BIO VIEW 56号 | 新生児ラット心室心筋凍結細胞は、長期培養において

i nnovation
新生児ラット心室心筋凍結細胞は、
長期培養においても正常な形態と機能活性を示す
Anthony Krantis, Ph.D., QBM Cell Science, Inc., Teresa Tam,
Alex Chichirau, and Kenji Kajiura; University of Ottawa, Ottawa, Canada
(Lonza 社 Resource Notes より一部抜粋)
http://www.lonza.com/group/en/products_services/products/catalog_new.ParSys.0007.
File0.tmp?path=eshop/technical_library/LonzaResNotes_08_FINAL.pdf
初代培養細胞として単離された哺乳類の心筋細胞は、心臓生
■ 新生児ラット心室心筋凍結細胞を用いた実験例
理学や薬理学の研究のために in vitro での実験ツールとして
最も一般的に使用されている細胞の 1 つです(Chlopcˇ íková
本稿では、マルチウェルプレートや MEA(microelectrode
arrays:Multi Channel Systems 社)で培養した新生児ラッ
et al. 2001)。培養した心筋細胞は、フリー ラ ジ カ ル
ト心室心筋凍結細胞について、最長 47 日目までの解析結果
ダメージやアポトーシス誘導をはじめ、収縮性の測定、薬物
を示します。MEA では長期にわたる研究や同じ培養での複
動態や毒性、心臓保護作用をもつ化合物のスクリーニング、
数の実験が可能で、同調活性を基礎とする研究のためのネ
心肥大、酸素欠乏や虚血状態の細胞機能分析を含む広範囲な
ットワークコミュニケーション分析、in vitro での細胞ネッ
アッセイに柔軟に使用することができます(Estevez et
トワークの電気的活性を研究することもできます。
al. 2000、Grynberg et al. 1986、Huang 2002、
Jovanovic et al. 1996、Long et al. 1997、Severs et
【方法】
al. 1991、Wang et al. 1999)
。新生児心筋細胞は単離の
新生児ラット心室心筋凍結細胞(生後 1 ∼ 3 日:純度 85 ∼
際 に カ ル シ ウ ム 寛 容 に す る 必 要 が な く( Ray et al.
90 %)を融解し(37 ℃、2.5 分)
、DMEM/F12 に FBS(Fetal
2000)
、培養した新生児心筋細胞は、in vivo の心臓での虚
Bovine Serum)、 Horse Serum、 Penicillin-Streptomycin、
血−灌流に相当する低酸素−再酸素化で、安定した収縮性
HEPES 溶液を加えた培地を添加して、24 ウェルプレート
形質を維持しています。一方、成体ラットから単離された心
中のカバースリップ上に 5.0 × 105 cells/well で、もしく
筋細胞は、in vivo で見られるものとは異なる形質を有してい
は、MEAに 1.5 × 106 cells/well で播種した。培地は 4 時
ます(Yamashita et al. 1994)。
間後と 2 日後に交換した(この後、2 日毎に培地の 80 %を
ラットは最もよく研究された動物種の 1 つで、新生児ラット
交換)
。どちらの方法においても、線維芽細胞の増殖を最
心室心筋細胞では心臓の形態的、生化学的、電気物理学的性
質についてさまざまな研究が可能です(Chlopcˇ íková et al.
少にするため、培地中に BrdU(5-Bromo-2- Deoxyuridine)
を添加した。
2001)。培養した新生児ラット心筋細胞が自発的に拍動す
形態的な評価を行うため、カバースリップ上の細胞を固定
ることは、自己抗体の働きを研究するための非常に有用なモ
し、α-アクチニン(横紋筋の筋節集合部分に局在)および
デルとなります(Wallulat et al. 2002)。
ギャップジャンクションのコネキシン 43(Cx43)の免疫組
初代心臓細胞の調製は集中力が必要な難度の高い作業です。
織染色を行った。
Lonza 社の新生児心筋細胞は、Sprague Dawley ラット
機能的な評価を行うためには細胞の拍動に注目し、個々
(生後 1 ∼ 3 日)の心室から生きた状態で採取され、単離さ
の培養の観察により、細胞の拍動を 60 electrode format
れます。集められた心室心筋細胞は繊維芽細胞の混入を最小
の MEA(心臓 MEA)として記録した。心臓作用活性のあ
限に抑えるように精製され、バイアル中で凍結して液体窒素
る薬剤、10 µM イソプロテレノールや 100 µM カルバコー
で保存されます。凍結細胞はドライアイス梱包で届けられ*、
ル、0.5 mM ヘプタノールで処理された心筋細胞を用い、
融解後すぐに、高品質で高純度の心室心筋細胞の培養が可能
自発的なスパイク活性と個別のネットワークの性質を調
です。これは薬剤スクリーニングや心臓薬理/生理学の研究
べた。記録は、MEA 60 システム(Multi Channel Systems
に大きな利点となり、薬剤開発のスピードアップに繋がりま
社)により 37 ℃で行い、同時にシグナルは 25 kHz でサン
す。また、凍結細胞が利用できることで研究者は細胞の調製
プリングし、MCRack(Multi Channel Systems 社)を使っ
作業から解放され、研究所や大学の動物施設にかかる負担を
て可視化し、データとして蓄積した。分析は特別に作成し
減らすこともできます。さらに、複数の研究者が同一ロット
たソフトウェアによりオフラインで行った。ファイルは
(バッチ)の心臓細胞を使用し、データを得ることが可能にな
Axoscope Binary File format に変換し、Axoscope ソフト
ります。
*すぐに培養を開始しない場合は、到着後速やかに液体窒素
中で保存してください。
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BIO VIEW No.56
(Molecular Devices 社)を使用して表示した。
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【結果】
10 µM isoproterenol
100 µM carbachol
新生児ラット心室心筋凍結細胞を融解後培養したところ、
80 %以上の生存率を示しました。培養した心筋細胞を適
当なタイムポイントで固定し、α- アクチニンとコネキシ
ン 43(Cx43)の免疫染色を行った結果、心筋細胞は 24 時
間以内に良好な形態を示し、細胞間接着が確認されました
(図 1)
。また、培養 24 時間以内に拍動が確認され、電気的
活性を示しました。
図 3 心室心筋細胞は心臓作用性物質に反応する
48 時間培養後には、心筋細胞は電気的な融合体(electrical
心室心筋細胞は 10 µM の isoproterenol(ベータアドレナリン作用薬)
と 100 µM
の carbachol(ムスカリンコリン作用薬)に反応した。また、洗浄により薬剤
効果が減少した。
syncytium :複数の心筋細胞が膜タンパク質を共有して結
合し、ギャップジャンクションを通じて 1 個の細胞のよう
に同調した拍動を行う)の形成を示し、MEA の個別の電
25
Cx43 免疫蛍光染色との間に相関を示しました(図 2)
。
スパイク活性と拍動の同調性は、長期にわたる培養におい
ても維持されました。新生児ラット心室心筋凍結細胞は、
新鮮な新生児ラット心室心筋細胞を薬剤処理した際に観
察される電気的活性と反応性を同様に示し、イソプロテレ
Coupling time〔ms〕
極ポイントの活性とギャップジャンクションを検出する
20
15
10
5
ノールやカルバコールでの処理において、興奮収縮に関し
Baseline
て予測される可逆的な変化を引き起こしました(図 3)
。
Heptanol
Original Media
また、培養 47 日目の細胞を、ギャップジャンクション結合
図 4 ヘプタノール処理によるシグナル伝達の変化
を阻害するヘプタノールで処理したところ、Cx43 免疫蛍
心室心筋細胞を融解し、47 日間培養した。0.5 mM ヘプタノール(可逆性の
ギャップジャンクション結合阻害剤)の処理で細胞間のカップリング時間が
増加し、薬剤を洗浄すると元に戻った。マトリクス分析により、ヘプタノー
ルで誘導されるカップリング時間の増加は MEA 全体で観察されることが確
認された。
光染色と MEA でのカップリング時間に影響が観察されま
した(図 4)
。ヘプタノールはカップリング時間の顕著な増
加を誘導し、薬剤を洗浄すると元に戻りました。
A
B
■ まとめ
Lonza 社のラット心室心筋凍結細胞は、良好な形態と生存
率を示しました。本細胞は培養開始後 24 時間以内に自発
的に拍動し、48 時間後には融合体の拍動が確認できました。
また、すべての心筋細胞間のギャップジャンクションの発
現と電気的活性ネットワークは培養 7 日目でよく観察され、
MEA 電極すべてにわたり力強い活性を示しました。心臓
図 1 心室心筋凍結細胞は体内の心室心筋細胞の形態を保持
心室心筋凍結細胞は、24 時間以内に同調した拍動細胞の細胞間ネットワー
ク、2 次元シンシチウムを構築する。このシンシチウムは、BrdU なしで 13
日間培養された心筋細胞を抗α-アクチニン(緑)で染色した際、低倍率(A)
、
高倍率(B)共に観察される。細胞間の電気刺激接触はギャップジャンクショ
ンタンパク質 Cx43(赤)の免疫染色により観察される。核染色は Hoechst
(青)
による。心房培養(データの記載なし)
は同様の結果を示したが、Cx43、
Cx40 共に免疫染色された。
作用性物質で処理した際には、新鮮心筋細胞との比較から
予想される可逆的な反応を示しました。MEA 上の心筋凍
結細胞を 47 日目まで観察し心臓細胞のネットワークの性
質を解析した結果、記録ポイント間でカップリングタイム
に反映されるネットワークシグナリングは培養 47 日目で
さえ力強く確認でき、ギャップジャンクション阻害剤であ
るヘプタノールの処理により劇的に(しかし可変的に)減
凍結細胞
Day8
新鮮細胞
Day8
少しました。
■ 製品一覧
・ラット心室心筋細胞
製品コード R-CM-561
1 Vial
¥83,000
®
・ラット心室心筋細胞培地キット(RCGM BulletKit )
製品コード CC-4515
1 Kit
¥21,000
図 2 心室心筋凍結細胞は電気生理活性を保持している
本凍結細胞と新鮮な細胞の、それぞれ培養 8 日後の電気的活性の MEA
(Microelectrode Array)記録を示す。規則的な自発的電気活性が、1 秒 episode
の間に MEA アレイの 60 個の電極の 15 個で起こっていることがわかる。注
目すべきは、全ての電極場所で、電気活性が同調していることである。
*上記は Lonza 社の製品です。
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