発電機トルク制御と系統電流制御を両立する

発電機トルク制御と系統電流制御を両立する
マトリックスコンバータの FRT 制御法
学生員
高橋
広樹
正
員
伊東
淳一(長岡技術科学大学)
FRT Method of Matrix Converter to Ensure Compatibility between
Generator Torque Control and Grid Current Control
Hiroki Takahashi, Student Member, Jun-ichi Itoh, Member (Nagaoka University of Technology)
This paper proposes a FRT (Fault ride through) method for a matrix converter in a grid-connected system to control the grid
reactive current and the generator torque during short grid failure. In the proposed method, the control period of the system is
divided into 3 modes. In the first mode, all switches are turned off and, in the second mode, a zero vector of the matrix converter
is output. By using these 2 modes and utilizing a snubber circuit in the matrix converter, the generator torque is controlled during
short grid failure. In addition, in the third mode a non-zero vector is selected to connect the generator to the grid in order to
provide the reactive current to the grid. In contrast, the paper also proposes a feedback control to obtain the stable operation.
From experimental results, it is confirmed that grid reactive current of 0.44 p.u. and generator torque of 0.7 p.u. are achieved by
the proposed FRT method during short grid failure.
キーワード:マトリックスコンバータ,FRT,無効電流,発電機
Keywords:matrix converter, FRT, reactive current, generator
マトリックスコンバータが盛んに研究されており(6)-(12),そ
1. はじめに
の中で風力発電システムやマイクロガスタービンシステム
近年,再生可能エネルギーへの注目が高まっており風力
にマトリックスコンバータを適用した事例が報告されてい
(1)
発電の導入が進められている 。風力発電システムでは,瞬
る(9)-(11)。しかし,マトリックスコンバータは降圧型電力変
時電圧低下(以下,瞬低)による大規模な停電を防止し,
換器なので,瞬低が発生した場合は出力電圧も低下し,発
瞬低後の系統電圧回復を早めるため,下記のような系統連
電機の運転継続が難しいという問題がある(12)。
(2)-(3)
系要件が規定されている
。
これまで,瞬低に対応するマトリックスコンバータの FRT
(1)瞬低時も,規定された残電圧と瞬低継続時間以内であ
(Fault ride through) 制御がいくつか報告されている(13)-(16)。文
れば,発電機に連系された電力変換器は解列せずに運転を
献(13)から(15)では産業用モータを対象とした FRT 制御を提
継続しなければならない。(日本,中国,欧米各国)
案しており,モータを停止させずに運転継続する方法を提
(2)瞬低時は,低下した電圧値に応じて無効電流を系統に
案している。また,文献(16)では運転継続とブレーキ回路を
注入する。(ドイツ,スペイン等)
用いた電力制御を同時に達成している。しかし,前述した(1)
なお,このような系統連系要件は今後マイクロガスタービ
から(3)の機能を同時に満たす FRT 制御に関する報告は著者
ンやエンジン発電機といった分散電源システムも対象とな
らの知る限りない。
ると考えられる。
また,風力発電では風車の加速,振動を防ぐため,出来
本論文では,系統連系用マトリックスコンバータの FRT
制御として,瞬低中の運転継続と系統無効電流制御,発電
る限り瞬低によるトルク変動を抑える必要がある(4)。一方,
機トルク制御を同時に達成する手法を提案する。提案法で
マイクロガスタービンやエンジン発電機等では,負荷変動
は,FRT のための追加部品を最小限とするため,瞬低中の
に対する応答が遅いという特徴がある(5)。従って,これらの
有効電力の処理にマトリックスコンバータのスナバ回路を
用途では系統連系要件とは別に次の機能も求められる。
利用する。また,瞬低中の動作モードを 3 つに時分割する
(3)瞬低中も瞬低前と同じトルクを発電機に印加し,発電
機から取り出す有効電力の変動を抑える。
一方,高効率,小型軽量,長寿命な AC-AC 変換器として
ことで発電機トルク制御と系統無効電流制御を両立する。
発電機トルク制御では,スナバ電圧と発電機電流振幅をフ
ィードバックすることで安定した動作を実現する。一方,
系統無効電流制御はマトリックスコンバータの仮想直流リ
ンク電流をオープンループで制御することで達成できる。
最後に,提案する FRT 制御を実機検証し,良好な結果を得
たので報告する。
2. 回路構成
図 1 に発電機から系統にインターフェースするマトリック
スコンバータの回路図を示す。図 1 はマトリックスコンバ
ータの LC フィルタと双方向スイッチ群,ブレーキ回路を内
包したスナバ回路,発電機から構成される。瞬低中は系統
に無効電流を流すため,マトリックスコンバータの入出力
で授受する有効電力はゼロである。しかし,発電機にトル
クを印加し続ける必要があるため,瞬低中はブレーキ IGBT
をオンし,ブレーキ抵抗で発電機から供給される有効電力
を消費する。このブレーキ回路はマトリックスコンバータ
Fig. 1. Circuit diagram of the matrix converter for a grid
特有の追加部品ではなく,従来の整流器-インバータシス
connected system. The snubber circuit includes a brake circuit.
テムでも必要となるため,マトリックスコンバータの優位
性は損なわれない。
3. 瞬低時の変調法
図 2 に FRT 制御を検討するための間接型マトリックスコ
ンバータ(以下,IMC)の回路図を示す。本論文では,仮想
AC-DC-AC 変換方式に基づき,マトリックスコンバータを
図 2 のように電流形整流器 (以下,CSR) と電圧形インバー
タ (以下,VSI) に置き換える。仮想 AC-DC-AC 変換方式と
は,
「入力端子と出力端子の接続関係が同一であれば,変換
器の構成が異なっても同じ入出力波形が得られる」との原
Fig. 2. Circuit diagram of an indirect matrix converter. Note
理に基づいた方式で,マトリックスコンバータを仮想的に
that the filter is omitted and the snubber circuit uses an ideal
CSR と VSI に置き換えることで瞬低時の変調法を簡単に検
voltage source.
(8)
討できる 。なお,図 2 では LC フィルタを削除し,スナバ
回路をダイオードブリッジと電圧源とする。ここで,マト
リックスコンバータと IMC で同じ入出力波形を得るために
は,両者のスイッチング関数を用いて(1)式が成り立てば良
い(8)。ただし,図 1 のフィルタの影響は無視し,各スイッチ
ング関数はオンの時 1,オフの時 0 とする。
 s ru

 s rv
 s rw
s su
s sv
s sw
s tu   s up
 
s tv    s vp
s tw   s wp
s un 
 s
s vn   rp
s
s wn   rn
s sp
s sn
s tp 
 ......... (1)
s tn 
Fig. 3. VSI operation in short grid failure. The control period is
CSR と VSI の変調法は文献(8)で提案された三角波キャリ
divided into three modes.
ア変調に基づき,CSR は系統力率を,VSI は出力電圧を制
御する。瞬低中は無効電流を系統に注入するため,CSR の
系統力率指令値をゼロとする。なお,通常時は系統力率指
直流リンク電流 idc を確保しなければならない。本論文では,
令値を 1 とし,発電機から系統に電力を回生する。
この 2 つの課題を解決する VSI の変調法を提案する。
図 3 に提案する瞬低中の VSI の動作を示す。本変調法で
一方,通常時の VSI は発電機をベクトル制御するが,瞬
低時は CSR の系統力率ゼロ制御によって直流リンク電圧 edc
は VSI キャリア一周期中のモードを 3 つに時分割する。
がゼロになる。従って,瞬低時も発電機トルクを制御する
1)
Mode 1: スナバ導通モード
ためには何らかの方法で VSI の出力線間電圧を変調し,発
スナバ導通モードでは VSI の全スイッチをオフにし,発
電機電流をフィードバック制御する必要がある。さらに,
電機電流をスナバ回路に還流させる。スナバ導通モードの
系統側に無効電流を注入するためには VSI の変調で一定の
期間を制御するのはスナバ導通デューティ dsnb であり,この
期間の直流リンク電流はゼロ,出力線間電圧振幅はスナバ
直流電圧 Vsnb に一致する。ただし,スナバ回路のダイオード
ブリッジの特性で,発電機電流の符号が同じ相同士の線間
電圧はゼロとなる。
2)
Mode 2: 直流リンク導通モード
図 4 に VSI の空間ベクトル図を示す。直流リンク導通モ
ードでは VSI の空間ベクトルのうち,ゼロベクトル以外の
V1-V6 のいずれかを選択する。直流リンク導通モードの期
Fig. 4. Space vector diagram of the VSI.
間を制御するのは直流リンク導通デューティ dlink であり全
出力相が直流リンクに接続されるので一定の idc が得られ,
出力線間電圧は直流リンク電圧に一致する。ただし,CSR
を力率ゼロで動作させているので,入力周波数の 1/6 周期毎
の直流リンク電圧の平均値はゼロである。
3)
Mode3: 還流モード
還流モードでは VSI の空間ベクトルのうち,ゼロベクト
ルである V0 もしくは V7 を選択する。すなわち,還流モー
ドでは VSI の下アームもしくは上アームの全スイッチがオ
ンとなるため,発電機電流が VSI 内を還流する。この時,
Fig. 5. Equivalent circuit diagram of the IMC in mode 1 and 3.
S1 and S2 turn off in mode 1 and turn on in mode 3.
Table 1. Selected vector in mode 2 and mode 3,
and VSI duty references.
直流リンク電流と出力線間電圧は共にゼロとなる。なお,
還流モードのデューティは 1-dsnb-dlink となる。
図 5 にスナバ導通モードと還流モードにおける仮想 IMC
0 deg .   out  60 deg .
の等価回路を示す。前述の通り,スナバ導通モードと還流
60deg.  out  120deg.
モードでは idc がゼロなので,等価回路は VSI とスナバ回路,
120deg.  out  180deg.
発電機のみで構成される。VSI のスイッチ S1, S2 はスナバ導
180deg.  out  240deg.
通モードでオフ,還流モードでオンとなる。図 5 から明ら
かなように,この 2 つのモードでは VSI は単方向の昇圧コ
ンバータと等価である。従って,S1, S2 のスイッチングによ
240deg.  out  300deg.
300deg.  out  360deg.
って瞬低中もマトリックスコンバータの出力線間電圧を変
調できる。この時,スナバのダイオードブリッジの影響で
出力線間電圧は 120 deg.導通の波形となるが,その正の期間
の平均電圧 Vout_line は次式で表される。
*
Vout _ line  d snb V snb ........................................................ (2)
ただし,dsnb*は dsnb の指令値である。ここで,スナバ導通モ
ードのデューティが dsnb であるのに対し,還流モードのデュ
ーティは 1-dsnb-dlink となるため,dlink が出力線間電圧変調の
外乱になるように見える。しかし,直流リンク導通モード
における直流リンク平均電圧はゼロなので,出力線間電圧
Fig. 6. Current path of the VSI in mode 2 when V1 is selected.
In this pattern, idc corresponds to iu.
の平均値は直流リンク導通モードと還流モードでゼロとな
イッチングする相が常に一相のみとなるように切り替え
り,dlink は出力線間電圧変調の外乱とならない。
る。さらに,VSI のキャリア比較で使用する各出力相のデュ
表 1 に回生時における直流リンク導通モード (Mode 2)
ーティ指令値は,図 3 及び直流リンク導通モードと還流モ
と還流モード(Mode 3) で選択するベクトルを示す。ただし,
ードのベクトルの関係から表 1 のように与えれば良い。た
発電機電流ベクトルの角度は電流ベクトルが  軸に一致し
た瞬間を 0 deg.とする。また,図 6 に直流リンク導通モード
でベクトル V1 を選択した時の VSI の電流経路を示す。図 6
に示すように,ベクトル V1 を選択するとそのスイッチング
パターンから idc = iu となる。従って,表 1 に示す通り発電
機電流ベクトルの角度に応じて直流リンク導通モードのベ
だし,d135*, d246*は次式から与える。
*
*
*
d135  d link  d snb ....................................................... (3)
*
*
d 246  1  d link ............................................................. (4)
ここで,dlink*とは dlink の指令値である。
クトルを切り替えることで,負の idc を確保できる。また,
図 7 に,仮想 IMC の変調ブロック図を示す。CSR は文献
還流モードで選択するゼロベクトルはモードの移行時にス
(8)の一相変調法を用いる。ここで,CSR は瞬低時に系統力
率指令値を変更するだけなので,通常時と瞬低時で変調を
変える必要はない。一方,通常時の VSI も変形キャリアを
用いた文献(8)の変調法を使用するが,瞬低時は全く異なる
変調法を使用するため,瞬低を検出したらマルチプレクサ
MUX2 を用いて VSI ゲートパルスを切り替える。また,ス
ナバ導通モードと直流リンク導通モードを分けるため
MUX1 を用いる。一方,直流リンク導通デューティ指令値
dlink*に対して dlink**が生成されるが,これは表 1 のデューテ
ィ指令値の 60 deg.切り替えによって発生する直流リンク電
3
2

流リプルを補償するための演算である。さらに,CSR に一
相変調を適用した時に入力電流がひずまないようにするた
め dlink***を生成する。これらの補償を導入することで,理想
電流源負荷時の系統電流はひずみのない正弦波が得られ,
その振幅 Iin は出力電流振幅 Iout を用いて次式で表される。
I in 
3
*
d link I out ........................................................... (5)
2
Fig. 7. Modulation block diagram of the IMC. The VSI modulation block
is selected depending on the grid state.
以上の演算で得られた直流リンク導通デューティ指令値を
dsnb*とともに表 1 の通りに各出力相デューティに振り分け

ることで,瞬低時の VSI ゲートパルスが得られる。
4. 瞬低時のフィードバック制御
2
図 8 に瞬低中に導入するフィードバック制御のブロック
i  i
2
図を示す。図 1 のとおり,実際のシステムではスナバ回路
の電圧源がキャパシタとなり,負荷の発電機はインダクタ
と電圧源で模擬されるため,瞬低中に運転継続するにはス
Fig. 8. Control block diagram for the snubber voltage control
ナバ電圧と発電機電流を安定に制御する必要がある。この
and the generator current amplitude control in FRT mode.
ため,本論文では瞬低中にスナバ電圧と発電機電流をフィ
ードバック制御する。図 8 では,図 5 に示した等価回路を
Table 2. Simulation parameters under the ideal condition.
元にスナバ電圧制御をアウターループ,発電機電流制御を
インナーループとしている。瞬低中はブレーキ IGBT がオン
するので,スナバ電圧指令値 Vsnb*はブレーキ抵抗 Rbrk で消
費する有効電力に応じて決定する。スナバ電圧制御,発電
機電流制御ともに PI 制御器を用いるが,図 5 の S1, S2 が同
期してスイッチングするため,発電機電流の位相を制御す
るにはスイッチングの自由度が足りない。このため,発電
機電流は振幅のみを制御する。一方,図 5 からわかるよう
に,発電機の速度起電力 Ea がほぼ一定の場合,出力電流の
振幅を増やすためにはマトリックスコンバータの出力電圧
を下げなければいけない。このことから,発電機電流制御
に示す。理想条件ではキャパシタやインダクタを使用しな
のフィードフォワード項 Ea に対して PI 制御器の出力を減算
いので,図 8 の制御はここでは導入していない。また,緑
*
する。さらに,スナバ導通デューティ指令値 dsnb を得るた
色の実波形に対してカットオフ周波数 1 kHz のローパスフ
めに,出力電圧指令値をスナバ電圧 Vsnb で除算する。以上の
ィルタを通し,赤色の平均値波形を得ている。図 9 では 0.05s
フィードバック制御を導入することで,瞬低中における安
から 0.15s の間,残電圧 10%の瞬低を発生させており,それ
定した運転継続と発電機トルク制御を達成できる。
以外の期間ではオープンループで負荷から系統に電力を供
5. シミュレーション結果
給している。図 9 より,スナバ導通モードによって瞬低中
のみスナバに電流が流れる。さらに,スナバダイオードの
図 9 に図 7 の変調法の妥当性を確認するために行った理
オン状態に応じて出力線間電圧は 120 deg.導通の矩形波と
想条件(フィルタなし,理想電流源負荷,直流電圧源スナ
なる。この時,出力線間電圧の振幅は 142 V となり,(2)式
バ,理想転流,瞬低検出遅れなし)における IMC のシミュ
から求めた計算値に一致する。一方,直流リンク電流は直
レーション結果を示す。また,シミュレーション条件を表 2
流リンク導通モードと非ゼロベクトルの切り替えによっ
Table 3. Experimental conditions.
Table 4. Feedback control parameters.
ドブリッジによって発生し,追加素子を最小限に抑える上
Fig. 9. Simulation result under the ideal condition. The
ではやむを得ないひずみである。しかし,仮想 CSR の力率
proposed modulation method obtains zero grid power factor, a
ゼロ変調と仮想 VSI の直流リンク導通モードによって,瞬
negative dc-link current and the rectangular output voltage.
低中の系統有効電流をほぼゼロにし,0.44 p.u.の無効電流を
系統に注入できることを確認した。
て,負の直流電流となる。この時,直流リンク電流は CSR
図 11 にスナバ電圧制御と発電機電流振幅制御の応答を示
の一相変調と図 7 の|iout_max|による補償によって,入力周波
す。ここでは,通常時と同等の発電機有効電力をブレーキ
数の 6 倍で脈動する。その結果,系統電流は力率ゼロでひ
抵抗で消費するため,スナバ電圧指令値を 350 V とした。結
ずみのない正弦波が得られる。この時の系統電流値は 2.6 A
果より,図 9 のフィードバック制御によって瞬低中の発電
となり,(5)式で求めた計算値に一致する。以上のように,
機電流振幅が指令値に追従することを確認した。一方,ス
提案する VSI の変調法によって瞬低中も出力線間電圧を変
ナバ電圧も指令値に追従するが,瞬低中では指令値に一致
調し,系統無効電流制御と両立できることを確認した。
していない。この原因はスナバ電圧制御の PI 制御器の応答
6. 実験結果
表 3 に実験条件を示し,表 4 に制御パラメータを示す。
不足であり,所望の応答を得るゲイン設計は今後の課題と
する。しかし,スナバ電圧制御と発電機電流の振幅制御を
導入することで安定に運転を継続できることを確認した。
本章では図 1 の試作器を構成し,提案する FRT 制御でマト
図 12 に発電機の dq 軸電流波形を示す。ただし,指令値
リックスコンバータの運転継続,系統無効電流制御,発電
は通常時のベクトル制御で使用した値を保持している。図
機トルク制御を同時に達成できることを確認する。ただし,
12 からわかるように,通常時の d 軸電流と q 軸電流はベク
実験では発電機の代わりにインダクタと電圧源を用い,イ
トル制御によってそれぞれ 0 p.u. と-0.7 p.u.の指令値に追従
ンダクタに流れる q 軸電流を発電機トルクとして評価する。
している。なお,通常時の dq 軸電流波形に重畳するリプル
実験では,瞬低を発生させる電源として NF 回路設計ブロッ
は,二相変調に起因する零相電圧変動の影響である。瞬低
ク社製の電源環境シミュレータ ES 6000W を用いた。また,
中の q 軸電流に着目すると,その平均値は指令値に追従す
マトリックスコンバータの転流シーケンスの関係上,瞬低
る。これは,図 11 で述べたようにスナバ電圧指令値を 350 V
中の残電圧は 30%とする。さらに,最大の系統無効電流を
に設定することで瞬低中も通常時と同じ有効電力が発電機
得るため dlink* = 1-dsnb*で dlink*を計算する。
から供給されるためである。一方,瞬低中の d 軸電流は指
図 10 にマトリックスコンバータの入力波形を示す。瞬低
令値に追従せず,その平均値は-0.15 p.u.となる。これは,図
中の系統電流はひずみを含む正弦波状の周期波形となる。
8 が発電機電流の位相を制御せずに振幅だけを制御するた
この系統電流のひずみは,発電機負荷とスナバのダイオー
めである。さらに,dq 軸電流に含まれるリプルは系統電流
ひずみと同様に発電機負荷とスナバのダイオードブリッジ
が原因である。しかし,図 12 の q 軸電流波形から提案する
FRT 制御によって瞬低中も通常時と同等の発電機トルクを
印加できることを確認した。
7. 結論
本論文では,風力発電や分散電源に使用する系統連系用
マトリックスコンバータの FRT 制御を提案した。提案する
FRT 制御は瞬低中の運転継続,系統無効電流制御,発電機
トルク制御を同時に達成できる特徴を持つ。実機検証の結
果,提案するフィードバック制御によってスナバ電圧と発
電機電流を指令値に追従させ,安定に運転を継続できるこ
とを確認した。また,提案する変調法によってマトリック
Fig. 10. Voltage and current waveforms on the grid side.
スコンバータの仮想直流リンク電流を確保し,0.44 p.u.の無
During the short grid failure, the grid current includes the
効電流を系統に注入できることを確認した。さらに,スナ
reactive component of 0.44 p.u. only.
バ電圧を維持しつつブレーキ抵抗で電力を消費することで
瞬低前と同じ 0.7 p.u.の発電機トルクを得ることを確認し
た。なお,本研究の一部はパワーアカデミー研究助成から
支援を受けており,関係者各位に感謝の意を表します。
文
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(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
献
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Fig. 11. Transient response of the snubber voltage and the
generator current amplitude controls. The snubber voltage and
the generator current amplitude follow the references.
Fig. 12. Generator dq-current response. The average q-axis
current is kept to 0.7 p.u. during the short grid failure.
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