Title I-123 MIBG : 定量値の標準化から予後評価まで Author(s) 中嶋, 憲一 Citation 核医学画像診断 = Imaging diagnosis in nuclear medicine, 29(1): 33-39 Issue Date 2014-11-30 Type Departmental Bulletin Paper Text version publisher URL http://hdl.handle.net/2297/40123 Right *KURAに登録されているコンテンツの著作権は,執筆者,出版社(学協会)などが有します。 *KURAに登録されているコンテンツの利用については,著作権法に規定されている私的使用や引用などの範囲内で行ってください。 *著作権法に規定されている私的使用や引用などの範囲を超える利用を行う場合には,著作権者の許諾を得てください。ただし,著作権者 から著作権等管理事業者(学術著作権協会,日本著作出版権管理システムなど)に権利委託されているコンテンツの利用手続については ,各著作権等管理事業者に確認してください。 http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/ I-123 MIBG:定量値の標準化から予後評価まで 金沢大学・核医学 中 嶋 憲 一 要旨 123I- メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)による心・縦隔比(H/M 比)の定 量は簡便でありながら,心不全領域においてもレヴィー小体病においても多くの診 I-123 MIBG:定量値の標準化から予後評価まで 断の基準となってきた定量方法である。一方,H/M 金沢大学・核医学 中嶋憲一 比の算出においては施設間で ! 収集条件により差が出るために,別施設と自施設の比較や多施設研究における利用 要旨 の障害となってきた。この総説では,その H/M 比の標準化をどのように行うのか, 123I-メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)による心・縦隔比(H/M比)の定量は 簡便でありながら、心不全領域においてもレヴィー小体病においても多くの診断の 次いで標準化した後にそれをどのように神経学では診断に,心臓では予後評価に, 基準となってきた定量方法である。一方、H/M比の算出においては施設間で収集条 結びつけるのかについて解説する。 件により差が出るために、別施設と自施設の比較や多施設研究における利用の障害 なお,本稿は 2013 年 11 月 30 日に施行された北陸核医学カンファレンスでの講 となってきた。この総説では、そのH/M比の標準化をどのように行うのか、次いで 標準化した後にそれをどのように神経学では診断に、心臓では予後評価に、結びつ 演内容に加筆したものである。 けるのかについて解説する。 なお、本稿は2013年11月30日に施行された北陸核医学カンファレンスでの講演内 H/M 比の標準化の方法 容に加筆したものである。 ! H/M 比の標準化には複数の提案があるが,筆者らは施設間の比較が容易な較正 H/M比の標準化の方法 ファントム法を提案している。このファントムの仕様についてはすでに記載の通り H/M比の標準化には複数の提案があるが、筆者らは施設間の比較が容易な較正ファ ントム法を提案している。このファントムの仕様についてはすでに記載の通りであ 比を測定し,二条件の相関を である1)。また,このファントム実験を用いて,H/M る[1]。また、このファントム実験を用いて、H/M比を測定し、二条件の相関を求め 2) 求めて,臨床例に応用する方法についても既に報告した(図 て、臨床例に応用する方法についても既に報告した(図1)[2]。 1)。 ! ! 図1 較正ファントムによるLEとMEの条件でのH/M比の変換(文献2参照) ─ 33 ─ ! 図 1 較正ファントムによる LE と ME コリメータの条件での H/M 比の変換(文献 2 参照) レヴィー小体病への応用 アルツハイマー病(AD)とレヴィー小体型認知症(DLB)を対象に,両者を鑑 レヴィー小体病への応用 別する診断能に関する多施設研究(金沢大学神経内科・山田正仁先生を中心に実施 アルツハイマー病(AD)とレヴィー小体型認知症(DLB)を対象に、両者を鑑別 中)においてその初期データを評価すると,補正前にも 2 群間に有意差はあるもの する診断能に関する多施設研究(金沢大学神経内科・山田正仁先生を中心に実施中) においてその初期データを評価すると、補正前にも2群間に有意差はあるものの、 の,補正後には低エネルギー用(LE)コリメータと,中エネルギー(ME)あるい 補正後には低エネルギー用(LE)コリメータと、中エネルギー(ME)あるいは低 は低中エネルギー用(LME)コリメータで,類似の分布になっていることがわか 中エネルギー用(LME)コリメータで、類似の分布になっていることがわかる(図 る(図 2) 。この研究では,LE コリメータの条件を ME コリメータの条件に補正す 2)。この研究では、LEコリメータの条件をMEコリメータの条件に補正する計算 る計算を行っているが,複数の施設のデータを統合するような研究計画においては を行っているが、複数の施設のデータを統合するような研究計画においては一定条 一定条件への変換が不可欠である。図 2 の分布から見ると,AD と DLB の鑑別の 件への変換が不可欠である。図2の分布から見ると、ADとDLBの鑑別のためには、 ためには,H/M 比= 2.0-2.2 がその両者を分離する値となっていることがわかる。 H/M比=2.0-2.2がその両者を分離する値となっていることがわかる。 !図 2 アルツハイマー病(AD)とレヴィー小体型認知症(DLB)における H/M 比の分布。LE ! コリメータの H/M 比を青,ME コリメータの H/M 比を赤で示す。LE から ME コリメータ 条件への変換により異なるコリメータの H/M 比は類似の分布となる。 図2 アルツハイマー病(AD)とレヴィー小体型認知症(DLB)におけるH/M比の 分布。LEコリメータのH/M比を青、MEコリメータのH/M比を赤でします。LEから MEコリメータ条件への変換により異なるコリメータのH/M比は類似の分布となる。 心不全領域への応用 ! 心臓領域では心不全の予後に関して利用されることが多く日本循環器学会の心臓 心不全領域への応用 核医学に関連するガイドラインの中でも MIBG の予後推定が有用と見なされてい 心臓領域では心不全の予後に関して利用されることが多く日本循環器学会の心臓 核医学に関連するガイドラインの中でもMIBGの予後推定が有用と見なされている。 る。国内では 1992 年から MIBG の臨床利用が始まっており,国内の死亡をエンド 国内では1992年からMIBGの臨床利用が始まっており、国内の死亡をエンドポイン ポイントとした研究の中から,その予後データをプールして調査を行った研究がま トとした研究の中から、その予後データをプールして調査を行った研究がまとめら とめられた3)。この研究では,123I-MIBG を用いた日本での予後評価 6 研究から 1322 123I-MIBGを用いた日本での予後評価6研究から1322例が れた[3]。この研究では、 例が登録され,国際的にも最大数で最長期間の予後データとなった。統計解析の結 登録され、国際的にも最大数で最長期間の予後データとなった。統計解析の結果、 果,MIBG は心不全の予後を左右する重要な因子となることが確認された。多変量 MIBGは心不全の予後を左右する重要な因子となることが確認された。多変量比例 ─ 34 ─ ハザード解析によれば、全死亡を規定する因子としては、年齢、New York Heart 比例ハザード解析によれば,全死亡を規定する因子としては,年齢,New York Heart Association 心機能分類(心不全重症度),左室駆出分画(EF),そして後期 H/M 比(HMR)が有意の予後規定因子であった(図 3)。 Association心機能分類(心不全重症度)、左室駆出分画(EF)、そして後期H/M このデータを元にして,5 年間の予後が確定している 993 症例に対して多変量ロ 比(HMR)が有意の予後規定因子であった(図3)。 ジスティック解析を行ったところ,上記の 4 変数に性別を加えた 5 変数が心死亡を このデータを元にして、5年間の予後が確定している993症例に対して多変量ロジ 規定する因子であることが判明した。この 5 変数モデルによる死亡率のノモグラム スティック解析を行ったところ、上記の4変数に性別を加えた5変数が心死亡を規 を(図 4)に示す。このモデルを公開した Eur J Nucl Med Mol Imaging(2014)の 定する因子であることが判明した。この5変数モデルによる死亡率のノモグラムを ウェブサイトからは,全年齢のノモグラムがダウンロードできるのでご参照頂きた 図4に示す。このモデルを公開したEur J Nucl Med Mol Imaging(2014)のウェ い(http://link.springer.com/article/10.1007% 2Fs00259-014-2759-x)。 ブサイトからは、全年齢のノモグラムがダウンロードできるのでご参照頂きたい さらに計算を簡便にするために,この 5 変数による死亡率予測モデルをソフト (http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00259-014-2759-x)。 さらに計算を簡便にするために、この5変数による死亡率予測モデルをソフトウェ ウェア化した。従来の半自動関心領域設定ソフトウェア,smartMIBG に心不全の ア化した。従来の半自動関心領域設定ソフトウェア、smartMIBGに心不全の予後推 予後推定のためのモデルを組み込んで,H/M 比の算出と同時に,その MIBG 画像 定のためのモデルを組み込んで、H/M比の算出と同時に、そのMIBG画像の定量値 の定量値が意味するリスクを表示できるようにした。現在,smartMIBG-HF ソフト が意味するリスクを表示できるようにした。現在、smartMIBG-HFソフトウェアと ウェアとして公開準備中である。 して公開準備中である。 !図 3 国内の心不全プールデータからの全死亡に関する解析結果(文献 3 を参照)。左上:H/M ! 比(HMR)1.7 以上と未満の 2 群の比較,右上:虚血性と非虚血性の 2 群の比較,左下: 図3 国内の心不全プールデータからの全死亡に関する解析結果(文献3を参照)。 EF35%以上と未満の 2 群の比較,右下:NYHA 機能分類 I-II と III-IV の 2 群の比較。 左上:H/M比(HMR)1.7以上と未満の2群の比較、右上:虚血性と非虚血性の2 群の比較、左下:EF35%以上と未満の2群の比較、右下:NYHA機能分類I-IIとIII-IV の2群の比較。 ! ─ 35 ─ 図4 5変数に基づく5年死亡率算定のノモグラム。男性における計算例を示す(文 図 4 5 変数に基づく 5 年死亡率算定のノモグラム。男性における 50, 60, 70, 80歳での計算例を 献4を参照)。縦軸はリスクモデルによる5年の予測死亡率、横軸はH/M比 示す(文献 4 を参照)。縦軸はリスクモデルによる 5 年の予測死亡率, 横軸は H/M 比(HMR)。 (HMR)。 ! 標準化H/M比の提案 標準化 H/M 比の提案 多施設のファントム研究に基づいて、2条件のH/M比を変換することが可能であ ることを示してきたが、さらに広い適用を考えて、全施設のH/M比を共通のH/M比 多施設のファントム研究に基づいて,2 条件の H/M 比を変換することが可能で に変換することを提唱したい。この際に、筆者らは世界的に最も一般的に使われて あることを示してきたが,さらに広い適用を考えて,全施設の H/M 比を共通の H/ いるMEコリメータが適切と考えている。具体的には、各施設のH/M比を一旦、ファ M 比に変換することを提唱したい。この際に,筆者らは世界的に最も一般的に使 ントムの理論値(あるいは数学的計算値)に変換し、さらにその理論値から共通の われている ME コリメータが適切と考えている。具体的には,各施設の H/M 比を MEコリメータの条件に変換する(図5)。この方法では、各カメラ・コリメータの 一旦,ファントムの理論値(あるいは数学的計算値)に変換し,さらにその理論値 条件に1つの変換係数が求められるので、その値を利用するだけで、任意の条件に から共通の ME コリメータの条件に変換する(図 5)。この方法では,各カメラ・ 変換できる。この方法は自施設でのガンマカメラ更新時だけでなく、複数施設での コリメータの条件に 1 つの変換係数が求められるので,その値を利用するだけで, 標準化や、さらには世界的に用いられている様々なMIBGの収集条件からの較正にも 任意の条件に変換できる。この方法は自施設でのガンマカメラ更新時だけでなく, 利用できるであろう。 複数施設での標準化や,さらには世界的に用いられている様々な MIBG の収集条 ! !件からの較正にも利用できるであろう。 ! ! ─ 36 ─ 図 5 自施設の H/M 比(HMR)を共通の標準化 H/M 比に変換する考え方 図5 自施設のH/M比(HMR)を共通の標準化H/M比に変換する考え方 ! 本講演の後に,84 施設の 225 回のファントム実験の結果に基づいての結果がま とめられたので記載する5)。その結果は(図 6)に示すとおりであり,変換係数(K) 本講演の後に、84施設の225回のファントム実験の結果に基づいての結果がまと は大きく 8 グループに分けることができる。次いで,標準化する条件としては, められたので記載する[5]。その結果は図6に示すとおりであり、変換係数(K)は ME コリメータで汎用されている K = 0.88 を利用することにした。各施設の変換 大きく8グループに分けることができる。次いで、標準化する条件としては、MEコ 係数 Ki を算出後,施設の H/M 比を HMRi,標準化後の H/M 比を HMRstd とすれば, リメータで汎用されているK=0.88を利用することにした。各施設の変換係数K iを算 i-1) (HMR HMRstd-1 = Kstd/Ki × 出後、施設のH/M比をHMR i、標準化後のH/M比をHMRstdとすれば、 i, HMRstd)=(1,1) で計算できる。この変換のための直線回帰式は,常に(HMR HMR std-1=Kstd/Ki × (HMRi-1) を通るので,相互の変換は容易である。 で計算できる。この変換のための直線回帰式は、常に(HMR i, HMRstd)= (1,1)を 通るので、相互の変換は容易である。 ! 図6 種々のコリメータの条件における理論値(数学的計算によるH/M比)への変 図 6 種々のコリメータの条件における理論値(数学的計算による H/M 比)への変換係数(文 換係数値(文献5を参照)。 献 5 を参照) ! ! ─ 37 ─ 標準化H/M比による正常値 この標準化H/M比の計算を、日本核医学会ワーキンググループの心臓核医学標準 データベースに当てはめると、その正常境界値は以下のようになった。 このデータ ベースにはLEコリメータ、LMEコリメータが含まれるが、いずれもME(K=0.88) に変換してまとめたものである。早期、後期像ともにH/M比の下限値は2.2、洗い出 標準化 H/M 比による正常値 この標準化 H/M 比の計算を,日本核医学会ワーキンググループの心臓核医学標 準データベースに当てはめると,その正常境界値は以下のようになった。 このデー タベースには LE コリメータ,LME コリメータが含まれるが,いずれも ME(K = 0.88)に変換してまとめたものである。早期,後期像ともに H/M 比の下限値は 2.2, 洗い出し率(WR)の上限は 22%(バックグラウンドおよび早期後期間の時間減衰 はいずれも補正)である。 表 1 日本人の標準データベースによる標準化 H/M 比(n = 62) Mean Lower limit Upper limit H/M Ratio Early 3.1 2.2 4.0 H/M Ratio Late 3.3 2.2 4.4 Washout Rate(%) 13 0 34 謝辞および利益相反開示 本標準化にあたって,ファントム実験と変換係数の算出に多大な協力を頂いた奥 田光一氏(金沢医科大学・物理)に深謝します。なお,本研究は一部,日本核医学 会心臓核医学標準化ワーキンググループの活動として,また富士フイルム RI ファー マ社との共同研究として実施された。 参考文献 1) Nakajima K, Matsubara K, Ishikawa T, Motomura N, Maeda R, Akhter N, Okuda K, Taki J, Kinuya S. Correction of I-123-labeled metaiodobenzylguanidine uptake with multi-window methods for standardization of the heart to mediastinum ratio. J Nucl Cardiol 2007 ; 14 : 843-851 2) Nakajima K, Okuda K, Matsuo S, Yoshita M, Taki J, Yamada M, Kinuya S. Standardization of metaiodobenzylguanidine heart-to-mediastinum ratio using a calibration phantom : Effects of correction on normal databases and a multicenter study. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2012 ; 39 : 113-9 3) Nakata T, Nakajima K, Yamashina S, Yamada T, Momose M, Kasama S, Matsui T, Matsuo S, Travin MI, Jacobson AF. A pooled analysis of multicenter cohort studies of 123I-mIBG imaging of sympathetic innervation for assessment of long-term prognosis in heart failure. JACC Cardiovasc Imaging. 2013 ; 6 : 772-784 ─ 38 ─ 4) Nakajima K, Nakata T, Yamada T, Yamashina S, Momose M, Kasama S, Matsui T, Matsuo S, Travin MI, Jacobson AF. A prediction model for 5-year cardiac mortality in patients with chronic heart failure using 123I-metaiodobenzylguanidine imaging. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2014; 41: 1673-82 5) Nakajima K, Okuda K, Yoshimura M, Matsuo S, Wakabayashi H, Imanishi Y, Kinuya S. Multicenter cross-calibration of I-123 metaiodobenzylguanidine heart-to-mediastinum ratios to overcome camera-collimator variation. J Nucl Cardiol 2014; 21: 970-8 6) Slomka PJ, Mehta PK, Germano G, Berman DS. Quantification of I-123-metaiodobenzylguanidine heart-to-mediastinum ratios : Not so simple after all. J Nucl Cardiol 2014; 21: 979-83 ─ 39 ─
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