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第 32 回 日本泌尿器科学会群馬地方会演題抄録 日 時:平成 14 年 11 月 9 日 (土) 15 時〜場 所:群馬大学医学部刀城会館会 長:
鈴木 孝憲事 務 局:小野 芳啓 〈臨床症例〉 座長 田村 芳美(利根中央病院) 1.ベリニ管癌の1例 武井 智幸,清水 信明,鈴木 孝憲 (群馬県立がんセンター) 症例は 27 歳, 男性. 主訴は肉眼的血尿, 右側腹部痛. H12 年 9 月前記主訴が出現し近医
を経て当院を受診. DIP にて右上腎杯の変形, 不整な陰影欠損像を認め, CT で右腎盂に造
影効果の乏しい腫瘤を認めた. 尿細胞診では TCC, G 2 〜 3 を認め, 右腎盂癌 (T3, N0, M0) の診断で右腎尿管全摘術を行った. 肉眼的には上腎杯から腎盂にかけて 3.5×2.5cm
の腫瘍を認めた. 病理組織検査では異型細胞が管状, 乳頭状に増殖しておりベリニ管癌と
診断された. 術後 2 コース M-VAC 療法を行い, H14 年 12 月現在再発なく経過観察中である. ベリニ管癌は遠位尿細管あるいは集合管由来の腎癌であり, 予後不良な疾患である. 根治
的手術が基本であり, 補助療法としては腎細胞癌に準じた治療 (IFNα, IL-2 など) や移
行上皮癌に準じた治療 (M-VAC 療法など) が行われているが, 有効性は高くなく, また明
確な選択基準はないのが現状である. 2.水腎症を契機に発見された尿管憩室の1例 河野 真意,塩野 昭彦,小林大志朗 町田 昌巳,牧野 武雄,柴山勝太郎 (公立富岡総合病院) 森田 崇弘,海老原和典(国立高崎病院) 患者は 69 歳女性. 平成 14 年 6 月, 内科での腹部エコーにて左水腎症を指摘され, 当科
紹介受診. DIP, RP にて左尿管憩室の合併を認めた. 憩室は上部尿管に 3 つあり, 最大径
は 0.8×1.3cm であった. 治療はせず, 当科外来にて経過観察されている. 尿管憩室は, 先天性と後天性に大別される. 先天性憩室は盲端重複尿管と発生学的に同義とされる. 後
天性憩室は粘膜層の脱出により形成され, 偽憩室ともよばれる. いずれも, 結石, 感染な
どの合併が見られた場合には, 憩室の外科的切除が適応とされている. 3.神経刺激を利用した神経温存後腹膜リンパ節郭清術の経験 古谷 洋介,松井 博,田中 俊之 柴田 康博,羽鳥 基明,黒川 公平 深堀 能立,鈴木 和浩,山中 英壽 (群馬大学) 後腹膜リンパ節郭清 (RPLND) 後の逆行性射精は QOL に直接関わる問題である. そこで, RPLND において腰部交感神経および hypogastric plexus の同定および温存を目的に, 根治
的前立腺全摘術および膀胱全摘術で使用している, 黒川の方法による電気刺激の技術を応
用し, nerve sparing RPLND を試みた. 精巣腫瘍の 2 症例において後腹膜リンパ節郭清の
際に, L2-L4 の交感神経 post-ganglionic nerve fiber および hypogastric plexus を結合
組織と伴に剥離同定後, 50mA 30 秒間の刺激を施行し, 射精の有無および陰茎海綿体内圧
をモニターした. この方法により神経電気刺激装置を用いた射精関連神経の確認が可能で
あった. 神経温存後腹膜リンパ節郭清の施行に有益な手技であることが示唆された. 4.後腹膜神経鞘腫の1例 森川 泰如,濱野 達也,中野 勝也 中田 誠司,高橋 溥朋(足利赤十字病院) 症例は 53 歳, 女性. 左尿管結石の精査中に偶然腹部超音波検査にて右副腎部に約 10cm
の腫瘍を指摘された. 頭部および四肢に異常を認めず, 腫瘍やリンパ節も触知しなかった. 血液生化学所見での異常はなく, 副腎ホルモンもすべて正常値であった. CT では右腎臓と
背柱との間に内部を付近一に造影される隔壁を有する mass を認めた. 内分泌非活動性右
副腎腫瘍の術前診断にて腫瘤摘出術を施行した. 腫瘍割面は黄色の充実性部分と嚢胞部分
とが混在し, 病理学的には核の索状配列が見られたため後腹膜神経鞘腫と診断した. 一般
的に神経鞘腫は放射線療法や化学療法は無効とされているため, 治療は被膜を含めた全摘
出が選択される. 組織学的には良性でも局所再発をきたした症例も報告されていることか
ら, 術後の経過観察が必要であるが現在まで再発はきたしていない. 5.尿道血管腫の1例 西井 昌弘,増田 広,大竹 伸明 関原 哲夫(日高病院) 真下 正道(真下クリニック) 症例は 68 歳女性. 主訴は尿道からの出血. 平成 14 年 4 月頃より外尿道口からの出血あ
り, 近医婦人科でカルンクルスと診断された. 7 月 8 日出血が増悪したため当科紹介され, 精査加療目的に入院となった. 外尿道口に約 3cm の暗赤色で凹凸のある易出血性腫瘤を認めた以外, 身体所見・検査所
見では異常を認めず. MRI では外尿道口に T2 iso intensity な腫瘤を認めた. カルンクル
スや尿道悪性腫瘍を疑い, 尿道生検を施行したところ, 病理は毛細血管性血管腫であった. 生検後, 腫瘤は縮小傾向にあり, 現在経過観察中である. 尿道血管腫は, 本邦で 10 例の
報告がある. 年齢は 21〜61 歳 (平均 48 歳), 男性 6 人・女性 4 人である. 治療は経尿道的
切除術・凝固術・硬化療法, 動脈塞栓術, 尿道部分切除などが報告されているが, 確立さ
れた治療法はない. 6.CAPD 導入5年後に陰嚢浮腫・陰茎浮腫を認めた1例 上井 崇智,曲 友弘,川口 拓也 (秩父市立病院) 症例は 41 歳男性. 慢性腎不全にて 1997 年 6 月 CAPD 導入, 2002 年 6 月中旬, 排便時腹
圧後より右陰嚢浮腫, 陰茎浮腫, 右鼠径部痛が出現し, 6 月 28 日, 精査加療目的に入院し
た. 右陰嚢, 陰茎以外には浮腫を認めなかった. エコー, 骨盤 CT にて腹腔と陰嚢の間に
交通路を認め, 腹膜鞘状突起の開存による交通性陰嚢浮腫, 陰茎浮腫と診断した. 当初保
存的に加療するが改善せず, 鼠径ヘルニア根治術に準じて手術を施行したところ症状は速
やかに改善した. CAPD 症例の陰嚢水腫および浮腫の半数は導入後 2 週間以内に発症し, 全
症例の平均は約 5 ヶ月と報告されてる. 陰嚢浮腫の成因は, 1) カテーテルの腹膜内挿入部
からの漏液, 2) ヘルニア等の腹膜脆弱部の存在, 3) 腹膜鞘状突起の開存, 4) 低蛋白血症, などがある. 本症例のような, 3) 腹膜鞘状突起の開存, は CAPD 導入後晩期の合併症とし
て多いと言われている. 治療は, ア) 安静, イ) 腹膜灌流液の減量, ウ) 血液透析への移
行, エ) 外科的治療, などがある. ア), イ) は非侵襲的なので, 最初に試みられるべき
であるが, 再発率が高いため最終的に, 本症例のように, エ) が必要になる症例も少なく
ない. 〈臨床的研究〉 座長 塩野 昭彦(公立富岡総合病院) 7.尿路内視鏡操作用ハンズフリーフック —小さな工夫— 新田 貴士,小野 芳啓,鈴木 和浩 山中 英壽(群馬大学) 内視鏡操作時に両手を自由に使うことができる「ハンズフリーフック」を考案した. こ
れにより, 助手の介助なく内視鏡を固定し, 内視鏡操作を行う事が可能となった. このハ
ンズフリーフックは, 軟性・硬性膀胱鏡および尿管鏡, TUR, TUL などの泌尿器科的手技に
応用可能であり, 「小さな工夫」として安価, 便利, 作成および使用法が容易であるなど
の条件を満たしている. その作成法と使用法について紹介する. 8.小児包茎に対するステロイド外用療法の臨床的研究 鈴木 光一,松尾 康滋,富田 光 矢嶋 久徳(前橋赤十字病院) 【目 的】 小児包茎に対する吉草酸ベタメタゾン外用療法の有用性を検討する. 【対象と方法】 2000 年 7 月から 2002 年 8 月までに包茎を主訴に受診し, ステロイド外
用療法を行った 19 例. 0.12%ベタメタゾン含有軟膏 (クリーム) を 1 日 2 回包皮口狭小部
に塗布し, 4 〜 8 週後に評価した. 翻転可能になったものを著効, 外尿道口露出を認めた
ものを有効とした. 【結 果】
全体の有効率は 90%. 包茎のタイプ別ではピンホール型 (10 例) は 90%, と
っくり型 (9 例) は 89%の有効率で, 治療法別では軟膏使用例 (7 例) は 86%, クリーム
使用例 (12 例) は 92%であった. 合併症は認めなかった. 2 例に再発を認めた. 【結 論】 小児包茎に体する吉草酸ベタメタゾン含有軟膏 (クリーム) は有効であり, 合併症も認めないため, 第一選択に値する治療と思われる. 9.前立腺集団検診受診者における国際前立腺症状スコアー(I-PSS)および QOL Index
の傾向について 武智 浩之,山本 巧,伊藤 一人 大井 勝,久保田 裕,坂西 理恵 深堀 能立,黒川 公平,鈴木 和浩 山中 英壽(群馬大学グループ泌尿器腫瘍研究会) 対象は 27,364 例. I-PSS の分布は軽症 78.4%, 中等症 19.6%, 重症 2.0%で, 高齢者ほ
ど中等症, 重症の割合は多くなった. 項目別検討では, I-PSS 3 点以上の割合が高齢者ほ
ど高くなる項目は夜間尿回数, 排尿困難の順であった. QOL Index の分布は, 4 以上の有症
状者の割合が 15.3%で, 高齢者ほど I-PSS の点数が高くても QOL Index の有症状者の割合
が低くなり, 現在の排尿状態を受容する傾向がみられた. QOL Index の不満足度に合わせ
て, I-PSS の点数が高くなる項目は排尿困難, 夜間尿回数の順であった. PSA 値, 年齢をマ
ッチングした, がんと非がん症例での I-PSS の項目別検討では, がん症例に特有な傾向を
認めなかった. 10.慢性維持透析症例の内シヤント血流不全に対する経皮的血管形成術(PTA) 武智 浩之,松本 和久,林 雅道 古作 望(古作クリニック) 松井 博,蓮見 勝,大井 勝 山本 巧,柴田 康博,羽鳥 基明 小野 芳啓,鈴木 和浩(群馬大学) 栗原 潤(原町赤十字病院) 神山 宏,長沼 文雄(伊勢崎佐波医師会循環器科) 当院では 2002 年 6 月より内シャント血流不全に対し循環器科と連携して, 血管狭窄に対
する PTA を 8 例 (男性 5 例, 女性 3 例) に施行した. 詳細はシャント手術歴回数 1 回 4 例, 2 回 2 例, 6 回 1 例, 7 回 1 例で, PTA を施行した
部位は前腕橈側 5 例, 前腕尺側 1 例, 大腿部 1 例, 下腿 1 例で, 狭窄長は 1.0cm から 4.0cm
であった. 結果は大腿部に施行した 1 例で血管破綻し, 仮性動脈瘤を形成したためステン
ト留置となったが, 他の 7 例は狭窄血管の拡張は良好で透析時の血流量は改善した. ブラッドアクセストラブルは増加傾向にあり, 我々は PTA と外科的再建術の両者の利点
を生かし組み合わせることで, 患者の QOL に貢献できると考えている. 〈ビデオ症例〉 座長 松尾 康滋(前橋赤十字病院) 1.腹腔鏡下腎盂形成術 —Anderson Hynes 法による Dismenbered Pyeloplasty— 中村 敏之,大木 一成,岡崎 浩 加藤 宣雄(館林厚生病院) 頻発する左側腹部痛を主訴として来院した 38 歳の男性, 左腎盂尿管移行部狭窄と診断
し , 経 皮 的 腎盂形 成 術では 治 療は難 しいと判断 した ので Anderson Hynes 法に よる
Laparoscopic Dismenberd Pyeloplasty を施行した. D-J カテ挿入後, 側方やや左に open laparotomy を, その頭側に 1 本, 前腋下線上に 2 本, 計 4 本のポートをほぼ長方形に置い
た. 尿管を腎盂尿管移行部まで剥離後, 腎盂に吊り糸をかけエンドクローズで牽引した. 腎盂を切開し狭窄部を縦断するように尿管を尿管を縦切開し, その後狭窄部尿管を切離し
た. 尿管と腎盂を 3 - 0 vicryl で 6 針, 腎盂も縫合し, ドレーンを入れて終了した. 手術時間は, 190 分出血量は尿込みで 50ml であった. 腎盂尿管移行部狭窄の手術的治療は, 腎瘻を作成しなければならないが腰椎麻酔での施
行が可能な経皮的腎盂形成術を中心とした内視鏡的治療が第一選択ではある. しかしなが
ら, 腹腔鏡下あるいは後腹膜鏡下腎盂形成術も経皮的腎盂形成術が適応ではない症例 (ex, 血管による狭窄, 著しい高位付着, 長い狭窄部, 余剰腎盂の切除が必要, 等) を中心とし
て, 第一選択になると考える. 〈シンポジウム〉 「TUR-Bt の手技と工夫」座長 鈴木 和浩(群馬大学) 1.表在性膀胱癌に対する TUR-Bt 時の非腫瘍部多数ヶ所生検の意義 岡崎 浩(館林厚生病院) 黒川 公平,深堀 能立,鈴木 和浩 山中 英壽(群馬大学) 【目 的】 表在性膀胱癌において腫瘍部以外の正常粘膜に対して行う非腫瘍部多数ヶ所
生検 (ランダム生検) が, 再発, 進展を予測する因子として有用かどうかの意義について
検討した. 【対象と方法】 1985 年より 16 年間に群馬大学泌尿器科で初回治療された表在性膀胱癌
218 例について, ランダム生検施行例と未施行例, 陽性例と陰性例との間で, 再発の有無
に関し検討した. 【結 果】 218 例中 79 例が再発した. 164 例にはランダム生検を行い, 54 例には行って
いないが, 再発率に違いはなかった. 生検の結果 17 例が陽性であったが, 陽性例, 陰性
例の間の再発率に相違は認められなかった. 【結 果】 ランダム生検は陽性率が低く, 見落とし症例が多いため, 表在性膀胱癌の再
発, 進展を予測する因子としては重要でないと考えられた. 2.膀胱腫瘍に対する TUR-Bt の手技 小池 秀和(群馬大学) TUR-BT は若手泌尿器科医にとってかならず習得しなければならない手技である. 現在
私は泌尿器科医 6 年目になるが, TUR-BT を行うにあたり各病院で学んできたことや, 念頭
においていることについて簡単にまとめてみた. TUR-Bt の目的には腫瘍切除, 的確な病理
診断, 合併症を起こさないなどがあげられる. シース内にループがきちんと収まるがどう
か, 内視鏡挿入時は無理はしないことなどが重要である. 削る際は膀胱を膨らませすぎな
い, 過度に不必要な凝固はしないようにする. 腫瘍の大きさ, 位置により削る方法をイメ
ージしてから削りだす. 削った後は止血を十分に行い, 膀胱洗浄をよく行い, 最後にもう
一度残存腫瘍がないか確認することが重要である. 術中合併症の穿孔, 水中毒に注意し, 術後は尿道狭窄, 尿管口を削った際は VUR に気をつけつつ, 定期観察を行う.