ICTと薬剤師

だより
薬剤部 薬剤副部長 徳井健志
ICTと薬剤師
はじめに
1959年、
イギリスの エクセター(Exeter)
で、初めて
Infection Control Sister(ICS) として任命された彼女た
ちは、黄色ブドウ球菌の病院感染と闘うことが任務で
した。アメリカにおけるInfection Control Nurse(ICN)
は、1963年、スタンフォード大学で最初に任命されま
した。
日本では1986年2月に日本環境感染学会が設立さ
れ、2000年感染専門医 Infection Control Doctor(ICD)、
2001年感染管理看護師 Infection Control Nurse
(ICN)
、
同年感染制御認定臨床微生物検査技師 Infection Control Microbiological Technologist
(ICMT)、その5年後
の2006年 感 染 制 御 専 門 薬 剤 師 Board Certified Infection Control Pharmacy Specialist (BCICPS)、さ ら
に、2008年には感染制御認定薬剤師 Board Certified
Pharmacist in Infection Control ( BCPIC )が認定され、
その歴史は50年以上遅れています。
感 染 対 策 チ ー ム(Infection Control Team:
ICT)の一員としての薬剤師の役割は?
感染制御においては、消毒薬および抗菌薬などの各
種薬剤が大きな役割を果たしており、薬剤師は両者の
適正使用を推進することが役割と考えます。臨床現場
で活躍する薬剤師の業務は感染制御と深く関わって
います。具体的には、消毒薬の適正な調製、消毒薬や抗
菌薬の使用状況の把握、患者の抗菌薬使用モニタリン
グ、医療スタッフへのエビデンスのある情報提供など
種々の業務において関与が必要です。薬剤師は、薬剤
部内あるいは病棟における各々の業務の中で感染制
御を実践するとともに、ICTの一員としても多くの役
割が期待されています。
筆者は感染対策委員・ICTメンバーとして昭和64年
(1989年)から活動しています。今までの筆者(薬剤部
として)とICTの主な活動内容を振り返ってみます。
1.全ての部署の消毒薬希釈(2001年11月∼)
2001年10月までは消毒薬は原液で払い出し、希釈は
各部署でお願いしていました。しかしながら、
(当時
の報道で)消毒薬と注射薬との取り違えによる死亡者
の発生、また、病棟で行う消毒薬希釈の不正確さ
(当院
薬剤部調べ)から消毒薬の希釈は全て薬剤部で行うこ
とにしました。併せて、各部署で消毒薬の使用法の統
一を行い、消毒薬使用コストは8年前の1/3に減少しま
した(図1)。
2.抗菌薬使用の適正化(抗菌薬使用適正化小委員会)
抗菌薬使用の適正化を目的に、抗菌薬使用適正化小
委員会で抗MRSA薬を届け出制にし、使用量・使用期
間、またTDM施行状況をチェックしています。同時に、
病棟薬剤師に当該診療科の使用状況を提供し、必要な
らば病棟薬剤師が血中濃度解析を行い医師にコメン
トを行っています。その結果、抗MRSA薬の使用量は
本数にして10%減少しました
(導入前後3カ月間比較:
図2)。さらに、2008年8月からペネム系抗菌薬の届け
出制も開始しています。
3.
「新型インフルエンザウイルスに対するプレパンデミック
ワクチンの安全性の研究」
(厚生労働科学研究)
に参加
本研究は、新型インフルエンザウイルスに対するプ
レパンデミックワクチンが、健康人に接種
(筋肉内注
射)しても安全であるかを調べることを目的としてい
ます。また将来、新型インフルエンザが大流行した時
に、この研究に参加した人が、新型インフルエンザに
罹患されたかどうかを調査し、このワクチンが有効か
どうかをあわせて検討するためのものでした。当院職
員、また中部国際空港、検疫所職員合わせて110名のボ
。
ランティアに2回接種し副反応を調査しました(表1)
当院は1類の感染症病床を2床有すること、また新型
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インフルエンザの発生時の職員の安全性を考慮し、本
臨床研究に参加しました。
結果は全国と比べ、ほぼ同様の結果となりました。
1)20-30歳代が特に副反応が現れやすく、50歳代以
上は現れにくい
2)男性より女性に副反応が現れやすい
3)2回の接種のうち1回目より2回目の方が副反応が
現れにくい
4)両回併せて90%近く副反応が現われている
6.感染対策委員会:1回/月
ICT小委員会:1回/2週間
7.血管内留置カテーテル関連感染症サーベイランス
8.針刺し状況調査
9.
「Ⅰ類感染症患者受け入れマニュアル」の作成
10.本年2月、新型インフルエンザ患者受け入れ訓練を
行いました
11.新型インフルエンザ感染対策マニュアル作成中
マニュアル等の整備は現在進行中です。
ICTの構成員として薬剤師が参加し、今後力を入れ
ていきたいことは以下の2つです。
1)実態調査として
「消毒薬の使用状況調査」
「抗菌薬
の使用状況調査」
「同一の診断基準に従った感染患
者数の把握」
2)情報提供としては
「感染制御に関する情報の収集・
提供」「新規消毒薬・抗菌薬に対する情報提供」
最後に
薬剤師がチーム医療の中でその能力を発揮するに
は、患者さまを中心に他部署との連携を密にし、横断
的に協力し活動することが大切だと思います。本シ
リーズでご紹介した薬剤部の活動を通し、今後ますま
す患者さま、医療スタッフから理解され、信頼される
薬剤部創りを目指していきたいと考えます。
その他に以下のものがありました。
4.抗菌薬使用マニュアル
(第2版)
・感染マニュアル
(第
3改訂)作成
5.サーベイランス
昨年より、ICTの薬剤師のほかに病棟薬剤師もサー
ベイヤーとしてラウンドしています。
今月号を最後に
「薬局だより」の連載が終了致しま
す。薬剤部の皆さん、長い間シリーズ
「薬局だより」を
連載して頂き、ありがとうございました。
やまのて編集担当者一同
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