緊急気管切開術で一命をとりとめた 6歳女児の一例 徳之島徳洲会病院 研修医 安東圭皓、森本真由子 症例;6歳6ヶ月 女児 【主訴】呼吸困難 【現病歴】 以前から夜間就寝中のいびき様の呼吸が慢性的にあり。 近医の耳鼻科に受診し、鼻づまりだといわれ、特に治療はされて いなかった。 当院受診2〜3日前からは、右頸部に腫脹みとめ、朝起床後にも いびき様の呼吸が持続しており、様子を見ていたが、受診日には 起床後にも呼吸苦を伴ったため救急外来に午前6時30分に徒歩 で受診した。 【既往歴】特になし 【現症】 意識清明 体温37.1度 脈拍125回/分 SpO2:98% (Room Air) 頸部にて 呼気吸気ともに犬吠様喘鳴音(stridor)聴取 咽頭発赤軽度あり 扁桃の腫大軽度あり 右頸部に胡桃大の腫 瘤を触知する。 努力様呼吸あり 肺音;明らかなwheezeなし。心雑音なし。 来院時 頸部レントゲン検査 治療の経過(時系列で) 6時30分 :独歩で来院。 8時 :耳鼻科医師の出勤を待ってコンサルト。 緊急搬送の指示あり。 9時 :搬送準備中に、泣き出したと同時に呼吸困難は増悪し 不穏状態となった。その後顔面にチアノーゼが出現し、 SpO2:60%台に低下。 9時10分 :意識レベルはJCSⅢ桁に低下し、院内の医師看護師を招集。 挿管試みるも著しい気管の偏位のためできず。緊急気管 切開術を開始 。(O2 15L SpO2:40~50%) 9時50分 :気切成功。(O2 15L SpO2:100% 自発呼吸あり HR150 RR46回 ) 術中の意識レベルはⅢ桁、瞳孔2/2 +/+ 心停止なし 10時40分:沖縄南部医療センターへ向けて、当院出発。 11時15分;離陸 血液検査 <午前8時22分(窒息症状直前)> ABG: pH:6.948 pO2:68.2 pCO2: 139.4 HCO3:29.8 WBC 15410μl RBC 548万/μ Hb 14.3g/dl Ht 41.2% Plt 30.2万/μ CRP 4.26mg/dl Glu 119mg/dl AST 26 U/I ALT 15U/I LDH 236IU/I ALP 1026U/I Che 375U/ml γ-GTP 15U/ml D-bil 0.2mg/dl CK 86U/l AMY 75U/ml TP 7.6g/dl Alb 4.4g/dl BUN 7.7mg/dl Cr 0.3mg/dl Na 139.9mEq/l K 4.3mEq/l Cl 100.8mEq/l Ca 9.8mg/dl <午前9時54分(気管切開中 O2 15L)> ABG: : pH:6.941 pO2:72 pCO2: 122.2 HCO3:25.7 <午前10時22分(気管切開成功後 O2 15L)> ABG: : pH:7.242 pO2:135.5 pCO2: 60.1 HCO3:25.3 血液培養採取し、CTX(セフォタックス)投与開始。 搬送後の経過 lat. pharyngeal abscess (傍咽頭膿瘍)の診断。 経過良好で、呼吸器も速やかに離脱し、気切チューブも 抜去できた。明らかな神経学的後遺症なし。 現在、膿瘍の残存あるため、抗菌薬治療中とのこと。 反省点 1. 緊急性の判断を見誤った。 2.SpO2が保たれていたため、換気不全を見抜けなかった。 👉 呼吸不全によるCO2 の貯留を確認していなかった。 小児の緊急度分類表(PTAS-NCCHD緊急度評価スケール) 蘇生 (直ちに) 呼吸停止/呼吸不 全、 高度の徐呼吸 SpO2<90% 発語・会話不能 チアノーゼ 呼 アナフィラキシー 吸 上気道閉塞: 窒息、著明な流 涎、著明な吸気 時陥没呼吸・喘 鳴 下気道閉塞: 呼吸不全 緊急 準緊急 (15分以内) (60分以内) 呼吸窮迫症状明らか 呼吸窮迫症状が軽 度 或いは運動時のみ SpO2 90~93% SpO2>94% 会話困難、多呼吸 努力呼吸(呻吟、 会話可能、呼吸苦 尾翼呼吸 肋間陥没、 の 肩呼吸) 訴え 軽度の努力呼吸 (軽度の陥没呼 上気道閉塞: 吸) 安静時の吸気時喘 鳴 上気道閉塞の可能 下気道閉塞: 性; 著明な呼気性喘鳴 クループ疑いだ 両方向性の喘鳴 が落ち着いている。 呼吸音低下・呼吸 犬吠様咳嗽のみ。 音消失 泣くと吸気時喘鳴 出現。 下気道閉塞: 聴診にて喘鳴聴取 非緊急 (120分以内) 呼吸窮迫症状なし SpO2>95 % 聴診所見正常 呼吸音正常 ☆PTAS-NCCHD (Pediatric Canadian Triangle and Acuity ScaleNational center for Children Health and Development) 小児の緊急気道確保に関して 12歳以下では輪状甲状切開は適応ない(穿刺はok) (気管内腔の開存に甲状軟骨が関与しているため) 気管切開術を行うべき。 (ただし小児の場合、気管軟骨を切除しないことが重要) 結語 緊急気管切開により救命し、神経学的後遺症も残さずにす んだ小児の傍咽頭膿瘍の一例を経験した。 上気道閉塞を起こした症例では、緊急性の判断を適切に 行う必要がある。 緊急例においては、気管切開を躊躇しないことが重要であ る。 結語 今回の症例において、、初診時においては喉頭部のmass が膿瘍か悪性のものかの判断は、造影CT検査を施行しない 限り鑑別は難しい。そのため、腫瘤の穿刺術は、位置的な 要素も含めて困難であり、できたとしても気管への誤嚥の 可能性から難しいと考えられる。 窒息によるagitationが起こってからの緊急切開術と、後手 に回ったが、このようなトリアージ的に緊急〜蘇生と判断 できる症例においては、低酸素脳症などの後遺症を残さな いためにも、耳鼻科医の判断の元、速やかに気管切開とい う方法を選択することをためらってはいけないと考えられ る。 気管切開術について 手技;基本30分ほどは要する。 (ベッドサイドで緊急的に行うものではない。) <特殊な気管切開術> (1)輪状甲状間膜切開(トラヘルパー): ベッドサイドで緊急的に行うもの。 (2)経皮気管切開(Melkerなど): 内科医用に作られたもの。緊急用 ではない。超肥満患者に有用。 基本的には、可能であれば、まず気管内挿管。 急性喉頭蓋炎や咽喉等ガンなどで 挿管が不可能な緊急時 に気管切開が第1選択になる。 外科的気道確保の適応 ①気道挿管が禁忌、不可能な場合 顔面外傷による大量出血 上気道異物 喉頭浮腫、喉頭痙攣で気管チューブが声門通過不可能 ②喉頭展開が禁忌or不可能 経鼻気管挿管が実施できず、かつ頸椎保護が必要な時 解剖学的異常 ③生命維持が切迫した状況下での気管挿管困難例 意識レベル低下、脳圧亢進を示す頭部外傷、心停止が 目前に迫った徐脈 手技 来院時 頭頸部レントゲン 午前8時に耳鼻科、小児科Drの来院を待ってコンサルト。 喉頭蓋嚢腫との診断で、嚢腫の縮小目的にルート確保し、 ステロイド100mg iv.投与開始。 沖縄南部医療センターへ搬送のお願いをし、搬送前の造影CT検 査準備中に、呼吸苦を訴え、顔面チアノーゼに。SpO2;50〜 60%と低下を認め、急遽マスク換気開始し挿管試みるも、気道 確保できず、院内の医師、看護師を招集し、緊急気管切開術施 行し成功。 <気管切開術の詳細> 気管の下方からのアプローチで気管に達して、気管にピンク針 をさしたが、黒い血液のみ引けた。➡️ 上方の甲状腺峡部に ピンク針さし、空気が引けることを確認後、気管切開施行。 気管切開中の、意識レベルはⅢ桁。瞳孔反射+/+ 。心停止なし。 手術手技 下気道切開 開術 気管切開術後の状態
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