1-13

アマサスピラミド類の全合成
東大院・薬
○千代田幸治、下川
淳、福山
透
【序論】
アマサスピラミド類は、1999 年ニュージーランド沿岸に生息
Br
するコケムシ Amathia wilsoni から Prinsep らによって単離、構造
Br
OMe
OMe
決定された海洋性アルカロイドである1。アマサスピラミド A (1)、
E (5) は弱い抗ウィルス活性と抗菌活性、細胞毒性を示すことが
Br
Br
OH
分かっているが、本化合物群は天然よりわずかしか単離されない
ため、その他の生理活性については未だ十分に調べられていない。
N
R
また構造的な特徴としては、スピロラクタム骨格、4 置換炭素を
含む 3 つの連続する不斉中心、そして臭素を含む芳香環を有する
OH
NMe
O
A (1, R = Me)
C (3, R = H)
ことが挙げられ、合成化学的にも興味深い化合物である。我々は、
O
B (2, R = Me)
D (4, R = H)
Br
本化合物群の網羅的な全合成を目指し、その合成研究に着手した。
Br
OMe
【逆合成解析】
2 級アミドは Schwartz 試薬を作用させることでイミンへと変換
NMe
N
R
O
OMe
Br
Br
OH
2
できるため 、スピロ骨格の左部ユニットは γ ラクタムより誘導
可能であると考えられる。ヘミアミナールはイミドの立体選択的
NMe
N
な還元より導くものとすると、本化合物群はイミド 7 より網羅的
O
に合成することができると考えた(Scheme 1)。ラクタムの窒素原
E (5)
子を Curtius 転位により導入し、イミドをラクトンから導くとす
OH
NMe
N
H
O
F (6)
Amathaspiramides
ると、カルボン酸 8 へと逆合成できる。光学活性体として大量合
成可能なブテノリド 103に対し、Rh 触媒存在下ボロン酸 9 の 1,4-付加を行うことで光学活性体の合成を行う
ことができると考えた。
Scheme 1
Br
Br
OMe
OMe
OAc
OMe
Br
O
Amathaspiramides
O
N
H
NMe
O
7
Br
+
O
HO2C
O
CO2R
8
B(OH)2
9
O
O
10
【結果・考察】
鍵中間体 7 の合成を Scheme 2 に示す。Rh 触媒存在下、ブテノリド 10 に対してボロン酸 9 を作用させたと
ころ、単一のジアステレオマーとして 11 が得られた。アセトキシ基を除去して 12 とし、α 位をアシル化と
Michael 付加により順次修飾することで 13 へと導いた。ベンジルエステルを接触水素化によりカルボン酸と
し、Curtius 転位を用いてイソシアナートへと導いた。これに希塩酸を加えて加熱したところ、1 級アミンの
生成と引き続く環化までが一挙に進行し、ラクタム 14 が得られた。続いて、ブロモ基の導入について検討し
たところ、塩化亜鉛とギ酸存在下臭素を作用させることで、ブロモ基を目的の位置で導入できることを見出
した。最後に、メチルアミンを作用させてラクトンを開環し、生じた水酸基を酸化することで鍵中間体 7 の
合成に成功した。
還元剤を種々検討した結果、イミド 7 に対し DIBAL を作用させることで、位置及び立体選択的な還元反応
が進行することを見出し、アマサスピラミド D (4)の全合成を達成することが出来た(Scheme 3)。また、これ
に対して Schwartz 試薬を作用させたところ、ヘミアミナールの水酸基があるにもかかわらず、ラクタム部位
のみが選択的に反応し、アマサスピラミド E (5)へと導くことができた。5 のイミン部位を酸性条件下、シア
Scheme 2
OMe
OMe
OAc
OMe
B(OH)2
OAc
a
O
+
c, d
b
O
O
O
O
9
10
O
12
11
OMe
Br
Br
OMe
e-g
OMe
OMe
Br
h
Br
i
O
O
BnO2C
O
NMe
O
N
N
N
O
O
O
O
H
H
H
O
O
O
CO2Me
14
7
13
15
Reagents and conditions: (a) [Rh(cod)Cl]2, Et3N, dioxane-H2O, rt to 40 °C, 99%; (b) Sc(OTf)3, MeOH-H2O, rt; evap.; NaBH4,
THF-H2O, 0 °C; aq. HCl, 78%; (c) LHMDS, THF, –78 °C; CbzCl, 90%; (d) methyl acrylate, K2CO3, DMF, 70 °C, 96%; (e) H2,
Pd/C, MeOH, rt; (f) (COCl)2, DMF (cat.), CH2Cl2; evap.; NaN3, acetone-H2O; (g) ClCH2CH2Cl, reflux; HCl aq., reflux, 80% (3
steps); (h) Br2, ZnCl2, HCO2H, CH2Cl2, 68%; (i) MeNH2, MeOH, rt; evap.; PDC, CH2Cl2, rt, 69%.
ノ水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元することにより、アマサスピラミド C (3) を合成した。これを還元
的アルキル化の条件に付すことでアマサスピラミド A (1)へと導いた。また、3 に対し、塩基を作用させたと
ころ、ヘミアミナールの異性化が進行し、アマサスピラミド F (6)を得ることができた。現在、残るアマサス
ピラミド B (2)の合成について検討を行っている。
Scheme 3
Br
Br
OMe
Br
O
O
NMe
N
H
O
7
Br
OMe
Br
a
OH
Br
b
OH
NMe
N
H
O
OMe
NMe
N
O
Amathaspiramide D (4)
O
Amathaspiramide E (5)
c
Br
Br
OMe
Br
OH
N
H
NMe
O
Amathaspiramide F(6)
Br
OMe
e
Br
OH
N
H
NMe
O
Amathaspiramide C (3)
OMe
d
Br
OH
N
Me
NMe
O
Amathaspiramide A (1)
Reagents and conditions: (a) DIBAL, CH2Cl2, –78 °C, 44%; (b) Cp2Zr(H)Cl, THF, –30 °C to rt, 60%; (c) AcOH, NaBH3CN,
MeOH, 0 °C, 69%; (d) aq. HCHO, AcOH, NaBH3CN, MeOH, 0 °C, 65%; (e) DBU, THF, reflux, 71%.
【参考文献】
1) Morris, B. D.; Prinsep, M. R. J. Nat. Prod. 1999, 62, 688. 2) Schedler, D. J. A.; Godfrey, A. G.; Ganem, B.
Tetrahedron Lett. 1993, 34, 5035. 3) (a) Brinksma, J.; Deen van der, H.; Oeveren van, A.; Feringa, B. L. J. Chem. Soc.,
Perkin Trans. 1 1998, 4159. (b) Deen van der, H.; Cuiper, A. D.; Hof, R. P.; Oeveren van, A.; Feringa, B. L.; Kellogg, R.
M. J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 3801. (c) Morita, Y.; Tokuyama, H.; Fukuyama, T. Org. Lett. 2005, 7, 4337.