日経メディカル オンライン リウマチ診療の Hot Topics ACR2009 Special Reports ACR/EULAR 新基準:4 群 12 項目のスコアで RA を診断 米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)が新たに発表した関節リ ウマチ(RA)診断の新クライテリア(基準)は、腫脹・疼痛関節数、炎症マーカーなど 4 群 12 項目の一覧表から該当する項目のスコアを合計し、6 点以上なら RA と診断する シンプルなものになった。米フィラデルフィアで開催された米国リウマチ学会年次学術 集会(ACR2009)で行われた RA 診断基準のシンポジウムで、ウイーン大学の Daniel Aletaha 氏とカナダ・女子医科大学病院の Gillian A Hawker 氏は、ACR/EULAR の共 同策定チームを代表して、新基準の概要とその策定プロセスを解説した。 この新基準は、フェーズ 1、フェーズ 2、 最終フェーズという 3 つのステップを経 て決定された。フェーズ 1 は、決定的な 特徴がない発症早期において、診断のカ ギとなる要素を検出するプロセスである。 これには多数の早期患者のデータが必要 で、欧州の 9 つのコホートから、症状発 現からの経過が 3 年以内の診断未確定・ 炎 症 性 関 節 炎 ( Undifferentiated Inflammatory Arthritis)を有する患者 3115 例のデータが集積された。 タスクフォースでは、まず、これらの 患者の年齢・性別、ESR、CRP、腫脹・疼 Daniel Aletaha 氏 Gillian A. Hawker 氏 痛関節数、関節部位ごとの腫脹・疼痛の有 無、関節病変の対称性、HAQ スコア、リウマトイド因子(RF)など数 10 項目の因子を 独立変数とする単変量解析を行い、関節炎の転帰(慢性的な病態や障害へ進展するリス ク、速やかな抗リウマチ薬投与を必要とする状態へ進展するリスク)と関連する因子の 抽出を試みた。 しかし、関節炎の病態は多彩であり、たとえば、関節腫脹を規定する因子と関節疼痛 を規定する因子を単純に同じ土俵で比較することはできない。そこで、抽出された 10 数 項目の因子が関与する関節炎病態の各側面の「重み」を主成分分析によって求めたうえ で多変量解析を行った。 その結果、腫脹や疼痛の存在、炎症マーカー(特に CRP)の異常、抗シトルリン化ペ プチド抗体(ACPA)や RF の陽性は関節炎の転帰予測因子であること、他方、関節病変 が対称性であることは転帰に重要ではないことなどが示された。 次のフェーズ 2 では、フェーズ 1 の結果を踏まえ、ACR と EULAR の 20 数人の専門 家による意見の統一が図られた。そのなかで、診断未確定の炎症性関節炎を RA と診断 するためには、 (1)少なくとも 1 関節以上に関節腫脹が存在すること、 (2)RA 以外の診 断がより適切と考えられる徴候や症状ではないこと、の 2 点が必須であるとされた。 次に、血清学的因子、関節病変、滑膜炎持続期間、炎症マーカーという 4 つの領域(ド メインまたはクライテリア)が同定され、個々の領域について、さらに複数の分類(カ テゴリーまたはサブクライテリア)が設けられた。 血清学的因子については、ACPA と RF の陽性/陰性と力価により 3 分類、関節病変に ついては疼痛関節・腫脹関節の数と分布によって 6 分類とされた。滑膜炎の持続期間は 超早期での診断を視野に入れ、フェーズ 2 では 4 週以内、4~8 週、8 週以上という 3 区 分にすること、炎症マーカーについては正常・異常の 2 つに分類するという仮の枠組み Copyright(C)2006-2009 Nikkei Business Publications,Inc.All Rights Reserved. 日経メディカル オンライン が提唱された。 この仮の枠組みに基づくと、RA を疑う関節炎患者の病像は、3(血清学的因子)×6 (関節病変)×3(滑膜炎持続期間)×2(炎症マーカー)の計 108 パターンに分類され る。タスクフォースでは、108 すべてのパターンに対する専門家の重視の度合い(その病 像が RA であることを疑う強さ)を分析する手段として、 「1000Minds」というコンピュ ーター・ソフトウエアを用い、上記 4 つの領域と個々の分類の臨床的重要性を数値化し、 使い勝手などを考慮して、上記の仮の枠組みに若干の修正を加えた。 最終フェーズでは、フェーズ 1 とフ 関節病変 ェーズ 2 の結果を総合し、分類をでき るだけ簡略化したうえで、推定される 中・大関節に 1 つ以下の腫脹または疼痛関節あり 0 点 リスクの大きさ(RA らしさを疑う度合 中・大関節に 2~10 個の腫脹または疼痛関節あり 1 点 2点 いや、将来的に RA との診断に進展す 小関節に 1~3 個の腫脹または疼痛関節あり 小関節に 4~10 個の腫脹または疼痛関節あり 3点 る可能性の高さ)に応じたスコア(重 少なくとも1つ以上の小関節領域に 10 個を超える み)を設定した。 5点 腫脹または疼痛関節あり このようなプロセスを経て、表 1 に 血清学的因子 示す ACR/EULAR 新基準が完成した。 RF、ACPA ともに陰性 0点 この基準に照らし、スコアの合計が 6 RF、ACPA の少なくとも1つが陽性で低力価 2点 点 以 上 で あ る 症 例 は 、「 RA 確 定 例 RF、ACPA の少なくとも1つが陽性で高力価 3点 (definite RA)」と診断されることに 滑膜炎持続期間 なるという。 0点 Hawker 氏は今後の課題として、こ <6 週 1点 の基準による RA 診断が実際の転帰と ≧6 週 炎症マーカー 相関するか否かの検証と、「RA 疑い例 0点 (probable RA)」の基準を設けるため CRP、ESR ともに正常 CRP、ESR のいずれかが異常 1 点 の研究の 2 つを挙げていた。 表 1 新 RA クライテリアのスコア なお、Hawker 氏は、新クライテリアに際して用いられた用語の定義についても示して いた。その一部を下記に示す。 中・大関節:肩関節、肘関節、股関節、膝関節、足関節。 小関節:MCP 関節、PIP 関節、第 2~第 5MTP 関節、第 1IP 関節、手関節。 血清学的因子:陰性=正常上限値以下、陽性・低力価=正常上限値の 1~3 倍まで、 陽性・高力価=正常上限値の 3 倍より大。 滑膜炎持続期間:評価実施時に存在する滑膜炎に関して、患者自身の報告に基づく滑膜 炎症状(疼痛、腫脹、圧痛)の持続期間。 炎症マーカー:正常/異常の基準値は各施設で採用しているものに準ずる。 Copyright(C)2006-2009 Nikkei Business Publications,Inc.All Rights Reserved.
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