2 53 東北地 域 災 害 科 学 研 究 第 43巻 ( 2 007 ) 郷土種子を用いた緑化播種工の試験 岩手大学農学部長沼あゆみ井良沢道血今井祥子 1.背景と目的 災害の多い日本において、崩壊地やのり面などの早急な緑化は重要である。近年、環境保全 意識が高まり、外来種による種々の問題が判明してきたことから、郷土種活用による早期の樹 林化が注目されている。これらの流れを受けて、生態学的混播法(岡村 2004) など郷土種を 活 用した播種工についても調査・試験がなされてはいるが、多様な植物種を網羅するには至 って いない。また、東北地方のよ うに多雪寒冷地の風土に適合した検討事例はほとんど無 く 、 地域 に自生する植物種子を活用した緑化工法として技術的に確立されていない。そこで、山形県月 山周辺に自生している郷土種を用いて播種試験を行った(新庄河川事務所 2002-2005)。そ の結果を調査・分析することによって、郷土種による効果的な播種工法について確立する ことが本研究の目的である 。 2 . 調査地及び調査対象植物 試験地は山形県鶴岡市田 麦俣 字 六 十 里 山 の 休 70m) を利用した。播種床には休耕 耕田(標高 4 1m 田の土壌を利用して播種を行い、その上に高温 で熱処理した焼土(大網培土)を覆土している 。 山形県月山周辺(六十里山、天狗森)に自生す る郷土種に つ いて 2004年秋に種子を採取・精選 し、一部を 2004年 1 0月 (2004秋区)に播種し i <一倍刊 T : ' s ; ; ;-→l 十一 一市 町 会 争 た。残りの種子は 0"Cで保存し 2005年 6月 ( 2 0 0 5 春区)に播種した。 1 mX3mの区画で単品播種区 ( 一つの種の み播種した試験 区)が 2 8、混合播 種区(複数の種子を播種した試験区)が 1 3ある 。 種子が見える 種子が見えない 程度 程度 混合情種区 種 単品区は覆土厚の違いで「種子と同じ厚さ Jr 子 の 2倍の厚さ J r 種子の 3倍の厚さ」に区分さ 図 -1 播種床設定 れ、混合区は覆土厚の違いで「種子が見える程 度Jr 種子が見えない程度」に区分される 。使用した植物は 2 8種で、以下の表の通りであ る。 また、単品での覆土厚「種子と同じ J 、「種子の 2倍 Jはそれぞれ混合での覆土厚「種 子が見える j、「種子が見 えない」と間程度である 。 Anexaminationo f r e v e g e t a t i o nd is s e m i n a t i o nt e c h n o l o g yu s i n gn a t i v ed i s t r i c ts e e d s, Iwateu n i ve r s i t y 2 5 4 酎一献一院一帥 草本 表 -1 試験対象植物 植物名 ウリハダカエデ、ウワミズザクラ、ナナカマド、ミズキ、ミズナラ、コシアブラ ヒメヤシャブシ、ミヤマカワラハンノキ、ヤマモミジ、リョウブ、マユミ エゾアジサイ、ガマズミ、キブシ、クサギ、サンショウ、タニウツギ、タラノキ、 ノリウツギ、ムラ サキシキプ、アキグミ、コマユミ、ホツツジ アカソ、ウド、オオヨモギ、サワヒヨド I人ハンゴンソウ 3 . 調査方法 調査は 2006 年 8 月 9~ 1l日、 9 月 11 日に行った。調査項目は①生存数、②発芽数、③最大 個体長、④最小個体長、⑤平均個体長、⑥被度・群度 ( Braun-Blanquet法)である。 2005春混 合播種区では 28種のうち出現している全てについて①②を調べ、優占度の高しづ種については、 004秋混合区では、優占度の高い植物を 3種選び、それらの③④⑤⑥を調 ③④⑤⑥も調べた。 2 べた。しかし、オオヨモギ、サワヒヨドリ、ハンゴンソウの 3種は①②④を測定しない。 2 0 0 4 秋の覆土厚が 2・3倍区のタラノキは①②④の測定を断念した。 4 . 結果 エゾアジサイとホツツジは 2004秋 、 2005春播種区どちらも発芽しなかった。また、ミズキ、 ミズナラ、ヒメヤシャブシ、ミヤマカワラハンノキ、ヤマモミジ、コシアブラ、ガマズミ、キ ブシ、タニウツギ、ムラサキシキブ、コマユミ、アカソは文献による発芽率に及ばなかった。 ナナカマド、クサギ、アキグミ、オオヨモギは最高で 100%に近い発芽率を示した。全体的に 2004秋播種の発芽率が 2005春播種のそれを上回った(図 . 2 5 ) が、サンショウは 2005春播 種のほうが高かった(図 . 4, 5 )。 1 0 0 切利回 (ぎ)時輸出帆 80 ハンゴンソウ サワヒヨドリ オオヨモギ ウド アカソ ホツツジ コマユミ 2 発芽率平均(等倍 -3倍) ムラサキシキフ 植物名 アキグミ ノリウツギ ヲラノキ サンショウ 9 ニウツギ クサギ キブシ ガマズミ エゾアジサイ コシアブラ マユミ リョウブ ミヤマカワラハンノキ 図 ヤマモミジ ヒメヤシャブシ ミズナラ ミズキ ナナカマド ウワミズザクラ ウリハダカエデ 。 2 5 5 1 0 0 80 40 (ま)時株猷 60 20 ハンゴンソウ ハンゴンソウ サワヒヨドリ オオヨモギ ウド アカソ ホツツジ コマユミ 植物名 アキグミ ムラサキシキブ ノリウツギ タラノキ タニウツギ サンショウ クサギ キブシ ガマズミ エゾアジサイ コシアブラ マユミ リヨウブ ヤマモミジ ミヤマカワラハンノキ ヒメヤシャブシ ミズナラ ミズキ ナナカマド ウワミズザクラ ウリハダカエデ 。 サワヒヨドリ オオヨモギ ウド アカソ ホツツジ コマユミ アキグミ ムラサキシキブ ノリウツギ タラノキ タニウツギ サンショウ クサギ キブシ ガマズミ エゾアジサイ コシアブラ マユミ 60 40 (ま)時株蝋 4 覆 土厚 2倍 のときの発芽 率(単品 播 種 区) 図 植物名 リョウブ ヤマモミジ ミヤマカワラハンノキ ヒメヤシャブシ ミズナラ ミズキ ナナカマド ウワミズザクラ ウリハダカエデ 。 図 -3 覆 土 厚 等倍 のときの発芽率(単 品播種区) 1 0 0 80 20 25 6 1 0 0 8 0 nunu auaaT (ま)時株蝋 2 0 ハンゴンソウ サワヒヨドリ オオヨモギ ウド アカソ ホツツジ コマユミ アキグミ ムラサキシキブ ノリウツギ タラノキ タこウツギ サンショウ クサギ キブシ ガマズミ エゾアジサイ コシアブラ マユミ リョウフ ヤマモミジ ミヤマカワラハンノキ ヒメヤシャブシ ミズナラ ミズキ ナナカマド ウワミズザクラ ウリハダカエデ 。 植物名 図 -5 覆土厚 3倍 の ときの発芽率 ( 単品播 種 区 ) 表 -2 混合 播種 区で、発芽率が 高かった植 物 植物名 覆土厚 発芽率 ( %) 単位粒数 ( 粒 jg) 覆 土厚 決定種 子 ミズナラ 1粒 j. g サワヒヨドリ 1A 4 4. 4 1 8 0 0 ウ ド 1 B 1 9. 4 6 2 8 オオヨモギ 1 B 9 6. 0 1 2 3 8 0 ナナカマド 2A 9 4. 4 1 6 0 リョウブ 2A 6 0 . 0 4 9 6 1 タニウツギ 2A 2 0. 0 3 0 0 5 ムラサキシキブ 2B 2 4. 0 6 1 8 ミヤマカワラハンノキ 3A 1 3 . 0 5 7 0 ※ 区画 ご とに、 混 合 した種子の ヒメヤシャブシ 3 B 2 5. 6 1 1 1 2 中で最も 大き い種子が、見える キブシ 3B 2 2 . 7 6 2 8 か見えないかで覆土厚を決定す アカソ 4B 9 3. 3 7 4 3 1 2 ウワミズザクラ 1 4粒 j. g 3 ミズキ 2 4粒 j. g 4 クサギ 2 6粒 j. g A :見える B :見えない る。 257 表 -3 植物別適切覆土厚 区分 覆土厚 司事情 ウリハダカエデ 高木 亜高木 2 4 h﹃ ﹃ ミ ﹃ 内 ノ シグユ サアコ ガマズミ クサギ タニウツギ タラノキ ノリウツギ ムラサキシキブ アキグミ ウワミズザクフ ナナカマド ミズキ ミズナラ コシアブラ ヤマモミジ マユミ ンキマ 低木 3倍 2倍 ハンゴンソウ 草本 より厚い ナナカマド ヒメヤシャブシ ミヤマカワラハンノキ リョウプ キブシ タニウツギ ムラサキシキブ アカソ ウド オオヨモギ サワヒヨドリ ※等倍: r 種子と閉じ厚さ j 2倍: r 種子の 2倍の厚さ」 3倍: r 種子の 3倍の厚さ」 の他種子の厚さ ※覆土厚の倍数は、 自らの種子の n 倍である。 ※同程度の発芽率、 または単品と混合で判断しかねたものは 2箇所に名前を載せた。 より厚い:混合区で 5 . まとめ いわゆる外来生物法 (2005年施行)を受けて、崩嬢地やのり面の緑化においても郷土種に よる早期の樹林化が求められている。しかし、具体的にどのような種子を播種・植栽すべきか、 保育方法はどうあるべきかなどの体系的な知見はほとんど無く、地域に自生する植物種子を活 用した緑化 工法とし て技術的に確立されていない。そこで、 山 形 県 月 山 周 辺 に 自 生 し て い る 郷土種を用いて行った播種試験結果を調査・分析した。 播種には 2004秋区のように取り播き種子を用いるのが一般的には良い。 そして種子と同じ 厚さの覆土厚では発芽率は高くならないことから、種子は土から露出しないように、覆土厚は 種子の大きさの 2倍以上にするのが良いということがわかった。また、高木・亜高木のほとん どの種子は 3倍程度の覆土厚が良い。 一方、草本のように微小な種子であっても、かなりの厚 さで発芽率が高くなる。このように覆土による種子の保護効果はかなり大きいと思われる。 今後は、覆土厚の範囲をさらに厚くするなどもっと変えること、平場試験での結果なので法 面試験と比較することで法面への適応を図ること、混合播種の植物種の検討などが課題となる。 おわりに本調査で助言と協力を戴いた側輿林秋田支庖の菅生紀光支倍長、工藤重美さん及び 回麦俣地先の遠藤雅芳の各氏に深く感謝し、たします。また 、播種試験地を提供して頂いた国 土 交通省新庄河川事務所に厚く街除L を申し上げます。 引用・参考文献 ∞6 ) :郷土盤の活用調査報告書 新庄河│嘩務折包∞3-2 1 9 8 0 ) :樹木のふやし方ータネ・ホとりから苗木まで一, 関西地区林業誤験研安強関車絡協議会育苗笥詮編 ( 農林出版株式封土 3 40pp. 勝田柾・森徳典・横山敏孝(1伺8 ) :日本の樹木種子(広葉樹締 社団法人桝て育種協会, 410pp. 岡村俊邦包∞4)ι態判官購・混植法の理論実践矧面,財団法人石狩 1 帳興財団, 7 l p p .
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