深遠なる迷宮 夢幻の残響 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので す。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を 超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。 ︻あらすじ︼ ││気がつくと見知らぬ部屋にいた。そこは未知の世界。未知へと続く、暗く深き ﹃深遠なる迷宮﹄。 ﹁家族のもとへ帰るために﹂ その想いを胸に、心優しき雷光の少女と共に、俺は迷宮へ挑む││。 注意事項 ※自サイト︻夢幻の残響︼でも連載しています。そちらからの転載です。 ※原作名にある世界に行くわけではありません。 ※始めは︵結構しばらくの間︶フェイトちゃんだけです。 Phase1:﹁召喚﹂ │││││ 目 次 Phase2:﹁把握﹂ │││││ 1 Phase9:﹁決意﹂ │││││ Phase8:﹁虚勢﹂ │││││ Phase7:﹁推測﹂ │││││ Phase6:﹁動揺﹂ │││││ Phase5:﹁家族﹂ │││││ Phase4:﹁初陣﹂ │││││ Phase3:﹁教受﹂ │││││ 8 19 30 39 48 58 66 73 貴方は﹃深遠なる迷宮﹄に挑む第三次召喚者 貴方のお 他の1,000人のプレイヤーと共に頑張ってください ││Congratulation ゲームマスター に選ばれました ││迷宮の王より、プレイヤー特典としてユニークスキルが贈られます 好きな能力を思い描いてください ││⋮⋮貴方のお好きな能力を思い描いてください ││その能力は既に使用されています 他の能力を思い描いてください ! ││⋮⋮⋮⋮貴方のお好きな能力を思い描いてください ││その能力は既に使用されています ! ││その能力は既に││ ││その能力は││ ││その││ 他の能力を思い描いてください ││その能力は既に使用されています ! ││ 他の能力を││ ││その能力は既に使用されています ! ││その能力は既に使用され││ ! ! ! ! ! ! ! ! ! Phase1:﹁召喚﹂ Phase1:「召喚」 1 よろしいですか Good Luck ││その能力は使用できます にてお会いしましょう ⋮ ⋮⋮ ⋮ ⋮⋮変な夢を見た。 !! ! ⋮⋮⋮⋮それでは、迷宮の深奥 ? ﹃深遠なる迷宮﹄、 ﹃第三次召喚者﹄、 ﹃1,000人のプレイヤー﹄、 ﹃ゲームマスター﹄、 そのくせ妙にはっきりと覚えてる。 真っ暗な空間でたただ声だけが聞こえてきただけの夢。 ! つけたような雰囲気とでも言おうか。 そう考えたところで、ふと思った。⋮⋮ここ、どこだ どうやら俺はベッドに寝ているらしい。 目に映るのは天井。だけど、自分の良く知る部屋の天井でもなければ、学校の天井で ? 言うなれば、無理矢理〝解りやすいように〟表現したかのような⋮⋮と言うか、とって ﹃ユニークスキル﹄⋮⋮何が何だかわからない、けど、何だろう、凄く気持ち悪い。そう、 2 Phase1:「召喚」 3 もない⋮⋮ゴツゴツとした岩 確か⋮⋮教室で授業受けてた⋮⋮ がむき出しの天井。 ⋮⋮っていうかなんで俺ベッドに寝てるんだ はず 冷や汗が止まらない。 徐々に心臓が早鐘を打ち始める。 一度目を瞑って、大きく深呼吸。 落ち着け、俺。 かい合う二人掛け程度の大きさのソファー。 その奥⋮⋮ベッドから見て反対側の壁には⋮⋮あれ、キッチンか そのキッチンらしきものの右横の壁にはドア。 そして俺の左手側、ベッドから一番離れた壁の真ん中には、観音開きの扉。あっちは ? 角には俺が寝ている粗末なベッド。中央には木でできたテーブルと、それを挟んで向 7、8メートル四方程度だろうか、小さな部屋。 ⋮⋮そこは部屋だった。 こして周囲の様子を見ることにする。 ⋮⋮⋮⋮よし、落ち着いた⋮⋮わけがないけど、覚悟は⋮⋮決まらないけど、体を起 ? ? 背筋にゾクリと嫌な予感が走る。 ? どうも出入り口っぽい。 出入り口の左横の壁に埋め込まれた謎の端末。 その更に横の角には、大きな箱。ゲーム何かでよく見る宝箱⋮⋮といえば雰囲気が掴 めるだろうか、そんな感じの箱。 それにこの部屋、窓も照明も無いのに何で明るいんだ ⋮⋮まったく持って訳が解らない。ホントここ、どこだよ ﹁っ ﹂ 内心でそうボヤキながら、ベッドから降りた、その瞬間だった。 ? ? 気持ち悪い。 そんなような怒涛の情報が一気に脳内に流れ込んできた。 と買い物やら何やらができる。 スルームとトイレに通じるドアで、あの箱はアイテムボックスで、その横の端末で色々 備するための場所で、俺がこの世界で生活するための場所で、キッチンの横のドアはバ ・・・・ ここはプレイヤーの為に用意された﹃マイルーム﹄で、 ﹃深遠の迷宮﹄に挑むために準 書き込まれていくのが解る、知らない知識。 ガリガリと、まるで無理やり脳に知識を刻み付けているかのような激痛と共に、事実 突如襲ってきた頭痛。 !! 4 Phase1:「召喚」 5 吐きそう。 頭痛え。 あ、吐く。 ⋮ ⋮⋮ ⋮ 辛うじてトイレに駆け込んで、汚物を床に撒き散らす事態は防いだ。 けどもう気力も体力も使い果たした俺は、ヨロヨロとベッドに戻ると横になる。ぎし りとスプリングが軋む音がした。 無理やり刷り込まれた知識で、理解したくないけど現状は理解した。 つまり、俺を始めとした、この場には姿の無い││恐らく各自の﹃マイルーム﹄とや らに居るのだろう││他の999人の第三次召喚者とやらの﹃プレイヤー﹄は、 ﹃ゲーム マスター﹄とやらが創ったこの﹃深遠なる迷宮﹄を攻略するためだけに﹁この世界﹂に いるのだということだ。 ﹃ゲームマスター﹄が何故わざわざ迷宮を創り、そして様々な世界から様々な人間を呼 6 び込んで、無理矢理迷宮に挑ませているのかは知らないけれど。それが今回⋮⋮﹃第三 次召喚﹄とやらは俺達の世界だった、と。勘弁してくれ。 そして俺は、この迷宮をクリアしないかぎり元の世界には還れないんだとか。 荒唐無稽。 滅茶苦茶。 夢だろこれ。 そんな思いがいくつも浮かんでは、すぐ消える。 だって俺はもうこれが事実だと理解してしまっているもの。 ⋮⋮違うな、理解﹁させられている﹂が正しいか。 部屋の床に立った途端に襲ってきた頭痛と、その後の情報の津波。 あれは迷宮に挑むプレイヤーが、すぐに攻略に参加できるようにゲームマスターが仕 組んだ﹁情報提供﹂らしい。 ソレによって俺は現状が事実だと無理矢理理解〝させられて〟しまった。 普通ならもっと泣き叫んで、怒鳴り散らしているだろう。けど、その段階は既に通り 越してしまった。⋮⋮実際にはまだなのに、そんな気分にさせられてしまっている。 ひどく、気持ちが悪い。 ⋮⋮はぁ、とりあえずちょっと寝よう。 Phase1:「召喚」 7 そういえば、今夜はカレーだって、母さん言ってたっけ。 自分の頬を何かが流れる感触に顔を顰めた。 ⋮⋮本当に、勘弁してくれ。 ⋮⋮帰りたい。 最終目標は、この迷宮を攻略して元の世界に帰ること。もしかしたら誰か一人が攻略 サッパリしたところで、次に決めるのは今後の事、か。 ⋮⋮さて。 法の力ってやつだろうか。 式﹄のシャワーもあるらしい。魔導力って何だろうとは思うが⋮⋮名前から察するに魔 とりあえずサッパリしてくるか⋮⋮と、バスルームへと向かった。どうやら﹃魔導力 まったく、溜め息ばかりだ。 になってるな⋮⋮はぁ。 幾分気分がスッキリした。⋮⋮って、あー⋮⋮制服のまま寝たもんだから思い切り皺 溜め息を吐きつつ、解っていたことだけども、と独り言ちてから体を起こす。 ⋮⋮⋮⋮はぁ、夢じゃない、か。 視界に写るのは見慣れた部屋の天井じゃなく、ゴツゴツとした岩がむき出しの天井。 ⋮⋮目が覚めた。 Phase2:﹁把握﹂ 8 Phase2:「把握」 9 すれば全員が帰れるかもしれないが⋮⋮余り楽観視しないほうがいいか。下手をすれ ば誰も攻略に乗り出さない⋮⋮なんてことになりかねない以上、攻略した人だけが帰れ る、と考えていた方が自然だもんな。 とまれ、方針としては、〝命を大事に〟。これしかない。死んじゃったら元も個も無 いわけで。 ﹁書き込まれた﹂情報によると、この世界は剣と魔法と魔物がはびこるファンタジーの ようだし。⋮⋮俺に戦いとか出来るんだろうか。 そう思いながらとりあえずアイテムボックスを開け、そこに入っていた小さなポーチ を取り出す。 どうやらこれはこのアイテムボックスと直結しているらしく、このポーチを通じてア イテムボックスの中身を出し入れできるらしい。魔法ってすげえな。 ⋮⋮って言うか、この﹁知らないはずの情報を知っている﹂って感覚が凄く気持ち悪 い。そのうち慣れる⋮⋮とは思うんだけど。 次いで、出入り口横の端末の前に立った。 それに反応してか、ブンッと電子音のような音を立てて起動する端末。⋮⋮タッチパ ネルのようだ。実はこれ、魔法じゃなくて高次元に行き着いた科学なんだって言われて も違和感は無いよな。そういえばどこかで、行き過ぎた科学は魔法と変わらない⋮⋮み たいな表現を見たことが有る気がする。⋮⋮そんなどうでもいい感想が浮かぶ中、ディ スプレイに目を向ける。 そこに表示されているのは、数行の文字の羅列。 上から﹃ステータス﹄、 ﹃アイテムボックス﹄、 ﹃ショップ﹄、 ﹃コミュニティ﹄、 ﹃インフォ メーション﹄とある。 見たことも無い文字のはずなのに何故か読めるそれらの中から、とりあえず﹃ステー タス﹄を選択。 ◇◆◇ :術者の知る創作物のキャラクターを召喚することができる。連続召喚時間は最大3 ﹃キャラクター召喚・Lv1﹄ ︻ユニークスキル︼ 球﹄。 ﹃第三次召喚者﹄ :異世界から召喚された﹃深遠なる迷宮﹄第三次攻略者。出身世界は﹃地 ︻称号︼ 長月 葉月 [Hazuki Nagatsuki] ︻プレイヤー名︼ 10 ディ レ イ 時間。送還後、召喚していた時間と同時間のスキル使用不能時間が発生する。 召喚可能キャラクター ﹃フェイト・テスタロッサ﹄ ︻スキル︼ 言うスキルのせいか。⋮⋮果たしてこの﹃アーサリア﹄ってのは、世界名なのか大陸名 それに、この知らないはずの文字が読めたのは、最後にある﹃アーサリア言語﹄とか 言うものだった。 そんな感想と共に思ったのは、俺が選んだユニークスキルってこんなんだったか、と っていうか出身世界﹃地球﹄って、大雑把過ぎるだろ。 テータスオープン﹂と発声すれば、迷宮内のどこでも表示可能らしい。 画面の一番上に小さく注釈がついていたんだが、どうやらこのステータス画面は﹁ス ムだな。 ⋮⋮﹃筋力﹄やら﹃知力﹄やらが数値化されていないだけまだマシだけど、まるでゲー ◇◆◇ 使用することができる。 ﹃アーサリア言語﹄ :迷宮の王より付与された初期スキル。パッシブ。この世界の言語を Phase2:「把握」 11 なのか国名なのか。 ⋮⋮色々思うところはあるが、とりあえずそれはおいといて、先に他の項目の確認だ な。 そう自分に言い聞かせ、前の画面に戻って順番にメニューを見ていく。 ﹃アイテムボックス﹄から行えるのは、中のアイテムの確認と、﹃分解﹄、﹃合成﹄。 ﹃分解﹄は選んだアイテムを﹃魔力﹄に変換するらしい。 ﹃合成﹄は、別々のアイテムを一つにして新しいアイテムを作り出す。それを行うには 選んだところ﹁この項目は現在使用できません﹂と出やがった。字面から察するに、恐 次の﹃コミュニティ﹄。これは今は見れなかった。 ただし、買うために支払うのはお金じゃなく、先に上げた﹃魔力﹄である、と。 えるようだ。 これは文字通り買い物ができるみたいで、日用品や食料品から武器防具まで何でも買 次に﹃ショップ﹄。 きるためには戦え、と言うことか。 れる﹃魔結石﹄やモンスターの部位素材から多くの﹃魔力﹄が得られる⋮⋮つまり、生 で、 ﹃魔力﹄を得るには先の﹃分解﹄しかなく、迷宮内に出現するモンスターから得ら ﹃魔力﹄が必要、と。﹃魔力﹄はこの他にも、この部屋の機能の維持にも必要だとか。 12 らくは他の﹃プレイヤー﹄との交流用だと思うが。 そして最後の﹃インフォメーション﹄。 これは文字通り各種情報。先の﹃魔力﹄に関する情報もこれで見た。 他に迷宮の簡易情報や戦ったモンスターの情報なんかが見れるみたいだ。 今見れる迷宮の情報としては、俺がこれから挑まなければいけないのは、迷宮第一層 ショートソード﹄で必要魔力が1,000ポイントか。 ず ら っ と 並 ぶ リ ス ト を 見 て い く と、全 体 的 に 高 い 気 が す る。一 番 安 い﹃ブ ロ ン ズ そう思って、﹃ソード﹄の項目を選択。 れこそ素人には無理な気がする。クロスボウでも有れば別なんだろうけど。 安全面を考えるなら、遠距離から攻撃できる武器がいいんだろうが⋮⋮弓矢とか、そ さて⋮⋮武器の種類は⋮⋮無難に剣かな。 じゃないのは、多分一日経ってることと、さっきシャワーを浴びたからだろうか。 いる魔力量は4,863。これが多いのか少ないのかはわからないが。切の良い数字 ﹃ショップ﹄の項目の中から﹃購入﹄、 ﹃武器﹄と選ぶ。現在マイルームにプールされて 迷宮内にモンスターが出る以上、戦う手段は必要だ。 さて、次は⋮⋮武器の調達か。 ﹃洞窟エリア﹄で、全10階層で構成され、10階にはボスが居る、と言うことぐらいか。 Phase2:「把握」 13 14 しばし迷いながらも、買うものを決定していく。 購入した物品はアイテムボックスに入るようだ。試しにと思い、腰につけたポーチか ら取り出してみると、大きさの如何に関わらず出し入れできるようである。便利。 購入したものは以下。 アイアンショートソード:鉄製の刃渡り30センチ程度の剣。1,500ポイント。 バックラー:裏側に持ち手のついた、直径30センチ程の円形の盾。木製。500ポ イント。 マイナーヒールポーション:飲めば体力回復、掛ければ傷の治療に使える液体の回復 薬。効果小。250ポイントが2つ。 他に着替えとか色々200ポイント分。 以上、締めて2,700ポイント。 他に生活費需品や食料品なんかも買わねばならない事を考えると、とりあえずこれ以 上は使いたくない。一回の探索でどれぐらい魔力を回復できるかわからないのだし。 さて、それじゃあいよいよ、今後の探索の鍵となるだろうユニークスキルをば。 まぁ、こんなスキルをゲットしていることから解るように、アニメやゲームやらは俺 も好きなわけで⋮⋮本来ならワクワクするところなんだろうが、今は正直気乗りがしな い。 だってそうだろ サモン 俺自身、いきなりこんなところに召喚されて、迷宮に挑まされる た。⋮⋮まぁ、召喚したい人の名を呼ぶだけみたいだが。 覚悟を決めて、俺はその場に手をかざし、脳裏に刻まれた情報に沿って、言葉を発し では、いざ。 相変わらず﹁知らないけど知っている﹂状態だが、今更だな。 使い方は⋮⋮大丈夫、解る。 ⋮⋮駄目なら諦めて一人で攻略するしかないな。 とに代わりはない。協力してもらえるように、誠心誠意頼むだけ。 これから呼ぶ相手が一人の人間である以上、例え実際がどちらであろうと俺がやるこ ⋮⋮そう思ったところで、考えるまでもないかと思い直す。 呼び出すのか、どちらかと言うことだろうか。 〟呼び出す能力なのか、それともその創作物の〝世界〟があって、そこからその人物を 一番の疑問は、果たしてこの﹃キャラクター召喚﹄は、創作物の人物を〝創りだして 係ない相手を召喚して戦ってもらうスキルなんだから。 状況に追いやられてるというのに、その俺が取得したスキルが、自分が生きるために関 ? 俺の言葉が終わると同時に、かざした手の先に現れる人ひとりが入るぐらいの大きさ ﹁﹃召喚:フェイト・テスタロッサ﹄﹂ Phase2:「把握」 15 の、球状の魔法陣。 思わず﹁おお﹂と感嘆の声が漏れる。 そして次の瞬間││魔法陣がカシャンッと音を立てて砕け││俺の眼前には、綺麗な 金の髪をツインテールにした、黒色のワンピースを着た10歳ぐらいの少女が居た。 紛れも無い││あのフェイトだ。うむ、美少女である。 彼女は現れた直後、一瞬途惑った表情を浮かべたあと、少し周囲を見回し、その視線 を俺に向けて、﹁あの⋮⋮﹂と声を掛けて来た。 ながつき はづき って、呼び出しといてぼうっとしてどうするよ俺。しっかりしろ。 ﹂ ? う彼女は、その丹精な顔にふっと微笑みを浮かべた。 不意打ちの表情にドキッとする。落ち着け俺、相手は推定10歳⋮⋮9歳だったか とにかく俺の半分程度の年の子だ。 ﹂ ? 少しだけ戸惑ったような表情を浮かべてそう言う彼女へ、俺は自分の状況を説明して ず、話を聞かせてもらえますか ﹁私はフェイト。時空管理局嘱託魔導師の、フェイト・テスタロッサです。⋮⋮とりあえ ? そう言って頭を下げた俺に対し、 ﹁あ、あの、頭をあげてください﹂と慌てた様子で言 申し訳ないんだけど、話を聞いてもらえないかな ﹁あ、ごめん。えっと⋮⋮はじめまして。俺の名前は長月 葉月。行き成り呼び出して 16 ゲームマスター いく。 ﹃迷宮の王﹄とやらにこの世界に召喚されたこと。 ﹃深遠なる迷宮﹄と言うらしいこの迷宮を攻略しなければ、元の世界に戻れないらしい こと。 召喚された時に、ゲームマスターによって、 ﹃ユニークスキル﹄を与えられ、俺が手に 入れたのは﹃召喚能力﹄であること。 そして最後に、俺が手に入れた召喚能力の仕様││連続召喚時間やその後のディレイ なんか││を説明した。 どれだけの時間が経っただろうか。⋮⋮いや、きっと幾許も経っていないんだろう、 俺はその視線を逸らさないように正面から受け止め、彼女の次の言葉を待つ。 据えてくる。 俺の説明を聞き終えた後、フェイトはその表情を真剣な物へと変えて、ひたと俺を見 んて無い。だから、お願いします。力を貸してください﹂ て言うなら⋮⋮攻略すれば、家族の元に帰ることができるなら、俺はそれを諦めたくな してたから、今の自分がまともに戦えるとは思わない。けど、攻略しなきゃ帰れないっ れた情報と、自分の現状にさ。それに俺自信は戦いとかそういったこととは無縁の生活 ﹁正直、自分でも未だに混乱している部分もあるんだ。放り出された状況と、植えつけら Phase2:「把握」 17 けど、俺にとっては凄く長い時間が過ぎた気がして。 そして彼女は││ ﹁⋮⋮うん。私でよければ力になります。⋮⋮一緒に頑張ろう えたのは、これが初めてだったに違いない。 ﹂ まだたったの18年だけど、今まで生きてきた中でこの一言をここまで心を篭めて言 ﹁ありがとう﹂ けど今は、先に言わなきゃいけない⋮⋮いや、心から言いたい言葉を、言おう。 うして俺に協力してくる気になったのかって。 俺には窺い知ることはできないけれど⋮⋮いつか訊いたら、教えてくれるだろうか。ど 彼女の中でどんな想いがあるのか、どんな考えから、そう言ってくれたのか、それは 安堵の息を吐いた。 もう一度その顔に微笑みを浮かべ、彼女の口から発せられたその言葉に、俺は大きく ? 18 Phase3:﹁教受﹂ とりあえず、俺に敬語はいらないよ、と告げると、一瞬の間を置いてから﹁うん、わ かった﹂と頷いたフェイト。 さて、彼女も協力してくれるって言ってくれたし、それじゃあ早速と外に出てみよう 聞くと、彼女は﹁肝心なこと、確認してなかったから﹂と前置きし、 かと出入り口に向かおうとしたところで、そのフェイトに﹁ちょっと待って﹂と止めら れた。 どうした ﹂ ﹂ 直に﹁戦ったことはない﹂と答える。 俺も男だ。任せておけといいたいところだけども、見栄を張っても意味は無いので正 その口から出たのはそんな疑問。⋮⋮うん、当然の疑問だよな。 ﹁葉月は戦えるの ? ? ? 俺の言葉に苦笑を漏らしたフェイトは、 ﹁仕方ないなぁ﹂と言ったような表情を浮かべ ﹁あはは⋮⋮もう﹂ ﹁⋮⋮こういったものを使った記憶はありません﹂ ﹁⋮⋮剣の使い方は Phase3:「教受」 19 る。 それから二時間と少し。 ﹂ ? ちゃ駄目だよ ﹂と念を押すように一言。 俺は手を止めて彼女に向き直ると、フェイトは﹁基礎は大事だから、これからもサボっ 自身を包み込む半透明の魔法陣を見て、フェイトが言う。 ﹁ん⋮⋮時間みたいだね﹂ 一瞬目の錯覚かと思う程に透明だったそれは、徐々にその色合いを濃くしていく。 陣が出現する。 ややもして、不意にフェイトを包み込むように、召喚した時と同じような球状の魔法 めて尽くしで大変だったんだけれども。 つまりは、戦闘の心得や基本的な武器の振り方とかである。それでも俺にとっては初 の俺である。そのため基礎の基礎を教えてもらった時点で終わったのだが。 いられるギリギリまでレクチャーを受けた。とは言え教えられているのは戦闘ド素人 ﹁最初が肝心だから、やると決めたからには今やるよ﹂と言われて、フェイトを召喚して 始める前にふと、一度戻った方がいいんじゃないか と思ったのだが、彼女自身に その有り難い申し出に、一も二も無く頷いたのは言うまでもない。 ﹁私でよかったら、戦い方教えようか ? 20 ? それに﹁解ってる。大丈夫﹂と答えると、彼女はうん、と満足げに頷き、次いで何か ﹂ を思い出したか、ふふっと小さく笑った。 ﹁どうした の表情を隠すかのように、魔法陣はその色を濃くし、 もう居なくなっちゃったんだけど、とフェイトが少し寂しそうに言ったところで、そ の魔法の先生でね﹂ ﹁ううん⋮⋮私もリニスによく言われたなって思って。⋮⋮あ、リニスって言うのは、私 ? 2に近い位置。俺の体内時計が狂っていなければ今は昼のはず⋮⋮そういや昨日から フェイトを見送った後、ふと空腹を覚えて外していた腕時計を見てみれば、短針は1 ⋮ ⋮⋮ ⋮ き消えた。 最後にそんな言葉を残して、大気に溶けるように、フェイトを中に納めた魔法陣は掻 ﹁それじゃ、また3時間後にね﹂ Phase3:「教受」 21 22 何も食べて無かったな。 そんな事実に思い至ると余計に腹が減ってきた。⋮⋮昼飯にするか。 端末から﹃ショップ﹄を開き、 ﹃食料品﹄から適当に購入。適当、とは言え無論必要量 だけだが。 ⋮⋮普段料理なんてしないから、これからが大変だな⋮⋮なんて思いつつ簡単に済ま せる。⋮⋮母さんの飯が食いたい⋮⋮と思ってしまって落ち込みそうになった気分を 何とか奮い起こす。 食材と一緒に買った食器をシンクに放り込み⋮⋮先に洗っとくか⋮⋮。 思い立ったが吉日、と言う訳ではないけれど、さっさと済ませてしまおう。放ってお いたら俺は絶対にやらない自信があるから。 まぁ、使った数は少なくて良かったと思いつつ皿を洗う。 ﹂と言う疑問に思い立った。 その最中ふと、﹁そういやスキルを再使用できるようになるまでの時間って解るんだ ろうか この先迷宮の攻略が順調に言った場合、恐らく迷 ? とになるだろう。そんなときに、スキルを使えない時間がどれだけあるのか解らないっ 宮の中で夜を明かす事態もあると思われる。そうなれば、必ず召喚不能時間と重なるこ けど、これが迷宮の中だったら 今はまだいい。安全な部屋の中にいるからな。 ? Phase3:「教受」 23 てのは正直言って非常に怖い。 そんな疑問はすぐに解消されたのだが。 ⋮⋮と言うのも、実際にスキルへと意識を向けてみたところ、脳裏にカウントが浮か ん だ か ら だ。今 頭 に 浮 か ん だ の は、﹁1 5 3.2 4﹂。後 ろ の 数 字 が 一 秒 ご と に 減 っ て いったことから考えるに、恐らく残り153分24秒ってことだろう。 さて、無事に疑問も解消されたことだし、折角教わった事を忘れないようにしないと。 そのためには反復あるのみ。 武器の持ち方。振り方。剣や盾による受け流し。戦闘時の心得。注意事項。心構え。 その他もろもろ。 ﹁剣や盾の扱いは、私も専門じゃないんだけど⋮⋮﹂と言いつつも、 ﹃戦闘﹄そのもの の経験が豊富な彼女の説明は、素人の俺にも解りやすかった。 それを思い出しながら、幾度と無く繰り返し続けた。 不思議と、何度も何度も繰り返すうちに、自分の動きが良くなっていくのが解る。 先程指導を受けている間も、フェイトにも﹁思ったより筋が良いね﹂なんて言われて 一瞬浮かれかけたんだが⋮⋮ふと、幾らなんでも自分のこれは異常だろうと思い至り、 薄ら寒いものを感じながらも﹁ステータスオープン﹂と言葉を発した。 眼前に現れるウィンドウ。 ※※ そこに浮かぶ文字を見て、そういうことか、と独り言ちる。 ※※新たな︻称号︼を獲得しました ! Lv0﹄効果が有ってってことか。 じゃあ、何もしなくても俺はそのうち剣を自在に扱えるようになるのか ? ってことは、こうして訓練することは決して無駄じゃない。確実に俺の力になるはず 士・Lv0﹄とやらを得たのは、俺が剣を持ってフェイトの指導を受けたからだろう。 恐らくまだ戦いに出ても居ないのにこうして︻称号︼を得た事を鑑みるに、この﹃剣 それに、だ。 これは確実にプラスになる﹃システム﹄だ。 ど││今の俺に取捨選択する余裕なんてない。使えるものは使わないといけない以上、 ⋮⋮自分の知らないうちに、いつの間にか影響を受けているのが恐ろしくもあるけれ えが脳裏を過ぎったところで、頭を振って思い直す。 そんな考 つまり、俺がこうして今自分の上達を感じる程に剣を扱えている理由は、この﹃剣士・ ﹃剣士・Lv0﹄:剣を使用して戦う者。見習い。﹃ソード﹄の扱いに若干のボーナス。 ﹃召喚師﹄:召喚術を使用して戦う者。 24 だ。 そう思いながら、俺は再び剣を振り始める。 ⋮⋮時間ってのは、何かに集中してるとすぐに過ぎるもので。 気がつけば既に3時間が経過し、スキルが使用可能になっていたので、再びの召喚を サモン 試みる。 ﹁﹃召喚:フェイト・テスタロッサ﹄﹂ 前回と同じように、かざした俺の手の先に現れる球状の魔法陣。そしてそれがガラス のように砕けて消え、その中から現れるフェイト。 彼女の姿は先ほどまでとは違い、黒いボディスーツに黒いマント。彼女のバリアジャ ケ ッ ト だ な。そ の 手 に は 長 柄 斧 の 形 状 の 武 器 ⋮⋮ 彼 女 の 専 用 デ バ イ ス、﹃バ ル デ ィ ッ シュ﹄が握られている。 彼女は現れてすぐに俺の姿を認めると、ニコリと微笑んだ。 そこでふと思った。召喚している間はどうなんだろう、と。 れど、それを言っていたら切が無いしな。 窺い知れた。もしかしたらそういう記憶が植えつけられている、なんて可能性もあるけ 今の一言で、俺が召喚していない間も、彼女は彼女の世界で時間を過ごしている事が ﹁3時間ぶり、だね﹂ Phase3:「教受」 25 ﹂ ﹁なあ、フェイト ﹁ん、なに ﹂ ﹁さっき戻ったとき、騒ぎになってなかった 急に居なくなった ってさ﹂ ! ? 多 分、葉 月 に よ っ て ? 体にフィードバックされる、と言うものだそうだ。 ピーであり、それがこの世界から送還された時に、経験した記憶等が元の世界に居る本 そこから結論付けたのが、先程の、俺が呼び出しているのはフェイトの同位体⋮⋮コ 時間の記憶があるのだという。 つまり、フェイトには俺と会っていた3時間の記憶と、自分の世界で過ごしていた3 いう記憶﹂が流れ込んできたそうだ。 先の召喚時間が切れて自分の世界に戻ったフェイトだけれど、実際は﹁俺と会ったと イトは、そう思った一番大きな理由を教えてくれた。 そう言ったあと﹁確信は無いけれど、十中八九は間違っていないと思う﹂と続けたフェ ﹃私﹄のコピーがこの世界に召喚されてるんだと思う﹂ わ け じ ゃ な い み た い。⋮⋮ 同 位 体、と で も 言 え ば い い の か な ﹁ん、大丈夫だったよ。⋮⋮どうも、今の﹃私﹄は﹃私﹄自身、そのものを呼び出してる からは思いもよらない言葉が返ってきた。 フェイトが元居た場所じゃ3時間ほど行方不明になってた訳だし、と続けると、彼女 ? ? 26 ﹂ とは言え、やはり今の自分が﹃本人﹄ではない、と言うところに複雑な表情を浮かべ るフェイト。 ﹂ ﹁えっと⋮⋮フェイト ﹁ん、なに ? に思い至ったのだろう、くすりと小さく微笑む。 ﹁それじゃ、葉月。今回は実際に﹃迷宮﹄に出てみようか﹂ 表情を引き締める。 そう言って、 ﹁心配してくれてありがとう﹂と続けた彼女は、俺が何かを言う前にその ? ﹁謝らなくていいよ。⋮⋮ありがと、葉月﹂ ﹂ ﹁⋮⋮ん、俺の方こそ。⋮⋮けど、それってフェイトの身体は大丈夫なのか が出たりしてない と言う俺に対して、彼女はこくりと一度頷いて、 ? 何か不調 対してフェイトは、一瞬きょとんとした表情を浮かべたあと、すぐに俺が謝った理由 かった。 意図せずとは言え、彼女に嫌な思いをさせてるだろうと思うと、謝らずには居られな ﹁その、ごめん﹂ ? ﹁大丈夫。少なくとも今のところ何も不調はないよ﹂ Phase3:「教受」 27 ﹁ああ、それでさっきとは服装が違うんだな﹂ 時間を見越して準備を整えてきたのか。 俺の言葉に彼女は﹁うん﹂と頷いて、﹁何があるか解らないから﹂と続ける。 そうだな、とフェイトの言葉に頷き、出入り口の扉の前に立つ。 ここから出ればそこは﹃迷宮﹄。⋮⋮流石に緊張するな。ゴクリと、自分の喉が鳴る音 が嫌に大きく聞こえた。 この先は未知の空間。下手をすれば死ぬかもしれない、そんな場所。 ││死ぬ。その考えに至ったとき、扉に手を掛けたまま俺は動けなくなってしまっ た。 怖い。 そんな想いが頭を過ぎり││カタリと、自分の手が震えているのが解った。 ⋮⋮情けない、と思う。けど、止められない。止まらない。 そんな折、不意に手を包み込まれるように握られて、一瞬ビクリと驚いて隣を見れば、 見惚れる程に柔らかな微笑みを浮かべたフェイトが。 じゃないか。 ⋮⋮参った。そんな事言われてしまったら、これ以上格好悪いところ、見せられない ﹁大丈夫。危なくなったら、私が守るから﹂ 28 眼を瞑って、一度大きく深呼吸。 見栄でも、虚勢でも良い、強気で行こう。俺なら大丈夫。たった3時間の付け焼刃と は言え、フェイトに教えを受けたんだ。だから大丈夫。 パンッと軽く頬を叩いて気合を入れる。⋮⋮よしっ ﹁⋮⋮ありがとう。もう大丈夫⋮⋮行こう﹂ ﹁⋮⋮ふふっ。うん﹂ ! ※※ 一度しっかりと視線を合わせ、コクリと頷きあって、俺達は﹃迷宮﹄へと足を踏み出 した。 ※※新たな︻スキル︼を獲得しました ! つことができる。 ﹃戦場の心得・Lv0﹄ :パッシブ。戦闘経験者から指導を受けた。戦闘時に平常心を保 Phase3:「教受」 29 Phase4:﹁初陣﹂ ﹃深遠なる迷宮﹄第1層・洞窟エリア・1階。 ﹃マイルーム﹄の扉を開き外に出たそこは、文字通りの洞窟だった。 物珍しさも相まってか、警戒しつつもどことなく楽しそうなフェイトと並んで歩くこ 正直有り難い。流石はまだ序盤も序盤ってところだろうか。 の壁や天井が淡く光を発しているからのようだ。明かりの事は全然頭に無かったから、 そして、こうして周囲の状況を把握できる程度に明るいのは、どういった原理か、所々 え、若干歩きづらい。 地面は二人が余裕を持って並んで歩ける程度に均されてはいるが、所々に石筍が生 天井からは鍾乳石が垂れ下がり、水滴の音を響かせる。 直感に任せて、適当に右へ。 進もうか⋮⋮なんて悩んだところで、道標も何もないんだから変わらないか。 扉を出た場所はどこかの通路の途中の様で、道は左右に伸びている。さて、どちらに ﹁だなぁ⋮⋮﹂ ﹁部屋から出たら洞窟って⋮⋮何だか変な感じだね﹂ 30 としばし、突如フェイトが立ち止まり、警戒を強めた。 ﹁⋮⋮気を付けて。何か来る﹂ フェイトの忠告に従って武器を構える。 耳を澄ませば、確かに前方の暗がりから、タタタタタッと言う小さな足音らしきもの が聞こえてくる。 ﹂ ﹂ 足音は徐々に近くなり、そして俺達の前にその足音の主が姿を現した。それは││ ﹁⋮⋮ネズミ ﹁ネズミ⋮⋮かな ﹁⋮⋮大きいね﹂ 前脚よりも目に見えてに発達している後脚だろうか。 そして俺達が良く知るネズミとの最も大きな違いは、その大きさもさることながら、 な。 見慣れているものが小さなものなだけに、ここまででかいと怖いを通り越して呆れる メートルにはなろうかと言う、巨大なネズミ。 各々の武器を構える俺達の前に現れたのは、体長50センチ⋮⋮尻尾を含めれば1 ﹁でかいな﹂ ? ? ﹁とりあえず、私は手を出さないから頑張ってみて﹂ Phase4:「初陣」 31 そう言うフェイトに頷いて返す。気後れはするが、ここで躊躇っていてはいつまで 経っても戦えない。腹をくくれ、俺 し、俺達の手前2メートル程で跳び上がり、その口を開けて噛み付いてきた。 ネズミは俺がやる気になったと見るや、おもむろにこちらに向かって勢い良く突進 ! フェイトは余裕で、俺は慌てて、それぞれ身体を半回転させるようにその攻撃を躱し、 ネズミは俺達の間を通り過ぎる。 ﹂ ﹂ ﹁葉月 ! ﹁だね。⋮⋮あ、葉月、見て。やっぱりただの動物じゃないみたい﹂ ﹁まさかネズミが跳ぶとは思わなかった﹂ た後、再び立ち上がってこちらを威嚇してくる。 対するネズミは﹁キィッ﹂と苦悶の声を上げつつ、斬られた衝撃で地面を数回転がっ ずに、こちらの攻撃を当てたのだから。そういうことにしておいてくれ。 るに終わったが、素人の第一撃目としては及第点じゃなかろうか。相手の攻撃を喰らわ 俺達とネズミの位置関係と通路の広さも相まって剣閃はネズミの横腹を軽く傷つけ ら、右手に持ったショートソードをネズミに一閃。 そのタイミングで掛けられたフェイトの声に従って、刃を立てるように意識しなが ﹁っ ! 32 フェイトに言われてネズミをよく見てみれば、なるほど確かに俺が切った傷からは血 が流れることはなく、金色の粒子が煙のように立ち上っている。 と、その時、話しながら観察していた俺達の様子を隙と見て取ったか、ネズミは再度 こちらに向かって突進してくる。その動きは先ほどよりも遅く、さっき斬った影響だろ うか、なんて思ったその瞬間、その発達した後脚を強く蹴り出して加速し、俺の数歩後 ろにて様子を伺っていたフェイトへと狙いを変えた。 今度は跳ばずに走り続けるネズミは、突如標的を変えられたために反応の遅れた俺を 置き去りに、フェイトに向かって勢い良く突進し││ガンッという鈍い音を立てて吹っ 飛び、ものすごい勢いで壁に激突する。 ネズミの軌道とフェイトの残心の構えから察するに、恐らく掬い上げるように振るわ れたバルディッシュによって弾き飛ばされたんだろうとは思う。彼女の動きが速過ぎ て見えなかったが。 ネズミに目を向ければ、壁からずるりと地面に落ちると、そのまま動かなくなった。 その直後、ネズミの身体は傷口から出ていた金色の粒子と同じ物へと変わり、大地に と大気に溶けるように消える。 後に残ったのは、縦3センチ、横1センチ程度の大きさの、薄黄色の細長い石が一つ。 これが﹃魔結石﹄ってやつだろうか ? Phase4:「初陣」 33 それを拾って腰に付けたポーチへ放り込みつつフェイトに視線を送れば、彼女は少し 複雑そうな表情で。 のだった。 り、幾度かのネズミ戦に多少慣れて、油断したところの一撃だっただけに内心冷や汗も 構えた盾に当たって事なきを得たが、防いだ腕がしばらく痺れていたほどの衝撃であ 蛙は舌の先端が鈍器のように硬くなっており、ソレを伸ばして攻撃して来た。咄嗟に と戦闘を行った。 その間も何度か、先ほどの巨大ネズミや、蛙をそのまま大きくしたような巨大蛙なんか それからしばらくの間、余り遠くへ行かないように気をつけながら周囲の探索をし、 ⋮ ⋮⋮ ⋮ るより良いから構わないんだけどね。 ⋮⋮いや今の様子ならまず有り得ないと思うけど、間違って無駄にフェイトが怪我す ﹁えっと⋮⋮ごめんなさい。思わず手が出ちゃった﹂ 34 Phase4:「初陣」 35 フェイトには﹁油断大敵だね﹂と注意されたのは言うまでもない。ごめんなさい。 今までの探索で解った事。ネズミや蛙⋮⋮モンスターと呼ぶけれど、モンスターを 斬った時に出た金色の粒子は恐らく﹃魔力﹄だと思われる。 というのも、余り手傷を負わせずに倒した方が、後に残る魔結石の大きさが大きかっ たからだ。 モンスターを倒した後、その死体が残らず消えるのは、モンスターが﹃魔力﹄によっ て創られた存在であるからだろう。 ﹁創られた存在﹂と俺が口にしたときにフェイトが一瞬表情を歪めたのは⋮⋮彼女の 生い立ちによるものか。とは言え俺がそれに何か言う訳にも行かないけど。 そしてその仮説を裏付ける決定的な現象が、今俺達の前で起こっていた。 洞窟の壁や天井の所々が光を発している、と言うのは先に述べた通りなわけなのだ が、その中でも、一際強い光を発する部分を見つけた。 まるで脈動するように強くなったり弱くなったりを繰り返す光。 そしてソレは起こった。 今までで一番光が強くなった後、ボコリッとその部分の壁が盛り上がり、まるで壁か ら生える用に大ネズミが〝生まれた〟のだ。 今まで曲がりになりにも﹁動物﹂の姿をしているこいつらを殺すことに抵抗感はあっ たのだけど⋮⋮いや、今も無いとは言わないけど、それが一気に減ったように思えるほ どに異常な光景だった。 振り向きざまにその背に剣を突き立てる。 ネズミを、思わず﹁うおっ﹂なんて我ながら情けない声をあげつつ回り込むように避け、 それを追って前に踏み出し、その踏み出した足に反応したか、噛み付こうとしてきた るネズミ。 ショートソードを一閃。それなりに大きく斬られ、地面に落ちたところで後ろに飛び退 俺はフェイトより一歩前に出ると、跳びかかって来たネズミを盾を使って防ぎつつ、 出現の仕方はアレだったが、その行動自体は今まで遭遇したネズミと変わらない。 当然の行動といわんばかりに、俺達に向かって襲い掛かってくる。 生まれたてのネズミは既に今まで遭遇したネズミと同じような大きさであり、それが まれた後の壁はもう光っていない。 いる部分は、モンスターが生まれるための〝魔力溜り〟だったわけだ。現にネズミが生 つまり、今まで明かり要らずで便利だなーなんて思っていた、この壁や天井の光って 浮かべる。 その光景に思わず漏らした俺の声に、フェイトがその気持ちは解ると言う様に苦笑を ﹁うわぁ⋮⋮﹂ 36 ﹂ 冷静に相手の動きをよく見られれば、これぐらいなら何とかできる。不恰好だがそれ はそのうち、様になるさ。多分。 ﹁あと45分ってところかな。そろそろ戻ろうか﹂ 時間を切っている。 意識をちらりと︻スキル︼へ向ければ、脳裏に浮かぶ彼女の残りの召喚時間は既に1 掛けて来た。 ネズミが薄黄色の﹃魔結石﹄に化し、それをポーチに入れたところでフェイトが声を ﹁うん、大分動きが良くなったね。⋮⋮そういえば、時間はどうかな ? そんな俺の様子に、バリアジャケットを解除して、最初に会った時の黒いワンピース 息が出た。 剣と盾、それとポーチを外して倒れこむようにソファに座ったところで、大きくため 中に入った途端、一気に襲ってくる疲労感。 ここが安全である、と言う認識があるからなのか。 僅か一日しか居なかったというのに、 ﹁帰ってきた﹂と言う感覚を覚えるのは、やはり いたところで﹃マイルーム﹄に帰り着いた。 元々﹃マイルーム﹄から離れすぎないようにしていた事もあり、それから15分程歩 ﹁うん﹂ Phase4:「初陣」 37 姿になったフェイトが俺の正面のソファに座り、 な、まったく。 微笑と共に言われたその一言で頑張ってよかったと思ってしまう。我ながら現金だ ﹁葉月、お疲れ様﹂ 38 Phase5:﹁家族﹂ ﹂ ? るからね﹂⋮⋮なんてことを言ってたのを思い出した。 やよい 母さんっていつも楽しそう﹂ってぽつりと漏らした時に、 ﹁弥生や葉月が元気でいてくれ 家族の中で一番明るくて、いつも楽しそうにしていた母さん。弥生││妹││が﹁お ない父さん。 無口で厳格、曲がった事は許さなくて、怒ると怖いけど、母さんにだけは頭の上がら んだろうか。 のは⋮⋮やっぱり、もう二度と会えないかもしれないって思いが、どこかにあるからな ここに来てまだ1日しか経っていないと言うのに、ひどく〝懐かしく〟感じてしまう 彼女のその問いに、改めて家族の事を考える。 時から気になっていたそうだ。 今朝彼女に協力を頼んだ時に言った言葉⋮⋮﹁家族の元に帰りたい﹂ってのを聞いた た紅茶⋮⋮らしきものを飲んで一息ついた時だった。 フェイトにそんな事を訊かれたのは、 ﹃マイルーム﹄に戻ってきて﹃ショップ﹄で買っ ﹁⋮⋮葉月の家族って、どんな人達 Phase5:「家族」 39 そして、俺みたいな兄貴でも慕ってくれる妹、弥生。昔から、何をするにしても俺の 後を着いてきてたっけ。あいつがそうなったのは⋮⋮小学校の低学年の時、野良犬に追 いかけられた弥生を後ろに庇った時からだったか。 今にして思えば、きっとあの犬は遊びたいだけだったんだろうけど、当時の俺達に とっては、でっかいし追いかけてくるし、物凄く怖かった記憶がある。 弥生もそのときの事が強く印象に残ってるんだろうか、 ﹁また3時間後 ﹂と訊いてくる彼女へ、今日はもう召喚しないことを告げると、 ﹁解っ そして時間。フェイトの身体を球状の魔法陣が薄く包み込んだ。 なくなってみてつくづく思うよ﹂ ﹁⋮⋮そう、だな。俺が良い兄貴かどうかは知らないけど、良い家族だってのは⋮⋮会え ﹁良い家族で⋮⋮葉月も良いお兄さんなんだね﹂ の召喚が終わるまでの残りの30分間話していた。 そんな取り留めのない、けど、今となっては凄く眩しく思える家族の事を、フェイト 張って頑張ってしまうのだけど。 あいつがそうやって、いつまでも昔のイメージで俺を見てくるから、俺もつい見栄を いつだったか、そんなことを言われたことがある。 ﹁兄さんはわたしのヒーローですから﹂ 40 ? た﹂と返してくる。 ﹂ ﹁⋮⋮フェイト﹂ ﹁ん、何 た直後に、 次いで、まるで小さな子をあやすように、優しく撫でられる。⋮⋮何だおいって思っ とおもむろに頭に手を置かれる感触。 これからも協力してくれるんだって思える言葉に、何となく嬉しくなって頭を下げる ﹁ああ⋮⋮うん、明日もよろしくお願いします﹂ ﹁どういたしまして。⋮⋮それじゃ、また明日﹂ を言うと、フェイトは一瞬驚いた顔をしたあと、小さく﹁ふふっ﹂と微笑んだ。 呼びかけた俺に視線を向けてきた彼女へ、今日一日、一緒に居てくれた事に改めて礼 ﹁ありがとう﹂ ? そして否応無く感じるのは、自分が今〝独り〟であるということ。 ふぅ、と思わず吐いたため息の、自分の声が妙に大きく響き、耳につく。 ⋮⋮しんと静まり返った室内。 フェイトの声が耳朶を叩き、彼女はその言葉を残して帰っていった。 ﹁⋮⋮余り無理、しないでね﹂ Phase5:「家族」 41 42 心に過ぎるのは、今日経験した、俺にとっては命がけの、初めての実戦。 ふと見た自分の手は震えていて、それを自覚すると共に、身体全体が震えてくる。 家族の事を思い出して、暖かな我が家を思い返して⋮⋮必ず帰ると決意した。そのた めに協力してくれる人も居る。だから、頑張れ、俺。 そうは思ってもやはり気力は湧かなくて││その時不意に、先ほど最後に掛けられた フェイトの言葉と、撫でられた感触が蘇る。 ⋮⋮大丈夫だ。俺は〝独り〟じゃない。何となくそう思えて、それだけで、少し気が 楽になって、気がつけば身体の震えも止まっていた。 とは言え精神的にも肉体的にも疲れたのは事実だし、何もする気にならないから寝て しまおうと、結局はベッドに飛び込んだのだが。 ⋮ ⋮⋮ ⋮ 明けて翌日、目が覚めて時計を見れば6時半。昨日寝たのがこれぐらいだから⋮⋮ど うやら俺は12時間ほど寝ていたらしい。⋮⋮いやいや、寝すぎだろう、俺。道理で身 Phase5:「家族」 43 体がだるいと思った。 とりあえずシャワーでも浴びるかと起き上がったところで固まった。⋮⋮身体が痛 い。 いや、うん、解ってる。普段使わない筋肉使ったせいだってのは。とは言え思ったよ りも酷くないのは⋮⋮たっぷり休んだのと、恐らく感じていた疲労の半分は精神的なも のだからだろうか。 そう思いながら、きしむ身体を押してシャワーを浴びて、軽く食事を済ませた後は、昨 日フェイトに教わった事を思い出して反復する。 忘れないように、身体に染み込ませるように、心に刻み込むように、何度も繰り返す。 昨日実際に迷宮に出て痛感した。 ⋮⋮俺は弱い。持久力なんかも然程高くない。このままだと⋮⋮きっとそう遠くな い未来に、俺は力尽きる。 強くならなくちゃ。帰るために。⋮⋮こんな俺を助けてくれる、彼女の足手まといに ならないように。 ⋮⋮まぁ、筋肉痛は辛いのだけど。 それから2時間程経ったところでフェイトを召喚。 呼び出した彼女は、黒色のVネックのプルオーバーニットに白いミニのプリーツス カート。そして黒色のオーバーニーソックス。 良く似合っている可愛らしい格好に思わず感嘆の息を漏らした後、 ﹁おはよう﹂と声を 掛けると、にこりと笑って﹁おはよ﹂と返してくるフェイト。 ﹂ ? ば⋮⋮﹃ソード﹄にはなかったから﹃鈍器﹄かな ﹁⋮⋮お、有った﹂ ? と言うフェイトに、 ﹁ちょっと待って﹂と断り、 ﹃ショップ﹄を覗く。⋮⋮有るとすれ 石にバルディッシュでって言うのも⋮⋮﹂ ﹁あ⋮⋮鍛えるはいいとして、武器はどうしようか⋮⋮私は良いとしても、葉月相手に流 ろん、いいよ﹂と引き受けてくれた。 返しのつかないことになる気がするから。そう理由を続けた俺に対して、彼女は﹁もち 昨日の実戦で知った自分の〝弱さ〟。これを何とかしなければ、遠くないうちに取り ﹁フェイトに、俺を鍛えてほしいんだ││﹂ 草がなんとも可愛らしい。 それに対してフェイトは﹁じゃあ、どうする ﹂と小首を傾げて訊いてくる。その仕 挨拶の言葉に続いて発せられた問い。俺はそれに﹁いや﹂と首を横に振って答えた。 ﹁早速行くの ? 44 ﹂と言ったフェイトは、 まさか本当に有るとは思わなかったそれ││﹃木剣:500ポイント﹄を2本購入し て、1本をフェイトに渡す。 それを持ってひゅんっと一振りし、 ﹁うん、これならいいかな ﹁ここじゃ狭いから﹂と言って、出入り口から外に出る。 ﹃マイルーム﹄前の通路にて向かい合わせに立つ俺達。 互いに木剣を構えたところで、フェイトが口を開いた。 ﹁⋮⋮葉月にとって一番大事なのは、とにかく生き残ること。敵を倒すのは私にも出来 ? と言葉を切ったフェイトに頷いて返す。それを受けて、彼女は言 るけど、葉月がやられちゃったらどうしようもないからね﹂ ここまでは良い 葉を続ける。 ? ﹂ ? ││そういえばフェイト、その格好でするのか いや別に俺から彼女に攻撃するわけ 木剣を構え、フェイトの動きを見落とさないようにと彼女の姿をしっかりと視界に納め その言葉に﹁⋮⋮頑張ります﹂と、思わず敬語になって返してから打ち込みに備えて 頑張って避けてね ﹁だから⋮⋮葉月にはまず、回避力を付けてもらおうと思う。私が打ち込んでいくから、 Phase5:「家族」 45 ど⋮⋮なんて思考が一瞬別のところに行っていたが、別に集中してなかったわけじゃな じゃないから、わざわざバリアジャケット纏って魔力を消費する必要もないんだろうけ ? い。にも関わらず。 その言葉の直後、フェイトの姿は俺の視界から消え││コンッ ﹁││大丈夫。加減はするから﹂ ﹂ を立て、俺の脳天にフェイトの持った木剣が軽く当てられる。 ﹁∼∼⋮⋮っつー⋮⋮﹂ ﹁あはは⋮⋮もうちょっとゆっくり、かな と小気味の良い音 ! ﹂ ? るから、疑問に思ったようだ。 少し難しい顔でそんな事を訊いてくる。どうやら俺が素人にしてはマシな動きをす いんだよね ﹁⋮⋮昨日の探索のときも思ったんだけど⋮⋮本当に戦いとか武器の扱いとか、経験な 総評としてそんなお言葉をいただいた後、 ﹁うん、思ったよりも動けるみたいだね﹂ いたみたいだけど。 くれていたし、どうしても当たる攻撃も、当たる瞬間に勢いを緩めて加減をしてくれて ⋮⋮それから2時間、みっちり打たれ続けました。まぁ、寸止め出来るものは止めて ち、木剣を構え││ 頭を抑える俺に苦笑を浮かべたフェイトはそう言って、再度離れて向かい合わせに立 ? 46 そんな彼女に、休憩がてらに︻称号︼の﹃剣士・Lv0﹄の効果││﹃ソード﹄の扱 いに若干のボーナス││があるらしい事、恐らくはこの木剣も、販売カテゴリは﹃鈍器﹄ の中に入ってはいつつも、形状からして﹃ソード﹄の部類にも掛かるんだろうって事を 説明すると、なるほど、と頷いた。 確信を得られるわけじゃないから、飽くまで俺の予想に過ぎないけどな、と付け加え ると、﹁うん、わかってる﹂と返ってくる。 その後は、最初に彼女に教わった基礎を見てもらいながらおさらいし、時間となった。 そう言って魔法陣に覆われていく彼女に手を振り﹁また後で﹂と返す。それと同時に、 ﹁それじゃ、また3時間後に﹂ ﹂と心配された。 身 体 の あ ち こ ち に 痛 み を 感 じ て │ │ 我 慢 ⋮⋮ し た つ も り だ っ た が、顔 に 出 て い た か、 フェイトに﹁大丈夫 ﹂ 端にこれとは、と自分に若干呆れつつ、休息を求める身体の声に従って身体を横たえた。 強がってるのか、意地か見栄でも張ってるのか⋮⋮我ながら、彼女が居なくなった途 それと同時に襲ってくる疲労感。 陣と共にその気配も消えた。 それになんとか頷いたタイミングで、彼女の姿が完全に魔法陣に隠され、直後、魔法 ? ? ﹁原因である私が言うのもなんだけど⋮⋮無理しないでね Phase5:「家族」 47 Phase6:﹁動揺﹂ 気がついたら、フェイトが帰ってから4時間程経っていた。 ﹂ 寝過ごしたと思いつつ、顔を洗って目を覚まし、軽く食べてからフェイトを召喚。 ﹁葉月、大丈夫 ﹂ ? ﹁思ったより疲れてたみたいで、寝過ごしただけだよ。心配かけてごめん⋮⋮あと、あり ? ? で、大丈夫 ﹂と問われた。 ﹂なんて続けたフェイトに﹁なるほど﹂と頷いたところで、彼女からもう一度﹁それ そう推論を述べ、﹁最初は解らなかったけど、前回辺りからね。慣れたてきたのかな 思う﹂ 体││コピーを喚ぶっていう性質上、元となる﹃私﹄にも何がしかの干渉は有るんだと ﹁うん。何となく、だけど﹃あ、今喚ばれた﹄って言うのが、感覚で。⋮⋮やっぱり同位 ﹁召喚したときって解るの 申し訳なくも有り難く思うと同時に、ふと疑問が浮かんだ。 りそう訊いてくる。何でも、中々喚ばれないから心配したという。 よ 4回目ともなれば大分見慣れた魔法陣から姿を現したフェイトは、俺の姿を認めるな ? 48 がとう﹂ ﹁いいよ。それよりどうする 今日は休む ﹂ ? 俺も剣と盾、ポーチを身に着けて出入り口へ。 あ行こうか﹂とその姿をバリアジャケットへと変える。 俺がそう伝えると、彼女は﹁葉月なら大丈夫だと思うけど﹂と言ってくれつつも、﹁じゃ あった時、簡単に折れてしまいそうな自分が怖い。 今もう充分に休んだばかりだし、何よりここで妥協してしまうと、これから先も何か 心配気な表情で訊いてくるフェイトに頭を振って答えた。 ? 帰りの事も考えると、2時間で行ける所まで、かな と続け、今回の方針にフェイ ﹁昨日で様子見もしたし、とりあえず今回は進めるだけ進んでみようと思う﹂ Phase6:「動揺」 49 大ネズミや大ガエル││端末の﹁インフォメーション﹂によると、ケイブラットとメ ⋮ ⋮⋮ ⋮ トが頷いたのを確認したところで、俺は迷宮へと足を踏み入れた。 ? イスフロッグと言うらしい││を倒しながら進むことしばし。 どうやらこの階に出るのはこの2種類だけのようで、他の種類のモンスターに会うこ ともなく俺達は歩を進める。 一時間ほど探索を続けたところで、多少の分かれ道や曲がり角はあったが、今まで大 ﹂ して変わらなかった風景の中に違うものを見つけた。すなわち、2階に降りる階段であ る。 ﹁降りてみる である。 めてこうして1時間探索してみて、自身の身体の異常を思い知る。すなわち、 ﹁持久力﹂ ・・ 昨日迷宮に潜った時は、初の実戦ってこともあって気にする余裕もなかったけど、改 だけど、だ。 ⋮⋮昨日から続けて戦闘は俺がメインであるんだが、正直言えばやはりキツイ。 である。じゃないといつまで経っても俺が強くならないし。 今回は﹁進めるだけ進む﹂と言う方針ではあるが、やはり道中の戦闘をこなすのは俺 フェイトの言葉に頷いて、壁にもたれるように並んで腰を降ろす。 ﹁ん。じゃあ5分休んだらにしようか﹂ ﹁⋮⋮ああ、まだ時間も半分だしな。けど、ごめん、ちょっと休憩﹂ ? 50 今現在も、確かに疲れはしているが思っていた以上ではないのだ。現に座って少し 経った今、呼吸も落ち着いている。 そう考えると、初めてで精神的な疲労もあった初回はともかく、あれだけ疲労した午 前中のフェイトの訓練って⋮⋮と思わずにはいられない。まぁ、俺が望んだ事だし、こ れからも望むところなんだけれど。 それに戦闘に関してもそう。特に自分の動きに関してだけれど、明らかにここに召喚 される前の自分よりも動けている。 剣を振るうときの動作で言えば、 ﹃剣士・Lv0﹄の効果があるのだろうと思うのだが、 例えば敵の攻撃を回避するときなんかの動きを見ても、そんな気がするのだ。 ﹂ ? そんな事を考えていると、不意にフェイトが問い掛けて来た。 ﹁葉月、何かあった ﹂ ? ﹁どう思う ﹂ 聞いておこうかと思い直し、今しがた考えていた俺の身体の異常を説明した。 ・・ つい﹁なんでもないよ﹂と答えそうになったところで、折角だからフェイトの意見も ⋮⋮ああ、考え事してたのが顔に出てたのか。 ﹁何だか、難しい顔してたから﹂ ﹁え Phase6:「動揺」 51 ? ﹁ん∼⋮⋮⋮⋮うん、飽くまで私の推論、でいいなら﹂ しばし考えた後、そう言ったフェイトに﹁もちろん﹂と返すと、彼女は﹁それじゃあ﹂ と前置きし、 とは言えどこかに答えが載っているわけでもなし、どうあがいても推測の域を出ない らね﹂と最後に付け加えた。 フェイトの説明に納得する俺に、彼女は﹁最初に言ったけど、私の推測に過ぎないか なるほど、と思う。 う、と言うことだ。 めとした、体捌きも関係してくるだろう。剣を扱い続けるには、持久力だって必要だろ すなわち、上手く剣を振るうにはそれなりの筋力が必要だろう。敵への踏み込みを初 扱い〟の中には色々な要素が含まれるのではないか、と言うことらしい。 彼女が言うには、一口に〝﹃ソード﹄の扱いに若干のボーナス〟と言っても、その〝 れじゃないかな﹂ ﹁うん。多分関係してるのは、﹃剣士・Lv0﹄⋮⋮だっけ。剣の扱いに補正がかかるそ ﹁システム⋮⋮︻称号︼や︻スキル︼か﹂ ム﹄⋮⋮かな﹂ ﹁考えられるのは2つ。葉月に元々素質があったっていうのと、この﹃迷宮﹄の﹃システ 52 のは俺も同じ事。それを踏まえても、フェイトが今言ったことである可能性が高そう だ。 ﹂ とりあえず今はそう結論付けたところで、フェイトが立ち上がる。 ﹁そろそろ行こうか 階段を降り切り、フェイトとほぼ同時に2階の通路へと足を踏み入れた、それとほぼ 階段の横幅は通路より若干狭い程度であり、並んで降りるのに支障はない。 それに頷いて俺も立ち上がると、階段を下りて2階へと向かった。 ? 同時に耳に入ったバタバタと言う羽音。そしてそれと共に視界の端に写った黒い影│ │。 ﹂ ! は⋮⋮やってくれる。フェイトが居なかったら危なかったな⋮⋮。 それにしても、階段を降りきったところに今まで居なかった飛行する敵による奇襲と い尾が生えているが││飛んでいた。 ンチほどの大きさの蝙蝠が││地球のものとは違い、先端が鋭くなった体長程もある長 再度俺達の上方へと移動した影を追って視線を上に向ければ、そこには1匹の20セ それに続いて左頬に走る鋭い痛み。 不意にフェイトに腕を引かれ、位置のずれた俺の頭の横を通り過ぎる黒い影。 ﹁っ避けて Phase6:「動揺」 53 ・・ 上でこちらの様子を伺っている蝙蝠を警戒しながらそんな事を考えていた俺の思考 ・・ は、不意に左の視界の端に移ったそれに止められる。 それは、今まで、この迷宮内で何度も見てきたもの。 傷を追ったモンスター達が例外なく立ち上らせていたもの。 金色の粒子││﹃魔力﹄。 それが、なぜ。 俺の左の視界を掠めるように存在するのか。 まるで、俺の左頬から流れているかのように。 カタカタと、身体が震える。 今まで戦ったモンスター達が、それを流す光景が、浮かんでは消える。 これじゃあ、まるで、俺の身体が││。 震えが、止められない。 まるで、俺の身体もまた、﹃魔力﹄で構築されているような││。 嫌な思考が、止まらない。 心臓の音がうるさい。 ︶ 視界が霞││。 ︵││葉月っ !! 54 ﹁⋮⋮っ はっ⋮⋮はぁ、はぁ、ぁ⋮⋮ふぇい、と ﹂ ? ﹁ぁ⋮⋮血 ﹂ いたらしい俺の血が着いていて││。 ・・・ そう言って俺の頬から手を離したフェイトの、右の手のひらには、俺の頬から流れて ﹁葉月、見て﹂ の姿。 見上げるように俺と向き合い、両手を伸ばして俺の両頬を労わるように触れるフェイト どれぐらい呆然としていたのか、蝙蝠の羽音はすでに無く、目の前には、身長差から 不意に脳裏に響いたフェイトの声に、飛びかけていた意識が戻る。 ! フェイトの顔を見ると、彼女は﹁大丈夫﹂と言うように、コクリと頷いた。 る、のか ⋮⋮けど、俺は、フェイトが示してくれたように、流した血が﹁魔力﹂に変わってい た。 も血糊が着く事はなく、モンスター達は直接その身体から金の粒子を立ち上らせてい 今まで倒したモンスター達は、どれも例外なく血を流しては居なかった。斬った剣に それは僅かの後に、金の粒子となって大気に溶けて消える。 ? ? ﹁あっ⋮⋮﹂ Phase6:「動揺」 55 まるで、自分の身体が全く別のものになってしまったかのように感じた、言いようの 無い恐ろしさ。それから開放された瞬間、安堵からか身体から力が抜け││フェイトが 抱き締めるように支えてくれる。 思わず漏れ出た弱音に返って来た声は、きっと優しげな表情を浮かべているんだろう ﹁気にしないで。これから強くなっていけば良いんだから﹂ だ﹂ ﹁⋮⋮情けないな、俺。まだ会ってから二日だって言うのに、フェイトに頼りっぱなし す。 その感触に心が落ち着いていくのが解り、それとともに自分の不甲斐無さに嫌気が差 るフェイト。 フォローするようにそう言って、昨日の別れ際のように、労わるように俺の頭を撫で 分析できたはずだよ﹂ ﹁今のは、傷を負った場所が悪かったね。例えば腕とか││視界に入る場所なら冷静に かのように動かなくて。 離れないと、と思いつつも、腕の中の確かな温もりを離すことを身体が拒否している ﹁ううん、いいよ﹂ ﹁っ⋮⋮ごめん﹂ 56 と思うような、優しげな声。 だけど││。 ※※ ⋮⋮強くなりたい。背中を預けてもらえるように。肩を並べて、戦えるように。 ※※︻スキル︼がレベルアップしました :パッシブ。戦闘時の錯乱/混乱状態より回復・生還した。戦闘時に平常心を保つこ ﹃戦場の心得・Lv0﹄↓﹃戦場の心得・Lv1﹄ ! ※※ とができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。 ※※新たな︻スキル︼を獲得しました ! 官。Unknown。 ﹃リンカーコア﹄ :パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器 Phase6:「動揺」 57 Phase7:﹁推測﹂ 精神的に落ち着き、何とかフェイトから離れた││少しだけ、名残惜しく感じてし まったが││後、一度整理してみようと、フェイトと並んで階段に座る。 最初にもう一度﹁さっきはありがとう﹂と言うと、彼女は少し照れたように頬を緩め ながら、先ほどと同じように﹁気にしないで﹂と一言。 ちなみに頬の傷は既に治っている。 事前に買っておいた﹃マイナーヒールポーション﹄を少し、刷り込むように塗ってみ たところ、 ﹁飲めば体力回復、掛ければ傷の治療に使える﹂と言う説明に違わず出血は止 まり、少しの後に傷も塞がったのだ。 恐らく傷自体浅いものだったからというのもあるんだろうが、改めて﹁この世界﹂は ファンタジーだなと思う。少なくとも向こう⋮⋮地球では、これだけ即効性のある傷薬 なんて無いだろうし。 次いで先程我に返った時のことを訊くと、そんな答えが返ってきた。なるほどね、あ ﹁││そっか、念話、届いたんだね﹂ ﹁⋮⋮そういえば、さっきフェイトの声が頭の中に響いた気がするんだけど﹂ 58 れが念話か。 そしてすぐに﹁あ﹂と何かに気付いたように声を上げた。 ﹂ から⋮⋮明日の訓練からは、バリアジャケットを纏う練習もしようか ﹂ ﹁そうだ、念話が聞こえたって言うことは、葉月にも﹃リンカーコア﹄があるってことだ ﹁え ? ﹂と言うものだった。 ? と言うもの。 ? 俺がステータスウィンドウを開いたところで、フェイトも気になったのか﹁何かある じゃないかと思い立ち、自身の﹃ステータス﹄を見てみた。 そう思ったところで、ふと、実際に﹃魔法﹄が使えるんだとしたら、何か増えてるん のは一つだけ││俺が、﹃魔法﹄を使えるようになるのか 別に彼女の説明が間違っているとか、疑っているってわけじゃない。俺が疑問に思う うのは、﹁本当に カーコアとバリアジャケットについて説明してくれたフェイト。それに対して俺が思 思わぬフェイトの言葉に漏らした俺の声を、疑問の声と受け取ったのだろう、リン ど、対魔力だけじゃなくて対衝撃なんかにも効果があるんだ﹂ リアジャケットって言うのは、魔力で創った防護服。私が今着ているのもそうなんだけ ﹁あ、 ﹃リンカーコア﹄って言うのは、簡単に言えば魔法を使うために必要な器官で、バ ? ﹂と問いかけてきて、 ? Phase7:「推測」 59 ﹁⋮⋮あ、 ︻スキル︼の﹃戦場の心得﹄がレベル1になって、 ﹃リンカーコア﹄ってのが増 えてるな﹂ 並ぶ項目の中から、変化していたのと増えていたのを見つけ、フェイトに告げ、それ ぞれの説明を読み上げる。 ア ン ノ ウ ン ﹁⋮⋮詳細不明 ﹂ ﹁俺としては、後者の方が嬉しいけどな﹂ ﹃迷宮﹄が、﹃リンカーコア﹄の事を詳しく知らないのかのどちらかだと思う﹂ ﹁解らないけど⋮⋮葉月が詳しい情報を見る条件を満たしていないのか、それともこの 頭を振る。 小首を傾げるフェイトに、 ﹁なんだろうな、これ﹂と訊くと、彼女はふるふると小さく やっぱり引っ掛かるのはそこだよな。 ? 官。Unknown。 ﹃リンカーコア﹄ :パッシブ。先天性。周辺魔力を自身の魔力に変換することができる器 時に平常心を保つことができる。各種精神系バッドステータスからの回復にボーナス。 ﹃戦場の心得・Lv1﹄ :パッシブ。戦闘時の錯乱/混乱状態より回復・生還した。戦闘 60 迷宮にとってイレギュラーな事であるならば⋮⋮俺達にとって手札が増えるってこ とだ。 そんな俺の言いたいことを理解してか、フェイトもうん、と頷いた。 ﹂ ああ、でも、本当に﹃リンカーコア﹄が俺の中にあるんだな⋮⋮けど、だとしたら│ │。 ﹁葉月、どうしたの フェイトに言われて、 ﹁そうか ﹂といいつつ何となく自分の顔を触る。⋮⋮まぁそん ﹁今度は楽しそうな顔してた﹂と続ける。 込んでしまったところ、そう声を掛けられ、視線を向けると、フェイトは小さく笑って 先に聞いたフェイトの言葉と、今しがた見たばかりの自分のステータスに思わず考え ? けど﹁楽しそうな顔﹂とやらの原因は解ってる。 なんで自分の表情が解るわけでもないんだが。 ? ﹁解った。慌てずにじっくり、しっかりやるよ﹂ う﹂ ﹁けど、魔法の使用を補助してくれるデバイスが有る訳じゃないから、最初は大変だと思 そう言うと、彼女はくすりと微笑んだあと、 ﹁⋮⋮魔法を使えるかもって思ったら、なんか嬉しくてさ﹂ Phase7:「推測」 61 しっかりと釘を刺してくれるフェイトに首肯すると、彼女は﹁うん﹂と一つ頷いた。 そして﹁そういえば、ちゃんと紹介してなかったね﹂と、自身の持つ武器を示すフェ イト。 いていた左手を握られる感触に隣を見れば、 ﹁大丈夫 ﹂と言いたげな表情のフェイト。 その光景に、一瞬先ほどの恐怖感が過ぎり、動機が早くなるのを感じて││不意に空 しばしの後、俺の指から出てきた血は金の粒子となって虚空に流れ、消えていく。 を見ている。 フェイトも俺が何を見せようとしているのか察しているのか、何も言わずに俺の行動 そう言いつつ、俺は自分の人差し指の腹を剣で小さく切り、血を滲ませた。 ﹁それで、〝これ〟なんだけど﹂ 移る。 思いつつ、 ﹁よろしく﹂と返したところで、話は本題⋮⋮と言うか、先ほどの﹁現象﹂に と言うのを実際に体験する⋮⋮というか話しかけられるのは不思議な感じがするな、と フェイトの紹介に続いて聞こえた声に、知識では知っていても、やはり﹁武器が喋る﹂ ︽nice to meet you.︾ ﹁この子が私のデバイス、﹃バルディッシュ﹄。頼りになる相棒だよ﹂ 62 ⋮⋮しっかりしろ、俺。これ以上彼女にこんな顔させられないだろう。 ? そう言い聞かせ、フェイトには﹁大丈夫だよ﹂と言ってから握られていた手を離して、 昨日から撫でられてばかりという状況が続いているのし、お返しにとくしゃりと彼女の 頭を撫でる。 ゲームマスター そ し て も う 一 度 指 を │ │ 金 の 粒 子 に 変 わ る 血 を 見 せ て か ら、﹃マ イ ナ ー ヒ ー ル ポ ー ション﹄を掛けて血を止めた。 ﹁〝これ〟から俺が考えられる事は二つ。これの﹃行き着く先﹄と、 ﹃迷宮の王の目的﹄か な﹂ そこで一度言葉を止めて、視線を再びフェイトに向けると、彼女は続きを促すように こくりと頷く。 肉体は、魔力となって消える。そしてそれが恐らく、 ﹃迷宮の王の目的﹄の一つなんだと ﹁﹃行き着く先﹄はまぁ、言うまでも無いよな。〝死〟んだら、俺の⋮⋮﹃プレイヤー﹄の 思う﹂ ﹁ああ。そう考えるとこの迷宮に、最初の階から強いモンスターが出てこない理由も解 うか。 皆まで言わずとも俺の言わんとすることを理解してくれるのは、流石と言うか何と言 力として吸収するためってことだね﹂ ﹁つまり、 ﹃プレイヤー﹄を召喚して迷宮に挑ませるのは、最終的に﹃プレイヤー﹄を魔 Phase7:「推測」 63 る。⋮⋮簡単に言ってしまえば、 ﹃そのまま﹄よりも﹃育てた﹄プレイヤーの方が多く魔 力になるんだろうな。まぁ、 ﹃迷宮の王﹄がなぜ魔力を集めるのかとかは解らないけど﹂ ﹂ ? ためにも。 きっと心配してくれている家族のためにも、隣に居る、俺を助けてくれている彼女の 目的だってんなら、﹃迷宮の王﹄の予想以上に強くなってやる﹂ まで行って、 ﹃迷宮の王﹄をぶっとばして帰ってみせるさ。⋮⋮俺を強くして喰らうのが ﹁当然だよ。今俺に示されてる帰る方法がそれしかないんだったら││俺は絶対に最奥 ⋮⋮そうだ。迷う必要なんて、ない。 隣にいる、少女の顔。 思い出されるのは先に感じた得も知れぬ恐怖感と││家族の顔、温もり。そして││ フェイトの問いに一度目を閉じて、考える。 この先きっと辛い戦いが待ってると思う。それでも││葉月は先を目指すの ﹁﹃迷宮の王﹄の目的の一つが﹃プレイヤー﹄を魔力にすることだったら、今は良くても、 その余りにも真剣な表情に、俺は居住まいを正して彼女の次の言葉を待った。 そこまで言ったところで、フェイトは﹁ねえ葉月﹂と、俺の顔をじっと見つめてくる。 も、なぜ力を欲するのかっていう理由が解らないし﹂ ﹁うん。単純に考えるなら、 ﹃強い力﹄を欲しているから、なんだろうけど⋮⋮その場合 64 そんな決意を乗せて答えると、フェイトは一瞬驚いた顔をした後、嬉しそうに、楽し そうに微笑みを浮かべた。 ﹁⋮⋮うん。葉月、これからもよろしく﹂ ︽Please leave it to us.︾ そして告げられた、フェイトとバルディッシュの言葉が嬉しくて、自分が自然と笑み を浮かべているのを自覚する。 本当に、俺は人に恵まれていると、心から思う。 ﹁ああ、俺の方こそ││よろしく、二人とも﹂ Phase7:「推測」 65 ﹂と訊いてくるフェイトに、彼女の残りの召喚時間を確認したと ? そして、時間。 いので無理だけど。 で後は要練習だろう。⋮⋮とは言え念話は相手が居ないと送れているかどうか解らな さすがにデバイスも無しに行き成り成功、とはいかなかったが、やり方は教わったの ケットについての講釈を受ける。 フェイトの召喚リミットまでの残り30分ちょいは、念話の送信の方法とバリアジャ 一度通って道が解っている分、行きよりも早いな。 それから幾度かの戦闘を経て、40分程度で﹃マイルーム﹄にたどり着いた。やはり れを告げて﹁戻るか﹂と言うと、うん、と頷くフェイト。 2階に降りてからのゴタゴタで30分以上浪費したのか、と少々がっくりきつつ、そ に気付く。 ころで、出発前に定めていた2時間の探索時間終了まで、あと30分を切っていること ﹁これからどうする とりあえずの話を終え、座っていた階段から立ち上がった俺達。 Phase8:﹁虚勢﹂ 66 ﹁私のことは気にしなくていいから、何かあったらすぐに呼んで﹂ 今日は思い切り醜態を晒したからか、それとも道中の戦闘時に何か感じたのか。魔法 陣に包まれたフェイトから、そんな言葉が掛けられた。 本当に、気を使わせてばかりだな、俺は。 ﹁解った﹂と頷いてフェイトに目を向けると、こちらをじっと見ていた彼女と目が合っ て││胸の中に生まれた言葉が、するりと口をついた。 と疑問を浮かべる彼女に、その先を言おうかどうか一瞬迷って口 ﹁フェイト、今日もありがとう。⋮⋮本当に、フェイトが居てくれてよかった﹂ 急にどうしたの だから、気を取り直して言葉を続ける。 ら。 に失われるかなんて解らない。事実今現在、俺がこの身で体験しているところなんだか えられる機会が、いつもあるとは限らない。そう││いつ何が起こってその機会が永遠 けど、すぐに思い直した。言葉は思うだけじゃ伝わらない。そして、伝えたい事を伝 ごもった。流石に礼を言うのはともかく、理由を言うのは少しばかり気恥ずかしい。 ? れているかって﹂ ⋮⋮戦いとか、探索とかだけじゃない。フェイトが居る事で俺が精神的にどれほど救わ ﹁昨日からずっと漠然と感じていたことだけど、今日の事ではっきりと実感したんだ。 Phase8:「虚勢」 67 だから、改めて言っておきたかったんだ。 そう告げると、取り巻く魔法陣がその色合いを濃くしていく中、彼女は驚いた表情を 浮かべてから、小さく頭を振る。 汗を流すためにバスルームへと足を向けた。 途端に襲い来る孤独感に、ややもすれば沈みそうになる気分を、頭を振って追い出し、 の感覚は何度経験しても慣れないな。 そして、彼女が居なくなった瞬間に訪れる、耳に痛いほどの静寂。⋮⋮やっぱり、こ 成れていることがあるのだろうか。 果たして俺に、彼女が礼を言ってくるような││ほんの僅かでも、フェイトのために ⋮⋮彼女は、どんな想いで今の言葉を口にしたのだろうか。 思いもよらぬ彼女からの言葉に戸惑う俺を置いて、還って行ったフェイト。 ﹁ありがとう﹂ それが完全に消える、その刹那││。 そして、薄れていく魔法陣。 彼女が少しだけ口ごもったところで、その姿は魔法陣に覆い隠された。 そこで途切れた言葉。 ﹁ううん、私の方こそ││﹂ 68 Phase8:「虚勢」 69 ⋮ ⋮⋮ ⋮ 薄暗い迷宮を独り歩く。 カツン、カツンと、硬質な足音だけが響く中、先の見えない闇へ向けて足を進める。 進む先に映る壁や天井は、思い出したように怪しく明滅を繰り返す。 それはまるで、身を焼き焦がす炎へ誘[いざな]う誘蛾灯のように。 それはまるで、この迷宮に囚われた魂が上げる悲鳴のように。 立ち塞がるモンスター。 それを切り伏せ、粒子へ変わるその姿を見届ける。 もう幾度と無く見た光景。 死したるものが辿る末路。 それはきっと、﹃俺﹄も例外ではなく。 流した血が、失った四肢が、朽ちた身体が金の粒子となる光景を幻視して。 感じる違和感。 過ぎる不快感。 ﹂ 視線を落とせば、腕が、足が、身体が、ざらりと崩れて、虚空へ消えて││。 ・・・・・ ﹁うわぁぁああああああああ ⋮⋮実際に﹃そうなった﹄人を見たわけでもないのに、このザマだ。 しまうのが、凄く怖い。 死ぬのが怖い。戦いが怖い。傷つくのが怖い。⋮⋮死んだ後に、自分が残らず消えて 怖い。 からだろうか。 それを想像してしまったからだろうか。それをそういうものだと認識してしまった 〝死んだら消える〟。 流れ落ちるものが止められない。震える身体が止まってくれない。 言い聞かせて、言い聞かせて、言い聞かせても⋮⋮込み上げて来るものが止まらない。 大丈夫、大丈夫、大丈夫だ、大丈夫なんだ。 夢⋮⋮そうだ、夢だ。大丈夫、夢なんだから。 腕は⋮⋮ある。足も、ある。身体も、ある。 動悸が激しく、息が荒い。 叫び声を上げて飛び起きた。 !!!! 70 Phase8:「虚勢」 71 ││何かあったら、すぐに呼んで。 ふと、フェイトの言葉が頭を過ぎる。 気がつけば、虚空へ手を突き出していた。まるで、そこに、呼び出そうというかのよ うに。 ⋮⋮俺は、何をしているんだ。 手を引き戻し、抱え込むようにうずくまる。 今までだって、頼りすぎているというのに、甘えているというのに、これ以上甘えて どうしようって言うのか。 願ったはずだ、強くなりたいって。助けてくれる彼女の恩に報いるためにも。背中を 任せてもらえるように、肩を並べて歩けるように。 誓ったはずだ、強くなるって。 俺は弱い。心も、身体も。でも、だからこそ、今、この時を乗り越えられなくて、強 くなろうなんておこがましいにも程がある。 眼を閉じて、瞼の裏に浮かぶのは、今しがた見た夢の内容。 自分の足が、腕が、身体が金の粒子となって消え行く嫌悪感。 だけど、その〝金色〟は俺の脳裏に別のものを思い浮かべさせる。 倒れそうになった俺を、支えてくれた彼女の色。 72 だからどうした。だったら死ななければいいだけだ。 それだけで、とくり、と心の奥底に小さな火が灯るのが解る。 死んだら消える せめて、心優しい彼女に、もうこれ以上心配をかけないように。 だから、今は虚勢でいい。張りぼてで構わない。見かけだけでも強く居よう。 ないのだから。進むと決めたんだから。 怖くても、震えても、傷ついたとしても、進まなければいけないんだから。進むしか ある。だから、下を向くな、前を向け。 曲げられない想いがある。折れるわけに行かない意志がある。諦めたくない願いが ? Phase9:﹁決意﹂ 時空管理局本局の居住区画にある、ハラオウン家。 先に第97管理外世界である地球の海鳴市において起きた事件││プレシア・テスタ ロッサ事件││において天涯孤独の身となったフェイトは、彼女の使い魔であるアルフ と共に、現在ここに世話になっていた。 重要参考人として裁判を受けながらも、時空管理局の嘱託魔導師としての資格を取 り、先の事件にて知り合い、自身の身柄を引き受けてくれてたリンディ・ハラオウン、及 びクロノ・ハラオウンの任務を手伝う日々を過ごしてる。 その彼女にあてがわれている部屋のベッドの上。 ある時間を境にして、フェイトは膝を抱えるように座り込み、何かを考え続けていた。 ﹂ ? ﹁フェイト 心配かけて﹂ ? ⋮⋮何があったか知らないけど、何が原因かぐらいアタシにも解るよ。 ﹁なんでもないよ。ごめんね さく微笑みながらアルフの頭を優しく撫でる。 その様子を見かねたアルフが声を掛けると、フェイトはその視線をアルフに向け、小 ﹁フェイトぉ⋮⋮どうしたんだい、さっきからぼおっとしてさ Phase9:「決意」 73 ! 昨日言ってた﹃ハヅキ﹄って奴だろ そいつに何かされた ﹂ ? 無いことであろうか。 リサやすずかが送ってくれた映画とか本の話じゃないよね ﹂だったのもまあ、仕方の そう前置きして語られたフェイトの話に対し、最初のアルフの反応は﹁それって、ア ﹁ねえアルフ、私ね、不思議な体験をしたよ﹂ え、その時の記憶が入ってきた後だった。 フェイトがアルフに、葉月のことや召喚のことを話したのは昨夜。2度目の召喚を終 で会わせることを許容しなければいけないのだから。 か確かめられるわけでもなく、そんな相手に大好きで、大切な主であるフェイトを一人 アルフがそう思うのも無理は無い。彼女にとっては、実際に自分があってどんな人物 イトは苦笑を浮かべた。 酷く心配そうな表情で訊いてくるアルフの、当たらずとも遠からずなその言葉にフェ ? からだ。 だから││アルフが、そのフェイトの言う事に疑問を呈する程には荒唐無稽な話だった にすら楯突き、敵であったはずの高町なのはに対して﹁フェイトを助けて﹂と頼んだの │そのためにかつての事件においては、フェイトの母親であるプレシア・テスタロッサ 物事の判断基準が﹁フェイトのためになるか﹂で行われると言っても過言ではない│ ? 74 ﹂ ﹁別に、葉月に何かされたってわけじゃないんだ。⋮⋮けど⋮⋮ねえ、アルフ。少しだ け、話を聴いてもらってもいいかな ﹂とフェイトに促す。 フェイトの言葉に大きく頷いたアルフがフェイトの隣に座り、聴く体制を整えると ﹁もちろんだよ﹂ ? いく、〝強い人〟﹂ りに、少しでも強くなろうと努力して、戦った事なんて無いのに、未知の世界に挑んで 半分も生きていない相手である私に頭を下げて、協力を求めて、力が無いなら無いな 進もうともがいてる。 力が無いにも関わらず、いきなり放り出された理不尽な状況。だけど、それでも前に ﹁初めて会った時から、ずっとね、〝強い人〟だなって思ってた。 それを受けてフェイトは一度﹁うん﹂と頷くと、ぽつり、と言葉を紡ぎ出した。 ﹁それで ? 頑なに拒絶していた自分に、それでも諦めずに何度も正面からぶつかり、そしてつい 会えるはずの友達の姿を思い浮かべた。 にそう思うかも、とフェイトはくすりと笑う。そして今は会えない、けれど、必ずまた アルフの漏らした感想に、確かに今の自分の説明を聞く限りだと、アルフの言うよう ﹁⋮⋮何となく、なのはを彷彿とさせるね﹂ Phase9:「決意」 75 には打ち勝って、そして助けてくれた、初めての友達││高町なのはの姿を。真っ直ぐ で、そして優しくて強い眼差しを。 次いで思い出すのは、自分に助けを求めてきた、一人の青年の姿。 ﹂ たった一つの目標のために、必死に戦う姿。生きるために強くなろうとあがく、命の 輝き。 ﹁けど、違った﹂ ﹁思ったより弱くてがっかりした⋮⋮ってわけじゃなさそうだね 弱っていた時に初めての念話を受けて、心が開いていたのか、無意識に念話として思念 葉月の身体を支えたあの時。物理的な距離が密着するぐらいに近かったからか、心が だというのに。 けど、実際に気付く事が出来たのは、彼の心が折れそうになった時だった。 てきたときに、崩れ落ちるようにソファに座り込んでいた。 していた。本人は気付いていなかったけど、震えていたのは手だけじゃなかった。戻っ 戦い方について教えている間も常に気を張っていた。﹃迷宮﹄に出る前にすごく緊張 昨日1日だけでも、片鱗はいくつも見ていたはずだった。 まいそうな心を覆い隠して、必死に頑張ってた﹂ ﹁うん。⋮⋮葉月は、〝強くて弱い人〟。一歩間違えたら折れてしまいそうな、崩れてし ? 76 が漏れたのか。彼の〝声〟が聞こえてきた。 ││強くなりたい。背中を預けてもらえるように。肩を並べて、戦えるように。 きっと彼の中では、自分の境遇に対する恨み辛みもあるだろう。理不尽に対する怒り もあるだろう。だけど、聞こえてきたのはそんな〝声〟で。 ﹃迷宮﹄から戻る途中の戦闘でも、金の粒子を見るたびに、表情を曇らせていた葉月。 けれどきっと、次に会った時には、もう何でもないような顔をして、平気なように振 舞うんだろう。 い。なのに何でそんなに⋮⋮﹂ まだ丸2日しか経ってな そんな葉月の〝強さ〟と〝弱さ〟をフェイトが思い出したその時、﹁でもさ、フェイ ﹂ ト﹂と前置きして、アルフが言う。 ﹂ ﹁訊いてもいいかい ﹁何、アルフ ? 能性はフェイトも考えはした。 る者とされる者の間に何がしかの精神リンクでもされるのかもしれない。⋮⋮その可 いたいのだろう。もしかしたら、ミッドチルダにおける﹃召喚魔法﹄とは違い、召喚す アルフの言いたい事はフェイトとて解っている。少し入れ込み過ぎている、とでも言 ? ? ﹁フェイトが﹃ハヅキ﹄に会ったのは昨日が始めて、だよね Phase9:「決意」 77 けど、違う。例えそうだとしても根本の原因はそこではないのだ。 フェイトは葉月と接して、自分が感じたことを思い浮かべながら、静かに言葉を紡ぎ 出す。 しい﹂と頼んできた。 が無い。だというのに、葉月はフェイトが名乗る前から躊躇うことなく﹁話を聴いてほ それに加え、彼の出身である世界││地球││の事を鑑みれば、疑問に思わないはず 纏っていない普段着姿だった。 初めて召喚されたとき、フェイトはバルディッシュどころかバリアジャケットすら も﹂だったとしたら、多少は﹁本当に戦えるのか﹂と疑問に思うはずだからだ。 いたとしても、普通であれば戦力として召喚した相手が、世間的に見て明らかに﹁子ど 例えば葉月の持つ﹃召喚﹄能力に﹁戦う力をもつ者を召喚する﹂と言う条件がついて 何がしかの理由で〝知っている〟ことに何となく気付いていた。 フェイトはアルフにはもちろん、葉月にすら言っていなかったが、彼が自分のことを 自分となのはの姿を映していた。 助けを、繋がりを求めて手を伸ばす姿に、厳しい状況にも負けず、進もうとする姿に、 私はなのはに救われた。だから、今度は私が、助けを求めてきた葉月を救うんだって﹂ ﹁⋮⋮きっと、心のどこかで葉月になのはを⋮⋮そして自分を、重ねていたんだと思う。 78 それらを踏まえてみれば、何故かは解らないし、どこまでかも解らないけど、葉月は 自分のことを││少なくとも戦えることは││知っていた。 だけど、だからこそ。 ﹂ ﹁⋮⋮それにね、嬉しかったんだ﹂ ﹁嬉しかった いた後にフェイトは再び言葉を紡ぐ。 しばらくの間そうしていたアルフは、フェイトのその言葉に彼女から離れ、一呼吸置 ﹁ありがとう、アルフ﹂ と、フェイトを抱き締める。 か、その心情が痛いほどに理解できるアルフは、労わるように優しく、けれどしっかり るのが嬉しかったと、そう言って少し寂しそうに笑うフェイトが〝何を〟想っているの 〝誰か〟に必要とされるのが嬉しいと、 ﹃フェイト・テスタロッサ﹄を必要としてくれ ﹁うん。頼ってくれるのが。⋮⋮私を、必要としてくれるのが﹂ ? 家族の話を聞いたときにより強くなっていた。 フェイト自身、あまりはっきりと自覚していなかったが、彼女のその想いは、葉月の きゃって⋮⋮⋮⋮〝私だけ〟が何とかしてあげられるんだって思ってた﹂ ﹁葉月にとって、今頼れるのは私しか居ないから⋮⋮だから〝私が〟何とかしてあげな Phase9:「決意」 79 素敵な家族だと思った。 葉月自身のことも、優しくて良いお兄ちゃんだなと、そう思った。 そして同時に脳裏に過ぎった、自分に││否、﹃アリシア﹄に優しく微笑む母の顔。 彼女││﹃フェイト﹄││にとって得ることの出来なかった、暖かな家族。 現にフェイトしか、その﹃ハヅキ﹄に接触するこ だからこそ、そんな素敵な家族の元に、自分の手で必ず帰してあげたいと、心からそ う思った。 とができないんだからさ﹂ ﹁それは別に間違っちゃいないだろ ﹁違うよ、アルフ﹂ ﹁だから、まずは相談してみようと思う﹂ のは、確かな意思。 そこで言葉を一度区切り、フェイトは少しだけ目を瞑り││再び開いたそこに見える を背けてた﹂ が⋮⋮〝自分だけ〟が必要とされているって言うことの心地よさに甘えて、それから目 ﹁別に、葉月に直接接する事が出来なくても、やれる事はきっとあるよ。けど、私は自分 る。 アルフの言葉を否定するフェイトに、アルフはどういう事だと疑問の表情を浮かべ ? 80 ﹁⋮⋮相談って、リンディ提督達に ﹂ フェイト、アタシに出来る事があるなら何でも言うんだよ ? それはフェイト自身も解っている。だが、それでもそう言ってくれるアルフの気持ち を明確に否定する方法が無いのだから。 ば、フェイトの言うことは全て妄想だと切って捨てられたとしても、フェイトにはそれ けで、そのうえ葉月に関して物理的な証拠を提示できるわけではない。言ってしまえ 今しがたアルフ自身が言ったように、葉月と直接に接する事が出来るのはフェイトだ けではないだろう。 アルフ自身は、フェイトが言ったからといってそう簡単に葉月のことを信じられるわ そう言って、任せろと言わんばかりにどんっと大きく胸を叩く。 らさ﹂ 何だってやってやるか 自分に言い聞かせるように小さく言うフェイトに、アルフは﹁そっか﹂と一つ頷いて、 を全部打つって決めたよ﹂ ら、これ以上迷惑を掛けたくなかったから。けど、もう迷わない。私は私の打てる手段 ﹁本当は、少し迷ってたんだ。事件とか裁判のこととか、私達自身のこととかもあるか アルフの問いに﹁うん﹂と頷いたフェイト。 ? ﹁明日からアースラに移るし、話をするには丁度いいかもね。 Phase9:「決意」 81 82 が嬉しく、フェイトは穏やかな笑みを浮かべ、頷いた。 ││だから⋮⋮葉月、待ってて。絶対に帰してみせるから。
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