資料1 平成 22 年 5 月 18 日 根本原因分析における「組織要因」の考え方について 電気事業連合会 品質保証検討委員会 1.はじめに 現在事業者が保安活動として実施している根本原因分析※ 1 (以下「RCA」 という)は、起きた事象の発生メカニズムを理解し、組織として将来に活かせ る教訓を得て、類似の問題の未然防止を図ることを目的としてスタートした。 しかしながら、RCA 導入後 2 年たった現在においても、直接的な要因から安全 文化や組織風土等の要因に飛躍してしまう等、事業者のRCAが実効的に行わ れていないことから、現状の問題点を明らかにし、その改善策を検討・提案す る。 ※1:「直接原因分析を踏まえて、組織要因を分析し、マネジメントシステムを改善する処 置をとること」(原子力安全・保安院の「事業者の根本原因分析を評価するためのガイ ドライン」 (以下、保安院の「ガイドライン」という)及び JEAC4111「原子力発電所に おける安全のための品質保証規程」 (以下、JEAC4111 という)より) 2.現状の問題点とその要因 ① 組織要因※2 は、保安院の「ガイドライン」及び JEAC4111 において定 義されているが、何をどこまで分析すればよいのか明確でないために、以 下の問題が見受けられる。 (添付1参照) ・ 背後要因の分析において、組織活動にかかる問題(組織要因)の抽出 を意識し過ぎて事象と関連の薄い要因を無理に抽出したり、或いは、 要因を一般化してしまうことで、対策すべき要因が組織風土、安全文 化等に飛躍してしまい、問題に対して有効な対策になっていない ・ 背後要因の分析において、その原因はなぜかという辿り方をせず、事 実を細かく記載するだけで背後要因の抽出に至っていない(直接要因 の分析にとどまっている) ・ 対策ありきという前提で分析が行われ、事象に対して要因が適切に対 応していない ※2: 「直接要因を未然に防止することができなかった組織活動にかかる要素の集合体」 (保安院の「ガイドライン」及び JEAC4111 より) 1 ② 「組織要因」については、保安院の「ガイドライン」及び JEAG4121 附属 書「「根本原因分析に関する要求事項」の適用指針」 (以下、JEAG4121 附属書 という)でRCAにおける組織要因の視点(添付2参照)として記載がある が、以下の問題が見受けられる。 ・RCAは、QMSにおける是正処置/予防処置のための方法として位置 づけられているのに対して、JEAG4121 付属書の中で組織要因の視点とQ MSとの関係が明確にされておらず、分析する者にわかりにくくなって いる ・組織要因の視点は、一例であるにもかかわらず,視点の全てを抽出しな ければならないといった誤った運用があった ・上述の結果、QMSの何処が悪かったかという分析が十分に行われてい ないケースがある 3.「組織要因」の分析についての提案 2項で述べたとおり、RCAが実効的に行われていない原因には、組織要因 とQMSが関連付けられていないことによると考えられることから、以下の観 点で、保安院の「ガイドライン」と「JEAG4121 附属書」を見直すことを提案し たい。 「組織要因」の分析については、『事象発生の背後にあるQMSの問題 点や事象に応じてQMSの基となる活動の問題点を明確にすること』 (図1参照)を分析者の共通の概念とし、分析者の誤解を避けるため、 「組織要因の視点」(添付2参照)を削除する。 ○ 本提案でいう『事象発生の背後にあるQMSの問題点を明確にすること』と は、QMSの何処が悪かったか、即ちQMSを構成するプロセス(図2−1, 2−2参照)の何処が悪かったか或いはそのプロセス間のインターフェイス のどこが悪かったか等を明確にすることであり、直接要因の分析にとどまる ような分析の防止とともに安全文化や組織風土等の要因へ無理に飛躍する ような分析の防止が期待できる。(添付1参照) ○ 本提案でいう『事象に応じてQMSの基となる活動の問題点を明確にするこ と』とは、QMSを支える安全文化、組織風土などの問題点を明確にするこ とをいい、東京電力不祥事、関西電力美浜 3 号機事故などのような事象が該 当する。また、複数のRCAを通して、その共通要因を分析する必要が出て きた場合には、「QMSの問題点」ばかりではなく、「QMSの基となる活動 の問題点」までの分析が必要となる場合もある。今までの事業者の取組んで 2 きたRCAでは、このQMSの問題点を明確にすれば十分ではないかという ような事象が多かったのも事実ではあるが、今後は、事象に応じて、類似事 象も含めた未然防止というRCAの目的に即した取組みが期待できる。 ○ なお、2項で指摘した現状のRCAの分析上の問題点については、今回の提 案だけでは解決されない点もあり、電気事業連合会の品質保証検討委員会傘 下の「RCA推進WG」や日本原子力技術協会で開催される「RCA研修会」 「事例検討会」等を通じて、分析者の力量の向上も含めてRCAの質の向上 が図れるよう活動を行っていく。 4.まとめ 標準的なRCAとしては、以下の点を明らかにし必要な対策を施すことと言 われているが、本提案でいう組織要因を分析することとは、(2)(3)(4)に該当す るものである。 (1) 事象の問題を引き起こした技術的要因の検討(これについては、すでに直 接要因分析において明らかにされている場合が多く、そこで実施されてい る場合には根本原因分析としては対象とならない) (2) 上記の技術的問題を引き起こしたQMSの何処に問題があったか、或いは 技術を生かし切れなかった問題は、QMSの何処に問題があったのかの検 討 (3) 一般的には、力量の問題を言うことで(2)の分析に含まれるが、「人」に係 わる問題として、何処に問題があったかについての検討 (4) 以上の問題の背景として、組織の中で育まれている安全文化、組織風土な どに関して問題はなかったかの検討 以 3 上 QMSの問題点 JEAC4111 に基づき構築された QMS の問題 点 <QMSのDoプロセス> 運転管理,燃料管理,放射性廃棄物管理, 放射線管理,保守管理,緊急時(非常時) 措置等 <QMSのP/C/Aプロセス> 品質方針/品質目標,教育訓練, 文書管理, 内部監査,調達管理,不適合管理,是正 処置,予防処置など 【QMS】 QMSの 基となる活動の問題点 【QMSの基となる活動】 価値観・コンプライアンス・安全文 化・組織風土などの要因,外部環境要 因 図1 「組織要因」:QMSを構成するプロセスとQMSの基となる活動 4 4.品質マネジメントシステム(4.1 一般要求事項) 5.経営者の責任 Plan 5.1 経営者のコミットメント 5.3 品質方針 5.2 原子力安全の重視 5.5 責任,権限及びコミュニケーション 5.4 計画 5.4.1 品質目標 5.4.2 品質マネジメントシステムの計画 5.6 マネジメントレビュー Do 7.業務の計画及び実施 7.2 業務に対する要求事項に関するプロセス 4.2 文書化に関する要求事項 7.1 業務の計画 6.資源の運用管理 運転管 理,燃料管理,放 射性廃棄物管理 ,放 6.1 資源の提供 射線管理,保守管理,緊急時 (非常時 )措置等 6.2 人的資源 7.3 設計・開発 6.3 原子力施設 7.4 調達 6.4 作業環境 7.6 監視機器及び測定機器の管理 7.5 業務の実施 Check,Act 8.評価及び改善(8.1 一般) 8.5.1 継続的改善 8.2 監視及び測定 8.3 不適合管理 8.2.1 原子力安全の達成 8.2.2 内部監査 8.2.3 プロセスの監視及び測定 8.2.4 検査及び試験 基本プロセス 8.5.2 是正処置 8.4 データの分析 附属書 「根本原因分析に 関する要求事項」 8.5.3 予防処置 :明確な関連 :理解上重要な関連 中プロセス 図2−1 QMS を構成するプロセス 5 【燃料管理プロセス】 プロ セス間のイン ターフェイス 【保守管理プロセス】 【運転管理プロセス】 中プロセス(各発電所共通の二次文書として規定される); 運転管理プロセスについての、本店・各発電所が遵守すべき基本事項を記載 運転計画/運転実績の管理 作業管理 運転操作 運転員の引継 状態管理 水質管理 トラブル等の対応 小プロセス(三次文書として規定される) 上記プロセスについて、プラントの設計、或いはその他相違に応じて、発電所 毎に、作成する文書(尚、事業者において、運転操作手順を二次文書として定め ている場合もあれば、発電所毎の三次文書として定めている場合がある) 小プロセスを構成する業務プロセス(個別手順書として規定される) 上記三次文書ではカバーしきれない、業務プロセスで、非定常業務、特別点検 業務、検査業務などの手順書、要領書など。 注)各事業者においては、標準化の程度や、管理方法の違いなどから、二次文書・三次文 書・個別手順書の構造、記載の程度、記載範囲は異なる。 図2−2 運転管理プロセスの例 (図2−1における「7.業務の計画及び実施プロセス」の中プロセスの例) 6 添付1 RCA における分析事例(問題事例とその改善例) (1) 組織要因の抽出を意識しすぎて、要因を一般化してしまうことで、安全文 化へ飛躍 × 可燃性シート材で火災(発煙)が発生 → 加熱物置き場に可燃性シートが使われた → シート置き場に可燃性シートと難燃シートが混在していた → 火災に対する意識が低かった【問題点:一般化しすぎ】 → 安全文化の意識が低かった【問題点:安全文化に飛躍】 ○ (2) 可燃性シート材で火災(発煙)が発生 → 加熱物置き場に可燃性シートが使われた → シート置き場に可燃性シートと難燃シートが混在していた → シート置き場における可燃性シートと難燃シートの識別を 行うことに関して、電力から作業者に対する指示が明確で はなかった【改善点:電力における保守管理プロセスの工 事監理に関する要因】 → 電力の工事仕様書記載の「火気作業運用要領」の記載が 不十分であった【改善点:電力における調達管理プロセ スの調達要求事項の明確化に関する要因】 → (事象に応じて更なる要因を分析) その原因は何故かという辿り方をせず、事実を細かく記載するだけで、問 題点の抽出に至っていない × 可燃性シート材で火災(発煙)が発生 → 加熱物仮置き場の床面に可燃性シートと難燃シートが混在して 敷かれていた → 作業者 A は,可燃性シートと難燃シートが混在して敷かれて いることに気が付かなかった → 作業者 A は,加熱物の仮置きについて注意を払う意識が なかった。【問題点:事実の記載のみ】 作業者 A は、難燃シートが使われていると思い込んでい た【問題点:事実の記載のみ】 ○ 可燃性シート材で火災(発煙)が発生 → 加熱物仮置き場の床面に可燃性シートと難燃シートが混在して 敷かれていた → 作業員は,可燃性シートと難燃シートが混在して敷かれてい → 7 ることに気が付かなかった → 作業手順として、難燃シートが使用されていることを確認 するステップがなかった【改善点:保守管理プロセスにお ける火災リスク低減のための手順に関する要因】 → 加熱物仮置きに対する火災リスク低減のための検討が実 施されていなかった【改善点:保守管理プロセスにおける 火災リスク低減のための検討に関する要因】 → (事象に応じて更なる要因を分析) (3) 対策ありきという前提で分析が行われ、事象に対して要因が適切に分析さ れていない × 可燃性シート材で火災(発煙)が発生 → 加熱物仮置き場は、難燃シートにて養生されていなかった → 施工要領書には「火気作業運用要領」の注記「加熱物仮置き 場は、難燃シートにて養生すること」についての記載が無かっ た → 作業者は「火気作業運用要領」の注記「加熱物仮置き場は、 難燃シートにて養生すること」について注意せずに施工要領 書を作成した【問題点:「火気作業運用要領」の注記の教育 という対策ありきの要因】 ○ 可燃性シート材で火災(発煙)が発生 → 加熱物仮置き場は、難燃シートにて養生されていなかった → 施工要領書には「火気作業運用要領」の注記「加熱物仮置き 場は、難燃シートにて養生すること」についての記載が無かっ た → 施工要領書に、「難燃シートで養生すること」が反映されて いることを確認するステップがなかった【改善点:保守管 理プロセスにおける火災リスク低減のための手順に関する 要因】 → 加熱物仮置きに対する火災リスク低減のための検討が実 施されていなかった【改善点:保守管理プロセスにおける 火災リスク低減のための検討に関する要因】 → (事象に応じて更なる要因を分析) 添付2 [参考6] 根本原因分析における組織要因の視点 8 (本[参考6]は,原子力安全基盤機構の作成した「事業者の根本原因分析実施内容を規制当 局が評価するガイドライン」参考資料より転載したものである。) 報告された事象に応じて,根本原因分析が組織要因とその因果関係の視点を考慮した体 系的な分析となっていることを確認するための根本原因分析における組織要因の視点の 例を以下に示す。なお,分析にあたってはこれら組織要因間の因果関係を考慮すること。 (1)外部環境要因 当該組織の外部環境に関わる要因で,「経済状況」 ,「規制の対応方針」, 「外部コ ミュニケーション」 ,「世評」等が当該組織に与えた影響が事案に関係する時に組 織要因の候補となる。 (2)組織心理要因 組織(全社,発電所,課,グループ,班等の各集団レベル)の中に長期にわた り培われ形づくられた思考形態・行動様式等として,組織構成員の共通の価値観 となり,意識,認識,行動となって顕れるもの(注)に関わる要因で,それが事案 に関係する時に組織要因の候補となる。 (注)組織風土と呼ぶ。 (3)経営管理要因 本社の経営管理に関わる要因で,「トップマネジメントのコミットメント」 「組 織運営(経営状況,組織構造,組織目標・戦略,本社の意思決定等) 」「人事運営」 「社是やコンプライアンスの標準・基準」「本社と発電所のコミュニケーション」 「自己評価(又は第3者評価) 」等の不適切さや具体性,実効性が無いことが事案 に関係する時に組織要因の候補となる。 (4)中間管理要因 発電所の管理運営に関わる要因で, 「部署レベルの組織運営(目標・戦略,QM Sの構築,マニュアルの整備等) 」「ルールの遵守」「学習する組織(技術伝承,運 転経験の反映等) 」「人事管理」「コミュニケーション」 「調達管理(協力会社との コミュニケーション及び管理) 」「組織構成に関わる人的資源管理(役割・責任, 選抜・配置,力量,教育訓練) 」「技術管理」 「作業管理」「変更管理(組織変更時 の管理,作業の変更管理等) 」「不適合管理」 「是正処置」「文書管理」等の不適切 さや具体性,実効性が無いことが事案に関係する時に組織要因の候補となる。 (5)集団要因 組織の各階層を構成する集団(例:経営層,部,課,当直班,作業チーム等) に関わる要因で,「集団間・内のコミュニケーション」 ,「集団の知識・学習」「集 団浅慮や属人主義的意思決定」等の悪い影響が事案に関係する時に組織要因の候 補となる。 (6)個人要因 組織・集団を構成する個人(従業員や管理職)に関わる要因で, 「知識・技能」 「リ 9 ーダーシップ」 「安全に対する意欲,慎重さ」 「管理の意欲」 「現場作業者への配慮」 「モチィベーション,ストレス」の欠陥等の影響が事案に関係する時に組織要因 の候補となる。 なお,発電所の中間管理要因に端を発した組織要因の因果関係を分析しているかどう かを評価する際の視点の例を以下に示す。 ①不適切な行動を引き起こした中間管理要因が分析されているか。 ②中間管理要因を引き起こした経営管理要因が分析されているか。 ③不適切な行動,中間管理要因,経営管理要因の関連づけが論理的に分析されてい るか。 ④必要に応じて,個人の心理的要因(個人要因) ,職場の心理的要因(集団要因), 組織の心理的要因について関連性が分析されているか。 10 参考1 RCAの進め方 RCAの進め方については、JEAG4121 附属書において、次のように記載されている。 1.RCAとは、事象発生のメカニズムとして以下の図に示す要因の連鎖の全体及びその 相互関係を明確にするとともに,要因の連鎖の根源を明確にすることであると明示して いる。 組 機能を果たさない マネジメントシステム の背後要因 織 要 因 機能を果たさない マネジメント行動 の背後要因 機能を果たさない 現場行動 の背後要因 直接要因(事象発生に関わる人的過誤,技術的・プロセス的問題) 緩和させた要因 発生した事象 更に悪化させた要因 事象の結果何が起きたのか 図Ⅰ−1 事象発生に関わる要因 2.RCAに利用される具体的な方法(例)として[参考4]にて、以下を記載している。 (方法例1)時系列の整理 (方法例2)問題点の発掘;時系列分析 (方法例3)タスク分析 (方法例4)変更分析 (方法例5)バリア分析 (方法例6)事象と原因の時系列チャート分析 (方法例7)人間行動評価プロセス 3.分析における「背後要因の視点」として、「参考5」で、以下について解説している。 参考表5 項 組織と経営 仕組み 責任と権限 計画 問題点の整理・分類の例 目 要 素 組織の戦略,資源配分,計画決定 QMS などの仕組み,本店・発電所間の業務の仕組み 責任と権限上の問題,その変遷,インタフェース 戦略,問題発生の予測,業務の計画,計画の実施とフ ォロー,安全評価,計画の変更,管理の変遷 学習する組織 事故・トラブル等に対する未然防止活動の問題,バリ ア,良好な取り組みとの比較 外部評価と自己評価(セル 事象の要因は気付かれていたかどうか フアセスメント) 環境 外部環境,作業環境,職場環境,機器の使用環境 文化・風土 問題に対する判断の方向性,コミュニケーションを含 む人間関係 11
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