ALT全校配置で英語教育改革を一歩リード 那須塩原市の - インタラック

第
47 号
2014年12月
発行先: 株式会社インタラック
ALTプロジェクト
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ALT全校配置で英語教育改革を一歩リード
SELNATE GROUP INTERAC・学校教育便り
那須塩原市の取り組み
11月20日、下村博文文部科学大臣は中央教育審議会に小中高の学習指導要領
の改訂について諮問しました。早ければ2016
(平成28)
年に答申が出されるこ
とになり、英語教育の充実は大きな柱として注目を集めています。グローバル
化に対応した英語教育はどのようにあるべきなのでしょうか。ALTを小中全校
常駐配置する改革に乗り出した栃木県那須塩原市の先進事例から考えます。
未来への投資としての
英語教育
年生で年20時間、1・2年生は学校の自
由裁量で実施してきました。
子どもたちが英語によるコミュニケー
栃木県の北部に位置する那須塩原
ションに親しむ時間は増えたものの、課
市は塩原温泉に代表される山岳部と、
題はALTの人数不足でした。それまで中
酪農が盛んな平野部を擁する人口約11
学校を担当していた12名では、小学校
万人の市です。学校数は小学校23、中
を含めたすべての学校をカバーするのに
学校10の計33校で、
「楽しさいっぱい
限界がありました。また学校規模によっ
夢いっぱい ふるさと大好き 那須
てALTと子どもたちがふれあう時間にも
塩原っ子」の育成を目標に、3つの改革
ばらつきがあり、平成28年度より全市で
を進めています。
小中一貫教育を開始する上で改善すべ
いなかった。慣れ親しんだ英語を使って
き状況でした。
みたいと思えるような環境整備が必要
一つ目は、小中一貫教育の推進・充
大宮司敏夫教育長
でした」
。
実です。今年度4月に開校した施設一
そこで同市は平成25年度に「那須塩
体型の塩原小中学校では、9年間の英
原市英語教育推進計画」を立案。平成
同市はオーストリア・リンツ市との国
語教育を通して国際コミュニケーション
26年度から3ヶ年の英語教育改革を計
際交流の一環として中学生交流事業を
教育をおこなっています。二つ目はICT
画したのです。具体的には①常駐ALT
行っています。それに同行したことのあ
を活用した新たな学びの推進事業です。
の全校配置 ②学校教育課英語教育
る大宮司教育長は、多言語を尊重する
豊浦小学校は文部科学省の指定を受
推進室の設置 ③英語教育推進委員会
ヨーロッパの文化にふれ、現 地の中学
け、タブレット端末や電子黒板などを活
による小中一貫英語教育カリキュラムの
生が自国のことを堂々と英語で紹介する
用した授業づくりの研究がスタートして
開発、の3本柱でした。
様子を目の当たりにして
「英語によるコミ
います。そして三つ目が今回紹介する全
小中学校にALTを常駐配置する英語教
育推進事業です。
策定にあたった大宮司敏夫教育長は
こう話します。
「小学校での外国語活動では、子ども
ュニケーション教育の充実なしにグロー
バル化対応はできない」と痛感したそう
です。
同市では平成21年度から小学校5・
たちが楽しみながら、積極的にALTとコ
また、2年前に就任した阿久 津憲二
6年生において年35時間の「外国語活
ミュニケーションしようとする姿が見られ
市長は人口減少対策として「未来への
動」を開始、翌22年度には小学校3・4
ました。しかし、それが日常に活かされて
投資」をモットーとしています。英語教
1
育改革は他市にはない那須塩原市の魅
年は10時間、中学年は20時間、高学年
ル化に対応可能な多様性を学ぶことを
力づくりに直結するとの判断から、今年
は35時間、中学校は70時間以上の時
狙いとしています」
。
度、総額約1億2,000万円の予算が計
数を確保したのです。
上されることになったのです。
コミュニケーション活動を
主体としたカリキュラム
今年度5月には第1回目の那須塩原市
英語教育推進委員会が開かれました。
教材開発や通信を発行
サマースクールが大盛況
長期休業中もALTの力を発揮する場
常駐という条件を活かして、同市では
面を設けました。夏休みに市内の小中
英語の授業以外にALTを活用する場面
高校生を対象にしたオールイングリッシ
を設定しています。
ュの体験活動「那須塩原イングリッシ
ひとつは空き時間を利用した教材研
ュ・サマースクール」を市内の公民館で
国立教育政策研究所名誉所員である渡
究・開発です。英語や国際理解にまつ
2日のプログラムを計3回開催しました。
邉寛治氏を委員長とし、英語教育推進
わる掲示物を作成し「英語コーナー」を
子どもたちは10〜15名の異年齢グル
室の指導主事や小中学校の教員や支
設けたり、教科や学年の通信と同じよう
ープに分かれて、何人ものALTと交流が
援員などが構成メンバーで、今年度中に
に「ALT通信」を発行したり。給食時に
できました。普段は人とかかわるのが困
小中9ケ年の英語によるコミュニケーショ
は英語での校内放送をおこなうなど、各
難で寡黙な子どももALTに自然に手を
ン教育に関するカリキュラムの試案作成
校の裁量でALTを効果的に活用しなが
引かれ、楽しそうに話している様子など
を目指しています。
ら積極的に進めています。
があり、大きな成長が見られたそうです。
まず、そこで確認された「ねらい」は
Global Communication Dayは複数
「将来にわたって学び続けるために必要
名のALTがグループで小中学校を終日
となる英語によるコミュニケーション力
訪問する企画です。ALTの出身国の文
の素地及び基礎としての資質・能力を
化紹介や、日本の遊びを楽しむプログラ
育む」ことでした。
ムなど、内容は学校の希望を反映させ、
市民に事業への理解を深めてもらう機
すでに平成22年度から始めている教
さまざまなコミュニケーション活動を行
会も作りました。
「放課後英会話教室」
育課程特例校制度を活用し、中学校の
います。発案者で英語教育推進室の指
は、希望する学童保育やクラブ・部活動
授業にもコミュニケーション活動主体の
導主事、山本幸子先生はこう話します。
等にALTを配置する仕組みです。横林
授業を設置することで、学習に連続性を
「自校のALTとは慣れていても、別の
小学校では放課後に地域の大人が子
ALTが来ると“固まって”しまう子どもが
どもたちに学習指導をする時間を活用し
こうして今年度からALTを3 4名に増
多いのです。出身や文化的背景が異な
て実施したところ、小学生20名と地域
員して全校配置が決まり、小学校低学
るALTと進んで交流する中で、グローバ
の大人10名が参加し「地域に開かれた
持たせることも確認されました。 地域交流で愛されるALTに
ALTと地域の人のふれあいを促進し、
イベント」となったそうです。
「外国人とふれあいながら、地域の方た
ちに英語によるコミュニケーションは特別
なことではないと感じてもらい、ALTの存在
をコミュニティの中に根付かせていきたい
と考えています」
(山本先生)
今後は公民館での英会話教室、保育
園・幼稚園訪問、地
域のイベントへの参
加も促 進していきた
い考えです。
山本幸子副主幹・
指導主事
2
英語教育推進室の役割
ALTが特別な存在ではなく、ひとりの
教師として当たり前に存在している。そ
のことが周りの先生方によい影響をも
たらしています。先生方も子どもたちが
いきいきと活動する様子を見聞きして刺
激を受けるだけでなく、先生方自身が積
極的にALTと英語でコミュニケーション
をとるようになったそうです。職員室から
プログラムは、平成28年度の小中一貫
2019年までに目指すALT拡充後の、そ
グローバル化が進んでいるといっても過
教育全面実施に合わせて本格実施を目
して小学校英語必修化後の「未来の学
言ではないでしょう。
指します。今後は活動の評価規準の策
校の姿」をほうふつとさせます。
これらのプログラムを同時進行させる
定、外部テストを活用したパフォーマンス
「学校訪問をすると、子どもたちが自
にあたり、英語教育推進室の役割は非
の測定など、成果を「見える形」にする
然にALTと会話している様子が見られま
常に大きいものがあります。児童生徒の
段階へと入っています。
す。これは常駐以前にはなかったこと。
実態に合わせてプログラムを提案した
改革初年度で現場に大きな変化をも
時代は新しい教育の時代に入ったと実
り、ALT活用の教員ワークショップを開
たらした同市の英語教育改革は、未来
感します。思考力や表現力、コミュニケ
催したり、ALTの「教師としての資質」を
を担う教育への熱い思いと、実現に向
ーション力を伸ばすために我々が根底か
引き出す働きかけをするなど、きめ細かく
けた丁寧な体制づくりがあって実現しま
ら発想を変えていかねばならないので
学校とALTを橋渡ししています。
した。変化をおそれずに工夫して困難を
す」
(大宮司教育長)
同市の「英語が使える那須塩原っ子」
乗りこえていく様 子は、文部科 学省が
各校に常駐するALTは、授業だけでなく様々な教育活動
渡邉委員長のコメント:期待すること
において、時間をかけて一人ひとりの児童・生徒のidentity
本市が推進する全校ALT常駐制度の施策においては、
を大切にしながらコミュニケーションを図ります。彼らの豊
様々な教育成果が期待されています。中でも、ALTとの日
かなコミュニケーション・ウエイのお陰で、寡黙な児童・生
常的なコミュニケーションを通して、筆者は児童・生徒の
「主
徒も「自己開示・自己発揮」していきます。そして、彼らと数
体性
(identity)
」の素地・基礎が育まれることを最も期待し
多くのコミュニケーションのキャッチボールをするうちに、
「自
ています。すでに、その育みは見られるようですが、この主
己決定・行動(initiative)
」しなければならない時と場面も
体性は、1/4世紀前より我が国が推進している「生きる力」
増えましょう。彼らがそのことを求めるからです。その結果、
の源泉ともいうべき資質・能力であるとともに、グローバル
人とコミュニケーションを図ることの楽しさと大切さを体験
化が進む我が国において、今後、益々必要とされる人間力
することで、児童・生徒一人ひとりの
「己の確立」も進むこと
でもあります。
でしょう。仮に、英語は下手でも堂々とコミュニケーションを
ALTの多くは、生まれ育った環境から「これが私!」とい
図る子ども達が、これからどんどん増えていくことでしょう。こ
う、その人にしかない資質・能力の育みとself-esteem
(自
れこそが、国が求めている外国語を通じて育むコミュニケーシ
尊の心)を大切にする環境下で育ちます。所謂、identity重
ョン力の素地・基礎です。
視の社会環境です。それ故、彼らは人とコミュニケーション
を図る際、相手のidentityを意識します。実りある円滑なコ
ミュニケーションとは、言語スキルの操りの上手下手ではな
く、互いのidentityを尊重し合うことが大切だということを
熟 知しているからです。このことは、異文化の人と人が
communication
(ラテン語に由来;原義は「分かち合うこ
と」
)を図る際、最も重視すべきことでしょう。
渡邉寛治先生プロフィール
文部科学省国立教育政策研究所名誉所員(前文京学院大学・同大
学院教授)
専門:国際教育、異文化コミュニケーション教育、英語教育、言語教
育政策、教育課程。
旧国立教育研究所・初代外国語教育研究室長時には、国から委嘱
された小・中・高の英語によるコミュニケーション教育の理論と実際研
究に従事。小学校英語活動に関する著書・論文は多数。英語検定1
級面接委員
(20年以上)歴任。
3
英語を使った職場体験
ぐんま国際アカデミー中等部の受け入れ
職場体験の訪問先として「ぐんま国際アカデミー」
の生徒がインタラック社を訪問、2日間を
東京第1支店の社員として過ごしました。英語を使った職場体験の模様をお伝えします。
重要性を増す職場体験
変化の激しい社会を生きるこれから
の子どもたちには、望ましい勤労観、職
業観、進路意識を育むキャリア教育が
不可欠です。とくに生徒が企業を訪問
し、仕事を体験する
「職場体験」は働く
弊社は外国人社員が多く在籍してい
ることから、こうした期待を寄せていた
「冗談を交えながら話す時間は楽し
だくのはインタラックにとって社会貢献
かった。もっと適切な英語がすぐ出せ
できる素晴らしいチャンスです。11月5・
るようになりたい」
「ビジネス英語など
6の2日間、英語を使う場面を想定した
難しい単語が出てこなかったり、人前
職場体験を実施しました。
で堂々と話せなかったりした。これらの
反省を克服できるようにしたい」と、社
ことの意義や学ぶことの意味を知るよ
いチャンスとして、公立・私立を問わず
多くの中学校が導入しています。
インタラックにおいても、職場体験と
た。一部をご紹介いたします。
内の明るい雰囲気を楽しみながらも、
ALTに英語で電話 外国人スタッフと会議を体験
して小学生・中学生を受け入れています
初日は会 社概 要の説 明や、弊 社代
が、今回はじめて英語を使った職場 体
表取締役社長松本清一への挨拶に続
験を目的として「ぐんま国際アカデミー」
き、オフィスで
「電話業務」を体験しても
中高等部の9学年(中3)の生徒5人を
らいました。これは支店における重要
受け入れました。
な業務の一環で、ALTが学校で力を発
ぐんま国際アカデミーは群馬県太田
揮できるよう、さまざまな聞き取りをおこ
市 に あ る 私 立 の 小 中 高 一 貫 校 で、
なうものです。その内容をもとに報告
2 0 0 5 年に開校した新しい学 校です。
書を作成し、支店会議で発表、ニュース
授業を英語でおこなうイマージョン教育
レターを作成する。そこまでを2日間の
とクリティカルシンキング教育を特徴と
ゴールとしました。
し、
「国際バカロレア
(IB)ディプロマプ
もともと英語を話すことに抵抗感は
ログラム」をもつ文部科学省の認定校
ない生徒さんでしたが、知らないALTに
としても 知られています。中 学 生 の
電話をかけたり、英語で会議を進めた
TOEIC平均点は6 0 0点という高い英
りすることは初体験だったようです。自
語運用能力をもつ生徒たちにふさわし
分がALTに尋ねたことが、支店全 体の
い職場体験先として、弊社に依頼があ
仕事の方針等に反映されるとあって真
ったのは8月のことでした。
剣な表情で取り組んでいました。
英語学習に対するモチベーションを高
めた生徒が多かったようです。
そして、職場体験の本来の目的である
“働くこと”のイメージが 変わった生徒
も大勢いました。
「仕事をするということは、お金を稼
ぐことと感じがちですが、今回その考え
方が一変した。周りを幸せにするのが
仕事、という考え方をもてた」
「日本企
業に対するイメージが変わった」
「仕事
は個人パフォーマンスだと思っていた。
でもチームとして仕事をしていることが
わかった」など、さまざまな気づきがあ
ったようです。
今回の職場体験を担当した東京第1
支店長の鈴木麻里は「生徒たちのまっ
すぐな目が印象的でした。社長のメッ
セージを真剣に受け止め、業務に一生
懸命とりくむ姿に、こちらが身の引き締
まる思いでした。職場体験が子どもた
ちの人生選択に与える影響は大きいと
生徒の感想から
明るい日本の 未来が見える
4
思います。職場体験受け入れを通して、
学校教育、英語教育にかかわる企業の
一員としての責任と自覚を新たにしまし
た」と話しています。
体 験 後の生徒の感 想
インタラックでは今後も、社会に貢献
文には、社 会人が 働く現
し続ける企業であるために、さまざまな
場で得たこと、考えたこと
アクションに挑戦し、グローバル化教育
がたくさんつづられていまし
の新たな価値を創造してまいります。