ひずみ制御による TiNi 形状記憶合金薄膜の高機能化 東海大学 ○尾崎 秀次、指導教員 1. 緒 言 形状記憶合金は,生体適合性を持ち,温度 変化等により変位を得ることができる機能性 材 料 で あ り , 著 者 ら は そ の 中 で も TiNi を 用 い , 自 動 血 糖 値 測 定 デ バ イ ス [1] へ 搭 載 す る マ イ ク ロ ポ ン プ 用 TiNi 形 状 記 憶 合 金 薄 膜 駆 動 源の開発を行っている. マイクロポンプ用駆動源を設計する上で 重 要 と な る TiNi の 発 生 力 , 発 生 力 , 繰 り 返 し 特 性 等 の 形 状 記 憶 特 性 は ,TiNi 合 金 の 組 成 比,結晶化処理,形状記憶処理条件や,薄膜 中に生じるひずみによって変化することが知 られており,基板,薄膜間の格子不整合は薄 膜中のひずみに影響する. そ こ で ,本 研 究 で は TiNi と Si 基 板 の ひ ず み 制 御 用 バ ッ フ ァ 層 の 選 定 を 目 的 と し ,Si 基 板 上 に 創 製 し ,Si 基 板 表 面 に 表 れ る 各 バ ッ フ ァ層への影響として残留応力を調査し,特に TiNi と 各 バ ッ フ ァ 層 の 格 子 不 整 合 率 を 考 慮 し て Si 基 板 表 面 の 面 方 位 が 及 ぼ す 基 板 と バ ッファ層の残留ひずみを検討した. 2. 薄 膜 の 創 製 基 板 材 料 Si ウ ェ ハ の 中 で も 代 表 的 で あ り 半 導 体 分 野 で も 用 い ら れ て い る Si ウ ェ ハ 表 面 の 面 方 位 が (100)と (111)の も の 2 種 類 を 使 用した.また,本研究で開発するマイクロポ ン プ は 生 体 へ 使 用 す る も の な の で ,TiNi,バ ッファ層材料は生態適合性を有するものを使 用し,剥離防止のため熱膨張率を考慮し,バ ッ フ ァ 層 材 料 は Nb,Mo,W,Ta を 選 定 し た . また,バッファ層の薄膜創製方法は高真空 中 で 純 度 の 高 い 薄 膜 を 創 製 で き る ECR ス パ ッ タ リ ン グ 法 を 用 い 150nm 薄 膜 を 創 製 し た . 薄膜創製条件を表1に示す. Table 1 Sputtering condition for Buffer layer. Target Sputtering time [min] Ar gas flow rate [sccm] Microwave power [W] Vaccum gauge [Pa] Accelerating voltage [eV] Substrate Substrate temperature [℃] Nb, Mo, W, Ta 48, 43, 54, 69 0.6 100 5×10-4 2000 Si (100), Si (111) 500 3. 残 留 応 力 算 出 Si 基 板 と バ ッ フ ァ 層 の 残 留 応 力 は 基 板 の 表面形状を観察することによって算出する. 観 察 に は 試 料 を 光 干 渉 縞 測 定 装 置 FUJINON FX-03N Ver.1.0.2.8 を 用 い 測 定 物 表 面 の 起 伏 槌谷 和義 を数値として得て,バッファ層創製前後の基 板表面起伏を用い各点のひずみを算出する. 光干渉縞測定器により得た厚さ方向の基 板の高さから,各点のひずみを算出し,この ひ ず み よ り 各 点 の 残 留 応 力 を 求 め た .さ ら に , この残留応力の平均,また,変動係数を求め た . 表 2 に Si 基 板 の 面 方 位 に 対 す る 各 種 バ ッファ層の残留ひずみの平均と変動係数を示 し ,バ ッ フ ァ 層 の 変 化 量 と 成 膜 前 の Si 基 板 の 表面の起伏の相関を表 3 に示す. Table 2 Average and Variation of Residual stress. Nb Mo W Ta Average [MPa] -57.01 46.14 47.45 -81.15 Si(100) Coefficient of variation -2.10 1.05 3.06 -0.99 Average [MPa] 195.93 -54.48 -28.14 43.21 Si(111) Coefficient of variation 7.70 -0.42 -21.35 -46.87 Table 3 Correlation of Variation with length of Substrate. Materials Nb Mo W Ta Si(100) -0.95 -0.36 -0.68 -0.85 Si(111) -0.98 -0.99 -0.91 -0.94 表 2 よ り ,Si(111)面 上 薄 膜 の 残 留 応 力 の 変 動係数は相対的に大きいことが確認された. 中 で も 特 に Ta/Si(111)は 残 留 ひ ず み の 変 動 係 数 が 大 き い こ と が わ か る .ま た ,表 3 よ り Si 基板の成膜前の厚さ方向の高さと基板,バッ ファ層の厚さ方向の変化量は強い負の相関性 を 示 し て い る .つ ま り ,Si 面 が 平 坦 で あ る ほ ど薄膜の残留応力が大きいことがわかる. 4. 結 言 本 研 究 で は Si の 面 方 位 の 違 い が Nb, Mo, W,Ta,各 バ ッ フ ァ 層 成 膜 時 に 生 じ る 残 留 応 力 に 与 え る 影 響 を 検 討 し ,以 下 の 知 見 を 得 た . (1) Si(111)で は , 厚 さ む ら に よ る と 思 わ れ る 残留応力の変動係数が大きいことが分かる. (2) Si 面 に 成 膜 し た Nb,Mo,W,Ta と も に , バ ッ フ ァ 層 と Si 基 板 の 変 化 量 と 元 の Si 基 板 の表面の起伏の相関性は負の相関性を示す. (3) 相 関 性 が 確 認 で き な か っ た Mo/Si(100)に おいて,基板の起伏の影響を受けずにバッフ ァ層の薄膜が成長することを確認した. 参考文献 [1]Kazuyoshi Tsuchiya,Naoyuki Nakanishi, Yasutomo Uetsuji, and Eiji Nakamachi, Biomedical Microdevices 7:4 , (2005) pp347-353.
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