症状から診る神経病学 -前脳病変 ≪獣医師向け

2014/12/9
神経病の原則
SHINICHI KANAZONO, DVM, DACVIM (NEUROLOGY)
症状で診る神経疾患
ー 大 脳 ・ 間 脳 病 変 DISORDERS AFFECTING PROSENCEPHALON
• 障害部位によって症状は決まる
• シグナルメント + 病歴 + 病変部位 = 鑑別診断
• 画像異常 ≠ 機能異常
発生学
大脳 TELENCEPHALON
間脳 DIENCEPHALON
中脳 MESENCEPHALON
小脳・橋 METENCEPHALON
延髄
MYELONCEPHALON
前脳
PROSENCEPHALON
LAMINA TERMINALIS
大脳の基本構造
• Neopallium: 表層の大脳
• 前脳: 大脳 + 間脳
• 解剖学者による分類
• 必ずしも機能上の分類ではない!
• 実際の神経回路: No boundary
皮質
• Archipallium: 海馬など、
内層の大脳皮質
• Paleopallium: 嗅覚系、辺
縁系 (最も原始的)
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これは大脳?間脳?
前脳:
重要な機能
• 意識レベルの維持
• 臨床上、大脳症状と間脳症状は共通する部分が多い
• まとめて「前脳」症状として捉える
意識:外界とのコンタクト
• ”電球&スイッチ”
• 電球=大脳半球
• スイッチ=RAS: Reticular Activating System
• 間脳〜橋に分布
意識レベル
前脳:
重要な機能
• 脳死
• 昏睡
• 混迷
• 意識レベルの維持
• 抑鬱
• 認知障害
• 過度興奮
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前脳:
重要な機能
歩行=LMN(運動) + UMN(協調)+目的
• 意識レベルの維持
• 目的を伴う行動
歩行に必要な機能
• 四肢:筋骨格系
• LMN
• 意識低下:目的の無い行動
• Head Press、徘徊行動
• UMN
• RASの機能不全:大脳と脳幹の交通遮断
• 高次中枢
前脳:
意識と目的のある行動
重要な機能
• 直進は可能:中脳以下の機能
前脳:
重要な機能
• 意識レベルの維持
• 意識レベルの維持
• 目的を伴う行動
• 目的を伴う行動
• 体性感覚:間脳で中継→ 大脳皮質へ投射→ 認識
• 特殊感覚:間脳で中継→ 大脳皮質へ投射→ 認識
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体性感覚
固有位置受容感覚:“CP"
• 古典的概念:Conscious vs. Unconscious
• Unconscious proprioceptionの障害
• 身体内部の感覚
• 感覚受容器は身体内部に分布
• 痛覚、圧覚、触覚、温覚、冷覚、固有位置受容感覚など
• 運動失調
• Conscious proprioceptionの障害
• 姿勢反応の消失
UNCONSCIOUS VS. CONSCIOUS
体性感覚異常・行動異常
• 左側旋回
UNCONSCIOUS: 運動失調
CONSCIOUS: 姿勢反応異常
HEMINEGLECT SYNDROME
• 右側の感覚異常
HEAD TURN
• 病変側への情報は処理されない
• 典型的な感覚は残存
• 随意的な反応は困難
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CIRCLING
特殊感覚異常:
姿勢異常
中枢性失明
眼と前脳
対光反射
• 視交差よりも後方
視覚
• 威嚇反応の消失
• 瞳孔径・対光反射は正常
威嚇反応
対光反射
大脳皮質特有の症状
• 視神経
• 視索
• LGN
• 視放線
• 大脳皮質視覚野
• 小脳
• 顔面神経
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「痙攣患者」の紹介
けいれん??
• 失神
• 「痙攣患者が来たんだけど。。。」
• 急性前庭疾患
• 振戦
• 「どんな痙攣ですか?」
• 「痙攣は痙攣だよ。。。」
• 疼痛
• ナルコレプシー・カタプレキシー
• 行動異常
• 「。。。」
• 睡眠中の不随意運動
• その他の虚脱:重症筋無力症、運動誘発性虚脱、paroxismal dyskinesia, etc.
けいれん?
けいれん?
Courtesy of Dr. Yoko Fujii
けいれん:定義
• いつ起こる?
• 休息時
• 持続時間は?
• <2分間
• 不随意運動?
• 通常 有り
• 自律神経系症状?
• 通常 有り
原因疾患分類
• 反応性(Reactive) – 頭蓋腔外に原因
• 大脳皮質における神経細胞の一時的な異常かつ集合的
な活動
• 毒物、代謝性
• 器質性(Structural) – 頭蓋腔内の疾患
• 腫瘍、脳炎、外傷、梗塞等
• てんかん:(大脳原発性の)反復的なけいれん発作
• 原因不明(Unknown): UE
• 特発性 idiopathic = 遺伝性
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反応性
REACTIVE
器質性
STRUCTURAL
• 頭蓋腔内の疾患
• 頭蓋腔外に原因、大脳はそれに反応
• 腫瘍性、炎症性、外傷性、血管障害性、変性性
Courtesy of Dr. Hirotaka Kondo
• 毒物、代謝性、栄養性
• 10-20%
特発性
UNKNOWN
まずは”大脳以外”を除外
• CBC、血液生化学、尿検査
• 遺伝的要因
• 肝機能検査(胆汁酸/NH3)、甲状腺機能
• 発症年齢: 通常は6ヶ月齢 ー 5歳齢
• 血圧測定
• 発作時以外は正常!
• レントゲン?
• 大脳の機能的障害= ”構造”は正常
• 毒物?
• その他特殊検査(インスリン値、アミノ酸測定、代謝機能検査)
大脳をチェック!
神経学的検査は正常=脳は正常?
• 神経学的検査のポイント
• 発作後異常が消失するまで待つ
• 非対称性 = 器質性疾患
• 急いでMRI?
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年寄り + けいれん
= 脳腫瘍?
間脳の解剖
• 7歳以上
• 脳腫瘍の 犬 vs.猫
間脳の解剖
間脳
DIENCEPHALON
• Epithalamus
• Thalamus
• Metathalamus
• Subthalamus
• Hypothalamus
Veterinary Neuroanatomy, 3rd ed.
視床の生理学
HEAD PRESSING
緑色:上行性
赤色:下行性
• 感覚系経路のリレー・ゲート ポイント
• 大脳皮質への投射:特定経路 (VCL, VCM) vs. びまん性
• Internal Capsule:視床と大脳皮質をつなぐ神経線維の塊
• 大脳-橋-小脳-視床-大脳ループ の一部
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体性感覚の異常
マロ
• 体性感覚: 感覚受容器が臓器内に埋め込まれている
• プロプリオセプション、触覚、温度覚、痒覚、痛覚、内
臓感覚
• 身体 → VentroCaudal Lateral (VCL) Nucleus
• 頭
• 12歳齢 雄 ダックスフント
• 右頭部回旋、右旋回、左半身姿勢反応消失、左眼威嚇
反応消失、左眼姿勢性斜視、左捻転斜頸、軽度の前庭
性運動失調
→ VentroCaudal Medial (VCM) Nucleus
• 右前脳+左側前庭 = ?
右前脳+左側前庭
FLAIR
= 右視床
T1WI
GLIOMA?
脳梗塞?
T1-C
• Glioma (n=17) vs. CVA (n=21; 暫定 17, 確定 4)
• 10-47% の CVAはGliomaと誤診
• 12% の Glioma はCVAと誤診
• リングエンハンスメント: 両者で同程度
• GREの使用によってより正確な診断が可能
THALAMIC INFARCTION - 16 DOGS
3ヶ月後
Goncalves_2010_Vet J
1st FLAIR
2nd FLAIR
• 内側障害
•
反対側の前庭症状
• 外側・腹側障害
•
旋回行動、反対側のCP異常
• 背側および中間
•
前庭症状、反対側威嚇反応消
失・不全麻痺、旋回行動
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髄膜脳炎
頭部外傷:交通事故
特殊感覚
中枢性失明
後頭葉
• 視覚
• 聴覚、平衡感覚
視放線
LGN
視索
METATHALAMUS:視覚と聴覚
網膜-LGNへの投射分布異常
• 外側膝状核:視覚
• 内側膝状核:聴覚
• congenital converge nystagmus video here
• Pretectal Nucleus:視覚
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チアミン欠乏症
視床下部 HYPOTHALAMUS
• 視床下部-下垂体系: 神経内分泌系
• 食欲、飲水、睡眠
• video representing loss of menace
• 副交感神経系(頭側)・交感神経系(尾側)
• 体温調節
• 性格、怒り、感情など: 辺縁系の一部として
視床下部 HYPOTHALAMUS
• 単独で障害を受ける事は稀
• 神経内分泌系障害: 外傷後CDI
NARCOLEPSY/CATAPLEXY
• Ventral hypothalamic nucleus ー
Hypocretin-1,2
• 遺伝性: Doberman, Labrador, ミニチュアホ
• 睡眠障害: ナルコレプシー/カタプレキシー
• 食欲、態度の変化:Lateral hypothalamic syndrome
ース
• 後天性
• 髄液中のHypo-1を測定
• 体温調節異常
• 辺縁系への影響: 性格の変化
神経内分泌機能
• Hypo-1はHypo-2より化学的に安定
• 犬はカタプレキシーが強く出やすい傾向
頭部外傷とバソプレッシン
Agha_2005_Euro J Endocrinol
• 様々な機能障害が起こりうる
• 前向き研究 GCS 3-13/15 頭部外傷
• ACTH、TSH、GH、FSH、LHなど ; ADH
• 急性 CDI - 13/50 (26%)、 SIADH - 7/50 (14%)
• 頭部外傷後に多い機能障害
• 9/13 6ヶ月以内に回復、 7/7 6ヶ月以内に回復
• 中枢性尿崩症 CDI
• ADH過剰分泌 SIADH:Negative feedback の機能不全
• 前向き研究 436症例(AIS > 3):
急性CDI 15.4% (1.2日後)
Hadjizacharia_2008_J Am Coll Surg
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体温調節の異常
しかし、最も多いのは。。。
• 下垂体巨大腺腫
• 放熱(吻側) or 保温(尾側)
• 臨床症状: 元気低下、食
欲不振、意識レベルの低下
Wood FD, et al._2007_JAVMA
• 牛の下垂体膿瘍:視床下部尾側部に及ぶと低体温
• 対称性四肢不全麻痺、昏
• Nose ring
睡、旋回行動
• 嗅球脳腫瘍摘出術の深追い:術後体温上昇
• 痙攣、失明は稀
下垂体腫瘍
猫の糖尿病
プロミクロス web siteより
• Type II 糖尿病
• 犬は非常に多く、症状も知られている。
• 人間と類似: 運動不足、加齢、肥満、膵臓アミロイド沈
着など
• 猫は?
• インスリン抵抗性: 本当に Type II?
猫のインスリン抵抗性糖尿病
Niessen_2007_JVIM
先端巨大症と糖尿病
Niessen_2007_JVIM, Niessen_2010_JFMS
• 59/184 症例 (32%) - IGF-1値上昇 (> 1000ng/mL)
• IGF-1測定: 人間用 RadioImmunoAssay
• GH, IGF-1→ インスリン受容体障害
• 17/18 (94%) - 猫GH上昇, CT/MRIにて確定診断
• GH - インスリン抵抗性
• 尿コルチゾールクレアチニン比 / T4: 正常 / 低値
• IGF-1 - 成長過剰
• 顔貌、軟部組織、下顎骨、四肢先端
• 大規模研究: 334/1222 (26.4%)でIGF-1値上昇
• Prognathia inferior, resp stridor、心筋、腎臓
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先端巨大症:いつ疑う?
猫のクッシング症候群
• 稀 と報告
• 80%の症例: インスリン抵抗性糖尿病
• 皮膚症状: fragile skin syndrome, 脱毛、感染など
• 尿比重の低下は稀
• 猫はADH分泌・作用に対する糖質コルチコイドの影響
が少ない
GH? ACTH?
猫の下垂体腫瘍:治療
• 内科療法: 成績不良
• 放射線治療: 犬と同様、内分泌異常の改善はやや不透
明
• 外科療法?
Neissen_2013_VCNA
LIMBIC SYSTEM
辺縁系
まとめ
• 大脳、間脳、中脳にわたる
• ループ状ネットワーク
• 感情的な行動・反応に関与
• 狂犬病患者の行動変化
• 大脳、間脳は他の部位と密接に関連
• CNSは無数のループを形成
• 臨床症状をよく見て! でも読み過ぎないで。。。
• “同じ”部位に損傷 → 様々な症状
• 前頭葉が密接に関与
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