SAP082

Proceedings of the 10th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan (August 3-5, 2013, Nagoya, Japan)
極短バンチ計測用 2Cell 型 RF-Deflector に関する研究
STUDY ON 2 CELL RF-DEFLECTOR CAVITY
FOR ULTRA-SHORT ELECTRON BUNCH MEASUREMENT
高橋猛之進#, A), 西村祐一 A), 西山将大 A), 坂上和之 A)
鷲尾方一 A), 高富俊和 B), 浦川順治 B)
Takenoshin Takahashi#, A), Yuichi NishimuraA), Masahiro NishiyamaA)
Kazuyuki Sakaue A), Masakazu Washio A), Toshikazu Takatomi B), Junji Urakawa B)
A)
Waseda University
B)
High Energy Accelerator Research Organization
Abstract
We have been studying on a system to measure ultra-short electron beam bunch length at Waseda University. We
adopted the rf-deflector system which can convert the longitudinal distribution to transverse by sweeping the electron
bunch. By using HFSS, we optimized the design of the 2-cells rf-deflector which is operating on π-mode, standing wave,
dipole (TM120) mode at 2856 MHz. This rf-deflector was designed to have enough performance for measuring the 200
femto second bunch. Adjusting the cavity parameters, which was calculated in HFSS, we have finished manufacturing
under the collaboration with High Energy Accelerator Research Organization (KEK). We will integrate the rf-deflector
into an S-band Cs-Te photocathode rf electron gun system in Waseda University, and carry out bunch length
measurement. In this paper, the design of rf-deflector, the estimation for rf-deflector performance, and the future plan
will be described.
1.
はじめに
早稲田大学では小型線形加速器を用いて様々な研
究を行っており、電子線源として二種類の加速空胴
を所持している。1.6Cell 型 S バンド Cs-Te フォトカ
ソード RF 電子銃(以下、RF-Gun)ではパルスラジ
オリス実験 [1] やレーザーコンプトン散乱 [2] への応用
がなされ、ECC RF 電子銃(以下 ECC-Gun)ではコ
ヒーレントテラヘルツ光生成 [3]への応用が期待され
る。RF-Gun で生成される数 ps バンチの縦方向プロ
ファイルの詳細計測や ECC-Gun で生成される 数
100fs バンチのバンチ長測定が今後必要となってく
る。そのために RF-Deflector による高い時間分解能
でのバンチ長測定を目指し、研究を進めてきた。
2.
した。RF-Deflector によるバンチ長測定の概念図を
Figure 1 に示す。バンチ長 Δz を算出する際に用いる
理論式は電子に対する運動方程式を解くことで得ら
れ、
RF-Deflector によるバンチ長測定原理
RF-Deflector に高周波電磁波を供給すると形状固
有の共振モードが励起され、ビーム軌道上の共振電
磁場はビームに力を与える。共振電磁場は時間変化
しているためにバンチ各部に働く力の大きさは異な
るが、この力がビーム軌道に対して垂直に働く場合
RF-Deflector 通過後のビームはドリフトに伴い傾け
られていく。これはビームの縦方向プロファイルが
横方向プロファイルに変換されることを意味し、こ
の横方向プロファイルを計測することでバンチ長を
算出することが可能となる。
早稲田大学では TM120 モードを用いることで磁
場によるローレンツ力のみをビームに及ぼす設計と
___________________________________________
#
Figure 1: Outline of bunch length measurement.
[email protected]
E  yon   yoff
2
z 
(2)cB0 L
2
1
(1)
cos(t 0   )  cos 
となる。E はエネルギー、c は光速、cos の項はビー
ムが RF-Deflector に入射する位相に依存する値であ
る。また、分母の 2 は 2Cell 型の時に付く値である。
ビ ー ム は Figure 1 に 示 し た σyoff の よ う に RFDeflector なしの場合にも大きさを持っており、σyon
を測定する時に σyoff に埋もれる部分が少なければバ
ンチ長測定の時間分解能が高くなると考えられるの
で σyon を大きく、σyoff を小さくすることが重要であ
る。式(1)より B0 や L を大きくすることで時間分解
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能の向上、すなわち極短バンチの測定が可能になる
と言えるが、加速器施設の広さから L を大きくする
のには限界があるため、B0 が大きくなるように RFDeflector 設計を行い、結果として直方体の空胴を二
つ結合した 2Cell 型 RF-Deflector を採用した。
3.
RF-Deflector の設計と製作
2Cell 型 RF-Deflector の設計[4]には 3 次元電磁場
解析コード HFSS を用いた。RF-Deflector は一種の
空胴共振器であり、マクスウェル方程式を解くこと
によって空胴形状固有の共振モードが求められるの
で、2856MHz で TM120 モードが共振するような空
胴パラメータを用いて設計を行った。この条件を満
たす形状は x 方向長さと y 方向長さを調整すること
で幾通りにもなるが、その中でビーム軌道上の最大
磁束密度 B0 が一番大きくなる形状を採用した。直
方体の形状により TM120 モードと TM210 モードの
縮退をとき、安定なモード選択が可能である。
さらなる時間分解能の向上を目指し 2Cell 型へと
改良した。π モードで動作させることにより、より
大きな力をバンチに与えることが可能となる。設計
した 2Cell 型 RF-Deflector の概観を Figure 2 に示し
たが、ビーム軌道上の磁場強度分布は Figure 3 のよ
うに 1:1 となり、効率良くビームに力を与えること
ができる。
Figure 2: Structure of
2-cells RF-Deflector
(HFSS).
Figure 3: Magnetic field in 2cells RF-Deflector (HFSS).
また、RF-Deflector に電磁波を供給する導波管との
結合の状態もその性能を決める要素として重要であ
るが、導波管と RF-Deflector の結合部の大きさを調
整することで導波管とのインピーダンス整合を行っ
た 。 Figure 4 の HFSS 上 で の 反 射 法 の 結 果 か ら
2856MHz 付近に π モードが共振しており、導波管か
らのエネルギー供給も十分であると言える。Figure 5
のスミスチャートを見れば結合定数 β がほぼ 1 であ
り、理想的な結合状態を表わしている。
Figure 4: Reflecting
result (HFSS).
method
Figure 5: Smith chart
(HFSS).
以上の設計を元に RF-Deflector の製作を行った。
製作は KEK と共同で行い、4 回の調整加工の後、導
波管のろう付けを行い、Figure 6 に示した 2Cell 型
RF-Deflector が完成した。Figure 7 はビーズ法を用い
た磁場強度分布測定結果であり、HFSS での結果と
は 少 し ず れ が 生 じ て し ま っ た が 、 こ れ は RFDeflector に取り付けたチューナーを使って調整する
ことができる。また、Figure. 8 にネットワークアナ
ライザを用いた反射法の結果、Figure. 9 にスミス
チャートを示す。
Figure 6: Structure of 2Cells RF-Deflector.
Figure 7: Magnetic Field
in 2-Cells RF-Deflector.
Figure 8: Reflecting method
result.
Figure 9: Smith chart.
これらの結果から Table 1 に示す通り、HFSS での
設計値と実際のパラメータはほぼ一致しているとい
うことができる。各モードの共振周波数目標値に関
しては大気中での計測であったことや温度依存性か
ら実際の加速器システム環境で適切に動作するよう
な値を設定している。目標値とのずれに関しても磁
場強度比同様に、チューナーによる最適化が十分可
能である。
Table 1: 2-Cells RF-Deflector Parameters
4.
パラメータ
結果
目標値
π モード
2855.300MHz
2855.487MHz
0 モード
2859.852MHz
2860.037MHz
Δf
4.552MHz
4.55MHz(HFSS)
π モードの Q 値
16565
17282(HFSS)
磁場強度比
1.15:1
1:1
結合定数 β
1.047
1.000
バンチ長測定実験のセットアップ
RF-Deflector が完成し、ビームライン中に導入す
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ることでバンチ長測定実験を行うことができるが、
ビームライン中のどの位置にどのコンポーネントを
配置するかを決めなければならない。予定している
バンチ長測定実験のセットアップを Figure 10 に示す。
の電流値を調整した。Figure 12 に RF-Deflector の位
相に対する y 方向重心位置と y 方向ビームサイズの
関係を示したが、この結果から重心位置が 0 のまま
変化しないゼロクロス位相においてビームサイズ最
大 と な っ てい る こと が わか る 。 Figure 13 に RFDeflector OFF 時の 2.05m 付近でのビーム形状、RFDeflector ON 時ビームサイズ最大となる位相での
ビ ー ム 形 状 を 示 し て お く 。 Figure 13 か ら RFDeflector が原理通りの効果を発揮していることがわ
かる。なお、横軸には時間 t をとり、ビームの進行
方向を表わしている。
Figure 10: Setup of bunch length measurement.
バンチ長測定には RF-Gun を用い、ソレノイド電磁
石でビームの拡がりを抑え、RF-Deflector 直前に置
いた Q magnet で RF-Deflector OFF 時の蛍光板での
ビームサイズ、すなわち式(1)の σyoff が小さくなるよ
う調整を行う。RF-Deflector が ON と OFF のそれぞ
れにおいて蛍光板での発光を CCD カメラでとらえ、
バ ン チ 長 を 算 出 す る 。 蛍 光 板 は 厚 さ 100μm 、
1.5×3.5cm のものを用いる予定である。なお、RFDeflector へのエネルギー供給はクライストロンで生
成した 10MW の内、方向結合器によって分けられた
750kW の予定である。
ビームライン中への RF-Deflector の導入を行う前
に σyoff の模擬測定として Figure 10 のセットアップ
において RF-Deflector をビームパイプに取り換えた
状態で測定を行った。σyoff はできる限り小さくすべ
きであったのでソレノイド電磁石と Q magnet の電
流値を調整しながらどの程度の値まで絞ることがで
きるのかを調べた。Figure 11 は調整後のビームサイ
ズを表わしており、その時のビームパラメータはエ
ネルギー約 5MeV、電荷量約 20pC/bunch である。
Figure 12: Beam size and center position of bunch
to RF-Deflector phase.
Figure 13: Beam shape in time direction distribution
(left: RF OFF right: RF ON)
Table 2: Result of GPT Simulation
Figure. 11: Beam size measurement.
Figure 11 に示 したビ ーム サイ ズとし て、 σyoff は
RMS 値でおよそ 220μm となっている。RF-Deflector
の性能に関しては後に述べるが、それを考慮すれば
この σyoff は十分小さな値と言うことができる。
5.
RF-Deflector の性能評価
2Cell 型 RF-Deflector を ON にすることでどの程度
ビームを傾けることができるのかを調べるために、
電子ビームトラッキングコード GPT を用いたシ
ミュレーションを行った。Figure 10 と同様のセット
アップを用い、ビームサイズ測定での結果と同様
σyoff が 220μm となるようにソレノイドや Q magnet
σyoff
219μm
Δz
3.04ps
σyon
6.91mm
Table 2 に GPT から得られた結果を示したが、重
心位置の変化 Δy は
y 
c 2 B0 L
sin(t0  0 )  sin 0 
E
(2)
で表わされるから Figure 12 での結果と、σyoff や Δz
などのパラメータを用いることで B0 を算出すること
ができ、その値は 718G となった。式(1)に σyoff や Δz、
算出した B0 などの値を代入すれば理論的な σyon とし
て 7.00mm を得る。シミュレーションでの σyon の値
と比べれば約 1%の誤差が生じていることとなり、
これは空間電荷効果の影響や式(1)を導く際、簡単な
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モデルを使ったことに起因すると考えられる。
このように理論式と実測値には何らかの誤差が必
ず生じるはずだが、測定すべきバンチ長が短くなれ
ばなるほど誤差による影響は強く現れてしまうため、
十 分 な 精 度 を 持 っ た 測 定 が 困 難 に な る 。 σyon に
εyon %、σyoff に εyoff %の誤差が存在する時バンチ長
Δz の測定誤差は誤差伝搬の式より
 yon 4 yon 2   yoff 4 yoff 2
 yon 2   yoff 2
が可能である。
今後、Figure 10 のセットアップでビームライン中
に RF-Deflector を導入し、RF-Gun を用いてバンチ長
測定実験を行う予定である。200fs といった極短バ
ンチの測定が可能であることから、数 ps のバンチ
に対しては縦方向のプロファイルを詳細に計測でき
ることが期待される。
参考文献
(%)
(3)
となり、これは εyon の値より小さくならない。B0 は
既に求められていて、σyoff の値を設定すれば式(1)より
あるバンチ長に対する σyon が計算できるから式(3)を
用いてバンチ長に対する測定誤差を計算することが
できる。例えば σyon の誤差が 5%であり、σyoff の誤
差が 20%である時のバンチ長測定誤差を Figure 14
に示す。
[1] K. Ogata, et al., Proc. of IPAC’11, THPS090,(2011)
[2] K. Sakaue, et al., Radiation. Phys. Chem. 77. 1136 –1141
(2008)
[3] Y. Koshiba, et al., Proc. of IPAC 2013, MOPFI024
“ULTRA-SHORT ELECTRON BUNCH GENERATION
BY AN ECC RF GUN“
[4] Y. Nishimura, et al., Proc. of IPAC 2013, WEPFI023
“STUDY ON TWO-CELL RF-DEFLECTOR CAVITY
FOR
ULTRA-SHORT
ELECTRON
BUNCH
MEASUREMENT“
Figure 14: Error of bunch length measurement.
Figure 14 からわかるようにバンチ長がある値より
小さくなると誤差が急激に増加し始めるが、σyoff を
小さくすることでバンチ長の測定誤差を抑えること
ができる。Figure 11 で示したビームサイズ測定では
σyoff をおよそ 220μm まで絞ることができ、これを
Figure 14 と照らし合わせると約 7%の誤差で 200fs
のバンチを測定することが可能であり、RF-Deflector
OFF 時のビームサイズ σyoff をできる限り小さく絞る
ことの重要性がよくわかる。バンチ長の測定誤差が
σyon の誤差 5%より小さくならないことを考慮すれ
ば誤差は十分抑えられており、2Cell 型 RF-Deflector
の性能として 200fs のバンチは測定可能と言って良
いだろう。
6.
まとめと今後
RF-Deflector によるバンチ長測定の原理を基に高
い 時 間 分 解 能 を 実 現 す る た め の RF-Deflector を
HFSS によって設計した。強い共振磁場を得るため
の形状や 2Cell 型構造を用いることで 200fs のバン
チ長測定が可能であることを GPT により見積もる
ことができた。KEK での調整加工を経て完成した
2Cell 型 RF-Deflector の各パラメータは HFSS による
設計値とほぼ一致し、生じたずれに関しても RFDeflector に取り付けたチューナーにより容易に調整
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