November 28, 2014 1. 1. ベトナムの法人税改正からみる今後のトレンド 2. インド新会社法 ― 居住者取締役選任を義務付け ベトナムの法人税改正からみる今後のトレンド はじめに ベトナムの法律は法人税に限らず、改正が頻繁に行われ、かつ、抽象的な表現が多く含まれるため、実務での 判断に困ることが多々ある。また、実行時に合法とされていたものが、事後に定められた法律により違法とさ れることがあり、法の不訴求が満たされないケースも存在する。そのため、ベトナム税法の改正については、 単純に改正がある、というだけではなく、ベトナムの税制度はどのような方向に進んでいくのかということも 合わせて検討されたい。そこで本稿では、現状のベトナムの法人税での取扱と比較しつつ、2014 年に発行さ れた Circular78/2014/TT-BTC を中心に解説する。 課税所得 ● 不動産譲渡、投資プロジェクトの譲渡、および投資プロジェクトの参加権(天然資源の調査および開発に 関する事業を除く)の譲渡により生じた損失は、現行法では相殺は認められていなかったが、相殺可能と なった。 ● 従来、規定はなかったが、銀行送金ではなく、現金手渡し若しくは相殺取引で 2,000 万 VND 以上の資本 譲渡については、移転価格対象として税務局が推定課税する権限を有することが明記された。 損金算入費用 ● 従来、規定はなかったが、Circular78 が適用される 2014 年 8 月 2 日以降に支払が生じる 2,000 万 VND(税 込)以上の費用については、銀行送金の証憑等が必要となる。 ● これまで主要な原材料について登録を求められていた原材料の標準消費量については提出不要となった。 今後は企業での管理のみとなる。 ● 未払給与について、損金処理をするためには 12 ヶ月以内に支払い、つまり期中で解消されればよいとさ れていたが、2014 年より 6 ヶ月以内に解消されなければならないこととなった。 ● 外国人駐在員の子供の学費について、一定の書類等の保管要件で小学校から高校までの費用を対象に損金 算入の対象とされていたが、幼稚園の費用も対象となった。 ● 旅費について、飛行機の半券が損金算入要件とされていたが、電子チケットなどで発行されない場合には 1 不要とされた。ただし、電子チケット等の書類の保管は求められる。 ● 従来、規定はなかったが、売上 1 億 VND 以下(農産物、手工芸品、および廃棄物等の収入を除く)の家 族経営者や個人事業者が、商品の購入若しくは役務の提供を受ける場合に、インボイスに代わって商品お よび役務のリストを記載した Form を使用することが可能となった。 ● 企業が任意の退職年金基金(現状、損金不算入)、社会保険の基金、生命保険(現状、損金算入の限度な し)の支払をする場合に、従業員一人に対して月額 100 万 VND までを損金算入とする。 ● 広告宣伝費、交際費の損金算入限度額が、損金算入費用の総額に対して設立から 3 年は 15%、その後 10% とされていたものが、一律 15%となった。加えて、取引先への贈答品費用も交際費に含まれるものとし て、明記された。 ● 従業員に対する福利厚生費(社員旅行や研修費など)について、一定の書類を保管することで、年度内の 給与の 1 ヶ月平均の額を限度として損金算入可能となった。 その他 ● 現状 25%の法人税率は、2014 年 1 月 1 日以降 22%、2016 年 1 月 1 日以降 20%となる。12 月決算以外の 場合には、2013 年 12 月までの所得に対して 25%の税率を適用し、2014 年 1 月以降の所得に対しては 22% の税率が適用される。 ● 2014 年 11 月から四半期の申告は不要となり、四半期の見込納税が求められる。つまり 2014 年 12 月の四 半期申告は不要となる(12 月決算であれば確定申告のみとなる)。当該見込額が確定額の 80%に満たな い場合、残額の 20%以上の部分について、年利約 25%の延滞税が第4四半期の納期限後から課される。 そのため、見込額の計算について、Circular 上は前期の金額に当期の見込分を加算して計算するとあるが、 延滞税の発生を防ぐためには、当期の見込金額が年税額の 80%を超える額になるように計算することに なると考えられる。 ● 優遇税制については、Circular78/2014/TT-BTC および Circular151/2014/TT-BTC において、新規投資プ ロジェクト、経済状況など有利ではない地域の工業団地内での税額の免除や減額など新たな優遇税制が盛 り込まれている。 おわりに 上記の通り、今回の改正では書類保存を厳格なものとする一方で、手続の簡略化や損金算入範囲を拡大するも のが多く見られる。また税率も下がる方向にあるため、税収が減少することは明らかと予測される。 「はじめに」でも触れたが、抽象的な法律が多く、担当官の解釈の幅が広く設けられているため、今回の改正 により減少した分の税収を、税務調査によって厳しく追徴されるトレンドになっていくものと考えられる。 上記の解説には Circular78/2014/TT-BTC 以後に発行された Decree などの要素も加えたが、引き続き追加の 詳細を確認しながら、実務対応をして税務調査で追徴とならないよう注意されたい。 記事提供:I-GLOCAL CO.,LTD. 福本直樹 I-GLOCAL:ベトナムで日系資本初、最大規模を誇る会計事務所系コンサルティンググループ。 会社設立から設立後の会計税務、人事労務、採用支援、監査までワンストップで支援する。 (2014 年 11 月 3 日作成) 2 2. インド新会社法 ― 居住者取締役選任を義務付け 概要 2013 年インド会社法(Companies Act, 2013:以下、新会社法)は、企業のコンプライアンスを高いレベル に引き上げることを目的としており、全ての会社に適用される要件として、居住者取締役(resident director) を選任することが定められた。本稿では、居住者取締役選任の義務について説明する。 1. はじめに 2013 年インド会社法(Companies Act, 2013:以下、新会社法)は、実業界で定着している慣行の変化を取り 入れており、新たな出発点を示すものとなった。新会社法は、企業のコンプライアンスをその字義においても 精神においても高いレベルに引き上げることを目的としている。優れたコーポレートガバナンス(企業統治) を確保する責任は、主に会社の取締役に課せられている。新会社法では、条件により、会社は社外取締役を任 命することや、取締役会に女性取締役を含むことが義務付けられているが、全ての会社に適用される要件とし て、居住者取締役(resident director)を選任することが定められた。 居住者取締役とは? 新会社法第 149 条第 3 項では「全ての会社は、前暦年に 182 日以上インドに滞在した取締役を少なくとも 1 人選任しなければならない」と規定している。言い換えると、前暦年において合計 182 日以上インドに滞在し ている取締役がいれば、新会社法第 149 条第 3 項の要件は満たされることになる。ここでの暦年とは毎年 1 月 1 日に始まり同年 12 月 31 日に終了する期間をいい、前暦年とはこれに従って解釈される。 上記の条文だけを考慮すると、会社のコンプライアンスに責任を負う担当者は、多くの疑問を持つことだろう。 第一に、いつからこの条項へのコンプライアンスを開始しなければならないのか? 第二に、現会計年度中に インドへ来る外国人の場合はどうなるのか? 第三に、新条項すなわち第 149 条第 3 項が施行された後にイン ドで設立される会社の場合はどうなるのか? インド企業省による説明 上記条項の解釈が困難であることを考慮し、インド企業省(Ministry of Corporate Affairs:MCA)は、新会社 法第 149 条第 3 項におけるコンプライアンスの確保に責任を負う関係者の疑問を解消するため、通達を発行し た。 企業省は、居住日数の要件は、新会社法第 149 条第 3 項の施行日、すなわち 2014 年 4 月 1 日に発効すると説 明した。つまり、新会社法第 149 条第 3 項のコンプライアンスにおいて考慮される最初の「前暦年」は 2014 年の残りの期間、すなわち 2014 年 4 月 1 日から同年 12 月 31 日の期間を指す。2014 年の残りの期間は 9 カ月 しかないため、取締役がインドに滞在していなければならない日数は、これに比例して 182 日から 136 日に短 縮される。つまり、2014 年 4 月 1 日から同年 12 月 31 日の期間中に 136 日以上インドに滞在している取締役 は、前述の居住者の要件に従っているとされ、こうした取締役を選任している会社は、新会社法第 149 条第 3 項を順守していると見なされる。 3 企業省は、2014 年 4 月 1 日から同年 9 月 30 日の期間に設立された会社については、会社設立の日、または会 社設立から 6 カ月以内に居住者取締役を選任しなければならないと説明した。これは、2014 年 4 月 1 日から 同年 9 月 30 日の期間に設立された全ての会社は、居住者取締役の選任に 6 カ月間の猶予が与えられることを 意味している。例えば、2014 年 9 月 30 日(またはそれ以前でかつ 2014 年 4 月 1 日以降)に設立された会社 は、会社設立の日から 6 カ月以内に居住者取締役を選任する必要がある。2014 年 9 月 30 日より後に設立され る会社は、会社設立の日に居住者取締役を選任しなければならない。 新会社法第 149 条第 3 項の規定に従わなかった場合、会社および規定の不履行に責任を負う役員全員に、5 万 ルピー以上 50 万ルピー以下の罰金が科せられる。 結論 本条項および新会社法の意図は明確であり、外国会社の子会社であろうとなかろうと、 (インドで設立された) 会社の活動に責任を負う取締役レベルの居住者をインド国内に置くことが求められる。居住者取締役は、新会 社法の諸条項のコンプライアンスを確保しなければならず、コンプライアンス違反があった場合にはその責任 を負わなければならない。 *********************************************** 「本稿は、上記のテーマに関し理解を得る目的に限定して提供することを意図するものであり、その他の目的 のために参考とすべきではない。従ってドゥア・アソシエイツは、本稿を使用することによって発生する経済 的な損失、損害についていかなる者に対しても責任もしくは債務を負うものではない。」 ドゥア法律事務所/コンサルティング ドゥア法律事務所/コンサルティングは、デリー、グルガオン、チェンナイ、ムンバイ、プーネ、バンガ ロールに事務所を構える弁護士事務所です。 (2014 年 8 月 12 日作成) 4 (編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部 (照会先) 北村 広明 (e-mail): [email protected] ・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。 本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実 行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。 ・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。 ・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の 適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。 ・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部 について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。 ・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。 5
© Copyright 2024 ExpyDoc