巻頭エッセイ ﹁市民もサプライズする映画の街﹂ 文月 斉(ふみつき さい) 埼玉県出身。 人と街、自然と文化を題材に、 みちくさばかりの旅を続ける エッセイスト。 函館、埼玉、大阪を拠点に 旅を満喫中。 第337号 2 は こ だ て 法人ニュース 平成26年12月 1 日 前略、変わりはないか? 街路樹のイルミネーションも輝きだし、今年も最後の月になったね。初雪も降り、 天気予報の週間予報を見ても雪のマークが目につくようになって、函館の街が幻想的 な雰囲気に包まれる季節が始まった。 。そんな理由で旅先の候補地から外されがちだけど、 冬の北海道は雪しかないから … 函館に限って言えばまったくの濡れ衣だね。街を覆う雪に、街灯やイルミネーション の灯りが映り込み、百万ドルの夜景と謳われた函館の街は、千万ドルの灯りに包まれる。 ただでさえ非日常的な雰囲気を放つ街並みが、一段と幻想的になる季節。それがこの 時期の函館なんだ。 そんな函館の街で開催される映画祭﹁函館港イルミナシオン映画祭﹂が今年で 回 目を迎える。函館に所縁のあるたった3人の熱い思いから始まった映画祭なんだけど、 当初は﹁函館山ロープウェイ映画祭﹂として3本の映画上映から始まった映画祭は、 今や超短編合わせて 作を超える映画を上映する規模にまで育っているんだ。3回目 の映画祭からはシナリオ大賞も設けられ、これまでに 本以上の作品が映画化。映画 好きの間では、﹁映画を作る映画祭﹂として知られているんだよ。 年々盛り上がる映画祭に触発されたのか、函館市では市内近郊での映画撮影を支援 する﹁はこだてフィルムコミッション﹂を設立。ロケ地の情報提供やエキストラ募集 の手伝い、道路や施設を使用する際のサポートなどを行っているんだ。もともと映画 やドラマなどの撮影地として利用されることの多かった函館だけど、2003年の設 立後もちょこちょこと撮影隊が訪れていてね、エキストラに登録したとか、あの映画 に台詞つきで出演したなんて話をちょいちょい耳にするよ。 面白いのは、撮影隊が来ると一夜にして街の中に新たな〝名所〟が出現するんだ。 昨日まではテナント募集の看板が出ていたカフェの跡地が物語の舞台となる食堂に なっていたり、町名や路面電車の駅名が付け替えられたりと、日常の中に現れた非日 常のおかげで、自分が映画の中の世界に迷い込んだような錯覚を覚えるんだ。 先月まで行われていた映画の撮影もそうだったなぁ。古いタバコ屋さんが時計屋さ んになっていたり、君も何度か訪れたことのある工芸品のセレクトショップが映画館 と、そんなこと になっていたり、実際にここにこんな店があったらどうなるだろう … を考えながら街を歩いていると、以前からあったお店でさえ、現実のお店なのか撮影 用のセットなのか分からなくなってくるんだ。ほら、よくSF小説にでてくるパラレ ルワールド 現実の世界によく似た並行世界 に足を踏み入れてしまったんじゃ ないかって妄想さえ湧いてくるんだ。この世界では僕は某国の特命を受けた諜報部員 だ と か、戦 時 中 に 函 館 山 の 山 麓 に 隠 さ れ た と い う 金 塊 を 探 し 出 す た め に 来 た ト レ 。ははは、それは﹃居酒屋 ジャーハンターだとか、居酒屋を営む無口な店主だとか … 兆次﹄を演じた高倉健さんの役だったね。どうやら映画の見すぎだな。 そういえば、先日天国に旅たたれた映画俳優の高倉健さんも、撮影でこの街を度々 訪れていたんだよね。追悼番組で見た映画の中で見慣れた函館の町並みを見たせいか、 その先の角を曲がれば健さんがいるような気がしてくるんだ。いけない、いけない、 こりゃやっぱり映画の見すぎだな。映画祭を始めた3人のうちの一人が経営する茶店 バー﹁やまじょう﹂でコーヒーでも飲んで、現実の世界に戻るとしよう。健さんが一 度飲んでみたいと言った、やまじょうのコーヒーをね。それじゃあまた。 30 10 20
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