骨粗鬆症・骨折 高齢者における骨粗鬆症予防 ︱栄養・ 食 事 療 法 ︱ 岩 本 潤 を全うし、そして医療費削減などの経済的効果 も高めることから、これらの脆弱性骨折を抑制 折は健康寿命を縮めるばかりでなく、死亡率を 骨粗鬆症に関連する椎体および大腿骨近位部骨 され、閉経後あるいは高齢の女性に多発する。 骨粗鬆症は﹁骨強度の低下を特徴とし、骨折 のリスクが増大しやすくなる骨格疾患﹂と定義 る。 学会︶ 、骨粗鬆症も予防が重視されるべきであ れる未病医学が大切であり︵日本未病システム を予防し、健康を守ろうとする医学﹂と定義さ 期に検知し、早期に介入することで疾病の発症 は﹁病気の発症前段階にある状態︵未病︶を早 はじめに することは重要である。そのためには、骨粗鬆 高齢者の骨粗鬆症の予防には、栄養・食事指 導が基本であることに異論はない。本稿では、 を生む﹂対策を考える必要がある。そのために 症の診断・治療を適切に行う必要がある。 康に老い、百寿まで元気に生き、充実した人生 一方、医療・介護費用の増大を抑制すること が課題となっているわが国では、 ﹁高齢者が健 タミンD、ビタミンKを中心に︶について述べ、 骨の健康維持に重要な栄養素︵カルシウム、ビ 106 CLINICIAN Ê15 NO. 644 (1208) 1) 栄養・食事指導について概説する。 れている。γ カルボキシル化されたOC︵カ ルボキシル化オステオカルシン︶は、ハイドロ キシアパタイトと結合する。しかし、ビタミン 変換が行われない場合、OC︵低カルボキシル K欠乏あるいはワルファリンの存在によりこの 骨の健康維持に重要な栄養素として、カルシ ウム、ビタミンD、ビタミンKが挙げられる。 化OC ︶はハイドロキシアパタイトと ucOC 結合することができず、血中に放出される︵図 骨の健康維持に重要な栄養素 − 7) の作用を有する。カルシウム不足およびビタミ の分泌抑制、④骨石灰化促進・骨代謝調節など を介して骨の石灰化に影響を与えると想定され ンKはオステオカルシンのγ 高値とには有意な関連がある。オステオ ucOC カルシンの作用は確立されていないが、ビタミ ②血清カルシウム値上昇、③副甲状腺ホルモン ンD不足・欠乏は二次性副甲状腺機能亢進症を す。ビタミンD の栄養状況を反映する血清 ︵OH︶D値と、橈骨遠位端骨折リスクとの関 − カルボキシル化 きたし、骨石灰化障害や骨代謝異常を引き起こ 9) る。高齢女性において、血清 ucOC 高値は骨密 度と独立した大腿骨近位部骨折の危険因子であ 25 Dは①腸管︵小腸︶からのカルシウム吸収促進、 ① ︶ 。 し た が っ て、 ビ タ ミ ン K 欠 乏 と 血 清 8) カルシウムは骨の重要な構成成分であり、骨 の健康維持に不可欠な栄養素である。ビタミン 2) 連が報告されている。また、橈骨遠位端骨折の 既往は続発性骨折のリスクを高める。 6) ることが明らかにされている。また、わが国の 研究から、ビタミンK摂取と大腿骨近位部骨折 リスクとの関連が報告されている︵図②︶ 。 (1209) CLINICIAN Ê15 NO. 644 107 5) 10) 3) 4) − ビタミンKはオステオカルシン︵OC︶の3 つの側鎖をγ カルボキシル化することが知ら 11) 3) ①ビタミン K によるオステオカルシンのγ-カルボキシル化 䜸䝇䝔䜸䜹䝹䝅䞁 㦵ⱆ⣽⬊ෆ : Gluṧᇶ㻌 䝡䝍䝭䞁K (–)䜎䛯䛿 䝽䝹䝣䜯䝸䞁㻌(+) 䝡䝍䝭䞁K (+) : Glaṧᇶ ṇᖖ䛺䜸䝇䝔䜸䜹䝹䝅䞁㻌 ␗ᖖ䛺䜸䝇䝔䜸䜹䝹䝅䞁㻌 䠄ప䜹䝹䝪䜻䝅䝹䠅 䠄䜹䝹䝪䜻䝅䝹䠅 䜹䝹䝅䜴䝮 オステオカルシンは骨芽細胞により生成されるビタミン K 依存性蛋白である。ビタミン K はオステオカルシンの 3 つの Glu 残基を Gla 残基に変換する(γ-カルボキシル化)。γ-カル ボキシル化されたオステオカルシンはハイドロキシアパタイトと結合する。ビタミン K の 欠乏あるいはワルファリンの存在によりこの変換が行われない場合、オステオカルシン(低 カルボキシル化オステオカルシン)はハイドロキシアパタイトと結合することができず血中 (文献 8 より引用) に放出される。 ②ビタミン K 摂取と大腿骨近位部骨折との関係 ⭣㦵㏆㒊㦵ᢡᶆ‽Ⓨ⏕ẚ 㸦ዪᛶ㸧 1.3 1.20 㹼 1.10 㹼1.19 1.00 㹼1.09 0.90 㹼0.99 0.80 㹼0.89 2 5 8 10 3 8 12 11 r = -0.834 p = 0.001 ⭣ 1.2 ᅜ ᖹ㦵 ᆒ㏆ ࢆ 㸯 1.1 㒊 ࡋ㦵 ࡓᢡ ᶆ 1.0 ࡢ 㦵‽ ᢡ Ⓨ Ⓨ .9 ⏕ ⋡⏕ 㸧 12 6 7 9 11 4 㸦 1 ẚ 10 12 7 6 9 8 5 3 1 4 2 .8 200 220 240 260 280 300 320 340 ࣅࢱ࣑ࣥKᦤྲྀ㔞 μg/᪥ 各都道府県の大腿骨近位部骨折標準化発生比は、ビタミン K 摂取量の少ない関西(大阪、 (文献11より引用) 京都、兵庫) 、四国、九州、沖縄で高い。 (1210) CLINICIAN Ê15 NO. 644 108 ③骨の健康維持に必要な主な栄養素と推奨摂取量 カルシウム 700∼800mg ビタミンD 400∼800IU (10∼20µg) 魚類、きのこ類 ビタミンK 250∼300µg 納豆、緑色野菜 栄養・食事指導 1. 主な栄養素の推奨摂取量 わが国の﹃骨粗鬆症の予防と治療ガイドライ ン2015年版﹄によると、推奨摂取量はカル 0 /日である︵表③︶ 。骨の健康維持のため 0∼800IU/日、ビタミンK250∼30 シウム700∼800㎎ /日、ビタミンD40 2) g /日、女性 g /日︶ 。また、コ 2) ビタミンCの重要な供給源でもある果物・野菜 ラーゲンを生合成する上で必須な栄養素となる ︵男性 60 ・豆・牛乳・乳製品など︶の摂取も重要である 骨︵特に、骨基質の重要な成分であるコラー ゲン︶の構成分であるたんぱく質︵肉・魚・卵 2. 他の栄養素・食品 が挙げられる。 ウム、ビタミンD、ビタミンKを多く含む食品 に推奨される食品として、表③に挙げたカルシ µg 一方、過剰摂取を避けたほうがよい食品とし の摂取も推奨される。 2) 牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、 大豆・大豆製品 推奨摂取量/日 (1211) CLINICIAN Ê15 NO. 644 109 50 含有量が多い食品 栄養素 (文献 2 より引用) ④5.5µg(220IU)のビタミン D を生成するのに必要な各地・各時刻で の日光照射時間 て、リンを多く含む食品︵加工食品など︶ 、食 塩、カフェインを多く含む食品︵コーヒー、紅 茶︶ 、 アルコールなどが挙げられる。いずれの過 4) 厚生労働省の﹁日本人の食事摂取基準﹂ ︵20 15年版︶によると、成人の1日のビタミンD 12) ビタミンDは魚類に豊富に含まれているが、 日照︵紫外線︶暴露によって皮膚で生成される。 3. 日光浴 ルシウム排泄を促進する。 カフェインとアルコールは利尿作用により、カ 剰摂取もカルシウム吸収を阻害する。さらに、 2) の摂取目安量は最低5・5 ︵220IU ︶ 、 µg 5・5 ︵220IU︶のビタミンDを生成す 上限100 ︵4、 000IU ︶とされている。 µg るのに必要な各地・各時刻での日光照射時間を、 µg 時では ・1分、冬季︵ 月︶の 時では 表④に示す。つくばでみると、夏季︵7月︶の 12 ・4分である。しかし、その約3倍のビタミン 12 Dが必要と考えられるため、夏季は約 分、冬 22 13) 10 30 110 CLINICIAN Ê15 NO. 644 (1212) 15 12月 ( 冬季 ) 7月 ( 夏季 ) 9時 12時 15時 9時 12時 15時 札 幌 7.4分 4.6分 13.3分 497.4分 76.4分 2741.7分 つくば 5.9分 3.5分 10.1分 106.0分 22.4分 271.3分 那 覇 8.8分 2.9分 5.3分 78.0分 7.5分 17.0分 (文献13より引用) ⑤ビタミン D 不足・欠乏のマネジメント ビタミン D 状況 結 果 マネジメント <10ng/mL 欠 乏 クル病、骨軟化症 高用量のビタミン D* 10∼20ng/mL 不 足 疾患のリスク増加 ビタミン D** 20∼30ng/mL 充 足 健 康 ライフスタイル改善 >30ng/mL 最 適 健 康 特になし 25(OH)D 値 季は約 分が適切である。ちなみに、日本ビタ カルシウムサプリメント︵500㎎ /日以 上︶により心筋梗塞のリスクが増加するとの報 4. サプリメント 夏季は 分、冬季は1時間である。 14) 15) ミン学会と骨粗鬆症財団のホームページでは、 60 30 た場合には、そのリスクの増加はないとされて 一因と考えられる。しかし、食品として摂取し 清カルシウム値の急激な上昇がみられることが 告がある。高用量のカルシウム投与により、血 16) いる。カルシウムサプリメントを1回に500 ㎎ 以上摂取しないように注意することが重要で ある。カルシウム薬をビタミンDと併用する場 海外では、ビタミンD不足・欠乏のマネジメ ントが提案されている︵表⑤︶ 。ビタミンDは 合、高カルシウム血症を念頭に置く必要がある。 17) ビタミンD不足は様々な疾患のリスクを増加さ 発現している全身の様々な組織に作用するため、 小腸・骨のみならず、他のビタミンD受容体を 18) (1213) CLINICIAN Ê15 NO. 644 111 2) 10,000IU/日、**1,000∼2,000IU/日 * (文献18より引用) まとめ 骨粗鬆症予防には栄養・食事療法が基本であ る。カルシウム・ビタミンD・ビタミンKが重 摂取量は、それぞれ700∼800㎎ /日、4 用されていないため、納豆や緑色野菜の摂取な である。また、ビタミンDは日照︵紫外線︶暴 µg 露によって皮膚で生成されるが、夏季は 分、 mL ど、食事指導で工夫することが勧められる。 ng 栄養状況が改善しない場合は、サプリメントも 検討する必要があろう。 00∼800IU/日、250∼300 /日 要な栄養素であり、骨の健康維持のための推奨 ビタミンK欠乏による骨折リスク増加は、血 清 ucOC 高値︵4・5 / 以上︶で判定でき る。ビタミンKのサプリメントはわが国では使 せる。食事指導や日光浴によってビタミンDの 4) 部骨折を抑制することや、ビタミン のサプリ ウム+ビタミンDのサプリメントが大腿骨近位 ビタミンD不足・欠乏、ビタミンK欠乏の影 響は確立されている。また、海外から、カルシ の使用も検討されよう。 ことが大切である。必要に応じてサプリメント 栄養素をバランスよく取り入れるよう工夫する 骨粗鬆症・骨折を予防するためには、これらの 文献 メントが臨床骨折や癌を抑制することが報告さ ︵OH︶Dおよび ucOC のカットオフ値︵そ / および4・5 / ︶をクリア NIH Consensus Development Panel on Osteoporosis Prevention, Diagnosis, and Therapy : Osteoporosis prevention, diagnosis, and therapy. JAMA, 285, 785- れている。しかし、栄養・食事指導によって、 冬季は1時間の日光浴が勧められる。高齢者の 30 ︵慶應義塾大学医学部 スポーツ医学総合センター 講師︶ K1 21) 20) ng mL できれば、骨折が抑制できるか否かについては れぞれ mL 確立されておらず、今後の検討課題である。 1) 30 ng 112 CLINICIAN Ê15 NO. 644 (1214) 19) 25 795 (2001) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版、 ライフサイエンス出版、東京︵2015︶ 岡崎 亮 脂溶性シグナル分子と疾患︱ビタミンD と骨 代謝疾患、 The Lipid 、 、284∼288︵2 009︶ Norman AW, et al : Viramin D nutritional policy needs a vision for the future. Exp Biol Med (Maywood), 235, 1034-1045 (2010) 20 Øyen J, et al : Vitamin D inadequacy is associated with low-energy distal radius fractures : a case-control study. Bone, 48, 1140-1145 (2011) Robinson CM, et al : Refractures in patients at least forty-five years old. a prospective analysis of twentytwo thousand and sixty patients. J Bone Joint Surg, 84- A, 1528-1533 (2002) Shearer MJ : Vitamin K. Lancet, 345, 229-234 (1995) Iwamoto J, et al : High-dose vitamin K supplementation reduces fracture incidence in postmenopausal women : a review of the literature. 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