海外通信 from Singapore 豪ドル安で輝きを増す オーストラリアのサービス産業 資源国であるオーストラリアでは、資源価格下落 の影響を受け、一部で景気後退への懸念が出ている。 そうした状況にもかかわらず、2015年11月の雇用者 数は前年比+3.0%と2010年11月以降で最も高い伸 びを記録するなど、雇用の増加が続いている。その背 景を探るため、筆者は初夏のシドニーに飛んだ。 柔軟性の高い労働市場 オーストラリアの労働市場は柔軟性が高いという 特徴がある。一般的に、雇用者のうち在職期間 12 カ月 以内の人の割合が高いほど、労働市場の柔軟性が高い と言われている。 オーストラリアの同割合は20%近く と、デンマーク、スウェーデン、カナダなどと並んで経 済協力開発機構(OECD)諸国の中で最も高い水準に ある。つまり、労働移動が比較的起こりやすい環境に あるということだ。実際、現地でヒアリングしたとこ ろ、転職をステップアップのための機会とポジティブ に捉える人が多く、非自発的・自発的にかかわらず、転 職は頻繁に行われるという意見が聞かれた。 この点を踏まえつつ、2014 年以降の業種別雇用者 数の変化をみると、プラント建設ブームの終焉と資源 価格の下落に見舞われた鉱業や、自動車セットメー カーの撤退により大規模な解雇が行われている製造 業などで雇用が減少した一方、サービス業の雇用者数 は大幅に増加している(図表) 。それだけ不況業種から 他業種への労働移動が進んだということだ。 豪ドル安効果で高まる サービス分野の労働需要 それでは、サービス業の雇用はなぜ顕著に増えて いるのか。現地エコノミストが一様に指摘したのが、 豪ドル安の効果である。事実、2014 年以降、豪ドルの 実質実効為替レートは 10%近く下落した。これに伴 い海外からの観光客や留学者数が大幅に増加、その 結果サービス輸出の高い伸びが続いている。また、豪 ドル安は、サービス輸出の競争力を高めるだけでは なく、オーストラリア人の国内旅行の増加にも寄与 しているという意見も聞かれた。こうした豪ドル安 12 の効果により、小売り、宿泊、飲食施設などサービス 業全体の売り上げが拡大し、その結果として雇用者 数が増加していると考えられる。 通貨安で際立つオーストラリアの「魅力」 最後に、なぜ通貨安がこれほどまでサービス輸出 の拡大に寄与したのだろうか。エコノミスト・インテ リジェンス・ユニットが発表した2015年の世界の住 みやすい都市ランキングをみると、1 位のメルボル ンを皮切りにオーストラリアの4都市が軒並み10位 以内にランクインしており、安全性や過ごしやすさ が世界で評価されているようだ。また、エアーズロッ クをはじめとする自然遺産の登録数は 12 カ所と米 国に次いで 2 番目に多く、世界的に評価の高い景勝 地も豊富にある。通貨安によって、こうしたオースト ラリアが本来持っている国としての「魅力」が輝きを 増し、それだけ旅行先・留学先としての注目度が高 まったということだろう。 みずほ総合研究所 アジア調査部(シンガポール在留) 主任研究員 菊池しのぶ [email protected] ●業種別雇用者数の変化 専門家、科学、技術サービス 宿泊施設、 カフェ、 レストランサービス 医療、社会保障サービス 小売 教育、訓練サービス 事務、 サポートサービス 金融、保険 輸送、倉庫 芸術、娯楽サービス 通信サービス 賃貸、雇用、不動産サービス 建設 卸売 農業、林業、漁業 行政サービス 電力、 ガス、 水道 その他サービス 鉱業 製造業 ▲120 ▲60 0 60 120 (千人) (注)2014年2月から2015年11月の雇用者数の変化幅。 (資料)オーストラリア統計局
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