若年者乳癌の治療戦略について 教えてください。 癌研有明病院乳腺センター外科副部長 蒔田益次郎 ▼ 35歳未満の若年者乳癌は再発リスクの高い乳 妊娠授乳期乳癌 妊娠授乳期乳癌は予後不 癌として扱われてきましたが、2009年のSt.Gallen 良と言われているが、予後 コンセンサスミーティングでは年齢がリスクの対象 から外されています1)。しかし、若年者乳癌の予 大きい、充実腺管癌の比率が高い、脈管侵襲の 頻度が高い、リンパ節転移の頻度や転移個数が 不良の要因は年齢の影響 多い、ホルモンレセプター陰性例の頻度が高い が大きいようである6)。また、 などの特徴が認められます。 妊娠期に乳癌が発見された 後は不良で、妊娠授乳期乳癌 、乳癌術後の妊 図1は年齢階層別に術式を示したものです。 場合、中絶が優先されなく 娠 、化学療法後の閉経などいろいろな問題を なっており、適切な時期に 若年者ほど乳房温存の希望は強いと思われま 抱えています。 手術や抗癌剤を使用するこ すが、実際には乳管内進展の高度な症例が多 とができない場合もある。 ■術式の実際 若年者乳癌の発生頻度について、当院の2005 乳癌術後の妊娠 くなる傾向があるためか2)、部分切除の症例の 比率は他の年代に比べて高くなく、病理検査の ∼2008年における手術症例4,858 例の手術時の 乳癌術後の妊娠によって予 結果で再手術(追加切除、残存乳房切除) となる 年齢でみると、30歳未満が58 例(1.2%) 、30∼ 後が不良になるとはいえな ケースも多くみられます。 いので、リスクに応じて補助 34歳が147例(3.0%) で若年者乳癌は5%弱でし 療法を行った後に患者の希 た。これら乳癌を病理学的にみると、腫瘍径が ■術後の観察 年齢と予後については、1970年∼2004年の 望に従って許可してよい7)。 図1 年齢と術式 0.4 75歳以上(n=257) 部分切除 54.9 3.5 41.2 1.5 75歳未満(n=678) 57.7 4.1 1.5 65歳未満(n=1,943) 56.8 50歳未満(n=1,775) 52.1 全乳腺切除 36.6 残存乳房切除 0.3 5.4 1.9 追加切除 0.1 乳房切除 36.1 0.5 38.3 7.3 1.5 35歳未満(n=205) 52.7 3.4 0% 7.3 35.1 50% 100% 図2 年齢と予後 (%) 100 90 80 50歳未満(n=2,690) 累 積 健 70 在 率 45歳未満(n=1,937) 40歳未満(n=984) 35歳未満(n=452) 60 30歳未満(n=153) 50 P<0.0001(Log-rank) 40 0 5 10 15 20 術後年数 2 乳癌診療 TIPS & TRAPS 25 30 35 (年) Questions & Answers 原発性乳癌手術症例(遠隔転移症例、非治癒切 か初再発の発生状況についてハザード を用い ハザード ある時点でのイベント数を 除例、男性乳癌、非浸潤癌、両側乳癌、異時一 その直前の観察者数で割っ 側多発癌を除外)のうち、手術時年齢が 50歳未 満だった 患者を2007 年まで経過観察したデー て年齢と経時的再発リスクを検討すると、術後1 て計算したもの。この場合 ∼2 年にピークとなることは他の年齢層の乳癌と のイベントは再発。 同じですが、ピーク時のリスクが高いことが異な タを示します (図2) 。30歳未満以降年齢を5歳ご っており (図3) 、術後早期のサーベイランスが重 とに区切って健存率を比較してみると、35歳未 要と思われます。 満とくに30歳未満で予後不良となっています。 ■薬物療法 前述の腫瘍径の大きさや脈管侵襲などの予後因 再発リスクが高いことから全身療法(とくに化 子を含めて多変量解析しても年齢の因子は独立 学療法)の適応があり、効果も認められていま したリスク因子となっています。 す 3)。薬物療法については若年者特有の化学療 また術後のいつごろに再発のリスクがあるの 法による閉経という因子も関連してきます。化 学療法による無月経は年齢、とくに40歳前後の ところで不可逆性になる例が多いようです 4)。 図3 年齢と経時的再発リスク INT 0101試験のレトロスぺクティブな解析で、 .12 ハザード(35歳以上) ハザード(35歳未満) .1 40 歳未満の患者では CAF(シクロホスファミド、 ド キソルビシン、フルオロウラシル)療法にゴセレリン P<0.0001 .08 を追加すると無病生存期間 (DFS) の改善が認め ハ ザ .06 ー ド られ、さらにタモキシフェン (TAM) を追加するとさ .04 モン感受性の若年者乳癌ではLH-RHアゴニス .02 ト+TAMのような治療が推奨されます。 0 5) らに改善したと報告されています (図4) 。ホル 0 2 4 6 8 10 12 14 術後年数 参考文献 図4 40歳未満における化学療法 vs. 化学療法→ホルモン療法DFS 5) 1)Goldhirsch A,et al.Thresholds for therapies:highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2009.Ann Oncol 20 (8) :13191329,2009 (%) 100 2)蒔田益次郎、坂元吾偉、秋山太ほか.年齢階層の違いからみた乳 癌の病理組織学的特徴.乳癌の臨床 5 (4) :698-702,1990 90 80 3)Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group: Polychemotherapy for early breast cancer:an overview of the randomised trials.Lancet 352:930-942,1998 70 無 60 病 生 50 存 率 40 4)蒔田益次郎、伊藤良則、高橋俊二ほか:術前化学療法が閉経状況 に及ぼす影響、乳癌の臨床 25(1) :7-16,2010 30 CAF CAF + Z CAF + ZT 20 10 0 0 1 2 3 4 n 138 151 149 5 イベント 9年無病生存率(%)(S.E.) 73 (4) 48 68 (4) 55 54 (4) 64 6 術後年数 7 8 9 10 5)Davidson NE et al.Chemoendocrine Therapy for Premenopausal Women With Axillary Lymph Node-Positive,Steroid Hormone Receptor-Positive Breast Cancer:Results From INT 0101 (E5188) .J Clin Oncol 23 (25) :5973-5982,2005 6)蒔田益次郎、岩瀬拓士、多田敬一郎、西村誠一郎、宮城由美、飯 島耕太郎、秋山太、坂元吾偉.妊娠授乳期乳癌の予後 - 妊娠と年 齢が予後に及ぼす影響.乳癌の臨床 22 (2) :113-120,2007 7)泉雄勝.乳癌と妊娠−最近の論文による再検証を中心に−.乳癌の 臨床 14 (2) :209-223,1999 CAF(シクロホスファミド、ドキソルビシン、フルオロウラシル)療法 CAF + Z(CAF+ゴセレリン)追加療法 CAF + ZT(CAF+ゴセレリン+タモキシフェン)追加療法 3
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