免疫・血清検査 感染症編 Q 病原体を分離・培養しなければ、感染症を 診断することはできないのでしょうか? A そんなことはありません。病原体そのものを培養 できなくても、感染を証明することができます。 病原体の構成成分や 産生蛋白に対する 抗体を検出 病原体で産生される 蛋白を検出 病原体の構成 成分を検出 核酸(DNA・RNA)を 検出(遺伝子検査) 細菌・真菌 ウィルスなど B型急性肝炎(一過性感染)の経過で説明してみましょう。 HBsAg IgG-HBcAb 感染 HBeAg 期間 1~6ヶ月 1~2ヶ月 潜伏期 急性初期 HBV増殖 急性 後期 HBV増殖 停止 HBeAb HBs抗原 HBsAb HBV-DNA IgMHBcAb 2~3ヶ月 回復期 4ヶ月以後 HBV感染の 既往 Core 抗原 (HBc抗原 + HBe抗 原) IgM型のHBc抗体は、発症初期より陽性となり、2~12ヶ月で 陰性化しますが、IgG型のHBc抗体は長期間陽性を持続します。 HBVキャリアの場合、各ウィルスマーカーの推移は 急性肝炎と異なるので注意しましょう。 IgG-HBcAb HBsAg HBeAb HBeAg HBsAb HBe抗原陽性 無症候性キャリア期 肝炎期 HBe抗体陽性 無症候性キャリア期 HBVキャリアでは、急性肝炎で陽性となるIgM型のHBc抗体が 肝炎期を除いて、ほとんど検出されません。一方、IgG型の HBc抗体は、高値を示します。 Q A C型肝炎ウィルスについてもB型と同様の 抗原や抗体の検査があるのですか? C型肝炎ウィルスについては、RNAを包むコア蛋白(抗原)と コア蛋白や非構造領域など複数の抗原に対する抗体を 検出する検査が使われています。 エンベロープ蛋白 (膜蛋白) HCV-RNA HCV-RNAの構造とHCV抗体との関係 5 ’ 第1世代 第2世代 コア蛋白 第3世代 Core E1 E2/NS1 NS2 NS3 NS4 NS5 3 ’ HCV健診のフローチャート(2003年) HCV抗体検査 抗体陽性 高力価 抗体陰性 中力価 低力価 HCV抗原検査 抗原陽性 抗原陰性 HCV-RNA検査 RNA陽性 HCVに感染している可能性が極めて高い RNA陰性 HCVに感染していない可能性が極めて高い HCV抗体の測定値から推測されるHCV感染の可能性 -ルミパルスによる測定値を用いた健診での分類(2002年時)- 低力価 C.O.I. 1.0~5.0未満 感染既往 (稀に交叉反応) 中力価 C.O.I. 5.0~50.0未満 高力価 C.O.I. 50.0以上 ウィルス血症 C.O.I. : 検体の発光量÷(標準血清の発光量×0.28) 何故Standard Precaution(標準予防策)が必 要か? 氷山の一角 見えている 感染症 見えていない感染症 未検査 ウィンドウピリオド (潜伏期) 未知の感染症 こ れ ら 全 て か ら 身 を 守 る た め Q EBウィルス感染の時にマーカーとなる検査はありますか? A Epstein-Barrウィルスは伝染性単核球症を原因ウィルスです。慢性感染時 にはBurkittリンパ腫や咽頭癌を引き起こす可能性があります。通常は各 種抗体検査(抗EBNA抗体、抗VCA抗体、抗EA抗体)で感染を診断します。 感染 外膜:Viral capsid antigen (VCA) Early antigen (EA) 潜伏期 急性期 回復期 (30-50日) 抗VCA-IgG 抗VCA-IgM EBV-DNA 抗EA-IgG 抗EBNA 活動性を反映する 核内蛋白: Nuclear antigen (EBNA) 抗EBNA 抗EA IgG 抗VCA IgM 抗VCA IgG 病態 - - - - 感染はない - + + + 初感染 + -~+ - + 既往感染 - + - + 初感染またはEBVの再活性化 + +(高値) - +(高値) 著しいEBVの再活性化 Q 身に覚えがないのに、梅毒に感染している可能性が あると言われました。どうしてでしょう? A 梅毒血清反応は、梅毒に対する抗体を検出する検査ですが、 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の菌体成分を抗原と するTPHA法(Treponema pallidum hemaggulutination test) と脂質抗原を用いるSTS法(serological test for syphilis) とがあります。STS法は妊娠、SLEなどの膠原病、ウィルス感 染症などでも陽性となることがあります。これを生物学的偽 陽性 (biological false positive:BFP)と言います。 TPHA法 陰性 STS法 陰性 陽性 梅毒に感染していない BFP、感染初期 陽性 過去に梅毒に感染し治癒 梅毒に感染 TPHA法:特異性が高い。治療で抗体価は変化しない。 STS法:感度が高い。病勢に伴い抗体価が増減する。 Q インフルエンザウィルスの迅速診断キットがあると聞いたのですが、どう いうものでしょうか? A インフルエンザA型あるいはB型の核蛋白に対する抗体を用いたキットが あります。鼻腔または咽頭ぬぐい液中のウィルスを約15分間で検出します。 抗マウス免疫 グロブリン抗体 (ウサギ) 抗インフルエンザ 抗体(マウス) 金コロイド標識 抗インフルエンザ 抗体(マウス) 判定部 T 検体滴下部 ニトロセルロース膜 判定部 C インフルエンザ ウィルス抗原 余剰の標識 抗体 陰性 金コロイドの色 陽性 プロカルシトニン 敗血症の診断マーカーとして臨床応用されている。 甲状腺ホルモンであるカルシトニンの前駆体。 通常、血中には存在しないが、細菌感染症の際に全身で 産生が亢進し、血中濃度が上昇する。 細菌感染症に特異性が高い。 抗生剤の適正使用に寄与できるマーカーとして、期待が持たれ ている。 (抗生剤の投与あるいは中止基準として応用可能か?) 感染症 SIRS 外傷 細菌性 真菌性 ウイルス性 敗血症 熱傷 膵炎 ※SIRS:体温38℃以上、あるいは36℃以下 脈拍90回/分以上 呼吸数増加 白血球数12,000以上ないし4,000以下。あるいは未熟顆粒球10%以上。 既存の細菌感染症診断マーカー 白血球数やCRP:細菌感染症に特異性がない。 血液培養: 起因菌が同定された場合の有用性は高い。 しかし、陽性率が20-30%と低く、皮膚常在菌の コンタミネーションによる偽陽性も多い。 エンドトキシン: グラム陰性菌の検出に有効。 Schuetz et al., Curr Opin Crit Care, 2013 真菌感染症のマーカー b-Dグルカン 真菌細胞壁の構成成分で、カンジダ属やアスペルギルス属の感染症で 上昇する。一方、接合菌の細胞壁にはb-Dグルカンがなく上昇しない。 カンジダ抗原 アスペルギルス抗原(ガラクトマンナン抗原) その他にも種々の感染症検査があります。近年、これらの血清検査と 遺伝子検査とを組み合わせて行われることが増えてきています。 病原菌 百日咳菌 Helicobacter pylori レジオネラ菌 A群溶連菌 大腸菌(特にO157) 破傷風菌 Clostridium difficile マイコプラズマ カンジダ クラミジア・トラコマティス ムンプスウィルス 麻疹ウィルス 風疹ウィルス 単純ヘルペスウィルス 水痘・帯状疱疹ウィルス サイトメガロウィルス HIV HTLV-Ⅰ 検出物質 百日咳抗体 Helicobacter pylori 抗体 レジオネラ抗体 ASO(antistreptolysin-O) 大腸菌O157抗原、大腸菌ベロトキシン 破傷風抗体 Clostridium difficile産生毒素 (toxin A) マイコプラズマ抗体 カンジダ抗原、(1→3)-β-D-グルカン クラミジア・トラコマティス抗原 ムンプスウィルス抗体 麻疹ウィルス抗体 風疹ウィルス抗体 単純ヘルペスウィルス抗体 水痘・帯状疱疹ウィルス抗体 サイトメガロウィルス抗体 HIV抗原、HIV抗体 HTLV-Ⅰ抗体 Q 低抗体価でも、抗体が検出されれば、特定の 病原体に感染していると考えても良いですよね~! A 健常者でも、低抗体価を示す場合がありますので、抗体価 だけで判断するのは危険です。少なくとも発病初期と、 発病2~3週間後に採血した血清(ペア血清)で、抗体価 が明らかに上昇していることを確認する必要があります。 64 感染が疑われる 抗体価(倍) 32 病原体Aに 対する抗体 16 8 発病 病原体Bに 対する抗体 4 感染の可能性は低い 2 0 1 2(週) 免疫・血清検査 自己抗体編 Q 自己抗体ってなんですか? A 元来抗体は、病原体や異物抗原が体内に侵入した際に、それを排除する防 御機構の一環として産生されるものです。しかし、自己抗体は、自己の体 成分に対し反応する抗体のため、その多くは傷害性に働きます。膠原病な どの自己免疫疾患の発生、進展に重要な役割を果たしています。 主な自己抗体と関連する疾患 橋本病、Basedow病 悪性貧血 萎縮性胃炎 自己免疫性溶血性貧血 特発性血小板減少症 Addison病 重症筋無力症 Goodpasture症候群 男性不妊症 原発性胆汁性肝硬変症 自己免疫性肝炎 Sjogren症候群 全身性エリテマトーデス(SLE) 多発性筋炎、皮膚筋炎(PM/DM) 強皮症(SSc) 混合性結合織病(MCTD) 慢性関節リウマチ 抗サイログロブリン抗体・抗マイクロゾーム抗体 抗内因子抗体 抗壁細胞抗体 抗赤血球抗体 抗血小板抗体 抗副腎抗体 抗アセチルコリンレセプター抗体 抗基底膜抗体 抗精子抗体 抗ミトコンドリア抗体(AMA) 抗平滑筋抗体 抗SS-A、SS-B抗体 抗dsDNA抗体、抗sm抗体 抗Jo-1抗体 抗Scl-70抗体 抗U1RNP抗体 リウマトイド因子(RF)、抗CCP抗体 Q 自己抗体はどうやって調べるのですか? A では、抗核抗体の検出法で説明しましょう。 患者血清 細胞質 Hep-2細胞 (ヒト喉頭癌細胞株) 核 スライドグラス 抗核抗体 FITC標識抗ヒトIgG 免疫グロブリン抗体 蛍光顕微鏡で観察 陰性 ・ ・ ・ ・ Peripheral型(辺縁型) 核に均一な蛍光を示しま すが、核周辺部により強 い蛍光を認めます。 Speckled型(斑紋型) Nucleolar型(核小体型) 核にざらついた顆粒状の 蛍光を認めます。核小体 は染色されません。 核小体に蛍光を認め ます。 Homogeneous型(均等型) 核に均一な蛍光を示し ます。 Discrete Speckled型 (セントロメア型) 核に40~80個程の微細 な顆粒状の蛍光を認め ます。 抗核抗体の染色パターンによって、ある程度抗原と疾患が推測できます。 染色パターン 抗原 疾患と出現頻度 Peripheral型 DNA SLE 80~90% Homogeneous型 DNP Histone SLE 30~70% 薬剤誘発LE 80~100% Speckled型 U1RNP Sm Scl-70 Jo-1 PM-1 Ku SS-A SS-B PCNA RANA MCTD 100% SLE 20~30% SSc 10~20% PM/DM 20~30% PM/PSS 10% PM/PSS 20~30% Sjs 50~70% Sjs 30~40% SLE 2~3% RA 90~100% Nucleolar型 RNA PSS 10~20% Discrete Speckled型 Centromere CREST 70~80% MCTD(混合 性結合組織 病)はSLE、強 皮症(PSS)、 PM/DMが重 複したもので すよね~ なかなか覚え られませ~ん! CREST:Calcinosis(皮下の石灰沈着)、Raynaud(レイノー)、Esophageal dysmotility (食道蠕 動運動低下)、Sclerodactyly(手指硬化症)、Telangiectasia(毛細血管拡張症) チモール混濁試験(TTT)とクンケル混濁試験(ZTT)が自己免疫疾患を 診断するきっかけになることがありますよ~!! 白濁 血清 チモール飽和 バルビタール緩衝液(TTT) または 硫酸亜鉛 バルビタール緩衝液 (ZTT) TTT: IgMと良く相関する ZTT: IgGおよびIgAと良く相関する TTT、ZTTが上昇する疾患としては、 慢性感染症、急性および慢性肝炎、肝硬変 肝細胞癌、多発性骨髄腫、膠原病があります。 乳び血清では高値となるので要注意! 吸光度を測定 ラテックス凝集法 各種腫瘍マーカーを測定する際に用いられる免疫学的測定法の 一つです。 光 透過光 目的分子 表面に特異抗体を結合 させたラテックス粒子 を測定 目的分子を介してラテックス粒子が凝集 するので、その程度を濁度変化から求 めます。 異好抗体による抗体を利用したアッセイ系への干渉 検査に用いられる抗体はマウスやラビットを免疫して作成されたも のが殆どですが、人体にはこれらの抗体を認識する異好抗体 (heterophilic antibody)が存在することがあります。特にマウスの抗 体に反応する異好抗体はHAMA (human anti-mouse antibody)と呼 ばれます。 HAMA 例えば、検体中にHAMAが存在すると、 マウスの抗体を結合させたラテックス粒子が、 HAMAを介して凝集するため、偽高値を示します。 HAMAが陽性となる原因 原因が不明の場合も 多いのですが…… 1.抗体治療を受けたことのある人 2.動物飼育歴のある人 3.ワクチンの接種後 4.輸血歴のある人 5.担癌患者さん。 再生不良性貧血で発現する 自己抗体の検出 再生不良性貧血 厚労省 難治性疾患克服研究事業 臨床調査研究対象“特定疾患” 診断基準:汎血球減少、骨髄中の血球細胞の減少 汎血球減少を認める他の疾患を除外する 主な治療法:免疫抑制剤、 副腎皮質ステロイド 骨髄移植 50-70%で免疫抑制剤が奏功⇒免疫異常 免疫反応の標的細胞・分子が不明 診断法の課題:MDSや不応性貧血との鑑別が困難 骨髄不全症候群 再生不良性貧血 AA 鑑別が困難 骨髄異形成症候群(MDS) 他の血液疾患と治療法が全く異なる AA:免疫抑制療法、骨髄移植 MDS:抗癌剤治療 CoombsとLachmanのアレルギー分類 I型反応: IgEによるアナフィラキシー反応。 II型反応:IgGによる細胞障害性反応。 自己免疫性溶血性貧血、ITP etc. III型反応:抗原、抗体や補体の免疫複合体による障害。 ループス腎炎、多発性動脈炎 etc. IV型反応:T細胞による障害。 多発性硬化症、原発性硬化性胆管炎 etc. 多発性硬化症や原発性硬化性胆管炎でも、 抗MBP抗体や抗ミトコンドリア抗体が産生される! 各種疾患での自己抗体保有率 4.0 CLIC1 * 8.0 HSPB11 RPL41 * 14.0 RPS27 * 抗体価(ug/ml) * 4.0 2.0 0 正常 AA MDS RA 0 12.5 正常 AA MDS RA 0 7.0 正常 AA MDS RA 0 正常 AA MDS RA お疲れ~!!
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