中国電影大 ★★★★★ 単騎、 千里を走る。 200 5 (平成17)年11月29日鑑賞 〈東宝試写室〉 チャン・イーモウ リー・ジャーミン チュー・リン 監督=張藝謀/日本編監督=降旗康男/出演=高倉健/寺島しのぶ/中井貴一/李加民/邱 林/ヤン・ ジェンボー(東宝配給/2 0 0 5年中国、日本映画/1 08分) チャン・イーモウ ……日本を代表する映画俳優の高倉健は、張 藝 謀監督が子供だった時のア イドル。そんな健さんが雲南省麗江のまちを訪れた理由は……? 父親と息 子との間に存在していた大きな確執は、中国への一人旅によって解消される のだろうか? 『単騎、千里を走る。 』とは三国志の中の有名な物語だが、健 さんと関羽との共通点とは……? 『HERO(英雄)』 (02年)、 『LOVERS (十面埋伏)』(04年)路線から一転して『あの子を探して(一個都不能少) 』 (9 9年)、『初恋のきた道(我的父親母親) 』 (00年)という、本来の路線に戻 った張藝謀監督を大歓迎するとともに、例によって静かな熱演の健さんに大 第 4 章 拍手! 『千里走単騎』とは? 三国志に登場する有名な物語である『千里走単騎』とは、劉備の妻子とともに曹操 の手に落ちた劉備の義弟関羽が、曹操の再三の「引き止め策」にもかかわらず単騎で 劉備の妻子を伴って劉備のもとへ帰っていくという感動の物語。そしてこれは、京劇 でくり返し上演される中国人の大好きな演目だが、さてこのお話と日本の大俳優「健 さん」との関係は……? テーマは父親と息子の確執 この映画のタイトルは『単騎、千里を走る。 』と勇ましい(?)が、そのテーマは 父親と息子の確執という実に重いもの。張藝謀監督が巧いのは、第1にそれがどんな 単騎、千里を走る。 233 日 本 と 中 国 の 浅 か ら ぬ 縁 確執で、なぜ発生したのか等について解説じみたストーリーを展開させないこと。そ して第2に、息子の高田健一を演ずる中井貴一をスクリーン上に全く登場させずに、 ほんの少しだけ声の出演をさせるにとどめ、父親と息子の確執については健さんの演 技にすべてを委ねていることだ。 そして、この父親と息子の確執を仲介(?)するのが、健一の妻の高田理恵(寺島 しのぶ) 。寺島しのぶの芸達者ぶりはこの映画でもいかんなく発揮されているが、面 白いのは彼女についてもその多くをケータイによる通話の中で語らせていること。 健一が、中国の京劇という「仮面劇」に魅かれたのはなぜ……? 何事でも直接向 かい合って対話するのがベストだが、人間関係においては、容易にそれができないこ とも……。そして仮面の中にのみ真実が隠されているということもよくあること ……? 父親との間のそんな微妙な人間関係が、健一を中国の仮面劇に夢中にさせた 理由かも……? 私と麗江のまち この映画の舞台となった中国の雲南省にある麗江のまちは、世界文化遺産に指定さ 第 4 章 日 本 と 中 国 の 浅 か ら ぬ 縁 れた実にすばらしいまち。2 0 0 4年1 1月に麗江を訪れた私はここに3泊し、存分にそ の美しさを堪能した。ちょうどその時、日本の健さんたちが麗江を訪れて映画を撮っ ていると聞き、よけいにこのまちに対して親しみを感じたものだ(その旅行記につい ては、私のホームページを是非参照してもらいたい) 。 もっとも、私の印象に強く残っている麗江の中心市街地がこの映画に登場するのは ほんの少しだけで、その多くはずっと奥地にある村。そんな村に1人飛び込んでいっ た健さんは、一体そこで何を感じ、何を学びとるのだろうか? 日中の出演料比較は……? 張藝謀監督が、 「この話が生まれたのは、私が高倉健と一緒に仕事をしたかったか らなのです。高倉氏は私の子供のころからのアイドルで、彼と一緒に仕事をするのが 夢でした」と語っているとおり、この映画は圧倒的に健さんの登場場面が多いもの。 チアン・ウェン ちなみに、中井貴一は『ヘブン・アンド・アース(天地英雄) 』 (04年)で姜 文 と共演したが、その時の出演料は姜文とほぼ同じ……? しかしこの映画では、ちょ っとした声の出演だけだからかなり安いはず……? 234 健さんは中国でも大人気、女優陣も大活躍 リー・ジャーミン 他方、中国人キャストとして登場する父親と息子は、京劇の舞踏家李 加 民と息子 のヤン・ヤン(ヤン・ジェンボー)で、この2人はいずれも張藝謀監督が、現地のオ ーディションで選んだ無名の人物。これは、 『あの子を探して』 『至福のとき』と全く 同じ手法で、 「地方を舞台にする場合、その土地土地に住む人々を描くためには、そ こに実際に住んでいる人々の心情が映し出されなければならない」という哲学を持っ た張藝謀監督独特の手法。たしかに、監督のいうとおり、彼らは素朴ないい味の演技 を見せているが、その出演料は健さんに比べればバカ安……? 威力を発揮するデジカメとケータイ 私の中国旅行では最近は2台の大きなデジカメと2台の小さなデジカメが大活躍。 しかし、デジカメの問題点は何といっても電源の持ち時間と、メモリーの量。最近私 は1GB のメモリーを数枚持っていくのでメモリーは大丈夫だが、電源の方はホテル で毎晩タコ足状態で充電してやっと翌日1日分オーケーというのが実情。また、雲南 省旅行において、私は NTT ドコモのワールドホンを使ったが、雲南省の田舎(?) では場所によっては電波が通じず使えないところも……。現にこの映画でもそんなシ ーンが……。 最近の IT 機器の進歩はすごいものだが、健さんぐらいの年齢になるとそれを自由 に使いこなせない人が多いはず。しかし、この映画で健さんが見せる IT 機器の使い こなし術は立派なもの……。 麗江の奥地に李加民の息子を訪ねていった村でも、健さんの小型カメラとケータイ は大活躍! そのうえ、刑務所内で見せる『単騎、千里を走る。 』の舞踊のビデオ撮 影もお手のもの。さらに驚いたのは李加民を含むたくさんの受刑者たちがみている前 で、小型デジカメで撮ったヤン・ヤンの写真をテレビに接続し1枚ずつこれを見せて いくこと……。そんな作業は難しいものと決めつけ、もっぱら事務員任せにしている 56歳の私ができないことを、7 4歳の健さんが立派にこなしていることにビックリ……。 感動的な場面でもデジカメが大活躍 この映画のハイライトは健さんが李加民に会わせるために連れて行ったヤン・ヤン が途中で逃げ出した(?)ことによって生じるハプニングと、その中で生まれる健さ んとヤン・ヤンとの間の心のふれあい。言葉は通じなくても人間の心は通じ合うもの 単騎、千里を走る。 235 第 4 章 日 本 と 中 国 の 浅 か ら ぬ 縁 だという、ある意味当たり前のことを張藝謀監督は実にうまく描写している。しかし、 切り立った雲南省独特の山の中で迷ってしまい、今は救助隊を待つしかなくなった2 人が使用するのは、小型デジカメのストロボの光と健さんが持っていた笛の音……。 こんな小さなデジカメがこれほど大活躍できれば、このデジカメも本望というべき ……? やっぱり張藝謀はこっちの方が……? チャン・イーモウ 張 藝 謀監督が「世界の巨匠」となったのは、やはり『HERO(英雄) 』 (02年)の 大成功によるもの。そして、それに続く『LOVERS(十面埋伏) 』 (04年)もたしかに 面白かったが、私はやっぱり、張藝謀作品としては『あの子を探して』 (9 9年) 、 『初 恋のきた道』 (00年) 、 『至福のとき』 (0 2年)のいわゆる「しあわせ3部作」の方がス キ……。なぜなら、そこには張藝謀監督にしかつくれないと思われる、本当に感動的 な人間の姿が描かれているからだ。 チェン・カイコー 来年2月に公開される張藝謀監督と並ぶ中国の巨匠陳 凱 歌監督の『PROMISE』 は、ス ペ ク タ ク ル 巨 編 だ が、そ れ は き っ と 張 藝 謀 監 督 の『HERO(英 雄) 』や 第 4 章 日 本 と 中 国 の 浅 か ら ぬ 縁 『LOVERS(十面埋伏) 』路線の向こうを張ったため……? 6 0歳も近くなった陳凱歌監督も張藝謀監督も、この手の映画はそれまでとし、 『黄 色い大地』 (8 4年) 、 『紅いコーリャン(紅高梁) 』 (8 7年)の原点に戻って、ホントに 中国的で感動的ないい映画をつくってもらいたいものだ。 2 00 5 (平成1 7)年11月2 9日記 236 健さんは中国でも大人気、女優陣も大活躍
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