思考力・判断力・表現力の育成を図る理科学習の在り方 - 新潟県立教育

思考力・判断力・表現力の育成を図る理科学習の在り方
~言語活動の充実を図った授業を通して~
津南町立津南中学校
八重沢 央
Ⅰ
主題設定の理由
1
新学習指導要領から
新学習指導要領では、思考力(問題を解決する際、適切なタイミングで知識や技能を使うことができる力)
・判断力(物事を認識し、評価し、解決する力)・表現力(自分や他者の感情や思い、考えを表現したり、
受け止めたりする力)等を育むために、「言語活動の充実」を挙げている。これは、各教科に共通して重要
な改善点である。その背景には、PISA調査などの各種の調査において、自由記述問題の無答率がOEC
D加盟国平均より高く、正答率は平均を下回っていることがある。思考力・判断力・表現力等を問う読解力
や記述式問題、知識・技能を活用する問題に課題があるということである。これは、授業の中で正に思考力
・判断力・表現力を育成できておらず、知識として正しい答えを導くことができても、自分の判断で主体的
に考え、表現していないことが原因であると考えられるのではないだろうか。こうしたことから、中教審の
答申では、「・・・知的活動の基盤という言語の役割の観点からは、例えば、観察・実験や社会見学のレポ
ートにおいて、視点を明確にして、観察したり見学したりした事象の差異点や共通点をとらえて記録・報告
する(理科、社会等)、比較や分類、関連づけといった考えるための技法・・・・(算数・数学・理科)、仮
説を立てて観察・実験を行い、その結果を評価し、まとめて表現する(理科等)など、それぞれの教科等の
知識・技能を活用する学習活動を充実することが重要である・・・」としている。
以上のように、新学習指導要領では、子どもたちの現状と課題から、思考力・判断力・表現力の育成を目
指しての言語活動を重要視しているのである。
2 本校の実態から
職員の授業評価、生徒自身
の授業評価などの調査にお
いて明らかになった課題
は、授業規律や課題の提出
についてはおおむね良好で
あるが、授業中における発
言や発表などの力が乏しい
ということである。グラフ
は事前に行ったアンケート
結果であるが、事前のアン
ケートから、理科が好きと
答えた生徒は61%。実験
観察が好きと答えた生徒は
91%と高い割合を示し
た。一方で、発表する活動
が好きと答えた生徒は28
%。進んで発表しようとし
ているは33%と肯定的に
とらえている生徒は極端に
低い数値を示した。理由に
は「自分の結果に自信がな
い」「実験や観察の目的が
よく分からない」などであ
る。生徒自身が、実験や観察の目的を明確にして、主体的な取組をすることは、科学的な思考力・表現力を
育成することとして重要視されている。しかし、アンケート結果から日頃の授業の中で人前で発表したり、
説明したりするという学習活動が不十分であるということが分かる。
日常生活において、本校の実態として、あいさつや返事を大きな声できちんとすることが苦手な生徒が多
いという課題もある。日常の生徒会活動の一環として、リーダーの発表場面の設定やあいさつや校歌の練習、
全校レクにおける感想発表場面の設定など、発表したり、表現したりする場を意図的に設けることにより、
発表力・表現力の向上は見られるが、各教科の授業には反映されていない。各授業の中で、知的活動だけで
なく日常生活のコミュニケーションのツールとしての言語をうまく使い表現する言語活動を充実させていか
なければならない。
以上のことから、本研究の主題を「思考力・判断力・表現力の育成を図った理科学習の在り方」とした。
3
理科における言語活動について
本研究を行うにあたって、理科の学習活動と言語活動を関連を整理し、また、その言語活動を通して育ま
れる力との関係を明確にした。
-1-
【理科での思考力・判断力・表現力を育むための「言語活動」と「育む力」との関係】
主な言語活動場面と授業展開項目
主な学習活動
育む力
表現力
①問題を見出す場面
導
入
○五感で捉えた自然事象に関しての感想や疑
問点を自分の言葉で伝える活動。
②見通しを持つ場面
計
画
○五感で捉えた自然事象に関しての疑問点を 表現力
調査していく方法を、図を用いて計画する。 思考力
③実験観察を行う場面
実
践
○話し合いを通して、実験方法を修正する。
④実験観察の結果を整
理する場面
整
理
○実験観察して、分かったことや実験結果・ 表現力
現象を正しく整理しまとめる。
思考力
○表を用いて、分かりやすく情報を整理する。
⑤結果を分析、考察す
る場面
考
察
○実験データをグラフにまとめたり、図示し、 表現力
実験や観察結果を考察する。
思考力
⑥結論を説明、発表す
る場面
説
理
明
解
○学習した内容や科学用語を用いて、導入で
捉えた内容や疑問点を考察した結論で説明
する。
○モデルや図を活用して説明する。
⑦学びを活用・表現す
る場面
討
変
論
容
○学習した知識について、文章でまとめたり、 表現力
活用したりする。
判断力
○他者の意見を聞き、自分の考えを深めたり、
修正を加えたりする。
思考力
表現力
思考力
単元を通して、以上のような学習活動の視点を取り入れることで、思考力・判断力・表現力が高まるので
はないかと考える。
Ⅱ
1
2
単元名
中学校第3学年
研究の実際
「地球とともに生きる」
主題達成のための視点・方策
①単元を通しての問題解決学習の展開と発表場面の設定
・上記に示した学習活動を計画的に取り入れながら、単元を通して1つのテーマを設定し、そのテーマ
を解決するために、実験をしたり、データを収集したり、調査活動を行ったりする単元指導計画を作
成する。単元を通して、見通しをもって学習できるようにしていく。
本研究において、単元を通しての1つのテーマとして用いた教材は、エコカラムである。
エコカラムは、中学校理科の生物分野で、興味関心を高め、思考力を育むための有効な教材として
紹介されている。この有効な教材を用いて、その中に発表場面や話し合いの場面を意図的に設定する
指導計画を立てれば、より思考力や表現力が高まるのではないかと考えた。
②自己の考えの変容が分かる課題の設定
・①の内容に加えて、学習の初期の段階と学習後の段階を比較できるような課題を設定する。実験や調
査活動の目的を明確にするため、単元の初期に発表会を位置づける。発表会を通して、新たな疑問点
や課題を見出したり、実験方法やどのような調査が必要なのかについて明らかにする。
③学習内容と実験データ・調査結果を整理する時間の確保
・課題を解決するためには、データや学習内容の整理が不可欠である。それぞれの内容をしっかりと結
びつけることができるように時間の確保を行う。この整理場面が、課題追求をより深めるのではない
かと考える。
④発表方法の工夫
・自分の考えや実験データを相手に分かりやすく、伝えたり、説明したりするためには、発表の方法を
考える必要がある。プレゼンテーションソフトやホワイトシートを活用していく。また、相手に伝え
るためには、実験結果やデータを順序立てて説明する必要がある。発表原稿や発表資料の指導の徹底
を図る。
-2-
3
時
指導計画(全15+2時間)
学習内容
学習活動(授業展開項目)
評価と方法
1 ○ペットボトルや昆虫飼育箱を ・ワークプリントに、ミニ自然界を図示する。ミニ ・生態系をつくる生物
使ってミニ自然界がつくれる
自然界をつくるためには、何が必要なのか
を具体的に表現でき
か、考え、発表する。
を考える。(導入)(計画)
る。(ワークプリント)
1 ○自分たちのグループが計画し ・ワークプリントの図をパワーポイントで説明を行う。
・新たに必要なものや
たミニ自然界について発表す
(導入) 調査しなければなら
る。
・各グループの発表を聴いて、何が不足して
ないことが明らかに
○疑問点や調査内容を明らかに
いるのか、何を調査しなければならないの
なったか。
し、整理する。
かを明確にする。(導入)(変容)
(ワークプリント)
ミニ自然界をつくるためにはどんな生物が必要だろうか。その生物はどのような関係になっているだろうか?
・
1 ○食物連鎖について、話し合う。・陸上界、水中界の生物の食物連鎖について、 食物連鎖について積
話し合いを通して、理解する。
極的に調べる。
(説明・理解)
(レポート・発表)
1 ○生物の量的関係を理解する。 ・様々な生態系における量的関係についての ・量的な平衡が保たれ
データを示し、その関係を理解する。
ていることを理解す
(説明・理解)
る。(ワークプリント)
ミニ自然界をつくるためにはどんな土がいいだろうか?土の中の生物はどんな生物か?
1
○土の中の生物を調べよう。
・土の中にどのような生物がいるか、観察し ・観察を行う。
よう。(計画)(実践)
(見取り)
1 ○土中の微生物のはたらきを調 ・デンプン糊を使って、有機物の分解を確認 ・微生物のはたらきを
べよう。
する。
(実践)
(整理)
(考察)
(説明・理解) 理解する。
(ワークプリント)
ミニ自然界をつくるために、水中界はどうしようか?水の中の生物はどんな生物か?
1
○水中生物を調査しよう。水中 ・近くにある沼で、フィールドワークを行い、 ・水中の生物を理解す
には、どんな生物がいるだろ
水中の生物の調査を行う。
る。(ワークプリント)
うか?
(導入・実践)
自然界では、なぜ生物は生きていけるのだろうか?物質の流れに注目してみよう!
1 ○物質の循環を表現しよう。
・生産者、消費者、分解者のはたらきに着目
し、図で物質の流れを表す。(説明・理解) ・生産者、消費者、分
解者の役割を図で説明
できる。(ワークプリント)
1 ○ミニ自然界についてネットで ・カエルやメダカについて、ミニ自然界をつ ・ネットで情報を収集
調べてみよう。
くる際のポイントなど、ヒントをネットか
する。(ワークプリント)
ら得る。(計画)(実践)
1 ○学習内容や調査内容を整理し ・学習内容や調査内容をもとに、計画を修正 ・分かりやすい発表資
て、ミニ自然界の計画を見直
する。修正した根拠を明らかにする。
料を作成する。
そう。
(考察)
(理解)
(変容)
(発表資料)
1 ○発表資料を作成しよう!
総合学習2時間
・学習内容からミニ自然界の計画を修正した ・分かりやすい発表資
ものを、根拠を挙げながら説明できるよう
料を作成する。
に資料を作成する。(整理・理解)
1 ◎ミニ自然界計画のプレゼンを ・学習内容からミニ自然界の計画を修正した ・本時の評価
しよう!(本時)
ものを、根拠を挙げながら説明する。
(説明・理解)(討論・変容)
1 ○ミニ自然界を実際につくって ・計画書に基づいて、ミニ自然界を作製する。 ・実際のミニ自然界
みよう!
(実践)
-3-
1 ○これからの地球や自然につい ・生態系を保全していくために、我々人間は ・真剣に自然に対して
て考えよう!
何ができるのかを考える。(討論・変容)
のかかわり方を考え
る。(ワークプリント)
1 ○まとめ
・学習内容についてのまとめ。
・ワークプリント
・単元テスト
【指導計画系統図】
○ペットボトルと飼育箱を使って、ミニ自然界を作ろう!陸上界・土中界・水中界を作ってみよう!ど
んな物を入れたらいいだろうか?・メダカ1匹とカエル1匹は、入れることとするよ。ペットボトルや
飼育箱の形は色々工夫してもいいぞ!「植物」「土」「水」「水草」「生物」「ペットボトルをどいうふう
につなげようか」「・・・」
○設計図を作ってみよう!→計画書を発表する。「私たちの班は、ペットボトルを・・・のように繋げ、
・・・と・・・を入れます。」「僕らの班は、・・・が足りないかもしれないから、考え直そう」「・・・
について調べなければ!」
○どんな土を入れればい
いだろうか?
「グラウンド」「林」
「園芸用」
「砂」「花壇の土」
「・・・」
→土の中の生物を調べ
る。
○どの土が適している
か、調べよう!
(土中の微生物の働き
について調べる。)
○生物は何をどれくら
い入れようか?
「カエル」「コオロギ」
「バッタ」
「植物」「・・・」
→食物連鎖について学
習する。
→自然界の生物の量的
関係を学習する。
○自然界で、なぜ生
物は生きていける
のか、物質の循環
について考えよう
→物質の循環につい
て、図示する。
ミニ自然系の計画
書にも物質の循環
について、記入す
る。
○水中界は、メダカの他
に何を入れたらいいだ
ろうか?
→水の中の生物を観
察しよう
○今まで、集めたデータから、ミニ自然界の設計図を見直そう。収集したデータや学習内容を踏
まえて、よりよりミニ自然界にするための設計図を再検討しよう!インターネットを利用して、
情報を得よう!
◎ミニ自然界のプレゼンをしよう!(本時)
今まで、集めたデータを基にして、班の設計図を説明しよう。最初の計画とどのような点を
改善したのか分かりやすく説明しよう!他の班の発表を聞いて、参考になる点や疑問点はない
だろうか? 発表し合おう!
○ミニ自然界を実際につくってみよ
う!
・計画書に基づいて、ミニ生態系を
作製する。
○これからの地球や自然について考えよう!
・生態系を保全していくために、我々人間は何ができ
るのかを考える。
-4-
4
評価規準
Ⅰ自然事象への関心・意欲・態度
Ⅱ
科学的な思考・表現
Ⅲ
観察・実験の技能
Ⅳ自然事象についての知識・理解
□身近な自然の中から、□食物連連鎖の量的関 □実験結果を分かりや □食物連鎖の関係を指摘
生物どうしのかかわ
係について根拠を挙
すく表や図でまとめ
できる。
りを見出そうとする。 げて説明できる。
ることができる。
□物質の循環について説
□生物どうしのつなが □自然界の物質循環を □物質の循環を模式図
明することができる。
りから、自然環境に
光合成や呼吸などと
で表す。
□生物どうしのつり合い
興味を持つ。
関連付けて考察でき □学習内容や実験デー
を量的関係から説明で
る。
タを根拠に生態系に
きる。
□細菌や細菌類のはた
ついて説明できる。 □生産者、消費者、分解
らきを実験から考察
者のはたらきと物質の
する。
循環について説明でき
る。
5
本時の計画(12/15時間)
(1)ねらい
ミニ自然界の設計図を科学的根拠に基づいて発表することをとおして、思考力・判断力・表現力を
養うとともに学習内容の整理と定着を図る。
(2)本時における主題達成のための構想
□発表及び発表方法の工夫(2の④) :整理・説明・理解 (→表現力 →思考力)
・人に分かりやすく伝えるということは、ミニ自然界の仕組みを客観的なデータに基づいて深く理解し
ていなければならない。また、発表者が分かりやすいように、発表資料も丁寧につくらなければなら
ない。本時に至るまでの学習活動における、データを「整理」し、「理解」するということが大切で
ある。本時では前時までに作製した発表資料やデータ、表、図などの発表ツールとして PowerPoint
を用いる。分かりやすいプレゼンを行うことで、表現力が高まるのではないかと考えた。
□自分の考えの変容をまとめ、発表する場面の設定(2の②):討論・変容(→思考力)
・はじめの設計図と学習後の設計図は異なるはずである。データや実験結果から考え判断することで、
その違いを明らかする。違いを明らかにすることが、習得した知識や技能を使うということだと考え
る。
□発表に対しての質問場面や感想発表の場面の設定(2の②):討論・変容(→判断力)
・自分の実験データやミニ自然界の設計図と異なっている点を見出し、なぜそのような計画なのか質問
することにより、さらに思考力が高まると考える。自分の設計図に納得し、ミニ自然界を作製させる
ことが大切だと考える。また、他の計画を聴くことにより、自分の考えの変容にも繋がり、判断力の
向上が期待できるのではないかと考えた。
(3)展開
時 間
学習活動
説 明 ○本時の説明
5 分
教師の働きかけと予想される児童・生徒の反応
支援・評価・留意点
教「今日は、今までの学習内容や実験結果、 ・PowerPoint を使用しての発
調査データを用いて、自分たちが考えた
表
ミニ生態系計画について、プレゼンして
もらいます。」
・発表者は、落ち着いて発表するように指導する。
・聞く側は、新たな発見や疑問点をメモするように指導する。
・不明な点などがあれば、質問するよう指導する。
発表1 ○各班のプレゼン
35 分
教「それでは、発表にうつります。まずは ・最初の設計図と学習や実験
1班です。」
後の設計図とを比較しなが
ら、説明できるようにする。
・以下、同様の手順で進める。
・一人一人の役割を明確にす
・発表が終わったら、質問をする。
る。
・自分たちの計画に不足している部分については、メモをとる。 ・聴くという雰囲気作り
○根拠を明らかにしながら、
ミニ生態系設計図について
説明できたか。(見取り)
-5-
(1つの班につき
4分~5分)
・1班から順次プレゼンを行う。
(9班まで)
生「私たちのミニ生態系の設計図は、・・
・この設計図を作成した根拠としては、
・・・の実験より・・・結果が得られた
からです・・・」
教「今のプレゼンについて、何か質問はあ
りませんか?」
発表2 ○各班の発表を聴いて 教「各班の発表を聴いて、何か自分たちの
5 分
の感想発表
計画に付け加えた点や変更点について
発表しよう!」
生「○○の発表を聴いて、・・・・が変わ ・具体的に説明できように指
りました。・・・・について付け加え
導する。
ました。」
まとめ ○感想記入と
5 分
次時の説明
教「それでは、今日の感想と振り返りをし ○ワークプリント
ましょう!」
生「ワークプリントに記入する」
(4)評価
①設計図を比較しながら、データや学習内容を根拠に挙げ、説明している。(見取り)
②説明をしっかりと聞き、気づいた点などをまとめている。(ワークプリント)
Ⅲ
研究のまとめ
1
具体的な手立てに関して
今回の研究では、授業の中で発表場面を入れることで、思考力・判断力・
表現力を育めると考え、授業を展開した。その発表会に向けての資料にはパ
ワーポイントを用いたが、生徒は班員と相談して、分かりやすい資料を意欲
的に作成した。資料をつくる際に、自分で調べた内容や学習した内容につい
て、再度話し合ったり、お互いに質問し合ったりと積極的であった。
発表場面では、自分の資料を用いて、分かりやすく堂々と説明することが
できた。自分の計画と比較しながら、いくつかの質問も出され、思考力が発
揮されていることが分かる場面を見ることができた。しかし、発表資料やミ
ニ自然界の計画書の工夫に限りがあるため、発表を聞いて、自分たちの計画
を変容させるというところまでは至らなかった。
右図は、事前アンケー
トと事後アンケートの比
較であるが、理科が好き
と答えた生徒は61%か
ら77%に増えた。実験
観察が好きと答えた生徒
は91%から96%とさ
らに高い割合を示した。
課題であった発表する活
動が好きと答えた生徒は
28%から49%へ、進
んで発表しようとしてい
るは33%から53%と
肯定的にとらえている生
徒の割合が増加した。理
由として、「今回のミニ
自然界では、目的がはっ
きりとしていたので、自
信をもって発表すること
ができた」というものが
多くあった。発表を意図
的に設けること、「実験
結果を再度整理したり、
資料をつくったりする」
-6-
図:発表場面
いう手立てが有効であったと考える。また、この分野の単元テストを実施したところ、達成率80%の生徒
が8割を超え、学習内容の定着も向上したことが分かった。さらに、学習の最後のまとめとして地球環境に
ついて考えさせたところ、「地球を大切にしていきたい」「自分にできるエコを実践していきたい」という
ような環境保全を積極的に進めようとする前向きな意見が多く見られた。
2
教材や授業展開について
今回、「エコカラムの作製」をこの単元を貫く課題として取り入れた。エ
コカラムは通常ペットボトルで作製するが、より生徒の多様な考えや想像
力を発揮できるように、本研究では、ペットボトルに加え、昆虫飼育箱で
の作製も取り入れた。
(1)「エコカラム」(本研究ではミニ自然界と呼んでいる)について
・1でも述べたように、生徒の意欲を引き出し、科学的な思考力を高め
ていく教材としてとても有効である。作製が終わった後も、ミニ自然
界を熱心に観察する姿が見られた。
・今回は、ペットボトルだけでなく、昆虫の飼育箱を用いたが、ペット
写真:観察している様子
ボトルの場合は模様があるため中の様子がはっきりと見えず、観察し
づらいということがあった。昆虫飼育箱を2段重ねにすることで、観察し
やすいエコカラムが作製できた。また、陸上界・地中界・水中界の繋がり
がペットボトルより、自然界に近づけられるという利点もあった。
・昆虫飼育箱を逆さに2段重ねにすることで、密閉状態も可能であり、水の
循環もとても良く観察できる。
・ペットボトルは、切る作業や水が漏れないようにするための工夫が必要で
あるが、飼育箱は作業が極めて簡単である。
・エコカラムの中で、生物の量的関係を再現するのが困難であった。カエル
1匹が生きていくためにカエルの餌となるコオロギは何匹入れるのか、科
写真:2つ重ねにした飼育箱
学的根拠になるデータを収集するが難しかった。また、多様な生物を入れ
たとき、狭い空間の中で生態系のバランスをうまく保つことも難しく、この教材の課題である。
(2)授業展開について
・今回の授業では、ミニ自然界の計画書をつくることを課題として取り組んだ。その
ため、計画書がしっかりとしており、実際のミニ自然界の作製は、テキパキと作業
をすることができた。また、計画書に時間をかけたため、失敗しそうな点を生徒は
予想しており、修復作業も手際よく進めていた。
・授業の展開例として、始めにミニ自然界をつくって、一度、失敗を経験をさせた方
が、より思考力が高まるのではないかという考えもあったが、本研究を通して、
科学的根拠に基づいてしっかりとした計画書を立てることの方が、より思考力が高
まると私は考える。ミニ自然界の計画書は、生徒にとって、ある程度、はじめから
予想できるものであるため、始めにミニ自然界を作製させても大きくは
失敗しない。従って、計画書をいかに科学的根拠に基づいたものにする
か、というところに主眼を置く方が、科学的なデータを活用したり、論
理的に考えたりするなど、思考力が高まることが期待できるのである。
・実施時期が11月という事もあり、あまり生物を見つけられなかった。
ミニ自然界をつくる上では、より多種多様な生物がいるときの方が良い
と思われる。従って、本単元の学習時期としては、9月下旬から10月
頃が望ましいのではないか。
3
最後に
写真:ミニ自然界作製の様子
本研究では、主題達成のためにいくつかの手立てを実践した。特に、発表
会を取り入れたことで、思考力・表現力の高まりや学習内容の定着が図られたと考えている。しかし、発表
会を取り入れればそれでいいというものではない。あくまでも発表会は、思考力や表現力を身につける一つ
のツールであるということを念頭に置く必要がある。課題を解決するプロセスや発表以外の授業展開の中で
思考力を高めていく方策など、常に効果的な授業展開を考えなければならない。
【参考・引用文献】
佐藤 和彦 「定研資料 思考力・判断力・表現力の育成」
文部科学省 「中学校学習指導要領解説 理科編」 大日本株式会社 2008年
日本理科教育学会 「理科の教育」 東洋館出版社 2009,Vol.58
金澤 俊道 「平成20年度 理数教育ステップアップ研修 実践記録」県立教育センター
p 理科 71-78
保坂
修 「教育実践研究 第16集」p71-76
上越教育大学学校教育総合研究センター 2006年
-7-