●視点・インタビュー のですが、形式的なタイミング 9月中旬、国の高大接続シス テム改革会議が高大接続改革実 は譲っていないものの、計画そ 行プランの「中間まとめ」を発 のものが十分でなかったことが 表した。高校側として最も気に 明らかになったと云えます。 依然として新テストの具体的 なるのは、大学入試センター試 な イ メ ー ジ が 見 え ず、 先 行 き は 不 験に替わる「大学入学希望者学 力 評 価 テ ス ト( 仮 称 )」( 以 下、 透 明 さ が 増 す ば か り で す。 作 題 見 本の見通しは? 新テスト)」の行方である。 荒 井 文 科 省 と 大 学 入 試 セ ン 今号は、大学入試問題に精通 ターが協力してサンプル問題の する、大学入試センター・荒井 下地ぐらいはできているので 克弘名誉教授(専門は高等教育 しょう。しかし提案自体が無理 研究、教育計画論)に、先の「中 難題を抱えているわけですから、 間まとめ」をどう読むのかをう 公表できる状況ではないのでは。 かがった。聞き手は、新テスト 今回の高大接続改革の議論を 問題を追求してきた本誌監修の どうご覧になりますか。 大堀精一。 荒井 日本の入試改革は、制度 新テストは 上の整合性を追求した諸外国の 4年間先送り 入試制度と違って、教育現場の 問題に対処するというのが従来 今回の「中間まとめ」にどの ような感想を持たれましたか。 からのパターンです。場当たり 荒井 最大のポイントは、20 的な対応との誹りは免れません 15年1月の「高大接続改革実 が、現場から声が上がるという 行プラン」で2020年度とさ 点で、改革の必要を国民が理解 れていた新テストの実施時期が、 し、共有できるという特徴があ 「中間まとめ」で2024年度 りました。例えば、共通一次試 に4年間先送りされたことです。 験のときは、受験競争の過熱解 消、難問奇問の排除、高校教育 の是正、が目標でした。大学入 先 送 り の 理 由 は、「 新 学 習 指 導要領に合わせたい」というも 使われた。 学力像の転換とは、学校での 15 教科教育や学習を変えようとする 64 15 試センター試験は偏差値受験に よる序列化、輪切りへの対応が 改革の最大の課題でした。 ところが今回は 世紀の教育 だ、グローバル化への対応だと 騒いでいますが、国民の理解は 遠い。しかも、審議の始まる前に、 センター試験の廃止が報道され るなど、手続き的な粗さが目立 ちます。結局、大学も高校も埒外 に置かれたまま改革審議が独走 し た の が、 こ の 間 の 経 緯 で す。 誰 を 対 象 に 何 を 改 革 す る の か、 いまもってはっきりしません。 改革の内容がクリアでないの は、今回の改革の主役が入試で はない、という事情にあるのか もしれません。高校教育と大学 教育と入学者選抜の一体的改革 が眼目だと答申にも書いてあり ます。社会の関心が入試改革に 集中しているために、われわれ も当初、新テストの複数回実施、 得点の段階別表示というテクニ カルな部分に翻弄されたところ がありました。 昨年の高大接続改革の答申を 読 み 返 し て み れ ば、「 確 か な 学 力」の育成を三位一体の改革で 21 荒井 ボリュームゾーンと呼ば 短大に進学し、高専、専門学校 れる中間・下位層の学力向上で (専修学校)を含めて8割が高卒 あり、スキルの修得です。入試 後に進学する時代です。つまり の多様化は彼らに焦点をあてた 学校制度で想定されている教育 政策でしたが、少子化のなかで 課程の積み上げとは絵に描いた 進学準備教育がルーズになった。 餅になっています。いま、教育 直近のデータが入手できていな 接続を考えるというのは、高校 いのですが、文科省の教育課程 と大学だけでなく、新しい学校 実施状況調査で、小学生の授業 システム全体を考えることです。 理 解 度 は(「 わ か る」+「 だ い た 私学への国庫補助の問題も入 いわかる」) %(H )、中学 試と深く連動した問題です。高 生 は %( H )、 高 校 生 は 等教育の大半を私学に頼ってい %(H )でした。 る日本では、私学経営の疲弊は 年齢人口の6割近くが大学・ 高等教育の質に直結します。大 17 ものですか? 荒井 従来の高校教育では「教 科・科目」の中で「どうやって 理解を深め、知識と能力を高め る か 」、 そ れ が 教 育 の 目 標 だ っ た。今回の改革では、教科科目 の上に学力の三要素が来て、最 上位に「資質・能力」が置かれ ました。学力の三要素が定めら れたのは、2007年の学校教 育法一部改正によるが、それが 今回の高大接続改革の骨格にな りました。基礎学力試験では「知 識・技能」を、学力評価テスト では「思考力・判断力・表現力」 を中心に、個別選抜では「主体 性・多様性・協働性」というの はまさにそれに対応しています。 この枠組みが、これからの学 校教育や学習の優先順位などに も影響を与えるものと思います。 置き去りにされた 多様な現場 とはどのようなものですか。 本来、なすべき高大接続改革 44 独立行政法人・大学入試センター名誉教授 荒井克弘 あらい・かつひろ● 1947 年生まれ。工学博士。国立教育研究所教育計画研究室長、 広島大学教授、東北大学大学院教育学研究科教授、同教育学部長・研究科長、教 務担当副学長、同名誉教授。2009 大学入試センターに転出、同センター教授・ 副試験研究統括官を経て、2012 年副所長(試験研究統括官)、同名誉教授。 - 12 2015 / 12 学研・進学情報 -2- -3- 2015 / 12 学研・進学情報 41 ●インタビュー 目指すと書いてあります。確か な学力とは学校教育法に定めら れている「学力の三要素」に基 づくものです。 すなわち、「知識・ 技能」 「思考力・判断力・表現力」 そして「主体的に学習に取り組 む態度」です。 しかし、奇妙なのは「確かな 学力」とは小学校から高校まで の教育目標として定められた指 針で、大学教育に及ぶものでは ない。なぜ、学力の三要素が大 学の入学者選抜まで浸食してき たのか、その辺りに今回の答申 のわかり難さがあります。 中間まとめには「 『学 さらに、 力の三要素』全てを含む能動的 学修に重点を置いた初年次教育 の 充 実 等( 頁 ) 」と書かれて いて、大学入学者選抜にとどま らず、大学初年次までを射程に 入れていることがわかります。 年代後半、高大接続の不首 から 尾に悩むアメリカはK へとの改革スローガンを K 掲げました。今回の高大接続改 革はこの日本版を目指している と理解することもできます。入 試改革はいわば、その「梃」に 31 ますます不透明な 「新テスト」 の行方 80 - 16 ●視点・インタビュー 新テストでは、新たな科目も 提言されていますが。 学の生き残りのために、入学基 荒井 センター試験でも、出題 準を下げて学生を確保している 科目を変えるのは労力の要る作 大学もあります。入試の改善に 業です。時間をかけて高校、大 とって国の私学助成は大きな論 学 と 調 整 す る 協 議 が 必 要 で す。 点のはずですが、この種の議論 共通試験の科目が変われば、大 は高大接続改革ではまったく触 学の指定科目も変わる。受験生 れていません。 大学側の新テストへの反応は の併願校の選択にも影響が出て いかがでしょうか? くるでしょう。 荒井 戸惑っているというのが CBT、IRTの 正 直 な と こ ろ で し ょ う。 だ が、 実現性は? 答申で入試改革を大学評価に組 み入れるとか、国立大学の運営 改めて新テストの特徴をうか がいます。今回の目玉はマークシー 費交付金にその成果を反映させ ト方式からコンピュータ利用方式 ると書いています。大学執行部 にすれば心中穏やかではないで ( C B T )へ の 転 換 で し た。 本 格 実 施は 年度と4年間先送りされま しょう。 したが、実現できますか? とはいえ、入学者選抜には説 荒井 個人的な判断ですが、少 明責任が伴います。社会的公正 について慎重な配慮が必要です。 なくとも学力評価テストについ ては難しいと思います。技術の 丁寧な入試、多面的な評価は云 問題だけではなく、それを受け うことは容易ですが、実際にど 入れる教育と社会の変化が必要 のような工夫ができるのか、マ です。フランスではカネ・ヒト・ ンパワーそのものが足りないの は誰もが承知していることです。 モノの浪費だからバカロレアの 資格試験をやめようという提案 カネだけの問題ではなく、知恵 が出ていると聞きました。日本 と仕組み、確かな方法論が求め でも入試をやめよう、という機 られています。 運が盛り上がれば、事情は別か ’24 い。複数回にはテスト理論の導 荒井 センター試験は大問形式 入は不可欠です。中間まとめで の出題です。大問はまず設問文 は項目反応理論(IRT)の導 ( リ ー ド 文 ) が あ り、 そ れ か ら 入が想定されていますが、この 派生する小問が5つ程度用意さ 手法を使うには、各科目当り事 れ ま す。 リ ー ド 文 と 小 設 問 が 前調査を済ませたテスト項目が しっかりとした文脈を持ってい 2 万 ~ 3 万 問 必 要 に な り ま す。 ること、小問どうしが連携した 大学入試センターで大学教員を 内容で構成されていることが重 500人動員して朝から晩まで 視されます。理解度、思考力な 年間 日かけて作成している問 どを測る上で不可欠だからです。 題数が、 科目トータルで18 IRTでは、多数の小問が並 0 0 題 ほ ど で す。 2 万、3 万 題 ぶ短問形式が前提です。大問形 という問題量がどの程度の作業 式と違って、この小問どうしが かおよそ想像がつくでしょう。 互いに独立している必要があり ます。IRTを使えば、複数の 問題作成だけでなく、事前調 査も大規模でしかも緻密な作業 試験得点を比較できるという利 を要します。適切な対象に、適 点がありますが、短問形式の性 切な時期に調査を実施して、初 格上、深い思考力や理解度を試 めて使用可能な項目パラメー す試験には向きません。そして ターが得られます。この際に問 単一の能力を正確に測るのに適 題漏洩でも起きたら、調査も問 した方法です。バラエティに富 題もすべて台無しです。事前調 んだコンテンツを含む学力試験 査のタイミングの難しさは、生 にどの程度利用可能なのか、依 徒 の 学 力 は 勉 強 す れ ば 伸 び る、 然、未知数です。 変化するという点です。IRT さらに、IRTでは、試験問 の弱点の一つはここに潜んでい 題は非公表です。受験生が試験 ます。変化しない能力を測るの 問題を持ち帰って自己採点する に適した手法だからです。 ことはできません。試験問題は 繰り返し使用されるからです。 出題はどう変わりますか。 30 もしれません。 英語のリスニングテストで使 われているICプレイヤーの品 質水準は100ppmを下回る 最高レベルです。加えて、受験 者が希望すれば再開テストが受 けられる。不運にも機器の不良 に当たってしまった受験者もす べて救済できる仕組みです。 入試の条件は受験者全員が安 全に安心して受験できることで す。コンピュータのような高度 な機器を大規模試験に利用でき る の か、 コ ン ピ ュ ー タ の 搬 送、 「中間まとめ」でトーンダウ ンしたのが「合教科・合科目型」 「総 合型」の出題です。また「記述式」 データの回収、採点など課題は 山積みです。 新テストでは、複数回受験が 打 ち 出 さ れ て い ま す が、 高 校 で は 反発が非常に大きいですね。 荒井 基礎学力テストと学力評 価テストの両方で、高校の後半 2年間に全国規模の共通試験を 6回実施する計画ですから、そ れで高校教育が成り立つのかど うか疑問です。 仮に、複数回の試験を実施し たとしても、複数の試験の成績 を比較できなければ、意味がな 従来通りで 構わない も課題が指摘されています。 新 テ ス ト の「 落 と し ど こ ろ 」 荒井 現行指導要領の下での合 が 見 え な い 中、 高 校 現 場 は ど ん な 教科・合科目は無理だと判断し 構えをすればいいですか。 荒井 高校の先生方には、自信 たのでしょう。 を持って従来の教育をさらに深 地理や歴史、公民などの科目 めていただければよい、と思い は指導要領が変われば、合科目 型 の 可 能 性 は あ り ま す。 た だ、 ます。大学教員が考える高大接 続は荒唐無稽なことではありま 出題領域が広くなりすぎて、受 せん。センター試験の過去問の 験者の負担が増えることになり 中 に、 大 学 教 員 の た く さ ん の ます。公平な出題をできるかど メ ッ セ ー ジ が 詰 ま っ て い ま す。 うかが課題でしょう。 英語で外部試験の活用も推奨 センター試験は「知識・技能」「思 されています。 考力・判断力・表現力」を考え 荒井 高校英語の目的は言葉だ 抜いた試験です。新テストの作 けではなく、英語圏の人々の生 問イメージの原点は、すべてこ 活や社会、文化を知ることです。 こにあるといっても過言ではな 言語の運用力だけなら、各大学 いでしょう。 が必要に応じて外部検定試験等 政策担当者は、謙虚に現場の を使うのも有意義だと思います。 声に耳を傾けて欲しい。日本の 新テストによる影響をどう読 戦後社会が持つ良さは、そうや って築かれてきたところだろう まれますか。 荒井 ごく一部のトップ進学校 と思います。一人ひとりの真摯 とそれ以外の高校の格差が拡が な努力が間違いの少ない政策を ることが予想されます。そして、 選択させる力になると思います。 高校と大学の接続は、今以上に ( 聞 き 手・ 大 堀 精 一 / 構 成・ 福 手 探 り 状 態 に な る で し ょ う。 永文子) 2015 / 12 学研・進学情報 -4- -5- 2015 / 12 学研・進学情報 50
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