今回確立した手法以外に、最近、RI ビームを用いることで衝撃を加えずにテトラ中性子を 生成する手法が考案されている。異なる手法により今回発見された状態が生成されれば、量 子数や生成機構の理解が深まる。三体力を含む核力に関する理論の進展が促されることによ り、中性子物質の状態方程式の精度が高まり、中性子星の構造解明の道が開ける。RI ビーム ファクトリーがその研究拠点となる。 7.発表雑誌: 雑誌名:「Physical Review Letters」2016 年 1 月 29 日号に掲載予定 論文タイトル:Candidate Resonant Tetraneutron State Populated by the 4He(8He,8Be) Reaction 著者:K. Kisamori*, S. Shimoura*, T. Uesaka et al., アブストラクト URL: http://journals.aps.org/prl/accepted/bc074Y0fT381c267930c21d41180409e9864e070b 8.注意事項: 日本時間 12 月 22 日(火)午後 3 時以前の公表は禁じられています。 9.問い合わせ先: (研究に関すること) 東京大学 大学院理学系研究科 附属原子核科学研究センター (CNS) 教授 下浦 享 TEL:048-464-4191 (CNS事務室) E-mail:[email protected] (報道に関すること) 東京大学 大学院理学系研究科・理学部 特任専門職員 武田加奈子、准教授・広報室副室長 横山広美 TEL:03-5841-8856 E-mail:[email protected] 理化学研究所 広報室 報道担当 TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715 E-mail:[email protected] 10.用語解説: (注 1) 共鳴状態、テトラ中性子共鳴 陽子や中性子などを放出するが、放出する確率が低く、比較的長い寿命を持つ状態を共鳴 状態と呼ぶ。寿命の長さと崩壊エネルギーの拡がりは逆比例し、実験的にはエネルギース ペクトルの中に、幅の狭いピークとして測定される(図3)。4つの中性子で構成される共 鳴状態はテトラ中性子共鳴と呼ばれ、今回発見された状態の寿命は、共鳴がないと仮定し た場合と比較して少なくとも数十倍以上長いと見積もられた。 (注2) 中性子星 10 キロメートル程度の半径を持つコンパクト天体だが、太陽とほぼ同規模の質量を持つ。 全質量の 95%程度を中性子が担っており、巨大な原子核と見なされている。その構造に は謎の部分が多く、内部では通常の原子核の数倍以上の高密度となっており、ストレンジ 物質やクォーク物質の発現も示唆されている。 (注3) 中性子物質 中性子だけで構成される物質で、中性子星の中に存在すると考えられている。中性子物質 は密度によってその硬さが異なると考えられており、それを数学的に表現した状態方程式 を決めることは原子核物理学における重要な研究課題の 1 つである。中性子間の三体力の 強さは状態方程式を決める重要なパラメータとなっている。 (注4) 核力 原子核内の陽子・中性子を結びつけている力。湯川秀樹は、中間子論の発明により核力の 記述に世界で初めて成功し、1949 年にノーベル賞を受賞した。 (注5) 三体力 複数の物体が力を及ぼし合っている時、2つの物体間に働く力が、3つめの物体の位置や 状態に依存することがある。この場合、3つの物体の間に同時に働く力があるとみなすこ とができ、それを三体力と呼ぶ。原子核物理学においては、藤田・宮沢が最初に理論的に 予言した(1957 年)。実験的には、2 つの中性子と1つの陽子あるいは1つの中性子と 2 つ の陽子に働く三体力の存在が知られておりその強さもよく調べられている。一方、3 つの 中性子あるいは 3 つの陽子に働く三体力は実験的にはほとんど調べられていない。 (注6) RI ビームファクトリー(RIBF) 理化学研究所が有する RI ビーム発生施設と独創的な基幹実験設備群で構成される重イオ ン加速器施設。RI ビーム発生施設は、2 基の線形加速器、5 基のサイクロトロンと超伝導 RI ビーム分離生成装置「BigRIPS」で構成される。ヘリウム8のように、中性子数が非 常に大きい短寿命同位体のビームを世界最高強度で供給することができる。 (注7) SHARAQ(シャラク)磁気分析装置 理化学研究所 RIBF 施設内に、東京大学が建設した、RI ビームを用いた原子核反応を高 分解能で分析する装置。四重極磁石3台(うち2台は超伝導)、双極電磁石2台で構成され る。 (注8) 二重荷電交換反応 陽子ビームを照射して中性子が生成される(p,n)反応のように、ビームの電荷が変化する 原子核反応を荷電交換反応と呼ぶ。この場合は電荷が1単位変化しているが、陽子2個と 中性子2個が交換する反応のように、電荷が2単位変化する反応を二重荷電交換反応と呼 ぶ。(図 1) 11.添付資料: 図1 二重荷電交換反応の模式図 図2 実験装置。ヘリウム8のビームを液体ヘリウム標的に照射し、二重荷電交換反応で生成され たベリリウム8から崩壊した2つのα粒子を磁気分析器 SHARAQ で測定、分析した。 図3 テトラ中性子のエネルギーの関数として、反応した事象数を表したスペクトル。横軸の 0 MeV(百万電子ボルト)は、4 つの中性子がバラバラになるギリギリのエネルギー(しきい値と いう)を示す。テトラ中性子共鳴状態の候補が 0-2MeV に4事象、反応後直接崩壊したと考 えられる 20 あまりの事象とあわせて測定された。 図4 テトラ中性子核の想像図。
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