- 11 - 2.あん摩マッサージ指圧の基本的理論 あマ指は、術者の手指で被

2.あん摩マッサージ指圧の基本的理論
あマ指は、術者の手指で被術者の皮膚や筋膜、筋肉・腱・関節などに機械的刺激(なで
る、もむ、おす、ふるわせる、こする、たたく、ひっぱるなど)を適切に与えることによ
り、有効な生体反応を起こし、身体の変調を整え、疾病を予防・治療し、健康の保持増進
に役立つ施術である。
1)基本理論
(1)あん摩の基本理論
あん摩は、疾病の予防および治療、あるいは健康の保持増進の目的で、徒手により一定
の方式に従って、普通衣服の上から遠心性に施術する技術である。元来、あん摩は、はり、
きゅうとともに東洋医術(漢方医術)の一科として経絡・経穴理論をもとに体系化され、
発達してきた施術である。按摩の「按」は押さえることすなわち瀉術のことであり、「摩」
は撫でることすなわち補術を意味する。従って、あん摩は東洋医術の刺激の与え方の二大
原則を基礎とする補瀉の療法である。
(2)マッサージの基本理論
マッサージは、疾病の予防および治療、あるいは健康の保持増進の目的で、徒手で、一
定の手技・方式により、普通皮膚に直接触れ、求心性に施術する技術である。応用する分
野により医療マッサージ、保健マッサージ、スポーツマッサージ、産業マッサージ、美顔・
美容マッサージなどに分類される。また、ヘッドマッサージ、リンパマッサージのように
対象とする部位や組織により特化したマッサージも存在し、目的や方法・理論はそれぞれ
に細分化している。
(3)指圧の基本理論
指圧は、徒手で体表の一定部位を押圧し、その圧刺激により生体の変調を矯正し、疾病
の予防および治療、あるいは健康の保持増進に寄与する施術である。この押圧は、矯正と
反射の二つの目的を持って行われるものである。矯正とは、身体の形態を正常にすること
を目的とする技術であり、反射とは、身体の機能を調整することを目的とする技術である。
この矯正と反射の機転を応用して、全身機能を調整するものである。
2)あん摩マッサージ指圧の治効理論
あん摩マッサージ指圧の効果については現在も充分な解明には至っていないのが現状
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である。しかし、臨床経験や実験・研究の報告がなされている。以下に、客観的観察や実
験に基づく報告を紹介する。
(1)身体組織、器官への影響
A.皮膚及び脂肪組織への影響
皮膚の知覚神経に機械的刺激を与え、反射的に皮膚の血管が拡張することにより血
流が増加して新陳代謝が盛んになる。その結果、皮膚は紅潮し、一過性に皮膚温が上
昇する。また、汗腺や皮脂腺の機能も増進する。皮膚面にある古い角質層と皮脂腺分
泌物との混合物は除去されるので、爽快感を生じさせるとともに、皮膚の再生力は高
まり、抵抗力も強まる。
B.骨・筋・関節への影響
長期臥床患者へのマッサージ(特に運動法)は循環の改善により骨や筋肉の萎縮を
予防する効果が認められる。また骨折後の仮骨形成を間接的に促進する効果がある。
筋を他動的に運動させ、
血液・リンパの流れを促進することで組織内の老廃物の除去、
新鮮な血液の導引など新陳代謝が盛んになり、筋萎縮や筋疲労を予防する。また、神
経切断により起こる筋の変性萎縮に対するマッサージは、その進行を抑える効果があ
る。関節に対しては、関節内の血行促進することで新陳代謝が盛んになり滑液の分泌
が高まる。その結果、関節の動きがよくなる。また、関節周囲の筋、腱、靱帯などの
癒着の予防や、癒着部を剥離するのに働く。病的滲出物が関節内や周囲にあるときは、
これを剥離・吸収し、消炎作用を促して関節の機能を高める効果がある。
C.神経系への影響
a.知覚神経への影響
知覚神経に対して、軽擦法のような軽度の刺激を与えると、一種の爽快な感覚を起
こし、反射的に諸種の機能を増進する。強い圧迫法は神経機能を鎮静させる。この鎮
静効果は、圧迫した場所のみならず、その神経の分布領域まで及ぶことがある。また、
神経の走行に沿ったマッサージは、神経鞘内の血行を促進し、神経組織の新陳代謝を
盛んにする。その結果、鞘内の諸種の障害(癒着、凝血、病的滲出物等)を除去し、
神経機能の変調を調整する。神経伸展法は、神経を伸展するために直接衝撃を与え、
シュワン鞘の内腔を狭め、髄鞘と神経線維を圧迫し、神経に対し強い刺激を与えるこ
とになり、鎮静的に作用して神経痛などの鎮痛効果を期待する。
b.運動神経への影響
運動神経に対して、振せん法、叩打法、圧迫法等の手技を行う時は、機械的にその
神経を刺激し、その神経支配下の筋に収縮を起こす。また、圧迫法などの強い刺激は、
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運動神経の興奮を抑制する効果がある。
D.循環系への影響
a.心臓への影響
施術により心臓の機能を高める効果がある。特に、心臓に近い体幹部への施術は心
臓機能に大きく影響する。前胸壁への施術で収縮期、拡張期ともに促進し、脈拍は減
少して強くなるという報告がある。
胸部叩打法(エブラムス氏胸部反射)で心拍数増加、
腹部叩打法(ゴルツ腹部反射)で心拍数減少がおきる。また、胸部・腹部・腰部等のマ
ッサージによって心拍数が促進することや、上肢・下肢に対するマッサージでは心拍
数の変化はないが、末梢循環が促進し血管抵抗がゆるむために、心臓への負担が軽く
なるという報告もある。さらに、体表への圧刺激により交感神経機能の抑制・副交感
神経機能の亢進が誘発され、心拍数の減少反応が起こることが報告されている。
b.血管・リンパ管への影響
血管及びリンパ管に対しては、直接または間接に作用して、血液及びリンパの流れ
を促進する。
マッサージ直後は血管内圧が高まって一過性に血圧が上昇する。次いで、
血管がゆるむと動脈血流が促され、局所的な充血が起こり、さらに全身の循環が促進
されるという報告がある。また、体肢の皮下静脈の怒張が求心性の軽擦法によって速
やかに除かれるとの報告がある。マッサージの基本手技が循環器系に及ぼす効果の差
をみると、軽擦法がもっとも効果が高く、次いで手掌揉捏法、圧迫法、振せん法の順
である。
E.内臓への影響
腹部や背部にマッサージを行うと、消化器に対し直接刺激を与えたり、反射機転を
介して作用する。腹部の揉捏や強い軽擦は、蠕動運動を活発化し腸管内のガスや糞塊
の排泄を促進するとの報告がある。また、腹部に対する適度の振せん法と第7胸椎∼
第 10 胸椎の両側への軽い叩打法で消化吸収が良くなり排便作用も促進したとの報告
や、胃液、胆汁、膵液について、その器官周囲の振せん法により分泌機能が亢進した
という報告もある。
肝臓に対しては、肝臓への振動よりも、腹部マッサージにより門脈循環を改善し、
間接的に肝機能を向上させる方法が有効だと考えられる。胆のうはマッサージの機械
的直接刺激が有効な可能性を持つ臓器であると考えられる。膵臓に対するマッサージ
の効果については、反射性に影響を与える可能性はあるが、全身的循環改善による間
接的な効果による可能性も否定できないとの報告がある。
腎臓については、動物実験により腎臓に対する振せん法で尿量が増加した報告があ
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る。尿管結石の疝痛発作に指圧を行った研究では、腹臥位で第3腰椎両側に、下方で
やや正中よりに強く長め(30∼60 秒)の圧迫を行った結果、施術後直ちに疝痛は消退
し即効かつ持続性の鎮痙・鎮痛効果を得たと報告している。
肺への影響としては、叩打法や振せん法が他の物理療法と併用した場合、急性及び
慢性肺症状の防止や治療に用いて効果があるとされ、肺気腫や急性呼吸不全患者の排
痰などに有効であるとの報告がある。
(2)自律神経および内分泌系への影響
皮膚への刺激によって、その部位と神経的につながりのある内臓に変化が起こる
ことが示されている。
これは体性−内臓反射の機転によるものと推測される。また、
体表の刺激が特定の内臓疾患だけでなく、全身の自律神経支配領域に広範な影響を
与えることも知られている。動物実験では、皮膚をブラシでこする非侵害性刺激を
加えると、頚部、胸部下部、腹部、大腿部のいずれの部位の刺激でも副腎交感神経
活動が刺激中減少する。さらに、副腎髄質からのカテコールアミンの分泌量を調べ
ると、非侵害性刺激により分泌が減少する。圧自律神経反射の研究では、皮膚上の
広い範囲の圧刺激や特定部位の一点圧迫が神経の反射機転を介して、発汗・体温・
呼吸・消化・泌尿器系など、自律神経の支配下の様々な臓器の機能に影響を及ぼす
ことが実証されている。一方、自律神経は内分泌系と直接・間接につながりを持ち、
また、快・不快・不安・恐怖などの感情や情動の中枢と密接な関係を持っている。
リウマチ、神経痛、高血圧症、アレルギー性喘息、肩こり、不眠などに対して、快
の感覚を引き起こすような手技療法を行うと、脳下垂体副腎皮質系を主軸とした内
分泌系全体に好影響を与え、効果的に作用すると考えられる。
(3)血液への影響
マッサージの血液成分に対する影響について、強い軽擦法を行うと赤血球、白血
球の貯蔵器官を刺激し、局所の血液像に変化を及ぼすという報告がある。動物実験
では耳に弱いマッサージを施し、局所的に血小板数の増加が起こることが明らかに
されている。一方、健康人における全身マッサージが血清中の酵素に及ぼす影響に
ついての研究ではGOT、クレアチンリン酸分解酵素、乳酸分解酵素などが著名に
増加することが示されている。
(4)免疫機構への影響
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運動や様々な触刺激が免疫機構に好影響を与えるとの考え方もあるが、その機序
については明らかではない。あマ指の健康保持・増進、疲労回復などの非特異的効
果は、自律神経系、内分泌系、免疫系に広く作用した結果と推測されるが、その機
序については今後の研究に期待される。
参考資料
生理学第2版
佐藤優子・佐藤昭夫他著
社団法人東洋療法学校協会編
2005年第2
版第4刷発行
基礎保健理療Ⅱ(保健理療理論) 東京都立文教盲学校理療科研究会編著
科用図書編纂委員会編 2002年3月発行
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盲学校理療教