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放射性廃棄物の処理問題解決への第一歩 | 理化学研究所
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2016年2⽉19⽇
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理化学研究所
広報活動
プレスリリース(研究成果)
2016
放射性廃棄物の処理問題解決への第⼀歩
2015
-世界初の破砕反応データ取得に成功-
2014
2013
2012
要旨
2011
理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター櫻井RI物理研究室のワン・へ国際特別研究員、櫻井博儀主任研究員と多種粒
2010
⼦測定装置開発チームの⼤津秀暁チームリーダーらの研究チームは、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー
(RIBF)[1]」を⽤いて、放射性廃棄物の主要な成分であるセシウム-137(137Cs、原⼦番号55、質量数137)とストロンチ
2009
ウム-90(90Sr、原⼦番号38、質量数90)を不安定核ビームとして取り出し、破砕反応[2]のデータ取得に世界で初めて成功
2008
しました。
2007
2006
原⼦⼒発電所などで⽣じる放射性廃棄物の処理問題は⽇本だけでなく、世界的な問題です。この問題を解決するためには、⻑
2005
寿命の放射性核種[3]を、安定核種もしくは短寿命核種に効率良く核変換し、放射能を弱める⽅法を開発することが必要で
2004
す。そのためには、開発の基盤となる核反応データを取得することが重要です。
2003
研究チームが着⽬した137Cs(半減期30.1年)と90Sr(半減期28.8年)は、熱中性⼦捕獲反応[4]では、核変換しにくいこと
2002
が知られています。そこで核変換の反応として、陽⼦と重陽⼦[5]を照射することにより、これらの放射性核種を壊す反応
2001
(破砕反応)を考えました。しかし、137Csと90Srの破砕反応の確率やどうような核種にどれだけ変わるのか、その基礎デー
タはありませんでした。そこで研究チームは、RIBFを⽤いて137Csと90Srをビームにし、陽⼦と重陽⼦を標的にして照射する
2000
「逆反応法[6]」を利⽤してデータを取得しました。
1999
1998
実験の結果、陽⼦や重陽⼦に137Csと90Srのビームを照射することで起こる破砕反応の確率は、熱中性⼦捕獲反応に⽐べて、
137Csで約4倍、90Srで約100倍⼤きいことが分かりました。また、重陽⼦は陽⼦に⽐べて、破砕反応が起こる確率が約2割⼤
きく、ビーム核種を軽い核にする能⼒も⾼いことが明らかになりました。これは、陽⼦だけでなく重陽⼦ビームを利⽤した⽅
法も破砕反応法には有効だということを⽰しています。さらに、反応後の原⼦核の半減期の分布から、137Csは89%、90Srは
96%の確率で安定核もしくは半減期1年以下の短寿命核に核変換されることが分かりました。今後、RIBFで多種多様な核変
1997
トピックス
イベント/シンポジウム
換データを取得し、効率の良い核変換法を模索していきます。
理研ブログ
本研究は、⽂部科学省・原⼦⼒システム研究開発事業の委託費(平成25〜26年度)で推進されました。成果は、欧州の科学
刊⾏物
雑誌『Physics Letters B』のオンライン版で1⽉11⽇より公開され、3⽉10⽇号に掲載されます。
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背景
原⼦⼒発電所などで⽣じる放射性廃棄物の処理問題は⽇本のみならず世界的な問題です。この問題を解決するためには、放射
性廃棄物に含まれる⻑寿命放射性核種を安定核種や短寿命核種に核変換し、廃棄物の放射能を効率良く弱める⽅法を開発する
必要があります。
⻑寿命放射性核種は、ウラン燃料の中性⼦捕獲によって⽣成されるマイナーアクチノイド[7]と、ウランの核分裂よって⽣成
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される核分裂⽣成物に⼤別できます。マイナーアクチノイドについては、⾼速増殖炉や加速器駆動型原⼦炉などで得られる⾼
速中性⼦を利⽤した核変換が⻑年にわたって研究されており、基礎的・系統的な反応データの蓄積があります。⼀⽅、核分裂
⽣成物については核変換に関連する反応データはほとんど取得されておらず、放射能を効率良く弱めるための基盤開発・技術
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開発が進んでいません。
研究チームは、核分裂⽣成物の中でも⼤きな⽐重を占めるセシウム-137(137Cs、原⼦番号55、質量数137)とストロンチウ
ム-90(90Sr、原⼦番号38、質量数90)に着⽬しました。これらの核種は、熱中性⼦の捕獲確率が⼩さいため、原⼦炉内で
核変換されず放射性廃棄物として残ります。すなわち、熱中性⼦捕獲反応(熱中性⼦を利⽤した核変換)では効率が上がりま
せん。そこで研究チームは137Csと90Srを核変換するための反応として、陽⼦や重陽⼦ビームをこれら核種に照射し壊す反応
(破砕反応)を考えました。破砕反応は、⾼エネルギー陽⼦や重陽⼦ビームを壊したい核種(標的核)に衝突させ、標的核を
壊し、他の軽い核種に変える反応です。137Csと90Srの場合、破砕反応の確率はほぼ原⼦核の⼤きさで決まるため、熱中性⼦
捕獲反応による核変換の確率よりも⼤きいことが予想されました。しかし、これら核種の破砕反応の確率やどうような核種に
どれだけ変わるのか、その基礎データはありませんでした。
研究⼿法と成果
研究チームは、137Csと90Srを理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を⽤いてビームにし、陽⼦と
重陽⼦を標的にして照射する「逆反応法」を使って137Csと90Srがどのような核種にどれだけ壊れるかを調べました。
まず、RIBFの超伝導リングサイクロトロン(SRC)[8]で光速の約70%(エネルギーで核⼦当たり345 MeV)まで加速したウ
ラン-238(238U、原⼦番号92、質量数238)ビームをベリリウム標的に照射しました。その後、照射により核分裂反応で⽣
成した137Csと90Srを超伝導RIビーム⽣成分離装置(BigRIPS)[9]を⽤いてビームとして取り出しました。取り出したビーム
の速さは光速の約60%(エネルギーで核⼦当たり186〜187 MeV)で、この⾼速の不安定核ビームを陽⼦と重陽⼦の標的
(⼆次標的)に照射し、反応⽣成物を下流のゼロ度スペクトロメータ[10]で捕らえました(図1)。
逆反応法の利点は3つあります。1つ⽬は、137Csと90Srの厚い標的を⽤意する必要がない点です。これらの核種で厚い標的を
作ると放射能が⾼くなる問題が⽣じます。2つ⽬は、ビーム種と反応⽣成物を⼀つひとつ粒⼦として識別することができる点
です。これにより、137Csと90Srがどのような核種にどれだけ壊れるのかを正確に調べることができます。3つ⽬は、陽⼦標
的と重陽⼦標的の違いを調べる際に、ビームのエネルギーを揃えてデータを取得することが容易な点です。ビームのエネル
ギーはBigRIPSの設定で決まり、いったん設定を固定した後は、標的を変えるだけで系統的なデータを取得できます。
実験の結果、陽⼦や重陽⼦に137Csと90Srのビームを照射することで起こる破砕反応の確率は、熱中性⼦捕獲反応に⽐べて、
137Csで約4倍、90Srで約100倍⼤きいことが分かりました(図2)。また、標的の陽⼦と重陽⼦を⽐較すると、破砕反応の確
率は重陽⼦の⽅が約2割⾼く、ビーム核種を軽い核にする能⼒が⾼いことが分かりました。これは、陽⼦と中性⼦で構成され
る重陽⼦が、137Csや90Srと反応する際に陽⼦と中性⼦がバラバラに反応に関与せず同時に反応するからだと考えられます。
過去に137Csや90Srを核変換する反応として、⾼エネルギー陽⼦を利⽤した破砕法が考慮されたことがありましたが今回の結
果で、陽⼦だけでなく重陽⼦ビームを利⽤した⽅法も有効であることが⽰されました。
137Csと90Srのビームを重陽⼦に照射した後に⽣成された原⼦核の半減期の分布を図3にまとめました。陽⼦に照射した後に
⽣成された原⼦核の半減期の分布も、ほぼ同じようになりました。137Csでは⽣成された原⼦核の89%、90Srでは96%が安
定核もしくは半減期1年以下の短寿命核です。⽣成された原⼦核の中には⻑寿命のセシウム-135(135Cs、質量数137、半減
期200万年)とセレン-79(79Se、原⼦番号34、質量数79、半減期30万年)も含まれました。137Csから135Csが、90Srから
79Seが⽣成する確率は、研究チームのデータからそれぞれ約6%、約0.1%と⼩さいものでした。これらの核種の半減期は、
137Cs(半減期30.1年)や90Srの半減期(半減期28.8年)に⽐べて⾮常に⻑いため、崩壊の頻度が低く、137Csと90Srと⽐べ
ると放射能にはほとんど寄与しないことが分かりました。
今後の期待
今回の実験により逆反応法を利⽤することでこれまで測定できなかった、⻑寿命放射性核種の核反応データが取得可能なこと
を世界に先駆けて⽰すことができました。この実験⼿法の開発が契機となり、仁科加速器研究センターは、⾰新的研究開発推
進プログラム(ImPACT)「核変換による⾼レベル放射性廃棄物の⼤幅な低減・資源化」事業に参画することになりました。
今後、RIBFで多種多様な⻑寿命核種の核変換データを取得し、効率の良い核変換法を模索していきます。
原論⽂情報
H. Wang, H. Otsu, H. Sakurai, et al., "Spallation reaction study for fission products in nuclear waste: Cross
section measurements for
137Cs
and
90Sr
on proton and deuteron", Physics Letters B, doi:
10.1016/j.physletb.2015.12.078
発表者
理化学研究所
仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室
主任研究員 櫻井 博儀 (さくらい ひろよし)
国際特別研究員 ワン・へ (王 赫)
仁科加速器研究センター 実験装置運転・維持管理室 多種粒⼦測定装置開発チーム
チームリーダー ⼤津 秀暁 (おおつ ひであき)
報道担当
理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補⾜説明
1. RIビームファクトリー(RIBF)
RI(Radioactive Isotope)とは放射性同位元素のことで、放射線を出して他の種類の原⼦核に変化する。RIBFは、理
研が所有するRIビーム発⽣施設と独創的な基幹実験設備群で構成される重イオン加速器施設。RIビーム発⽣施設は、2
基の線形加速器、5基のサイクロトロンと超伝導RIビーム分離⽣成装置(BigRIPS)で構成される。これまで⽣成不可能
だったRIも⽣成でき、世界最多となる約4,000個のRIを⽣成できる。
2. 破砕反応
核⼦(陽⼦と中性⼦)当たり50MeV程度以上の⾼エネルギー原⼦核を標的核に照射した際に起こる反応で、衝突時に陽
⼦、中性⼦がはぎ取られる。照射核として陽⼦、中性⼦、重陽⼦などの軽い核を利⽤する場合は、スポレーション
(Spallation)反応といい、炭素やウランなどの重い核を照射する場合は、フラグメンテーション(Fragmentation)
反応という。
3. 放射性核種
アルファ線(α線)やベータ線(β線)などの放射線を放出して崩壊する原⼦核。天然に存在する放射性核種として、カ
リウム-40(40K、原⼦番号19、質量数40、半減期12億年)やウラン-238(238U、原⼦番号92、質量数238、半減期
45億年)などが知られている。天然放射性核種は、半減期が地球年齢(約50億年)程度あるので崩壊せずに残ってい
る。放射性廃棄物中に含まれる放射性核種は、原⼦炉内で⼈⼯的に作られたもので、天然に存在する放射性核種に⽐べ
て半減期が短く、放射能が⾼い。
4. 熱中性⼦捕獲反応
原⼦核が熱中性⼦1個を捕獲して、中性⼦数が1個多い同位体になる核反応。熱中性⼦とは、原⼦の熱運動と平衡状態に
ある中性⼦で、中性⼦のエネルギー分布は室温で決まる。平均エネルギーは約0.025eV、平均の速さは約2.2 km/s。
5. 陽⼦、重陽⼦
陽⼦は原⼦核の構成要素の1つ。原⼦核のもう1つの構成要素は中性⼦で、陽⼦と違い崩壊するため、寿命は有限であ
る。重陽⼦は、陽⼦1個と中性⼦1個で構成されている。陽⼦と中性⼦の間に束縛エネルギーがあるため、重陽⼦は安定
で崩壊しない。
6. 逆反応法
研究対象の原⼦核が安定な核の場合、これを標的にし、陽⼦や重陽⼦などのビームを照射して研究を⾏うが、研究対象
の原⼦核が不安定で寿命が有限の場合、逆反応を利⽤する。この場合、陽⼦、重陽⼦などを標的にし、調べたい原⼦核
をビームとする。この⽅法を利⽤すると、研究対象核の壊れ⽅を正確に調べることができる。RIBFでは、この⽅法を利
⽤した基礎研究が推進されている。
7. マイナーアクチノイド
アクチノイドとは、アクチニウム(原⼦番号89)からローレンシウム(原⼦番号103)までの元素の総称。マイナーア
クチノイドとは、アクチノイドに属するウラン(原⼦番号92)よりも原⼦番号の⼤きい元素のうちプルトニウム(原⼦
番号94)を除いたものを指す。
8. 超伝導リングサイクロトロン(SRC)
サイクロトロン(加速器)の⼼臓部に当たる電磁⽯に超伝導を導⼊し、⾼い磁場を発⽣できる世界初のリングサイクロ
トロン。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩(ろうえい)を防ぐ⾃⼰漏洩磁気遮断の機能を持つ。総重量は
8,300トン。SRCを使うと⾮常に重い元素であるウランを光速の70%まで加速できる。また、超伝導という⽅式によ
り、従来の⽅法に⽐べて100分の1の電⼒で動かせるため、⼤幅な省エネも実現している。
9. 超伝導RIビーム⽣成分離装置(BigRIPS)
ウランなどの1次ビームを⽣成標的に照射することによって⽣じる⼤量の不安定核を集め、必要とするRIを分離し、実験
グループにRIビームを供給する装置。RIの収集能⼒を⾼めるために、超伝導四重極電磁⽯が採⽤されており、ドイツの
重イオン研究所(GSI)など他の施設に⽐べて約10倍の収集効率を持つ。
10. ゼロ度スペクトロメータ
RIBFの基幹実験装置の1つで、逆反応法で⽣成された⽣成核種の粒⼦識別や運動量分析などが⾏える磁気分析装置。こ
の装置は、逆反応法で⽣成された核が照射したビームと同じ⽅向に放出されることを考慮して設計されている。反応⽣
成物の収集効率を上げるため、BigRIPSと同じ超伝導四重極電磁⽯が採⽤されている。分析装置内での⾶⾏時間が⻑い
ため、質量数200程度の核種まで粒⼦を識別できる。
図1 破砕反応実験の概要
超伝導リングサイクロトロンで加速した238Uビームをベリリウム⽣成標的に照射し、超伝導RIビーム⽣成分離装置で識別・
分離し、137Csや90Srをビームとして取り出す(①)。続いて⼆次標的(陽⼦と重陽⼦)に照射し(②)、⼆次標的での反応
⽣成物をゼロ度スペクトロメータで分析する(③)。
図2 137Csと90Srの破砕反応と熱中性⼦捕獲反応が起こる確率の⽐較
137Csと90Srの重陽⼦や陽⼦による破砕反応が起こる確率(反応断⾯積)は、熱中性⼦捕獲反応に⽐べて⼤きいことが分か
る。137Csで約4倍、90Srで約100倍である。
図3 137Csと90Srのビームを重陽⼦に照射した際に⽣成される同位体の半減期の分布
実験で調べられた原⼦核の範囲(原⼦番号55の137Csの場合は、原⼦番号51〜56の原⼦核、原⼦番号38の90Srの場合は、原
⼦番号34〜39の原⼦核)でのデータを基に作成。破砕反応で⽣成された同位体のうち、安定核もしくは半減期が1年以下の
ものは、137Csで89%、90Srで96%である。
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2016/02/19 14:36