はこだて旅だより「今日もぷらぷら」

巻頭エッセイ
﹁超特急の﹂
前略、変わりはないか?
秋だね∼、なんて言うにはまだ早いくらい君の住む街はまだまだ暑い日が続いてい
るのだろうね。こちら函館は日中こそ暑いけど空はすっかりと秋空。日もずいぶん短
くなって、夕方に家の前で涼んでいれば、肌寒さを覚えるよ。函館は夏が短い分、季
節の移ろいを早く感じる街だけど、気がつけば、北海道新幹線が開業してから早くも
半年が経とうとしているんだね。開業までの時間が長かったこともあって、今日まで
の時間がとても早かったなぁって感じるよ。ゴールデンウィークと夏のお盆休み、二
大観光シーズンを無事に乗り切って、関係者のみなさんもさぞかしほっとしているこ
とだろうね。
北海道新幹線の登場で観光客も増えたでしょう、なんて旅人に聞かれることがある
けど、街の様子を見る限り、確かに昨年より人が多いような気がするね。ただ、東京
や大阪からのお客さんはほとんどが飛行機を利用しているみたいだし、外国人旅行者
も飛行機で来る人がほとんど。夕涼みをしながら観光客に話しかけたりしてみるのだ
けど、どうやら東北地方からのお客さんが新幹線を利用して函館に来ているケースが
多いみたいだね。理由を聞くと、移動時間の大幅な短縮が一番の要因みたいだ。
ほら、昭和 年に青函トンネルができるまでは、青森と函館の間は連絡線で約4時
間かかっていたわけでしょ。それが、トンネルの開通で約2時間にまで短縮され、さ
らに今回の新幹線で約1時間にまで短縮された。東北の小中学校の中には修学旅行で
函館を訪れる学校が多くて、連絡線世代の人たちにとっては﹁4時間が1時間になっ
たのだから行かなきゃ!﹂と、旅心に火が点くそうだよ。わかるなぁ、その気持ち。
これまであった﹁お得な切符﹂が廃止され、料金が割高になることから、津軽海峡
を挟んでの交流が縮小するのではと心配する声もあったけど、旅人の話を聞くかぎり、
新幹線が開通したからこそ函館に遊びに来たという人がいる。しかも、数十年ぶりに
函館を訪れたとなれば、これはもう立派な新幹線効果だね。
そんな〝久方ぶりの函館組〟を意識したのか、この春から青森や函館を取り上げた
旅行雑誌や本が何種類も刊行されている。その中のひとつに、青森県と函館にあるク
ラフトや建築、おいしいものなどをまとめた書籍﹃青森・函館めぐり﹄という本があ
るんだけど、先日、元町の﹁まるたまスクエア﹂というカフェ&イベントスペースで、
その本にまつわる写真展とトークイベントが行われたんだ。当日は著者の江澤香織さ
んと写真家の川しまゆうこさんが来函してね、青森で出会ったという美味しいお酒や、
津軽地方の郷土料理を伝承する﹁津軽あかつきの会﹂という会からお取り寄せした料
理を振る舞ってくれたんだ。ミズという山菜と小女子、山椒の実をなめろう風にした
料理や、キュウリを塩と麹とお米で漬けた辛子漬け、ササゲを青なんばんと味噌で炒
めた一品など、どれも日本酒にピッタリのものばかり。さすがに通好みの酒蔵のある
青森県だね、一口食べてグビッとやる度に食文化の深さを感じたよ。
また自分ばかり食べてずるいって? まあ、まあ。この本を読めば美味しいものの
情報とかがいっぱい載っているから、これぞというものを取り寄せたらいいよ。え、
面倒くさい? それなら新幹線に乗って直接青森に行くといい。僕もあの味が忘れら
れないので、どこかで合流するとしよう。ああ、わかってるって、本に載っている函
館の美味しいものも持ってこいっていうんだろ。リュックいっぱいに詰め込んでいく
から覚悟しなよ。それじゃあまた。
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第356号 2
は こ だ て
法人ニュース
平成28年 9 月 1 日
文月 斉(ふみつき さい)
埼玉県出身。
人と街、自然と文化を題材に、
みちくさばかりの旅を続ける
エッセイスト。
函館、埼玉、大阪を拠点に
旅を満喫中。