子宮内膜細胞診における精度向上を目指して

子宮内膜細胞診における
精度向上を目指して
愛媛県立医療技術大学
愛媛県立医療技術大学 保健科学部
保健科学部
臨床検査学科
臨床検査学科 生体情報学講座
生体情報学講座
則松 良明
良明
則松
子宮内膜の病変と細胞診断 その1 概念
病 変
細胞診診断
非癌・非増殖症性変化
生理的変化
炎症
薬剤など治療による変化
ホルモン環境異常による変化
ポリープなど器質的変化 等
子宮内膜(異型)増殖症
子宮内膜癌
陰性
疑陽性
陽性
子宮内膜の病変と細胞診断 その2 現状
病 変
細胞診診断
非癌・非増殖症性変化
陰性
生理的変化
炎症
薬剤など治療による変化
ホルモン環境異常による変化
ポリープなど器質的変化 等
子宮内膜(異型)増殖症
過大診断
50-70%
疑陽性 30-50%
過小診断
5-10%
子宮内膜癌
陽性
細胞構築所見を使用した診断基準
正常周期内膜
内膜増殖症
内膜癌
内膜増殖症と高分化腺癌の細胞構築所見
組織標本における病変の構造変化
正常
内膜増殖症
単純型
内膜増殖症
複雑型
癌
組織構築 三次元(立体)と二次元(平面)
正常
内膜増殖症
単純型
内膜増殖症
複雑型
癌
組織構築と細胞構築(3次元)
正常
内膜増殖症
単純型
内膜増殖症
複雑型
細胞構築は三次元を二次元で観察している!
癌
集塊(腺管)周囲での間質細胞付着の有無
腺腔側に向かう乳頭状発育
集塊周囲での間質細胞の付着なし
集塊周囲での間質細胞の付着なし
内膜癌
腺腔の外側への芽出・分枝状発育
集塊周囲での間質細胞の付着あり
集塊周囲での間質細胞の付着あり
内膜増殖症
a) 土管・シート状集塊
・子宮内膜腺は直線状。
・腺管の幅はほぼ均等。
・腺の周囲に内膜間質細胞の付着あり。
・土管状集塊が壊れて開いたらシート状。
増殖期
b) 拡張・分岐集塊
・土管状腺管の途中や端で不規則な腺の
拡張や分岐を認める。
・腺管の最大幅が最小幅の2倍以上。
・集塊周囲に内膜間質細胞の付着あり。
・内膜間質への芽出・分枝状発育を示唆。
・集塊の内側は腔状。
単純型内膜増殖症
b)
拡
張
・
分
岐
集
塊
複雑型内膜増殖症
c) 乳頭・管状集塊
・乳頭・管状状形態を示し、不規則な
分岐や突出を認める。
・腺の周囲には内膜間質細胞の付着なし
認めない。
・多数の腺腔を形成、back to back様構
造やcribriform様構造を示す。
G1
c)
乳
頭
管
状
集
塊
G1
d) 不整形突出集塊
・集塊辺縁より小突起状の突出があり、
細胞質辺縁を明瞭に追えるもの。
・増殖期類似細胞から構成されるもの
と化生細胞を区別する。
G1
G3
d) 不整形突出集塊
・集塊辺縁より小突起状の突出があり、
細胞質辺縁を明瞭に追える
・増殖期類似細胞から構成されるもの
と化生細胞を区別する。
G1
EGBD 化生
細胞構築を反映した定性的判定
細胞集塊
幅 均等
間質(+)
幅 不整
間質(+)
腺腔 20↓
正 常
増殖症
小集塊異型細胞
壊 死
間質(-)
21↑
腺 癌
孤立散在性上皮
付随所見
扁平上皮化生
精度の向上のためにはさらに定量的判定が必要!
組織診断
細胞診断
無排卵性周期に伴う
ホルモン環境異常内膜
不全増殖内膜(EGBD)
化生(細胞質変化)
EGBDの細胞形態学的所見 その1
不正性器出血が起きる機序
機能性出血
・子宮内膜からの出血であり、視床下部・子宮内膜からの出血であり、視床下部-下垂体下垂体-卵巣系にわたる内分
泌系の失調により内膜組織が異常に反応して起こる。
・無排卵が原因であることが多い。
・卵胞の発育はある程度まで起こるために子宮内膜は増殖するが、排
卵や黄体の形成が阻害されるために卵胞が長期間存続し、エストロゲ
ンによって子宮内膜が増殖し続け、破綻出血や消退出血の形で出血を
起こす.
器質性出血
・器質的な出血の原因は,腫瘍や炎症や外傷などによる局所の組織
障害であり,その部位から出血する.また,組織採取や円錐切除後な
どの医原性の要因による場合もある.
年代別による不正性器出血の原因
年 齢
40歳未満
原 因 疾 患
妊娠(不全流産)、機能性、ポリープ、
筋腫、内膜炎、無排卵性周期
40-50歳
無排卵性周期、ポリープ、筋腫、
無排卵性周期
内膜炎、増殖症、癌
50歳以上
萎縮、ホルモン剤投与、ポリープ、
ホルモン剤投与
筋腫、内膜炎、増殖症・癌
機能性出血のさまざまな分類と病態の関係
EGBD
DPP
無排卵性周期に伴うホルモン環境異常宮内膜
・排卵が障害され成熟卵胞が存続し、黄体が形成されないと内膜は
増殖するが分泌期に移行しない。その後エストロゲンの消退出血ま
たは長期持続後破綻出血が起こる。
・その際に内膜は成熟せず断片化するが、この状態を
Endometrial glandular and stromal breakdown (EGBD)
と呼ぶ。
・それぞれの割合やパターンによって、
Proliferative phase with breakdown、
Disordered proliferative phase (DPP)、
Focal glandular crowding
のように記述される。
Sherman.M.E,et al, Blaustein’s Pathology of the
female genital tract,5th edition .2001;431-439
不全増殖内膜 EGBD
組織像は増殖期像を示し、出血
やフィブリンの析出がみられる中、
間質の脱落に起因する内膜腺の
断片化や変性凝集を起こした間
質細胞がみられる。また、通常、
表層被覆上皮での乳頭状化生が
頻繁に起こる。
内膜の断片化
間質の変性凝集
表層合胞体/乳頭状化生
EGBD-高頻度に前癌病変または癌として診断される
EGBD-高頻度に前癌病変または癌として診断される
EGBD-高頻度に増殖症または癌として診断される
EGBD-高頻度に増殖症または癌として診断される
EGBDEGBD- 断片化塊
断片化塊
異型増殖症異型増殖症- 拡張分岐集塊
拡張分岐集塊
増殖期
EGBD
断片化塊
腺と腺の間は間質細胞で埋められている
腺と腺の間は間質細胞で埋められている
異型増殖症
間質細胞や腺集塊で埋められていない
ほとんどが腺集塊で構成されている
ほとんどが腺集塊で構成されている
EGBD-間質細胞凝集塊
EGBD-間質細胞凝集塊
G3-不整形突出集塊
G3-不整形突出集塊
EGBD-間質細胞凝集塊
EGBD-間質細胞凝集塊
核形が多彩
核形が多彩
紡錘、楕円、類円、腎形
紡錘、楕円、類円、腎形
類内膜腺癌G3-不整形突出集塊
類内膜腺癌G3-不整形突出集塊
間質細胞凝集塊
正常間質細胞
クロマチン繊細
クロマチン繊細
クロマチンごま塩状
クロマチンごま塩状
不調増殖期内膜 DPP
増殖期像に加え、不規則に拡
張した腺管が部分的にみられ、
質的には単純型子宮内膜増殖
症と同様の変化が部分的に起
こっているものをいう。
エストロゲン持続効果(DPP)
エストロゲン持続効果(DPP) ; 単純型内膜増殖症と診断される
拡張・分岐集塊
拡張・分岐集塊
EGBDの細胞形態学的所見 その2 化生変化について
好酸性
線毛
粘液
Morule
化生性不整形突出集塊
表層合胞体/乳頭状化生
EGBD-間質細胞凝集塊を含む化生性突出集塊
EGBD-間質細胞凝集塊を含む化生性突出集塊
G1-不整形突出集塊
G1-不整形突出集塊
EGBD; 間質細胞凝集塊を含む化生性不整形突出集塊
EGBD
表層合胞体/乳頭状化生
Type
Type11
Type 2
EGBD-間質細胞凝集塊を含む化生性突出集塊
EGBD-間質細胞凝集塊を含む化生性突出集塊
G1
Central fibrovascular core
CD10
CD10
間質細胞凝集塊
間質細胞凝集塊
EGBD-間質細胞凝集塊を含む化生性不整形突出集塊
G1
Central
Central fibrovascular
fibrovascular core
core
断片化塊(化生性不整形突出集塊)
EGBD; 断片化像
EGBDの細胞学的特徴像
組織像
細胞像
内膜腺の断片化像
→
断片化塊
内膜間質細胞の変性凝集像
→
間質細胞凝集塊
表層合胞体/
表層合胞体/乳頭状化生
→ 化生性不整形突出集塊
内膜腺の部分的な拡張
→
拡張分岐集塊
・不整形突出集塊を、化生細胞と増殖期類似細胞
に区別するこ
・不整形突出集塊を、化生細胞と増殖期類似細胞に区別するこ
とは病変の把握のために重要である。
・ 間質細胞凝集塊を含む化生性不整形突出集塊の出現は、内膜
間質細胞凝集塊を含む化生性不整形突出集塊の出現は、内膜
表層被覆上皮に発生する 表層合胞体 / 乳頭状化生由来であり、
EGBDを示唆する有用な指標になる。
EGBDを示唆する有用な指標になる。
細胞構築を加味した判定基準を
使用した内膜細胞診の成績
細胞構築を反映した病変の考え方
定性的判定
細胞集塊
幅 均等
間質(+)
幅 不整
間質(+)
間質(-)
腺腔 20↓ 21↑
正 常
増殖症
腺 癌
細胞構築を反映した病変の考え方
異
常
細
胞
集
塊
占
有
率
定量的判定
非癌・非増殖症性内膜
20%未満
間質細胞
凝集塊
20%以上
20個以上
Honeycomb胞体
20%未満
化生性不整形
突出集塊を除く
Breakdown
分泌期内膜
非癌・非増殖症性内膜
20%以上
増殖症
70%以上
腺 癌
付随所見+
小集塊異型細胞
吉田ら
疑陽性とし、組織診断不一致であった97例の再検討
一致
細)疑陽性とし組)と不一致 97例
・組)良性-細)増殖症 56例
66 (68.0%)
不一致
31 (32%)
43 (76.8%)
13 (21.4%)
・組)増殖症-細)異型内膜 19例
9 (47.4%)
・組)癌-細)異型内膜/増殖症/癌疑い22例
14 (63.6%)
10 (42.1%)
及川ら
8 (36.4%)
疑陽性とし、組織診断不一致であった83例の再検討
一 致
細)疑陽性とし組)と不一致 83例
不一致
57 (68.7%)
26 (31.3%)
・組)良性
67例
47 (70.1%)
20 (29.9%)
・組)癌
16例
10 (62.5%)
6 (37.5%)
矢納ら 組織診との比較での誤判定(過大・過小評価) 58例の再検討
組)と一致
参考診断
標本不適正
過大評価 20例
19
0
1
過小評価 38例
17
10
11
36(62.1%)
10(17.2%) 12(20.7%)
・標本不適正を除くと組)と一致の割合は 36/46(78.3%)
細胞診において過大・過小評価された原因
・細胞個々の所見のみが重視され、腺構造の異常が評価されなかった
・少数の異常腺細胞集塊より増殖症を推定
・化生細胞集塊を異常所見として認識
・分泌期に認められる拡張腺集塊を異型集塊と認識
・間質細胞凝集塊を異型腺細胞集塊と認識