20 2014年12月9日 Journal Scan 2014 年 注目の4論文をピックアップ デング熱と診 断され(図1) ,ワクチンの有 効 率は 新興感染症の治療と予防 56.5% ( 95% CI 43.8 ∼ 66.4 ) 。重度の有害事象は 647例 〔ワクチン群 402 例 (62%) ,プラセボ群 245 例 ( EVD) ,サウジアラビアを中心と 2014 年は,日本ではデング熱,西アフリカではエボラウイルス病 (38%) 〕に認められ,投与後 28日以内での重篤な した中東では中東呼吸器症候群 (MERS) ,中国では鳥インフルエンザA/H7N9 のヒト感染など,幾 有害 事 象発生率は両群ともに1%(ワクチン群 54 つかの感染症の流行が大きな問題となった。これらの感染症に対して人類が持っている対策のオプシ 例, プラセボ群 33 例) だった。 ョンは限られている。ここでは東北大学大学院医学系研究科微生物学分野教授の押谷仁氏が選んだ, 薬剤やワクチンの開発に関する注目論文を,コメントとともに紹介する。 ウイルス性 SARI に対する回復期血漿・ 血清投与の死亡減少効果をレビュー 鳥インフルエンザワクチン 健康成人で免疫原性と安全性示す ラウイルスKikwit 株を使用した ZMappは,ELISA と中和抗体測定により西アフリカで流行している Bart SA, et al. Guinean 株と交 差 反 応性が 認められた。ZMapp 中国でヒト感染が拡大しつつある鳥インフルエン 2014; 6 (234) : 234ra55. 2014年7月16日オンライン版 は,これまで示されている他の治療法よりも効果が ザA/H7N9 ウイルスによるパンデミックが発生した 英国の研究グループが, ウイルス性重症急性呼吸 優れていることから,臨床応用に向けた開発を進め 場合に感染拡大を阻止するため,健康成人を対象 器感染症 ( SARI) に対する回復期血漿・血清,回復 る価値がある。 としたアジュバント (MF59)添加細胞培養 H7N9ワ Mair-Jenkins J, et al. 期血漿由来の高度免疫グロブリンの投与による臨 床的利益のエビデンスを,系統的レビューと探索的 メタアナリシスにより総合的に評価した。 2013 年7月に医療データベースを検索して得られ クチン (H7N9c) の第Ⅰ相試験を行った結果,同ワク チンは健康成人で免疫原性と安全性が示されたと 新規 4 価デングワクチンの 有効性と安全性を確認 米国の研究者らが報告した。 多施設で登録された 18∼64 歳の健康成人402 例がランダムに4群に割り付けられ,A∼C の3群 た記録について,プロトコル適格基準に基づき3段 Capeding MR, et al. 階のスクリーニングを行い,データを抽出,バイアス アジア太平洋地域5カ国で健康な小児を対象に, に は oil-in-waterアジュ バントMF59 を 添 加し た リスクを評価した。最終的に基準を満たした SARS デング熱に対する遺伝子組み換え4価弱毒生ワク HA 抗原量が異なるH7N9cを,D 群には最大用量 コロナウイルス感染症と重症インフルエンザの研究 チン (CYD-TDV) の第Ⅲ相試験を行った結果,有効 の 抗 原の みを 含 有 するアジュ バント無 添 加 の 32 件についてナラティブ分析を行った結果,発症早 性と安全性が証明された,とアジアを中心とした国 期の回復期血漿・血清投与により死亡が減少する 際的研究グループが報告した。 という一貫したエビデンスが得られた。探索的 post 2011年6月3日∼ 12月1日に2∼ 14 歳の健康な 評価した。その結果,MF59 添加 H7N9cでは43日 hocメタアナリシスでは,プラセボまたは無治療と比 小児1万 275 例をワクチン群 (6,851例)またはプラ 目に HI 抗体価が1:40 以上の患者の割合が抗原 較して回復期血漿・血清投与後の統合死亡オッズ セボ群 (3,424 例) にランダムに割り付け,ワクチン群 量依存的に増加したのに対し, アジュバント無添加 が 75 % 有 意 (オッズ 比 0.25,95%CI 0.14 ∼ 0.45, には CYD-TDVを3回 (0, 6,12カ月目) 接種し,25 H7N9cではほとんど増加しなかった (図 2 ) 。MN I =0%) に減少していた。質の高い研究がなく,適 カ月まで追跡した。同試験の主な目的は,重症度や 抗体価でも同様の結果が得られた。 切な文献が少なかったことから今回の分析には限 血清型にかかわらず, 3回目のワクチン接種後 28日 MF59 添加 H7N9c の2回接種後,A/H7N9ウイ 界があったが,発症早期の回復期血漿・血清投与 以降に発症しウイルス学的に確認されたデング熱の ルスに対して免疫がなかった対象者の多くで,有意 はウイルス性 SARIによる死亡を減少させる可能性 予防効果を評価することだった。主要エンドポイン な潜在的保護免疫反応が認められた。また,注射 が示唆された。今後はよくデザインされた臨床試験 トはワクチンの有効率 (95%CI 下限値) が 25%を超 部位の痛みの増強など軽度な副反応はあったが, の一部として,MERSコロナウイルス感染症などで えることとした。その結果,該当の期間に250 例〔ワ 3種のMF59 添加 H7N9c の全てで良好な忍容性 検討すべきである。 クチン群 117例 (47%) , プラセボ群 133 例 (53%) 〕 が が示された。 モノクローナル抗体カクテルZMappで エボラウイルス病アカゲザルを救命 2014; 514 (7520) : 47-53. エボラウイルスの感染5日目までに,3種のモノク ローナル抗体から成る抗体カクテル ZMappで治療 を開始したところ,EVDに感染させたアカゲザルを 100% 救命できたとカナダと米国の研究グループが 報告した。 ZMappによる治療前はこれらのサルで,高熱,ウ イルス血症,血球数や血液生化学検査値の異常が 顕著に認められた。また, 肝機能障害,粘膜出血, 全身性点状出血が認められる重症例でもZMapp により完全に回復させる可能性があるという。エボ 図1 3回目の接種後 28日以降にウイルス学的にデング熱と診断され なかった小児の割合 (Kaplan-Meier曲線) 90 ワクチン群 プラセボ群 80 0 図 2 ワクチン接 種 後 22日目と43日目の HI抗体価1:40以上の患者の割合 (%) 100 (%) 100 デング熱と診断されなかった 小児の割合 Qiu X, et al. H7N9cを3週間間隔で2回接種し,各接種3週間後 ( 22日目と43日目)にワクチンに対する抗体反応を 0 症例数 ワクチン群 6,848 プラセボ群 3,424 5 10 15 20 25 per protocol解析を開始してからの期間 6,779 3,368 6,678 3,272 6,616 3,200 ( Capeding MR, et al. 6,582 3,161 842 397 30(カ月) 0 0 H I 抗体価1:40 以上の患者の割合 2 2014年7月11日オンライン版 80 A:3.75μg HA + 0.125mL MF59 B:7.5μg HA + 0.25mL MF59 C:15μg HA + 0.25mL MF59 D:15μg HA no MF59 97 103 60 40 94 20 96103 97 102 102 0 2014 年7月11日オンライン版) 〔Bart SA, et al. 22日目 43日目 2014; 6( 234):234ra55〕 エビデンスは存在しない。 されていくことになる。 全く新しい感染症ではない,既知のエボラウイ ワクチン開発も進んでいる。デングウイルスに対 ルスなどの感染症に対してはモノクローナル抗体 するワクチンは長年開発が試みられてきたが,よう 東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野 教授 押谷 仁氏 製剤というオプションも可能である。モノクローナ やく臨床試験による有効性の検討がなされるよう ル抗体製剤の ZMapp は今回の西アフリカでの流 なワクチンが出てきている。世界的な大流行を起 行に際しても患者に使用されている。しかし, その こす可能性のあるA/H7N9などのインフルエンザ 2003 年 に発 生した 重 症 急 性 呼 吸 器 症 候 群 臨床での有効性についてはこれから検討されてい ウイルスに対するワクチン開発は喫緊の課題であ ( SARS) のような突発的な新たな感染症の出現に くことになる。このような回復期血清やモノクロー る。A/H7N9 に対するワクチンも臨床試験の結果 対しては薬やワクチンの開発は間に合わない可能 ナル抗体製剤の問題点としては短期間に大量生産 が出つつあるが,このウイルスに対しては抗体誘導 性が高い。このような新たな感染症の出現時に考 できないということが挙げられる。日本で開発さ ができにくいという問題もあり,アジュバントを含 えられる治療として患者の回復期血清投与があ れた RNAポリメラーゼ 阻害 薬のファビピラビル めてどのようなワクチンが最も有効なのかの検討 る。SARS の際にも回復期血清が使われ,その有 (アビガン) はエボラウイルス感染にも使用が開始さ 効性・安全性がある程度示されているが,明確な れているが,その有効性についてもこれから評価 se_p20_jscan.indd 20 プロセスシアンプロセスマゼンタ プロセスシアン プロセスマゼンタプロセスイエロー プロセスイエロープロセスブラック プロセスブラック はさらに必要である。 2014/11/28 16:52
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