Title 1970年代と比較した釧路湿原における水循環機構解析 Author(s

Title
1970年代と比較した釧路湿原における水循環機構解析
Author(s)
丸谷, 靖幸, 菅原, 庸平, Abliz, Aynur, 石田, 哲也
, 中山, 恵介, MARUYA, Yasuyuki, SUGAWARA, Youhei
, ISHIDA, Tetsuya, NAKAYAMA, Keisuke
Citation
Issue Date
URL
土木学会論文集B1 (水工学), 67(4): 547-552
2011-03
http://hdl.handle.net/10213/1877
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Journal Article
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information
http://kitir.lib.kitami-it.ac.jp/dspace/
土木学会論文集B1(水工学)Vol.67,
No.4, I_547-I_552, 2011.
水工学論文集,第55巻,2011年2月
1970年代と比較した釧路湿原における
水循環機構解析
ANALYSIS OF MECHANISM OF WATER CIRCULATION IN KUSHIRO
WETLAND FROM COMPARISONS WITH 1970S
丸谷靖幸1・菅原庸平1・Aynur Abliz2・石田哲也3・中山恵介4
Yasuyuki MARUYA, Youhei SUGAWARA, Aynur Abliz, Tetsuya ISHIDA and Keisuke
NAKAYAMA
1学生会員 北見工業大学大学院 土木開発工学専攻(〒090-8507 北見市公園町165番地)
2非会員 北見工業大学大学院 寒冷地・環境・エネルギー工学専攻(〒090-8507 北見市公園町165番地)
3正会員 国土交通省 北陸地方整備局 信濃川河川事務所(〒940-0098 新潟県長岡市信濃1-5-30)
4正会員
博(工)
北見工業大学工学部
社会環境工学科(〒090-8507
北見市公園町165番地)
Kushiro wetland located in the eastern part of Hokkaido was registered by Ramsar Treaty in 1980,
and was registered as a national park in Japan in 1987. The previous studies reveal that the area of alders
have been expanding, which results in the decrease in the wetland area in the past 30 years. It is
demonstrated that the increase in alders is due to the accumulation of sediment and the increase in
nutrient in the wetland. However, the mechanisms, which control sedimentation and nutrient transport,
have not been clarified. Therefore, this study aims to understand the mechanism of water circulation in
Kushiro wetland by using distributed hydrological model from the comparisons between 2003 and 1970s.
As a result, rainfall pattern is found to change which leads to in the increase in discharge from 1970s to
2003.
Key Words: Ramsar treaty, Climate change, Water circulation, Distributed hydrological model,
Nutrient
1. はじめに
北海道東部に位置する釧路湿原は,1980年に日本で最
初にラムサール条約に登録された湿地であり,1987年に
は国立公園に指定された.湿原の多くの部分はヨシやス
ゲで覆われているが,中層から高層湿原にかけてミズゴ
ケなどが生息している.釧路湿原の中央を流れる釧路川
の源流は屈斜路湖であり,豊かな水源に恵まれた湿地で
ある.
近年,低層に広がるヨシがハンノキにおきかわってい
湿地の陸化の原因としては,
る状態が報告1),2)されている.
土砂堆積,地下水位の低下,河床低下が考えられる.過
去の報告から,河床低下は釧路川流域では平均河床高が
昭和60年から平成7年にかけて低下している時期はあるが,
湿地の陸化に大きな影響を及ぼすほどの河床低下ではな
いと言われている3).また,地下水位は過去の報告によ
り安定していることが確認されているため1),地下水位
に関しても湿地の陸化には大きな影響を及ぼしていない
と考えられる.そのため主たる原因は土砂の流入による
乾燥化であると言われている4),5).釧路湿原は,人為的な
図-1 研究対象流域(釧路湿原)における河道と
雨量,流量観測所.
整備はされておらず,河川上流から土砂が流入し,釧路
川を上流・中流での氾濫頻度が減るよう,蛇行していた
ものを直線化したため,下流まで土砂が到達し易い状況
になり,河道から氾濫することで湿原域に土砂堆積が生
じている.また,その湿原域での土砂の堆積状況は50cm
I_547
a. 8
(mm/day)
6
b. 8
(mm/day)
6
Kussharo
Nakaosobetsu
Kussharo
Nakaosobetsu
4
4
2
2
0
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
year
0
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
year
図-2 1970年から2005年までの5年ごとの1時間雨量強度の5月から11月までの平均値(屈斜路と中オソベツ).
(a) 黒:5月,赤:6月,紫:10月,緑:11月,(b) 水色:7月,ピンク:8月,オレンジ:9月.
a.
8
(mm/day)
6
b.
8
(mm/day)
6
Kussharo
Nakaosobetsu
c.
8
(mm/day)
6
Kussharo
Nakaosobetsu
4
4
4
2
2
2
0
1970
1975
1980
1985
1990
year
1995
2000
2005
0
1970
1975
1980
1985
1990
year
1995
2000
2005
0
1970
Kussharo
Nakaosobetsu
1975
1980
1985
1990
year
1995
2000
2005
図-3 (a) 7月から9月の夏季における日降水量の5年平均値.(b) 5月,6月,10月,11月における日降水量の5年
平均値.(c) 5月から11月までの日降水量の5年平均値.(屈斜路と中オソベツ).
程度であるという調査結果が報告されている.土砂堆積
による乾燥化の他に,人為的な土地利用変化などの影響
もあり,栄養塩の貯留がハンノキの領域増大に影響を及
ぼしているのではないかとも報告されている6),7).
しかし,
栄養塩の変化が,直接的にハンノキ林の拡がりに影響を
与えているかどうかについては未解明である.
そのため,
栄養塩の影響を検討するためには,過去の栄養塩分布を
推定し,現在までにどのように変化したかを解明しなく
てはならない.
一方で, 気候変動等による気象条件の変化が顕著に
なってきており,降雨パターンが大きく変化してきてい
る.そのため,良好な状態が保たれていたと考えられて
いる1970年代における水循環機構と,現在における水循
環機構には大きな差が生じていると推測される.
しかし,
これまでに釧路湿原を対象とした気候変動の影響に関す
る検討は十分に行われておらず,過去から現在において
どのように気象条件が変化してきたかを理解する必要が
ある.特に,乾燥化の原因とされている土砂流入は夏季
の洪水時に発生するものであり,1970年代から現在まで
において,夏季における雨量がどのように変化してきた
かを理解しなくてはならない.
過去の研究における,水循環や栄養塩循環に関する研
究としては,釧路湿原における浸透に関する検討を行っ
た研究など8),9)が存在する.しかし,気象条件の変化を考
慮し,
水循環機構を理解することができるものではない.
水循環機構の解明のための重要なツールとしては,分布
型流出モデルを挙げることができる.分布型流出モデル
は,流域における降雨・浸透・流出過程を物理過程に基
づいて再現・理解できるという特徴を持ち,過去に融雪
期における流量再現など10),11),12)に用いられている.以前
は,計算負荷が問題であったが,現在では市販のPCで十
分な計算速度を得ることができている.
そこで本研究では,釧路湿原における水循環機構解明
のため,1970年代から現在までにおける降雨や流量の解
析を行い,その結果に基づき,過去において現在とどの
ように異なる水循環機構が発生していたかを解明するこ
とを目的とする.解析には,分布型流出モデルを利用す
ることとする.
2. 1970年代からの雨量強度と流量観測結果
(1) 雨量強度の観測結果
1970年代から現在までにおける雨量強度の変化につい
て検討するために,
1時間雨量強度が1970年から入手可能
な,国土交通省北海道開発局釧路開発建設部により観測
された観測結果を利用することとした.近年問題となっ
ている気候変動等の影響により,降雨パターンが大きく
変化してきており,その影響が過去の釧路湿原の水循環
機構と現在の水循環機構に大きな差を生じていると推測
される.そこで本研究では,気候変動等の影響により大
きく変化してきている1970年から2005年までの間の5月か
ら11月までのデータを使用し解析を行った.観測地点は
屈斜路および中オソベツの2地点を用いた(図-1).
長期的な季節変動の傾向をみるために,5月から11月ま
での5カ年ごとの日降水量の平均値を計算した(図-2).
その際,月に1つでも欠測データが存在する場合には,そ
の月の平均値は用いないこととし,正確な月平均を推定
するように気を付けた.その結果,1971年から1975年ま
での5カ年で,屈斜路の6月データにおいて必ず欠測デー
タが存在していたため,
屈斜路の6月の日降水量の平均値
を推定できなかった.
夏季を7月から9月と考えると,日降水量の時系列変化
に明確な差が生じていることが確認された.7月から9月
は徐々に増加傾向であり約30年間で5年平均日雨量が約
1.7倍となっており,
その他の季節では減少傾向であった.
傾向をより明確に確認するために,7月から9月とその他
I_548
40
(m3/s)
30
表-1 2003年の再現計算に対する各地点における
再現精度の評価.
20
10
0
1970
1975
1980
1985
1990
year
1995
2000
Station name
NSE
RMSE
CoD
Setsuri
0.5589
4.8243
0.6838
ShimoOsobetsu
0.7350
4.1017
0.7407
Hororo
0.7481
2.8615
0.7938
Gojukkoku
0.5589
7.2416
0.8067
2005
図-4 7月から9月の夏季における流量の5年平均値
(標茶).
の季節に分けて日降水量を計算したところ,夏季におい
て約1.5 mm/day程度の増加,その他の季節において同じ
く約1.5 mm/day程度の減少が確認された(図-3).本研
究対象流域内である中オソベツで確認すると,夏季にお
いて2003年では約1.3倍,それ以外の季節では約0.7倍とい
う傾向となっていることが分かった(図-3(a),(b)).つ
まり,5月から11月までの日降水量をみると過去30年間で
変化していないように見えるが,実際には季節的に大き
く変動していることが確認された(図-3(c)).
(2) 流量の観測結果
釧路湿原で問題となっている土砂の堆積に関して調べ
るには,日流量,時間流量やある規模以上の流量の発生
頻度について調べる必要がある.しかし,流量などの変
化は長期間かけて変化しており,その変化を理解するた
めには日流量や時間流量などの細かな変化ではなく,月
流量などの大きな部分での変化を調べる必要がある.そ
こで本研究では,最初の段階として長期的な季節変動に
着目し解析を行った.前節で示された7月から9月の日降
水量の増加が,釧路湿原に流入する河道にどのような影
響を与えているかを理解するために,標茶(図-1)にお
ける1981年から2005年までの1時間間隔流量の5年平均を
計算した(図-4).1980年あたりでは平均流量22~23 m3/s
であった流量が,2000年程度まで徐々に30 m3/s程度まで
増加していたことが確認された.この傾向から1970年代
の流量を推定すると,
2000年あたりの流量の約0.7倍であっ
たということが推測される.
約30年間で5年平均日雨量が約1.7倍,約20年間で平均
流量が1.4倍であり,その増加量は無視できないものであ
ることが確認された.釧路湿原で問題となっている土砂
の堆積によるハンノキ林の領域拡大は,特に洪水時に引
き起こされる現象であると考えられる.そのため,人為
的な土地利用状態の変化などの影響も考えられるが,夏
季における降雨量が増大し,洪水の規模が拡大しつつあ
ることも土砂流出に拍車をかけているのではないかと考
えられる.
モデルが,流域からの流出,細粒土砂輸送等の再現を出
来ることが示されている13).そこで本研究においても,
過去の研究で使用されているモデルと同様な仕組みのモ
デルを作成し,解析を行うこととした.表面流には
kinematic wave方程式,浸透流にはRichardsの式に基づく
不飽和浸透流方程式,河道流にはkinematic wave方程式を
用いた.過去の研究において洪水時における樹幹通過率
が広葉樹では74%,針葉樹では60%であると言われてお
り14),本研究で使用したモデルには地下浸透が考慮され
ていないため,蒸発散と地下浸透の効果は雨量を0.6倍と
することで与えた.この値は,雨量と流量から得られる
流出率から得られた値である.
本研究では,釧路湿原を研究対象流域とするため,図
-1の黒枠で囲まれた部分において再現計算を行った.研
究対象流域よりも上流からの流量は全て標茶に流れてく
るため,標茶からの実測流量を与えた.計算に用いた流
域モデルは500mメッシュ,計算時間間隔は10秒間隔とし
た.また,土地利用の変化は考慮せず,浸透層厚は流域
一様に5mとし,
次節で示すNSE,RMSE,CoDを使用し水平,
鉛直の透水係数の最適化を行った.
その結果から,
水平,
-5
-4
鉛直透水係数は流域一様に8.0×10 m/s,8.0×10 m/sと
した.また,河道の粗度係数は一様に0.018とした.雨量
は図-1で示す屈斜路を除いた雨量観測所の値をティーセ
ン分割することによって与えた.
(2) 2003年の再現計算結果について
本研究で使用するモデルには融雪モデルを組み込んで
いないため,融雪の影響を考慮しなくて良い,2003年6
月から2003年11月を対象期間とし再現計算を行った(図
-5).透水係数の最適化のため,雪裡,幌呂,下オソベ
ツ,
五十石の4地点
(図-1)においてNash-Sutcliffe efficiency
15)
coefficient(NSE) ,Root Mean Square Error(RMSE),
Coefficient of Determination(CoD)を以下の式を用いて計算
を行った(表-1).
N
NSE  1 
 Q
 Q mea,i 2
i 1
 Q
i 1
(1) 分布型流出モデル
過去の研究において,物理過程に基づいた分布型流出
I_549
N
  Q
mea,i
 Qmea
2 (1)
i 1
N
RMSE 
3. 分布型流出モデルによる洪水再現性の検討
cal ,i
mea,i
 Qcal ,i 2 N
(2)
a. 200
(m3/s)
150
0
(mm/hr)
25
100
rain
field observation
computation
50
50
75
0
100
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/29 10/1911/8 11/28
2003
c. 200
0
(mm/hr)
(m3/s)
150
25
rain
field observation
computation
100
50
50
b. 100
(m3/s)
80
0
(mm/hr)
20
60
rain
field observation
40
computation
40
60
20
80
0
100
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/2910/19 11/8 11/28
2003
d. 600
0
(mm/hr)
(m3/s)
rain
450
25
field observation
computation
300
50
150
75
75
0
100
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/29 10/1911/8 11/28
2003
0
100
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/29 10/1911/8 11/28
2003
図-5 雪裡,幌呂,下オソベツ,五十石における2003年6月から11月までの観測結果と再現計算結果.(a) 雪裡,
(b) 幌呂,(c) 下オソベツ,(d) 五十石.
0
(mm/hr)
a. 150
(m3/s)
100
rain
computation2003 33.3
computation1970
50
66.7
60
20
80
0
(mm/hr)
20
40
rain
computation2003
computation1970 40
60
20
80
60
0
100
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/29 10/19 11/8 11/28
1970
c. 100
0
(mm/hr)
(m3/s)
20
80
rain
computation2003
computation1970 40
60
40
b. 100
(m3/s)
80
100
0
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/29 10/19 11/8 11/28
1970
d. 600
0
(mm/hr)
(m3/s)
25
450
rain
computation2003
computation1970 50
300
150
75
0
100
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/29 10/19 11/8 11/28
1970
100
0
6/1 6/21 7/11 7/31 8/20 9/9 9/29 10/19 11/8 11/28
1970
図-6 雪裡,幌呂,下オソベツ,五十石における1970年代の雨量,流量の特徴を考慮した6月から11月までの再現
計算結果.(a) 雪裡,(b) 幌呂,(c) 下オソベツ,(d) 五十石.
 N

Qcal ,i  Qcal  Q mea ,i  Q mea

 i 1

CoD 

N
 Q
i 1
cal ,i
 Qcal
N





2
   Qmea,i  Qmea 
2
(3)
2
て欠測している時間が多いためである.しかし,CoDが
0.8以上あれば良好な結果であると言われており,CoDが
0.8以上となっているため,良好な再現性を示しているこ
とが分かる.
i 1
ここで,Q cal ,i :各時間における流量の計算値,
:Q mea ,i
各時間における流量の実測値,Qcal :流量の計算値の平
均値, Qmea :流量の実測値の平均値である.
その結果,幌呂は多少計算値が実測値を上回っている
が,良い再現性を示していることが確認出来た.下オソ
ベツは,
計算値が最大ピーク流量を多少下回る結果となっ
ているが全体的に良好な再現をすることが出来ているこ
とが確認出来た.雪裡は,計算値は実測値と同様な流量
の挙動を示しているが,全体的に計算値が実測値よりも
大きい結果となっている.また,計算値が最大ピーク流
量を下回る結果となっている.これは,本研究では雨量
をティーセン分割し与えているため,使用した雨量観測
所の設置密度が小さすぎたという問題があったのではな
いかと思われる.五十石は,NSE,RMSEがあまり良い
結果を得ることが出来ていない.これは,実測値におい
4. 1970年代と2003年との比較
(1) 1970年代の特徴を再現した雨量強度について
第2章で行った雨量,流量に関する検討結果を考慮し,
2003年の雨量に対し,6月,10月,11月が1.3倍,7月から
9月が0.7倍とし,計算期間において割合を相対的に1とな
るように与えた.また,標茶からの流量に関しても雨量
と同様な割合とした.境界条件や流域メッシュサイズ等
は2003年の再現計算と同様とし,1970年代の特徴を考慮
した再現計算を行った(図-6).その結果,詳細に見る
と1970年代は2003年よりも夏季における雨量が少なく,
流量も比較して小さかったことが分かる.
(2) 再現結果の解析
近年,上流域における農用地への開発に伴う,栄養塩
I_550
N
N
2
St.3
St.2 A
!
St.1! A
!
A
2
! tracer point
A
! tracer point
A
St.3
!
!
A
A
St.2
!
A
!
St.1A
A
!
A
!
Forest
Others
Lake
Waste land
Farmland
Building lot
0 7,300
21,900 (m)
3,650 14,600
Forest
Others
River, Lake
Waste land
Farmland
Building lot
Road
Golf field
0 7,300
21,900
3,650 14,600
29,200
(m)
29,200
図-7 研究対象流域(釧路湿原)における1976年と2006年の土地利用の変化.(a) 1976年,(b) 2006年.
表-2 St.1,St.2,St.3におけるtracerによる滞留時
間計算結果(単位:year).
St.1
St.2
St.3
1970
2003
18.94
24.13
17.93
18.71
24.13
17.86
表-4 釧路湿原における森林,畑地,牛による汚濁
負荷原単位.
Forest(t/km2/year)
St.1
Field
Pasture
Forest
Waste land
Building lot
Road
Others
River, Lake
Marine beach
St.2
2006
33.786
61.214
233.75
13.75
1.75
0.75
1
0.5
0
1976
3.361
5.889
103.5
8.5
0
0
0
0
0
TN
0.365
1.06
378
TP
0.013
0.14
56
表-5 原単位を用いた図-7におけるSt.1,St.2,St.3の
流域からの1976年と2006年の比較TN,TPの負荷量
(単位:t/year).
表-3 図-1におけるSt.1,St.2,St.3の流域の土地利
用区分と面積の1976年と2006年の比較
(単位:km2).
1976
13.624
23.876
297.75
11
0.25
0
0
0.75
0
St.3
2006
10.047
18.203
81.25
10.25
0.25
0
0.5
0
0
1976
15.532
27.218
297.25
45.5
0.75
0
0
2.25
0
Field(t/km2/year) Cow(g/head/day)
1976 TN
TP
St.1
2006 TN
TP
1976 TN
TP
St.2
2006 TN
TP
1976 TN
TP
St.3
2006 TN
TP
2006
36.809
66.691
220.75
49
4.5
2
1.5
4.75
0
流入量の増加,蓄積傾向であるのではないかと言われて
いる 6),7) .そこで, 1970 年代と 2003 年では図-7 の
St.1,St.2,St.3周辺で急激にハンノキが増加しているため,
各地点の1km×1kmの 範囲に濃度1のトレーサーを初期
条件として与え,再現計算を行い,滞留時間の計算・比
較を行った(表-2).滞留時間とは,全てのトレーサー
がその場から移動するのに要する時間のことである.滞
留時間が長ければ,物質や栄養塩が蓄積し易いというこ
とを示す.その結果,1970年代と2003年では約1~3か月
程度の差はあるが,ほぼ同様な結果となった.このこと
から,雨量の変化は滞留時間に影響を及ぼしておらず,
雨量の変化がハンノキ増加に影響を及ぼしているかもし
れないと言われている栄養塩の増加に影響を及ぼしてい
ないことが分かった.ただし,水平方向の交換のみを考
慮した滞留時間の計算であり,今後,鉛直方向の交換の
効果を考慮した検討が必要であることを記しておく.
次に,上流域の農用地への開発に伴う栄養塩負荷量が
実際に増大しているのか比較を行った.国土数値情報で
最も古い土地利用データである1976年と最も近年に近い
土地利用データである2006年を使用した(図-7).国土
数値情報では,畑地・牧草地をまとめて農用地としてい
Field Pasture Forest Total
14.44 625.88 108.68 749.00
3.87
98.50
1.91
92.72
35.81 1604.68 85.32 1725.81
245.50
4.73 237.73 3.04
154.38 37.78 195.72
3.56
24.69
22.87
0.47
1.35
10.65 477.18 29.66 517.49
70.69
73.16
1.41
1.06
16.46 713.51 108.50 838.47
105.70 3.86
111.73
2.17
39.02 1748.25 80.48 1867.75
259.00 2.87
267.02
5.15
るため,研究対象領域内にある北海道阿寒郡鶴居村の
1976年,2006年の統計データ16)を利用し,畑地・牧草地
それぞれの割合を掛け合わせることで,各年の流域の畑
地・牧草地の面積を算出した.各地点に対する流域に分
割し,土地利用毎の面積を求めたところ,近年では森林
が急激に減少し,農用地が増えていることが分かる(図
-7,表-3).
過去の研究において本研究と同様な北海道東部に位置
する常呂川・網走川流域の土地利用毎の栄養塩負荷量を
推定したものが存在する17).そこで,本研究では,同様
な北海道東部であり,地形的な特徴も似ているというこ
とから,常呂川・網走川流域の推定値の平均を使用し,
森林から農用地への開発による栄養塩負荷量の比較を行
うため,森林・畑地・牧草地のみを対象とした(表-4).
牧草地に関して,研究対象領域では酪農は牛が主である
ため牛のみを対象とし,過去の研究により環境保全の面
から1ha当たり1.9頭以下が上限であるという研究が存在
するため,この頭数を計算に使用した18).
各地点における栄養塩負荷量の比較を行ったところ,
2006年では1976年よりもT-N,T-Pが約2.2倍~約3倍増加し
I_551
ていると推測された(表-5).栄養塩負荷量がハンノキ
の増加に影響を及ぼしている可能性があると言われてお
り,2006年では1976年よりも栄養塩負荷量が増加してい
る可能性があることから,栄養塩負荷量がハンノキの増
加に影響を及ぼしていると推測された.今後は,本研究
で使用したモデルにSSを組み込み,土砂流入の影響も評
価する予定である.
4) 新庄久志,ハンノキ林に見る釧路湿原の変容.北海道の湿原
の変遷と現状の解析-湿原の保護を進めるために-(北海道湿
原研究グループ編),財団法人自然保護助成基金1994・1995
年度研究助成報告書,pp.223-239,1997.
5) 寶三英子,中村太士,矢島祟,孫田敏,渋谷健一,釧路湿原
の河川流入部における植物群落の構造と表層体積土砂の特性,
砂防学会研究発表会概要集,pp.47-48,1996.
6) 橘治国,中村信哉,中川亮,釧路湿原温根内地区の地下水質
5. おわりに
と土壌,北海道の湿原-財団法人前田一歩園財団創立20周年
本研究では,釧路湿原における気象条件の1970年代か
らの変化を考慮し,洪水流出形態に関する検討を行い,
以下のような結論を得た.
(1) 1970年から2003年までの5月から11月の雨量強度の
変化を検討すると,
全体では特に変化していないが,
5月,6月,10月,11月において減少傾向,7月~9
月までが増加傾向であることが分かった.
また,
1981
年から2003年までの7月から9月までの5年平均の流
量を比較すると,増加傾向であることが分かった.
(2) 2003年の流量再現を行い,良い再現性を得ることが
出来た.その結果を利用し,雨量強度,流量の傾向
を考慮することで1970年代の流量再現をすることが
出来た.
(3) 近年,栄養塩が堆積傾向であると言われている.そ
こで,雨量の傾向が異なる1970年代と2003年におい
て,ハンノキが増加している3地点に1km×1kmの範
囲に濃度1のトレーサーを与え,雨量によって滞留
時間に与える影響の比較を行った.その結果,滞留
時間には雨量の変化は影響を及ぼしておらず,ハン
ノキの増加には関係がないのではないかと考えられ
る.
(4) 上流域の農用地への開発に伴う栄養塩負荷量に関し
て1976年と2006年の土地利用データを使用し比較を
行ったところ,近年では森林が急激に減少し,農用
地が増えていることが分かった.そのため,T-N,
T-Pが2006年では1976年よりも約2.2倍~3倍増加し
ていることが分かった.
謝辞:本研究を進めるにあたり,国土交通省北海道開発
局釧路開発建設部の協力の下実施されました.
本研究は,
北海道河川防災センターの助成を受けて実施されました.
記して感謝の意を表します.
記念論文集,pp.9-12,2002.
7) 橘治国,辰巳健一,泥炭地環境保全と地下水質,土壌の物理
性,第105号,pp .99-109,2007.
8) 相木日出男,藤間聡,釧路湿原における透水係数の空間分布
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(2010.9.30受付)