太陽光発電は損か得か - Jimdo

平成25年度
関東甲信越地区電気教育研究会秋季研究協議会
分科会Ⅰ 研究協議
太陽光発電は損か得か
~営業セールス視点とは違う工業人ユーザーから見た定量的考察~
平成25年11月14日
於箱根湯本温泉ホテルおかだ
千葉県立館山総合高校
工業科 電気コース
講師:櫻井智明
①本校の概要と自己紹介
本校館山総合高校は千葉県の南端に位置する館
山市にあります。国内では比較的温暖な気候で、
枇杷の収穫で有名なところです。X-japan のトシ
とヨシキの出身地ということでご存じの方もいる
と思います。本校は旧安房水産高校と旧館山高校
が平成20年に統合し、総合的な専門高校として
スタートし5年目を迎えました。従前の各校の学
科をあわせ家政科、商業科、工業科、海洋科の4
学科が全日制にあり、生徒数562名で15学級
展開しており、各学科がそれぞれ特徴のある授業
を展開しています。全日制のほかに定時制普通科
4学級(126名)、専攻科(高校水産科卒業以上
で2年間修学)があります。学校教育目標は、「専
門教育、普通教育並びに専攻科教育を通じて、た
くましく、心豊かな、社会に貢献できる人間を育
成する。」となっています。重点目標は、「(1)
基本的生活習慣や規範意識を定着させ、優しく穏
やかな心を持つ、心身ともに健康な生徒を育成す
る。 (2)基礎学力を定着させ、生徒一人ひと
りの個性を伸ばして、確かな進路の実現を図る。
(3)地域に根ざした、地域に信頼される学校づ
くりに向けて、より一層充実した学校運営を推進
する。」となっています。各科がそれぞれ目標を設
定しそれに向かって各科ごとに進んでいくという
形をとっています。このように、一般的な工業高
校と違い、各科ごとで特徴的です。
本校には今年の5月から勤務しています。その前は
22年間私立学校に勤務していました。今ここでこう
して発表できることを大変うれしく思っています。今
日のテーマであります太陽光発電ですが、学校からは
約30km離れた鴨川の自宅に設置しています。鴨川
シーワールドという名前は聞いたことがある先生も多
いのではないかと思います。この鴨川の自宅の庭に太
陽光発電を設置
しました。家族
3人で、犬が1
館山総合高等学校校舎
匹、猫が4
匹、5年ほど前に鴨川に4
00坪の土地を買ってそのうち半分は自宅と庭、半分は法面、一番下は
小川が流れています。小川からの高低差は5m です。海抜20m弱、海
から直線で2km、潮風の影響も少ない、災害の心配もないところを買
ったつもりです。法面の傾斜が27°、最下部には川が東西に流れ法面
は真南を
向いてい
ます。
鹿、
実習船 千潮丸
イタチ、蛇、
川にはイモリや沢ガニ、夏は蛍が出ます。夜に
なると獣の叫び声が聞こえます。こんなところ
に住んでいます。
②本テーマ設定の動機
巷では太陽光発電はまさに「今でしょう」という勢いで、電話での勧誘や営業マンが飛び込みでセールスに来
たり、などこういうことが多いと思います。パンフレットでは素晴らしい将来展望がうたわれて、TVでも環境
に優しいと聞くことが多いと思います。他方、太陽光発電は儲からないよという話も聞きます。では実際のとこ
ろはどうなのかというと、私も随分調べて決断して設置したわけですが、調べていく中で販売側の視点からのも
のを除くと参考になる資料が意外にありませんでした。そんな中紆余曲折しながら調べていくと将来的には総合
的にΔ+になるのではないかという結論になりました。そして大きなローンを組み設置しました。私の中では人
生を賭けた大勝負です。このレポートでは本当に将来的にΔ+なのか、様々な見解が存在する中で、実際のとこ
ろはどうなのか検証を踏まえつつ、資料を求める人への何かしらの参考になればと思いまとめてみようと思いま
した。そしてこの計画を実行してきましたが本当に大丈夫なのか自分の不安を払拭するためにも検証したいと思
いました。ここでは、太陽光発電の導入を決めるに至った計算結果や、今後住宅ローンと太陽光ローンを本当に
返済していけるのかを導入後のデータと販売店からの事前のデータを見比べながら確認していきたいと思います。
電気にかかわるようになってから半年ですが、他の発表者にちょっと引け目を感じながらの発表になりそうでち
ょっと恥ずかしいのですが、私にできる範囲で発表します。
全体の様子
③太陽光発電設置の動機
初めは自宅を建てるときに屋根に設置しようと思っていました。しかし調べていくと、設置には屋根に穴を開
けるわけで、初めは良くても10年20年の間隔で考えると耐久性に問題があることがわかりました。屋根材に
30年の性能があっても、シーリングの耐久性は10年くらいで、つまり屋根材にいいものを使ってもそこに穴
をあける施工をしたら雨漏りの原因を自ら作ってしまうことになるわけです。設置するなら屋根以外にと考える
ようになり、そこから法面設置を考えるようになりました。法面設置のためにはコンクリート基礎を打つ必要が
あり、屋根に設置する以上に費用がかかることがわかってきました。しかし法面設置に関する有用なデータはほ
とんどありませんでした。数社の業者に今回お世話になり見積もりも出していただきました。遠くからは東京か
らも見積もりに来た業者もありました。今回わかったことの一つに遠くの業者より近くの業者のほうが良いとい
うことです。不具合があったときやメンテナンスにすぐ対応してくれるのは遠くからではやはり難しく、広く営
業しているところより、近くで信頼のおけるところがいいと思いました。法面のコンクリート基礎工事も込みの
見積もりを見ると随分な費用がかかり、太陽光で儲かるというより冒険になりそうで一度は設置を断念していま
したが、そこへ昨年台風が来て太陽光設置の
場所ではないのですが、法面が崩れるという
事態に見舞われました。これを修理するため
の見積もりをさらに取ると、簡単な工事でも
おおむね100万円ほどかかることがわかり
ました。その当時は生活も苦しく(給与が未
払いの状態)
それだけの費用はかけられない、
だけどこれ以上崩れると排水設備が壊れてし
まうので修理はしなくてはならない状況でし
た。そこで思いついたのが太陽光設置基礎工
事と法面修理工事を一緒にすれば安く済むと
いうものでした。太陽光設置基礎工事も法面
修理もいずれにしても重機が必要で、法面の
修理と一緒に太陽光設置のための基礎工事も
敷地全体の様子(川の対岸より)
やれば工事の手間と経費はかなり削減できる
と思いまし
た。削減だけでなく太陽光の発電で法面の支払いもして
やろうと思いつきました。今回太陽光発電を設置する決め手は、太陽光発電を設置することにより、太陽光の設
備費と法面修理費を全て発電による収入だけで返済するというということでした。奇しくも法面が崩れたことに
より、やめようとしていた太陽光発電設置を決めました。また今回太陽光パネルを設置しようとした場所は崩れ
てはないですが将来崩れてしまうことを予防する工事という側面を含んでいるので一石二鳥ということでもあり
ます。そして保険をかけて不測の事態が起こっても戦争や暴動などがない限り保証があって、なおかつローンを
組めば自分の持ち出しがなしで設置ができて、仮にこの計算式が合わなくて最悪の場合でも月1600円程度の
負担予想なので、生活に困ってもこれくらいならとの試算が
できたので決めました。そして法面の草刈りは大変な作業で
すがそれが減り、草だらけの土地の有効利用ができ、電力が
自前で賄え、少しならエネルギーの自給自足できるというと
ころも決めた理由の一つです。またこれからの世界を見据え
るとこの方向は間違いへないし売電価格も今なら高い(当時
42円)し、持ち出しなしで設置ができて将来少しでもプラス
になるならと契約に踏み切りました。少しリスクはあり、収
入はほとんど見込めませんが、将来を考えると良い計画と思
えました。
がけ崩れ直後の法面(西側上から)
④本レポートでの検証
さて今回この太陽光発電システムに私が支払った
費用は結果的に総トータル5,595,536円でし
た。それには設備代や工事費、がけ崩れ修理工事、
ローンの保証金など全て含めてです。この支払は全
て15年のローンで返済する計画を立てましたが、
その返済は全て発電だけで返していくという計画で
す。うまくいくと予想して計画をスタートさせまし
たが本当にうまくいくかどうか非常に気がかりです。
今年3月末から稼働しましたので15年分の7ヶ月
という少ない期間ですが、
データが取れましたので、
契約前の販売店からのデータとを比較しながら、本
当は損なのか得なのかを検証してきたいと思います。
がけ崩れの土留め工事(松杭で三段)
⑤設備仕様と導入
土地は広いので10kw以上の事業用としての設置も考えました。事業用の場合、売電価格は20年間42円
固定なので利幅は大きいのですが、国からも市からも補助金が受けられないこと、送電のための電線設備も自分
で設置しなくてはならないので、大規模発電な
ら収益は出ますが9.5kwから数kw上げた
程度だけでは投資額を回収することは難しいこ
とがわかりましたので家庭用の設置としました。
各社各様で同様な仕様で見積もりをいただきま
した。設置した設備は別表5のとおりです。発
電に2系統あるので非常時には3kwの電力供
給ができる仕様です。業者の選定にも気づくこ
とがありました。遠い業者は現場を見に来ない
で見積もりを出すところもありました。現場を
見ないで見積もりを出して大丈夫なのかと疑問
に思いました。また重機を持っている業者とそ
うでないところでは金額に大きな差が出ること
もわかりました。重機がないところでは、まず
重機をレンタルしてきてそれを施工費に含める
ので結果割高になるのです。地元で信頼のある
重機を持っている業者が良いと思いました。ま
太陽光パネル設置構造図
法面基礎工事(鋼管14本と松杭28本が見える)
た低出力で安価な160Wのパネルと高出力で高
価な230Wのパネルでは結果的に割高になるこ
ともわかりました。230Wパネルは設置面積が
少なくなるので基礎工事のコンクリート面積は減
りその分の費用はマイナスになるのですがそれ以
上にパネル単価が高いため結局は割高になり、1
60Wのパネルではパネル単価は低くなるが、コ
ンクリート面積は増えその分の費用はそれ以上に
プラスになるので結局は割高になるわけです。結
果190Wがその当時はもっともバランスのとれ
た価格になっていました。そこは見積もりをよく
見極めるポイントであると思いました。また最終
的に支払う金額は、
購入価格や工事費だけでなく、
融資を受ける金融機関の利率と条件により支払金額が大き
く変わることが今回良くわかりました。安く買っても金利
や条件によってかえって高くなってしまう場合があります。
いくつかのプランがありましたが、まったく同じ支払をメ
ーカー系のローン会社でローンを組む場合と地元の信用金
庫で支払う場合では、信用金庫では保証料を支払いました
がそれでもメーカー系ローン会社より6万円弱も安く差が
出る計算になりました。別の販売店で同様の機器で団信を
抜いてローンを組むと一見安く上がりそうでしたが10万
円以上の差が出ることもわかりました。
法面基礎工事(鋼管と鉄筋の接続)
⑥運用実績と今後の見積もり
工事の時期とローン審査の時期のタイミングがずれて、太陽光設置工事が始まる前にローンの返済が始まりま
したのでその分は立て替えて持ち出しをしましたが、それ以後は金融機関に入金はしないで支払いが進んでいま
す。つまり売電の収入だけで支払っていくという計画が今のところ成り立っています。太陽光発電は春から秋に
かけてが稼ぎ時で、表2のとおりローン返済金額を大きく上回って稼いでくれました。しかし秋から冬にかけて
は発電が減る時期です。春夏で上回った収入分をここで支払いに充てていくわけです。ここが心配の種でしたが
表4の返済シミュレーションを見てもこれをカバーすることが十分できることがわかります。収入は決して多く
ないですがローンを確実に返済し少しずつではあるが収益を上げていく予想がつきます。ただしこれは「10年
間固定買取価格42円の期間の内は」です。11年目以降は買取額の約束がありません。42円でないことは確
かです。今現在売電価格は38円になっていますから。では10年後いくらかというと誰もわからないと思いま
す。ただ電気が無駄になるということはないと思いますので、少なく見積もっても買電価格はくだらないのでは
ないかと考えています。仮に買電価格の24円で計算すると、今まで42円で売れていたものいが24円になる
のですから、早速11年目では破綻がやってきます。ローン返済を滞るわけにはいけないので、11年目からお
よそ15000円/月の持ち出し支払い生活が始まり、5年間続けることになりそうです。持ち出しの合計は8
0万円にもなりそうです。しかし今度は16年目以降はローン返済が終わるので今度は発電が全部私の口座に入
金されてきます。19年目には今度はプラスに転じそれ以降はどんどん収益になってきます。太陽光パネルの寿
命が30年と言われていますのでこれくらいのスパンでみると285万円の収入にやっとなるのかな、と考えて
います。もちろんこれはインバータの交換やケーブルの劣化などは保証期間の15年目まではカバーされていま
すが16年目以降は保証外です。壊れないでいてくれることを祈ります。ローン金利も変動しますのでさらに不
確定要素は大きいです。
敷地全体図
け崩れ直後の法面(西側上から)
⑦考察(損なのか得なのか)
いろいろリスクはありますが当初予定したプラスマイナス0、もしくはΔ+は実現できそうです。では別の条
件ではどうだったのか。シミュレーションをしてみます。
そもそも土砂崩れ土留め修理を今回とは別の会計として考えた場合を想定してみます。信用金庫1.5%で融
資を受けて土留め工事の支払いを含めなかった場合で、15年返済で借入額5100000円、毎月の支払31
658円に設定した場合、返済14年目に赤字になりローン返済まで合計-239738円(11年目以降の売
電価格を24円で計算した場合)になり、自分で補てんしなければならない。しかし16年目からはプラスに転
じ20年目には約98万円、30年目には341万円の収益が見込めます。土留め工事を含めなくても持ち出し
は発生することになりました。
では土砂崩れ土留め工事を含めず、法面にも設置しない一般的な屋根設置だったと想定します。信用金庫1.
5%で融資を受けて土留め工事の支払いを含めず、基礎工事もしない設置の場合は、15年返済、借入額351
0000円、毎月の支払21789円の場合、収支に赤字になることはなく10年後の42円売電終了時点で1
69万円の黒字、11年目以降の売電価格を24円で計算した場合でもローン完済15年のとき160万円の黒
字になります。30年後には513万円になります。
仮に土留め工事を含めないで、基礎工事もしない設置の場合で、借入額3510000円、毎月の支払を現行
と同額の34761円とすると109回(9年)支払いで終わる計算になります。東京電力の買い取り額を42
円で10年間固定としている設定も、なるほど通常の施工であれば理にかなっている適当な期間設定と言えると
太陽光パネル施工平面図(南側は自分の土地で遮るものは何もない)
思いました。
では現在の売電価格38円でこれから設置しようという人の場合を検証してみます。土留め工事なし、基礎工
事なしの場合で15年返済、借入額3510000 毎月の支払21789の場合でも10年後には131万円
の黒字、30年後には481万円の黒字となりそうです。10年間は月平均1万円ほどの差益が出そうです。な
ので家庭用の範囲では毎月の電気代を支払ってちょうどぐらいになると思います。設置後11年から15年まで
はほぼプラスマイナス0、16年目からは2万円ちょっと毎月の収入になりそうです。一般的な屋根の大きさで
は3kwぐらいが標準ですから、今回の9.5kwの規模を小さくすると毎月の電気代を全て支払うことは難し
いですが少しは収益が上がると思います。ですから普通に屋根に施工する場合は10年の38円売電で元は取れ
ることが予想できます。11年目以降の売電価格を24円で計算した場合でも後は収入だけとなりますので、設
置する価値はあると思います。
では現在の38円売電でこれから設置しようという人の場合の、
土留め工事なし、
基礎工事なしで10年返済、
借入額3510000円、毎月の支払31517円の場合でも10年後には13万円の黒字、30年後には49
4万円の黒字となりそうです。10年間は毎月の買電分の支払いはできなさそうですが、11年目からは売電の
2万円ぐらいはおこずかいになりそうです。20年目で42万円、30年目で285万円です。
それでは今回の設置は得なのか損なのか。計算上は多少収入がありそうな気もしますが、ローン金利も変動制
ですから支払い額も変わってくる可能性も大いにありますし、金額だけでみるとかなり懐疑的です。機器の不調
は16年目以降おそらくあるでしょうし、その時の修理費用はかなりかかるでしょう。型が古いから直すより買
い換えた方が安いと言われる可能性もあります。では損だったと言えるかというとそうは思っていません。それ
は本来のがけ崩れの法面補修土留め工事でかかった費用を、いったん持ち出し支払いをして後で返してもらう手
続きは生じますが、最後には収支0もしくは少しプラスになると思いますので支払わなくて済むこと、太陽光設
備を設置した法面は先に工事してしまったので崩れる心配はなくなった(予防できた)こと、災害の時の電力の
自給ができるという少しの安心感、草刈が楽になったこと、環境問題に少し貢献できたことはプラス面です。そ
れ以外にも太陽光発電を楽しんでいるということ、友人に自慢してきた(している途中)こともお金で表せない
プラス面と思います。まだ7カ月のデータでは絶対的な自信は持てませんがトータルではプラスになるんだろう
と今回検証してみて思いました。
現在45歳になりましたが太陽光発電の一通りの目安である30年後の75歳のときにどんな風になっている
か楽しみです。こんな風に思えて、多少でも現金収入があることを期待しています。30年後に太陽光発電最終
報告が30年後のこの研究協議会でもしさせていただけたらありがたいとも思っています。今回のレポートを参
考にしていただけたら幸いです。
他にも考慮すべきファクターや、またアドバイスなどありましたら教えていただけると幸いです。
[email protected] 櫻井智明
10年後の見解について
引用:太陽生活 http://taiyoseikatsu.com/
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