Space Utiliz Res, 23 (2007) ©ISAS/JAXA 2007 微小重力条件下で V 型コラーゲン線維を利用したアダルト腎糸球体と発生 期尿管芽の融合 筑波大学 生命環境科学研究科 王 碧昭、村澤裕介 Fusion of adult glomruli and developmenting ureteric buds by type V collagen fibrils under microgravity Pi-Chao Wang and Yusuke Murasawa Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba City, Ibaraki, 305-8572 E-Mail: [email protected] Abstract: Human kidney consists of one million of nephrons which is the basic unit for the filtration of blood, excretion of urine, secretion of cytokine and re-absorption of electrolytes. Every nephron comprising glomerulus and tubule with complicated structure and full of blood capillaries can hardly be re-constructed by current techniques. In this study, we constructed nephrons by fusing adult glomeruli to ureteric buds with a newly dynamic scaffold-type V collagen fiber under micro-gravity. Type V collagen fiber was reconstituted in vitro and used as a new scaffold for cell and tissue culture in this study. Key words; glomeruli, ureteric bud, type-V collagen fibril, fusion, microgravity 現在、再生医療的に腎患者を治療するアプローチ は未知であり、機械的透析機があるとはいえ、イオ ン再吸収など、糸球体機能の具現化した人工腎臓、 ホメオスタシスの維持を具現化した腎の回復研究 は皆無であり、特に、毛細血管路と上皮尿路との融 合形成からなる糸球体組織再生が難しい。 近年、発生期腎組織を用いた in vitro での腎構 築が試られているが、腎糸球体部分の血管組織が形 成されず、機能するネフロン形成の知見は未だ得ら れていない。発生期後腎の組織形成は、上皮系尿管 芽と周囲間葉との協調成長、間充織細胞の分化から 由来する上皮、血管内皮細胞の糸球体形成、既存血 管浸潤由来、腎内細動静脈網の各組織化の相転移が 絡み合って進行する。このとき、細胞と因子の住み 分けと交流が大事になる。 我々が新たな細胞足場(細胞外マトリクス、ECM) −V 型コラーゲン−を着目し、コラーゲン繊維を再 構築した。V 型コラーゲン繊維を用いた腎糸球体細 胞の培養実験を行った結果、糸球体細胞に対し V 型コラーゲン繊維が三つの役割を解明した。①細胞 が自由運動しながら、接着している状態を作り出す、 形態変化過渡期の環境を提供する。②細胞間相互作 用を高め、組織化を進める ECM である。③早急に 消化され、一過性で存在し、次環境にバトンタッチ する ECM でもある。我々は V 型コラーゲン線維が 細胞周辺の微小環境にダイナミクス化と安定化を 与えるする特徴を着目し、細胞足場の微小環境をダ イナミクスとニッチ安定との反復を許す、自由ニッ チこそが腎組織形成の鍵であると考え、この自由ニ ッチを誘導する V 型コラーゲン繊維を利用すると 同時に、胎児が母体の羊水中に成長する環境を模擬 する、擬微小重力を導入する。この V 型コラーゲン 線維を足場とする静置培養系と、微小重力を導入す る擬微小重力培養系に、アダルト糸球体と発生期後 腎と共培養することで、腎糸球体形成、尿細管と糸 球体との融合、血液と尿の流路形成という一連の流 れの解明に挑んで、臨床実用化可能な腎臓の in vitro 構築技術開発を目的とする。 具体的な方法としては、静置培養プレートと擬微 小重力培養装置(RWV:Rotary Wall Vessel)を使 用し、3次元培養環境を発生期後腎とアダルトの腎 糸球体の協調培養系に与えた。アダルトマウス腎糸 球体はメッシュ法で単離し、数十個を RWV に導入す る。マウス発生期後腎は E11.5∼E17 までの後腎組 織を6個∼18個まで数を振って、RWV 中で3次元 培養をした。V 型コラーゲン線維とVEGF,bFG F,HGF,NGFなどの血管形成に関わる因子を 組み合わせ、各因子を経時的に投入、培養3日後と 1週間後で固定し、凍結切片を HE 染色、エラスチ カ染色、免疫染色し、上皮系形成と血管系形成を評 価した。 結果、本系では、アダルトの糸球体と発生腎臓と が、V 型コラーゲン線維を介して融合できるという ことを示せた。しかし、この方法では尿管と糸球体 の融合は可能であっても糸球体内血管網の形成と、 糸球体内外を繋ぐ血管形成ができなかった。原因は、 V 型コラーゲン線維 ECM 由来の自由ニッチ維持が長 続きしないことにある。培養 3 日以上の in vitro This document is provided by JAXA. 培養では、V 型コラーゲン線維 ECM は IV 型 ECM に マトリクスタイプが変遷してしまい、組織が硬化し て、自由なニッチ環境が消えてしまうのである。 片にし、免疫染色で観察すると、糸球体内部が血管 形成の初期マーカーである FLK-1 ポジティブであ ることから、糸球体毛細血管の形成が証明された。 Fig. 1. Adult glomeruli were fused to the tip of developmental ureteric buds. Fig. 3. Immunostain of the fused kidney show blood capillaries are formed around glomeruli. Red: Flk-1 (early stage marker of angionenesis or vasculogenesis) しかし、RWV と V 型コラーゲン線維を使用した結 果、複数個の発生期後腎組織が融合し、糸球体血管 系が誘導されることを明らかにした。 Fig. 2. Metanephros and Adult glomeruli were fused to form a big kidney 微小重力下で融合した後腎の成長は単独培養し た後腎の10倍大きさになった。1週間後の形成組 織を切片で観察すると、融合した腎臓の皮質辺縁は 通常腎臓と同様、沢山の糸球体が観察された。また、 細動静脈では血球が数多く存在し、血流が形成でき たことが判明、エラスチカ染色では、血管基底膜形 成を確認できた。形成された培養1週間後組織を切 また、血管形成の後期マーカである Tie-2 で染色 した結果、同様に糸球体内外の小動脈が染色された。 これは、微小重力と V 型コラーゲン線維の条件が 血管形成を誘導することを示唆された。さらに、ア ダルト糸球体内皮細胞を培養するときと同様に、培 養1週間後、V 型コラーゲンだけではなく、IV 型 コラーゲンも現れた。これは、V 型コラーゲン線維 が腎糸球体基底膜成分である IV 型コラーゲンを細 胞に誘導し分泌させた。 面白いことに、V 型コラーゲン線維の存在しない 培養系では、後腎の融合ができたものの、組織の構 造がすかすかであるし、糸球体や血管の形成が観察 されていない。これは、腎臓構造を維持する ECM の欠乏が原因であると考えられる。従って、融合し た後腎の血管形成は、微小重力と ECM 両者が必要と 考えられる。特に、RWV で糸球体と後腎組織の融合 ができたについて、多数の発生後腎組織の融合によ る因子の補完と、重力の軽減、投入 V 型コラーゲン 線維が適所にたどり着けたことを理由に考えてい る。本実験で示された腎血管形成システムの詳細を 解明することで、腎血管系形成における新しいニッ チ誘導が提示される。 This document is provided by JAXA.
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