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第14 回 日本泌尿器科学会群馬地方会 日 時 平成 8 年 12 月 7 日(土) 15 時 30 分〜
場 所 刀城会館
会 長 佐藤 仁(群馬県立がんセンター)
事 務 局 群馬大学医学部泌尿器科内 黒川 公平
目 次
<臨床症例1>
1.両側同時性腎細胞癌の 1 例
2. 術後,大量のカルシウム補充を必要とした二次性副甲状腺機能亢進症 1 例
3. 腎細胞癌術後インターフェロン投与中に,間質性肺炎を来した 1 例 4. 肺転移を有した BeIIini 管癌の 1 例 5. 自然腎盂外尿溢流を来した尿管腫瘍の 1 例 <臨床症例2>
6. 外傷性膀胱破裂の 1 例 7.膀胱後部腫瘍(悪性リンパ腫)の 1 例 8. MRI が部位診断に有用であった陰茎折症の 1 例 9. 23 歳男性に発生した陰茎癌の1例 10. メチルテストステロン内服中に発生した前立腺癌の 1 例 11. 下大静脈腫瘍血栓をきたした進行型精巣腫瘍の 1 例 <臨床的研究>
12. 外来通院男性患者の排尿状態の観察-IPSS および QOL score,尿流測定,
TRUS による検討- 13.圧電式砕石装置(Piezolith 2500)による体外衝撃波破砕術の治療経験 14.当科における自己血輸血 12 例の検討 第14 回 日本泌尿器科学会群馬地方会 日 時 平成 8 年 12 月 7 日(土) 15 時 30 分〜
場 所 刀城会館
会 長 佐藤 仁(群馬県立がんセンター)
事 務 局 群馬大学医学部泌尿器科内 黒川 公平
<臨床症例1>
座長 町田 昌巳
1.両側同時性腎細胞癌の 1 例
山本 巧,中村 敏之,加藤 宣雄 (館林厚生病院)
症例は 64 歳,男性.主訴は左腰背部痛.画像所見より両側腎細胞癌と
診断.右腎部分切除術,左根治的腎摘除術,リンパ節廓清を一期的に施行.
その際左腎上極は膵尾部,脾と強く癒着していた為,左腎,膵尾部,脾を
一塊として摘出した.病理学的には右腎が pT1, G1, alveolar type
common type, clear cell subtype, IFNα, 左腎が pT3a, G2, solid type,
spindle cell type, INFβ, pN0, pV0 であり,左右別々の発生であることが 示唆された.術後腎機能低下はわずかで,血液透析を必要としなかった.
両側同時性腎細胞癌に対し種々の手術法の選択がなされているが,今後次
第に手術法選択が定まっていくものと思われる.
2. 術後,大量のカルシウム補充を必要とした二次性副甲状腺機能亢進症 1 例
大井 勝,新屋 博之,登丸 行雄,北浦 宏一(桐生厚生総合病院)
症例は 10 年前に透析導入した 45 歳の女性。1 年前から全身の関節痛
が出現し徐々に増悪していた。2次性副甲状腺機能亢進症による骨炎と診
断しビタミンD3のパルス治療を行うと共に、摘出術の適否を検討してい
たところ、今年 10 月、軽作業中に右大腿骨頚部を骨折し入院。大腿骨頚
部整復固定後、副甲状腺剔除と自家移植術を施行した。副甲状腺は3腺を
確認し摘出し組織像は結節性過形成であった。術後の低カルシウム血症に
対し 101A ものカルチコ− ルの補充を要し、またリハビリ中さらに両側の
大腿骨骨折を併発。副甲状腺の摘出時期の遅れが重篤な骨障害を進行させ、
大量のカルシウム補充を必要としたと思われた。
3. 腎細胞癌術後インターフェロン投与中に,間質性肺炎を来した 1 例
吉田 正,松尾 康滋,高橋 修 ,矢嶋 久徳 (前橋赤十字病院)
症例は 58 歳男性。主訴は労作時呼吸困難。既往歴として 1975 年胃穿
孔、1987 年胃潰瘍、下血。外来通院中、CT にて両側腎嚢胞を指摘され、
精査にて腎癌の診断で 1995 年 9.29 根治的右腎摘出術、胆嚢摘出術、残
胃切除術施行。病理学的には RCC,G2,pT2,pN0,pV0 でした。術後 INF
αの投与を週 3 回で開始、11 ヶ月後に発熱、呼吸困難を認め入院。胸部
XP では磨りガラス様陰影を呈し、間質性肺炎の診断でステロイド療法を
施行。CT にて肺間質影の増強を Ga シンチでも同部位に集積を認めた。血
液ガスの値についてはステロイド開始後まもなく改善し、胸部 XP では、
異常陰影消失した。INF により自己免疫作用が賦活化されたことによるも
のと考えた。
4. 肺転移を有した BeIIini 管癌の 1 例
萩原 秀隆,新井 兼司,平山 順朗 (総合太田病院) 長谷川 昭 (東邦大学病院)
杉原 志朗 (県立がんセンター)
症例は 77 歳男性.腹部動脈瘤の精査中に左腎腫瘍を指摘され,左腎摘
出術を施行した.病理学的には BeIIini 管癌で,CT上肺転移を認め,術
後,M-VAC 療法にて肺転移巣は縮少している. 5. 自然腎盂外尿溢流を来した尿管腫瘍の 1 例
松井 博,小林 大志朗,町田 昌巳,牧野 武雄
柴山 勝太郎 (公立富岡総合病院)
69 歳女性.主訴疝痛発作.腹部エコーで右水腎症を認め,尿管結石の
疑いにて当科紹介となった.KUB で結石陰影は不明であった.翌日,疼痛
が治まらず再び外来を受診し入院となった.入院時,腎周囲に低エコー域
を認め,自然腎盂外尿溢流と診断した.腹部 CT では,右水腎と周囲の低
濃度域を認め,L5 レベルで右尿管壁の肥厚を認めた.腎瘻造設およびド
レナージ目的で,右腰部斜切開にて後腹膜腔に達した.右腎盂が緊満し, 腎周囲には淡黄色清澄な液体が貯留していた.右尿管に破裂部位は確認で
きなかった.血管交叉部付近に約 3.5cm の硬い腫瘤を触れ,周囲に癒着
を認めた.触診や 23G 注射針の刺入で結石を触知せず,尿管腫瘍と診断
し,右尿管全摘除術を行った.組織学的には,TCC, G3>G2 ,pT3 で
あった.後療法としてコバルトを照射した.
<臨床症例2>
座長 真下 透
6. 外傷性膀胱破裂の 1 例
大竹 伸明,富澤 秀人,三木 正也
(佐久市立国保浅間総合)
32 歳男性。酩酊し口論となり腹部腰部を蹴られて受傷。直後より腹痛
と肉眼的血尿が出現し徐々に増強したため、受傷 6 時間後に当院受診し入
院。入院時の CT では明らかな異常を認めなかったが、CT 後の KUB で膀
胱頂部が欠損しており、再度 CG および CG 後 CT を行い膀胱破裂と診断
して受傷 8 時間後に緊急手術を行った。手術所見は膀胱頂部が 10cm に
わたって裂けている腹膜内膀胱破裂であった。術後 28 日目に退院し、現
在は外来経過観察されている。尿路外傷の検査として近年ではまずエコー、
CT が行われるが膀胱破裂の診断にはあまり有用ではなく、膀胱造影が最
も有用である。明らかな腎外傷がみられない場合、膀胱造影も併行するほ
うが望ましい。施行の際には膀胱を充分ふくらませないと正しい所見が得
られない。治療は緊急手術を早期に決定しないと致命的となる。
7.膀胱後部腫瘍(悪性リンパ腫)の 1 例
曲 友弘,栗田 誠,深堀 能立,鈴木 孝憲,
今井 強一,山中 英壽 (群馬大学)
鈴木 慶二 (同保健学科)
引間 規夫 (三菱重工大倉山)
49 才、男性。肉眼的血尿、排尿時違和感を主訴に前医より紹介入院。MRI にて、
膀胱と直腸を圧排する境界明瞭な 8x6cm の腫瘍が見られ、内部は T1 強調で等
信号、T2 強調で不均一な高信号を示した。経尿道エコーでは、半月型の前立腺
の下部に境界明瞭な腫瘍が見られ、経直腸エコーでは、腫瘍による尿道と前立腺
の圧排が見られた。膀胱後部腫瘍が疑われ手術が考えられたが、組織確認のため
に生検を施行。また、同時に施行した膀胱尿道鏡で、精丘に球状の腫瘍を認めた。
組織学的には共に悪性リンパ腫であった。全身検索を追加したが、他部位には異常
を認めず、病期Ⅰであった。化学療法施行のため、当院第三内科に治療を依頼。
関連病院に転院となった。
8. MRI が部位診断に有用であった陰茎折症の 1 例
徳永 卓, 小倉 治之, 熊坂 文成, 黒沢 功 (黒沢病院)
33 歳男性.性交中に陰茎がボキッという音と共の折れ,陰茎が腫脹し来院.陰茎
は右根部を中心に腫脹し,左方へ屈曲していた.エコーでは右陰茎海綿体根部の白膜
が一部不整に描出された.MRIでは同部の白膜の断裂,その周囲の血腫が明瞭に描
出された.手術にて横方向に約 1 ㎝断裂した白膜を縫合した.白膜断裂部の部位診断
については局所所見,エコー,海綿体造影,MRIの有用性がいわれている.本症例
では白膜が低信号域として示され,T2 強調画像でより明瞭に白膜の途絶が断裂部と
して示された.また断裂は横方向に生ずることが多く矢状断像がより有用であると思
われた.医療コストの問題はあるが,他の画像診断法に比べMRIは部位診断に優れ
ており,特に局所所見が非典型的症例ではMRIが有用であると思われた.
9. 23 歳男性に発生した陰茎癌の1例 増田 広, 井上 雅晴, 真下 正道, 関原 哲夫, 猿木 和久 (日高病院)
【患者】23 歳,男性【主訴】陰茎部腫瘤【現病歴】平成 8 年 10 月頃より陰茎部腫瘤・悪
臭に気づき,11 月 9 日痛みを伴うため当科初診。【家族歴・既往歴】特記すべきことな
し。【現症】仮性包茎を認め,包皮内板腹側には悪臭を放つ表面不整・易出血性の隆起性
病変を伴っていた。右鼡径部に圧痛を伴う大豆大のリンパ節を触知した。【経過】受診 2
日後に環状切除術を施行。切除部の病理組織学的診断は癌真珠を形成した中分化の扁平上
皮癌であった。術後のMRIでは白膜及び陰茎海綿体への浸潤を認めず,鼡径部CTで右
鼡径リンパ節腫大を認めたため,生検を施行。リンパ節への転移を認めた。Jackson 分類
で stage3であり現在放射線療法を施行中であるが,化学療法・リンパ節郭清術・外科的
治療を追加する必要があると思われる。
10. メチルテストステロン内服中に発生した前立腺癌の 1 例
蓮見 勝, 中田 誠司, 佐藤 仁, 小川 晃(県立がんセンター) 山中 英壽 (群馬大学)
症例は 81 歳.1996 年 4 月 12 日,腰部痛,頻尿を主訴に当科受診.腰痛のため歩行
不能,前立腺は触診上鶏卵大,板状硬,表面不整.検査所見は,ALP が 854IU/l と上昇.
PSA(Delfia)3650ng/ml と著明高値,テストステロンは 55.6ng/dl と低値,LH は
0.8mIU/ml と低値であった.4 月 17 日前立腺生検施行.病理は高分化腺癌.CT 上,被
膜外浸潤が疑われ,精嚢浸潤が疑われ,骨盤内リンパ節の腫大あり.単純 X-P にて胸腰椎,
骨盤の骨転移が認められた.T3N2 M1 StageD2 の診断にて 4 月 18 日よりプロスタール
100mg/day 内服を開始.4 月 26 日両側精巣摘除術施行.4 月 30 日,患者が 30 年近く
メチルテストステロン 6〜9mg/day 内服していたことが判り,直ちに中止.その後テス
トステロンは低下,LH は上昇,触診上腫瘍は縮小し治療後 7 ヵ月の現在,PSA は
12.2ng/ml まで低下した.
11. 下大静脈腫瘍血栓をきたした進行型精巣腫瘍の 1 例
森田 崇弘, 小野 芳啓, 曲 友弘, 栗田 誠 鈴木 和浩, 林 雅道, 鈴木 孝憲, 今井 強一
山中 英壽 (群馬大学)
鈴木 慶二 (群馬大学保健学科)
松尾 康滋,吉田 正,高橋 修,矢嶋 久徳 (前橋赤十字)
腰痛、体重減少を主訴とする 31 歳の男性。右精巣の無痛性腫大と左鎖骨上リンパ節の
腫大、腹部正中に腫瘤を触知し、AFP81 ng/I、hCGβ21ng/I と上昇を認めた。右精巣摘
除後、諸検査にて未熟型奇形腫、StageIIIB2 pT1N4M1(多発性肺転移)と診断。化学療
法(PEB 療法)を 3 コース施行後、腫瘍マーカーは正常化した。後腹膜転移巣の縮小に伴
い、下大静脈腫瘍血栓が分岐部やや上方から横隔膜下まで存在することが明らかになった。
精巣腫瘍の下大静脈腫瘍血栓は比較的稀で下大静脈への直接浸潤から精巣静脈浸潤から進
展すると考えられ、右側病変に多いとされている。治療後5ヶ月目にて経過観察中であ
る。
<臨床的研究>
座長 深掘 能立
12. 外来通院男性患者の排尿状態の観察-IPSS および QOL score,尿流測定,
TRUS による検討- 鈴木 和浩,辻 裕明 (本庄総合病院)
男性患者の排尿状態を検討するため,105 名(初診21名,再診84名)
について,IPSS および QOL score による排尿状態の問診,尿流測定(UFM)
および経直腸的超音波断層法(TRUS)を施行した.初診患者では IPSS と
QOL score は R=0.7 の相関をしめし,UFM による Qmax と IPSS の Total
score は良好に相関した.問診の各因子では尿勢低下,残尿感が QOL score
と相関したが,他に遷延性およびゼン延性排尿の項目がそれ以上の相関を
示した.TRUS による重量は score との相関を認めなかった.治療中の患
者では Qmax が大きく変化していなくても score は低くなる傾向にあった.
前立腺癌患者では Qmax に Score は相関せず排尿に関する切迫感や頻尿
といった項目が QOL score と相関し BPH 患者とは異なる傾向を示した.
13.圧電式砕石装置(Piezolith 2500)による体外衝撃波破砕術の治療経験
土屋 清隆,小沢 雅史,岡部 和彦 (本島総合病院)
平成 8 年 6 月より 10 月までの 5 か月間に、44 例 70 回の体外衝撃波
砕石術を、圧電式砕石装置(Piezolith2500)によって行った。外来治療、
in situ、無麻酔を治療の原則とした。10 例 16 回の治療が入院で、37 例
54 回の治療が外来で行われた。外来治療の 37 例中 4 例が疼痛にて救急
外来受診し、うち 2 例がそのまま入院となり、また 1 例は腎盂炎にて外来
点滴を行ったが、他に特に問題を認めなかった。18 例の腎結石、25 例の
尿管結石、1 例の膀胱結石の治療を行い、10mm 以下の結石の平均治療回
数は 1.2 回、全結石の平均治療回数は 1.59 回であった。
14.当科における自己血輸血 12 例の検討
橋本 勝善,川島 清隆,高橋 溥朋 (足利赤十字病院)
種々のリスクを伴う同種血輸血を回避する目的で施行した 16 例の自己
血輸血症例についてその有用性を検討した。自己血輸血の方法は、液状保
存の貯血式で、原則として手術 2 週前から 2 回に分けて 1 回 400ml の採
血を行った。エリスロポエチン使用の 13 例では平均 752ml を貯血によ
るヘモグロビン値の変化は平均で 0.91g/dl の低下がみられた。TUR-P
を除く 15 例の術中出血量は、平均 768.6ml であった。同種血輸血の追
加は、両側腎癌の 1 例に必要とした。両側腎癌、膀胱癌、前立腺癌の手術
時平均出血量は、それぞれ 1157.5ml、1162.5ml、864.8ml であった。
平均貯血量からすると、部分切除を含む両側腎癌手術、膀胱全摘除術と前
立腺全摘除術は貯血式自己血輸血の良い適応と思われた。