広域網における iSCSI利用に関する一考察

広域網における iSCSI 利用に関する一考察
Study of Storage Access using iSCSI Protocol in Wide Area Network
渡邉茂道*1
Shigemichi Watanabe
藤田智成*2
Tomonori Fujita
中村隆幸*1
Takayuki Nakamura
*1
中川真一*1
Shinichi Nakagawa
NTT サービスインテグレーション基盤研究所
NTT Service Integration Laboratories
野本義弘*1
Yoshihiro Nomoto
藤野雄一*1
Yuichi Fujino
*2
NTT サイバーソリューション研究所
NTT Cyber Solutions Laboratories
1. はじめに
4.実験
IP ネットワーク(以下 NW)を使った SAN(Storage Area
Network)を構築するための標準規格の一つである iSCSI
プロトコル[1]に関して、学術的研究や実用化の動きが活
発化してきている。iSCSI には、IP NW 技術を利用し、比
較的安価にストレージシステムを構築できる利点がある。
しかしながら SCSI をベースとするため、基本的に NW に
求める性能は高く、ギガビットの LAN 環境を想定したも
のが一般的である。我々は、スループットの低下、遅延、
パケット廃棄等 NW の性能変動が想定される広域網での
利用について検討し、広域網利用時の課題について報告
した[2]。本稿では、これら広域網利用時の課題を解決す
る方法を提案し、その実験結果について述べる。
(1)実験項目と実験方法
実験システム構成及び実験概要を図 2 に示す。Linux
PC(Intel Xeon-3.06GHz ×2)と市販 iSCSI ストレージシス
テム及び広域網を利用して、(a)NW の基本性能測定実験と
して、ping、netperf を用いて遅延時間、パケット廃棄率、
スループットを測定する。次に、(b) iSCSI ディスクへの書
込み速度と必要な DAS ディスクサイズ測定実験として、
一定速度で書き込む AP を用いて iSCSI ディスクへの書込
み速度及びその際必要となる DAS ディスクのサイズを測
定する。
BBルータ
ONU
広域網
BBルータ
(a)NW基本性能評価
2 .課題
iSCSI
NW 性能が変動する広域網で iSCSI を利用する計算機で
は、メモリ消費、システムロック、データ欠損等が発生
する。これらはいずれも、オペレーティングシステム(以
下 OS)が iSCSI ディスクを DAS(Direct Attached Storage)デ
ィスクと同じように扱い、高速かつ安定的にアクセスで
きると仮定しているため発生している。
3 .提案方法
課題を解決するには、OS に対して DAS 同様の高速・安
定的なアクセスを保証する方法を検討する必要がある。
現在利用されている OS 及びアプリケーション(以下 AP)へ
の変更を最小限にすることを前提に検討すると、以下の 2
つの方法が考えられる。
方法 1:書き込まれたデータ全体を一時的に DAS ディス
クに保存し、後から iSCSI ディスクへコピーする方法
方法 2:小容量の DAS ディスクをデータの一時的なキャ
ッシュとして使用する方法
方法 2 は NW 変動分を吸収する分の DAS ディスクの容
量を用意すればよく、ファイル全体の容量を必要とする
方法1に比べ、容量が少なくてすむ。また、RAID ドライ
バーの一種として実装することにより、AP を変更するこ
となく使用できるといったメリットがある。ここでは方
法2(図 1)を実装し実験を行った。
クライアント
user
kernel
アプリケーション
write
read
DAS
(b)書込み速度、
DASサイズ評価
iSCSI
ディスク
図 2:実験システム構成及び実験概要
(2)実験結果と考察
(a)NW の基本性能測定実験
平均往復遅延時間 7.4ms、パケット廃棄率 0.06%、スル
ープット 38.9Mbps となり、比較的安定した NW であるが
パケット廃棄等あるため iSCSI のみでは、OS に対して安
定したアクセスを保証することが難しいことが示された。
(b)iSCSI ディスクへの書込み速度と必要な DAS ディスク
サイズ測定実験
AP の書込み速度を 2.3Mbps から 14.5Mbps へ変化させる
と、それに応じて書込み速度が 2.3Mbps から 14.5Mbps と
なり、この時の DAS ディスクサイズは AP の書込み速度
に応じて大きくなる傾向があり、書込み速度が 14.5Mbps
の時で、平均 536.9KB となった。また計測データ中最大
必要ディスクサイズは 56776.0KB となった。以上の結果、
14.5Mbps 程度までの書込み速度の AP であれば 60MB 程度
の DAS ディスクを用意することで広域網での iSCSI の利
用が可能であることが示された。
5.まとめと今後
本稿で提案する方法によって、広域網でありながらも
iSCSI ディスクの提供が可能となることを実験によって示
した。今後は更なるスループットの向上等検討を進める
予定である。
Multiple
Devices
layer
Multiple
Devices
layer
提案方法(方法2)
小容量
DASディスク
RAID0 RAID1
大容量
iSCSIディスク
図 1:提案方法の概念図
参考文献
[1] iSCSI(RFC3720) http://www.ietf.org/rfc/rfc3720.txt
[2] 藤田,矢田 “IP-SAN 環境の信頼性についての一考
察”信学技報, vol. 104, no. 566, TM2004-73, pp. 37-42,
2005 年 1 月