INTERVIEW トルコの石油精製プロジェクトに バイヤーズ・クレジット プロジェクトファイナンスによる輸出支援 産業ファイナンス部門 産業投資・貿易部第2ユニット 植松 義裕 調査役、小林 祐馬 副調査役(当時)に聞く JBICは、2014 年5月、 トルコ共和国法人STAR RAF NER ANON M RKET(STAR) と、約291百万米ドル(JBIC分)限度のプ ロジェクトファイナンス(PF)によるバイヤーズ・クレジット (輸出 金融)の貸付契約を結びました。本融資は、 (株)三菱東京UFJ銀 行をはじめとする民間金融機関との協調融資(総額約485百万 米ドル相当) で、伊藤忠商事(株)が参画する共同事業体が一括 受注した石油精製プラントの設計・工務・調達・建設を行う資金 の一部をSTARに融資するものです。 JBICとして、 トルコにおける石油精製セクターでの初の輸出PF 案件であり、石油精製プラントは、2018年に完成の予定です。 受注獲得の側面支援として、 早期ファイナンス交渉 植松調査役 小林副調査役 トルコの石油精製 プロジェクトへの輸出PF 本プロジェクトは、アゼルバイジャン 共和国の石油・ガス公社(SOCAR) とア ゼルバイジャン経済産業省が出資する トルコ共和国法人STARが、 トルコのイ ズミール郊外に原油精製能力日量21万 4,000バレルの石油精製所を建設し、供 給過少の国内市場やSOCARのトルコ子 会社等に石油精製品を販売する事業。 伊藤忠商事(株)が参画する共同事業 体が石油精製プラントの設計・調達・建 設を一括受注したのを受けて、2014年5 月に、JBICは、資金の一部として、STARと 約291百万米ドル(JBIC分)限度のPFに よるバイヤーズ・クレジット (輸出金融) の貸付契約を結びました。本融資は、 (株)三菱東京UFJ銀行を幹事行に、 アイ エヌジーバンクエヌ・ヴイ東京支店、ク レディ・アグリコル銀行東京支店、ビー・ エヌ・ピー・パリバ銀行東京支店との協 調融資(協調融資総額約485百万米ドル 相当)で、民間金融機関融資部分には (独行) 日本貿易保険による保険が付保 されます。 なお、本プロジェクトは国際協調融資 案件であり、 スペイン輸出信用保険会社 (CESCE)、カナダ輸出開発公社(EDC)、 米国輸出入銀行(EXIM)、韓国貿易保険 公社(K-SURE)、イタリア外国貿易保険 株式会社(SACE)が参画しています。 今回のプロジェクトは、 アゼルバイジャン共和国の国 営石油公社State Oil Company of the Azerbaijan Republic(SOCAR) とアゼルバイジャン経済産業省が出 資するSTARが、 トルコのイズミール郊外に原油精製能 力日量21万4,000バレルの石油精製プラントを建設し、 主にSOCARの子会社であるPetkim Petrokimya Holdings 等のトルコの石油化学企業をはじめ国内供給 先に石油精製品を販売する事業です。 経済成長が続くトルコでは、ナフサ(ガソリン原料)、 ジェット燃料、ディーゼル油などの石油精製品の需要が 急拡大しています。 しかし、国内生産・供給が追い付かず、不 足分を輸入に頼っており貿易収支赤字の主因となっていま した。本プロジェクトを通じて、貿易収支と国内供給不足が 改善されることが期待されています。 「本プロジェクトの資金調達を行うため、STAR は世界の ECA(公的輸出信用機関)に長期融資・保証を求めました。 プ ラント建設の入札に日本企業が参画する企業共同体が参加 したことで、JBICに対してもPF組成の依頼がありました。 JBICにおけるこれまでのPFによる支援実績を見ると、 日本 企業が出資するIPP(独立発電事業者) プロジェクトに対して の、投資金融の枠組みを利用した支援が中心でした。一方、 石油精製・石油化学セクターにおけるPFによる支援実績は 電力セクターに比べてもまだ少なく、 また、地域別に見ても、 中東・アフリカ地域では、2012年6月に融資契約に調印した モロッコのIPP案件以来のPF案件となります。中東地域にお ける大型石油精製・石油化学セクターの場合、発注者はプラ ント建設に係るEPC契約の受注と並行してPF組成を行うの が一般的であり、JBICは日本企業(含む共同事業体)の受注 が決まる前から融資の可能性について発注者と交渉を行う ことが求められます。政府系金融機関であるJBICがプロジェ クトの初期段階からPF組成に参加することは、 日本企業の受 注獲得の側面支援となります」 と植松調査役は説明します。 厳しい条件をクリアして、融資条件をまとめる 今回のプロジェクトでは、2010年にSTARからJBICに輸出 PFの依頼がありました。 スポンサーにアゼルバイジャンの国 営石油公社であるSOCARが控えているとはいえ、 トルコで は初の石油精製セクターでの輸出PF案件であり、 リーマン ショック後の厳しい金融状況にあって民間金融機関の参画 が懸念される状況でした。JBICは、PFの豊富な経験・知見を 活かし、他のECAと共に案件検討の初期から参画し、円滑な ファイナンス組成に貢献してきました。 「日本企業が参画する共同事業体の落札支援として、積極 的に交渉に臨みました。今回の交渉相手であるSOCARには PFの経験があまりなく、 ファイナンス組成にあたって極めて 厳しい条件を課してきたことから、チャレンジングなターム シート交渉になりました」 と、当時案件を担当していた小林 副調査役は振り返ります。 「しかし、 ここで断れば日本企業のビジネス支援につながら ないので、プロジェクトに潜在するリスクを踏まえた複数のス トレスシナリオを分析した上で、事業者側と合意可能なセキュ リティパッケージを構築すべく、ロンドンやアゼルバイジャン 等で数年に亘って交渉を行いました」 (小林副調査役)。 ハードな交渉が続く中、2012年12月に伊藤忠商事(株)が参 画する共同事業体がプラントの設計・調達・建設の一括受注に 成功したことで、 タームシート交渉に前向きに臨むことができ ました。 石油精製・石油化学セクターにおける 日本企業のさらなる支援へ 受注が決まった後も、1年以上をかけて正式契約に向けた 交渉が続きました。 「ECAが参画する中東地域における大型石油精製・石油化 学セクターPF案件においては、 タームシート交渉は通常ECAと スポンサー・プロジェクト実施主体と行い、タームシート妥結 後の融資契約のドキュメンテーションの段階は民間金融機関 が交渉に参加します。本件でも、同様の手続きが取られ、ター ムシートとファイナンス・ドキュメントそれぞれにつき、最初に ECA等が精査を行った後で民間金融機関に提示し、コメント 入手、ECAへのフィードバックと言う手順が取られ、最終的に 手続きは2014年5月に完了しました。」 と植松調査役。 こうした取り組みにより、2014年5月に正式調印に至りました。 「本件はプレイヤーが多いので、今後の案件管理も重要で す。計画通り完工できるか、その後、融資の完済まで、持続的な 案件管理が可能となるよう体制整備を進めています。今回、 SOCAR、STARは自らの足で世界中のECAの参画を促しPF組成 に成功したことで大きな自信を得たと思います。石油精製・石 油化学プロジェクトにおける受注実績は、価格競争力があると されている韓国企業が強いセクターですが、JBICとしても SOCARなどとのパートナーシップの強化を図り、 日本企業の受 注獲得の機会を増やすべく次なる案件形成につなげていきた いと考えています」 と植松調査役は語ります。 現在、インフラ・環境ファイナンス部門の運輸・通信事業部 に籍を置く小林副調査役も、 「今回の実績を生かして、インフ ラプロジェクトの投資・輸出支援に注力し、日本企業の輸出機 会の創出と国際競争力の維持、向上に貢献していたいと思っ ています」 と語っています。
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