単結晶によるX線回折 ラウエ・カメラ 単結晶の方位解析 ラウエ・カメラの測定に先だって: 試料結晶のステレオ投影図を作成して結晶の方位を決定、ラウエ図形を解析して、回折斑点の指 数づけをするなどを行うラウエ・パターンの取得には、次の点を念頭におくと良い。 ① 試料外形に対する入射X線の方向を正確に決める。 ② ラウエ図形の解析は入射X線に対する回折角を求めることが基本となるので、結晶・フィル ム間の距離を正確に知る。 ③ ゴニオメータと入射X線の相対関係を簡単にするように、ゴニオメータのアークと入射X線方 向を一致させておく。 ④ 主要な斑点に着目して、その斑点が中心に移動するように、ゴニオメータ・アークを回転する と高い対称性のラウエ図形が得られる。 ラウエ図形の解析 目次: 1 チャート使用による方位解析 (1)結晶の主面法線をX線ビームの方向と一致させる手順 (2)方位が未知の場合の方位解析 (3)透過ラウエ写真の方位解析 (4)未知方位の単結晶の方位解析(透過ラウエ) 2 ラウエ方位解析の基礎 (1)Greninger Chart(背面ラウエ写真の方位解析用チャート)の作成 (2)Leonhardt Chart(透過ラウエ写真の方位解析用チャート)の作成 (3)ステレオ投影と面間角 -1 Polar projection ( Polar net ) -2 Meridian projection ( Stereographic net or Wulff net ) -3 面間角 付録 軸立てを回転マトリックスで表現する (ア)背面ラウエの場合 (イ)透過ラウエの場合 1 ラウエ図形の解析 1. チャート使用による方位解析 Greninger チャートを利用して反射ラウエ写真から単結晶の方位を解析する方法について 述べる。 方位解析原理の詳細については次章に述べることとし、ここでは解析の手順につい て説明する。 解析に必要となる道具 (i) カメラ長(試料‐フィルム間距離)、表裏上下が明確な平板反射ラウエ写真 (ii) カメラ長に対応した Greninger チャート(Greninger チャートのサイズ(チャート内の 2D はカメラ長の2倍を表している)に合わせる場合は、ラウエ写真のスポット位置を縮小又 は拡大した図を作成する。) (iii) Wulff ネット(ステレオネット) (iv) 透明フィルム (v) 結晶の面間角度表 (1) 結晶の主面法線をX線ビームの方向と一致させる手順 主面法線とX線ビームの方向との方位の違いが大きくなく、主面のスポット位置が図形の対 称性などから写真上で特定できる場合について説明する。 ラウエ写真を撮影する際に結晶をクロスゴニオメータヘッドに載せているのであれば、下のア ークの面を入射X線ビームと平行に配置して撮影することとする。 ラウエ写真の中心と Greninger チャートの中心を合わせて両者を重ねる(ラウエ写真のフィ デューシャルポイントとチャートの縦横も合わせる)。 Greninger チャートで読み取れる回折ス ポットの角度 はその反射面法線の方位を表している。 図中で CO が入射X線を、CN が面法線をあらわす。 2 主面のスポットを特定できれば、スポットがビームストップ内に隠れている場合も含めて、そ の位置を示す角度を Greninger チャートから読み取る。 フィルムの下半分にあるスポット はチャートを逆さにして を読み取る。 Y ここで読み取られた角度は面法線の方位を示す が、クロスゴニオメータ・ヘッドの修正角度と1:1には対 応していない。 しかし、角度修正が容易となるので下 のアーク面が入射X線ビームと平行となるように設定す る。 X X線 入射X線ビームと クロスゴニオメータヘッド との関係 Greninger チャートで読み取った角度は Wulff ネットに転写される。 Wulffネットは投影 球の赤道上に透視点におき、投影面はその反対側の点で赤道に接している。 2つの格子面の 法線の間の角度は、2点が同じ経線上に乗っていれば緯線の読みの差から求められる。 方位決定に使用されるのは Wulff ネットである。 Greninger チャートと Wulff ネットとの関係を下図に示す。 は晶帯軸の傾き、角はその 面内での角度である。 面法線hkl を含む逆格子面と背面反射の 回折ビームとの関係 同じ晶帯に属する面法線のステレオ投影 3 Greninger チャートと Wulff ネットとの対応関係を下記に示す。 Wulff ネットは経線を左右に横になるように配置する。 Y X ラウエフィルムと Greninger チャートとを 重ねて 角を読み取る。 角 の Wulff ネット上の表示 得られた角からクロスゴニオメータ・ヘッドで方位修正し面法線と入射ビーム方向を一致 させる手順を説明する。 クロスゴニオメータ・ヘッドの下のアークの面を入射ビームに平行となるように配置しているの で、下のアークの回転軸は X 軸、上のアークの回転軸は Z 軸となる。 面法線の回転と回転軸との関係を下図に示す。 この図より角を直接修正することはク ロスゴニオメータ・ヘッドではできないことが分る。 修正できる角度はである。 すなわち、 Z 軸中心に角回転して面法線を YZ 面内に移動し、X 軸中心に角回転して面法線を Z 軸と 一致させる。 Y 入射X線 Z X 4 Y cos/cos 面法線 sin ’ 入射X線 cos X 角と角との関係は上の図から数式では次のように求められる。 tan ’ = tan / cos sin ・sin = cos ・tan ’ = cos ・tan / cos sin ・cos = cos ・tan tan2 = tan2’ + tan2= tan2 / cos2 + tan2 tan = tan ’ / tan = tan / (tan ・cos ) = tan / sin (1) (2) 角はグラフ法で求めることができる。 角と角との関係は下左図に示される。 角度を読み取るには次のように行う。 先に Greninger チャートから読み取って主面法線の位置を転写した Wulff ネットに同じサイ ズの Wulff ネットを中心を合わせて重ね、上の Wulff ネットを回転して 0°経線を中心と面法線 を結ぶ直線に一致させる。 このとき元の Wulff ネットの N 極と 0°経線との間の角が で、緯 線が角を表している。 修正角度 を Wulff ネットで求める方法 中心と面法線を結ぶ線に 0°経線をあわせる。 右図に示すように角が求められる。 5 が決まるとクロスゴニオメータ・ヘッドで修正することになるが、各アークの移動方向は下 図を参考におこなう。 角度とクロスゴニオメータヘッドの角度修正の移動方向の関係 Y 入射X線 X クロスゴニオメータ・ヘッドの各アークの角度範囲は狭く、修正できる角度範囲は限られてい る。 アークの移動範囲が上下それぞれ±20°であれば、修正できる角の範囲も±20°で ある。 この範囲よりいずれかが大きい場合は倒れ角度が小さくても修正できない。 倒れを小 さくすることはできるが完全には修正できない。 この範囲内になるように結晶を付け替える必 要がある。 下図のようなディスク付のゴニオメータヘッドであれば修正範囲は大幅に拡がる。 修正角度範囲を制限するのは下のアークの移動範囲のみである。 面法線がどの方向に倒 れていても修正が可能である。 修正角度’,’: tan’ = tan / cos (3) tan’ = tan・cos’ (4) は Greninger チャートによる角度である。 Y (角はそのまま修正角度にならないことに注意) 図中の矢印は修正方向の関係を示す。 ’ ’ X (注) アークとディスクとの上下が 左図と逆の場合、 アークの修正角度 : ディスクの修正角度 : である。 ’ ’ ディスクとアークで構成されるゴニオメータ・ヘッド 6 反射ラウエのゴニオメータヘッドとしては、上の検討結果からディスクの上にアークが載っ ている種類が最適である。 入射X線ビームに平行にアークの面がなるように設定して撮影す る。 求められた角がそのまま修正角度となる。 今まで Greninger チャートと Wulff ネットとを使用したグラフ法で面方位を決めたが、ラウエ 写真だけから演算で角度を求める方法について説明する。 Greninger チャー ト は 曲線 の 間 隔が 粗 いの で正確 な角 度 を読 み取 る こ とは 難 しい。 Greninger チャートを使用しないで正確に角度を演算で求める方法がある。 この方法は ラウエ写真のスポット位置とカメラ長とから角度を計算する方法である。 この方法の詳細は次 章で説明する。 カメラ長 : D, スポット座標( X, Y ) とする。単位はいずれも mm である。 s=Y/X t= D √ X2 + Y2 + D2 と置き換えた時、 sin = s ・ tan = √1-t √ 1 + 2s2 + t √1-t √ 1 + 2s2 + t で角度が計算される。 ただし、符号が定められないので、ラウエフィルムの上半分で角 の正を、左半分で角の正を表す。 ここで得られた角からゴニオメータ・ヘッドの種類に応じて 4 ページの式 (1)と(2) に代入 して角を、6 ページの式 (3)と(4)から角’,’ を求め修正する。 7 (2) 方位が未知の場合の方位解析 入射X線ビームの方向(結晶表面がビームに垂直ならば表面法線)と複数の主要な面法線と の角度関係を求めるのが目的である。 ラウエ写真の回折スポットは波長が不明であるから面 指数を直接見出すことは困難であるが、面法線の方向は決定でき Wulff ネットに記入すれば、 スポット相互間の角が測定され、結晶の面間角の表と比較することで面が決定できる。 ある軸(晶帯軸)に平行な面の全て(晶帯という;それらの面法線は晶帯軸と直交している)か らの回折ビームは晶帯軸を中心とする円錐面上にある。 背面反射では平板フィルムとの交線 は双曲線となる。 Greninger チャートは晶帯と晶帯軸とを見つけるために使用する道具である。 晶帯を複数 見つけると、それらの交点は低指数の面法線を示すことが多いからスポットに面指数を付すこ とが容易となる。 面間の角度関係は Wulff ネットによって読み取られるから、各スポットの角度 を Greninger チャートで読み取り Wulff ネットに転写するのであるが、(1)節で述べたように各 スポット毎に角を読み取り Wulff ネットに書き込む方法もあるが、Greninger チャートの特 性をより有効に活用して晶帯、晶帯軸を見つけるには次に示すような手順を行う。 Greninger チャートの双曲線に乗るスポット群をフィルムを回転して見つけることである。 ラウエ写真上のスポットをウルフネット上に転写する手順 (i) ラウエ写真と Greninger チャート, Wulff ネットと透明紙を用意する。 (ii) 写真の上に Greninger チャートを両者の中心,写真の鉛直軸とチャートの=0°軸を合わ せて重ねる。 経線を横軸にして Wulff ネットの上に透明紙を重ねる。 (iii) 写真を回転させてスポット群と Greninger チャートの 曲線とが一致する角を探す。 Wulff ネット上の透明紙を角回転し、Wulff ネット上の経線上に角に応じてスポットを透 明紙に記すとともにその経線をなぞって記す。(上図) (iv) 他の晶帯を探し同様に透明紙に重ね書きする。 極(晶帯の交点及び晶帯軸)が同じ経線上 に2点以上選ばれるまで繰り返す。 8 方位が未知の結晶の背面ラウエ写真の方位解析の例を下記に示す。 結晶はシリコン結晶 (立方晶,ダイアモンド構造)である。 面間角度のテーブルは準備されている。(面間角度は基 本円半径が同じ標準投影図と Wulff ネットがあれば読み取ることができる。 詳細後述) Greninger チャートを使用して晶帯を探し、Wulff ネット上に転写する。 ラウエ写真の目的 は単結晶の方位解析であるから、各スポットの指数付けをする必要はない。 晶帯全体の投影 と晶帯軸を示せば十分である。 ここで重要な極は図中に示した番号 1, 2, 3 である。 2 2 11 33 左図の Wulff ネット上の晶帯 シリコン結晶の背面ラウエ写真 極間の角度の読み取り Wulff ネット上で極 1 と 2, 極 2 と 3, 極 3 と 1 との角度は、(それぞれを同じ経線上に乗せて 緯度差で読み取り)それぞれ 35, 30, および 31°である。 面間角度表によれば、{110}と {111}との角度は 35.3°, {111}と{311}との角度は 29.5°,{311}と{110}との角度は 31.5°で ある。 この関係から極 1 は{110}、極 2 は{111}、および極 3 は{311} と推定される。 9 もうひとつの例を下記に示す。 結晶はアルミニウム結晶である。 晶系は面心立方晶である。 ここではラウエスポットとともに晶帯軸も書き込まれている。 それらは PA, PB,- - - と表示され、 晶帯 A, B,- - - の極である。 ラウエ写真の回折スポット スポットと晶帯軸(P)を記入したステレオ投影図 晶帯軸の極 PA, PB, - - -などが乗る大円(経線)を描き加え、極間の角度を調べる。 特に極間角度が 90, 45°など特珠な角度に注目する。 この例では PA - PB, PA - 5’, PB - 5’ の角度がすべて 90°で、PA - PE, PB – PE は 45°である。 また図中の 5’ - a, 5’ – b の角度 が 55°であることなどから、全ての極が矛盾なく指数付けできる結果が下図に示される。 極が同定されたステレオ投影図 結晶方向を表す基本ステレオ三角形 立方晶では(001), (101)及び(111)を頂点とする基本ステレオ三角形((001)標準投影図の 一部)内で全ての方位を表すことができる。 ステレオ投影図で中心と三つの極との角度を(中 心とそれらを結ぶ大円に沿って)測定し、上右図のように表示する。 10 (3) 透過ラウエ写真の方位解析 透過ラウエが方位解析に利用されることは背面ラウエに比べて少ない。 X線が透過するに は吸収係数が小さく、薄い厚みが必要となるからである。 解析は背面ラウエの場合と同じような手順で行うことができる。 解析に使用するチャートは Leonhardt チャートであること、ステレオ投影図(Wulff ネット)へ晶帯,晶帯軸を記入する位置, 方向が背面ラウエの場合と異なることに注意が必要である。 透過ラウエの晶帯軸の角度と 背面ラウエの晶帯軸の角度には次の関係がある。 = 90° 透過ラウエの晶帯,晶帯軸とステレオ投影図 晶帯と透過ラウエとの関係 Wulff ネットへの転写 フィルムと Leonhardt チャート 11 X線ビームの方向を Z 軸, 水平面内で Z 軸と直交する方向を X 軸およびそれら 2 軸と直交す る方向を Y 軸とする。 透過ラウエにおける軸立てとは、特定の面法線を Y 軸と一致させること である。 反射ラウエでは面法線をX線ビームの方向と一致させたが、透過ラウエでは面法線を X線ビームに直交させる操作が軸立てとなる。 その面法線が Wulff ネット上で角で表されている。 ゴニオメータ・ヘッドの角度を修正し て面法線を Y 軸に一致させる手順について説明する。 角度の演算は基本的に反射ラウエの 場合と同じである。 面法線をX線ビームに対して垂直にするか平行にするかだけである。 結晶を搭載する二種類のゴニオメータ・ヘッドに対して図示する。 図は透過ラウエフィルム の上半分にある方位がある場合をしめす。 下半分の場合、修正方向は図を参考にして判断 する。 クロスゴニオメータヘッドは上のアークの面が入射X線ビームに平行であることに注意。 透過ラウエのゴニオメータヘッドとしてはこの種類、配置が最適で角がそのまま修正角 度どなる。 Y Z’ 修正角度 ( )と ( ’’ ) X’ tan2 = tan2 + tan2 / cos2 tan = tan / sin ’ tan ’ = tan / cos tan’ = tan・cos’ ’ Z X X線 Y Y Z Z X X クロスゴニオメータ・ヘッド (注) 二つのアークが上下逆であれば、 修正角度は’(上)’(下)である。 ディスクとアークの組み合わせ 12 背面ラウエの場合と同じようにチャートではなく、フィルムの座標から精度よく角を演算 することができる。 カメラ長 : D, スポット座標( X, Y ) とする。単位はいずれも mm である。 s=Y/X t= D √ X2 + Y2 + D2 と置き換えた時、 √1+t cos = s・ √ 1 + 2s2 - t s tan = √1+t √ 1 + 2s2 - t である。 (4) 未知方位の単結晶の方位解析(透過ラウエ) 透過ラウエ写真と Leonhardt チャートから Wulff ネットへのスポットや晶帯,晶帯軸の転写 の手順は背面ラウエの場合と同じである。 背面ラウエの場合と異なる点は、晶帯は外円からの角度で描くこと、晶帯軸は中心から計る ことである。 Leonhardt チャートによる晶帯,晶帯軸の ラウエフィルムからステレオ投影図への転写 13 透過ラウエの解析例としてアルミニウム単結晶を下記に挙げる。 晶帯軸 PA, PB, PC に注目して極の指数付けを行い方位解析をする。 PA – PB, PB – PC, PC – PA の角度がそれぞれ 35°, 45°, 30°であるから、PA, PB, PC はそれぞれ{211}, {100}, {110}の極である。 1 3 2 4 6 5 7 9 8 アルミニウム単結晶の透過ラウエ図形 左図の透過ラウエ図形のステレオ投影 14 2. ラウエ方位解析の基礎 白色X線を使うラウエ反射は Ewald 球で表せば下図左のように表される。 図中で最短波長 と最長波長に相当する灰色の部分に含まれる逆格子点が反射にあずかる。 それらは式で表せば、 S – S0 = ha* + kb* + lc* = hkl となる。 これでは波長毎に解析をする必要があり、ラウエ写真の方位解析には不都合である。 そこで、上の式を次のように書き替えて波長が異なっても、ひとつの Ewald 球で回折関係が表 現できるように上の式の両辺に波長をかける。 その関係を表したのが下右図である。 半径 1 の Ewald 球面で逆格子hkl が回折する。 S-S0 = hkl 波長に関係なくひとつの Ewald 球で全ての反射を表現できることはラウエ写真を理解するの に非常に有効である。 ある軸に平行な格子面の面法線はその軸に直交しているから、その軸に垂直な平面上にあ る。 その軸を晶帯軸といい、平行な格子面群を晶帯という。 ラウエ写真のスポットに直ちに Miller 指数をつけることは困難である。 方位解析の手がかりになるのが同一平面上にある晶 帯である。 指数毎に面間隔は異なっているが、上の式を満たす波長で同時に回折がおこる。 このように晶帯の反射にある法則があることを下図に示している。 左図は背面ラウエ写真 の模式図で入射X線ビームに対して角傾いた晶帯軸の晶帯からの反射スポットは双曲線に 乗る。 右図は透過ラウエに対する図で晶帯からの反射スポットは楕円に乗る。 15 晶帯を見つけるために使用される道具が Greninger チャート(背面ラウエ)と Leonhrdt チャ ート(透過ラウエ)である。 これらのチャートの作成法を原理に則って以下に説明する。 (1) Greninger Chart(背面ラウエ写真の方位解析用チャート)の作成 入射X線ビームの逆方向を Z 軸にとり、下図のように Ewald 球面上に原点をとる座標系を設 定する。 晶帯軸が YZ 平面内で角傾いている例を考える。 晶帯は晶帯軸に垂直な平面で あるから、Z 軸と角傾いた平面である。 回折は Ewald 球面上で起こり、晶帯平面と Ewald 球面との交線は円である。 その面を取り出したのが下右図である。 この図から角の位置は球面上で下に示すような座標となる。 Y 投影面 Z′ (x,y,z) Z 晶帯を切り出した図 晶帯軸 Ewald 球 (x′,y′,z′) cos (0,0,1) 2 Z′ (0,0,0) cos ・cos 2 (0,0,0) cos X′ X x′ = cos ・sin 2 z′ = cos・(1+cos 2 x = x′ = cos ・sin 2 z = z′ cos = cos2・(1+cos 2 y = z・tan = cos ・sin ・(1+cos 2) 座標( x, y, z )にある逆格子点はこの点と Ewald 球の中心を結ぶ方向に回折される。 すなわち、回折ビームは点(0,0,1)と点(x,y,z)とを結ぶ直線の方程式で表され、それは、 X = Y cos ・sin 2 cos ・sin ・(1+cos 2) である。 16 = Z-1 cos2・(1+cos 2- 1 この直線と平面 Z = 2 との交点が Greninger Chart 上の一点である。 上の式の第3項に Z = 2 を代入して、X, Y を求めれば、 X= Y= cos ・sin 2 cos2・(1+cos 2- 1 cos ・sin ・(1+cos 2) cos2・(1+cos 2- 1 カメラ長が D であれば、上記(X,Y)を D 倍する。 角を固定して、角をかえながら(X,Y)を求めてプロットすれば角一定の曲線が描ける。 角を固定して、角をかえながら(X,Y)を求めてプロットすれば角一定の曲線が描ける。 逆に、フィルム上のスポット座標( X, Y )とカメラ長を与えると角を演算で求めることがで きる。 カメラ長 : D, スポット座標( X, Y ) とする。単位はいずれも mm である。 s=Y/X t= D √ X2 + Y2 + D2 と置き換えた時、 17 √1-t sin = s ・ √ 1 + 2s2 + t √1-t tan = √ 1 + 2s2 + t で角度が計算される。 ただし、符号が定められないので、ラウエフィルムの上半分で角 の正を、左半分で角の正を表す。 (2) Leonhardt Chart(透過ラウエ写真の方位解析用チャート)の作成 入射X線ビームの逆方向を Z 軸にとり、下図のように Ewald 球面上に原点をとる座標系を設 定する。 晶帯軸が YZ 平面内で角傾いている例を考える。 晶帯は晶帯軸に垂直な平面で あるから、Y 軸と角傾いた平面である。 回折は Ewald 球面上で起こり、晶帯平面と Ewald 球面との交線は円である。 その面を取り出したのが下右図である。 この図から角の位置は球面上で下に示すような座標となる。 晶帯を切り出した図 Y Y′ Y′ 投影面 2 sin ・cos 2 (x,y,z) 晶帯軸 Z (0,0,1) (0,0,0) X sin x = sin ・sin 2 y′ = sin ・(1+cos 2) x = sin ・sin 2 y = y′cos cos ・sin ・(1+cos 2) z = y・tan = sin2 ・(1+cos 2) X 座標( x, y, z )にある逆格子点はこの点と Ewald 球の中心を結ぶ方向に回折される。 すなわち、回折ビームは点(0,0,1)と点(x,y,z)とを結ぶ直線の方程式で表され、それは、 X = Y sin ・sin 2cos ・sin ・(1+cos 2) である。 18 = Z-1 sin2 ・(1+cos 2- 1 この直線と平面 Z = 0 との交点が Leonhardt Chart 上の一点である。 上の式の第3項に Z = 0 を代入して、X, Y を求めれば、 X= Y= sin ・sin 2 1 - sin2 ・(1+cos 2) cos ・sin ・(1+cos 2) 1 - sin2 ・(1+cos 2) カメラ長が D であれば、上記(X,Y)を D 倍する。 角を固定して、角をかえながら(X,Y)を求めてプロットすれば角一定の曲線が描ける。 角を固定して、角をかえながら(X,Y)を求めてプロットすれば角一定の曲線が描ける。 スポット座標とカメラ長を与えると角は次の演算で求めることができる。 カメラ長 : D, スポット座標( X, Y ) とする。単位はいずれも mm である。 s=Y/X t= D √ X2 + Y2 + D2 と置き換えた時、 √1+t cos = s・ √ 1 + 2s2 - t s tan = √1+t √ 1 + 2s2 - t である。 19 (3) ステレオ投影と面間角 単結晶の方位関係に使用される頻度の高い(透視点を球面に置く)ステレオ投影図とそれを 利用した面間角の求め方について述べる。 ( i )Polar projection ( Polar net ) 球と投影平面の接点が極にある投影図 経線は放射状の直線、緯線は同心円である。 緯線の半径 r = 2 tan( /2) (球の半径を 1 とする) 立方晶 [ 111 ] 投影図 A B C D 20 : ( 111 ) : ( 001 ) : ( 011 ) : ( 115 ) ( ii )Meridian projection ( Stereographic net or Wulff net ) 球と投影平面との接点が赤道線上にある投影図 ステレオ投影図上の2スポット間の角度を測るのに利用される。 緯線 円弧 BAD の中心 C の座標:( 0, sec ) 円弧 BAD の半径:tan ( 球の半径を 1 とする ) 経線 円弧 NAS の中心 C の座標:( cot , 0 ) 円弧 NAS の半径:cosec ( 球の半径を 1 とする ) Wulff ネット 21 ( iii )面間角 格子定数が既知であれば面間角は二つの指数を与えれば計算できる。 立方晶の面間角表 は格子定数によらないから汎用性が高く準備されていることが多い。 その他の晶系ではそれ ぞれに計算して作表しておく必要がある。 標準投影図があれば Wulff ネットと組み合わせて面間角を読み取ることができる。 立方晶 [001] 標準投影図 Wulff ネット 基本円半径が同じ標準投影図と Wulff ネットを重ねて適度に回転す ると、経線上の指数の面間角は緯 度差で求められる。 22 参考文献 1. カリティ, X線回折要論 松村源太郎訳 AGNE 2. Leonid V. Azaroff, Elements of x-ray crystallography, McGRAW-HILL 3. 菊田惺志, X線回折・散乱技術 上, 東京大学出版会 23 付録 軸立てを回転マトリックスで表現する (ア) 背面ラウエの場合 ここでは面法線を入射X線ビームの方向と一致させることを軸立てという。 Y’ Y 面法線 Z 入射X線 ’ ’ X X’ 長さ 1 の面法線の座標を(), (), (’’)の組み合わせでそれぞれ表せば、上図か ら次のようになる。 ( sin sin, sin cos, cos ), ( sin, cossin, cos cos ), ( sin’cos’, sin’, cos’cos’ ) である。 ()で表された面法線を軸立てするには、Z 軸周りに回転して面法線を YZ 平面へ移動す る。 回転する角度は –である。 それを回転マトリックスで表現すると、 cos(–) sin(–) 0 –sin(–) cos(–) 0 0 0 1 sin sin sin cos cos = 0 sin cos となる。 さらに X 軸周りに –回転すれば、 1 0 0 0 0 cos(–) sin(–) –sin(–) cos(–) 0 sin cos = 0 0 1 となり Z 軸の方向を示し、面法線を入射X線ビームの方向と一致させることができる。 回転マトリックス表現をまとめて下記に示す。 24 1 0 0 0 0 cos –sin sin cos cos –sin sin cos 0 0 0 0 1 sin sin sin cos cos 0 0 1 = この回転を実現するゴニオメータヘッドの構成と入射X線ビームとの関係は、 クロスゴニオメータヘッドを下段のアーク面が入射X線と平行となるように配置である。 上段のアークの回転軸は Z 軸となり、下段のアークの回転軸は X 軸となり、上記のマトリック スで表現された演算を実現できる。 同様に()で表される座標表示に対して、X 軸を回転軸として– 回転し面法線を ZX 平面 へ移動する(Y 座標が 0 となる)。 さらに Y 軸周りに–回転すると面法線を入射X線の方向と 一致させることができる。 1 0 0 0 0 cos –sin sin cos sin cossin cos cos = sin 0 cos 総合的には、 cos 0 –sin 0 1 0 sin 0 cos 1 0 0 0 0 cos –sin sin cos sin cossin cos cos 0 0 1 = である。 この回転を実現するゴニオメータ・ヘッドは、上段にアーク面が入射ビームに平行に配置され たアーク( )で、その回転軸は X 軸であり、下段は回転軸が Y 軸となる( )ディスクで構成され ているゴニオメータ・ヘッドである。 同様に( ’, ’ )で表示される座標表示に対しは、Y 軸を回転軸として–’ 回転し面法線を YZ 平面へ移動し(X 座標が 0 となる)。 さらに X 軸周りに–’回転すると面法線を Z 軸に乗せるこ とができる。 すなわち、 1 0 0 0 cos ’ sin ’ 0 –sin ’ cos ’ cos’ 0 –sin ’ 0 1 0 sin ’0 cos’ sin’cos’ sin’ cos’cos’ = 0 0 1 である。 これを実現するゴニオメータ・ヘッドは、上段に(’)ディスクを、下段に(’)アーク面を入射X線 に平行にアークから構成されるゴニオメータ・ヘッドである。 25 (イ) 透過ラウエの場合 ここでは面法線を Y 軸と一致させることを軸立てという。 Y Z’ sin sin cos sin cos ’ ’ X’ Z 面法線の座標は(),( ),(’’)で下記に表される。 sin cos cos cos sin cos’ sin’ cos’ cos’ sin’ X線 X 角の取り方が背面ラウエの場合と逆方向であるので、X 軸周りの回転マトリックスは逆回 転となるため、背面ラウエの場合と符号が異なることに注意すること。 1 0 0 0 0 cos sin –sin cos cos 0 –sin 0 1 0 sin0 cos sin sin cos sin cos = 0 1 0 これを実現するゴニオメータ・ヘッドは、下段はアーク面を入射X線ビームと平行にしたアーク で上段は ディスクで構成されるゴニオメータ・ヘッドある。 cos –sin sin cos 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 cos sin –sin cos sin cos cos cos sin = 0 1 0 これを実現するゴニオメータ・ヘッドは、上段のアーク面を入射X線ビームと平行にしたアーク とするクロスゴニオメータ・ヘッドである。 1 0 0 0 cos’ –sin’ 0 sin’ cos’ cos’ –sin’ 0 sin’ cos’ 0 0 0 1 cos’ sin’ cos’cos’ sin’ = 0 1 0 これを実現するゴニオメータ・ヘッドは、下段のアーク面を入射X線ビームと平行にしたアーク とするクロスゴニオメータ・ヘッドである。 26 付録 逆空間と逆格子ベクトル 結晶中の面の集合を考えるときには、二次元平面の代わりに一次元であるその面法線で考え るのが便利である。 各平面は投影図中に極(点)として表わすことができる。 投影図中の極の 相対的位置は、二面間の角度を示したり、結晶平面の相対的位置関係を明らかにする。 ラウエ写真では、試料上の照射点と回折斑点を結ぶ直線と、入射X線の方向が作る角度を二等 分する方向が面法線を表わしている。 ラウエ写真では結晶の方位解析であるから、面法線の方 向が分かれば十分であるが、結晶構造を解析するには不十分で、さらに面間長さを表わす指標、 すなわち面法線の長さが必要となる。 結晶平面の方位と面間隔を、その平面の法線と長さであらわすベクトルが逆格子ベクトルである。 すなわち、逆格子ベクトルは、 格子面(hkl)の向きを、ある原点から引いた格子面の法線の方向であらわす。 格子面の面間隔(dhkl)を、その法線の長さが面間隔の逆数に等しくなるようにとって表わす。 格子面を法線の先端点で代表させることができ、結晶中の各格子面を代表する点の集合は格子 を形成する。 その空間は長さの逆数の次元をもつので、逆空間とよばれ、形成された格子は逆 格子とよばれる。 各点は逆格子点といい、座標は(hkl)である。 実空間のベクトル a,b,c と逆格子のベクトル a*,b*,c*との間には以下の関係がある。 a* = b×c / a・b×c, b* = c×a / a・b×c , a・a* = b・b* = c・c* = 1 a・b* = a・c* = b・a* = ----- = 0 c* = a×b / a・b×c 1/d2hkl = (ha* + kb* + lc*)・(ha* + kb* + lc*) = h2a*2 + k2b*2 + l2c*2 + 2hka*b*cos* + 2klb*c*cos* + 2lhc*a*cos* 代表的晶系二例: 立方晶 : 1/d2hkl = (h2 + k2 + l2)a*2 ⇒ 1/d2hkl = (h2 + k2 + l2) / a2 六方晶 :1/d2hkl = (h2 + hk + k2)a*2 + l2c*2 ⇒ 1/d2hkl = 4(h2 + hk + k2) / 3a2 + l2 / c2 27 格子面(実空間)とその逆格子点(逆空間) 実格子と逆格子との関係 28 結晶方位に関係する結晶軸と結晶面との関係式をいくつか下記に示す。 (1)晶帯軸[uvw]と晶帯面(hkl)との関係 hu + kv + lw = 0 (説明) 晶帯面とは晶帯軸に平行な面である。 ミラー指数(hkl)は結晶面の法線ベクトルであるから、 (hkl)と軸[uvw]とは直交関係にある。 したがって、ベクトルの内積はゼロである。 (ha*+kb*+lc*)・(ua+vb+wc) = hu(a*・a)+kv(b*・b)+lw(c*・c)+hv(a*・b)+hw(a*・c) + --- = 0 において、a*・a = b*・b = c*・c = 1, a*・b = a*・c = b*・c = b*・a = c*・a = c*・b = 0 であるから、hu + kv + lw = 0 となる。 (2)二つの結晶面(h1k1l1)と(h2k2l2)との交線軸[uvw] u = (k1l2 – k2l1), v = (l1h2 – l2h1), w = (h1k2 – h2k1) (説明) 交線[uvw]は二つの面法線(h1k1l1), (h2k2l2)に直交している。 したがって、二つの面法線の ベクトル積が交線[uvw]となる。 ua + vb + wc = {(h1a* + k1b* + l1c*)×(h2a* + k2b* + l2c*)} / V* a = b*×c* / V* , --(3)二つの軸[u1v1w1]と[u2v2w2]に平行な結晶面(hkl) h = (v1w2 – v2w1), k = (w1u2 – w2u1), l = (u1v2 – u2v1) (説明) 結晶面の面法線(hkl)は二つの軸[u1v1w1]と[u2v2w2]とに直交している。 したがって、二軸の ベクトル積が面法線(hkl)となる。 ha* + kb* + lc* = {(u1a + v1b + w1c)×(u2a + v2b + w2c)}/V a* = b×c / V , --(4)軸[hkl]と面(hkl)のとき、立方晶では同じ方位であるが、他の晶系では通常は平行で はない。 (説明) 軸方位[hkl]と面方位(hkl)とのなす角を計算する。 cos= {(ha+kb+lc)・(ha*+kb*+lc*)}/{|ha+kb+lc||ha*+kb*+lc*|} 分子 = h2+k2+c2 |ha+kb+lc| = √(ha+kb+lc)・(ha+kb+lc)} = √(h2a・a + k2b・b + l2c・c + 2hka・b + 2klb・c + 2lhc・a) |ha*+kb*+lc*| = √(ha*+kb*+lc*)・(ha*+kb*+lc*)} = √(h2a*・a* + k2b*・b* + l2c*・c* + 2hka*・b* + 2klb*・c* + 2lhc*・a*) 立方晶においては、 a・b = b・c = c・a = a*・b* = b*・c* = c*・a* = 0, a・a = b・b = c・c = a2 a*・a* = b*・b* = c*・c* = a*2 = 1/a2 であるから、分母 = h2+k2+c2 となり、cos= 1 であるから、 = 0 で軸[hkl]と面法線(hkl)とは 平行である。 その他の晶系では、分母 = h2+k2+c2 にはならないから、通常平行とはならない。(例外は [100]と(100)などである。) 29
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