p進簡約群の調和解析の基礎I 行列成分,二乗可積分表現,緩増加表現

p 進簡約群の調和解析の基礎 I
行列成分,二乗可積分表現,緩増加表現
大阪大学理学研究科数学専攻
森山知則 (Tomonori Moriyama)
目次
1 簡約代数群の構造論の復習(記号の約束)
2 行列成分の遠方挙動と定数項
3 二乗可積分表現と緩増加表現
本稿では, 二乗可積分表現と緩増加表現と呼ばれる p 進簡約群 G の認容表現の2つの
クラスが行列係数を用いて定義されること, およびこれらのクラスがそこに属する表現の
Jacquet 加群たちの Exponent によって特徴づけられることを解説する。
本稿の構成は以下の通り。まず §1 で, 簡約代数群の構造論から必要事項を復習し, また
上述の特徴づけを述べるのに必要な open obtuse cone, closed obtuse cone を導入する。§2
で, 行列成分を導入し, Jacquet 加群とそれを用いた行列係数の遠方挙動1の記述について
説明する。最後に, §3 で, これらの準備の下に二乗可積分表現と緩増加表現の特徴づけに
ついて述べる。
全体として, 証明は省略したりあらすじにとどまっているので, より詳しくは末尾に挙
げた文献にあたっていただきたい。
§1 簡約代数群の構造論の復習(記号の約束)
この節では, 簡約代数群の構造論から, 本稿で必要となる事柄を復習し記号を定める。
より詳しくは, [Kon-no2] (主に第5章) を参照されたい。
(1.1) G を体 F 上定義された連結簡約代数群とする。G の F -有理点のなす群 G(F ) を改
めて G と書く。G の中心を Z = Z(G) とし, その F -split component (i.e. Z = Z(G) の最
大 F -分裂部分トーラス) を AG で表す。
(1.2) 指標群. G の F 上定義された部分代数群 H に対して, その F 上の (resp. F¯ 上の)
指標群 (i.e. G から Gm = GL(1) への代数群としての準同型のなすアーベル群) を X(H)
1文献では,
漸近展開(asymptotic expansion) と呼ばれることが多いが, ここでは [Hiraga] にならってよ
り適切と思われる「遠方挙動」という用語を用いる。
1
(resp. X ∗ (H)) で表す:
X(H) := HomF (H, Gm ) ⊂ X ∗ (H) := HomF¯ (H, Gm )
H が F -分裂トーラス (∼
= Grm ) なら X(H) = X ∗ (H) ∼
= Zr であることに注意しよう。
(1.3) (G, AG ) を上の通りとして
aG := HomZ (X(AG ), R) ∼
= HomZ (X(G), R)
及び
a∗G := X(AG ) ⊗Z R ∼
= X(G) ⊗Z R
を定義する(これらは, いわば F = R のときの AG (R) の単位元を含む連結成分 AG (R)◦
の Lie 代数とその双対空間の代用物である)。また, 写像 logM : M → aM を
exp(⟨logM (m), χ⟩) = |χ(m)|F ,
∀m ∈ M
で特徴づけられるものとして定義する。
G の極大 F -分裂トーラス A0 を一つとって固定する。AG ⊂ A0 に注意する。M0 :=
ZG (A0 ) を A0 の G における中心化群とする。このとき, M0 も簡約代数群で, その中心の
F -split component AM0 は A0 に一致する。
(1.4) 放物型部分群と Levi 部分群 M0 を上記の通りとして
F ≡ F (M0 ) := {P ⊂ G | F -放物型部分群, P ⊃ M0 }
に属する部分群を G の semi-standard な放物型部分群と呼ぶ。また
L ≡ L(M0 ) := {M ⊂ G | M はある P ∈ F の Levi part で M ⊃ M0 を満たすもの }
に属する部分群を G の standard Levi subgroup と呼ぶ (G の Levi subgroup は G 自身だ
が, 言葉の流用でこのように呼ぶ)。
M ∈ L もまた簡約代数群なので, 上と同様にして, aM , a∗M が定義されることに注意し
よう。
(1.5) aM 内の open obtuse cone, closed obtuse cone. P = M U ∈ F (M ∈ L,
U = P のべき単根基) を一つとる。
AG ⊂ AM ⊂ AM0 = A0 ⊂ M0 ⊂ M ⊂ G
に注意する。このとき,
ΣM := {α ∈ X(AM ) | α ̸= 0, gα ̸= 0} ⊂ a∗M
ΣP := {α ∈ X(AM ) | gα ⊂ Lie(U )} ⊂ a∗M
∆P := {α ∈ ΣP | α は β, γ ∈ ΣP の和 β + γ の形に書けない }
2
+ ¯G,∗
と置く。aM 内の open obtuse cone + aG,∗
P , closed obtuse cone a
P を
∑
∑
+ G,∗
aP := {
cα α | cα > 0} ⊂ + aG,∗
cα α | cα ≥ 0} ⊂ a∗M
P := {
α∈∆P
α∈∆P
で定める。
(1.6) 例. 3変数準分裂ユニタリ群. 標記の群は, F 上で分裂しない準分裂簡約代数群
のもっとも簡単な例である。この場合に, 上で述べたことを具体的に見てみる。κ ∈ F ×
をひとつ取って固定する。E を F の2次拡大として, その Galois 群 Gal(E/F ) の生成
元の作用を
 E ∋ x→ x¯ ∈ E で表す。3変数準分裂ユニタリ群 G ≡ U2,1 = U (H(κ)),
1


H(κ) =  κ  を, F 上の代数群であって, 付随する共変函手が
1
{
}
G : (F -代数) ∋ A → g ∈ M (3, A ⊗F E) | t g¯H(κ)g = H(κ) ∈ (群)
であるものとして定義する。ここで, Gal(E/F ) の生成元の A ⊗F E への自然な拡張をや
はり ¯· で表している。G は F 上準分裂な簡約代数群であり, これを3変数準分裂ユニタリ
群 (quasi-split unitary group of three variables) と呼ぼう。G の中心は
(1)
Z := {tI3 | tt¯ = 1}(∼
= ResE/F Gm)
であり, その F -split component AG は自明である:AG = {1}。G に含まれる極大 F -分裂
トーラス A0 として,
A0 := {diag(t, 1, t−1 ) | t ∈ Gm}
を取る。すると, A0 の G における中心化群 M0 は
(1)
M0 = {diag(t, x, t¯−1 ) | t ∈ ResE/F Gm, x ∈ ResE/F Gm}
であることが容易に確かめられる。また, M0 は可換代数群であり, その極大 F -分裂トー
ラス AM0 は A0 に確かに一致することがわかる。G の M0 を含む放物型部分群の全体
F ≡ F (M0 ) は
F = {G, P, P },
P := {g ∈ G | g は上三角行列 }, P := {g ∈ G | g は下三角行列 },
で与えられる。また, このとき
L ≡ F (M0 ) = {G, M0 }
である。
指標 α ∈ X(M0 ) を α(diag(t, 1, t−1 )) = t で定めると, a∗M0 = a∗0 = Rα が成立し,
ΣM0 = {±α, ±2α} ⊃ ΣP = {α, 2α} ⊃ ∆P = {α}
+ G,∗
aP
= R≥0 α ⊃ + aG,∗
P = R>0 α
が成立する。ΣM0 は被約でないルート系 (BC1 型ルート系) をなすことに注意しよう。
3
§2 行列係数の遠方挙動と定数項
この節では, p 進体上の簡約代数群 G の認容表現 π の行列係数を導入し, その「P 方向」
の遠方での挙動が π の Jacquer 加群を用いて記述されることを説明する。遠方挙動から
G 上の定数項写像が構成されるので, それについても述べる。
(2.1) 行列係数(=行列成分). (π, V ≡ Vπ ) を G の(既約とは限らぬ)認容表現(=許
容表現=admissible representation)とする。(π ∨ , V ∨ ≡ Vπ∨ ) をその双対認容表現とする。
⟨ , ⟩ : V × V ∨ → C を標準的な G-不変なペアリングとし, 写像
V ⊗ V ∨ ∋ v ⊗ v ∨ → fv,v∨ (g) := ⟨π(g)v, v ∨ ⟩ ∈ C ∞ (G)
の像を A(π) ⊂ C ∞ (G) で表す。fv,v∨ (g) を π の行列係数と呼ぶ。また,(認容表現 π を走
∑
らせたとき, これらの生成する部分線形空間を A(G) := π A(π) と置く。
(2.2) Jacquet 加群と遠方挙動. P = M U ∈ F を semi-standard な放物型部分群とする。
G の認容表現 π の P に関する Jacquet 加群 (πP , VP ) は線形空間としては
VP = V /V (U ),
V (U ) :=
{有限和
∑
π(ui )vi − vi | ui ∈ U, vi ∈ V
}
i
で定義される。標準的な全射 V
の作用を
VP による v ∈ V の像を [v]P ∈ VP で表し, VP への M
πP (m)[v]P := δP (m)−1/2 [π(m)v]P ,
m∈M
で定義する。このとき, Jacquet 加群 (πP , VP ) もまた M の認容表現であることが示され
る ([Casselman, 3.3.1], 証明には後述の岩堀分解を用いる)。P の opposite 放物型部分群
P¯ = M U¯ ∈ F を使って VP¯∨ , [v ∨ ]P¯ ∈ VP¯∨ も同様に定める。
命題. ([Casselman, 4.2.3, 4.2.4 ]) M -不変なペアリング
⟨ , ⟩P : VP × VP¯∨ → C
で, 各 v ∈ V 及び v ∨ ∈ V ∨ に対して, ϵ = ϵ(v, v ∨ ) > 0 が存在して
⟨π(a)v, v ∨ ⟩ = δP (a)1/2 ⟨πP (a)[v]P , [v ∨ ]P¯ ⟩P
∀a ∈ A−
P (ϵ) := {a ∈ AM | |α(a)|F < ϵ (∀α ∈ ∆P )}
を満たすものが一意的に存在する。
4
証明の概略: G の開コンパクト部分群 K が P = M U ∈ F に関する岩堀分解 (Iwahori
factorization) を持つとは, UK− := U¯ ∩ K, MK := M ∩ K, UK+ := U ∩ K と置くとき, 掛算
写像
UK− × MK × UK+ ∋ (u− , m, u+ ) → u− mu+ ∈ K
が全単射となるときを言う。開コンパクト部分群からなる単位元の基本近傍系 {Kn }∞
n=0
−
+
で, 各 Kn が P に関する岩堀分解 Kn = UK
×
M
×
U
を持つものが存在することが
K
n
Kn
n
知られている ([Casselman, 1.4.4])。いま, 与えられた u ∈ VP に対して, 十分大きな n を
M
(VP )Mn は全射 ([Casselman, 3.3.3]) であり, また ϵ > 0
取れば, u ∈ VP Kn となる。V Kn
Kn
を十分小さく取ると, π(Kn aKn )V Kn は a ∈ A−
の部分空間となって,
P (ϵ) によらない V
しかも合成写像
π(chKn aKn )V Kn → V Kn
(VP )MKn
が同型写像になることが示せる。そこで, u ∈ VP のこの同型写像による逆像 v ∈ π(chKn aKn )V Kn
を u の “canonical lift”と呼ぶ。このとき
[π(chKn )π(a)v]P = δP (a)1/2 πP (a)u,
a ∈ A−
P (1)
が成立する。同様に u∨ ∈ VP¯∨ に対しても, その “canonical lift” v ∨ ∈ (V ∨ )Kn が定義
される。“canonical lift”はその名に反して Kn の選択による不定性があるが, ⟨v, v ∨ ⟩ は
一意に定まる(すなわち, 上述の不定性は吸収される)ことが示される。そこで pariring
⟨, ⟩P : VP × VP∨ → C が
⟨u, u∨ ⟩P := ⟨v, v ∨ ⟩
によって well-defined に定義される。こうして定義された pairing が M -不変であり, 所望
の性質を満たすことは比較的容易に示される。
✷
(2.3) 系 (定数項写像). ([Waldspurger, Proposition 1.6.2]) P = M U ∈ F とする。線形
写像 ΦP : A(G) → A(M ) で, (既約とは限らぬ)認容表現 (π, V ) に対して
ΦP (fv,v∨ )(m) = ⟨πP (m)[v]P , [v ∨ ]P¯ ⟩P
v ∈ V, v ∨ ∈ V ∨ , m ∈ M
を満たすような写像が一意的に存在する。これを ΦP (f ) = fP と書いて f の P に沿って
の定数項 (constant term) と呼ぶ。
証明の概略: π を G の認容表現とする。線形写像
Φπ,P : Vπ ⊗ Vπ → A(M )
を
v ⊗ v ∨ → fP,v,v∨ (m) := ⟨πP (m)[v]P , [v ∨ ]P¯ ⟩P ,
v ∈ V, v ∨ ∈ V ∨ , m ∈ M
で特徴づけられるものとして定義する。この線形写像が A(π) を factor することを示そう。
∑
∑有限和
fP,vi ,vi∨ (m) = 0 を示せばよい。m ∈ M
fvi ,vi∨ (g) = 0 ならば 有限和
そのためには, i
i
を固定する。上の命題 (2.2) から, ϵ = ϵ(m) > 0 が存在して
δP (ma)1/2 fP,vi ,vi∨ (ma) = fvi ,vi∨ (ma),
5
∀i, ∀a ∈ A−
P (ϵ)
が成立する。一方, [v] ∈ VP が適当な MKn で固定されることに注意すると, Jacquet 加群
の認容性から各 fP,vi ,vi∨ は AM -有限な関数であることがわかる。このことより
有限和
∑
fP,vi ,vi∨ (ma) =
有限和
∑
χ(a)Pχ (logM (a))
χ
i
という形に書ける (cf. [Waldspurger, p. 242])。ここで, Pχ は aM 上の多項式関数である。
∑有限和
すると, 仮定 i
fvi ,vi∨ (g) = 0 からこの左辺は A−
P (ϵ) 上でゼロとなる。したがって, 右
−
−
辺も AP (ϵ) 上でゼロとなるが, この形の関数は AP (ϵ) 上でゼロならば, AM 全体でゼロと
なる。以上より
有限和
∑
fP,vi ,vi∨ (ma) = 0, a ∈ AM
i
となるので, m ∈ M を任意に固定していたことに注意すれば結論を得る。
Φπ,P が A(π) を factor することが分かったので Φπ,P : A(π) → A(M ) が定義され, A(π)
上で所望の性質を持つことが分かった。
最後に, 与えられた f ∈ A(π) に対して, f ∈ A(π) 及び f ∈ A(π ′ ) なる二つの認容表現
π, π ′ があったとする。このとき, Φπ,P (f ) = Φπ′ ,P (f ) が成立することを示せば証明が終わ
る。π ′′ := π ⊕ π ′ と置けば A(π) ⊂ A(π ′′ ) かつ A(π ′ ) ⊂ A(π ′′ ) なのではじめから, π は π ′
の部分表現であるとしてよい。しかしその場合には, 示すべきことは上の構成より明らか
である。
✷
§3 二乗可積分表現と緩増加表現
まず, G の認容表現 π に対して, π の AG への制限から定まる exponent の集合 Exp(π) を
定義する。次に, 二乗可積分表現を導入し, さらに前節で説明した遠方挙動を用いてそれ
が Jacquet 加群の exponent を用いた条件で特徴づけられることを解説する。最後に, 緩増
加表現とその分類について証明なしに述べる。
(3.1) exponent とその実部. χ : AG → C× を AG の quasi-character (AG の1次元の
smooth 表現) 及び G の認容表現 (π, V ) に対して, 同時一般固有空間 Vχ を次で定義する。
Vχ := {v ∈ V | (π(a) − χ(a))N v = 0
(a ∈ AG ) for some N ≫ 0}.
このとき, V の認容性を使えば直和分解
V = ⊕χ V χ
を得る。π の exponent の集合 Exp(π) を
Exp(π) := {χ : AG → C× | Vχ ̸= {0}}
で定める。
6
quasi-character χ : AG → C× に対して, その実部 Re(χ) : AG → R×
+ を Re(χ)(a) :=
|χ(a)| で定める。自然な同型写像
×
a∗G ≡ X(AG ) ⊗Z R ∋ χ ⊗ t → [AG ∋ a → |χ(a)|tF ∈ R×
+ ] ∈ Hom連続 (AG , R+ )
を通じて Re(χ) ∈ a∗G と見なし,
Re(Exp(π)) := {Re(χ) | χ ∈ Exp(π)} ⊂ a∗G
とする。P = M U ∈ F とする。先に述べたように Jacquet 加群 (πP , VP ) は, M の認容表
現なので, Re(Exp(πP )) ⊂ a∗M が定義されることに注意しよう。
(3.2) 二乗可積分表現 (square-integrable representation). G の認容表現 (π, V ) が中
心指標 ω : Z(G) → C× を持つとは,
z ∈ Z(G), v ∈ V
π(z)v = ω(z)v
を満たすこととする。π が中心指標を持つとき, Exp(π) = {ω|AG } となる。
π が既約認容表現なら Schur の補題によって, 中心指標は存在する。
定義-命題. (cf. [Casselman 4.4.6]) (π, V ) を G の認容表現で, ユニタリな 中心指標 ω :
Z(G) → C(1) を持つものとする。
(1) π が二乗可積分表現であるとは, すべての v ∈ V, v ∨ ∈ V ∨ について,
|fv,v∨ (g)| ∈ L2 (Z\G)
であることを言う (AG \Z はコンパクトなので, L2 (AG \G) に属するといっても同じ)。
(2) この条件は, すべての P ∈ F に対して,
∗
Re(πP ) ∈ + aG,∗
P ⊂ aM
が成り立つことと同値である。
π が中心指標 ωπ を持つとき,
×
∼ ∗ ∼
Hom連続 (AG , R×
+ ) = aG = X(G) ⊗Z R ⊂ Hom連続 (G, R+ )
を通じて, Re(ωπ |AG ) を G の quasi-character と見なすとき, これで twist した表現 π ⊗
Re(ωπ |AG )−1 はユニタリな中心指標を持つことに注意する。
証明の概略: 具体化の為, (1.6) で導入した 3 変数準分裂ユニタリ群 G = U2,1 を例にとって
⊕3
説明する。簡単のため, OE
⊂ E 3 が H(κ) に関して極大な integral lattice であるとする。
このとき Cartan 分解


ϖF


G = ⊔m≥0 Kam K,
K = G ∩ GL(3, OE ), a := 
1

−1
ϖF
7
が成立する。ここで, ϖF ∈ F は F の一意化元である。与えられた v ∈ V, v ∨ ∈ V ∨ に対し
て, K の開正規部分群 K0 であって, v ∈ V K0 かつ v ∨ ∈ (V ∨ )K0 となるものが存在する。
すると, 有限個の元 γj , γ˜j ∈ K が存在して
∫
∑∫
2
|fv,v∨ (g)| dg =
|fv,v∨ (g)|2 dg
G
=
m≥0
∑ 有限和
∑ ∫
m≥0
K0
j
Kam K
|fγj v,˜γj v∨ (g)|2 dg
am K
0
となる。行列成分の遠方挙動 (2.2) から, 十分大きな m > 0 に対して,
γi v ∨ ]P¯ ⟩P
fγi v,˜γi v∨ (am ) = δP (am )⟨πP (am )[γi v]P , [˜
が成立する。これと, ある定数 c2 > c1 > 0 が存在して
c1 δP (am )−1 < vol(K0 am K0 ) < c2 δP (am )−1 ,
δP (a) = q −4
✷
が成立することから, 上で述べた二つの条件の同値性が従う。
(3.3) 緩増加表現 (tempered representation). 二乗可積分表現より広いユニタリ表現
のクラスとして緩増加表現がある。その定義を述べる。P0 = M0 U0 ∈ F を極小放物型部
分群とする。A0 -good maximal compact subgroup K を取ると, 岩澤分解 G = P0 K が成立
◦
するので, M0 の自明表現から誘導された放物型誘導表現 iG
P0 (C) は K-不変ベクトル ϕ (g)
を定数倍を除いて一つだけ持つ。ϕ◦ (1G ) = 1 と正規化しておく。iG
P0 (C) は自己双対で,
∫
⟨ϕ1 , ϕ2 ⟩ =
ϕ1 (k)ϕ2 (k)dk,
ϕ1 , ϕ2 ∈ iG
P0 (C)
K
は G-不変ペアリングを与える。このとき実数値関数 Ξ : G → R>0 (Ξ-関数などと呼ばれ
る)を
∫
∫
Ξ(g) := ⟨R(g)ϕ◦ , ϕ◦ ⟩ =
ϕ◦ (kg)ϕ◦ (k)dk =
K
ϕ◦ (kg)dk
K
で定める。すると緩増加表現の定義は次のように述べられる。
定義-命題. (cf. [Waldspurger III.2.2 ]) (π, V ) を G の認容表現で, ユニタリな 中心指標
ω : Z(G) → C(1) を持つものとする。
(1) π が緩増加 (tempered) であるとは, 任意の (v, v ∨ ) ∈ V × V ∨ に対して適当な定数
c = c(v, v ∨ ) > 0 及び r = r(v, v ∨ ) ∈ R が存在して
|fv,v∨ (g)| ≤ cΞ(g)(1 + log ||g||)r
g∈G
が成立することを言う。ここで, ||g|| > 0 は G の座標環 F [G] の生成系を用いて定義され
る g ∈ G 上の「高さ」である。
(2) この条件は, すべての P ∈ F に対して,
∗
Re(πP ) ∈ + aG,∗
P ⊂ aM
8
が成り立つことと同値である。
(3.4) 緩増加表現の分類. 既約緩増加表現の分類は, 次のように既約二乗可積分表現の分
類に帰着される。
命題 (緩増加表現の分類). (cf. [Waldspurger III.4.1 ])
(1) (π, V ) を G の 既約 認容表現で緩増加なものとする。このとき, P = M U ∈ F と
M ∈ L の既約二乗可積分表現 σ が存在して, π は放物型誘導表現 iG
P (σ) の直和因子とな
る。
(2) (P = M U, σ), (P ′ = M ′ U ′ , σ ′ ) が上の条件を満たすとき, Weyl 群の元 s ∈ W G ≡
W (A0 , G) = NG (A0 )/M0 が存在して, sM s−1 = M ′ , sσ ∼
= σ ′ が成立する。ここで,
(sσ)(m′ ) := σ(s−1 ms) である。
謝辞 世話人の原下秀士, 平賀郁, 今野拓也の3氏から、講演の準備及びこの原稿の作成に
関して数々の有益なご助言をいただきました。今回, このような講演の機会を与えてくだ
さったことと合わせて感謝いたします。
References
[Casselman] Casselamn, W, Introduction to the theory of admissible representations of p-adic reductive
groups, unpublished notes.
[Hiraga] Hiraga, K, 一般の p 進簡約群の表現論への導入, 2013 年度整数論サマースクール講演レジュメ,
http://knmac.math.kyushu-u.ac.jp/konno/modules/SS2013/ より入手可能.
[Kon-no1] Kon-no, T, Waldspurger による p 進簡約群の Plancherel 公式の構成, 数理解析研究所講究録
1321, 17–42.
[Kon-no2] Kon-no, T, p 進簡約群の構造, these proceedings.
[Waldspurger] Waldspurger, J.-L, La formule de Plancherel pour les groupes p -adiques (d’apr´es
Harish-Chandra), J. Inst. Math. Jussieu, 2(2):235―333, 2003.
Department of Mathematics, Graduate School of Science, Osaka University, Machikaneyamacho 1-1, Toyonaka, Osaka, 560-0043, Japan
E-mail address: moriyama[at]math.sci.osaka-u.ac.jp
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