広尾中の沿革紹介広尾中学校長永浜裕之１広尾中学校創設昭和 22 年４月１日より、国は６・３・３・４制の新たな学制を実施することとし、新制中学校が創設されることになりました。広尾中学校は昭和 22 年４月１日、新学制による中学校として創設され、渋谷区立広尾中学校と命名されました。現在地で開校したわけではなく、校舎焼失を免れた広尾小学校の校舎の一角を３階まで借用し、渋谷区上智町６番地の地に開校しました。４月 19 日、初代校長として、常盤松青年学校長であった吉岡丑松先生が転補され、約２週間という短い準備期間を経て５月 2 日に入学式を挙行し、実質的な開校を迎えました。生徒は、第１学年６学級（ 257 名）、第２学年４学級（ 156 名）、第３学年１学級（ 38 名）、計 11 学級 451 名で、１年生は広尾小、臨川小、加計塚小の卒業生、２・３年生は、臨川小、猿楽小、渋谷高等小学校の卒業生で構成されていました。教育目標は、「民主的、平和的、文化的日本建設のため、有能な人になる。１．よい個人、２．よい社会人、３．よい職業人をめざす」とあります。空襲により 77%もの面積を羅災・焼失した渋谷区において、教育目標からも、新日本建設、広尾中学校建設の気迫を感じます。早速、校章を決めることとなり、全校生徒から図案を募集し、広尾中の頭文字「Ｈ」を図案化した、1 年生の橘君の作品を基にデザインされました。なお、５月 10 日には第 1 回の全校遠足を行い、野猿峠でのスナップ写真が残されています。２校地決定・校舎建設開校当時は始業・終業を知らせる鐘もなく、15 歳で給仕をしていた山岸氏が、拍子木を打って知らせて回っていたようです。終戦直後の時期であり、ボロボロの服を着ている生徒や、空腹のため力が出ず、３階の教室に向かうのに手すりにつかまって登る生徒もいたそうです。当時は戦争の傷跡も深く、国や区市町村の財政も窮乏して生きることが精一杯という時代で、校地の確保、校舎の建設は容易なことではありませんでした。しかし、同年 11 月には「広尾中学校建設協議会」が結成され、活発な活動が始まりました。開校と同時に発足したＰＴＡには「施設部」がつくられ、ＰＴＡの皆様も校地確保、校舎建設に力を注いだことが分かります。活動の結果、現在地の渋谷区若木町８番地に校地が決まり、全校一致で校庭整地を行いました。生徒は放課後、何カ月もかけて穴を掘り、石を埋めました。２ｍ四方もあるコンクリートも、整地のために校庭に埋まっているそうです。昭和 23 年５月 13 日には校舎建設の起工式が行われ、 11 月 5 日に平屋建て７教室が完成して、１年生が広尾小学校の敷地から移動しました。この１期工事の際、先生方が帰宅できないほど忙しいのを初代校長が心配し、渋谷区に依頼して校内に風呂場がつくられたと記録されています。２・３年生は引き続き広尾小学校で勉強していましたが、 2 期工事により翌昭和 24 年６月 24 日に２階建て 10 教室が増築され、全校生徒が同じ敷地で勉強できるようになりました。この時は、 1 学年５学級、２学年６学級、３学年５学級、計 16 学級、868 名の生徒が在籍していました。昭和 26 年 3 月には 3 期工事が完成し、平屋建て校舎 7 教室を 2 階建てに改築し、7 教室を 8 教室に増やすとともに、特別教室６、職員室、衛生室、事務室、校長室、放送室が設けられました。３校歌制定と広尾中の発展昭和 26 年 3 月には校歌を制定しました。歌詞を全校生徒から募集し、詩人の佐藤義美氏が広尾中に直接来られ、生徒の詩を基に作詩したそうです。「若木の丘のときわ木の、はがねのような木の緑」にある「はがねのような」という言葉は、整地半ばだった校庭のあちらこちらに、木々がたくましく芽を吹く力強いさまを見て浮かんだそうです。また、「不断の努力と向上の三年の学び舎ここに立つ」、「求める理想は純白に永遠なる学び舎ここに立つ」とは、当時の広尾中学校の教育活動をご覧になって考えだされました。このような、情熱と希望を込めた歌詞は、芥川也寸志氏によるメロディーにのり、私たちの心に今も流れています。昭和 27 年 11 月 21 日には、「広尾中学校銀行は、大蔵大臣、日本銀行総裁より東京都代表として中央表彰を受ける」という記録があります。調べると、生徒会に貯蓄委員会があり、毎週、火曜・水曜に開店して生徒の貯金を奨励していたようです。消費は美徳と言われることもある現代との違いを感じます。また、昭和 28・ 29 年度の 2 年間、東京都の実験学校の指定を受け、研究活動を行っています。北海道や鹿児島からも授業参観者があったそうです。「生徒もよく勉強し、都内屈指の学力で進学実績もよく、テニス部、野球部、サッカー部の活躍も目覚ましく、広尾中の黄金時代をつくった」と記録にあります。その後、昭和 29 年 4 月に、新たに普通教室２、音楽室、理科室、図書室、職業家庭教室が設けられ、普通教室が 20 教室となり、木造校舎建設計画は一通り完成しました。３生徒急増期昭和 30 年代には生徒が急増し、 10 周年記念式典を挙行した昭和 31 年には、学級数 26、生徒数 1,646 名、翌 32 年は学級数 36、生徒数 1,801 名を数えました。戦後のベビーブームにより大勢の生徒が学んだ時代です。修学旅行はバス 14 台で 2 軒の旅館に分かれて宿泊し、見学場所、時間の調整が大変だったと記録にあります。生徒数増加に呼応して、昭和 35 年には普通教室を 8 教室増築し、36 年から 45 年にかけて、鉄筋校舎を建設しました。昭和 54 年には体育館を、59 年には若木館を建設しています。また、屋上プール、コンピュータ教室等も整備されました。４都立広尾高校との中高連携教育やスポーツへの取り組み昭和 40 年代、50 年代、60 年代から平成へと時代は変わり、決して平坦な道のりではありませんでしたが、勉強に運動に文化活動にと、多くの足跡を残してきました。平成 16 年度より、広尾中学校と都立広尾高等学校は、『中高一貫教育校の整備に関する検討委員会報告書』（平成 14 年４月、東京都教育委員会）の提言に基づき、中高連携教育を実施しています。本報告書には、中高連携教育のねらいとして、「中学生に高校レベル教育を提供することや、学習面でつまずきを生じた高校生に対して中学校段階に立ち返った教育を行うことを可能とする」、「生徒理解や教科指導等の教員の指導力向上及び意識改革など、都立高校及び区市町村立中学校の活性化を図るとともに、各都立高校の教育目標に沿った生徒確保・受入及び中学生の目的意識の形成を図る」と示されています。ねらいを達成するために、夏季休業日を除く毎月１回程度、広尾高校と広尾中学の教員による中高連携連絡会等の会議を行うとともに、「教員相互の授業参観」、「広尾 ship の時間」、「広尾高校体験授業」、「奉仕の時間」等の特別活動を実施しています。スポーツや部活動の取組が活発なことも特徴です。毎日新聞社が主催し、文部科学省が後援する「平成 24 年度中学校体力つくり」コンテストでは、全国４ , ３００校余りの中学校の中で、優良賞を受賞しました。特別賞が６校、優秀賞が７ 7 校、優良賞が 28 校選ばれましたが、合計すると 41 校になりますので、広尾中は、 4,300 校のうち上位 41 位以内に位置付けられたことになります。本コンテストは、運動に秀でた一部の生徒がいるということではなく、３年生の体力テストの結果を基に選考が行われており、「学校全体として体力が高い」と評価されました。部活動においても、都大会参加など、着実に実績を残しています。５結びに様々な資料をとおして広尾中の歴史を調べると、「広尾中は、渋谷区、渋谷区教育委員会、地域の皆様方、保護者の方々、教職員に愛され続けてきたこと」を感じます。そんな様々な関係者の想いを感ずるたびに、「ありがとうございます」と感謝の気持ちがわいてきます。今後も、生徒の成長のために尽力することを誓います。＊参考文献『渋谷区教育史下巻』『東京都渋谷区立広尾中学校創立三十周年記念誌』