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【琉球医学会】
【Ryukyu Medical Association】
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[総説]上部(肝門部)胆管癌に対する外科治療の限界と集
学的治療の有用性
草野, 敏臣
琉球医学会誌 = Ryukyu Medical Journal, 14(2): 103-108
1994
http://okinawa-repo.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/okinawa/3277
琉球医学会
Ryukyu Med. ]., 14(2)103-108, 1994
103
上部(肝門部)胆管癌に対する外科治療の限界と集学的治療の有用性
草 野 敏 臣
琉球大学医学部外科学第一講座
Limitation of Surgical Procedure for Upper Bile Duct Carcinoma
and Usefulness of Multidisciplinary Treatment
Toshiomi Kusano
First Departnent of Surgery, Facurty of Medicine, University of the Ryukyus
はじめに
胆管癌に対する手術術式は、腫癌の存在する部位で
異なるが、中下部胆管癌は僻頭十二指腸切除術でほぼ
満足のゆく成績が得られている。しかしながら、肝門
部を含む上部胆管癌[以下、本症]の切除成績はいま
だ不良で、種々の集学的治療に頼らざるを得ないのが
現状である。そこで本症の切除例で、手術術式の妥当
性を臨床病理学的に検討し、外科治療の限界と集学的
治療の有用性ついて述べる。
表1 胆道癌治癒切除率
症例数 切除例数 治癒切除例数(率)
胆癖癌 56
29(1) 16 48.0%)
胆管癌 87
59(3) 27 45.8%)
上部 55
36(3) 10( 27.8%)
中部 9
下部 23
17 13( 76.5%
乳頭部癌 16
12(1) 8( 66.7%)
4 66.7%
計 159 100(5) 51( 51.0%)
( ):手術死亡
対 象
昭和51年4月から平成4年12月までに経験した本症
55例中、切除された36例を対象としその切除術式、肝
門部脈管への浸潤形式および手術成績をretrospective
に検討した。
36例の内容は男20例、女16例で、年齢は平均68.4歳
で同時性の重複癌1例を含んでいた。
統計学的有意差判定は、カイ二乗検定、一般化Wilcoxson検定を用いた。
成 績
1 )胆道癌切除成績
我々がこれまでに経験した乳頭部領域を除く胆管癌
症例は87例で、切除例は59例(67.8%)である。これを
部位別にみると上部36例、中部6例、下部17例の切除
数であったが、治癒切除率でみると、中下部の17例
(73.9%)と比較し、上部はわずか10例(27.8%)と低率
であった。また手術死亡例が本症に3例みられた。
当科における胆嚢癌の切除数は29例で、切除率
51.8%、治癒切除数16例、治癒切除率55.2%と上下部
胆管癌治癒切除率の中間に位置していた(表1 )0
2 )上部胆管癌切除成績
本症切除36例の術式は、肝外胆管切除のみ11例、肝
外胆管切除および肝門部切除13例、肝外胆管切除およ
び肝葉切除12例であった Stage別では、 m、 Ⅳが32
例(88.9%)であった。治癒切除率では、肝外胆管切除
に拡大右菓切除および尾状菓切除併施(本術式)症例
は、全例治癒切除となり、肝外胆管切除のみ(9.1%
の群と比較し有意に高率であった。肝左菓切除例は進
行例が多く全例非治癒切除であった。また肝予備能不
良例や高齢者を中心に最近施行している肝外胆管切
除、肝門部切除に尾状葉右肝動脈切除再建群(新術式)
は5例中4例が相対非治癒切除以上の成績であった
(表2)0
上部(肝門部川旦管癌に対する外科治療
104
表2 上部胆管癌切除例の術式、 Stageおよび治癒切除率
術 式 例数(%) Stage I 治癒 相対非治癒 絶対非治癒
w外胆管U]除のみ 11(30. 6) 1 (9. 1) 0(0) 4(:う6.4) 6(54. 5) 1 (9. 1)
2(18, 2) 8(72, 7)
肝外胆管切除兼肝門部切除 13(36. 1) 0(0) 3(23. 1) r>(:ォ.!">) jCis. a う(23. 1)
:i(2:i. 1) 7(5:i.8)
肝門部肝切除のみ 8 0 2 3 号 l
尾状菓右肝動脈切除 5 0 1 2 2 2
肝外胆管切除非肝柴切除 12(3ニ1 3) 0(0) 0(0) 4 (:i:L'3 8 (66. 6) 6(50. 0)
拡大左薬切除 5 0 0 1 4 0
拡大右薬切除 1 0 0 0 1 0
拡大右薬兼喝状薬切除 6 0 O :i 3 6
1 (i(75. 0)
I 20.0
1 8.3 541.7
4 80,0)
I (100)
0(0)
計(%) 36(100) 1 (2. 8) う(8. :サ :i(:弓6. 1) 19(52. 8) 10(27.8) 6(16. 7) 20(55.6)
* : P<0.0「)
表3 術式と切除断端および剥離面との関係
V
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Ⅵ
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2 9 2 S
IHi叫脚幣W:東経けi-nsiiojf.il
肝門部肝切除のみ
2 5 1 2 5
曜状柴占肝動脈切除
1 0 3 2 0
Iit叶Iit!哲U)怜】帥lォWF爺
拡大肝J.、:饗UJft. Ll
1 3 1 0 3
*.';人Ill- li態UJ隙 0
0 1 0 0 1
虻ktitm.柁r亡状態U)陀 (i
0 0 5 1 0
* :P<0.05
3)術式と切除断端および剥離面との関係
肝臓側胆管の断端浸潤の陽性率(hw)において、肝外
胆管切除のみの群は11例陽性であるのに対し、新術式
は4例(80%)、本術式は6例(100%)といずれの群間
にも有意差が認められたO暴順位面への癌浸潤の判定
(ew)においても、肝外胆管切除のみでは、 2例(18.2%)
であったのに対し、新術式では3例(60%)、本術式で
は5例(83.6% と優れている傾向にあった。本症に対
する治療方針として、治癒切除が可能と判断した症例
は、可能な限り肝右葉切除および尾状葉切除としてい
るので肝左薬切除群は、 hw, ew陽性率が75%と高率で
あった(表3)0
4)肉眼的または組織学的嚢膜(外順)浸潤度からみた
他の進行度規定因子
外科治療対象となる本症は、 S】以上の症例が86.1%
で、 Slにおいても4例と少数例ではあるが、既にリン
パ節転移を50%に、脈管浸潤を75%に認めた(表4)0
その中で右肝動脈癌浸潤陽性率をみると右肝動脈と
腫癌との組織学的関係が判定可能な右葉切除群7例、
新術式5例の計12例中、右肝動脈外膜に5例、右肝動
脈周囲の結合織に7例浸潤を認めた。
5)術式別症例の概要と予後
A.肝外胆管切除症例
11例中絶対非治癒手術が10例を占め、 hw, ewが9例
で陽性になり予後も無再発生存例は18か月の1例で不
良であった。症例9は、外膜内にとどまるStage Iの
症例であったが、リンパ節再発により13か月日に死亡
した。しかし、症例3.4のごとく放射線照射(65Gy,
70Gy) 、 THP-adriamycin 20mg/m¥ Cisplatinum 120mg/nf,
Etoposide 120mg/m2の化学療法を行うことによりEI本
癌治療学会固形癌化学療法直接効果判定基準による縮
小率は90%以上を示し、現在75か月生存例と、 72か月
再発死亡の長期生存例を経験した(表5)0
B.肝H部切除肝門部空腸吻合症例
13例の平均年齢は72. 1歳と高齢者を中心に施行した
が、症例5までは初期の10年間に施行されたもので、
非治癒切除3例、相対治癒切除1例であったが、早期
に血行性転移をきたし予後不良であった。最近は、根
治性が期待できる症例には、右肝動脈を根部で切離し、
腫癌とen-blockに電状葉と共に切除し根治性を高めて
いる(症例6,9,10,ll,13),その結果5例中4例でhw,
ew陰性となり今後の長期予後が期待される(表6)0
C.拡大肝右葉切除兼尾状葉切除
尾状葉を含めた拡大肝右菓切除を肝外胆管切除に併
せて施行した6例は、 hinfiの浸潤型でも治癒切除可能
で、組織学的に全例相対治癒以上の切除が施行できた。
草 野 敏 臣
&・4 肉眼的または組織学的柴膜(外膜)浸潤度から
みた他の進行度規定因子
S`- Si!
n-4 n-27 100%)
(100%) (100%)
1(25.0) 2( 7.4)
1(20.0) 1(25.0) 9(33.3)
3以上 1 3.7
l
250.0)
1(25.0) 9(33.3
3
3 ll.1
1 2(40. 0)
4(14.i
Hinf
1(25.0) 8(29.6)
衷5 肝外胆管切除症例
症例 肉眼型 Stage 、、, ew 根治度 転 伸
1 7O♂ きJ潤'H IV(se.Vl) 絶非治 山 血 術 死
2 78㌔ 結き之潤 n ss.vl (-)絶非治 32M 再 発 死
3 52♂ テ乏洞型 I(se.Vi)
】 絶非治 75M 再発生存
・I 61d" ?蔓潤旦 in(si.vJ) 2
5 5こl♂ テ剤判型 IV se.V二) l
2 絶非治 72M 再発生-(i
2 絶非泊18M 内 苑 死
(う 81♀ 孔原型 I ss.Vi)
1 絶非治12M 再 発 死
7 66♂ 結浸潤 (se.Vl)
1 絶非満16M 再先生w
l 削」 iii ism 'I
8 5:1♀ テ3ffl型 [(si.Vi)
i 18.!
V 2
105
9 r>(う♀ 孔紙型 I(af.Vo (-)
17(63.0%)
(-)相治癒13M 再 発 死
10 77♀ i之潤型 IV se.V--
2 絶非治 7N 再 発 死
ll 6′I♀ 相澗型 I se.V-i)
} 絶_咋;n :ミN 再 V」 '-t
胆道噛取扱い規約による(V : Arh. M :術後経過月数)
21(7.7.i
9(33.3)
:i
8(29.6%)
表6 肝門部切除肝門部空腸吻合症例
症例 肉眼型 Stage hw 根治度 転 仰
1 7-1♀ 結テ剤判 se,V二)
術後経過も、 5年生存4例(66.7%)と良好であった。
しかし、術後肝不全による手術死亡]、例、他病死であ
るが在院死亡1例を経験した。また症例1は重複癌で
絶対非治癒切除であった。 (表7)
左菓切除群は3年以上の生存例は無く門脈合併切除
を併施した2症例も1年内外で再発死亡していた。
6 )上部胆管癌切除例の累積生存率
(Kaplan-Meier法)
本術式を施行した6例の生存率は術後3,4,5年にお
いて有意に優れていた。しかし大量肝切除に起因する
在院死亡が2例含まれ、術後早期の生存率の低下が今
後の課題である。肝外胆管切除兼肝門部切除群の中で
尾状菓右肝動脈合併切除再建例が5例あり、その中の
4例が無再発生存中で生存率の推移が期待される。ま
た肝外胆管切除のみの非治癒切除に終わった症例の中
にも、術後放射線照射、化学療法を施行し、 5年以上
の長期生存2例を認めた(図1)0
考 察
超音波、経皮経肝胆道内視鏡検査の進歩により上部
(肝門部)胆管癌に対する術前画像診断の精度は改善さ
れてきたが、早期診断が困難でl)診断時既に進行症例
が多く、その手術成績は不良である。そこで胆管上部
の脈管走行と再発形式より、本症に対する術式として、
(-) 2 絶非治13M 骨転移死
2 77/ 結節型 n(ss.vi)
1
(-)相非治18M 骨転移碓
3 65♀ 結i剥 ID(si.Vn)
-) (-)相対治1.'1M 皮僧転死
・1 75♂ 組テ⊇潤 D(ss.Vi.
1 l 絶井 川1111山'蝣・I
5 82♂ 紙を剥1] ID(se.V:>)
I 蝣_' i色Jl-ffi r.M 再 増:・し
6 5B♂ 結き12潤 n(ss.vo
7 T.う♂ 浸潤型 IV(se.V-
(-) (-)相非治 22n′l 再発生'
2 2 絶非ft 17M 再発生存
8 81♂ 結i2洞 IV se.V-i
2 1 絶非泊14M 再 発 死
9 7L♀ 細i剥I'il IV(se.V<
1 2 絶非治 8M 再発死'
10 64cP 結浸潤 皿(se,Vl)
(-) (-)相対治16M 生 存'
82♀ 結き⊇潤 ](se,Vi)
12 68♀ 結浸潤 IV(se.Vi>)
-) 1 相非治13丸Il 生 存.
1 2 絶非栴 6M 再 発 死
1:弓 69♂ 浸潤型 IV(se.Vi)
(-.) (-)相対治13M 生 存`
胆道痛取扱い規約による(V : Arh. M :術後経過月数)
. :尾状薬右肝動脈合併切除(胃大網動脈による再建)
表7 拡大肝右菓切除症例
症例l刻限型 Stage hw 根泊度 転 帰
I 63♂ 結浸潤 IV(VSJ hi.0
(+) (+)絶非泊 6M 再発死♯
2 58♀ 結浸潤 IV(vs>. hi:I)
(-) (-)絶対泊 60M 再罪死`
3 83㌔ 泣潤型 N(vsi. hi-.-
(-) (-)相対治 5M 他病死'
1 78♀ 浸潤型 ID vsi. hi-.0
(- (-)絶対泊 肝不全術死`
5 (う6♀ テ之潤型 IB(v
-) (-)相対治 82M 生 ir
(う 52♂ i亘澗型 IV(vsj. hii)
-) (+)絶対泊 72M 再発/]三`
7 67♂ 孔gTl型 ((vsii. hiu)
-) (-)絶対泊 73M 生 存'
胆道癌取扱い規約による(vs'. Arh. hi : hint. M:術後経過日数)
I:尾状菓合併切除, 辛 :重複癌(肝腺偏平上皮癌)
上部(肝門部)胆管癌に対する外科治療
106
(㌔) (図l )
上布巌菅麗異境生存串(Kaplan-Meier法)
60
(衝後月数)
図1上部胆管癌累積生存率(Kaplan-Meier法)
図2 左上段は、肝門部における主腰痛部(★)と、右肝動
脈(●)の解剖学的位置関係を示し、左下段では胆管周囲
神経浸潤が認められるO右は、肝十二指腸間膜上部を縦
断した術中USであるが、上部胆管魔境(T)と門脈(☆)
に挟まれた右肝動脈(令)が確認される。胆管水平浸潤範
囲も術中USで判定可能である(凸)。
図3 経皮経肝胆管造影と肝動脈造影.右肝動脈(分)は魔
境(*)の背側を接して走行し、右肝管は、左肝管と異な
り前区域枝(AB)と後区域枝(PB)が、肝門部末梢で上下
に禎雑に分岐し、肝側の浸潤部を正確に切除することは
意外に困難である。
胆管切除に拡大肝右菓切除および尾状菓切除を併せて
施行することの妥当性について報告してきた2'。
その理由として、肝十二指腸間膜上部では、右肝動
脈が主病巣である上部働管と門脈に挟まれ横走すると
いう解剖学的特徴(図2)より、上部胆管癌においては、
ほとんどの症例で右肝動脈を温存することは胆道癌取
り扱い規約上、 EW(+)となること、肝門部glison周
囲の肝実質切除が充分できずHW(+)となることより、
非治癒切除の主因となりうる。
また右肝管は、分枝直後から前後区域上下に複雑に
分枝し術中には正確に切除範囲を決定することは難し
く(図3)、尾状葉も種々の分岐形態で肝門部胆管より
草 野 敏 臣
分枝し浸潤の頻度も高い。また胆管壁の水平浸潤が粘
膜面ではもちろんのこと胆管壁内でも粘膜下より外側
に、豊富に存在するリンパ管を介して予想以上に広範
に認められる・t'(図2)0
著者は、浸潤型胆管癌切除時に問婚となる胆管壁水
平浸潤および胆管壁外脈管(門脈、肝動脈)浸潤に対す
る術中超音波検査(術中US)の有用性を主張してきた。
すなわち、胆管壁水平浸潤部に随伴して生じる線維化
肥摩層を、術中USで、臆病から連続してみられる不
規則な高エコー帯として描出することが可能であり、
切除標本の検討から組織学的にも裏付けられた-'。し
かしながら、術中USも含め胆管造影および胆道内視
鏡によっても、本症浸潤型の術中肝内胆管浸潤の正確
な範囲決定は困難で、術中迅速病理検査を頼りにする
肝門部切除成績(遠隔成績)は不良である。
以上をまとめると、左右肝管合流部の癌に対する根
治手術に際しては、尾状葉の胆管や、実質に癌浸潤が
波及しているものとして手術することが必要であり、
尾状薬を含めた肝門部肝実質を確実に切除すべきであ
るl'。
また角円らも報告しているように、剥離面の癌遺残
に対しては、肝門部に近くなると胆管壁は薄くなり、
しかもリンパ管や神経組織が豊富で癌浸潤にそって胆
管周囲組織、すなわち門脈や肝動脈に波及しやすく治
癒切除率をあげるためには、門脈、肝動脈に浸潤して
いる症例に対して血行再建を含めた切除術式を考慮せ
ねばならない5-0
自験例の検討でも、肝外胆管切除や肝門部グリソン
の切除のみでは、 ew,hwとも陽性になることが多く予
後も不良であった。すなわち、左右肝管の合流部から
直接分岐する尾状葉は一次分枝として扱うべきであ
り、また肝動脈周囲の郭活はもちろん特に右肝動脈は
肝十二指腸間順左緑で分枝し、肝門部で胆管と門脈に
はさまれて走行していることより、一塊として切除す
ることが望ましいり。
そこで、当科でも浸潤型の治癒切除可能な上部胆管
癌症例に対して、尾状葉を含めた拡大肝右葉切除(症
例によっては、右三区域切除)を胆管切除に併せて施
行してきた-'。その結果、全例相対治癒以上の切除を
施行することができ6例中、 82か月の無再発生存例を
最高に、 4例 3.7%)が5年生存し、これまでの術式
と比較しほぼ満足のゆく術後成績であった。しかし大
量肝切除による術死(78歳♀) 1例と他病死ではあるが
術後4か月死亡1例(83歳3)を経験した。よって75歳
を越える高齢者は、術前検査で正確な肝予備能評価が
できず、本術式の適応を厳密にすることと、今後更に
周術期管理を確立することが重要な課題である。
著者らは、高齢者や肝予備能不良例に対し、術式の
107
工夫として右肝動脈を根部から切除し、尾状葉と共に
肝門部切除を徹底させ、残存肝右葉に胃大網動脈を用
い肝動脈の再建を行い良好な成績を得ている`''。まだ
少数例であるが、根治性や術後の肝機能の推移などか
ら開存率も高く、今後の長期予後が期待される。
また非治癒切除例でも体外からの放射線治療と白金
製剤を中心とした化学療法を施行することにより5年
以」二の長期生存2症例を経験した7-0 本例は、いずれ
も60Gy以上の放射線治療を併用していることと、シス
プラチンを中心としたregimeにて、副作用が許す限り
頻回に授与していることが特徴的であった。さらに最
近の症例では、レーザー温熱療法を行いその後切除し
た標本の組織学的検討より、臆病壊死層と正常組織の
境界に多数のリンパ球、マクロファージの浸潤が観察
され、温熱効果による抗腰痛作用のみならず、レーザー
光の腫癌細胞に対する異種抗原性を高める可能性が示
唆されたn。胆管癌の再発形式より内視鏡的なレーザー
温熱療法は、切除後の補助療法としても期待できると
考えている。いずれにしろ本症に対しては、外科治療
のみでは治癒できる症例は少なく、積極的に種々の集
学的治療を試みるべきである。
緋 III吉
本症に対する術式として、肝門部胆管切除や肝外胆
管切除のみの症例の予後は不良であった。画像診断に
よる正確な進展度診断には限界があり、肝門部の脈管
走行より、胆管切除に右肝動脈、尾状薬、および肝右
菓切除を併行し良好な成績を得た。門脈浸潤を伴うよ
うな進行例に対しては、切除術式間に有意差はなく外
科治療の限界と思われ、放射線照射を中心とした集学
的治療の有用性が示唆された。
文 献
1)草野敏臣:上部(肝門部)胆管癌に対する拡大肝右
菓・尾状菓切除の意義.厚生省がん研究助成金水本
粧昭和63年度研究報告書: 58-61, 1990.
2)草野敏臣,武藤良弘:胆道癌早期診断の現
況. "蝣"-GIGA 2: 455-459, 1993.
3)草野敏臣:術中超音波検査による胆道癌進展度判
定.厚生省がん研究助成金水本班昭和62年度研究
報告書: 73-78, 1988.
4)草野敏臣,古川正人,中田俊則,瀬戸口正幸,林言也
鉄,田代和則:術中超音波検査による胆道痛進展
度判定.医療42: 1142-1145 1988.
5)角田 司,徳永茂樹,土屋涼一,草野敏臣,古川正人:
肝門部胆管癌における拡大手術の意義.外科治療
上部(肝門部)胆管癌に対する外科治療
108
60: 16-21, 1989.
6)草野敏臣,古川正人.中田俊則.草場英介,山内秀
人,角田 司,土屋涼-:胃大網動脈を用いた肝動
脈再建法(上部胆管癌に対して).臼外会誌91 :
1749-1751. 1990.
7)永尾修二,大坪光次,宮崎国久,古川正人.草野敏
臣,藤井秀治:EAP療法で奏功した上部胆管癌の
1例.癌の臨床 37: 1815-1820.1991.
8)草野敏臣,古川正人.中田俊則,渡部誠一郎,王
志明,山EEl雅史:胆管癌に対する内視鏡的レー
ザー治療.消化器癌1: 525-527,1991.