インクルーシブ撒冒における「協同手習■』の有効性暫麗する研究 特別支援教育学専攻 M06161D山本ゆう 《序 章》 に基づき、集団の競争は用いず、集団化課程を重 r共生社会」を指向する我が国の特別支援教育 視し、集団運営に関わる訓練にカをいれているこ 体制は、多様な子どもたちを内在させるインクル とに特徴を持つ。 ーシブ態勢であるといえる。 そして、Johnsonらは協同学習が成立するため 今後あらゆる学校場面で、多様な子どもたちの に、次の5つの基本的構成要素をあげている。 教育的二一ズに応じつつ、子どもたち同士の関係 ①促進的相互依存関係、②対面的な相互作用、 の構築が図られる有効な学習方法の必要性がみ えてくる。 ③個人としての責任、④対人技能や小グループ 運営技能、⑤集団改善手続きである。 本研究では、子どもたち同士の相互作用を通し また、これらの基本的構成要素が設定されるよ て、教科の知的側面の理解とともに、対人技能の う、教師の具体的な手立てを、次の「19のステッ 習得を目指して展開される「協同学習」の導入を プ」に分けて整理している。 提案し、その適切性を検証することを目的とする。 第2章協同学習の検証 本研究では、インクルーシブな教育環境である 第1章協同学習(Cooperat1veLearning) と認識される対象に、Johnsonらの「協力学習法」の手 1節 協同学習の理論 「協同」とは集団成員全員が同時に到達できる 法を参考1こ、「協同学習」による授業実践を行い、 ような目標が設定されている事態をいう。 効果を検証することとした。 1節検証I (Deutsch.1949) (1)対象 そしてr協同」の事態が及ぼす効果について杉 江(2004)は、「仲間との信頼関係に支えられた X県下Y小学椥こ在籍する第4学年1∼3組 人間関係がもたらす動機付けの高まりと、成員間 の児童95名。 の相互作用と、彼らの自立的な活動によって、集 団およびその成員の成績や習得にポジティブな 学級は3学級とも小学校通常の学級である。 効果をもたらす。また、協同の過程で、社会的技 しかし、それぞれの学級において教育的二一ズ 能や社会関係面での成員の成長と、あわせて成員 の必要性が考えられるr気になる子ども」が在籍 個人の自専心、自立性を高める」と述べる。 する。また、そのうち1名は、自閉的傾向と知的 この「協同」の理論を基にして学習活動が展開 な遅れが見られ、特別支援学級への在籍が進めら されるように取り組まれるものが「協同学習 れる児童である。主な対象とした児童は3名であ る。この児童らの様子はそれぞれであるが、共に (CooperativeLeaming)」である。 生活態度、学習場面、級友関係での困難性を抱え 2節Jo㎞sonらの「協力学習法(LearningTogether)」 ている。 アメリカ合衆国の全障害児教育法が制定され (2)方法 たことによる、健常児と障害児との統合教育への 1)「切り絵」教材を用いて「協同学習」の授業を展開 要求に応じるために考案されたJohnsonらの「協力 する。 学習法(Leam{ng Together)」がある。これは、「単に 2)授業中の子どもたちの様子を観察し、エピソード 障害児を通常の学級に措置するだ1ナでは積極的 として質的分析を試みる。 な人間関係を十分に構築できなし、」という考え方 3)授業終了後に子どもたちに授業についての感想(自 由記述)を書いてもらい、結果を分析する。 一184一 (3)結果と考察 教師による個別の支援があったことが考察され 〈エピソードから> た。さらに、生徒らが学習を最後まで投げ出さず 子どもたちの様子に、協同学習の基本的構成要 にそれぞれが課題を達成できた要因として、能力 素である【促進的相互依存関係】【対面的相互作 に応じた学習内容の配慮も重要であったと考え 用】に関わる効果が多くみられた。そして【対人 られた。 技能や小グループ運営技能】など、協同する技能 に関する力が子どもら1こ習得される様子がみら 《終章 総合考察》 れた。また、これらが発現するに際しては、子ど 1節協同学習の適切性 (1)関係性への効果 もたちにr協同」するという意識が明確に意識さ れていたことが考察された。 協同の意識が自覚され、協同の技能が習得され、 〈感想から> 協同の肯定的な体験的理解が促進された様子が 子どもらの感想に、仲間との協同を喜ぶ記述が みられた。これは、子ども同士の関係性が構築さ 多く見られた。これは子どもたち1こ活動を通じて れるための条件が設定されていると考えられた。 (2)教育的二一ズヘの対応 経験された協剛こよる情意的経験が、強く子ども たちに影響したと考察される。これは、協同学習 学習への意欲と動機付けの高まりが期待され、 の重要な要素である、協同の体験的理解の促進に 学習への課題・内容への配慮と個別への支援が可 つながるものと考えられた。 能であることが示された。これは、多様な教育的 2節 検証皿 二一ズをもつ子どもたちの存在するインクルー (1)対象 シブな教育環境において有効であるものと考え X聴覚特別支援学校の中学部2年に在籍する られた。 生徒4名。 学級は聴覚特別支援学校の単一障害学級である。 2節今後の課題と展望 しかし、生徒らは聴覚障害固有コミュニケーショ 本実践において、インクルーシブな教育環境に ン手段の相違による対人関係の問題や、学習面で おけるr協同学習」の適切性は示された。 の教育的二一ズがみられる。さらに、軽度の知的 しかし、「協同学習」自体のもつ運営の難しさ な遅れがみられる生徒も在籍する。 が課題となり残った。今後インクルーシブな教育 (2)方法 環境において、あらゆる対象と内容が考えられる。 1)社会科の授業において一斉授業と協同学習の授 しかし、活動の目標を協同化するよう指導の工夫 業を展開する。 がなされることにおいて、あらゆる活動が「協同 2)一斉授業と協同学習の終了後に小テスト(自由 学習」になり得るのである。r協同学習」それ自 記述)を行いそれぞれの学習効果を比較する 体が、協同への理論的 実践的工夫なのである。 3)授業中の生徒らの様子を観察し、エピソードと 協同学習が、子どもたち同士の関係の構築と、 して取り上げ、質的分析を試みる目 一斉授業に困難性を持つグループの学習への有 (3)結果と考察 効な教育方法であることが示唆された。さらに今 協同学習の基本的構成要素である【促進的相互 後、その理論的実践的工夫が蓄積されていくこ 依存関係】【対面的相互作用】【個人としての責任】 とが期待される。 に関わる効果が多くみられた。生徒らに学習への 意欲や動機付け、学習内容の理解、習得の促進が 主任指導教員 河相 善雄教授 見られることが考察された。 指導教員 河相 善雄教授 また、生徒らの学習効果を高めた要因として、 一185一
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