90 6 章 治療学 B.全身療法 systemic treatment 表 6.5 皮膚疾患の治療に用いられる主な抗ヒスタミン薬 一般名(代表的な商品名) 用法 1.抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬) antihistamine 第 3 世代抗ヒスタミン薬 6 フェキソフェナジン塩酸塩 (アレグラ®) 内服 1 日 2 回 オロパタジン塩酸塩(アレロック®) 内服 1 日 2 回 エピナスチン塩酸塩(アレジオン®) 内服 1 日 1 回 ベポタスチンベシル酸塩 (タリオン®) 内服 1 日 2 回 ヒスタミンレセプターに結合して,その機能を阻害する抗ヒ スタミン薬には,レセプターの型により数種類が知られている. 皮膚科領域で使用されるのは通常 H1 レセプター阻害薬である. H1 レセプターは炎症やアレルギー反応に深くかかわり,一般 に抗ヒスタミン薬といわれているのは抗 H1 レセプター薬であ エバスチン(エバステル®) 内服 1 日 1 回 ロラタジン(クラリチン®) 内服 1 日 1 回 セチリジン塩酸塩(ジルテック®) 内服 1 日 1 回 わせもつ第 2,第 3 世代の抗ヒスタミン薬を,日本では抗アレ 内服 1 日 1 回 ルギー薬(antiallergic drugs)と呼ぶことがあるが,国際的には レボセチリジン塩酸塩 (ザイザル®) 抗ヒスタミン薬としてまとめられており,区別はない(表 第 2 世代抗ヒスタミン薬 ケトチフェンフマル酸塩 (ザジテン®) る.肥満細胞からのケミカルメディエーター遊離抑制作用をあ 内服 1 日 2 回 6.5) .エピナスチン塩酸塩(アレジオン®) ,エバスチン(エバ ステル®) ,セチリジン塩酸塩(ジルテック®) ,フェキソフェ アゼラスチン塩酸塩(アゼプチン®)内服 1 日 2 回 ナジン塩酸塩(アレグラ®)などの第 3 世代抗ヒスタミン薬は, オキサトミド(セルテクト®) 内服 1 日 2 回 眠気などの中枢神経抑制作用の発現が少なく,また,血中半減 内服 1 日 2 回 期が長いため 1 日 1 〜 2 回の投与で有効な止痒作用を示す.蕁 エメダスチンフマル酸塩 (ダレン®,レミカット®) そう よう 第 1 世代抗ヒスタミン薬 ジフェンヒドラミン塩酸塩 (ベナ®,レスタミン® コーワ) 内服 1 日 2,3 回 内服 1 日 2,3 回 ホモクロルシクリジン塩酸塩 (ホモクロミン®) 内服 1 日 3 回 クレマスチンフマル酸塩 (タベジール®) 内服 1 日 2 回 シプロヘプタジン塩酸塩水和物 (ペリアクチン®) 内服 1 日 1〜3 回 メキタジン (ニポラジン®, ゼスラン®)内服 1 日 2 回 抗アレルギー薬(抗ヒスタミン作用をもたない) トラニラスト(リザベン®) コリン作用を有し,緑内障や前立腺肥大症をもつ患者には使用 禁忌の薬剤も存在するため注意を要する. d -クロルフェニラミンマレイン酸塩 内服 1 日 1〜4 回, (ポララミン®) 注射 1 日 1 回 5 mg (皮下,筋,静注) ヒドロキシジン(アタラックス®) よう しん 麻疹や湿疹・皮膚炎,皮膚瘙痒症,痒疹などに用いられる.抗 内服 1 日 3 回 クロモグリク酸ナトリウム (インタール®) 内服 1 日 3,4 回 スプラタストトシル酸塩 (アイピーディ®) 内服 1 日 3 回 (森田栄伸.全身療法.玉置邦彦 総編集.最新皮膚科学 大 系 2 巻 皮 膚 科 治 療 学 皮 膚 科 救 急. 中 山 書 店; 2003:85 を参考に作成) 2.抗菌薬 antibiotic ほう か しき えん 蜂窩織炎,伝染性膿痂疹などの皮膚感染症に対して用いられ る.ほとんどの皮膚感染症はペニシリン系,セフェム系など通 常の抗菌薬に反応するが,近年,市中感染でも MRSA をはじ めとした薬剤耐性菌が多く認められる.そのため,抗菌薬を投 与する前に培養検査(皮膚滲出液や膿汁など)を行い,反応が 悪い場合は培養検査の結果をふまえて薬剤の変更などを行う. ときに,薬剤アレルギーの既往をもつ患者もいるため,そのよ うな既往がないか問診をする必要がある.重篤な肝機能障害や 腎機能障害がある患者では,薬剤の代謝経路を考慮し,投与量 や回数を検討する.表 6.6 に抗菌薬の種類とその作用機序を示 す. 3.抗真菌薬 antifungal agent 従来,内服および注射薬などで用いられてきた抗真菌薬(グ ルセオフルビン,アムホテリシン B,ナイスタチン,フルシト B.全身療法 91 シン,ミコナゾール)は,抗真菌スペクトラムが狭い,副作用 表 6.6 抗菌薬の種類とその作用機序 が強いなどの欠点があったが,近年登場した内服薬のイトラコ ナゾール(イトリゾール®)やテルビナフィン塩酸塩(ラミシ ール®)は皮膚科領域で使い勝手がよい.これらの薬剤は高い ケラチン親和性をもつため,病変部への移行が速いとされる. ケルスス とく そう Celsus 禿瘡,白癬菌性毛瘡や深在性真菌症で内服される.また, 6 爪白癬には,イトラコナゾールのパルス療法(400 mg/日,1 週 間内服を月 1 回,3 クール)も行われる.副作用で生じうる肝 機能障害や横紋筋融解症,またイトラコナゾールの併用禁忌薬 には十分に注意する.深在性真菌症に対しては注射薬(イトラ コナゾール,フルコナゾール,ミカファンギン,ボリコナゾー ルなど)を用いることもある. 4.抗ウイルス薬 antiviral agent 単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルスにはアシクロ ビル(ゾビラックス®) ,バラシクロビル(バルトレックス®) , ビダラビン(アラセナ.A)が有効である.また,帯状疱疹に 対してはファムシクロビル(ファムビル®)が使用可能である. ビダラビン以外は内服薬が存在し,外来診療で頻用される.腎 代謝性の薬剤であるため,腎機能障害のある患者ではクレアチ ニンクリアランスに応じて投与量を調節する.その他の抗ウイ ルス薬として, サイトメガロウイルスに有効なガンシクロビル, そのほか,抗 HIV 薬が数種類存在する. 5.ステロイド(副腎皮質ホルモン) corticosteroid 表 6.7 ステロイド内服薬の主な副作用 抗炎症,抗免疫作用を目的として用いられる.皮膚科領域で 長期のステロイド内服が必要となりうる疾患は,SLE などの膠 原病,天疱瘡や水疱性類天疱瘡などの自己免疫疾患や,DIHS などの重症薬疹がある.一方,薬疹や自家感作性皮膚炎などで 皮疹が広範囲に及ぶものでは,短期間の内服を行うこともあ る.アトピー性皮膚炎,慢性蕁麻疹,乾癬などの慢性疾患に対 する安易な全身投与は控え,適応を慎重に考慮すべきである. ステロイド内服は,外用よりもさらに多様な副作用が発生す る可能性が高いため,細心の注意を払いつつ使用する.とくに 糖尿病や高血圧などの基礎疾患のある患者では,悪化の可能性 があるため注意を要する.ステロイド全身投与による代表的な 副作用を表 6.7 に示す.ステロイド使用に対して抵抗感を抱く 患者には,使用の際に,その必要性と副作用についての十分な 説明が必要である. ステロイド内服薬の投与量 92 6 章 治療学 表 6.8 主なステロイド内服薬の抗炎症作用の力価とその持続時間 6 疾患の重症度により初期投与量を決め,症状の軽快とともに 漸減して維持量に至らせるか中止するのが原則である.内服薬 は数種類存在し,1 錠がおおよそ 1 日の生理分泌量に相当する 用量である(表 6.8).必要に応じて,ステロイドパルス療法(メ チルプレドニゾロン 1,000 mg/日を 3 日連続点滴投与)なども 行う. 6.免疫抑制薬 immunosuppressant シクロスポリン(ネオーラル®) , アザチオプリン(アザニン®, イムラン®) ,メトトレキサート(リウマトレックス®) ,シク ロホスファミド(エンドキサン®)などの薬剤がある.SLE, ベーチェット 皮膚筋炎,天疱瘡,水疱性類天疱瘡,Behçet 病などでステロイ ドの減量が困難な場合,併用して使われることがある.また, 難治性の乾癬ではシクロスポリン,メトトレキサートが単独で 用いられることがある.成人重症アトピー性皮膚炎の急性増悪 時にシクロスポリンの低用量内服を行うこともある.シクロス ポリンは用量依存性に腎機能障害や高血圧を起こしやすいの で,定期的な観察と血中濃度のモニタリングを行う必要があ る. 7.生物製剤(モノクローナル抗体など) biologics 膠原病や悪性リンパ腫,乾癬,自己免疫性水疱症などへの治 療として,リンパ球の表面マーカーや産生サイトカインに対す るモノクローナル抗体を投与する治療が近年普及しつつある (表 6.9) .抗悪性腫瘍薬や免疫抑制薬と比較して副作用が少な いなどの利点がある.とくに重症乾癬や乾癬性関節炎には劇的 で速効性の効果が報告されており,今後さらに幅広く使用され ることが予想される.しかし,結核顕在化など重篤な感染症の 副作用も報告されているため,使用には慎重な対応が必要であ る. B.全身療法 93 表 6.9 主な生物製剤と適応疾患 薬剤名 商品名 ターゲット分子 有効な疾患 備考 インフリキシマブ レミケード® TNF-a 関節リウマチ,乾癬,Behçet 病,Crohn 病 TNF-a を中和 アダリムマブ ヒュミラ® TNF-a 関節リウマチ,乾癬 ヒト型抗 TNF-a 抗体 リツキシマブ リツキサン® CD20 B 細胞リンパ腫,天疱瘡,SLE 表面マーカーに結合 エタネルセプト エンブレル® TNF-a Crohn 病,関節リウマチ,乾癬 TNF-a 受容体拮抗薬 アレファセプト アメヴィーヴ® CD2 乾癬 CD2 をブロック ウステキヌマブ ステラーラ® IL-12/IL-23 乾癬 p40 抗体 8.レチノイド retinoid レチノイドはビタミン A およびその誘導体の総称で,上皮 組織の増殖および分化を調節する作用がある.この作用はビタ ミン A の中間代謝物であるレチノイン酸で強い.現在日本で はエトレチナート(etretinate,チガソン®)が唯一認可されて いる内服レチノイドである.ビタミン A には角層の構造をつ くる硫酸コレステロールを減少させる作用があり,投与によっ て角層の脱落が促進される.これらの作用によりさまざまな角 ダリエー 化異常症(乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,Darier 病など)に有効 である.レチノイドには重要な副作用 (催奇形性や骨発育障害) があるため,生殖年齢の患者に使用する際には,女性は投与終 了後 2 年間(男性は 6 か月間)の避妊が必要である.また,骨 端線の早期閉鎖を生じうるため,小児に対する投与は慎重にす るべきである.そのほかに表皮の脱落,口唇炎,爪脆弱化,肝 機能障害,脂質代謝異常などの副作用も認める. 9.DDS (4,4´-diamino-diphenyl-sulfone) ジアフェニルスルホン(diaphenylsulfone,レクチゾール®) ないしダプソン(dapsone)ともいう.葉酸合成を阻害するサ ルファ剤の一種であり,もとはハンセン病に対して用いられて いた.後に,好中球浸潤を主体とする種々の炎症性皮膚疾患に デューリング 効果があることがわかり,皮膚科領域では Duhring 疱疹状皮膚 炎やその他の自己免疫性水疱症,持久性隆起性紅斑,角層下膿 にく げ 疱症,血管炎,顔面肉芽腫,色素性痒疹などの治療に用いられ ている.副作用として,溶血性貧血やメトヘモグロビン血症, 白血球減少,肝および腎機能障害などがみられることがあるた め,定期的な血液検査が必要である.まれではあるが,発疹や 発熱,肝機能障害などを呈する DIHS(10 章 p.147 参照)を生 じることがあり,とくに DDS 症候群として知られている. 6 94 6 章 治療学 表 6.10 皮膚科で用いる主な抗悪性腫瘍薬の副作用 6 10.抗悪性腫瘍薬 anticancer agent ぺージェット 皮膚科領域では,悪性黒色腫,有棘細胞癌,Paget 病,皮膚 リンパ腫などに対し,病期などによって抗悪性腫瘍薬による治 療を行うことがある.現在,さまざまな系統の抗悪性腫瘍薬が 使用されており(表 6.10),作用機序の異なる薬剤を組み合わ せ,耐性化と副作用を減らす多剤併用化学療法(combination chemotherapy)も行われる.皮膚科では悪性リンパ腫に対して CHOP 療法が行われることがある.DAVFeron 療法は主に日本 で悪性黒色腫に頻用されている(22 章 p.457 参照). 11.ビタミン薬 vitamin 皮膚科疾患でビタミン欠乏が原因とされているものに,口角 炎(ビタミン B2 欠乏,アリボフラビノーシス),ペラグラ(ナ イアシン欠乏) ,ビオチン欠乏症(ビオチン:ビタミン H)な どがある.これらの疾患を治療するために不足ビタミンの補充 療法が行われる.また,肝斑や炎症後色素沈着,紫斑などに対 してビタミン C が投与される. C.レーザー療法 95 表 6.11 皮膚科で用いられるその他の薬剤 6 12.漢方薬 Chinese herbal medicine 各種の生薬を組み合わせた医療用漢方製剤が多数存在する. 皮膚科では,尋常性痤瘡や皮膚瘙痒症,蕁麻疹やウイルス性疣 贅などに対して用いられる. 13.その他 other agents インターフェロン,NSAIDs,ヨウ化カリウム,亜鉛製剤, プロスタグランジンなどが皮膚科でも用いられる(表 6.11) . C.レーザー療法 laser therapy 1.レーザーの基礎と理論 basics and theory of laser therapy レ ー ザ ー(LASER) と は,Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation の頭文字をとった合成語である.半導体 やキセノンランプなどで,レーザー媒質(ルビー結晶やアレキ サンドライトなど)中の原子を励起状態にし,それが基底状態 に戻る際に放出する光を共振器で増幅したものである.レーザ ー媒質の種類によって放出される波長は異なる(表 6.12) .組 織に吸収されたレーザー光の光エネルギーが熱変換すること で,細胞や組織は破壊される.可視光線領域の光を吸収する受 容体はクロモフォア(chromophore)と呼ばれ,正常皮膚では 図 6.6① レーザーの施術例 色素レーザー.
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