みずき中学校 下山雅也

数学実践
中学校3年
「関数 y = a x 2 の利用」
粘り強く課題に取り組み、数学的な考え方を育てるための指導の工夫
前橋市立みずき中学校
Ⅰ
実践のポイント
下山
雅也
方を育てることができると考える。
粘り強く課題に取り組み、数学的な考え
方を育てるために、
Ⅲ
指導の工夫
1
ICT機器を活用した課題提示の工夫
①課題提示時にICT機器を活用し、課題
関数において、生徒が「ともなって変わる
を把握しやすくした。
2つの数量」は何であるかを理解して課題に
②ワークシートを活用した意見交流の場を
取り組むことは、非常に重要である。特に「時
設定し、解決への見通しをもちやすくし
間とともに2人の進む距離が変わっていく」
たり、考えを深めやすくしたりした。
という場面は、文章や式、グラフだけではと
Ⅱ
指導者の願い
らえることが難しい。そこで、自転車に乗っ
本学級の生徒は数学の授業に真面目に取り
た生徒が走っている生徒に追いつくという、
組む生徒が多い。また、発問に対して、積極
進み方の異なる2人の関係をビデオに撮影し
的に発言できる生徒も見られる。文章問題や
て提示する。動画で視覚的にとらえることで、
応用問題に対しても、自分なりに考えて解決
生徒は課題を把握しやすくなると考える。
しようとする生徒が半数以上をしめる。しか
2
ワークシートを活用した意見交流の工夫
し、数学に苦手意識をもっている生徒は、ど
他者の意見に触れることで、解決の糸口を
うしてよいか分からず前に進めなかったり、
つかめたり、自分の考えの正しさを確認した
諦めてしまったりすることもある。それは課
りできる。さらに、考えを深めたり新しい意
題の把握が十分でないこと、解決への見通し
見をもてたりできるようになる。そのために
がもてないことが原因と考えられる。そのよ
は意見交流において、生徒が明確な視点をも
うな生徒が課題をしっかり把握し、自分なり
ち、自分なりの考えをもちながら主体的に行
の考えや見通しをもつことは、粘り強く課題
う必要があると考える。そこで、「課題1と
に取り組む原動力となるであろう。そして、
2の共通点と相違点」という明確な視点で自
その考えを深めたり、他者の考えをもとに新
分の考えを記入する欄を設けたワークシート
しい考えをもったりすることは、数学的な考
を用意する(図1)。
え方を育てることにつながると考えた。そこ
で、課題を提示する際に、ICT機器を活用
して、課題を視覚的にとらえられるようにす
る。文章で表された課題も、視覚的にとらえ
ることで、正確に把握できると考えられる。
さらに、課題解決への見通しをもち自分の考
えを深めることができるようにワークシート
を活用した意見交流を行う。これらの学習活
動を通して、生徒が解決への見通しを明確に
し、粘り強く課題に取り組み、数学的な考え
- 77 -
図1 考えを記入し整理するためのワークシート
また、ワークシートに記入した自分の考え
た。そして関数 y = ax 2 を利用して問題を
をもとに意見交流を行う。このような意見交
解決していく本時では、速さに関する問題を
流を通して、自分の考えを整理しながら課題
扱った。
に取り組み、課題解決への見通しをもてたり
≪課題1≫
考えを深めたりすることができると考える。
一定の速さで走るKさんが地点Aを通過す
Ⅳ
実践の概要
ると同時に、Mさんは地点Aから自転車でK
1
単元名
さんと同じ方向に走り出した。MさんがKさ
んに追いつくまでの時間を調べよう。
〔3年〕関数
2
指導目標
スタートして x 秒後のAからの距離をy m
とする。
事象の中から x とy の関係が y = ax 2 で表
されるものに着目し、式やグラフの形、値の
Mさんの進行の様子(表で一部を提示)
0 ≦ x ≦ 14 で y = ax
変化の様子などを調べることを通してその特
を解決することができる。
3
指導計画
1
2
1
1
4
3
の関係
4
5
6
7
Kさんの進行の様子(グラフで提示)
(m)
(16時間予定、本時はその12時間目)
時間
0
0
x
y
徴を理解するとともに、関数を利用して問題
2
主な学習活動
1
・関数y=ax2の意味
2
・関数y=x2のグラフの特徴
3
・a>0のときのaの値とグラフの関係
4
・a<0のときのaの値とグラフの関係
5
・関数y=ax2の値の変化のようす
6
・関数y=ax2の値の変化の割合
7
・具体的な場面で、変化の割合の意味を調べる
8
・関数y=ax2で表される式を求めること
9
・グラフから、対応や変域を調べること
y
32
28
24
20
16
12
10
・練習問題
11
・いろいろな関数について調べる
8
4
x
0
14
図2
8
10
12
秒
課題2
課題の提示
ているKさんに追いつく動画を提示すること
・図形を移動させるときに現れる関数を
で課題を把握しやすくした(図2)。すべての
生徒が真剣に注目していた。追いつく前の場
面で動画を一時停止し、この後、どうなるか
・章末問題
16
4
6
まず課題1では、自転車のMさんが、走っ
を利用して解決する
見いだして、問題を解決する
15
4
課題1
12本時 ・身のまわりにある問題を、関数y=ax2
13
2
予想するようにした。動画の中では自転車が
実践授業の展開
明らかに加速しているので「Mさんが追いつ
(1)ICT機器を活用した課題提示の工夫
く」という予想がすぐに挙がった。そして2
本単元では、生徒は主に1次関数(比例)と
回繰り返し示した後、2人の進む速さに着目
の比較を通してグラフの特徴や値の変化の様
して気付いたことを発表させた。「自転車は
子など、関数 y = ax
2
の特徴を理解してき
だんだん速くなっていく」「走っている人は
- 78 -
一定の速さで走っている」という意見が挙が
使って解けそうだという見通しをもつことが
った。
できた。その後、座席の近い者同士で一緒に
これらのことを全体で確認した後、課題に
取り組んだ。それぞれの進行の様子を表や式、
考えたり、教え合ったりするよう声かけを行
った。
グラフで確認しながら最後はグラフ交点の座
標から追いつく時間と距離を求めていった。
≪課題2≫
地点AからMさんが自転車をこぎ始めると
同時に、Kさんと同じ速さで走る S さんは地
点Aから12m先の地点Bを通過した。Mさ
んがSさんに追いつくまでの時間を調べよ
う。
(Mさんの自転車の速さは課題1と等しい。)
図3
課題2についても課題1と同様に、動画で
ワークシートに記入する生徒
課題を提示することで、課題を把握しやすく
机間指導での見取りから、3分の1から半
した(図2)。Sさんの出発地点はKさんの出
数ほどの生徒が解決への見通しをもてた。そ
発地点よりも前方であることを視覚的にとえ
して、異なる意見を記入していたC・D・E
られたため、普段は自分で考えることを諦め
さんを指名し発表させ全体での意見交流を行
てしまう生徒も諦めずに課題に取り組むこと
った。特にこの場面では12mという課題1
ができた。
との違いを表や式、グラフでどのように表せ
(2)ワークシートを活用した意見交流の工夫
るかということに全員の目を向けさせたいと
課題2のワークシートには、課題1との共
考えた。そこで、具体的な式を考えながら、
通点と相違点を記入する欄を設け、自分の考
課題1との違いをどのように表せるか考えて
えを記入できるようにした。さらに意見交流
いたEさんを指名した。以下は発表の一部で
によってどのようにすれば解決できるかとい
ある。
う見通しを記入する欄を設けた。はじめに全
Cさん「グラフをかいて交点を求める。」
体で課題2の場面の把握を行った後、課題1
Dさん「表を使っても求められる。」
との共通点と相違点について考え、ワークシ
Eさん「y =2x と y =
ートに記入するよう促した。この2つの場面
1
x
4
2
を連立すれ
ばいいと思う。」
の比較では、違いが分かりやすかったために
ほとんどの生徒が共通点と相違点に気付い
Fさん「でもそれじゃ課題1と同じだよ?」
た。「2人の速さは課題1と同じ。」である
Eさん「そう、12mをどうにかしないとな。」
という共通点と「Sさんは地点Aより12m
進んでいる。」という相違点を全体で確認し
た。
これらの発表を聞き、新たにワークシート
に記入する生徒の姿が見られた。このことか
そして、この比較によって分かったことを
ら、見通しをもてずにいた生徒にとって、こ
もとに、課題2を解決するためにどうしたら
の意見交流が解決の糸口となり、新たな考え
よいか考えワークシートに記入するよう促し
をもつことにつながったと考えられる。また
た(図3)。まず、個人で考えるよう促したと
「12mをなんとかしないとな。」というE
ころ、数学の得意な生徒数名がグラフや式を
さんの言葉から、ほぼ全員が12mを意識し
- 79 -
て問題解決に向かうことができた(図4)。ま
よさに気付くことができたと考えられる。
た生徒は、考えをワークシートにしっかり記
Ⅴ
まとめ
入し明確にすることで、表や式、グラフを積
本実践では、ICT機器を活用した課題提
極的に用いて考えることできた。そして、諦
示により課題をしっかり把握し、ワークシー
めることなく課題に取り組むことができた。
トを活用しながら意見交流を行うことを通し
て、見通しをもって粘り強く課題に取り組み、
数学的な考え方を育てることを目指した。
【成果】
○数学に苦手意識のある生徒が諦めずに課題
に取り組む姿が見られた。ICT機器を活
用した課題提示は、課題をしっかり把握し
図4
生徒の記入例
て取り組むことにつながった。
課題を解決していく場面では、式に表して
○机間指導で見とったワークシートへの記入
連立方程式をたてようとする生徒は、課題1
の様子から、意見交流の際に「課題1と2
の式から12mを足したり引いたりするな
の共通点と相違点」という視点を明確にし
ど、12mに着目した操作を行っていた。そ
たことは、自分の考えや課題を解決する見
して、ワークシートに記入した「12m前を
通しをもつことにつながった。また、1人
行っている」という記述をもとに、隣の生徒
では見通しをもつことができなかった生徒
と話し合いながら y =2x +12という式を
も、意見交流によって、式や表、グラフを
得ることができた。このような姿から生徒は
使って考えてみようという見通しをもち、
見通しをもって課題に取り組んでいたととら
粘り強く課題に取り組むことができた。
えられる。そして、まとめの場面では表や式、
○解決への見通しをもつ場面やまとめの場面
グラフを利用して解決したそれぞれの生徒に
では、自分の考えだけでなく他の生徒の考
発表するように促した(図5)。
えも熱心に記入する生徒が見られた。新た
な考えをもったり、他の解法のよさに気付
くなど、数学的な考え方が育ってきたとと
らえることができる。
【課題】
○黒板やスクリーンに課題1と2の両方の映
像を示しておくことができなかった。静止
画を用いて課題1と2の両方を提示してお
くことで違いを強調できると考えられる。
○本実践では課題解決の見通しをもつ場面で
図5
自分の解決方法を発表する生徒
の意見交流を行った。しかし、個人で解決
その際、多くの生徒が自分以外の解法もワ
していく生徒が多い中で、つまずいている
ークシートに熱心に記入していた。また「グ
生徒も見られた。同じ考えをもつ生徒同士
ラフだと、追いつく地点が目で見てわかりや
でグループをつくり、意見を交流しながら
すい。」「式ならグラフがきりのいい点を通
解決していくなどの方法も考えられる。
らなくても求められる。」という発言もみら
れた。生徒はそれぞれの考え方に触れ、その
- 80 -
【資料】
第3学年
実践を生かした授業案
単元名 関数(本時は12/16)
2
速さに関する問題を関数 y = ax を利用して考察し、解決することがで
きる。
めあて
指導の工夫
生徒の活動
本時のねらい
≪課題1≫
一定の速さで走るKさんが地点Aを通過すると同時に、Mさんは地点Aから自転車でKさんと同じ方
向に走り出した。MさんがKさんに追いつくまでの時間を調べよう。
(m) y
(1)Mさんが出発してから x 秒間に進む距離を y mとすると、
2
0≦ x ≦14の範囲では y = ax の関係がある。1秒間、
2秒間に進む距離が次のように分かっているとき、表を完
成させなさい
x 0
1 2 ・・・
y 0
1
1 ・・・
4
32
28
24
20
16
12
8
(2)右のグラフは地点AからのKさんの進行の様子を示したもの
である。ここにMさんの進行の様子を示すグラフをかきなさい。
(3)MさんがKさんに追いつくのは何秒後ですか。また地点A
から何mの地点ですか。
4
0
2
4
6
8
10
12
x
秒
1 課題1をつかむ。 【ポイント1 ICT機器を活用 ○反応例
した課題提示の工夫 ◇】
・Kさんは一定の速さだ。
◇2人 の進行 の様 子を動 画で提示す ・ Mさん はだ んだん 速くなってい く
るこ とで、 課題 を把握 しやすいよ
な。
うにする。
◇Mさ んが出 発し た瞬間 の画像を掲
課題1の提示
示し ておき 、場 面を振 り返りやす
くする。
2 課題1を解決する。 ・y = ax 2 の関係があることに気付 ○ 表の値 から 式を求 め、表を完成 す
くよ うにす るた め、問 題文に注意
る。
するよう声かけを行う。
○ グラフ から Kさん の進行の様子 を
・グラ フが直 線で あるこ とに目を向
読み取る。
けさ せ、K さん は一定 の速さで進 ○ 完成し た表 からM さんのグラフ を
んで いると いう ことを 意識できる
かく。
ようにする。
○ Mさん が追 いつく 時間と距離を 求
課題に取り組む生徒 ・グラ フを正 確に かける よう、座標
める。
の1 目盛り の大 きさに 着目させ、 ○反応例
格子 点を通 る部 分に注 意するよう ・ グラフ をか いてそ の交点の座標 か
促す。
ら追いつく地点を求めよう。
・グラ フの交 点が 追いつ く地点であ ・ 2人の 式か ら連立 方程式をたて 、
ることに気付けるようにするため、 その解を求めよう。
グラ フの特 徴的 なとこ ろに目を向 ・表を利用しよう。
けるよう声をかける。
・表や 式を利 用し て求め られないか ○ 表や式 、グ ラフを 利用して追い つ
投げ かけ、 表や 式でも 追いつく地
く地点 を求 められ ることを理解 す
点を 求めら れる ことに 気付けるよ
る。
うにする。
≪課題2≫
地点AからMさんが自転車をこぎ始めると同時に、Kさんと同じ速さで走るSさんは地点Aから12
m先の地点Bを通過した。MさんがSさんに追いつくまでの時間を調べよう。
(Mさんの自転車の速さは課題1と等しいものとする。)
- 81 -
3
課題2をつか
み、解決への見
通しをもつ。
◇2人 の進行 の様 子を動 画で提示す
るこ とで、 課題 を把握 しやすくす
る。
◇課題 1との 違い を強調 するため画
像を対比させて掲示する。
個人の活動
○ 課題1 との 比較に 視点をあてて 意
見交流を行い、解決の見通しをもつ。
○反応例
・KさんとSさんの速さは同じ。
・追いつくまでの時間を求める。
・ スター トし たとき 、Sさんは1 2
m前方を行っている。
課題2の提示
【ポイント2 ワークシートを活用 グループ(座席)での活動
した意見交流の工夫 ◆】
○ 意見交 流を 行い、 解決への見通 し
意見交流を行う生徒
をもつ。
◆見通 しを立 てる 際の手 がかりとす ○反応例
るた め、課 題1 と比較 し、共通点 ・ 2人の 進行 を表す グラフをかい て
と相違点を考えるよう促す。
求める。
◆他の 生徒の 考え に触れ 、見通しを ・ 12m とい う違い はどうすれば い
もったり考えを深めたりするため、 いかな。
共通 点と相 違点 に視点 をあてた意 ・ Sさん のグ ラフは Kさんのグラ フ
見交流を行う場を設ける。
を y 軸方向に12だけ平行移動さ
◆自分 の考え を整 理し明 確にするた
せればいいと思う。
め、 追いつ くま での時 間を求める ・ 2人の 時間 と距離 の関係を表に 表
考え を、ワ ーク シート に記入させ
して求める。
る。
◆考え 方を全 体で 共有す るために、
数人 に記入 した 自分の 考えを発表
するよう促す。
4 課題2を解決する。 ◆同じ 考えの 生徒 同士で グループを ○課題2に取り組む。
つく って協 力し て解決 するよう投 個人・グループ(同じ考え)での活動
げかける。
・つま ずいて いる グルー プには、ヒ ○反応例
ント として Sさ んは0 秒の時に何 ・ 速さは 同じ だから 直線の傾きは 変
mの地点にいるか考えるよう促す。 わらない。
・早く できた グル ープに は、ほかの ・ 式では 12 を足せ ばいいのか引 け
方法で求めてみるよう声をかける。 ばいいのか難しいぞ。
◆いろ いろな 解決 の方法 に触れさせ ○反応例
るた め、黒 板に 板書さ せ全体で共 ・グラフだと目で見て分かる。
有する。
・ 式なら グラ フが格 子点を通らな く
ても分かる。
評価項目
【考】2人の進行の様子を表や式,
グラ フで 表 し, それ を利 用して 問
題を考察している。(ワークシート)
5
本時の学習のま ・本時 の学習 過程 を確認 するため、 ○ グラフ や式 、表を 利用して問題 が
とめをする。
ワークシートを振り返るよう促し、 解決できたことを確認する。
y = ax 2 を利用して問題を解決で
きたことを確認する。
- 82 -