来たネズミを盾を
使って防ぎつつ、ショートソードを一閃。それなりに大きく斬られ、
地面に落ちたところで後ろに飛び退るネズミ。
それを追って前に踏み出し、その踏み出した足に反応したか、噛み
付こうとしてきたネズミを、思わず﹁うおっ﹂なんて我ながら情けな
い声をあげつつ回り込むように避け、振り向きざまにその背に剣を突
き立てる。
冷静に相手の動きをよく見られれば、これぐらいなら何とかでき
23
る。不恰好だがそれはそのうち、様になるさ。多分。
﹁うん、大分動きが良くなったね。⋮⋮そういえば、時間はどうかな
﹂
そんな俺の様子に、バリアジャケットを解除して、最初に会った時
ろで、大きくため息が出た。
剣と盾、それとポーチを外して倒れこむようにソファに座ったとこ
中に入った途端、一気に襲ってくる疲労感。
えるのは、やはりここが安全である、と言う認識があるからなのか。
僅か一日しか居なかったというのに、
﹁帰ってきた﹂と言う感覚を覚
れから15分程歩いたところで﹃マイルーム﹄に帰り着いた。
元々﹃マイルーム﹄から離れすぎないようにしていた事もあり、そ
﹁うん﹂
﹁あと45分ってところかな。そろそろ戻ろうか﹂
召喚時間は既に1時間を切っている。
意識をちらりと︻スキル︼へ向ければ、脳裏に浮かぶ彼女の残りの
でフェイトが声を掛けて来た。
ネズミが薄黄色の﹃魔結石﹄に化し、それをポーチに入れたところ
?
の黒いワンピース姿になったフェイトが俺の正面のソファに座り、
﹁葉月、お疲れ様﹂
微笑と共に言われたその一言で頑張ってよかったと思ってしまう。
我ながら現金だな、まったく。
24
Phase5:﹁家族﹂
﹁⋮⋮葉月の家族って、どんな人達
﹂
フェイトにそんな事を訊かれたのは、﹃マイルーム﹄に戻ってきて
﹃ショップ﹄で買った紅茶⋮⋮らしきものを飲んで一息ついた時だっ
た。
今朝彼女に協力を頼んだ時に言った言葉⋮⋮﹁家族の元に帰りた
い﹂ってのを聞いた時から気になっていたそうだ。
彼女のその問いに、改めて家族の事を考える。
ここに来てまだ1日しか経っていないと言うのに、ひどく〝懐かし
く〟感じてしまうのは⋮⋮やっぱり、もう二度と会えないかもしれな
いって思いが、どこかにあるからなんだろうか。
やよい
無口で厳格、曲がった事は許さなくて、怒ると怖いけど、母さんに
だけは頭の上がらない父さん。
家族の中で一番明るくて、いつも楽しそうにしていた母さん。弥生
││妹││が﹁お母さんっていつも楽しそう﹂ってぽつりと漏らした
時に、
﹁弥生や葉月が元気でいてくれるからね﹂⋮⋮なんてことを言っ
てたのを思い出した。
そして、俺みたいな兄貴でも慕ってくれる妹、弥生。昔から、何を
するにしても俺の後を着いてきてたっけ。あいつがそうなったのは
⋮⋮小学校の低学年の時、野良犬に追いかけられた弥生を後ろに庇っ
た時からだったか。
今にして思えば、きっとあの犬は遊びたいだけだったんだろうけ
ど、当時の俺達にとっては、でっかいし追いかけてくるし、物凄く怖
かった記憶がある。
弥生もそのときの事が強く印象に残ってるんだろうか、
﹁兄さんはわたしのヒーローですから﹂
いつだったか、そんなことを言われたことがある。
あいつがそうやって、いつまでも昔のイメージで俺を見てくるか
ら、俺もつい見栄を張って頑張ってしまうのだけど。
そんな取り留めのない、けど、今となっては凄く眩しく思える家族
25
?
の事を、フェイトの召喚が終わるまでの残りの30分間話していた。
﹁良い家族で⋮⋮葉月も良いお兄さんなんだね﹂
﹁⋮⋮そう、だな。俺が良い兄貴かどうかは知らないけど、良い家族
だってのは⋮⋮会えなくなってみてつくづく思うよ﹂
﹂と訊いてくる彼女へ、今日はもう召喚しないこと
そして時間。フェイトの身体を球状の魔法陣が薄く包み込んだ。
﹁また3時間後
﹂
が震えてくる。
ふと見た自分の手は震えていて、それを自覚すると共に、身体全体
実戦。
心に過ぎるのは、今日経験した、俺にとっては命がけの、初めての
そして否応無く感じるのは、自分が今〝独り〟であるということ。
つく。
ふぅ、と思わず吐いたため息の、自分の声が妙に大きく響き、耳に
⋮⋮しんと静まり返った室内。
た。
フェイトの声が耳朶を叩き、彼女はその言葉を残して帰っていっ
﹁⋮⋮余り無理、しないでね﹂
何だおいって思った直後に、
次いで、まるで小さな子をあやすように、優しく撫でられる。⋮⋮
なって頭を下げるとおもむろに頭に手を置かれる感触。
これからも協力してくれるんだって思える言葉に、何となく嬉しく
﹁ああ⋮⋮うん、明日もよろしくお願いします﹂
﹁どういたしまして。⋮⋮それじゃ、また明日﹂
さく﹁ふふっ﹂と微笑んだ。
れた事に改めて礼を言うと、フェイトは一瞬驚いた顔をしたあと、小
呼びかけた俺に視線を向けてきた彼女へ、今日一日、一緒に居てく
﹁ありがとう﹂
﹁ん、何
﹁⋮⋮フェイト﹂
を告げると、﹁解った﹂と返してくる。
?
家族の事を思い出して、暖かな我が家を思い返して⋮⋮必ず帰ると
26
?
決意した。そのために協力してくれる人も居る。だから、頑張れ、俺。
そうは思ってもやはり気力は湧かなくて││その時不意に、先ほど
最後に掛けられたフェイトの言葉と、撫でられた感触が蘇る。
⋮⋮大丈夫だ。俺は〝独り〟じゃない。何となくそう思えて、それ
だけで、少し気が楽になって、気がつけば身体の震えも止まっていた。
とは言え精神的にも肉体的にも疲れたのは事実だし、何もする気に
ならないから寝てしまおうと、結局はベッドに飛び込んだのだが。
⋮
⋮⋮
⋮
明けて翌日、目が覚めて時計を見れば6時半。昨日寝たのがこれぐ
らいだから⋮⋮どうやら俺は12時間ほど寝ていたらしい。⋮⋮い
やいや、寝すぎだろう、俺。道理で身体がだるいと思った。
とりあえずシャワーでも浴びるかと起き上がったところで固まっ
た。⋮⋮身体が痛い。
いや、うん、解ってる。普段使わない筋肉使ったせいだってのは。
とは言え思ったよりも酷くないのは⋮⋮たっぷり休んだのと、恐らく
感じていた疲労の半分は精神的なものだからだろうか。
そう思いながら、きしむ身体を押してシャワーを浴びて、軽く食事
を済ませた後は、昨日フェイトに教わった事を思い出して反復する。
忘れないように、身体に染み込ませるように、心に刻み込むように、
何度も繰り返す。
昨日実際に迷宮に出て痛感した。
⋮⋮ 俺 は 弱 い。持 久 力 な ん か も 然 程 高 く な い。こ の ま ま だ と ⋮⋮
きっとそう遠くない未来に、俺は力尽きる。
強くならなくちゃ。帰るために。⋮⋮こんな俺を助けてくれる、彼
女の足手まといにならないように。
⋮⋮まぁ、筋肉痛は辛いのだけど。
27
それから2時間程経ったところでフェイトを召喚。
呼び出した彼女は、黒色のVネックのプルオーバーニットに白いミ
ニのプリーツスカート。そして黒色のオーバーニーソックス。
良く似合っている可愛らしい格好に思わず感嘆の息を漏らした後、
﹂
﹁おはよう﹂と声を掛けると、にこりと笑って﹁おはよ﹂と返してくる
フェイト。
﹁早速行くの
﹂と小首を傾げて訊
挨拶の言葉に続いて発せられた問い。俺はそれに﹁いや﹂と首を横
に振って答えた。
それに対してフェイトは﹁じゃあ、どうする
いてくる。その仕草がなんとも可愛らしい。
﹁フェイトに、俺を鍛えてほしいんだ││﹂
⋮⋮有るとすれば⋮⋮﹃ソード﹄にはなかったから﹃鈍器﹄かな
﹁⋮⋮お、有った﹂
ト﹄を2本購入して、1本をフェイトに渡す。
それを持ってひゅんっと一振りし、
﹁うん、これならいいかな
﹂と
まさか本当に有るとは思わなかったそれ││﹃木剣:500ポイン
?
と言うフェイトに、
﹁ちょっと待って﹂と断り、
﹃ショップ﹄を覗く。
ても、葉月相手に流石にバルディッシュでって言うのも⋮⋮﹂
﹁あ⋮⋮鍛えるはいいとして、武器はどうしようか⋮⋮私は良いとし
れた。
由を続けた俺に対して、彼女は﹁もちろん、いいよ﹂と引き受けてく
くないうちに取り返しのつかないことになる気がするから。そう理
昨日の実戦で知った自分の〝弱さ〟。これを何とかしなければ、遠
?
からね﹂
すのは私にも出来るけど、葉月がやられちゃったらどうしようもない
﹁⋮⋮葉月にとって一番大事なのは、とにかく生き残ること。敵を倒
互いに木剣を構えたところで、フェイトが口を開いた。
﹃マイルーム﹄前の通路にて向かい合わせに立つ俺達。
出る。
言ったフェイトは、
﹁ここじゃ狭いから﹂と言って、出入り口から外に
?
28
?
ここまでは良い
と言葉を切ったフェイトに頷いて返す。それ
﹂
?
いや別に俺から彼女に攻撃するわけじゃないから、
てなかったわけじゃない。にも関わらず。
﹁││大丈夫。加減はするから﹂
!
てられる。
﹁∼∼⋮⋮っつー⋮⋮﹂
﹁あはは⋮⋮もうちょっとゆっくり、かな
扱いとか、経験ないんだよね
﹂
﹂
﹁⋮⋮昨日の探索のときも思ったんだけど⋮⋮本当に戦いとか武器の
総評としてそんなお言葉をいただいた後、
﹁うん、思ったよりも動けるみたいだね﹂
間に勢いを緩めて加減をしてくれていたみたいだけど。
来るものは止めてくれていたし、どうしても当たる攻撃も、当たる瞬
⋮⋮それから2時間、みっちり打たれ続けました。まぁ、寸止め出
向かい合わせに立ち、木剣を構え││
頭を抑える俺に苦笑を浮かべたフェイトはそう言って、再度離れて
?
と小気味の良い音を立て、俺の脳天にフェイトの持った木剣が軽く当
その言葉の直後、フェイトの姿は俺の視界から消え││コンッ
うけど⋮⋮なんて思考が一瞬別のところに行っていたが、別に集中し
わざわざバリアジャケット纏って魔力を消費する必要もないんだろ
好でするのか
と彼女の姿をしっかりと視界に納め││そういえばフェイト、その格
打ち込みに備えて木剣を構え、フェイトの動きを見落とさないように
その言葉に﹁⋮⋮頑張ります﹂と、思わず敬語になって返してから
ち込んでいくから、頑張って避けてね
﹁だから⋮⋮葉月にはまず、回避力を付けてもらおうと思う。私が打
を受けて、彼女は言葉を続ける。
?
この木剣も、販売カテゴリは﹃鈍器﹄の中に入ってはいつつも、形状
│﹃ソード﹄の扱いに若干のボーナス││があるらしい事、恐らくは
そんな彼女に、休憩がてらに︻称号︼の﹃剣士・Lv0﹄の効果│
はマシな動きをするから、疑問に思ったようだ。
少し難しい顔でそんな事を訊いてくる。どうやら俺が素人にして
?
29
?
からして﹃ソード﹄の部類にも掛かるんだろうって事を説明すると、な
るほど、と頷いた。
確信を得られるわけじゃないから、飽くまで俺の予想に過ぎないけ
どな、と付け加えると、﹁うん、わかってる﹂と返ってくる。
その後は、最初に彼女に教わった基礎を見てもらいながらおさらい
し、時間となった。
﹁それじゃ、また3時間後に﹂
そう言って魔法陣に覆われていく彼女に手を振り﹁また後で﹂と返
﹂と心配さ
す。それと同時に、身体のあちこちに痛みを感じて││我慢⋮⋮した
つもりだったが、顔に出ていたか、フェイトに﹁大丈夫
れた。
﹁原因である私が言うのもなんだけど⋮⋮無理しないでね
﹂
それになんとか頷いたタイミングで、彼女の姿が完全に魔法陣に隠
され、直後、魔法陣と共にその気配も消えた。
それと同時に襲ってくる疲労感。
強がってるのか、意地か見栄でも張ってるのか⋮⋮我ながら、彼女
が居なくなった途端にこれとは、と自分に若干呆れつつ、休息を求め
る身体の声に従って身体を横たえた。
30
?
?
Phase6:﹁動揺﹂
気がついたら、フェイトが帰ってから4時間程経っていた。
寝過ごしたと思いつつ、顔を洗って目を覚まし、軽く食べてから
﹂
フェイトを召喚。
﹁葉月、大丈夫
よ
4回目ともなれば大分見慣れた魔法陣から姿を現したフェイトは、
俺の姿を認めるなりそう訊いてくる。何でも、中々喚ばれないから心
配したという。
﹂
申し訳なくも有り難く思うと同時に、ふと疑問が浮かんだ。
﹁召喚したときって解るの
﹂と問われた。
﹂なんて続けたフェイトに﹁なるほど﹂と頷いたと
ころで、彼女からもう一度﹁それで、大丈夫
﹂
?
めん⋮⋮あと、ありがとう﹂
﹁いいよ。それよりどうする
今日は休む
﹁思ったより疲れてたみたいで、寝過ごしただけだよ。心配かけてご
?
たてきたのかな
そう推論を述べ、
﹁最初は解らなかったけど、前回辺りからね。慣れ
にも何がしかの干渉は有るんだと思う﹂
⋮⋮やっぱり同位体││コピーを喚ぶっていう性質上、元となる﹃私﹄
﹁うん。何となく、だけど﹃あ、今喚ばれた﹄って言うのが、感覚で。
?
と思う﹂
?
回の方針にフェイトが頷いたのを確認したところで、俺は迷宮へと足
帰りの事も考えると、2時間で行ける所まで、かな
と続け、今
﹁昨日で様子見もしたし、とりあえず今回は進めるだけ進んでみよう
俺も剣と盾、ポーチを身に着けて出入り口へ。
える。
てくれつつも、
﹁じゃあ行こうか﹂とその姿をバリアジャケットへと変
俺がそう伝えると、彼女は﹁葉月なら大丈夫だと思うけど﹂と言っ
これから先も何かあった時、簡単に折れてしまいそうな自分が怖い。
今もう充分に休んだばかりだし、何よりここで妥協してしまうと、
心配気な表情で訊いてくるフェイトに頭を振って答えた。
?
31
?
?
を踏み入れた。
⋮
⋮⋮
⋮
大ネズミや大ガエル││端末の﹁インフォメーション﹂によると、ケ
イブラットとメイスフロッグと言うらしい││を倒しながら進むこ
としばし。
どうやらこの階に出るのはこの2種類だけのようで、他の種類のモ
ンスターに会うこともなく俺達は歩を進める。
一時間ほど探索を続けたところで、多少の分かれ道や曲がり角は
あったが、今まで大して変わらなかった風景の中に違うものを見つけ
﹂
た。すなわち、2階に降りる階段である。
﹁降りてみる
﹁⋮⋮ああ、まだ時間も半分だしな。けど、ごめん、ちょっと休憩﹂
﹁ん。じゃあ5分休んだらにしようか﹂
フェイトの言葉に頷いて、壁にもたれるように並んで腰を降ろす。
今回は﹁進めるだけ進む﹂と言う方針ではあるが、やはり道中の戦
闘をこなすのは俺である。じゃないといつまで経っても俺が強くな
らないし。
⋮⋮昨日から続けて戦闘は俺がメインであるんだが、正直言えばや
はりキツイ。
だけど、だ。
昨日迷宮に潜った時は、初の実戦ってこともあって気にする余裕も
・・
なかったけど、改めてこうして1時間探索してみて、自身の身体の
異常を思い知る。すなわち、﹁持久力﹂である。
今現在も、確かに疲れはしているが思っていた以上ではないのだ。
現に座って少し経った今、呼吸も落ち着いている。
そう考えると、初めてで精神的な疲労もあった初回はともかく、あ
れだけ疲労した午前中のフェイトの訓練って⋮⋮と思わずにはいら
32
?
れない。まぁ、俺が望んだ事だし、これからも望むところなんだけれ
ど。
それに戦闘に関してもそう。特に自分の動きに関してだけれど、明
らかにここに召喚される前の自分よりも動けている。
剣を振るうときの動作で言えば、
﹃剣士・Lv0﹄の効果があるのだ
ろうと思うのだが、例えば敵の攻撃を回避するときなんかの動きを見
﹂
ても、そんな気がするのだ。
﹁葉月、何かあった
﹂
﹁どう思う
﹂
の身体の異常を説明した。
・・
フェイトの意見も聞いておこうかと思い直し、今しがた考えていた俺
つい﹁なんでもないよ﹂と答えそうになったところで、折角だから
⋮⋮ああ、考え事してたのが顔に出てたのか。
﹁何だか、難しい顔してたから﹂
﹁え
そんな事を考えていると、不意にフェイトが問い掛けて来た。
?
続けるには、持久力だって必要だろう、と言うことだ。
への踏み込みを初めとした、体捌きも関係してくるだろう。剣を扱い
すなわち、上手く剣を振るうにはそれなりの筋力が必要だろう。敵
か、と言うことらしい。
言っても、その〝扱い〟の中には色々な要素が含まれるのではない
彼女が言うには、一口に〝﹃ソード﹄の扱いに若干のボーナス〟と
に補正がかかるそれじゃないかな﹂
﹁うん。多分関係してるのは、﹃剣士・Lv0﹄⋮⋮だっけ。剣の扱い
﹁システム⋮⋮︻称号︼や︻スキル︼か﹂
﹃迷宮﹄の﹃システム﹄⋮⋮かな﹂
﹁考えられるのは2つ。葉月に元々素質があったっていうのと、この
女は﹁それじゃあ﹂と前置きし、
しばし考えた後、そう言ったフェイトに﹁もちろん﹂と返すと、彼
﹁ん∼⋮⋮⋮⋮うん、飽くまで私の推論、でいいなら﹂
?
なるほど、と思う。
33
?
フェイトの説明に納得する俺に、彼女は﹁最初に言ったけど、私の
推測に過ぎないからね﹂と最後に付け加えた。
とは言えどこかに答えが載っているわけでもなし、どうあがいても
推測の域を出ないのは俺も同じ事。それを踏まえても、フェイトが今
言ったことである可能性が高そうだ。
﹂
とりあえず今はそう結論付けたところで、フェイトが立ち上がる。
﹁そろそろ行こうか
﹂
傷を追ったモンスター達が例外なく立ち上らせていたもの。
それは、今まで、この迷宮内で何度も見てきたもの。
・・
る。
えていた俺の思考は、不意に左の視界の端に移ったそれに止められ
・・
上でこちらの様子を伺っている蝙蝠を警戒しながらそんな事を考
なかったな⋮⋮。
る敵による奇襲とは⋮⋮やってくれる。フェイトが居なかったら危
それにしても、階段を降りきったところに今まで居なかった飛行す
いた。
い、先端が鋭くなった体長程もある長い尾が生えているが││飛んで
には1匹の20センチほどの大きさの蝙蝠が││地球のものとは違
再度俺達の上方へと移動した影を追って視線を上に向ければ、そこ
それに続いて左頬に走る鋭い痛み。
る黒い影。
不意にフェイトに腕を引かれ、位置のずれた俺の頭の横を通り過ぎ
﹁っ避けて
と共に視界の端に写った黒い影││。
れた、それとほぼ同時に耳に入ったバタバタと言う羽音。そしてそれ
階段を降り切り、フェイトとほぼ同時に2階の通路へと足を踏み入
はない。
階段の横幅は通路より若干狭い程度であり、並んで降りるのに支障
それに頷いて俺も立ち上がると、階段を下りて2階へと向かった。
?
金色の粒子││﹃魔力﹄。
それが、なぜ。
34
!
俺の左の視界を掠めるように存在するのか。
まるで、俺の左頬から流れているかのように。
カタカタと、身体が震える。
今まで戦ったモンスター達が、それを流す光景が、浮かんでは消え
る。
これじゃあ、まるで、俺の身体が││。
震えが、止められない。
﹂
まるで、俺の身体もまた、﹃魔力﹄で構築されているような││。
嫌な思考が、止まらない。
心臓の音がうるさい。
視界が霞││。
︶
はっ⋮⋮はぁ、はぁ、ぁ⋮⋮ふぇい、と
︵││葉月っ
﹁⋮⋮っ
﹁ぁ⋮⋮血
﹂
俺の頬から流れていたらしい俺の血が着いていて││。
・・・
そう言って俺の頬から手を離したフェイトの、右の手のひらには、
﹁葉月、見て﹂
両頬を労わるように触れるフェイトの姿。
には、身長差から見上げるように俺と向き合い、両手を伸ばして俺の
どれぐらい呆然としていたのか、蝙蝠の羽音はすでに無く、目の前
不意に脳裏に響いたフェイトの声に、飛びかけていた意識が戻る。
?
!!
今まで倒したモンスター達は、どれも例外なく血を流しては居な
かった。斬った剣にも血糊が着く事はなく、モンスター達は直接その
身体から金の粒子を立ち上らせていた。
⋮⋮けど、俺は、フェイトが示してくれたように、流した血が﹁魔
力﹂に変わっている、のか
まるで、自分の身体が全く別のものになってしまったかのように感
﹁あっ⋮⋮﹂
頷いた。
フェイトの顔を見ると、彼女は﹁大丈夫﹂と言うように、コクリと
?
35
!
それは僅かの後に、金の粒子となって大気に溶けて消える。
?
じた、言いようの無い恐ろしさ。それから開放された瞬間、安堵から
か身体から力が抜け││フェイトが抱き締めるように支えてくれる。
﹁っ⋮⋮ごめん﹂
﹁ううん、いいよ﹂
離れないと、と思いつつも、腕の中の確かな温もりを離すことを身
体が拒否しているかのように動かなくて。
﹁今のは、傷を負った場所が悪かったね。例えば腕とか││視界に入
る場所なら冷静に分析できたはずだよ﹂
フォローするようにそう言って、昨日の別れ際のように、労わるよ
うに俺の頭を撫でるフェイト。
その感触に心が落ち着いていくのが解り、それとともに自分の不甲
斐無さに嫌気が差す。
﹁⋮⋮情けないな、俺。まだ会ってから二日だって言うのに、フェイト
に頼りっぱなしだ﹂
ることができる器官。Unknown。
36
﹁気にしないで。これから強くなっていけば良いんだから﹂
思わず漏れ出た弱音に返って来た声は、きっと優しげな表情を浮か
べているんだろうと思うような、優しげな声。
だけど││。
※※
⋮⋮強くなりたい。背中を預けてもらえるように。肩を並べて、戦
えるように。
※※︻スキル︼がレベルアップしました
回復にボーナス。
※※新たな︻スキル︼を獲得しました
※※
に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの
:パッシブ。戦闘時の錯乱/混乱状態より回復・生還した。戦闘時
﹃戦場の心得・Lv0﹄↓﹃戦場の心得・Lv1﹄
!
﹃リンカーコア﹄
:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換す
!
Phase7:﹁推測﹂
精神的に落ち着き、何とかフェイトから離れた││少しだけ、名残
惜しく感じてしまったが││後、一度整理してみようと、フェイトと
並んで階段に座る。
最初にもう一度﹁さっきはありがとう﹂と言うと、彼女は少し照れ
たように頬を緩めながら、先ほどと同じように﹁気にしないで﹂と一
言。
ちなみに頬の傷は既に治っている。
事前に買っておいた﹃マイナーヒールポーション﹄を少し、刷り込
むように塗ってみたところ、
﹁飲めば体力回復、掛ければ傷の治療に使
える﹂と言う説明に違わず出血は止まり、少しの後に傷も塞がったの
だ。
恐らく傷自体浅いものだったからというのもあるんだろうが、改め
必要な器官で、バリアジャケットって言うのは、魔力で創った防護服。
私が今着ているのもそうなんだけど、対魔力だけじゃなくて対衝撃な
んかにも効果があるんだ﹂
思わぬフェイトの言葉に漏らした俺の声を、疑問の声と受け取った
37
て﹁この世界﹂はファンタジーだなと思う。少なくとも向こう⋮⋮地
球では、これだけ即効性のある傷薬なんて無いだろうし。
﹁⋮⋮そういえば、さっきフェイトの声が頭の中に響いた気がするん
だけど﹂
﹁││そっか、念話、届いたんだね﹂
次いで先程我に返った時のことを訊くと、そんな答えが返ってき
た。なるほどね、あれが念話か。
そしてすぐに﹁あ﹂と何かに気付いたように声を上げた。
﹁そうだ、念話が聞こえたって言うことは、葉月にも﹃リンカーコア﹄
﹂
があるってことだから⋮⋮明日の訓練からは、バリアジャケットを纏
﹂
う練習もしようか
﹁え
?
﹁あ、
﹃リンカーコア﹄って言うのは、簡単に言えば魔法を使うために
?
﹂と言うものだっ
のだろう、リンカーコアとバリアジャケットについて説明してくれた
フェイト。それに対して俺が思うのは、﹁本当に
た。
と言うもの。
たのか﹁何かある
﹂と問いかけてきて、
俺がステータスウィンドウを開いたところで、フェイトも気になっ
みた。
何か増えてるんじゃないかと思い立ち、自身の﹃ステータス﹄を見て
そう思ったところで、ふと、実際に﹃魔法﹄が使えるんだとしたら、
るのか
い。俺が疑問に思うのは一つだけ││俺が、
﹃魔法﹄を使えるようにな
別に彼女の説明が間違っているとか、疑っているってわけじゃな
?
﹁⋮⋮詳細不明
ア ン ノ ウ ン
﹂
ることができる器官。Unknown。
﹃リンカーコア﹄
:パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換す
ステータスからの回復にボーナス。
生還した。戦闘時に平常心を保つことができる。各種精神系バッド
﹃戦場の心得・Lv1﹄
:パッシブ。戦闘時の錯乱/混乱状態より回復・
イトに告げ、それぞれの説明を読み上げる。
並ぶ項目の中から、変化していたのと増えていたのを見つけ、フェ
コア﹄ってのが増えてるな﹂
﹁⋮⋮あ、
︻スキル︼の﹃戦場の心得﹄がレベル1になって、
﹃リンカー
?
迷宮にとってイレギュラーな事であるならば⋮⋮俺達にとって手
﹁俺としては、後者の方が嬉しいけどな﹂
のかのどちらかだと思う﹂
か、それともこの﹃迷宮﹄が、
﹃リンカーコア﹄の事を詳しく知らない
﹁解らないけど⋮⋮葉月が詳しい情報を見る条件を満たしていないの
ふるふると小さく頭を振る。
小首を傾げるフェイトに、
﹁なんだろうな、これ﹂と訊くと、彼女は
やっぱり引っ掛かるのはそこだよな。
?
38
?
札が増えるってことだ。
そんな俺の言いたいことを理解してか、フェイトもうん、と頷いた。
ああ、でも、本当に﹃リンカーコア﹄が俺の中にあるんだな⋮⋮け
﹂
ど、だとしたら││。
﹁葉月、どうしたの
先に聞いたフェイトの言葉と、今しがた見たばかりの自分のステー
タスに思わず考え込んでしまったところ、そう声を掛けられ、視線を
﹂といいつつ何となく自分の顔を触
向けると、フェイトは小さく笑って﹁今度は楽しそうな顔してた﹂と
続ける。
フェイトに言われて、
﹁そうか
ませた。
そう言いつつ、俺は自分の人差し指の腹を剣で小さく切り、血を滲
﹁それで、〝これ〟なんだけど﹂
ところで、話は本題⋮⋮と言うか、先ほどの﹁現象﹂に移る。
られるのは不思議な感じがするな、と思いつつ、
﹁よろしく﹂と返した
はり﹁武器が喋る﹂と言うのを実際に体験する⋮⋮というか話しかけ
フェイトの紹介に続いて聞こえた声に、知識では知っていても、や
︽nice to meet you.︾
﹁この子が私のデバイス、﹃バルディッシュ﹄。頼りになる相棒だよ﹂
つ武器を示すフェイト。
そして﹁そういえば、ちゃんと紹介してなかったね﹂と、自身の持
と一つ頷いた。
しっかりと釘を刺してくれるフェイトに首肯すると、彼女は﹁うん﹂
﹁解った。慌てずにじっくり、しっかりやるよ﹂
最初は大変だと思う﹂
﹁けど、魔法の使用を補助してくれるデバイスが有る訳じゃないから、
そう言うと、彼女はくすりと微笑んだあと、
﹁⋮⋮魔法を使えるかもって思ったら、なんか嬉しくてさ﹂
けど﹁楽しそうな顔﹂とやらの原因は解ってる。
る。⋮⋮まぁそんなんで自分の表情が解るわけでもないんだが。
?
フェイトも俺が何を見せようとしているのか察しているのか、何も
39
?
言わずに俺の行動を見ている。
しばしの後、俺の指から出てきた血は金の粒子となって虚空に流
れ、消えていく。
その光景に、一瞬先ほどの恐怖感が過ぎり、動機が早くなるのを感
﹂と言いたげな表情のフェイト。
じて││不意に空いていた左手を握られる感触に隣を見れば、﹁大丈
夫
⋮⋮しっかりしろ、俺。これ以上彼女にこんな顔させられないだろ
う。
そう言い聞かせ、フェイトには﹁大丈夫だよ﹂と言ってから握られ
ていた手を離して、昨日から撫でられてばかりという状況が続いてい
るのし、お返しにとくしゃりと彼女の頭を撫でる。
そしてもう一度指を││金の粒子に変わる血を見せてから、﹃マイ
ナーヒールポーション﹄を掛けて血を止めた。
ゲームマスター
﹁〝 こ れ 〟 か ら 俺 が 考 え ら れ る 事 は 二 つ。こ れ の﹃行 き 着 く 先﹄と、
﹃迷宮の王の目的﹄かな﹂
そこで一度言葉を止めて、視線を再びフェイトに向けると、彼女は
続きを促すようにこくりと頷く。
﹁﹃行き着く先﹄はまぁ、言うまでも無いよな。〝死〟んだら、俺の⋮⋮
﹃プレイヤー﹄の肉体は、魔力となって消える。そしてそれが恐らく、
﹃迷宮の王の目的﹄の一つなんだと思う﹂
﹁つまり、
﹃プレイヤー﹄を召喚して迷宮に挑ませるのは、最終的に﹃プ
レイヤー﹄を魔力として吸収するためってことだね﹂
皆まで言わずとも俺の言わんとすることを理解してくれるのは、流
石と言うか何と言うか。
﹁ああ。そう考えるとこの迷宮に、最初の階から強いモンスターが出
てこない理由も解る。⋮⋮簡単に言ってしまえば、
﹃そのまま﹄よりも
﹃育てた﹄プレイヤーの方が多く魔力になるんだろうな。まぁ、
﹃迷宮
の王﹄がなぜ魔力を集めるのかとかは解らないけど﹂
﹁うん。単純に考えるなら、
﹃強い力﹄を欲しているから、なんだろう
けど⋮⋮その場合も、なぜ力を欲するのかっていう理由が解らない
し﹂
40
?
そこまで言ったところで、フェイトは﹁ねえ葉月﹂と、俺の顔をじっ
と見つめてくる。
その余りにも真剣な表情に、俺は居住まいを正して彼女の次の言葉
を待った。
﹁﹃迷宮の王﹄の目的の一つが﹃プレイヤー﹄を魔力にすることだった
﹂
ら、今は良くても、この先きっと辛い戦いが待ってると思う。それで
も││葉月は先を目指すの
フェイトの問いに一度目を閉じて、考える。
思い出されるのは先に感じた得も知れぬ恐怖感と││家族の顔、温
もり。そして││隣にいる、少女の顔。
⋮⋮そうだ。迷う必要なんて、ない。
﹁当然だよ。今俺に示されてる帰る方法がそれしかないんだったら│
│俺は絶対に最奥まで行って、
﹃迷宮の王﹄をぶっとばして帰ってみせ
るさ。⋮⋮俺を強くして喰らうのが目的だってんなら、
﹃迷宮の王﹄の
予想以上に強くなってやる﹂
きっと心配してくれている家族のためにも、隣に居る、俺を助けて
くれている彼女のためにも。
そんな決意を乗せて答えると、フェイトは一瞬驚いた顔をした後、
嬉しそうに、楽しそうに微笑みを浮かべた。
﹁⋮⋮うん。葉月、これからもよろしく﹂
︽Please leave it to us.︾
そして告げられた、フェイトとバルディッシュの言葉が嬉しくて、
自分が自然と笑みを浮かべているのを自覚する。
﹁ああ、俺の方こそ││よろしく、二人とも﹂
本当に、俺は人に恵まれていると、心から思う。
41
?
Phase8:﹁虚勢﹂
﹂と訊いてくるフェイトに、彼女の残りの召喚
とりあえずの話を終え、座っていた階段から立ち上がった俺達。
﹁これからどうする
時間を確認したところで、出発前に定めていた2時間の探索時間終了
まで、あと30分を切っていることに気付く。
2階に降りてからのゴタゴタで30分以上浪費したのか、と少々
がっくりきつつ、それを告げて﹁戻るか﹂と言うと、うん、と頷くフェ
イト。
それから幾度かの戦闘を経て、40分程度で﹃マイルーム﹄にたど
り着いた。やはり一度通って道が解っている分、行きよりも早いな。
フェイトの召喚リミットまでの残り30分ちょいは、念話の送信の
方法とバリアジャケットについての講釈を受ける。
さすがにデバイスも無しに行き成り成功、とはいかなかったが、や
り方は教わったので後は要練習だろう。⋮⋮とは言え念話は相手が
居ないと送れているかどうか解らないので無理だけど。
そして、時間。
﹁私のことは気にしなくていいから、何かあったらすぐに呼んで﹂
今日は思い切り醜態を晒したからか、それとも道中の戦闘時に何か
感じたのか。魔法陣に包まれたフェイトから、そんな言葉が掛けられ
た。
本当に、気を使わせてばかりだな、俺は。
﹁解った﹂と頷いてフェイトに目を向けると、こちらをじっと見てい
た彼女と目が合って││胸の中に生まれた言葉が、するりと口をつい
た。
と疑問を浮かべる彼女に、その先を言おうかど
﹁フェイト、今日もありがとう。⋮⋮本当に、フェイトが居てくれてよ
かった﹂
急にどうしたの
うのは少しばかり気恥ずかしい。
け ど、す ぐ に 思 い 直 し た。言 葉 は 思 う だ け じ ゃ 伝 わ ら な い。そ し
42
?
うか一瞬迷って口ごもった。流石に礼を言うのはともかく、理由を言
?
て、伝えたい事を伝えられる機会が、いつもあるとは限らない。そう
││いつ何が起こってその機会が永遠に失われるかなんて解らない。
事実今現在、俺がこの身で体験しているところなんだから。
だから、気を取り直して言葉を続ける。
﹁昨日からずっと漠然と感じていたことだけど、今日の事ではっきり
と実感したんだ。⋮⋮戦いとか、探索とかだけじゃない。フェイトが
居る事で俺が精神的にどれほど救われているかって﹂
だから、改めて言っておきたかったんだ。
そう告げると、取り巻く魔法陣がその色合いを濃くしていく中、彼
女は驚いた表情を浮かべてから、小さく頭を振る。
﹁ううん、私の方こそ││﹂
そこで途切れた言葉。
彼女が少しだけ口ごもったところで、その姿は魔法陣に覆い隠され
た。
そして、薄れていく魔法陣。
それが完全に消える、その刹那││。
﹁ありがとう﹂
思いもよらぬ彼女からの言葉に戸惑う俺を置いて、還って行った
フェイト。
⋮⋮彼女は、どんな想いで今の言葉を口にしたのだろうか。
果たして俺に、彼女が礼を言ってくるような││ほんの僅かでも、
フェイトのために成れていることがあるのだろうか。
そして、彼女が居なくなった瞬間に訪れる、耳に痛いほどの静寂。
⋮⋮やっぱり、この感覚は何度経験しても慣れないな。
途端に襲い来る孤独感に、ややもすれば沈みそうになる気分を、頭
を振って追い出し、汗を流すためにバスルームへと足を向けた。
⋮
⋮⋮
⋮
43
薄暗い迷宮を独り歩く。
カツン、カツンと、硬質な足音だけが響く中、先の見えない闇へ向
けて足を進める。
進む先に映る壁や天井は、思い出したように怪しく明滅を繰り返
す。
それはまるで、身を焼き焦がす炎へ誘[いざな]う誘蛾灯のように。
それはまるで、この迷宮に囚われた魂が上げる悲鳴のように。
立ち塞がるモンスター。
それを切り伏せ、粒子へ変わるその姿を見届ける。
もう幾度と無く見た光景。
死したるものが辿る末路。
それはきっと、﹃俺﹄も例外ではなく。
流した血が、失った四肢が、朽ちた身体が金の粒子となる光景を幻
視して。
44
感じる違和感。
過ぎる不快感。
﹂
視線を落とせば、腕が、足が、身体が、ざらりと崩れて、虚空へ消
えて││。
・・・・・
﹁うわぁぁああああああああ
怖い。
認識してしまったからだろうか。
それを想像してしまったからだろうか。それをそういうものだと
〝死んだら消える〟。
止まってくれない。
ものが止まらない。流れ落ちるものが止められない。震える身体が
言い聞かせて、言い聞かせて、言い聞かせても⋮⋮込み上げて来る
大丈夫、大丈夫、大丈夫だ、大丈夫なんだ。
夢⋮⋮そうだ、夢だ。大丈夫、夢なんだから。
腕は⋮⋮ある。足も、ある。身体も、ある。
動悸が激しく、息が荒い。
叫び声を上げて飛び起きた。
!!!!
死ぬのが怖い。戦いが怖い。傷つくのが怖い。⋮⋮死んだ後に、自
分が残らず消えてしまうのが、凄く怖い。
⋮⋮実際に﹃そうなった﹄人を見たわけでもないのに、このザマだ。
││何かあったら、すぐに呼んで。
ふと、フェイトの言葉が頭を過ぎる。
気がつけば、虚空へ手を突き出していた。まるで、そこに、呼び出
そうというかのように。
⋮⋮俺は、何をしているんだ。
手を引き戻し、抱え込むようにうずくまる。
今までだって、頼りすぎているというのに、甘えているというのに、
これ以上甘えてどうしようって言うのか。
願ったはずだ、強くなりたいって。助けてくれる彼女の恩に報いる
ためにも。背中を任せてもらえるように、肩を並べて歩けるように。
誓ったはずだ、強くなるって。
45
俺は弱い。心も、身体も。でも、だからこそ、今、この時を乗り越
えられなくて、強くなろうなんておこがましいにも程がある。
眼を閉じて、瞼の裏に浮かぶのは、今しがた見た夢の内容。
自分の足が、腕が、身体が金の粒子となって消え行く嫌悪感。
だけど、その〝金色〟は俺の脳裏に別のものを思い浮かべさせる。
倒れそうになった俺を、支えてくれた彼女の色。
だからどうした。だったら死ななければいい
それだけで、とくり、と心の奥底に小さな火が灯るのが解る。
死んだら消える
だけだ。
せめて、心優しい彼女に、もうこれ以上心配をかけないように。
く居よう。
だから、今は虚勢でいい。張りぼてで構わない。見かけだけでも強
だから。進むしかないのだから。進むと決めたんだから。
怖くても、震えても、傷ついたとしても、進まなければいけないん
めたくない願いがある。だから、下を向くな、前を向け。
曲げられない想いがある。折れるわけに行かない意志がある。諦
?
Phase9:﹁決意﹂
時空管理局本局の居住区画にある、ハラオウン家。
先に第97管理外世界である地球の海鳴市において起きた事件│
│プレシア・テスタロッサ事件││において天涯孤独の身となった
フェイトは、彼女の使い魔であるアルフと共に、現在ここに世話に
なっていた。
重要参考人として裁判を受けながらも、時空管理局の嘱託魔導師と
しての資格を取り、先の事件にて知り合い、自身の身柄を引き受けて
くれてたリンディ・ハラオウン、及びクロノ・ハラオウンの任務を手
伝う日々を過ごしてる。
その彼女にあてがわれている部屋のベッドの上。
﹂
ある時間を境にして、フェイトは膝を抱えるように座り込み、何か
を考え続けていた。
﹁フェイトぉ⋮⋮どうしたんだい、さっきからぼおっとしてさ
その様子を見かねたアルフが声を掛けると、フェイトはその視線を
心配かけて﹂
アルフに向け、小さく微笑みながらアルフの頭を優しく撫でる。
﹂
なその言葉にフェイトは苦笑を浮かべた。
そいつに何
アルフがそう思うのも無理は無い。彼女にとっては、実際に自分が
あってどんな人物か確かめられるわけでもなく、そんな相手に大好き
で、大切な主であるフェイトを一人で会わせることを許容しなければ
いけないのだから。
フェイトがアルフに、葉月のことや召喚のことを話したのは昨夜。
2度目の召喚を終え、その時の記憶が入ってきた後だった。
﹁ねえアルフ、私ね、不思議な体験をしたよ﹂
そう前置きして語られたフェイトの話に対し、最初のアルフの反応
46
?
⋮⋮何があったか知らないけど、何が原因かぐらいア
﹁なんでもないよ。ごめんね
かされた
タシにも解るよ。昨日言ってた﹃ハヅキ﹄って奴だろ
﹁フェイト
?
酷く心配そうな表情で訊いてくるアルフの、当たらずとも遠からず
?
!
?
﹂だったのもまあ、仕方の無いことであろうか。
は﹁それって、アリサやすずかが送ってくれた映画とか本の話じゃな
いよね
物事の判断基準が﹁フェイトのためになるか﹂で行われると言って
も過言ではない││そのためにかつての事件においては、フェイトの
母親であるプレシア・テスタロッサにすら楯突き、敵であったはずの
高町なのはに対して﹁フェイトを助けて﹂と頼んだのだから││アル
フが、そのフェイトの言う事に疑問を呈する程には荒唐無稽な話だっ
たからだ。
﹂
﹁別に、葉月に何かされたってわけじゃないんだ。⋮⋮けど⋮⋮ねえ、
アルフ。少しだけ、話を聴いてもらってもいいかな
﹁もちろんだよ﹂
体制を整えると﹁それで
﹂とフェイトに促す。
フェイトの言葉に大きく頷いたアルフがフェイトの隣に座り、聴く
?
を。
達││高町なのはの姿を。真っ直ぐで、そして優しくて強い眼差し
かり、そしてついには打ち勝って、そして助けてくれた、初めての友
頑なに拒絶していた自分に、それでも諦めずに何度も正面からぶつ
べた。
て今は会えない、けれど、必ずまた会えるはずの友達の姿を思い浮か
アルフの言うようにそう思うかも、とフェイトはくすりと笑う。そし
アルフの漏らした感想に、確かに今の自分の説明を聞く限りだと、
﹁⋮⋮何となく、なのはを彷彿とさせるね﹂
んて無いのに、未知の世界に挑んでいく、〝強い人〟﹂
が無いなら無いなりに、少しでも強くなろうと努力して、戦った事な
半分も生きていない相手である私に頭を下げて、協力を求めて、力
ど、それでも前に進もうともがいてる。
力が無いにも関わらず、いきなり放り出された理不尽な状況。だけ
﹁初めて会った時から、ずっとね、〝強い人〟だなって思ってた。
紡ぎ出した。
それを受けてフェイトは一度﹁うん﹂と頷くと、ぽつり、と言葉を
?
次いで思い出すのは、自分に助けを求めてきた、一人の青年の姿。
47
?
﹂
たった一つの目標のために、必死に戦う姿。生きるために強くなろ
うとあがく、命の輝き。
﹁けど、違った﹂
﹁思ったより弱くてがっかりした⋮⋮ってわけじゃなさそうだね
﹁うん。⋮⋮葉月は、〝強くて弱い人〟。一歩間違えたら折れてしま
いそうな、崩れてしまいそうな心を覆い隠して、必死に頑張ってた﹂
昨日1日だけでも、片鱗はいくつも見ていたはずだった。
戦い方について教えている間も常に気を張っていた。﹃迷宮﹄に出
る前にすごく緊張していた。本人は気付いていなかったけど、震えて
いたのは手だけじゃなかった。戻ってきたときに、崩れ落ちるように
ソファに座り込んでいた。
けど、実際に気付く事が出来たのは、彼の心が折れそうになった時
だった。
だというのに。
葉月の身体を支えたあの時。物理的な距離が密着するぐらいに近
かったからか、心が弱っていた時に初めての念話を受けて、心が開い
ていたのか、無意識に念話として思念が漏れたのか。彼の〝声〟が聞
こえてきた。
││強くなりたい。背中を預けてもらえるように。肩を並べて、戦
えるように。
きっと彼の中では、自分の境遇に対する恨み辛みもあるだろう。理
不尽に対する怒りもあるだろう。だけど、聞こえてきたのはそんな〝
声〟で。
﹃迷宮﹄から戻る途中の戦闘でも、金の粒子を見るたびに、表情を曇
らせていた葉月。
けれどきっと、次に会った時には、もう何でもないような顔をして、
平気なように振舞うんだろう。
?
48
?
そんな葉月の〝強さ〟と〝弱さ〟をフェイトが思い出したその時、
﹂
﹁でもさ、フェイト﹂と前置きして、アルフが言う。
﹂
﹁訊いてもいいかい
﹁何、アルフ
?
﹁フェイトが﹃ハヅキ﹄に会ったのは昨日が始めて、だよね
2日しか経ってない。なのに何でそんなに⋮⋮﹂
まだ丸
アルフの言いたい事はフェイトとて解っている。少し入れ込み過
ぎている、とでも言いたいのだろう。もしかしたら、ミッドチルダに
おける﹃召喚魔法﹄とは違い、召喚する者とされる者の間に何がしか
の精神リンクでもされるのかもしれない。⋮⋮その可能性はフェイ
トも考えはした。
けど、違う。例えそうだとしても根本の原因はそこではないのだ。
フェイトは葉月と接して、自分が感じたことを思い浮かべながら、
静かに言葉を紡ぎ出す。
﹁⋮⋮きっと、心のどこかで葉月になのはを⋮⋮そして自分を、重ねて
いたんだと思う。私はなのはに救われた。だから、今度は私が、助け
を求めてきた葉月を救うんだって﹂
助けを、繋がりを求めて手を伸ばす姿に、厳しい状況にも負けず、進
もうとする姿に、自分となのはの姿を映していた。
フェイトはアルフにはもちろん、葉月にすら言っていなかったが、
彼が自分のことを何がしかの理由で〝知っている〟ことに何となく
気付いていた。
例えば葉月の持つ﹃召喚﹄能力に﹁戦う力をもつ者を召喚する﹂と
言う条件がついていたとしても、普通であれば戦力として召喚した相
手が、世間的に見て明らかに﹁子ども﹂だったとしたら、多少は﹁本
当に戦えるのか﹂と疑問に思うはずだからだ。
初めて召喚されたとき、フェイトはバルディッシュどころかバリア
ジャケットすら纏っていない普段着姿だった。
それに加え、彼の出身である世界││地球││の事を鑑みれば、疑
問に思わないはずが無い。だというのに、葉月はフェイトが名乗る前
から躊躇うことなく﹁話を聴いてほしい﹂と頼んできた。
それらを踏まえてみれば、何故かは解らないし、どこまでかも解ら
ないけど、葉月は自分のことを││少なくとも戦えることは││知っ
ていた。
だけど、だからこそ。
49
?
﹂
﹁⋮⋮それにね、嬉しかったんだ﹂
﹁嬉しかった
﹁うん。頼ってくれるのが。⋮⋮私を、必要としてくれるのが﹂
〝誰か〟に必要とされるのが嬉しいと、﹃フェイト・テスタロッサ﹄
を必要としてくれるのが嬉しかったと、そう言って少し寂しそうに笑
うフェイトが〝何を〟想っているのか、その心情が痛いほどに理解で
きるアルフは、労わるように優しく、けれどしっかりと、フェイトを
抱き締める。
﹁ありがとう、アルフ﹂
しばらくの間そうしていたアルフは、フェイトのその言葉に彼女か
ら離れ、一呼吸置いた後にフェイトは再び言葉を紡ぐ。
﹁葉月にとって、今頼れるのは私しか居ないから⋮⋮だから〝私が〟
何とかしてあげなきゃって⋮⋮⋮⋮〝私だけ〟が何とかしてあげら
れるんだって思ってた﹂
フェイト自身、あまりはっきりと自覚していなかったが、彼女のそ
の想いは、葉月の家族の話を聞いたときにより強くなっていた。
素敵な家族だと思った。
葉月自身のことも、優しくて良いお兄ちゃんだなと、そう思った。
そして同時に脳裏に過ぎった、自分に││否、
﹃アリシア﹄に優しく
微笑む母の顔。
彼女││﹃フェイト﹄││にとって得ることの出来なかった、暖か
な家族。
現にフェイトしか、その﹃ハヅ
だからこそ、そんな素敵な家族の元に、自分の手で必ず帰してあげ
たいと、心からそう思った。
﹁それは別に間違っちゃいないだろ
よ。けど、私は自分が⋮⋮〝自分だけ〟が必要とされているって言う
﹁別に、葉月に直接接する事が出来なくても、やれる事はきっとある
の表情を浮かべる。
アルフの言葉を否定するフェイトに、アルフはどういう事だと疑問
﹁違うよ、アルフ﹂
キ﹄に接触することができないんだからさ﹂
?
50
?
ことの心地よさに甘えて、それから目を背けてた﹂
そこで言葉を一度区切り、フェイトは少しだけ目を瞑り││再び開
いたそこに見えるのは、確かな意思。
﹂
﹁だから、まずは相談してみようと思う﹂
﹁⋮⋮相談って、リンディ提督達に
アルフの問いに﹁うん﹂と頷いたフェイト。
﹁本当は、少し迷ってたんだ。事件とか裁判のこととか、私達自身のこ
ととかもあるから、これ以上迷惑を掛けたくなかったから。けど、も
う迷わない。私は私の打てる手段を全部打つって決めたよ﹂
何
自分に言い聞かせるように小さく言うフェイトに、アルフは﹁そっ
か﹂と一つ頷いて、
﹁明日からアースラに移るし、話をするには丁度いいかもね。
フェイト、アタシに出来る事があるなら何でも言うんだよ
だってやってやるからさ﹂
それはフェイト自身も解っている。だが、それでもそう言ってくれ
方法が無いのだから。
だと切って捨てられたとしても、フェイトにはそれを明確に否定する
きるわけではない。言ってしまえば、フェイトの言うことは全て妄想
るのはフェイトだけで、そのうえ葉月に関して物理的な証拠を提示で
今しがたアルフ自身が言ったように、葉月と直接に接する事が出来
とを信じられるわけではないだろう。
アルフ自身は、フェイトが言ったからといってそう簡単に葉月のこ
そう言って、任せろと言わんばかりにどんっと大きく胸を叩く。
?
るアルフの気持ちが嬉しく、フェイトは穏やかな笑みを浮かべ、頷い
た。
││だから⋮⋮葉月、待ってて。絶対に帰してみせるから。
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?