認政 - 東北大学

倣信
認政
・木
押鈴
氏名・(本籍)
(宮城県)
学位の種類理学博士
学位記番号理博第624号
学位授与年月日
昭和54年3月27日
学位授与の要件学位規則第5条第1項該当
研究科専攻
東北大学大学院理学研究科
(博士課程)化学第2専攻
学位論文題目二、三のセンブレン型天然物の合成
次
目
章節節節章
一一二三二
第第
序論
センブレン型天然物
センブラン骨格の合成
二,三のセンブレン型天然物の合成
ポリエン酸塩化物の閉環反応
一節分子内.アシル化閉環反応
二節(E,E,E)ゲラニルゲラニル酸塩化物の閉環反応
三節(E,E,E,E)ゲラニルファルネシル酸塩化物の閉環反応
四節一(E,Z・E)および(E,E・Z)ゲラニルゲラニル酸塩化物の閉環反応
第三章(E,E・E)クロルケトンからセンブレン型天然物の合成
一節センブレノールの合成
二節ツンベルゴールの合成と立体化学
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論文審査委員
一
三節
ネフテノール類の合成
四節
アスパージオール合成の試み
五節
ラクトン環を有するセンブレン型天然物合成の試み
第四章
実験の部
文献
謝辞
一244一
論文内容要旨
第一章
センブレン(1)に代表されるセンブレン型ジテルペノイドは,近年樹脂成分や昆虫ワックスおよび
珊瑚等の海産物からの単離構造決定が相次ぎ,その数はおよそ50種にも及ぶ。センブレン型天然
物はその多くが特異な生理作用を有し,また14員環という大環状構造を持つ事など,生理作用の面
のみならず,合成的見地からも興味深い物質群である。
著者らの研究室では,かねてより,生合成経路を考慮したポリエン類の閉環反応に関する研究を
進めており,その一環として,先に,センブレン型天然物の合成中間体として極めて有効と期待さ
れる14員.環クロルケトン(13)が,ゲラニルゲラニル酸塩化物の分子内アシル化閉環反応によって,
一挙に駈高収率で得られることが見い出された。さらに現在まで(⑤を原料に数種のセンブレン
型天然物の合成に成功している。
以上の経過および結果をふまえ,次の二点を目的として本研究を行なった。第一は,14員環を得
るポリエン酸塩化物の閉環反応についてより詳細な知見を得ることであり,第二は,クロルケトン
(1のを原料に,新たに二,三のセンブレン型天然物の合成を完了する事である。
第二章
ポリエン酸塩化物のルイス酸による分子内アシル化反応については,(E,E,E)ゲラニルゲラニ
ル酸塩化物(12)の反応を拡張し,プレニルユニットのコつ増えた(E,E,E,E)ゲラニルファルネ
シル酸塩化物(36)の閉環反応を最初に検討した。本反応の興味は,末端二重結合で閉環して18員
環を与えるのか・あるいは拠位の二重結合で閉現して拠員環を生成するのかという点である。結
果は・14員環生成物(E・E・E)一C鴎一クロルケトン(37)のみが高収率で得られ,18員環は全く
生成しないという事になった。
さらに(E,Z,E)一(鋤,および(凡E,Z)一@0リゲラニルゲラニル酸塩化物にも同様の閉環
反応を試みた。その結果,この場合も,それぞれ14員環化合物(E,Z,E)一q6③,および(E,
E,Z)一α1)クロルケトンが高収率で得られる事が明らかになった。
従って・いずれの場合も14位の二重結合にのみ,位置選択的なアシル化閉環反応が起こった事
になり,14員環の特別な生成のしゃすきを示す結果となった。
新たに得られた(3り,q69,(71)の三種のクロルケトンから,シロアリの道しるべフェロモンネオ
センブレン(2Q)の類似化合物(5り,(7の,(74)へ誘導し,ネオセンブレン(2①との生理活性の比較を
行なう事は・生物学的に大変興味が持たれる。さらに㊤の誕6⑨,(71)が今後,ある種のセンブレン
型天然物の合成中間体として利用できるものと期待される。
一245一
直一一
第三章
(E,E,E)クロルケトン(1⑳を原料に,センブレノール(2の,ツンベルゴール(2⑤,ヒドロキ
シネフテノール(26),デヒドロエポキシネフテノール(2の等のセンブレン型天然物の合成を試みた。
センブレノール(2のは,乳香(BoswelliaCαrむerl)から単離され,イソプロピル基の付根に三
級水酸基を持ち,環内に三つのE配置二重結合を持つのが特徴である。α一ブロモエーテル(7㊦を
亜鉛末と共に90%エタノール中で加熱する事により・¢24)の合成を完了した。
ッンベルゴールは・松の一種(Pseudotsllgamenziesii)から単離され・(2ゆの構造式が与え
られたが,三級水酸基のイソプロピル基に対する相対配置は不明のままであり・環内の三つの二重
結合については,一つがトランス(E配置)とされている以外は,何ら明確な証拠のないまま,シ
ス(Z配置)と記載きれている。しかし生合成的な観点から,これをトランスと推測し,さらに不
明の水酸基の立体化学を明らかにする目的も含めて・この合成を計画した。ムクロール(1窃・およ
びそのエヒ。休(79)を出発原料とし,それぞれの立体化学を考慮しながら,エポキシアルコール(齢),
(81)を得,これから数段階の反応により,アリルアルコール(組),(85)に誘導した。天然体とのス
ペクトルデータの比較から・(85)がッンベルゴールで,(組)はそのエピ体と結論した。その結果・
不明であった水酸基および環内の三つの二重結合の立体化学を・合成によって明らかにすることが
できた。
ヒドロキシネフテノール(2①は珊瑚の一種(Llむophyしonviridis)から単離きれているが,こ
れも二級水酸基の相対配置は不明のままである。これを決定する目的も含めて合成に着手した。ク
ロケルトン(13〕からケトアセテートぐ留)を得・これの水素化アルミニウム還元で,シス⑱8)および
トランス(8のジオールを得た。生成した二種のジオールと天然体との比較から,トランス体の〔89)
が天然型のヒドロキシネフテノールであると結論した。従って・これも合成によって.二級水酸基の
立体化学が決定できた事になる。
デビドロエポキシネフテノール㈱も、ある種の珊瑚(S蟹cophytGnsp.)から単離され,構造
は最終的にX線による結晶解析で(27)と決定された。エポキシ基の位置異性体どうしのスペクトル
データの比較の目的も含めて,(27)とその異性体(吻の合成を計画した。原料を共役ケトン体(19)
に選び,これのエポキシ化により,二種のエポキシ体(101),(102)を得た。それぞれを水素化アルミ
ニウムリチウム還元と1シリカゲルによるアリル転位で、デヒドロエポキシネフテノール,(9④お
よび(2のを得た。(102)から得られた(2のが天然体と一致した。(2のと(9ののスペクトルデータの比
較をほなったが,両者に特徴的な差は認められず,極めて類似したスペクトルを示した。
アスパージオール(2のおよびラクトン基を持つセンブレン型天然物(29)の合成についても若干検
討を加えた。
以上,本研究の主な成果をまとめると,第一に,(E,E,E)一C25一クロルケトン(3の,(E,
Z・E)一ク・ルケトン(69)・(E,E・Z)一クロルケトン(71)の三種の14員環骨格の合成法を確立
一246.一
し,第二に,(E,E,E)一クロルケトン(13)を出発原料としてセンブレノールC24),ツンベルゴ
ール⑱㊦,ヒドロキシネフテノール(B9),デヒドロエポキシネフテノール(2りの各センブレン型天
然物の合成を完了し,⑱㊦と(89)については,その立体化学も確立した。
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論文審査の結果の要旨
鈴木政信提出の論文はセンブレン型天然物の合成に関するものであり,四章から構成されている。
第・・一竜はセンブレン型化合物のテルペン化学の分野における位置付けについで概説し,センブレン
型天然物を合成する意義について述べている。センブレン型天然物が14員環状骨格をも一)ており,
さらにその中には特異な生理作用を有するものが少なくないなど,有機合成化学の立場のみならず,
生物化学の面からもセンブレン型ジテルペンが合成対象として充分価値ある天然物であることを論
述している。センブレン型化合物の合成に関する既報の研究を紹介した後,実際の合成ルートは14
員環骨格が生合成された経路を考慮して行なうのが最も効果的であること・きらに生合成前駆体の
二・rの類縁化合物の実験室的閉環反応を検討する必要性について記述している。
第二章は炭素数20と25から成るプレニル酸塩化物の塩化第二スズによる閉環反応の結果に関す
るものである。ゲラニルゲラニル酸塩化物からセンブレン骨格を合成する反応の実験条件を調べ,
センブレン骨格を多量に・かつ簡単な処置で得る方法を開発することに成功した。ゲラニルゲラニ
ル基の二重結合がシスの酸塩化物二種類と・ゲラニルファルネシル酸塩化物にこの改良法を適用
した所,いすれの場合にも14貝環形成が優先して起り・相当するセンブレン骨格が70%以.ヒの高
収率で得られることを見出した。これらの生成物は関連する天然物の合成ヒ基本的な物質である。
第三章においては第二章で明らかにされた多量合成法を使用して二,三のセンブレン型天然物の
合成を行なった。ツンベルゴール・ヒドロキシネフテノールの異性体を立体選択的に合成し,今日
まで立体化学の不明であったこれら(1)天然物の立体化学を全合成によって確立した。また,センプ'
レノーールとデヒドロエポキシネフテノールの合成を完了し,提出きれていた推定構造式が正しいこ
とを証明した。さらに抗ガン作用を有するアスパラジオールの合成についても試み,いくつかの重
要な知見を得ている。
第四章は二、三章の実験の詳細な記述である。
このように,本論文は有機合成化学上特異な天然物であるセンブレノイドを巧みに合成すると共
に,本論文で得られた知見は今後のセンブレンの化学にとって基本的に重要なものである。これら
のことは著者が自立して研究活動を行なうに必要な高度の研究能力と学識を有することを示してい
る。よって・鈴木政信提出の論文は,理学博士の学位論文として合格と認める。
一249一